「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅵ 章 21】発展例題~発展問題541

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

発展例題

発展例題45 電磁力と誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: エネルギー収支(仕事率)に着目した解法
      • 模範解答がキルヒホッフの法則(電圧のつりあい)から電流を求めるのに対し、別解では「電池が供給する仕事率」が「ジュール熱」と「導体棒を動かす仕事率」に分配されるというエネルギー保存の観点から立式します。
    • 設問(3)の別解: 電位の平衡(回路的視点)による解法
      • 模範解答が「速さが一定=力がつりあう=電流が \(0\)」という力学的視点で解くのに対し、別解では「誘導起電力が電池の起電力と等しくなり、回路内の電位差がなくなる」という回路的視点で解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 電気回路の現象を、単なる数式処理ではなく、エネルギーの移動や変換という物理的実体として捉える力が養われます。
    • 多角的な視点: 「力学的な平衡(加速度 \(0\))」と「電気的な平衡(電流 \(0\))」が密接に関連していることを理解できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「磁場中を運動する導体棒と回路」です。電磁気学と力学が融合した入試頻出の重要分野であり、導体棒が電池のような働き(誘導起電力)をすることを理解するのが鍵です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電流が磁場から受ける力(電磁力): \(F = IBL\) とフレミングの左手の法則。
  2. 電磁誘導: 磁場中を導体棒が動くと、誘導起電力 \(V = vBL\) が生じ、導体棒は電池として振る舞うこと。
  3. レンツの法則: 誘導起電力は、磁束の変化(この場合は導体棒の運動による回路面積の増加)を妨げる向きに生じること。
  4. キルヒホッフの第2法則: 閉回路において、起電力の和は電圧降下の和に等しいこと。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、スイッチを入れた直後は導体棒の速さが \(0\) なので、誘導起電力は発生しません。単純な直流回路として電流を求め、フレミングの左手の法則で力の向きと大きさを求めます。
  2. (2)では、導体棒が速さ \(v_1\) で動いているため、誘導起電力が発生します。導体棒を「起電力 \(v_1BL\) の電池」とみなして回路図を描き直し、キルヒホッフの法則を用いて電流を計算します。
  3. (3)では、「速さが一定」という言葉から「加速度が \(0\)」、つまり「導体棒に働く水平方向の力がつりあっている」と読み解きます。これを利用して最終的な速さを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた「直後」という言葉が重要です。この瞬間、導体棒PQはまだ動き出していないため、速さは \(v=0\) です。したがって、電磁誘導による誘導起電力(\(V=vBL\))は発生していません。回路は単に電池 \(E\) と抵抗 \(R\) がつながれただけの単純なものとして扱えます。

この設問における重要なポイント

  • 直後なので、導体棒の速さは \(0\)。
  • 誘導起電力は \(0\)。
  • 電流の向きは電池 \(E\) の向き(正極から負極へ)に従う。
  • 力の向きはフレミングの左手の法則で決定する。

具体的な解説と立式
まず、回路を流れる電流 \(I\) を求めます。
オームの法則(またはキルヒホッフの第2法則)より、
$$
\begin{aligned}
E &= RI
\end{aligned}
$$
よって、電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{E}{R}\) です。
電流の向きは、電池の正極(長い方)から出て負極(短い方)へ戻る向きなので、図において Q \(\rightarrow\) P の向き(手前から奥の向き)です。

次に、導体棒PQが磁場から受ける力 \(F\) を考えます。

  • 電流の向き: Q \(\rightarrow\) P(奥向き)
  • 磁場の向き: 鉛直上向き

これらをフレミングの左手の法則に当てはめます。

  • 中指(電流): 奥向き
  • 人差し指(磁場): 上向き
  • 親指(力): 右向き

したがって、力の向きは「右向き」です。

力の大きさ \(F\) は、公式 \(F = IBL\) より、
$$
\begin{aligned}
F &= IBL
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
  • 電磁力の公式: \(F = IBL\)
計算過程

求めた電流 \(I = \displaystyle\frac{E}{R}\) を力の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \left( \frac{E}{R} \right) BL \\[2.0ex]
&= \frac{EBL}{R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチを入れた瞬間は、まだ棒は止まっています。だから、ただの「電池と抵抗をつないだ回路」と同じです。まずオームの法則で電流を計算します。次に、「電流が流れている電線は、磁石の世界(磁場)から力を受ける」という決まり(フレミングの左手の法則)を使って、棒がどっちにどれくらいの力で押されるかを求めました。

結論と吟味

力の向きは右向き、大きさは \(\displaystyle\frac{EBL}{R}\) です。
電流が流れることで導体棒は右向きの力を受け、右向きに加速を始めます。これは、後の設問で棒が右に動いていく設定と整合しています。

解答 (1) 向き: 右向き, 大きさ: \(\displaystyle\frac{EBL}{R}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
導体棒が速さ \(v_1\) で動くと、電磁誘導により導体棒自体が発電し、「電池」になります。この「誘導起電力」の向きと大きさを正しく把握し、元の電池 \(E\) と合わせて回路方程式(キルヒホッフの法則)を立てることがポイントです。

この設問における重要なポイント

  • 導体棒が磁場を横切ることで生じる誘導起電力の大きさは \(V = v_1BL\)。
  • 誘導起電力の向きは、レンツの法則(磁束の増加を妨げる向きに電流を流そうとする)またはローレンツ力の向きから判断する。
  • 導体棒は右に動くので、回路(閉ループ)の面積は増え、上向きの磁束が増加する。これを打ち消すため、下向きの磁場を作る向き(P \(\rightarrow\) Q、時計回り)に電流を流そうとする起電力が生じる。
  • つまり、導体棒は「P側が負極、Q側が正極」の電池として振る舞う。これは元の電池 \(E\) とは逆向き(喧嘩する向き)である。

具体的な解説と立式
導体棒PQに生じる誘導起電力の大きさ \(V\) は、
$$
\begin{aligned}
V &= v_1BL
\end{aligned}
$$
向きは、レンツの法則より、回路を貫く磁束の増加を妨げる向き、すなわち P \(\rightarrow\) Q の向きに電流を流そうとする向きです。これは、元の電池 \(E\) が流そうとする電流(Q \(\rightarrow\) P)と逆向きです。
したがって、回路全体で見ると、起電力 \(E\) の電池と、逆起電力 \(v_1BL\) の電池が直列につながっているとみなせます。

流れる電流の大きさを \(i\) と置きます(向きは \(E\) が勝つので Q \(\rightarrow\) P とします)。
キルヒホッフの第2法則(起電力の和 \(=\) 電圧降下の和)より、回路の方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
E – v_1BL &= Ri
\end{aligned}
$$
※左辺は、回路を一周したときの起電力の合計です。\(E\) と \(v_1BL\) は逆向きなので引き算になります。

使用した物理公式

  • 誘導起電力の公式: \(V = vBL\)
  • キルヒホッフの第2法則: \(\sum V = \sum RI\)
計算過程

立てた式を \(i\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
Ri &= E – v_1BL \\[2.0ex]
i &= \frac{E – v_1BL}{R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

棒が動くと、棒自体が発電機になって電気を作ります(誘導起電力)。棒は右に動いているので、「今の電流を減らそうとする向き」に電気を作ります。つまり、元の電池 \(E\) に逆らう「邪魔な電池」が回路に増えたと考えられます。
回路全体で使える電圧は、元の電池のパワー \(E\) から、棒が作った邪魔な電圧 \(v_1BL\) を引いた残りになります。この残りの電圧が抵抗 \(R\) にかかるので、オームの法則を使って電流を計算しました。

結論と吟味

電流の大きさは \(\displaystyle\frac{E – v_1BL}{R}\) です。
もし \(v_1 = 0\) なら (1) の答えと同じになり、\(v_1\) が大きくなると電流は減っていきます。これは、棒が速くなるほど逆起電力が大きくなり、電流が流れにくくなるという物理的直感と一致します。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{E – v_1BL}{R}\)
別解: エネルギー収支(仕事率)に着目した解法

思考の道筋とポイント
回路におけるエネルギーの保存則を考えます。電池が単位時間にする仕事(供給電力)は、抵抗で発生するジュール熱(消費電力)と、導体棒が磁場から受ける力に逆らって動くための仕事率(動力)の和に等しくなります。

この設問における重要なポイント

  • 電池の供給電力: \(P_{\text{電池}} = Ei\)
  • 抵抗の消費電力(ジュール熱): \(P_{\text{抵抗}} = Ri^2\)
  • 導体棒になされる仕事率: 導体棒には電流 \(i\) により右向きの力 \(F = iBL\) が働いています。この力が導体棒を速さ \(v_1\) で動かす仕事率は \(P_{\text{動力}} = Fv_1 = (iBL)v_1\) です。
  • エネルギー保存則: \(P_{\text{電池}} = P_{\text{抵抗}} + P_{\text{動力}}\)

具体的な解説と立式
エネルギー収支の式(単位時間あたりのエネルギー保存則)を立てます。
$$
\begin{aligned}
Ei &= Ri^2 + (iBL)v_1
\end{aligned}
$$
この式は、「電池が流し込んだエネルギー \(Ei\)」の一部が「抵抗で熱 \(Ri^2\)」になり、残りが「電磁力が棒を押す仕事 \(iBL \cdot v_1\)(=誘導起電力に逆らって電流を流す仕事)」に使われたことを表しています。

使用した物理公式

  • 電力の公式: \(P = IV = I^2R\)
  • 仕事率の公式: \(P = Fv\)
計算過程

両辺を \(i\) (\(i \neq 0\) と仮定)で割ります。
$$
\begin{aligned}
E &= Ri + v_1BL \\[2.0ex]
Ri &= E – v_1BL \\[2.0ex]
i &= \frac{E – v_1BL}{R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電気のエネルギーが何に使われたかを考えます。電池が出したエネルギーは、抵抗を温める熱と、棒を動かすパワーの2つに使われます。この割り振りの計算式を作って解くと、電流が求まります。キルヒホッフの法則と同じ式が出てくるのが面白いところです。

結論と吟味

メインの解法と全く同じ結果が得られました。この式 \(E = Ri + v_1BL\) は、キルヒホッフの法則の式を変形したものと完全に一致しており、電圧のつりあいとエネルギーのつりあいが等価であることがわかります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{E – v_1BL}{R}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「速さが一定値に近づく」という現象を力学的に解釈します。速さが一定ということは、加速度が \(0\) であり、導体棒に働く力がつりあっている状態です。導体棒にはたらく水平方向の力は、磁場からの電磁力 \(F=iBL\) のみ(摩擦なし)なので、この力が \(0\) になる必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 等速運動 \(\rightarrow\) 加速度 \(0\) \(\rightarrow\) 合力 \(0\)。
  • 水平方向の力は電磁力 \(F = iBL\) のみ。
  • したがって、力が \(0\) になるには電流 \(i\) が \(0\) にならなければならない。

具体的な解説と立式
導体棒の速さが一定値 \(v\) になったとき、導体棒は等速直線運動をしています。
運動方程式(または力のつりあいの式)を考えると、水平方向の合力は \(0\) です。
導体棒に働く水平方向の力は、電流 \(i\) による電磁力 \(F = iBL\) だけなので、
$$
\begin{aligned}
iBL &= 0
\end{aligned}
$$
\(B \neq 0, L \neq 0\) なので、電流 \(i = 0\) となります。

(2)で求めた電流の式において、\(i=0\)、\(v_1=v\) とします。
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{E – vBL}{R}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F = 0\)
計算過程

上の式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
E – vBL &= 0 \\[2.0ex]
vBL &= E \\[2.0ex]
v &= \frac{E}{BL}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

棒がどんどん加速していくと、(2)で見たように逆向きの電圧(誘導起電力)が大きくなり、電流が減っていきます。最終的に、棒の発電する電圧が電池の電圧と同じになると、電流が流れなくなります(\(i=0\))。電流がなければ棒を押す力もなくなるので、棒はそれ以上加速せず、一定のスピードで動き続けます。

結論と吟味

速さは \(\displaystyle\frac{E}{BL}\) です。
この式を変形すると \(E = vBL\) となり、電池の起電力と誘導起電力が完全に釣り合っていることを示しています。単位を確認すると、\([E] = \text{V}\), \([vBL] = (\text{m/s}) \cdot \text{T} \cdot \text{m} = \text{V}\) であり、次元的にも正しいです。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{E}{BL}\)
別解: 電位の平衡(回路的視点)による解法

思考の道筋とポイント
力学的な力のつりあいではなく、回路内の電位の関係から直接アプローチします。十分時間が経過して定常状態になると、回路内の電流変化がなくなり、誘導起電力が外部電源と平衡状態になります。

この設問における重要なポイント

  • 速さが一定になるとき、回路の状態も一定になる。
  • 電流が流れなくなる(\(i=0\))のは、回路内の電位差がなくなったとき。
  • つまり、電池の起電力 \(E\) と導体棒の誘導起電力 \(vBL\) が等しくなったときである。

具体的な解説と立式
導体棒が速さ \(v\) で動くとき、誘導起電力は \(vBL\) です。
この誘導起電力は、電池 \(E\) と逆向きに生じます。
速さが一定になる極限では、電流が \(0\) になるまで加速が続いた結果、誘導起電力が電池の電圧と完全に釣り合います。
したがって、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
E &= vBL
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBL\)
  • 電圧の平衡条件
計算過程

この式を \(v\) について解くだけです。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{E}{BL}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電池は電流を流そうと頑張りますが、棒が速くなると棒自身も逆向きに電流を流そうとする「逆電池」になります。棒のスピードが上がって、この「逆電池」のパワーが元の電池と完全に同じ強さになったら、お互いに押し合って引き分けになり、電流は止まります。そのときのスピードを求めました。

結論と吟味

メインの解法と同じ結果 \(\displaystyle\frac{E}{BL}\) が得られました。力学的に「力がなくなる」と考えるか、電気的に「電圧が釣り合う」と考えるかは、現象の異なる側面を見ているだけであり、本質的には同じことを意味しています。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{E}{BL}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電磁誘導とレンツの法則
    • 核心: 磁場中を導体が運動すると、その導体内部の自由電子がローレンツ力を受け、導体の両端に電位差(誘導起電力)が生じる現象です。
    • 理解のポイント:
      • 導体棒=電池: 動いている導体棒を単なる金属の棒ではなく、「起電力 \(V=vBL\) を持つ電池」として回路図に組み込む視点が不可欠です。
      • 向きの決定: レンツの法則(磁束の変化を妨げる向き)またはローレンツ力の向き(フレミングの左手の法則の応用)を用いて、どちらが高電位(正極)になるかを正確に判断する必要があります。この問題では、右に動くことで回路面積が増え、上向きの磁束が増加するため、それを打ち消す下向きの磁場を作る向き(時計回り)に電流を流そうとする起電力が生じます。
  • 電流が磁場から受ける力(電磁力)
    • 核心: 磁場中の電流は、磁場から力 \(F=IBL\) を受けます。これが導体棒の運動を変化させる原因となります。
    • 理解のポイント:
      • 相互作用の連鎖: 「電流が流れる \(\rightarrow\) 力が働く \(\rightarrow\) 棒が加速する \(\rightarrow\) 速度が上がる \(\rightarrow\) 誘導起電力(逆起電力)が増える \(\rightarrow\) 電流が減る \(\rightarrow\) 力が減る \(\rightarrow\) やがて等速になる」という、電気と力学が絡み合った因果関係の連鎖を理解することが最重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • レールが傾いている場合: 重力の成分が加わるだけで、基本的な考え方は同じです。運動方程式に重力の項 \(mg \sin \theta\) を追加し、力のつりあいの式を立てます。
    • コンデンサーを含む回路: 抵抗の代わりにコンデンサーがつながれている場合、電流は一瞬しか流れず、最終的にはコンデンサーに電荷が蓄えられて電流が止まります。この場合、\(Q=CV\) の式と誘導起電力 \(V=vBL\) を組み合わせます。
    • 外力を加えて一定速度で動かす場合: 人の手などが外力を加えて無理やり一定速度で動かす場合、エネルギー収支は「外力の仕事率 = ジュール熱」となります(電池がない場合)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「直後」か「十分時間が経過した後」か:
      • 「直後」なら、速度 \(v=0\)(誘導起電力なし)やコンデンサーの電荷 \(Q=0\)(導線とみなす)などの初期条件を使います。
      • 「十分時間が経過」や「一定の速さ」なら、力がつりあっている(加速度 \(0\))か、電流が一定になっている(コイルの誘導起電力 \(0\))などの定常状態の条件を使います。
    2. 回路図を描き直す:
      • 動いている導体棒を「電池」の記号に書き換えた等価回路図を必ず描きましょう。これにより、キルヒホッフの法則などの回路計算のテクニックがそのまま使えるようになります。
    3. エネルギーの変換を意識する:
      • 力学的エネルギー(運動エネルギー)と電気エネルギー(ジュール熱、電池の仕事)がどのように変換されているかを考えると、検算や別解の着想に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 誘導起電力の向きを逆にする:
    • 誤解: なんとなく「電池と同じ向き」や「電流と同じ向き」と考えてしまう。
    • 対策: 必ず「レンツの法則」で確認する癖をつけましょう。「磁束が増えるのを嫌がる」「減るのを嫌がる」という天邪鬼な性質を思い出してください。または、ローレンツ力(\(q\vec{v} \times \vec{B}\))の向きから正電荷がどちらに偏るかを考えます。
  • 力の向きと速度の向きを混同する:
    • 誤解: 「右に動いているから力も右向きだろう」と思い込む。
    • 対策: 運動の向き(速度 \(v\))と力の向き(\(F\))は必ずしも一致しません。特に、外力がなく慣性で動いている場合や、ブレーキがかかっている場合(発電ブレーキ)は逆向きになります。必ずフレミングの左手の法則で、その瞬間の電流の向きに基づいて力の向きを決定してください。
  • 「速さが一定」の意味を取り違える:
    • 誤解: 「電流が一定になる」ことと混同したり、なぜ力が \(0\) になるのか理解できない。
    • 対策: 力学の基本「等速直線運動 \(\Leftrightarrow\) 力のつりあい(合力 \(0\))」に立ち返りましょう。摩擦がない場合、推進力(この場合は電磁力)が \(0\) にならなければ加速し続けてしまいます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(オームの法則と電磁力):
    • 選定理由: 求めたいのは「力」ですが、力 \(F=IBL\) を求めるには「電流 \(I\)」が必要です。電流を求めるには回路の情報(電圧と抵抗)が必要なので、オームの法則を使います。
    • 適用根拠: 「スイッチを入れた直後」という条件から \(v=0\) なので、誘導起電力という複雑な要素を排除し、単純な抵抗回路として扱えることが根拠です。
  • 問(2)での公式選択(キルヒホッフの法則):
    • 選定理由: 複数の起電力(電池 \(E\) と導体棒 \(v_1BL\))が存在する回路の電流を求めるため、電圧の足し引きを正確に行えるキルヒホッフの法則が最適です。
    • 適用根拠: 導体棒を電池とみなすことで、閉回路内の電位関係を \(E – v_1BL = Ri\) と一意に記述できます。エネルギー保存則(別解)も有効ですが、キルヒホッフの法則の方が符号のミスが起きにくい場合が多いです。
  • 問(3)での公式選択(力のつりあい):
    • 選定理由: 「速さが一定」という運動の状態から未知数(速さ \(v\))を求めるため、運動方程式(加速度 \(a=0\) の場合の力のつりあい)を選択します。
    • 適用根拠: 導体棒の運動を支配しているのはニュートンの運動法則です。電気的な現象(電流 \(0\))は、この力学的平衡の結果として導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の次元確認(単位チェック):
    • 答えが出たら、必ず単位を確認しましょう。
      • 力 \(F\): \(\text{N}\)
      • 電流 \(I\): \(\text{A}\)
      • 速さ \(v\): \(\text{m/s}\)
    • 例えば、(3)の答え \(\displaystyle\frac{E}{BL}\) の次元は、\(E [\text{V}] / (B [\text{T}] \cdot L [\text{m}])\) です。\(V = vBL\) の関係から \([\text{V}] = [\text{m/s}] \cdot [\text{T}] \cdot [\text{m}]\) なので、割ると確かに \([\text{m/s}]\) になります。もし \(B\) が分子に来ていたら間違いだと気づけます。
  • 極限を考える:
    • \(v=0\) のときどうなるか? \(\rightarrow\) (1)の答えと一致するか確認。
    • \(R \rightarrow \infty\)(抵抗がすごく大きい)ときどうなるか? \(\rightarrow\) 電流は \(0\) に近づくはず。式 \(\displaystyle\frac{E-vBL}{R}\) は分母が大きくなるので \(0\) になり、整合します。
  • 図を描いて情報を整理する:
    • 頭の中だけで考えず、必ず「等価回路図」と「導体棒に働く力の図」を描きましょう。特に、電流の向き、磁場の向き、力の向き、速度の向きを矢印で書き込み、フレミングの法則を使うときは自分の手で実際に形を作って確認することがミス防止の近道です。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

発展問題

536 コイルと電磁誘導

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • スイッチ操作直後の運動の別解: 磁極の反発(等価磁石)を用いた解法
      • 模範解答が電流と磁場の相互作用から力を導くのに対し、別解ではソレノイドと銅線の輪をそれぞれ「磁石」とみなし、磁極間の反発力(斥力)として直感的に解きます。
    • 鉄心を挿入した場合の運動の別解: 磁気力(クーロンの法則)を用いた解法
      • 模範解答が \(F=IBl\) の式に基づいて考えるのに対し、別解では磁極の強さが増大することによる磁気力の増大として定性的に解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 直感的理解の促進: 複雑な3次元的な力の向きを考えなくても、「N極とN極は反発する」「強い磁石同士は強く反発する」という単純な原理で瞬時に答えを導けるようになります。
    • 検算への活用: 微視的な解法で求めた向きや傾向が正しいかどうかを、巨視的な視点から素早く確認する手段として非常に有効です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的な結論は一致します。

この問題のテーマは「電磁誘導と電流が磁場から受ける力」です。スイッチを入れた瞬間の過渡的な現象を、磁束の変化と力の作用という観点から解析します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 右ねじの法則: 電流がつくる磁場の向きを決定します。
  2. レンツの法則: 磁束の変化を妨げる向きに誘導電流が流れることを示します。
  3. フレミングの左手の法則: 電流が磁場から受ける力の向きを決定します。
  4. 強磁性体の性質: 鉄などの強磁性体が磁場を強める効果(透磁率)について理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、回路図から電池の極性を読み取り、ソレノイドに流れる電流の向きと発生する磁場の向きを特定します。
  2. 次に、銅線の輪を貫く磁束の変化を考え、レンツの法則を用いて誘導電流の向きを決定します。
  3. 最後に、その誘導電流がソレノイドの磁場から受ける力をフレミングの左手の法則(または磁極の反発)を用いて求め、運動の向きを判断します。

スイッチ操作直後の運動

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

「解法に至る思考プロセス」
全て言語化した、超詳細解説。

なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?

1週間無料で続きを読む

(※無料期間中に解約すれば0円です)

既に会員の方はこちら

PVアクセスランキング にほんブログ村