基本例題
基本例題85 原子核の放射性崩壊
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 連立方程式を用いた解法
- 模範解答が「質量数の変化から先に\(\alpha\)崩壊の回数を決定し、その後に原子番号の変化から\(\beta\)崩壊の回数を求める」という段階的な推論を行っているのに対し、別解では\(\alpha\)崩壊の回数を \(x\)、\(\beta\)崩壊の回数を \(y\) とおき、質量数と原子番号に関する連立方程式を立てて数学的に解きます。
- 設問(3)の別解: 連立方程式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 汎用性の高さ: 崩壊の順序や過程が複雑であっても、反応の最初と最後さえ分かれば、保存則に基づいて機械的に解くことができます。
- 思考の整理: 「質量数が変わるのは\(\alpha\)崩壊だけ」という物理的な洞察を忘れてしまっても、保存則という基本原理さえ覚えていれば確実に正解にたどり着けます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「原子核の放射性崩壊と保存則」です。不安定な原子核が放射線を出して別の原子核に変わる現象を、数合わせのパズルのように解いていく問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量数保存の法則: 反応の前後で、質量数(陽子の数+中性子の数、元素記号の左上の数字)の総和は変化しません。
- 電荷数(原子番号)保存の法則: 反応の前後で、電荷数(原子番号、元素記号の左下の数字)の総和は変化しません。
- \(\alpha\)(アルファ)崩壊: 原子核がヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) を放出し、質量数が \(4\) 減り、原子番号が \(2\) 減ります。
- \(\beta\)(ベータ)崩壊: 原子核中の中性子が陽子と電子に変わり、電子 \({}_{-1}^{0}\text{e}\) を放出します。質量数は変わらず、原子番号が \(1\) 増えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、崩壊の定義に従って反応式を書き、左辺と右辺で質量数と原子番号の合計が等しくなるように未知の数値を求めます。
- (3)では、質量数を変化させるのは \(\alpha\)崩壊だけであることに着目してまず \(\alpha\)崩壊の回数を求め、次に原子番号の変化から \(\beta\)崩壊の回数を決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
ウラン \({}_{92}^{238}\text{U}\) が \(\alpha\)崩壊を起こすと、\(\alpha\)粒子(ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\))が飛び出します。
反応前後の「質量数の総和」と「原子番号の総和」が等しくなることを利用して、生成されるトリウム \(\text{Th}\) の質量数と原子番号を求めます。
この設問における重要なポイント
- \(\alpha\)粒子は \({}_{2}^{4}\text{He}\) であること。
- 反応式の矢印 \(\rightarrow\) の左側(反応前)と右側(反応後)で、左上の数字の和と左下の数字の和がそれぞれ一致すること。
具体的な解説と立式
求めるトリウム \(\text{Th}\) の質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とします。
\(\alpha\)崩壊の反応式は以下のように表せます。
$$ {}_{92}^{238}\text{U} \rightarrow {}_{Z}^{A}\text{Th} + {}_{2}^{4}\text{He} $$
ここで、保存則に基づき等式を立てます。
質量数の保存(左上の数字):
$$ 238 = A + 4 $$
原子番号の保存(左下の数字):
$$ 92 = Z + 2 $$
使用した物理公式
- 質量数保存の法則
- 電荷数(原子番号)保存の法則
それぞれの式を計算します。
質量数 \(A\) について:
$$
\begin{aligned}
A &= 238 – 4 \\[2.0ex]
&= 234
\end{aligned}
$$
原子番号 \(Z\) について:
$$
\begin{aligned}
Z &= 92 – 2 \\[2.0ex]
&= 90
\end{aligned}
$$
「\(\alpha\)崩壊」というのは、原子核から「陽子2個と中性子2個の塊(ヘリウム原子核)」がごっそり抜け落ちる現象です。元のウランは、陽子と中性子を合わせて238個持っていましたが、4個の塊(\(\alpha\)粒子)を外に出したので、残りは234個になります。また、陽子(原子番号)は92個持っていましたが、2個外に出したので、残りは90個になります。これが新しい原子核(トリウム)の正体です。
原子番号は \(90\)、質量数は \(234\) です。
\(\alpha\)崩壊によって原子番号が2減り、質量数が4減るという定性的な性質とも一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
ビスマス \({}_{83}^{210}\text{Bi}\) が \(\beta\)崩壊を起こすと、\(\beta\)粒子(電子 \({}_{-1}^{0}\text{e}\))が飛び出します。
(1)と同様に、反応前後の保存則を利用して、生成されるポロニウム \(\text{Po}\) の数値を求めます。
この設問における重要なポイント
- \(\beta\)粒子は電子 \({}_{-1}^{0}\text{e}\) であること。
- 電子の質量数は \(0\)、電荷数は \(-1\) として扱うこと。
- 原子核の中で「中性子が陽子に変身して電子を出す」現象であるため、原子番号が1つ増えることに注意。
具体的な解説と立式
求めるポロニウム \(\text{Po}\) の質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とします。
\(\beta\)崩壊の反応式は以下のように表せます。
$$ {}_{83}^{210}\text{Bi} \rightarrow {}_{Z}^{A}\text{Po} + {}_{-1}^{0}\text{e} $$
保存則に基づき等式を立てます。
質量数の保存(左上の数字):
$$ 210 = A + 0 $$
原子番号の保存(左下の数字):
$$ 83 = Z + (-1) $$
使用した物理公式
- 質量数保存の法則
- 電荷数(原子番号)保存の法則
それぞれの式を計算します。
質量数 \(A\) について:
$$
\begin{aligned}
A &= 210 – 0 \\[2.0ex]
&= 210
\end{aligned}
$$
原子番号 \(Z\) について:
$$
\begin{aligned}
Z &= 83 – (-1) \\[2.0ex]
&= 83 + 1 \\[2.0ex]
&= 84
\end{aligned}
$$
「\(\beta\)崩壊」は、原子核の中にある「中性子」という粒が、突然「陽子」に変身し、その余波で「電子」を外に吐き出す現象です。中性子が陽子に変わっても、粒の合計数(質量数)は変わりません。だから質量数は210のままです。しかし、陽子が1個増えるので、原子番号(陽子の数)は83から84に増えます。吐き出された電子はマイナスの電気を持っているので、全体の電気の量(電荷)の辻褄も合っています(\(83 = 84 + (-1)\))。
原子番号は \(84\)、質量数は \(210\) です。
\(\beta\)崩壊によって原子番号が1増え、質量数は変化しないという定性的な性質と一致しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
ウラン \({}_{92}^{238}\text{U}\) が鉛 \({}_{82}^{206}\text{Pb}\) になるまでの間に、\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊が何回起こったかを求めます。
ポイントは、「質量数を変えるのは\(\alpha\)崩壊だけ」という点です。これを利用して、まず\(\alpha\)崩壊の回数を確定させます。
この設問における重要なポイント
- \(\alpha\)崩壊1回につき、質量数は \(-4\)、原子番号は \(-2\) 変化する。
- \(\beta\)崩壊1回につき、質量数は変化せず、原子番号は \(+1\) 変化する。
- 質量数の変化量から先に\(\alpha\)崩壊の回数を求める手順が効率的。
具体的な解説と立式
\(\alpha\)崩壊の回数を \(x\)、\(\beta\)崩壊の回数を \(y\) とします。
全体の反応における変化を考えます。
まず、質量数の変化に着目します。
質量数は \(238\) から \(206\) に変化しました。
質量数を変化させるのは\(\alpha\)崩壊(1回で \(-4\))だけなので、以下の式が成り立ちます。
$$ 238 – 4x = 206 $$
次に、原子番号の変化に着目します。
原子番号は \(92\) から \(82\) に変化しました。
\(\alpha\)崩壊で \(-2\)、\(\beta\)崩壊で \(+1\) 変化するので、以下の式が成り立ちます。
$$ 92 – 2x + 1y = 82 $$
使用した物理公式
- 質量数保存の法則
- 電荷数(原子番号)保存の法則
まず、質量数の式から \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
4x &= 238 – 206 \\[2.0ex]
4x &= 32 \\[2.0ex]
x &= 8
\end{aligned}
$$
よって、\(\alpha\)崩壊は \(8\) 回です。
次に、求めた \(x=8\) を原子番号の式に代入して \(y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
92 – 2 \times 8 + y &= 82 \\[2.0ex]
92 – 16 + y &= 82 \\[2.0ex]
76 + y &= 82 \\[2.0ex]
y &= 82 – 76 \\[2.0ex]
y &= 6
\end{aligned}
$$
よって、\(\beta\)崩壊は \(6\) 回です。
まず、体重(質量数)の変化を見ます。ウランは238kg、鉛は206kgだとしましょう。32kg減りました。ダイエット方法(崩壊)には2種類あります。「\(\alpha\)コース」は4kg痩せます。「\(\beta\)コース」は体重が変わりません。32kg痩せるには、「\(\alpha\)コース」を何回やればいいでしょうか? \(32 \div 4 = 8\) 回ですね。これで\(\alpha\)崩壊の回数が決まります。
次に、身分証明書の番号(原子番号)を見ます。最初は92番でした。「\(\alpha\)コース」を8回やると、番号は \(2 \times 8 = 16\) 番下がるので、本来なら \(92 – 16 = 76\) 番になるはずです。でも、最終的な鉛の番号は82番です。76番より6番増えていますね。番号を1つ増やすのが「\(\beta\)コース」の効果でした。つまり、「\(\beta\)コース」を6回やったことになります。
\(\alpha\)崩壊が \(8\) 回、\(\beta\)崩壊が \(6\) 回です。
質量数の減少分 \(32\) は全て\(\alpha\)崩壊によるもの(\(4 \times 8 = 32\))であり、原子番号の減少分 \(10\) は、\(\alpha\)崩壊による減少 \(16\) と\(\beta\)崩壊による増加 \(6\) の差し引き(\(-16 + 6 = -10\))で説明がつきます。
思考の道筋とポイント
模範解答では質量数の変化から順を追って考えましたが、最初から反応式全体を1つの等式として捉え、連立方程式を立てて解く方法もあります。この方法は、思考の順序を気にせず機械的に解ける利点があります。
この設問における重要なポイント
- 全体の反応式を \({}_{92}^{238}\text{U} \rightarrow {}_{82}^{206}\text{Pb} + x \cdot {}_{2}^{4}\text{He} + y \cdot {}_{-1}^{0}\text{e}\) と置くこと。
- 質量数と原子番号それぞれについて、左辺と右辺の和が等しいという式を立てること。
具体的な解説と立式
\(\alpha\)崩壊の回数を \(x\)、\(\beta\)崩壊の回数を \(y\) とおきます。
反応全体を表す式は以下のようになります。
$$ {}_{92}^{238}\text{U} \rightarrow {}_{82}^{206}\text{Pb} + x \cdot {}_{2}^{4}\text{He} + y \cdot {}_{-1}^{0}\text{e} $$
保存則より、以下の連立方程式が成り立ちます。
質量数の保存:
$$ 238 = 206 + 4x + 0y \quad \cdots ① $$
原子番号の保存:
$$ 92 = 82 + 2x + (-1)y \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量数保存の法則
- 電荷数(原子番号)保存の法則
式①より、
$$
\begin{aligned}
238 &= 206 + 4x \\[2.0ex]
4x &= 32 \\[2.0ex]
x &= 8
\end{aligned}
$$
求めた \(x=8\) を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
92 &= 82 + 2(8) – y \\[2.0ex]
92 &= 82 + 16 – y \\[2.0ex]
92 &= 98 – y \\[2.0ex]
y &= 98 – 92 \\[2.0ex]
y &= 6
\end{aligned}
$$
反応の最初と最後、そして出てくる粒(\(\alpha\)粒子と\(\beta\)粒子)の数字さえ分かっていれば、あとは数学の問題です。「左辺の合計=右辺の合計」というルールに従って式を2つ作り、それを解くだけで答えが出ます。物理的な意味を深く考えなくても、数字合わせのルールさえ守れば正解できる強力な方法です。
当然ながら、主たる解法と同じ結果が得られました。この方法は、崩壊の回数が多くなったり、他の粒子が関与するような複雑な核反応の問題でも有効です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 保存則の絶対性
- 核心: 核反応のようなドラスティックな変化であっても、「質量数の総和」と「電荷数(原子番号)の総和」は絶対に変わらないという鉄則です。
- 理解のポイント: 元素の種類が変わっても、原子核を構成する部品(陽子と中性子)の総数や、電気の総量は消えたり増えたりしないということです。
- \(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊の定義
- 核心:
- \(\alpha\)崩壊 \(\rightarrow\) \({}_{2}^{4}\text{He}\) 放出(質量数 \(-4\)、原子番号 \(-2\))
- \(\beta\)崩壊 \(\rightarrow\) \({}_{-1}^{0}\text{e}\) 放出(質量数 \(\pm 0\)、原子番号 \(+1\))
- 理解のポイント: \(\beta\)崩壊で原子番号が「増える」のは、中性子が陽子に変わるからです。電子(負電荷)を捨てることで、原子核自体はプラスに帯電するとイメージしましょう。
- 核心:
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 崩壊系列の追跡: 「Aが崩壊してBになり、Bが崩壊してCになり…」といった連鎖的な反応でも、一つ一つのステップで保存則を確認すれば解けます。
- 未知の粒子の同定: 反応式の数字を合わせて、未知の粒子 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の \(A\) と \(Z\) を求め、それが中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) なのか陽子 \({}_{1}^{1}\text{p}\) なのかを特定する問題。
- 半減期との融合: 「何年後に原子核の個数がどうなるか」という問題とセットで出題されることが多いです。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは反応式を書く: 問題文の情報を \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow \dots\) の形に書き下します。
- 質量数から攻める: \(\beta\)崩壊や\(\gamma\)崩壊は質量数を変えません。質量数が変化していれば、それは\(\alpha\)崩壊(または核分裂など)の証拠です。ここが突破口になります。
- \(\gamma\)崩壊に注意: 問題には出てきませんでしたが、\(\gamma\)崩壊はエネルギー(電磁波)が出るだけで、質量数も原子番号も変わりません。ひっかけ問題に注意しましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(\beta\)崩壊で原子番号が減ると勘違いする:
- 誤解: 「電子が出る」\(\rightarrow\) 「何かが減る」\(\rightarrow\) 「原子番号もマイナス?」と考えてしまう。
- 対策: 反応式 \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z+1}^{A}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}\) を書いて、右辺の足し算 \( (Z+1) + (-1) = Z \) が成り立つことを確認しましょう。「マイナスを捨てるからプラスが増える」と覚えるのも有効です。
- 中性子と陽子の記号の混同:
- 誤解: 中性子を \({}_{1}^{0}\text{n}\) と書いたり、陽子を \({}_{0}^{1}\text{p}\) と書いたりしてしまう。
- 対策:
- 中性子(neutron): 電荷ゼロ、質量あり \(\rightarrow\) \({}_{0}^{1}\text{n}\)
- 陽子(proton): 水素原子核と同じ \(\rightarrow\) \({}_{1}^{1}\text{H}\) または \({}_{1}^{1}\text{p}\)
- これらを基本パーツとして暗記しておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 保存則の選択理由:
- 選定理由: 原子核反応において、反応の前後で等号で結べる物理量は「質量数」と「電荷数」だからです(エネルギーと質量の等価性 \(E=mc^2\) を考慮しない範囲では)。
- 適用根拠: 化学反応では原子の組み合わせが変わるだけですが、核反応では原子そのものが変わります。しかし、もっと根源的な「核子の総数」と「電荷の総和」は保存されるため、これを式にすることで未知数を特定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 反応式の左右確認:
- 式を立てたら、必ず「左上の数字の和」と「左下の数字の和」が、左辺と右辺で一致しているか指差し確認しましょう。
- 例: \(238 = 206 + 4 \times 8 + 0 \times 6\) \(\rightarrow\) \(238 = 206 + 32 = 238\)
- 負の数の扱いに注意:
- \(\beta\)崩壊の計算では \(Z – (-1)\) や \(Z + (-1)\) が出てきます。符号のミスは命取りです。丁寧に括弧をつけて書きましょう。
基本例題86 半減期
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 指数関数を用いた解法
- 模範解答が半減期の公式 \(N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) を用いて計算しているのに対し、別解では崩壊定数 \(\lambda\) を用いた指数関数 \(N = N_0 e^{-\lambda t}\) の形(またはその近似)で捉え直す視点を提供します。ただし、高校物理の範囲では半減期の公式が標準的であるため、あくまで数学的な背景の補足として位置づけます。
- 設問(3)の別解: グラフの読み取りによる解法
- 計算式だけでなく、グラフの概形から値を推定する方法を提示します。\(t=3\) 日は半減期 \(6\) 日のちょうど半分であることから、グラフ上で \(N/N_0\) がどのような値になるかを幾何学的に考察します。
- 設問(3)の別解: 指数関数を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 数理的理解の深化: 半減期の公式が指数関数の一種であることを理解することで、物理現象と数学的モデルの結びつきが強まります。
- 直感的理解の補助: グラフを用いた視覚的なアプローチは、計算ミスを防ぐための検算手段として有効です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「放射性崩壊と半減期」です。放射性物質の原子核の数が時間とともにどのように減少していくか、その規則性を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 半減期の定義: 放射性崩壊によって、元の原子核の数が半分になるのにかかる時間を「半減期」と呼び、記号 \(T\) で表します。
- 半減期の公式: 時間 \(t\) 経過後に残っている原子核の数 \(N\) は、最初の数 \(N_0\) と半減期 \(T\) を用いて、\(N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) と表されます。
- 指数関数的減衰: 原子核の数は直線的に減るのではなく、指数関数的に(急激に減り始め、徐々に減り方が緩やかになるように)減少します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、グラフから縦軸の値(\(N/N_0\))が \(0.5\)(つまり \(1/2\))になる横軸の時間 \(t\) を読み取ります。
- (2)では、半減期の公式に \(t=18\) 日を代入して計算します。あるいは、「半減期ごとに半分になる」という性質を使って、\(1/2 \rightarrow 1/4 \rightarrow 1/8 \dots\) と順に追っていきます。
- (3)では、半減期の公式に \(t=3\) 日を代入し、指数の計算を行います。
問(1)
思考の道筋とポイント
半減期の定義は「原子核の数が最初の半分になるまでの時間」です。
グラフの縦軸は \(N/N_0\)、つまり「最初の数に対する残っている数の割合」を表しています。
この値が \(0.5\)(\(1/2\))になるときの横軸の時間 \(t\) を読み取れば、それが半減期です。
この設問における重要なポイント
- 縦軸 \(N/N_0 = 1\) がスタート地点(\(t=0\))。
- 縦軸 \(N/N_0 = 0.5\) となる点が、数が半分になった時点。
- グラフの目盛りを正確に読むこと。
具体的な解説と立式
グラフより、縦軸の値 \(N/N_0\) が \(0.5\) になっている点を探します。
その点の横軸(時間)を読み取ると、\(6\) の目盛りの位置にあることがわかります。
したがって、半減期 \(T\) は \(6\) 日です。
使用した物理公式
- 半減期の定義
グラフの読み取りのみのため、計算過程はありません。
「半減期」とは、文字通り「半分に減る期間」のことです。グラフの縦軸は「残り具合」を表していて、一番上が \(1\)(\(100\%\))、真ん中が \(0.5\)(\(50\%\))です。線が \(0.5\) の高さまで下がったとき、横軸(日数)がいくつになっているかを見れば答えがわかります。グラフを見ると、ちょうど \(6\) 日のところで \(0.5\) になっていますね。
半減期は \(6\) 日です。
グラフの曲線は \(t=6\) で \(0.5\)、\(t=12\) で \(0.25\)(\(0.2\) と \(0.3\) の間)を通っており、指数関数的な減少の特徴と一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた半減期 \(T=6\) 日を使って、\(18\) 日後の原子核の数を求めます。
\(18\) 日という時間が、半減期の何回分にあたるかを考えます。
\(18 \div 6 = 3\) なので、半減期が3回繰り返されたことになります。
この設問における重要なポイント
- 半減期 \(T = 6\) 日。
- 経過時間 \(t = 18\) 日。
- 半減期が来るたびに、数は直前の \(1/2\) になる。
具体的な解説と立式
求める原子核の数を \(N\) とします。半減期の公式を用います。
$$ N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} $$
ここに \(T=6\)、\(t=18\) を代入します。
$$ N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{18}{6}} $$
使用した物理公式
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
$$
\begin{aligned}
N &= N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{3} \\[2.0ex]
&= N_0 \times \frac{1}{8} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{8} N_0
\end{aligned}
$$
したがって、最初の \(1/8\)(8分の1)になります。
半減期は6日なので、6日経つごとに数は半分になります。
- スタート: \(1\)
- 6日後: \(1/2\)
- 12日後: \(1/4\)(\(1/2\) のさらに半分)
- 18日後: \(1/8\)(\(1/4\) のさらに半分)
このように順を追って考えれば、公式を忘れていても解くことができます。
答えは \(1/8\)(8分の1)です。
グラフを見ても、\(t=14\) の時点で \(0.2\)(\(1/5\))付近まで下がっており、\(t=18\) でさらに減って \(0.125\)(\(1/8\))になるのは妥当な推移です。
問(3)
思考の道筋とポイント
今度は \(t=3\) 日後の原子核の数を求めます。
\(3\) 日は半減期 \(6\) 日の半分です。つまり、半減期の \(0.5\) 倍の時間だけ経過した状態です。
公式の指数部分が分数になることに注意して計算します。
この設問における重要なポイント
- 経過時間 \(t = 3\) 日。
- \(t/T = 3/6 = 1/2\)。
- 指数の \(1/2\) 乗は、平方根(ルート)を意味する。
具体的な解説と立式
求める原子核の数を \(N’\) とします。半減期の公式を用います。
$$ N’ = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} $$
ここに \(T=6\)、\(t=3\) を代入します。
$$ N’ = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{3}{6}} $$
使用した物理公式
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
- 指数の法則: \(a^{\frac{1}{2}} = \sqrt{a}\)
$$
\begin{aligned}
N’ &= N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{1}{2}} \\[2.0ex]
&= N_0 \sqrt{\frac{1}{2}} \\[2.0ex]
&= N_0 \frac{1}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{N_0}{\sqrt{2}}
\end{aligned}
$$
(必要であれば有理化して \(\frac{\sqrt{2}}{2}N_0\) としても正解ですが、物理では \(\frac{N_0}{\sqrt{2}}\) の形もよく使われます。模範解答に合わせます。)
3日は半減期(6日)のちょうど半分です。「時間が半分だから、減る量も半分で \(3/4\)(\(0.75\))くらいかな?」と思うかもしれませんが、そうではありません。放射性崩壊は「掛け算」で減っていく変化なので、半分の時間経過では「\(1/2\) のルート倍」、つまり \(\sqrt{1/2} \approx 0.707\) 倍になります。グラフを見てみましょう。\(t=3\) のところを見ると、\(0.6\) と \(0.8\) の真ん中(\(0.7\))あたりを通っていますね。計算結果の \(1/\sqrt{2} \approx 0.707\) とよく合っています。
答えは \(\frac{N_0}{\sqrt{2}}\) です。
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) なので、\(1/1.41 \approx 0.71\) です。グラフ上の \(t=3\) における値が \(0.7\) 付近であることと整合しています。
思考の道筋とポイント
計算式を使わずに、グラフの幾何学的な性質から値を推定する方法です。正確な値を求めるには計算が必要ですが、答えの当たりをつけるのに役立ちます。
この設問における重要なポイント
- 指数関数のグラフは下に凸の曲線である。
- \(t=0\) で \(1\)、\(t=6\) で \(0.5\)。
- \(t=3\) はその中間点。
具体的な解説と立式
グラフ上で、\(t=0\) の点 \((0, 1)\) と \(t=6\) の点 \((6, 0.5)\) を結ぶ直線を考えます。
この直線の中点(\(t=3\) の位置)の値は、\((1 + 0.5) / 2 = 0.75\) です。
実際のグラフは下に凸の曲線(減り方が徐々に緩やかになる)なので、\(t=3\) での値は直線の中点 \(0.75\) よりも下側にあるはずです。
しかし、極端に下がるわけではないので、\(0.7\) くらいだろうと予想できます。
実際、\(\frac{1}{\sqrt{2}} \approx 0.707\) なので、この直感は正しいです。
グラフの形をじっと見ると、最初(\(1.0\))から6日後(\(0.5\))までの間、線は少しだけ下側に膨らんで下がっています。真ん中の3日目のところでは、単純な平均(\(0.75\))よりちょっとだけ低い値を通っているのがわかります。計算が難しくても、グラフを丁寧に読めば「だいたい \(0.7\) くらい」という見当がつきます。
グラフからの読み取り値 \(0.7\) は、理論値 \(\frac{1}{\sqrt{2}} \approx 0.707\) と非常に良い精度で一致します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 半減期の法則
- 核心: 放射性崩壊において、原子核の数が半分になる時間は常に一定(半減期 \(T\))であり、原子核の数は時間とともに指数関数的に減少するという法則です。
- 理解のポイント: 「100個が50個になる時間」も、「50個が25個になる時間」も、「10個が5個になる時間」も、すべて同じ \(T\) です。残っている数に関係なく、一定の確率で崩壊が起こるためです。
- 指数関数的変化
- 核心: 変化の割合が、その時の量に比例する場合(\(dN/dt = -\lambda N\))、その量は指数関数的に変化します。
- 理解のポイント: 直線的な減少(一定量ずつ減る)との違いを明確にしましょう。直線なら \(t=T\) で \(0.5\) なら \(t=2T\) で \(0\) になってしまいますが、指数関数なら \(t=2T\) で \(0.25\) となり、決して \(0\) にはなりません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 炭素年代測定法: 生物遺体中の \({}^{14}\text{C}\) の割合から、死後何年経過したかを推定する問題。これも半減期の公式を逆算して \(t\) を求める問題です。
- コンデンサーの放電: 回路のスイッチを切った後のコンデンサーの電荷や電流の減少も、同じ形の指数関数(\(e^{-t/CR}\))で表されます。物理現象は違っても数学的構造は同じです。
- 光の吸収: 物質中を進む光の強度が距離とともに減衰する現象(ランベルト・ベールの法則)も、距離に対する「半減深度」のような概念で扱えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 半減期 \(T\) を特定する: 問題文やグラフから、まずは \(T\) の値を確定させます。これが全ての計算の基準になります。
- 半減期の何倍の時間か?: 経過時間 \(t\) が \(T\) の整数倍(\(2T, 3T \dots\))なら、\(1/2, 1/4, 1/8 \dots\) と簡単に計算できます。
- 整数倍でない場合: \(t = T/2\) なら \(\sqrt{1/2}\)、\(t = 3T/2\) なら \((1/2)\sqrt{1/2}\) のように、指数の法則を使って処理します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 直線的に減ると勘違いする:
- 誤解: 「6日で半分(\(50\%\)減る)なら、3日では \(25\%\) 減って残り \(75\%\) だろう」と考えてしまう。
- 対策: 放射性崩壊は「掛け算」の世界です。足し算・引き算で考えず、常に「\( (1/2)^{t/T} \) 倍」という倍率で考えましょう。
- 指数の計算ミス:
- 誤解: \((1/2)^3\) を \(1/6\) と計算してしまう(\(2 \times 3\) にしてしまう)。
- 対策: 累乗の意味(\(1/2 \times 1/2 \times 1/2\))を再確認し、丁寧に計算しましょう。
- \(N_0\) の付け忘れ:
- 誤解: 「数はいくつか」と聞かれているのに、割合(\(1/8\) など)だけ答えてしまう。
- 対策: 問題文が「何倍か」を聞いているのか、「数(\(N_0\) を用いて)」を聞いているのかをよく読みましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 半減期の公式の選択理由:
- 選定理由: 「時間 \(t\)」と「残存数 \(N\)」の関係を記述する唯一の公式だからです。
- 適用根拠: 問題文に「放射性核種の原子核の数」「時間 \(t\) の経過とともに変化」とあり、グラフが指数関数的な減少を示していることから、この現象が放射性崩壊の法則に従うことは明らかです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 具体的な数値で検算:
- \(t=3\) の答え \(\frac{1}{\sqrt{2}} \approx 0.7\) が出たら、\(t=0\) の \(1\) と \(t=6\) の \(0.5\) の間にあるか確認しましょう。もし \(0.4\) などの値が出ていたら、明らかにおかしいと気づけます。
- 単位の確認:
- 半減期 \(T\) と経過時間 \(t\) の単位(秒、分、日、年など)が揃っているか確認しましょう。この問題では両方「日」なのでそのまま計算できます。
基本例題87 核反応
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: エネルギー換算係数を用いた解法
- 模範解答が質量欠損を一度 \(\text{kg}\) に換算し、\(E=mc^2\) でジュール \(\text{J}\) を求めてから \(\text{eV}\) に変換するという手順を踏んでいるのに対し、別解では原子質量単位 \(1\,\text{u}\) が約 \(931.5\,\text{MeV}\) のエネルギーに相当するという換算係数を用いて、質量欠損 \(\text{u}\) から直接エネルギー \(\text{MeV}\) を求めます。
- 設問(2)の別解: エネルギー換算係数を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 複雑な指数計算や単位変換の手間を大幅に削減でき、計算ミスを減らせます。
- 実戦的な知識: 入試問題や実際の物理研究では、\(1\,\text{u} \approx 931.5\,\text{MeV}\) という関係式が与えられることが多く、この手法に慣れておくことは非常に有益です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します(有効数字の範囲内で)。
この問題のテーマは「核反応と質量とエネルギーの等価性」です。アインシュタインの特殊相対性理論から導かれる \(E=mc^2\) という関係式を用いて、原子核反応に伴うエネルギーの出入りを計算します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 核反応式: 化学反応式と同様に、反応の前後で「質量数の総和」と「電荷数(原子番号)の総和」が保存されます。
- 質量欠損: 核反応の前後で質量の総和が変化すること。質量が減少すればエネルギーが放出され(発熱反応)、質量が増加すればエネルギーが吸収されます(吸熱反応)。
- 質量とエネルギーの等価性: 質量 \(m\) とエネルギー \(E\) は等価であり、\(E = mc^2\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、問題文の記述に従って核反応式を書き、反応前後の質量の差(質量欠損)を計算します。
- (2)では、(1)で求めた質量の変化分をエネルギーに換算します。質量が増加している場合はエネルギーが吸収され、減少している場合は放出されたと判断します。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、問題文の記述を核反応式に翻訳します。
「アルミニウム \({}_{13}^{27}\text{Al}\) に中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) をあてたところ、ナトリウム \({}_{11}^{24}\text{Na}\) とヘリウム \({}_{2}^{4}\text{He}\) に変化した」
この反応式が正しいか、質量数と原子番号の保存則で確認します。
次に、反応前の質量の総和と反応後の質量の総和を計算し、その差(減少した質量)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 反応式: \({}_{13}^{27}\text{Al} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{11}^{24}\text{Na} + {}_{2}^{4}\text{He}\)
- 質量数保存: \(27 + 1 = 28\), \(24 + 4 = 28\)
- 原子番号保存: \(13 + 0 = 13\), \(11 + 2 = 13\)
- 減少した質量 \(\Delta M = (\text{反応前の質量}) – (\text{反応後の質量})\)
具体的な解説と立式
核反応式は以下の通りです。
$$ {}_{13}^{27}\text{Al} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{11}^{24}\text{Na} + {}_{2}^{4}\text{He} $$
次に、質量の変化を計算します。
反応前の質量の和 \(M_{\text{前}}\) は、
$$ M_{\text{前}} = 26.9744 + 1.0087 = 27.9831\,\text{u} $$
反応後の質量の和 \(M_{\text{後}}\) は、
$$ M_{\text{後}} = 23.9849 + 4.0015 = 27.9864\,\text{u} $$
減少した質量 \(\Delta M\) は、
$$ \Delta M = M_{\text{前}} – M_{\text{後}} $$
使用した物理公式
- 質量保存則(核反応における質量数・電荷数の保存)
$$
\begin{aligned}
\Delta M &= 27.9831 – 27.9864 \\[2.0ex]
&= -0.0033\,\text{u}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で表すと、
$$ \Delta M = -3.3 \times 10^{-3}\,\text{u} $$
まず、登場人物を整理して反応式を書きます。左辺の数字の合計と右辺の数字の合計が合っているか確認しましょう。次に、体重測定です。反応する前の原子核たちの体重の合計と、反応した後の原子核たちの体重の合計を比べます。計算してみると、反応後の方が少しだけ重くなっていることがわかります。「減少した質量は?」と聞かれているので、増えている場合はマイナスの値で答えます。
核反応式は \({}_{13}^{27}\text{Al} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{11}^{24}\text{Na} + {}_{2}^{4}\text{He}\)。
減少した質量は \(-3.3 \times 10^{-3}\,\text{u}\) です。
負の値になったということは、質量が増加したことを意味します。これは、エネルギーを吸収しないと起こらない反応(吸熱反応)であることを示唆しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた質量の変化分(増加分)に相当するエネルギーを計算します。
質量が増加したということは、その分だけ外部からエネルギーをもらった(吸収した)ということです。
計算の手順は以下の通りです。
- 質量の増加分 \(\Delta M’\)(正の値)を \(\text{u}\) から \(\text{kg}\) に換算する。
- アインシュタインの関係式 \(E = \Delta M’ c^2\) を使って、エネルギーをジュール \(\text{J}\) で求める。
- ジュール \(\text{J}\) を電子ボルト \(\text{eV}\)、さらにメガ電子ボルト \(\text{MeV}\) に換算する。
この設問における重要なポイント
- 質量が増加 \(\rightarrow\) エネルギー吸収。
- \(1\,\text{u} = 1.66 \times 10^{-27}\,\text{kg}\)。
- \(c = 3.00 \times 10^8\,\text{m/s}\)。
- \(1\,\text{eV} = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{J}\)。
- \(1\,\text{MeV} = 10^6\,\text{eV}\)。
具体的な解説と立式
(1)より、質量は \(3.3 \times 10^{-3}\,\text{u}\) だけ増加しました。この増加分を \(\Delta M’\) とします。
$$ \Delta M’ = 3.3 \times 10^{-3}\,\text{u} $$
これを \(\text{kg}\) に換算します。
$$ \Delta M’_{\text{kg}} = (3.3 \times 10^{-3}) \times (1.66 \times 10^{-27})\,\text{kg} $$
吸収されたエネルギー \(E\)(単位 \(\text{J}\))は、
$$ E = \Delta M’_{\text{kg}} c^2 $$
これを \(\text{eV}\) に換算するには、電気素量 \(e\) で割ります。
$$ E_{\text{eV}} = \frac{E}{1.60 \times 10^{-19}} $$
最後に \(\text{MeV}\) にするために \(10^{-6}\) を掛けます。
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
まず、エネルギー \(E\)(\(\text{J}\))を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= (3.3 \times 10^{-3}) \times (1.66 \times 10^{-27}) \times (3.00 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= 3.3 \times 1.66 \times 9.00 \times 10^{-3-27+16} \\[2.0ex]
&= 49.296 \times 10^{-14} \\[2.0ex]
&\approx 4.93 \times 10^{-13}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
(途中計算では桁落ちを防ぐため少し多めに桁を取ります)
次に、\(\text{eV}\) に換算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{eV}} &= \frac{49.296 \times 10^{-14}}{1.60 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= \frac{49.296}{1.60} \times 10^{5} \\[2.0ex]
&= 30.81 \times 10^{5}\,\text{eV} \\[2.0ex]
&= 3.081 \times 10^{6}\,\text{eV}
\end{aligned}
$$
これを \(\text{MeV}\)(\(10^6\,\text{eV}\))単位にします。
$$ E_{\text{MeV}} \approx 3.1\,\text{MeV} $$
質量が増加しているので、エネルギーは「吸収」されました。
反応後の原子核たちが太った(質量が増えた)ということは、その「お肉(質量)」の元となるエネルギーをどこかから食べた(吸収した)ということです。どれくらい食べたかを計算するには、増えた質量を \(E=mc^2\) という魔法の式でエネルギーに直します。単位の変換(\(\text{u} \rightarrow \text{kg} \rightarrow \text{J} \rightarrow \text{eV} \rightarrow \text{MeV}\))が大変ですが、一つずつ丁寧に計算すれば大丈夫です。
\(3.1\,\text{MeV}\) のエネルギーが吸収されました。
核反応におけるエネルギーの出入りは通常 \(\text{MeV}\) のオーダーになるため、この数値は妥当です。
思考の道筋とポイント
原子質量単位 \(1\,\text{u}\) が持つエネルギーをあらかじめ計算しておき、それを比例係数として使う方法です。
\(1\,\text{u} \approx 931.5\,\text{MeV}\) という値は物理定数としてよく知られています。この問題の数値設定でこれを導出し、それを使って計算します。
この設問における重要なポイント
- \(1\,\text{u}\) あたりのエネルギー \(E_u\) をまず求める。
- \(E = \Delta M’ \times E_u\) で一発計算する。
具体的な解説と立式
まず、\(1\,\text{u}\) に相当するエネルギー \(E_u\)(\(\text{MeV}\))を求めます。
$$
\begin{aligned}
E_u &= \frac{1.66 \times 10^{-27} \times (3.00 \times 10^8)^2}{1.60 \times 10^{-19}} \times 10^{-6} \\[2.0ex]
&= \frac{1.66 \times 9.00}{1.60} \times 10^{-27+16+19-6} \\[2.0ex]
&= 9.3375 \times 10^2 \\[2.0ex]
&\approx 934\,\text{MeV}
\end{aligned}
$$
(問題文の定数値によって若干変動しますが、約 \(931.5\) に近い値になります)
これを用いて、\(3.3 \times 10^{-3}\,\text{u}\) のエネルギーを求めます。
$$ E = (3.3 \times 10^{-3}) \times 933.75 $$
$$
\begin{aligned}
E &= 3.3 \times 0.93375 \\[2.0ex]
&\approx 3.08\,\text{MeV}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(3.1\,\text{MeV}\) となります。
いちいち \(\text{kg}\) や \(\text{J}\) に直すのは面倒なので、「\(1\,\text{u}\) は約 \(934\,\text{MeV}\) だ」という換算レートを先に作ってしまいます。あとは、増えた質量(\(\text{u}\))にこのレートを掛けるだけで、すぐに答え(\(\text{MeV}\))が出ます。
主たる解法と同じ結果が得られました。この方法は計算ステップが少なく、ミスを減らすのに非常に有効です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 質量とエネルギーの等価性(\(E=mc^2\))
- 核心: 質量はエネルギーの一形態であり、質量が消滅すればエネルギーとして放出され、逆にエネルギーを投入すれば質量を生み出せるという、現代物理学の根幹をなす原理です。
- 理解のポイント: 化学反応では「質量保存の法則」が成り立ちますが、核反応では成り立ちません。その代わり、「質量とエネルギーの総和」が保存されます。
- 質量欠損とエネルギーの出入り
- 核心:
- 質量が減る(\(\Delta M < 0\)) \(\rightarrow\) 軽くなった分がエネルギーとして外に出る(放出、発熱)。
- 質量が増える(\(\Delta M > 0\)) \(\rightarrow\) 重くなるために外からエネルギーをもらう必要がある(吸収、吸熱)。
- 理解のポイント: 「お財布」で例えるとわかりやすいです。お金(エネルギー)を使って買い物(質量)をすれば、手持ちのお金は減りますが、物は増えます。逆にお金をもらえば、物を売る(質量を減らす)必要があります。
- 核心:
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 核分裂・核融合: ウランの核分裂や、太陽内部での水素核融合など。これらも全て「反応後の質量が軽くなっている」からこそ、莫大なエネルギー(原子力、太陽光)を生み出しています。
- 結合エネルギー: 原子核をバラバラの陽子と中性子に分解するのに必要なエネルギー。これも「バラバラの状態の方が質量が重い」という質量欠損の問題として扱えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 反応式を完成させる: 未知の粒子がある場合は、質量数と原子番号の保存則を使って特定します。
- 質量の差を計算する: 必ず「(反応前)\(\,-\)(反応後)」または「(反応後)\(\,-\)(反応前)」のどちらかに統一して計算し、符号の意味(増えたか減ったか)を間違えないようにします。
- 単位換算に注意: \(\text{u}, \text{kg}, \text{J}, \text{eV}, \text{MeV}\) の変換ルートを常に意識します。特に \(c^2\) を掛けるのを忘れないように。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 吸収と放出の判定ミス:
- 誤解: 「質量欠損」という言葉から、常に質量が減る(エネルギー放出)と思い込んでしまう。
- 対策: この問題のように、質量が増える(エネルギー吸収)ケースもあります。必ず計算結果の符号を見て判断しましょう。「質量増 \(\rightarrow\) エネルギー吸収」とセットで覚えます。
- 桁数のミス:
- 誤解: \(10^{-27}\) や \(10^{16}\) といった巨大な指数の計算で、指数法則を適用し間違える。
- 対策: 指数部分(\(10^n\))と仮数部分(数値)を分けて計算し、最後に合体させる手順を徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E=mc^2\) の選択理由:
- 選定理由: 質量の変化をエネルギーの変化に結びつけることができる唯一の物理法則だからです。
- 適用根拠: 核反応においては、原子核の結合状態が変化することで質量そのものが変化します。この質量の変化は、ニュートン力学の範囲では説明できず、相対性理論の \(E=mc^2\) を適用する必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効数字の扱い:
- 引き算(\(26.9744 + 1.0087 – \dots\))を行う際、桁落ちによって有効数字が減ることがあります。この問題では小数点以下4桁まで与えられていますが、差をとると \(0.0033\) となり、有効数字は2桁になります。計算途中で勝手に丸めず、最後まで精度を保つことが重要です。
- 換算係数の利用:
- 別解で示したように、\(1\,\text{u} \approx 931.5\,\text{MeV}\) を知っていれば、検算が非常に楽になります。メインの計算とは別に、この簡易計算を行って答えのオーダーが合っているか確認する習慣をつけましょう。
基本例題88 ウランの核分裂
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 比例計算による解法
- 模範解答が「原子数」を求めてから「1個あたりのエネルギー」を掛けるという2段階の手順を踏んでいるのに対し、別解では「\(1\,\text{mol}\)(\(235\,\text{g}\))あたりのエネルギー」を先に考え、質量比 \(1.00/235\) を掛けることで一気に計算します。
- 設問(3)の別解: 比例計算による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の簡略化: アボガドロ定数 \(N_A\) を明示的に計算に含める必要がなくなり、桁数の多い掛け算を減らせるため、計算ミスを防ぎやすくなります。
- 化学的視点の導入: 物質量(モル)の概念を柔軟に使いこなすことで、物理と化学の境界領域である原子核物理の問題をよりスムーズに解く力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ウランの核分裂と質量欠損によるエネルギー放出」です。原子力発電の原理でもある、核分裂反応に伴う莫大なエネルギーの発生を、質量とエネルギーの等価性 \(E=mc^2\) を用いて定量的に計算します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量欠損: 核反応の前後で質量の総和が減少すること。この減少分がエネルギーに変わります。
- 質量とエネルギーの等価性: 質量 \(m\) が消滅すると、\(E=mc^2\) のエネルギーが放出されます。
- アボガドロ定数と物質量: 原子の個数と質量(グラム)を結びつけるための基本的な化学的概念です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた反応式と質量データに基づいて、反応前後の質量の差(質量欠損)を計算します。
- (2)では、(1)で求めた質量欠損(単位 \(\text{u}\))を \(\text{kg}\) に換算し、\(E=mc^2\) の式に代入してエネルギー(単位 \(\text{J}\))を求めます。
- (3)では、\(1.00\,\text{g}\) のウランに含まれる原子核の数を求め、それに(2)で求めた「1個あたりのエネルギー」を掛けて総エネルギーを算出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
核反応式 \({}_{92}^{235}\text{U} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{54}^{140}\text{Xe} + {}_{38}^{93}\text{Sr} + 3{}_{0}^{1}\text{n}\) に基づいて、左辺(反応前)の質量の総和と、右辺(反応後)の質量の総和をそれぞれ計算し、その差を求めます。
ポイントは、中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) が左辺に1個、右辺に3個あることです。計算を楽にするために、両辺から中性子1個分を相殺して、「ウラン1個 \(\rightarrow\) キセノン1個 \(+\) ストロンチウム1個 \(+\) 中性子2個」として計算しても結果は同じですが、ここでは基本通りに全ての粒子の質量を足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 反応前の粒子: \({}^{235}\text{U}\) 1個, \({}^{1}\text{n}\) 1個
- 反応後の粒子: \({}^{140}\text{Xe}\) 1個, \({}^{93}\text{Sr}\) 1個, \({}^{1}\text{n}\) 3個
- 表の値を正確に代入すること。
具体的な解説と立式
反応前の質量の和 \(M_{\text{前}}\) は、
$$ M_{\text{前}} = m_{\text{ウラン}} + m_{\text{中性子}} $$
反応後の質量の和 \(M_{\text{後}}\) は、
$$ M_{\text{後}} = m_{\text{キセノン}} + m_{\text{ストロンチウム}} + 3m_{\text{中性子}} $$
質量の減少(質量欠損)\(\Delta M\) は、
$$ \Delta M = M_{\text{前}} – M_{\text{後}} $$
使用した物理公式
- 質量の和の計算
表の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
M_{\text{前}} &= 234.9935 + 1.0087 \\[2.0ex]
&= 236.0022\,\text{u}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
M_{\text{後}} &= 139.8918 + 92.8930 + 3 \times 1.0087 \\[2.0ex]
&= 232.7848 + 3.0261 \\[2.0ex]
&= 235.8109\,\text{u}
\end{aligned}
$$
したがって、質量の減少 \(\Delta M\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta M &= 236.0022 – 235.8109 \\[2.0ex]
&= 0.1913\,\text{u}
\end{aligned}
$$
ウランという重い原子核に中性子がぶつかって、真っ二つに割れる反応です。割れる前(ウラン+中性子)の体重合計と、割れた後(キセノン+ストロンチウム+中性子3個)の体重合計を比べます。計算してみると、割れた後の方が少しだけ軽くなっています。この「消えた質量」がどこへ行ったのかというと、ものすごいエネルギーに変わって放出されるのです。まずはその「消えた質量」を正確に計算しました。
質量の減少は \(0.1913\,\text{u}\) です。
正の値が得られたので、確かに質量が減少し、エネルギーが放出される反応であることが確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた質量欠損 \(\Delta M = 0.1913\,\text{u}\) をエネルギーに換算します。
手順は以下の通りです。
- 単位を \(\text{u}\) から \(\text{kg}\) に変換する。
- アインシュタインの式 \(E = \Delta M c^2\) に代入して、エネルギー(\(\text{J}\))を求める。
この設問における重要なポイント
- \(1\,\text{u} = 1.66 \times 10^{-27}\,\text{kg}\)
- \(c = 3.00 \times 10^8\,\text{m/s}\)
- 有効数字は3桁(問題文の数値の精度から判断)。
具体的な解説と立式
まず、質量欠損を \(\text{kg}\) 単位で表します。
$$ \Delta M_{\text{kg}} = 0.1913 \times (1.66 \times 10^{-27})\,\text{kg} $$
放出されるエネルギー \(E\) は、
$$ E = \Delta M_{\text{kg}} c^2 $$
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
$$
\begin{aligned}
E &= \{ 0.1913 \times (1.66 \times 10^{-27}) \} \times (3.00 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= 0.1913 \times 1.66 \times 9.00 \times 10^{-27+16} \\[2.0ex]
&= 0.1913 \times 1.66 \times 9.00 \times 10^{-11} \\[2.0ex]
&= 0.317558 \times 9.00 \times 10^{-11} \\[2.0ex]
&= 2.858022 \times 10^{-11}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で丸めると、
$$ E \approx 2.86 \times 10^{-11}\,\text{J} $$
先ほど計算した「消えた質量」を、アインシュタインの有名な式 \(E=mc^2\) を使ってエネルギーに直します。質量はとても小さい(\(10^{-28}\,\text{kg}\) のオーダー)ですが、光の速さ \(c\) の2乗(\(9 \times 10^{16}\))という巨大な数を掛けるので、原子核1個あたりとしては無視できない大きさのエネルギーになります。
答えは \(2.86 \times 10^{-11}\,\text{J}\) です。
化学反応で発生するエネルギー(数 \(\text{eV} \approx 10^{-19}\,\text{J}\))に比べて、核反応のエネルギーは桁違いに大きい(約1億倍)ことがわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めたのは「ウラン原子核1個」が核分裂したときのエネルギーです。
ここでは「\(1.00\,\text{g}\) のウラン」がすべて核分裂したときの総エネルギーを求めます。
手順は以下の通りです。
- \(1.00\,\text{g}\) のウランに含まれる原子核の数 \(N\) を求める。
- 総エネルギー \(E_{\text{総}} = N \times E\) を計算する。
この設問における重要なポイント
- ウラン235の原子量は \(235\)(質量数に等しいとする)。
- \(1\,\text{mol}\) の質量は \(235\,\text{g}\)。
- \(1\,\text{mol}\) 中の原子数はアボガドロ定数 \(N_A = 6.02 \times 10^{23}\)。
具体的な解説と立式
まず、\(1.00\,\text{g}\) のウラン235の物質量(モル数)\(n\) は、
$$ n = \frac{1.00}{235}\,\text{mol} $$
原子核の数 \(N\) は、これにアボガドロ定数を掛けて、
$$ N = n \times N_A $$
$$ N = \frac{1.00}{235} \times (6.02 \times 10^{23}) $$
総エネルギー \(E_{\text{総}}\) は、
$$ E_{\text{総}} = N \times E $$
ここで \(E\) は(2)で求めた値(計算途中では精度の高い値 \(2.858 \times 10^{-11}\) を使用)です。
使用した物理公式
- 物質量の計算: \(n = w/M\)
- 総量 = 個数 \(\times\) 1個あたりの量
$$
\begin{aligned}
E_{\text{総}} &= \frac{1.00}{235} \times (6.02 \times 10^{23}) \times (2.858 \times 10^{-11}) \\[2.0ex]
&= \frac{6.02 \times 2.858}{235} \times 10^{23-11} \\[2.0ex]
&= \frac{17.205}{235} \times 10^{12} \\[2.0ex]
&\approx 0.07321 \times 10^{12} \\[2.0ex]
&= 7.321 \times 10^{10}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で丸めると、
$$ E_{\text{総}} \approx 7.32 \times 10^{10}\,\text{J} $$
たった \(1\,\text{g}\) のウランですが、その中にはとてつもない数(約 \(2.5 \times 10^{21}\) 個)の原子核が入っています。1個1個が出すエネルギーは小さくても、それが「ちりも積もれば山となる」で、全部合わせると莫大なエネルギーになります。まず「何個あるか」を計算し、それに「1個分のエネルギー」を掛けて合計を出します。
答えは \(7.32 \times 10^{10}\,\text{J}\) です。
これは、石油数トン分を燃やしたエネルギーに匹敵します。わずか \(1\,\text{g}\) の物質からこれだけのエネルギーが出るという事実が、原子力の威力を物語っています。
思考の道筋とポイント
個数を求めずに、質量比を使って計算する方法です。
「\(235\,\text{g}\)(\(1\,\text{mol}\))あれば、\(N_A\) 個分のエネルギーが出る」と考えます。
\(1.00\,\text{g}\) は \(235\,\text{g}\) の \(1/235\) なので、エネルギーも \(1/235\) になります。
この設問における重要なポイント
- \(1\,\text{mol}\) のエネルギー \(E_{\text{モル}} = N_A \times E\)。
- 求めるエネルギー \(E_{\text{総}} = E_{\text{モル}} \times \frac{1.00}{235}\)。
具体的な解説と立式
まず、\(1\,\text{mol}\)(\(235\,\text{g}\))あたりのエネルギー \(E_{\text{モル}}\) を式で表します。
$$ E_{\text{モル}} = (6.02 \times 10^{23}) \times (2.858 \times 10^{-11})\,\text{J} $$
\(1.00\,\text{g}\) のエネルギー \(E_{\text{総}}\) は、これの \(\frac{1.00}{235}\) 倍です。
$$ E_{\text{総}} = E_{\text{モル}} \times \frac{1.00}{235} $$
式を整理すると、主たる解法と全く同じ式になります。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{総}} &= \frac{1.00}{235} \times (6.02 \times 10^{23}) \times (2.858 \times 10^{-11}) \\[2.0ex]
&\approx 7.32 \times 10^{10}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
「ウラン235gでこれだけのエネルギーが出る」という基準(1モルあたりのエネルギー)をまずイメージします。今回は1gしかないので、そのエネルギーの235分の1になります。個数を計算する手間を省いて、質量の割合だけで計算する方法です。
当然ながら結果は一致します。化学の計算に慣れている人は、こちらの方が直感的かもしれません。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 質量欠損とエネルギー放出
- 核心: 核分裂反応において、分裂後の原子核の質量の総和は、分裂前よりもわずかに軽くなります。この「消えた質量」が \(E=mc^2\) に従って莫大な熱エネルギーに変換されます。
- 理解のポイント: 質量保存の法則は成り立ちません。質量はエネルギーの一形態であり、相互に変換可能であるという相対論的な視点が不可欠です。
- ミクロとマクロの架け橋(アボガドロ定数)
- 核心: 原子核1個という極微の世界の出来事(\(\text{MeV}\) や \(10^{-11}\,\text{J}\))を、私たちが扱うグラム単位の物質の世界(\(\text{J}\) や \(\text{kWh}\))に翻訳するツールがアボガドロ定数です。
- 理解のポイント: 「1個あたりのエネルギー」\(\times\) 「個数」という単純な掛け算が、桁違いのエネルギーを生み出すメカニズムを理解しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 核融合反応: 重水素と三重水素が融合してヘリウムになる反応など。計算手順は全く同じ(質量欠損 \(\rightarrow\) エネルギー換算)です。
- 対消滅: 電子と陽電子が衝突して光子になる反応。質量が完全に消滅してエネルギーになる究極の質量欠損です。
- 初見の問題での着眼点:
- 反応式をチェック: 中性子などの粒子が両辺で数が合っているか確認します。計算を楽にするために相殺できるものは相殺しても構いません。
- 質量の差を計算: 必ず「(反応前)\(\,-\)(反応後)」で計算し、正の値(減少)になることを確認します。
- 単位換算: \(\text{u} \rightarrow \text{kg} \rightarrow \text{J}\) の流れをスムーズに行えるようにしておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 中性子の数を間違える:
- 誤解: 反応式の係数「3」を見落として、中性子1個分しか質量を引かない。
- 対策: 反応式の係数は「個数」を表しています。必ず \(3 \times m_{\text{中性子}}\) として計算に組み込みましょう。
- 有効数字の処理:
- 誤解: 途中の計算結果を早めに丸めてしまい、最終的な答えに誤差が出る。
- 対策: 途中計算では、最終的に必要な桁数よりも1桁多く残して計算し、最後に丸めるのが鉄則です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E=mc^2\) の選択理由:
- 選定理由: 質量の変化をエネルギーの変化に結びつけることができる唯一の物理法則だからです。
- 適用根拠: 核反応においては、原子核の結合状態が変化することで質量そのものが変化します。この質量の変化は、ニュートン力学の範囲では説明できず、相対性理論の \(E=mc^2\) を適用する必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算:
- \(10^{-27}\) や \(10^{16}\) といった巨大な指数の計算は、指数部分だけを別枠で計算(\(-27 + 16 = -11\) など)し、数値部分と混ぜないようにしましょう。
- 単位の確認:
- 質量は必ず \(\text{kg}\) に直してから \(c^2\) を掛けないと、エネルギーの単位が \(\text{J}\) になりません。\(\text{g}\) や \(\text{u}\) のまま計算しないよう注意が必要です。
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基本問題
594 統一原子質量単位
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問の別解: アボガドロ定数の逆数としての解釈
- 模範解答が「炭素原子1個の質量を求めてからその1/12を計算する」という定義に忠実な手順を踏んでいるのに対し、別解では「\(1\,\text{g}\) をアボガドロ定数で割ったものが \(1\,\text{u}\) に等しい」という関係性(\(N_A \times 1\,\text{u} = 1\,\text{g}\))を用いて、より直接的に計算します。
- 設問の別解: アボガドロ定数の逆数としての解釈
- 上記の別解が有益である理由
- 概念の統合: 「モル質量(\(\text{g/mol}\))」と「原子質量単位(\(\text{u}\))」が、アボガドロ定数を介して数値的に等価である(例: 炭素は \(12\,\text{g/mol}\) であり \(12\,\text{u}\))という化学と物理の重要なつながりを理解できます。
- 計算の効率化: \(12\) という係数が約分で消えることを最初から見越せるため、計算式がシンプルになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「統一原子質量単位(\(\text{u}\))の定義と換算」です。原子や原子核のような極微の世界で使われる質量単位 \(\text{u}\) が、私たちが日常使う \(\text{kg}\) とどのような関係にあるのかを、アボガドロ定数を用いて導き出します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 統一原子質量単位(\(\text{u}\))の定義: 炭素原子 \({}^{12}\text{C}\) 1個の質量の \(1/12\) を \(1\,\text{u}\) と定義します。
- アボガドロ定数(\(N_A\)): \(1\,\text{mol}\) の物質に含まれる粒子の数。ここでは \(6.02 \times 10^{23}\) です。
- モル質量: 物質 \(1\,\text{mol}\) あたりの質量。炭素 \({}^{12}\text{C}\) の場合、\(12\,\text{g/mol}\) です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、炭素原子 \({}^{12}\text{C}\) \(1\,\text{mol}\)(\(6.02 \times 10^{23}\) 個)の質量が \(12\,\text{g}\) であることから、炭素原子1個あたりの質量を \(\text{kg}\) 単位で求めます。
- 次に、その質量の \(1/12\) を計算して \(1\,\text{u}\) の値を求めます。
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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