問題154 水素原子モデル (20 九州工大 改)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 問(エ)の別解: 微積分を用いた体系的解法(問(ア)〜(エ)の一括導出)
- 模範解答が公式として与えられた位置エネルギーの式や、既知の円運動の運動方程式を用いるのに対し、別解では極座標系における運動方程式の動径成分の導出と、クーロン力(静電気力)の空間積分による位置エネルギーの導出を原理から行います。
- 問(エ)の別解: 微積分を用いた体系的解法(問(ア)〜(エ)の一括導出)
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分の解法: 「なぜ位置エネルギーの基準が無限遠なのか」「なぜマイナスの符号がつくのか」といった疑問に対し、力の定義から積分計算を通じて論理的な解答を与えます。これにより、公式の丸暗記から脱却し、電磁気学と力学の深い繋がりを理解する物理的基礎体力を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる数式は模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ボーアの水素原子モデルにおける電子の軌道半径、エネルギー準位、および放出される光子の波長の導出」です。古典力学と初期の量子論を組み合わせて、水素原子のミクロな構造を解き明かします。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の運動方程式: 電子は原子核からの静電気力(クーロン力)を向心力として等速円運動を行います。
- ボーアの量子条件: 電子の軌道は、その物質波(ド・ブロイ波)が定常波を形成するような特定の半径(とびとびの値)しか許されません。
- エネルギー保存則と振動数条件: 電子が定常状態間を遷移(移動)する際、そのエネルギー差に等しいエネルギーを持つ光子が放出(または吸収)されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(ア)では、力学の基本である運動方程式を立式し、軌道半径と速さの関係を導きます。
- 問(イ)では、物質波の波長の公式を用いて、量子条件を数式化します。
- 問(ウ)・(エ)では、(ア)と(イ)の式を連立させて未知数を消去し、特定の量子数 \(n\) における軌道半径と全エネルギーを導出します。
- 問(オ)・(カ)では、エネルギー準位の差から放出される光子の波長を文字式で表し、具体的な数値を代入して可視光線の波長を計算します。
問(ア)
思考の道筋とポイント
水素原子のモデルにおいて、中心には正の電荷 \(+e\) を持つ原子核があり、その周りを負の電荷 \(-e\) を持つ質量 \(m\) の電子が速さ \(v\) で等速円運動しています。
円運動を維持するためには、常に円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この問題では、原子核と電子の間に働く引力(静電気力)がその役割を担います。
この設問における重要なポイント
- 向心力の正体: クーロンの法則により、距離 \(r\) 離れた電荷 \(+e\) と \(-e\) の間に働く引力の大きさは \(k_0 \frac{e^2}{r^2}\) です。
- 円運動の加速度: 半径 \(r\)、速さ \(v\) の等速円運動の加速度の大きさは \(\frac{v^2}{r}\) であり、常に向心方向(中心向き)を向いています。
具体的な解説と立式
電子の運動について、円の中心方向を正として運動方程式を立てます。
質量は \(m\)、中心方向の加速度は \(\frac{v^2}{r}\)、中心方向にはたらく力は静電気力のみで \(k_0 \frac{e^2}{r^2}\) です。
$$
\begin{aligned}
m \frac{v^2}{r} &= k_0 \frac{e^2}{r^2} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 円運動の加速度: \(a = \frac{v^2}{r}\)
- クーロンの法則: \(F = k_0 \frac{q_1 q_2}{r^2}\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
式①の両辺に \(\frac{r^2}{m v^2}\) を掛けて、\(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{v^2}{r} \cdot \frac{r^2}{m v^2} &= k_0 \frac{e^2}{r^2} \cdot \frac{r^2}{m v^2} \\[2.0ex]
r &= \frac{k_0 e^2}{m v^2}
\end{aligned}
$$
電子が原子核の周りを回って飛んでいかないのは、原子核が電子を引っ張っているからです。この「引っ張る力(静電気力)」が、カーブを曲がるために必要な「向心力」とぴったり釣り合っている状態を式にしました。その式を、軌道の半径 \(r\) について整理しただけです。
得られた式 \(r = \frac{k_0 e^2}{m v^2}\) を見ると、速さ \(v\) が大きいほど軌道半径 \(r\) は小さくなることがわかります。これは、速く回るほど強い向心力が必要になり、より原子核に近い(引力が強い)軌道を回らなければならないという物理的直感と一致します。
問(イ)
思考の道筋とポイント
ボーアの量子条件は、「電子の軌道一周の長さが、電子の物質波(ド・ブロイ波)の波長の整数倍でなければならない」というものです。
これにより、波が一周して戻ってきたときに位相が揃い、定常波として安定して存在できるようになります。
この設問における重要なポイント
- ド・ブロイ波長: 運動量 \(p = mv\) で運動する粒子の波長は \(\lambda = \frac{h}{p}\) で与えられます。
- 量子条件の幾何学的意味: 軌道の周の長さ \(2\pi r\) の中に、波長 \(\lambda\) の波がちょうど \(n\) 個収まる状態を数式化します。
具体的な解説と立式
電子のド・ブロイ波長を \(\lambda\) とします。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{h}{mv} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
量子条件より、軌道の周の長さ \(2\pi r\) は波長 \(\lambda\) の \(n\) 倍に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
2\pi r &= n \lambda \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ド・ブロイ波長: \(\lambda = \frac{h}{p} = \frac{h}{mv}\)
- ボーアの量子条件: \(2\pi r = n \lambda\)
式③に式②を代入します。
$$
\begin{aligned}
2\pi r &= n \left( \frac{h}{mv} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{nh}{mv}
\end{aligned}
$$
電子を「粒」ではなく「波」として考えます。波が円軌道を一周したとき、波の山と山、谷と谷がぴったり重ならないと、波は打ち消し合って消えてしまいます。ぴったり重なるためには、一周の長さが波長のちょうど \(1\) 倍、\(2\) 倍、\(3\) 倍…(整数倍)でなければなりません。この条件を式に表しました。
得られた式 \(2\pi r = \frac{nh}{mv}\) は、プランク定数 \(h\) を含むことから、この現象がミクロな量子力学的世界特有のものであることを示しています。右辺の単位を調べると、\([\text{J} \cdot \text{s}] / ([\text{kg}] \cdot [\text{m}/\text{s}]) = [\text{kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^2 \cdot \text{s}] / [\text{kg} \cdot \text{m}/\text{s}] = [\text{m}]\) となり、左辺の長さの単位と一致します。
問(ウ)
思考の道筋とポイント
問(ア)で求めた力学的な条件(運動方程式)と、問(イ)で求めた量子力学的な条件(量子条件)を組み合わせます。
両方の式には未知の速さ \(v\) が含まれているため、これを消去することで、量子数 \(n\) だけで決まる特定の軌道半径 \(r_n\) を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式の解法: 2つの式から \(v\) を消去し、\(r\) について解きます。
- とびとびの値: 量子数 \(n\) が \(1, 2, 3, \dots\) と整数値をとるため、半径 \(r\) も連続的な値ではなく、とびとびの値(離散値)しかとれないことが数式から示されます。
具体的な解説と立式
問(ア)の結果より、
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{k_0 e^2}{m v^2} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
問(イ)の結果より、
$$
\begin{aligned}
2\pi r &= \frac{nh}{mv} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
これら2つの式を連立させて \(v\) を消去し、そのときの半径を \(r_n\) と置きます。
使用した物理公式
- 特になし(代数的な連立方程式の処理)
まず、式⑤を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{nh}{2\pi m r}
\end{aligned}
$$
これを式④に代入します。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{k_0 e^2}{m \left( \frac{nh}{2\pi m r} \right)^2}
\end{aligned}
$$
分母の括弧を展開します。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{k_0 e^2}{m \left( \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m^2 r^2} \right)}
\end{aligned}
$$
分母と分子を整理します。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{k_0 e^2 \cdot 4\pi^2 m^2 r^2}{m n^2 h^2} \\[2.0ex]
r &= \frac{4\pi^2 m k_0 e^2 r^2}{n^2 h^2}
\end{aligned}
$$
両辺を \(r\) (\(r \neq 0\))で割ります。
$$
\begin{aligned}
1 &= \frac{4\pi^2 m k_0 e^2 r}{n^2 h^2}
\end{aligned}
$$
\(r\) について解き、これを \(n\) 番目の軌道半径 \(r_n\) とします。
$$
\begin{aligned}
r_n &= \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2}
\end{aligned}
$$
模範解答の形式に合わせて、\(n^2\) を分離して記述します。
$$
\begin{aligned}
r_n &= \frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} \cdot n^2
\end{aligned}
$$
「力学的に安定して回れる条件」と「波としてぴったり重なる条件」の2つのルールを同時に満たすような軌道を探しました。計算の結果、半径はどんな値でも良いわけではなく、\(1^2, 2^2, 3^2 \dots\) という整数の2乗に比例する特定の間隔でしか存在できないことがわかりました。これが「とびとびの軌道」の正体です。
\(r_n \propto n^2\) となっており、量子数 \(n\) が大きくなるにつれて、軌道半径は二次関数的に急激に大きくなることがわかります。また、右辺の係数部分はすべて物理定数で構成されており、水素原子の大きさがこれらの普遍的な定数のみから決定されるという、物理学的に非常に美しい結果を示しています。
問(エ)
思考の道筋とポイント
電子の全エネルギー \(E_n\) は、運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) の和です。
位置エネルギーは無限遠を基準とするため、引力による位置エネルギーは負の値をとります。
運動エネルギーの式に含まれる \(v^2\) を、問(ア)の運動方程式を用いて消去し、エネルギーを半径 \(r\) のみの式で表した上で、問(ウ)で求めた \(r_n\) を代入します。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの符号: 無限遠を基準(\(0\))とし、引力に逆らって無限遠まで運ぶのに仕事が必要なため、原子核の近くにある電子の位置エネルギーはマイナスになります。
- エネルギーの変換: 運動方程式 \(m \frac{v^2}{r} = k_0 \frac{e^2}{r^2}\) を用いると、運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) を位置エネルギーと同じ形(\(\frac{1}{r}\) に比例する形)に変換でき、計算が劇的に簡単になります。
具体的な解説と立式
電子の運動エネルギーを \(K\)、位置エネルギーを \(U\) とします。
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ⑥ \\[2.0ex]
U &= -k_0 \frac{e^2}{r} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
全エネルギー \(E_n\) はこれらの和です。
$$
\begin{aligned}
E_n &= K + U \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 – k_0 \frac{e^2}{r} \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
ここで、問(ア)の運動方程式①を変形します。
$$
\begin{aligned}
m \frac{v^2}{r} &= k_0 \frac{e^2}{r^2}
\end{aligned}
$$
両辺に \(r\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
mv^2 &= k_0 \frac{e^2}{r} \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U = -k_0 \frac{q_1 q_2}{r}\)
- 力学的エネルギー: \(E = K + U\)
式⑨を式⑧の運動エネルギーの項に代入します。
$$
\begin{aligned}
E_n &= \frac{1}{2} \left( k_0 \frac{e^2}{r} \right) – k_0 \frac{e^2}{r} \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{2} k_0 \frac{e^2}{r} \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
この式⑩の \(r\) に、問(ウ)で求めた \(r_n = \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E_n &= -\frac{1}{2} k_0 e^2 \cdot \frac{1}{r_n} \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{2} k_0 e^2 \cdot \frac{4\pi^2 m k_0 e^2}{n^2 h^2} \\[2.0ex]
&= -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n^2}
\end{aligned}
$$
電子が持つトータルのエネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)を計算しました。運動方程式を使うと、「運動エネルギーは、位置エネルギーの絶対値のちょうど半分」という面白い関係があることがわかります。これを足し合わせると、トータルのエネルギーはマイナスの値になります。この「マイナス」は、電子が原子核に束縛されていて、外に逃げ出すにはエネルギーが足りない状態(借金状態)であることを意味しています。
\(E_n \propto -\frac{1}{n^2}\) となっており、量子数 \(n\) が大きくなる(外側の軌道になる)ほど、エネルギーの絶対値は小さくなり、全体としては \(0\) に近づく(エネルギーが高くなる)ことがわかります。\(n \to \infty\) で \(E_n \to 0\) となり、電子が原子核の束縛から完全に解放された状態(電離状態)と整合します。
思考の道筋とポイント
高校物理では「円運動の加速度は \(v^2/r\)」「位置エネルギーは \(-k_0 e^2/r\)」と公式として与えられますが、これらはすべてニュートンの運動方程式と力の定義から微積分を用いて数学的に導出できるものです。
ここでは、極座標系における運動方程式から問(ア)の式を導き、さらにクーロン力を空間積分することで問(エ)の位置エネルギーを原理から導出します。
この設問における重要なポイント
- 極座標系の加速度: 2次元平面上の位置を \((r, \theta)\) で表すとき、動径方向(中心から外に向かう方向)の加速度成分は \(a_r = \frac{d^2r}{dt^2} – r\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2\) となります。
- 仕事と位置エネルギーの関係: 保存力 \(\vec{F}\) がする仕事と位置エネルギー \(U\) の変化には \(\Delta U = – \int \vec{F} \cdot d\vec{r}\) の関係があります。
具体的な解説と立式
【問(ア)の導出】
原子核を原点とする極座標系 \((r, \theta)\) を考えます。
電子の動径方向の運動方程式は、外向きを正として以下のように立式されます。
$$
\begin{aligned}
m \left( \frac{d^2r}{dt^2} – r\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2 \right) &= -k_0 \frac{e^2}{r^2} \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
等速円運動では、半径 \(r\) は一定なので \(\frac{d^2r}{dt^2} = 0\) です。
また、角速度 \(\omega = \frac{d\theta}{dt}\) と速さ \(v\) の間には \(v = r\omega\) の関係があるため、\(\frac{d\theta}{dt} = \frac{v}{r}\) となります。
【問(エ)の位置エネルギーの導出】
無限遠(\(r = \infty\))を基準点とし、距離 \(r\) の位置までの位置エネルギー \(U(r)\) を、クーロン力 \(\vec{F} = -k_0 \frac{e^2}{r^2} \hat{r}\) (\(\hat{r}\) は動径方向の単位ベクトル)の積分として定義します。
$$
\begin{aligned}
U(r) &= – \int_{\infty}^{r} \vec{F} \cdot d\vec{r} \\[2.0ex]
&= – \int_{\infty}^{r} \left( -k_0 \frac{e^2}{r’^2} \right) dr’ \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$
(積分変数の混同を避けるため、積分内では \(r’\) を使用しています。)
使用した物理公式・数学公式
- 極座標の加速度(動径成分): \(a_r = \ddot{r} – r\dot{\theta}^2\)
- 位置エネルギーの定義: \(U(\vec{r}) = – \int_{\vec{r}_{\text{基準}}}^{\vec{r}} \vec{F} \cdot d\vec{r}\)
- べき乗の積分: \(\int x^n dx = \frac{1}{n+1} x^{n+1}\) (\(n \neq -1\))
【問(ア)の計算】
式⑪に \(\frac{d^2r}{dt^2} = 0\) と \(\frac{d\theta}{dt} = \frac{v}{r}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m \left( 0 – r\left(\frac{v}{r}\right)^2 \right) &= -k_0 \frac{e^2}{r^2} \\[2.0ex]
-m \frac{v^2}{r} &= -k_0 \frac{e^2}{r^2} \\[2.0ex]
m \frac{v^2}{r} &= k_0 \frac{e^2}{r^2}
\end{aligned}
$$
これは問(ア)の式①と完全に一致し、ここから \(r = \frac{k_0 e^2}{m v^2}\) が導かれます。
【問(エ)の計算】
式⑫の定積分を実行します。\(\frac{1}{r’^2} = r’^{-2}\) の積分は \(-r’^{-1} = -\frac{1}{r’}\) です。
$$
\begin{aligned}
U(r) &= k_0 e^2 \int_{\infty}^{r} r’^{-2} dr’ \\[2.0ex]
&= k_0 e^2 \left[ – \frac{1}{r’} \right]_{\infty}^{r} \\[2.0ex]
&= k_0 e^2 \left( – \frac{1}{r} – \left( – \frac{1}{\infty} \right) \right)
\end{aligned}
$$
\(\frac{1}{\infty} \to 0\) であるため、
$$
\begin{aligned}
U(r) &= -k_0 \frac{e^2}{r}
\end{aligned}
$$
これが問(エ)で使用した位置エネルギーの式⑦となります。以降の全エネルギー \(E_n\) の計算はメイン解法と同様です。
公式として暗記しがちな「向心力」や「位置エネルギー」の式が、実はもっと根本的な「ニュートンの運動方程式」と「力の積分」から導き出せることを確認しました。
特に位置エネルギーのマイナス符号は、「無限の彼方から電子を引っ張ってくる間に、引力が勝手に仕事をしてくれる(自分はエネルギーを消費しないどころか、もらえる)」という物理的な意味が、積分の計算過程から自然に現れています。
微積分を用いた原理的なアプローチからも、高校物理の公式と全く同じ結果が導出されました。これにより、ボーアモデルが古典力学の厳密な基礎の上に構築されていることが再確認できます。
問(オ)
思考の道筋とポイント
電子が高いエネルギー状態(量子数 \(n\))から低いエネルギー状態(量子数 \(n’\))へ遷移するとき、余ったエネルギーが光子として放出されます。
この光子1個が持つエネルギーは、プランク定数 \(h\) と光の振動数 \(\nu\) を用いて \(h\nu\) と表されます。これを波長 \(\lambda\) を用いた式に書き換え、エネルギー準位の差と等置します。
この設問における重要なポイント
- ボーアの振動数条件: 放出される光子のエネルギーは、遷移前後の電子のエネルギー準位の差 \(\Delta E = E_n – E_{n’}\) に等しくなります。
- 光子のエネルギー: 光の速さ \(c\)、波長 \(\lambda\)、振動数 \(\nu\) の間には \(c = \nu \lambda\) の関係があるため、光子のエネルギーは \(E = h\nu = h\frac{c}{\lambda}\) と表せます。
具体的な解説と立式
放出される光子のエネルギーを \(\Delta E\) とすると、エネルギー保存則より以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= E_n – E_{n’} \quad \cdots ⑬
\end{aligned}
$$
また、光子のエネルギーは波長 \(\lambda\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= h \frac{c}{\lambda} \quad \cdots ⑭
\end{aligned}
$$
これら2つの式から \(\Delta E\) を消去し、\(\frac{1}{\lambda}\) について解きます。
使用した物理公式
- ボーアの振動数条件: \(h\nu = |E_n – E_{n’}|\)
- 波の基本式: \(c = \nu \lambda\)
- 光子のエネルギー: \(E = h\nu = h\frac{c}{\lambda}\)
式⑬に問(エ)で求めた \(E_n\) の式を代入して \(\Delta E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= \left( -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n^2} \right) – \left( -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n’^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)
\end{aligned}
$$
これを式⑭に代入します。
$$
\begin{aligned}
h \frac{c}{\lambda} &= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)
\end{aligned}
$$
両辺を \(hc\) で割り、\(\frac{1}{\lambda}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^3 c} \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)
\end{aligned}
$$
電子が高い軌道(エネルギー大)から低い軌道(エネルギー小)に落ちるとき、その「落差」の分のエネルギーが光としてピカッと放出されます。光のエネルギーは波長が短いほど大きくなるという性質があるため、「落差のエネルギー」と「光の波長」をイコールで結ぶことで、どんな色の光が出るかを計算する式を作りました。
得られた式は、問題文にあるリュードベリの公式 \(\frac{1}{\lambda} = R \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)\) と全く同じ形をしています。係数部分を比較することで、リュードベリ定数 \(R\) が \(R = \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^3 c}\) という普遍的な物理定数の組み合わせで理論的に導出されたことがわかります。これはボーアモデルの最大の功績の一つです。
問(カ)
思考の道筋とポイント
水素原子の線スペクトルのうち、可視光線領域になるのは \(n’=2\) への遷移(バルマー系列)です。
「波長が長い」ということは、光子のエネルギー \(E = hc/\lambda\) が「小さい」ことを意味します。
したがって、\(n’=2\) に向かって落ちてくる遷移の中で、エネルギーの落差が小さい順に考えます。
この設問における重要なポイント
- 波長とエネルギーの逆比例関係: 波長 \(\lambda\) が長いほど、エネルギー差 \(\Delta E\) は小さくなります。
- 遷移の順序: \(n’=2\) への遷移において、エネルギー差が最も小さい(波長が最も長い)のはすぐ上の \(n=3\) からの遷移です。2番目にエネルギー差が小さい(2番目に波長が長い)のは、その次の \(n=4\) からの遷移となります。
具体的な解説と立式
問題文で与えられたリュードベリの公式を用います。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= R \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right) \quad \cdots ⑮
\end{aligned}
$$
可視光線なので \(n’=2\) です。
2番目に長い波長を求めるため、遷移前の量子数は \(n=4\) となります。
これらを式⑮に代入し、\(\lambda\) について解きます。
使用した物理公式
- リュードベリの公式: \(\frac{1}{\lambda} = R \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)\)
式⑮に \(n’=2, n=4\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= R \left( \frac{1}{2^2} – \frac{1}{4^2} \right) \\[2.0ex]
&= R \left( \frac{1}{4} – \frac{1}{16} \right) \\[2.0ex]
&= R \left( \frac{4}{16} – \frac{1}{16} \right) \\[2.0ex]
&= R \frac{3}{16}
\end{aligned}
$$
逆数をとって \(\lambda\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{16}{3R}
\end{aligned}
$$
与えられた数値 \(R = 1.1 \times 10^7\,\text{/m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{16}{3 \times 1.1 \times 10^7} \\[2.0ex]
&= \frac{16}{3.3} \times 10^{-7}
\end{aligned}
$$
割り算を実行します。
$$
\begin{aligned}
\frac{16}{3.3} &= 4.8484\dots
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
\lambda &\approx 4.84 \times 10^{-7}\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、3桁目を四捨五入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= 4.8 \times 10^{-7}\,\text{m}
\end{aligned}
$$
「波長が長い光」=「エネルギーが小さい光」です。2階(\(n’=2\))に飛び降りるとき、一番エネルギーが小さいのはすぐ上の3階(\(n=3\))から飛び降りたときです。2番目にエネルギーが小さいのは、4階(\(n=4\))から飛び降りたときです。あとは、この「4階から2階へ」の条件を公式に当てはめて、分数の計算と割り算を丁寧に行うだけです。
計算結果の \(4.8 \times 10^{-7}\,\text{m}\) は、問題文で指定されている可視光線領域(\(3.8 \sim 7.8 \times 10^{-7}\,\text{m}\))の範囲内にしっかりと収まっており、物理的に妥当な値です。ちなみにこの波長は、水素のスペクトルにおいて青緑色に見える「\(H_\beta\) 線」に相当します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 円運動の運動方程式と量子条件の連立
- 核心: 古典力学の「運動方程式」と、量子力学の「物質波の定常波条件」という全く異なる2つのルールを連立させることで、ミクロな世界の「とびとびの軌道」が導き出されます。
- 理解のポイント:
- 運動方程式からは \(r\) と \(v\) の連続的な関係式が出ます。
- 量子条件からは \(r\) と \(v\) が特定の整数 \(n\) に縛られる関係式が出ます。
- これらを組み合わせることで初めて、未知数 \(v\) が消去され、\(r\) が \(n\) の関数として決定されます。
- エネルギー準位と光子の放出
- 核心: 電子が軌道を乗り換える(遷移する)とき、そのエネルギーの「差額」が、ちょうど1個の光子として空間に放出されます。
- 理解のポイント:
- エネルギー準位 \(E_n\) はマイナスの値をとります(束縛状態)。
- 高い軌道(\(n\) が大、\(E_n\) は \(0\) に近い)から低い軌道(\(n’\) が小、\(E_n\) はより深いマイナス)へ落ちるとき、エネルギーは減少します。
- 放出される光子のエネルギーは常に正なので、\(\Delta E = (\text{高い方のエネルギー}) – (\text{低い方のエネルギー})\) で計算します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水素様原子(ヘリウムイオンなど)の問題: 原子核の電荷が \(+e\) ではなく \(+Ze\) (\(Z\) は原子番号)になるパターンです。運動方程式の右辺(クーロン力)と位置エネルギーの式の \(e^2\) を \(Ze^2\) に置き換えるだけで、全く同じ論理展開で解くことができます。
- 万有引力による衛星の運動: クーロン力を万有引力 \(G\frac{Mm}{r^2}\) に置き換えると、人工衛星の運動と全く同じ数式構造になります。運動エネルギーが位置エネルギーの絶対値の半分になる関係(ビリアル定理)も共通して使えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「波長が長い/短い」の翻訳: 光の波長に関する条件が出たら、即座に \(E = hc/\lambda\) を思い出し、「波長が長い=エネルギー差が小さい」「波長が短い=エネルギー差が大きい」と脳内で翻訳します。
- 遷移の始点と終点の特定: 「ライマン系列(\(n’=1\))」「バルマー系列(\(n’=2\))」などのキーワードから終点を特定し、エネルギー差の条件から始点 \(n\) を決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位置エネルギーの符号忘れ:
- 誤解: 全エネルギーを計算する際、位置エネルギーをうっかりプラスにしてしまい、\(E_n\) が正の値になってしまう。
- 対策: 「無限遠を基準とする引力による位置エネルギーは必ずマイナス(借金状態)」という物理的イメージを強く持ちましょう。計算結果がプラスになったら「電子が原子から飛んでいってしまう!」と気づけるようにします。
- 遷移の順番の勘違い:
- 誤解: 「2番目に長い波長」を求めるとき、\(n=2\) から数えて \(n=3\) が1番目、\(n=4\) が2番目…と正しく数えられず、\(n=1\) から数えたり、逆に無限遠から数えたりしてしまう。
- 対策: エネルギー準位図(階段の図)を余白にサッと描き、\(n=2\) の段に向かって落ちる矢印を短い順(エネルギーが小さい順)に書き込んで視覚的に確認する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 全エネルギー計算での運動方程式の利用:
- 選定理由: 運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) に直接 \(v = \frac{nh}{2\pi m r}\) を代入して計算することも可能ですが、式が非常に複雑になり計算ミスを誘発します。運動方程式 \(mv^2 = k_0\frac{e^2}{r}\) を用いて \(v\) を消去する方が、圧倒的に早く正確に計算できます。
- 適用根拠: 電子が定常状態(等速円運動)にある限り、運動方程式は常に成立しているため、いつでもこの置き換えが可能です。
- 微積分を用いた位置エネルギーの導出(別解):
- 選定理由: 公式 \(U = -k_0\frac{e^2}{r}\) を忘れてしまった場合や、符号に自信が持てなくなった場合に、最も確実な原理から答えを復元できるためです。
- 適用根拠: 位置エネルギーは「保存力がする仕事」として定義されており、クーロン力は保存力であるため、積分による導出が常に成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元(単位)チェック:
- 意識: 複雑な文字式を導出した後は、必ず単位が合っているか確認します。
- 実践: 例えば問(ア)の \(r = \frac{k_0 e^2}{m v^2}\) であれば、右辺の単位が長さ \([\text{m}]\) になるかを大まかに確認します。クーロン力の式 \(F = k_0 \frac{e^2}{r^2}\) から \(k_0 e^2\) は \([\text{N} \cdot \text{m}^2]\) の次元を持つことがわかるので、\([\text{N} \cdot \text{m}^2] / ([\text{kg}] \cdot [\text{m}/\text{s}]^2) = [\text{N} \cdot \text{m}^2] / [\text{N}] = [\text{m}^2]\) となり…あれ?
(自己修正): \(mv^2\) はエネルギーの次元 \([\text{J}] = [\text{N} \cdot \text{m}]\) です。したがって \([\text{N} \cdot \text{m}^2] / [\text{N} \cdot \text{m}] = [\text{m}]\) となり、正しく長さの次元になることが確認できます。このように、途中で気づくことが重要です。
- 分数の引き算は最後まで残す:
- 意識: 問(カ)のようなリュードベリの公式の計算では、途中で小数を混ぜず、分数のまま計算を進めます。
- 実践: \(\frac{1}{4} – \frac{1}{16}\) を \(0.25 – 0.0625\) と計算するのではなく、\(\frac{3}{16}\) と分数で処理し、最後に逆数をとってから1回だけ割り算を行うことで、計算誤差とミスを最小限に抑えられます。
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問題155 原子核 (19 大阪市大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分による保存則の導出)
- 模範解答が運動量保存則とエネルギー保存則を既知として立式するのに対し、別解では分裂時の内力による運動方程式を時間積分・空間積分することで、両保存則を原理から導出します。
- 設問(3)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の空間積分によるエネルギー保存則の導出)
- 模範解答が静電気力による位置エネルギーの公式を既知とするのに対し、別解ではクーロン力による運動方程式を空間積分することで、エネルギー保存則を自力で導出します。
- 設問(5)の別解: 微積分を用いた体系的解法(放射性崩壊の微分方程式からの導出)
- 模範解答が半減期の公式を既知とするのに対し、別解では「崩壊速度が原子核数に比例する」という微分方程式から半減期の公式を導出します。
- 設問(2)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分による保存則の導出)
- 上記の別解が有益である理由
- 公式の丸暗記から脱却し、物理現象の根本的な原理(運動方程式や微分方程式)から結果を導き出す力を養うことができます。
- 未知の力や複雑な設定の問題に出会った際にも、原理に立ち返って自力で関係式を構築する応用力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
原子核の崩壊と核反応に伴うエネルギー保存、および放射性崩壊の法則に関する総合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量とエネルギーの等価性: 質量欠損 \(\Delta m\) は、\(E = \Delta m c^2\) の関係でエネルギーに変換されます。
- 分裂における保存則: 外力が働かない静止物体からの分裂では、運動量と力学的エネルギーが保存されます。
- 放射性崩壊の法則: 原子核の数は、半減期ごとに半分になるという指数関数的な減少を示します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)(2)では、質量欠損から発生エネルギーを求め、それを運動量保存則を用いて2つの粒子に分配します。
- 問(3)では、クーロン力による位置エネルギーを考慮した力学的エネルギー保存則を立式します。
- 問(4)(5)では、崩壊による質量数・原子番号の変化ルールと、半減期の公式を用いて計算します。
- 問(6)では、与えられた質量から原子核の個数を求め、1個あたりの放出エネルギーを掛け合わせて総エネルギーを算出します。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
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