発展例題
発展例題39 電子の運動とジュール熱
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(4)の別解: 運動エネルギーと衝突回数に着目する解法
- 模範解答が「平均速度を用いた仕事率の公式 \(P=F\overline{v}\)」を用いて計算しているのに対し、別解では「電子が1回の加速で得る運動エネルギー」と「1秒間あたりの衝突回数」を掛け合わせることで求めます。
- 設問(4)の別解: 運動エネルギーと衝突回数に着目する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的現象の直感的理解: 電子が電場から得た運動エネルギーが、原子との衝突によって熱エネルギー(ジュール熱)に変わるという、エネルギー変換のプロセスをより直接的にイメージできます。
- 微視的視点の強化: 「仕事率」という巨視的な概念だけでなく、個々の粒子のエネルギー収支という微視的な視点を持つことで、物理現象への理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「金属中の自由電子の運動モデル(ドルーデモデル)」です。オームの法則やジュール熱といった電気回路の基本法則が、ミクロな電子の運動からどのように導かれるかを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様な電場と電位差の関係: 距離 \(d\) 離れた2点間の電位差 \(V\) と一様な電場の強さ \(E\) の間には、\(V = Ed\) の関係があります。
- 運動方程式: 電場中の荷電粒子は静電気力を受けます。運動方程式 \(ma = F\) を立てることで、電子の加速度を求められます。
- 電流の微視的定義: 電流 \(I\) は、電子の電荷 \(e\)、数密度 \(n\)、平均速度 \(\overline{v}\)、断面積 \(S\) を用いて \(I = en\overline{v}S\) と表されます。
- 仕事とエネルギー: 電場が電子にする仕事は、電子の運動エネルギーの変化に等しく、これが最終的に熱エネルギー(ジュール熱)となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、導体にかかる電圧と長さから、導体内部の一様な電場を求めます。
- (2)では、電子が電場から受ける力を求め、運動方程式から加速度を算出します。これを用いて、衝突直前の最大速度を計算します。
- (3)では、電子の平均速度を求め、電流の定義式に代入します。得られた式をオームの法則と比較することで、抵抗率を導き出します。
- (4)(5)では、電子が電場からされる仕事を計算します。これは、電子が得るエネルギーであり、同時に導体で発生するジュール熱の源となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
導体には電圧 \(V\) がかかっており、長さは \(L\) です。導体内部の電場が一様であると仮定して、電位差と電場の関係式を用います。
この設問における重要なポイント
- 導体内部の電場は一様であると考えます。
- 電場の向きは電位の高い方から低い方へ向かいます。
具体的な解説と立式
一様な電場の強さを \(E\) とします。距離 \(L\) だけ離れた両端の電位差が \(V\) であることから、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V &= EL
\end{aligned}
$$
この式を \(E\) について解きます。
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{V}{L}
\end{aligned}
$$
電圧というのは、電気的な「高さの差」のようなものです。長さ \(L\) の坂道で高さが \(V\) だけ変化しているとき、その坂の傾き具合が電場 \(E\) に相当します。単純に全体の高低差を距離で割れば、平均的な傾き(電場の強さ)が求まります。
電場の強さは \(E = \frac{V}{L}\,\text{[V/m]}\) です。単位を確認すると、\(\text{[V]}\) を \(\text{[m]}\) で割っているので \(\text{[V/m]}\) となり、正しいです。
問(2)
思考の道筋とポイント
電子は電場から静電気力を受けて加速します。まず、電子に働く力を特定し、運動方程式を立てて加速度 \(a\) を求めます。その後、等加速度直線運動の公式を用いて、時刻 \(T\) における速度 \(v_M\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 電子の電荷の大きさは \(e\) なので、受ける静電気力の大きさは \(F = eE\) です。
- 電子は初速度 \(0\) からスタートし、時間 \(T\) の間、一定の加速度で加速し続けます。
具体的な解説と立式
まず、電子の運動方程式を立てます。電子の質量を \(m\)、加速度を \(a\) とし、運動方向(電場と逆向き)を正とします。電子が受ける力は \(eE\) なので、
$$
\begin{aligned}
ma &= eE
\end{aligned}
$$
次に、等加速度直線運動の速度の式を立てます。初速度は \(0\) なので、時刻 \(t\) における速度 \(v\) は、
$$
\begin{aligned}
v &= at
\end{aligned}
$$
求めたいのは、時刻 \(t=T\) における最大速度 \(v_M\) です。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 静電気力: \(F = qE\)
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
まず、運動方程式から加速度 \(a\) を求めます。(1)の結果 \(E = \frac{V}{L}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
ma &= e \times \frac{V}{L} \\[2.0ex]
a &= \frac{eV}{mL}
\end{aligned}
$$
次に、この加速度 \(a\) を速度の式に代入し、\(t=T\) とします。
$$
\begin{aligned}
v_M &= aT \\[2.0ex]
&= \frac{eV}{mL} \times T \\[2.0ex]
&= \frac{eVT}{mL}
\end{aligned}
$$
電子は電気の力で背中を押されて、どんどんスピードアップしていきます。ニュートンの運動方程式を使って「どれくらいの勢いで加速するか(加速度)」を計算し、その勢いで時間 \(T\) だけ加速し続けたら最終的にどれくらいのスピード(最大速度)になるかを計算しました。
最大速度は \(v_M = \frac{eVT}{mL}\,\text{[m/s]}\) です。電圧 \(V\) が大きいほど、また加速時間 \(T\) が長いほど速度が大きくなるという結果は、直感的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
抵抗率 \(\rho\) を求めるには、オームの法則 \(V=RI\) の形に持ち込む必要があります。そのために、まず電子の平均速度 \(\overline{v}\) を求め、電流の定義式 \(I = en\overline{v}S\) を使って電流 \(I\) と電圧 \(V\) の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 図2より、速度は \(0\) から \(v_M\) まで直線的に増加するので、平均速度 \(\overline{v}\) は最大速度 \(v_M\) のちょうど半分になります。
- 導体の抵抗 \(R\) は、抵抗率 \(\rho\)、長さ \(L\)、断面積 \(S\) を用いて \(R = \rho \frac{L}{S}\) と表されます。
具体的な解説と立式
まず、平均速度 \(\overline{v}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\overline{v} &= \frac{0 + v_M}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}v_M
\end{aligned}
$$
次に、電流の定義式にこれを代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= en\overline{v}S
\end{aligned}
$$
これに(2)の結果を代入して \(I\) を \(V\) で表し、オームの法則の形 \(V = (\dots)I\) に変形します。
最後に、導体の抵抗の式 \(R = \rho \frac{L}{S}\) と係数を比較して \(\rho\) を求めます。
使用した物理公式
- 平均速度(等加速度運動): \(\overline{v} = \frac{v_0 + v}{2}\)
- 電流の定義式: \(I = en\overline{v}S\)
- オームの法則: \(V = RI\)
- 抵抗の公式: \(R = \rho \frac{L}{S}\)
平均速度 \(\overline{v}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\overline{v} &= \frac{1}{2} \times \frac{eVT}{mL} \\[2.0ex]
&= \frac{eVT}{2mL}
\end{aligned}
$$
これを電流の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= en \times \left( \frac{eVT}{2mL} \right) \times S \\[2.0ex]
I &= \frac{e^2nTS}{2mL} V
\end{aligned}
$$
この式を \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{2mL}{e^2nTS} I \\[2.0ex]
V &= \left( \frac{2m}{e^2nT} \times \frac{L}{S} \right) I
\end{aligned}
$$
この式のカッコ内の部分は、オームの法則 \(V=RI\) における抵抗 \(R\) に相当します。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{2m}{e^2nT} \times \frac{L}{S}
\end{aligned}
$$
一方、抵抗の公式は \(R = \rho \frac{L}{S}\) です。これらを比較すると、
$$
\begin{aligned}
\rho \frac{L}{S} &= \frac{2m}{e^2nT} \frac{L}{S} \\[2.0ex]
\rho &= \frac{2m}{e^2nT}
\end{aligned}
$$
電流というのは、電子の大群が流れることです。電子1個の平均スピードがわかれば、全体でどれくらいの電流が流れるかが計算できます。計算の結果、「電圧 \(V\) をかけると電流 \(I\) が流れる」という関係式が作れます。この式の比例係数が「抵抗 \(R\)」です。そこから、導体の形(長さや太さ)に依存しない素材そのものの電気の通しにくさである「抵抗率」を抜き出しました。
抵抗率は \(\rho = \frac{2m}{e^2nT}\,\text{[\(\Omega \cdot \text{m}\)]}\) です。電子の質量 \(m\) が大きい(動きにくい)ほど抵抗率が大きく、電子の数密度 \(n\) や電荷 \(e\) が大きい(運び手が多い・強い)ほど抵抗率が小さくなるという結果は、物理的に妥当です。また、衝突間隔 \(T\) が長い(なかなかぶつからない)ほど抵抗率が小さくなるのも納得できます。
問(4)
思考の道筋とポイント
「1秒間あたりに電場から得るエネルギー」とは、すなわち電場が電子にする仕事率のことです。電子は平均速度 \(\overline{v}\) で移動しながら、一定の力 \(F\) を受け続けているとみなして計算します。
この設問における重要なポイント
- 仕事率 \(P\) は、力 \(F\) と速度 \(v\) の積 \(P = Fv\) で表されます。
- ここでは平均的な仕事率を求めるため、速度として平均速度 \(\overline{v}\) を用います。
具体的な解説と立式
電子1個が受ける力は \(F = eE\) です。
電子の平均速度は \(\overline{v}\) です。
求める仕事率(1秒間あたりのエネルギー)を \(p\) とすると、
$$
\begin{aligned}
p &= F \overline{v}
\end{aligned}
$$
これにこれまでの結果を代入して計算します。
使用した物理公式
- 仕事率: \(P = Fv\)
(1)より \(E = \frac{V}{L}\)、(3)より \(\overline{v} = \frac{eVT}{2mL}\) です。
$$
\begin{aligned}
p &= \left( e \times \frac{V}{L} \right) \times \frac{eVT}{2mL} \\[2.0ex]
&= \frac{eV}{L} \times \frac{eVT}{2mL} \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 T}{2mL^2} V^2
\end{aligned}
$$
「仕事率」とは、1秒間にどれだけ仕事をするか(エネルギーを与えるか)を表す量です。一定の力で物体を押し続けるとき、その力と進むスピードを掛け算すると仕事率になります。ここでは、電気の力と電子の平均スピードを掛け算して求めました。
1個あたりの仕事率は \(p = \frac{e^2 T}{2mL^2} V^2\,\text{[J]}\) です。電圧の2乗に比例しています。
思考の道筋とポイント
電子の運動をミクロに見ると、「加速して運動エネルギーを得る」→「原子に衝突してエネルギーを全て失う(熱になる)」というサイクルの繰り返しです。1回のサイクルで得るエネルギーと、1秒間にそのサイクルが何回起こるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 電子は時間 \(T\) の間に \(0\) から \(v_M\) まで加速します。
- この1回の加速で得る運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_M^2\) です。
- 時間 \(T\) ごとに衝突するので、1秒間あたりの衝突回数は \(\frac{1}{T}\) 回です。
具体的な解説と立式
1回の加速で電子が得る運動エネルギー \(K\) は、
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{1}{2}mv_M^2
\end{aligned}
$$
1秒間あたりの衝突回数 \(N_{\text{衝突}}\) は、
$$
\begin{aligned}
N_{\text{衝突}} &= \frac{1}{T}
\end{aligned}
$$
求めるエネルギー(仕事率) \(p\) は、これらを掛け合わせたものです。
$$
\begin{aligned}
p &= K \times N_{\text{衝突}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_M^2 \times \frac{1}{T}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
(2)の結果 \(v_M = \frac{eVT}{mL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{1}{2}m \left( \frac{eVT}{mL} \right)^2 \times \frac{1}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}m \frac{e^2 V^2 T^2}{m^2 L^2} \times \frac{1}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 T}{2mL^2} V^2
\end{aligned}
$$
電子はコツコツとエネルギーを貯めては、衝突してそれを放出しています。1回の「加速→衝突」で貯まるエネルギーを計算し、それが1秒間に何回繰り返されるかを掛け算することで、トータルのエネルギーを求めました。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。この解法は、ジュール熱が「電子の運動エネルギーが衝突によって散逸したもの」であることを明確に示しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
導体中の「全電子」が得るエネルギーを求めます。これは、(4)で求めた「電子1個あたり」のエネルギーに、導体中の「全電子数」を掛けることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 単位体積あたりの電子数(数密度)は \(n\) です。
- 導体の体積は、断面積 \(S\) と長さ \(L\) の積 \(SL\) です。
- したがって、全電子数は \(nSL\) となります。
具体的な解説と立式
全電子数を \(N_{\text{全}}\) とすると、
$$
\begin{aligned}
N_{\text{全}} &= n \times (S \times L) \\[2.0ex]
&= nSL
\end{aligned}
$$
求める全エネルギー(消費電力) \(P\) は、電子1個あたりの仕事率 \(p\) に全電子数を掛けたものです。
$$
\begin{aligned}
P &= N_{\text{全}} \times p
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 全個数 = 数密度 × 体積
(4)の結果 \(p = \frac{e^2 T}{2mL^2} V^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= nSL \times \frac{e^2 T}{2mL^2} V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{nSLe^2 T}{2mL^2} V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 nTS}{2mL} V^2
\end{aligned}
$$
(4)で電子1個が稼ぐエネルギーがわかったので、あとは導体の中に全部で何個の電子がいるかを計算して、掛け算するだけです。導体の体積(底面積×高さ)に、密度(1立方メートルあたりの個数)を掛ければ、全個数が出ます。
答えは \(P = \frac{e^2 nTS}{2mL} V^2\,\text{[J]}\) です。
ここで、(3)で求めた抵抗 \(R = \frac{2mL}{e^2nTS}\) を思い出してみましょう。
今回の答えの係数部分は、ちょうど \(1/R\) になっています。
つまり、\(P = \frac{1}{R} V^2 = \frac{V^2}{R}\) となり、これは電気回路における消費電力の公式そのものです。ミクロな計算からマクロな法則が導かれました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式と電流の微視的定義の結合
- 核心: この問題の根幹は、電子というミクロな粒子の運動(質量 \(m\)、電荷 \(e\)、加速度 \(a\))を運動方程式 \(ma=F\) で記述し、それを電流の定義式 \(I=en\overline{v}S\) を介して、マクロな電気回路の法則(オームの法則 \(V=RI\)、ジュール熱 \(P=IV\))に結びつける論理展開にあります。
- 理解のポイント:
- 因果関係の連鎖: 電位差 \(V\) \(\rightarrow\) 電場 \(E\) \(\rightarrow\) 静電気力 \(F\) \(\rightarrow\) 加速度 \(a\) \(\rightarrow\) 速度 \(v\) \(\rightarrow\) 電流 \(I\) という物理量の因果関係を整理して理解することが重要です。
- 平均化のモデル(ドルーデモデル): 個々の電子は加速と衝突を激しく繰り返しますが、導体全体として見れば、電子群は一定の「平均速度 \(\overline{v}\)」で流れているとみなすモデル化の手法を理解しましょう。
- エネルギー変換のプロセス
- 核心: 電場が電子に対して仕事をし、それが電子の運動エネルギーになり、最終的に原子との衝突によって熱エネルギー(ジュール熱)に変わるというエネルギーの流れを理解することです。
- 理解のポイント:
- 仕事率の解釈: マクロな「消費電力 \(P\)」は、ミクロに見れば「電場が全電子に対して行う仕事率」そのものです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果: 磁場中を運動する電子がローレンツ力を受けて偏る現象。この問題と同様に、電流の微視的定義式 \(I=en\overline{v}S\) が解析の鍵となります。
- 気体分子運動論: 気体分子が壁に衝突して圧力を生じるモデル。電子が原子に衝突して抵抗を生じるモデルと、統計的な処理(平均化)の手法が非常に似ています。
- 終端速度型の抵抗モデル: 電子が速度に比例する抵抗力 \(kv\) を受けて等速運動すると仮定するモデル。本問(等加速度運動+周期的衝突)とは前提が異なりますが、結果としてオームの法則が導かれる点は共通しており、比較して出題されることがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「平均」の定義を確認する: 問題文やグラフから、速度の変化がどのように記述されているかを読み取ります。本問のように等加速度運動なら平均は \(\frac{0+v_M}{2}\) ですが、終端速度モデルなら一定速度 \(v\) そのものが平均になります。
- 単位時間・単位体積あたり: 「1秒間あたり」「単位体積あたり」という言葉が出てきたら、全体の量を時間 \(t\) や体積 \(SL\) で割る、あるいは数密度 \(n\) を掛けるといった操作を即座に想起しましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 平均速度と最大速度の混同:
- 誤解: 電流の式 \(I=en\overline{v}S\) や仕事率の式 \(P=F\overline{v}\) に、衝突直前の最大速度 \(v_M\) をそのまま代入してしまう。
- 対策: 図2のグラフを常にイメージしましょう。速度は \(0\) から \(v_M\) まで三角形を描いて変化しているので、その平均(重心の高さ)は真ん中の \(\frac{1}{2}v_M\) になることを意識します。
- 仕事率の計算における力の取り扱い:
- 誤解: 仕事率を求める際、力 \(F\) も時間変化すると勘違いしたり、逆に平均の力などを考えすぎて混乱する。
- 対策: 一様な電場中では、電子にかかる力 \(F=eE\) は常に一定です。一定の力がかかりながら速度が変化する場合、平均の仕事率は \((\text{一定の力}) \times (\text{平均速度})\) で求められます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(2)での公式選択(運動方程式):
- 選定理由: 電子の「質量」と「加速度」が関わる問題なので、力学の基本原理であるニュートンの運動方程式 \(ma=F\) が第一選択となります。
- 適用根拠: 電子を古典的な粒子とみなし、静電気力 \(F=eE\) 以外の力(重力など)は無視できるため、単純な等加速度直線運動として扱えます。
- 問(3)での公式選択(電流の定義式):
- 選定理由: ミクロな量(電荷 \(e\)、数密度 \(n\)、速度 \(v\))とマクロな量(電流 \(I\))を結びつける式は、高校物理では \(I=en\overline{v}S\) しかありません。
- 適用根拠: 導体中の電子の流れを一様な流体のようにみなして適用します。この式を使うことで、初めて電圧 \(V\) と電流 \(I\) の関係(オームの法則)を導くことができます。
- 問(4)での公式選択(仕事率の公式):
- 選定理由: 「1秒間あたりのエネルギー」は物理用語で「仕事率」です。力と速度がわかっている場合、\(P=Fv\) が最も直接的です。
- 適用根拠: 速度が時間とともに変動するため、平均の仕事率として \(P=F\overline{v}\) を適用します。別解のエネルギー保存則的アプローチ(\(\frac{1}{2}mv^2 \times \text{回数}\))も有効ですが、仕事率の公式の方が計算ステップが少なく済みます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元解析(単位チェック):
- 答えが出たら、単位や次元を確認しましょう。例えば(3)の抵抗率 \(\rho\) なら、\(R = \rho \frac{L}{S}\) より \(\rho = R \frac{S}{L}\) なので、単位は \([\Omega \cdot \text{m}]\) になるはずです。
- (5)の消費電力 \(P\) なら、最終的に \(\frac{V^2}{R}\) の形(係数が \(1/R\) に相当)になっているかを確認することで、計算ミスを強力に検出できます。
- 係数「2」の管理:
- 平均速度の計算で \(\frac{1}{2}\) が出てくるため、分母に \(2\) が残ります。計算の途中でこの \(2\) を書き落としたり、分子に書いてしまったりするミスが多発します。分数は常に \(\displaystyle\frac{…}{…}\) の形で大きく書き、約分できるかどうかも慎重に判断しましょう。
発展例題40 電位差計
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 抵抗値を先に求める解法
- 模範解答が電圧の比(長さの比)で計算するのに対し、別解ではAC間の抵抗値を求めてからオームの法則を適用します。
- 設問(2)の別解: キルヒホッフの第2法則を用いた解法
- 模範解答が「電圧降下はないので起電力に等しい」と言葉で説明しているのに対し、別解では閉回路に対するキルヒホッフの第2法則を厳密に立式して数式的に導きます。
- 設問(1)の別解: 抵抗値を先に求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 抵抗値が長さに比例するという抵抗の基本的性質を再確認できます。
- 思考の柔軟性向上: 直感的な「つりあい」だけでなく、キルヒホッフの法則という汎用的なツールで現象を記述する力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電位差計(ポテンショメーター)の原理と回路解析」です。電圧計を用いずに、既知の電圧源と平衡させることで未知の起電力を精密に測定する仕組みを理解します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則: 抵抗、電流、電圧の関係 \(V=RI\) を理解していること。
- 抵抗と長さの比例関係: 一様な太さの抵抗線の抵抗値は、その長さに比例すること(\(R \propto L\))。
- キルヒホッフの第2法則: 任意の閉回路において、起電力の和と電圧降下の和が等しいこと。
- 電位の概念: 回路上の各点における電位の高低を正しく把握できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず抵抗線AB全体にかかる電圧を求めます。抵抗線が一様であることから、AC間の電圧降下は長さに比例して配分されると考えます。
- (2)では、検流計に電流が流れない状態(平衡状態)に着目します。このとき、検流計を含む閉回路内の電位差の総和がゼロになることから、未知の起電力を求めます。
- (3)では、平衡状態から条件を変化させたとき(接点の移動)、回路内の電位バランスがどう崩れるかを考察し、電流の流れる向きを判断します。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗線ABには電流 \(I=0.10\,\text{A}\) が流れており、これによって電圧降下が生じています。抵抗線は一様なので、電圧降下の大きさは長さに比例します。まずAB全体の電圧降下を求め、それを長さの比で按分してAC間の電圧降下を求めます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗線ABの抵抗値 \(R_{AB} = 40\,\Omega\) と電流 \(I = 0.10\,\text{A}\) から、全体の電圧降下が求まる。
- AC間の長さ \(L_{AC} = 0.30\,\text{m}\) とAB間の長さ \(L_{AB} = 1.0\,\text{m}\) の比を利用する。
- 電圧降下 \(V\) は長さ \(L\) に比例する(\(V \propto L\))。
具体的な解説と立式
まず、抵抗線AB間の電圧降下 \(V_{AB}\) をオームの法則により立式します。
$$
\begin{aligned}
V_{AB} &= R_{AB} I
\end{aligned}
$$
次に、AC間の電圧降下 \(V_{AC}\) は、長さの比に応じて \(V_{AB}\) を分配したものとなります。
$$
\begin{aligned}
V_{AC} &= V_{AB} \times \frac{L_{AC}}{L_{AB}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- 比例配分: \(V_{AC} = V_{AB} \frac{L_{AC}}{L_{AB}}\)
まず \(V_{AB}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{AB} &= 40 \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 4.0\,\text{V}
\end{aligned}
$$
次に \(V_{AC}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{AC} &= 4.0 \times \frac{0.30}{1.0} \\[2.0ex]
&= 1.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
抵抗線AB全体を一つの長い坂道と考えてみましょう。この坂道の高低差(電圧)は全体で \(4.0\,\text{V}\) です。C点はスタート地点Aから全長の \(30\%\) だけ進んだ場所にあります。坂の勾配が一定なら、C点の高さはスタート地点より全体の \(30\%\) 分だけ下がっているはずです。つまり、\(4.0\,\text{V}\) の \(0.3\) 倍が答えになります。
答えは \(1.2\,\text{V}\) です。
求めた \(V_{AC}=1.2\,\text{V}\) は、全体の電圧降下 \(V_{AB}=4.0\,\text{V}\) よりも小さく、かつ正の値です。また、長さの比 \(0.30\) と電圧の比 \(1.2/4.0 = 0.30\) が一致しており、抵抗線が一様である(電圧降下が長さに比例する)という物理的性質と整合しています。
思考の道筋とポイント
電圧の比ではなく、AC間の抵抗値 \(R_{AC}\) を直接求めてから、オームの法則 \(V_{AC} = R_{AC} I\) を適用します。抵抗値そのものに着目するアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 抵抗値 \(R\) は長さ \(L\) に比例する。
- 回路を流れる電流 \(I\) は抵抗線のどの部分でも一定である。
具体的な解説と立式
抵抗線は一様なので、AC間の抵抗値 \(R_{AC}\) は全体の抵抗値 \(R_{AB}\) を長さの比で按分したものとなります。
$$
\begin{aligned}
R_{AC} &= R_{AB} \times \frac{L_{AC}}{L_{AB}}
\end{aligned}
$$
この抵抗 \(R_{AC}\) に電流 \(I\) が流れるときの電圧降下 \(V_{AC}\) をオームの法則で求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{AC} &= R_{AC} I
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 抵抗の比例計算: \(R \propto L\)
- オームの法則: \(V = RI\)
まず \(R_{AC}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
R_{AC} &= 40 \times \frac{0.30}{1.0} \\[2.0ex]
&= 12\,\Omega
\end{aligned}
$$
次に \(V_{AC}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{AC} &= 12 \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 1.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
まず、「AC間の部分だけの抵抗値は何オームか?」を計算します。全体 \(1.0\,\text{m}\) で \(40\,\Omega\) なので、\(0.30\,\text{m}\) ならその \(0.3\) 倍の \(12\,\Omega\) です。この \(12\,\Omega\) の抵抗に \(0.10\,\text{A}\) の電流が流れるので、オームの法則を使えば電圧が出ます。
メインの解法と全く同じ \(1.2\,\text{V}\) が得られました。これは、オームの法則 \(V=RI\) において、\(I\) が一定ならば \(V\) と \(R\) が比例し、さらに \(R\) と \(L\) が比例するため、結果として \(V\) と \(L\) が比例するという論理的整合性を示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
検流計に電流が流れないということは、下側の測定回路において、電流を流そうとする電位差が打ち消し合っていることを意味します。A点とC点の間の電位差(電圧降下)と、電池 \(E_2\) の起電力の関係を考察します。
この設問における重要なポイント
- 検流計に電流が流れないとき、抵抗 \(R_2\) での電圧降下は \(0\) である。
- A点はC点より電位が高い(電流がA \(\to\) Bへ流れているため)。
- 電池 \(E_2\) はA点側に正極を向けており、A点の電位をC点より高く保とうとする向きにつながれている。
具体的な解説と立式
検流計に電流が流れないとき、下側の閉回路(A \(\to\) \(E_2\) \(\to\) \(R_2\) \(\to\) 検流計 \(\to\) C \(\to\) A)内の電位の関係を考えます。
A点とC点の間の電位差は \(V_{AC}\) です。
一方、この区間には電池 \(E_2\) が並列に接続されています。電流がゼロなので \(R_2\) での電圧降下はなく、電池の両端の電圧は起電力 \(E_2\) そのものです。
これらが釣り合っているため、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
E_2 &= V_{AC}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則(概念的適用)
(1)の結果より \(V_{AC} = 1.2\,\text{V}\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
E_2 &= 1.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
A点とC点の間には、上の回路の電流によって \(1.2\,\text{V}\) の電圧が発生しています。これは電流をAからCへ流そうとする圧力です。一方、下の回路には電池 \(E_2\) があり、これは電流を逆向き(CからAへ)に押し戻そうとしています。検流計が動かないということは、この2つの圧力が完全に互角で、押し合いへし合いして動かない状態(平衡状態)だということです。つまり、電池の強さは \(1.2\,\text{V}\) です。
答えは \(1.2\,\text{V}\) です。
起電力が正の値として求まり、かつ回路全体の電圧規模(\(4.0\,\text{V}\))の範囲内に収まっているため、物理的に妥当な解です。もし \(E_2\) が \(V_{AB}\) より大きければ、C点をどこに動かしても平衡点は見つからないことになりますが、今回は \(1.2 < 4.0\) なので測定可能です。
思考の道筋とポイント
「電圧降下がない」という定性的な説明ではなく、閉回路に対して厳密にキルヒホッフの第2法則を適用して数式から導きます。符号の定義を明確にすることがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 閉回路 A \(\to\) C \(\to\) 検流計 \(\to\) \(R_2\) \(\to\) \(E_2\) \(\to\) A を考える。
- 検流計に流れる電流を \(i\) と仮定する(向きは任意、ここでは A \(\to\) C 方向を正とする)。
具体的な解説と立式
閉回路 A-C-検流計-\(R_2\)-\(E_2\)-A を時計回りに一周します。
1. A \(\to\) C: 抵抗線を電流 \(I\) が流れているため、電位は \(V_{AC}\) 下がります(変化: \(-V_{AC}\))。
2. C \(\to\) 検流計 \(\to\) \(R_2\): 測定回路の電流を \(i\) とすると、抵抗 \(R_2\) で電位は \(R_2 i\) 下がります(変化: \(-R_2 i\))。
3. \(E_2\) \(\to\) A: 電池の負極から正極へ通るため、電位は \(E_2\) 上がります(変化: \(+E_2\))。
キルヒホッフの第2法則(一周の電位変化の和はゼロ)より、
$$
\begin{aligned}
-V_{AC} – R_2 i + E_2 &= 0
\end{aligned}
$$
ここで、検流計に電流が流れない条件 \(i=0\) を適用します。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則: \(\sum \Delta V = 0\)
式に \(i=0\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
-V_{AC} – 0 + E_2 &= 0 \\[2.0ex]
E_2 &= V_{AC} \\[2.0ex]
&= 1.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
回路をぐるっと一周回って元の場所に戻ると、高さ(電位)は元通りになるというルールを使います。AからCへ降りて、電池で登ってAに戻る。このとき電流が流れていないなら抵抗での高さ変化はないので、「降りた分」と「登った分」が等しくなければなりません。
メインの解法と同じ結果が得られました。キルヒホッフの法則を用いることで、電流の向きや電圧の正負を厳密に管理でき、より複雑な回路(例えば内部抵抗を考慮する場合など)にも対応できる汎用性があることが確認できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
接点CをB側に動かすと、AC間の距離が変化し、それに伴い \(V_{AC}\) が変化します。平衡状態(\(V_{AC} = E_2\))が崩れたとき、どちらの電圧が支配的になるかを比較して電流の向きを決定します。
この設問における重要なポイント
- CをB側に動かすと、長さ \(L_{AC}\) が増加する。
- 長さが増加すると、電圧降下 \(V_{AC}\) も増加する。
- 回路には、\(V_{AC}\)(A \(\to\) C 向きの電流要因)と \(E_2\)(C \(\to\) A 向きの電流要因)が競合している。
具体的な解説と立式
接点CをB側に動かすと、AC間の長さ \(L_{AC}\) が大きくなります。
(1)で確認した通り、\(V_{AC} \propto L_{AC}\) なので、AC間の電圧降下 \(V’_{AC}\) は元の \(V_{AC}\) より大きくなります。
$$
\begin{aligned}
V’_{AC} > V_{AC} = E_2
\end{aligned}
$$
下側の閉回路において、\(V’_{AC}\) は検流計に対して「右向き(A \(\to\) C方向)」に電流を流そうとする働きをします。
一方、電池 \(E_2\) は検流計に対して「左向き(C \(\to\) A方向)」に電流を流そうとします。
\(V’_{AC} > E_2\) となったため、\(V’_{AC}\) の作用が勝ちます。
したがって、電流は \(V’_{AC}\) が流そうとする向き、すなわち図において右向きに流れます。
使用した物理公式
- オームの法則(電位差と電流の向きの関係)
(定性的な比較のため計算過程なし)
Cを右に動かすと、AC間の「電気の坂道」の距離が長くなり、高低差(電圧)が \(1.2\,\text{V}\) より大きくなります。電池 \(E_2\) の押し上げる力は \(1.2\,\text{V}\) のまま変わりません。すると、上からの押し下げる力の方が強くなるため、バランスが崩れて電流が押し出されます。その向きは、坂を下る方向、つまり図でいうと右向きになります。
答えは「右向き」です。
電位差計の原理において、未知起電力より大きな電圧降下を与えれば、その差分によって順方向(電圧降下の方向)に電流が流れるという振る舞いは物理的に妥当です。逆にCをA側に動かせば \(V_{AC} < E_2\) となり、電池が押し勝って左向きに流れるはずです。この対称性からも、結論が正しいことが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電位差計(ポテンショメーター)の原理
- 核心: 電圧計のように電流を流して測定するのではなく、既知の電圧と未知の電圧を対抗させ、電流が流れない「平衡状態」を作り出すことで、回路に影響を与えずに電圧を精密に測定する手法です。
- 理解のポイント:
- ゼロメソッド(零位法): 検流計の針がゼロになる点を探す測定法です。電流がゼロなので、内部抵抗や接触抵抗による電圧降下の影響を受けず、真の起電力を測定できる点が最大の特徴です。
- 電圧の空間的分布: 一様な抵抗線上の位置(長さ)と電位(電圧)が1対1に対応していることを理解しましょう。「長さ=電圧」という定規のような役割を果たしています。
- キルヒホッフの第2法則と電位の概念
- 核心: 複雑に見える回路でも、任意の閉回路(ループ)を選んで一周すれば、電位の変化の総和は必ずゼロになるという法則です。
- 理解のポイント:
- 電位の可視化: 回路図を「高さのある地形図」としてイメージする力が重要です。電池はポンプ(揚水)、抵抗は水路(落差)です。
- 平衡条件の数式化: 「電流が流れない」という現象を、単なる事実としてではなく、\(V_{AC} – E_2 = 0\) という数式として捉えることで、条件が変わったときの挙動(問3)も論理的に導けます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- メートルブリッジ(ホイートストンブリッジ): 抵抗線上の接点を動かして平衡点を探す構造が共通しています。ブリッジ回路では「抵抗の比」が等しくなるのに対し、電位差計では「電圧」そのものが等しくなる点が異なりますが、アプローチは似ています。
- 内部抵抗を含む電池の測定: 電位差計は電流を流さないため、電池の内部抵抗 \(r\) による電圧降下 \(ri\) が発生しません。したがって、端子電圧 \(V = E – ri\) ではなく、起電力 \(E\) そのものを測定できるという文脈で出題されることが多いです。
- セルの起電力比較: 標準電池(起電力が既知)と測定したい電池を切り替えて、それぞれの平衡点 \(L_1, L_2\) を求める問題。\(E_1 : E_2 = L_1 : L_2\) という比例関係を使います。
- 初見の問題での着眼点:
- 「検流計の電流が0」の意味: これを見たら即座に「その区間の両端の電位差が等しい」「その区間にある抵抗での電圧降下は0」という2つの情報を引き出してください。
- 回路の分離: 検流計に電流が流れないとき、上側の主回路と下側の測定回路は電気的に独立しているとみなせます。上側の回路だけで電流 \(I\) を計算し、その結果を下側の回路の検討に使うという手順が定石です。
- 抵抗線の非一様性: もし「抵抗線の太さが一様でない」という応用問題が出たら、長さの比は使えません。その場合は、抵抗値 \(R(x)\) の関数積分や、断面積 \(S(x)\) を考慮した \(R = \rho L/S\) の計算が必要になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電流の向きと電位の大小関係の混乱:
- 誤解: 問(3)で、電圧が大きい方から小さい方へ電流が流れることは分かっていても、具体的に図の左右どちらなのか混乱する。
- 対策: 必ず「電位の高い方」を特定しましょう。この回路では電池 \(E_1\) の向きからA点が高電位、B点が低電位です。\(V_{AC}\) が勝つということは、AからCへ向かう流れ(主回路の電流と同じ向き)が分岐して検流計へ流れ込むイメージを持つと分かりやすいです。
- 比例計算の基準間違い:
- 誤解: \(V_{AC}\) を求める際、分母を抵抗線全体の長さ \(1.0\,\text{m}\) ではなく、残りの長さ \(0.7\,\text{m}\) にしてしまうなどのケアレスミス。
- 対策: 「部分 / 全体」なのか「部分 / 部分」なのかを常に意識します。電位差計では「基準となる全体の電圧」に対する割合を考えるので、分母は必ず全長(または基準となる長さ)になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(オームの法則と比例配分):
- 選定理由: 一様な抵抗線という条件から、抵抗値および電圧降下が長さに比例することは自明です。
- 適用根拠: まず回路全体を流れる電流 \(I\) を決定する要素(\(E_1, R_1, R_{AB}\))が全て既知であるため、\(V_{AB}=R_{AB}I\) で基準となる電圧を確定させ、それを幾何学的な比率で分配するのが最も効率的です。
- 問(2)での公式選択(キルヒホッフの第2法則):
- 選定理由: 複数の電源や抵抗を含む回路網において、電圧と電流の関係を記述する最も一般的かつ強力な法則だからです。
- 適用根拠: 「電流が流れない」という静的な状態だけでなく、問(3)のような動的な変化を考察する際にも、\(E_2 – V_{AC}\) という「差分」を数式として評価できるため、単なる直感以上の論理的根拠を与えてくれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の計算での単位確認:
- 長さの比 \(\frac{30\,\text{cm}}{1.0\,\text{m}}\) を計算する際、単位を揃え忘れて \(\frac{30}{1}\) と計算してしまうミスがあります。必ず \(\frac{0.30\,\text{m}}{1.0\,\text{m}}\) または \(\frac{30\,\text{cm}}{100\,\text{cm}}\) と単位を統一してから計算しましょう。
- 回路図への書き込み:
- 求めた電圧や電流の値(\(4.0\,\text{V}, 1.2\,\text{V}\) など)を、回路図の該当箇所に直接書き込む癖をつけましょう。視覚的に情報を整理することで、問(3)のような大小比較の際に勘違いを防げます。
- 極端な場合の想定:
- 問(3)で迷ったら、「もしC点がB点(右端)まで移動したらどうなるか?」と考えてみましょう。\(V_{AC}\) は最大値 \(4.0\,\text{V}\) になり、明らかに \(E_2 (1.2\,\text{V})\) より大きくなります。このとき電流はどう流れるか?と極端なケースで思考実験することで、向きの判断ミスを防げます。
発展例題41 コンデンサーを含む回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: キルヒホッフの法則を用いた解法
- 模範解答が「抵抗の直列接続による分圧」で電圧を求めているのに対し、別解では閉回路に対するキルヒホッフの第2法則を立式して電流と電圧を求めます。
- 設問(2)の別解: キルヒホッフの法則を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 汎用性の向上: 直列・並列の判断が難しい複雑な回路網においても、キルヒホッフの法則は常に適用可能な強力なツールです。
- 電位の理解深化: 回路を一周する際の電位の上がり下がりを数式化することで、電位分布のイメージをより強固にします。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「定常状態におけるコンデンサーを含む直流回路の解析」です。スイッチの開閉によって回路の接続状態が変化したとき、十分に時間が経過した後の電流、電圧、電気量の分布を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定常状態のコンデンサー: 直流回路において十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了し、コンデンサーを含む枝には電流が流れなくなります(断線とみなせる)。
- オームの法則: 抵抗に電流が流れるとき、電圧降下 \(V=RI\) が生じます。逆に、電流が流れていなければ電圧降下はゼロです。
- コンデンサーの基本式: 電気量 \(Q\)、電気容量 \(C\)、電圧 \(V\) の間には \(Q=CV\) の関係があります。
- 電位の概念: 接地(アース)された点の電位を \(0\,\text{V}\) とし、そこからの電位差(高さ)を考えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、スイッチSが開いているため、上側の枝(\(R_1, C_2\))と下側の枝(\(C_1, R_2\))は独立しています。定常状態では電流が流れないため、抵抗での電圧降下はなく、各コンデンサーには電池の起電力 \(E\) がそのままかかります。
- (2)では、スイッチSが閉じると、電流の流れる経路(\(E \to R_1 \to \text{S} \to R_2 \to E\))が形成されます。この経路についてオームの法則(または分圧の法則)を用いて各抵抗にかかる電圧を求め、並列接続されているコンデンサーの電圧を決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチSが開いているとき、回路は上側の経路(\(R_1\) と \(C_2\) の直列)と下側の経路(\(C_1\) と \(R_2\) の直列)に分かれています。十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了し、電流は流れなくなります。電流がゼロならば、抵抗での電圧降下もゼロになります。
この設問における重要なポイント
- 定常状態では、コンデンサーを含む枝に電流は流れない(\(I=0\))。
- 電流が流れない抵抗の両端の電位差は \(0\) である(等電位)。
- 接地(アース)点の電位は \(0\) である。
具体的な解説と立式
十分に時間が経過した後、回路に電流は流れません。
したがって、抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) での電圧降下はともに \(0\) です。
これは、抵抗の両端で電位が変わらないことを意味します。
電池の負極側(アース)の電位を \(0\) とすると、正極側の電位は \(E\) です。
- コンデンサー \(C_1\) について:
左側の極板は電池の正極(電位 \(E\))に、右側の極板は抵抗 \(R_2\) を介してアース(電位 \(0\))につながっています。\(R_2\) での電圧降下がないため、右側極板の電位も \(0\) です。
よって、\(C_1\) にかかる電圧 \(V_1\) は \(E\) です。
蓄えられる電気量 \(Q_1\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 E
\end{aligned}
$$ - コンデンサー \(C_2\) について:
左側の極板は抵抗 \(R_1\) を介して電池の正極(電位 \(E\))につながっています。\(R_1\) での電圧降下がないため、左側極板(点P)の電位も \(E\) です。
右側の極板はアース(電位 \(0\))につながっています。
よって、\(C_2\) にかかる電圧 \(V_2\) は \(E\) です。
蓄えられる電気量 \(Q_2\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 E
\end{aligned}
$$ - 点Pの電位について:
点Pは抵抗 \(R_1\) を介して電池の正極とつながっており、電流が流れていないため、電池の正極と等電位になります。
$$
\begin{aligned}
V_P &= E
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)(\(I=0\) なら \(V=0\))
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
(立式そのものが答えとなっているため、追加の計算過程なし)
「十分に時間が経つ」ということは、コンデンサーがお腹いっぱいに電気を貯めて、もうこれ以上電気を通さない状態になったということです。電気が流れないので、抵抗はただの導線と同じ扱いになります。つまり、コンデンサーは電池と直接つながっているのと同じ状態になり、電池の電圧 \(E\) がそのままコンデンサーにかかります。点Pも電池のプラス側と直接つながっているのと同じなので、電位は \(E\) です。
\(C_1\) の電気量は \(C_1 E\)、\(C_2\) の電気量は \(C_2 E\)、点Pの電位は \(E\) です。
電流が流れないため抵抗による電圧降下がなく、電源電圧がそのままコンデンサーにかかるという結果は物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じると、\(R_1\) と \(R_2\) が直列に接続された閉回路(\(E \to R_1 \to \text{S} \to R_2 \to E\))が形成されます。コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) には定常状態では電流が流れませんが、抵抗を含むこのループには電流が流れ続けます。この電流によって抵抗に電圧降下が生じ、それが並列に接続されたコンデンサーの電圧となります。
この設問における重要なポイント
- 定常状態でも、抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) の直列回路には電流が流れる。
- コンデンサー \(C_1\) は抵抗 \(R_1\) と並列に接続されているとみなせる。
- コンデンサー \(C_2\) は抵抗 \(R_2\) と並列に接続されているとみなせる。
- 点Pは \(R_1\) と \(C_2\) の間の点であり、\(R_1\) での電圧降下後の電位を持つ。
具体的な解説と立式
まず、抵抗 \(R_1, R_2\) を流れる電流 \(I\) を求めます。これらは直列に接続されているので、合成抵抗は \(R_1 + R_2\) です。オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{E}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
次に、各抵抗にかかる電圧を求めます。
\(R_1\) の両端の電圧 \(V_{R1}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{R1} &= R_1 I \\[2.0ex]
&= \frac{R_1}{R_1 + R_2} E
\end{aligned}
$$
\(R_2\) の両端の電圧 \(V_{R2}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{R2} &= R_2 I \\[2.0ex]
&= \frac{R_2}{R_1 + R_2} E
\end{aligned}
$$
回路図を見ると、\(C_1\) は \(R_1\) と並列に、\(C_2\) は \(R_2\) と並列に接続されています。
したがって、\(C_1\) の電圧 \(V_1\) は \(V_{R1}\) に等しく、\(C_2\) の電圧 \(V_2\) は \(V_{R2}\) に等しくなります。
- \(C_1\) の電気量 \(Q_1\):
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 V_{R1} \\[2.0ex]
&= C_1 \times \frac{R_1}{R_1 + R_2} E
\end{aligned}
$$ - \(C_2\) の電気量 \(Q_2\):
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 V_{R2} \\[2.0ex]
&= C_2 \times \frac{R_2}{R_1 + R_2} E
\end{aligned}
$$ - 点Pの電位:
点Pは \(C_2\) の左側の極板につながっており、\(C_2\) の右側極板はアース(電位 \(0\))です。したがって、点Pの電位は \(C_2\) の両端の電圧 \(V_{R2}\) に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
V_P &= V_{R2} \\[2.0ex]
&= \frac{R_2}{R_1 + R_2} E
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\)
- 分圧の法則: \(V_k = \frac{R_k}{R_{\text{total}}} V\)
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
(立式過程で計算済み)
スイッチを閉じると、抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) を通って電気が流れ続けます。このとき、電池の電圧 \(E\) は、抵抗の大きさの比率(\(R_1 : R_2\))に応じて分け合われます(分圧)。コンデンサー \(C_1\) は \(R_1\) と、\(C_2\) は \(R_2\) と「抱き合わせ(並列)」になっているので、それぞれの抵抗にかかっている電圧と同じ電圧をもらいます。点Pの高さ(電位)は、アース(地面)から見て \(R_2\) の電圧分だけ高い位置になります。
\(Q_1 = \frac{R_1 C_1 E}{R_1 + R_2}\)、\(Q_2 = \frac{R_2 C_2 E}{R_1 + R_2}\)、点Pの電位は \(\frac{R_2 E}{R_1 + R_2}\) です。
抵抗値の比による分圧として理解でき、物理的に妥当です。例えば \(R_1=0\) なら \(Q_1=0, Q_2=C_2 E\) となり、(1)の状況(ただし \(C_1\) は短絡)と整合性を確認できます。
思考の道筋とポイント
回路全体の電流を \(I\) とし、閉回路 \(E \to R_1 \to \text{S} \to R_2 \to E\) に対してキルヒホッフの第2法則を適用します。
具体的な解説と立式
閉回路を時計回りに一周します。
電池で電位が \(E\) 上がり、\(R_1\) で \(R_1 I\) 下がり、\(R_2\) で \(R_2 I\) 下がって元に戻ります。
$$
\begin{aligned}
E – R_1 I – R_2 I &= 0
\end{aligned}
$$
これを解くと、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{E}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
点Pの電位 \(V_P\) は、アース(電位 \(0\))から抵抗 \(R_2\) を逆流して(電位が上がる方向に)到達する点と考えられます。
$$
\begin{aligned}
V_P &= 0 + R_2 I \\[2.0ex]
&= R_2 \times \frac{E}{R_1 + R_2} \\[2.0ex]
&= \frac{R_2 E}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
あるいは、電池の正極(電位 \(E\))から抵抗 \(R_1\) を下って(電位が下がる方向に)到達する点と考えても同じです。
$$
\begin{aligned}
V_P &= E – R_1 I \\[2.0ex]
&= E – \frac{R_1 E}{R_1 + R_2} \\[2.0ex]
&= \frac{(R_1 + R_2)E – R_1 E}{R_1 + R_2} \\[2.0ex]
&= \frac{R_2 E}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
\(C_1\) の電圧は \(E – V_P\)(または \(R_1\) の電圧降下)、\(C_2\) の電圧は \(V_P – 0\)(または \(R_2\) の電圧降下)となります。
メインの解法と同じ結果が得られました。キルヒホッフの法則を使うことで、電位の「高さ」の関係がより明確になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定常状態におけるコンデンサーの振る舞い
- 核心: 直流回路において十分に時間が経過すると、コンデンサーは充電を完了し、電流を一切通さなくなります(断線状態)。
- 理解のポイント:
- 電流の遮断: コンデンサーがある枝には電流が流れないため、その枝にある抵抗での電圧降下はゼロになります。
- 電位の伝達: 電流が流れていない抵抗は、単なる導線と同じように電位をそのまま伝えます。これにより、離れた点の電位が等しくなる現象(等電位)を理解することが重要です。
- 回路の接続状態の変化と電位分布
- 核心: スイッチの開閉によって電流の流れる経路が変わり、それに伴って各点の電位(高さ)が変化します。
- 理解のポイント:
- 独立と従属: (1)では上下の枝が独立していますが、(2)では抵抗同士が直列回路を形成し、コンデンサーはその電圧に従属する形になります。
- 分圧の法則: 直列接続された抵抗では、抵抗値の比に応じて電圧が分配されることを直感的に使えるようにしましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- スイッチ切り替え問題: スイッチをA側からB側に切り替えたときの電気量の移動量 \(\Delta Q\) を求める問題。この場合、切り替え前後の \(Q\) をそれぞれ計算し、その差分をとります。
- 過渡現象(定性的な理解): 「スイッチを入れた直後」はコンデンサーは導線(電圧0)とみなせ、「十分時間が経った後」は断線(電流0)とみなせる、という両極端の状態を比較させる問題。
- ブリッジ回路: コンデンサーを含むブリッジ回路で、検流計に電流が流れない条件(平衡条件)を求める問題。電位が等しい点を見つける考え方は本問と同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 「十分に時間が経過した」のキーワード: これを見たら即座に「コンデンサーの電流 \(I=0\)」「抵抗の電圧降下 \(RI=0\)」という条件を書き込みましょう。
- 電位の色塗り: 回路図上で、等電位になる部分を同じ色で塗る(または同じ記号を振る)と、どのコンデンサーにどの電圧がかかっているかが一目瞭然になります。特にアース(\(0\,\text{V}\))から辿っていくのがコツです。
- 孤立部分の電荷保存: スイッチの切り替え問題などで、極板がどこにも繋がっていない(孤立している)場合、その部分の電気量の総和は保存されます。本問では直接使いませんが、応用問題では必須のテクニックです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチが開いているときの電圧の勘違い:
- 誤解: (1)でスイッチが開いているとき、\(C_1\) と \(C_2\) が直列になっていると考えて、電圧を \(C\) の逆比で分配してしまう。
- 対策: 回路図をよく見て、電流が流れていないことを確認します。電流がなければ抵抗での電圧降下はなく、電池の電圧がそのまま端まで伝わります。「直列接続」とは電流が共通して流れる状態を指すので、電流ゼロの状態では分圧の法則は適用されません。
- 電位と電圧の混同:
- 誤解: 点Pの電位を求める際に、どこを基準(\(0\,\text{V}\))にしているかを忘れて、電位差(電圧)を答えてしまう。
- 対策: 必ずアース(接地)マークを探し、そこを \(0\,\text{V}\) と書き込みます。そこから「上がる」「下がる」を意識して計算しましょう。点Pの電位は「アースからPまでの高さ」です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(\(Q=CV\) と等電位):
- 選定理由: 電流が流れない静的な状態なので、オームの法則よりも「導体は等電位」という静電場の性質が支配的です。
- 適用根拠: 抵抗に電流が流れないため \(V=RI=0\) となり、抵抗の両端が等電位になります。これにより、コンデンサーの電圧が電池の電圧 \(E\) と等しくなることが論理的に導かれます。
- 問(2)での公式選択(分圧の法則と並列接続):
- 選定理由: 抵抗に定常電流が流れる動的な状態なので、オームの法則(分圧の法則)が主役になります。
- 適用根拠: スイッチを閉じることで \(R_1\) と \(R_2\) が一本の道(直列)になり、コンデンサーはそれぞれの抵抗に対して並列(電圧が共通)な配置になります。並列接続の特徴である「電圧が等しい」という性質を利用するのが最も効率的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認:
- 答えが分数の形になったとき、分母と分子の抵抗 \(R\) の次数を確認しましょう。例えば電圧なら \(\frac{R}{R+R}E\) で抵抗の次元がキャンセルされて電圧の次元が残ります。もし \(\frac{R^2}{R+R}E\) なら次元がおかしい(電圧×抵抗になってしまう)のでミスに気づけます。
- 極端な値での検算:
- \(R_1=0\) や \(R_2=0\) と置いたときに、物理的にあり得る結果になるか確認します。例えば \(R_1=0\) なら \(C_1\) は短絡されて \(Q_1=0\) になるはずです。計算結果の式に代入して整合性を確かめる癖をつけましょう。
発展例題42 コンデンサーを含む複雑な回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 電位を未知数とする解法(ノード解析)
- 模範解答が各コンデンサーの電気量 \(q_1, q_2, q_3\) を未知数として連立方程式を立てるのに対し、別解では点Dの電位 \(V_D\) を未知数として方程式を立てます。
- 設問(2)の別解: 電位を未知数とする解法(ノード解析)
- 上記の別解が有益である理由
- 未知数の削減: 模範解答では3つの未知数(\(q_1, q_2, q_3\))を扱いますが、電位法では未知数が \(V_D\) の1つだけで済み、計算が大幅に簡略化されます。
- 汎用性の高さ: 複雑な回路網において、接続点(ノード)の電位に着目する手法は非常に強力で一般的です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ブリッジ回路を含む複雑なコンデンサー回路の定常状態解析」です。一見複雑に見える回路でも、定常状態における電流の経路と、孤立部分における電気量保存則に着目することで解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定常状態のコンデンサー: 十分に時間が経過すると充電が完了し、コンデンサーを含む枝には電流が流れません。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の和と電圧降下の和は等しくなります。
- 電気量保存則: 導線でつながれた孤立部分(他の部分と電荷のやり取りがない部分)では、電荷の総和は保存されます。
- 電位の概念: 回路の各点の電位を定義することで、電圧(電位差)を明確に扱えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、定常状態において電流が流れる経路を特定し、オームの法則を用いて電流を求めます。コンデンサーがある枝は断線とみなせるため、電流は抵抗のみを含む経路を流れます。
- (2)では、点Dを含む孤立部分に着目し、電気量保存則の式を立てます。さらに、閉回路における電圧の関係式(キルヒホッフの法則)を立て、これらを連立させて各コンデンサーの電気量を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
十分に時間が経過した定常状態では、コンデンサー \(C_1, C_2, C_3\) には電流が流れません。したがって、電流が流れるのは電池 \(E\) \(\to\) 点A \(\to\) 抵抗 \(R_1\) \(\to\) 点C \(\to\) 抵抗 \(R_2\) \(\to\) 点B \(\to\) 電池 \(E\) という経路のみです。この経路は単純な直列回路とみなせます。
この設問における重要なポイント
- 定常状態ではコンデンサーを含む枝(AD間, DB間, CD間)に電流は流れない。
- 抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) は直列に接続されているとみなせる。
- オームの法則 \(V=RI\) を適用する。
具体的な解説と立式
抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) を流れる電流を \(I\) とします。
回路全体の合成抵抗 \(R\) は、直列接続なので
$$
\begin{aligned}
R &= R_1 + R_2
\end{aligned}
$$
オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{E}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\)
- 直列回路の合成抵抗: \(R = R_1 + R_2\)
与えられた数値を代入します。\(E = 9.0\,\text{V}\), \(R_1 = 2.0\,\text{k}\Omega = 2.0 \times 10^3\,\Omega\), \(R_2 = 3.0\,\text{k}\Omega = 3.0 \times 10^3\,\Omega\) です。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{9.0}{(2.0 \times 10^3) + (3.0 \times 10^3)} \\[2.0ex]
&= \frac{9.0}{5.0 \times 10^3} \\[2.0ex]
&= 1.8 \times 10^{-3}\,\text{A}
\end{aligned}
$$
単位を \(\text{mA}\) に変換します。
$$
\begin{aligned}
1.8 \times 10^{-3}\,\text{A} &= 1.8\,\text{mA}
\end{aligned}
$$
時間が経つとコンデンサーは電気で満タンになり、もう電気を通さなくなります。すると、電気の通り道は抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) を通る一本道だけになります。この一本道の合計の抵抗値で電池の電圧を割れば、流れる電流が求まります。
答えは \(1.8\,\text{mA}\) です。
電圧 \(9.0\,\text{V}\) に対して抵抗が \(5.0\,\text{k}\Omega\) なので、電流が \(\text{mA}\) オーダーになるのは妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
各コンデンサーのD側の極板の電荷を求めます。点Dに接続されている3つの極板(\(C_1\)の右側、\(C_2\)の左側、\(C_3\)の下側)は、他の部分から絶縁された「孤立部分」を形成しています。はじめ電荷がなかったことから、この部分の電荷の総和は常に \(0\) です(電気量保存則)。
また、各コンデンサーの電圧は、回路内の電位差によって決まります。
この設問における重要なポイント
- 電気量保存則: 点Dに集まる3つの極板の電荷の和は \(0\) である。
- 電位の関係:
- 点Aの電位を基準(\(9.0\,\text{V}\))とすると、点Bの電位は \(0\,\text{V}\)。
- 点Cの電位は、点Aから \(R_1\) での電圧降下分だけ下がった値。
- 点Dの電位は未知数だが、これを使って各コンデンサーの電圧を表せる。
具体的な解説と立式
模範解答のアプローチ(電荷を未知数とする方法)で解説します。
各コンデンサーに蓄えられる電気量の大きさを \(q_1, q_2, q_3\) とし、極板の符号を図のように仮定します。
- \(C_1\): A側 \(+q_1\), D側 \(-q_1\)
- \(C_2\): D側 \(+q_2\), B側 \(-q_2\)
- \(C_3\): C側 \(+q_3\), D側 \(-q_3\)
- 電気量保存則: 点Dに接続された極板の電荷の和は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
-q_1 + q_2 – q_3 &= 0 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$ - キルヒホッフの第2法則(電圧の関係):
- 閉回路 A \(\to\) C \(\to\) D \(\to\) A について:
A \(\to\) C の電圧降下は \(R_1 I\)。
C \(\to\) D の電圧降下は \(q_3 / C_3\)。
D \(\to\) A の電位上昇は \(q_1 / C_1\)。
$$
\begin{aligned}
R_1 I + \frac{q_3}{C_3} – \frac{q_1}{C_1} &= 0 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$ - 閉回路 C \(\to\) B \(\to\) D \(\to\) C について:
C \(\to\) B の電圧降下は \(R_2 I\)。
B \(\to\) D の電位上昇は \(q_2 / C_2\)。
D \(\to\) C の電位上昇は \(q_3 / C_3\)。
$$
\begin{aligned}
R_2 I – \frac{q_2}{C_2} – \frac{q_3}{C_3} &= 0 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
- 閉回路 A \(\to\) C \(\to\) D \(\to\) A について:
使用した物理公式
- 電気量保存則: \((\text{電荷の総和}) = \text{一定}\)
- コンデンサーの電圧: \(V = \frac{Q}{C}\)
- キルヒホッフの第2法則: \((\text{電位変化の和}) = 0\)
既知の値を代入して連立方程式を解きます。
\(I = 1.8\,\text{mA}\), \(R_1 = 2.0\,\text{k}\Omega\), \(R_2 = 3.0\,\text{k}\Omega\)
\(C_1 = 1.0\,\mu\text{F}\), \(C_2 = 2.0\,\mu\text{F}\), \(C_3 = 3.0\,\mu\text{F}\)
単位に注意します(\(\text{k}\Omega \times \text{mA} = \text{V}\), \(\mu\text{F} \times \text{V} = \mu\text{C}\) なので、\(q\) を \(\mu\text{C}\) 単位で計算すれば数値のみで扱えます)。
式②より:
$$
\begin{aligned}
2.0 \times 1.8 + \frac{q_3}{3.0} – \frac{q_1}{1.0} &= 0 \\[2.0ex]
3.6 + \frac{q_3}{3.0} – q_1 &= 0 \\[2.0ex]
10.8 + q_3 – 3.0q_1 &= 0 \quad (\text{全体を3倍}) \\[2.0ex]
3.0q_1 – q_3 &= 10.8 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
式③より:
$$
\begin{aligned}
3.0 \times 1.8 – \frac{q_2}{2.0} – \frac{q_3}{3.0} &= 0 \\[2.0ex]
5.4 – \frac{q_2}{2.0} – \frac{q_3}{3.0} &= 0 \\[2.0ex]
32.4 – 3.0q_2 – 2.0q_3 &= 0 \quad (\text{全体を6倍}) \\[2.0ex]
3.0q_2 + 2.0q_3 &= 32.4 \quad \cdots ③’
\end{aligned}
$$
式①より \(q_2 = q_1 + q_3\) を式③’に代入:
$$
\begin{aligned}
3.0(q_1 + q_3) + 2.0q_3 &= 32.4 \\[2.0ex]
3.0q_1 + 5.0q_3 &= 32.4 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
式②’と式④を連立:
②’より \(3.0q_1 = q_3 + 10.8\)。これを④に代入。
$$
\begin{aligned}
(q_3 + 10.8) + 5.0q_3 &= 32.4 \\[2.0ex]
6.0q_3 &= 21.6 \\[2.0ex]
q_3 &= 3.6\,\mu\text{C}
\end{aligned}
$$
\(q_1\) を求める:
$$
\begin{aligned}
3.0q_1 &= 3.6 + 10.8 \\[2.0ex]
3.0q_1 &= 14.4 \\[2.0ex]
q_1 &= 4.8\,\mu\text{C}
\end{aligned}
$$
\(q_2\) を求める:
$$
\begin{aligned}
q_2 &= 4.8 + 3.6 \\[2.0ex]
&= 8.4\,\mu\text{C}
\end{aligned}
$$
求めるのは「D側の極板の電荷」です。
- \(C_1\): D側は \(-q_1\) なので \(-4.8\,\mu\text{C}\)
- \(C_2\): D側は \(+q_2\) なので \(+8.4\,\mu\text{C}\)
- \(C_3\): D側は \(-q_3\) なので \(-3.6\,\mu\text{C}\)
点Dに集まっている3つのコンデンサーの極板は、どこにもつながっていない「離れ小島」のような場所です。最初は電気が空っぽだったので、あとから電気が移動してきても、合計の電気量はゼロのまま変わりません。このルール(電気量保存則)と、回路の電圧のルール(キルヒホッフの法則)を組み合わせて連立方程式を解くと、それぞれのコンデンサーに溜まった電気が求まります。
\(C_1: -4.8\,\mu\text{C}\), \(C_2: 8.4\,\mu\text{C}\), \(C_3: -3.6\,\mu\text{C}\)
保存則 \(-4.8 + 8.4 – 3.6 = 0\) が成り立っていることを確認できます。
思考の道筋とポイント
点Bの電位を \(0\,\text{V}\)(基準)とします。
点Aの電位は \(9.0\,\text{V}\) です。
点Cの電位 \(V_C\) は、\(R_1\) と \(R_2\) の分圧により求まります。
点Dの電位を \(x\,\text{[V]}\) と置き、点Dにおける電気量保存則の式を立てて \(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電位の基準: 点Bを \(0\,\text{V}\) とすると、点Aは \(9.0\,\text{V}\) となる。
- 分圧の法則: 点Cの電位は、\(R_1\) と \(R_2\) の抵抗比で決まる。
- 電気量保存則(電位法): 点Dに接続された極板の電荷の和は \(0\) である。電荷は \(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\) で表される。
具体的な解説と立式
- 各点の電位:
- \(V_B = 0\,\text{V}\)
- \(V_A = 9.0\,\text{V}\)
- \(V_C\): \(R_1\) と \(R_2\) の分圧により、
$$
\begin{aligned}
V_C &= 9.0 \times \frac{R_2}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
- 点Dにおける電気量保存則:
点Dの電位を \(x\) とします。
点Dに接続された各コンデンサーの極板の電荷の和は \(0\) です。
D側の極板の電荷 \(Q_D\) は、\(Q_D = C(V_D – V_{\text{反対側}})\) と表せます。
$$
\begin{aligned}
C_1(x – V_A) + C_2(x – V_B) + C_3(x – V_C) &= 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 分圧の法則: \(V_k = \frac{R_k}{R_{\text{全}}} V\)
- コンデンサーの電気量(電位差表示): \(Q = C(V_1 – V_2)\)
まず \(V_C\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_C &= 9.0 \times \frac{3.0}{2.0 + 3.0} \\[2.0ex]
&= 5.4\,\text{V}
\end{aligned}
$$
次に、保存則の式に値を代入して \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.0(x – 9.0) + 2.0(x – 0) + 3.0(x – 5.4) &= 0 \\[2.0ex]
(x – 9.0) + 2.0x + (3.0x – 16.2) &= 0 \\[2.0ex]
6.0x – 25.2 &= 0 \\[2.0ex]
6.0x &= 25.2 \\[2.0ex]
x &= 4.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
点Dの電位は \(4.2\,\text{V}\) です。
これを用いて各コンデンサーのD側の電荷を求めます。
- \(C_1\):
$$
\begin{aligned}
Q_{1D} &= C_1(x – V_A) \\[2.0ex]
&= 1.0 \times (4.2 – 9.0) \\[2.0ex]
&= -4.8\,\mu\text{C}
\end{aligned}
$$ - \(C_2\):
$$
\begin{aligned}
Q_{2D} &= C_2(x – V_B) \\[2.0ex]
&= 2.0 \times (4.2 – 0) \\[2.0ex]
&= +8.4\,\mu\text{C}
\end{aligned}
$$ - \(C_3\):
$$
\begin{aligned}
Q_{3D} &= C_3(x – V_C) \\[2.0ex]
&= 3.0 \times (4.2 – 5.4) \\[2.0ex]
&= -3.6\,\mu\text{C}
\end{aligned}
$$
回路のそれぞれの場所の「電気的な高さ(電位)」を考えます。点Aは \(9.0\,\text{V}\)、点Bは \(0\,\text{V}\) です。点Cは抵抗の比率で計算できて \(5.4\,\text{V}\) になります。点Dの高さだけが分からないので、これを \(x\) と置きます。点Dに集まる電気の合計がゼロになるというルールを使って方程式を立てると、\(x\) が求まります。高さが分かれば、それぞれのコンデンサーに溜まった電気もすぐに計算できます。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。未知数が \(x\) ひとつだけで済むため、計算量が圧倒的に少なく、ミスも起きにくい非常に効率的な方法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定常状態における電流経路の特定
- 核心: 直流回路において十分に時間が経過すると、コンデンサーは充電を完了して電流を通さなくなります。これにより、回路網の中で「電流が流れる経路(抵抗のみの経路)」と「電流が流れない経路(コンデンサーを含む経路)」が明確に分離されます。
- 理解のポイント:
- 回路の簡略化: コンデンサーがある枝を「断線」とみなすことで、複雑な回路図を単純な抵抗の直列・並列回路として捉え直すことができます。本問では、\(R_1\) と \(R_2\) の単純な直列回路が見えてきます。
- 孤立部分における電気量保存則
- 核心: コンデンサーの極板が導線で結ばれているものの、電源や他の回路部分とは絶縁されている(コンデンサーのギャップで隔てられている)領域を「孤立部分」と呼びます。この領域内の総電荷量は、外部からの流入出がないため常に一定(初期電荷の和に等しい)に保たれます。
- 理解のポイント:
- ノード方程式の立式: 点Dに接続された3つの極板の電荷の和が \(0\) であるという式(\(-q_1 + q_2 – q_3 = 0\))は、この問題を解くための決定的な条件式となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホイートストンブリッジ: 抵抗のみで構成されたブリッジ回路。検流計に電流が流れない条件(\(R_1 R_4 = R_2 R_3\))は、点Cと点Dの電位が等しいことと同義です。本問でも \(V_C = V_D\) ならば \(C_3\) の電荷は \(0\) になります。
- スイッチ切り替えを含む回路: スイッチを切り替えて回路構成が変わる問題でも、「孤立部分の電荷保存」は最強のツールです。スイッチ操作の前後で保存される領域を見つけることが鍵になります。
- 対称性のある回路: 立方体回路など、対称性が高い回路では、対称な点の電位が等しいことを利用して回路を簡略化したり、未知数を減らしたりできます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「孤立部分」を探せ: コンデンサーに挟まれた導線部分(島)を見つけたら、すぐに丸で囲んで「\(Q_{\text{total}} = \text{const}\)」と書き込みましょう。これが方程式の1つになります。
- 電位法(ノード解析)の検討: 未知の電荷 \(q_1, q_2, \dots\) を置くよりも、接続点の電位 \(V\) を未知数に置く方が、変数の数が減り計算が楽になるケースが多々あります。特に分岐が多い回路では有効です。
- 単位の省略: \(\mu\text{F}\), \(\text{k}\Omega\), \(\text{mA}\) などが使われている場合、\(10^{-6}\) などをいちいち書かずに、\(\mu\text{C}\) 単位で計算を進めるとミスが減ります。ただし、最終的な答えの単位には十分注意してください。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の符号の定義ミス:
- 誤解: 未知の電荷 \(q\) を置く際、適当に符号を決めてしまい、保存則の式(\(+q\) か \(-q\) か)と電圧の式(電位が上がるか下がるか)で整合性が取れなくなる。
- 対策: 図に必ず「\(+q\)」「\(-q\)」を書き込み、電位が高いと仮定した方をプラスにします。計算結果が負になれば、仮定と逆だったと解釈すればよいだけです。保存則の式を立てるときは、図に書いた符号をそのまま足し合わせます。
- キルヒホッフの法則の周回方向:
- 誤解: 閉回路を一周する際、電位の上がり下がりを逆にしてしまう。
- 対策: 「電流の向きに進むと抵抗で電位が下がる」「コンデンサーの \(+\) から \(-\) へ進むと電位が下がる」というルールを徹底します。不安なら、別解のように「電位法」を使うと、符号ミスを大幅に減らせます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(オームの法則):
- 選定理由: 定常状態ではコンデンサーは無視でき、抵抗のみの回路となるため、最も基本的なオームの法則が適用できます。
- 適用根拠: 電流経路が一筆書きの直列回路になることが明確なので、合成抵抗 \(R_1+R_2\) を用いて一発で電流を求められます。
- 問(2)での公式選択(電気量保存則とキルヒホッフの法則):
- 選定理由: 未知数が複数ある連立方程式を立てる必要があります。回路網解析の基本セットである「電流則(ここでは電荷保存則)」と「電圧則(キルヒホッフ)」を組み合わせるのが定石です。
- 適用根拠: 点Dが孤立していることから保存則が、回路が閉ループを形成していることからキルヒホッフの法則が、それぞれ物理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の整理:
- \(3.0q_1 – q_3 = 10.8\) のように、変数を左辺、定数を右辺に寄せ、変数の順番(\(q_1, q_2, q_3\))を揃えて縦に並べて書くと、計算ミスを防ぎやすくなります。
- 検算の習慣:
- 求めた \(q_1, q_2, q_3\) を保存則の式(\(-q_1 + q_2 – q_3 = 0\))に代入して、ゼロになるか必ず確認しましょう。これが合っていれば、計算はほぼ間違いなく正解です。
- 電位法の活用:
- 別解で示した「電位法」は、連立方程式を解く手間を劇的に減らせます。検算用としてだけでなく、メインの解法としても使えるように練習しておくと、試験での強力な武器になります。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
発展問題
490 導体中の自由電子の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 運動方程式を用いた解法
- 模範解答がいきなり力のつりあいの式を立てるのに対し、別解では運動方程式を立て、加速度が \(0\) になる状態(終端速度)として一定の速さを導きます。
- 設問(6)の別解: 巨視的なエネルギー収支を用いた解法
- 模範解答が微視的な電子1個あたりの仕事から全体の熱量を計算するのに対し、別解では回路全体を流れる電荷量と電位差の関係から、巨視的にジュール熱を導きます。
- 設問(3)の別解: 運動方程式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: (3)において、力がつりあうまでの過渡的な状態(加速する段階)を意識することで、なぜ一定の速さになるのかという物理的理由が明確になります。
- 視点の多角化: (6)において、微視的(ミクロ)な視点と巨視的(マクロ)な視点の両方から同じ結論が得られることを確認でき、物理学の整合性を実感できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「自由電子モデルによるオームの法則とジュール熱の導出」です。金属などの導体中を流れる電流の正体が電子の移動であることを理解し、力学的な運動法則から電気回路の法則(オームの法則など)を導き出す、物理学における非常に重要な単元です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様電場と電位差の関係: 電位差 \(V\) と距離 \(L\) から、一様な電場の強さ \(E = V/L\) を求められること。
- 静電気力: 電場 \(E\) 中にある電荷 \(q\) が受ける力 \(F = qE\) を理解していること。
- 力のつりあい(終端速度): 電場による加速と抵抗力による減速が釣り合い、電子が等速運動すること。
- 電流の微視的定義: 電流 \(I\) が、単位時間に断面を通過する電荷の総量であることを理解し、\(I = envS\) の式を導けること。
- 仕事とエネルギー: 力が物体にする仕事がエネルギーの変化や熱の発生に対応することを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)~(3)では、導体内部の電場の様子と、個々の自由電子に働く力(静電気力と抵抗力)に着目し、力学的なつりあいの式から電子の速さ \(v\) を求めます。
- (4)~(5)では、求めた電子の速さ \(v\) を使って、導体全体を流れる電流 \(I\) を計算し、オームの法則 \(V=RI\) と比較することで、抵抗 \(R\) や抵抗率 \(\rho\) を物理定数(\(e, n, k\) など)で表します。
- (6)では、電子が受ける仕事と発生する熱の関係を考察します。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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