「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅵ 章 22】基本問題546~552

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基本問題

546 交流とコンデンサー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 微分を用いた解法
      • 模範解答が「コンデンサーでは電流の位相が \(\pi/2\) 進む」という知識を前提に式を立てているのに対し、別解ではコンデンサーの基本式 \(Q=CV\) と電流の定義 \(I = \frac{dQ}{dt}\) から微分を行うことで、位相の進みを数学的に導出します。
    • 設問(3)の別解: 三角関数の積分を用いた解法
      • 模範解答が「コンデンサーでの平均電力は0」という知識を前提に答えているのに対し、別解では瞬時電力 \(P = VI\) を計算し、1周期にわたって積分することで、平均値が0になることを数学的に証明します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「なぜコンデンサーでは電流が進むのか」「なぜ電力消費がゼロなのか」という根本的な理由を、数式を通じて理解できます。
    • 応用力の向上: 暗記に頼らず、基本法則から現象を導く力を養うことで、より複雑な回路問題にも対応できるようになります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「コンデンサーのみの交流回路における電流と電力」です。コンデンサーに交流電圧を加えたときのリアクタンス(抵抗の働き)、電流の位相の進み、そして消費電力がゼロになる理由を理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 容量リアクタンス: コンデンサーの交流に対する抵抗の働きは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) で表されます。
  • 位相の進み: コンデンサーに流れる電流の位相は、電圧の位相よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。
  • 平均電力: コンデンサーではエネルギーの出し入れが行われるだけで、消費される電力の平均値は \(0\) になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (1)では、容量リアクタンスの公式を用いて答えます。
  • (2)では、オームの法則(最大値)と位相の関係を用いて電流の式を導き、グラフを描きます。
  • (3)では、コンデンサーの性質(電力消費なし)に基づいて平均電力を答えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
電気容量 \(C\) のコンデンサーに角周波数 \(\omega\) の交流を加えたときの、電流の流れにくさを表す量(リアクタンス)を問う問題です。これは定義式そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 容量リアクタンス \(X_C\) は角周波数 \(\omega\) と電気容量 \(C\) の積に反比例する。

具体的な解説と立式
コンデンサーの容量リアクタンス \(X_C\) は、角周波数 \(\omega\) と電気容量 \(C\) を用いて次のように表されます。
$$
X_C = \frac{1}{\omega C}
$$

使用した物理公式

  • 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
計算過程

(公式そのものなので計算はありません)

この設問の平易な説明

コンデンサーは、電気を蓄えたり放出したりすることで電流を通します。交流のように電圧が激しく変化する場合、その変化が速い(周波数 \(\omega\) が大きい)ほど、またコンデンサーの容量(\(C\))が大きいほど、頻繁に電気の出し入れが行われるため、電流は流れやすくなります。
「流れやすい」ということは「抵抗(リアクタンス)が小さい」ということです。だから、\(\omega\) と \(C\) が分母に来る形 \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\) になります。

結論と吟味

答えは \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\) です。単位を確認すると \(1 / ([\text{rad/s}] \cdot [\text{F}]) = [\Omega]\) となり、抵抗と同じ次元を持っています。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
電流の式 \(I(t)\) を求めるには、「最大値 \(I_0\)」と「位相(タイミング)」の2つを決定する必要があります。
最大値はオームの法則 \(I_0 = V_0 / X_C\) で求めます。
位相については、コンデンサーの性質「電流は電圧より \(\pi/2\) 進む」を使います。
この設問における重要なポイント

  • 電流の最大値: \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{1/\omega C} = \omega C V_0\)
  • 位相の関係: 電流は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。つまり、\(\sin(\omega t + \frac{\pi}{2})\) となる。
  • グラフの形: \(t=0\) で正の値から始まる正弦波(\(\cos\) の形)。

具体的な解説と立式
1. 電流の最大値 \(I_0\) の導出
オームの法則より、電流の最大値 \(I_0\) は電圧の最大値 \(V_0\) とリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を用いて次のように表されます。
$$
I_0 = \frac{V_0}{X_C}
$$
これに \(X_C\) を代入します。
$$
I_0 = \frac{V_0}{\frac{1}{\omega C}}
$$
これを整理します。
$$
I_0 = \omega C V_0
$$

2. 電流 \(I\) の式の導出
コンデンサーに流れる電流の位相は、電圧の位相 \(\omega t\) よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。したがって、電流 \(I\) は次のように表されます。
$$
I = I_0 \sin \left( \omega t + \frac{\pi}{2} \right)
$$
これに \(I_0\) を代入します。
$$
I = \omega C V_0 \sin \left( \omega t + \frac{\pi}{2} \right)
$$
なお、三角関数の公式 \(\sin(\theta + \pi/2) = \cos \theta\) を用いて、\(I = \omega C V_0 \cos \omega t\) と表すこともできます。

3. グラフの作成

  • 振幅: \(\omega C V_0\)
  • 周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
  • 波形: \(t=0\) のとき \(\sin(\pi/2) = 1\) なので、最大値 \(\omega C V_0\) からスタートし、\(t=T/4\) で \(0\)、\(t=T/2\) で最小値となる波形を描きます。

使用した物理公式

  • オームの法則(最大値): \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{X_C}\)
  • 位相の進み: \(I \propto \sin(\omega t + \pi/2)\)
計算過程

(立式部分で完了しています)

この設問の平易な説明

まず、電流の最大値(波の高さ)は、電圧の最大値を「コンデンサーの抵抗値(リアクタンス)」で割ったものになります。分数の割り算なので、ひっくり返して掛け算になります。
次にタイミングですが、コンデンサーは「電圧がかかる前に電流が流れ込む(充電される)」という性質があるため、電圧よりもワンテンポ(90度分)早く電流が流れます。
式で書くと \(\sin(\omega t + \pi/2)\) となり、グラフで描くと、いきなりプラスの最大値から始まる(あるいはゼロから下がっていく)形になります。

結論と吟味

電流の式は \(I = \omega C V_0 \sin \left( \omega t + \frac{\pi}{2} \right)\)。グラフは \(t=0\) で正の最大値をとる余弦波(\(\cos\))となります。

解答 (2) \(I = \omega C V_0 \sin \left( \omega t + \frac{\pi}{2} \right)\), グラフは解説の図を参照(\(t=0\) で \(\omega C V_0\) から始まる波形)

問(3)

思考の道筋とポイント
コンデンサーにおける電力の平均値を問われています。コンデンサーは静電エネルギーを蓄えたり放出したりするだけで、抵抗のように熱としてエネルギーを消費することはありません。したがって、平均電力は0になります。
この設問における重要なポイント

  • コンデンサーの消費電力の平均値は \(0\) である。
  • 瞬時電力 \(P = VI\) は正負に対称に振動するため、平均すると打ち消し合う。

具体的な解説と立式
コンデンサーでは、電圧と電流の位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) ずれているため、電力 \(P = VI\) の時間平均 \(\overline{P}\) は \(0\) になります。

使用した物理公式

  • コンデンサーの平均電力: \(\overline{P} = 0\)
計算過程

(計算不要)

この設問の平易な説明

コンデンサーは、電流が流れ込むときにエネルギーを電気として蓄え、電流が流れ出すときにそのエネルギーを回路に戻します。エネルギーを「借りて、返す」を繰り返しているだけで、使い切って(消費して)しまうわけではありません。だから、長い目で見ると消費電力の平均はゼロになります。

結論と吟味

答えは \(0\) です。これはエネルギー保存則の観点からも、コンデンサーが保存的な素子であることと整合します。

解答 (3) \(0\)
別解1: 微分を用いた解法(問2)

思考の道筋とポイント
「位相が進む」という知識を使わず、コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) と電流の定義 \(I=dQ/dt\) から数学的に電流の式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
  • 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\)
  • 微分の実行: \(I = \displaystyle\frac{d}{dt}(CV)\)

具体的な解説と立式
コンデンサーに蓄えられる電荷 \(Q\) と電圧 \(V\) の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$
Q = CV
$$
これに \(V = V_0 \sin \omega t\) を代入します。
$$
Q = C V_0 \sin \omega t
$$
電流 \(I\) は電荷 \(Q\) の時間変化率(微分)で定義されます。
$$
I = \frac{dQ}{dt}
$$
これに \(Q\) の式を代入して微分します。
$$
I = \frac{d}{dt} (C V_0 \sin \omega t)
$$

使用した物理公式

  • 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\)
計算過程

微分を実行します。
$$
\begin{aligned}
I &= C V_0 \frac{d}{dt} (\sin \omega t) \\[2.0ex]
&= C V_0 (\omega \cos \omega t) \\[2.0ex]
&= \omega C V_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
三角関数の公式 \(\cos \theta = \sin(\theta + \pi/2)\) を用いて変形します。
$$
I = \omega C V_0 \sin \left( \omega t + \frac{\pi}{2} \right)
$$

この設問の平易な説明

コンデンサーの電流は「電荷の変化のスピード(傾き)」です。電荷は電圧に比例するので、結局は「電圧の変化のスピード」が電流になります。サインを微分するとコサインになるので、そこから位相が90度進むことが数学的に出てきます。

結論と吟味

知識として覚えている式と同じ結果が、基本法則から導かれました。

解答 (2) \(I = \omega C V_0 \sin \left( \omega t + \frac{\pi}{2} \right)\)
別解2: 三角関数の積分を用いた解法(問3)

思考の道筋とポイント
瞬時電力 \(P = VI\) を計算し、三角関数の加法定理(積和の公式)を使って変形した後、平均をとります。
この設問における重要なポイント

  • 瞬時電力: \(P = V_0 \sin \omega t \times (\omega C V_0 \cos \omega t)\)
  • 倍角の公式: \(\sin 2\theta = 2 \sin \theta \cos \theta\)
  • \(\sin 2\omega t\) の平均値は \(0\)。

具体的な解説と立式
瞬時電力 \(P\) は次のように表されます。
$$
P = VI
$$
これに \(V = V_0 \sin \omega t\) と \(I = \omega C V_0 \cos \omega t\) を代入します。
$$
P = (V_0 \sin \omega t) (\omega C V_0 \cos \omega t)
$$
これを整理します。
$$
P = \omega C V_0^2 \sin \omega t \cos \omega t
$$
倍角の公式 \(\sin 2\omega t = 2 \sin \omega t \cos \omega t\) を用いて変形します。
$$
P = \frac{1}{2} \omega C V_0^2 \sin 2\omega t
$$
平均電力 \(\overline{P}\) は、\(P\) の時間平均です。1周期にわたって平均をとると、振動項 \(\sin 2\omega t\) の平均は \(0\) になります。
$$
\overline{\sin 2\omega t} = 0
$$
したがって、
$$
\overline{P} = 0
$$

使用した物理公式

  • 瞬時電力: \(P = VI\)
  • 三角関数の平均: \(\overline{\sin \theta} = 0\)
計算過程

(立式部分で完了しています)

この設問の平易な説明

電力の式を計算すると、\(\sin(2\omega t)\) という形になります。これはプラスとマイナスを同じ大きさで行ったり来たりする波なので、平均するとちょうどゼロになります。つまり、エネルギーをもらったり返したりしているだけで、トータルでは消費していないことがわかります。

結論と吟味

数学的にも平均電力がゼロになることが証明されました。

解答 (3) \(0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 容量リアクタンス(コンデンサーの抵抗作用)
    • 核心: コンデンサーは交流に対して抵抗のような働き(リアクタンス)を示し、その大きさは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) で表されます。
    • 理解のポイント:
      • 周波数依存性: \(\omega\)(周波数)が大きいほどリアクタンスは小さくなります。つまり、コンデンサーは「変化の激しい電流(高周波)ほど通しやすい」という、コイルとは逆の性質を持ちます。
  • コンデンサーにおける電圧と電流の位相差
    • 核心: コンデンサーに流れる電流の位相は、電圧の位相よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)(90度)進みます。
    • 理解のポイント:
      • 因果関係: 電圧が最大になる前に、まず電流が流れ込んで電荷が溜まる必要があります。「電流が先導して電圧を作る」イメージです。
      • 数式表現: 電圧が \(\sin \omega t\) なら、電流は \(\sin(\omega t + \pi/2)\) または \(\cos \omega t\) になります。
  • 無効電力
    • 核心: コンデンサーのみの回路では、電圧と電流の位相が90度ずれているため、電力 \(P=VI\) の平均値はゼロになります。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの往復: 電源からコンデンサーへエネルギーが移動する期間(充電)と、コンデンサーから電源へエネルギーが戻る期間(放電)が交互に繰り返されるだけで、エネルギーは消費されません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイル回路: コンデンサーの対となるコイルでは、リアクタンスが \(\omega L\) で、電流の位相は \(\pi/2\) 遅れます。平均電力がゼロである点は共通です。
    • RC直列回路: 抵抗 \(R\) とコンデンサー \(C\) を直列につないだ場合、全体のインピーダンスは \(Z = \sqrt{R^2 + (1/\omega C)^2}\) となり、位相の進み \(\phi\) は \(\tan \phi = \frac{1}{\omega C R}\) で決まります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 素子の確認: コンデンサー単体なのか、抵抗も含まれているのかを確認します。抵抗が含まれていれば電力消費が発生します。
    2. グラフの初期値: 電流のグラフを描く際、\(t=0\) での値が正なのか負なのか、ゼロなのかを、位相の式 \(\sin(\pi/2) = 1\) から慎重に判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • リアクタンスの公式忘れ:
    • 誤解: \(X_C = \omega C\) と逆にしてしまう。
    • 対策: 「コンデンサーは隙間があるから、周波数が高い(\(\omega\) 大)と飛び越えやすい(抵抗小)」というイメージで、\(\omega\) が分母に来ることを覚えましょう。
  • 位相の進み・遅れの混同:
    • 誤解: コンデンサーの電流が遅れると考えてしまう。
    • 対策: 「ICE(Ice: 電流Iは容量Cで起電力Eより進む)」という語呂合わせを活用するか、「充電しないと電圧が上がらない=電流が先」という理屈で覚えましょう。
  • 電力の計算:
    • 誤解: 平均電力を \(V_e I_e\) と計算してしまう。
    • 対策: \(P = V_e I_e \cos \phi\) (\(\phi\) は位相差)が一般式です。コンデンサーでは \(\phi = -\pi/2\) なので \(\cos \phi = 0\) となり、電力はゼロになります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(I_0 = \omega C V_0\):
    • 選定理由: 電流の最大値を求めるため、オームの法則の拡張(インピーダンスを用いた形)を適用します。
    • 適用根拠: 交流回路において、電圧と電流の最大値の比はリアクタンス(インピーダンス)で決まるためです。
  • \(I = I_0 \sin(\omega t + \pi/2)\):
    • 選定理由: 電流の瞬時値の式を求めるため。
    • 適用根拠: コンデンサーの電流位相進みの性質(\(\pi/2\) 進み)を数式に反映させるためです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角関数の変形:
    • \(\sin(\theta + \pi/2) = \cos \theta\) のような変形は頻出です。単位円を頭に思い浮かべて、符号のミスがないか確認する習慣をつけましょう。
    • グラフの概形チェック:
      • 描いたグラフが、電圧のグラフ(\(\sin\) カーブ)に対して左にずれている(進んでいる)かを確認します。時間の流れは右向きなので、ピークが左に来るのが「進み」です。

547 交流のグラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 三角関数と回路方程式を用いた解法
      • 模範解答がグラフの山の位置関係から定性的に「遅れ・進み」を判断するのに対し、別解では電圧と電流を三角関数(数式)で表し、コイルとコンデンサーそれぞれの回路方程式(微分関係)と照らし合わせることで、論理的に素子を特定します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の理解: 「コイルは電流が遅れる」という知識を単に暗記するのではなく、\(V = L \displaystyle\frac{di}{dt}\) という基本法則から現象が導かれる過程を理解できます。
    • 応用力の向上: グラフが複雑な場合や、位相差が \(\pi/2\) 以外の場合(抵抗を含む回路など)でも、数式化して考える手法は汎用性が高く強力です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に特定される素子は模範解答と一致します。

この問題のテーマは「交流回路における素子の特性とグラフの読み取り」です。交流電源に接続された基本的な素子(抵抗、コイル、コンデンサー)が示す電圧と電流の関係を理解しているかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 交流の位相差: コイルでは電流の位相が電圧より \(\pi/2\) 遅れ、コンデンサーでは \(\pi/2\) 進むこと。
  2. リアクタンス: 交流回路における「電流の流れにくさ」を表す量。オームの法則と同様の式 \(V_0 = X I_0\) が成り立つこと。
  3. 角周波数と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係式。
  4. 誘導リアクタンスと容量リアクタンス: コイルは \(X_L = \omega L\)、コンデンサーは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) で表されること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、グラフの横軸(時間)に沿って、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の「山(最大値)」がどちらが先に来るかを確認し、位相の進み・遅れを判定して素子を特定します。
  2. (2)では、グラフから読み取った電圧の最大値 \(V_0\) と電流の最大値 \(I_0\) を用いて、オームの法則に相当する式からリアクタンスを計算します。
  3. (3)では、グラフから周期 \(T\) を読み取って角周波数 \(\omega\) を求め、(1)で特定した素子のリアクタンスの公式を用いて、インダクタンス \(L\) または電気容量 \(C\) を算出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
交流回路において、素子がコイルかコンデンサーかを判別する決定的な要素は「電圧と電流の位相差(タイミングのずれ)」です。
グラフから、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の波形を比較し、どちらが時間的に「遅れて」変化しているかを読み取ります。

この設問における重要なポイント

  • 時間の流れ: 横軸 \(t\) は右に行くほど時間が経過します。
  • 位相の比較方法: 同じ種類の変化(例えば、\(0\) からプラスに増える点、あるいは最大値になる点)が、どちらのグラフで先に現れるかを見ます。先に現れる方が「位相が進んでいる」、後に現れる方が「位相が遅れている」となります。
  • 素子の特性:
    • コイル: 電流は電圧より位相が \(\pi/2\)(\(1/4\) 周期)遅れる
    • コンデンサー: 電流は電圧より位相が \(\pi/2\)(\(1/4\) 周期)進む

具体的な解説と立式
グラフの波形を時間 \(t\) の経過(左から右)に沿って追跡します。

1. 電圧 \(V\) の変化:
時刻 \(t=0\) で最大値(山)をとっています。
2. 電流 \(I\) の変化:
時刻 \(t=0\) では \(0\) であり、その後 \(t=0.50 \times 10^{-2}\,\text{s}\) 付近で最大値(山)をとっています。

このことから、電圧が山になった「後」に、電流が山になっていることがわかります。つまり、電流の位相は電圧よりも遅れています。

グラフの目盛りを見ると、電圧の山から電流の山までの時間差は、周期 \(T\) の \(1/4\) に相当します。
したがって、電流は電圧より位相が \(\pi/2\) 遅れています。

電流の位相が電圧より \(\pi/2\) 遅れる素子は、コイルです。

使用した物理公式

  • 交流の位相特性(コイル): 電流は電圧より \(\pi/2\) 遅れる。
計算過程

(グラフの読み取りのみのため、計算はありません)

この設問の平易な説明

グラフを見てみましょう。実線のグラフ(電圧)は最初からてっぺん(最大値)にありますが、点線のグラフ(電流)はまだゼロです。時間が少し経ってから、ようやく電流がてっぺんに到達します。
つまり、電流の変化は電圧の変化よりも「ワンテンポ遅れて」追いかけている状態です。このように「電流が遅れる」という性質を持つのは、コイルの特徴です。コイルは急な電流の変化を嫌う(自己誘導)ため、電圧をかけてもすぐには電流が流れず、遅れてついてくるイメージを持つと分かりやすいでしょう。

結論と吟味

電流が電圧より遅れているため、素子はコイルです。これは交流回路の基本的な性質と一致します。

解答 (1) コイル
別解: 三角関数と回路方程式を用いた解法

思考の道筋とポイント
グラフの形状を三角関数で数式化し、物理法則(回路方程式)と照らし合わせることで、より厳密に素子を特定します。
電圧 \(V\) が \(t=0\) で最大値をとる余弦波(\(\cos\))型であることに着目し、電流 \(I\) が正弦波(\(\sin\))型であることを利用します。

この設問における重要なポイント

  • 電圧の波形: \(V = V_0 \cos(\omega t)\) と表せる。
  • 電流の波形: \(t=0\) で \(0\) から正の向きに増加しているので、\(I = I_0 \sin(\omega t)\) と表せる。
  • コイルの回路方程式: \(V = L \displaystyle\frac{di}{dt}\)
  • コンデンサーの回路方程式: \(I = C \displaystyle\frac{dv}{dt}\)

具体的な解説と立式
グラフより、電圧 \(V\) と電流 \(I\) を時間 \(t\) の関数として表します。
$$
\begin{aligned}
V &= V_0 \cos(\omega t) \\[2.0ex]
I &= I_0 \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
ここで、もし素子がコンデンサーだと仮定すると、\(I = C \displaystyle\frac{dV}{dt}\) の関係が成り立つはずです。
実際に \(V\) を時間で微分してみます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dV}{dt} &= \frac{d}{dt}(V_0 \cos(\omega t)) \\[2.0ex]
&= -\omega V_0 \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
これより、電流 \(I\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
I &= C \times (-\omega V_0 \sin(\omega t)) \\[2.0ex]
&= -C\omega V_0 \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
この式にはマイナスがついています。これはグラフの \(I = I_0 \sin(\omega t)\) (プラスのサインカーブ)と符号が逆であり、矛盾します。

一方、もし素子がコイルだと仮定すると、\(V = L \displaystyle\frac{dI}{dt}\) の関係が成り立つはずです。
実際に \(I\) を時間で微分してみます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dI}{dt} &= \frac{d}{dt}(I_0 \sin(\omega t)) \\[2.0ex]
&= \omega I_0 \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
これより、電圧 \(V\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
V &= L \times (\omega I_0 \cos(\omega t)) \\[2.0ex]
&= L\omega I_0 \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
この式は \(V = V_0 \cos(\omega t)\) と形(コサイン型で符号も正)が一致しており、矛盾しません。
したがって、素子はコイルであると特定できます。

使用した物理公式

  • 三角関数の微分: \(\displaystyle\frac{d}{dt}\sin(\omega t) = \omega \cos(\omega t)\), \(\displaystyle\frac{d}{dt}\cos(\omega t) = -\omega \sin(\omega t)\)
  • 回路方程式: \(V = L \displaystyle\frac{dI}{dt}\)
計算過程

上記の解説内で微分計算を実行済み。

この設問の平易な説明

グラフを数式に直して考えてみます。電圧はコサイン(\(\cos\))、電流はサイン(\(\sin\))の形をしています。「サインを微分するとコサインになる」という数学のルールを思い出してください。
コイルの性質は「電流の変化(微分)が電圧を生む」というものです。電流(サイン)の変化率を計算するとコサインになり、これが電圧の波形とぴったり重なります。だからこれはコイルだと分かります。逆にコンデンサーだと符号が合わなくなってしまいます。

結論と吟味

数式による解析からも、素子がコイルであることが確認できました。

解答 (1) コイル

問(2)

思考の道筋とポイント
交流回路における電圧の最大値 \(V_0\) と電流の最大値 \(I_0\) の間には、オームの法則 \(V=RI\) とよく似た関係式 \(V_0 = X I_0\) が成り立ちます。ここで \(X\) はリアクタンスと呼ばれ、抵抗と同じ \(\Omega\)(オーム)の単位を持ちます。
グラフから \(V_0\) と \(I_0\) の値を正確に読み取り、この式に代入して \(X\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • グラフの縦軸の最大値を読み取る。
  • オームの法則のアナロジー: \((\text{電圧の最大値}) = (\text{リアクタンス}) \times (\text{電流の最大値})\)

具体的な解説と立式
グラフより、電圧の最大値 \(V_0\) と電流の最大値 \(I_0\) を読み取ります。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= 100\,\text{V} \\[2.0ex]
I_0 &= 0.50\,\text{A}
\end{aligned}
$$
求めるリアクタンスを \(X_L\) とします。電圧と電流の最大値の間には以下の関係が成り立ちます。
$$
V_0 = X_L I_0
$$

使用した物理公式

  • 交流のオームの法則的関係: \(V_0 = X I_0\)
計算過程

値を代入して \(X_L\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
100 &= X_L \times 0.50 \\[2.0ex]
X_L &= \frac{100}{0.50} \\[2.0ex]
&= 200 \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^2\,\Omega
\end{aligned}
$$
有効数字は2桁とします。

この設問の平易な説明

交流でも、直流のオームの法則「電圧=抵抗×電流」と同じような計算ができます。ただし、抵抗の代わりに「リアクタンス」という言葉を使います。
グラフの一番高いところの値を見ると、電圧は \(100\,\text{V}\)、電流は \(0.50\,\text{A}\) です。「\(100\,\text{V}\) かけて \(0.50\,\text{A}\) しか流れない」ということは、流れにくさ(リアクタンス)は \(100 \div 0.50 = 200\,\Omega\) ということになります。

結論と吟味

リアクタンスは \(2.0 \times 10^2\,\Omega\) です。電圧 \(100\,\text{V}\) に対して電流 \(0.50\,\text{A}\) という値から、妥当な大きさです。

解答 (2) \(2.0 \times 10^2\,\Omega\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)で素子がコイルであると特定できたので、そのリアクタンス \(X_L\) はインダクタンス \(L\) と角周波数 \(\omega\) を用いて \(X_L = \omega L\) と表されます。
(2)ですでに \(X_L\) の値は求まっています。あとは \(\omega\) が分かれば \(L\) を求められます。
\(\omega\) は、グラフから周期 \(T\) を読み取り、\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の公式を使って計算します。

この設問における重要なポイント

  • グラフの横軸から周期 \(T\) を読み取る。
  • 角周波数の定義: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
  • コイルのリアクタンスの公式: \(X_L = \omega L\)

具体的な解説と立式
まず、グラフから交流の周期 \(T\) を読み取ります。
電圧(または電流)の波形が1回振動して元の状態に戻るまでの時間は、横軸の目盛りから読み取れます。
$$
T = 2.0 \times 10^{-2}\,\text{s}
$$
これより、角周波数 \(\omega\) を求める式は以下の通りです。
$$
\omega = \frac{2\pi}{T}
$$
次に、コイルのリアクタンスの公式 \(X_L = \omega L\) を \(L\) について解く形に変形します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{X_L}{\omega} \\[2.0ex]
&= \frac{X_L}{(2\pi/T)} \\[2.0ex]
&= \frac{X_L T}{2\pi}
\end{aligned}
$$
この式に値を代入して計算します。

使用した物理公式

  • 角周波数: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
  • コイルのリアクタンス: \(X_L = \omega L\)
計算過程

まず \(\omega\) を計算します。円周率 \(\pi = 3.14\) とします。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \frac{2 \times 3.14}{2.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= \frac{6.28}{0.020} \\[2.0ex]
&= 3.14 \times 10^2\,\text{rad/s}
\end{aligned}
$$
次に、(2)で求めた \(X_L = 2.0 \times 10^2\,\Omega\) と、求めた \(\omega\) を用いて \(L\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
2.0 \times 10^2 &= (3.14 \times 10^2) \times L \\[2.0ex]
L &= \frac{2.0 \times 10^2}{3.14 \times 10^2} \\[2.0ex]
&= \frac{2.0}{3.14}
\end{aligned}
$$
割り算を実行します。
$$
\begin{aligned}
L &\approx 0.6369\dots
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、3桁目を四捨五入します。
$$
L = 0.64\,\text{H}
$$

この設問の平易な説明

コイルの「電流の流れにくさ(リアクタンス)」は、コイル自体の性能(インダクタンス \(L\))と、交流の周波数(どれくらい速く変化するか)によって決まります。変化が速いほど、コイルは電流を流しにくくなります。
まずグラフから「1回の波にかかる時間(周期)」を読み取り、そこから「変化の速さ(角周波数)」を計算します。
(2)で求めた「流れにくさ」の値と、今計算した「変化の速さ」を使って、逆算することでコイルの性能 \(L\) を求めます。

結論と吟味

インダクタンス \(L = 0.64\,\text{H}\) が得られました。これは実験室レベルのコイルとして現実的な値です。
計算過程で \(10^2\) が約分されて消えるため、桁数のミスもしにくい構造になっています。

解答 (3) \(0.64\,\text{H}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 交流回路における素子の位相特性
    • 核心: 交流回路では、素子の種類によって電圧と電流のタイミング(位相)にズレが生じます。このズレが素子を特定する「指紋」のような役割を果たします。
    • 理解のポイント:
      • コイル: 電流の変化を妨げる性質(自己誘導)があるため、電圧をかけても電流が遅れて流れます。位相は \(\pi/2\) 遅れます。
      • コンデンサー: 電荷が溜まるまで電圧が上がらないため、電流が先に流れ込み、後から電圧が上昇します。位相は \(\pi/2\) 進みます。
      • 抵抗: 電圧と電流は同時に変化し、位相差はありません。
  • リアクタンスとオームの法則の拡張
    • 核心: 交流回路でも、直流のオームの法則 \(V=RI\) と同様の形 \(V_0 = X I_0\) が成り立ちます。この比例定数 \(X\)(リアクタンス)が「交流に対する抵抗」の役割を果たします。
    • 理解のポイント:
      • リアクタンスは周波数に依存します。コイルは高周波ほど通しにくく(\(X_L = \omega L\))、コンデンサーは高周波ほど通しやすい(\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\))という周波数特性の違いを理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 抵抗、コイル、コンデンサーが直列・並列に接続されたRLC回路の問題: 各素子の電圧・電流の位相関係をベクトル図(フェーザ図)で描いて合成する問題に応用できます。
    • 周波数を変化させたときの電流の変化を問う問題: リアクタンスの周波数依存性(\(\omega\) が分母にあるか分子にあるか)に着目します。
    • グラフから瞬時値の式を求める問題: 最大値と周期から振幅と角周波数を求め、位相のズレを初期位相として \(\sin(\omega t + \phi)\) の形に落とし込みます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの横軸を確認する: 時間 \(t\) なのか、周波数 \(f\) なのかによって読み取るべき情報が全く異なります。
    2. 位相差の判定基準を決める: 「山(最大値)」や「ゼロクロス点(\(0\) を切る点)」など、特徴的な点がどちらのグラフで先に現れるかを確認します。
    3. 単位に注意する: グラフの軸に \(\times 10^{-2}\) などの倍率がついていないか、単位が \(\text{mA}\) や \(\text{mV}\) でないかを必ずチェックします。
    4. 極限を考える: 周波数が \(0\)(直流)のときや無限大のとき、素子がどう振る舞うか(コイルは直流でただの導線、コンデンサーは直流を通さないなど)をイメージすると、検算に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「進み」と「遅れ」の逆転:
    • 誤解: グラフで右側にある波形を「進んでいる」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 時間軸は右に行くほど未来です。右にあるということは、その現象が起きるのが「遅い」ということです。「先に山が来る方が進んでいる(左側が進み)」と覚えましょう。
  • リアクタンスの公式の混同:
    • 誤解: コイルのリアクタンスを \(\displaystyle\frac{1}{\omega L}\)、コンデンサーを \(\omega C\) と逆にしてしまう。
    • 対策: 物理的な意味で覚えましょう。
      • コイル: 周波数が高い(\(\omega\) 大)と変化が激しくなり、自己誘導で邪魔する力が強くなる → 抵抗大 → \(\omega\) は分子(\(X_L = \omega L\))。
      • コンデンサー: 周波数が高い(\(\omega\) 大)と充放電が頻繁に行われ、電流がよく流れる → 抵抗小 → \(\omega\) は分母(\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\))。
  • 角周波数 \(\omega\) と周波数 \(f\) の混同:
    • 誤解: \(\omega\) の代わりに \(f\) をそのまま公式に代入してしまう。
    • 対策: 必ず \(\omega = 2\pi f = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係式を経由すること。単位が \(\text{rad/s}\) なら \(\omega\)、\(\text{Hz}\) なら \(f\) です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)でのアプローチ選択(グラフの読み取り vs 数式解析):
    • 選定理由: 問題が定性的な理解(どちらが遅れているか)を求めている場合、グラフの視覚的な読み取りが最も速くて確実です。一方、厳密な証明や複雑な波形の場合は、別解のような数式解析(微分方程式)が有効です。
    • 適用根拠: グラフの山と山のズレがちょうど \(1/4\) 周期(\(\pi/2\))であることは目視で明らかなので、典型的な素子の特性と直接結びつけられます。
  • (2)での公式選択(オームの法則の拡張):
    • 選定理由: 電圧と電流の最大値の関係を問われているため。
    • 適用根拠: 交流回路において、実効値や最大値同士の間には、直流回路と同じ形の比例関係 \(V = XI\) が成立します。瞬時値 \(v = Li’\) などを考える必要はありません。
  • (3)での公式選択(リアクタンスの定義式):
    • 選定理由: 素子の定数(\(L\) や \(C\))を求めるには、リアクタンス \(X\) と角周波数 \(\omega\) を結びつける定義式が必要です。
    • 適用根拠: (1)でコイルと特定したため \(X_L = \omega L\) を選択します。もしコンデンサーなら \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を選びます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の処理を丁寧に行う:
    • グラフの軸にある \(\times 10^{-2}\) などの指数を見落とさないように、読み取った値には必ず指数をつけてメモする癖をつけましょう(例: \(T = 2.0\) ではなく \(T = 2.0 \times 10^{-2}\) と書く)。
  • \(\pi\) の計算は最後にする:
    • \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の計算で \(\pi = 3.14\) を早々に代入して計算してしまうと、後の計算で約分できるチャンスを逃したり、計算誤差が蓄積したりします。できるだけ \(\pi\) のまま式変形を進め、最後に数値を代入しましょう。今回の問題でも、\(L = \displaystyle\frac{X_L T}{2\pi}\) の式を作ってから代入することで計算がスムーズになります。
  • 単位の確認による検算:
    • リアクタンスの単位は \(\Omega\)(オーム)、インダクタンスは \(\text{H}\)(ヘンリー)、電気容量は \(\text{F}\)(ファラド)です。計算結果の単位がこれらと整合しているか、次元解析的な視点を持つとミスに気づきやすくなります。例えば \(X_L = \omega L\) なら \([\text{rad/s}] \cdot [\text{H}] = [1/\text{s}] \cdot [\text{V}\cdot\text{s}/\text{A}] = [\text{V}/\text{A}] = [\Omega]\) となり正しいことが確認できます。

548 インピーダンス

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: キルヒホッフの法則と三角関数の合成を用いた解法
      • 模範解答が抵抗とリアクタンスのベクトル図から幾何学的にインピーダンスを求めるのに対し、別解では回路に流れる電流を仮定し、各素子の電圧降下を足し合わせて電源電圧と等置する(キルヒホッフの法則)ことで、数式的にインピーダンスを導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の理解: 「インピーダンス」という概念が、単なるベクトルの和ではなく、瞬時値における電圧と電流の関係(微分方程式)から導かれるものであることを深く理解できます。
    • 応用力の向上: ベクトル図が描きにくい複雑な回路や、過渡現象を含む問題に対しても、基本法則(キルヒホッフの法則)に立ち返って立式する力が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られるインピーダンスの式は模範解答と一致します。

この問題のテーマは「RL直列回路・RC直列回路のインピーダンスと電流」です。抵抗、コイル、コンデンサーを含む回路において、直流と交流それぞれに対する応答の違いを理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直流に対する定常状態: 十分に時間が経過した後、コイルは導線(抵抗 \(0\))、コンデンサーは断線(抵抗 \(\infty\))とみなせること。
  2. 交流のリアクタンス: コイルは \(X_L = \omega L\)、コンデンサーは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) の抵抗成分(リアクタンス)を持つこと。
  3. インピーダンス: 直列回路では、抵抗 \(R\) とリアクタンス \(X\) のベクトル和の大きさ \(Z = \sqrt{R^2 + X^2}\) が回路全体の合成抵抗(インピーダンス)となること。
  4. 実効値と最大値の関係: 正弦波交流において、実効値 \(V_e\) と最大値 \(V_0\) は \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\) の関係にあること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、直流電源に接続された定常状態を考えます。コイルとコンデンサーの直流に対する振る舞い(導線か断線か)に基づいて等価回路を考え、オームの法則を適用します。
  2. (2)では、交流電源の周期 \(T\) から角周波数 \(\omega\) を求め、各素子のリアクタンスを計算します。直列回路なので、抵抗とリアクタンスを直角三角形の辺とみなして三平方の定理(ベクトル合成)を用い、インピーダンス \(Z\) を求めます。
  3. (3)では、交流のオームの法則 \(V_e = Z I_e\) を用いて、電圧の実効値から電流の実効値を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
直流電圧を加えて「十分に時間が経過した」状態、つまり定常状態におけるコイルとコンデンサーの性質を考えます。
定常状態では電流の値が一定になるため、時間変化がなくなります。

この設問における重要なポイント

  • コイルの性質: 電流が一定(\(\displaystyle\frac{di}{dt}=0\))になると、誘導起電力 \(V_L = -L\displaystyle\frac{di}{dt}\) は \(0\) になります。つまり、電圧降下がなくなり、単なる導線とみなせます。
  • コンデンサーの性質: 充電が完了すると電荷の移動が止まり、電流は流れなくなります。つまり、回路が切れている(断線)のと同等とみなせます。

具体的な解説と立式
(a) RL直列回路の場合
十分に時間が経過すると、電流 \(I\) は一定になります。
コイルに発生する誘導起電力(自己誘導による電圧)は電流の変化率に比例するため、電流が一定の状態では電圧降下は \(0\) です。
したがって、コイルは抵抗 \(0\) の導線とみなすことができます。
回路全体で見ると、抵抗 \(R\) のみに電圧 \(V\) がかかっているのと同じ状態です。
オームの法則より、流れる電流 \(I\) は以下のようになります。
$$
I = \frac{V}{R}
$$
(b) RC直列回路の場合
十分に時間が経過すると、コンデンサーへの充電が完了します。
充電が完了すると、それ以上電荷は移動しないため、回路に電流は流れません。
したがって、流れる電流 \(I\) は以下のようになります。
$$
I = 0
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
  • コイルの誘導起電力: \(V_L = -L\displaystyle\frac{di}{dt}\)
計算過程

上記の解説通り、計算は単純な代入のみです。

この設問の平易な説明

直流(乾電池など)をつないでしばらく待つと、回路の状態が落ち着きます。
コイルは「電流の変化を嫌う」素子ですが、変化しなくなってしまえばただの銅線です。だから(a)は抵抗だけの回路と同じ計算になります。
コンデンサーは「電気を貯めるタンク」です。タンクがいっぱいになれば、それ以上水(電気)は流れません。だから(b)は電流が止まります。

結論と吟味

(a)は \(V/R\)、(b)は \(0\) となりました。これは直流回路におけるコイルとコンデンサーの基本的な性質と一致します。

解答 (1) (a) \(\displaystyle\frac{V}{R}\,\text{[A]}\) (b) \(0\,\text{A}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
交流回路における「電流の流れにくさ」であるインピーダンス \(Z\) を求めます。
まず、与えられた交流電圧の式から角周波数 \(\omega\) を読み取ります。
次に、コイルのリアクタンス \(X_L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) を計算します。
最後に、抵抗 \(R\) とリアクタンス \(X\) の関係をベクトル図(フェーザ図)で表し、三平方の定理を用いて合成します。

この設問における重要なポイント

  • 交流電圧の式: \(v = V_0 \sin \displaystyle\frac{2\pi}{T}t\) より、角周波数 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) です。
  • 誘導リアクタンス: \(X_L = \omega L\)
  • 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
  • インピーダンスの合成(直列): \(Z = \sqrt{R^2 + X^2}\)

具体的な解説と立式
まず、角周波数 \(\omega\) を確認します。
$$
\omega = \frac{2\pi}{T}
$$
(a) RL直列回路の場合
コイルのリアクタンス \(X_L\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
X_L &= \omega L \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi L}{T}
\end{aligned}
$$
抵抗 \(R\) とコイルのリアクタンス \(X_L\) は直列接続ですが、電圧の位相が \(\pi/2\) ずれているため、単純な足し算ではなくベクトルの合成(三平方の定理)になります。
インピーダンス \(Z_a\) は以下の式で表されます。
$$
Z_a = \sqrt{R^2 + X_L^2}
$$
これに \(X_L\) を代入します。

(b) RC直列回路の場合
コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
X_C &= \frac{1}{\omega C} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\frac{2\pi}{T} C} \\[2.0ex]
&= \frac{T}{2\pi C}
\end{aligned}
$$
同様に、抵抗 \(R\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) をベクトル合成します。
インピーダンス \(Z_b\) は以下の式で表されます。
$$
Z_b = \sqrt{R^2 + X_C^2}
$$
これに \(X_C\) を代入します。

使用した物理公式

  • 誘導リアクタンス: \(X_L = \omega L\)
  • 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
  • RL直列回路のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L)^2}\)
  • RC直列回路のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + (\frac{1}{\omega C})^2}\)
計算過程

(a)の計算
$$
\begin{aligned}
Z_a &= \sqrt{R^2 + \left( \frac{2\pi L}{T} \right)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{R^2 + \frac{4\pi^2 L^2}{T^2}}
\end{aligned}
$$
(b)の計算
$$
\begin{aligned}
Z_b &= \sqrt{R^2 + \left( \frac{T}{2\pi C} \right)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{R^2 + \frac{T^2}{4\pi^2 C^2}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

交流回路では、抵抗だけでなくコイルやコンデンサーも電流の流れを妨げる働きをします。これを「リアクタンス」と呼びます。
ただし、抵抗とリアクタンスは「妨げ方」のタイミング(位相)がズレているため、単純に足し算できません。
抵抗を横方向、リアクタンスを縦方向の長さと考えたときの「斜めの長さ」が、回路全体の抵抗(インピーダンス)になります。ピタゴラスの定理(三平方の定理)を使って計算します。

結論と吟味

得られた式は、抵抗とリアクタンスの二乗和の平方根という形になっており、次元(単位)も抵抗 \([\Omega]\) と一致します。

解答 (2) (a) \(\sqrt{R^2 + \displaystyle\frac{4\pi^2 L^2}{T^2}}\,\text{[\(\Omega\)]}\) (b) \(\sqrt{R^2 + \displaystyle\frac{T^2}{4\pi^2 C^2}}\,\text{[\(\Omega\)]}\)
別解: キルヒホッフの法則と三角関数の合成を用いた解法

思考の道筋とポイント
インピーダンスの公式を暗記していなくても、回路方程式(キルヒホッフの法則)から導くことができます。
回路に流れる電流を \(i = I_0 \sin \omega t\) と仮定し、各素子の電圧降下を計算して足し合わせます。その最大値が電源電圧の最大値 \(V_0\) と一致することを利用します。

この設問における重要なポイント

  • 電流の仮定: \(i = I_0 \sin \omega t\)
  • 抵抗の電圧降下: \(v_R = Ri = R I_0 \sin \omega t\)
  • コイルの電圧降下: \(v_L = L \displaystyle\frac{di}{dt} = \omega L I_0 \cos \omega t\)
  • 三角関数の合成: \(A \sin \theta + B \cos \theta = \sqrt{A^2 + B^2} \sin(\theta + \phi)\)

具体的な解説と立式
(a) RL直列回路の場合
回路に流れる電流を \(i = I_0 \sin \omega t\) とします。
キルヒホッフの第二法則より、電源電圧 \(v\) は各素子の電圧降下の和に等しいので、
$$
\begin{aligned}
v &= v_R + v_L \\[2.0ex]
&= Ri + L\frac{di}{dt} \\[2.0ex]
&= R I_0 \sin \omega t + L \frac{d}{dt}(I_0 \sin \omega t) \\[2.0ex]
&= R I_0 \sin \omega t + \omega L I_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
ここで、三角関数の合成公式を用います。
$$
\begin{aligned}
v &= I_0 (R \sin \omega t + \omega L \cos \omega t) \\[2.0ex]
&= I_0 \sqrt{R^2 + (\omega L)^2} \sin(\omega t + \phi)
\end{aligned}
$$
(ただし、\(\tan \phi = \displaystyle\frac{\omega L}{R}\))
この式の最大値(振幅)は \(I_0 \sqrt{R^2 + (\omega L)^2}\) です。
これが電源電圧の最大値 \(V_0\) に等しいので、
$$
V_0 = I_0 \sqrt{R^2 + (\omega L)^2}
$$
インピーダンス \(Z_a\) は電圧の最大値と電流の最大値の比 \(V_0 / I_0\) なので、
$$
\begin{aligned}
Z_a &= \frac{V_0}{I_0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{R^2 + (\omega L)^2}
\end{aligned}
$$
ここに \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入すれば、主たる解法と同じ結果が得られます。

(b) RC直列回路の場合
同様に、\(v = v_R + v_C\) を考えます。
コンデンサーの電圧 \(v_C\) は \(v_C = \displaystyle\frac{1}{C} \int i \, dt\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_C &= \frac{1}{C} \int I_0 \sin \omega t \, dt \\[2.0ex]
&= -\frac{I_0}{\omega C} \cos \omega t
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
v &= R I_0 \sin \omega t – \frac{I_0}{\omega C} \cos \omega t \\[2.0ex]
&= I_0 \sqrt{R^2 + \left(-\frac{1}{\omega C}\right)^2} \sin(\omega t + \phi’)
\end{aligned}
$$
最大値を比較して、
$$
Z_b = \sqrt{R^2 + \left(\frac{1}{\omega C}\right)^2}
$$
これも主たる解法と同じ結果になります。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則
  • 三角関数の合成公式
計算過程

上記の解説内で導出済み。

この設問の平易な説明

電流を基準にして、抵抗にかかる電圧とコイル(またはコンデンサー)にかかる電圧を足し算します。
ただし、コイルの電圧は電流よりタイミングが早く(コサイン)、抵抗の電圧は電流と同じタイミング(サイン)なので、単純な足し算ではなく「波の合成」をする必要があります。
数学の「三角関数の合成」を使うと、合成された波の高さ(最大電圧)が計算でき、そこからインピーダンスが求まります。

結論と吟味

ベクトル図を使わずに、数式変形だけで同じ結果が得られました。これはインピーダンスという概念の数学的な裏付けとなります。

解答 (2) (a) \(\sqrt{R^2 + \displaystyle\frac{4\pi^2 L^2}{T^2}}\,\text{[\(\Omega\)]}\) (b) \(\sqrt{R^2 + \displaystyle\frac{T^2}{4\pi^2 C^2}}\,\text{[\(\Omega\)]}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
交流回路におけるオームの法則 \(V_e = Z I_e\) を用いて、電流の実効値 \(I_e\) を求めます。
まず、与えられた電圧の最大値 \(V_0\) から、電圧の実効値 \(V_e\) を求めます。
そして、(2)で求めたインピーダンス \(Z\) を用いて計算します。

この設問における重要なポイント

  • 実効値と最大値の関係: \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)
  • 交流のオームの法則(実効値): \(V_e = Z I_e\)

具体的な解説と立式
加えた交流電圧の最大値は \(V_0\) です。
したがって、電圧の実効値 \(V_e\) は以下のようになります。
$$
V_e = \frac{V_0}{\sqrt{2}}
$$
求める電流の実効値を \(I_e\) とすると、オームの法則より以下の関係が成り立ちます。
$$
I_e = \frac{V_e}{Z}
$$
この式に、\(V_e\) と (2)で求めた \(Z_a\), \(Z_b\) をそれぞれ代入します。

使用した物理公式

  • 実効値の定義: \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)
  • 交流のオームの法則: \(I_e = \displaystyle\frac{V_e}{Z}\)
計算過程

(a) RL直列回路の場合
$$
\begin{aligned}
I_a &= \frac{V_0 / \sqrt{2}}{Z_a} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0}{\sqrt{2} \sqrt{R^2 + \frac{4\pi^2 L^2}{T^2}}} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0}{\sqrt{2 \left( R^2 + \frac{4\pi^2 L^2}{T^2} \right)}}
\end{aligned}
$$
(b) RC直列回路の場合
$$
\begin{aligned}
I_b &= \frac{V_0 / \sqrt{2}}{Z_b} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0}{\sqrt{2} \sqrt{R^2 + \frac{T^2}{4\pi^2 C^2}}} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0}{\sqrt{2 \left( R^2 + \frac{T^2}{4\pi^2 C^2} \right)}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

交流の実効値とは、「直流と同じ仕事をする値」のことです。最大値の約 \(0.7\) 倍(\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍)になります。
電圧の実効値を計算し、それを(2)で求めた「交流での抵抗(インピーダンス)」で割れば、電流の実効値が求まります。やっていることは \(I = V/R\) と同じです。

結論と吟味

電流の実効値は、電圧の実効値をインピーダンスで割った形になっています。インピーダンスが大きいほど電流は小さくなるため、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) (a) \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2\left(R^2+\frac{4\pi^2 L^2}{T^2}\right)}}\,\text{[A]}\) (b) \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2\left(R^2+\frac{T^2}{4\pi^2 C^2}\right)}}\,\text{[A]}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 直流と交流に対する素子の応答の違い
    • 核心: コイルとコンデンサーは、電源が直流か交流かによって全く異なる振る舞いをします。
    • 理解のポイント:
      • 直流(定常状態): コイルはただの導線(\(V=0\))、コンデンサーは断線(\(I=0\))として扱います。
      • 交流: コイルは誘導リアクタンス \(X_L = \omega L\)、コンデンサーは容量リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を持つ抵抗成分として扱います。
  • インピーダンスとベクトル合成
    • 核心: 交流回路における合成抵抗(インピーダンス)は、単純な足し算ではなく、位相差を考慮したベクトル和(三平方の定理)で計算します。
    • 理解のポイント:
      • 抵抗 \(R\) は位相差なし(横軸)。
      • コイル \(X_L\) は位相が \(\pi/2\) 進む(縦軸上向き)。
      • コンデンサー \(X_C\) は位相が \(\pi/2\) 遅れる(縦軸下向き)。
      • これらを直角三角形の辺とみなして \(Z = \sqrt{R^2 + X^2}\) を導きます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • RLC直列回路: コイルとコンデンサーが両方ある場合、リアクタンスは \(|X_L – X_C|\) となり、インピーダンスは \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) となります。
    • 並列回路: 電圧が共通になるため、電流のベクトル和を考えます。アドミタンス(インピーダンスの逆数)を用いると計算が楽になることがあります。
    • 共振回路: \(X_L = X_C\) となる特定の周波数(共振周波数)では、インピーダンスが最小(直列共振)または最大(並列共振)になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電源の種類を確認する: 直流なら「定常状態」か「過渡現象(スイッチを入れた直後)」かを見極めます。交流なら周波数や最大値を確認します。
    2. 素子の接続を確認する: 直列なら電流が共通(電流を基準にベクトル図を描く)、並列なら電圧が共通(電圧を基準にベクトル図を描く)です。
    3. 求める物理量を確認する: 実効値なのか最大値なのか、あるいは瞬時値の式なのかによって、使う係数(\(\sqrt{2}\) など)が変わります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 直流と交流の混同:
    • 誤解: 直流回路の問題でリアクタンス \(X_L\) を計算してしまったり、交流回路でコンデンサーを断線扱いして電流 \(0\) と答えてしまう。
    • 対策: 問題文の「直流電圧」「交流電圧」というキーワードに丸をつけ、モードを切り替える意識を持ちましょう。
  • 角周波数 \(\omega\) の代入忘れ:
    • 誤解: 問題文で周期 \(T\) や周波数 \(f\) が与えられているのに、公式の \(\omega\) のまま解答してしまう。
    • 対策: 最終的な答えに使える文字を確認しましょう。\(T\) が与えられたら \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)、\(f\) が与えられたら \(\omega = 2\pi f\) を必ず代入します。
  • 実効値と最大値の取り違え:
    • 誤解: オームの法則 \(V=ZI\) を使う際、電圧は最大値 \(V_0\) なのに電流は実効値 \(I_e\) を求めてしまう、あるいはその逆。
    • 対策: 式を立てるときに、\(V_0 = Z I_0\)(最大値同士)、\(V_e = Z I_e\)(実効値同士)のように、添え字を意識して統一しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)でのアプローチ選択(定常状態の性質):
    • 選定理由: 「十分に時間が経過した」という文言は、過渡現象が終わり定常状態になったことを示唆しています。この状態では微分項(\(\displaystyle\frac{di}{dt}\) など)がゼロになるため、微分方程式を解く必要はなく、素子の極限的な性質(導線・断線)を利用するのが最適です。
    • 適用根拠: コイルの電圧 \(V_L = L \displaystyle\frac{di}{dt}\) は電流一定(\(\displaystyle\frac{di}{dt}=0\))なら \(0\) になり、コンデンサーの電流 \(i = \displaystyle\frac{dq}{dt}\) は充電完了(\(q=\text{一定}\))なら \(0\) になるという物理法則に基づいています。
  • (2)での公式選択(インピーダンスの定義):
    • 選定理由: 直列回路の合成抵抗を求める問題です。位相差が \(\pi/2\) であることから、単純和ではなくベクトル和(三平方の定理)を選択します。
    • 適用根拠: 抵抗の電圧ベクトル(電流と同位相)とリアクタンスの電圧ベクトル(電流と \(\pi/2\) の位相差)が直交しているため、ピタゴラスの定理 \(V^2 = V_R^2 + V_X^2\) が成立し、これを電流 \(I\) で割ることで \(Z = \sqrt{R^2 + X^2}\) が導かれるためです。
  • (3)での公式選択(交流のオームの法則):
    • 選定理由: 電圧と電流の比例関係を求める問題であり、インピーダンス \(Z\) がすでに求まっているため。
    • 適用根拠: 交流回路においても、瞬時値ではなく実効値(または最大値)に着目すれば、電圧と電流の間には定数(インピーダンス)を介した線形関係 \(V_e = Z I_e\) が成立するため、これを適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • ルートの中の通分:
    • インピーダンスの計算で \(\sqrt{R^2 + (\displaystyle\frac{1}{\omega C})^2}\) のような式が出てきたとき、無理に通分して \(\displaystyle\frac{\sqrt{(\omega CR)^2 + 1}}{\omega C}\) のように変形する必要があるかどうかは、解答欄の形式や選択肢によります。特に指定がなければ、二乗和の形のままで止めておく方が計算ミスは減ります。
  • 次元解析(単位チェック):
    • インピーダンス \(Z\) の単位は \([\Omega]\) です。
    • \(X_L = \omega L \rightarrow [1/\text{s}] \cdot [\text{H}] = [\Omega]\)
    • \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} \rightarrow \frac{1}{[1/\text{s}] \cdot [\text{F}]} = [\Omega]\)
    • これらが \(R\) と同じ次元を持っていることを確認することで、公式の覚え間違い(\(\omega\) が分母か分子かなど)を防げます。
  • 係数 \(\sqrt{2}\) の位置:
    • 実効値 \(V_e = V_0 / \sqrt{2}\) なのか \(V_e = \sqrt{2} V_0\) なのか迷ったら、「実効値(平均的なパワー)は最大値(ピーク)より小さいはず」と思い出しましょう。割り算するのが正解です。
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549 抵抗の無視できないコイル

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: ピタゴラス数を用いた幾何学的解法
      • 模範解答がインピーダンスの式 \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L)^2}\) に数値を代入して計算するのに対し、別解では \(R:X_L:Z = 3:4:5\) の直角三角形(ピタゴラス数)の関係を利用して、計算量を減らしてリアクタンス \(X_L\) を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算の効率化: \(3^2 + 4^2 = 5^2\) という有名な整数比に気づくことで、ルートの計算や二乗の計算を省略でき、計算ミスを減らせます。
    • 直感的な理解: インピーダンスがベクトル和であることを視覚的に捉えやすくなります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる自己インダクタンスの値は模範解答と一致します。

この問題のテーマは「現実的なコイル(抵抗を含むコイル)の特性解析」です。理想的なコイルとは異なり、実際のコイルは導線の抵抗を持つため、これを「抵抗 \(R\) と理想的なコイル \(L\) の直列回路」としてモデル化して考える能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直流に対する定常状態: 十分に時間が経過した後、コイルの誘導起電力は \(0\) になり、コイルは単なる抵抗体として振る舞うこと。
  2. 交流に対するインピーダンス: 交流回路では、抵抗 \(R\) と誘導リアクタンス \(X_L = \omega L\) のベクトル和 \(Z = \sqrt{R^2 + X_L^2}\) が回路全体の抵抗(インピーダンス)となること。
  3. オームの法則の適用: 直流では \(V = RI\)、交流(実効値)では \(V_e = Z I_e\) が成り立つこと。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、直流電圧を加えたときの電流値から、オームの法則を用いてコイルの抵抗成分 \(R\) を求めます。このとき、誘導リアクタンスは \(0\) です。
  2. (2)では、交流電圧を加えたときの電圧と電流の実効値から、交流のオームの法則を用いて回路全体のインピーダンス \(Z\) を求めます。
  3. (3)では、(1)で求めた \(R\) と(2)で求めた \(Z\) をインピーダンスの公式 \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L)^2}\) に代入し、自己インダクタンス \(L\) を逆算します。

問(1)

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
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