問題25 斜面上の物体の運動 (名城大 改)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
- 模範解答が等加速度運動の公式を用いるのに対し、別解では保存力のみが仕事をする系であることに着目し、エネルギー保存則を用いて速さを求めます。
- 設問(7)の別解: 水平方向の運動量保存則を用いた解法
- 模範解答が相対運動の加速度から時間を媒介して距離を求めるのに対し、別解では水平方向に外力が働かないことに着目し、重心の運動(運動量保存則)から幾何学的に距離の関係を導きます。
- 設問(1)〜(7)の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 公式を前提とせず、運動方程式(微分方程式)を立式し、それを積分することで速度や変位を導出する原理的なアプローチをとります。
- 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- エネルギー保存則: 加速度や時間を経由せずに、始点と終点の状態だけで速さを求められるため、計算ミスを減らし、迅速に解答できます。
- 運動量保存則: 複雑な加速度の計算を回避し、質量と移動距離の比だけで答えを導けるため、検算としても非常に強力なツールとなります。
- 微積分の解法: 運動方程式から全ての運動が記述できるという物理学の基本原理を理解することで、応用力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面上の物体の運動」および「動く台の上での相対運動」です。
前半は台が固定された単純な斜面滑降問題ですが、後半は台も動くため、慣性力や作用・反作用を正しく考慮する必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 物体の運動を決定する基本法則 \(ma = F\) です。力の向きと加速度の向きを正しく対応させることが重要です。
- 慣性力: 加速している観測者から物体を見たときに現れる見かけの力です。観測者の加速度と逆向きに \(ma\) の大きさを持ちます。
- 作用・反作用の法則: 2つの物体が互いに及ぼし合う力は、大きさが等しく向きが逆になります。
- 相対運動: 動く台から見た物体の運動を考えることで、複雑な動きを単純化して扱います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、台が固定されているため、重力の斜面方向成分による等加速度運動として扱います。
- (3)〜(6)では、台も動くため、台と共に動く観測者(非慣性系)の視点から、慣性力を導入して力のつりあいや運動方程式を立てます。
- (7)では、相対的な変位と台の変位の関係を、等加速度運動の式を用いて導きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
台Pは固定されています。小物体Qにはたらく力を図示し、斜面に沿った方向の運動方程式を立てて加速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力の分解: 重力 \(mg\) を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
- 運動方向: Qは斜面に沿って下向きに滑り落ちます。この方向を正とします。
具体的な解説と立式
Qにはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、斜面からの垂直抗力 \(N\) です。
斜面に沿って下向きを正の向きとします。
重力 \(mg\) の斜面方向成分は \(mg \sin\theta\) です(図a参照)。
斜面に垂直な方向の力はつりあっていますが、加速するのは斜面方向のみです。
Qの加速度の大きさを \(a\) とし、斜面下向き方向の運動方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg \sin\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 力の分解(三角比)
上記の式から、両辺を \(m\) で割って \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= g \sin\theta
\end{aligned}
$$
滑り台を滑る子供と同じ状況です。摩擦がないので、滑り落ちる勢い(加速度)は、重力のうち斜面に沿った成分だけで決まります。質量 \(m\) が式から消えるため、重い物でも軽い物でも同じ加速度で滑り落ちることがわかります。
加速度は \(g \sin\theta\) です。
\(\theta=0\)(水平)なら \(a=0\)、\(\theta=90^\circ\)(垂直落下)なら \(a=g\) となり、直感と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
Qは初速度 \(0\) で一定の加速度 \(a = g \sin\theta\) で滑り降ります。距離 \(d\) だけ進んだときの速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 等加速度直線運動: 加速度が一定なので、等加速度運動の公式が使えます。時間は問われていないので、時間 \(t\) を含まない公式を選びます。
具体的な解説と立式
初速度 \(v_0 = 0\)、加速度 \(a = g \sin\theta\)、移動距離 \(x = d\) です。
求める速さを \(v\) とします。
等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用います。
$$
\begin{aligned}
v^2 – 0^2 &= 2 \cdot (g \sin\theta) \cdot d
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2gd \sin\theta \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2gd \sin\theta} \quad (v > 0 \text{より})
\end{aligned}
$$
一定のペースで加速しながら距離 \(d\) を進みました。「速さの2乗は、進んだ距離と加速度の2倍の積に等しい」という公式に当てはめるだけで答えが出ます。
速さは \(\sqrt{2gd \sin\theta}\) です。
距離 \(d\) が長いほど、角度 \(\theta\) が急なほど速くなるという結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
摩擦がないため、非保存力が仕事をしません。したがって、力学的エネルギー保存則が成立します。
高さの変化に着目して立式します。
この設問における重要なポイント
- 高さの減少: 斜面に沿って距離 \(d\) 滑り降りると、鉛直方向の高さは \(d \sin\theta\) だけ下がります。
具体的な解説と立式
滑り始める点を高さの基準(位置エネルギー \(0\))とし、下向きを負と考えるか、あるいは「減少した位置エネルギー = 増加した運動エネルギー」と考えます。ここでは後者で立式します。
高さの減少量は \(h = d \sin\theta\) です。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= mg(d \sin\theta)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + U_{\text{前}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
両辺を \(m\) で割り、2倍します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2gd \sin\theta \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2gd \sin\theta}
\end{aligned}
$$
滑り台を降りることで、位置エネルギーが運動エネルギーに変わりました。下がった高さ分だけスピードが出ます。
メインの解法と同じ結果が得られました。
思考の道筋とポイント
公式を暗記するのではなく、運動方程式を微分方程式として捉え、それを積分することで速度と位置を導出します。
具体的な解説と立式
斜面下向きを \(x\) 軸の正方向とし、原点をスタート地点 \(B\) とします。時刻 \(t=0\) で初速度 \(0\) です。
運動方程式は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2x}{dt^2} &= mg \sin\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式(微分形): \(m \frac{d^2x}{dt^2} = F\)
- 積分の基本公式
両辺を \(m\) で割り、\(t\) で積分して速度 \(v = \frac{dx}{dt}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{d^2x}{dt^2} &= g \sin\theta \\[2.0ex]
v(t) &= \int (g \sin\theta) \, dt \\[2.0ex]
&= (g \sin\theta)t + C_1
\end{aligned}
$$
初期条件 \(t=0\) で \(v=0\) より、積分定数 \(C_1 = 0\) です。
よって、加速度の大きさは \(a = g \sin\theta\) です(問1の答え)。
さらに \(t\) で積分して位置 \(x(t)\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= \int (g \sin\theta)t \, dt \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(g \sin\theta)t^2 + C_2
\end{aligned}
$$
初期条件 \(t=0\) で \(x=0\) より、積分定数 \(C_2 = 0\) です。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= \frac{1}{2}(g \sin\theta)t^2
\end{aligned}
$$
問(2)では \(x(t) = d\) となる時刻 \(t_1\) における速度 \(v(t_1)\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{1}{2}(g \sin\theta)t_1^2
\end{aligned}
$$
これを \(t_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \sqrt{\frac{2d}{g \sin\theta}}
\end{aligned}
$$
これを速度の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v(t_1) &= (g \sin\theta) \cdot \sqrt{\frac{2d}{g \sin\theta}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2d(g \sin\theta)^2}{g \sin\theta}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gd \sin\theta}
\end{aligned}
$$
「力」から「加速度」が決まり、それを積み重ねて(積分して)「速度」になり、さらに積み重ねて「位置」になるという物理の基本構造をたどりました。
問(1)(2)と同じ結果が導かれました。
問(3)
思考の道筋とポイント
ブロックを外すと、台Pは動けるようになります。Pがどちらに動くかを考えるには、Pにはたらく水平方向の力を調べる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 作用・反作用: QはPから垂直抗力 \(N\)(斜面垂直上向き)を受けます。逆に、PはQから反作用 \(N’\)(斜面垂直下向き)を受けます。
- 力の水平成分: Pにはたらく力のうち、水平方向の成分を持つのはこの反作用 \(N’\) だけです。
具体的な解説と立式
Qが斜面から受ける垂直抗力 \(N\) は、斜面に垂直で、かつQを押し上げる向き(右上向き)となります。
作用・反作用の法則により、台PがQから受ける力(垂直抗力の反作用)は、これと逆向き(左下向き)になります。
この反作用の水平成分は左向きとなります。
Pにはたらく他の力(重力 \(Mg\)、床からの垂直抗力 \(R\))はすべて鉛直方向なので、水平方向にはこの力だけがはたらきます。
力が左向きなので、加速度 \(A\) も左向きになります。
使用した物理公式
- 作用・反作用の法則
- 運動の第2法則(力と加速度の向きは一致する)
計算は不要で、力の向きの判断のみです。
反作用は左下向き \(\rightarrow\) 水平成分は左向き \(\rightarrow\) 加速度は左向き。
Qが斜面を押す力(垂直抗力の反作用)をイメージしてください。Qは斜面を滑り落ちながら、台Pを「左下」に押します。この「左下」に押す力のうち、「下」へ押す分は床が支えてくれますが、「左」へ押す分によって台Pは左へ動き出します。
Pは左向きの力を受けるため、左向きに加速します。
問(4)
思考の道筋とポイント
Pの水平方向の運動方程式を立てます。問(3)で確認した通り、加速度 \(A\) は左向きです。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 加速度 \(A\) の向き(左向き)を正とします。
- 水平方向の力: Pにはたらく水平方向の力は、Qからの垂直抗力の反作用の水平成分 \(N \sin\theta\) のみです。
具体的な解説と立式
Pの質量は \(M\)、加速度は \(A\)(左向き正)です。
はたらく力は、左向きに \(N \sin\theta\) です(反作用 \(N\) の水平成分)。
運動方程式(左向き正)を立てます。
$$
\begin{aligned}
MA &= N \sin\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
立式のみが求められています。
台Pを左に押しているのは、小物体Qが斜面を押す力の「横成分」だけです。これによって台Pは加速します。
質量 \(\times\) 加速度 \(=\) 力 という基本的な形になっています。次元も合っています。
問(5)
思考の道筋とポイント
加速度 \(A\) で運動している台Pに乗った観測者から、小物体Qの運動を見ます。
加速している乗り物の中から外を見ると、進行方向と逆向きに「慣性力」がはたらいているように見えます。
この設問における重要なポイント
- 慣性力の向きと大きさ: 観測者の加速度ベクトル \(\vec{A}\) と逆向きに、大きさ \(m|\vec{A}|\) の力が加わります。
- 相対的な運動: Pから見ると、Qは斜面に沿って滑り降りる運動をしています。つまり、斜面に垂直な方向には動いていません(相対速度0、相対加速度0)。
具体的な解説と立式
(a) 慣性力の向き
観測者(台P)の加速度 \(A\) は「左向き」です。
したがって、慣性力は逆の「右向き」にはたらきます。
(b) 慣性力の大きさ
Qの質量は \(m\)、台Pの加速度の大きさは \(A\) なので、慣性力の大きさは \(mA\) です。
(c) 斜面に垂直な方向の運動方程式
Pから見たQにはたらく力は以下の3つです(図c参照)。
1. 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
2. 垂直抗力 \(N\)(斜面垂直上向き)
3. 慣性力 \(mA\)(水平右向き)
斜面に垂直な方向(上向き正)について考えます。
Qは斜面に沿って動くので、この方向の加速度は \(0\) です。
力の成分を分解します。
- 垂直抗力: \(+N\)
- 慣性力 \(mA\) の斜面垂直成分: 図cより、角度 \(\theta\) をなすので \(+mA \sin\theta\)(上向き成分)
- 重力 \(mg\) の斜面垂直成分: \(-mg \cos\theta\)(下向き成分)
運動方程式の形式 \(m \cdot 0 = (\text{力の和})\) で記述します。
$$
\begin{aligned}
m \cdot 0 &= N + mA \sin\theta – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 慣性力の定義
- 力の分解とつりあい
(c)の式は、問題文の要求「運動方程式を記せ」に従い、質量 \(\times\) 加速度 \(=\) 力 の形で答えるのが適切です。
$$
\begin{aligned}
m \cdot 0 &= N + mA \sin\theta – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
電車が急発進すると体が後ろに持っていかれるのと同じで、左に加速する台の上の物体は、右向きに慣性力を受けます。
台の上から見ると、物体は斜面から浮き上がったりめり込んだりしないので、斜面に垂直な方向の力は、この慣性力も含めてぴったりバランスが取れています。
慣性力 \(mA\) が加わることで、垂直抗力 \(N\) は静止している時(\(mg \cos\theta\))よりも小さくなることが式から予想されます(\(N = mg \cos\theta – mA \sin\theta\))。台が逃げていく分、支える力が弱くなるイメージと合致します。
問(6)
思考の道筋とポイント
問(4)の式と問(5)(c)の式は、未知数 \(A\) と \(N\) を含む連立方程式になっています。これを解いて \(A\) と \(N\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式の解法: \(N\) を消去して \(A\) を求めるか、その逆の手順で行います。
具体的な解説と立式
以下の2式を連立します。
$$
\begin{aligned}
MA &= N \sin\theta \quad \cdots ① \\[2.0ex]
N + mA \sin\theta – mg \cos\theta &= 0 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 連立方程式の解法
式①より、\(N\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{MA}{\sin\theta} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
これを式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{MA}{\sin\theta} + mA \sin\theta – mg \cos\theta &= 0
\end{aligned}
$$
全体に \(\sin\theta\) を掛けて分母を払います。
$$
\begin{aligned}
MA + mA \sin^2\theta – mg \sin\theta \cos\theta &= 0 \\[2.0ex]
A(M + m \sin^2\theta) &= mg \sin\theta \cos\theta \\[2.0ex]
A &= \frac{mg \sin\theta \cos\theta}{M + m \sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
求めた \(A\) を式③に代入して \(N\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{M}{\sin\theta} \cdot \frac{mg \sin\theta \cos\theta}{M + m \sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{Mmg \cos\theta}{M + m \sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
2つの式からパズルのように文字を消去して答えを出しました。
分母の \(M + m \sin^2\theta\) は、このシステム全体の「動きにくさ(有効質量)」のようなものを表しています。
\(A\) も \(N\) も正の値となり、物理的に意味のある解です。
もし \(M \to \infty\)(台が非常に重い)とすると、\(A \to 0\)、\(N \to mg \cos\theta\) となり、台が固定された場合の結果に収束します。これは正しい振る舞いです。
問(7)
思考の道筋とポイント
Qが斜面上を距離 \(l\) 滑る間に、Pが水平方向に距離 \(L\) 移動しました。
Pから見たQの運動(相対運動)と、床から見たPの運動を比較します。共通項である「時間 \(t\)」を媒介にして関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 相対加速度: Pから見たQの斜面方向の運動方程式を立て、相対加速度 \(a’\) を求めます。
- 等加速度運動の式: PもQ(相対)も初速度0の等加速度運動なので、距離は \(\frac{1}{2}at^2\) で表せます。
具体的な解説と立式
まず、Pから見たQの斜面下向きの運動方程式を立て、相対加速度 \(a’\) を求めます。
斜面方向にはたらく力は、重力の成分 \(mg \sin\theta\) と、慣性力の成分 \(mA \cos\theta\)(図cより右向きの力 \(mA\) の斜面成分)です。
$$
\begin{aligned}
ma’ &= mg \sin\theta + mA \cos\theta
\end{aligned}
$$
Qはこの加速度 \(a’\) で距離 \(l\) を滑ります。滑る時間を \(t\) とすると、
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{1}{2} a’ t^2 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
一方、台Pは加速度 \(A\) で距離 \(L\) を移動します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{1}{2} A t^2 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 相対運動の運動方程式
- 等加速度直線運動の公式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
まず、相対加速度 \(a’\) を \(A\) を用いて表します。
$$
\begin{aligned}
a’ &= g \sin\theta + A \cos\theta
\end{aligned}
$$
次に、式④と式⑤から \(t^2\) を消去します。
式⑤より \(t^2 = \frac{2L}{A}\)。これを式④に代入します。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{1}{2} a’ \left( \frac{2L}{A} \right) \\[2.0ex]
l &= \frac{a’}{A} L \\[2.0ex]
L &= \frac{A}{a’} l
\end{aligned}
$$
ここで \(a’ = g \sin\theta + A \cos\theta\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{A}{g \sin\theta + A \cos\theta} l
\end{aligned}
$$
この式に、問(6)で求めた \(A = \frac{mg \sin\theta \cos\theta}{M + m \sin^2\theta}\) を代入して整理します。
逆数 \(\frac{l}{L} = \frac{g \sin\theta}{A} + \cos\theta\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{g \sin\theta}{A} &= g \sin\theta \cdot \frac{M + m \sin^2\theta}{mg \sin\theta \cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{M + m \sin^2\theta}{m \cos\theta}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
\frac{l}{L} &= \frac{M + m \sin^2\theta}{m \cos\theta} + \cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{M + m \sin^2\theta + m \cos^2\theta}{m \cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{M + m(\sin^2\theta + \cos^2\theta)}{m \cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{M + m}{m \cos\theta}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{m \cos\theta}{M + m} l
\end{aligned}
$$
台Pと小物体Qは、よーいドンで同時に動き出し、同じ時間だけ動きました。
進んだ距離の比は、加速度の比と同じになります。それぞれの加速度を計算して比をとることで、距離の関係式を導きました。
\(L = \frac{m \cos\theta}{M + m} l\) です。
\(M\) が非常に大きいとき \(L \to 0\)(台は動かない)、\(m\) が非常に大きいとき \(L \approx l \cos\theta\)(台が軽くQに押されて大きく動く)となり、妥当です。
思考の道筋とポイント
水平方向には外力がはたらいていません(床はなめらか)。したがって、PとQからなる系の水平方向の運動量は保存されます。
初速度が0なので、これは「重心の水平位置が変化しない」ことを意味します。
この設問における重要なポイント
- 重心不動: \(m \Delta x + M \Delta X = 0\) (変位の重み付き和が0)
- 変位の幾何学的関係: Qが斜面上を \(l\) 滑り降りたとき、Qの水平変位は、台に対する変位と台自体の変位の和になります。
具体的な解説と立式
台Pは左に \(L\) 動きました。これを \(X = -L\) とします。
Qは台の上を斜面に沿って \(l\) 滑り降りました。
Qの台に対する水平変位は \(l \cos\theta\)(右向き)です。
床から見たQの水平変位 \(x\) は、「台の変位」+「台に対する変位」なので、
$$
\begin{aligned}
x &= -L + l \cos\theta
\end{aligned}
$$
水平方向の運動量保存則(重心不動の式)より、
$$
\begin{aligned}
m x + M X &= 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動量保存則(重心の保存): \(m_1 \Delta x_1 + m_2 \Delta x_2 = 0\)
変位を代入します。
$$
\begin{aligned}
m(-L + l \cos\theta) + M(-L) &= 0 \\[2.0ex]
-mL + ml \cos\theta – ML &= 0 \\[2.0ex]
(M + m)L &= ml \cos\theta \\[2.0ex]
L &= \frac{m \cos\theta}{M + m} l
\end{aligned}
$$
外から力が加わらない限り、全体の重心の位置は変わりません。
台が左に動いた分と、小物体が右に動いた分のバランスが取れているはずです。このバランスの式を作ると、面倒な加速度の計算を一切せずに、一瞬で距離の関係が求まります。
メインの解法と全く同じ結果が、はるかに少ない計算量で得られました。
思考の道筋とポイント
後半の(3)〜(7)の運動を、運動方程式(微分方程式)から一括して解きます。
特に(7)の結果は、加速度が一定であれば、変位の比が加速度の比になるという積分計算の結果として自然に導かれます。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) で静止していた状態からスタートします。
台Pの床に対する位置座標を \(X(t)\)(左向き正)、Qの台Pに対する斜面に沿った位置座標を \(x'(t)\)(斜面下向き正)と定義します。
それぞれの運動方程式は以下の通りです。
1. 台Pの運動方程式(水平方向):
$$
\begin{aligned}
M \frac{d^2X}{dt^2} &= N \sin\theta
\end{aligned}
$$
2. Qの相対運動方程式(斜面方向):
慣性力 \(m \frac{d^2X}{dt^2}\)(右向き)の斜面成分 \(m \frac{d^2X}{dt^2} \cos\theta\) が加わるため、
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2x’}{dt^2} &= mg \sin\theta + m \frac{d^2X}{dt^2} \cos\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式(微分形)
- 相対運動の記述
まず、台Pの加速度 \(A = \frac{d^2X}{dt^2}\) は定数(\(N\)が一定のため)なので、これを2回積分して位置 \(X(t)\) を求めます。初速0、初期位置0より、
$$
\begin{aligned}
X(t) &= \frac{1}{2} A t^2
\end{aligned}
$$
次に、Qの相対加速度 \(a’ = \frac{d^2x’}{dt^2}\) も定数(右辺がすべて定数)なので、同様に積分します。
$$
\begin{aligned}
x'(t) &= \frac{1}{2} a’ t^2
\end{aligned}
$$
ここで、\(t\) が共通であることに着目し、\(X(t)\) と \(x'(t)\) の比をとります。
$$
\begin{aligned}
\frac{X(t)}{x'(t)} &= \frac{\frac{1}{2} A t^2}{\frac{1}{2} a’ t^2} \\[2.0ex]
&= \frac{A}{a’}
\end{aligned}
$$
問(7)の設定では、\(X(t) = L\)、\(x'(t) = l\) なので、
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{A}{a’} l
\end{aligned}
$$
これはメイン解法で導いた式そのものです。
ここから先はメイン解法と同様に \(A\) と \(a’\) の具体的な式を代入して計算します。
運動方程式からスタートすれば、位置 \(X\) や \(x’\) が時間の2乗に比例すること(\(\frac{1}{2}at^2\))が数学的に保証されます。
そのため、どんな時刻であっても「進んだ距離の比」は「加速度の比」と等しくなることが、積分の計算から明らかになります。
微積分を用いることで、等加速度運動の公式の起源を確認しつつ、変位の関係式をシステマチックに導くことができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力と非慣性系での運動記述
- 核心: 加速している台(非慣性系)から物体を観測する場合、観測者の加速度と逆向きに「慣性力 \(ma\)」を導入することで、ニュートンの運動方程式がそのまま成立します。
- 理解のポイント:
- 慣性力は「見かけの力」ですが、立式においては重力などと同様に実在する力として扱います。
- 観測者の加速度の向きを正確に把握し、その逆向きに慣性力を設定することが絶対条件です。
- 作用・反作用の法則と運動の連動性
- 核心: 物体Qが台Pを押す力(垂直抗力の反作用)が台Pを加速させ、その台Pの加速がQに慣性力を及ぼし、さらにその慣性力が垂直抗力を変化させるという、相互依存的な関係がこの問題の本質です。
- 理解のポイント:
- 「台は固定されている」という先入観を捨て、物体間の力のやり取りを正確に図示する必要があります。
- 特に、垂直抗力の反作用が台を動かす唯一の水平方向の力であることを理解しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 動く台上のばね振り子: 斜面上の物体がばねに接続されている場合、慣性力を考慮して力のつりあいの位置(振動中心)のズレを計算する問題に応用できます。
- エレベーター内の運動: 鉛直方向に加速する箱の中での運動も、慣性力(見かけの重力加速度の変化)として統一的に処理できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 観測者の設定: 「床から見る(慣性系)」か「動く台から見る(非慣性系)」かを最初に決定します。束縛条件(斜面に沿って動くなど)がある場合は、台から見る方が相対変位が単純になり有利です。
- 水平方向の保存則の確認: 水平方向に外力が働かない系(床がなめらかなど)では、運動量保存則(重心不動)が成立します。これを利用すれば、複雑な加速度計算をスキップして変位の関係を導けます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 垂直抗力の反作用の向きの誤認:
- 誤解: 図の見た目や直感で、垂直抗力の反作用の向きをあいまいに捉え、その水平成分(台を動かす力)の向きを逆にしてしまう。
- 対策: 必ず以下の手順を踏んでください。①Qが受ける垂直抗力 \(N\) を描く(斜面に対して垂直上向き)。②その真逆の向きに反作用 \(N’\) を描く。③その \(N’\) を水平・鉛直に分解し、水平成分の向きを確認する。
- 垂直抗力の大きさの固定観念:
- 誤解: 斜面上の物体だから \(N = mg \cos\theta\) であると決めつけ、慣性力の影響を無視してしまう。
- 対策: 台が加速している場合、慣性力の斜面垂直成分が垂直抗力に影響を与えます。必ず斜面垂直方向の力のつりあい(または運動方程式)を立式し、計算によって \(N\) を求めてください。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(7)での公式選択(相対運動方程式 vs 運動量保存則):
- 選定理由: メイン解説では、設問の流れ(加速度 \(A\) を求めた後)に沿って相対運動の式を用いました。これは論理の飛躍がなく丁寧な解法です。一方、別解の運動量保存則は、\(A\) や \(N\) を求めていなくても独立して答えが出せるため、入試実戦では計算時間を大幅に短縮できる強力な武器になります。
- 適用根拠: 水平方向の外力がゼロであること(床がなめらか)が、運動量保存則適用の絶対条件です。
- 問(2)での公式選択(等加速度運動の公式 vs エネルギー保存則):
- 選定理由: 時間 \(t\) が問われていないため、エネルギー保存則を用いる方が計算ステップが少なく、ミスを減らせます。
- 適用根拠: 摩擦がなく、非保存力が仕事をしない系であるため、力学的エネルギー保存則が成立します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 次元解析(ディメンションチェック):
- 意識: 導出した文字式の単位が正しいか常に確認する習慣を持ちます。
- 実践: 例えば \(A = \frac{mg \sin\theta \cos\theta}{M + m \sin^2\theta}\) の場合、分母は質量 \([M]\)、分子は力 \([MLT^{-2}]\) なので、全体として加速度 \([LT^{-2}]\) の次元になっており、正しい可能性が高いと判断できます。
- 極限的なケースでの検算:
- 意識: 「もし質量が極端に大きかったら?」「角度が0だったら?」といった極限状態を想定します。
- 実践: \(M \to \infty\) (台が動かない)とした場合、\(A \to 0\) となり、\(N \to mg \cos\theta\) となるか確認します。これにより、式の形が物理的に妥当かどうかを瞬時に判定できます。
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問題26 斜面をもつ台と小球の運動 (23 北海道大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解1: 保存則(運動量保存則・力学的エネルギー保存則)を用いた解法
- 模範解答が加速度 \(\alpha, \beta\) を求めてから等加速度運動の公式で高さを導出するのに対し、別解1では「水平方向の運動量保存則」と「力学的エネルギー保存則」を用いて、加速度を計算せずに直接最高点の高さを求めます。
- 設問(1)(2)の別解2: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 等加速度運動の公式 \(v=v_0+at\) や \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を既知とせず、運動方程式(微分方程式)を積分することで速度と位置を導出する原理的なアプローチをとります。
- 設問(2)の別解1: 保存則(運動量保存則・力学的エネルギー保存則)を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 保存則の解法: 複雑な連立方程式や加速度の計算を回避でき、計算ミスを減らせるだけでなく、現象の全体像(保存量)を把握する洞察力を養います。特に本問のような「最高点の高さ」を問う問題では最強の時短テクニックとなります。
- 微積分の解法: 公式の暗記に頼らず、ニュートンの運動法則から全ての運動を記述できるという物理学の体系的な理解を深めます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面をもつ台と小球の相互作用(慣性力と保存則)」です。台が固定されている場合と自由に動く場合を比較し、運動方程式や保存則を適切に使い分ける力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦や非保存力が仕事をしない場合、運動エネルギーと位置エネルギー(重力・弾性)の総和は保存されます。
- 慣性力: 加速している観測者(非慣性系)から見ると、物体には観測者の加速度と逆向きに \(ma\) の見かけの力がはたらきます。
- 運動量保存則: 水平方向に外力がはたらかない系では、水平方向の運動量の総和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、台が固定されているため、単純なエネルギー保存則と斜面上の等加速度運動として処理します。
- (2)では、台が動くため、台と共に動く観測者から見た運動方程式(慣性力を考慮)を立てて加速度を求めます。
- (2)の後半では、相対加速度を用いた等加速度運動の式から最高点の高さを導きます(別解として保存則も有効です)。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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