「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅶ 章 23】基本問題570~580

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基本問題

570 光電効果の実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
      • 模範解答が「電場がする仕事」に着目して解いているのに対し、別解では「静電気力による位置エネルギー」を考慮した力学的エネルギー保存則を用いて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的直感の強化: 電位(電圧)とは「\(1\,\text{C}\) あたりの位置エネルギー」であるという定義に立ち返ることで、回路内の電子の運動を、重力場中のボールの運動(坂を登る運動)と同じように直感的に捉えることができます。
    • 汎用性の向上: 電場が一様でない場合など、仕事の計算が複雑に見える状況でも、エネルギー保存則ならば始点と終点の状態だけで立式できるため、応用が利きます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「光電効果におけるエネルギー収支と電子の運動」です。光の粒子性(光子)と、電場中での荷電粒子の運動エネルギーの変化を結びつける重要な単元です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光子のエネルギー: 光は粒子(光子)としての性質を持ち、そのエネルギーは振動数に比例します(\(E = h\nu\))。
  2. 光電効果の式: 金属内の電子が光子を吸収して飛び出す際のエネルギー保存則です(\(h\nu = W + K_{\text{max}}\))。
  3. 阻止電圧と最大運動エネルギー: 光電流を止めるために必要な逆電圧(阻止電圧)は、飛び出した電子の最大運動エネルギーに対応します(\(K_{\text{max}} = eV_0\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた波長 \(\lambda\) から光子のエネルギーを計算します。振動数 \(\nu\) と波長 \(\lambda\) の関係式 \(c = \nu\lambda\) を用います。
  2. (2)では、光電流が \(0\) になったときの電圧(阻止電圧)に着目します。このとき、最も勢いのある電子でさえも陽極に到達できずに押し返されたことを意味します。このエネルギー関係から最大運動エネルギーを求めます。
  3. (3)では、(1)と(2)の結果を光電効果の式に代入し、金属の仕事関数 \(W\) を逆算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光子1個のエネルギー \(E\) を求める問題です。エネルギー \(E\) は振動数 \(\nu\) で表されますが、問題文では波長 \(\lambda\) が与えられています。光速 \(c\)、振動数 \(\nu\)、波長 \(\lambda\) の関係式を使って、式を変形する必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 光子エネルギーの公式: \(E = h\nu\)
  • 波長と振動数の関係: \(c = \nu\lambda \quad \rightarrow \quad \nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\)
  • これらを組み合わせた式: \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)

具体的な解説と立式
光子1個のエネルギー \(E\) は、プランク定数を \(h\)、光の振動数を \(\nu\) とすると、以下の式で表されます。
$$ E = h\nu $$
ここで、光の速さを \(c\)、波長を \(\lambda\) とすると、\(c = \nu\lambda\) の関係があるため、振動数 \(\nu\) は次のように表せます。
$$ \nu = \frac{c}{\lambda} $$
したがって、エネルギー \(E\) を求める式は次のようになります。
$$ E = \frac{hc}{\lambda} $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E = h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
計算過程

与えられた数値を代入して計算します。
\(h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\)、\(c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}\)、\(\lambda = 4.4 \times 10^{-7}\,\text{m}\) です。

$$
\begin{aligned}
E &= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{4.4 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]
&= \frac{6.6 \times 3.0}{4.4} \times \frac{10^{-34} \times 10^8}{10^{-7}} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8}{4.4} \times 10^{-34 + 8 – (-7)} \\[2.0ex]
&= 4.5 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光は「光子」というエネルギーの粒です。その粒1個が持つエネルギーは、光の「色(波長)」によって決まります。波長が短いほどエネルギーは高くなります。ここでは公式に数値を当てはめて、そのエネルギーの大きさを計算しました。

結論と吟味

答えは \(4.5 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。可視光領域の光子エネルギーとして妥当なオーダー(\(10^{-19}\,\text{J}\) 程度)です。

解答 (1) \(4.5 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
「光電流が \(0\) になった」という現象を物理的に解釈します。これは、陰極 \(\text{P}_2\) から飛び出した電子のうち、最も速い電子(最大運動エネルギー \(K_{\text{max}}\) を持つ電子)でさえも、陽極 \(\text{P}_1\) に到達できずに押し返されたことを意味します。このとき、陽極の電位は陰極より \(1.5\,\text{V}\) 低くなっています。

この設問における重要なポイント

  • 阻止電圧 \(V_0\): 電流を \(0\) にするために必要な逆電圧の大きさ。ここでは \(V_0 = 1.5\,\text{V}\)。
  • 仕事とエネルギーの関係: 電場が電子に対して負の仕事をし、電子の運動エネルギーを奪う。
  • 電子の電荷の大きさ: \(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)。

具体的な解説と立式
陰極 \(\text{P}_2\) を飛び出した直後の電子の最大運動エネルギーを \(K_{\text{max}}\) とします。
陽極 \(\text{P}_1\) の電位は陰極 \(\text{P}_2\) より \(V_0 = 1.5\,\text{V}\) だけ低いため、電子(負電荷 \(-e\))が陰極から陽極へ向かうとき、電場から逆向きの力を受けます。
電子が陽極に到達する直前で速さが \(0\) になるとき、運動エネルギーの変化量と電場がした仕事 \(W_{\text{電場}}\) の関係は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
(\text{あとの運動エネルギー}) – (\text{はじめの運動エネルギー}) &= W_{\text{電場}}
\end{aligned}
$$
電子は電位が低い方へ進むので、電場から負の仕事をされます。その仕事の大きさは \( -eV_0 \) です。
$$
\begin{aligned}
0 – K_{\text{max}} &= -eV_0
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ K_{\text{max}} = eV_0 $$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
  • 静電気力の仕事: \(W = qV\)
計算過程

数値を代入します。
\(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)、\(V_0 = 1.5\,\text{V}\) です。

$$
\begin{aligned}
K_{\text{max}} &= (1.6 \times 10^{-19}) \times 1.5 \\[2.0ex]
&= 2.4 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

飛び出した電子は、向かい風(逆電圧)を受けて減速します。一番元気な電子(最大運動エネルギーを持つ電子)が、あと少しでゴール(陽極)に着くというところで力尽きて止まってしまう状況です。このとき、「電子が最初に持っていたエネルギー」は、「向かい風に逆らって進むために使ったエネルギー(仕事)」と等しくなります。

結論と吟味

答えは \(2.4 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。光子のエネルギー(\(4.5 \times 10^{-19}\,\text{J}\))よりも小さい値であり、エネルギー保存の観点から妥当です。

解答 (2) \(2.4 \times 10^{-19}\,\text{J}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法

思考の道筋とポイント
電場による仕事を考える代わりに、電位による位置エネルギー(静電ポテンシャルエネルギー)を導入し、力学的エネルギー保存則を用いて解きます。重力場中のボール投げ上げ問題と同じように考えることができます。

この設問における重要なポイント

  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
  • 電子の電荷: \(q = -e\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(K + U = \text{一定}\)

具体的な解説と立式
陰極 \(\text{P}_2\) の電位を基準(\(0\,\text{V}\))とします。このとき、陽極 \(\text{P}_1\) の電位は \(-1.5\,\text{V}\) です。
電子(電荷 \(-e\))について、陰極を出発した直後(状態1)と、陽極に到達する直前で静止した瞬間(状態2)で力学的エネルギー保存則を立てます。

  • 状態1(陰極出発時):
    • 運動エネルギー: \(K_1 = K_{\text{max}}\)
    • 位置エネルギー: \(U_1 = (-e) \times 0 = 0\)
  • 状態2(陽極到達直前):
    • 運動エネルギー: \(K_2 = 0\)(静止するため)
    • 位置エネルギー: \(U_2 = (-e) \times (-1.5) = 1.5e\)

保存則 \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\) より、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{max}} + 0 &= 0 + 1.5e \\[2.0ex]
K_{\text{max}} &= 1.5e
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
K_{\text{max}} &= 1.5 \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 2.4 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子にとって「電位が低い」場所は、負電荷を持つため「位置エネルギーが高い」場所(坂の上)になります。電子は \(1.5\,\text{V}\) 分の「電気的な坂」を登ろうとして、頂上(陽極)の手前で力尽きました。最初に持っていた運動エネルギーが、すべて位置エネルギーに変わったと考えれば、計算式は自然に導かれます。

結論と吟味

メインの解法と全く同じ結果が得られました。電位差を「高さの差」のように捉えるこの考え方は、回路全体のエネルギーの流れを理解するのに非常に役立ちます。

解答 (2) \(2.4 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
金属の仕事関数 \(W\) を求めます。これは、電子が金属から脱出するために最低限必要なエネルギーのことです。
(1)で求めた「入射した光子のエネルギー \(E\)」と、(2)で求めた「飛び出した電子の最大運動エネルギー \(K_{\text{max}}\)」を使って、エネルギー収支の式(光電効果の式)を立てます。

この設問における重要なポイント

  • アインシュタインの光電効果の式: \(h\nu = W + K_{\text{max}}\)
  • エネルギー保存の解釈: (入ってきたエネルギー)\(=\)(脱出に使ったエネルギー)\(+\)(残りの運動エネルギー)

具体的な解説と立式
光電効果の式は、エネルギー保存則を表しています。
$$ E = W + K_{\text{max}} $$
ここで、

  • \(E\): 光子1個のエネルギー((1)で求めた値)
  • \(W\): 仕事関数(求めたい値)
  • \(K_{\text{max}}\): 電子の最大運動エネルギー((2)で求めた値)

この式を \(W\) について解くと、以下のようになります。
$$ W = E – K_{\text{max}} $$

使用した物理公式

  • 光電効果の式: \(h\nu = W + K_{\text{max}}\)
計算過程

(1)の結果 \(E = 4.5 \times 10^{-19}\,\text{J}\) と、(2)の結果 \(K_{\text{max}} = 2.4 \times 10^{-19}\,\text{J}\) を代入します。

$$
\begin{aligned}
W &= (4.5 \times 10^{-19}) – (2.4 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= (4.5 – 2.4) \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 2.1 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光子から \(4.5\) のエネルギーをもらって、金属から脱出するために \(W\) のエネルギーを支払い、残った \(2.4\) のエネルギーを持って飛び出した、という状況です。
「もらった額 \(-\) 手元に残った額 \(=\) 支払った額」という単純な引き算で、脱出にかかったコスト(仕事関数)を計算できます。

結論と吟味

答えは \(2.1 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。仕事関数は正の値であり、入射光のエネルギーよりも小さい値になっているため、物理的に妥当です。

解答 (3) \(2.1 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 光の粒子性(光子)とエネルギー量子
    • 核心: 光を波としてだけでなく、「エネルギーの粒(光子)」として捉えることが光電効果理解の第一歩です。光子1個のエネルギーは、光の強さ(明るさ)ではなく、振動数 \(\nu\)(または波長 \(\lambda\))だけで決まる \(E=h\nu\) という関係式に従います。
    • 理解のポイント:
      • 振動数依存性: 赤い光(波長が長い=振動数が小さい)よりも、青い光(波長が短い=振動数が大きい)の方が、光子1個あたりのエネルギーは大きくなります。
      • 強さと数の関係: 光を強くする(明るくする)ということは、光子1個のエネルギーを大きくすることではなく、飛んでくる光子の「数」を増やすことを意味します。
  • エネルギー保存則としての光電効果の式
    • 核心: アインシュタインの光電効果の式 \(h\nu = W + K_{\text{max}}\) は、ミクロな世界でのエネルギー保存則そのものです。「入ってきたエネルギー \(h\nu\)」が、「脱出に必要なコスト \(W\)」と「残った運動エネルギー \(K_{\text{max}}\)」に分配されるという単純明快な収支関係を表しています。
    • 理解のポイント:
      • 仕事関数 \(W\): 金属の種類によって決まる定数で、電子が表面から飛び出すための「通行料」のようなものです。
      • 限界振動数: 入射光のエネルギー \(h\nu\) が仕事関数 \(W\) より小さければ、電子は飛び出せません。これが光電効果が起きるための限界(限界振動数、限界波長)の存在理由です。
  • 電場による仕事と運動エネルギーの変化
    • 核心: 飛び出した電子の運動エネルギーを測定するために、逆電圧(阻止電圧)をかけて電子を減速・停止させる手法が用いられます。ここでは「運動エネルギーの変化 \(=\) 電場がした仕事」という力学の基本原理が適用されます。
    • 理解のポイント:
      • 阻止電圧の意味: 電流がちょうど \(0\) になる電圧 \(V_0\) は、最も速い電子の運動エネルギー \(K_{\text{max}}\) を完全に打ち消すのに必要な仕事 \(eV_0\) に対応します。つまり、電圧計の読みから、目に見えない電子の運動エネルギーを知ることができるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 限界波長・限界振動数を求める問題: \(K_{\text{max}} = 0\) となる条件、つまり \(h\nu_0 = W\) や \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} = W\) の式を立てて解くパターンです。
    • グラフの読み取り問題: 縦軸に阻止電圧 \(V_0\)、横軸に振動数 \(\nu\) をとったグラフが出題されることがあります。式を変形すると \(V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) となり、グラフの傾きからプランク定数 \(h\) を、切片から仕事関数 \(W\) を求めることができます。
    • 異なる金属を用いる問題: 金属を変えると仕事関数 \(W\) が変化します。グラフ問題では、直線の傾き(\(h/e\))は変わらず、切片だけがずれる平行移動として現れます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位に注目する: エネルギーの単位として \(\text{J}\)(ジュール)だけでなく、\(\text{eV}\)(電子ボルト)が使われることが多々あります。\(1\,\text{eV} = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}\) という換算関係を常に意識し、どちらの単位で計算すべきかを見極めましょう。
    2. 「最大」運動エネルギーである理由を考える: 金属内部の深いところにある電子は、表面に出るまでに余分なエネルギーを失うため、飛び出すときのエネルギーは \(K_{\text{max}}\) より小さくなります。式 \(h\nu = W + K\) で \(K\) が最大値 \(K_{\text{max}}\) になるのは、表面付近の電子がロスなく飛び出した場合です。
    3. 回路図の極性を確認する: 電池の向きが逆になっていないか(加速電圧か減速電圧か)を必ず確認します。陽極が正電位なら電子は加速され電流は増えますが、飽和電流に達します。陽極が負電位なら電子は減速され、ある電圧(阻止電圧)で電流はゼロになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 波長と振動数の混同:
    • 誤解: エネルギーの式で、\(E = h\lambda\) と書いてしまったり、分母と分子を逆にして \(E = \displaystyle\frac{h\lambda}{c}\) としてしまう。
    • 対策: 基本公式 \(c = \nu\lambda\) を常に書き出し、\(\nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\) と変形してから \(E = h\nu\) に代入する手順を省略しないようにしましょう。また、単位を確認(\(\text{J}\cdot\text{s} \times \text{m/s} / \text{m} = \text{J}\))することでミスを防げます。
  • 電子の電荷の符号ミス:
    • 誤解: 電位差と仕事の関係を考える際、電子が負電荷であることを忘れて、電位が高い方へ行くとエネルギーが下がると勘違いする。
    • 対策: 「負電荷は電位が高い方へ行きたがる(位置エネルギーが下がる)」「電位が低い方へ行くにはエネルギーが必要(位置エネルギーが上がる)」というイメージを強く持ちましょう。重力場での「坂道」のイメージ(正電荷なら下り坂、負電荷なら上り坂)が有効です。
  • 仕事関数の定義の誤解:
    • 誤解: 仕事関数 \(W\) を「電子が持っているエネルギー」や「光子のエネルギー」と混同する。
    • 対策: 仕事関数は「借金」や「脱出コスト」のようなものだと考えましょう。金属という「牢屋」から出るために支払わなければならない最低限のエネルギーです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(光子のエネルギー):
    • 選定理由: 求めたいのは「光子のエネルギー \(E\)」であり、与えられているのは「波長 \(\lambda\)」です。これらを結びつける物理法則は、プランクの量子仮説に基づく \(E = h\nu\) と、波動の基本式 \(c = \nu\lambda\) です。
    • 適用根拠: 光の粒子性を扱う問題の出発点となる基本式です。波長が与えられているため、振動数 \(\nu\) を経由してエネルギーを求める形に変形して適用します。
  • 問(2)での公式選択(エネルギー保存則・仕事とエネルギー):
    • 選定理由: 「電流が \(0\) になる」という現象は、電子の運動が電場によって止められたことを意味します。運動エネルギーと電位差(電圧)の関係を扱うため、仕事とエネルギーの関係式 \(W = \Delta K\) または力学的エネルギー保存則 \(K+U=\text{一定}\) が最適です。
    • 適用根拠: 阻止電圧 \(V_0\) は、最大運動エネルギー \(K_{\text{max}}\) を持つ電子をちょうど静止させる電圧です。この物理的状況は \(K_{\text{max}} = eV_0\) という式で直接的に記述できます。
  • 問(3)での公式選択(光電効果の式):
    • 選定理由: (1)で「入力エネルギー \(E\)」、(2)で「出力エネルギー \(K_{\text{max}}\)」が求まりました。残る未知数は、その差分である「損失エネルギー(仕事関数 \(W\))」です。これら3つの量の関係を記述するのが光電効果の式です。
    • 適用根拠: 光電効果という現象全体のエネルギー収支を記述する唯一の式であり、各項が物理的に明確な意味(入力、損失、出力)を持っているため、数値を代入するだけで未知数を特定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数計算(10のべき乗)を分離する:
    • 物理定数(\(h, c, e\))を含む計算では、\(10^{-34}\) や \(10^8\) といった極端な桁数が登場します。これらを数値部分(\(6.6, 3.0\) など)と指数部分(\(10^{-34}, 10^8\) など)に分けて計算し、最後に合体させるのが鉄則です。
    • 例: \(\displaystyle\frac{6.6 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8}{4.4 \times 10^{-7}} = \left(\frac{6.6 \times 3.0}{4.4}\right) \times 10^{-34+8-(-7)}\)
  • 約分を最大限活用する:
    • いきなり掛け算をするのではなく、分数の形で式を書き、約分できるものがないか探します。この問題では \(6.6\) と \(4.4\) が \(2.2\) で割り切れる(\(3:2\) になる)ことに気づくと、計算が劇的に楽になります。
    • \(6.6 / 4.4 = 1.5\) なので、\(1.5 \times 3.0 = 4.5\) と暗算でも処理可能です。
  • オーダー(桁数)の確認:
    • 光子のエネルギーや仕事関数は、通常 \(10^{-19}\,\text{J}\) (数 \(\text{eV}\))程度の値になります。計算結果が \(10^{-34}\) や \(10^{20}\) のような極端な値になった場合は、指数計算でミスをしている可能性が高いので、直ちに再確認しましょう。

571 光電効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「光電効果の基礎と光子説」です。光を波としてではなく「エネルギーの粒(光子)」として捉えることで、金属から電子が飛び出す現象を理解します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光子のエネルギー: 光子1個のエネルギーは、光の振動数(色)で決まり、\(E = h\nu\) と表されます。
  2. 光電効果の式: エネルギー保存則 \(h\nu = W + K_{\text{max}}\) が成立します。「入ってきたエネルギー」が「脱出コスト」と「残りの運動エネルギー」に分配されます。
  3. 光の強さとエネルギーの関係: 「光の強さ」は光子の「数」に対応し、光子1個あたりの「エネルギー」とは無関係であることを理解していることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた波長 \(\lambda\) から光子1個のエネルギーを計算します。振動数 \(\nu\) と波長 \(\lambda\) の関係式 \(c = \nu\lambda\) を用いて式を変形します。
  2. (2)では、(1)で求めた光子のエネルギーと、与えられた仕事関数 \(W\) を光電効果の式に代入し、電子の最大運動エネルギーを求めます。
  3. (3)では、光の強さを変えたときに何が変化し、何が変化しないのかを、光子説に基づいて判断します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光子1個のエネルギー \(E\) を求める基本問題です。エネルギーの公式は \(E = h\nu\) ですが、問題文では振動数 \(\nu\) ではなく波長 \(\lambda\) が与えられています。光速 \(c\) との関係式を使って、波長 \(\lambda\) を含む式に変形してから数値を代入します。

この設問における重要なポイント

  • 光子エネルギーの公式: \(E = h\nu\)
  • 波長と振動数の関係: \(c = \nu\lambda \quad \rightarrow \quad \nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\)
  • これらを組み合わせた式: \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)

具体的な解説と立式
光子1個のエネルギー \(E\) は、プランク定数を \(h\)、振動数を \(\nu\) として次のように表されます。
$$ E = h\nu $$
ここで、光速 \(c\) と波長 \(\lambda\) の間には \(c = \nu\lambda\) の関係があるため、振動数 \(\nu\) は次のように書き換えられます。
$$ \nu = \frac{c}{\lambda} $$
これらを組み合わせると、エネルギー \(E\) を求める式は次のようになります。
$$ E = \frac{hc}{\lambda} $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
計算過程

与えられた数値を代入します。
\(h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\)、\(c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}\)、\(\lambda = 3.3 \times 10^{-7}\,\text{m}\) です。

$$
\begin{aligned}
E &= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{3.3 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]
&= \frac{6.6 \times 3.0}{3.3} \times \frac{10^{-34} \times 10^8}{10^{-7}} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 3.0 \times 10^{-34 + 8 – (-7)} \\[2.0ex]
&= 6.0 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光の粒(光子)1個が持っているエネルギーを計算しました。計算のコツは、数字部分と \(10\) の何乗という部分を分けて計算することです。特に \(6.6 \div 3.3 = 2.0\) ときれいに割り切れることに気づくと、計算がとても楽になります。

結論と吟味

答えは \(6.0 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。光子のエネルギーとして妥当な大きさ(\(10^{-19}\) のオーダー)です。

解答 (1) \(6.0 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
金属に光をあてると電子が飛び出す現象(光電効果)におけるエネルギーの収支を考えます。「光子からもらったエネルギー」から「金属から脱出するために支払ったエネルギー(仕事関数)」を引いた残りが、「飛び出した電子の運動エネルギー」になります。

この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則(光電効果の式): \(h\nu = W + K_{\text{max}}\)
  • 仕事関数 \(W\): 電子が金属表面から脱出するために最低限必要なエネルギー。
  • 最大運動エネルギー \(K_{\text{max}}\): 最もエネルギーロスなく飛び出した電子の運動エネルギー。

具体的な解説と立式
光電効果の式は、エネルギー保存則を表しています。
$$ (\text{光子のエネルギー}) = (\text{仕事関数}) + (\text{電子の最大運動エネルギー}) $$
数式で表すと以下のようになります。
$$ E = W + K_{\text{max}} $$
求めたいのは最大運動エネルギー \(K_{\text{max}}\) なので、式を変形します。
$$ K_{\text{max}} = E – W $$

使用した物理公式

  • 光電効果の式: \(K_{\text{max}} = h\nu – W\)
計算過程

(1)で求めた \(E = 6.0 \times 10^{-19}\,\text{J}\) と、問題文で与えられた \(W = 3.8 \times 10^{-19}\,\text{J}\) を代入します。

$$
\begin{aligned}
K_{\text{max}} &= (6.0 \times 10^{-19}) – (3.8 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= (6.0 – 3.8) \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 2.2 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子は金属という「牢屋」に閉じ込められており、出るためには \(3.8\) の保釈金(仕事関数)が必要です。そこに外部から \(6.0\) の差し入れ(光子エネルギー)が届きました。電子は保釈金 \(3.8\) を支払って外に出ますが、手元には \(6.0 – 3.8 = 2.2\) のエネルギーが残ります。この残ったエネルギーが、飛び出すスピード(運動エネルギー)になります。

結論と吟味

答えは \(2.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。入力エネルギーよりも小さい正の値となっており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(2.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「光の強さ」を変えたときに、光子1個のエネルギーが変化するかどうかを問う概念問題です。光子説において、「光の強さ」と「光の振動数(色)」がそれぞれ何に対応しているかを正しく理解しているかが鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • 光の強さ \(\propto\) 光子の数
  • 光の振動数(色) \(\propto\) 光子1個のエネルギー
  • 光子1個のエネルギーが変わらなければ、電子1個が受け取るエネルギーも変わらない。

具体的な解説と立式
光電効果において、電子1個は光子1個を吸収してエネルギーを受け取ります。
飛び出す電子の最大運動エネルギー \(K_{\text{max}}\) は、以下の式で決まります。
$$ K_{\text{max}} = h\nu – W $$
ここで、仕事関数 \(W\) は金属の種類で決まる定数です。
「光の強さを \(1/2\) 倍にする」ということは、「飛んでくる光子の数を \(1/2\) 倍にする」ことを意味します。しかし、光の波長(振動数 \(\nu\))は変えていないため、光子1個あたりのエネルギー \(h\nu\) は変化しません。
したがって、上式の右辺は変化せず、\(K_{\text{max}}\) も変化しません。

使用した物理公式

  • 光電効果の式: \(K_{\text{max}} = h\nu – W\)
計算過程

計算は不要ですが、論理を確認します。
1. 光の強さを変えても、振動数 \(\nu\) は不変。
2. よって、光子エネルギー \(E = h\nu\) は不変。
3. 仕事関数 \(W\) も不変。
4. したがって、\(K_{\text{max}} = E – W\) の値は変わらない。
よって、(2)と同じ値になります。
$$ K_{\text{max}} = 2.2 \times 10^{-19}\,\text{J} $$

この設問の平易な説明

「光の強さ」とは、ボール(光子)が飛んでくる「数」のことです。「光の色(波長)」とは、ボール1個の「重さや威力」のことです。
今回は、飛んでくるボールの数を半分に減らしましたが、ボール1個の威力は変えていません。電子にぶつかる回数は減りますが(飛び出す電子の数は減りますが)、ぶつかったときに電子が受け取るエネルギーは変わりません。だから、飛び出すときの勢い(運動エネルギー)の最大値は変わらないのです。

結論と吟味

答えは \(2.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。光子説の基本的な性質に基づいた正しい結論です。

解答 (3) \(2.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 光の粒子性(光子説)
    • 核心: 光を連続的な波としてではなく、エネルギーの塊(粒子)として捉えるアインシュタインの光量子仮説が全ての基礎です。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの量子化: 光子1個のエネルギーは、光の明るさ(振幅)ではなく、振動数 \(\nu\) だけで決まります(\(E=h\nu\))。
      • 1対1の相互作用: 光電効果は、1個の光子が1個の電子に衝突し、そのエネルギーを全て電子に与える現象です。この「1対1対応」が理解の鍵です。
  • エネルギー保存則(光電効果の式)
    • 核心: \(h\nu = W + K_{\text{max}}\) という式は、ミクロな衝突現象におけるエネルギー保存則そのものです。
    • 理解のポイント:
      • 入力: 光子エネルギー \(h\nu\)
      • 損失: 金属からの脱出コスト(仕事関数 \(W\))
      • 出力: 電子の運動エネルギー \(K_{\text{max}}\)
      • これらが「入力 \(=\) 損失 \(+\) 出力」という単純な足し算・引き算の関係にあることを押さえましょう。
  • 光の「強さ」と「振動数」の違い
    • 核心: 古典的な波動論と量子論の決定的な違いです。
    • 理解のポイント:
      • 光の強さ(明るさ): 光子の「数」に対応します。強くすると、飛び出す電子の「数(光電流)」は増えますが、電子1個あたりの「エネルギー」は変わりません。
      • 光の振動数(色): 光子1個の「エネルギー」に対応します。振動数を大きくすると、飛び出す電子の「エネルギー」は増えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 限界波長を求める問題: 電子がギリギリ飛び出せる条件は \(K_{\text{max}} = 0\) です。このとき \(h\nu_0 = W\) となり、ここから限界振動数 \(\nu_0\) や限界波長 \(\lambda_0\) を求められます。
    • 阻止電圧を求める問題: 飛び出した電子を電場で止める実験では、\(K_{\text{max}} = eV_0\) の関係を使います。これを光電効果の式に代入すると \(eV_0 = h\nu – W\) となり、阻止電圧 \(V_0\) を計算できます。
    • グラフ問題: 縦軸に \(K_{\text{max}}\)(または \(V_0\))、横軸に \(\nu\) をとったグラフでは、傾きがプランク定数 \(h\)(または \(h/e\))、切片が仕事関数 \(-W\)(または \(-W/e\))に対応します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位の確認: エネルギーの単位が \(\text{J}\)(ジュール)か \(\text{eV}\)(電子ボルト)かを確認します。\(1\,\text{eV} \approx 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}\) の換算が必要になる場合があります。
    2. 「最大」の意味: 金属内部の電子は脱出するまでに余分なエネルギーを失うため、表面の電子だけがロスなく飛び出し、最大の運動エネルギーを持ちます。式 \(h\nu = W + K\) は、この「最も幸運な電子」についての式です。
    3. 変数の依存関係: 「波長を変えた」「金属を変えた」「光を強くした」という操作が、式のどの項(\(\nu, W, \text{光子数}\))に影響するかを冷静に分析しましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 光の強さをエネルギーと混同する:
    • 誤解: 「光を強くしたから、電子も勢いよく飛び出すだろう」と直感的に考えてしまう(古典的な波動論の思考)。
    • 対策: 「強さ \(=\) 数」「色(振動数) \(=\) エネルギー」という対応関係を呪文のように唱えましょう。雨粒に例えると、「土砂降り(強い光)」になっても「雨粒一つ一つの痛さ(エネルギー)」は変わらない、というイメージが有効です。
  • 波長と振動数の変換ミス:
    • 誤解: \(E = h\lambda\) や \(E = \displaystyle\frac{h\lambda}{c}\) といった誤った式を立ててしまう。
    • 対策: 必ず基本式 \(c = \nu\lambda\) を書き出し、\(\nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\) と変形してから \(E = h\nu\) に代入する手順を踏みましょう。
  • 仕事関数の符号ミス:
    • 誤解: \(K_{\text{max}} = h\nu + W\) のように足してしまう。
    • 対策: 仕事関数は「脱出コスト(借金)」です。もらったエネルギーから差し引かれるもの、というイメージを持てば、引き算であることが自然に理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(光子エネルギー):
    • 選定理由: 求めたいのは「エネルギー \(E\)」、与えられているのは「波長 \(\lambda\)」です。これらを結びつけるのは、量子論の基本式 \(E=h\nu\) と波動の基本式 \(c=\nu\lambda\) の組み合わせしかありません。
    • 適用根拠: 光を粒子として扱う問題の出発点であり、他の選択肢はありません。
  • 問(2)での公式選択(光電効果の式):
    • 選定理由: 「光子のエネルギー」「仕事関数」「電子の運動エネルギー」という3つの物理量の関係性が問われています。これらをつなぐのはエネルギー保存則である光電効果の式 \(h\nu = W + K_{\text{max}}\) です。
    • 適用根拠: 入射エネルギーと脱出エネルギーの差が運動エネルギーになるという物理的状況をそのまま数式化したものです。
  • 問(3)での思考法(光子説の原理):
    • 選定理由: 計算問題ではなく、物理現象の理解を問う定性的な問題です。数式よりも、光子説の基本原理(強さとエネルギーの独立性)に基づいて判断する必要があります。
    • 適用根拠: 光電効果の式 \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) には「光の強さ(光子の数)」を表す項が含まれていません。このことから、強さを変えても \(K_{\text{max}}\) は不変であると論理的に導けます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数計算の分離:
    • \(10^{-34}\) や \(10^8\) といった指数部分は、数値部分とは分けて計算しましょう。
    • 例: \(\displaystyle\frac{6.6 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8}{3.3 \times 10^{-7}} = \left(\frac{6.6 \times 3.0}{3.3}\right) \times 10^{-34+8-(-7)}\)
  • 約分の発見:
    • 物理の問題では、計算しやすい数値が設定されていることが多いです。今回も \(6.6\) と \(3.3\) がきれいに約分できることに気づけば、筆算なしで解けます。計算に取り掛かる前に、まず約分できるペアを探す癖をつけましょう。
  • オーダー(桁数)の確認:
    • 光子のエネルギーや仕事関数は、通常 \(10^{-19}\,\text{J}\) 程度の非常に小さな値になります。もし \(10^{20}\) のような巨大な数字や、\(10^{-50}\) のような小さすぎる数字が出たら、指数計算の符号ミスを疑いましょう。

572 プランク定数

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「光電効果のグラフ解析」です。実験データ(グラフ)から物理定数(プランク定数や仕事関数)を読み取る、物理実験の基礎となる重要な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光電効果の式: \(h\nu = W + K_{\text{max}}\) というエネルギー保存則が基本です。
  2. 一次関数のグラフとの対応: 上式を \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) と変形すると、縦軸を \(K_{\text{max}}\)、横軸を \(\nu\) としたときの一次関数(\(y = ax + b\))の形になります。
  3. 傾きと切片の物理的意味: グラフの「傾き」がプランク定数 \(h\) に、「縦軸切片(の絶対値)」が仕事関数 \(W\) に対応することを理解します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、グラフの縦軸切片(\(\nu=0\) のときの \(K_{\text{max}}\) の値)に着目し、仕事関数 \(W\) を読み取ります。
  2. (2)では、グラフ上の2点の座標を読み取り、直線の傾きを計算することでプランク定数 \(h\) を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
グラフから仕事関数 \(W\) を読み取る問題です。光電効果の式 \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) を一次関数 \(y = ax + b\) と見比べると、切片 \(b\) が \(-W\) に対応していることがわかります。

この設問における重要なポイント

  • 光電効果の式: \(K_{\text{max}} = h\nu – W\)
  • グラフの縦軸切片: \(\nu = 0\) のときの \(K_{\text{max}}\) の値は \(-W\) です。
  • 仕事関数の符号: 仕事関数 \(W\) 自体は正の値(エネルギーの大きさ)なので、切片の絶対値をとります。

具体的な解説と立式
光電効果の式を変形すると、以下のようになります。
$$ K_{\text{max}} = h\nu – W $$
この式は、縦軸を \(K_{\text{max}}\)、横軸を \(\nu\) としたとき、傾きが \(h\)、縦軸切片が \(-W\) の直線を表します。
グラフより、縦軸切片(\(\nu=0\) のときの値)は \(-7.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。
したがって、以下の関係が成り立ちます。
$$ -W = -7.2 \times 10^{-19} $$

使用した物理公式

  • 光電効果の式(変形): \(K_{\text{max}} = h\nu – W\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W &= |-7.2 \times 10^{-19}| \\[2.0ex]
&= 7.2 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

このグラフは、「光の振動数(色)」と「飛び出す電子の元気さ(エネルギー)」の関係を表しています。グラフの線が縦軸(左端の軸)とぶつかるところの値は、電子が金属から脱出するために必要な「借金(仕事関数)」のマイナス値を表しています。グラフからその値を読み取り、マイナスを取れば答えになります。

結論と吟味

答えは \(7.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\) です。仕事関数として妥当な正の値が得られました。

解答 (1) \(7.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
グラフの傾きからプランク定数 \(h\) を求める問題です。グラフ上の読み取りやすい2点を選び、その座標を使って傾き(変化の割合)を計算します。

この設問における重要なポイント

  • グラフの傾きの定義: \(\displaystyle\frac{\text{縦軸の変化量}}{\text{横軸の変化量}}\)
  • 光電効果の式における傾きの意味: \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) の係数 \(h\) が傾きに対応します。
  • 座標の読み取り: グラフから正確に読み取れる2点(切片や軸との交点)を選びます。

具体的な解説と立式
光電効果の式 \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) より、\(K_{\text{max}}-\nu\) グラフの傾きはプランク定数 \(h\) に等しくなります。
グラフから以下の2点の座標を読み取ります。

  • 点A(縦軸切片): \((\nu_1, K_1) = (0, -7.2 \times 10^{-19})\)
  • 点B(横軸切片): \((\nu_2, K_2) = (10.9 \times 10^{14}, 0)\)

傾き \(h\) は以下の式で求められます。
$$ h = \frac{K_2 – K_1}{\nu_2 – \nu_1} $$

使用した物理公式

  • 直線の傾き: \(h = \displaystyle\frac{\Delta K_{\text{max}}}{\Delta \nu}\)
計算過程

数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{0 – (-7.2 \times 10^{-19})}{10.9 \times 10^{14} – 0} \\[2.0ex]
&= \frac{7.2 \times 10^{-19}}{10.9 \times 10^{14}} \\[2.0ex]
&= \frac{7.2}{10.9} \times 10^{-19 – 14} \\[2.0ex]
&\approx 0.6605 \times 10^{-33} \\[2.0ex]
&= 6.605 \times 10^{-34}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\) となります。

この設問の平易な説明

グラフの「傾き」は、「横に \(1\) 進んだときに縦にどれだけ増えるか」を表しています。この問題では、「振動数を \(1\) 増やしたときに、電子のエネルギーがどれだけ増えるか」を意味し、それがまさにプランク定数 \(h\) です。グラフ上の2つの点(スタート地点とゴール地点のようなもの)を使って、その傾き具合を計算しました。

結論と吟味

答えは \(6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\) です。これは物理定数表にあるプランク定数の値と一致しており、計算が正しいことが確認できます。

解答 (2) \(6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 光電効果の式と一次関数の対応
    • 核心: 物理法則 \(h\nu = W + K_{\text{max}}\) を、数学的な関数 \(y = ax + b\) の形に対応させて解釈する力が問われています。
    • 理解のポイント:
      • 式を \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) と変形することで、変数と定数の役割が明確になります。
      • 変数: \(y\) 軸に対応するのが \(K_{\text{max}}\)、\(x\) 軸に対応するのが \(\nu\) です。
      • 定数: 傾き \(a\) に対応するのがプランク定数 \(h\)、切片 \(b\) に対応するのが仕事関数の負の値 \(-W\) です。
  • グラフの物理的意味の読み取り
    • 核心: グラフ上の特徴的な点(切片や交点)が、どのような物理的状況を表しているかを理解することです。
    • 理解のポイント:
      • 縦軸切片 (\(\nu=0\)): 光のエネルギーがゼロの仮想的な状態でのエネルギー収支を表し、その値は \(-W\)(借金)となります。
      • 横軸切片 (\(K_{\text{max}}=0\)): 電子がギリギリ飛び出せる限界の状態(限界振動数 \(\nu_0\))を表します。このとき \(h\nu_0 = W\) が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 阻止電圧 \(V_0\) と振動数 \(\nu\) のグラフ: 縦軸が \(K_{\text{max}}\) ではなく阻止電圧 \(V_0\) になっている場合があります。この場合、式は \(eV_0 = h\nu – W \rightarrow V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) となります。
      • 傾き: \(h\) ではなく \(\displaystyle\frac{h}{e}\) になります。ここから \(h\) を求めるには、傾きに電気素量 \(e\) を掛ける必要があります。
      • 切片: \(-W\) ではなく \(\displaystyle-\frac{W}{e}\) になります。
    • 異なる金属のグラフ比較: 金属を変えると仕事関数 \(W\) が変わりますが、プランク定数 \(h\) は宇宙共通の定数です。したがって、グラフは傾きを変えずに平行移動します。仕事関数が大きい金属ほど、グラフは右下(切片がより下、限界振動数がより右)にずれます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 軸の単位と倍率: グラフの軸に \(\times 10^{14}\) や \(\times 10^{-19}\) といった倍率が書かれていることが非常に多いです。計算時にこれを忘れると、答えが桁違いになってしまいます。必ず読み取った値に倍率を掛けて計算しましょう。
    2. 限界振動数の利用: 縦軸切片が読み取りにくい場合でも、横軸切片(限界振動数 \(\nu_0\))が読み取れるなら、\(W = h\nu_0\) の関係を使って仕事関数を求めることができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 傾きの計算ミス(倍率の見落とし):
    • 誤解: グラフの目盛りだけを見て、例えば \(\displaystyle\frac{7.2}{10.9}\) と計算し、\(10^{-34}\) のオーダーを出し忘れる。
    • 対策: 座標を読み取る際、必ず軸のラベル(\(\times 10^{14}\,\text{Hz}\) など)を確認し、数値の横に指数を書き添える癖をつけましょう(例: \(10.9 \rightarrow 10.9 \times 10^{14}\))。
  • 仕事関数の符号:
    • 誤解: 縦軸切片がマイナスだからといって、仕事関数 \(W\) もマイナスにしてしまう(例: \(W = -7.2 \times 10^{-19}\,\text{J}\))。
    • 対策: 仕事関数は「エネルギーの大きさ(コスト)」なので必ず正の値です。数式上は切片が \(-W\) なので、\(W = -(\text{切片})\) となり、正になります。
  • 単位の混同:
    • 誤解: 縦軸が \(\text{eV}\)(電子ボルト)で与えられているのに、\(\text{J}\)(ジュール)だと思って計算してしまう。
    • 対策: 縦軸の単位を必ず確認しましょう。\(\text{eV}\) の場合は、\(1\,\text{eV} = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}\) を使ってジュールに換算してから \(h\) を求めるか、あるいは求めた \(h\) の単位が \(\text{eV}\cdot\text{s}\) になることを認識しておく必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(切片の読み取り):
    • 選定理由: グラフの縦軸切片が与えられており、そこから物理量を求める必要があります。グラフの形状(直線)を説明する物理法則は光電効果の式 \(K_{\text{max}} = h\nu – W\) です。
    • 適用根拠: この式を \(y=ax+b\) の形と見なすことで、切片 \(b\) が \(-W\) であると論理的に特定できます。
  • 問(2)での公式選択(傾きの計算):
    • 選定理由: プランク定数 \(h\) を求めたい。光電効果の式において \(h\) は変数 \(\nu\) の係数であり、これはグラフ上では「傾き」に対応します。
    • 適用根拠: 実験データ(グラフ)から比例定数を求める最も標準的な手法は、直線の傾きを算出することです。2点の座標 \((\nu_1, K_1), (\nu_2, K_2)\) を使って \(\displaystyle\frac{K_2-K_1}{\nu_2-\nu_1}\) を計算することで、最も確からしい値を導けます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 座標の書き出し:
    • いきなり分数の式を書くのではなく、まずグラフから読み取った2点の座標を \((x_1, y_1) = (0, -7.2 \times 10^{-19})\)、\((x_2, y_2) = (10.9 \times 10^{14}, 0)\) のように紙に書き出しましょう。これにより、\(x\) と \(y\) の取り違えや、指数の書き忘れを防げます。
  • ゼロの活用:
    • 傾きを計算する際、切片(\(x=0\) や \(y=0\) の点)を選ぶと計算項が減り、ミスが減ります。この問題でも、縦軸切片と横軸切片という「片方の座標がゼロ」の2点を選んでいるため、計算が非常にシンプルになっています。
  • 答えのオーダー確認:
    • プランク定数 \(h\) は \(6.6 \times 10^{-34}\) 付近の値になることは物理の常識として知っておくべきです。もし計算結果が \(10^{-19}\) や \(10^{-40}\) などになったら、十中八九、指数の計算ミスです。
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573 光電効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「光電効果の電流-電圧特性(I-V特性)」です。光電管に電圧をかけたときの電流の変化を表すグラフから、電子の運動エネルギーや阻止電圧の意味を読み解く力を養います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 阻止電圧 \(V_{\text{M}}\): 光電流がちょうど \(0\) になる逆電圧のこと。これは飛び出した電子の最大運動エネルギー \(K_{\text{M}}\) に対応します(\(K_{\text{M}} = eV_{\text{M}}\))。
  2. 光電効果の式: \(h\nu = W + K_{\text{M}}\) というエネルギー保存則。光子のエネルギー \(h\nu\) が、仕事関数 \(W\) と運動エネルギー \(K_{\text{M}}\) に分配されます。
  3. 変数の依存関係: 仕事関数 \(W\) は金属の種類で決まり、光子エネルギー \(h\nu\) は光の振動数(色)で決まります。これらが変化したとき、\(K_{\text{M}}\) や \(V_{\text{M}}\) がどう変わるかを論理的に導くことが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、グラフから電流が \(0\) になる電圧(阻止電圧)を読み取り、エネルギー保存則を用いて最大運動エネルギーを求めます。
  2. (2)では、金属を変えて仕事関数 \(W\) を大きくしたとき、エネルギー収支の式 \(K_{\text{M}} = h\nu – W\) に基づいて \(K_{\text{M}}\)(および \(V_{\text{M}}\))がどう変化するかを考えます。
  3. (3)では、光の振動数 \(\nu\) を大きくしたとき、同様にエネルギー収支の式に基づいて \(K_{\text{M}}\)(および \(V_{\text{M}}\))の変化を予測します。

問(1)

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