問題115 導体中の自由電子の運動 (24 佐賀大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)〜(3)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 模範解答は等加速度運動の公式とグラフの幾何学的性質を用いていますが、別解では運動方程式を微分方程式として扱い、それを積分することで速度の時間変化と平均速度を数学的に導出します。
- 設問(6)の別解: 仕事率の積分を用いた解法(エネルギー保存則)
- 模範解答は「1個の電子が1回の衝突で失うエネルギー」に「単位時間あたりの衝突回数」と「全電子数」を掛けて計算していますが、別解では「電場が電子に対して行う仕事率」を時間積分して平均仕事率を求め、エネルギー保存則に基づいてジュール熱を導出します。
- 設問(1)〜(3)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分の解法: 等加速度運動に限らず、抵抗力が働く場合(設問7のようなケース)や交流電場の場合など、より一般的な状況にも対応できる物理的基礎体力を養います。
- 仕事率の解法: 「ジュール熱とは、電場が電荷に対してした仕事が熱に変わったものである」というエネルギー変換の根本原理を深く理解できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「導体中の自由電子の運動モデル(ドルーデモデル)」です。
オームの法則やジュール熱といったマクロな電気現象を、ミクロな電子の運動から説明する古典的なモデルを扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電場と静電気力: 電荷 \(q\) は電場 \(E\) から力 \(F=qE\) を受けます。
- 運動方程式: 電子の運動はニュートンの運動方程式 \(ma=F\) に従います。
- 電流の微視的定義: 電流 \(I\) は、単位時間に導体断面を通過する電気量の総和として \(I=enS\bar{v}\) で表されます。
- エネルギー保存則: 電場が電子にした仕事は、電子が原子と衝突することで熱エネルギー(ジュール熱)に変換されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(3)では、電子1個の運動に着目し、運動方程式から速度の変化や平均の速さを求めます。
- (4)〜(5)では、求めた平均の速さを用いて、マクロな量である電流と電気抵抗を導出します。
- (6)では、エネルギーの観点からジュール熱を計算します。
- (7)〜(8)では、衝突による断続的な運動を、連続的な抵抗力を受ける運動(終端速度モデル)と対比させます。
問(1)
思考の道筋とポイント
導体内部には一様な電場 \(E\) が存在します。
この電場の中に置かれた電荷 \(-e\) の電子が受ける静電気力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント
- 静電気力の公式: 電荷 \(q\) が電場 \(E\) 中で受ける力は \(\vec{F} = q\vec{E}\) です。
- 力の大きさ: 問題文で問われているのは「大きさ」なので、電荷の符号を考慮した絶対値を答えます。
具体的な解説と立式
電子の電気量は \(-e\)(\(e > 0\))、電場の大きさは \(E\) です。
電子が受ける静電気力の大きさ \(F\) は、電気量の絶対値と電場の大きさの積となります。
$$
\begin{aligned}
F &= |-e| E
\end{aligned}
$$
なお、電子は負電荷を持つため、力の向きは電場の向き(\(x\) 軸正方向)とは逆向き(\(x\) 軸負方向)になりますが、ここでは大きさのみを答えます。
使用した物理公式
- 静電気力: \(F = |q|E\)
計算過程
$$
\begin{aligned}
F &= eE
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
電気の粒(電子)が、電気的な坂道(電場)に置かれると、坂道を転がり落ちるような力を受けます。その力の強さは、「電気の粒の量」と「坂道の急さ」の掛け算で決まります。
結論と吟味
答えは \(eE\) です。基本的な公式通りの結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電子は原子と衝突するまでの間、一定の力 \(F=eE\) を受け続けます。
一定の力を受ける物体は、等加速度運動をします。
衝突直後の速さは \(0\) であり、時間 \(T\) だけ加速し続けた瞬間の速さが最大値となります。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式: 力 \(F\) と加速度 \(a\) の関係 \(ma=F\) を用います。
- 等加速度運動の公式: 初速度 \(0\)、加速度 \(a\) のとき、時刻 \(t\) での速度は \(v = at\) です。
具体的な解説と立式
電子の質量を \(m\)、加速度の大きさを \(a\) とします。
運動方程式 \(ma = F\) を、進行方向(力の向き)を正として立てます。
$$
\begin{aligned}
ma &= eE \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
これより加速度 \(a\) が求まります。
電子は衝突によって速さが \(0\) になり、そこから時間 \(T\) の間、加速度 \(a\) で加速します。
速さが最大になるのは、次の衝突の直前、つまり加速時間が \(t=T\) のときです。
求める速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、等加速度運動の公式 \(v = v_0 + at\) より(\(v_0=0\) として)、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= aT \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度運動の速度: \(v = v_0 + at\)
計算過程
式①より加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{eE}{m}
\end{aligned}
$$
これを式②に代入して \(v_{\text{最大}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \frac{eE}{m} T \\[2.0ex]
&= \frac{eET}{m}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
電子は邪魔もの(原子)にぶつかるまで、電場の力でどんどん加速していきます。
ぶつかると一旦停止し、また加速を始めます。
一番スピードが出ているのは、次の邪魔ものにぶつかる直前です。
「力 \(\div\) 重さ」で加速度を求め、「加速度 \(\times\) 時間」で到達する最高速度を計算しました。
結論と吟味
質量 \(m\) が大きいほど加速しにくく、電場 \(E\) や時間 \(T\) が大きいほど加速する結果となっており、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電子の速さは \(0\) から \(v_{\text{最大}}\) まで直線的に増加し、衝突で \(0\) に戻るという運動を繰り返します。
この運動の平均の速さ \(\bar{v}\) を求めます。
速度が時間に対して一定の割合で変化する場合(等加速度運動)、平均の速さは「最初と最後の速さの平均」と一致します。
この設問における重要なポイント
- \(v-t\) グラフの利用: 縦軸に速さ、横軸に時間をとると、グラフは原点を通る直線になります(図b参照)。
- 平均の速さの幾何学的意味: \(v-t\) グラフの面積(移動距離)を時間で割ったものが平均の速さです。三角形の面積を考えることで視覚的に理解できます。
具体的な解説と立式
図bのような \(v-t\) グラフを考えます。
時刻 \(t=0\) で \(v=0\)、時刻 \(t=T\) で \(v=v_{\text{最大}}\) となる直線です。
この区間における平均の速さ \(\bar{v}\) は、等加速度運動の平均の公式より、
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{0 + v_{\text{最大}}}{2} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度運動の平均速度: \(\bar{v} = \frac{v_{\text{初}} + v_{\text{終}}}{2}\)
計算過程
式③に(2)の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{1}{2} \cdot \frac{eET}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{eET}{2m}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
スピードが \(0\) から一定のペースで上がって \(100\) になったとします。この間の平均スピードは、真ん中の \(50\) になります。
これと同じで、\(0\) から \(v_{\text{最大}}\) まで一定ペースで加速したので、平均はちょうど半分の \(\frac{1}{2}v_{\text{最大}}\) になります。
結論と吟味
最大速度の半分という結果は、初速度0の等加速度運動として正しい結果です。
思考の道筋とポイント
等加速度運動の公式を暗記していなくても、運動方程式を微分方程式として解くことで、速度の時間変化や平均速度を導出できます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の積分: 加速度 \(a = \frac{dv}{dt}\) を積分すると速度 \(v(t)\) が得られます。
- 平均値の定義: 関数 \(f(t)\) の区間 \([0, T]\) における平均値は \(\frac{1}{T} \int_0^T f(t) dt\) で定義されます。
具体的な解説と立式
運動方程式 \(m \frac{dv}{dt} = eE\) を立てます。
両辺を \(m\) で割り、\(t\) で積分します(初期条件:\(t=0\) で \(v=0\))。
$$
\begin{aligned}
\frac{dv}{dt} &= \frac{eE}{m} \\[2.0ex]
v(t) &= \int_0^t \frac{eE}{m} dt’
\end{aligned}
$$
これが時刻 \(t\) における電子の速さです。
最大値 \(v_{\text{最大}}\) は \(t=T\) のときの値なので、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= v(T)
\end{aligned}
$$
次に、平均の速さ \(\bar{v}\) を積分の定義から求めます。
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{1}{T} \int_0^T v(t) dt
\end{aligned}
$$
使用した数学公式
- 積分の基本: \(\int x^n dx = \frac{x^{n+1}}{n+1}\)
- 平均値の定義: \(\bar{f} = \frac{1}{b-a} \int_a^b f(x) dx\)
計算過程
まず速度 \(v(t)\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v(t) &= \frac{eE}{m} t
\end{aligned}
$$
最大値 \(v_{\text{最大}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \frac{eET}{m} \quad (\text{問2の答え})
\end{aligned}
$$
平均の速さ \(\bar{v}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{1}{T} \int_0^T \frac{eE}{m} t \, dt \\[2.0ex]
&= \frac{eE}{mT} \left[ \frac{t^2}{2} \right]_0^T \\[2.0ex]
&= \frac{eE}{mT} \cdot \frac{T^2}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{eET}{2m} \quad (\text{問3の答え})
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
「加速度とは速度の変化率である」という定義から出発し、数学的な操作(積分)だけで速度の式と平均値を導きました。
グラフの面積を計算することと、積分計算をすることは数学的に同じ意味を持ちます。
結論と吟味
等加速度運動の公式を用いた場合と全く同じ結果が得られました。
問(4)
思考の道筋とポイント
ミクロな電子の運動(平均の速さ \(\bar{v}\))と、マクロな電流 \(I\) を結びつけます。
電流の定義は「単位時間あたりに導体断面を通過する電気量の大きさ」です。
この設問における重要なポイント
- 電流の微視的モデル: 断面積 \(S\)、電子密度 \(n\)、平均の速さ \(\bar{v}\)、電気素量 \(e\) のとき、電流は \(I = enS\bar{v}\) となります。
- モデルの導出: 1秒間に断面を通過できる電子は、断面から距離 \(\bar{v} \times 1\) 以内にいる電子です(図c参照)。
具体的な解説と立式
単位時間(1秒間)に導体の断面 \(S\) を通過する電子の総数を考えます。
平均の速さが \(\bar{v}\) なので、断面から距離 \(\bar{v}\) 以内にある電子が、1秒の間に断面を通過します。
この領域の体積 \(V_{\text{1秒}}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{1秒}} &= S \times \bar{v}
\end{aligned}
$$
単位体積あたりの電子数が \(n\) なので、この体積に含まれる電子の総数 \(N\) は、
$$
\begin{aligned}
N &= n \times V_{\text{1秒}} \\[2.0ex]
&= nS\bar{v}
\end{aligned}
$$
電子1個の電気量の大きさは \(e\) なので、通過する総電気量(すなわち電流 \(I\))は、
$$
\begin{aligned}
I &= eN \\[2.0ex]
&= enS\bar{v} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
これに(3)の結果を代入します。
使用した物理公式
- 電流の定義式: \(I = \frac{Q}{t}\)
- 電流の微視的表式: \(I = enS\bar{v}\)
計算過程
式④に \(\bar{v} = \frac{eET}{2m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= enS \left( \frac{eET}{2m} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 n S T E}{2m}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
電流とは「1秒間にどれだけの電気が流れたか」です。
「道路の幅(\(S\))」、「車の密度(\(n\))」、「車の平均スピード( \(\bar{v}\) )」、「車1台に乗っている人数(\(e\))」を掛け合わせると、1秒間に通過する総人数(電流)が計算できます。
結論と吟味
電流は、電子密度 \(n\) や断面積 \(S\)、電場 \(E\) に比例するという、物理的に妥当な関係式が得られました。
問(5)
思考の道筋とポイント
導体の電気抵抗 \(R\) を求めます。
オームの法則 \(V=RI\) を用いるために、導体の両端にかかる電圧 \(V\) と電流 \(I\) の関係を整理します。
この設問における重要なポイント
- 一様電場と電位差: 長さ \(L\) の導体に一様な電場 \(E\) がかかっているとき、両端の電位差(電圧)は \(V = EL\) です。
- オームの法則: \(R = \frac{V}{I}\) です。
具体的な解説と立式
導体の両端の電位差 \(V\) は、一様な電場の式より、
$$
\begin{aligned}
V &= EL \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
オームの法則 \(V = RI\) より、抵抗 \(R\) は、
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{V}{I} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
式⑤と(4)の結果を式⑥に代入して \(R\) を求めます。
使用した物理公式
- 一様電場の電位差: \(V = Ed\)
- オームの法則: \(V = RI\)
計算過程
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{EL}{\frac{e^2 n S T E}{2m}} \\[2.0ex]
&= EL \cdot \frac{2m}{e^2 n S T E} \\[2.0ex]
&= \frac{2mL}{e^2 n S T}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
電圧 \(V\) と電流 \(I\) の比が抵抗 \(R\) です。
先ほど求めた電流の式と、電圧と電場の関係式を使って、\(R = V/I\) を計算しました。
結果を見ると、抵抗は長さ \(L\) に比例し、断面積 \(S\) に反比例しています。これは「長いほど通りにくく、太いほど通りやすい」という抵抗の一般的な性質と一致しています。
結論と吟味
抵抗率 \(\rho = \frac{2m}{e^2 n T}\) と見なせば、\(R = \rho \frac{L}{S}\) の形になっています。
衝突時間 \(T\) が長い(衝突しにくい)ほど抵抗が小さくなる点も物理的に妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
単位時間あたりに導体全体で失われる運動エネルギーの総和(ジュール熱)を求めます。
電子は衝突のたびに、直前まで持っていた運動エネルギーを全て失います。
「1個の電子が1回の衝突で失うエネルギー」\(\times\)「単位時間あたりの全衝突回数」で計算します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー損失のメカニズム: 電子は加速して運動エネルギーを得ますが、衝突でそれがゼロになります。失われたエネルギーは熱(ジュール熱)に変わります。
- 衝突回数の見積もり: 電子1個は時間 \(T\) ごとに1回衝突します。つまり単位時間あたり \(1/T\) 回衝突します。
具体的な解説と立式
まず、電子1個が1回の衝突で失うエネルギー \(w\) を求めます。
衝突直前の速さは \(v_{\text{最大}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
w &= \frac{1}{2} m v_{\text{最大}}^2 \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
次に、導体内の全電子数 \(N_{\text{全}}\) を求めます。
導体の体積は \(SL\) なので、
$$
\begin{aligned}
N_{\text{全}} &= nSL \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
電子1個は時間 \(T\) に1回衝突するので、単位時間あたりの衝突回数は \(\frac{1}{T}\) 回です。
よって、導体全体での単位時間あたりの総衝突回数 \(N_{\text{衝突}}\) は、
$$
\begin{aligned}
N_{\text{衝突}} &= N_{\text{全}} \times \frac{1}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{nSL}{T} \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
求めるエネルギーの総和 \(Q_J\) は、\(w \times N_{\text{衝突}}\) となります。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= \left( \frac{1}{2} m v_{\text{最大}}^2 \right) \times \left( \frac{nSL}{T} \right) \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
計算過程
式⑩に \(v_{\text{最大}} = \frac{eET}{m}\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= \frac{1}{2} m \left( \frac{eET}{m} \right)^2 \times \frac{nSL}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} m \frac{e^2 E^2 T^2}{m^2} \times \frac{nSL}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 E^2 T}{2m} \times nSL \\[2.0ex]
&= \frac{nSLT(eE)^2}{2m}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
電子は加速してエネルギーを溜め込みますが、原子にぶつかってそのエネルギーを熱として放出します。
「1回の衝突で放出する熱」に「1秒間に導体全体で起きる衝突の回数」を掛け合わせることで、全体の発熱量を計算しました。
結論と吟味
この結果は、電力 \(P = IV\) や \(P = I^2 R\) を計算した結果と一致します(別解参照)。
思考の道筋とポイント
ジュール熱の正体は、電場が電子に対してした仕事です。
個々の衝突を数え上げる代わりに、電場が電子にする仕事率(パワー)を計算し、それを平均化して全電子数を掛けることで導出します。
この設問における重要なポイント
- 仕事率: 力 \(F\) で速度 \(v\) で動く物体になされる仕事率は \(P = Fv\) です。
- エネルギー保存則: 電場がした仕事の総和は、最終的にすべて熱エネルギーに変わります。
具体的な解説と立式
電子1個に対し、電場からの力 \(F=eE\) が速度 \(v(t) = \frac{eE}{m}t\) で運動する間になす仕事率 \(p(t)\) は、
$$
\begin{aligned}
p(t) &= F v(t) \\[2.0ex]
&= eE \cdot \frac{eE}{m}t \\[2.0ex]
&= \frac{(eE)^2}{m}t
\end{aligned}
$$
1回の衝突サイクル(時間 \(0\) から \(T\))の間に電場がする仕事 \(W_1\) は、これを積分して求められます。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= \int_0^T p(t) dt
\end{aligned}
$$
単位時間あたりの平均仕事率 \(\bar{p}\) は、\(W_1\) を周期 \(T\) で割ったものです。
$$
\begin{aligned}
\bar{p} &= \frac{W_1}{T}
\end{aligned}
$$
これに全電子数 \(N_{\text{全}} = nSL\) を掛ければ、求める総和 \(Q_J\) になります。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= N_{\text{全}} \times \bar{p}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事率: \(P = Fv\)
- 仕事: \(W = \int P dt\)
計算過程
まず \(W_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= \int_0^T \frac{(eE)^2}{m}t \, dt \\[2.0ex]
&= \frac{(eE)^2}{m} \left[ \frac{t^2}{2} \right]_0^T \\[2.0ex]
&= \frac{(eE)^2 T^2}{2m}
\end{aligned}
$$
単位時間あたりの平均仕事率 \(\bar{p}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\bar{p} &= \frac{1}{T} \cdot \frac{(eE)^2 T^2}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{(eE)^2 T}{2m}
\end{aligned}
$$
全電子数を掛けて \(Q_J\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= nSL \times \frac{(eE)^2 T}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{nSLT(eE)^2}{2m}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
「電場が電子を押して仕事をすると、その分だけエネルギーが注入される。しかし電子の平均速度は変わらない(加速と衝突を繰り返すため)。ということは、注入されたエネルギーはすべて熱として捨てられているはずだ」という考え方です。
電場がした仕事を計算すれば、それがそのまま発生した熱量になります。
結論と吟味
衝突モデルから計算した結果と完全に一致しました。エネルギー保存則が成立していることが確認できます。
問(7)
思考の道筋とポイント
これまでの「加速と衝突」を繰り返すモデルとは異なり、「速度に比例する抵抗力 \(kv\) を受けながら一定の速さで動く」という別のモデル(終端速度モデル)を考えます。
一定の速さで動いているとき、電子にはたらく力はつりあっています。
この設問における重要なポイント
- 力のつりあい: 一定速度(等速直線運動)のとき、物体にはたらく合力は \(0\) です。
- 力の向き: 電場からの力 \(eE\)(加速させる力)と、抵抗力 \(kv\)(妨げる力)がつりあいます。
具体的な解説と立式
電子にはたらく静電気力の大きさは \(eE\) です。
抵抗力の大きさは \(kv\) です。
これらがつりあっているので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{加速させる力}) &= (\text{妨げる力}) \\[2.0ex]
eE &= kv \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
この式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = 0\)
計算過程
式⑪より、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{eE}{k}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
雨粒が空気抵抗を受けて一定の速さで落ちてくるのと同じように、電子も「進もうとする力」と「邪魔する力」がバランスして、一定のスピードで進んでいると考えます。
そのバランスの式を立てて、スピードを求めました。
結論と吟味
抵抗係数 \(k\) が大きい(動きにくい)ほど速度が小さくなり、電場 \(E\) が大きい(強く押される)ほど速度が大きくなるため、妥当な結果です。
問(8)
思考の道筋とポイント
問(3)で求めた「衝突モデルでの平均の速さ \(\bar{v}\)」と、問(7)で求めた「抵抗力モデルでの終端速度 \(v\)」が一致すると仮定し、抵抗係数 \(k\) を他の物理量で表します。
これにより、2つの異なるモデル間の対応関係を導きます。
この設問における重要なポイント
- モデルの等価性: ミクロな衝突現象を、マクロな抵抗力として平均化して捉えることができるかを確認します。
具体的な解説と立式
(3)の結果 \(\bar{v} = \frac{eET}{2m}\) と、(7)の結果 \(v = \frac{eE}{k}\) が等しいと置きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{eET}{2m} &= \frac{eE}{k} \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$
この式を \(k\) について解きます。
使用した物理公式
- 特になし(前問の結果を利用)
計算過程
式⑫の両辺から \(eE\) を約分します(\(eE \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\frac{T}{2m} &= \frac{1}{k}
\end{aligned}
$$
逆数をとって \(k\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
k &= \frac{2m}{T}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
「衝突を繰り返して進む」という現象を、「ネバネバした液体の中を進む」ような現象として置き換えてみたとき、その「ネバネバ具合(\(k\))」が具体的にどう表されるかを計算しました。
衝突の間隔 \(T\) が短い(頻繁にぶつかる)ほど、\(k\) が大きくなり(ネバネバが強くなり)、進みにくくなることが分かります。
結論と吟味
\(k = \frac{2m}{T}\) という結果は、衝突時間 \(T\) が短いほど抵抗力が大きくなることを示しており、直感的に正しいです。
この関係式により、ドルーデモデル(衝突モデル)と粘性抵抗モデルが、平均的な振る舞いにおいて数学的に結びつけられました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドルーデモデル(自由電子モデル)
- 核心: 導体中の電子は、電場による加速と原子との衝突による減速を繰り返しながら、全体として一定の平均速度で移動するという古典的なモデル。
- 理解のポイント:
- ミクロとマクロの架け橋: 電子1個の運動(ミクロ)を平均化することで、電流や抵抗といった回路全体の性質(マクロ)を説明します。
- 衝突の役割: 衝突は電子の運動エネルギーを熱(ジュール熱)に変えるプロセスであり、これが電気抵抗の原因となります。
- 電流の微視的定義
- 核心: 電流 \(I\) は「単位時間に断面を通過する電荷の総量」であり、\(I = enS\bar{v}\) で表されます。
- 理解のポイント:
- 式の意味: \(e\)(1個の電荷)、\(n\)(密度)、\(S\)(断面積)、\(\bar{v}\)(速さ)の積として、物理的なイメージを持って記憶しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果: 磁場中での電子の運動を扱う問題でも、\(I = enS\bar{v}\) の式や、力のつりあい(ローレンツ力と電場)の考え方は共通です。
- 終端速度モデル: 雨粒の落下や粘性抵抗を受ける物体の運動など、「加速力と抵抗力がつりあって等速になる」モデルは力学分野でも頻出です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「平均」の意味: 速度が時間変化する場合、平均速度は「移動距離 \(\div\) 時間」あるいは「\(v-t\) グラフの面積 \(\div\) 時間」で求められることに注目します。
- エネルギーの変換: 「仕事 \(\rightarrow\) エネルギー変化」の流れを追います。特に抵抗がある場合、仕事は最終的に熱エネルギーに変わることを意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 平均速度と最大速度の混同:
- 誤解: 電流の式 \(I = enSv\) の \(v\) に、衝突直前の最大速度 \(v_{\text{最大}}\) を代入してしまう。
- 対策: 電流は多数の電子の集団運動です。ある瞬間に速い電子も遅い電子もいるため、必ず「平均の速さ \(\bar{v}\)」を使う必要があります。等加速度運動なら \(\bar{v} = v_{\text{最大}}/2\) です。
- 力の向きと大きさの取り違え:
- 誤解: 電子は負電荷なので、電場 \(E\) と逆向きに力を受けますが、大きさだけを問われているのにマイナスをつけてしまう。
- 対策: 問題文が「大きさ」を問うているのか「ベクトル(向きと大きさ)」を問うているのかを確認しましょう。「大きさ」なら絶対値で答えます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(3)での平均速度の計算(グラフの面積 vs 積分):
- 選定理由: \(v-t\) グラフが直線になる場合、平均値は単純に「両端の平均」になるため、幾何学的に解くのが最速です。一方、積分はより複雑な運動(加速度が一定でない場合など)にも対応できる汎用性があります。
- 適用根拠: 加速度が一定であるため、速度は時間の一次関数となり、どちらの方法でも厳密に正しい結果が得られます。
- 問(6)でのジュール熱計算(個数積算 vs 仕事率積分):
- 選定理由: 模範解答の「個数積算」は現象のイメージ(衝突で熱が出る)が湧きやすい一方、計算量が多くなりがちです。別解の「仕事率積分」は、エネルギー保存則に基づき、より少ないステップで計算できます。
- 適用根拠: エネルギー保存則により、「電場がした仕事」は「電子の運動エネルギー変化」+「発生した熱」に等しくなります。定常状態では運動エネルギーの平均値は変わらないため、仕事はすべて熱になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 次元解析(単位チェック):
- 意識: 求めた式の単位が正しいか確認します。
- 実践: 例えば問(5)の抵抗 \(R\) の式で、\(m\)(質量)や \(L\)(長さ)が分子に、\(n\)(密度)や \(S\)(面積)が分母にあることを確認します。「重いほど、長いほど抵抗は大きい」「密度が高いほど、太いほど抵抗は小さい」という直感と一致するかチェックしましょう。
- 文字の定義確認:
- 意識: \(v\) と \(\bar{v}\)、\(N\) と \(n\) など、似た文字の定義を取り違えないようにします。
- 実践: 問題用紙の余白に「\(n\): 単位体積あたりの個数」「\(N\): 全個数」のようにメモしておくとミスを防げます。
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問題116 キルヒホッフの法則 (17 東京農大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)(2)の別解: 合成抵抗と分流の法則を用いた解法
- 模範解答が閉回路ごとの方程式を連立させるのに対し、別解では回路の接続構造(並列・直列)を見抜き、合成抵抗を用いて一気に全電流を求めます。
- 設問(3)(4)の別解: ミルマンの定理(節点電位法)を用いた解法
- 複雑な多重ループ回路において、連立方程式を回避し、回路の「節点(ノード)の電位」に着目して端子電圧を直接計算します。
- 設問(5)の別解: 電位差に着目した平衡条件の解法
- 「電流が流れない」という条件を「電位差がゼロ」と読み替え、計算なしで直感的に解を導きます。
- 微積分を用いた体系的解法: 電場の周回積分と電位の一価性
- キルヒホッフの法則を公式として暗記するのではなく、マクスウェル方程式(静電場の保存性)から導出し、回路内の電位分布を物理的に解釈します。
- 設問(1)(2)の別解: 合成抵抗と分流の法則を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 合成抵抗・分流: 回路全体の構造を把握する力がつき、計算ミスを大幅に減らせます。
- ミルマンの定理: 難関大入試で頻出の「複雑な並列回路」を瞬殺できる強力なツールです。
- 微積分アプローチ: 「電圧とは何か」「なぜ一周すると0になるのか」という根本原理を理解することで、未知の設定の回路問題にも対応できる応用力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複雑な直流回路における電流と電位の決定」です。スイッチの切り替えによって変化する回路構造を正しく認識し、適切な法則を適用する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出る電流の和は等しい(電荷保存則)。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の和は電圧降下の和に等しい(エネルギー保存則)。
- オームの法則: 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるとき、電圧降下 \(V=RI\) が生じる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、スイッチの状態から回路図を描き直し、キルヒホッフの法則または合成抵抗を用いて電流を求めます。
- (3)(4)では、電池が2つ含まれる複雑な回路となるため、各枝の電流を未知数とおき、連立方程式を立てて解きます。
- (5)では、「電流が0」という条件を数式に反映させ、抵抗値を逆算します。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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