発展例題
発展例題51 年代測定
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射性同位体を用いた年代測定」です。生物の遺骸などに含まれる放射性炭素(\({}^{14}\text{C}\))の量が、時間の経過とともに規則的に減少していく性質を利用して、その生物がいつ死んだか(炭素の取り込みを止めたか)を推定する方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 半減期: 放射性同位体の数が元の半分になるのにかかる時間。
- 放射性崩壊の法則: 時間 \(t\) 後の原子核の数 \(N\) は、初期数 \(N_0\) と半減期 \(T\) を用いて \(N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\) と表されます。
- 対数計算: 指数部分にある未知数(時間 \(t\))を求めるために、対数(\(\log\))を用いて計算する数学的スキルが必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問題文から「現在の \({}^{14}\text{C}\) の量が初期値の何分の一になっているか」を読み取ります。
- 次に、半減期の公式 \(N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\) に値を代入し、時間 \(t\) に関する方程式を立てます。
- 最後に、両辺の常用対数をとることで指数部分を下ろし、与えられた対数値(\(\log_{10}2, \log_{10}3\))を使って \(t\) を計算します。
年代測定
思考の道筋とポイント
植物が生きている間は、大気中の二酸化炭素を取り込み続けるため、体内の \({}^{14}\text{C}\) と \({}^{12}\text{C}\) の比率は大気中と同じ一定値に保たれています。しかし、枯れて炭素の取り込みが止まると、安定な \({}^{12}\text{C}\) は減りませんが、放射性同位体である \({}^{14}\text{C}\) は \(\beta\) 崩壊して減少していきます。
問題文より、現在の \({}^{14}\text{C}\) の数は、生きていた頃(大気中と同じ比率)の \(1/3\) になっています。
この情報と半減期の公式を結びつけ、経過時間 \(t\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- \({}^{12}\text{C}\) の数は変化しないため、比率の変化はそのまま \({}^{14}\text{C}\) の数の変化を表す。
- 半減期 \(T = 5.7 \times 10^3\) 年。
- 現在の数 \(N\) は初期数 \(N_0\) の \(1/3\) 倍。
- 指数方程式を解くために対数を利用する。
具体的な解説と立式
ある時刻 \(t\) における放射性同位体の数 \(N\) は、初期数 \(N_0\)、半減期 \(T\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
N &= N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}
\end{aligned}
$$
ここで、問題文より、現在の \({}^{14}\text{C}\) の数は初期の \(1/3\) なので、\(N = \displaystyle\frac{N_0}{3}\) です。
また、半減期 \(T = 5.7 \times 10^3\) 年です。
これらを式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{N_0}{3} &= N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5.7 \times 10^3}}
\end{aligned}
$$
両辺を \(N_0\) で割って整理すると、以下の式が得られます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{3} &= \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5.7 \times 10^3}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 放射性崩壊の法則(半減期の式): \(N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\)
求めた式の両辺の常用対数(底が \(10\) の対数)をとります。
$$
\begin{aligned}
\log_{10} \left( \frac{1}{3} \right) &= \log_{10} \left( \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5.7 \times 10^3}} \right)
\end{aligned}
$$
対数の性質 \(\log_{10} (A^B) = B \log_{10} A\) と \(\log_{10} (1/A) = -\log_{10} A\) を利用して変形します。
左辺:
$$
\begin{aligned}
\log_{10} \left( \frac{1}{3} \right) &= \log_{10} (3^{-1}) \\[2.0ex]
&= -\log_{10} 3
\end{aligned}
$$
右辺:
$$
\begin{aligned}
\log_{10} \left( \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5.7 \times 10^3}} \right) &= \frac{t}{5.7 \times 10^3} \log_{10} \left( \frac{1}{2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{t}{5.7 \times 10^3} \log_{10} (2^{-1}) \\[2.0ex]
&= -\frac{t}{5.7 \times 10^3} \log_{10} 2
\end{aligned}
$$
したがって、方程式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
-\log_{10} 3 &= -\frac{t}{5.7 \times 10^3} \log_{10} 2
\end{aligned}
$$
両辺に \(-1\) を掛け、\(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\log_{10} 3 &= \frac{t}{5.7 \times 10^3} \log_{10} 2 \\[2.0ex]
t &= 5.7 \times 10^3 \times \frac{\log_{10} 3}{\log_{10} 2}
\end{aligned}
$$
与えられた数値 \(\log_{10} 2 = 0.30, \log_{10} 3 = 0.48\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
t &= 5.7 \times 10^3 \times \frac{0.48}{0.30} \\[2.0ex]
&= 5.7 \times 10^3 \times \frac{48}{30} \\[2.0ex]
&= 5.7 \times 10^3 \times 1.6
\end{aligned}
$$
数値部分の計算を行います。
$$
\begin{aligned}
5.7 \times 1.6 &= 9.12
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
t &= 9.12 \times 10^3
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
t &\approx 9.1 \times 10^3\,\text{年}
\end{aligned}
$$
放射性炭素 \({}^{14}\text{C}\) は、サイコロを振って特定の目が出たら消えるように、時間が経つにつれて一定の確率で減っていきます。その数が半分になる期間(半減期)は決まっています。
この木片では、\({}^{14}\text{C}\) が元の \(1/3\) にまで減っていました。半分(\(1/2\))になるには \(5700\) 年かかりますが、\(1/3\) は \(1/2\) よりさらに少ないので、\(5700\) 年よりも長い時間が経っているはずです。その正確な時間を、対数という数学の道具を使って計算しました。
計算結果 \(9.1 \times 10^3\) 年は、半減期 \(5.7 \times 10^3\) 年よりも長くなっています。\(1/3\)(約 \(0.33\))は \(1/2\)(\(0.5\))より小さく、\(1/4\)(\(0.25\))より大きいので、経過時間は半減期の1倍(\(5700\) 年)と2倍(\(11400\) 年)の間になるはずです。\(9100\) 年はこの範囲に収まっており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 放射性崩壊の法則(半減期の式)
- 核心: 放射性同位体の原子核数は、時間が経過するにつれて指数関数的に減少します。その減少の速さを特徴づけるのが「半減期 \(T\)」であり、時間 \(t\) 後の残存数 \(N\) は \(N = N_0 (1/2)^{t/T}\) というシンプルな式で記述されます。
- 理解のポイント:
- 確率的な現象: 個々の原子核がいつ崩壊するかは予測できませんが、大量の原子核が集まると、全体としては規則的な減少パターン(半減期ごとに半分になる)を示します。
- 環境に依存しない: 放射性崩壊の確率は、温度や圧力、化学結合の状態(燃やしても凍らせても)に影響されません。だからこそ、信頼性の高い「時計」として年代測定に利用できるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 残存割合から時間を求める: 本問のように「\(1/3\) になった」「\(10\%\) になった」という条件から経過時間を求めるパターン。常に対数計算が必要になります。
- 時間から残存割合を求める: 「半減期の3倍の時間が経過したときの残存量は?」といった問題。\(t=3T\) を代入すれば \((1/2)^3 = 1/8\) と即座に求まります。
- 半減期そのものを求める: 「\(X\) 年後に \(1/5\) になった。半減期は?」というパターン。これも同じ式を変形して \(T\) を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準となる量(\(N_0\))を確認する: 何と比較して減ったのか(大気中の比率、生きている植物など)を問題文から読み取ります。
- 「比率」を数式にする: 「\(A\) が \(B\) の \(1/x\) 倍」という情報を \(N = N_0/x\) という等式に変換します。
- 対数の底を確認する: 問題文で与えられている対数が常用対数(\(\log_{10}\))か自然対数(\(\ln\))かを確認し、それに合わせて計算を進めます。物理では自然対数を使うことも多いですが、高校物理の計算問題では常用対数が一般的です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 半減期の意味の誤解:
- 誤解: 「半減期が \(T\) 年だから、\(T/2\) 年経てば \(1/4\) 減る(\(3/4\) 残る)」と直線的に考えてしまう。
- 対策: 減少は直線(一次関数)ではなく、指数関数的です。\(T/2\) 年後の残存量は \((1/2)^{0.5} = 1/\sqrt{2} \approx 0.71\) 倍であり、\(0.75\) 倍ではありません。必ず公式 \(N = N_0 (1/2)^{t/T}\) を使いましょう。
- 対数計算のミス:
- 誤解: \(\log(1/3)\) を \(\log 1 – \log 3\) と展開せず、そのまま計算不能になったり、符号を間違えたりする。
- 対策: \(\log(A/B) = \log A – \log B\)、\(\log(A^n) = n \log A\) という対数の基本公式を復習し、確実に変形できるようにしましょう。特に \(\log 1 = 0\) は頻出です。
- \({}^{12}\text{C}\) の役割の誤解:
- 誤解: \({}^{12}\text{C}\) も減ると考えてしまう、あるいは計算に \({}^{12}\text{C}\) の数を直接使おうとする。
- 対策: \({}^{12}\text{C}\) は安定同位体であり、数は変わりません。あくまで「基準(分母)」として存在しているだけで、計算の主役は減っていく \({}^{14}\text{C}\)(分子)であることを意識しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 公式選択(\(N = N_0 (1/2)^{t/T}\)):
- 選定理由: 「半減期」と「残存量」の関係を記述する公式はこれしかありません。
- 適用根拠: 問題文で「半減期」が与えられ、「数が減少する」現象を扱っているため、この公式の適用は自明かつ必然です。
- 数学的道具の選択(対数):
- 選定理由: 未知数 \(t\) が指数の位置(肩の上)にあるため、それを地上(係数)に下ろすためには対数を取る必要があります。
- 適用根拠: \(1/3 = (1/2)^x\) のような方程式は、\(x\) が整数でない限り、対数を使わずに解くことは困難です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま変形する:
- いきなり数値を代入せず、\(t = T \times \displaystyle\frac{\log(\text{残存率})}{\log(1/2)}\) のように、\(t = \dots\) の形まで文字式で変形してから、最後に数値を代入しましょう。これにより、計算の見通しが良くなり、途中の転記ミスも防げます。
- 概算による検算:
- 結論の吟味でも触れましたが、「\(1/3\) は \(1/2\) と \(1/4\) の間だから、答えは \(1T\) と \(2T\) の間になるはず」という直感的な見積もりは非常に強力な検算手段です。もし計算結果が \(3000\) 年(\(1T\) 以下)や \(20000\) 年(\(2T\) 以上)になったら、即座に計算ミスを疑うことができます。
発展例題52 コッククロフトとウォルトンの実験
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「人工核変換とエネルギー保存則」です。歴史的に有名なコッククロフトとウォルトンの実験を題材に、核反応式、質量欠損、そして反応におけるエネルギー保存則の適用方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 核反応の保存則: 反応の前後で、質量数の総和と原子番号(電荷)の総和は保存されます。
- 質量とエネルギーの等価性: 質量欠損 \(\Delta M\) はエネルギー \(E = \Delta Mc^2\) として放出されます。
- エネルギー保存則: 核反応を含む全エネルギー(質量エネルギー+運動エネルギー)は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、反応前後の粒子を確認し、質量数と原子番号の保存則を満たすように核反応式を完成させます。
- (2)では、反応前の総質量と反応後の総質量の差(質量欠損)を計算します。
- (3)では、質量欠損をエネルギーに換算し、単位を \(\text{MeV}\) に変換します。
- (4)では、反応前の運動エネルギーと反応エネルギー(Q値)の和が、反応後の運動エネルギーの和に等しいというエネルギー保存則を用いて計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
問題文から反応に関与する粒子を特定します。
反応前: 加速した陽子(\({}_1^1\text{H}\))と、静止したリチウム原子核(\({}_3^7\text{Li}\))。
反応後: 2個のヘリウム原子核(\({}_2^4\text{He}\))。
これらを矢印で結び、質量数と原子番号が保存されているか確認します。
この設問における重要なポイント
- 陽子の表記: \({}_1^1\text{H}\)
- リチウムの表記: \({}_3^7\text{Li}\)
- ヘリウムの表記: \({}_2^4\text{He}\)
- ヘリウムが「2個」生成されることに注意。
具体的な解説と立式
反応前の粒子は \({}_3^7\text{Li}\) と \({}_1^1\text{H}\) です。
反応後の粒子は \(2\) 個の \({}_2^4\text{He}\) です。
質量数の保存を確認します。
$$
\begin{aligned}
\text{左辺} &: 7 + 1 = 8 \\[2.0ex]
\text{右辺} &: 4 \times 2 = 8
\end{aligned}
$$
(一致)
原子番号の保存を確認します。
$$
\begin{aligned}
\text{左辺} &: 3 + 1 = 4 \\[2.0ex]
\text{右辺} &: 2 \times 2 = 4
\end{aligned}
$$
(一致)
したがって、核反応式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
{}_3^7\text{Li} + {}_1^1\text{H} &\longrightarrow 2{}_2^4\text{He}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 核反応の保存則(質量数保存、電荷保存)
(立式のみで完了するため、計算過程はありません)
リチウムという原子核に、加速した陽子(水素の原子核)をぶつけました。すると、それらが合体して分裂し、2つのヘリウム原子核になりました。この変化を化学反応式のように書きました。
保存則が満たされており、妥当な式です。
問(2)
思考の道筋とポイント
反応前の質量の総和と、反応後の質量の総和をそれぞれ計算し、その差(質量欠損)を求めます。
単位は原子質量単位 \(\text{u}\) のままで答えます。
この設問における重要なポイント
- リチウムの質量: \(7.0144\,\text{u}\)
- 陽子の質量: \(1.0073\,\text{u}\)
- ヘリウムの質量: \(4.0015\,\text{u}\)
- ヘリウムは2個分引くことを忘れない。
具体的な解説と立式
反応前の質量 \(M_{\text{前}}\) は、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{前}} &= 7.0144 + 1.0073
\end{aligned}
$$
反応後の質量 \(M_{\text{後}}\) は、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{後}} &= 2 \times 4.0015
\end{aligned}
$$
質量欠損 \(\Delta M\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta M &= M_{\text{前}} – M_{\text{後}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 質量欠損の定義: \(\Delta M = \sum M_{\text{反応前}} – \sum M_{\text{反応後}}\)
まず \(M_{\text{前}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
M_{\text{前}} &= 7.0144 + 1.0073 \\[2.0ex]
&= 8.0217\,\text{u}
\end{aligned}
$$
次に \(M_{\text{後}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
M_{\text{後}} &= 2 \times 4.0015 \\[2.0ex]
&= 8.0030\,\text{u}
\end{aligned}
$$
質量欠損 \(\Delta M\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta M &= 8.0217 – 8.0030 \\[2.0ex]
&= 0.0187\,\text{u}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で科学的表記にします。
$$
\begin{aligned}
\Delta M &= 1.87 \times 10^{-2}\,\text{u}
\end{aligned}
$$
反応前の材料の重さの合計と、反応後の完成品の重さの合計を比べました。すると、反応後の方がわずかに軽くなっていることがわかりました。この軽くなった分(質量欠損)を計算しました。
正の値が得られ、質量が減少していることが確認できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた質量欠損 \(\Delta M\) がエネルギーに変換されます。
手順は以下の通りです。
1. \(\text{u}\) 単位の質量を \(\text{kg}\) 単位に換算する。
2. \(E = \Delta Mc^2\) でエネルギー(\(\text{J}\))を求める。
3. \(\text{J}\) 単位のエネルギーを \(\text{eV}\) 単位に換算し、さらに \(\text{MeV}\)(\(10^6\,\text{eV}\))にする。
この設問における重要なポイント
- 単位換算係数:
- \(1\,\text{u} = 1.66 \times 10^{-27}\,\text{kg}\)
- \(1\,\text{eV} = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{J}\)
- 光速 \(c = 3.00 \times 10^8\,\text{m/s}\) の2乗を忘れない。
具体的な解説と立式
質量欠損 \(\Delta M\)(\(\text{u}\))をエネルギー \(E\)(\(\text{J}\))に換算する式は、
$$
\begin{aligned}
E[\text{J}] &= (\Delta M \times 1.66 \times 10^{-27}) \times c^2
\end{aligned}
$$
これを \(\text{eV}\) に換算する式は、
$$
\begin{aligned}
E[\text{eV}] &= \frac{E[\text{J}]}{1.60 \times 10^{-19}}
\end{aligned}
$$
最後に \(\text{MeV}\) にします。
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
まず \(E[\text{J}]\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E[\text{J}] &= (1.87 \times 10^{-2} \times 1.66 \times 10^{-27}) \times (3.00 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= 1.87 \times 1.66 \times 10^{-29} \times 9.00 \times 10^{16} \\[2.0ex]
&= 1.87 \times 1.66 \times 9.00 \times 10^{-13}
\end{aligned}
$$
数値部分を計算します。
$$
\begin{aligned}
1.87 \times 1.66 \times 9.00 &= 3.1042 \times 9.00 \\[2.0ex]
&= 27.9378
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
E[\text{J}] &= 27.9378 \times 10^{-13}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
次に \(\text{eV}\) に換算します。
$$
\begin{aligned}
E[\text{eV}] &= \frac{27.9378 \times 10^{-13}}{1.60 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= \frac{27.9378}{1.60} \times 10^6
\end{aligned}
$$
割り算を実行します。
$$
\begin{aligned}
27.9378 \div 1.60 &= 17.461125
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
E[\text{eV}] &= 17.46… \times 10^6\,\text{eV}
\end{aligned}
$$
\(10^6\,\text{eV} = 1\,\text{MeV}\) なので、
$$
\begin{aligned}
E[\text{MeV}] &= 17.46…\,\text{MeV}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
E &\approx 17.5\,\text{MeV}
\end{aligned}
$$
消えた質量がどれだけのエネルギーに変わったかを計算しました。ジュール(\(\text{J}\))で計算した後、原子の世界でよく使われる電子ボルト(\(\text{eV}\))、さらにその100万倍のメガ電子ボルト(\(\text{MeV}\))に単位を直しました。
約 \(17.5\,\text{MeV}\) というエネルギーが得られました。核反応で放出されるエネルギー(Q値)として妥当な大きさです。
問(4)
思考の道筋とポイント
この反応におけるエネルギー保存則を考えます。
「反応前の運動エネルギー」+「反応で発生したエネルギー(質量エネルギー)」=「反応後の運動エネルギー」
という関係が成り立ちます。
反応前の運動エネルギーは陽子の \(0.6\,\text{MeV}\)(リチウムは静止しているので \(0\))。
反応で発生したエネルギーは(3)で求めた \(17.46\,\text{MeV}\)。
反応後の運動エネルギーは、2個のヘリウム原子核の運動エネルギーの和です。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則の立式。
- (3)の計算結果(丸める前の値 \(17.46\))を使うこと。
- 2個のヘリウムの運動エネルギーは等しいと仮定されているので、求めるエネルギーを \(E’\) とすると、反応後の総運動エネルギーは \(2E’\) となる。
具体的な解説と立式
陽子の運動エネルギーを \(K_{\text{p}} = 0.6\,\text{MeV}\)、反応エネルギーを \(Q = 17.46\,\text{MeV}\) とします。
ヘリウム原子核1個の運動エネルギーを \(E’\) とします。
エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{p}} + Q &= 2E’
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + Q = K_{\text{後}}\)
数値を代入して \(E’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0.6 + 17.46 &= 2E’ \\[2.0ex]
18.06 &= 2E’ \\[2.0ex]
E’ &= \frac{18.06}{2} \\[2.0ex]
E’ &= 9.03\,\text{MeV}
\end{aligned}
$$
「最初持っていた勢い(陽子のエネルギー)」と「反応で新しく生まれたエネルギー」の合計を、2つのヘリウム原子核が山分けしました。2つは同じエネルギーを持ったので、合計を半分こすれば1個分のエネルギーがわかります。
\(9.03\,\text{MeV}\) という値が得られました。陽子の入射エネルギー \(0.6\,\text{MeV}\) に比べて、出てくるエネルギーが圧倒的に大きいことがわかります。これが核反応の特徴です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 核反応におけるエネルギー保存則
- 核心: 核反応を含む物理現象全体において、エネルギーの総量は保存されます。具体的には、「反応前の粒子の運動エネルギー」と「質量欠損によって生じた核エネルギー(Q値)」の和が、「反応後の粒子の運動エネルギー」に等しくなります。
- 理解のポイント:
- 質量の役割: 質量は「凍結されたエネルギー」であり、反応によってその一部が解凍されて運動エネルギーに変わるとイメージしましょう。
- Q値の定義: \(Q = (\text{反応前の質量} – \text{反応後の質量})c^2\) です。\(Q > 0\) なら発熱反応(運動エネルギーが増える)、\(Q < 0\) なら吸熱反応(運動エネルギーが減る)となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 運動量保存則との連立: 本問では「2個のヘリウムのエネルギーが等しい」という条件が与えられていましたが、一般には運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて、生成粒子の速度や飛び出す角度を求める問題が出題されます。
- しきい値エネルギー: 吸熱反応(\(Q < 0\))の場合、反応を起こすために必要な最低限の入射エネルギー(しきい値)を求める問題があります。この場合もエネルギー保存則が基本となります。
- 光子(ガンマ線)の放出: 反応後にガンマ線が放出される場合、そのエネルギー \(h\nu\) もエネルギー保存則の右辺(反応後)に加える必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 粒子のリストアップ: 反応前と反応後に何がいるかを書き出し、質量数と電荷の保存を確認して反応式を確定させます。
- 質量の精算: 反応前と反応後の総質量をそれぞれ計算し、その差(質量欠損)を求めます。
- エネルギー収支の立式: 「入ってきたエネルギー(運動エネルギー+質量エネルギー)」=「出ていくエネルギー(運動エネルギー+質量エネルギー)」という式を立てます。質量エネルギーの差を \(Q\) として扱うと計算が楽になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ヘリウム2個分の忘れ:
- 誤解: 反応後の質量計算や運動エネルギー計算で、ヘリウムが2個生成されていることを忘れ、1個分として計算してしまう。
- 対策: 反応式の係数「2」を大きく丸で囲むなどして強調し、質量計算では \(2 \times 4.0015\)、エネルギー計算では \(2E’\) とすることを徹底しましょう。
- 単位換算の桁ミス:
- 誤解: \(\text{u} \to \text{kg}\)、\(\text{J} \to \text{eV}\)、\(\text{eV} \to \text{MeV}\) の換算係数を掛け間違えたり、指数の計算をミスしたりする。
- 対策: 単位換算は「1」を掛ける操作です(例: \(\displaystyle\frac{1.66 \times 10^{-27}\,\text{kg}}{1\,\text{u}} = 1\))。単位が約分されて消えるように分数を配置すれば、掛けるべきか割るべきかを間違えません。
- 相対論的質量の混同:
- 誤解: 運動している粒子の質量が増加するという相対論的効果を考慮すべきか迷う。
- 対策: 高校物理の範囲では、質量欠損の計算には「静止質量」を用います。運動エネルギーは \(K = \frac{1}{2}mv^2\) (または保存則から求まる値)として扱い、質量の速度依存性は通常無視します(ただし、問題文で指示がある場合は従います)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (3)での公式選択(\(E=mc^2\)):
- 選定理由: 質量欠損をエネルギーに換算するための唯一の公式です。
- 適用根拠: 核反応によって質量が失われ、それがエネルギーとして放出される現象を定量的に評価するために不可欠です。
- (4)での公式選択(エネルギー保存則):
- 選定理由: 反応前後の運動エネルギーの関係を問われているため。
- 適用根拠: 外力が仕事をせず、熱の出入りもない孤立系(ミクロな反応系)では、全エネルギーが保存されるという物理学の大原則に基づきます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定数計算のパッケージ化:
- \(1\,\text{u}\) が何 \(\text{MeV}\) に相当するか(約 \(931.5\,\text{MeV}\))を覚えておくと、検算に役立ちます。
- 計算: \(1.66 \times 10^{-27} \times (3.00 \times 10^8)^2 / (1.60 \times 10^{-13}) \approx 931.5\)
- これを知っていれば、(3)は \(0.0187 \times 931.5 \approx 17.4\,\text{MeV}\) と一瞬で見積もることができ、面倒な指数計算のミスをチェックできます。(ただし、記述式答案では問題文の数値を使って丁寧に計算過程を示す必要があります。)
- 有効数字の管理:
- 途中計算では1桁多く(ガードデジット)残し、最後に丸めることを徹底します。特に(3)の結果を(4)で使う場合、丸めた値(\(17.5\))を使うと誤差が大きくなる可能性があるため、\(17.46\) を使うのが鉄則です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
発展問題
610 セシウムの半減期と放射能
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射性崩壊と放射能の強さ」です。放射性同位体であるセシウム137(\({}^{137}\text{Cs}\))を例に、原子核の数が時間とともにどのように減少するか(半減期)、そしてその崩壊の激しさ(放射能)がどのように定義され計算されるかを学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 放射性崩壊の法則: 時間 \(t\) 後の原子核の数 \(N\) は、初期数 \(N_0\) と半減期 \(T\) を用いて \(N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\) と表されます。
- 放射能の定義: 放射能の強さ \(I\)(単位: ベクレル \(\text{Bq}\))は、1秒間に崩壊する原子核の個数として定義されます。
- 放射能と原子核数の関係: 放射能 \(I\) は原子核の数 \(N\) に比例し、\(I = \lambda N\)(\(\lambda\) は崩壊定数)または \(I = \frac{0.693}{T} N\)(\(T\) は秒単位の半減期)で表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、半減期の公式に具体的な半減期(30年)を代入して、原子核数の時間変化を表す式を作ります。
- (2)では、(1)で作った式に具体的な初期個数と経過時間を代入し、残存する原子核の数を計算します。
- (3)では、(2)で求めた原子核数を用いて、その時点での放射能の強さを計算します。この際、半減期を「年」から「秒」に換算する必要があります。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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