発展例題
発展例題35 金属球による電場と電位
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 電位のグラフの傾き(電場との関係)に着目する解法
- 模範解答は、求めた電位の数式 \(V=k\frac{Q}{x}\) を直接グラフにプロットしています。
- 別解では、「\(V-x\) グラフの接線の傾きの大きさは電場の強さ \(E\) を表す」という物理的性質を利用して、計算に頼らずにグラフの概形(平らな部分やカーブの形状)を決定します。
- 設問(2)の別解: 電位のグラフの傾き(電場との関係)に着目する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 数式を暗記してグラフを描くのではなく、電場と電位の微分・積分的な関係(傾きと面積の関係)を視覚的に理解する力が身につきます。
- 検算としての有効性: 数式で求めたグラフが正しいかどうかを、傾きの様子を見ることで瞬時にチェックできるようになります。
- 結果への影響
- どちらのアプローチでも、描かれるグラフの形状と特徴的な値は完全に一致します。
この問題のテーマは「帯電した導体球(金属球)がつくる電場と電位」です。点電荷の場合との類似点と、導体特有の性質(内部電場ゼロ)を正しく理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ガウスの法則: 電荷 \(Q\) から出る電気力線の総本数は \(4\pi kQ\) 本であり、電場の強さは電気力線の密度(単位面積あたりの本数)で表されること。
- 導体の静電的性質: 静電平衡状態にある導体内部では電場は \(0\) であり、導体全体は等電位となること。
- 電位の定義: 電位とは、単位正電荷を無限遠からその点まで運ぶのに外力が必要とする仕事(位置エネルギー)であること。
- 点電荷の電場の公式: \(E = k\frac{Q}{r^2}\)
- 点電荷の電位の公式: \(V = k\frac{Q}{r}\)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、金属球の外側における電気力線の広がり方が、点電荷の場合と同じ球対称であることを利用します。ガウスの法則を用いて電場の強さを求め、その結果から電位の式を導きます。
- (2)では、領域を「金属球の外側」と「金属球の内側」に分けて考えます。外側は(1)の結果を用い、内側は導体の性質(電場が \(0\))に基づいて電位が一定であることを示し、グラフを描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
金属球に電荷が一様に分布しているため、電気力線は表面から垂直に、放射状に広がります。この様子は、中心に点電荷がある場合と同じです。
まず、ガウスの法則(電気力線の本数と電荷の関係)を使って、球の外側での電場の強さ \(E\) を求めます。次に、その電場の形が点電荷と同じであることから、電位 \(V\) も点電荷の公式と同じ形になることを導きます。
この設問における重要なポイント
- 電荷 \(Q\) から出る電気力線の総本数は \(N = 4\pi kQ\) 本である。
- 電場の強さ \(E\) は、電気力線の密度(\(1\,\text{m}^2\) あたりの本数)に等しい。
- 球対称な電荷分布の外側では、全電荷が中心に集中しているとみなせる。
具体的な解説と立式
中心Oから距離 \(r\) の地点での電場の強さ \(E\) を考えます。ここで、\(r > R\)(球の外側)とします。
Oを中心とする半径 \(r\) の球面(閉曲面)を考えます。この球面全体を貫く電気力線の総本数 \(N\) は、内部に含まれる全電荷 \(Q\) によって決まり、ガウスの法則より以下のようになります。
$$ N = 4\pi kQ $$
電場の強さ \(E\) は、この球面上の単位面積あたりの電気力線の本数です。半径 \(r\) の球の表面積は \(S = 4\pi r^2\) なので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{N}{S} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi kQ}{4\pi r^2}
\end{aligned}
$$
この式を整理すると、点電荷がつくる電場の式と同じ形になります。
電位 \(V\) については、電場の式が点電荷と同じ \(E = k\frac{Q}{r^2}\) であるため、無限遠を基準とした電位も点電荷の公式と同じになります。
$$ V = k\frac{Q}{r} $$
使用した物理公式
- ガウスの法則(電気力線の本数): \(N = 4\pi kQ\)
- 球の表面積: \(S = 4\pi r^2\)
- 電場の定義: \(E = \frac{N}{S}\)
- 点電荷の電位: \(V = k\frac{Q}{r}\)
電場の強さ \(E\) の計算:
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{4\pi kQ}{4\pi r^2} \\[2.0ex]
&= k\frac{Q}{r^2}
\end{aligned}
$$
電位 \(V\) は公式より直ちに以下のようになります。
$$ V = k\frac{Q}{r} $$
金属球に溜まった電気は、お互いに反発し合って表面に均等に広がります。このとき、球の外側から見ると、電気力線はあたかも「球の中心一点から湧き出している」かのように見えます。
つまり、球の外側にいる人にとっては、大きさのある金属球も、中心にある小さな点電荷も、電気的な影響は全く同じなのです。だから、点電荷のときに習った公式がそのまま使えます。
電場の強さは \(k\frac{Q}{r^2}\)、電位は \(k\frac{Q}{r}\) です。
これは \(r\) が大きくなる(遠ざかる)につれて \(0\) に近づくため、無限遠で電位が \(0\) という基準と整合しています。また、単位を確認すると、\(k\) は \([\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2]\)、\(Q\) は \([\text{C}]\) なので、\(kQ/r^2\) は \([\text{N}/\text{C}]\)(電場)、\(kQ/r\) は \([\text{J}/\text{C}] = [\text{V}]\)(電位)となり正しいです。
問(2)
思考の道筋とポイント
グラフを描くために、\(x\) の範囲を2つに分けて電位 \(V\) の関数を求めます。
1. 金属球の外側 (\(x > R\)): (1)で求めた通り、点電荷と同じく距離に反比例して減少します。
2. 金属球の内側 (\(0 \le x \le R\)): 導体内部は電場が \(0\) なので、電位は場所によらず一定(等電位)になります。その値は、表面(\(x=R\))での電位と等しくなります。
この設問における重要なポイント
- \(x > R\) の領域では、\(V = k\frac{Q}{x}\)(反比例のグラフ)。
- \(0 \le x \le R\) の領域(導体内部)では、電場 \(E=0\) であるため、電位 \(V\) は変化せず一定値となる。
- 電位関数は \(x=R\) で連続につながる。
具体的な解説と立式
領域ごとに電位 \(V\) を式で表します。
- \(x \ge R\) の範囲(球の表面および外側)
(1)の結果より、中心からの距離 \(x\) を用いて、以下のようになります。
$$ V = k\frac{Q}{x} $$
特に、球の表面(\(x=R\))での電位 \(V_R\) は、以下のようになります。
$$ V_R = k\frac{Q}{R} $$ - \(0 \le x \le R\) の範囲(球の内部)
帯電した導体の内部では、電荷は移動を終えて静止しており(静電平衡状態)、電場 \(E\) はどこでも \(0\) です。
電場とは「電位の傾き(単位距離あたりの電位の変化)」のことなので、電場が \(0\) ということは、電位が変化しない(平らである)ことを意味します。
したがって、内部の電位は表面の電位と同じ値で一定となります。
$$ V = V_R = k\frac{Q}{R} \quad (\text{一定}) $$
これらをグラフに描きます。\(0 \le x \le R\) では一定値 \(k\frac{Q}{R}\) の水平な線、\(x > R\) では \(x\) 軸を漸近線とする双曲線(反比例)の一部となります。
使用した物理公式
- 導体内部の電位: \(V = \text{一定}\)
- 点電荷の電位: \(V = k\frac{Q}{x}\)
グラフの概形を描くための主要な値を計算します。
- \(x=0\) から \(x=R\) まで:
$$ V = k\frac{Q}{R} \quad (\text{定数}) $$ - \(x=R\) のとき:
$$ V = k\frac{Q}{R} $$ - \(x=2R\) のとき:
$$
\begin{aligned}
V &= k\frac{Q}{2R} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( k\frac{Q}{R} \right)
\end{aligned}
$$
(表面の半分の電位になる)
これらを元に、\(x=R\) で折れ曲がり、それ以降は滑らかに減少するグラフを描きます。
電位を「高さ」に例えてみましょう。
金属球の外側は、中心に向かって登っていく「山」のような形をしています。近づけば近づくほど急な坂になり、高さ(電位)は高くなります。
しかし、金属球の表面まで登りきると、そこから内側は平らな「台地」になっています。金属(導体)の中では電気の粒が自由に動けるため、もし高さに差(電位差)があれば、平らになるまで電気が移動してしまうからです。
だから、グラフは中心から表面まではずっと同じ高さで、表面から外側へ向かって滑り台のように下がっていく形になります。
グラフは、\(0 \le x \le R\) で \(V=k\frac{Q}{R}\) の水平線、\(x > R\) で \(V=k\frac{Q}{x}\) の曲線となります。
\(x=R\) において、内側の値 \(k\frac{Q}{R}\) と外側の式の値 \(k\frac{Q}{R}\) が一致しており、グラフがつながっている(連続である)ことが確認できます。これは物理的に妥当です。
(※グラフの概形:縦軸に \(V\)、横軸に \(x\) をとる。\(0 \le x \le R\) の区間では \(V = k\frac{Q}{R}\) の一定値(水平)。\(x > R\) の区間では \(V = k\frac{Q}{x}\) に従い減少する曲線。\(x=R\) で連続につながる。)
思考の道筋とポイント
電位 \(V\) と電場 \(E\) の間には、力学における「高さ」と「坂の傾き」のような密接な関係があります。具体的には、\(V-x\) グラフの接線の傾きの大きさは、その地点での電場の強さ \(E\) を表します(正確には \(E = -\frac{dV}{dx}\))。この関係を使って、グラフの形を推測します。
この設問における重要なポイント
- 電位 \(V\) のグラフの傾き(の絶対値)は、電場の強さ \(E\) に等しい。
- 導体内部(\(0 \le x < R\))では \(E=0\) なので、グラフの傾きは \(0\) になる。
- 導体外部(\(x > R\))では \(E > 0\) なので、グラフは右下がりになり、遠ざかるほど \(E\) が小さくなるので傾きは緩やかになる。
具体的な解説と立式
各領域での電場 \(E\) の様子から、電位 \(V\) のグラフの形状を決定します。
- \(0 \le x < R\)(内部):
導体内部では電場 \(E = 0\) です。
傾きが \(0\) ということは、グラフは水平(フラット)になります。
$$ \text{傾き} = 0 \quad \longrightarrow \quad V = \text{一定} $$ - \(x > R\)(外部):
導体外部では、電場 \(E = k\frac{Q}{x^2}\) です。
\(E > 0\)(右向き)なので、電位は距離とともに下がっていきます(グラフは右下がり)。
また、\(x\) が大きくなるにつれて \(E\)(傾きの大きさ)は急速に小さくなります。
つまり、\(x=R\) 直後は急な下り坂で、遠くに行くほどなだらかな下り坂になる曲線です。 - 接続点 \(x=R\):
電位は場所によって急にジャンプしたりしない(連続である)ため、内部の水平な線と外部の曲線は \(x=R\) でつながります。
以上の情報から、\(0 \le x \le R\) で一定、\(x > R\) で減少する反比例型のグラフが描けます。
使用した物理公式
- 電場と電位の関係: \(E = -\frac{dV}{dx}\) (傾きの大きさ \(| \text{傾き} | = E\))
この解法は定性的な形状決定に主眼を置いていますが、具体的な値を求めるにはやはり公式が必要です。
表面(\(x=R\))での電位 \(V_R\) を基準とすると、
内部は傾きなしなので、ずっと \(V_R\)。
外部は傾き \(kQ/x^2\) で下がっていくので、積分すると \(kQ/x\) の形になります。
グラフを描くとき、「傾き」に注目すると間違いを見つけやすくなります。
金属球の中は「風(電場)」が吹いていないので、水面のように平ら(電位一定)です。
外に出ると、外向きの強い風が吹いているので、風下(遠く)に行くほど高さ(電位)は下がっていきます。遠くに行けば行くほど風は弱まるので、坂の角度もだんだん緩やかになっていきます。
このようなイメージを持つと、計算しなくてもグラフの形がパッと思い浮かぶようになります。
この考察から得られるグラフの形状は、メインの解法で数式から描いたものと完全に一致します。特に、\(x=R\) でグラフが「カクッ」と折れ曲がる(傾きが \(0\) から有限の値に不連続に変化する)ことは、表面に電荷が分布しており、そこで電場が \(0\) から \(kQ/R^2\) へと不連続に変化することと対応しています。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ガウスの法則と球対称性
- 核心: 電荷分布が球対称である場合、その外側に作られる電場は、全電荷が中心に集中した点電荷が作る電場と全く同じになるという事実です。
- 理解のポイント:
- 電気力線の保存: 電荷 \(Q\) から出る電気力線の総本数 \(4\pi kQ\) は、どんなに遠く離れても変わりません。
- 対称性の利用: 球対称性により、中心からの距離 \(r\) が等しい場所では、電気力線の密度(=電場の強さ)も等しくなります。これにより、複雑な積分計算をせずに、単純な割り算(総本数÷表面積)だけで電場を求めることができます。
- 導体の静電遮蔽と等電位性
- 核心: 静電平衡状態にある導体内部では、電荷の移動が完了しており、電場が \(0\) になることです。そして、電場が \(0\) である領域では電位差が生じないため、導体全体が等電位になります。
- 理解のポイント:
- 因果関係: 「電荷が自由に動ける」→「電場があれば力が働いて動く」→「動き終わった状態(静電平衡)では力が働かない」→「つまり電場は \(0\)」→「電場(傾き)が \(0\) なので電位(高さ)は一定」という論理の流れを掴むことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 同心球殻コンデンサー: 中心に金属球、その外側に金属球殻があるような問題。この場合も、ガウスの法則を使って領域ごとに電場を求め、電位を計算します。ただし、球殻の内側表面に誘導電荷が現れる点に注意が必要です。
- 一様に帯電した球体(絶縁体): 金属ではなく、絶縁体の球全体に電荷が染み込んでいる場合。この場合は、球の内部でもガウスの法則を適用すると、内部に含まれる電荷量が半径 \(r\) に応じて変化するため、電場は \(0\) にならず、中心からの距離に比例する形になります。
- 無限に長い直線電荷や平面電荷: 球対称ではなく、軸対称(円筒形)や面対称の場合。ガウスの法則で考える閉曲面を、球ではなく円筒や直方体に設定することで同様に解けます。
- 初見の問題での着眼点:
- 対称性を見抜く: 電荷の分布を見て、「球対称」か「軸対称」か「面対称」かを確認します。対称性が高ければ、ガウスの法則が強力な武器になります。
- 導体か絶縁体(不導体)かを区別する: 「金属球(導体)」なら内部電場は \(0\) ですが、「一様に帯電した球(絶縁体)」なら内部にも電場があります。この条件の違いを見落とさないようにしましょう。
- 境界条件を確認する: 電位のグラフを描く際は、領域の境界(球の表面など)でグラフが連続につながることを利用して、式の定数を決定したり検算したりします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 導体内部の電位を0としてしまう:
- 誤解: 「導体内部は電場が \(0\)」という事実と混同して、「電位も \(0\)」だと思い込んでしまうミスです。
- 対策: 電場は「傾き」、電位は「高さ」だとイメージしましょう。平らな場所(傾き \(0\))でも、標高(高さ)が高いことはあり得ます。導体内部は「高原」のようなもので、高さは一定ですが \(0\) ではありません。
- 電位の基準点を忘れる:
- 誤解: 電位の式 \(V=kQ/r\) を無条件に使ってしまう。
- 対策: この公式は「無限遠を基準(\(0\))」とした場合のものです。問題によっては「アース(接地)された場所を \(0\) とする」などの指定がある場合があり、そのときは定数を加えて補正する必要があります。
- グラフの接続での不連続:
- 誤解: 領域ごとに求めた式をただ並べただけで、境界で値がズレていることに気づかない。
- 対策: 必ず境界の値(\(x=R\))を両方の式に代入し、値が一致することを確認しましょう。物理的に電位がジャンプする(不連続になる)ことはありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(ガウスの法則):
- 選定理由: 電荷分布が球対称であり、電場を求める問題だからです。クーロンの法則を積分して求めることも可能ですが、対称性を利用できる場合はガウスの法則の方が圧倒的に計算が楽で、物理的本質も見えやすくなります。
- 適用根拠: 問題文に「金属球に電荷 \(Q\) を与える」とあり、導体表面に一様に電荷が分布することが自明であるため、球対称性が保証されます。
- (2)での公式選択(電位の定義と接続):
- 選定理由: 導体内部の電位を求める際、直接的な公式はありません。しかし、「電場が \(0\) である」という導体の性質と、「電位は電場の積分(傾きの積み重ね)である」という定義を組み合わせることで、「電位は一定」という結論を導けます。
- 適用根拠: 外部の電位は(1)で求まっています。電位の連続性から、内部(一定値)の値は、外部の式の \(x=R\) での値と等しくならなければならないという論理で値を決定します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 次元解析(単位チェック):
- 電場の式は \(kQ/r^2\)(分母が距離の2乗)、電位の式は \(kQ/r\)(分母が距離の1乗)です。計算の最後で、分母の次数が合っているか必ず確認しましょう。
- 極限の確認:
- \(r \to \infty\) としたとき、電場も電位も \(0\) になるか確認します。もしならなければ、無限遠基準という前提と矛盾しており、式が間違っています。
- グラフの概形チェック:
- 自分で求めた関数のグラフを描くときは、単にプロットするだけでなく、「傾き(微分)」が物理的な意味(電場)と合っているかを確認します。例えば、導体内部で電位のグラフが傾いていたら、それは「内部に電場がある」ことを意味してしまい、導体の性質と矛盾します。
発展例題36 電位の合成
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数の点電荷による電位の合成と、電荷の移動に伴う仕事」です。電場(ベクトル)と異なり、電位(スカラー)は単純な足し算で求められる点が最大の特徴です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 点電荷の電位の公式: 無限遠を基準としたとき、電荷 \(Q\) から距離 \(r\) 離れた点の電位は \(V = k\frac{Q}{r}\) で表されます。
- 電位の重ね合わせの原理: 複数の電荷がある場合、ある点での電位は、それぞれの電荷が単独で作る電位の単純な和(スカラー和)になります。向きを考える必要はありません。
- 静電気力による位置エネルギー: 電位 \(V\) の点にある電荷 \(q\) が持つ位置エネルギーは \(U = qV\) です。
- 外力の仕事とエネルギーの関係: 電荷をゆっくり移動させるのに必要な仕事 \(W\) は、その間の位置エネルギーの増加分に等しくなります(\(W = \Delta U\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点Cと点Pそれぞれについて、点Aの電荷が作る電位と点Bの電荷が作る電位を公式を用いて計算し、それらを足し合わせます。
- (2)では、(1)で求めた電位を用いて、点Cと点Pでの電荷の静電気力による位置エネルギーを求めます。「必要な仕事」は「位置エネルギーの増加分」に等しいという関係式を用いて計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
電位は「電気的な高さ」を表す量であり、スカラー量(向きを持たない単なる数値)です。したがって、複数の電荷がある場所の電位を求めるには、それぞれの電荷が作る電位を計算して、そのまま足し算すればよいだけです。ベクトルの合成のように成分分解や三平方の定理を使う必要はありません。
この設問における重要なポイント
- 点電荷 \(Q\) が距離 \(r\) の点に作る電位は \(V = k\frac{Q}{r}\)。
- 電位はスカラーなので、単純に和をとる(\(V_{\text{合成}} = V_A + V_B\))。
- 点A、点Bにある電荷はともに正電荷なので、周囲の電位を正(プラス)に持ち上げる。
具体的な解説と立式
まず、点Cの電位 \(V_C\) を求めます。
点Cは、点Aからも点Bからも距離 \(0.20\,\text{m}\) の位置にあります。
点Aの電荷 \(Q\) が点Cに作る電位を \(V_{AC}\)、点Bの電荷 \(Q\) が点Cに作る電位を \(V_{BC}\) とすると、重ね合わせの原理より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V_C &= V_{AC} + V_{BC} \\[2.0ex]
&= k\frac{Q}{0.20} + k\frac{Q}{0.20}
\end{aligned}
$$
次に、点Pの電位 \(V_P\) を求めます。
点Pは辺ABの中点なので、点Aからも点Bからも距離 \(0.10\,\text{m}\) の位置にあります。
同様に、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V_P &= V_{AP} + V_{BP} \\[2.0ex]
&= k\frac{Q}{0.10} + k\frac{Q}{0.10}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 点電荷の電位: \(V = k\frac{Q}{r}\)
- 電位の合成: \(V = V_1 + V_2 + \dots\)
与えられた数値 \(k = 9.0 \times 10^9\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\)、\(Q = 2.0 \times 10^{-6}\,\text{C}\) を代入して計算します。
点Cの電位 \(V_C\):
$$
\begin{aligned}
V_C &= 9.0 \times 10^9 \times \frac{2.0 \times 10^{-6}}{0.20} + 9.0 \times 10^9 \times \frac{2.0 \times 10^{-6}}{0.20} \\[2.0ex]
&= 2 \times \left( 9.0 \times 10^9 \times \frac{2.0 \times 10^{-6}}{0.20} \right) \\[2.0ex]
&= 2 \times \frac{18 \times 10^3}{0.20} \\[2.0ex]
&= \frac{36 \times 10^3}{0.20} \\[2.0ex]
&= 180 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 1.8 \times 10^5\,\text{V}
\end{aligned}
$$
点Pの電位 \(V_P\):
$$
\begin{aligned}
V_P &= 9.0 \times 10^9 \times \frac{2.0 \times 10^{-6}}{0.10} + 9.0 \times 10^9 \times \frac{2.0 \times 10^{-6}}{0.10} \\[2.0ex]
&= 2 \times \left( 9.0 \times 10^9 \times \frac{2.0 \times 10^{-6}}{0.10} \right) \\[2.0ex]
&= 2 \times \frac{18 \times 10^3}{0.10} \\[2.0ex]
&= \frac{36 \times 10^3}{0.10} \\[2.0ex]
&= 360 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 3.6 \times 10^5\,\text{V}
\end{aligned}
$$
電位を「山の高さ」に例えると分かりやすいです。A地点とB地点にそれぞれ「高さを作る装置(正電荷)」が置いてあります。
C地点での高さ(電位)を知りたければ、Aの装置が作る高さと、Bの装置が作る高さを単純に足せばよいのです。
P地点はC地点よりも装置(電荷)に近いので、より急な斜面を登った高い場所にあるはずです。計算結果も \(V_P > V_C\) となっており、電荷に近いほど電位が高いことがわかります。
点Cの電位は \(1.8 \times 10^5\,\text{V}\)、点Pの電位は \(3.6 \times 10^5\,\text{V}\) です。
電荷からの距離が近い点Pの方が、遠い点Cよりも電位が高くなっています。正電荷の近くほど電位が高いという物理的直感と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
「電荷を移動させるのに必要な仕事」とは、外力(私たちが加える力)がする仕事のことです。
静電気力に逆らって(あるいは従って)電荷をゆっくり運ぶとき、外力がした仕事は、そのまま電荷の静電気力による位置エネルギーの増加分になります。
つまり、「あとの位置エネルギー」から「はじめの位置エネルギー」を引けば、必要な仕事が求まります。
この設問における重要なポイント
- 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
- 外力がする仕事 \(W\) と位置エネルギーの変化 \(\Delta U\) の関係: \(W = \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)
- 移動させる電荷 \(q = 3.0 \times 10^{-8}\,\text{C}\) は正電荷である。
- 移動方向は C(低電位) \(\rightarrow\) P(高電位)である。
具体的な解説と立式
移動させる電荷を \(q = 3.0 \times 10^{-8}\,\text{C}\) とします。
点C(始点)での位置エネルギー \(U_C\) は、
$$ U_C = qV_C $$
点P(終点)での位置エネルギー \(U_P\) は、
$$ U_P = qV_P $$
外力が必要な仕事 \(W\) は、位置エネルギーの増加分に等しいので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
W &= U_P – U_C \\[2.0ex]
&= qV_P – qV_C \\[2.0ex]
&= q(V_P – V_C)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
- 仕事とエネルギーの関係: \(W = \Delta U\)
(1)の結果 \(V_C = 1.8 \times 10^5\,\text{V}\)、\(V_P = 3.6 \times 10^5\,\text{V}\) と、\(q = 3.0 \times 10^{-8}\,\text{C}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= 3.0 \times 10^{-8} \times (3.6 \times 10^5 – 1.8 \times 10^5) \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 10^{-8} \times (1.8 \times 10^5) \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 1.8 \times 10^{-8} \times 10^5 \\[2.0ex]
&= 5.4 \times 10^{-3}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
(1)で求めた通り、C地点は「低い場所(\(1.8 \times 10^5\,\text{V}\))」、P地点は「高い場所(\(3.6 \times 10^5\,\text{V}\))」です。
正の電荷を「重さのあるボール」だと想像してください。低い場所から高い場所へボールを持ち上げるには、私たちが力を加えて仕事をする必要があります。
その仕事の量は、「運ぶ荷物の量(電荷 \(q\))」と「高さの差(電位差 \(V_P – V_C\))」の掛け算で求められます。
必要な仕事は \(5.4 \times 10^{-3}\,\text{J}\) です。
正電荷を電位の高い方へ運ぶため、外力は正の仕事をします。計算結果が正の値になっているので、符号も正しいです。もし負電荷を運ぶ場合や、高電位から低電位へ運ぶ場合は、仕事は負(外力は仕事をされる、あるいはブレーキをかける役割)になります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電位の重ね合わせの原理(スカラー和)
- 核心: 複数の点電荷が作る電位は、それぞれの電荷が単独で作る電位の単純な足し算(スカラー和)で求められるという原理です。
- 理解のポイント:
- ベクトルとの違い: 電場はベクトルなので合成には平行四辺形の法則や成分分解が必要ですが、電位はスカラー(数値)なので、正負を含めてそのまま足すだけで済みます。
- 独立性: 他の電荷が存在しても、ある電荷が作る電位の式 \(V=kQ/r\) は影響を受けません。
- 静電気力による位置エネルギーと仕事
- 核心: 電荷 \(q\) を電位 \(V\) の場所に置くと、\(U=qV\) という位置エネルギーを持つこと。そして、電荷を移動させる際の仕事は、この位置エネルギーの変化量に対応することです。
- 理解のポイント:
- 保存力としての静電気力: 重力と同じように、静電気力も保存力です。したがって、移動経路に関係なく、始点と終点の電位差だけで仕事が決まります。
- 外力の仕事: ゆっくり移動させる場合、外力がする仕事 \(W\) は位置エネルギーの増加分 \(\Delta U\) に等しくなります(\(W = q\Delta V\))。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 正方形や長方形の頂点に電荷がある問題: 配置が変わっても、各電荷からの距離 \(r\) を三平方の定理などで求め、\(V=kQ/r\) を足し合わせる手順は全く同じです。
- 負電荷が含まれる問題: 電荷 \(Q\) が負の場合、電位 \(V\) も負になります。足し算するときに符号を間違えないように注意が必要です(例: \(V_{\text{合成}} = V_+ + (-V_-)\))。
- 電位が0になる点を探す問題: \(V_A + V_B = 0\) となる点を探す場合、正電荷の近くでは正、負電荷の近くでは負になることを利用して、その境界(ゼロ点)を見つけます。
- 初見の問題での着眼点:
- 対称性を利用する: 今回の問題のように正三角形や正方形などの対称的な配置では、距離が等しいペアを見つけると計算が楽になります(例: \(V_{AC} = V_{BC}\))。
- 電位の基準を確認する: 通常は「無限遠を0」としますが、回路の問題などでは「アース(接地)を0」とする場合があります。基準が変わると電位の値も変わるので注意が必要です。
- 仕事の主語を確認する: 「外力がする仕事」なのか「静電気力(電場)がする仕事」なのかを問題文でよく読み取ります。これらは大きさは同じで符号が逆になります(\(W_{\text{外力}} = -W_{\text{静電気力}}\))。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電位をベクトルとして合成してしまう:
- 誤解: 電場のように矢印を描いて、成分分解して合成しようとしてしまう。
- 対策: 「電位は高さ(スカラー)、電場は傾き(ベクトル)」というイメージを徹底しましょう。高さは足すだけです。
- 仕事の符号ミス:
- 誤解: \(W = q(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}})\) なのか \(W = q(V_{\text{終点}} – V_{\text{始点}})\) なのか混乱する。
- 対策: 「エネルギーの増加分=外力の仕事」という基本原理 \(W = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\) に立ち返りましょう。また、「正電荷を高いところへ運ぶのは大変(正の仕事)」、「低いところへ落とすのは楽(負の仕事)」という直感で検算するのも有効です。
- 距離の単位忘れ:
- 誤解: \(20\,\text{cm}\) をそのまま \(20\) として計算してしまう。
- 対策: クーロンの法則の比例定数 \(k\) の単位に \(\text{m}\) が含まれているので、必ずメートル単位(\(0.20\,\text{m}\))に換算してから代入しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(点電荷の電位):
- 選定理由: 点電荷が作る電場の中での電位を求める問題だからです。
- 適用根拠: 電荷が点状であり、無限遠を基準としているため、\(V=kQ/r\) がそのまま適用できます。複数の電荷がある場合は、重ね合わせの原理により、それぞれの電位を足し合わせます。
- (2)での公式選択(仕事とエネルギー):
- 選定理由: 電荷の移動に伴う仕事を求める問題だからです。力 \(\times\) 距離で計算しようとすると、移動中に力が変化するため積分が必要になり大変です。エネルギー変化に着目するのが定石です。
- 適用根拠: 静電気力は保存力なので、仕事は経路によらず、始点と終点のポテンシャルエネルギーの差だけで決まります。したがって \(W = q(V_P – V_C)\) が最適かつ最短の解法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 共通因数をくくりだす:
- \(V_C = k\frac{Q}{r} + k\frac{Q}{r}\) のように同じ形が出てくる場合、数値を代入する前に \(2k\frac{Q}{r}\) とまとめてから計算すると、計算回数が減りミスも減ります。
- 指数の計算を丁寧に行う:
- \(10^9 \times 10^{-6} / 10^{-1}\) のような計算では、指数部分(\(9-6-(-1) = 4\))だけを別枠で慎重に計算しましょう。
- 符号の確認:
- 仕事の計算では、\(q\) の符号と電位差 \(V_{\text{後}} – V_{\text{前}}\) の符号の組み合わせで最終的な符号が決まります。計算後に「正電荷を低電位から高電位へ運んだから、仕事はプラスになるはず」といった物理的な意味でのチェックを必ず行いましょう。
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発展問題
446 点電荷と力のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 合成電場が \(0\) であることに着目する解法
- 模範解答では、点Cの電荷 \(Q\) に働く「力」のつりあいを考えています。
- 別解では、点Cの位置における「合成電場」が \(0\) であれば、そこに電荷を置いても力は働かないという「場」の観点から立式します。
- 合成電場が \(0\) であることに着目する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の理解: 「力がつりあう」という現象を、「その場所の電場が \(0\) である」という場の性質として捉え直すことで、電場の概念(単位電荷あたりの力)への理解が深まります。
- 計算の効率化: 力の式を立ててから共通の電荷 \(Q\) で割る手間が省け、最初から電場の大きさの比較だけで式を立てられます。
- 結果への影響
- どちらのアプローチでも、最終的に得られる関係式と答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「点電荷がつくる電場とクーロン力のつり合い」です。複数の電荷が存在する空間で、特定の電荷に働く力がつりあう条件を求める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則(電場の強さ): 点電荷 \(Q\) から距離 \(r\) 離れた点の電場の強さは \(E = k\frac{Q}{r^2}\) で表されます。
- 電場の重ね合わせの原理: 複数の電荷が作る電場は、それぞれの電荷が単独で作る電場(ベクトル)の合成(ベクトル和)になります。
- 対称性の利用: 電荷の配置に対称性がある場合、電場の成分の一部が打ち消し合うことを利用して計算を簡略化できます。
- 電場と力の関係: 電場 \(\vec{E}\) の中にある電荷 \(q\) が受ける力は \(\vec{F} = q\vec{E}\) です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 点Oの電荷 \(q\) と点Aの電荷 \(-q\) が点Cにつくる電場をそれぞれ考え、それらを合成します。対称性により、\(y\) 成分が打ち消し合い、\(x\) 成分のみが残ることを確認します。
- 点Bの電荷 \(-Q\) が点Cにつくる電場を求めます。
- 点Cに置かれた電荷 \(Q\) に働く、これら2つのグループ(O・AペアとB)からの力がつりあう条件式(大きさ等しく向き逆)を立て、\(Q/q\) を求めます。
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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