Step 3
155 音波の屈折
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: ホイヘンスの原理を用いた作図
- 模範解答が「音速の違いによる屈折」という定性的な説明で作図しているのに対し、別解ではホイヘンスの原理を用いて、素元波の半径の違いから波面がどのように曲がるかを幾何学的に説明します。
- 設問(2)の別解: ホイヘンスの原理を用いた作図
- 上記の別解が有益である理由
- 原理的な理解: なぜ波面が曲がるのかを、波の伝播の基本原理であるホイヘンスの原理から理解することで、現象の背後にあるメカニズムを深く把握できます。
- 応用力: 連続的に媒質が変化する場合の波の振る舞いを考える際の基礎となります。
- 結果への影響
- 作図される波面と射線の形状は、模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「気温による音速の変化と音波の屈折」です。気温の逆転層が生じる冬の夜間に、音が遠くまで届く現象を物理的に解明します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 音速と気温の関係: 空気中の音速 \(V\) は、摂氏温度 \(t\) を用いて \(V \approx 331.5 + 0.6t\) と表されます。つまり、気温が高いほど音速は速く、低いほど遅くなります。
- 波の屈折: 波は、進む速さが遅い媒質の方向へ曲がる(屈折する)性質があります。これはスネルの法則(屈折の法則)からも説明できます。
- 放射冷却: 晴れた夜間、地表の熱が宇宙空間へ逃げることで、地表付近の空気が上空よりも冷たくなる現象です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、放射冷却による気温分布と、それに伴う音速分布を考え、音波がどちらに曲がるかを判断します。
- (2)では、(1)の考察に基づき、音波の進行方向(射線)と波面を作図します。射線は音速が遅い方(地表側)へ曲がり、波面は射線と常に直交するように描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
冬の晴れた夜間に起こる気象現象(放射冷却)と、それが音速に与える影響を順を追って考えます。
- 気温分布: 放射冷却により地表が冷やされるため、地表付近の空気は上空よりも冷たくなります。
- 音速分布: 音速は気温が高いほど速く、低いほど遅くなります。
- 屈折の方向: 波は「速い方から遅い方へ」曲がる性質があります。
この設問における重要なポイント
- 放射冷却: 地表付近の気温 \(<\) 上空の気温
- 音速の式: \(V = 331.5 + 0.6t\) (\(t\) は気温)
- 屈折の原理: 波面は速い側が進みすぎるため、遅い側へ回り込むように曲がる。
具体的な解説と立式
- ① 気温の変化: 晴れた冬の夜間は、放射冷却によって地表の熱が奪われます。そのため、地表に近いほど気温が低くなります。
- ② 音速の変化: 音速 \(V\) は気温 \(t\) に比例して大きくなる(\(V \approx 331.5 + 0.6t\))ため、気温が低い地表付近では、上空より音速が小さくなります。
- ③ 音波の振る舞い: 音波は、音速が速い上空側では速く進み、遅い地表側ではゆっくり進みます。その結果、波面全体が地表側へ傾き、進行方向(射線)は下方に屈折します。
使用した物理公式
- 音速の式: \(V = 331.5 + 0.6t\)
計算は不要です。物理現象の理解に基づき空欄を埋めます。
隊列を組んで行進しているところを想像してください。右側の列(地表側)の人がゆっくり歩き、左側の列(上空側)の人が速く歩くと、隊列全体は自然と右側(地表側)に曲がっていきますよね。これと同じことが音波でも起こります。地表付近が寒くて音が遅くなるので、音は地面の方へ曲がっていくのです。
①低く、②小さく、③屈折。
これらは放射冷却時の典型的な現象であり、経験的にも「夜は遠くの音がよく聞こえる」ことと整合します。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で考察した通り、音波は下方に屈折します。
- 射線(進行方向): 音源Sから放射状に出た線が、次第に下向きにカーブしていく様子を描きます。
- 波面: 射線に対して常に垂直になるように描きます。上空側ほど波の間隔が広がり、地表側ほど狭くなるように描くと、より正確です(速いところほど波長が長くなるため)。
この設問における重要なポイント
- 射線は地表に向かって曲がる。
- 波面は射線と直交する。
- 上空ほど音速が速いので、同じ時間で進む距離が長い(波面の間隔が広い)。
具体的な解説と立式
- 射線の作図: 音源Sから水平より上に出た音波も、進むにつれて下向きに曲げられます。水平より下に出た音波は、そのまま地表に向かい、反射して再び上空へ向かいますが、また下向きに曲げられます。全体として、音波が地表付近に閉じ込められるような形になります。
- 波面の作図: 音源Sを中心とする同心円(破線)に対し、上空側はより遠くへ(速いから)、地表側はより近くへ(遅いから)変形させた曲線を描きます。結果として、波面は上空側が開いたような形になります。
使用した物理公式
- 波の屈折の原理
作図問題のため計算はありません。
(1)の「隊列」の例えを思い出してください。外側(上空)が速く、内側(地表)が遅いので、隊列(波面)は地面の方へ回り込むように曲がります。
図を描くときは、まず矢印(射線)を地面の方へグニャっと曲げて描きます。次に、その矢印に対して直角になるように、波の線(波面)を描き足していけば完成です。
模範解答の図(b)のようになります。
射線が放物線のように下へ曲がり、波面が上空側で先行している様子が描かれていれば正解です。これにより、音のエネルギーが上空に逃げず、地表付近を伝わって遠くまで届くことが視覚的に理解できます。
思考の道筋とポイント
波面上の各点から出る素元波(二次波)を考えます。上空ほど素元波の半径が大きく、地表ほど小さいことを利用して、次の瞬間の波面を作図します。
この設問における重要なポイント
- ホイヘンスの原理: 波面上の各点から出る素元波の共通接面が、次の瞬間の波面になる。
- 素元波の半径 \(r = v \Delta t\): 音速 \(v\) が大きいほど半径は大きい。
具体的な解説と立式
ある瞬間の波面を考えます。この波面上の各点から素元波が発生します。
微小時間 \(\Delta t\) 後の素元波の半径は、その高度での音速 \(v\) に比例します。
- 上空: 音速 \(v\) が大きい \(\rightarrow\) 素元波の半径が大きい。
- 地表: 音速 \(v\) が小さい \(\rightarrow\) 素元波の半径が小さい。
これらの素元波の共通接線(包絡線)を引くと、新しい波面は上空側がより前方に進んだ形になります。
この操作を繰り返すと、波面全体が地表側へ傾いていく(屈折する)様子が描けます。
波の最前線から、小さな波(素元波)が次々と生まれると考えます。
空の高いところでは、この小さな波が勢いよく大きく広がります。地面に近いところでは、あまり広がりません。
それらをつなぎ合わせると、空の高い方だけがどんどん先に進んでしまい、結果として波全体が地面の方へお辞儀をするような形になります。
メインの解法と同じ図が得られます。ホイヘンスの原理を使うことで、なぜ波面がそのように変形するのかをより厳密に説明できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 音速の温度依存性
- 核心: 音波は媒質(空気)の分子運動によって伝わるため、温度が高い(分子運動が激しい)ほど速く伝わります。
- 理解のポイント:
- 公式: \(V \approx 331.5 + 0.6t\) (\(t\) は摂氏温度)。この式から、温度 \(t\) と音速 \(V\) が正の相関関係にあることを即座に想起できるかが鍵です。
- 直感: 「暑いと分子が元気 \(\rightarrow\) 音も速い」というイメージを持っておくと、符号のミスを防げます。
- 波の屈折(スネルの法則の定性的理解)
- 核心: 波は、進む速さが異なる媒質の境界(または連続的に変化する領域)を通過するとき、速さが遅い媒質の方へ進路を曲げます。
- 理解のポイント:
- 原理: ホイヘンスの原理で説明されるように、速い側の波面が先に進んでしまうため、波面全体が遅い側へ旋回します。
- 車輪の例え: 舗装路(速い)から砂利道(遅い)へ斜めに入った車が、砂利道側のタイヤを取られてハンドルを取られる(曲がる)様子をイメージすると分かりやすいです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 昼間の音の伝わり方: 昼間は地表が温められ、上空ほど冷たくなります。音速の分布が逆転するため、音波は上空へ屈折し、地上の遠くへは届きにくくなります。
- 蜃気楼(光の屈折): 光も波の一種であり、空気の密度(温度)によって屈折率が変わります。逃げ水(下位蜃気楼)は地表付近が熱く光速が速くなるため上空へ屈折する現象、上位蜃気楼は逆の現象として、全く同じ理屈で説明できます。
- 光ファイバー: 屈折率の大きい(光速の遅い)コアの中に光を閉じ込める技術です。本問の「冷たい空気の層に音を閉じ込める」現象と物理的に同等です。
- 初見の問題での着眼点:
- 温度分布の確認: どちらが高温でどちらが低温かを図や文章から読み取ります。
- 速さの大小の特定: 「高温=速い」「低温=遅い」を適用し、空間的な速さの分布を把握します。
- 曲がる方向の決定: 「速い方から遅い方へ曲がる」という原則に従って、射線のカーブを描きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 屈折方向の逆転
- 誤解: 「暖かい方へ曲がる」と勘違いしたり、図を描くときに何となく上へ曲げてしまう。
- 対策: 「遅い方へ曲がる」という原則を徹底します。さらに「隊列の行進」や「車輪」の例えを使って、頭の中でシミュレーションして確認します。
- 波面と射線の関係
- 誤解: 波面と射線を適当な角度で交差させて描いてしまう。
- 対策: 「波面と射線(進行方向)は常に直交する」という波動の鉄則を守ります。作図の際は、まず射線を描き、それに垂直になるように波面を描き足すと綺麗に仕上がります。
- 「反射」との混同
- 誤解: 音が遠くまで届く理由を、上空の雲や層での「反射」だけで説明しようとする。
- 対策: 確かに反射も起こり得ますが、本問の主眼は「連続的な屈折」です。温度が連続的に変化している場合は、カクッと折れ曲がる反射ではなく、滑らかに曲がる屈折が支配的になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 音速の式 \(V = 331.5 + 0.6t\) の選択
- 選定理由: 気温の変化が音速にどう影響するかを定量的に示す唯一の高校物理公式だからです。
- 適用根拠: 問題文で「気温」と「音速」の関係が問われているため、この関係式を根拠に思考を展開します。
- ホイヘンスの原理の適用(別解)
- 選定理由: 波面の進行や変形を作図する問題において、最も根源的かつ強力なツールだからです。
- 適用根拠: 媒質の性質(音速)が空間的に変化する場合の波の伝播を記述するのに最適です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定性的なチェック
- 計算問題ではありませんが、作図の結果が「夜間は遠くの音が聞こえる」という日常経験や問題文の記述と矛盾していないかを確認します。もし射線が上空へ逃げていたら、地上の人には聞こえなくなるはずなので、間違いに気づけます。
- 極端な場合を想像する
- もし地表が極端に冷たく(音速ゼロ)、上空が極端に熱かったらどうなるか?音は地表にへばりつくように進むはずです。このイメージと作図が合っているか確認します。
156 音波の干渉
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 数式による定性的な解析
- 模範解答が「波長が長くなる \(\rightarrow\) 経路差が大きくなる \(\rightarrow\) 距離が大きくなる」という論理で説明しているのに対し、別解では干渉条件式を変形し、\(x\) が波長 \(\lambda\) の関数としてどのように振る舞うかを数式で示します。
- 設問(3)の別解: 数式による定性的な解析
- 上記の別解が有益である理由
- 数理的思考の強化: 物理現象の変化を、言葉だけでなく数式の依存関係から読み解く力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「2つの音源による音波の干渉」です。空間的に離れた2つのスピーカーから出る音が、場所によって強め合ったり弱め合ったりする現象を、幾何学的な計算と波動の原理を用いて解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の干渉条件(同位相): 2つの波源からの距離の差(経路差)が波長の整数倍なら強め合い、半波長の奇数倍なら弱め合います。
- 強め合い: \(|l_1 – l_2| = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
- 弱め合い: \(|l_1 – l_2| = (m + \frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
- 三平方の定理: 座標上の2点間の距離を求めるために不可欠です。
- 波の基本式: \(V = f\lambda\) の関係は常に成立します。
- 音速と温度の関係: 一般に、温度が上がると音速は速くなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず点Oと点Pでの干渉の状態(強め合いの次数 \(m\))を特定します。次に、三平方の定理を用いて点Pまでの経路差を計算し、干渉条件式から波長を求めます。
- (2)では、波の基本式 \(V = f\lambda\) に値を代入して振動数を求めます。
- (3)では、温度変化が音速、波長、そして干渉縞の位置(点Pの位置)にどのような連鎖的な影響を与えるかを考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、点Oと点Pが干渉パターンのどの位置(次数 \(m\))に対応するかを特定します。
点OはA, Bから等距離なので経路差は0です。これは \(m=0\) の強め合い(腹)に対応します。
問題文には「点Oで最大 \(\rightarrow\) 小さくなる \(\rightarrow\) 再び大きくなり点Pで極大」とあります。これは、点Pが \(m=0\) の次の強め合い、つまり \(m=1\) の点であることを意味しています。
この設問における重要なポイント
- 点Oは \(m=0\) の強め合いの点(経路差 \(0\))。
- 点Pは \(m=1\) の強め合いの点(経路差 \(1\lambda\))。
- 経路差 \(|AP – BP|\) を三平方の定理で正確に計算する。
具体的な解説と立式
倍率について
点Oは経路差 \(0\) で強め合う点(0次の腹)です。
点Pは、点Oから移動して「初めて」再び強め合う点なので、1次の腹に対応します。
したがって、点Pにおける経路差 \(AP – BP\) は、波長 \(\lambda\) の正好 1倍 です。
$$ AP – BP = 1 \times \lambda $$
波長の計算
座標を設定して \(AP\) と \(BP\) の長さを求めます。
図より、スピーカーA, Bの座標は、\(y\)軸対称に配置されていると考えると、
A: \((-1.40, 0)\), B: \((1.40, 0)\)
観測線(\(x\)軸)は \(y=2.40\) のラインです。
点Pの座標は \((0.40, 2.40)\) となります。(原点Oからの距離が \(0.40\))
しかし、もっと単純に直角三角形の辺の長さとして考えましょう。
点PからABに下ろした垂線の足をHとします。HはABの中点(原点の真下)から \(0.40\,\text{m}\) ずれています。
- APの長さ:
直角三角形の底辺は、(ABの半分) \(+\) (ズレ) \(= 1.40 + 0.40 = 1.80\,\text{m}\)
高さは \(2.40\,\text{m}\)
$$ AP = \sqrt{1.80^2 + 2.40^2} $$ - BPの長さ:
直角三角形の底辺は、(ABの半分) \(-\) (ズレ) \(= 1.40 – 0.40 = 1.00\,\text{m}\)
高さは \(2.40\,\text{m}\)
$$ BP = \sqrt{1.00^2 + 2.40^2} $$
これらを計算して差をとれば、それが波長 \(\lambda\) です。
使用した物理公式
- 干渉条件(強め合い): \(|l_1 – l_2| = m\lambda\)
- 三平方の定理: \(c = \sqrt{a^2 + b^2}\)
問題文のヒント(\(1.8^2=3.24\) など)を利用します。
$$
\begin{aligned}
AP &= \sqrt{1.80^2 + 2.40^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3.24 + 5.76} \\[2.0ex]
&= \sqrt{9.00} \\[2.0ex]
&= 3.00\,\text{m}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
BP &= \sqrt{1.00^2 + 2.40^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1.00 + 5.76} \\[2.0ex]
&= \sqrt{6.76} \\[2.0ex]
&= 2.60\,\text{m}
\end{aligned}
$$
よって、波長 \(\lambda\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= AP – BP \\[2.0ex]
&= 3.00 – 2.60 \\[2.0ex]
&= 0.40\,\text{m}
\end{aligned}
$$
真ん中のO地点では、左右のスピーカーからの距離が同じなので、音の波が同時に届いて強め合います。
そこから横に移動すると、片方のスピーカーに近づき、もう片方からは遠ざかるので、距離の差が生まれます。
この距離の差が「波長1つ分」になったとき、波の山と山が再びピタリと重なって、大きな音になります。それが点Pです。
だから、AからPまでの距離と、BからPまでの距離を計算して引き算すれば、それがそのまま波の長さ(波長)になります。
倍率は1倍、波長は \(0.40\,\text{m}\) です。
計算結果の数値もきれいで、物理的にも妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
波長 \(\lambda\) が求まったので、与えられた音速 \(V\) を使って振動数 \(f\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 音速 \(V = 3.4 \times 10^2\,\text{m/s}\)
- 波長 \(\lambda = 0.40\,\text{m}\)
- 波の基本式 \(V = f\lambda\)
具体的な解説と立式
波の基本式 \(V = f\lambda\) より、
$$ f = \frac{V}{\lambda} $$
これに値を代入します。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{3.4 \times 10^2}{0.40} \\[2.0ex]
&= \frac{340}{0.40} \\[2.0ex]
&= \frac{3400}{4} \\[2.0ex]
&= 850 \\[2.0ex]
&= 8.5 \times 10^2\,\text{Hz}
\end{aligned}
$$
「速さ = 波長 \(\times\) 振動数」という波の基本ルールを使います。速さと波長がわかっているので、割り算で振動数(1秒間の振動回数)が出せます。
\(8.5 \times 10^2\,\text{Hz}\) です。一般的な音の振動数として妥当な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
室温の変化が物理量にどのような連鎖反応を起こすかを考えます。
「室温上昇 \(\rightarrow\) 音速 \(V\) 上昇 \(\rightarrow\) 波長 \(\lambda\) 上昇 \(\rightarrow\) 干渉条件の変化 \(\rightarrow\) 点Pの位置変化」というロジックを組み立てます。
この設問における重要なポイント
- 音速と温度: 温度が上がると音速 \(V\) は大きくなる。
- 波長と音速: \(f\) 一定で \(V\) が大きくなると、\(\lambda = V/f\) より波長は長くなる。
- 干渉条件: 点Pは経路差が \(1\lambda\) となる点である。
具体的な解説と立式
- 音速の変化: 室温が上がると、空気中の音速 \(V\) は大きくなります。
- 波長の変化: 振動数 \(f\) はスピーカーの設定で一定です。\(V\) が大きくなったので、波長 \(\lambda = V/f\) は長くなります。
- 点Pの位置: 点Pは、経路差 \(AP – BP\) がちょうど波長 \(\lambda\) に等しくなる点です。波長 \(\lambda\) が長くなったので、必要な経路差も大きくなります。
- 幾何学的考察: 点O(経路差0)から離れるほど経路差は大きくなります。より大きな経路差が必要になったということは、点Pは点Oからさらに遠くへ移動する必要があります。
したがって、点Pは \(x\) 軸の正の向き(Oから遠ざかる向き)にずれます。
使用した物理公式
- 音速の温度依存性(定性的)
- 波の基本式: \(\lambda = V/f\)
- 干渉条件: 経路差 \(= \lambda\)
定性的な議論のため計算は不要です。
部屋が暖かくなると、音のスピードが速くなります。リズム(振動数)は変わらないので、音の歩幅(波長)が広くなります。
点Pは「左右のスピーカーからの距離の差が、ちょうど歩幅1つ分」になる場所でした。
歩幅が広くなったので、距離の差ももっと広げないといけません。真ん中から外側に行くほど距離の差は広がるので、点Pはもっと外側(右側)に移動します。
「\(x\)軸の正の向きにずれる」です。論理的に矛盾はありません。
思考の道筋とポイント
経路差 \(\Delta l\) が \(x\) の増加関数であることを確認し、\(\Delta l(x) = \lambda\) の関係から \(x\) と \(\lambda\) の相関を導きます。
この設問における重要なポイント
- 経路差関数 \(\Delta l(x) = \sqrt{(a+x)^2 + L^2} – \sqrt{(a-x)^2 + L^2}\) (\(a\)はスピーカー間隔の半分)
- この関数は \(x > 0\) で単調増加する。
具体的な解説と立式
点Pの座標を \(x\) とすると、経路差 \(\Delta l\) は \(x\) の関数として表せます。
図形的に明らかなように、\(x\) が大きくなる(中心から離れる)ほど、片方の距離は伸び、もう片方は縮む(あるいは伸び率が小さい)ため、その差 \(\Delta l\) は大きくなります。
干渉条件より、
$$ \Delta l(x) = \lambda $$
ここで、室温上昇により \(\lambda\) が増加しました。
等式を成り立たせるためには、左辺の \(\Delta l(x)\) も増加しなければなりません。
\(\Delta l(x)\) は \(x\) の増加関数なので、\(\Delta l(x)\) を大きくするには \(x\) を大きくする必要があります。
よって、\(x\) は増加します(正の向きにずれます)。
使用した物理公式
- 干渉条件: \(\Delta l(x) = \lambda\)
定性的な議論のため計算は不要です。
「経路差」という量は、中心から離れれば離れるほど大きくなる性質を持っています。
温度が上がって波長が長くなったので、干渉条件を満たすためには、より大きな経路差が必要になります。
経路差を大きくするには、中心からもっと離れるしかありません。だから点Pは外側にずれます。
数理的にも \(x\) が増加することが示されました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の干渉条件(経路差と位相差)
- 核心: 2つの波源からの距離の差(経路差)が、波長の整数倍なら強め合い(腹)、半波長の奇数倍なら弱め合う(節)という原理です。
- 理解のポイント:
- 同位相の波源: 経路差 \(\Delta l = m\lambda\) で強め合い、\(\Delta l = (m+1/2)\lambda\) で弱め合います。
- 逆位相の波源: 条件が逆転します。問題文に「同位相」とあるか「逆位相」とあるかを必ず確認しましょう。
- 次数の意味: \(m=0\) は経路差0(垂直二等分線上)、\(m=1\) は経路差 \(1\lambda\)(その隣の強め合い線)を意味します。
- 幾何学的関係と物理量の結びつき
- 核心: 物理的な「経路差」を、三平方の定理などの幾何学的な計算で求める能力です。
- 理解のポイント:
- 座標と距離: 点の座標から距離を計算するプロセスは、波動の問題でありながら幾何学の問題でもあります。
- 近似の適用限界: \(L \gg d\) のときに使える近似式 \(\Delta l \approx \frac{dx}{L}\) と、使えない場合(本問のように \(L\) と \(d\) が同程度)の区別が重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ヤングの実験: 光の干渉実験ですが、原理は全く同じです。ただし、通常は \(L \gg d\) なので近似式を使います。
- 水面波の干渉: 2つの波源から広がる水面波の干渉模様(双曲線群)を考える問題も、同じ干渉条件式で解けます。
- 逆位相のスピーカー: スピーカーの配線を逆に繋ぐと逆位相になります。この場合、中心(経路差0)は節(音が最小)になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 波源の位相: 同位相か逆位相かを確認します。
- 観測点の位置: 中心(経路差0)から何番目の極大点か(\(m\) の値)を特定します。
- 距離の比率: 波源間隔 \(d\) と観測距離 \(L\) の比率を見て、近似計算が使えるかどうかを判断します。\(d/L < 0.1\) 程度なら近似が有効ですが、本問のように \(d \approx L\) なら厳密計算が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 経路差の計算ミス
- 誤解: 三平方の定理の計算で、二乗やルートの計算を間違える。
- 対策: \(1.8^2=3.24\) のようなヒントが与えられている場合は必ず使いましょう。また、\(3:4:5\) や \(5:12:13\) などのピタゴラス数になっていないか確認すると計算が楽になることがあります。
- 次数の取り違え
- 誤解: \(m=0\) を数え忘れて、最初の極大点を \(m=1\) ではなく \(m=2\) としたり、逆に \(m=0\) と混同したりする。
- 対策: 「中心Oが \(m=0\)」を基準にし、「Oから移動して初めて極大になる点」は必ず \(m=1\) であることを図で確認します。
- 温度変化の影響の逆転
- 誤解: 温度が上がると波長が短くなると勘違いする。
- 対策: 「温度上昇 \(\rightarrow\) 音速アップ \(\rightarrow\) (振動数一定なら)波長アップ」という因果関係を矢印で書いて確認しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三平方の定理の選択
- 選定理由: 座標上の2点間の距離を正確に求める必要があるためです。
- 適用根拠: 直角三角形の斜辺の長さを求める幾何学の基本定理です。
- 干渉条件式 \(|l_1 – l_2| = m\lambda\) の選択
- 選定理由: 「音が大きく聞こえる」という現象は、波動の「強め合い」を意味するからです。
- 適用根拠: 2つの波源からの波が重なり合う現象に対する物理法則です。
- 波の基本式 \(V = f\lambda\) の選択
- 選定理由: 波長と音速から振動数を求めるために必要不可欠な式だからです。
- 適用根拠: 波動現象全般で成立する定義式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図を描く
- 問題文の情報を図に書き込み、直角三角形を視覚化します。どこの長さが \(1.80\) でどこが \(2.40\) なのかを図で整理することで、立式ミスを防げます。
- 単位の確認
- 全てメートル [m] で統一されているか確認します。もしセンチメートル [cm] が混ざっていたら換算が必要です。
- 定性的な検算
- 求めた波長 \(0.40\,\text{m}\) が、スピーカー間隔 \(2.80\,\text{m}\) などに対して極端に大きくも小さくもない妥当な値か確認します。また、(3)の結論が「波長が伸びたから縞の間隔も広がる」という直感と一致しているか確認します。
157 反射体がある場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 2段階ドップラー効果を用いた解法
- 模範解答が「鏡像」を用いて1段階で解いているのに対し、別解では反射板を「観測者」かつ「音源」とみなす2段階のプロセスで解きます。
- 設問(2)の別解: 相対速度を用いた解法
- 模範解答が公式に速度を代入して計算しているのに対し、別解では音源、反射板、観測者の相対速度に着目して、より直感的に式を導出します。
- 設問(1)の別解: 2段階ドップラー効果を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 汎用性の確保: 鏡像法は反射板が静止している場合に有効ですが、反射板が動く場合(設問2)には2段階で考える必要があります。設問(1)から2段階で考えることで、統一的な理解が得られます。
- 物理的直感の強化: 相対速度を用いることで、公式の暗記に頼らず、現象の本質(波の詰め込みとすれ違い)を理解できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「反射板がある場合のドップラー効果」です。音源、観測者、反射板のすべてが動く可能性がある複雑な状況において、ドップラー効果の公式を正しく適用する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の一般式: 音速を \(V\)、音源の速度を \(v_S\)、観測者の速度を \(v_O\) とすると、観測される振動数 \(f’\) は \(f’ = \frac{V – v_O}{V – v_S}f\) となります(速度は音の進行方向を正とする)。
- 反射板の役割: 反射板は、まず音源からの音を受け取る「観測者」として振る舞い、次にその振動数で音を再放出する「音源」として振る舞います。
- 鏡像の原理: 反射板が静止している場合、反射音は「反射板に対して対称な位置にある音源(鏡像)」から直接届く音と同じになります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、反射板が静止しているため、鏡像法を用いるのが最も簡単です。あるいは、反射板での受信と発信の2段階で考えても解けます。
- (2)では、音源、反射板、観測者のすべてが動いているため、2段階のドップラー効果として計算します。
- ステップ1: 音源S \(\rightarrow\) 反射板R(Rが観測者)
- ステップ2: 反射板R \(\rightarrow\) 観測者O(Rが音源)
問(1)
思考の道筋とポイント
音源Sから出た音は、反射板Rで反射して観測者Oに届きます。
Rは静止しているので、Sの鏡像S’を考え、S’からOに直接音が届くとみなすことができます。
SがRに速さ \(v\) で近づくとき、鏡像S’もR(およびO)に速さ \(v\) で近づきます。
この設問における重要なポイント
- 音源Sの速度 \(v_S = v\)(Rに向かう向き)。
- 反射板Rと観測者Oは静止している。
- 鏡像S’はOに速さ \(v\) で近づく音源とみなせる。
具体的な解説と立式
反射板Rが静止しているため、反射音は、Rに関してSと対称な位置にある鏡像S’から発せられた音とみなすことができます。
SがRに向かって速さ \(v\) で動いているので、鏡像S’もR(およびO)に向かって速さ \(v\) で動いています。
したがって、静止している観測者Oが、速さ \(v\) で近づいてくる音源S’からの音を聞く状況と同じです。
求める振動数を \(f’\) とすると、音源が近づく場合のドップラー効果の公式より、
$$ f’ = \frac{V}{V – v}f_0 $$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が近づく): \(f’ = \frac{V}{V – v_S}f\)
$$ f’ = \frac{V}{V – v}f_0 $$
鏡に映った自分(鏡像)を想像してください。自分が鏡に向かって走れば、鏡の中の自分もこちらに向かって走ってきますよね。
音の反射もこれと同じです。壁(反射板)に向かって走る音源は、壁の向こう側からこちらに向かって走ってくる「仮想的な音源」と同じ働きをします。
だから、単に「音源が近づいてくる」ときの公式を使えば答えが出ます。
\(\frac{V}{V – v}f_0\) です。音源が近づくので分母が小さくなり、振動数は高くなります。これは物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
反射板Rを「観測者」かつ「音源」として扱います。
- SからRへの音の伝播(Sが動き、Rは静止)
- RからOへの音の伝播(Rは静止、Oも静止)
この設問における重要なポイント
- ステップ1: S(速さ \(v\))\(\rightarrow\) R(静止)。Rが受け取る振動数 \(f_1\) を求める。
- ステップ2: R(静止)\(\rightarrow\) O(静止)。Rは振動数 \(f_1\) の音源となる。
具体的な解説と立式
ステップ1: S \(\rightarrow\) R
音源Sが速さ \(v\) で静止しているRに近づきます。Rが受け取る振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V}{V – v}f_0 $$
ステップ2: R \(\rightarrow\) O
反射板Rは振動数 \(f_1\) の音をそのまま反射します。RもOも静止しているため、ドップラー効果は起きません。
したがって、Oが聞く振動数 \(f’\) は \(f_1\) に等しくなります。
$$ f’ = f_1 = \frac{V}{V – v}f_0 $$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が近づく): \(f’ = \frac{V}{V – v_S}f\)
$$ f’ = \frac{V}{V – v}f_0 $$
まず、壁(反射板)が音を聞く場面を考えます。音源が近づいてくるので、壁には高い音が届きます。
次に、壁がその音を跳ね返す場面を考えます。壁も聞く人も動いていないので、音の高さは変わりません。
結局、壁が聞いた高い音がそのまま人に届くことになります。
鏡像法と同じ結果が得られました。反射板が静止している場合は、後半のドップラー効果がないため計算が簡単です。
問(2)
思考の道筋とポイント
すべての物体が動いているため、鏡像法は使いにくいです。素直に2段階のドップラー効果として計算します。
音の進行方向を正として、それぞれの速度の符号を慎重に決定します。
- ステップ1: 音源Sから反射板Rへ(音は右向き)
- ステップ2: 反射板Rから観測者Oへ(音は左向き)
この設問における重要なポイント
- ステップ1(S \(\rightarrow\) R):
- 音の向き: 右向き
- 音源S: 右へ速さ \(v\) (音と同じ向き \(\rightarrow\) 追いかける)
- 観測者R: 右へ速さ \(r\) (音と同じ向き \(\rightarrow\) 逃げる)
- ステップ2(R \(\rightarrow\) O):
- 音の向き: 左向き
- 音源R: 右へ速さ \(r\) (音と逆向き \(\rightarrow\) 遠ざかる)
- 観測者O: 右へ速さ \(v\) (音と逆向き \(\rightarrow\) 近づく)
具体的な解説と立式
ステップ1: 音源Sから反射板Rへ
音は右向きに進みます。
音源Sは右向きに速さ \(v\) で動くので、音を追いかける形になり、波長は伸びます(分母 \(V-v\))。
反射板R(観測者)は右向きに速さ \(r\) で動くので、音から逃げる形になり、相対速度は減ります(分子 \(V-r\))。
Rが受け取る振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V – r}{V – v}f_0 \quad \cdots ① $$
ステップ2: 反射板Rから観測者Oへ
音は左向きに進みます。
反射板R(音源)は右向きに速さ \(r\) で動くので、音の進行方向(左)とは逆向き、つまり音源が後退する形になり、波長は伸びます(分母 \(V+r\))。
観測者Oは右向きに速さ \(v\) で動くので、音の進行方向(左)とは逆向き、つまり音に向かって進む形になり、相対速度は増えます(分子 \(V+v\))。
Oが聞く振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V + v}{V + r}f_1 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の一般式: \(f’ = \frac{V – v_O}{V – v_S}f\) (速度は音の向き正)
- または定性的な判断による式: \(f’ = \frac{V \pm v_O}{V \mp v_S}f\)
式①を式②に代入して \(f_1\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V + v}{V + r} \times \left( \frac{V – r}{V – v}f_0 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{(V + v)(V – r)}{(V + r)(V – v)}f_0
\end{aligned}
$$
これを整理して、
$$ f_2 = \frac{(V + v)(V – r)}{(V – v)(V + r)}f_0 $$
2回に分けて計算します。
1回目は、Sから出た音がRに届くまで。Sは逃げるRを追いかける形になるので、ドップラー効果の式は \(\frac{V-r}{V-v}\) という形になります。
2回目は、Rで跳ね返った音がOに届くまで。Rは音を出しながら右へ逃げ(遠ざかる)、Oはそれを追いかけるように右へ(音に向かって)進みます。
Rが遠ざかるので音は低くなり(分母 \(V+r\))、Oが近づくので音は高くなります(分子 \(V+v\))。
これらを掛け合わせると答えになります。
\(\frac{(V + v)(V – r)}{(V – v)(V + r)}f_0\) です。
もし \(v=0, r=0\) なら \(f_2 = f_0\) となり、静止時と一致します。
もし \(v=r\) (全員同じ速度で移動)なら、相対速度が0になるのでドップラー効果はキャンセルされ、\(f_2 = f_0\) になるはずです。式を確認すると、\(\frac{(V+v)(V-v)}{(V-v)(V+v)} = 1\) となり、確かに成り立ちます。
思考の道筋とポイント
公式の形 \(f’ = \frac{V’}{V} \frac{V}{V”} f = \frac{V’}{V”} f\) に着目します。
ここで \(V’\) は観測者から見た音波の相対速度、\(V”\) は音源から見た音波の相対速度です。
この設問における重要なポイント
- 観測される振動数 \(f’ = \frac{\text{観測者に対する音速}}{\text{音源に対する音速}} f\)
具体的な解説と立式
ステップ1: S \(\rightarrow\) R
音は右向き(速さ \(V\))に進みます。
- R(観測者)に対する音速: \(V – r\) (同じ向きに逃げるから遅くなる)
- S(音源)に対する音速: \(V – v\) (同じ向きに追うから遅くなる)
よって、\(f_1 = \frac{V – r}{V – v}f_0\)
ステップ2: R \(\rightarrow\) O
音は左向き(速さ \(V\))に進みます。
- O(観測者)に対する音速: \(O\) は右(音と逆)に動くので、すれ違いざまに速く感じる。 \(V + v\)
- R(音源)に対する音速: \(R\) は右(音と逆)に動くので、音源から見ても音は速く遠ざかる。 \(V + r\)
よって、\(f_2 = \frac{V + v}{V + r}f_1\)
使用した物理公式
- 相対速度を用いたドップラー効果: \(f’ = \frac{V_{\text{rel, obs}}}{V_{\text{rel, src}}} f\)
これらを掛け合わせます。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= f_1 \times \frac{V + v}{V + r} \\[2.0ex]
&= \frac{V – r}{V – v}f_0 \times \frac{V + v}{V + r} \\[2.0ex]
&= \frac{(V – r)(V + v)}{(V – v)(V + r)}f_0
\end{aligned}
$$
「音波とのすれ違い速度」を基準に考えます。
受け取る側(観測者)が音波と速くすれ違うほど、振動数は高くなります(分子)。
出す側(音源)が音波と速くすれ違う(遠ざかる)ほど、波長が伸びて振動数は低くなります(分母)。
この比率を計算するだけで答えが出ます。
メインの解法と同じ結果になります。相対速度の考え方は、式の符号(プラスかマイナスか)を判断するのに非常に役立ちます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 反射体によるドップラー効果の2段階プロセス
- 核心: 動く反射体(車や壁など)は、音波に対して「観測者」と「音源」の二役を演じます。
- 理解のポイント:
- ステップ1(受信): 反射体はまず「動く観測者」として音を受け取ります。このとき、観測者が動く場合のドップラー効果が適用されます。
- ステップ2(発信): 反射体は受け取った振動数をそのまま再放出する「動く音源」となります。このとき、音源が動く場合のドップラー効果が適用されます。
- 連続性: ステップ1で求めた受信振動数 \(f_1\) が、そのままステップ2の音源振動数になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 反射板が遠ざかる場合: 公式の符号が逆転します。\(f’ = \frac{V-v}{V+v}f\) となり、振動数は2段階で低くなります。
- 音源も動く場合: 音源Sが速さ \(v_S\) で動き、反射板Rが速さ \(v_R\) で動く場合、
- Rが受ける音: \(f_R = \frac{V \pm v_R}{V \mp v_S}f\)
- 反射音: \(f’ = \frac{V}{V \mp v_R}f_R\) (観測者が静止している場合)
このように段階を追って計算すれば、どんな複雑な状況でも対応できます。
- 風がある場合: 音速 \(V\) を \(V+w\) や \(V-w\) に置き換えて計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 反射体の動き: 音源に近づいているのか、遠ざかっているのかを確認します。
- 観測者の位置: 反射音を聞く観測者はどこにいるのか(音源側か、反射体の後ろか)を確認します。本問のように音源側(O2)にいる場合、反射音は「近づく音源」からの音になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 公式の適用ミス
- 誤解: 反射板の問題で、いきなり \(f’ = \frac{V}{V-v}f\) (単なる動く音源の式)を使ってしまう。
- 対策: 「反射=観測+再放出」というプロセスを常に意識しましょう。反射板が動いている限り、観測者としての効果(分子の変化)と音源としての効果(分母の変化)の両方が現れます。
- 符号の混乱
- 誤解: 近づく場合と遠ざかる場合のプラスマイナスを混同する。
- 対策: 「近づく \(\to\) 音が高くなる \(\to\) 分子は大きく、分母は小さく」「遠ざかる \(\to\) 音が低くなる \(\to\) 分子は小さく、分母は大きく」という定性的なチェックを習慣化します。
- 相対速度の誤用
- 誤解: 音源と反射板の相対速度だけを考えて計算しようとする。
- 対策: ドップラー効果は媒質に対する速度で決まります。相対速度だけで簡易的に計算できる場合もありますが、基本的にはそれぞれの対地速度(対媒質速度)を使って公式に当てはめるのが確実です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 観測者が動く公式 \(f’ = \frac{V+v_O}{V}f\) の選択(設問1)
- 選定理由: 音源が静止し、観測者が動いている状況だからです。
- 適用根拠: 観測者が波を迎えに行くことで、単位時間に受け取る波の数が増える現象を記述しています。
- 音源が動く公式 \(f’ = \frac{V}{V-v_S}f\) の選択(設問2後半)
- 選定理由: 反射した車は、音を出しながら観測者に近づく「音源」とみなせるからです。
- 適用根拠: 音源が波を追いかけることで、波長が圧縮される現象を記述しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数のまま計算する
- \(340+20=360\) のように具体的な数値で計算する際も、割り算を急がず、分数の形で約分を行うとミスが減ります。本問の計算過程でも、\(360/340\) を \(18/17\) のように約分してから掛ける方が安全です。
- 2段階計算の検算
- 別解の公式 \(f’ = \frac{V+v}{V-v}f\) を検算用として覚えておくと強力です。メインの解法で求めた答えが、この公式で求めた値と一致するか確認すれば、計算ミスの確率はほぼゼロになります。
158 風がある場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 相対速度を用いた振動数の導出
- 模範解答が「風の影響を受けた音速」を公式に代入して計算しているのに対し、別解では「観測者から見た音波の相対速度」と「波長」の関係から振動数を導出します。
- 設問(2)の別解: 相対速度を用いた振動数の導出
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の強化: 公式を暗記するだけでなく、「風によって音速が変わり、音源が動くことで波長が変わる」という現象の物理的なイメージを強化できます。
- 応用力の向上: 公式の形を忘れてしまっても、基本的な物理法則(相対速度と波の基本式)から答えを導き出す力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「風がある場合のドップラー効果」です。音源が動くことによるドップラー効果と、風によって音速が変化する現象が組み合わさっています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果(音源が動く場合): 音源が速さ \(v_S\) で動くとき、進行方向前方では波長が縮み、後方では波長が伸びます。
- 前方(近づく向き): \(\lambda’ = \frac{V – v_S}{f}\)
- 後方(遠ざかる向き): \(\lambda’ = \frac{V + v_S}{f}\)
- 風による音速の変化: 無風時の音速を \(V\)、風速を \(v_W\) とすると、風向きと同じ方向に進む音の速さは \(V + v_W\)、逆向きに進む音の速さは \(V – v_W\) となります。
- 波の基本式: 観測者が受け取る振動数 \(f’\) は、その場所での音速 \(V’\)(風の影響を含む)と波長 \(\lambda’\) を用いて \(f’ = \frac{V’}{\lambda’}\) で求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、風がないため、通常のドップラー効果の公式を用いて、観測者O1(遠ざかる音源)とO2(近づく音源)が聞く振動数を求めます。
- (2)では、風の影響を考慮して、O1に向かう音速とO2に向かう音速をそれぞれ求めます。また、音源が動くことによる波長の変化も、風の影響を受けた音速を用いて計算します。最後に波の基本式から振動数を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
音源Sは右向きに速さ \(v\) で動いています。
- 観測者O1はSの左側にいるため、SはO1から「遠ざかる」動きをしています。
- 観測者O2はSの右側にいるため、SはO2に「近づく」動きをしています。
この設問における重要なポイント
- 音源SはO1から遠ざかり、O2に近づく。
- 音速 \(V\)、振動数 \(f\)、音源の速さ \(v\)。
- 観測者は静止している。
具体的な解説と立式
観測者O1について
音源SはO1から速さ \(v\) で遠ざかっています。
音源が遠ざかる場合のドップラー効果の公式より、O1が観測する振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V}{V + v}f $$
観測者O2について
音源SはO2に速さ \(v\) で近づいています。
音源が近づく場合のドップラー効果の公式より、O2が観測する振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V}{V – v}f $$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が動く): \(f’ = \frac{V}{V \mp v_S}f\)
立式そのものが答えとなります。
$$ f_1 = \frac{V}{V + v}f $$
$$ f_2 = \frac{V}{V – v}f $$
救急車が通り過ぎる場面を想像してください。
O1さんは救急車の後ろにいるので、音源が遠ざかっていきます。そのため、波長が伸びて低い音が聞こえます(分母が \(V+v\) で大きくなる)。
O2さんは救急車の前にいるので、音源が近づいてきます。そのため、波長が縮んで高い音が聞こえます(分母が \(V-v\) で小さくなる)。
O1: \(\frac{V}{V + v}f\)、O2: \(\frac{V}{V – v}f\)。
遠ざかるO1は低く、近づくO2は高くなっており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
風がO1からO2の向き(右向き)に速さ \(v_W\) で吹いています。
これにより、音速が変化します。
- O1に向かう音(左向き): 風と逆向きなので、音速は遅くなります。
- O2に向かう音(右向き): 風と同じ向きなので、音速は速くなります。
さらに、音源Sも動いているため、波長も変化します。このとき、波長の計算に使う音速も、風の影響を受けたものを使います。
この設問における重要なポイント
- 風速 \(v_W\)(右向き)。
- O1に向かう音速 \(V_1 = V – v_W\)。
- O2に向かう音速 \(V_2 = V + v_W\)。
- 音源Sは右向きに速さ \(v\) で動く。
具体的な解説と立式
観測者O1について
- 音速の変化: 音はSからO1へ(左向き)進みます。風は右向きなので向かい風です。
O1に向かう音速 \(V_1\) は、
$$ V_1 = V – v_W $$ - 振動数の計算: 音源Sは右向きに速さ \(v\) で動いています。これは音の進行方向(左向き)と逆向き、つまり「遠ざかる」動きです。
ドップラー効果の公式において、音速を \(V_1\) に置き換えて適用します。
$$ f_1′ = \frac{V_1}{V_1 + v}f $$
これに \(V_1 = V – v_W\) を代入します。
観測者O2について
- 音速の変化: 音はSからO2へ(右向き)進みます。風も右向きなので追い風です。
O2に向かう音速 \(V_2\) は、
$$ V_2 = V + v_W $$ - 振動数の計算: 音源Sは右向きに速さ \(v\) で動いています。これは音の進行方向(右向き)と同じ向き、つまり「近づく」動きです。
ドップラー効果の公式において、音速を \(V_2\) に置き換えて適用します。
$$ f_2′ = \frac{V_2}{V_2 – v}f $$
これに \(V_2 = V + v_W\) を代入します。
使用した物理公式
- 速度の合成: \(V’ = V \pm v_W\)
- ドップラー効果(音源が動く): \(f’ = \frac{V’}{V’ \mp v_S}f\)
O1の振動数
$$
\begin{aligned}
f_1′ &= \frac{V – v_W}{(V – v_W) + v}f \\[2.0ex]
&= \frac{V – v_W}{V – v_W + v}f
\end{aligned}
$$
O2の振動数
$$
\begin{aligned}
f_2′ &= \frac{V + v_W}{(V + v_W) – v}f \\[2.0ex]
&= \frac{V + v_W}{V + v_W – v}f
\end{aligned}
$$
風があるときは、まず「風の影響を受けた音速」を決めます。
O1さんへ向かう音は向かい風で遅くなり(\(V-v_W\))、O2さんへ向かう音は追い風で速くなります(\(V+v_W\))。
あとは、この新しい音速を使って、(1)と同じようにドップラー効果の計算をするだけです。
O1さんからは音源が遠ざかるので分母に \(+v\)、O2さんには近づくので分母に \(-v\) が入ります。
O1: \(\frac{V – v_W}{V – v_W + v}f\)、O2: \(\frac{V + v_W}{V + v_W – v}f\)。
風速 \(v_W = 0\) とすると(1)の結果と一致します。
思考の道筋とポイント
公式を忘れてしまった場合でも、「波長」と「相対速度」の関係から導き出せます。
- 音源が動くことで波長がどう変化するかを考えます(このとき音速は風の影響を受けます)。
- 観測者から見た音波の相対速度を考えます(観測者は静止していますが、音速は風の影響を受けます)。
この設問における重要なポイント
- 波長 \(\lambda’ = \frac{V’ \mp v_S}{f}\) (\(V’\) は風ありの音速)
- 観測者から見た音波の相対速度は \(V’\) そのもの(観測者静止のため)
- 観測される振動数 \(f’ = \frac{V’}{\lambda’}\)
具体的な解説と立式
観測者O1について
- 波長: 音源Sは右に動いていますが、音は左(O1方向)に進みます。音源は音の進行方向と逆に動く(遠ざかる)ので、波長は伸びます。このときの音速は \(V_1 = V – v_W\) です。
$$ \lambda_1 = \frac{V_1 + v}{f} $$ - 振動数: 観測者O1は静止しているので、受け取る音の速さは \(V_1\) です。
$$ f_1′ = \frac{V_1}{\lambda_1} $$
観測者O2について
- 波長: 音源Sは右に動いており、音も右(O2方向)に進みます。音源は音の進行方向に動く(近づく)ので、波長は縮みます。このときの音速は \(V_2 = V + v_W\) です。
$$ \lambda_2 = \frac{V_2 – v}{f} $$ - 振動数: 観測者O2は静止しているので、受け取る音の速さは \(V_2\) です。
$$ f_2′ = \frac{V_2}{\lambda_2} $$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
- ドップラー効果(波長): \(\lambda’ = \frac{V \mp v_S}{f}\)
O1の振動数
$$
\begin{aligned}
f_1′ &= \frac{V_1}{\displaystyle\frac{V_1 + v}{f}} \\[2.0ex]
&= \frac{V_1}{V_1 + v}f \\[2.0ex]
&= \frac{V – v_W}{V – v_W + v}f
\end{aligned}
$$
O2の振動数
$$
\begin{aligned}
f_2′ &= \frac{V_2}{\displaystyle\frac{V_2 – v}{f}} \\[2.0ex]
&= \frac{V_2}{V_2 – v}f \\[2.0ex]
&= \frac{V + v_W}{V + v_W – v}f
\end{aligned}
$$
まず、風に乗って進む音の「波長(波の間隔)」を計算します。音源が動いているので、波長は伸びたり縮んだりします。
次に、その波が観測者に届く速さを考えます。これは風の影響を受けた音速そのものです。
最後に、「音速」を「波長」で割れば、1秒間に何個の波が届いたか(振動数)がわかります。
メインの解法と同じ結果が得られました。波長の変化という物理的メカニズムから考えることで、式の意味がより明確になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 風による音速の変化(ガリレイ変換)
- 核心: 音波は媒質(空気)の振動として伝わるため、媒質自体が動いている(風が吹いている)場合、地面に対する音速は「静止時の音速」と「風速」のベクトル和になります。
- 理解のポイント:
- 追い風: 音の進行方向と風向きが同じなら、音速は速くなります(\(V = V_0 + w\))。
- 向かい風: 音の進行方向と風向きが逆なら、音速は遅くなります(\(V = V_0 – w\))。
- ドップラー効果への影響: ドップラー効果の公式 \(f’ = \frac{V \pm v_O}{V \mp v_S}f\) における \(V\) は、この「風の影響を考慮した音速」を使わなければなりません。
- ドップラー効果の原理(音源の移動)
- 核心: 音源が動くことで、波長が物理的に伸縮します。
- 遠ざかる場合: 波から逃げるため、波長が伸び、振動数は低くなります(\(f’ < f\))。
- 近づく場合: 波に向かうため、波長が縮み、振動数は高くなります(\(f’ > f\))。
- 核心: 音源が動くことで、波長が物理的に伸縮します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 向かい風の場合: 風が左向き(音と逆向き)に吹いていれば、音速は \(V = 340 – 10 = 330\,\text{m/s}\) となります。この値を使って同様に計算します。
- 観測者も動く場合: 観測者が動く場合も、風の影響を受けた音速 \(V\) を使って公式 \(f’ = \frac{V \pm v_O}{V \mp v_S}f\) に当てはめるだけです。ただし、音源の速度 \(v_S\) や観測者の速度 \(v_O\) はあくまで「地面に対する速度」を使います。
- 斜め方向の風: 風が音の進行方向に対して斜めに吹いている場合、風速の「音の進行方向成分」を足し引きします。
- 初見の問題での着眼点:
- 風向きと音の向きの確認: まず最初に、風が音を「助けている(速くする)」のか「邪魔している(遅くする)」のかを判断し、実効的な音速 \(V\) を確定させます。
- 音源の動きの確認: 観測者に対して「近づく」のか「遠ざかる」のかを確認し、公式の符号(プラスかマイナスか)を決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 音速の変化を忘れる
- 誤解: 風が吹いていても、公式の \(V\) に \(340\) をそのまま代入してしまう。
- 対策: 問題文に「風」という単語があったら、まず \(V\) を書き換える癖をつけましょう。「風は音速を変える」と強く意識します。
- 風速を音源や観測者の速度に足してしまう
- 誤解: 風の影響を \(v_S\) や \(v_O\) に足し引きして処理しようとする。
- 対策: ドップラー効果の公式において、風速 \(w\) は必ず音速 \(V\) とセットで扱います(\(V \to V+w\))。\(v_S, v_O\) は対地速度のままです。
- 符号のミス
- 誤解: 遠ざかるのにマイナス、近づくのにプラスとしてしまう(分母なので逆になる)。
対策: 「遠ざかる \(\to\) 音が低くなる \(\to\) 分母は大きくなるはず \(\to\) プラス」という定性的なチェックを必ず行います。
- 誤解: 遠ざかるのにマイナス、近づくのにプラスとしてしまう(分母なので逆になる)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 速度の合成 \(V = V_0 + w\) の選択
- 選定理由: 媒質(空気)が動いている系での波の伝播速度を求めるためです。
- 適用根拠: ガリレイ変換(速度の合成則)に基づきます。
- ドップラー効果の公式 \(f’ = \frac{V}{V \mp v_S}f\) の選択
- 選定理由: 音源が動き、観測者が静止している状況だからです。
- 適用根拠: 音源が動くことによる波長の変化を記述する式です。ここで \(V\) は風の影響を含んだ値を使います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の約分を優先する
- \(330 \times 700 / 350\) の計算で、\(330 \times 700\) を先に計算するのは悪手です。\(700/350 = 2\) と約分できることに気づけば、\(330 \times 2 = 660\) と暗算レベルで解けます。大きな数の掛け算は後回しにするのが鉄則です。
- 単位の確認
- 風速、音速、移動速度すべてが [m/s] で統一されているか確認します。もし [km/h] が混ざっていたら換算が必要です。
159 斜め方向のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(5)の別解: 幾何学的なアプローチによる距離の導出
- 模範解答が「時間」を介して距離を計算しているのに対し、別解では音源と音波の先端が作る直角三角形の相似比を用いて、幾何学的に距離を導出します。
- 設問(6)の別解: 極限と単調性によるグラフの絞り込み
- 模範解答が角度の変化に伴う振動数の変化を定性的に追っているのに対し、別解では \(t \to \pm \infty\) での極限値と、\(t=0\) での変曲点の有無に着目し、より数学的にグラフを特定します。
- 設問(5)の別解: 幾何学的なアプローチによる距離の導出
- 上記の別解が有益である理由
- 多角的な視点: 物理現象を「時間と速度」だけでなく「幾何学的な図形」や「関数のグラフ」として捉えることで、理解の幅が広がります。
- 検算の手段: 異なるアプローチで同じ結果が得られることを確認することで、解答の確実性が増します。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜め方向のドップラー効果」です。音源が観測者に向かって一直線に進むのではなく、直線上を通過する場合の振動数変化を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 斜め方向のドップラー効果: 音源の速度ベクトルを「観測者に向かう成分」と「垂直な成分」に分解します。ドップラー効果に寄与するのは「観測者に向かう成分」のみです。
- 観測者に向かう速度成分 \(v_{\text{音源}} = v \cos \theta\)
- 観測される振動数 \(f’ = \frac{V}{V – v \cos \theta}f\) (近づく場合)
- 極限の考え方: 無限遠点では角度 \(\theta\) が \(0\) に近づくため、通常の一直線上のドップラー効果と同じになります。
- 通過時の振る舞い: 音源が観測者の真横(点O)を通過する瞬間、観測者に向かう速度成分は \(0\) になり、ドップラー効果は消失します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、音源の速度 \(v\) を観測者方向の成分に分解し、ドップラー効果の公式に適用します。
- (3)(4)では、(1)(2)の結果において角度 \(\theta\) を \(0\) にした極限として考えます。
- (5)では、点Oでの速度成分が \(0\) であることから振動数を求め、音が伝わる時間差を利用して音源の位置を計算します。
- (6)では、これまでの結果を総合し、振動数の時間変化を表すグラフを選びます。
問(1)
思考の道筋とポイント
音源は速さ \(v\) で動いていますが、観測者に向かって真っ直ぐ進んでいるわけではありません。
ドップラー効果を引き起こすのは、音源の速度のうち「観測者に向かう成分」だけです。
図の角度 \(\theta_1\) を使って、速度 \(v\) を分解します。
この設問における重要なポイント
- 音源の速度 \(v\) の方向と、観測者への方向のなす角は \(\theta_1\)。
- 観測者に向かう速度成分は \(v \cos \theta_1\)。
- 音源は観測者に「近づく」向きに成分を持っている。
具体的な解説と立式
音源の速度 \(v\) を、観測者に向かう方向(視線方向)とそれに垂直な方向に分解します。
観測者に向かう成分 \(v_{\text{音源}}\) は、
$$ v_{\text{音源}} = v \cos \theta_1 $$
音源はこの成分の速さで観測者に近づいているので、ドップラー効果の公式(音源が近づく場合)より、観測される振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V}{V – v_{\text{音源}}}f $$
これに \(v_{\text{音源}} = v \cos \theta_1\) を代入します。
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が近づく): \(f’ = \frac{V}{V – v_{\text{音源}}}f\)
- ベクトルの分解: \(v_{\text{音源}} = v \cos \theta\)
$$ f_1 = \frac{V}{V – v \cos \theta_1}f $$
音源は斜めに走っていますが、観測者から見ると「自分に向かってくるスピード」は \(v\) そのものではなく、少し割り引かれた \(v \cos \theta_1\) になります。この「向かってくるスピード」を使ってドップラー効果の計算をします。向かってくるので、分母が引き算になり、音は高くなります。
\(\frac{V}{V – v \cos \theta_1}f\) です。\(v \cos \theta_1 > 0\) なので分母は \(V\) より小さくなり、振動数は \(f\) より大きくなります。近づく音源なので妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度は音源が点Oを通り過ぎた後の状況です。
音源の速度 \(v\) を分解し、「観測者から遠ざかる成分」を求めます。
この設問における重要なポイント
- 音源の速度 \(v\) の方向と、観測者への方向のなす角は \(\theta_2\)。
- 観測者から遠ざかる速度成分は \(v \cos \theta_2\)。
- 音源は観測者から「遠ざかる」向きに成分を持っている。
具体的な解説と立式
音源の速度 \(v\) のうち、観測者から遠ざかる方向の成分 \(v_{\text{音源}}\) は、
$$ v_{\text{音源}} = v \cos \theta_2 $$
音源はこの成分の速さで観測者から遠ざかっているので、ドップラー効果の公式(音源が遠ざかる場合)より、観測される振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V}{V + v_{\text{音源}}}f $$
これに \(v_{\text{音源}} = v \cos \theta_2\) を代入します。
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が遠ざかる): \(f’ = \frac{V}{V + v_{\text{音源}}}f\)
$$ f_2 = \frac{V}{V + v \cos \theta_2}f $$
今度は音源が去っていく場面です。観測者から見ると「自分から離れていくスピード」は \(v \cos \theta_2\) です。離れていくので、分母が足し算になり、音は低くなります。
\(\frac{V}{V + v \cos \theta_2}f\) です。分母が \(V\) より大きくなるので、振動数は \(f\) より小さくなります。遠ざかる音源なので妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Pは「はるか彼方(無限遠)」にあります。
図の直角三角形において、音源が右へずっと遠くに行くと、角度 \(\theta_1\) はどうなるかを考えます。
線分PQと観測者への視線がほぼ重なるため、\(\theta_1\) は \(0\) に近づきます。
この設問における重要なポイント
- 無限遠点Pでは \(\theta_1 \to 0\)。
- \(\cos 0 = 1\)。
- (1)の式で \(\theta_1 = 0\) とした極限を考える。
具体的な解説と立式
音源が無限遠点Pにあるとき、観測者への方向と音源の進行方向はほぼ一致します。
すなわち、\(\theta_1 = 0\) とみなせます。
(1)で求めた式に \(\theta_1 = 0\) を代入します。
$$ f_{\text{P}} = \frac{V}{V – v \cos 0}f $$
\(\cos 0 = 1\) より、
$$ f_{\text{P}} = \frac{V}{V – v}f $$
すごく遠くから走ってくるときは、「斜め」の角度がほとんどなくなって、真正面から向かってくるのと同じになります。だから、普通のドップラー効果の式(真正面から近づく場合)と同じになります。
\(\frac{V}{V – v}f\) です。これは一直線上を近づく場合のドップラー効果の式と一致しており、物理的に正しい極限です。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Qも「はるか彼方」ですが、今度は左側(去っていく方向)です。
音源が左へずっと遠くに行くと、角度 \(\theta_2\) はどうなるかを考えます。
やはり \(\theta_2\) は \(0\) に近づきます。
この設問における重要なポイント
- 無限遠点Qでは \(\theta_2 \to 0\)。
- \(\cos 0 = 1\)。
- (2)の式で \(\theta_2 = 0\) とした極限を考える。
具体的な解説と立式
音源が無限遠点Qにあるとき、観測者からの方向と音源の進行方向はほぼ一致(逆向き)します。
すなわち、\(\theta_2 = 0\) とみなせます。
(2)で求めた式に \(\theta_2 = 0\) を代入します。
$$ f_{\text{Q}} = \frac{V}{V + v \cos 0}f $$
\(\cos 0 = 1\) より、
$$ f_{\text{Q}} = \frac{V}{V + v}f $$
すごく遠くへ去っていくときは、やはり「斜め」の角度がなくなって、真後ろに遠ざかるのと同じになります。だから、普通のドップラー効果の式(真後ろへ遠ざかる場合)と同じになります。
\(\frac{V}{V + v}f\) です。一直線上を遠ざかる場合の式と一致します。
問(5)
思考の道筋とポイント
点Oは観測者の目の前(最短距離の点)です。
このとき、音源の速度ベクトルは観測者への方向と垂直になります。
つまり、観測者に「近づく成分」も「遠ざかる成分」もゼロになります。
この設問における重要なポイント
- 点Oでは、音源の速度方向と観測者方向が垂直(\(90^\circ\))。
- 視線方向の速度成分は \(v \cos 90^\circ = 0\)。
- ドップラー効果は起こらない。
- 音源から出た音が観測者に届くまでに時間がかかるため、その間に音源は進んでいる。
具体的な解説と立式
振動数について
点Oでは、音源の速度 \(v\) は観測者への方向と垂直です。
したがって、視線方向の速度成分は \(0\) となり、ドップラー効果は生じません。
よって、観測される振動数は元の振動数 \(f\) と同じです。
音源の位置について
点Oから観測者までの距離は \(d\) です。
音速は \(V\) なので、点Oで出た音が観測者に届くまでの時間 \(t\) は、
$$ t = \frac{d}{V} $$
この時間 \(t\) の間に、音源は速さ \(v\) で左へ進みます。
音源が進む距離 \(x\) は、
$$ x = vt = v \times \frac{d}{V} $$
使用した物理公式
- ドップラー効果なし: \(f’ = f\)
- 等速直線運動: \(x = vt\)
振動数: \(f\)
距離:
$$ x = \frac{vd}{V} $$
目の前を通り過ぎる瞬間は、近づいても遠ざかってもいないので、音の高さは変わりません(元の高さ \(f\))。
ただ、その音が耳に届くには少し時間がかかります(距離 \(d\) を音速 \(V\) で進む時間)。そのわずかな時間の間に、音源(電車など)は少し先へ進んでしまっています。その進んだ距離を計算しました。
振動数は \(f\)、距離は \(\frac{vd}{V}\) です。
\(v\) が大きいほど、あるいは \(d\) が大きいほど、音が届く間に音源は遠くへ行ってしまうことになり、直感と合致します。
思考の道筋とポイント
音源の移動距離と音波の進行距離の比は、それぞれの速さの比に等しいことを利用します。
この設問における重要なポイント
- 音源が進む距離 : 音波が進む距離 \(=\) 音源の速さ : 音波の速さ
具体的な解説と立式
点Oで発せられた音波が観測者に到達するまでの時間を \(\Delta t\) とします。
この間に、
- 音波が進む距離は \(d = V \Delta t\)
- 音源が進む距離は \(x = v \Delta t\)
2つの式の比をとると、
$$ \frac{x}{d} = \frac{v \Delta t}{V \Delta t} $$
$$ \frac{x}{d} = \frac{v}{V} $$
よって、
$$ x = \frac{v}{V}d $$
使用した物理公式
- 距離と速さの比例関係: \(x \propto v\)
$$ x = \frac{vd}{V} $$
「音源が進む距離」と「音が進む距離」の比率は、それぞれの「速さ」の比率と同じになります。
音が距離 \(d\) 進む間に、音源はどれだけ進むか?という問いなので、\(d\) に速さの比率 \(\frac{v}{V}\) を掛ければ答えが出ます。
メインの解法と同じ結果が得られました。時間 \(\Delta t\) を消去して直接比率で考える方法は、計算が速くシンプルです。
問(6)
思考の道筋とポイント
これまでの結果を総合してグラフの形状を判断します。
- 最初は \(P\)(無限遠)からの音: 振動数は一定で高い値 \(\frac{V}{V-v}f\)。
- 近づくにつれて: 角度 \(\theta_1\) が大きくなり、\(\cos \theta_1\) が小さくなるため、振動数は徐々に下がる。
- 点Oからの音を聞くとき: 振動数は \(f\) に戻る。
- 遠ざかるとき: 角度 \(\theta_2\) が小さくなり、\(\cos \theta_2\) が大きくなるため、振動数はさらに下がる。
- 最後は \(Q\)(無限遠)からの音: 振動数は一定で低い値 \(\frac{V}{V+v}f\)。
この設問における重要なポイント
- 初期値: \(f_{\text{最大}} = \frac{V}{V-v}f\) (一定)
- 終端値: \(f_{\text{最小}} = \frac{V}{V+v}f\) (一定)
- 中間: \(f_{\text{最大}}\) から \(f_{\text{最小}}\) へ滑らかに減少する。
- 変曲点: 点Oの通過前後で変化率が最大になる(急激に下がる)。
具体的な解説と立式
- P付近(時間 \(-\infty\)): 音源は遠方から一定の速さで近づくため、振動数は一定値 \(\frac{V}{V-v}f\) に近づきます。グラフは水平です。
- O付近(時間 \(0\)): 音源が目の前を通過するとき、振動数は \(f\) を横切りながら急激に減少します。
- Q付近(時間 \(+\infty\)): 音源は遠方へ一定の速さで遠ざかるため、振動数は一定値 \(\frac{V}{V+v}f\) に近づきます。グラフは再び水平になります。
選択肢を見ると、
- ア: 階段状に変化している(不連続ではないが、中間変化がない)。
- イ: 最初と最後が水平で、途中が滑らかに減少している。
- ウ: 一瞬だけ変化している(不自然)。
- エ: 階段状に変化している(アと同様)。
- オ: 上がっている(逆)。
- カ: 一瞬だけ変化している(ウと同様)。
したがって、イが最も適切です。
救急車のサイレンを思い出してください。「ピーポーピーポー」という音は、遠くから来るときはずっと高い音で一定です。目の前を通り過ぎる瞬間に「ヒュン」と音が下がり、走り去っていくときは低い音で一定になります。
「高い一定 \(\to\) 急に下がる \(\to\) 低い一定」という形をしているグラフは「イ」しかありません。
イです。ドップラー効果の典型的なグラフ形状です。
思考の道筋とポイント
数式からグラフの概形を厳密に特定します。
この設問における重要なポイント
- \(t \to -\infty\) で \(f’ \to \frac{V}{V-v}f\) (一定値)
- \(t \to +\infty\) で \(f’ \to \frac{V}{V+v}f\) (一定値)
- 常に単調減少(傾きが負)
具体的な解説と立式
時刻 \(t\) における音源の位置を \(x = -vt\) (\(t=0\) で点Oを通過)とすると、観測者に向かう速度成分 \(v_{\text{音源}}\) は、
$$ v_{\text{音源}} = v \cos \theta $$
$$ v_{\text{音源}} = v \frac{x}{\sqrt{x^2 + d^2}} $$
$$ v_{\text{音源}} = v \frac{-vt}{\sqrt{v^2t^2 + d^2}} $$
観測される振動数 \(f'(t)\) は、
$$ f'(t) = \frac{V}{V – v_{\text{音源}}}f $$
$$ f'(t) = \frac{V}{V – \frac{-v^2t}{\sqrt{v^2t^2 + d^2}}}f $$
この関数 \(f'(t)\) を解析します。
- \(t \to -\infty\) のとき、分母の分数は \(-(-v) = v\) に近づくため、\(f’ \to \frac{V}{V-v}f\)。
- \(t \to +\infty\) のとき、分母の分数は \(-v\) に近づくため、\(f’ \to \frac{V}{V+v}f\)。
- \(t=0\) のとき、分数は \(0\) なので \(f’ = f\)。
- この関数は単調減少関数です(微分して確認可能)。
これらの特徴(両端で水平な漸近線を持ち、単調に減少する)を持つグラフは「イ」のみです。
使用した物理公式
- ドップラー効果の一般式(時間依存)
極限計算により、\(t \to \pm \infty\) で一定値に収束することを確認しました。
数式を使ってグラフの形を調べます。
時間がずっと昔(\(-\infty\))のときは高い値で一定、ずっと未来(\(+\infty\))のときは低い値で一定になることが式からわかります。
また、途中で上がったり下がったりせず、ずっと下がり続ける(単調減少)こともわかります。
このような形をしているのは「イ」だけです。
数式的にも「イ」であることが確定しました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜め方向のドップラー効果の原理
- 核心: 音源の速度ベクトルを「観測者に向かう成分(視線速度)」に分解し、その成分だけがドップラー効果に寄与するという原理です。
- 理解のポイント:
- 速度分解: 音源の速度 \(v\) を、観測者方向の成分 \(v \cos \theta\) と、それに垂直な成分 \(v \sin \theta\) に分解します。
- 有効成分: ドップラー効果(波長の伸縮)を引き起こすのは、波源が波を追いかける(または逃げる)動き、つまり視線方向の成分 \(v \cos \theta\) だけです。垂直成分は波長を変えません。
- 公式の適用: 通常のドップラー効果の公式 \(f’ = \frac{V}{V \mp v_S}f\) の \(v_S\) に、分解した成分 \(v \cos \theta\) を代入します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円運動する音源: 観測者が円の中心にいる場合、速度ベクトルは常に視線方向と垂直なのでドップラー効果は起きません。観測者が円の外にいる場合は、接線方向の速度を視線方向に分解して考えます。
- 通過する救急車: 本問と全く同じ状況です。サイレンの音が「高い一定 \(\to\) 急降下 \(\to\) 低い一定」と変化する現象をグラフで選ばせる問題は頻出です。
- 人工衛星のドップラー効果: 地上局から見た衛星の視線速度の変化を利用して、軌道を決定したり通信周波数を調整したりします。原理は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 角度の定義: \(\theta\) がどこを指しているか(進行方向とのなす角か、垂直線とのなす角か)を慎重に確認します。それによって \(\cos\) か \(\sin\) かが変わります。
- 符号の確認: 観測者に「近づいている」のか「遠ざかっている」のかを常に意識し、公式の分母が \(V – v_S\) なのか \(V + v_S\) なのかを判断します。
- 通過点のチェック: 最接近点(目の前を通過する点)では、視線速度が0になり、ドップラー効果が消える(元の振動数に戻る)ことを利用します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度成分の分解ミス
- 誤解: \(\cos \theta\) と \(\sin \theta\) を逆にしてしまう。
- 対策: \(\theta = 0\) のとき(一直線上のとき)に最大値 \(v\) になるべき成分は \(\cos\) です。極端な場合を想定して検算しましょう。
- 通過時の振動数の勘違い
- 誤解: 目の前を通過するときに振動数が最大(または最小)になると直感的に思ってしまう。
- 対策: 通過時は「近づく」から「遠ざかる」への転換点であり、相対速度は0です。つまり振動数は \(f\)(元の値)に戻ります。最大になるのは無限遠から近づいてくるときです。
- グラフの形状の誤認
- 誤解: 振動数が直線的に変化する(一次関数)と思ってしまう。
- 対策: \(\cos \theta\) は時間 \(t\) に対して非線形に変化します(\(\cos \theta = \frac{vt}{\sqrt{d^2 + (vt)^2}}\))。したがってグラフは曲線になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式 \(f’ = \frac{V}{V \mp v_S}f\) の選択
- 選定理由: 音源が動いており、観測者が静止している状況だからです。
- 適用根拠: 音源の移動による波長の物理的な伸縮を記述する式です。斜め方向の場合でも、視線方向の成分を使えばそのまま適用できます。
- 幾何学的な距離計算 \(x = \frac{v}{V}d\) の選択(別解)
- 選定理由: 「音源が進む距離」と「音が進む距離」の比率関係を利用すると、時間を経由せずに直接答えが出せるからです。
- 適用根拠: 音源も音波も等速運動をしているため、距離は速さに比例します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 極限の確認
- \(\theta \to 0\) (無限遠)としたときに、通常の一直線上のドップラー効果の式と一致するか必ず確認します。これが合っていれば、立式はほぼ間違いありません。
- 文字式の次元確認
- 例えば距離の答え \(\frac{vd}{V}\) の単位を確認します。\(\frac{[\text{m/s}] \cdot [\text{m}]}{[\text{m/s}]} = [\text{m}]\) となり、正しい次元を持っていることがわかります。もし \(\frac{Vd}{v}\) としていたら単位が合いません。
- グラフの概形チェック
- グラフを選ぶ問題では、計算だけでなく「最初と最後は一定」「真ん中で急激に変化」といった定性的な特徴を言語化して照らし合わせることが重要です。
160 円運動によるドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)(2)の別解: 幾何学的配置による視線速度の最大化
- 模範解答が「速度成分が最大となる」と述べている背景にある幾何学的意味(接線が視線と一致する点)を図形的に解説します。
- 設問(4)の別解: 単位円を用いた位相の考察
- 模範解答が「向き」で判断しているのに対し、別解では円運動の位相(角度)と視線速度の符号の関係を用いて、より厳密に時間範囲を特定します。
- 設問(1)(2)の別解: 幾何学的配置による視線速度の最大化
- 上記の別解が有益である理由
- 図形的理解の深化: 「接線方向=速度方向」と「視線方向」が一致する点が最大・最小を与えるという幾何学的な直感を養います。
- 応用力: 観測者が無限遠でない場合(本問のような近距離の場合)のドップラー効果の特質を理解できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「円運動する音源によるドップラー効果」です。音源の速度ベクトルが刻々と変化する中で、観測者に向かう成分(視線速度)がどのように変化するかを、幾何学的な配置から読み取ることがポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 斜め方向のドップラー効果: 音源の速度 \(v\) のうち、観測者に向かう成分(視線速度 \(v_{\text{音源}}\))だけがドップラー効果に寄与します。
- 観測される振動数 \(f’ = \frac{V}{V – v_{\text{音源}}}f\)
- 円運動の速度ベクトル: 等速円運動する物体の速度は、常に軌道の接線方向を向いています。
- 接線と視線の一致: 観測者から円に引いた接線の接点(点B, D)では、音源の速度ベクトル(接線方向)と視線方向が一致します。このとき視線速度の大きさは最大値 \(v\) になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、速度ベクトル(接線方向)が視線方向と一致する点を探し、そこが最大・最小の振動数を与えることを利用します。
- (3)では、速度ベクトルが視線方向と垂直になる点を探します。
- (4)では、音源が円周上を一周する間の視線速度の符号の変化を追跡し、振動数が高くなる(近づく)時間帯を特定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
最も高い音が観測されるのは、音源が観測者に「最も速く近づいている」瞬間です。
円運動の速度ベクトルは常に接線方向を向いています。
この速度ベクトルが、観測者Qに向かう方向と完全に一致する場所を探します。
この設問における重要なポイント
- 音源の速度ベクトルは接線方向。
- 点Dは、Qから引いた接線の接点である。
- したがって、点Dにおける速度ベクトルは直線DQ上にある(Qに向かう向き)。
具体的な解説と立式
図より、点Dは観測者Qから円に引いた接線の接点です。
円運動する音源Pの速度ベクトルは、常に円の接線方向を向いています。
したがって、点Dにおける音源Pの速度ベクトルは、直線DQと重なります。
回転は時計回りなので、点Dでの速度の向きはQに向かう向きです。
このとき、速度の全成分がQに向かうため、近づく速さ(視線速度)は最大値 \(v\) となります。
よって、点Dで最も高い音が観測されます。
このときの振動数 \(f_{\text{最大}}\) を求めます。
音源が速さ \(v\) で近づく場合のドップラー効果の公式より、
$$ f_{\text{最大}} = \frac{V}{V – v}f $$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が近づく): \(f’ = \frac{V}{V – v_{\text{音源}}}f\)
$$ f_{\text{最大}} = \frac{V}{V – v}f $$
音源は円周上を走っていますが、その進行方向(ヘッドライトの向き)がQさんを直撃する瞬間があります。それが点Dです。
このとき、音源のスピード \(v\) が100%「近づく速さ」として使われるので、ドップラー効果が一番強く働き、最も高い音が聞こえます。
位置は点D、振動数は \(\frac{V}{V – v}f\) です。
分母が最小になるので振動数は最大になります。妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
速度ベクトルを視線方向と垂直方向に分解し、視線方向成分が最大になる条件を幾何学的に考えます。
この設問における重要なポイント
- 視線速度 \(v_{\text{視線}} = v \cos \theta\) (\(\theta\) は速度ベクトルと視線のなす角)
- \(v_{\text{視線}}\) が最大になるのは \(\cos \theta = 1\)、つまり \(\theta = 0\) のとき。
具体的な解説と立式
音源Pの位置における速度ベクトル \(\vec{v}\) と、PからQへの視線ベクトル \(\vec{n}\) のなす角を \(\theta\) とします。
観測者Qに向かう速度成分(視線速度)は \(v \cos \theta\) です。
これが最大値 \(v\) をとるのは、\(\cos \theta = 1\)、すなわち \(\theta = 0\) のときです。
これは速度ベクトルが視線方向と一致することを意味し、幾何学的には「視線が円の接線となる点」に対応します。
図より、そのような点はD(近づく向き)とB(遠ざかる向き)です。
近づく向きで最大となるのは点Dです。
使用した物理公式
- ベクトルの射影: \(v_{\text{視線}} = v \cos \theta\)
$$ f_{\text{最大}} = \frac{V}{V – v}f $$
音源のスピードのうち、Qさんに向かう成分だけが音の高さを変えます。
その成分が一番大きくなるのは、スピードの向きとQさんへの向きがぴったり重なるときです。
図を見ると、点Dでちょうど矢印がQさんの方を向いています。
メインの解法と同じ結果が得られました。幾何学的な意味がより明確になります。
問(2)
思考の道筋とポイント
最も低い音が観測されるのは、音源が観測者から「最も速く遠ざかっている」瞬間です。
(1)と同様に、速度ベクトルが視線方向と一致し、かつ向きが逆になる点を探します。
この設問における重要なポイント
- 点Bも、Qから引いた接線の接点である。
- 点Bにおける速度ベクトルは直線BQ上にある(Qから遠ざかる向き)。
具体的な解説と立式
点Bも、観測者Qから円に引いた接線の接点です。
したがって、点Bにおける音源Pの速度ベクトルは、直線BQと重なります。
回転は時計回りなので、点Bでの速度の向きはQから遠ざかる向きです。
このとき、速度の全成分がQから遠ざかるため、遠ざかる速さ(視線速度)は最大値 \(v\) となります。
よって、点Bで最も低い音が観測されます。
このときの振動数 \(f_{\text{最小}}\) を求めます。
音源が速さ \(v\) で遠ざかる場合のドップラー効果の公式より、
$$ f_{\text{最小}} = \frac{V}{V + v}f $$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が遠ざかる): \(f’ = \frac{V}{V + v_{\text{音源}}}f\)
$$ f_{\text{最小}} = \frac{V}{V + v}f $$
今度は逆に、音源の進行方向がQさんから見て「真後ろ」を向く瞬間を探します。それが点Bです。
このとき、音源のスピード \(v\) が100%「逃げる速さ」として使われるので、最も低い音が聞こえます。
位置は点B、振動数は \(\frac{V}{V + v}f\) です。
分母が最大になるので振動数は最小になります。妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、視線速度が負で最大(遠ざかる速さが最大)になる条件を考えます。
この設問における重要なポイント
- 視線速度 \(v_{\text{視線}} = v \cos \theta\)
- 遠ざかる速さが最大になるのは \(\cos \theta = -1\)、つまり \(\theta = 180^\circ\) のとき。
具体的な解説と立式
速度ベクトルが視線方向と逆向きに一致する点を探します。
これは幾何学的には「視線が円の接線となり、かつ回転方向が視線と逆」となる点です。
図より、点Bがこの条件を満たします。
使用した物理公式
- ベクトルの射影: \(v_{\text{視線}} = v \cos \theta\)
$$ f_{\text{最小}} = \frac{V}{V + v}f $$
スピードの向きがQさんとは正反対(真後ろ)を向くとき、一番速く遠ざかります。
図を見ると、点Bでちょうど矢印がQさんと反対の方を向いています。
メインの解法と同じ結果が得られました。
問(3)
思考の道筋とポイント
振動数が変化しない(\(f\) のまま)ということは、ドップラー効果が起きていないということです。
これは、音源の速度の「Qに向かう成分」が \(0\) になる瞬間です。
つまり、速度ベクトル(接線方向)が視線方向(PQを結ぶ線)と垂直になる点を探します。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果なし \(\Leftrightarrow\) 視線方向の速度成分が \(0\)。
- 速度ベクトル(接線) \(\perp\) 視線方向(半径方向)。
- 円の接線と半径は常に垂直である。
具体的な解説と立式
音源Pと観測者Qを結ぶ直線(視線)と、音源の速度ベクトル(接線)が垂直になる条件を考えます。
円の性質として、円周上の点における「接線」と「半径(中心とその点を結ぶ線)」は常に垂直です。
したがって、視線PQが円の半径(中心Oを通る線)と一致するとき、速度ベクトルは視線と垂直になります。
図において、Q、A、O、Cは一直線上にあります。
- 点A: 視線QAは半径OAの延長上にあります。よって、点Aでの速度ベクトル(接線)は視線QAと垂直です。
- 点C: 視線QCは半径OCの延長上にあります。よって、点Cでの速度ベクトル(接線)は視線QCと垂直です。
これらの点では、一瞬だけQとの距離が変わらない(近づきも遠ざかりもしない)動きをするため、ドップラー効果は生じません。
したがって、点Aと点Cです。
使用した物理公式
- ドップラー効果なし: \(v_{\text{視線}} = 0\)
計算は不要です。幾何学的な位置関係から判断します。
ドップラー効果が起きないのは、「近づいても遠ざかってもいない」瞬間です。
円運動の中で、Qさんとの距離が一瞬だけ変わらなくなるのは、Qさんから見て「真横」に動く瞬間です。
点Aと点Cでは、音源は円の接線方向に動いていますが、その方向はQさんへの線(半径方向)と直角です。つまり、Qさんに対しては横切る動きになるので、音の高さは変わりません。
点Aと点Cです。
これらの点では視線速度が0から正(または負)へと切り替わるタイミングであり、振動数の変化グラフにおける変曲点(\(f\) を横切る点)に対応します。
問(4)
思考の道筋とポイント
振動数が \(f\) より高いということは、音源が観測者に「近づいている」ということです。
円周上で、音源がQに向かう向きの速度成分を持つ区間を探します。
点Aを \(t=0\) として、時計回りに一周する間の時刻を考えます。
この設問における重要なポイント
- \(f’ > f \Leftrightarrow\) 音源が近づく \(\Leftrightarrow\) 視線速度成分が正。
- 点A(\(t=0\))からスタートし、時計回りに進む。
- 一周にかかる時間は \(T\)。
具体的な解説と立式
円周上の動きを追ってみましょう。
- 点A (\(t=0\)): 視線速度0。ここから時計回りに進むと、円の下側に入り、Qから遠ざかる向きに動きます。
- 点A \(\to\) 点B: 遠ざかる動き(\(f’ < f\))。
- 点B: 最も速く遠ざかる。
- 点B \(\to\) 点C: まだ遠ざかっているが、遠ざかる速さは減っていく(\(f’ < f\))。
- 点C (\(t=T/2\)): 視線速度0。ここからさらに回ると、円の上側に入り、Qに近づき始めます。
- 点C \(\to\) 点D: 近づく動き(\(f’ > f\))。
- 点D: 最も速く近づく。
- 点D \(\to\) 点A: まだ近づいているが、近づく速さは減っていく(\(f’ > f\))。
- 点A (\(t=T\)): 一周完了。
振動数が \(f\) より高くなるのは、音源が近づいている区間、つまり点Cを過ぎてから点Aに戻るまでの間です。
点Cの時刻は、半周しているので \(t = T/2\) です。
点Aの時刻は、一周しているので \(t = T\) です。
したがって、求める範囲は \(T/2 < t < T\) です。
使用した物理公式
- ドップラー効果の定性的な性質: 近づくとき \(f’ > f\)
$$ \frac{T}{2} < t < T $$
円を上下に分けて考えます。
下半分(A \(\to\) B \(\to\) C)にいるときは、Qさんから見て「向こう側へ回っていく」動きになるので、遠ざかります。音は低くなります。
上半分(C \(\to\) D \(\to\) A)にいるときは、Qさんから見て「こちら側へ回ってくる」動きになるので、近づきます。音は高くなります。
スタートのA地点から半周するまで(\(0\) 〜 \(T/2\))は下半分、残りの半周(\(T/2\) 〜 \(T\))は上半分です。だから後半の時間帯が高い音になります。
\(T/2 < t < T\) です。
図の幾何学的配置(A, Cが対称軸上にある)から、時間も正確に半分ずつに分割されることがわかります。
思考の道筋とポイント
円運動の位相角 \(\theta\) と視線速度の関係を考えます。
この設問における重要なポイント
- 視線速度 \(v_{\text{視線}} \propto \sin \theta\) (\(\theta\) の定義による)
具体的な解説と立式
中心Oを原点、Q方向を \(x\)軸正方向、D方向を \(y\)軸正方向とします。
時刻 \(t\) における音源Pの位置ベクトル \(\vec{r}\) は、\(t=0\) で点A \((R, 0)\) にあり時計回りなので、
$$ \vec{r} = (R \cos(-\omega t), R \sin(-\omega t)) = (R \cos \omega t, -R \sin \omega t) $$
速度ベクトル \(\vec{v}\) はこれを微分して、
$$ \vec{v} = (-v \sin \omega t, -v \cos \omega t) $$
ここで \(v = R\omega\) です。
観測者Qの位置は \((L, 0)\) (\(L > R\))です。
PからQへの視線ベクトルは \(\vec{n} \approx (1, 0)\) (Qが十分遠方なら)ですが、本問では近距離です。
しかし、定性的な「近づく・遠ざかる」の判定は、\(x\)軸方向の速度成分 \(v_x\) の符号で大まかに判断できます(厳密には視線方向への射影ですが、円の上半分では近づき、下半分では遠ざかるという幾何学的性質は変わりません)。
\(v_x = -v \sin \omega t\)
これが正(近づく)になるのは、\(\sin \omega t < 0\) のとき。
つまり \(\pi < \omega t < 2\pi\) のときです。
\(\omega = 2\pi/T\) なので、
$$ \pi < \frac{2\pi}{T}t < 2\pi $$
$$ \frac{T}{2} < t < T $$
使用した物理公式
- 円運動の速度ベクトル: \(\vec{v} = \frac{d\vec{r}}{dt}\)
$$ \frac{T}{2} < t < T $$
数式を使って、速度の「横方向成分」がプラスになる時間を計算しました。
結果はやはり、後半の半周分(\(T/2\) から \(T\) まで)となりました。
数式的にも \(T/2 < t < T\) であることが確認できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 円運動する音源のドップラー効果
- 核心: 音源の速度ベクトルが刻々と変化するため、観測者に向かう速度成分(視線速度)も連続的に変化し、観測される振動数が周期的に変動します。
- 理解のポイント:
- 速度の分解: 音源の速度 \(v\)(接線方向)を、観測者に向かう成分 \(v \cos \theta\) と垂直な成分に分解します。
- 最大・最小: 視線速度が最大(正)のとき振動数は最大、最小(負)のとき振動数は最小になります。これは幾何学的には「視線が円の接線となる点」で起こります。
- 変化なし: 視線速度が0のとき(視線と速度ベクトルが垂直なとき)、ドップラー効果は起こらず、元の振動数 \(f\) が観測されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 単振動する音源: バネにつながれた音源が単振動する場合も、速度が変化するため同様のドップラー効果が起きます。振動中心で速度最大(ドップラー効果最大)、端点で速度0(ドップラー効果なし)となります。
- 楕円軌道: 惑星探査機からの通信など、楕円軌道の場合も「視線方向の速度成分」が鍵になります。
- 観測者が円運動: 逆に音源が中心にあり、観測者が周りを回る場合、視線方向の相対速度は常に0なのでドップラー効果は起きません(ただし、風がある場合などは別です)。
- 初見の問題での着眼点:
- 速度ベクトルの向き: 軌道の接線方向であることを確認します。
- 視線方向との関係: 観測者と音源を結ぶ線(視線)を引き、速度ベクトルとのなす角を見ます。
- 特殊な点の特定: 接線が視線と一致する点(最大・最小)、接線が視線と垂直になる点(変化なし)を真っ先に探します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最大・最小位置の勘違い
- 誤解: 観測者に最も近い点(A)で振動数が最大、最も遠い点(C)で最小になると直感的に思ってしまう。
- 対策: 「距離」ではなく「速度の向き」が重要です。点AやCでは横切る動きになるため、ドップラー効果はゼロです。「近づく速さが最大」なのは接線方向が視線と一致する点であることを図で確認しましょう。
- 時間範囲の特定ミス
- 誤解: 円の右半分(Qに近い側)が高い音、左半分が低い音だと思ってしまう。
- 対策: 「位置」ではなく「速度ベクトルの向き」で判断します。時計回りの場合、上半分で速度ベクトルが右(Q方向)を向くため、上半分が高い音になります。矢印を描いて確認するのが確実です。
- 近似の適用の有無
- 誤解: 観測者が無限遠にあると仮定して、視線方向を常に平行とみなしてしまう。
- 対策: 問題文に「無限遠」という記述がなければ、近距離として扱います。本問のように観測者が近くにいる場合、視線の角度は刻々と変化します。ただし、最大・最小となる点が「接線が視線と一致する点」であることは変わりません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式 \(f’ = \frac{V}{V \mp v_S}f\) の選択
- 選定理由: 音源が動いており、観測者が静止している状況だからです。
- 適用根拠: 音源の移動による波長の物理的な伸縮を記述する式です。円運動の場合でも、その瞬間の視線速度成分を使えばそのまま適用できます。
- 視線速度 \(v_S = v \cos \theta\) の分解
- 選定理由: 音源の全速度 \(v\) がそのままドップラー効果に寄与するわけではないからです。
- 適用根拠: 波源が波を追いかける(または逃げる)効果は、波の進行方向(視線方向)の成分によってのみ決まります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図を描く
- 頭の中だけで考えず、必ず円と接線、速度ベクトル、視線を作図します。特に「接線が視線と一致する点」は図を描けば一目瞭然です。
- 符号の確認
- 近づくときは分母が \(V-v\)、遠ざかるときは \(V+v\)。「近づく \(\to\) 音が高くなる \(\to\) 分母は小さくなるはず」という定性的なチェックを常に行います。
- 周期性の確認
- 円運動なので、現象は周期 \(T\) で繰り返されます。答えの範囲が \(T\) を超えていないか、あるいは周期性を無視していないかを確認します。
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