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「電磁気が苦手」は思考のクセが原因です
講義ノート
【今回のポイント】
- 電気力は万有引力に比べて桁違いに大きい。「電磁気は難しい」と身構える前に、まずこの力の大きさを数字で実感できているかどうか——それが最初の診断ポイントになる。
- 同じ符号の電気は反発し(斥力)、異なる符号の電気は引き合う(引力)。覚えるべきは向きのルールそのものではなく、「符号の組合せが向きを決め、電気量の大きさが強さを決める」という役割分担である。
- 導体は自由電子が移動できる物質、絶縁体は電子が移動できない物質。名前を二つ覚えるのではなく、「電子が動けるか、動けないか」の一点で診断すれば見分けられる。
- 接地(アース)は、地球という巨大な導体と物体をつないで電気のアンバランスを解消する操作である。「なぜ電気が逃げるのか」を現象に紐づけて説明できるかが分かれ目になる。
- クーロンの法則は、\(2\) つの点電荷の間にはたらく電気力の大きさを表す。式を覚えるのではなく、式のどの部分が「電気量」を、どの部分が「距離」を写し取っているのかを掴むことが、この講のゴールである。
【講義解説】
第1講 周りは電気だらけ!!
① 万有引力と電気力の違い
自然界に存在する力のうち、私たちの生活に直接関係するものは主に「万有引力」と「電気力」の \(2\) つである。ここで多くの人がつまずく思考のクセは、「どちらも同じくらいの力だろう」と無意識に決めつけてしまうことだ。まずはこの思い込みを診断するところから始めよう。
結論から言えば、万有引力は非常に小さな力であり、電気力は非常に大きな力である。
例えば、\(1\,\text{kg}\) の物体が \(1\,\text{m}\) 離れているときにはたらく万有引力は \(0.0000000000667\,\text{N}\) であり、私たちが日常で感じることはほぼない。
一方、\(+1\,\text{C}\)(クーロン)と \(-1\,\text{C}\) の電気が \(1\,\text{m}\) 離れているときにはたらく電気力は \(90\text{億}\,\text{N}\) にもなる。同じ「\(1\)」という数字でも、質量の \(1\) と電気量の \(1\) では、生み出す力のけたがまるで違う。この差を数字で並べて見たとき、「電気力はとてつもなく大きな力だ」という感覚が体に入る。
なぜ最初にこの実感を作るのか。理由は診断の効率にある。この感覚を持っている人は、あとで計算した答えが \(10^{10}\,\text{N}\) といった巨大な値になっても「電気力だから、それでいい」と自分の答えを検算できる。逆にこの感覚がないと、正しい答えを出しておきながら「けたを間違えたのでは」と疑い、手が止まってしまう。電磁気を学ぶあいだ、この実感を保てているかを自分への経過観察ポイントにしてほしい。
\(90\text{億}\,\text{N}\) と言われてもピンとこないかもしれない。これは質量に直すとおよそ \(9\) 億 \(\text{kg}\)――\(30\) 万トン級の超大型タンカー約 \(3\) 隻分を、たった \(1\,\text{m}\) 離れただけの電気が引きずり上げてしまう力に相当する。わずか \(1\,\text{C}\) ずつの電気でこれほどの力が生まれるという事実こそが、「電気力は桁違いに大きい」という診断の出発点になる。
図: 万有引力と電気力のけた違いの差(棒の長さは実際の比ではなく、けたの違いを表すイメージ)
② 電気の性質(引力と斥力)
電気には \(+\)(プラス)と \(-\)(マイナス)の \(2\) 種類が存在し、それらの間にはたらく力の向きには明確なルールがある。
- 異なる符号(\(+\) と \(-\)):互いに引き合う(引力)
- 同じ符号(\(+\) と \(+\)、\(-\) と \(-\)):互いに反発し合う(斥力)
ここで一つ、あとで効いてくる役割分担を確認しておきたい。力の「向き」を決めるのは符号の組合せだけであり、力の「大きさ」を決めるのは電気量と距離である。この二つを分けて持っておくと、あとでクーロンの法則の式を見たときに「この式は大きさしか答えていない」と自分で気づける。
これは磁石のN極とS極の関係と全く同じ構造である。すでに知っている磁石のイメージに重ねて理解できるなら、それはこの単元を正しい思考の回路で捉えられている証拠だ。
よくあるつまずき
症状:「磁石のNとSが引き合う」のイメージに引きずられて、電気でもNとSのように考えてしまう。
診断:電気の符号は \(+\) と \(-\) であって、N極・S極ではない。混同すると、後の電磁気(第11〜12講の磁界)で「電気の符号」と「磁石の極」が頭の中で交ざってしまう。
処方箋:覚えるべきルールは「向きが逆なら引き合う・向きが同じなら反発する」という構造ひとつだけ。電気の \(+\,/\,-\) も、磁石の N/S も、この同じ構造の言い換えにすぎないと整理しておくと、暗記項目が一気に減る。
③ 原子の構造
すべての物質は原子からできている。原子は、中心にある \(+\) の電気を持った「原子核」と、その周りを回る \(-\) の電気を持った「電子」で構成されている。
通常の原子では、原子核の持つ \(+\) の電気量と、電子の持つ \(-\) の電気量がぴったり同じ数だけ存在する。そのため、\(+\) と \(-\) を足し合わせると、原子全体としての電気は \(0\) となる。ここで診断したい思考のクセは、「電気が \(+\) と \(-\) のバランスが取れて合計が \(0\) になっている」状態を、「電気を持っていない」と読み替えてしまうことだ。正しくは「打ち消し合っている」である。
なぜこの区別にこだわるのか。理由は、このあと扱う帯電・静電誘導・接地が、すべて「打ち消し合っていたバランスが崩れる/戻る」という同じ一つの話だからだ。「電気がゼロ」と覚えた人は、崩れる対象を持っていないため、箔検電器の問題で必ず行き詰まる。ここで一度立ち止まり、自分がどちらの言葉で理解しているかを確かめておこう。
原子が中性であるとは、\(+\) と \(-\) が「無い」のではなく、ぴったり同数で「釣り合っている」状態だ。両側に同じ重さのおもりを乗せた天秤を思い浮かべてほしい。天秤は水平で動かないが、おもりが消えたわけではない。片側のおもり(電子)を \(1\) つ抜けば、たちまち傾く――これが「帯電」である。中性とは静かな釣り合いであって、空っぽではない。この一点を押さえておくと、このあと出てくる帯電や接地の話が一本の線でつながる。
図: 中性=+と−が同数で釣り合った状態(空っぽではない)
- キャンバス下部の粒子(P⁺, n⁰, e⁻)を中央に向かってドラッグするか、スライダーを動かして数を変えてみましょう。
- 元素の種類は「陽子の数」で決まります。
- 中性子の数が偏ると原子核は不安定になり、震えてお知らせします。
④ 導体と絶縁体の違い
物質は、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体(不導体・誘電体)」に分けられる。この \(2\) つの決定的な違いは、原子の周りを回っている電子の動きにある。名前を覚えるのではなく、「電子が原子核から離れて動けるか、動けないか」という一点で診断すれば、導体か絶縁体かはおのずと見分けられる。
- 導体(金属など):
一部の電子が原子核から離れて自由に移動できる。これを「自由電子」と呼ぶ。外部から \(+\) の電気を近づけると、自由電子が一斉に \(+\) に引き寄せられて移動する。この「電子が一斉に動く」現象こそが、電気が流れる(電流)ということの正体である。電流という言葉を暗記するのではなく、この電子の動きを頭の中で再現できるかを確かめてほしい。
- 絶縁体(ゴムやガラスなど):
電子は自分のパートナーである原子核の周りから離れることができない。外部から \(+\) の電気を近づけると、電子は \(+\) の方に少しだけ偏るが、原子核から離れて移動することはできない。そのため、電子の流れは生まれず、電気を通さない。「少し偏るが動けない」というこの中間の状態が、後の練習問題で効いてくる。
つまり、導体と絶縁体は「電気を通す物質/通さない物質」という二つの別ものではなく、同じ「電子が動くか」という一本のものさしの両端にすぎない。物質名を並べて覚えるのをやめて、目の前の物質について「この中の電子は席を立てるか」と問い直す——これが処方箋である。
導体と絶縁体の違いは、建物の中の人の動きに置き換えると掴みやすい。導体は、廊下を自由に歩き回れるオフィスのようなものだ。誰か(\(+\))が入口に立つと、中の人(自由電子)が一斉にそちらへ移動できる。一方、絶縁体は全員が指定席に固定された劇場である。入口に人が立っても、観客はそちらへ体を少し傾けるだけ(これが「少し偏る」の正体だ)で、席を立って移動することはできない。「電子が動けるか・動けないか」――診断はこの一点に尽きる。
図: 導体(オフィス)は席を立てる・絶縁体(劇場)は席を立てない
電子はランダムに動いています。
🩺 要点整理
第1講の \(4\) つの土台は、別々に覚えるのではなく「電気を持っている粒は何で、それがどう動くか」という一本の見方でつながっている。次の順序で頭を整理しておこう。
この \(4\) 段だけ押さえれば、次の「接地」も「箔検電器」も、すべて④の電子の動きを追うだけの問題に変わる。
次の3つを、上に戻らず自分の言葉で答えてみよう。思い出す作業そのものが記憶を作る。答え合わせでは合っていたかどうかより、「どれで詰まったか」を見てほしい。詰まった場所によって、戻るべき節が変わる。
答えを確認
・\(+\) と \(-\) の電気量が同数でつり合い、合計が \(0\)(無いのではなく打ち消し合い)。
・電気力(万有引力より桁違いに大きい)。
第2講 地球は巨大な導体
① 接地(アース)とは
地球は、\(+\) と \(-\) の電気を莫大に持っている「電気を通す巨大な導体」と考えることができる。
例えば、\(-\) の電気が過剰に帯電している物体を地球と導線でつなぐとする。この操作を「接地(アース)」と呼ぶ。
接地をすると、物体にある余分な \(-\) の電気が地球へ逃げていく(あるいは地球から \(+\) の電気が供給される)。その結果、物体の電気のアンバランスが解消され、電気的に中性(\(0\))な状態に戻るのである。
なぜ電気が逃げるのか。それは、地球という巨大な導体が「行き場のない電気」の受け皿になるからだ。ここでもう一歩だけ深く問いたい。では、逃げていくのは本当に「\(+\) の電気」なのか。第1講④で見たとおり、実際に動けるのは \(-\) の電子だけである。つまり接地で起きているのは、いつでも「電子が出ていくか、入ってくるか」のどちらか一方にすぎない。この一段を自分で降りられるかどうかが、箔検電器の問題で「接地したら何が起きるか」を自力で読み解けるかの分かれ目になる。
接地は、水位の違う \(2\) つの水槽を細い管でつなぐ操作に似ている。一方に水(余分な電気)が多ければ、つないだ瞬間に水は低い方へ流れ、やがて両方の水位が等しくなる。地球は無限に大きな水槽なので、物体側のわずかな電気は一瞬で吸い込まれ、物体は中性(\(0\))に戻る。「電気が逃げる」とは、この水位がならされる現象のことだと捉えておこう。
図: 接地=水位(電気のかたより)がならされて中性に戻る操作
よくあるつまずき
症状:接地と聞くと「\(-\) の電気が地球に逃げる」とだけ覚えてしまい、逆向き(地球から \(+\) が供給される)のケースで手が止まる。
診断:実際に動いているのは常に \(-\) の電子だけ、という第1講④の土台を忘れているのが原因。物体が \(-\) に帯電していれば電子が地球へ流れ出し、\(+\) に帯電していれば地球から電子が流れ込む。どちらも「電子の移動」一つで説明できる。
処方箋:接地の結果は「地球と水位(電位)がそろうまで電子が動く」と先にゴールを固定し、そのために電子がどちらへ動くかを後から決める。近くに帯電体がなければそろった先は中性(\(0\))だが、帯電体が近くにあれば引かれた分の電気が残る。どちらの状況かを先に見分ければ符号で迷わない。
🩺 要点整理
接地の問題は、操作を見てから「\(+\) が逃げるのか、\(-\) が来るのか」を考え始めると必ず迷う。順序を次の \(3\) 段に固定しておけば、どんな設定でも同じ頭の使い方で読める。
この順序なら、符号を毎回考え直さずに済む。上の水槽の図は、①〜③がひとつづきで起きている様子を描いたものだ。
🧠 見ずに思い出そう
上に戻らずに、次の \(2\) つを自分の言葉で答えてみよう。どちらで詰まったかによって、戻る場所が変わる。
答えを確認
- 表示の切り替え: 「電荷表示」モードにすると、導体全体のプラスマイナスの偏りが直感的にわかります。
- 静電誘導: 帯電体を導体に近づけると、導体内の自由電子が移動し、電荷の偏りが生じます。
- 接地(アース): 導体を「地球(電位0の基準)」と繋ぎ、電位が0Vになるよう電子が移動します。
練習問題の解説(箔検電器)
① 箔検電器の操作(問1)
問題
図 \(1\) のような、金属円板Aと金属箔Bをもつ箔検電器がある。最初箔検電器を接地しA、Bに電荷がない状態にしてから、接地をはずして以下の操作を行う。これらの操作の結果、箔検電器はどういう状態になるか。
解説
箔検電器の問題は、操作ごとに答えを丸覚えしようとすると必ず崩れる。代わりに、どんな操作でも同じ思考の手順を踏むことが処方箋になる。手順は次の二つだ。「上から順番に電気の動きを追うこと」と「実際に動くのは \(-\) の電子だけだが、イメージとして \(+\) も動くものとして考えること」である。この二つを毎回呼び出せれば、(1)から(8)まで同じ頭の使い方で解ける。
- (1) 棒を近づける
\(+\) の棒を近づけると、箔検電器内の \(-\) が上の円板Aに引き寄せられ、\(+\) が下の箔Bに追いやられる。箔Bには \(+\) が集まるため、同符号どうしが反発して箔は開く。(答え:ウ)
- (2) 接地した金属板Kを入れる
Kは接地されているため、棒の \(+\) に引かれて地球から \(-\) がKの下面にやってくる。箔検電器の円板Aから見ると、すぐ上にKの \(-\) がいる状態になる。すると、Aにいた \(-\) はKの \(-\) と反発して下に追いやられ、箔Bにいた \(+\) と中和して \(0\) になる。結果として箔は閉じる。(答え:オ)
- (3) 接地していない金属板Lを入れる
Lは絶縁されているため、棒の \(+\) に引かれてLの上面に \(-\)、下面に \(+\) が現れる。箔検電器の円板Aから見ると、すぐ上にLの \(+\) がいる状態になる。Aの \(-\) はLの \(+\) に引かれて上に留まり、箔Bは \(+\) のままで開く。(答え:ウ)
- (4) 絶縁体Sを入れる
絶縁体Sの内部で電気が少し偏り、下面に \(+\) が現れる。円板Aの \(-\) はSの \(+\) に引かれて上に留まり、箔Bは \(+\) のままで開く。(答え:ウ)ここで(3)導体Lとの違いを自分で言葉にできるか、自己診断してみてほしい。
- (5) 棒をLに接触させる
Lの \(-\) が棒へ移動し、Lは \(+\) だらけになる。円板Aの \(-\) はLの \(+\) に引かれて上に留まり、箔Bは \(+\) のままで開く。(答え:ウ)
- (6) 棒とLを遠ざける
円板Aの \(-\) を上に引っ張るものがなくなるため、箔検電器内で \(-\) と \(+\) が中和して全体が \(0\) になる。箔は閉じる。(答え:オ)
- (7) 棒を直接Aに接触させる
Aの \(-\) が棒へ移動し、箔検電器全体が \(+\) だらけになる。箔Bも \(+\) になり反発して開く。(答え:ア)
- (8) 棒を遠ざける
箔検電器は \(+\) だらけのままなので、箔は開いたままである。(答え:ア)(6)で閉じたのに(8)で開いたままなのはなぜか――この違いを「接触させたかどうか」で説明できれば、思考の回路が正しく組み上がっている。
(1) ウ (2) オ (3) ウ (4) ウ (5) ウ (6) オ (7) ア (8) ア
よくあるつまずき
症状:箔検電器の各操作で「\(+\) が上に動いた/下に動いた」と \(+\) の移動を主役にして考え、符号を取り違える。
診断:実際に動けるのは \(-\) の電子だけ。\(+\) は「電子が抜けた跡」として相対的に現れるだけで、自分で動いているわけではない。解説の (5)(7) で「\(-\) が棒へ移動して \(+\) だらけになる」と書かれているのは、まさにこの順序を示している。
処方箋:各操作で「① まず \(-\) の電子がどこへ動くかを決める → ② 電子が抜けた場所が \(+\) になる」の \(2\) ステップ固定で追う。\(+\) を主語にして考え始めた瞬間に符号を見失う、と覚えておこう。さらに「接地されているか/いないか」で電子の出入り口が変わる(接地ありなら地球と、なしなら箔検電器内だけでやりとりする)点も毎回最初に確認する。
- 電子の移動: 実際に動くのはマイナス電荷を持った電子だけです。プラスに帯電した棒を近づけると電子が引き寄せられます。
- 箔の開き: 電子が移動した結果、下部の金属箔は電子が不足して「プラス」になり、反発し合って箔が開きます(静電誘導)。
- 接地(アース): 接地すると大地から電子が供給されたり逃げたりして電位が0Vになります。
- 誘電分極: 絶縁体内部には自由電子がありませんが、分子内の電荷に偏りが生じ分極します。
第3講 電界・電位もしょせんは力学
① クーロンの法則
大きさを無視できる電気を持った粒を「点電荷」と呼ぶ。\(2\) つの点電荷の間にはたらく電気力(クーロン力)の大きさは、以下の性質を持つ。式を丸ごと覚える前に、この力が「何によって強くなり、何によって弱くなるのか」を先に診断しておくと、式が現象の写し絵だと分かる。
- 電気量に比例する:それぞれの電気量 \(q_1\)、\(q_2\) が大きければ大きいほど、力 \(F\) も大きくなる。電気の量が多いほど引き合う・反発し合う力が強い、という当たり前の感覚が式に写し取られている。
- 距離の \(2\) 乗に反比例する:距離 \(r\) が長くなれば力 \(F\) は弱くなり、短くなれば強くなる。しかも「ただ反比例」ではなく「2乗で」効くという点が、力学の万有引力と同じ構造をしている。
これらを式で表したものが「クーロンの法則」である。比例と反比例という二つの性質が、式のどの位置に現れているかを目で追ってほしい。
$$
F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}
$$
ここで、\(k\) は比例定数であり、真空中の場合は \(k = 9.0 \times 10^9\) という値をとる。
この式を読むときに、必ず一度は問い直してほしいことがある。この式が答えているのは「力の大きさ」だけであって、引き合うのか反発するのかという向きは、この式のどこにも書かれていない。向きは②で確認したとおり符号の組合せが決める。式は現象の一部分を写し取った写真であって、現象そのものではない——その距離感を持てているかが、ここでの診断ポイントである。
式の使い方を、一度具体的な数字で確かめておこう。電気量がそれぞれ \(2\,\text{C}\) と \(3\,\text{C}\) の \(2\) つの点電荷が \(3\,\text{m}\) 離れているとき、はたらく力の大きさは次のように求まる。
$$
\begin{aligned}
F &= k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2} \\[2.0ex]
&= 9.0 \times 10^9 \times \displaystyle\frac{2 \times 3}{3^2} \\[2.0ex]
&= 6.0 \times 10^9\,\text{N}
\end{aligned}
$$
数字を代入して終わりにするのではなく、「電気量を増やせば力は強く、距離を離せば一気に弱くなる」という性質が、確かにこの計算に効いていることを確かめてほしい。ためしに距離だけを \(6\,\text{m}\) にすると、答えは \(1.5 \times 10^9\,\text{N}\)——ちょうど \(4\) 分の \(1\) になる。手を動かす前にこの値を言い当てられたなら、式が体に入っている合図だ。
「距離の \(2\) 乗に反比例」という関係は、電球の明るさに置き換えると掴みやすい。電球から \(2\) 倍離れると、明るさは \(\displaystyle\frac{1}{2}\) ではなく \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になる。光が四方八方へ広がって薄まるからだ。クーロン力もこれと同じで、距離が \(2\) 倍になれば力は \(\displaystyle\frac{1}{4}\)、\(3\) 倍なら \(\displaystyle\frac{1}{9}\) まで弱まる。この「\(2\) 乗で効く」感覚を持っておくと、次のつまずきも自然と避けられる。
図: 距離が \(2\) 倍になると同じ光が \(4\) 倍の面積に広がる(=明るさは \(4\) 分の \(1\))
よくあるつまずき
症状:クーロンの法則を「距離に反比例」とだけ覚えてしまい、分母を \(r\) のまま(\(1\) 乗)で計算してしまう。
診断:正しくは距離の \(2\) 乗に反比例。式の分母は \(r^2\) であって \(r\) ではない。\(1\) 乗と \(2\) 乗を取り違えると、距離が \(2\) 倍になったとき力が \(\frac{1}{2}\) になる(誤)か \(\frac{1}{4}\) になる(正)かが変わり、答えが大きくずれる。
処方箋:万有引力の法則も同じ「距離の \(2\) 乗に反比例」の形である。\(2\) つの力を「分母が \(r^2\) の仲間」としてセットで覚えると、どちらも \(2\) 乗を忘れにくくなる。式を書いたら必ず分母の指数が \(2\) になっているかを指差し確認する。
🩺 要点整理
クーロンの法則は、覚える式ではなく②で確認した役割分担をそのまま写した式である。読むときは丸ごと眺めず、次の \(3\) つに分解して目を通そう。
①②が「大きさ」、③が「書かれていないもの」。式を見た瞬間にこの \(3\) つへ分解できれば、\(2\) 乗の取りちがえも、向きの取りちがえも起こらない。
🧠 見ずに思い出そう
上に戻らずに、次の \(3\) つを答えてみよう。書けたかどうかより、どこで手が止まったかを覚えておいてほしい。
答えを確認
-
公式:
F = k|q1 q2|r2
- 指数を1つ上げると、力は10倍に跳ね上がります。
- 距離 (r) を近づけると、力は2乗に反比例して急激に大きくなります。
- 電荷Aが受ける力は赤色、電荷Bが受ける力は青色の矢印で描画されます。
練習問題の解説(クーロンの法則)
① クーロン力の計算(問2)
問題
電気量がともに \(1\,\text{C}\) の \(2\) つの点電荷の間にはたらく静電気力の大きさが、ちょうど \(1\,\text{kg重}\) であるようにするためには、\(2\) つの点電荷をどれだけ離しておけばよいか。ただし、重力加速度の大きさは \(10\,\text{m}/\text{s}^2\) とする。
解説
この問題でまず診断したいのは、問題文の単位に引っかかれるかどうかである。クーロンの法則の式は力を \(\text{N}\) で扱うのに、問題は \(\text{kg重}\) で与えられている。この食い違いに気づき、まず単位をそろえる――これが最初の処方箋だ。\(1\,\text{kg重}\) は、質量 \(1\,\text{kg}\) の物体にはたらく重力の大きさなので、重力加速度 \(g = 10\,\text{m}/\text{s}^2\) を掛けて変換する。
$$
\begin{aligned}
F &= 1 \times 10 \\[2.0ex]
&= 10\,\text{N}
\end{aligned}
$$
単位がそろったら、次は求めたいものが式のどこにいるかを見て、そこを残すように式を組み替えていく。クーロンの法則の公式に各値を代入して距離 \(r\) を求める。比例定数 \(k\) は \(9.0 \times 10^9\) を用いる。
$$
\begin{aligned}
F &= k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2} \\[2.0ex]
10 &= 9.0 \times 10^9 \times \displaystyle\frac{1 \times 1}{r^2} \\[2.0ex]
10 &= \displaystyle\frac{9.0 \times 10^9}{r^2} \\[2.0ex]
10 \times r^2 &= 9.0 \times 10^9 \\[2.0ex]
r^2 &= 9.0 \times 10^8 \\[2.0ex]
r &= 3.0 \times 10^4\,\text{m}
\end{aligned}
$$
したがって、答えは \(3.0 \times 10^4\,\text{m}\) となる。同じ電気量どうしがこれだけ遠く離れていてようやく1kg重に収まる、という結果が、第1講で見た「電気力はとてつもなく大きい」という実感とつながっているかを、最後に経過観察してほしい。覚えた手順をなぞるのではなく、答えの大きさが現象として納得できる――それが「考えて解ける物理」の状態である。
\(3.0 \times 10^4\,\text{m}\)
🩺 要点整理
この問題は計算そのものより「公式に入れる前の下ごしらえ」で差がつく。クーロンの法則を使う問題は、毎回この順序で手を動かすと事故が減る。
① 単位をそろえる:力が \(\text{kg重}\) で与えられていたら、まず \(\times g\) で \(\text{N}\) に直す(\(1\,\text{kg重} = 10\,\text{N}\))。公式の \(F\) は \(\text{N}\) 前提。
② 公式に代入:\(F = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) に既知の値を入れる。分母が \(r^2\)(\(2\) 乗)であることを指差し確認。
③ 求めたい文字で整理:今回は \(r\) を求めるので、\(r^2 = \cdots\) の形まで整理してから最後に \(2\) 乗を外す。
「先に単位変換 → あとで公式」の順番を固定するだけで、\(\text{kg重}\) の変換忘れといういちばん多いミスが防げる。
🔗 関連単元
クーロンの法則で求めた「電荷が周りに及ぼす力」を、空間そのものの性質として捉え直すのが電磁気パック第2講「電界と電位の関係性」である。本講で扱った \(F = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) は、その電磁気パック第2講で学ぶ電界 \(E\) の式 \(F = qE\) と地続きでつながっている。さらにコンデンサーを扱う電磁気パック第4講「コンデンサーのキホンと4大公式」でも、ここで身につけた「電子(\(-\))の動きで現象を読む」見方がそのまま使える。この記事(電磁気パック第1講)は電磁気全体の土台なので、迷ったらいつでもここに戻ってこよう。
この講で特に出やすい4つの「思考のクセ」
物理が「できない」原因は、知識不足ではなく思考のクセにある。第1講で診断しておきたいクセは次の4つだ。自分に当てはまるものがあれば、対応する処方箋を毎回意識して呼び出そう。ここでの自己診断は、無料の記事や動画でできる第一歩にすぎない。クセを見つけたあと、それを実際の解答動作へ組み替えていくのが有料パックの処方であり、組み替えが定着したかを毎週たしかめるのがまこラボやオンライン家庭教師での経過観察にあたる。この診断→処方箋→経過観察が一周したとき、暗記に頼らない「考えて解ける物理」に変わる。
🩺 クセ診断と処方箋
【重要公式まとめ】
距離 \(r\) だけ離れた \(2\) つの点電荷 \(q_1\)、\(q_2\) にはたらく電気力(クーロン力)の大きさ \(F\) は、以下の式で表される。
$$
F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}
$$
(\(F\):電気力 \([\text{N}]\)、\(k\):比例定数 \((9.0 \times 10^9)\)、\(q_1, q_2\):電気量 \([\text{C}]\)、\(r\):距離 \([\text{m}]\))
この式が答えるのはクーロン力の大きさだけで、引力か斥力かという向きは電気量 \(q_1\)、\(q_2\) の符号の組合せが決める。
図: クーロンの法則の各文字(\(q_1\)・\(q_2\)・\(r\)・\(F\))が図のどこを指すか(同符号どうしなので力は互いに遠ざかる向き)
【記事限定 演習問題】
動画の問題とは別に、この講の理解を「自分の手」で確かめる演習を用意した。まず自力で解いてから解答を開こう。解く前に答えを見ると、せっかくの診断チャンスを逃してしまう。詰まった問題があれば、それはあなたの思考のクセが顔を出した場所であり、処方箋を当てるべき一点である。
電気量 \(5\,\text{C}\) と \(2\,\text{C}\) の \(2\) つの点電荷が \(1\,\text{m}\) 離れている。はたらくクーロン力の大きさを求めよ。また、距離を \(2\,\text{m}\) に離すと力は何倍になるか。比例定数は \(k = 9.0 \times 10^9\) とする。解答と思考プロセスを見る
$$
\begin{aligned}
F &= k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2} \\[2.0ex]
&= 9.0 \times 10^9 \times \displaystyle\frac{5 \times 2}{1^2} \\[2.0ex]
&= 9.0 \times 10^{10}\,\text{N}
\end{aligned}
$$
帯電していない箔検電器の円板Aに、負(\(-\))に帯電した棒を近づけた。箔はどうなるか。本文の解説(正の棒の場合)と比べながら、符号の動きを自分の言葉で説明してみよう。解答と思考プロセスを見る
図: \(-\) の棒を近づけたとき、電子が箔Bへ押し下げられて箔が開く(解答の根拠)
電気量 \(3\,\text{C}\) と \(4\,\text{C}\) の \(2\) つの点電荷が \(2\,\text{m}\) 離れている。はたらくクーロン力の大きさを求めよ。比例定数は \(k = 9.0 \times 10^9\) とする。解答と思考プロセスを見る
$$
\begin{aligned}
F &= k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2} \\[2.0ex]
&= 9.0 \times 10^9 \times \displaystyle\frac{3 \times 4}{2^2} \\[2.0ex]
&= 2.7 \times 10^{10}\,\text{N}
\end{aligned}
$$
演習①の配置(\(5\,\text{C}\) と \(2\,\text{C}\) が \(1\,\text{m}\))から、距離だけを \(3\,\text{m}\) に変えると、はたらく力は元の何倍になり、何 \(\text{N}\) になるか。解答と思考プロセスを見る
電気量がともに \(2\,\text{C}\) の \(2\) つの点電荷の間にはたらく力が \(3.6 \times 10^{10}\,\text{N}\) であった。\(2\) つの点電荷の距離を求めよ。比例定数は \(k = 9.0 \times 10^9\) とする。解答と思考プロセスを見る
$$
\begin{aligned}
F &= k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2} \\[2.0ex]
r^2 &= \displaystyle\frac{k q_1 q_2}{F} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{9.0 \times 10^9 \times 2 \times 2}{3.6 \times 10^{10}} \\[2.0ex]
&= 1.0 \\[2.0ex]
r &= 1.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
金属・ゴム・ガラスのうち、電気を通す「導体」はどれか。なぜそう言えるのかを「電子」という言葉を使って説明せよ。解答と思考プロセスを見る
正(\(+\))に帯電した導体球を地球に接地した。電子はどちら向きに動き、球は最終的にどんな状態になるか。解答と思考プロセスを見る
次の \(2\) 組の点電荷は、それぞれ引き合うか反発し合うか。理由も答えよ。(あ)\(+3\,\text{C}\) と \(-2\,\text{C}\) (い)\(-1\,\text{C}\) と \(-4\,\text{C}\)解答と思考プロセスを見る
図: 引力か斥力かという向きは、符号の組合せだけで決まる(矢印の長さは力の大きさを表していない)
目に見えない「電気」の動きはイメージしづらいものです。以下のテキストをコピーして、「まことAI」にそのまま貼り付けてみてください。別の角度からわかりやすく解説してくれます。
余分な電気が地球に逃げたり、地球からやってきたりして中性(0)になるというイメージを、水やお金などの身近なものを使った例え話で、中学生でもわかるように解説してくれませんか?
タップ(クリック)すると答えが表示されます。
Q1. 金属のように電気を通しやすい物質(導体)の中で、原子核から離れて自由に移動できる電子のことを何と呼ぶでしょうか?
導体の中には自由に動き回れる「自由電子」が存在し、これらが一斉に動くことで電気が流れます。一方、ゴムやガラスなどの絶縁体には自由電子がないため電気を通しません。
Q2. 帯電した物体を地球(巨大な導体)と導線でつなぎ、電気的に中性な状態に戻す操作を何と呼ぶでしょうか?
接地を行うと、物体にある余分な電気が地球へ逃げたり、不足している分が地球から供給されたりして、物体の電気のアンバランスが解消されます(電気量が \(0\) に戻ります)。
Q3. クーロンの法則において、2つの点電荷間にはたらく電気力は、距離が2倍に離れると力の大きさは何倍になるでしょうか?
クーロンの法則の公式 \(F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) より、電気力は「距離 \(r\) の \(2\) 乗に反比例」します。距離が \(2\) 倍になれば、力はその \(2^2 = 4\) 倍小さくなるため、\(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍となります。
「AIを使ったことがない」「どう質問していいか分からない」という方も大丈夫!以下のステップに沿って進めるだけで、まこと先生の分身があなたのスマホに現れ、分かるまでトコトン付き合ってくれます。
まずは、無料のAIを「まこと先生」に変身させるための呪文(プロンプト)が必要です。以下の「モザイクを解除する」ボタンをタップしてください。
普段お使いのブラウザやアプリで、無料のAI(ChatGPTやGeminiなど)を開きます。
入力欄に先ほどコピーした文章をそのまま貼り付け、一番下の入力欄を自分の言葉に書き換えてから送信してください。
💡 ヒント:「自分なりに考えたこと」は、「公式に代入しようとしたけど数字が合わなかった」「フレミングの左手の法則がうまく当てはまらない」など、素直な気持ちでOKです!
まことAIから返信が来たら、そこからが本番です!一度の質問で終わらせず、LINEで先生と話すように会話を続けてみましょう。
💬 こんな風に返信してみて!(質問のコツ)
今の水流の例え話は分かったけど、コンデンサーが入るとどうなるの? → 分かった部分と、分からない部分を切り分けて伝える!
ごめん、やっぱりイメージできない!野球の例え話で説明してみて! → 自分の好きなスポーツや趣味に例えてもらう!
要するに、電位が下がるってことだよね? → 自分の言葉でまとめ直して、合っているか確認してもらう!
まことAIは絶対に怒りませんし、呆れません。「なんかフワッとしてるな…」と思ったら、無理矢理飲み込まずに「まだ腑に落ちない!」と伝えてください。あなたが「完璧!そういうこと!」とスッキリするまで、様々な角度からアプローチし続けます。
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