「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅵ 章 20】基本例題~基本問題511

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

基本例題

基本例題69 直線電流と円形電流がつくる磁場

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電流がつくる磁場」です。直線電流と円形電流という、形状の異なる導線がつくる磁場の性質を理解し、それらを重ね合わせたときの合成磁場を考える問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 右ねじの法則: 電流の向きと、その周囲にできる磁場の向きの関係を決める法則。
  2. 直線電流がつくる磁場: 導線からの距離に反比例する。公式 \(H = \frac{I}{2\pi r}\)。
  3. 円形電流がつくる磁場: 円の中心における磁場。半径に反比例する。公式 \(H = \frac{I}{2r}\)(\(N\) 回巻きなら \(N\) 倍)。
  4. 磁束密度と磁場の関係: \(B = \mu H\)。透磁率 \(\mu\) が比例定数となる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、直線電流の磁場の公式を用いて強さを計算し、右ねじの法則で向きを判定します。
  2. (2)では、(1)で求めた磁場の強さに透磁率を掛けて磁束密度を求めます。
  3. (3)では、円形電流がつくる磁場が、直線電流がつくる磁場を打ち消す(大きさ等しく、向きが逆)条件を立式して解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
無限に長い直線状の導線に電流が流れると、その周囲には同心円状の磁場が形成されます。
まずは公式を使って磁場の強さを計算します。このとき、円周率 \(\pi\) や距離の単位(\(\text{cm} \to \text{m}\))に注意が必要です。
次に、右ねじの法則を使って、点Oにおける磁場の向き(紙面の表から裏か、裏から表か)を決定します。

この設問における重要なポイント

  • 直線電流がつくる磁場の強さの公式 \(H = \frac{I}{2\pi r}\) を正しく選択する。
  • 距離 \(r\) を \(\text{cm}\) から \(\text{m}\) に換算する(\(20\,\text{cm} = 0.20\,\text{m}\))。
  • 電流 \(15.7\,\text{A}\) が \(3.14 \times 5\) であることに気づくと計算が楽になる。
  • 右ねじの法則を適用する際、親指を電流の向きに合わせる。

具体的な解説と立式
直線電流の強さを \(I = 15.7\,\text{A}\)、導線から点Oまでの距離を \(r = 0.20\,\text{m}\) とします。
求める磁場の強さを \(H_1\) とすると、直線電流がつくる磁場の公式より、
$$ H_1 = \frac{I}{2\pi r} $$
と立式できます。

次に、向きを考えます。
「右ねじの法則」を使います。右手の親指を電流の流れる向き(上向き)に合わせます。このとき、残りの4本の指が回る向きが磁場の向きです。
導線の右側にある点Oでは、指先は「紙面の表側から裏側」に向かって突き刺さる方向を向きます。
したがって、磁場の向きは「紙面に垂直に表から裏の向き」です。

使用した物理公式

  • 直線電流がつくる磁場の強さ: \(H = \frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

値を代入して計算します。ここで、\(\pi \approx 3.14\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
H_1 &= \frac{15.7}{2 \times 3.14 \times 0.20} \\[2.0ex]
&= \frac{5 \times 3.14}{2 \times 3.14 \times 0.20} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2 \times 0.20} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{0.40} \\[2.0ex]
&= 12.5\,\text{A/m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(13\,\text{A/m}\) となります。

この設問の平易な説明

まっすぐな電線に電気が流れると、その周りには磁石の力が働きます。電線に近いほどその力は強くなります。ここでは公式に数字を入れて計算するだけですが、数字の \(15.7\) が \(3.14\) のちょうど \(5\) 倍になっていることに気づくと、面倒な割り算をせずにスパッと答えが出せます。向きは、右手を使って「いいね!」の形を作り、親指を電流の向き(上)に向けると、他の指が画面の奥の方へ向くことから分かります。

結論と吟味

磁場の強さは \(13\,\text{A/m}\)、向きは紙面に垂直に表から裏の向きです。
電流が \(10\,\text{A}\) オーダー、距離が \(0.1\,\text{m}\) オーダーなので、磁場が \(10\,\text{A/m}\) オーダーになるのは妥当な大きさです。

解答 (1) 磁場の強さ: \(13\,\text{A/m}\)、向き: 紙面に垂直に表から裏の向き

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めたのは「磁場の強さ \(H\)」です。問われているのは「磁束密度の大きさ \(B\)」です。
この2つは、その場所の物質の磁気的な性質を表す「透磁率 \(\mu\)」によって結び付けられています。
真空中や空気中では、真空の透磁率 \(\mu_0\) を用います。

この設問における重要なポイント

  • 磁束密度と磁場の関係式 \(B = \mu H\) を理解していること。
  • 計算には、(1)で丸める前の値 \(H_1 = 12.5\,\text{A/m}\) を使うこと(途中計算での丸め誤差を防ぐため)。

具体的な解説と立式
磁束密度の大きさを \(B_1\)、空気の透磁率を \(\mu_0 = 1.3 \times 10^{-6}\,\text{N/A}^2\) とします。
関係式は以下の通りです。
$$ B_1 = \mu_0 H_1 $$

使用した物理公式

  • 磁束密度と磁場の関係: \(B = \mu H\)
計算過程

値を代入します。(1)の結果 \(H_1 = 12.5\) を用います。
$$
\begin{aligned}
B_1 &= (1.3 \times 10^{-6}) \times 12.5 \\[2.0ex]
&= 1.3 \times 12.5 \times 10^{-6}
\end{aligned}
$$
ここで、\(1.3 \times 12.5\) を計算します。
\(1.3 \times 12.5 = 1.3 \times \displaystyle\frac{100}{8} = \displaystyle\frac{130}{8} = 16.25\) と計算するか、筆算を行います。
$$
\begin{aligned}
B_1 &= 16.25 \times 10^{-6} \\[2.0ex]
&= 1.625 \times 10^{-5}\,\text{T}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、3桁目を四捨五入します。
$$ B_1 \approx 1.6 \times 10^{-5}\,\text{T} $$

この設問の平易な説明

「磁場の強さ」と「磁束密度」は似ていますが、少し違います。「磁場の強さ」は電流などの原因だけで決まる量ですが、「磁束密度」はその場所にある物質(ここでは空気)の影響も含めた、実際に受ける磁力の強さを表す量です。変換するための係数(透磁率)を掛け算すれば求められます。

結論と吟味

磁束密度の大きさは \(1.6 \times 10^{-5}\,\text{T}\) です。
地磁気がおよそ \(5 \times 10^{-5}\,\text{T}\) 程度なので、それよりも少し弱い程度の妥当な値です。

解答 (2) \(1.6 \times 10^{-5}\,\text{T}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「中心Oの磁場を0とする」ということは、直線電流がつくる磁場を、円形電流がつくる磁場で完全に打ち消すということです。
つまり、円形電流がつくる磁場は、直線電流による磁場と「大きさが同じ」で「向きが逆」である必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 円形電流がつくる磁場の公式 \(H = \frac{I}{2r}\) を用いる。
  • 巻き数 \(N=5\) を忘れないこと(磁場は \(N\) 倍になる)。
  • 直線電流による磁場(表から裏)を打ち消すには、円形電流による磁場は「裏から表」の向きでなければならない。
  • 円形電流の向きと磁場の向きの関係にも、右ねじの法則を適用する。

具体的な解説と立式
円形導線に流す電流を \(I’\)、円の半径を \(r’ = 0.10\,\text{m}\)、巻き数を \(N = 5\) とします。
円形電流が中心Oにつくる磁場の強さを \(H_2\) とすると、公式より、
$$ H_2 = N \frac{I’}{2r’} $$
となります。

磁場が0になる条件は、直線電流による磁場の強さ \(H_1\) と、円形電流による磁場の強さ \(H_2\) が等しくなることです。
$$ H_1 = H_2 $$
すなわち、
$$ 12.5 = 5 \times \frac{I’}{2 \times 0.10} $$
と立式できます。

次に向きを決めます。
直線電流による磁場は「表から裏」の向きでした。これを打ち消して0にするには、円形電流は「裏から表」の向きの磁場をつくる必要があります。
右ねじの法則を使います。今度は親指を磁場の向き(裏から表、つまり手前向き)に向けます。すると、残りの指は「反時計まわり」に回ります。これが電流の向きです。

使用した物理公式

  • 円形電流がつくる磁場の強さ: \(H = N \frac{I}{2r}\)
計算過程

立式した方程式を \(I’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
12.5 &= \frac{5 I’}{0.20} \\[2.0ex]
12.5 &= 25 I’ \\[2.0ex]
I’ &= \frac{12.5}{25} \\[2.0ex]
I’ &= 0.50\,\text{A}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

直線電流が作った「奥向きの磁場」を消すために、円形電流で「手前向きの磁場」を作って対抗させます。綱引きで引き分けにするイメージです。
まず、円形電流の公式を使って、直線電流と同じ強さ(\(12.5\))の磁場を作るのに必要な電流を計算します。このとき、コイルが5回巻きなので、1回巻きのときより5倍強い磁場ができることに注意します。
向きは、右手を使います。親指を手前(作りたい磁場の向き)に向けると、他の指が回る方向(反時計まわり)が、流すべき電流の向きになります。

結論と吟味

流すべき電流は \(0.50\,\text{A}\)、向きは反時計まわりです。
直線電流 \(15.7\,\text{A}\) に比べてかなり小さい電流で済んでいますが、これは円形導線の方が観測点(中心)に近く(\(10\,\text{cm}\) vs \(20\,\text{cm}\))、さらに5回巻きで磁場が強められているためであり、妥当な結果です。

解答 (3) 向き: 反時計まわり、電流の大きさ: \(0.50\,\text{A}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電流がつくる磁場の公式の使い分け
    • 核心: 電流がつくる磁場の強さは、電流の大きさ \(I\) に比例し、距離 \(r\) に反比例するという基本性質は共通ですが、導線の形状によって比例定数が異なります。この違いを正確に区別して記憶し、適用できるかが最大のポイントです。
    • 理解のポイント:
      • 直線電流: 無限に長い直線状の導線がつくる磁場は \(H = \frac{I}{2\pi r}\) です。分母に \(\pi\) が入るのが特徴です。これは、磁力線が円周 \(2\pi r\) 上に広がっているイメージと結びつけると覚えやすいです。
      • 円形電流: 円形導線の中心につくる磁場は \(H = \frac{I}{2r}\) です。分母に \(\pi\) が入りません。さらに、\(N\) 回巻きのコイルであれば、磁場は単純に \(N\) 倍の強さになります(\(H = N\frac{I}{2r}\))。
  • 右ねじの法則による空間的な向きの把握
    • 核心: 磁場の問題では「大きさ」だけでなく「向き」が極めて重要です。電流の向きと磁場の向きの関係を、右手の親指と残りの指の回転で直感的に把握する能力が問われます。
    • 理解のポイント:
      • 直線電流の場合: 親指を「電流」の向きに合わせると、残りの指の回転が「磁場」の向きになります。
      • 円形電流の場合: 親指を「磁場」の向きに合わせると、残りの指の回転が「電流」の向きになります(逆も可ですが、この使い分けが便利です)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数の直線電流による磁場の合成: 平行な2本の導線に電流が流れている場合、それぞれの電流がつくる磁場をベクトルとして合成します。電流が同じ向きなら導線の間で磁場が打ち消し合い、逆向きなら強め合うといった定性的な予測も重要です。
    • ソレノイド(コイル)がつくる磁場: 導線を円筒状に密に巻いたソレノイド内部の磁場は一様で、公式は \(H = nI\)(\(n\) は1mあたりの巻き数)となります。直線、円形、ソレノイドの3つの公式を混同しないように整理しておきましょう。
    • 磁場中の電流が受ける力(電磁力): 磁場を求めるだけでなく、その磁場の中に別の電流を置いたときに受ける力 \(F = IBL\) を計算させる問題へと発展することが多いです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 導線の形状を確認する: 直線なのか、円形なのか、ソレノイドなのか。それによって使うべき公式(\(\pi\) があるかないかなど)が決まります。
    2. 観測点の位置を確認する: 直線電流なら導線からの距離、円形電流なら中心か軸上か。本問のように「中心」であれば公式一発ですが、軸上の点などの場合はビオ・サバールの法則(高校範囲外だが誘導が付く場合あり)や対称性を考慮した積分が必要になることもあります。
    3. 重ね合わせの原理: 複数の電流源がある場合、それぞれの電流がその場所に「もし単独であったら」つくる磁場を個別に計算し、最後にベクトルとして足し合わせます。向きが逆なら引き算、直交するなら三平方の定理を使います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 公式の \(\pi\) の有無の混同:
    • 誤解: 直線電流の公式に \(\pi\) を忘れたり、円形電流の公式に \(\pi\) をつけてしまうミスが非常に多いです。
    • 対策: 直線電流の磁力線は「円周」に沿うので \(2\pi r\)(円周の長さ)で割る、円形電流の中心は「直径」のようなものだから \(2r\)(直径)で割る、といった独自の語呂合わせやイメージで区別を明確にしましょう。
  • 単位換算の忘れ:
    • 誤解: 距離 \(r\) が \(\text{cm}\) で与えられているのに、そのまま公式に代入してしまう。
    • 対策: 電磁気学の公式(SI単位系)では、長さは必ずメートル \(\text{m}\)、電流はアンペア \(\text{A}\) を使います。問題文の数値に \(\text{cm}\) や \(\text{mm}\) を見つけたら、計算を始める前に必ず \(\times 10^{-2}\) や \(\times 10^{-3}\) をして \(\text{m}\) に直す癖をつけましょう。
  • 巻き数 \(N\) の掛け忘れ:
    • 誤解: 円形電流の公式 \(H = \frac{I}{2r}\) だけを覚えていて、問題文にある「5回巻き」などの情報を読み飛ばしてしまう。
    • 対策: コイルや円形導線の問題では、必ず「巻き数 \(N\)」をチェックします。1回巻きでない場合は、発生する磁場も、電磁誘導で生じる起電力も、すべて \(N\) 倍になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(直線電流の磁場):
    • 選定理由: 問題文に「長い直線状の導線」とあり、そこから距離 \(r\) 離れた点の磁場を求めるためです。
    • 適用根拠: 無限長直線電流がつくる磁場の強さは、距離に反比例するというアンペールの法則から導かれる \(H = \frac{I}{2\pi r}\) が唯一の解です。
  • (2)での公式選択(磁束密度と磁場の関係):
    • 選定理由: 「磁場の強さ \(H\)」から「磁束密度 \(B\)」への変換が求められています。
    • 適用根拠: 磁場 \(H\) は電流のみに依存する量、磁束密度 \(B\) はその空間の媒質(透磁率 \(\mu\))の影響を含んだ量です。これらを結ぶ定義式 \(B = \mu H\) を適用します。
  • (3)での公式選択(円形電流の磁場と重ね合わせ):
    • 選定理由: 「円形導線」の中心における磁場を扱い、かつ「磁場を0にする」という条件から、2つの磁場の打ち消し合い(合成)を考える必要があります。
    • 適用根拠: 円形電流の中心磁場の公式 \(H = \frac{NI}{2r}\) を用いて大きさを求め、ベクトルとしての和がゼロになる(大きさが等しく向きが逆)という条件式を立てます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • \(\pi\) の近似計算のタイミング:
    • \(\pi \approx 3.14\) の計算は面倒でミスを誘発しやすいです。本問のように、与えられた数値(\(15.7\))が \(\pi\) の倍数(\(5\pi \approx 15.7\))になっていることが多々あります。すぐに \(3.14\) を代入して筆算を始めるのではなく、まずは \(\pi\) のまま式変形を行い、約分できる可能性を探りましょう。
  • 指数の扱い:
    • 透磁率 \(\mu_0 = 1.3 \times 10^{-6}\) のような非常に小さな値を扱う際は、指数部分(\(10^{-6}\))と仮数部分(\(1.3\))を分けて計算・管理するとミスが減ります。最後にまとめて指数を調整しましょう。
  • 物理量のオーダー確認:
    • 答えが出たら、その大きさが常識的な範囲か確認します。実験室レベルの電流(数A〜数十A)がつくる磁場は、地磁気(約 \(30\,\text{A/m}\) 程度)と同程度か、強くてもその数十倍程度です。もし \(10^6\,\text{A/m}\) のような巨大な値や、極端に小さな値になった場合は、単位換算(\(\text{cm} \to \text{m}\))や公式の選択ミスを疑いましょう。

基本例題70 磁場中の電流が受ける力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 磁束密度の大きさを求める別解: 棒とおもりを一体の系とみなす解法
      • 模範解答が棒とおもりそれぞれについて力のつりあいの式を立てて連立するのに対し、別解では棒とおもり(および糸)を一つの系とみなし、駆動力と抵抗力のつりあいとして一発で立式します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算の効率化: 糸の張力 \(T\) を求める手順を省略でき、計算ミスを減らせます。
    • 物理的直感の養成: 「何が動きを生み出し(電磁力)、何がそれを止めているか(重力)」という力のバランスを大局的に捉える視点が身につきます。
  3. 結果への影響
    • どちらの方法でも、最終的に得られる磁束密度の値は完全に一致します。

この問題のテーマは「磁場中の電流が受ける力(電磁力)と力のつりあい」です。電流が磁場から受ける力を正しく理解し、力学的なつりあいの条件と結びつける総合力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. フレミングの左手の法則: 電流、磁場、力の向きの関係(3次元的な位置関係)を決定する法則。
  2. 電磁力の大きさ: 磁場中の電流が受ける力の大きさは \(F = IBL\) で表される。
  3. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、物体に働く力のベクトル和は \(0\) になる。
  4. 単位の換算: 物理公式に代入する際は、必ずSI単位系(\(\text{kg}, \text{m}, \text{A}\))に統一する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、棒PQが静止していることから、棒に働く力のつりあいを考えます。糸が引く力(張力)と釣り合うためには、電磁力がどちら向きでなければならないかを判断します。
  2. 次に、フレミングの左手の法則を用いて、その向きに電磁力を受けるための電流の向きを決定します。
  3. 最後に、おもりの重力と電磁力が釣り合っているという関係式を立て、数値を代入して磁束密度 \(B\) を計算します。この際、\(\text{g} \to \text{kg}\)、\(\text{cm} \to \text{m}\) の単位換算に注意します。

電流の向き

思考の道筋とポイント
棒PQは静止しています。まず、棒に働く力を整理しましょう。
滑車を通しておもりがぶら下がっているため、棒PQには糸による「左向きの張力」が働いています。
この張力に抗って棒がその場に留まるためには、逆向き、つまり「右向きの力」が必要です。
この右向きの力こそが、電流が磁場から受ける力(電磁力)です。
電磁力が右向きになるような電流の向きを、フレミングの左手の法則を使って特定します。

この設問における重要なポイント

  • 棒は静止しているので、力のつりあいより、電磁力の向きは「右向き」であると特定する。
  • 磁場の向きは、N極からS極へ向かうので「鉛直下向き」である。
  • フレミングの左手の法則を適用する際、指の向きを正確に合わせる。

具体的な解説と立式
まず、電磁力の向きを確定させます。
棒PQは糸によって左向きに引かれています。静止し続けるためには、右向きの力が必要です。したがって、電磁力の向きは「右向き」です。

次に、フレミングの左手の法則を適用します。

  • 人差し指(磁場 \(\vec{B}\)): N極が上、S極が下なので、「下向き」に向けます。
  • 親指(力 \(\vec{F}\)): 先ほど特定した通り、「右向き」に向けます。
  • 中指(電流 \(\vec{I}\)): この状態で中指が向く方向を確認します。

実際に左手をセットすると、中指は「奥から手前」の方向を向きます。
図を確認すると、奥側にQ、手前側にPがあります(レールの配置と記号から判断)。
したがって、電流の向きは Q \(\to\) P です。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

(この設問では数値計算はありません。法則の適用のみです。)

この設問の平易な説明

棒が左に引っ張られているのに動かないのは、右向きに同じ強さで引っ張り返している力があるからです。それが磁石の力(電磁力)です。
「磁石の力は右」「磁場は上から下」という条件で、左手の指をパズルのように合わせると、中指(電流)は「奥から手前」を向きます。図を見ると、奥がQで手前がPなので、電流はQからPへ流れていることがわかります。

結論と吟味

電流の向きは Q \(\to\) P です。
もし電流が逆なら、電磁力は左向きになり、張力と合わせて棒は左へ加速してしまいます。静止しているという条件に合致するのは Q \(\to\) P のみです。

解答 Q \(\to\) P

磁束密度の大きさ

思考の道筋とポイント
棒PQとおもり、それぞれについて力のつりあいの式を立てます。
おもりに働く重力が糸の張力を生み出し、その張力が棒PQを引きます。
一方、棒PQには電流と磁場による電磁力が働いています。
これらが連鎖してつりあっている関係を数式にします。

この設問における重要なポイント

  • 単位換算を忘れないこと。
    • 質量 \(m = 0.50\,\text{g} = 0.50 \times 10^{-3}\,\text{kg}\)
    • 長さ \(L = 3.5\,\text{cm} = 3.5 \times 10^{-2}\,\text{m}\)
  • 力のつりあいの式を、物理的な意味(右向きの力=左向きの力)を意識して立てる。

具体的な解説と立式
まず、おもり(質量 \(m\))について考えます。
おもりに働く力は、下向きの重力 \(mg\) と、上向きの張力 \(T\) です。
つりあいの式は、
$$ (\text{上向きの力}) = (\text{下向きの力}) $$
より、
$$ T = mg \quad \cdots ① $$
となります。

次に、棒PQについて考えます。
棒に働く水平方向の力は、右向きの電磁力 \(F\) と、左向きの張力 \(T\) です。
電磁力の大きさは、公式 \(F = IBL\) で与えられます。
つりあいの式は、
$$ (\text{右向きの力}) = (\text{左向きの力}) $$
より、
$$ IBL = T \quad \cdots ② $$
となります。

使用した物理公式

  • 電磁力の大きさ: \(F = IBL\)
  • 重力の大きさ: \(W = mg\)
  • 力のつりあい
計算過程

式①と式②より、張力 \(T\) を消去してつなげます。
$$ IBL = mg $$
この式を求めたい \(B\) について変形します。
$$ B = \frac{mg}{IL} $$
ここに数値を代入します。単位換算に注意してください。
\(m = 0.50 \times 10^{-3}\,\text{kg}\)、\(g = 9.8\,\text{m/s}^2\)、\(I = 4.0\,\text{A}\)、\(L = 3.5 \times 10^{-2}\,\text{m}\) です。

$$
\begin{aligned}
B &= \frac{(0.50 \times 10^{-3}) \times 9.8}{4.0 \times (3.5 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]
&= \frac{0.50 \times 9.8}{4.0 \times 3.5} \times \frac{10^{-3}}{10^{-2}} \\[2.0ex]
&= \frac{4.9}{14.0} \times 10^{-1}
\end{aligned}
$$
ここで、\(4.9\) と \(14.0\) の割り算を行います。\(4.9 \div 14.0 = 0.35\) です。
$$
\begin{aligned}
B &= 0.35 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&= 3.5 \times 10^{-2}\,\text{T}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

おもりが下に落ちようとする力(重力)が、糸を通して棒を左に引っ張っています。
一方で、棒に流れる電流は磁石の力(電磁力)によって棒を右に押そうとしています。
棒が動かないということは、この「左に引く力」と「右に押す力」がちょうど同じ強さで綱引きをして引き分けているということです。
「おもりの重さ \(=\) 電磁力の強さ」という式を作って、逆算して磁石の強さ(磁束密度)を求めました。

結論と吟味

磁束密度の大きさは \(3.5 \times 10^{-2}\,\text{T}\) です。
一般的な永久磁石の磁束密度は数ミリテスラから数テスラの範囲内なので、\(0.035\,\text{T}\) という値は物理的に妥当な大きさです。

解答 \(3.5 \times 10^{-2}\,\text{T}\)
別解: 棒とおもりを一体の系とみなす解法

思考の道筋とポイント
棒、糸、おもりをまとめて一つのグループ(系)として考えます。
この見方では、糸の張力 \(T\) はグループ内部で引き合っているだけの力(内力)となり、式の表面には出てきません。
系全体を動かそうとする「駆動力」と、それを妨げる「抵抗力」が直接つりあっていると考えます。

この設問における重要なポイント

  • 張力 \(T\) を計算する必要がない。
  • 「右向きに引っ張る電磁力」と「(滑車を介して)左向きに引っ張る重力」が直接対決しているとみなす。

具体的な解説と立式
棒とおもりを一体の系とみなします。
この系に対して、外部から働き、動きを生み出そうとする力は以下の2つです。

  1. 棒を右向きに引く電磁力: \(IBL\)
  2. おもりを下向き(滑車を介して棒を左向き)に引く重力: \(mg\)

系が静止しているため、これらの力はつりあっています。
$$ (\text{電磁力}) = (\text{おもりの重力}) $$
より、直ちに以下の式が立ちます。
$$ IBL = mg $$

使用した物理公式

  • 電磁力の大きさ: \(F = IBL\)
  • 重力の大きさ: \(W = mg\)
  • 力のつりあい
計算過程

この式を変形すると、
$$ B = \frac{mg}{IL} $$
となり、これはメインの解法で導いた式と全く同じです。
以降の計算手順も同様です。
$$
\begin{aligned}
B &= \frac{(0.50 \times 10^{-3}) \times 9.8}{4.0 \times (3.5 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]
&= 3.5 \times 10^{-2}\,\text{T}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

間の糸のことは一旦忘れて、「磁石の力」と「おもりの重さ」が直接バランスを取っていると考えます。面倒な連立方程式を立てずに、いきなり結論の式を作ることができる便利な方法です。

結論と吟味

メインの解法と同じ結果が得られました。この方法は、複数の物体がつながっている問題で、間の張力を求める必要がない場合に非常に強力な時短テクニックとなります。

解答 \(3.5 \times 10^{-2}\,\text{T}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • フレミングの左手の法則による力の向きの決定
    • 核心: 電流、磁場、力の3つのベクトルが互いに直交する関係を、左手を使って正確に再現できるかが問われます。特に、3次元的な空間配置(上下、左右、手前奥)を正しく認識し、指の向きを合わせる能力が不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • 中指(電流 \(\vec{I}\)): 電流が流れる向き。
      • 人差し指(磁場 \(\vec{B}\)): N極からS極へ向かう向き。
      • 親指(力 \(\vec{F}\)): 導線が受ける力の向き。
      • これらを直角に保ったまま、手首を回転させて問題の状況に合わせます。
  • 電磁力の大きさの公式 \(F = IBL\)
    • 核心: 磁場中の電流が受ける力の大きさは、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、磁場中の導線の長さ \(L\) の積で決まることを理解し、計算に適用することです。
    • 理解のポイント: この公式は、電流と磁場が直交している場合の式です。もし斜めの場合は \(F = IBL \sin \theta\) となりますが、高校物理の基本問題では直交ケースがほとんどです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • レール上の導体棒の運動: 本問のように静止しているだけでなく、電磁力を受けて加速運動する問題や、等速運動して誘導起電力が発生する問題へと発展します。いずれの場合も、「電磁力の向きと大きさ」を正しく求めることが出発点です。
    • 電流計の原理: コイルが磁場から受けるトルク(回転力)を利用して電流を測る仕組みも、根本原理は同じ \(F = IBL\) です。
    • リニアモーターカー: 磁場と電流の相互作用で推進力を得る仕組みの基礎モデルです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力のつりあいを図示する: まず物体(棒)に着目し、接触しているもの(糸、レール)からの力と、場からの力(重力、電磁力)をすべて書き出します。
    2. 「静止」か「運動」かを見極める: 静止していれば「力のつりあい(合力0)」、運動していれば「運動方程式 \(ma=F\)」を立てます。
    3. 未知数を特定する: 何がわかっていて、何を求めたいのか(\(B\) なのか \(I\) なのか \(m\) なのか)を明確にし、必要な本数の式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • フレミングの法則の手の形:
    • 誤解: 指の角度が直角になっていなかったり、右手を使ってしまったりする。
    • 対策: 必ず「左手」を使うことを意識し、親指・人差し指・中指が互いに直交する形(XYZ軸)をしっかり作ってから手首を回しましょう。「電・磁・力(中・人・親)」という語呂合わせも有効です。
  • 単位換算の忘れ:
    • 誤解: \(0.50\,\text{g}\) や \(3.5\,\text{cm}\) をそのまま公式に代入してしまう。
    • 対策: 電磁気学の公式(\(F=IBL\) など)はSI単位系(\(\text{kg}, \text{m}, \text{A}, \text{T}\))で成立します。問題文を読んだ瞬間に、\(\text{g} \to \times 10^{-3}\,\text{kg}\)、\(\text{cm} \to \times 10^{-2}\,\text{m}\) と書き込む癖をつけましょう。
  • 磁場の向きの勘違い:
    • 誤解: 磁場の向きをS極からN極だと勘違いする。
    • 対策: 磁力線は「N極から出てS極に入る」ものです。これを絶対に忘れないようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあいの式:
    • 選定理由: 問題文に「静止させるためには」とあるため、物体に働く力の総和がゼロである状態、すなわち静力学的なつりあいを考える必要があります。
    • 適用根拠: 棒は水平方向に動く可能性があるため、水平方向の力の成分(張力と電磁力)がつりあっていると考えます。おもりは鉛直方向に動く可能性があるため、鉛直方向の力(重力と張力)がつりあっていると考えます。
  • \(F = IBL\) の採用:
    • 選定理由: 電流が磁場から受ける力(ローレンツ力の巨視的な現れ)を扱う問題だからです。
    • 適用根拠: 電流の向き(水平)と磁場の向き(鉛直)が直交しているため、単純な積の形である \(F = IBL\) がそのまま適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • 最初から数値を代入せず、\(B = \frac{mg}{IL}\) のように文字式で解いてから、最後に数値を代入しましょう。これにより、式の形から物理的な意味(\(m\) が大きければ \(B\) も大きくなるなど)を確認でき、計算ミスもしやすくなります。
  • 指数の処理:
    • \(10^{-3}\) や \(10^{-2}\) などの指数計算は、数値を代入した直後にまとめて処理するとミスが減ります。例えば \(\frac{10^{-3}}{10^{-2}} = 10^{-1}\) のように簡略化してから、有効数字部分の計算(\(0.50 \times 9.8 \div \dots\))を行うとスムーズです。
  • 割り算の工夫:
    • \(4.9 \div 14.0\) のような計算は、分数にして約分を考えると楽になることがあります。\(4.9/14.0 = 49/140 = 7/20 = 0.35\) のように、小数を整数比に直すと暗算でも解ける場合があります。

基本例題71 平行電流間にはたらく力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平行電流間に働く力のメカニズム」です。一見すると、離れた場所にある2本の導線が直接力を及ぼし合っているように見えますが、物理学では「一方の電流が磁場を作り、その磁場が他方の電流に力を及ぼす」という2段階のプロセスとして理解します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 右ねじの法則: 直線電流がつくる磁場の向きを決定する法則。
  2. 直線電流がつくる磁場: 無限に長い直線電流 \(I\) が距離 \(r\) の位置につくる磁場の強さは \(H = \frac{I}{2\pi r}\)。
  3. 磁束密度と磁場の関係: 真空中では \(B = \mu_0 H\)。
  4. フレミングの左手の法則: 磁場中の電流が受ける力の向きを決定する法則。
  5. 電磁力の大きさ: 磁束密度 \(B\) の磁場中で、電流 \(I\) が流れる長さ \(L\) の導線が受ける力は \(F = IBL\)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、導線A(加害者役)が導線Bの位置にどのような「場(磁場)」を作るかを計算します。
  2. (2)では、その「場」の中にいる導線B(被害者役)が、どのような力を受けるかを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
まずは「導線A」だけに着目します。導線Bは一旦忘れて、「導線Aから距離 \(r\) 離れた場所」の磁場の状態を調べます。
向きは「右ねじの法則」、大きさは「直線電流の磁場の公式」を使って求めます。
最後に、磁場の強さ \(H\) を磁束密度 \(B\) に変換することを忘れないようにしましょう。

この設問における重要なポイント

  • 注目するのは「導線Aの電流 \(I_1\)」であること。
  • 観測点は「導線Aから右に距離 \(r\) 離れた点(導線Bがある位置)」であること。
  • 磁場の向きを判定する際、立体的な位置関係(手前、奥、右、左)を正確に把握すること。

具体的な解説と立式
まず、向きを決定します。
右ねじの法則を使います。右手の親指を導線Aの電流 \(I_1\) の向き(上向き)に合わせます。
このとき、残りの4本の指が回る向きが磁場の向きです。
導線Aの右側にある導線Bの位置では、指先は「紙面の表側から裏側」に向かって入っていく方向を向きます。
したがって、磁束密度の向きは「紙面に垂直に表から裏の向き」です。

次に、大きさを求めます。
直線電流 \(I_1\) が距離 \(r\) の位置につくる磁場の強さを \(H_1\) とすると、公式より、
$$ H_1 = \frac{I_1}{2\pi r} $$
となります。
求める磁束密度の大きさ \(B_1\) は、真空の透磁率 \(\mu_0\) を用いて \(B_1 = \mu_0 H_1\) と表されるので、これに代入します。
$$ B_1 = \mu_0 \times \frac{I_1}{2\pi r} $$

使用した物理公式

  • 直線電流がつくる磁場の強さ: \(H = \frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁束密度と磁場の関係: \(B = \mu H\)
計算過程

上記の式を整理します。
$$ B_1 = \frac{\mu_0 I_1}{2\pi r}\,\text{[T]} $$

この設問の平易な説明

導線Aに電気が流れると、その周りに磁場が発生します。導線Bがいる場所では、その磁場はどのくらいの強さで、どっちを向いているか?という問いです。
右手を使って確認すると、導線Aの右側では、磁場は画面の奥に向かって突き刺さる向きになります。強さは公式通り計算するだけです。

結論と吟味

向きは紙面に垂直に表から裏の向き、大きさは \(B_1 = \frac{\mu_0 I_1}{2\pi r}\,\text{[T]}\) です。
電流 \(I_1\) に比例し、距離 \(r\) に反比例するという物理的直感と一致しています。

解答 (1) 向き: 紙面に垂直に表から裏の向き, 大きさ: \(\frac{\mu_0 I_1}{2\pi r}\,\text{[T]}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
今度は「導線B」に着目します。
導線Bは、(1)で求めた「導線Aが作った磁場 \(B_1\)」の中に置かれています。
磁場の中に電流が流れると、力(電磁力)を受けます。
向きは「フレミングの左手の法則」、大きさは「電磁力の公式 \(F=IBL\)」を使って求めます。

この設問における重要なポイント

  • 力の大きさの公式 \(F = IBL\) において、電流 \(I\) は「力を受ける側の電流 \(I_2\)」、磁束密度 \(B\) は「場所の環境を作る磁場 \(B_1\)」であることを明確に区別する。
  • フレミングの左手の法則を適用する際、磁場の向き(裏向き)と電流の向き(上向き)を正しくセットする。

具体的な解説と立式
まず、向きを決定します。
フレミングの左手の法則を使います。

  • 人差し指(磁場 \(\vec{B}\)): (1)で求めた通り、「紙面の裏向き」に向けます。
  • 中指(電流 \(\vec{I}\)): 導線Bの電流 \(I_2\) の向き、「上向き」に向けます。
  • 親指(力 \(\vec{F}\)): この状態で親指が向く方向を確認します。

左手をセットすると、親指は「左向き」を指します。
したがって、力の向きは「左向き(導線Aに近づく向き)」です。

次に、大きさを求めます。
磁束密度 \(B_1\) の中で、電流 \(I_2\) が流れる長さ \(L\) の部分が受ける力の大きさ \(F\) は、
$$ F = I_2 B_1 L $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 電磁力の大きさ: \(F = IBL\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

立式した式に、(1)で求めた \(B_1 = \frac{\mu_0 I_1}{2\pi r}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= I_2 \times \left( \frac{\mu_0 I_1}{2\pi r} \right) \times L \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I_1 I_2 L}{2\pi r}\,\text{[N]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

導線Bは、導線Aが作った「奥向きの磁場」の中にいます。そこでBに上向きの電流を流すと、左手の法則により、Bは左側(Aの方)へ引っ張られます。つまり、同じ向きに電流が流れる2本の線は、お互いに引き合う力(引力)が働きます。
力の大きさは、お互いの電流の大きさ \(I_1, I_2\) の掛け算に比例し、距離 \(r\) に反比例します。

結論と吟味

向きは左向き、大きさは \(F = \frac{\mu_0 I_1 I_2 L}{2\pi r}\,\text{[N]}\) です。
この結果から、平行電流が同方向に流れるときは「引力」が働くことがわかります。もし \(I_2\) が逆向きなら力は右向き(斥力)になります。これは平行電流間の力の基本性質と一致します。

解答 (2) 向き: 左向き, 大きさ: \(\frac{\mu_0 I_1 I_2 L}{2\pi r}\,\text{[N]}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電流間の相互作用の2段階プロセス
    • 核心: 「電流と電流が直接力を及ぼし合う」のではなく、「電流Aが磁場を作り、その磁場が電流Bに力を及ぼす」という場(フィールド)を介した相互作用の概念を理解することが最も重要です。
    • 理解のポイント:
      1. Step 1 (加害者): 電流 \(I_1\) が周囲の空間を歪め、磁場 \(H = \frac{I_1}{2\pi r}\) を形成する。
      2. Step 2 (被害者): その磁場の中に置かれた電流 \(I_2\) が、磁場から力 \(F = I_2 B L\) を受ける。
    • この手順を混同せず、常に「誰が磁場を作り(\(I_1\))」「誰が力を受けるのか(\(I_2\))」を明確に区別する意識が必要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 逆向き電流の場合: 電流 \(I_2\) が下向きの場合、フレミングの左手の法則により力は右向き(斥力)になります。「同方向は引力、逆方向は斥力」という結論は暗記しておくと検算に役立ちますが、必ず法則から導けるようにしておきましょう。
    • 3本以上の導線: 導線Cが追加された場合、導線Aが作る磁場と導線Bが作る磁場をベクトル合成し、その合成磁場から導線Cが受ける力を計算します。重ね合わせの原理が鍵となります。
    • 正方形コイルへの力: 直線電流の横に長方形のコイルが置かれる問題では、コイルの各辺(近い辺と遠い辺)が受ける力をそれぞれ計算し、その合力を求めます。距離 \(r\) が異なるため、近い辺の引力の方が強く、全体として引力が働くといった定性的な理解が問われます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「場を作る側」と「力を受ける側」を特定する: 問題文を読み、どちらの電流が主語になっているかを確認します。
    2. 位置関係を3次元で把握する: 紙面の「右・左・上・下」だけでなく、「手前・奥」を含めた3次元座標を意識し、右ねじ・左手の法則を適用します。
    3. 単位長さあたりの力: 問題によっては「長さ \(L\) の部分」ではなく「単位長さあたり(\(1\,\text{m}\) あたり)の力」を問われることがあります。その場合は \(L=1\) とするか、求めた \(F\) を \(L\) で割ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電流記号の取り違え:
    • 誤解: 磁場を作る電流 \(I_1\) と、力を受ける電流 \(I_2\) を逆にしてしまう、あるいは両方 \(I_1\) にしてしまう。
    • 対策: 公式 \(F = IBL\) を使う際、\(I\) は「力を受ける本人」、\(B\) は「他人が作った環境」と言語化して代入しましょう。本問では \(F = (\text{被害者} I_2) \times (\text{加害者} I_1 \text{由来の} B) \times L\) となります。
  • 公式の選択ミス:
    • 誤解: 直線電流の磁場の公式 \(H = \frac{I}{2\pi r}\) と、円形電流の公式 \(H = \frac{I}{2r}\) を混同する。
    • 対策: 直線電流の磁力線は円形(円周 \(2\pi r\))に広がるため、分母に \(\pi\) がつくと覚えましょう。
  • 透磁率 \(\mu_0\) の忘れ:
    • 誤解: 磁場の強さ \(H\) をそのまま \(F = IHL\) のように使ってしまう。
    • 対策: 力の公式は \(F = IBL\) です。\(H\) を求めたら、必ず \(B = \mu_0 H\) の関係式を使って磁束密度 \(B\) に変換するステップを踏んでください。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(アンペールの法則):
    • 選定理由: 無限に長い直線電流がつくる磁場を求める問題だからです。
    • 適用根拠: 電流 \(I\) から距離 \(r\) 離れた点の磁場の大きさは、距離に反比例する \(H = \frac{I}{2\pi r}\) で与えられます。
  • (2)での公式選択(ローレンツ力・電磁力):
    • 選定理由: 磁場中にある電流が受ける力を求める問題だからです。
    • 適用根拠: 電流と磁場が直交しているため、大きさは単純な積 \(F = IBL\) で求まります。ここで \(B\) は(1)で求めた値、\(I\) は導線Bの電流 \(I_2\) を用います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま整理する:
    • 本問のように全て文字で与えられている場合は、途中で数値を代入する手間がない分、添字(\(1\) と \(2\))の書き間違いに注意が必要です。特に \(I_1\) と \(I_2\) が混ざらないよう、丁寧に記述しましょう。
  • 次元解析(単位チェック):
    • 最終的な答え \(\frac{\mu_0 I_1 I_2 L}{2\pi r}\) の単位が力 \([\text{N}]\) になっているか確認するのは難しいですが、少なくとも \(I_1\) と \(I_2\) が対等な形(積)で入っていることは確認できます。作用・反作用の法則により、AがBを引く力とBがAを引く力は等しくなるはずなので、式は \(I_1\) と \(I_2\) について対称でなければなりません。もし \(I_1^2\) などになっていたら間違いです。

基本例題72 磁場中の荷電粒子の運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(ウ)の別解: 遠心力を用いた力のつりあいによる解法
      • 模範解答が静止系(実験室系)から見て運動方程式を立てるのに対し、別解では粒子と共に回転する座標系から見て、慣性力である「遠心力」とローレンツ力のつりあいの式を立てます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 直感的理解の促進: 「外に飛び出そうとする力(遠心力)」と「内に引き戻す力(ローレンツ力)」が釣り合っているというイメージは、円運動の安定性を直感的に理解するのに役立ちます。
    • 応用力: 複雑な円運動の問題では、力のつりあいで考えた方が立式しやすい場合があります。
  3. 結果への影響
    • どちらのアプローチでも、導かれる半径 \(r\) の式は完全に一致します。

この問題のテーマは「磁場中での荷電粒子の等速円運動」です。荷電粒子が磁場から受けるローレンツ力が、円運動に必要な向心力の役割を果たすことを理解し、運動方程式を立てて軌道半径や周期を導出するプロセスを学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力。大きさは \(f = qvB\)、向きはフレミングの左手の法則に従う。
  2. 向心力: 円運動をする物体が常に円の中心方向へ受ける力。
  3. 円運動の運動方程式: 質量 \(m\)、速さ \(v\)、半径 \(r\) の円運動では、中心方向の運動方程式は \(m\frac{v^2}{r} = F\)(\(F\) は向心力)となる。
  4. 周期の公式: 等速円運動の周期 \(T\) は、円周の長さを速さで割ったもの、すなわち \(T = \frac{2\pi r}{v}\)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)(イ)では、ローレンツ力の大きさと、それが円運動において果たす役割(向心力)を答えます。
  2. (ウ)では、円運動の運動方程式を立て、それを変形して軌道半径 \(r\) を求めます。
  3. (エ)では、周期の定義式に(ウ)で求めた \(r\) を代入し、周期 \(T\) を求めます。

(ア) ローレンツ力の大きさ

思考の道筋とポイント
磁束密度 \(B\) の磁場中を、電気量 \(q\) の荷電粒子が速さ \(v\) で磁場と垂直に運動しています。
このとき粒子が受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は、公式として定義されています。

この設問における重要なポイント

  • 速度ベクトルと磁場ベクトルが垂直であるため、\(\sin \theta = 1\) となり、最もシンプルな形の公式が適用できる。

具体的な解説と立式
ローレンツ力の大きさ \(f\) は、電気量 \(q\)、速さ \(v\)、磁束密度 \(B\) の積で表されます。
$$ f = qvB $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力の大きさ: \(f = qvB\)
計算過程

(公式そのものなので計算はありません。)

この設問の平易な説明

磁石の世界(磁場)の中を電気が帯びた粒(荷電粒子)が走ると、横から押されるような力を受けます。これをローレンツ力といいます。この力の強さは、「粒の電気の量」「走る速さ」「磁石の世界の強さ」の3つのかけ算で決まります。

結論と吟味

答えは \(qvB\) です。単位を確認すると、\([\text{C}] \cdot [\text{m/s}] \cdot [\text{T}] = [\text{A}\cdot\text{s}] \cdot [\text{m/s}] \cdot [\text{N}/(\text{A}\cdot\text{m})] = [\text{N}]\) となり、力の単位と一致します。

解答 (ア) \(qvB\)

(イ) ローレンツ力の役割

思考の道筋とポイント
ローレンツ力の向きは、フレミングの左手の法則により、常に粒子の進行方向(速度ベクトル)に対して垂直です。
進行方向に垂直な力は、物体の速さを変えず、向きだけを変える働きをします。
常に進行方向と垂直な力を受け続ける運動といえば、等速円運動です。
円運動において、常に中心を向く力のことを「向心力」と呼びます。

この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力は速度に垂直 \(\rightarrow\) 仕事をしない \(\rightarrow\) 運動エネルギー(速さ)が変わらない \(\rightarrow\) 等速円運動になる、というロジックを理解する。
  • 円運動を維持するために必要な、中心向きの力を「向心力」と呼ぶ。

具体的な解説と立式
ローレンツ力は常に速度と垂直な方向に働くため、粒子の軌道を曲げる役割を果たします。
この力が円の中心を向き続けることで、粒子は円軌道を描きます。
したがって、ローレンツ力は円運動の「向心力」としての働きをします。

結論と吟味

答えは「向心力」です。

解答 (イ) 向心力

(ウ) 円軌道の半径

思考の道筋とポイント
粒子は半径 \(r\) の等速円運動をしています。
円運動の運動方程式 \(ma = F\) を立てます。
加速度 \(a\) は、円運動の加速度 \(\frac{v^2}{r}\) を使います。
力 \(F\) は、(ア)で求めたローレンツ力 \(qvB\) です。
この方程式を \(r\) について解きます。

この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式を正しく立てる: \((\text{質量}) \times (\text{加速度}) = (\text{向心力})\)。
  • 加速度の向き(中心向き)と力の向き(中心向き)を揃えて立式する。

具体的な解説と立式
質量 \(m\)、速さ \(v\)、半径 \(r\) の等速円運動の運動方程式を立てます。
中心向きを正とすると、
$$ m \frac{v^2}{r} = qvB $$
となります。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m \frac{v^2}{r} = F\)
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)
計算過程

この式を \(r\) について解きます。
両辺を \(v\) で割り、\(r\) を掛け、\(qB\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{mv}{r} &= qB \\[2.0ex]
mv &= qBr \\[2.0ex]
r &= \frac{mv}{qB}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

運動方程式を使って、「質量 \(m\) の物体を、半径 \(r\) のカーブで曲げるには、これだけの力が必要だ」という式を作り、そこから半径 \(r\) を逆算しました。
速い(\(v\) が大きい)ほど、また重い(\(m\) が大きい)ほど、曲がりにくくなって半径 \(r\) は大きくなります。逆に、磁場(\(B\))が強いほど、急カーブ(半径 \(r\) が小さい)になります。

結論と吟味

半径は \(r = \frac{mv}{qB}\) です。
分母に \(qB\) があるため、磁場が強いほど半径が小さくなる(急カーブになる)という直感と一致します。

解答 (ウ) \(\frac{mv}{qB}\)
別解: 遠心力を用いた力のつりあいによる解法

思考の道筋とポイント
粒子と一緒に回転する観測者(回転座標系)から見ると、粒子は静止しているように見えます。
このとき、粒子には中心向きの「ローレンツ力」と、外向きの慣性力である「遠心力」が働いており、これらがつりあっていると考えます。

この設問における重要なポイント

  • 観測者の立場を変える(静止系 \(\rightarrow\) 回転系)。
  • 遠心力の大きさ \(m\frac{v^2}{r}\) を正しく用いる。
  • 力のつりあいの式 \((\text{中心向きの力}) = (\text{外向きの力})\) を立てる。

具体的な解説と立式
回転座標系における力のつりあいを考えます。
中心向きの力はローレンツ力 \(qvB\)、外向きの力は遠心力 \(m\frac{v^2}{r}\) です。
これらがつりあっているので、
$$ qvB = m \frac{v^2}{r} $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 遠心力: \(F = m \frac{v^2}{r}\)
  • 力のつりあい
計算過程

この式を \(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
qB &= \frac{mv}{r} \\[2.0ex]
r &= \frac{mv}{qB}
\end{aligned}
$$
これは運動方程式から導いた結果と完全に一致します。

この設問の平易な説明

車でカーブを曲がるとき、体が外側に持っていかれるような力を感じます。これが遠心力です。
この粒子もカーブ(円運動)をしているので、外側に飛び出そうとする遠心力を受けています。しかし、実際には一定の半径で回れているので、それを引き留めるローレンツ力と、飛び出そうとする遠心力がちょうど綱引きで引き分けている状態だと考えられます。

結論と吟味

メインの解法と同じ結果 \(r = \frac{mv}{qB}\) が得られました。

解答 (ウ) \(\frac{mv}{qB}\)

(エ) 1回転するのにかかる時間(周期)

思考の道筋とポイント
周期 \(T\) とは、円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で進むのにかかる時間のことです。
基本公式 \(T = \frac{2\pi r}{v}\) に、先ほど求めた \(r\) を代入して整理します。
結果として \(v\) が消え、周期が速さに依存しないことが示されます。

この設問における重要なポイント

  • 周期の定義 \(T = \frac{\text{距離}}{\text{速さ}} = \frac{2\pi r}{v}\) を出発点にする。
  • (ウ)の結果を代入して簡約化する。

具体的な解説と立式
周期 \(T\) の公式は以下の通りです。
$$ T = \frac{2\pi r}{v} $$
これに (ウ) で求めた \(r = \frac{mv}{qB}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等速円運動の周期: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{v} \times \frac{mv}{qB} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi m}{qB}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) が約分されて消えました。

この設問の平易な説明

1周するのにかかる時間を計算してみると、不思議なことに「速さ \(v\)」が含まれていない式になります。
これは、「速く走れば走るほど、大回り(半径 \(r\) が大きく)になって距離が伸びてしまうため、結局1周にかかる時間は変わらない」ということを意味しています。この性質は、サイクロトロンという加速器などで利用される非常に重要な性質です。

結論と吟味

周期は \(T = \frac{2\pi m}{qB}\) です。
質量 \(m\) に比例し、磁場 \(B\) と電気量 \(q\) に反比例します。重い粒子ほど回るのが遅く、磁場が強いほど速く回る(周期が短い)という結果は妥当です。

解答 (エ) \(\frac{2\pi m}{qB}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ローレンツ力を向心力とする等速円運動
    • 核心: 磁場中を運動する荷電粒子は、常に進行方向と垂直なローレンツ力を受けます。この「常に垂直」という性質が、粒子の速さを変えずに軌道だけを曲げる「等速円運動」を生み出す根本原因です。
    • 理解のポイント:
      • 力の向き: フレミングの左手の法則により、速度 \(\vec{v}\) と磁場 \(\vec{B}\) の両方に垂直な向きになります。
      • 仕事: 力が移動方向と常に垂直なので、ローレンツ力がする仕事は \(W = F \cdot s \cdot \cos 90^\circ = 0\) です。仕事がゼロなので、運動エネルギー定理により速さ \(v\) は一定に保たれます。
      • 運動方程式: 円運動の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F\) の右辺(向心力)に、ローレンツ力 \(qvB\) を代入することが、この分野の全ての問題の出発点です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • サイクロトロン: 周期 \(T = \frac{2\pi m}{qB}\) が速さ \(v\) に依存しない等時性を利用して、荷電粒子を加速する装置です。本問の結論がそのまま原理となります。
    • らせん運動: 粒子が磁場に対して斜めに入射した場合、速度を「磁場に垂直な成分 \(v_\perp\)」と「平行な成分 \(v_\parallel\)」に分解します。垂直成分は円運動、平行成分は等速直線運動をするため、全体としてらせん運動になります。
    • 質量分析器: 半径 \(r = \frac{mv}{qB}\) の式を変形すると \(\frac{q}{m} = \frac{v}{rB}\) となり、比電荷(質量あたりの電荷)を測定できます。同位体の分離などに応用されます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 速度と磁場の角度を確認する: 垂直なら円運動、平行なら等速直線運動、斜めなららせん運動です。
    2. 運動方程式を立てる: とにかく \(m\frac{v^2}{r} = qvB\) を書きましょう。ここから半径 \(r\) や速さ \(v\) を求めるのが定石です。
    3. 周期の式を作る: \(T = \frac{2\pi r}{v}\) に、求めた \(r\) を代入して整理します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ローレンツ力の公式の適用ミス:
    • 誤解: 磁場に対して斜めに運動しているのに、そのまま \(f = qvB\) としてしまう。
    • 対策: 公式は正確には \(f = qvB \sin \theta\) です。垂直成分 \(v \sin \theta\) だけがローレンツ力を生むことを意識しましょう。本問は \(\theta = 90^\circ\) なので \(qvB\) でOKです。
  • 遠心力との混同:
    • 誤解: 運動方程式の右辺に遠心力を書いてしまう(例: \(m\frac{v^2}{r} = qvB + m\frac{v^2}{r}\))。
    • 対策: 運動方程式 \(ma=F\) は「静止している人」から見た式です。遠心力は「一緒に回っている人」から見た見かけの力なので、運動方程式には登場しません。別解のように「力のつりあい」で考える場合のみ、遠心力を使います。
  • 周期の式の暗記に頼る:
    • 誤解: \(T = \frac{2\pi m}{qB}\) を丸暗記しようとして、分母分子を間違える。
    • 対策: 暗記は不要です。必ず \(m\frac{v^2}{r} = qvB\) から \(r\) を求め、\(T = \frac{2\pi r}{v}\) に代入して導出するプロセスを身につけましょう。1分もかかりません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (ウ)での公式選択(円運動の運動方程式):
    • 選定理由: 物体が円運動をしており、その軌道半径 \(r\) を求めたいからです。
    • 適用根拠: 円運動を支配する法則は運動方程式 \(ma=F\) であり、加速度が \(a = \frac{v^2}{r}\)、力が \(F = qvB\) であることが特定できているため、これらを等号で結ぶのが論理的な帰結です。
  • (エ)での公式選択(周期の定義):
    • 選定理由: 円運動の周期(1周の時間)を求めたいからです。
    • 適用根拠: 「時間=距離÷速さ」という小学校以来の基本原理に基づき、円周 \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割るという定義式 \(T = \frac{2\pi r}{v}\) を選択します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算する:
    • 本問のように数値が与えられていない問題は、計算ミスのリスクが少ないですが、逆に文字の書き間違い(\(q\) と \(9\)、\(v\) と \(r\) など)に注意が必要です。
  • 単位(次元)の確認:
    • 最後に求めた周期 \(T = \frac{2\pi m}{qB}\) の単位が「秒 \([\text{s}]\)」になるか確認してみましょう。
    • \(m \to [\text{kg}]\)
    • \(q \to [\text{C}] = [\text{A}\cdot\text{s}]\)
    • \(B \to [\text{T}] = [\text{N}/(\text{A}\cdot\text{m})] = [(\text{kg}\cdot\text{m}/\text{s}^2)/(\text{A}\cdot\text{m})] = [\text{kg}/(\text{A}\cdot\text{s}^2)]\)
    • \(\frac{m}{qB} \to \frac{[\text{kg}]}{[\text{A}\cdot\text{s}] \cdot [\text{kg}/(\text{A}\cdot\text{s}^2)]} = \frac{1}{1/\text{s}} = [\text{s}]\)
    • 正しいことが確認できます。この検算は強力な武器になります。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

基本問題

509 磁極間にはたらく力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「磁気力に関するクーロンの法則」です。静電気力(電荷と電荷の間に働く力)と同じように、磁極と磁極の間にも距離の2乗に反比例する力が働くことを理解し、公式を用いて計算する力を養います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁気力に関するクーロンの法則: 2つの点磁荷の間に働く力 \(F\) は、それぞれの磁気量 \(m_1, m_2\) の積に比例し、距離 \(r\) の2乗に反比例する。
  2. 公式: \(F = k_m \frac{m_1 m_2}{r^2}\) (\(k_m\) は比例定数)。
  3. 力の向き: 同種の磁極(NとN、SとS)なら反発力(斥力)、異種の磁極(NとS)なら引力が働く。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から与えられた数値(力 \(F\)、距離 \(r\)、比例定数 \(k_m\))を整理します。
  2. 「同じ強さの2つの同種の磁極」という条件から、\(m_1 = m_2 = m\) と置きます。
  3. クーロンの法則の公式に値を代入し、方程式を解いて磁気量 \(m\) を求めます。

磁極の磁気量の大きさ

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

「解法に至る思考プロセス」
全て言語化した、超詳細解説。

なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?

1週間無料で続きを読む

(※無料期間中に解約すれば0円です)

既に会員の方はこちら

PVアクセスランキング にほんブログ村