「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅴ 章 19】基本例題~基本問題475

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

基本例題

基本例題64 導線内の自由電子の移動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(4)の別解: 電力と仕事率の関係を用いた解法
      • 模範解答が電流の微視的な定義式 \(I = envS\) を用いて速さを求めるのに対し、別解では導線全体での消費電力(マクロな視点)と、個々の自由電子が電場からされる仕事率の総和(ミクロな視点)が等しいことを利用して速さを求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 電流による発熱(ジュール熱)の起源が、電場による自由電子への仕事であることを理解できます。
    • 視点の転換: 公式を暗記して適用するだけでなく、エネルギー保存則という普遍的な原理から導き出せることを学び、物理現象の繋がりが見えるようになります。
  3. 結果への影響
    • 計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「電流の正体と自由電子の運動」です。普段何気なく扱っている「電流」や「電圧」といったマクロ(巨視的)な物理量が、ミクロ(微視的)な電子の運動とどのように結びついているかを理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. オームの法則: 電圧、電流、抵抗の基本的な関係式 \(V=RI\)。
  2. 一様な電場と電位差: 距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差 \(V\) と、その間の電場の強さ \(E\) の関係 \(V=Ed\)。
  3. 電場中の荷電粒子が受ける力: 電場 \(E\) から電荷 \(q\) が受ける静電気力 \(F=qE\)。
  4. 電流の微視的モデル: 電流 \(I\) を、自由電子の数密度 \(n\)、電気量 \(e\)、速さ \(v\)、断面積 \(S\) で表す式 \(I=envS\)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)〜(3)では、電気回路の基本公式および電磁気学の基礎的な定義式を順に適用して、導線にかかる電圧、内部の電場、電子が受ける力を求めます。
  2. (4)では、電流の定義式(\(1\)秒間に断面を通過する電気量)に基づいて導かれる関係式 \(I=envS\) を用いて、電子の平均の速さを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
導線の抵抗 \(R\) と流れる電流 \(I\) が与えられているので、オームの法則を直接適用して導線の両端の電位差(電圧) \(V\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • オームの法則 \(V=RI\) を正しく適用する。

具体的な解説と立式
導線の抵抗を \(R = 0.50\,\Omega\)、流れる電流を \(I = 3.6\,\text{A}\) とします。
求める電位差を \(V\) とすると、オームの法則より以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V &= RI
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
計算過程

与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= 0.50 \times 3.6 \\[2.0ex]
&= 1.8\,\text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

抵抗に電流が流れるとき、そこには必ず電圧(電位差)が発生します。「抵抗 \( \times \) 電流 = 電圧」という中学校でも習うオームの法則を使って計算するだけの基本的な問題です。

結論と吟味

答えは \(1.8\,\text{V}\) です。抵抗値と電流値から妥当な大きさの電圧が得られました。

解答 (1) \(1.8\,\text{V}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
導線内には一様な電場が生じていると考えます。導線の長さ \(l\) と、(1)で求めた両端の電位差 \(V\) の関係から、電場の強さ \(E\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 導線のような長い抵抗体にかかる電圧は、内部に生じる一様な電場による電位降下であると理解する。
  • 公式 \(V = Ed\) において、距離 \(d\) が導線の長さ \(l\) に対応することを見抜く。

具体的な解説と立式
導線内の電場が一様であると仮定すると、電場の強さ \(E\)、導線の長さ \(l = 9.0\,\text{m}\)、両端の電位差 \(V\) の間には以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V &= El
\end{aligned}
$$
この式を \(E\) について解く形に変形して立式します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{V}{l}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
計算過程

(1)で求めた \(V = 1.8\,\text{V}\) と、与えられた \(l = 9.0\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1.8}{9.0} \\[2.0ex]
&= 0.20\,\text{V/m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「電場」というのは、電気的な「坂道の急さ」のようなものです。「電位差(電圧)」は坂の上と下の「高さの差」です。\(9.0\,\text{m}\) 進んで \(1.8\,\text{V}\) だけ高さ(電位)が下がる坂道なので、\(1\,\text{m}\) あたりの下がり具合(電場の強さ)は割り算で求められます。

結論と吟味

答えは \(0.20\,\text{V/m}\) です。単位は \(\text{V/m}\)(ボルト毎メートル)または \(\text{N/C}\)(ニュートン毎クーロン)ですが、ここでは電圧と長さから求めたので \(\text{V/m}\) が自然です。

解答 (2) \(0.20\,\text{V/m}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
電場の中に置かれた電荷は、電場から静電気力を受けます。電子の電気量の大きさ \(e\) と、(2)で求めた電場の強さ \(E\) を用いて、力の大きさ \(F\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 力の「大きさ」を問われているので、電気量の符号(マイナス)は無視して、絶対値 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\) を用いる。
  • 公式 \(F = qE\) を適用する。

具体的な解説と立式
電子の電気量の大きさを \(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)、電場の強さを \(E\) とします。
電子が受ける静電気力の大きさ \(F\) は以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
F &= eE
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電場中の電荷が受ける力: \(F = qE\)
計算過程

数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (1.6 \times 10^{-19}) \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 1.6 \times 0.20 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 0.32 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 3.2 \times 10^{-20}\,\text{N}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電場(電気の坂道)にある電荷は、坂道を転がり落ちようとする力(静電気力)を受けます。その力の大きさは、「電荷の電気量」と「坂道の急さ(電場)」の掛け算で決まります。電子1個の電気量は非常に小さいので、受ける力も非常に小さな値になります。

結論と吟味

答えは \(3.2 \times 10^{-20}\,\text{N}\) です。電子というミクロな粒子が受ける力として、非常に小さいオーダー(\(10^{-20}\))であることは妥当です。

解答 (3) \(3.2 \times 10^{-20}\,\text{N}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
電流 \(I\) と自由電子の平均の速さ \(v\) を結びつける公式 \(I = envS\) を利用します。ここで、\(e\) は電気量の大きさ、\(n\) は数密度、\(S\) は断面積です。この式を \(v\) について解き、与えられた数値を代入します。
この設問における重要なポイント

  • 電流の微視的な意味(単位時間に断面を通過する電荷の総量)を表す公式 \(I = envS\) を正確に記憶し、適用できること。
  • 指数の計算(\(10^{28}\) や \(10^{-19}\) など)をミスなく行うこと。

具体的な解説と立式
電流 \(I\)、電子の電気量の大きさ \(e\)、単位体積あたりの自由電子数(数密度) \(n\)、平均の速さ \(v\)、導線の断面積 \(S\) の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
I &= envS
\end{aligned}
$$
この式を求めたい速さ \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{I}{enS}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電流と電子の速さの関係式: \(I = envS\)
計算過程

各値を代入します。
\(I = 3.6\,\text{A}\)
\(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)
\(n = 9.0 \times 10^{28}\,\text{個/m}^3\)
\(S = 5.0 \times 10^{-7}\,\text{m}^2\)

$$
\begin{aligned}
v &= \frac{3.6}{(1.6 \times 10^{-19}) \times (9.0 \times 10^{28}) \times (5.0 \times 10^{-7})} \\[2.0ex]
&= \frac{3.6}{(1.6 \times 9.0 \times 5.0) \times (10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-7})}
\end{aligned}
$$
分母の数値部分と指数部分をそれぞれ計算します。
数値部分: \(1.6 \times 9.0 \times 5.0 = 1.6 \times 45.0 = 72\)
指数部分: \(10^{-19 + 28 – 7} = 10^{2}\)

したがって、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{3.6}{72 \times 10^2} \\[2.0ex]
&= \frac{3.6}{7200} \\[2.0ex]
&= \frac{36}{72000} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2000} \\[2.0ex]
&= 0.00050 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^{-4}\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電流とは、導線の断面を1秒間に通過する電気の量のことです。「電子1個の電気量 \(\times\) 電子の密度 \(\times\) 速さ \(\times\) 断面積」という計算で、1秒間に通過する総電気量(つまり電流)を表すことができます。この関係式を使って、逆に電流の値から電子の速さを割り出しました。

結論と吟味

答えは \(5.0 \times 10^{-4}\,\text{m/s}\) です。これは \(0.5\,\text{mm/s}\) という非常にゆっくりとした速さです。スイッチを入れると瞬時に電気がつくので、電子も光速で動いていると誤解されがちですが、実際に電子そのものが移動する速さはカタツムリよりも遅い程度です(電場が伝わる速さが光速に近いのです)。この物理的な直感とも矛盾しない結果です。

解答 (4) \(5.0 \times 10^{-4}\,\text{m/s}\)
別解: 電力と仕事率の関係を用いた解法

思考の道筋とポイント
マクロな視点での「消費電力 \(P=IV\)」は、ミクロな視点で見ると「全自由電子が電場からされる仕事率の総和」に等しいはずです。このエネルギー保存則的な視点を用いて、電子の速さ \(v\) を導出します。
この設問における重要なポイント

  • 導線全体の消費電力 \(P = IV\) を計算する。
  • 電子1個が電場から受ける力 \(F = eE\) と速さ \(v\) から、電子1個に対する仕事率 \(w = Fv\) を考える。
  • 導線内の全自由電子数 \(N = nSl\) を求める。
  • \(P = N \times w\) という等式を立てる。

具体的な解説と立式
まず、導線全体で消費される電力 \(P\) は、電圧 \(V\) と電流 \(I\) を用いて以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
P &= IV
\end{aligned}
$$
一方、電子1個が電場 \(E\) から受ける力の大きさは \(F = eE\) です。電子が速さ \(v\) で移動するとき、電場が電子1個にする仕事率(1秒あたりの仕事) \(w\) は、
$$
\begin{aligned}
w &= Fv \\[2.0ex]
&= eEv
\end{aligned}
$$
導線全体の体積は \(Sl\) なので、導線内に含まれる全自由電子の数 \(N\) は、数密度 \(n\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
N &= nSl
\end{aligned}
$$
導線全体での消費電力は、全電子に対する仕事率の合計に等しいので、
$$
\begin{aligned}
P &= N \times w
\end{aligned}
$$
これに各式を代入して、
$$
\begin{aligned}
IV &= (nSl) \times (eEv)
\end{aligned}
$$
ここで、(2)より \(V = El\) なので、左辺の \(V\) を書き換えます。
$$
\begin{aligned}
I(El) &= nSleEv
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電力の公式: \(P = IV\)
  • 仕事率の公式: \(P = Fv\)
  • 電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
計算過程

立てた式 \(I(El) = nSleEv\) の両辺にある \(E\) と \(l\) を約分して消去し、\(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
I &= nSev \\[2.0ex]
v &= \frac{I}{enS}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で使用した公式 \(I = envS\) の変形と同じ式になります。
ここに各値を代入して計算します。
\(I = 3.6\,\text{A}\)
\(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)
\(n = 9.0 \times 10^{28}\,\text{個/m}^3\)
\(S = 5.0 \times 10^{-7}\,\text{m}^2\)

$$
\begin{aligned}
v &= \frac{3.6}{(1.6 \times 10^{-19}) \times (9.0 \times 10^{28}) \times (5.0 \times 10^{-7})} \\[2.0ex]
&= \frac{3.6}{(1.6 \times 9.0 \times 5.0) \times (10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-7})}
\end{aligned}
$$
分母の数値部分と指数部分をそれぞれ計算します。
数値部分: \(1.6 \times 9.0 \times 5.0 = 72\)
指数部分: \(10^{-19 + 28 – 7} = 10^{2}\)

したがって、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{3.6}{72 \times 10^2} \\[2.0ex]
&= \frac{3.6}{7200} \\[2.0ex]
&= \frac{36}{72000} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2000} \\[2.0ex]
&= 0.00050 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^{-4}\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「電池が導線全体に対して1秒間に行う仕事(電力)」と、「導線の中の無数の電子たち1つ1つに対して行う仕事の合計」は同じになるはずです。この「エネルギーの収支」を計算することで、電子の速さを求めました。結果的に、教科書の公式と同じ式が出てきますが、式の意味がより深く理解できる方法です。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。このことから、\(I=envS\) という公式が、エネルギー保存の観点からも整合性が取れていることが確認できます。

解答 (4) \(5.0 \times 10^{-4}\,\text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • マクロな物理量とミクロな物理量の架け橋
    • 核心: この問題の最大のテーマは、私たちが普段測定している「電流 \(I\)」や「電圧 \(V\)」といったマクロ(巨視的)な量が、実は目に見えない「自由電子」というミクロ(微視的)な粒子の集団運動によって生み出されていることを理解することです。
    • 理解のポイント:
      • 電流の正体: 電流とは、単なる数値ではなく「単位時間あたりに断面を通過する電荷の総量」です。これを数式化したのが \(I=envS\) であり、この式は電流の定義そのものから導かれます。
      • 電圧の正体: 導線にかかる電圧は、内部に生じる電場による電位差です。この電場が電子に静電気力を及ぼし、電子を動かす駆動力となっています。
  • エネルギー保存則の視点(電力と仕事率)
    • 核心: 電気回路における「消費電力 \(P=IV\)」は、エネルギーが消えてなくなるわけではなく、電場が自由電子に対して行った仕事が、最終的に熱(ジュール熱)などに変換されるプロセスを表しています。
    • 理解のポイント:
      • 仕事率の等価性: 「回路全体でのエネルギー消費率(電力)」と「全自由電子が電場から受け取る仕事率の総和」は等しくなります。この視点を持つことで、公式の暗記を超えた深い物理的理解が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 半導体中のキャリアの運動: 自由電子だけでなく、正孔(ホール)がキャリアとなる場合も、電荷 \(q\) や数密度 \(n\) を置き換えるだけで同様に \(I=qnvS\) の式が使えます。
    • ホール効果: 磁場中を流れる電流がローレンツ力を受けて電位差が生じる現象でも、この \(I=envS\) の式と、電子の速さ \(v\) が重要な役割を果たします。
    • 電解質溶液中のイオンの移動: 正イオンと負イオンが逆向きに移動して電流を作る場合、それぞれの寄与を足し合わせる必要がありますが、基本的な考え方は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「ミクロな視点」か「マクロな視点」かを見極める: 問題文に「電子の数」「電子の速さ」「原子の密度」といった言葉が出てきたら、迷わず \(I=envS\) のようなミクロなモデルを想起しましょう。
    2. 単位に注目する: 物理量の関係がわからなくなったときは、単位を確認します。例えば、電流 \([\text{C/s}]\) は、電気量 \([\text{C}]\) \(\times\) 数密度 \([\text{1/m}^3]\) \(\times\) 速さ \([\text{m/s}]\) \(\times\) 面積 \([\text{m}^2]\) で次元が合っていることが確認できます。
    3. 一様な電場を仮定する: 長い導線や抵抗体にかかる電圧の問題では、特に断りがない限り、内部の電場は一様(\(V=Ed\) が成立)であると考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電子の速さに関する直感的な誤解:
    • 誤解: 「スイッチを入れるとすぐに電気がつくから、電子も光速で動いているはずだ」と思い込み、計算結果の \(10^{-4}\,\text{m/s}\) という遅い速度に不安を感じてしまう。
    • 対策: 「電場の変化(信号)が伝わる速さ」と「物質(電子)が移動する速さ」は全く別物であることを理解しましょう。ところてんを押し出すとき、力は一瞬で伝わりますが、中身自体はゆっくり動くのと同じです。
  • 指数の計算ミス:
    • 誤解: \(10^{28}\) や \(10^{-19}\) といった極端に大きな数や小さな数の計算で、指数の足し算・引き算を間違える。
    • 対策: 計算式を立てたら、まず「数値部分(\(1.6, 3.6\)など)」と「\(10\)のべき乗部分」を分けて整理しましょう。指数法則 \(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\), \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) を丁寧に適用し、最後に合わせるのが鉄則です。
  • 電気量の符号の扱い:
    • 誤解: 力の大きさや速さを求める問題で、電子の電荷 \(-e\) のマイナス符号をそのまま計算に入れてしまい、負の力や負の速さを答えてしまう。
    • 対策: 「大きさ」や「速さ」を問われている場合は、物理量の絶対値(プラスの値)を扱います。ベクトルの向き(符号)と大きさ(絶対値)を明確に区別して立式しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(オームの法則):
    • 選定理由: 与えられた条件が「抵抗 \(R\)」と「電流 \(I\)」であり、求めるものが「電圧 \(V\)」です。これら3つの量を直接結びつける最も基本的な法則がオームの法則 \(V=RI\) 以外にありません。
    • 適用根拠: 導線は抵抗値を持つ導体であり、定常電流が流れている状態では、電圧と電流は比例関係にあります。したがって、オームの法則が成立します。
  • 問(2)での公式選択(電場と電位差の関係):
    • 選定理由: 導線の長さ \(l\)(距離)と電圧 \(V\)(電位差)から、電場の強さ \(E\) を求める必要があります。これらを結びつける公式は \(V=Ed\) です。
    • 適用根拠: 導線は均質な抵抗体であり、断面積も一定であるため、内部の電位降下は距離に対して一様に起こります。これは「一様な電場」が生じていることを意味し、\(V=Ed\) の公式が厳密に適用できます。
  • 問(4)での公式選択(電流の微視的モデル):
    • 選定理由: 「電子の数密度 \(n\)」や「電子の速さ \(v\)」といったミクロな量が与えられており、これらを使ってマクロな「電流 \(I\)」との関係を解く必要があります。この関係を記述する式は \(I=envS\) です。
    • 適用根拠: 電流の定義は「単位時間に断面を通過する電気量」です。断面積 \(S\)、速さ \(v\) の電子群が \(1\) 秒間に通過する体積は \(vS\) であり、その中の電子数は \(nvS\)、総電気量は \(envS\) となります。この物理的な定義に基づいているため、この式を選択するのは必然です。
  • 問(4)別解でのアプローチ選択(電力と仕事率の関係):
    • 選定理由: 電流の公式を忘れてしまった場合や、エネルギーの観点から現象を捉え直したい場合に有効です。「マクロな電力」と「ミクロな仕事率」が等価であるというエネルギー保存則を利用します。
    • 適用根拠: 導線内で消費される電気エネルギー(電力 \(IV\))は、すべて電場が自由電子に対して行った仕事に由来します(最終的にジュール熱になります)。エネルギーの散逸や他の形態への変換がない定常状態では、このエネルギー収支が釣り合うため、\(IV = (\text{全電子数}) \times (\text{1個への仕事率})\) という式が成立します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま最後まで解く:
    • いきなり数値を代入せず、\(v = \frac{I}{enS}\) のように文字式の状態で式変形を完了させましょう。これにより、式の構造が見えやすくなり、代入ミスも減らせます。また、別解のように途中で変数が消える(約分できる)ことに気づける場合もあります。
  • 指数のオーダーチェック(桁数の見積もり):
    • 計算の最後に、指数の桁がおかしくないか確認します。例えば、電子の速さが \(10^8\,\text{m/s}\)(光速に近い)になったり、力が \(10^5\,\text{N}\)(巨大な力)になったりしたら、どこかで計算ミスをしています。ミクロな粒子の質量や電荷は非常に小さいオーダーになることを感覚として持っておきましょう。
  • 単位の確認:
    • \(n\) の単位は \([\text{個/m}^3]\)、\(S\) の単位は \([\text{m}^2]\)、\(v\) の単位は \([\text{m/s}]\) です。これらを掛け合わせると \([\text{1/s}] \times [\text{m}^3]\) となりそうですが、実際は \(I = e \times (nSv)\) であり、\(nSv\) が「1秒間に通過する個数 \([\text{個/s}]\)」を表します。これに電気量 \([\text{C}]\) を掛けて \([\text{C/s}] = [\text{A}]\) となることを確認すると、式の正しさを確信できます。

基本例題65 抵抗の接続

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 合成抵抗と全電流を用いた解法
      • 模範解答は、各部分(ab間とbc間)の電圧を個別に求めて足し合わせる「分割アプローチ」をとっています。対して別解では、(1)で求めた全体の合成抵抗と、回路全体を流れる全電流を用いて、オームの法則一発で全体の電圧を求める「全体アプローチ」をとります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 視点の多様化: 回路を「部分の積み重ね」として見る視点と、「一つのシステム」として見る視点の両方を養えます。
    • 検算への活用: 異なるルートで計算して同じ結果になれば、答えの確からしさが高まります。
  3. 結果への影響
    • 計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「直流回路の基本的な解析」です。抵抗が直列や並列に組み合わされた回路において、合成抵抗、電圧、電流をどのように求めるかをマスターします。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. オームの法則: 電圧、電流、抵抗の基本的な関係式 \(V=RI\)。
  2. 合成抵抗の公式:
    • 直列接続: \(R = R_1 + R_2 + \dots\)
    • 並列接続: \(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} + \dots\)
  3. 回路の性質:
    • 直列回路: 電流が共通、電圧は分割される。
    • 並列回路: 電圧が共通、電流は分割される。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)は、まず並列部分を1つの抵抗に置き換え、その後直列接続として全体の抵抗を求めます。
  2. (2)は、電流と抵抗がわかっている箇所(\(R_2\))にオームの法則を適用します。
  3. (3)は、回路全体を流れる電流を求め、各部分の電圧を足し合わせるか、全体の合成抵抗を利用して求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
回路の右側にある並列部分(\(R_2\) と \(R_3\))の合成抵抗をまず求めます。その結果と左側の \(R_1\) が直列につながっていると考えて、全体の合成抵抗を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 並列接続の合成抵抗 \(R’\) は、逆数の和 \(\frac{1}{R’} = \frac{1}{R_2} + \frac{1}{R_3}\) で求める。
  • 2つの抵抗の並列接続では、「和分の積」の公式 \(R’ = \frac{R_2 R_3}{R_2 + R_3}\) を使うと計算が速い。
  • 直列接続の合成抵抗は、単純な足し算。

具体的な解説と立式
まず、並列に接続された抵抗 \(R_2\)(\(6.0\,\Omega\))と \(R_3\)(\(12\,\Omega\))の合成抵抗を \(R’\) とします。
並列接続の合成抵抗の公式より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R’} &= \frac{1}{R_2} + \frac{1}{R_3}
\end{aligned}
$$
次に、この \(R’\) と直列に接続された \(R_1\)(\(4.0\,\Omega\))を合わせた全体の合成抵抗 \(R\) を求めます。
直列接続の合成抵抗の公式より、
$$
\begin{aligned}
R &= R_1 + R’
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 並列接続の合成抵抗: \(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\)
  • 直列接続の合成抵抗: \(R = R_1 + R_2\)
計算過程

まず \(R’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R’} &= \frac{1}{6.0} + \frac{1}{12} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{12} + \frac{1}{12} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{12} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4.0}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
R’ &= 4.0\,\Omega
\end{aligned}
$$
(参考:和分の積を用いると、\(R’ = \frac{6.0 \times 12}{6.0 + 12} = \frac{72}{18} = 4.0\,\Omega\) となり、同じ結果が得られます)

次に、全体の合成抵抗 \(R\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R &= 4.0 + 4.0 \\[2.0ex]
&= 8.0\,\Omega
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、枝分かれしている部分(並列部分)を「ひとまとめ」にします。\(6.0\,\Omega\) と \(12\,\Omega\) の並列は、計算すると \(4.0\,\Omega\) の抵抗1つと同じ働きをします。これと手前の \(4.0\,\Omega\) が直列(一列)につながっているので、単純に足し算して合計 \(8.0\,\Omega\) になります。

結論と吟味

答えは \(8.0\,\Omega\) です。
並列部分の合成抵抗 \(4.0\,\Omega\) は、元の抵抗(\(6.0\,\Omega, 12\,\Omega\))のいずれよりも小さくなっています。これは「電流の通り道が増えることで流れやすくなる(抵抗が減る)」という並列接続の物理的性質と一致しており、妥当です。また、全体の抵抗 \(8.0\,\Omega\) は直列接続によって増加しており、これも妥当です。

解答 (1) \(8.0\,\Omega\)

問(2)

思考の道筋とポイント
bc間は並列回路部分です。並列回路の特徴は「電圧が共通」であることです。\(R_2\) の抵抗値と流れる電流がわかっているので、オームの法則を使って \(R_2\) にかかる電圧を求めれば、それがそのままbc間の電圧になります。
この設問における重要なポイント

  • 並列接続された抵抗には、等しい電圧がかかる。
  • \(R_2\) についてオームの法則 \(V=RI\) を適用する。

具体的な解説と立式
求めるbc間の電圧を \(V_{\text{bc}}\) とします。
抵抗 \(R_2\)(\(6.0\,\Omega\))に電流 \(I_2 = 0.80\,\text{A}\) が流れています。
並列部分の電圧は共通なので、\(R_2\) の両端の電圧がそのまま \(V_{\text{bc}}\) となります。
オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{bc}} &= R_2 I_2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
計算過程

値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{bc}} &= 6.0 \times 0.80 \\[2.0ex]
&= 4.8\,\text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

並列回路では、上の道(\(R_2\))を通っても下の道(\(R_3\))を通っても、高さの差(電圧)は同じです。上の道について「抵抗」と「流れる電流」がわかっているので、オームの法則を使って電圧を計算します。

結論と吟味

答えは \(4.8\,\text{V}\) です。
この電圧によって \(R_3\)(\(12\,\Omega\))に流れる電流を計算すると \(4.8/12 = 0.40\,\text{A}\) となります。\(R_2\)(\(6.0\,\Omega\))は \(R_3\) の半分の抵抗値なので、2倍の電流(\(0.80\,\text{A}\))が流れるはずです。実際、\(0.40 \times 2 = 0.80\) となっており、電流の分配比の観点からもこの電圧値は妥当です。

解答 (2) \(4.8\,\text{V}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
ac間の電圧(全体の電圧)は、ab間の電圧とbc間の電圧の和です。bc間の電圧は(2)で求めました。ab間の電圧を求めるには、\(R_1\) を流れる電流 \(I_1\) が必要です。\(I_1\) は、並列部分で分かれる前の「全電流」なので、\(R_2\) の電流と \(R_3\) の電流の合計になります。
この設問における重要なポイント

  • キルヒホッフの第1法則(電流保存則): 分岐点に入ってくる電流の和は、出ていく電流の和に等しい。つまり \(I_1 = I_2 + I_3\)。
  • 直列部分の電圧の加算: \(V_{\text{ac}} = V_{\text{ab}} + V_{\text{bc}}\)。

具体的な解説と立式
まず、抵抗 \(R_3\) を流れる電流 \(I_3\) を求めます。\(R_3\) にかかる電圧は \(V_{\text{bc}}\) なので、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I_3 &= \frac{V_{\text{bc}}}{R_3}
\end{aligned}
$$
次に、\(R_1\) を流れる電流 \(I_1\) を求めます。点bでの電流の合流を考えると、
$$
\begin{aligned}
I_1 &= I_2 + I_3
\end{aligned}
$$
\(R_1\) にかかる電圧 \(V_{\text{ab}}\) は、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{ab}} &= R_1 I_1
\end{aligned}
$$
最後に、ac間の電圧 \(V_{\text{ac}}\) は各部分の電圧の和なので、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{ac}} &= V_{\text{ab}} + V_{\text{bc}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\), \(V = RI\)
  • キルヒホッフの第1法則(電流の保存): \(I_{\text{in}} = I_{\text{out}}\)
計算過程

まず \(I_3\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_3 &= \frac{4.8}{12} \\[2.0ex]
&= 0.40\,\text{A}
\end{aligned}
$$
次に \(I_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 0.80 + 0.40 \\[2.0ex]
&= 1.20\,\text{A}
\end{aligned}
$$
\(V_{\text{ab}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{ab}} &= 4.0 \times 1.20 \\[2.0ex]
&= 4.8\,\text{V}
\end{aligned}
$$
最後に \(V_{\text{ac}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{ac}} &= 4.8 + 4.8 \\[2.0ex]
&= 9.6\,\text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

全体の電圧を知るために、まず左側の抵抗 \(R_1\) にかかる電圧を調べます。そのためには、そこを流れる「大元の電流」を知る必要があります。
大元の電流は、枝分かれした後の2つの電流(\(R_2\) の電流と \(R_3\) の電流)を足し合わせればわかります。
\(R_2\) の電流は \(0.80\,\text{A}\) とわかっています。\(R_3\) の電流は、電圧 \(4.8\,\text{V}\) と抵抗 \(12\,\Omega\) から計算できます。
これらを足して大元の電流を出し、\(R_1\) の電圧を計算し、最後に右側の電圧と足し合わせれば完了です。

結論と吟味

答えは \(9.6\,\text{V}\) です。
\(R_1\)(\(4.0\,\Omega\))と並列部分の合成抵抗 \(R’\)(\(4.0\,\Omega\))は等しい値です。直列回路において電圧は抵抗値に比例して分配されるため、\(V_{\text{ab}}\) と \(V_{\text{bc}}\) は等しくなるはずです。計算結果は \(V_{\text{ab}} = 4.8\,\text{V}\), \(V_{\text{bc}} = 4.8\,\text{V}\) となっており、この物理的直感と完全に一致します。

解答 (3) \(9.6\,\text{V}\)
別解: 合成抵抗と全電流を用いた解法

思考の道筋とポイント
回路全体を一つの大きな抵抗(合成抵抗 \(R\))とみなします。この合成抵抗に、回路全体を貫く全電流 \(I\) が流れていると考えれば、オームの法則一発で全体の電圧 \(V_{\text{ac}}\) が求まります。
この設問における重要なポイント

  • 回路全体の合成抵抗 \(R\) は(1)で求めた \(8.0\,\Omega\)。
  • 回路全体を流れる電流 \(I\) は、分岐前の電流 \(I_1\) と等しい。
  • 全体の電圧 \(V_{\text{ac}} = R \times I\)。

具体的な解説と立式
(1)より、ac間の合成抵抗は \(R = 8.0\,\Omega\) です。
また、回路全体を流れる電流 \(I\) は、抵抗 \(R_1\) を流れる電流 \(I_1\) と等しく、これは並列部分の電流の和になります。
$$
\begin{aligned}
I &= I_2 + I_3
\end{aligned}
$$
ここで \(I_3\) は、並列部分の合成抵抗 \(R’\) と電圧 \(V_{\text{bc}}\) の関係、あるいは個別のオームの法則から求められますが、ここでは並列部分全体を流れる電流として計算してみます。並列部分の合成抵抗 \(R’=4.0\,\Omega\)、電圧 \(V_{\text{bc}}=4.8\,\text{V}\) なので、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V_{\text{bc}}}{R’}
\end{aligned}
$$
(※これは \(I_2+I_3\) を計算するのと同じことです)
全体の電圧 \(V_{\text{ac}}\) は、全体の合成抵抗 \(R\) と全電流 \(I\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{ac}} &= R I
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\), \(V = RI\)
計算過程

まず全電流 \(I\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{4.8}{4.0} \\[2.0ex]
&= 1.2\,\text{A}
\end{aligned}
$$
(個別に足しても \(0.80 + 0.40 = 1.20\,\text{A}\) で同じです)

次に \(V_{\text{ac}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{ac}} &= 8.0 \times 1.2 \\[2.0ex]
&= 9.6\,\text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)で、この回路全体は \(8.0\,\Omega\) の抵抗1つと同じだとわかりました。
また、(3)の計算の途中で、この回路全体に流れ込む電流は \(1.2\,\text{A}\) だとわかりました。
ならば、「\(8.0\,\Omega\) の抵抗に \(1.2\,\text{A}\) の電流が流れているときの電圧」を計算すれば、それが全体の電圧になるはずです。

結論と吟味

主たる解法と同じ \(9.6\,\text{V}\) が得られました。
部分ごとに電圧を求めて足し合わせる方法(\(4.8 + 4.8\))と、全体をまとめて計算する方法(\(8.0 \times 1.2\))が一致することは、エネルギー保存則(電位の整合性)の観点からも必然であり、計算の正しさが強く裏付けられました。

解答 (3) \(9.6\,\text{V}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 回路の合成と分解の視点
    • 核心: 複雑に見える回路も、基本的な「直列接続」と「並列接続」の組み合わせに分解できることを理解するのが第一歩です。この問題では、まず並列部分を一つの抵抗(合成抵抗)とみなすことで、回路全体を単純な直列回路として捉え直すという「視点の切り替え」が核心となります。
    • 理解のポイント:
      • 等価回路: 複数の抵抗を一つの合成抵抗に置き換えても、外部(電源など)から見たときの電流や電圧の振る舞いは変わらないという「等価」の概念が重要です。
      • 接続の識別: 電流の通り道が分岐して再び合流するのが「並列」、分岐せずに一本道でつながるのが「直列」です。この識別を正確に行うことが全ての計算の出発点です。
  • オームの法則とキルヒホッフの法則の連携
    • 核心: オームの法則 \(V=RI\) は個々の抵抗に対して成り立ちますが、回路全体を解くには、電流の保存則(キルヒホッフ第1法則)や電圧の加算則(キルヒホッフ第2法則)と組み合わせて使う必要があります。
    • 理解のポイント:
      • 局所と全体: 「ある抵抗にかかる電圧」を知りたければ、その抵抗に流れる電流だけに注目すればよい(局所)。しかし、その電流を知るためには、回路全体のつながり(全体)を考慮しなければならない、という相互関係を理解しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ブリッジ回路: 抵抗がひし形に接続された回路でも、平衡状態であれば電流が流れない部分を無視でき、単純な直並列回路に帰着できます。
    • 電池の内部抵抗: 電池自体が内部抵抗を持つ場合も、理想的な電池と内部抵抗が直列につながっていると考えれば、この問題と同じように扱えます。
    • 可変抵抗(ポテンショメータ)を含む回路: 抵抗値が変化する場合でも、その瞬間の抵抗値を用いて合成抵抗を計算する手順は変わりません。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 一番奥(電源から遠い側)から攻める: 複雑な回路の合成抵抗を求めるときは、電源から最も遠い、あるいは最も小さな単位の並列・直列部分から順に計算して、徐々に回路を単純化していくのが鉄則です。
    2. 電流の「川」をイメージする: 電流を水の流れに例えましょう。分岐点では水流が分かれ(\(I_{\text{in}} = I_{\text{out}}\))、合流点では再び一つになります。抵抗は川幅が狭くなる場所(流れにくい場所)とイメージすると、直感的に理解しやすくなります。
    3. 電位の「高さ」をイメージする: 電圧を高さの差に例えましょう。直列回路は階段のように段差(電圧降下)が積み重なり、並列回路は同じ高さの場所から分かれて同じ高さの場所に合流する(つまり段差は同じ)とイメージします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 並列合成抵抗の計算ミス:
    • 誤解: 並列接続の合成抵抗を、直列と同じように足し算してしまう、あるいは逆数を足したまま(\(\frac{1}{R}\) のまま)答えにしてしまう。
    • 対策: 「和分の積」の公式 \(R = \frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}\) を積極的に使いましょう。また、計算結果が「元の抵抗の中で一番小さいものよりもさらに小さくなっているか」を必ず確認します。並列につなぐと通り道が増えるので、必ず抵抗は減るはずです。
  • 電圧と電流の取り違え:
    • 誤解: 並列回路で電流が等しいと考えてしまったり、直列回路で電圧が等しいと考えてしまう。
    • 対策: 「直列=一本道=電流共通」「並列=分かれ道=電圧共通」というキーワードを呪文のように唱えて確認しましょう。図に電流 \(I\) や電圧 \(V\) を書き込みながら考えるのも有効です。
  • 全体と部分の混同:
    • 誤解: 全体の電圧 \(V_{\text{ac}}\) を求めるのに、部分的な抵抗 \(R_1\) だけを使って \(V_{\text{ac}} = R_1 I\) と計算してしまう。
    • 対策: オームの法則 \(V=RI\) を使うときは、必ず「どの部分の話をしているのか」を明確にします。「\(R_1\) の電圧なら \(R_1\) と \(I_1\)」「全体の電圧なら全体の合成抵抗 \(R\) と全電流 \(I\)」というように、添字(インデックス)を意識して対応させましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(合成抵抗の公式):
    • 選定理由: 複数の抵抗が組み合わされた回路の「全体の抵抗値」を求める問題です。接続形態(並列か直列か)に応じて、合成抵抗の公式を使い分ける必要があります。
    • 適用根拠: まず \(R_2\) と \(R_3\) が両端でつながっているため「並列接続」と判断し、逆数の和(または和分の積)の公式を適用します。次に、その合成抵抗と \(R_1\) が一本道でつながっているため「直列接続」と判断し、和の公式を適用します。
  • 問(2)での公式選択(オームの法則):
    • 選定理由: 特定の抵抗(\(R_2\))について、抵抗値と電流値が既知であり、電圧値を求めたい場面です。これら3つの変数を結びつけるのはオームの法則 \(V=RI\) です。
    • 適用根拠: 並列回路の性質として「各枝の電圧は等しい」ため、\(R_2\) の電圧を求めれば、それがそのまま並列部分全体の電圧(bc間の電圧)になります。
  • 問(3)での公式選択(キルヒホッフ第1法則と電圧の加算):
    • 選定理由: 全体の電圧を求めるために、各部分の電圧を足し合わせるアプローチをとります。そのためには、未知の電流 \(I_1\) を求める必要があり、そこで電流保存則(キルヒホッフ第1法則)が必要になります。
    • 適用根拠: 回路は閉じており電荷は湧き出したり消滅したりしないため、分岐点bにおいて流入する電流と流出する電流の総和は等しくなります(\(I_1 = I_2 + I_3\))。また、電位は一意に定まるため、直列に接続された区間の電圧降下の和は、区間全体の電圧降下に等しくなります(\(V_{\text{ac}} = V_{\text{ab}} + V_{\text{bc}}\))。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図に数値を書き込む:
    • 問題用紙の回路図に、計算で求めた抵抗値、電流、電圧を逐一書き込んでいきましょう。視覚的に情報を整理することで、「どこの電圧を計算しているのか」といった取り違えミスを防げます。
  • 比を利用した検算:
    • 並列回路では、電流は抵抗の「逆比」に分配されます。\(R_2:R_3 = 6:12 = 1:2\) なので、電流は \(I_2:I_3 = 2:1\) になるはずです。\(0.80:0.40 = 2:1\) となっていることを確認すれば、計算の正しさを瞬時にチェックできます。
  • 単位の確認:
    • 抵抗 \([\Omega]\)、電流 \([\text{A}]\) を掛けると電圧 \([\text{V}]\) になります。\(k\Omega\)(キロオーム)や \(mA\)(ミリアンペア)が出てくる問題では、必ず \(10^3\) や \(10^{-3}\) の換算を行い、基本単位(\(\Omega, \text{A}, \text{V}\))で計算する癖をつけましょう。

基本例題66 キルヒホッフの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 電位を用いた解法(節点方程式)
      • 模範解答が「閉回路ごとの電圧の式(キルヒホッフの第2法則)」を連立させて解くのに対し、別解では「回路内の特定の点の電位」を未知数として設定し、電流の保存則(キルヒホッフの第1法則)のみを用いて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算量の劇的な削減: 模範解答では3つの未知数(\(I_1, I_2, I_3\))を含む連立方程式を解く必要がありますが、別解では未知数が1つ(電位 \(x\))だけの方程式で済むため、計算の手間とミスを大幅に減らせます。
    • 物理的直感の養成: 「電流は電位の高い方から低い方へ流れる」というオームの法則の根本原理に基づいているため、回路全体の電位分布をイメージする力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる電流の大きさや向きは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「複雑な回路網における電流分布の解析」です。単純な直列・並列合成だけでは解けない回路において、キルヒホッフの法則をどのように適用するかが問われています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路網の任意の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出る電流の和は等しい。
  2. キルヒホッフの第2法則(電圧則): 回路網の任意の閉回路において、起電力の和は電圧降下の和に等しい(あるいは、一周したときの電位変化の総和は \(0\) である)。
  3. オームの法則: 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるとき、電圧降下 \(V=RI\) が生じる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、各抵抗を流れる電流の大きさと向きを仮定し、文字(\(I_1, I_2, I_3\))で置きます。
  2. 次に、分岐点(例えば点b)に着目して第1法則の式を立てます。
  3. さらに、独立した閉回路(例えば上段のループと下段のループ)を選び、第2法則の式を立てます。
  4. 最後に、得られた連立方程式を解いて電流値を求めます。値が負になった場合は、仮定した向きと逆向きに流れていると判断します。

問(1)

思考の道筋とポイント
未知数が \(I_1, I_2, I_3\) の3つあるため、独立した方程式が3本必要です。
1つ目は電流の関係式(第1法則)、残り2つは電圧の関係式(第2法則)から導きます。
式の数を減らすために、最初から \(I_2 = I_1 + I_3\) と置いて未知数を2つにする方法もありますが、ここでは模範解答に従い3つの式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント

  • 電流の向きは自由に仮定してよい(結果の符号で判断できるため)。
  • 第2法則の式を立てる際は、閉回路を一周する向き(時計回りなど)を決め、その向きに沿って起電力と電圧降下の符号を正しく設定する。
  • 電池の記号は、長い線が正極(プラス)、短い線が負極(マイナス)を表す。図より、\(E_1, E_2\) ともに左側が正極である。

具体的な解説と立式
まず、図のように各抵抗を流れる電流を \(I_1, I_2, I_3\) とし、矢印の向き(\(I_1\): 左向き, \(I_2\): 右向き, \(I_3\): 左向き)に流れると仮定します。

1. キルヒホッフの第1法則(点bにおける電流の出入り)
点bには、上から \(I_1\) が流れ込み、下から \(I_3\) が流れ込み、右へ \(I_2\) が流れ出ています。
\((\text{流入する電流の和}) = (\text{流出する電流の和})\) より、
$$ I_1 + I_3 = I_2 \quad \cdots ① $$

2. キルヒホッフの第2法則(閉回路 abeda)
上段の閉回路 abeda について考えます。
起電力 \(E_1 = 28\,\text{V}\) は、左側が正極であるため、この閉回路に反時計回り(\(I_1, I_2\) の向き)の電流を流そうとします。
抵抗 \(R_1, R_2\) での電圧降下は、それぞれ \(20I_1, 40I_2\) です。
\((\text{起電力の和}) = (\text{電圧降下の和})\) より、
$$ 28 = 20I_1 + 40I_2 \quad \cdots ② $$

3. キルヒホッフの第2法則(閉回路 cbefc)
下段の閉回路 cbefc について考えます。
起電力 \(E_2 = 14\,\text{V}\) は、左側が正極であるため、この閉回路に時計回り(\(I_3, I_2\) の向き)の電流を流そうとします。
抵抗 \(R_3, R_2\) での電圧降下は、それぞれ \(10I_3, 40I_2\) です。
\((\text{起電力の和}) = (\text{電圧降下の和})\) より、
$$ 14 = 10I_3 + 40I_2 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第1法則: \((\text{流入和}) = (\text{流出和})\)
  • キルヒホッフの第2法則: \((\text{起電力の和}) = (\text{電圧降下の和})\)
計算過程

式①、②、③を連立して解きます。
まず、式① \(I_2 = I_1 + I_3\) を式②と式③に代入して \(I_2\) を消去します。

式②に代入:
$$
\begin{aligned}
28 &= 20I_1 + 40(I_1 + I_3) \\[2.0ex]
28 &= 20I_1 + 40I_1 + 40I_3 \\[2.0ex]
28 &= 60I_1 + 40I_3 \\[2.0ex]
7 &= 15I_1 + 10I_3 \quad \cdots ④ \quad (\text{両辺を4で割った})
\end{aligned}
$$

式③に代入:
$$
\begin{aligned}
14 &= 10I_3 + 40(I_1 + I_3) \\[2.0ex]
14 &= 10I_3 + 40I_1 + 40I_3 \\[2.0ex]
14 &= 40I_1 + 50I_3 \\[2.0ex]
7 &= 20I_1 + 25I_3 \quad \cdots ⑤ \quad (\text{両辺を2で割った})
\end{aligned}
$$

式④と式⑤から \(I_3\) を消去します。式④を \(2.5\) 倍して係数を合わせるか、式④ \(\times 5\) と 式⑤ \(\times 2\) で計算します。ここでは後者で行います。
式④ \(\times 5\):
$$
\begin{aligned}
35 &= 75I_1 + 50I_3 \quad \cdots ④’
\end{aligned}
$$
式⑤ \(\times 2\):
$$
\begin{aligned}
14 &= 40I_1 + 50I_3 \quad \cdots ⑤’
\end{aligned}
$$

式④’ \(-\) 式⑤’:
$$
\begin{aligned}
35 – 14 &= (75I_1 – 40I_1) + (50I_3 – 50I_3) \\[2.0ex]
21 &= 35I_1 \\[2.0ex]
I_1 &= \frac{21}{35} \\[2.0ex]
I_1 &= \frac{3}{5} \\[2.0ex]
I_1 &= 0.60\,\text{A}
\end{aligned}
$$

求めた \(I_1 = 0.60\) を式④に代入して \(I_3\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
7 &= 15 \times 0.60 + 10I_3 \\[2.0ex]
7 &= 9.0 + 10I_3 \\[2.0ex]
10I_3 &= 7 – 9.0 \\[2.0ex]
10I_3 &= -2.0 \\[2.0ex]
I_3 &= -0.20\,\text{A}
\end{aligned}
$$

最後に、\(I_1, I_3\) を式①に代入して \(I_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= 0.60 + (-0.20) \\[2.0ex]
I_2 &= 0.40\,\text{A}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

回路の分岐点での「電流の出入りのバランス」と、回路を一周したときの「電圧のアップダウンのバランス」を使って式を立てました。計算の結果、\(I_1\) と \(I_2\) はプラスの値になったので、最初に仮定した矢印の向き通りに流れています。一方、\(I_3\) はマイナスの値になりました。これは「左向きに流れる」と仮定して計算したら「マイナス」だった、つまり実際には逆の「右向き」に流れていることを意味します。物理的には、電池 \(E_2\) の起電力よりも回路全体の電圧バランスの影響が強く、電池 \(E_2\) に電流が逆流(充電される方向)している状態です。

結論と吟味

\(R_1\) を流れる電流は \(I_1 = 0.60\,\text{A}\)(正の値なので仮定通り左向き、すなわち \(\text{d} \to \text{a}\))です。\(R_2\) を流れる電流は \(I_2 = 0.40\,\text{A}\)(正の値なので仮定通り右向き、すなわち \(\text{b} \to \text{e}\))です。\(R_3\) を流れる電流は \(I_3 = -0.20\,\text{A}\)(負の値なので仮定と逆の右向き、すなわち \(\text{c} \to \text{f}\))です。これらの値は、キルヒホッフの法則を満たしており、物理的に妥当な解です。

解答 (1) \(R_1\): \(0.60\,\text{A}\), \(\text{d} \to \text{a}\) の向き, \(R_2\): \(0.40\,\text{A}\), \(\text{b} \to \text{e}\) の向き, \(R_3\): \(0.20\,\text{A}\), \(\text{c} \to \text{f}\) の向き
別解: 電位を用いた解法(節点方程式)

思考の道筋とポイント
回路内の電位の基準(\(0\,\text{V}\))を決め、未知の点の電位を \(x\) と置きます。各抵抗を流れる電流を \(x\) を用いて表し、分岐点での電流保存則(キルヒホッフの第1法則)のみを使って \(x\) を求めます。この方法は連立方程式を解く必要がなく、計算が非常に楽になります。
この設問における重要なポイント

  • 右側の導線(d, e, f)を接地(\(0\,\text{V}\))し、左側の導線(a, b, c)の電位を \(x\) と置く。
  • 電池の左側が正極(高電位)であることに注意して立式する。
  • 電流は「電位の高い方から低い方へ流れる」として式を立てる。

具体的な解説と立式
図の右側の縦線(点d, e, f)の電位を基準の \(0\,\text{V}\) とします。
左側の縦線(点a, b, c)は導線でつながっているため等電位です。この電位を \(x\,[\text{V}]\) とします。

各枝を流れる電流を、左側のノード(点a, b, c)に流れ込む向きを正として考えます(あるいは流れ出す向きを正としても同じです)。ここでは、左側のノード(電位 \(x\))へ流れ込む電流の総和は \(0\) であるという式を立てます。

1. 上段(\(R_1\) の枝)からの流入電流 \(I_{\text{上}}\)
電池 \(E_1\) は左側が正極なので、電池の左端の電位は \(28\,\text{V}\) です(右端が \(0\,\text{V}\) なので)。
抵抗 \(R_1\) は、電位 \(28\,\text{V}\) の点と電位 \(x\,\text{V}\) の点の間にあります。
\(28\,\text{V}\) 側から \(x\,\text{V}\) 側へ流れる電流は、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I_{\text{上}} &= \frac{28 – x}{20}
\end{aligned}
$$

2. 中段(\(R_2\) の枝)からの流入電流 \(I_{\text{中}}\)
右端(\(0\,\text{V}\))から左端(\(x\,\text{V}\))へ流れる電流と考えます。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{中}} &= \frac{0 – x}{40} \\[2.0ex]
&= -\frac{x}{40}
\end{aligned}
$$

3. 下段(\(R_3\) の枝)からの流入電流 \(I_{\text{下}}\)
電池 \(E_2\) は左側が正極なので、電池の左端の電位は \(14\,\text{V}\) です。
抵抗 \(R_3\) は、電位 \(14\,\text{V}\) の点と電位 \(x\,\text{V}\) の点の間にあります。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{下}} &= \frac{14 – x}{10}
\end{aligned}
$$

キルヒホッフの第1法則より、これらの電流の総和は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
\frac{28 – x}{20} + \left( -\frac{x}{40} \right) + \frac{14 – x}{10} &= 0
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V_{\text{高}} – V_{\text{低}}}{R}\)
  • キルヒホッフの第1法則: \((\text{流入和}) = 0\)
計算過程

分母を払うため、両辺を \(40\) 倍します。
$$
\begin{aligned}
2(28 – x) – x + 4(14 – x) &= 0 \\[2.0ex]
56 – 2x – x + 56 – 4x &= 0 \\[2.0ex]
112 – 7x &= 0 \\[2.0ex]
7x &= 112 \\[2.0ex]
x &= 16\,\text{V}
\end{aligned}
$$
左側の電位が \(16\,\text{V}\) であることが分かりました。これを用いて各電流を求めます。

  • \(I_1\)(上段の電流)
    模範解答の \(I_1\) は左向き(\(28\,\text{V} \to x\,\text{V}\))と定義されています。
    $$
    \begin{aligned}
    I_1 &= \frac{28 – 16}{20} \\[2.0ex]
    &= \frac{12}{20} \\[2.0ex]
    &= 0.60\,\text{A}
    \end{aligned}
    $$
    正の値なので、向きは左向き(\(\text{d} \to \text{a}\))。
  • \(I_2\)(中段の電流)
    模範解答の \(I_2\) は右向き(\(x\,\text{V} \to 0\,\text{V}\))と定義されています。
    $$
    \begin{aligned}
    I_2 &= \frac{x – 0}{40} \\[2.0ex]
    &= \frac{16}{40} \\[2.0ex]
    &= 0.40\,\text{A}
    \end{aligned}
    $$
    正の値なので、向きは右向き(\(\text{b} \to \text{e}\))。
  • \(I_3\)(下段の電流)
    模範解答の \(I_3\) は左向き(\(14\,\text{V} \to x\,\text{V}\))と定義されています。
    $$
    \begin{aligned}
    I_3 &= \frac{14 – 16}{10} \\[2.0ex]
    &= \frac{-2}{10} \\[2.0ex]
    &= -0.20\,\text{A}
    \end{aligned}
    $$
    負の値なので、向きは右向き(\(\text{c} \to \text{f}\))。
この設問の平易な説明

回路の右側を地面(高さ0m)と見立て、左側の高さ(電位)を一発で計算する方法です。計算の結果、左側の高さは \(16\,\text{V}\) だと分かりました。上段の電池は \(28\,\text{V}\) の高さまで汲み上げているので、そこから \(16\,\text{V}\) へ向かって水(電流)が流れます(左向き)。中段は \(16\,\text{V}\) から \(0\,\text{V}\) へ向かって流れます(右向き)。下段の電池は \(14\,\text{V}\) までしか汲み上げていないので、逆に \(16\,\text{V}\) の方から押し戻されてしまいます(右向き)。

結論と吟味

模範解答と全く同じ結果が得られました。連立方程式を解く手間がなく、計算ミスもしにくい非常に効率的な解法です。

解答 (1) \(R_1\): \(0.60\,\text{A}\), \(\text{d} \to \text{a}\) の向き, \(R_2\): \(0.40\,\text{A}\), \(\text{b} \to \text{e}\) の向き, \(R_3\): \(0.20\,\text{A}\), \(\text{c} \to \text{f}\) の向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • キルヒホッフの法則の物理的意味と適用
    • 核心: 複雑な回路網の問題は、単純なオームの法則(\(V=RI\))だけでは解けません。回路の「分岐点での電荷の保存(第1法則)」と「閉回路でのエネルギーの保存(第2法則)」という2つの基本原理を連立方程式として定式化する力が問われます。
    • 理解のポイント:
      • 第1法則(電流則): 「流れ込む電流の総和 = 流れ出る電流の総和」という関係は、電荷が分岐点で消滅したり湧き出したりしないこと(電荷保存則)を意味します。
      • 第2法則(電圧則): 「一周したときの電位変化の総和が \(0\)」という関係は、電場による位置エネルギーが一価関数であること(エネルギー保存則)を意味します。起電力で上がり、抵抗で下がるという「高さ」のイメージを持つことが重要です。
  • 連立方程式による解法の構造
    • 核心: 未知数が複数ある場合(今回は \(I_1, I_2, I_3\) の3つ)、それと同じ数の独立した方程式を立てる必要があります。物理の問題を数学の問題(連立方程式)に帰着させるプロセスを確立することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 独立性の確保: 方程式を立てる際、既に立てた式から導ける式(従属な式)を含めても意味がありません。例えば、閉回路の式を立てる際は、まだ使っていない経路を含む新しいループを選ぶことで、独立した式を作ることができます。
      • 未知数の消去: 3元連立方程式を解く基本は、まず1つの文字(例えば \(I_2\))を他の式を使って消去し、2元連立方程式に持ち込むことです。この手順を機械的に実行できる計算力が求められます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホイートストンブリッジ: 抵抗がたすき掛けに配置された回路。平衡条件を満たさない場合は、キルヒホッフの法則や電位法で解く典型例です。
    • コンデンサーを含む回路: 定常状態ではコンデンサーに電流が流れないため、その枝を無視して回路方程式を立て、最後にコンデンサーの電圧を求めるパターンです。
    • 電池が複数ある回路: 電池が並列に接続されている場合など、単純な合成抵抗の計算ができない場合に本問のアプローチが必須となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 未知数の数を確定する: 求めたい電流がいくつあるかを確認し、必要な方程式の本数を把握します。
    2. 対称性を探す: 回路に対称性がある場合、電流の大きさが等しい箇所を見つけることで未知数を減らせます。
    3. 「電位法」の適用を検討する: 別解で示したように、特定の点の電位を未知数と置くことで、連立方程式を回避できるか検討します。特に、アース(接地)されている点や、複数の線が集まる分岐点が多い場合に有効です。
    4. 閉回路の選び方を工夫する: 第2法則を適用する際、計算が簡単になりそうなループ(例えば、抵抗が少ない、未知数が少ないなど)を選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電流の向きが決められず手が止まる
    • 誤解: 「正しい向きを最初から当てなければならない」と思い込んでしまう。
    • 対策: 電流の向きは「仮定」で構いません。適当に矢印を書き込み、計算結果が負になれば「逆向きだった」と判断すればよいのです。迷う時間をなくし、まずは仮定して式を立てることが最優先です。
  • キルヒホッフ第2法則の符号ミス
    • 誤解: 電流の向きと閉回路を回る向きの関係で、電圧降下(\(+RI\))か電圧上昇(\(-RI\))かを間違える。
    • 対策: 「電流の向きに沿って進むときは電位が下がる(\(-RI\))」「電池の負極から正極へ進むときは電位が上がる(\(+E\))」というルールを徹底するか、本解説のように「(起電力の和)=(電圧降下の和)」という形式で、右辺は常に「抵抗 \(\times\) 電流」の和(電流の向きと回る向きが同じなら正)とするルールを統一しましょう。
  • 電池の極性の見落とし
    • 誤解: 電池の記号の長短を見落とし、起電力の向きを逆にしてしまう。
    • 対策: 問題図を見た瞬間に、長い方に「\(+\)」、短い方に「\(-\)」と書き込む癖をつけましょう。特に本問のように複数の電池がある場合は要注意です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • キルヒホッフの法則の選択理由
    • 選定理由: 回路が直列・並列の組み合わせだけで単純化できない(複数の閉回路が共有する抵抗がある)ため、オームの法則単独では解けません。回路網全体の電圧・電流の関係を記述するキルヒホッフの法則が唯一の選択肢となります。
    • 適用根拠: 未知の電流が3つあるため、分岐点での式(第1法則)と、独立した2つの閉回路での式(第2法則)を組み合わせることで解が一意に定まることが数学的に保証されています。
  • 別解(電位法)の選択理由
    • 選定理由: 連立方程式を解く計算コストを削減したい場合や、回路の「高さ(電位)」の関係を直感的に把握したい場合に選択します。
    • 適用根拠: 回路の基準点(\(0\,\text{V}\))を定めることで、他の点の電位が一意に決まるという物理的性質を利用しています。未知数が1つ(電位 \(x\))で済むため、計算ミスを誘発しやすい連立方程式を回避できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 係数の簡略化
    • 式を立てた直後に、両辺を共通因数(本問では \(10\) や \(20\) など)で割って、係数をできるだけ小さな整数にしてから計算を始めましょう。\(20I_1 + 40I_2 = 28\) のまま計算するより、\(5I_1 + 10I_2 = 7\) にした方がミスは減ります。
  • 文字式のまま計算するか、数値を代入するか
    • 通常、物理では文字式のまま解くことが推奨されますが、本問のように抵抗値や電圧値が具体的な整数で与えられ、項数が多い回路網の問題では、早めに数値を代入して整理した方が式が見やすくなり、計算ミスを防げる場合があります。
  • 物理的妥当性の吟味(検算)
    • 求めた電流値 \(I_1, I_2, I_3\) を、使わなかった閉回路(例えば外周の大きなループ abcdefa)の式に代入して成り立つか確認します。
    • 外周ループの式: \(28 – 14 = 20I_1 – 10I_3\)
    • 代入: \(14 = 20(0.60) – 10(-0.20) = 12 + 2 = 14\)。成立するので、計算は正しいと確信できます。

基本例題67 ホイートストンブリッジ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 電位の平衡条件(分圧の理)を用いた解法
      • 模範解答がホイートストンブリッジの公式を直接適用しているのに対し、別解では「検流計に電流が流れない \(\Leftrightarrow\) 点Pと点Qの電位が等しい」という物理的条件から、分圧の考え方を用いて抵抗値を導きます。
    • 設問(2)の別解: 各枝の電流を個別に求めて足し合わせる解法(分流法)
      • 模範解答が回路全体の合成抵抗を求めてから全電流を計算するのに対し、別解では並列回路の性質(電圧が共通)を利用して、上側の経路と下側の経路を流れる電流をそれぞれ計算し、それらを足し合わせて全電流を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の理解: 公式の丸暗記ではなく、「なぜ電流が流れないのか(電位差がないから)」という根本原理を理解することで、応用問題(ブリッジが平衡していない場合など)への対応力がつきます。
    • 計算の効率化: 設問(2)において、合成抵抗の計算(分数の足し算と逆数)が面倒な場合、各枝の電流を求める方が計算ミスが少なく、直感的に分かりやすい場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ホイートストンブリッジ回路の平衡条件と電流計算」です。一見複雑な回路ですが、特定の条件(検流計に電流が流れない)下では非常に単純な回路として扱えることを学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ホイートストンブリッジの平衡条件: 向かい合う抵抗の積が等しいとき(あるいは抵抗の比が等しいとき)、中央の検流計には電流が流れない。
  2. 電位と電位差: 電流が流れないということは、その2点間の電位差が \(0\)(等電位)であることを意味する。
  3. 合成抵抗とオームの法則: 直列接続と並列接続の合成抵抗の公式、および \(V=RI\) の関係式。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、検流計に電流が流れていないことから、ホイートストンブリッジの平衡条件式を立てて、未知の抵抗 \(R\) を求めます。
  2. (2)では、検流計のある中央の導線には電流が流れないため、これを「断線している(つながっていない)」とみなして回路図を書き換えます。単純な並列回路として合成抵抗を求め、オームの法則で全電流を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
「検流計が示す値を \(0\) にした」という記述が最大のヒントです。これはホイートストンブリッジが「平衡状態」にあることを意味します。このとき、向かい合う抵抗同士の積が等しくなるという公式が使えます。
この設問における重要なポイント

  • 検流計に電流が流れないとき、点Pと点Qの電位は等しい。
  • このとき、抵抗値の間には \(\displaystyle\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}\) または \(R_1 R_4 = R_2 R_3\) の関係が成り立つ。

具体的な解説と立式
図の抵抗配置において、左上の抵抗を \(10\,\Omega\)、左下の抵抗を \(20\,\Omega\)、右上の抵抗を \(20\,\Omega\)、右下の抵抗を \(R\) とします。
検流計に電流が流れないので、ホイートストンブリッジの平衡条件「向かい合う抵抗の積が等しい」を適用します。
$$ 10 \times R = 20 \times 20 $$

使用した物理公式

  • ホイートストンブリッジの平衡条件: \(R_1 R_4 = R_2 R_3\)
計算過程

方程式を解いて \(R\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
10R &= 400 \\[2.0ex]
R &= \frac{400}{10} \\[2.0ex]
R &= 40\,\Omega
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

川が2つに分かれてまた合流するような水路をイメージしてください。途中で2つの水路をつなぐパイプ(検流計)がありますが、そこを水が流れていません。これは、パイプの両端(点Pと点Q)で水位(電位)が全く同じだからです。このような状態になるためには、水路の抵抗(流れにくさ)のバランスがとれている必要があります。具体的には「左上 \(\times\) 右下 = 左下 \(\times\) 右上」という掛け算が成り立つときに、このバランス状態になります。

結論と吟味

\(R = 40\,\Omega\) と求まりました。比で確認すると、左側は \(10:20 = 1:2\) です。右側も \(20:40 = 1:2\) となり、比が等しいので平衡条件を満たしています。

解答 (1) \(40\,\Omega\)
別解: 電位の平衡条件(分圧の理)を用いた解法

思考の道筋とポイント
公式を忘れてしまった場合でも、「検流計に電流が流れない」=「点Pと点Qの電位が等しい」という物理的な意味から解くことができます。電池の負極を基準(\(0\,\text{V}\))とし、点Pと点Qの電位をそれぞれ計算して等号で結びます。
この設問における重要なポイント

  • 直列回路では、抵抗値の比に応じて電圧が分配される(分圧)。
  • 点Pの電位は、上の経路での分圧比で決まる。
  • 点Qの電位は、下の経路での分圧比で決まる。

具体的な解説と立式
電池の電圧を \(V\) とします(本問では \(6.0\,\text{V}\) ですが、文字のままでも解けます)。
上の経路(\(10\,\Omega\) と \(20\,\Omega\) の直列)において、点Pの電位 \(V_P\) は、全体の電圧 \(V\) を \(10:20\) に分圧したうちの \(20\,\Omega\) 側の電圧(または \(10\,\Omega\) での電圧降下を引いたもの)です。ここでは電池の負極を \(0\,\text{V}\) として、下流側の抵抗にかかる電圧として計算します。
$$ V_P = V \times \frac{20}{10 + 20} $$

下の経路(\(20\,\Omega\) と \(R\) の直列)において、点Qの電位 \(V_Q\) は、全体の電圧 \(V\) を \(20:R\) に分圧したうちの \(R\) 側の電圧です。
$$ V_Q = V \times \frac{R}{20 + R} $$

検流計に電流が流れない条件は \(V_P = V_Q\) なので、
$$ V \times \frac{20}{30} = V \times \frac{R}{20 + R} $$

使用した物理公式

  • 分圧の公式: \(V_k = V \times \displaystyle\frac{R_k}{R_{\text{全}}}\)
計算過程

両辺を \(V\) で割り、整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{20}{30} &= \frac{R}{20 + R} \\[2.0ex]
\frac{2}{3} &= \frac{R}{20 + R}
\end{aligned}
$$
たすき掛けをして解きます。
$$
\begin{aligned}
2(20 + R) &= 3R \\[2.0ex]
40 + 2R &= 3R \\[2.0ex]
R &= 40\,\Omega
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

点Pと点Qの「高さ(電位)」が同じなら水(電流)は流れません。上の道では、全行程の抵抗 \(30\) のうち、後半の \(20\) が残っているので、高さは元の \(2/3\) です。下の道でも同じ高さ(\(2/3\))になるためには、後半の抵抗 \(R\) が全行程(\(20+R\))の \(2/3\) を占める必要があります。この比率計算から \(R\) を求めました。

結論と吟味

公式を使った場合と同じ \(40\,\Omega\) が得られました。

解答 (1) \(40\,\Omega\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)より、検流計には電流が流れていません。これは、回路的に「検流計が存在しない(断線している)」のと同じ状態です。したがって、回路図を「上の直列回路」と「下の直列回路」が並列につながっている単純な形に書き換えて考えることができます。
この設問における重要なポイント

  • 検流計の線を取り除いて考える。
  • 上側の合成抵抗 \(R_{\text{上}}\) は \(10 + 20 = 30\,\Omega\)。
  • 下側の合成抵抗 \(R_{\text{下}}\) は \(20 + 40 = 60\,\Omega\)。
  • これらが並列接続されている。

具体的な解説と立式
まず、回路全体の合成抵抗 \(R’\) を求めます。
上側の抵抗は直列なので \(10 + 20 = 30\,\Omega\)、下側の抵抗も直列なので \(20 + 40 = 60\,\Omega\) です。
これら \(30\,\Omega\) と \(60\,\Omega\) の抵抗が並列に接続されているので、合成抵抗 \(R’\) は以下の式で求められます。
$$ \frac{1}{R’} = \frac{1}{30} + \frac{1}{60} $$
合成抵抗 \(R’\) が求まったら、オームの法則を用いて電池を流れる全電流 \(I\) を求めます。
$$ I = \frac{6.0}{R’} $$

使用した物理公式

  • 直列合成抵抗: \(R = R_1 + R_2\)
  • 並列合成抵抗: \(\displaystyle\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\)
  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
計算過程

まず合成抵抗 \(R’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R’} &= \frac{2}{60} + \frac{1}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{20}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ R’ = 20\,\Omega $$
次に電流 \(I\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{6.0}{20} \\[2.0ex]
&= \frac{6}{20} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{10} \\[2.0ex]
&= 0.30\,\text{A}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

真ん中の橋(検流計)は通行止めなので無視します。すると、この回路は「上の道」と「下の道」の2本が並行して走っているだけの単純な回路になります。上の道は合計 \(30\,\Omega\) の通りにくさ、下の道は合計 \(60\,\Omega\) の通りにくさです。これらを合わせた全体の通りにくさ(合成抵抗)を計算すると \(20\,\Omega\) になります。\(6.0\,\text{V}\) の電池が、この \(20\,\Omega\) の回路に電流を流すので、流れる量は \(0.30\,\text{A}\) になります。

結論と吟味

電流は \(0.30\,\text{A}\) です。合成抵抗 \(20\,\Omega\) は、個々の並列抵抗(\(30\,\Omega, 60\,\Omega\))よりも小さくなっており、並列接続の性質と合致します。

解答 (2) \(0.30\,\text{A}\)
別解: 各枝の電流を個別に求めて足し合わせる解法(分流法)

思考の道筋とポイント
並列回路では、各枝にかかる電圧は電池の電圧と等しくなります。つまり、上の経路(\(30\,\Omega\))にも、下の経路(\(60\,\Omega\))にも、等しく \(6.0\,\text{V}\) の電圧がかかります。これを利用して、それぞれの電流を個別に計算し、最後に合流させます。
この設問における重要なポイント

  • 並列回路の電圧は共通(\(6.0\,\text{V}\))。
  • キルヒホッフの第1法則より、全電流 \(I\) は各枝の電流の和(\(I = I_{\text{上}} + I_{\text{下}}\))。

具体的な解説と立式
上の経路を流れる電流を \(I_{\text{上}}\)、下の経路を流れる電流を \(I_{\text{下}}\) とします。
それぞれの経路に対してオームの法則を適用します。
$$ I_{\text{上}} = \frac{6.0}{10 + 20} $$
$$ I_{\text{下}} = \frac{6.0}{20 + 40} $$
全電流 \(I\) はこれらの和です。
$$ I = I_{\text{上}} + I_{\text{下}} $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
  • キルヒホッフの第1法則: \(I = I_1 + I_2\)
計算過程

それぞれの電流を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{上}} &= \frac{6.0}{30} \\[2.0ex]
&= 0.20\,\text{A}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
I_{\text{下}} &= \frac{6.0}{60} \\[2.0ex]
&= 0.10\,\text{A}
\end{aligned}
$$
これらを足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
I &= 0.20 + 0.10 \\[2.0ex]
&= 0.30\,\text{A}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

全体の抵抗を計算するのが面倒なときは、道を別々に考えましょう。上の道は抵抗 \(30\) で電圧 \(6.0\) なので、\(0.2\) の電流が流れます。下の道は抵抗 \(60\) で電圧 \(6.0\) なので、\(0.1\) の電流が流れます。電池から出る電流は、この2つの合計なので \(0.3\) になります。

結論と吟味

合成抵抗を用いた方法と全く同じ \(0.30\,\text{A}\) が得られました。計算手順が少なく、直感的に理解しやすい方法です。

解答 (2) \(0.30\,\text{A}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ホイートストンブリッジの平衡条件とその本質
    • 核心: 「向かい合う抵抗の積が等しい(\(R_1 R_4 = R_2 R_3\))」という公式は、単なる暗記項目ではありません。これは「検流計の両端(点Pと点Q)の電位が等しい」という物理的状態を数式化したものです。
    • 理解のポイント:
      • 電位の等価性: 電流が流れないのは「道がないから」ではなく「高低差(電位差)がないから」です。この理解があれば、ブリッジ回路以外の問題(例えば電位差計など)にも応用が利きます。
      • 抵抗比と分圧: 平衡条件は \(\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}\) とも書けます。これは「左側の分圧比と右側の分圧比が等しい」ことを意味しており、回路の対称性を示しています。
  • 回路の簡略化と再構築
    • 核心: 複雑に見える回路でも、電流が流れない部分を見抜いて「断線」とみなすことで、単純な直列・並列回路に帰着させる能力が問われます。
    • 理解のポイント:
      • 不要な枝の削除: 電流 \(0\) の枝は、電気的には存在しないのと同じです。これを消去して回路図を書き直す(メンタルモデルを再構築する)ことが、問題を解くための第一歩です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • メートルブリッジ: 抵抗線を用いたブリッジ回路。抵抗値の代わりに「長さ」の比を用いて平衡条件を立てます(\(R = \rho \frac{L}{S}\) より \(R \propto L\))。
    • 電位差計(ポテンショメーター): 未知の起電力を測定する装置。検流計に電流が流れないように調整して測定するため、原理はホイートストンブリッジと同じ「電位の平衡」です。
    • 非平衡ブリッジ: 検流計に電流が流れる場合。このときは平衡条件が使えないため、キルヒホッフの法則やテブナンの定理を用いて解く必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「電流が流れない」「検流計の値が0」というキーワードを探す: これがあれば、即座に「等電位」\(\to\)「平衡条件」または「回路の簡略化」へと思考をつなげます。
    2. 回路の対称性に注目する: 抵抗値が対称に配置されている場合、計算せずとも等電位点を見つけられることがあります。
    3. 回路図を変形してみる: 一見ブリッジに見えなくても、導線を伸縮させて書き直すとブリッジ回路になる場合があります。交差する導線やひし形の配置に注意しましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 公式の適用ミス(抵抗の場所間違い)
    • 誤解: \(R_1 R_4 = R_2 R_3\) の番号だけを覚えていて、図のどの抵抗がどれに対応するかを間違える。
    • 対策: 番号ではなく「向かい合う抵抗の掛け算(たすき掛け)」という視覚的なイメージで覚えましょう。「左上 \(\times\) 右下 = 左下 \(\times\) 右上」と指差し確認するのが確実です。
  • 平衡していないのに公式を使ってしまう
    • 誤解: ブリッジ回路のような形を見たら、条件を確認せずに反射的に平衡条件式を立ててしまう。
    • 対策: 必ず問題文に「検流計の電流が0」「スイッチを開閉しても電流が変わらない」といった平衡を示す記述があるか確認してください。記述がない場合は、キルヒホッフの法則で解く覚悟を持ちましょう。
  • 合成抵抗の計算ミス
    • 誤解: 並列回路の合成抵抗を \(R = R_1 + R_2\) と足してしまったり、逆数の和を求めた後に逆数に戻すのを忘れたりする。
    • 対策: 並列合成は「和分の積(\(\frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}\))」を使うか、単位(\(\Omega\))を確認する癖をつけましょう。合成抵抗は必ず元の抵抗よりも小さくなるはずなので、大きくなっていたら計算ミスです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ホイートストンブリッジの平衡条件の選択理由
    • 選定理由: 問題文に「検流計が示す値を0にした」と明記されているため。これは平衡状態の定義そのものであり、この条件式を使うのが最短ルートです。
    • 適用根拠: 回路構造がブリッジ型であり、かつ電流 \(0\) の条件が満たされているため、キルヒホッフの法則を立てて連立方程式を解く手間を省き、直接的に抵抗の関係式を導けます。
  • 別解(分流法)の選択理由
    • 選定理由: 全体の合成抵抗を求める過程で分数の計算が複雑になりそうな場合や、各枝の電流分布も知りたい場合に有効です。
    • 適用根拠: 平衡時は中央の線がない単純な並列回路となるため、各枝に電源電圧がそのままかかるという並列回路の基本性質を利用できます。これにより、問題を2つの独立した直列回路の問題に分解できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比の活用
    • (1)の計算では、\(10 \times R = 20 \times 20\) を解く際に、両辺を \(10\) で割って \(R = 2 \times 20 = 40\) と暗算できます。抵抗値の比(\(1:2\))が見えれば、計算すら不要です。
  • 単位の確認
    • 抵抗 \(R\) の単位は \(\Omega\)、電流 \(I\) の単位は \(\text{A}\) です。計算途中で \(k\Omega\)(キロオーム)や \(\text{mA}\)(ミリアンペア)が出てきた場合は、\(10^3\) や \(10^{-3}\) の換算を忘れないようにしましょう。本問は全て基本単位なのでそのまま計算できます。
  • 逆数計算のチェック
    • 並列合成抵抗の計算 \(\frac{1}{R’} = \frac{1}{30} + \frac{1}{60}\) では、通分して \(\frac{3}{60} = \frac{1}{20}\) となった後、必ずひっくり返して \(R’ = 20\) とすることを忘れないでください。「\(R’ = 0.05\,\Omega\)」のような極端に小さな値になったら、逆数に戻し忘れているサインです。

基本例題68 非直線抵抗

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 格子点を用いた数値的検証法(試行法)
      • 模範解答が「回路方程式を表す直線(負荷線)」をグラフに描き込み、特性曲線との交点として解を求める(幾何学的解法)のに対し、別解では「グラフ上の読み取りやすい点(格子点)」をいくつかピックアップし、それらが回路方程式を満たすかどうかを計算で確認して解を特定します(代数的・数値的解法)。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 道具への依存低減: 定規を持っていなかったり、直線を正確に引くのが難しい状況でも、計算によって確実に解を見つけることができます。
    • 方程式の解の本質的理解: 「連立方程式の解とは、両方の条件(グラフ上の点であること、回路方程式を満たすこと)を同時に満たす値の組である」という数学的な定義に立ち返って考える力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる電流と電圧の値は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「非直線抵抗を含む回路の解析」です。オームの法則(\(V=RI\))に従わない素子(電球やダイオードなど)が含まれる場合、数式だけで解くことが難しいため、グラフを用いた図式解法が有効になります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第2法則(電圧則): 閉回路において、起電力の和は電圧降下の和に等しい。
  2. 非直線抵抗の特性: 電流と電圧の関係が比例せず、グラフ(特性曲線)によって与えられる。
  3. 動作点(解)の決定: 素子の特性(グラフ)と回路の条件(方程式)を連立させて解く。図式解法では、グラフの交点として求められる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、回路図を見てキルヒホッフの第2法則を適用し、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の関係式(回路方程式)を立てます。
  2. (2)では、(1)で立てた式を変形して \(I-V\) グラフ上に直線として描きます。この直線と、問題で与えられた電球の特性曲線の交点が、実際の回路での電流と電圧(動作点)になります。
  3. (3)では、求めた \(V\) と \(I\) を用いて、電力の公式 \(P=VI\) から消費電力を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
回路は単純な直列回路です。電池の電圧が、電球と抵抗 \(R\) に分配されます。電球にかかる電圧を \(V\)、抵抗 \(R\) にかかる電圧を \(V_R\) とすると、これらの和が電源電圧 \(100\,\text{V}\) になります。
この設問における重要なポイント

  • 直列回路なので、電流 \(I\) は回路全体で共通である。
  • 抵抗 \(R\) での電圧降下は、オームの法則より \(200I\) となる。
  • キルヒホッフの第2法則(または電圧のつりあい)を用いて立式する。

具体的な解説と立式
回路を流れる電流を \(I\)、電球の両端の電圧を \(V\) とします。
抵抗 \(R=200\,\Omega\) を流れる電流も \(I\) なので、抵抗 \(R\) での電圧降下 \(V_R\) はオームの法則より、
$$ V_R = 200I $$
キルヒホッフの第2法則より、電源電圧は各素子の電圧降下の和に等しいので、
$$ 100 = V + V_R $$
これに \(V_R = 200I\) を代入して、\(V\) と \(I\) の関係式を作ります。
$$ 100 = V + 200I $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
  • キルヒホッフの第2法則: \(E = V_1 + V_2 + \dots\)
計算過程

立式した式を整理します(問題文が「関係式を示せ」なので、このままでも正解ですが、通常は見やすく整理します)。
$$ V + 200I = 100 $$
または、\(V\) について解いた形:
$$ V = 100 – 200I $$

この設問の平易な説明

電池が持っている \(100\,\text{V}\) のパワーを、電球と抵抗の2人で分け合います。抵抗が使う分は「抵抗値 \(\times\) 電流」で計算できるので \(200I\) です。残りが電球の分 \(V\) になります。つまり、「電球の分 \(V\)」と「抵抗の分 \(200I\)」を足すと、全体の \(100\) になるという式を立てました。

結論と吟味

関係式は \(V + 200I = 100\) (または \(V = 100 – 200I\))です。電流 \(I\) が増えると、抵抗での電圧降下 \(200I\) が大きくなるため、電球にかかる電圧 \(V\) は小さくなることが式から読み取れます。これは物理的に妥当です。

解答 (1) \(V + 200I = 100\) (または \(V = 100 – 200I\))

問(2)

思考の道筋とポイント
電球の電流 \(I\) と電圧 \(V\) は、以下の2つの条件を同時に満たす必要があります。
1. 電球自体の性質:グラフの曲線(特性曲線)上の点であること。
2. 回路の条件:(1)で求めた式 \(V = 100 – 200I\) を満たすこと。
数式で連立方程式を解くことができない(曲線の式が不明な)ため、グラフ上で直線を引いて交点を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 式 \(V = 100 – 200I\) は、\(I\) を縦軸、\(V\) を横軸にとると、傾きが負の一次関数(直線)を表す。
  • この直線をグラフに描くために、切片などの分かりやすい2点を探す。

具体的な解説と立式
(1)の式 \(V = 100 – 200I\) を変形して、\(I\) についての式(\(I = \dots\) の形)にすると、直線のグラフとして描きやすくなります。
$$
\begin{aligned}
200I &= 100 – V \\[2.0ex]
I &= -\frac{1}{200}V + \frac{100}{200} \\[2.0ex]
I &= -0.005V + 0.5
\end{aligned}
$$
この直線を描くために、軸との交点(切片)を求めます。

  • \(V = 0\) のとき:
    $$ I = 0.5\,\text{A} $$
    よって、点 \((0, 0.5)\) を通ります。
  • \(I = 0\) のとき:
    $$
    \begin{aligned}
    0 &= 100 – V \\[2.0ex]
    V &= 100\,\text{V}
    \end{aligned}
    $$
    よって、点 \((100, 0)\) を通ります。

使用した物理公式

  • 直線の方程式(負荷線): \(V + RI = E\)
計算過程

グラフ上で、点 \((0, 0.5)\) と点 \((100, 0)\) を定規で結びます。
この直線と、もともと描かれている曲線との交点を読み取ります。
図より、交点の座標は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
V &= 20\,\text{V} \\[2.0ex]
I &= 0.40\,\text{A}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電球は「わがまま」で、グラフの曲線上の電圧と電流のペアしか許しません。一方、電池と抵抗のセットは、式 \(V = 100 – 200I\) で決まる直線の関係を要求します。この2つの主張が折り合う妥協点が、グラフの「交点」です。直線を引いて交わったところを探すと、電圧が \(20\)、電流が \(0.40\) のときだけ、両方の条件をクリアできることが分かります。

結論と吟味

電流の大きさは \(0.40\,\text{A}\) です。交点はグラフの目盛り上にきれいに乗っており、読み取り値として確からしいです。

解答 (2) \(0.40\,\text{A}\)
別解: 格子点を用いた数値的検証法(試行法)

思考の道筋とポイント
直線を引くのが難しい場合や、交点が読み取りにくい場合、グラフ上の「読み取りやすい点(格子点)」に着目します。曲線が通っている格子点の座標 \((V, I)\) を読み取り、それが回路方程式 \(V + 200I = 100\) を満たすかどうかを計算でチェックします。
この設問における重要なポイント

  • 曲線が通る格子点(\(V\) と \(I\) がともに読み取りやすい値になる点)を探す。
  • 回路方程式 \(V + 200I\) の値が \(100\) になれば、それが解である。

具体的な解説と立式
グラフの曲線を見て、目盛りの交点(格子点)を通っている箇所を探します。
例えば、以下の点が読み取れます。

  1. 点A: \(V = 20\,\text{V}\), \(I = 0.40\,\text{A}\)
  2. 点B: \(V = 40\,\text{V}\), \(I = 0.60\,\text{A}\) 付近
  3. 点C: \(V = 60\,\text{V}\), \(I = 0.75\,\text{A}\) 付近

これらの点について、回路方程式の左辺 \(V + 200I\) を計算し、右辺の \(100\) と一致するか確認します。

計算過程
  • 点A \((20, 0.40)\) の場合:
    $$
    \begin{aligned}
    V + 200I &= 20 + 200 \times 0.40 \\[2.0ex]
    &= 20 + 80 \\[2.0ex]
    &= 100
    \end{aligned}
    $$
    これは方程式 \(100\) と一致します。したがって、これが求める解です。
  • (参考)点B \((40, 0.60)\) の場合:
    $$
    \begin{aligned}
    V + 200I &= 40 + 200 \times 0.60 \\[2.0ex]
    &= 40 + 120 \\[2.0ex]
    &= 160
    \end{aligned}
    $$
    これは \(100\) ではないので不適です。
この設問の平易な説明

直線を引く代わりに、グラフ上の「キリの良い点」をいくつかピックアップして、計算式に当てはめてみます。「電圧が \(20\) で電流が \(0.40\) ならどうかな?」と計算してみると、ちょうど式が成り立つことが分かります。まるでパズルのピースがはまる場所を探すような解き方です。

結論と吟味

点 \((20, 0.40)\) が解であることが確認できました。

解答 (2) \(0.40\,\text{A}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた、実際に回路で実現している電圧 \(V\) と電流 \(I\) を使って、電球が消費する電力を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電力の公式 \(P = VI\) を用いる。
  • 使う値は、(2)で求めた動作点(交点)の値である。

具体的な解説と立式
(2)より、電球にかかる電圧は \(V = 20\,\text{V}\)、流れる電流は \(I = 0.40\,\text{A}\) です。
消費電力 \(P\) は以下の式で求められます。
$$ P = VI $$

使用した物理公式

  • 電力の公式: \(P = VI\)
計算過程

値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
P &= 20 \times 0.40 \\[2.0ex]
&= 8.0\,\text{W}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電球がどれくらいのエネルギーを消費するか(明るさ)は、「電圧 \(\times\) 電流」で計算できます。先ほど求めた電圧 \(20\,\text{V}\) と電流 \(0.40\,\text{A}\) を掛け算して答えを出します。

結論と吟味

消費電力は \(8.0\,\text{W}\) です。単位も \(\text{V} \times \text{A} = \text{W}\) で正しいです。

解答 (3) \(8.0\,\text{W}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 非直線抵抗の図式解法(負荷線解析)
    • 核心: オームの法則(\(V=RI\))に従わない素子を含む回路では、代数的な連立方程式を解くことが困難です。そのため、「素子の特性(グラフ)」と「回路の制約条件(直線の方程式)」をグラフ上で重ね合わせ、その交点(動作点)として解を求める手法が必須となります。
    • 理解のポイント:
      • 2つの条件の同時成立: グラフ上の交点は、「素子としての性質(曲線)」と「回路全体でのエネルギー保存(直線)」の両方を同時に満たす唯一の状態を表しています。
      • 負荷線の意味: 直線 \(V = E – RI\) は、電源電圧 \(E\) から抵抗 \(R\) での電圧降下を引いた残りが素子にかかることを示しており、これを「負荷線」と呼びます。
  • キルヒホッフの第2法則の普遍性
    • 核心: 素子が抵抗であろうと電球であろうとダイオードであろうと、「閉回路を一周したときの電位変化の総和はゼロ」というエネルギー保存則は常に成り立ちます。
    • 理解のポイント:
      • 立式の基本: 未知の素子にかかる電圧を \(V\) と置き、他の部分(抵抗や電池)での電圧変化を足し合わせることで、必ず関係式を作ることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ダイオードを含む回路: ダイオードも非直線抵抗の一種です。順方向電圧と電流のグラフが与えられた場合、本問と全く同じ手順(負荷線を引いて交点を求める)で解けます。
    • トランジスタの増幅回路: トランジスタの静特性曲線に負荷線を引いて動作点を決める手法は、この問題の考え方が基礎になっています。
    • 可変抵抗を含む場合: 抵抗 \(R\) が変化すると、負荷線の傾き(\(-1/R\))や切片が変化します。グラフ上で直線を動かしながら、交点がどう移動するかを考える問題に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフが与えられているか確認する: 問題用紙に \(I-V\) グラフがあったら、「図式解法を使う問題だ」と即座に判断します。
    2. 回路方程式を \(I = \dots\) の形に変形する: グラフの縦軸が \(I\)、横軸が \(V\) であることが多いため、立てた式を \(I = – \frac{1}{R}V + \frac{E}{R}\) の形に変形しておくと、傾きと切片が見えやすくなります。
    3. 切片を計算する: 直線を引くために、\(V=0\) のときの \(I\)(\(y\)切片)と、\(I=0\) のときの \(V\)(\(x\)切片)の2点を求めます。これが最も確実な作図方法です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • グラフの軸の取り違え
    • 誤解: 数学の関数 \(y=ax+b\) に慣れているため、縦軸を \(V\)、横軸を \(I\) と思い込んで直線の式を立ててしまう。
    • 対策: 物理のグラフでは、縦軸と横軸が何を表しているか(単位は何か)を必ず確認しましょう。本問のように縦軸が \(I\) の場合、直線の式は \(I = \dots\) の形にする必要があります。
  • 直線の引き間違い
    • 誤解: 切片の計算を間違えたり、定規を使わずにフリーハンドで引いて交点がずれてしまう。
    • 対策: \(V=0\) と \(I=0\) の2点を計算したら、グラフ用紙の目盛りに点を打ち、定規を使って正確に結びましょう。交点の読み取り精度が答えの精度に直結します。
  • 「オームの法則」の誤適用
    • 誤解: 電球に対しても \(V=RI\) が成り立つと思い込み、適当な抵抗値 \(R\) を仮定して計算してしまう。
    • 対策: 「非直線抵抗」「電球」「ダイオード」という言葉が出たら、「抵抗値 \(R\) は一定ではない(電流によって変わる)」と肝に銘じましょう。グラフを使う以外に解く方法はありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • キルヒホッフの第2法則の選択理由
    • 選定理由: 回路全体の電圧と電流の関係を記述するための最も基本的な法則だからです。
    • 適用根拠: 直列回路において、電源電圧が各素子にどう分配されるかを数式化するには、この法則(電圧の和=電源電圧)を使うのが必然です。
  • 図式解法の選択理由
    • 選定理由: 電球の特性が数式(関数)ではなくグラフで与えられているため、代数的な計算が不可能だからです。
    • 適用根拠: 未知数が \(V\) と \(I\) の2つあり、条件式が「回路方程式(直線)」と「特性曲線」の2つある場合、それらの交点を求めることが連立方程式を解くことと同値であるという数学的根拠に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 切片の計算を暗算しない
    • \(I = 0\) のときの \(V\) を求めるとき、\(0 = 100 – 200I\) ではなく元の式 \(V + 200(0) = 100\) に戻って考えると、\(V=100\) が即座に出ます。式変形後の複雑な式ではなく、一番シンプルな式に \(0\) を代入して確認しましょう。
  • 交点の読み取りチェック
    • グラフから読み取った値(例えば \(V=20, I=0.40\))を、元の回路方程式 \(V + 200I = 100\) に代入して検算します。\(20 + 200 \times 0.40 = 20 + 80 = 100\)。これで計算ミスや読み取りミスがないことを100%保証できます。
  • 単位の確認
    • グラフの軸に \(\text{mA}\)(ミリアンペア)などが使われている場合があります。そのときは \(10^{-3}\) を掛けるのを忘れないようにしましょう。本問は \(\text{A}\) なのでそのままでOKです。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

基本問題

473 電流と電子の速さ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 単位の次元解析を用いた解法
      • 模範解答が公式 \(I=envS\) を用いて計算するのに対し、別解では物理量の単位(次元)に着目し、求めたい速さ \([\text{m/s}]\) を得るために、与えられた物理量をどのように組み合わせればよいかを論理的に導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 公式忘れへの対策: 万が一 \(I=envS\) の公式を忘れてしまっても、単位の整合性を考えることで自力で式を再構築できる力が身につきます。
    • 物理的意味の理解: 各物理量がどのように組み合わさって「速さ」という次元を構成しているのかを理解することで、公式の物理的な意味(電子の流れのモデル)がより深く定着します。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「電流の微視的モデル(ミクロな視点)」です。普段何気なく扱っている電流 \(I\) が、実は無数の電子の移動によって生じていることを、具体的な数値計算を通して理解します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電流の定義: 電流 \(I\,[\text{A}]\) とは、導線の断面を \(1\,\text{s}\) 間に通過する電気量 \(Q\,[\text{C}]\) のことである(\(I = Q/t\))。
  2. 電気量と電子の数: 電気量 \(Q\) は、電子1個の電気量の大きさ \(e\) と、電子の個数 \(N\) の積で表される(\(Q = eN\))。
  3. 電流と電子の速さの関係式: \(I = envS\)(\(e\): 電気素量, \(n\): 電子密度, \(v\): 平均の速さ, \(S\): 断面積)。この式は電流の定義から導かれる重要な公式です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電流の定義「\(1\,\text{s}\) 間に流れる電気量」を出発点とし、それを電子1個あたりの電気量で割ることで、通過した電子の個数を求めます。
  2. (2)では、電流と電子の速さを結びつける公式 \(I=envS\) を用いて、速さ \(v\) を計算します。あるいは、(1)で求めた「\(1\,\text{s}\) 間に通過する電子の数」が、長さ \(v\) の円柱内に含まれる電子の数と等しいことを利用して解くこともできます。

問(1)

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

「解法に至る思考プロセス」
全て言語化した、超詳細解説。

なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?

1週間無料で続きを読む

(※無料期間中に解約すれば0円です)

既に会員の方はこちら

PVアクセスランキング にほんブログ村