「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅶ 章 23】基本例題~基本問題569

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基本例題

基本例題79 J.J.トムソンの実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 軌道の式(放物線の方程式)を用いる解法
      • 模範解答が時間を求めてから座標を計算するのに対し、別解では時間 \(t\) を消去して \(x\) と \(y\) の直接的な関係式(軌道の式)を導出し、そこから座標を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 幾何学的理解の深化: 電子の運動軌跡が放物線であることを数式から直接理解でき、重力場中の水平投射との類似性が明確になります。
    • 応用力の向上: 時間が明示的に与えられていない問題や、軌道の形状そのものが問われる問題に対応する力がつきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「一様な電場中における荷電粒子の運動」です。これは、重力場における物体の「水平投射」と全く同じ物理的構造を持つ重要な問題です。J.J.トムソンが電子の比電荷を測定した実験の原理でもあります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の独立性: \(x\) 軸方向(電場と垂直)と \(y\) 軸方向(電場と平行)の運動を分けて考えること。
  2. 電場から受ける力: 電荷 \(q\) の粒子が電場 \(E\) から受ける力は \(F = qE\) であること。特に負電荷(電子)の場合、力の向きは電場の向きと逆になることに注意が必要です。
  3. 運動方程式: 力の向きと大きさを正しく把握し、\(ma = F\) を立てて加速度を求めること。
  4. 等加速度直線運動の公式: 一定の力が働く方向には、等加速度運動の公式を適用すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電場の力が働かない \(x\) 方向の運動に着目し、等速直線運動として時間を求めます。
  2. (2)では、電場の力が働く \(y\) 方向の運動に着目します。運動方程式から加速度を求め、等加速度直線運動の公式を用いて速度成分と座標を計算します。
  3. (3)では、(2)の結果を整理して、比電荷 \(e/m\) についての式を導きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
電子が極板間を通過する時間を求めます。
まず、電子に働く力を考えます。電場は \(y\) 軸方向(縦方向)にかかっており、\(x\) 軸方向(横方向)には力は働いていません。
力が働かない方向では、物体は慣性の法則により、初速度のまま等速直線運動を続けます。
この設問における重要なポイント

  • \(x\) 軸方向には力が働かないため、加速度は \(0\) である。
  • したがって、\(x\) 軸方向は速さ \(v\) の等速直線運動となる。
  • 移動距離は極板の長さ \(l\) である。

具体的な解説と立式
電子が極板間に進入してから出るまでの時間を \(t\) とします。
\(x\) 軸方向の運動に注目すると、速さは一定の \(v\) であり、進む距離は \(l\) です。
等速直線運動の式(距離 = 速さ \(\times\) 時間)より、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
l &= vt
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の式: \(x = vt\)
計算過程

上記の式を時間 \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
vt &= l \\[2.0ex]
t &= \frac{l}{v}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

横方向(\(x\) 方向)には誰も電子を押したり引いたりしていません。そのため、電子は最初に持っていたスピード \(v\) を保ったまま、スーッと右へ進んでいきます。距離 \(l\) を一定のスピード \(v\) で進むので、かかる時間は単純に「距離 \(\div\) 速さ」で計算できます。

結論と吟味

時間は \(t = \frac{l}{v}\) と求まりました。
速さ \(v\) が大きいほど時間は短くなり、距離 \(l\) が長いほど時間は長くなるため、直感的にも妥当です。

解答 (1) \(\displaystyle t = \frac{l}{v}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
点Pでの速度の \(y\) 成分 \(v_y\) と、\(y\) 座標を求めます。
今度は \(y\) 軸方向(縦方向)の運動に注目します。極板間には下向きの電場 \(E\) があり、負の電荷を持つ電子は、電場と逆向き(上向き)に静電気力を受けます。
一定の大きさの力を受け続けるため、電子は \(y\) 軸方向に等加速度直線運動をします。
この設問における重要なポイント

  • 電子(電荷 \(-e\))が受ける静電気力の大きさは \(F = eE\) であり、向きは電場(下向き)と逆の上向き(\(y\) 軸正の向き)である。
  • 重力は無視できるため、働く力は静電気力のみである。
  • \(y\) 軸方向の初速度は \(0\) である(水平に入射したため)。
  • 運動方程式を立てて加速度 \(a\) を求め、等加速度運動の公式を利用する。

具体的な解説と立式
まず、\(y\) 軸方向の運動方程式を立てて加速度 \(a\) を求めます。
上向きを正とします。
質量を \(m\)、加速度を \(a\) とすると、運動方程式 \(ma = F\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
ma &= eE \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、求めた加速度 \(a\) と、(1)で求めた時間 \(t\) を用いて、速度 \(v_y\) と位置 \(y\) の式を立てます。
\(y\) 方向の初速度は \(0\) なので、等加速度直線運動の公式より、
速度 \(v_y\) は、
$$
\begin{aligned}
v_y &= at \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
位置 \(y\) は、
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2}at^2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電場から受ける力: \(F = qE\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\), \(x = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

まず、式①より加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{eE}{m}
\end{aligned}
$$
次に、この \(a\) と (1)の結果 \(t = \frac{l}{v}\) を式②に代入して \(v_y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_y &= \frac{eE}{m} \times \frac{l}{v} \\[2.0ex]
v_y &= \frac{eEl}{mv}
\end{aligned}
$$
同様に、\(a\) と \(t\) を式③に代入して \(y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \times \frac{eE}{m} \times \left( \frac{l}{v} \right)^2 \\[2.0ex]
y &= \frac{1}{2} \cdot \frac{eE}{m} \cdot \frac{l^2}{v^2} \\[2.0ex]
y &= \frac{eEl^2}{2mv^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子はマイナスの電気を持っているので、下向きの電場から「上に行け!」という一定の力を受けます。これにより、電子は上にどんどん加速していきます。
(1)で求めた「通過にかかる時間」の間に、どれくらい加速してスピードがついたか(\(v_y\))、そしてどれくらい上の位置まで持ち上げられたか(\(y\))を計算しました。これは、ボールを水平に投げたときに重力で下に落ちていく運動(水平投射)を、ひっくり返して上向きに力がかかっている状態と同じです。

結論と吟味

速度の \(y\) 成分は \(v_y = \frac{eEl}{mv}\)、\(y\) 座標は \(y = \frac{eEl^2}{2mv^2}\) と求まりました。
電場 \(E\) が強いほど、あるいは極板の長さ \(l\) が長いほど、電子は大きく曲げられて \(y\) 座標が大きくなるため、物理的にも妥当な結果です。

解答 (2) 速度の \(y\) 成分: \(\displaystyle \frac{eEl}{mv}\), 点Pの \(y\) 座標: \(\displaystyle \frac{eEl^2}{2mv^2}\)
別解: 軌道の式(放物線の方程式)を用いる解法

思考の道筋とポイント
時間 \(t\) を媒介変数として計算する代わりに、\(x\) と \(y\) の関係式(軌道の式)を直接導いて考えます。
\(x\) 方向の等速運動の式から \(t\) を \(x\) で表し、それを \(y\) 方向の運動の式に代入することで、時間 \(t\) を消去します。これにより、電子がどのような曲線を描いて飛んでいるかが明確になります。
この設問における重要なポイント

  • 任意の時刻 \(t\) における \(x\) 座標は \(x = vt\) である。
  • 任意の時刻 \(t\) における \(y\) 座標は \(y = \frac{1}{2}at^2\) である。
  • この2式から \(t\) を消去すると、\(y\) は \(x\) の2次関数(放物線)となる。

具体的な解説と立式
時刻 \(t\) における電子の位置 \((x, y)\) を考えます。
\(x\) 方向は等速直線運動なので、
$$
\begin{aligned}
x &= vt \quad \cdots \text{(A)}
\end{aligned}
$$
\(y\) 方向は初速度 \(0\)、加速度 \(a = \frac{eE}{m}\) の等加速度直線運動なので、
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2}at^2 \\[2.0ex]
y &= \frac{1}{2} \frac{eE}{m} t^2 \quad \cdots \text{(B)}
\end{aligned}
$$
式(A)より \(t = \frac{x}{v}\) とし、これを式(B)に代入して \(t\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \frac{eE}{m} \left( \frac{x}{v} \right)^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 等加速度直線運動: \(y = \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

得られた軌道の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \frac{eE}{m} \frac{x^2}{v^2} \\[2.0ex]
y &= \frac{eE}{2mv^2} x^2
\end{aligned}
$$
これが電子の軌道を表す式(放物線)です。
点Pの \(y\) 座標を求めるには、この式に点Pの \(x\) 座標である \(x = l\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{eE}{2mv^2} l^2 \\[2.0ex]
y &= \frac{eEl^2}{2mv^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「何秒後にどこにいるか」という時間の考え方をやめて、「横に \(x\) 進んだとき、縦には \(y\) 進んでいる」という場所と場所の関係に注目しました。計算の結果、\(y\) は \(x\) の2乗に比例することがわかりました。これは数学で習う「放物線(\(y=ax^2\))」の形です。この放物線の式に、ゴールの横位置 \(x=l\) を入れるだけで、縦の位置 \(y\) が一発で求まります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、時間 \(t\) を求める必要がない場合や、軌道の形そのものを問われる場合に非常に有効です。

解答 (2) 点Pの \(y\) 座標: \(\displaystyle \frac{eEl^2}{2mv^2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
電子の比電荷 \(\frac{e}{m}\) を、\(y\) を含んだ式で表します。
これは新しい物理現象を解くのではなく、(2)で求めた \(y\) の式を、指定された形に変形する数学的な操作です。
「比電荷」とは、粒子の質量 \(m\) に対する電荷 \(e\) の比(\(e/m\))のことです。
この設問における重要なポイント

  • (2)で求めた関係式 \(y = \frac{eEl^2}{2mv^2}\) が正しいことが前提となる。
  • この等式を \(\frac{e}{m} = \dots\) の形に変形する。

具体的な解説と立式
(2)の結果より、以下の等式が成り立っています。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{eEl^2}{2mv^2}
\end{aligned}
$$
この式の右辺にある \(\frac{e}{m}\) をひとまとまりとして捉え、それ以外の項を左辺に移項します。

使用した物理公式

  • なし(数式変形のみ)
計算過程

両辺に \(\frac{2v^2}{El^2}\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
y \times \frac{2v^2}{El^2} &= \frac{e}{m} \times \frac{El^2}{2v^2} \times \frac{2v^2}{El^2} \\[2.0ex]
\frac{2v^2 y}{El^2} &= \frac{e}{m}
\end{aligned}
$$
左右を入れ替えて整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{e}{m} &= \frac{2v^2 y}{El^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)で求めた式は、「比電荷 \(\frac{e}{m}\) がわかっていれば、曲がり具合 \(y\) が計算できる」というものでした。これを逆転させて、「実験で曲がり具合 \(y\) を測定すれば、そこから比電荷 \(\frac{e}{m}\) を計算できる」という式に書き換えました。これがJ.J.トムソンが行った実験の原理です。彼はこの方法で電子の比電荷を測定し、電子が原子よりもはるかに軽い粒子であることを発見しました。

結論と吟味

比電荷は \(\frac{e}{m} = \frac{2v^2 y}{El^2}\) と表されました。
測定可能な量(\(v, y, E, l\))から、目に見えない微小な粒子の性質(\(e/m\))を決定できることを示しています。

解答 (3) \(\displaystyle \frac{e}{m} = \frac{2v^2 y}{El^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の独立性と成分分解
    • 核心: 2次元平面内の運動を、互いに影響し合わない「直交する2つの1次元運動」に分解して考えることです。この問題では、力が働かない \(x\) 軸方向(等速直線運動)と、一定の力が働く \(y\) 軸方向(等加速度直線運動)に完全に分離して解析します。
    • 理解のポイント:
      • 力の有無: どの方向に力が働いているか(あるいは働いていないか)を見極めることが出発点です。
      • 時間の共有: 分解された2つの運動をつなぐ唯一の共通変数は「時間 \(t\)」です。\(x\) 方向の運動から求めた時間を、\(y\) 方向の運動の式に代入することで、空間的な軌道や位置関係を導き出せます。
  • 電場中の荷電粒子の運動方程式
    • 核心: 電場 \(E\) 中にある電荷 \(q\) の粒子は、静電気力 \(F = qE\) を受けるという法則を、ニュートンの運動方程式 \(ma = F\) に適用することです。
    • 理解のポイント:
      • 力の向き: 正電荷なら電場と同じ向き、負電荷(電子など)なら電場と逆向きに力を受けます。この向きの判断が、座標設定や符号の決定において決定的に重要です。
      • 重力との比較: 電子のような微小粒子では、静電気力 \(eE\) に比べて重力 \(mg\) は無視できるほど小さいことが一般的です。問題文に「重力は無視できる」とある場合、考慮すべき力は静電気力のみとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 重力場中の水平投射: ビルの屋上からボールを水平に投げる問題。重力加速度 \(g\) を、この問題の加速度 \(a = eE/m\) に置き換えるだけで、全く同じ数式構造になります。
    • 磁場中の荷電粒子の運動: 電場ではなく磁場がかかっている場合、ローレンツ力 \(qvB\) が働きます。ただし、ローレンツ力は速度に垂直に働くため、等加速度運動ではなく「等速円運動」になる点に注意が必要です。
    • 斜めに入射する場合: 初速度が \(x\) 軸に対して角度を持っている場合、初速度を \(x\) 成分と \(y\) 成分に分解し、\(y\) 方向は「鉛直投げ上げ(に相当する運動)」として扱います。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の向きと大きさを特定する: 粒子に働く力は何か(重力、静電気力、ローレンツ力など)、どの向きか、大きさは一定か変化するかを確認します。
    2. 運動の種類を分類する:
      • 力が \(0\) → 等速直線運動
      • 力が一定で速度と平行 → 等加速度直線運動
      • 力が一定で速度と垂直 → 放物運動(水平投射など)
      • 力が速度と常に垂直で大きさ一定 → 等速円運動
    3. 座標軸を設定する: 力の方向に軸(例えば \(y\) 軸)を、それに垂直な方向に軸(例えば \(x\) 軸)を設定すると、計算が最も簡単になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力の向きの勘違い(特に負電荷):
    • 誤解: 電場が下向きだから、電子も下向きに力を受けると直感的に考えてしまう。
    • 対策: 「\(F = qE\)」の公式において、\(q\) が負(\(-e\))ならば、力 \(F\) ベクトルは電場 \(E\) ベクトルと逆向きになることを常に意識します。図に力の矢印を書き込む際、必ず電荷の符号を確認する癖をつけましょう。
  • 加速度の質量忘れ:
    • 誤解: 加速度を \(a = eE\) としてしまう(質量 \(m\) で割るのを忘れる)。
    • 対策: 運動方程式は必ず「\(ma = F\)」の形で書き出し、そこから「\(a = F/m\)」と変形する手順を踏みます。いきなり公式として覚えようとせず、運動方程式から導く意識を持つことでミスを防げます。また、単位(次元)を確認することも有効です(\(eE\) は力の単位 \(\text{N}\)、\(a\) は加速度の単位 \(\text{m/s}^2\) なのでイコールにはなりません)。
  • \(x\) 成分と \(y\) 成分の混同:
    • 誤解: \(x\) 方向の移動距離 \(l\) を使って \(y\) 方向の計算をしてしまう、あるいはその逆。
    • 対策: ノートに「\(x\) 方向:…」「\(y\) 方向:…」と明確に見出しをつけて、情報を整理して書き出すようにします。それぞれの方向で使える変数が何であるかを視覚的に区別しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(等速直線運動):
    • 選定理由: \(x\) 軸方向には電場による力が働かず(電場は \(y\) 軸方向のみ)、重力も無視できるため、加速度はゼロです。したがって、運動は「等速直線運動」になります。
    • 適用根拠: 等速直線運動において、距離、速さ、時間の関係は \(x = vt\) という唯一の単純な式で記述されます。
  • 問(2)での公式選択(等加速度直線運動):
    • 選定理由: \(y\) 軸方向には一定の静電気力 \(eE\) が働き続けるため、加速度 \(a = eE/m\) は一定です。したがって、運動は「等加速度直線運動」になります。
    • 適用根拠: 初速度 \(v_{y0} = 0\) であることから、速度の式 \(v_y = at\) と変位の式 \(y = \frac{1}{2}at^2\) を選択します。これらは、時間 \(t\) がわかっている場合に速度と位置を求めるための最も基本的なツールです。
  • 別解でのアプローチ選択(軌道の式):
    • 選定理由: 時間 \(t\) を経由せずに、空間的な位置関係(\(x\) と \(y\) の関係)を直接知りたい場合に有効です。
    • 適用根拠: \(x = vt\) と \(y = \frac{1}{2}at^2\) の2式から \(t\) を消去することで、物理現象の時間変化ではなく、軌跡の形状(幾何学的特性)に焦点を当てた解析が可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • この問題のように具体的な数値が与えられていない場合、最後まで文字式のまま計算することになります。途中で勝手に数値を仮定したりせず、与えられた文字(\(e, m, E, v, l\))だけを使って式変形を行う訓練をしましょう。
  • 次元解析(単位チェック)による検算:
    • 得られた答えの次元(単位)が正しいかを確認します。
    • 例えば、(1)の時間 \(t = l/v\) は \([\text{m}] / [\text{m/s}] = [\text{s}]\) となり正しいです。
    • (2)の速度 \(v_y = eEl/mv\) については、\(eE\)(力 \([\text{N}] = [\text{kg} \cdot \text{m/s}^2]\))、\(l\)(長さ \([\text{m}]\))、\(m\)(質量 \([\text{kg}]\))、\(v\)(速さ \([\text{m/s}]\))を用いて確認すると、
      \(\displaystyle \frac{[\text{kg} \cdot \text{m/s}^2] \cdot [\text{m}]}{[\text{kg}] \cdot [\text{m/s}]} = \frac{[\text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{m/s}]} = [\text{m/s}]\)
      となり、速度の次元として正しいことが確認できます。
  • 極端な場合を想定する:
    • もし電場 \(E\) が \(0\) だったらどうなるか? → 力が働かないので曲がらないはず。式 \(y = \frac{eEl^2}{2mv^2}\) で \(E=0\) とすると \(y=0\) となり、直進することを示しているので整合します。
    • もし速さ \(v\) が無限大だったら? → 一瞬で通り過ぎるので曲がらないはず。式で \(v \to \infty\) とすると \(y \to 0\) となり、これも整合します。このようなチェックを瞬時に行う癖をつけると、ミスの発見率が格段に上がります。

基本例題80 ミリカンの実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解: 個別のデータから求めた値の平均をとる解法
      • 模範解答が「電気量の総和」を「整数の総和」で割って一気に \(e\) を求めるのに対し、別解では各測定値ごとに \(e\) を算出し、最後にそれらの算術平均をとります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • データのばらつきの可視化: 各測定値から得られる \(e\) の値が微妙に異なることを確認でき、実験誤差の存在を実感できます。
    • 直感的なデータ処理: 「それぞれの結果を平均する」という、より一般的で直感的な統計処理の手順を学べます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは有効数字の範囲内で模範解答と一致します。

この問題のテーマは「ミリカンの実験とデータ処理」です。アメリカの物理学者ミリカンは、油滴の帯電量(電気量)を精密に測定し、それらがすべてある最小単位(電気素量)の整数倍になっていることを発見しました。この実験データの解析プロセスを追体験することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電気の量子性: 物体が帯びる電気量 \(Q\) は、電気素量 \(e\) の整数倍という不連続な値をとります(\(Q = ne\))。
  2. データ解析の基本(最大公約数の推定): 複数の測定値の差をとることで、それらに共通する基本単位(最大公約数的な値)を見つけ出す手法です。
  3. 誤差の処理: 複数のデータがある場合、合計したり平均をとったりすることで、測定誤差を小さくし、真の値に近づけることができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、測定値を小さい順に並べ、隣り合う値の差(差分)を計算します。
  2. 差分の中に現れる最小の値(またはその約数)が、電気素量 \(e\) の近似値であると推定します。
  3. 各測定値が、この推定値の何倍(整数倍)になっているかを判定し、各データに対応する整数 \(n\) を決定します。
  4. 最後に、全データの合計を利用して、より精度の高い \(e\) の値を計算します。

電気素量の導出

思考の道筋とポイント
与えられた5つのデータは、すべて電気素量 \(e\) の整数倍(\(ne\))になっているはずです。しかし、それぞれの \(n\) がいくつなのかは未知数です。
そこで、データ同士の「差」に注目します。もしあるデータが \(3e\) で、次のデータが \(4e\) なら、その差は \(1e\) になります。もし \(3e\) と \(5e\) なら差は \(2e\) です。
このように、データの差をとることで、\(e\) そのもの、あるいは \(e\) の小さな整数倍が現れるはずです。これを利用して \(e\) のおおよその値を推定(アタリをつける)します。
この設問における重要なポイント

  • 測定値は \(4.82, 6.43, 9.66, 11.24, 12.83 (\times 10^{-19}\,\text{C})\) の5つ。
  • 隣り合うデータの差を計算し、共通する「基本単位」を探す。
  • 推定した基本単位を使って、各データの整数 \(n\) を特定する。
  • 精度を上げるため、単一のデータではなく全データを用いて計算する。

具体的な解説と立式
まず、測定値を小さい順に \(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4, Q_5\) とし、隣り合う測定値の差 \(\Delta Q\) を計算します。共通因数 \(10^{-19}\) は計算の最後につけるとして、仮数部(数字の部分)だけで計算します。

$$
\begin{aligned}
Q_2 – Q_1 &= 6.43 – 4.82 \\[2.0ex]
&= 1.61
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_3 – Q_2 &= 9.66 – 6.43 \\[2.0ex]
&= 3.23
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_4 – Q_3 &= 11.24 – 9.66 \\[2.0ex]
&= 1.58
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_5 – Q_4 &= 12.83 – 11.24 \\[2.0ex]
&= 1.59
\end{aligned}
$$

これらの差を見ると、\(1.61, 1.58, 1.59\) は互いに非常に近く、\(3.23\) はそれらの約 \(2\) 倍(\(1.61 \times 2 = 3.22\))であることがわかります。
したがって、電気素量 \(e\) の値は \(1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\) 付近であると推定できます。

次に、この推定値(約 \(1.6\))を使って、各測定値が \(e\) の何倍(整数 \(n\))に相当するかを割り出します。
$$
\begin{aligned}
Q_1 &: 4.82 \div 1.6 \approx 3.01 \rightarrow n_1 = 3 \\[2.0ex]
Q_2 &: 6.43 \div 1.6 \approx 4.02 \rightarrow n_2 = 4 \\[2.0ex]
Q_3 &: 9.66 \div 1.6 \approx 6.04 \rightarrow n_3 = 6 \\[2.0ex]
Q_4 &: 11.24 \div 1.6 \approx 7.03 \rightarrow n_4 = 7 \\[2.0ex]
Q_5 &: 12.83 \div 1.6 \approx 8.02 \rightarrow n_5 = 8
\end{aligned}
$$

これで、各測定値に対応する整数が決まりました。
より正確な \(e\) を求めるために、測定値の合計を、対応する整数の合計で割ります。これは、5つの油滴をまとめて「1つの巨大な油滴」とみなし、その総電気量を総電子数で割ることで平均化する操作です。
求める電気素量を \(e\) とすると、以下の関係式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(n_1 + n_2 + n_3 + n_4 + n_5)e &= Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4 + Q_5
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電気量の量子化: \(Q = ne\)
計算過程

まず、整数の和を計算します。
$$
\begin{aligned}
n_1 + n_2 + n_3 + n_4 + n_5 &= 3 + 4 + 6 + 7 + 8 \\[2.0ex]
&= 28
\end{aligned}
$$
次に、測定値(仮数部)の和を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4 + Q_5 &= 4.82 + 6.43 + 9.66 + 11.24 + 12.83 \\[2.0ex]
&= 44.98
\end{aligned}
$$
これらを式に代入して \(e\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
28e &= 44.98 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
e &= \frac{44.98}{28} \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 1.6064\dots \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で答えるため、4桁目を四捨五入します。
$$
\begin{aligned}
e &\approx 1.61 \times 10^{-19}\,\text{C}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

バラバラに見える5つの数字ですが、実はすべて「ある決まった数(電気素量)」の足し算で作られています。隣同士の数字の引き算をしてみると、その「決まった数」の正体(約 \(1.6\))が見えてきました。
この「約 \(1.6\)」を基準にすると、それぞれの数字が「3個分」「4個分」…といった具合にきれいに割り切れることがわかります。
最後に、1個1個計算して平均する代わりに、全部まとめて「合計28個分で \(44.98\)」として計算することで、測定のズレ(誤差)を薄めて、より正確な「1個分の値」を求めました。

結論と吟味

電気素量の値として \(1.61 \times 10^{-19}\,\text{C}\) が得られました。これは現代の精密な測定値(約 \(1.602 \times 10^{-19}\,\text{C}\))と非常によく一致しており、妥当な結果です。

解答 \(1.61 \times 10^{-19}\,\text{C}\)
別解: 個別のデータから求めた値の平均をとる解法

思考の道筋とポイント
模範解答ではデータを合計してから割りましたが、ここでは各データごとに「そのデータが示す電気素量 \(e_i\)」を計算し、最後にそれらの平均をとります。
この方法では、各測定値がどれくらいのばらつきを持っているかを確認しながら計算を進めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 各測定値 \(Q_i\) と、特定した整数 \(n_i\) を用いて、個別の電気素量 \(e_i = Q_i / n_i\) を求める。
  • 得られた5つの \(e_i\) の算術平均を計算する。

具体的な解説と立式
各測定値 \(Q_i\) を対応する整数 \(n_i\) で割り、個別の電気素量 \(e_i\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
e_i &= \frac{Q_i}{n_i}
\end{aligned}
$$
その後、全データの平均値 \(\bar{e}\) を求めます。データの個数を \(N=5\) とします。
$$
\begin{aligned}
\bar{e} &= \frac{e_1 + e_2 + e_3 + e_4 + e_5}{N}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 平均値の定義: \(\bar{x} = \frac{x_1 + x_2 + \dots + x_N}{N}\)
計算過程

各データについて計算します(\(10^{-19}\) は省略)。
$$
\begin{aligned}
e_1 &= \frac{4.82}{3} = 1.6066\dots \\[2.0ex]
e_2 &= \frac{6.43}{4} = 1.6075 \\[2.0ex]
e_3 &= \frac{9.66}{6} = 1.6100 \\[2.0ex]
e_4 &= \frac{11.24}{7} = 1.6057\dots \\[2.0ex]
e_5 &= \frac{12.83}{8} = 1.6037\dots
\end{aligned}
$$
これらの平均をとります。
$$
\begin{aligned}
\bar{e} &= \frac{1.6066 + 1.6075 + 1.6100 + 1.6057 + 1.6037}{5} \\[2.0ex]
&= \frac{8.0335}{5} \\[2.0ex]
&= 1.6067\dots
\end{aligned}
$$
有効数字3桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
\bar{e} &\approx 1.61 \times 10^{-19}\,\text{C}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

それぞれの油滴について、「君の持っている電気量から計算すると、電気素量はこれくらいだね」という値を個別に計算しました。実験なので多少のズレ(\(1.603\) ~ \(1.610\))がありますが、それらの平均をとることで、より確からしい値を求めました。

結論と吟味

模範解答と全く同じ結果 \(1.61 \times 10^{-19}\,\text{C}\) が得られました。計算の手間は増えますが、データの質(ばらつき具合)を確認できる点で優れた方法です。

解答 \(1.61 \times 10^{-19}\,\text{C}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電気量の量子化(不連続性)
    • 核心: 自然界に存在する電気量 \(Q\) は、連続的な値(好きな値を自由にとれる)ではなく、ある最小単位 \(e\)(電気素量)の整数倍(\(Q = ne\))という飛び飛びの値しかとれないという法則です。
    • 理解のポイント:
      • 原子論的背景: 物質は原子からできており、電気現象の担い手である電子や陽子の電気量が \(e\) という一定の値を持っていることに起因します。
      • データの見方: 測定値がバラバラに見えても、それらはすべて「同じレンガ(\(e\))」を積み重ねてできた高さのようなものです。レンガ1個の高さを知るには、全体の高さだけでなく、レンガ同士の段差(差分)に注目するのが有効です。
  • 測定データの統計処理と誤差
    • 核心: どんなに精密な実験でも測定誤差は避けられません。真の値に近づくためには、複数のデータを用いて平均化などの処理を行う必要があります。
    • 理解のポイント:
      • 差分法: データの差をとることで、共通因子(最大公約数)を見つけ出す手法です。
      • 平均化の意義: 1つのデータだけでは偶然の誤差が大きく影響する可能性がありますが、多くのデータを混ぜて計算することで、プラスの誤差とマイナスの誤差が打ち消し合い、より信頼できる値が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 原子の質量分析: 質量の異なる同位体の存在比や、化学反応における質量変化のデータから、原子量や分子量を推定する問題。これも「原子」という基本単位の整数倍が隠れています。
    • 光電効果の実験データ解析: 阻止電圧と振動数のグラフからプランク定数を求める問題など、実験データから物理定数を決定するタイプの問題全般。
    • 周期性のある現象の解析: 波動の干渉縞の間隔や、結晶格子によるX線回折など、ある基本単位(波長や格子定数)の整数倍で現象が起きる場合。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「整数倍」の匂いを嗅ぎ取る: 問題文に「〜の整数倍」「不連続な値」といったキーワードがあるか、あるいは物理的背景(原子、電子、光子など)から量子性が予想されるかを確認します。
    2. 差をとってみる: データが等差数列的であったり、何らかの規則性がありそうな場合は、隣り合うデータの差を計算してみます。そこに共通する最小単位が見つかれば、それが解法の鍵です。
    3. グラフを描く(イメージする): 横軸に整数 \(n\)、縦軸に測定値 \(Q\) をとると、データは原点を通る直線上に並ぶはずです。この直線の傾きが求める基本単位(\(e\))になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 最小の測定値をそのまま \(e\) だと思い込む:
    • 誤解: データの中で一番小さい値(この問題なら \(4.82\))が電気素量 \(e\) だと早合点してしまう。
    • 対策: 一番小さい値であっても、それが \(2e\) や \(3e\) である可能性があります。必ず「差」をとって、より小さな単位が隠れていないか確認しましょう。この問題でも最小値 \(4.82\) は実は \(3e\) でした。
  • 整数の割り当てミス:
    • 誤解: 推定した \(e\) で割ったとき、\(3.9\) や \(4.1\) となった場合、四捨五入してよいか迷う、あるいは計算ミスで全く違う整数にしてしまう。
    • 対策: 実験データには誤差が含まれるため、割り算の結果が綺麗な整数になることは稀です。\(3.9\) なら \(4\)、\(7.1\) なら \(7\) といった具合に、最も近い整数に丸めるのが正解です。ただし、\(3.5\) のように真ん中の値が出た場合は、推定した \(e\) が間違っている(実は \(2e\) だったなど)可能性を疑いましょう。
  • 有効数字の扱い:
    • 誤解: 計算途中で数値を丸めすぎてしまい、最終的な精度の低下を招く。
    • 対策: 途中計算では、最終的に必要な桁数よりも1桁多く残して計算します(ガードデジット)。この問題では有効数字3桁が求められているので、途中は4桁目まで残して計算し、最後に四捨五入します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)でのアプローチ選択(差分法と平均化):
    • 選定理由: 未知数である「電気素量 \(e\)」と、各データに対応する「整数 \(n\)」を同時に決定する必要があります。方程式を解くというよりは、データの背後にある規則性を見つけ出す「推定」のプロセスが必要です。
    • 適用根拠:
      1. 差分法: \(Q_i = n_i e\) というモデルにおいて、\(Q_j – Q_i = (n_j – n_i)e\) となり、差もまた \(e\) の整数倍になります。特に隣り合うデータの差は \(1e\) や \(2e\) になりやすく、\(e\) の推定に最適です。
      2. 総和による平均化: 個別に \(e\) を求めて平均するのも良いですが、\(\sum Q = (\sum n)e\) という式を使えば、割り算を一回で済ませられ、計算誤差の蓄積も防げます。これは「加重平均」の一種とみなすこともでき、物理実験のデータ処理として非常に合理的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 仮数部と指数部を分ける:
    • \(10^{-19}\) のような指数部分は、計算の邪魔になるので一旦脇に置いておき、\(4.82, 6.43 \dots\) といった仮数部(数字部分)だけで計算を進めます。最後に \(10^{-19}\) を付け忘れないように注意しましょう。
  • 表を作る:
    • 測定値 \(Q\)、差 \(\Delta Q\)、推定した整数 \(n\)、\(Q/n\) の値を整理した表を作ると、計算ミスが減り、全体像が把握しやすくなります。
      \(Q\) \(n\) (推定)
      4.82 3
      6.43 1.61 4
      9.66 3.23 6
  • 検算のテクニック:
    • 求めた \(e \approx 1.61\) を使って、逆に \(3 \times 1.61 = 4.83\), \(4 \times 1.61 = 6.44\) … と計算し、元のデータに近い値になるか確認します。大きくずれていれば、\(n\) の推定か計算のどこかが間違っています。

基本例題81 光電効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
      • 模範解答が「失う運動エネルギーと最大運動エネルギーが等しい」という言葉の説明で解いているのに対し、別解では電子の運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和が保存されることを数式で厳密に記述して解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的厳密性の向上: 「失うエネルギー」という直感的な表現ではなく、保存則という普遍的な原理に基づいて立式することで、より複雑な状況(電位が変化する場合など)にも対応できる力がつきます。
    • 符号ミスの防止: 電子の電荷が負(\(-e\))であることを考慮して位置エネルギーを扱うため、電位差の正負による混乱を防げます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「光電効果」です。光電効果とは、金属に光を当てると電子が飛び出す現象であり、光が「波」としての性質だけでなく「粒子(光子)」としての性質を持つことを示す重要な実験事実です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光子説: 光はエネルギー \(h\nu\) を持つ粒子(光子)の流れであること。
  2. アインシュタインの光電効果の式: 光子のエネルギー \(h\nu\) は、電子を金属から引き剥がすための仕事関数 \(W\) と、飛び出した電子の最大運動エネルギー \(K_{\text{M}}\) に分配されること(\(h\nu = W + K_{\text{M}}\))。
  3. 阻止電圧: 飛び出した電子を電場で押し戻して電流をゼロにするために必要な逆電圧 \(V_0\) は、電子の最大運動エネルギーと対応していること(\(K_{\text{M}} = eV_0\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた波長 \(\lambda\) から振動数 \(\nu\) を求め(あるいは直接公式を使い)、光子1個のエネルギー \(E = h\nu = hc/\lambda\) を計算します。
  2. (2)では、エネルギー保存則(光電効果の式)を用いて、光子のエネルギーから仕事関数を引いた残りが電子の最大運動エネルギーになることを利用して計算します。
  3. (3)では、電子の運動エネルギーが電場による仕事によってゼロになる条件(阻止電圧)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
紫外線の光子1個のエネルギー \(E\) を求めます。
光子のエネルギーは、その振動数 \(\nu\) に比例し、比例定数はプランク定数 \(h\) です。
振動数 \(\nu\) は、光速 \(c\) と波長 \(\lambda\) の関係 \(c = \nu\lambda\) から求められます。
この設問における重要なポイント

  • 光子1個のエネルギーの公式は \(E = h\nu\) である。
  • 波と振動数の関係式 \(c = \nu\lambda\) を用いて、\(\nu = c/\lambda\) と書き換えられる。
  • 単位の変換に注意する(\(\text{nm} \rightarrow \text{m}\))。\(1\,\text{nm} = 10^{-9}\,\text{m}\) である。

具体的な解説と立式
光子1個のエネルギー \(E\) は、プランク定数 \(h\) と振動数 \(\nu\) を用いて \(E = h\nu\) と表されます。
また、光速 \(c\)、振動数 \(\nu\)、波長 \(\lambda\) の間には \(c = \nu\lambda\) の関係があるため、\(\nu = \frac{c}{\lambda}\) となります。
これらを組み合わせると、エネルギー \(E\) は以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{hc}{\lambda}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E = h\nu\)
  • 波の基本式: \(c = \nu\lambda\)
計算過程

与えられた数値を代入します。
\(h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\)
\(c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}\)
\(\lambda = 250\,\text{nm} = 250 \times 10^{-9}\,\text{m}\)

$$
\begin{aligned}
E &= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{250 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8 \times 10^{-26}}{2.5 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8}{2.5} \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 7.92 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、3桁目を四捨五入します。
$$
\begin{aligned}
E &\approx 7.9 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光は「光子」というエネルギーの粒です。その粒1個が持つエネルギーは、光の色(波長)で決まります。波長が短いほど(紫に近いほど)、エネルギーは大きくなります。ここでは公式に数値を当てはめて、紫外線という目に見えない光の粒のエネルギーを計算しました。

結論と吟味

光子エネルギーは \(7.9 \times 10^{-19}\,\text{J}\) と求まりました。
可視光や紫外線の光子エネルギーは \(10^{-19}\,\text{J}\) のオーダーになることが知られており、妥当な値です。

解答 (1) \(7.9 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
飛び出した電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{M}}\) を求めます。
金属中の電子は、原子核に束縛されています。電子が外に飛び出すには、最低でも「仕事関数 \(W\)」と呼ばれるエネルギーが必要です。
光子1個が電子1個に衝突し、自分のエネルギー \(E\) をすべて電子に与えます。電子はこのエネルギーを使って束縛を振り切り(\(W\) を消費し)、残ったエネルギーを持って飛び出します。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則(アインシュタインの光電効果の式): \(h\nu = K_{\text{M}} + W\)
  • これを変形して、\(K_{\text{M}} = h\nu – W\)(\(K_{\text{M}} = E – W\))として計算する。
  • 「最大値」となるのは、金属表面付近にある電子が、エネルギーロスなしに飛び出した場合である。

具体的な解説と立式
光子から与えられたエネルギー \(E\) は、電子が金属から脱出するための仕事関数 \(W\) と、飛び出した後の運動エネルギー \(K\) に使われます。
エネルギー保存則より、最もエネルギーを無駄なく使った場合(最大運動エネルギー \(K_{\text{M}}\))について以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
E &= K_{\text{M}} + W
\end{aligned}
$$
これを \(K_{\text{M}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{M}} &= E – W
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 光電効果の式: \(h\nu = K_{\text{M}} + W\)
計算過程

(1)で求めた \(E = 7.92 \times 10^{-19}\,\text{J}\)(途中計算の値を使用)と、与えられた \(W = 4.0 \times 10^{-19}\,\text{J}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{M}} &= (7.92 \times 10^{-19}) – (4.0 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= (7.92 – 4.0) \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 3.92 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{M}} &\approx 3.9 \times 10^{-19}\,\text{J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子は金属という「牢屋」に閉じ込められていて、出るためには \(W\) という「保釈金」が必要です。光子という「差し入れ」からエネルギー \(E\) をもらった電子は、そこから保釈金 \(W\) を支払い、残った金額 \(E-W\) をお小遣い(運動エネルギー)として持って外の世界へ飛び出します。

結論と吟味

最大運動エネルギーは \(3.9 \times 10^{-19}\,\text{J}\) と求まりました。
与えられたエネルギー \(E\) よりも小さく、かつ正の値になっているため、物理的に妥当です。

解答 (2) \(3.9 \times 10^{-19}\,\text{J}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
電流 \(I\) が \(0\) になる電圧(阻止電圧)\(V_0\) を求めます。
陰極 \(\text{P}_1\) から飛び出した電子は、陽極 \(\text{P}_2\) に向かって進みます。しかし、\(\text{P}_2\) の電位を低くすると、電子は電気的な反発力(負電荷なので、電位が低い方から反発を受ける)を受けて減速します。
電圧を大きくしていくと、最も速い電子(運動エネルギー \(K_{\text{M}}\) を持つ電子)でさえも \(\text{P}_2\) に到達できなくなり、電流が止まります。このときの電圧が \(V_0\) です。
この設問における重要なポイント

  • 電子(電荷 \(-e\))は、電位が低い方へ進むときに、電場から負の仕事をされて減速する(位置エネルギーが増える)。
  • \(\text{P}_1\) と \(\text{P}_2\) の電位差が \(V_0\) のとき、電子が \(\text{P}_2\) に到達するために必要なエネルギーは \(eV_0\) である。
  • 電流が \(0\) になる瞬間は、最大運動エネルギー \(K_{\text{M}}\) を持つ電子が、ちょうど \(\text{P}_2\) の直前で止まってしまう状況に対応する。

具体的な解説と立式
電子が電場に逆らって進むとき、運動エネルギーが電気的な位置エネルギーに変換されます。
電流が \(0\) になる限界の電圧 \(V_0\) では、最大運動エネルギー \(K_{\text{M}}\) を持つ電子が持つエネルギーをすべて使い果たしてようやく \(\text{P}_2\) に届く(速度が \(0\) になる)と考えられます。
したがって、以下のエネルギーの関係式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{M}} &= eV_0
\end{aligned}
$$
これを \(V_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{K_{\text{M}}}{e}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 静電気力による仕事(位置エネルギーの変化): \(W = qV\)
計算過程

(2)で求めた \(K_{\text{M}} = 3.92 \times 10^{-19}\,\text{J}\) と、電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{3.92 \times 10^{-19}}{1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= \frac{3.92}{1.6} \\[2.0ex]
&= 2.45\,\text{V}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
V_0 &\approx 2.5\,\text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

飛び出した電子はゴール(\(\text{P}_2\))に向かって走りますが、向かい風(逆電圧)が吹いています。風が強くなる(電圧を上げる)と、走るのが大変になります。一番元気な電子(\(K_{\text{M}}\) を持つ電子)でさえも、ゴールの手前で力尽きて止まってしまうような風の強さ(電圧 \(V_0\))を計算しました。

結論と吟味

阻止電圧は \(2.5\,\text{V}\) と求まりました。
数ボルト程度の電圧で光電流が止まるというのは、実際の光電効果の実験結果とも整合する妥当な値です。

解答 (3) \(2.5\,\text{V}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法

思考の道筋とポイント
「失ったエネルギー」という考え方の代わりに、力学的エネルギー保存則(運動エネルギー \(+\) 位置エネルギー \(=\) 一定)を厳密に適用します。
電子の電荷が \(-e\) であることに注意して、電位 \(V\) の場所での位置エネルギー \(U = (-e)V\) を考えます。
この設問における重要なポイント

  • \(\text{P}_1\) の電位を \(0\) とすると、\(\text{P}_2\) の電位は \(-V_0\) となる(\(\text{P}_2\) の方が低い)。
  • \(\text{P}_1\) での電子の運動エネルギーは \(K_{\text{M}}\)、位置エネルギーは \(0\)。
  • \(\text{P}_2\) に到達した瞬間の電子の運動エネルギーは \(0\)(ギリギリ届く条件)、位置エネルギーは \((-e) \times (-V_0) = eV_0\)。

具体的な解説と立式
\(\text{P}_1\) を出発する直前と、\(\text{P}_2\) に到達した直後で、力学的エネルギー保存則を立てます。
\(\text{P}_1\) の電位を基準(\(0\))とします。

  • \(\text{P}_1\) でのエネルギー: \(K_{\text{M}} + (-e) \times 0 = K_{\text{M}}\)
  • \(\text{P}_2\) でのエネルギー: \(0 + (-e) \times (-V_0) = eV_0\)

保存則より、これらは等しいので、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{M}} &= eV_0
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K + U = \text{一定}\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
計算過程

ここからの計算は主たる解法と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{K_{\text{M}}}{e} \\[2.0ex]
&= \frac{3.92 \times 10^{-19}}{1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= 2.45\,\text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボールを坂の下から上に向かって転がす状況に似ています。最初の勢い(運動エネルギー)が、坂を登るにつれて高さのエネルギー(位置エネルギー)に変わっていきます。一番上(\(\text{P}_2\))まで登りきったところでちょうど速さがゼロになる、というエネルギーの貸し借りの式を立てました。電子はマイナスの電気を持っているので、「電位が低い」場所ほど、電子にとっては「位置エネルギーが高い(坂の上)」場所になることに注意が必要です。

結論と吟味

主たる解法と同じ式、同じ結果が得られました。この方法は、電位の正負や電荷の正負が複雑な問題でも、機械的に立式できるためミスが少なくなります。

解答 (3) \(2.5\,\text{V}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 光子説とエネルギー量子
    • 核心: 光は連続的な波ではなく、エネルギー \(E = h\nu\) を持つ粒子(光子)の集まりであるというアインシュタインの仮説です。
    • 理解のポイント:
      • 振動数依存性: 光子1個のエネルギーは、光の強さ(明るさ)ではなく、振動数(色)だけで決まります。
      • 1対1の相互作用: 光電効果では、1個の光子が1個の電子に衝突し、エネルギーをすべて渡して消滅します。この「1対1対応」が現象を理解する鍵です。
  • エネルギー保存則(光電効果の式)
    • 核心: 光子から得たエネルギー \(h\nu\) は、「脱出コスト(仕事関数 \(W\))」と「脱出後の運動エネルギー \(K\)」に使われるという収支決算の法則です。
    • 理解のポイント:
      • 最大値の意味: 金属内部の深いところにある電子は脱出までに追加のエネルギーロスがありますが、表面にある電子はロスなしで飛び出せます。この「最も幸運な電子」が持つ運動エネルギーが \(K_{\text{M}}\) です。式 \(h\nu = K_{\text{M}} + W\) は、このベストケースを記述しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 限界振動数(限界波長): 電子が飛び出すギリギリの条件を問う問題。\(K_{\text{M}} = 0\) と置くことで、\(h\nu_0 = W\) から限界振動数 \(\nu_0\) を求められます。
    • グラフ問題: 縦軸に阻止電圧 \(V_0\)、横軸に振動数 \(\nu\) をとったグラフの読み取り。式 \(eV_0 = h\nu – W\) を変形した \(V_0 = (h/e)\nu – (W/e)\) から、傾きが \(h/e\)、切片が \(-W/e\) になることを利用します。
    • コンプトン効果: 光子と電子の衝突ですが、光子が消滅せずに散乱される現象。エネルギー保存則だけでなく、運動量保存則も連立させる必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「光子1個」に着目する: 光のエネルギー全体ではなく、必ず光子1個単位で考えます。
    2. 単位に注意する: 波長が \(\text{nm}\)(ナノメートル)や \(\text{\AA}\)(オングストローム)、エネルギーが \(\text{eV}\)(電子ボルト)で与えられることが多いです。これらを \(\text{m}\) や \(\text{J}\) に正しく換算できるかが勝負所です。
      • \(1\,\text{eV} \approx 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}\)
    3. 阻止電圧の意味: 「電流がゼロになる電圧」という記述を見たら、即座に \(K_{\text{M}} = eV_0\) の関係式を思い浮かべましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 光の強さとエネルギーの混同:
    • 誤解: 光を強く(明るく)すれば、飛び出す電子の運動エネルギーも大きくなると考えてしまう。
    • 対策: 光を強くするのは「光子の数」を増やすだけで、個々の光子のエネルギー \(h\nu\) は変わりません。したがって、飛び出す電子の「数(電流)」は増えますが、「速さ(運動エネルギー)」は変わりません。速さを変えるには、光の「色(振動数)」を変える必要があります。
  • 仕事関数の取り扱い:
    • 誤解: 仕事関数 \(W\) を運動エネルギーの一部だと勘違いしたり、符号を間違えたりする。
    • 対策: 仕事関数は「借金」や「入場料」のようなマイナスの要素です。\(K_{\text{M}} = h\nu – W\) という形(手取り = 総支給 − 税金)で覚えるとイメージしやすいでしょう。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(250\,\text{nm}\) をそのまま \(250\) として計算してしまう。
    • 対策: 必ず \(250 \times 10^{-9}\,\text{m}\) と指数表記に直してから計算式に代入する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(\(E = hc/\lambda\)):
    • 選定理由: 光子のエネルギーを求める問題で、与えられているのが振動数 \(\nu\) ではなく波長 \(\lambda\) だからです。
    • 適用根拠: 基本公式 \(E = h\nu\) と \(c = \nu\lambda\) を組み合わせることで、直接計算できる形 \(E = hc/\lambda\) を導けます。
  • 問(2)での公式選択(光電効果の式):
    • 選定理由: 「光子のエネルギー」「仕事関数」「運動エネルギー」という3つの要素が登場する問題だからです。これらを結びつけるのはアインシュタインの光電効果の式しかありません。
    • 適用根拠: エネルギー保存則という普遍的な原理に基づいているため、どのような金属、どのような光であっても成立します。
  • 問(3)での公式選択(エネルギー保存則または仕事の関係):
    • 選定理由: 電場による力で電子が止まる現象を扱うため、運動エネルギーと静電気力の仕事(または位置エネルギー)の関係式が必要です。
    • 適用根拠: \(K_{\text{M}} = eV_0\) は、「運動エネルギーの変化量 = 外力がした仕事」という力学の基本原理(仕事とエネルギーの関係)そのものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数計算の整理:
    • この単元では \(10^{-34}\) や \(10^{-19}\) といった極端な桁数の計算が頻出します。仮数部(\(6.6 \times 3.0 / 2.5\) など)と指数部(\(10^{-34} \times 10^8 / 10^{-9}\) など)を完全に分けて計算し、最後に合体させるのが鉄則です。
  • 定数の使い回し:
    • \(hc\) の値(\(6.6 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8 \approx 2.0 \times 10^{-25}\))や、\(h/e\) の値などは、問題演習の中で頻繁に出てくるため、計算結果のオーダー(桁数)感覚を養っておくと、桁間違いのミスに気づきやすくなります。
  • 近似のタイミング:
    • 問(1)の結果 \(7.92 \dots\) を問(2)で使い、その結果 \(3.92 \dots\) を問(3)で使います。このように前の問の結果を利用する場合、四捨五入した後の値(\(7.9\))ではなく、四捨五入前の精度の高い値(\(7.92\))を使って計算することで、累積誤差(丸め誤差の蓄積)を防げます。

基本例題82 X線の発生

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
      • 模範解答が「電場がした仕事 \(eV\) が運動エネルギーになる」と考えるのに対し、別解では「位置エネルギーの減少分が運動エネルギーの増加分になる」という力学的エネルギー保存則の観点から立式します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の統一的理解: 電子の加速現象を、重力場での自由落下と同じ「ポテンシャルエネルギーの変換」として捉えることで、力学とのアナロジー(類似性)を強化できます。
    • 符号ミスの回避: 電位差の正負や仕事の正負を考える際、エネルギー保存則(\(K+U=\text{一定}\))の形式は符号の取り扱いを機械的に行えるため、ミスを減らす効果があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「X線の発生原理」です。X線管(クーリッジ管)では、高電圧で加速された電子が金属ターゲット(陽極)に衝突し、急激に減速される際にそのエネルギーが電磁波(X線)として放出されます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電子の加速: 電位差 \(V\) で加速された電子が得る運動エネルギー \(K\) は、電気素量 \(e\) を用いて \(K = eV\) となること。
  2. エネルギー保存則: 電子の運動エネルギーが、衝突によってX線のエネルギー(光子エネルギー)に変換されること。
  3. 最短波長(デュアン・ハントの法則): 電子の運動エネルギー \(eV\) が、ロスなく全て1個のX線光子のエネルギー \(h\nu = hc/\lambda\) に変わったとき、最もエネルギーが高く、波長の短いX線が発生すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電場による仕事と運動エネルギーの関係式(またはエネルギー保存則)を立て、電子の速さ \(v\) を求めます。
  2. (2)では、電子の持つ全エネルギー \(eV\) が1個の光子になった場合の波長(最短波長 \(\lambda_0\))を、エネルギー保存則 \(eV = hc/\lambda_0\) から計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
陽極に衝突するときの電子の速さ \(v\) を求めます。
陰極から初速度 \(0\) で飛び出した電子は、陽極に向かって電位差 \(V\) の電場で加速されます。
このとき、電場から受ける仕事 \(W = eV\) が、すべて電子の運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\) に変わります。
この設問における重要なポイント

  • 電子(電荷 \(-e\))は、電位が高い方(陽極)へ引かれて加速する。
  • 加速電圧 \(V\) によって電子が得るエネルギーは \(eV\) である。
  • このエネルギーが運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) と等しくなる。

具体的な解説と立式
電子の質量を \(m\)、速さを \(v\)、電気素量を \(e\)、加速電圧を \(V\) とします。
電場が電子にする仕事と、電子の運動エネルギーの変化の関係より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= eV
\end{aligned}
$$
これを \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{2eV}{m} \\[2.0ex]
v &= \sqrt{\frac{2eV}{m}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電場の仕事と運動エネルギー: \(W = qV = \frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

与えられた数値を代入します。
\(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)
\(V = 9.1 \times 10^4\,\text{V}\)
\(m = 9.1 \times 10^{-31}\,\text{kg}\)

$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{2 \times (1.6 \times 10^{-19}) \times (9.1 \times 10^4)}{9.1 \times 10^{-31}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2 \times 1.6 \times 9.1}{9.1} \times \frac{10^{-19} \times 10^4}{10^{-31}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3.2 \times 10^{16}}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3.2}\) の値を計算する必要があります。
\(\sqrt{3.2} = \sqrt{16 \times 0.2} = 4\sqrt{0.2}\) と変形したり、あるいは \(\sqrt{3.2} \approx 1.78\) (「人並みに奢れや」\(\sqrt{3} \approx 1.732\) より少し大きい)と推定します。
模範解答の注釈にあるように、\(\sqrt{3.2} = \sqrt{0.64 \times 5} = 0.8 \times \sqrt{5} \approx 0.8 \times 2.236 = 1.7888\) と計算するのが正確です。
$$
\begin{aligned}
v &= 1.788\dots \times 10^8\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 1.8 \times 10^8\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子はマイナスの電気を持っているので、プラスの電気を帯びた陽極に向かって猛烈な勢いで引っ張られます。電圧 \(V\) という「落差」を落ちることでスピードアップし、そのエネルギーは \(eV\) になります。このエネルギーがすべてスピード(運動エネルギー)に変わったとして計算しました。

結論と吟味

速さは \(1.8 \times 10^8\,\text{m/s}\) と求まりました。
光速 \(3.0 \times 10^8\,\text{m/s}\) よりは遅いですが、それに近い非常に高速な値となっており、高電圧で加速された電子として妥当です。

解答 (1) \(1.8 \times 10^8\,\text{m/s}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法

思考の道筋とポイント
「仕事」という概念を使わず、位置エネルギーと運動エネルギーの総和が保存されるという観点で解きます。
陰極の電位を \(0\)、陽極の電位を \(V\) とします。
この設問における重要なポイント

  • 陰極(スタート地点): 速さ \(0\)、電位 \(0\)。位置エネルギー \(U = (-e) \times 0 = 0\)。
  • 陽極(ゴール地点): 速さ \(v\)、電位 \(V\)。位置エネルギー \(U = (-e) \times V = -eV\)。
  • 力学的エネルギー保存則: \((\text{運動エネ} + \text{位置エネ})_{\text{初}} = (\text{運動エネ} + \text{位置エネ})_{\text{後}}\)

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
0 + 0 &= \frac{1}{2}mv^2 + (-eV)
\end{aligned}
$$
これを整理すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= eV
\end{aligned}
$$
これは主たる解法と同じ式になります。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K + U = \text{一定}\)
計算過程

以降の計算は主たる解法と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{2eV}{m}} \approx 1.8 \times 10^8\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

高いところからボールを落とすと速くなるのと同じです。電子にとって「電位が高い」場所は、実は「位置エネルギーが低い(谷底)」場所になります(電荷がマイナスだから)。陰極という「崖の上」から、陽極という「谷底」に向かって電子が転がり落ちていくと考えれば、失った高さのエネルギー(\(eV\))がそのままスピードのエネルギーに変わるという式が自然に立てられます。

結論と吟味

主たる解法と同じ結果が得られました。電位差とエネルギーの関係をより深く理解できる解法です。

解答 (1) \(1.8 \times 10^8\,\text{m/s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
発生するX線の最短波長 \(\lambda_0\) を求めます。
加速された電子は \(eV\) の運動エネルギーを持っています。この電子が陽極の原子に衝突して急停止するとき、持っていたエネルギーを放出します。
エネルギーの一部は熱になりますが、一部はX線(光子)として放出されます。
最も効率よくエネルギーが変換された場合、電子のエネルギー \(eV\) がまるごと1個のX線光子のエネルギー \(h\nu\) になります。
光子のエネルギー \(E = h\nu = hc/\lambda\) は波長が短いほど大きくなるため、エネルギー最大のとき波長は最短になります。
この設問における重要なポイント

  • 電子の運動エネルギー \(K = eV\) が、X線光子のエネルギー \(E\) に変換される。
  • エネルギー保存則: \(eV = h\nu\)
  • 波長とエネルギーの関係: \(E = \frac{hc}{\lambda}\)
  • エネルギー最大(ロスなし)のとき、波長は最短になる: \(eV = \frac{hc}{\lambda_0}\)

具体的な解説と立式
電子の全エネルギー \(eV\) が、1個のX線光子のエネルギーに変換されたとき、その波長は最短波長 \(\lambda_0\) となります。
エネルギー保存則より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
eV &= \frac{hc}{\lambda_0}
\end{aligned}
$$
これを \(\lambda_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{hc}{eV}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E = \frac{hc}{\lambda}\)
  • エネルギー保存則: \(K = E\)
計算過程

数値を代入します。
\(h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}\)
\(c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}\)
\(e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}\)
\(V = 9.1 \times 10^4\,\text{V}\)

$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{(1.6 \times 10^{-19}) \times (9.1 \times 10^4)} \\[2.0ex]
&= \frac{6.6 \times 3.0}{1.6 \times 9.1} \times \frac{10^{-34} \times 10^8}{10^{-19} \times 10^4} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8}{14.56} \times 10^{-11}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\frac{19.8}{14.56} \approx 1.359\dots\) と計算できます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &\approx 1.36 \times 10^{-11}\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &\approx 1.4 \times 10^{-11}\,\text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子が持っているエネルギーを「お金」に例えると、衝突によってそのお金を使って「X線」という商品を買うようなものです。電子が持っている全財産(\(eV\))をはたいて、一番高い商品(エネルギー最大のX線)を買ったとき、そのX線の波長は一番短くなります。この限界の波長を計算しました。これより短い波長のX線は、電子の持ち金が足りないので絶対に発生しません。

結論と吟味

最短波長は \(1.4 \times 10^{-11}\,\text{m}\) と求まりました。
X線の波長は通常 \(10^{-10}\,\text{m}\)(\(1\,\text{\AA}\))程度からそれ以下なので、妥当な値です。

解答 (2) \(1.4 \times 10^{-11}\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • エネルギー変換と保存則
    • 核心: この問題は、エネルギーの形態が次々と変わっていく過程を追うものです。「電場のポテンシャルエネルギー \(eV\)」→「電子の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)」→「X線光子のエネルギー \(h\nu\)」という変換プロセスを、エネルギー保存則に基づいて等号で結ぶことが全ての基本です。
    • 理解のポイント:
      • 加速過程: 電場が電子に対して仕事を行い、それが運動エネルギーとして蓄積されます。
      • 衝突過程: 蓄積された運動エネルギーが一気に解放され、電磁波(X線)のエネルギーに変わります。
  • 最短波長(デュアン・ハントの法則)の物理的意味
    • 核心: 連続X線のスペクトルには、ある波長 \(\lambda_0\) より短い成分が存在しません。これは、電子が持つエネルギー \(eV\) には上限があり、それ以上のエネルギーを持つ光子(=それより短い波長の光子)を生み出すことが原理的に不可能だからです。
    • 理解のポイント:
      • 1対1対応の極限: 電子1個の全エネルギーが、ロスなく光子1個に乗り移った場合が「エネルギー最大=波長最短」に対応します。多くの場合は熱などでロスが生じるため、これよりエネルギーの低い(波長の長い)X線が発生します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 特性X線(固有X線): 連続X線とは別に、特定の波長に鋭いピークが現れる現象。これは電子が原子の内殻電子を弾き飛ばし、外殻電子が遷移してくる際のエネルギー差に対応します。連続X線(加速電子の制動放射)と特性X線(原子のエネルギー準位)の違いを区別して理解しましょう。
    • 加速電圧の変化: 電圧 \(V\) を変えたとき、最短波長 \(\lambda_0\) がどう変化するかを問う問題。\(\lambda_0 \propto 1/V\) の関係(反比例)があるため、電圧を2倍にすれば最短波長は半分になります。
    • コンプトン効果との融合: 発生したX線を物質に当てて散乱させる問題。X線の発生(エネルギー保存)と散乱(運動量保存+エネルギー保存)を組み合わせて解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. エネルギーの流れを矢印で描く: 「電源」→「電子」→「X線」というエネルギーの移動を図式化し、どこでどのような変換が起きているかを整理します。
    2. 「最短」や「最大」の条件を見抜く: 「最短波長」「最大振動数」「最大エネルギー」といった言葉は、すべて「ロスなしの完全変換(\(eV = h\nu\))」を意味するキーワードです。
    3. 定数計算の準備: \(h, c, e\) などの定数は非常に桁が大きかったり小さかったりします。\(hc \approx 2.0 \times 10^{-25}\) や \(hc/e \approx 1.24 \times 10^{-6}\) といった塊の値を知っておくと、検算やオーダー見積もりに役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 運動エネルギーと波長の混同:
    • 誤解: 電子のド・ブロイ波長を求めてしまう。
    • 対策: 問題で問われているのは「発生するX線(電磁波)」の波長です。「電子の波長(物質波)」ではありません。電子はあくまでエネルギーの運び屋であり、波長を計算すべき対象は衝突後に生まれる光子です。
  • 平方根の計算ミス:
    • 誤解: \(\sqrt{3.2 \times 10^{16}}\) を \(\sqrt{3.2} \times 10^8\) ではなく \(\sqrt{3.2} \times 10^{16}\) や \(\sqrt{3.2} \times 10^4\) にしてしまう。
    • 対策: 指数部分の平方根は、指数を半分にする(\(\sqrt{10^{2n}} = 10^n\))操作です。\(10^{16} \to 10^8\) となることを落ち着いて確認しましょう。
  • 単位の次元:
    • 誤解: エネルギーの単位として \(\text{eV}\)(電子ボルト)と \(\text{J}\)(ジュール)を混在させて計算してしまう。
    • 対策: 公式 \(E = h\nu\) や \(\frac{1}{2}mv^2\) を使うときは、必ずSI単位系(\(\text{J}, \text{kg}, \text{m}, \text{s}\))に統一します。\(eV\) という量は「\(e[\text{C}] \times V[\text{V}]\)」として計算すれば自然にジュール \([\text{J}]\) になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(仕事とエネルギー):
    • 選定理由: 電場による加速を扱うため、電気的な仕事 \(W=qV\) と運動エネルギー \(K=\frac{1}{2}mv^2\) を結びつける必要があります。
    • 適用根拠: 電子が受ける力は保存力(静電気力)のみであり、非保存力(摩擦など)は働かないため、仕事の全量が運動エネルギーに変換されます。
  • 問(2)での公式選択(量子論的エネルギー保存):
    • 選定理由: 電子のエネルギーが光(電磁波)のエネルギーに変わる現象なので、古典的な波動論ではなく、アインシュタインの光量子仮説(\(E=h\nu\))に基づくエネルギー保存則が必要です。
    • 適用根拠: 「最短波長」という条件は、エネルギーの散逸がない理想的な変換プロセス(\(K = E_{\text{photon}}\))を仮定する根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 桁数の管理:
    • \(10^{-34}\) や \(10^{-19}\) といった極小の数が登場します。これらを計算用紙の隅に小さく書くと見落としの原因になります。指数部分は大きくはっきりと書き、計算の最後まできちんと追跡しましょう。
  • ルートの中身の調整:
    • \(\sqrt{3.2 \times 10^{16}}\) のように、ルートの中身を「(扱いやすい数字)\(\times\)(偶数乗の10)」の形に変形するテクニックを習得しましょう。もし \(\sqrt{32 \times 10^{15}}\) となっていたら、\(\sqrt{3.2 \times 10^{16}}\) に直してからルートを開きます。
  • 物理定数の代入は最後に:
    • 最初から数値を代入して \(v = \sqrt{2 \times 1.6 \dots}\) と書くよりも、\(v = \sqrt{2eV/m}\) という文字式のまま変形し、最後に代入する方が計算の見通しが良く、検算もしやすくなります。

基本例題83 ブラッグ反射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「X線の結晶による回折(ブラッグ反射)」です。結晶格子のように原子が規則正しく並んだ構造にX線が入射すると、特定の方向でのみ反射波が強め合う現象が起こります。これはX線回折と呼ばれ、物質の結晶構造を調べるための重要な手法です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の干渉: 複数の波が重なり合うとき、山と山(または谷と谷)が重なると強め合い、山と谷が重なると弱め合うこと。
  2. 経路差と位相差: 2つの波の進む距離の差(経路差)が波長の整数倍であれば、波は同位相で重なり強め合うこと。
  3. ブラッグの条件: 結晶格子面での反射において、隣り合う格子面からの反射波の経路差が \(2d\sin\theta\) となること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、図形の幾何学的性質を利用して、隣り合う格子面で反射する2つのX線の経路差を求めます。
  2. (2)では、求めた経路差が波長の整数倍になるという干渉条件(強め合う条件)を立式します。
  3. (3)では、条件式における整数 \(n\)(次数)の意味を考え、特定の条件下での格子定数 \(d\) を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
格子面1で反射したX線と、格子面2で反射したX線の経路差を求めます。
入射波の波面(同位相の面)は進行方向に垂直です。反射波の波面も同様です。
そこで、入射波と反射波のそれぞれに対して、進行方向に垂直な線(垂線)を引くことで、経路の差を可視化します。
この設問における重要なポイント

  • 入射角と反射角が等しい(反射の法則)ことを前提とする。
  • 経路差は、入射側の余分な道のりと反射側の余分な道のりの合計である。
  • 直角三角形の斜辺が格子間隔 \(d\) であることに注目し、三角比 \(\sin\theta\) を用いる。

具体的な解説と立式
図のように、格子面1上の反射点をA、格子面2上の反射点をBとします。
点Aから、格子面2へ向かう入射線に下ろした垂線の足をH、点Aから格子面2で反射した反射線に下ろした垂線の足をH’とします。
入射波はAHのラインまで同時に到達し、反射波はAH’のラインから同時に出ていきます。
したがって、格子面2で反射する波は、格子面1で反射する波に比べて、HB \(+\) BH’ の距離だけ余分に進むことになります。
三角形ABHと三角形ABH’は合同な直角三角形であり、斜辺ABの長さは格子間隔 \(d\) です。
また、角HABと角H’ABは、入射角・反射角 \(\theta\) に等しくなります。
よって、余分な道のり(経路差) \(\Delta L\) は以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
\Delta L &= \text{HB} + \text{BH’} \\[2.0ex]
&= d\sin\theta + d\sin\theta \\[2.0ex]
&= 2d\sin\theta
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 三角比の定義: 直角三角形において、対辺 \(=\) 斜辺 \(\times \sin\theta\)
計算過程

計算は立式の中で完了しています。
$$
\begin{aligned}
\Delta L &= 2d\sin\theta
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

上の面で跳ね返る波と、下の面で跳ね返る波の「競争」です。下の面に行く波は、上の面に行く波よりも奥まで行って帰ってくるので、その分だけ長い距離を走ります。「行き」で余分に走る距離と、「帰り」で余分に走る距離を足し合わせると、合計でどれくらい遅れるかがわかります。図の直角三角形を使うと、その距離は \(2d\sin\theta\) になることがわかります。

結論と吟味

経路差は \(2d\sin\theta\) と求まりました。
\(\theta=0\)(入射しない)なら経路差 \(0\)、\(\theta=90^\circ\)(垂直入射)なら経路差 \(2d\)(往復分)となり、直感的にも正しい結果です。

解答 (1) \(2d\sin\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
反射X線が強めあう条件を求めます。
波の干渉の基本原理として、経路差が波長 \(\lambda\) の整数倍であれば、波の山と山が重なって強め合います。
この設問における重要なポイント

  • 強め合う条件: \(\text{経路差} = n\lambda\) (\(n\) は整数)
  • ここでは \(n\) は正の整数(\(1, 2, \dots\))と指定されている。

具体的な解説と立式
(1)で求めた経路差 \(2d\sin\theta\) が、波長 \(\lambda\) の整数倍 \(n\lambda\) に等しいとき、反射波は強め合います。
したがって、条件式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
2d\sin\theta &= n\lambda \quad (n=1, 2, \dots)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(強め合い): \(\Delta L = n\lambda\)
計算過程

立式そのものが答えとなります。
$$
\begin{aligned}
2d\sin\theta &= n\lambda
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「遅れてやってきた波」が、「先に進んでいた波」とぴったり足並みを揃えるための条件です。遅れ(経路差)が波1個分、2個分、3個分…と、ちょうど波の長さの整数倍であれば、波の山同士が重なって大きな波になります。これを式で表しました。この式は「ブラッグの条件式」と呼ばれる非常に有名な式です。

結論と吟味

条件式は \(2d\sin\theta = n\lambda\) と求まりました。
この式から、波長 \(\lambda\) と入射角 \(\theta\) を測定することで、結晶の原子間隔 \(d\) を知ることができることがわかります。

解答 (2) \(2d\sin\theta = n\lambda \quad (n=1, 2, \dots)\)

問(3)

思考の道筋とポイント
\(\theta\) を \(0^\circ\) から大きくしていったとき、最初(\(\theta = \theta_0\))に強め合った条件から、格子定数 \(d\) を求めます。
条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) において、\(\theta\) が小さいということは \(\sin\theta\) も小さいことを意味します。
\(\theta\) を \(0\) から増やしていくと、右辺の \(n\lambda\) に対応する値が現れます。最初に現れるのは最小の整数、つまり \(n=1\) のときです。
この設問における重要なポイント

  • \(\theta\) が小さいとき、\(\sin\theta\) も小さい(単調増加)。
  • 「はじめて強め合った」ということは、条件式を満たす最小の正の整数 \(n\) に対応する。
  • \(n=1\) を代入して \(d\) について解く。

具体的な解説と立式
条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) において、\(n\) は正の整数(\(1, 2, \dots\))です。
\(\theta\) を \(0^\circ\) から大きくしていくと、左辺 \(2d\sin\theta\) の値も \(0\) から増加していきます。
この値が初めて右辺の取り得る値(\(\lambda, 2\lambda, 3\lambda \dots\))と一致するのは、\(n=1\) のときです。
そのときの角度が \(\theta_0\) なので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
2d\sin\theta_0 &= 1 \times \lambda
\end{aligned}
$$
これを \(d\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{\lambda}{2\sin\theta_0}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ブラッグの条件式: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
2d\sin\theta_0 &= \lambda \\[2.0ex]
d &= \frac{\lambda}{2\sin\theta_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

角度 \(\theta\) をゼロから少しずつ上げていくと、経路差もゼロから少しずつ増えていきます。経路差がちょうど波長1個分(\(\lambda\))になった瞬間に、初めて「強め合い」が起こります。このときの角度 \(\theta_0\) を使って、原子の間隔 \(d\) を逆算しました。

結論と吟味

格子定数は \(d = \frac{\lambda}{2\sin\theta_0}\) と求まりました。
\(\sin\theta_0\) は必ず1以下なので、\(d\) は \(\lambda/2\) 以上の値になります。これは、波長があまりに長いと(\(2d\) より長いと)、どんな角度でも干渉条件を満たせなくなる(回折が起きない)ことを示唆しており、物理的に妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle d = \frac{\lambda}{2\sin\theta_0}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 波の干渉条件(強め合い)
    • 核心: 2つの波が重なり合ったとき、強め合うか弱め合うかは「位相差」で決まります。同位相(山と山)なら強め合い、逆位相(山と谷)なら弱め合います。
    • 理解のポイント:
      • 経路差と位相差: 位相のずれは、波が進んだ距離の差(経路差)によって生じます。経路差が波長 \(\lambda\) の整数倍(\(0, \lambda, 2\lambda \dots\))であれば、波はぴったり重なって強め合います。
      • 反射による位相のずれ: この問題(X線回折)では考慮しませんが、一般に波が反射するとき、固定端反射なら位相が \(\pi\)(半波長分)ずれ、自由端反射ならずれません。X線回折では散乱波同士の干渉を考えるため、反射による位相のずれは相殺されるか、あるいは考慮不要として扱います(ブラッグの条件式には現れません)。
  • ブラッグの条件(X線回折)
    • 核心: 結晶格子による回折現象を記述する基本法則です。隣り合う格子面からの反射波の経路差が \(2d\sin\theta\) であることを幾何学的に導き、それが \(n\lambda\) に等しいときに強い反射が起こるという条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) です。
    • 理解のポイント:
      • 角度の定義: 通常の光学(スネルの法則など)では入射角を「法線とのなす角」としますが、X線回折では慣習的に「格子面とのなす角」を \(\theta\) とします。これにより、経路差が \(d\cos\theta\) ではなく \(d\sin\theta\) になる点に注意が必要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 粉末法(デバイ・シェラー法): 多数の微結晶がランダムな向きを向いている粉末試料にX線を当てると、特定の角度 \(\theta\) を満たす結晶面からの反射が円錐状に広がり、フィルム上に同心円状の回折環が現れます。基本原理はブラッグ反射と同じです。
    • ラウエ斑点: 単結晶に連続X線(白色X線)を当てると、特定の波長と角度の組み合わせを満たす回折斑点が現れます。
    • 電子線の回折: X線(光)だけでなく、電子線(物質波)も波動性を持つため、同様にブラッグ反射を起こします。この場合、波長 \(\lambda\) はド・ブロイ波長 \(\lambda = h/mv\) を用います。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 角度の定義を確認する: 入射角 \(\theta\) が「面との角」なのか「法線との角」なのかを必ず図で確認します。もし法線との角 \(\phi\) であれば、\(\theta = 90^\circ – \phi\) となり、式は \(2d\cos\phi = n\lambda\) に変わります。
    2. 経路差を作図する: どんな複雑な配置でも、入射波面と反射波面に垂線を引くことで、幾何学的に経路差を導出できます。
    3. 次数の確認: 「はじめて強め合う」「2番目に強め合う」といった記述から、整数 \(n\) の値を特定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 経路差の係数忘れ:
    • 誤解: 経路差を \(d\sin\theta\) としてしまう(往復の「2」を忘れる)。
    • 対策: 図を見て、行き(入射側)で \(d\sin\theta\)、帰り(反射側)で \(d\sin\theta\) の遅れが生じていることを指差し確認しましょう。「行って帰って2倍」と覚えるのも有効です。
  • 干渉条件の \(m\) と \(m+1/2\) の混同:
    • 誤解: ヤングの実験や薄膜干渉のように、条件によって \(n\lambda\) だったり \((n+1/2)\lambda\) だったりして混乱する。
    • 対策: ブラッグ反射では、原子による散乱を考えるため、位相の反転(\(\pi\) のずれ)は通常考慮しません。常に「強め合い=整数倍(\(n\lambda\))」とシンプルに考えてOKです。
  • \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の取り違え:
    • 誤解: 角度の定義を勘違いして、\(\cos\theta\) を使ってしまう。
    • 対策: \(\theta \to 0\) の極限を想像します。面と平行に入射したら反射しない(経路差ゼロ)はずです。\(\sin 0 = 0\) なので整合しますが、\(\cos 0 = 1\) だと矛盾します。このチェックで防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 問(1)での公式選択(三角比):
    • 選定理由: 幾何学的な距離を求める問題だからです。
    • 適用根拠: 直角三角形の斜辺と角度がわかっている場合、対辺の長さはサインを用いて表せます。
  • 問(2)での公式選択(干渉条件):
    • 選定理由: 「強め合う」というキーワードから、波の干渉条件式が必要です。
    • 適用根拠: 経路差が波長の整数倍であれば位相が揃うという、波動光学の基本原理に基づいています。
  • 問(3)での公式選択(\(n=1\) の特定):
    • 選定理由: 「はじめて」という言葉が、変数の最小値(または特定の順序)を指定しているからです。
    • 適用根拠: \(\theta\) が \(0\) から増えるにつれて \(\sin\theta\) も増え、経路差 \(2d\sin\theta\) も増えます。これが最初に \(\lambda\) の整数倍になるのは、当然 \(1\lambda\) のときです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま処理する:
    • この問題のように数値が出てこない問題では、計算ミスよりも「式の書き間違い」が命取りになります。\(d\) と \(\lambda\) を書き間違えたり、\(2\) を落としたりしないよう、丁寧に記述する癖をつけましょう。
  • 単位(次元)の確認:
    • \(2d\sin\theta = n\lambda\) の両辺の次元を確認します。左辺は長さ \([\text{L}]\)(\(d\))\(\times\) 無次元(\(\sin\theta\))=長さ。右辺は無次元(\(n\))\(\times\) 長さ \([\text{L}]\)(\(\lambda\))=長さ。次元が合っていることで、式の大枠が正しいことを確認できます。
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基本問題

565 陰極線の性質

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電場および磁場中における荷電粒子の運動」です。陰極線の正体が電子であることを理解し、電場や磁場から受ける力の向きを正しく判断できるかが問われています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 陰極線の正体: 陰極線は、負の電荷を持つ電子の流れです。
  • 静電気力: 電荷 \(q\) の粒子が電場 \(\vec{E}\) 中にあるとき、力 \(\vec{F} = q\vec{E}\) を受けます。
  • ローレンツ力: 荷電粒子が磁場中を運動するとき、力(ローレンツ力)を受けます。その向きはフレミングの左手の法則で判断します。
  • 電流の定義: 電流の向きは、正の電荷が移動する向きと定義されており、負の電荷(電子)が移動する向きとは逆になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (1)では、電極の正負から電場の向きを決定し、負電荷である電子が電場から受ける力の向きを考えます。
  • (2)では、磁石の配置から磁場の向きを決定し、電子の運動方向から電流の向きを定義した上で、フレミングの左手の法則を用いて力の向きを導き出します。

問(1)

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