電磁気範囲 51~55
51 電流計と電圧計
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(各部品の電圧降下を個別に計算するアプローチ)を主たる解説としつつ、以下の2つの別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: 回路全体のオームの法則を用いる解法
- 模範解答が各部品の電圧降下を分けて考えるのに対し、別解1では改造後の電圧計全体を一つの合成抵抗とみなし、オームの法則を一度適用して解を導きます。
- 別解2: 抵抗の比と電圧の比の関係を用いる解法
- 別解2では、直列回路における「電圧の分圧比は抵抗値の比に等しい」という物理的本質を直接利用し、比例計算のみで答えを導き出します。
- 別解1: 回路全体のオームの法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的理解の深化: 別解1は回路全体をシステムとして捉える視点を、別解2は分圧の根源的な原理への理解を深めます。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる視点(個別、全体、比例関係)からアプローチする経験は、応用力を高めます。
- 解法の効率化: 特に別解2は、電流の値を具体的に計算する必要がなく、非常に少ない計算ステップで直感的に答えを導ける強力な手法です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電圧計の測定範囲の拡大(倍率器の設計)」です。与えられた電圧計の基本性能(内部抵抗と最大測定電圧)を元に、より大きな電圧を測定できるように直列抵抗(倍率器)を追加する際の設計計算が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電圧計の基本特性: 測定器は内部抵抗と、最大測定電圧(フルスケール電圧)で特徴づけられます。この2つの値から、最大目盛まで針が振れたときに流れる電流(最大目盛電流)を計算できます。
- 倍率器の原理: 大きな電圧を測定するために、電圧計に抵抗を「直列」に接続し、電圧を分圧させて本体にかかる電圧を減らす仕組みです。
- オームの法則とキルヒホッフの法則: 改造回路の設計計算の基礎となります。特に、直列回路では各部品に流れる電流が等しく、電圧の和が全体の電圧に等しくなることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、元の電圧計の仕様(最大電圧と内部抵抗)から、最大目盛電流 \(I_{\text{max}}\) を計算します。これが、改造後の電圧計にも流すことができる電流の上限値となります。
- 次に、測定したい最大電圧(\(100 \, \text{V}\))がかかったときに、回路全体にちょうど \(I_{\text{max}}\) が流れるように、直列に追加する抵抗(倍率器)の値を計算します。
倍率器の設計
思考の道筋とポイント
元の電圧計は最大 \(10 \, \text{V}\) までしか測定できません。これを \(100 \, \text{V}\) まで測定できるようにするには、電圧の大部分(\(100 – 10 = 90 \, \text{V}\))を別の抵抗に負担してもらう必要があります。電圧を複数の部品で分担させる(分圧する)ためには、抵抗を「直列」に接続します。この追加した抵抗を「倍率器」と呼びます。
設計の鍵は、まず「元の電圧計がどれだけの電流まで耐えられるか」を知ることです。これは、元の電圧計の最大電圧と内部抵抗からオームの法則で計算できます。この電流値が、改造後の回路全体に流せる電流の上限となります。
次に、この電流上限を守りつつ、回路全体で \(100 \, \text{V}\) の電圧に耐えられるように、追加する抵抗 \(r\) の値を決定します。追加した抵抗 \(r\) にかかる電圧(\(90 \, \text{V}\))と、そこを流れる電流(先ほど計算した上限値)がわかっているので、オームの法則から \(r\) の値を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 電圧の測定範囲を広げる(電圧を分ける)ためには「直列」に抵抗を追加する。
- 元の電圧計の最大目盛電流(フルスケール電流)を最初に計算することが出発点。
- 直列接続なので、元の電圧計と追加した抵抗に流れる電流は等しい。
- 全体の電圧は、各部分の電圧の和に等しい(電圧則)。
具体的な解説と立式
元の電圧計は、内部抵抗 \(R_V = 5 \, \text{k}\Omega\)、最大測定電圧 \(V_V = 10 \, \text{V}\) です。
この電圧計の針が最大目盛まで振れるときに流れる電流(最大目盛電流)を \(I_{\text{max}}\) とすると、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I_{\text{max}} &= \frac{V_V}{R_V}
\end{aligned}
$$
この電圧計に、抵抗 \(r\) を直列に接続し、新しい電圧計とします。
この新しい電圧計全体に、測定したい最大電圧 \(V_{\text{max}} = 100 \, \text{V}\) がかかったとき、回路に流れる電流がちょうど \(I_{\text{max}}\) になるように \(r\) を設計します。
直列接続なので、抵抗 \(r\) にも同じ電流 \(I_{\text{max}}\) が流れます。
キルヒホッフの第2法則(電圧則)より、全体の電圧 \(V_{\text{max}}\) は、元の電圧計にかかる電圧 \(V_V\) と、抵抗 \(r\) にかかる電圧 \(V_r\) の和になります。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{max}} &= V_V + V_r
\end{aligned}
$$
ここで、\(V_V\) は元の電圧計の最大値である \(10 \, \text{V}\) です。したがって、抵抗 \(r\) にかかる電圧 \(V_r\) は、
$$
\begin{aligned}
V_r &= V_{\text{max}} – V_V
\end{aligned}
$$
抵抗 \(r\) についてオームの法則を適用すると、
$$
\begin{aligned}
V_r &= r I_{\text{max}}
\end{aligned}
$$
この式から \(r\) を求めることができます。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- 抵抗の直列合成
まず、最大目盛電流 \(I_{\text{max}}\) を計算します。計算を簡単にするため、単位は V, kΩ, mA の組み合わせで計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{max}} &= \frac{10 \, \text{V}}{5 \, \text{k}\Omega} \\[2.0ex]
&= 2 \, \text{mA}
\end{aligned}
$$
次に、抵抗 \(r\) にかかる電圧 \(V_r\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_r &= 100 \, \text{V} – 10 \, \text{V} \\[2.0ex]
&= 90 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
最後に、抵抗 \(r\) の値をオームの法則から求めます。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{V_r}{I_{\text{max}}} \\[2.0ex]
&= \frac{90 \, \text{V}}{2 \, \text{mA}} \\[2.0ex]
&= 45 \, \text{k}\Omega
\end{aligned}
$$
元の電圧計は \(10 \, \text{V}\) までしか測れない小さな電圧計です。これを \(100 \, \text{V}\) まで測れるようにパワーアップさせたい、というのが今回のミッションです。
大きな電圧を分担して受け止めてもらうために、「用心棒」となる抵抗 \(r\) を直列につなぎます。
チーム全体で \(100 \, \text{V}\) の電圧がかかったとき、元の電圧計君には彼の限界である \(10 \, \text{V}\) だけを担当させ、残りの \(90 \, \text{V}\) はすべて用心棒の抵抗 \(r\) に引き受けてもらいます。
まず、元の電圧計君が \(10 \, \text{V}\) を担当しているとき、彼の中をどれくらいの電流が流れているかを計算します(答えは \(2 \, \text{mA}\))。直列なので、用心棒の \(r\) にも同じ量の電流が流れています。
用心棒 \(r\) は「\(90 \, \text{V}\) の電圧を引き受けつつ、\(2 \, \text{mA}\) の電流を流している」ということがわかったので、オームの法則から彼の抵抗値を計算することができます。
\(45 \, \text{k}\Omega\) の抵抗を、元の電圧計に直列に接続すればよいことがわかりました。追加する抵抗(倍率器)の抵抗値は、元の電圧計の内部抵抗よりも大きくなるのが一般的です。\(45 \, \text{k}\Omega\) は \(5 \, \text{k}\Omega\) より大きいので、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
模範解答が各部品の電圧を分けて考えたのに対し、この別解では、改造後の電圧計全体(元の電圧計と抵抗\(r\)の直列回路)を「一つの大きな抵抗器」と見なします。
この「大きな抵抗器」の仕様は、「両端に \(100 \, \text{V}\) の電圧がかかったときに、ちょうど \(2 \, \text{mA}\) の電流が流れる」というものです。
この全体像に対してオームの法則を一度適用することで、全体の合成抵抗を求め、そこから未知の抵抗 \(r\) の値を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 改造後の回路全体を一つのシステム(合成抵抗)として捉える。
- 回路全体にオームの法則を適用する。
具体的な解説と立式
まず、主たる解法と同様に、最大目盛電流 \(I_{\text{max}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{max}} &= \frac{10 \, \text{V}}{5 \, \text{k}\Omega} = 2 \, \text{mA}
\end{aligned}
$$
次に、改造後の電圧計全体を考えます。これは、内部抵抗 \(R_V = 5 \, \text{k}\Omega\) と倍率器の抵抗 \(r\) の直列接続なので、全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) は、
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= R_V + r
\end{aligned}
$$
この回路全体に最大電圧 \(V_{\text{max}} = 100 \, \text{V}\) がかかったとき、流れる電流が \(I_{\text{max}}\) になるので、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{max}} &= R_{\text{全体}} \times I_{\text{max}} \\[2.0ex]
V_{\text{max}} &= (R_V + r) I_{\text{max}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- 抵抗の直列合成
上記で立式した式に、V, kΩ, mA の単位系で値を代入します。
$$
\begin{aligned}
100 &= (5 + r) \times 2
\end{aligned}
$$
この式を \(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{100}{2} &= 5 + r \\[2.0ex]
50 &= 5 + r \\[2.0ex]
r &= 50 – 5 \\[2.0ex]
&= 45 \, \text{k}\Omega
\end{aligned}
$$
元の電圧計と用心棒の抵抗\(r\)を合わせた「最強電圧計チーム」全体で物事を考える方法です。
このチームは、「全体に \(100 \, \text{V}\) の電圧がかかったときに、\(2 \, \text{mA}\) の電流が流れる」という性能を持っています。
オームの法則から、このチーム全体の抵抗値は \(100 \, \text{V} \div 2 \, \text{mA} = 50 \, \text{k}\Omega\) であることがわかります。
チーム全体の抵抗は、「元の電圧計の抵抗」と「用心棒の抵抗\(r\)」を足したものなので、\(50 \, \text{k}\Omega\) から元の電圧計の抵抗 \(5 \, \text{k}\Omega\) を引き算すれば、用心棒である\(r\)の抵抗値が \(45 \, \text{k}\Omega\) だとわかります。
主たる解法と全く同じ \(45 \, \text{k}\Omega\) という結果が得られました。回路全体を一つのシステムとして捉えるこの方法は、見通しが良く、計算もシンプルになることが多い有効なアプローチです。
思考の道筋とポイント
直列回路では、各抵抗にかかる電圧の大きさは、その抵抗値の大きさに比例します(\(V=RI\)で\(I\)が共通なため)。この「電圧の分圧比は抵抗値の比に等しい」という物理法則を直接利用します。
全体で \(100 \, \text{V}\) の電圧を、元の電圧計と追加する抵抗 \(r\) で分担します。それぞれの分担する電圧の比がわかっているので、抵抗値の比も同じになるはずです。この比例関係から、電流の値を計算することなく、直接 \(r\) の値を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 直列回路では、電圧は抵抗値に比例して分配される。
- \(V_1 : V_2 = R_1 : R_2\) の関係を使いこなす。
具体的な解説と立式
元の電圧計(抵抗 \(R_V = 5 \, \text{k}\Omega\))と、追加する抵抗 \(r\) は直列に接続されています。
全体に \(100 \, \text{V}\) がかかったとき、それぞれの部品にかかる電圧は、
- 元の電圧計: \(V_V = 10 \, \text{V}\)
- 追加した抵抗: \(V_r = 100 \, \text{V} – 10 \, \text{V} = 90 \, \text{V}\)
となります。
直列接続なので、電圧の比は抵抗値の比に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
R_V : r &= V_V : V_r
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 直列回路における分圧の法則: \(V_1 : V_2 = R_1 : R_2\)
上記で立式した比例式に、値を代入します。
$$
\begin{aligned}
5 \, \text{k}\Omega : r &= 10 \, \text{V} : 90 \, \text{V} \\[2.0ex]
5 : r &= 1 : 9
\end{aligned}
$$
比例式の性質(内項の積 = 外項の積)より、
$$
\begin{aligned}
r \times 1 &= 5 \times 9 \\[2.0ex]
r &= 45 \, \text{k}\Omega
\end{aligned}
$$
最もスマートな考え方です。直列につながれた部品が電圧を分け合うとき、その分け前は、それぞれの抵抗値の大きさに比例します。
今回は、元の電圧計と用心棒の抵抗\(r\)が、\(10 \, \text{V}\) と \(90 \, \text{V}\) という割合で電圧を分け合っています。つまり、分け前の比は \(10:90 = 1:9\) です。
ということは、彼らの抵抗値の比も \(1:9\) になっているはずです。
元の電圧計の抵抗値が \(5 \, \text{k}\Omega\) なので、用心棒の抵抗\(r\)は、その9倍の \(5 \times 9 = 45 \, \text{k}\Omega\) であることが、すぐにわかります。
他の解法と全く同じ \(45 \, \text{k}\Omega\) という結果が、非常に少ない計算で得られました。分圧の物理的本質を直接利用するこの方法は、思考のショートカットとして極めて強力であり、物理現象への深い理解にもつながります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 測定器の機能拡張の基本原理:
- 核心: この問題の根幹は、一つの基本的な測定器(ガルバノメーター、ここでは内部抵抗を持つ電流計)を基に、抵抗器を組み合わせることで異なる機能や測定範囲を持つ別の測定器を作り出す「分流器」と「倍率器」の設計原理を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 電流計の拡張(分流器): 電流を「分ける」ことが目的。そのためには抵抗を並列に接続し、キルヒホッフの電流則を利用します。立式の鍵は「並列部分の電圧が等しい」ことです。
- 電圧計への改造(倍率器): 電圧を「分ける」ことが目的。そのためには抵抗を直列に接続し、キルヒホッフの電圧則(または回路全体のオームの法則)を利用します。立式の鍵は「直列回路に流れる電流が等しい」ことです。
- 測定器のフルスケール特性の活用:
- 核心: 測定器の改造設計は、必ず元の測定器が性能限界(最大目盛、フルスケール)に達した状態を基準に行います。
- 理解のポイント:
- 設計基準: 「測定したい最大値(例: \(50 \, \text{mA}\)や\(10 \, \text{V}\))が入力されたときに、ちょうど元の電流計の針が最大目盛(\(10 \, \text{mA}\))を指す」ように、追加する抵抗の値を決定します。この限界状態を考えることが、設計方程式を立てるための出発点となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 多重レンジの電流計・電圧計: 複数の抵抗と切り替えスイッチを組み合わせ、一台で様々な測定範囲(例: 10mA, 100mA, 1A)を持つ電流計や電圧計を設計する問題。各レンジについて、本問と同じ考え方を繰り返し適用します。
- テスター(回路計)の設計: 電流、電圧、抵抗を測定できるテスターの内部回路を設計する問題。電流計モードでは分流器、電圧計モードでは倍率器の原理が使われています。
- 未知の内部抵抗を持つ電流計の改造: 「最大目盛10mAの電流計を改造して最大1Aまで測れるようにしたら、0.1Ωの抵抗が必要だった。元の電流計の内部抵抗はいくらか?」といった、逆算問題にも応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「何を」「どうしたいか」を明確にする:
- 電流の測定範囲を広げたい → 「分流」が目的 → 並列に抵抗を追加。
- 電圧を測れるようにしたい(または電圧の測定範囲を広げたい) → 「分圧」が目的 → 直列に抵抗を追加。
この「目的と接続方法の対応」を瞬時に判断することが第一歩です。
- 限界状態の図を描く: 測定したい最大値が入力され、元の電流計がフルスケールになっている状態の回路図を描き、各部分の電流値や電圧値を書き込みます。
- 適切な法則を選択する:
- 並列接続(分流器)の場合 → 「電圧が等しい」という関係式を立てる。
- 直列接続(倍率器)の場合 → 回路全体にオームの法則を適用する、または電圧の比と抵抗の比の関係(別解2)を利用する。
- 「何を」「どうしたいか」を明確にする:
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 分流器と倍率器の接続方法の混同:
- 誤解: 電流を測りたいのに直列に、電圧を測りたいのに並列に抵抗を接続してしまう。
- 対策: 「電流は分ける、電圧も分ける」という目的を常に意識します。川の流れ(電流)を分けるにはバイパス水路(並列)が必要で、崖の高さ(電圧)をいくつかの段差に分けるには階段(直列)が必要、というイメージを持つと混同しにくくなります。
- 電流計を電圧計に改造する際の思考の混乱:
- 誤解: 元が電流計であるため、電圧を測るという発想に切り替えられず、どう抵抗をつなげばよいか分からなくなる。
- 対策: 「内部抵抗\(r_A\)、最大\(I_A\)まで流せる部品」という、元の測定器の正体に立ち返ります。この部品に直列に抵抗をつなぎ、「全体で\(V_{\text{max}}\)の電圧がかかったときに、流れる電流がちょうど\(I_A\)になる」という条件を満たすだけの問題だと、シンプルに捉え直します。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: mA(ミリアンペア)をA(アンペア)に直す際に、\(10^{-2}\)や\(10^{-6}\)など、桁を間違える。
- 対策: 「m(ミリ)は \(10^{-3}\)」と正確に記憶し、計算前にすべての単位をSI基本単位に直すことを徹底します。あるいは、前問の別解のように、V, kΩ, mAの単位系で計算するテクニックを習得するのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 分流器設計での「並列部分の電圧一定」の選択:
- 選定理由: 分流器の設計では、2つの未知数(分流器の抵抗値\(r\)、分流器を流れる電流\(I_r\))があります。これらを決定するには2つの独立した方程式が必要です。1つは分岐点における「キルヒホッフの電流則」。もう1つは、並列回路の最も基本的な性質である「各分岐路の電圧降下が等しい」という関係式です。この2つを連立させるのが最も合理的です。
- 適用根拠: 同じ2点間に接続されている以上、その2点間の電位差はどの経路を通っても同じ値になる、という電位の定義そのものに基づいています。
- 倍率器設計での「回路全体のオームの法則」の選択:
- 選定理由: 倍率器の設計では、改造後の測定器全体を「一つの大きな抵抗器」と見なすことができます。この「大きな抵抗器」の両端にかかる最大電圧\(V_{\text{max}}\)と、そのときに流れる最大電流\(I_A\)が分かっている状況です。したがって、この測定器全体に対してオームの法則 \(V_{\text{max}} = R_{\text{全体}} I_A\) を適用するのが最も直接的です。\(R_{\text{全体}}\)が\(r_A+r\)と表せることから、未知数\(r\)を求めることができます。
- 適用根拠: オームの法則は、個々の抵抗だけでなく、複数の抵抗からなる回路の一部分や回路全体に対しても、その部分の合成抵抗と両端の電圧、流れる電流の関係として成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図を必ず描く: 問題文を読んだら、必ず改造後の回路図を描きましょう。分流器なら並列に、倍率器なら直列に抵抗を追加した図を描き、わかっている電流値や電圧値を書き込むことで、状況が整理され、立式ミスを防げます。
- 単位の扱いのルール化: 計算前に「すべてSI単位に直す」か、「V, kΩ, mAで統一する」か、自分の計算ルールを明確に決めておきましょう。行き当たりばったりで単位を扱うと、必ずどこかで間違えます。
- 答えの桁感を吟味する:
- 分流器の抵抗\(r\): 元の電流計の内部抵抗\(r_A\)より小さくなるはず(多くの電流を流すため)。
- 倍率器の抵抗\(r\): 元の電流計の内部抵抗\(r_A\)よりずっと大きくなるはず(多くの電圧を負担するため)。
計算結果がこの傾向と合っているかを確認するだけで、単純な計算ミスに気づくことができます。
52 ジュール熱
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(各抵抗の消費電力を個別に計算し合計する)を主たる解説としつつ、以下の2つの別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: 電池の供給電力を利用する解法(エネルギー保存則)
- 模範解答にも示されているアプローチで、回路全体のエネルギー保存則に着目します。主たる解法が各部品の消費を足し合わせるのに対し、別解1ではエネルギーの供給源である電池の仕事率を計算することで、全体の消費電力を直接導きます。
- 別解2: 回路全体の合成抵抗を利用する解法
- 主たる解法や別解1が電流値を計算するのに対し、別解2では回路全体の合成抵抗を求め、消費電力の公式 \(P = \frac{V^2}{R}\) を用いて、電流を計算することなく直接答えを導きます。
- 別解1: 電池の供給電力を利用する解法(エネルギー保存則)
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 別解1は「供給電力と消費電力の総和は等しい」というエネルギー保存則の現れであり、物理の根本法則への理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、個々の要素から積み上げる方法(主たる解法)、全体の収支で見る方法(別解1)、全体を一つの要素として見る方法(別解2)という、異なる視点からのアプローチを学べます。
- 解法の効率化: 別解1や別解2は、個々の抵抗の電流や電圧を計算する手間が省けるため、より少ない計算ステップで簡潔に解に至ることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「直流回路における消費電力の計算」です。回路の各部分を流れる電流や電圧を正しく求めた上で、消費電力の公式を適切に使いこなせるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 消費電力の公式: 抵抗 \(R\) に電圧 \(V\) がかかり、電流 \(I\) が流れるときの消費電力 \(P\) は、\(P=VI=RI^2=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) のいずれかの形で計算できること。
- オームの法則と抵抗の合成: 回路の各部分を流れる電流や電圧を求めるために、直列・並列回路の基本的な解析ができること。
- エネルギー保存則: 回路全体において、電池が供給する電力の総和と、全抵抗で消費される電力の総和は等しいこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回路全体の合成抵抗を求め、電源電圧から回路全体を流れる主電流を計算します。
- 次に、主電流が並列部分でどのように分岐するかを計算し、すべての抵抗を流れる電流を特定します。
- 各抵抗について消費電力の公式 \(P=RI^2\) を適用し、それぞれの消費電力を計算します。
- 最後に、すべての抵抗の消費電力を合計して、総和を求めます。
抵抗での消費電力の総和
思考の道筋とポイント
抵抗で消費される電力の総和を求めるには、まず各抵抗でどれだけの電力が消費されているかを個別に計算し、それらを足し合わせるのが最も基本的なアプローチです。
消費電力を計算するためには、各抵抗の「抵抗値」と「流れる電流」あるいは「かかる電圧」の情報が必要です。抵抗値は与えられているので、各抵抗を流れる電流を求めることが最初のステップになります。
そのためには、まず回路全体の構造を把握します。この回路は、\(20 \, \Omega\) と \(30 \, \Omega\) の抵抗が並列接続されており、その全体に \(40 \, \Omega\) の抵抗が直列接続されています。
この構造から、まず回路全体の合成抵抗を計算し、電源電圧 \(26 \, \text{V}\) を用いて回路全体を流れる主電流(これは \(40 \, \Omega\) の抵抗を流れる電流に等しい)を求めます。
次に、この主電流が並列部分でどのように分岐するかを計算し、\(20 \, \Omega\) と \(30 \, \Omega\) の抵抗を流れる電流をそれぞれ求めます。
すべての抵抗について電流値がわかれば、消費電力の公式 \(P=RI^2\) を使って各抵抗の消費電力を計算し、最後にそれらを合計します。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の公式 (\(P=VI=RI^2=\displaystyle\frac{V^2}{R}\)) を正しく使いこなすこと。
- 直列・並列回路における電流・電圧の基本的な関係を正確に適用すること。
- 計算ステップが多くなるため、一つ一つの計算を丁寧に行うこと。
具体的な解説と立式
まず、回路の各部分を流れる電流を求めます。
- \(20 \, \Omega\) と \(30 \, \Omega\) の並列部分の合成抵抗 \(R_{\text{並列}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{\text{並列}}} &= \frac{1}{20} + \frac{1}{30}
\end{aligned}
$$ - 回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を求めます。\(40 \, \Omega\) の抵抗と \(R_{\text{並列}}\) が直列接続されています。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 40 + R_{\text{並列}}
\end{aligned}
$$ - 回路全体を流れる主電流 \(I_{\text{全体}}\) を、電源電圧 \(E=26 \, \text{V}\) と全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) から、オームの法則を用いて求めます。この電流は \(40 \, \Omega\) の抵抗を流れる電流 \(I_{40}\) に等しいです。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{全体}} &= \frac{E}{R_{\text{全体}}}
\end{aligned}
$$ - 並列部分にかかる電圧 \(V_{\text{並列}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{並列}} &= R_{\text{並列}} I_{\text{全体}}
\end{aligned}
$$ - \(20 \, \Omega\) と \(30 \, \Omega\) の抵抗を流れる電流 \(I_{20}\), \(I_{30}\) を、\(V_{\text{並列}}\) を用いてそれぞれ計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{20} = \frac{V_{\text{並列}}}{20}, \quad I_{30} = \frac{V_{\text{並列}}}{30}
\end{aligned}
$$ - 各抵抗の消費電力 \(P_{40}, P_{20}, P_{30}\) を、公式 \(P=RI^2\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{40} = 40 \cdot I_{40}^2, \quad P_{20} = 20 \cdot I_{20}^2, \quad P_{30} = 30 \cdot I_{30}^2
\end{aligned}
$$ - 最後に、これらの総和 \(P_{\text{合計}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{合計}} &= P_{40} + P_{20} + P_{30}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=RI^2\)
- オームの法則: \(V=RI\)
- 抵抗の直列合成: \(R = R_1 + R_2\)
- 抵抗の並列合成: \(\displaystyle\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\)
1. 並列部分の合成抵抗 \(R_{\text{並列}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{\text{並列}}} &= \frac{1}{20} + \frac{1}{30} \\[2.0ex]
&= \frac{3+2}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{12}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
R_{\text{並列}} &= 12 \, \Omega
\end{aligned}
$$
2. 回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 40 \, \Omega + 12 \, \Omega \\[2.0ex]
&= 52 \, \Omega
\end{aligned}
$$
3. 主電流 \(I_{\text{全体}}\) を計算します。これが \(I_{40}\) となります。
$$
\begin{aligned}
I_{40} &= I_{\text{全体}} \\[2.0ex]
&= \frac{26 \, \text{V}}{52 \, \Omega} \\[2.0ex]
&= 0.5 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
4. 並列部分にかかる電圧 \(V_{\text{並列}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{並列}} &= 12 \, \Omega \times 0.5 \, \text{A} \\[2.0ex]
&= 6 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
5. \(I_{20}\) と \(I_{30}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{20} &= \frac{6 \, \text{V}}{20 \, \Omega} \\[2.0ex]
&= 0.3 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
I_{30} &= \frac{6 \, \text{V}}{30 \, \Omega} \\[2.0ex]
&= 0.2 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
(検算: \(I_{20} + I_{30} = 0.3 + 0.2 = 0.5 \, \text{A} = I_{\text{全体}}\)。正しい。)
6. 各抵抗の消費電力を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{40} &= 40 \, \Omega \times (0.5 \, \text{A})^2 \\[2.0ex]
&= 40 \times 0.25 \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
P_{20} &= 20 \, \Omega \times (0.3 \, \text{A})^2 \\[2.0ex]
&= 20 \times 0.09 \\[2.0ex]
&= 1.8 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
P_{30} &= 30 \, \Omega \times (0.2 \, \text{A})^2 \\[2.0ex]
&= 30 \times 0.04 \\[2.0ex]
&= 1.2 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
7. 総消費電力 \(P_{\text{合計}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{合計}} &= 10 \, \text{W} + 1.8 \, \text{W} + 1.2 \, \text{W} \\[2.0ex]
&= 13 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
回路にある3つの抵抗(電熱線のようなもの)が、全体でどれくらいの熱を発生させるか(電気を消費するか)を計算する問題です。
まず、回路のどの部分にどれくらいの量の電気が流れているか(電流)を計算します。そのためには、まず3つの抵抗を1つの「まとめ抵抗」と考えて、回路全体を流れるメインの電流を求めます。計算すると、メインの電流は \(0.5 \, \text{A}\) です。
このメイン電流は、途中で2つの道に分かれます。計算すると、一方向には \(0.3 \, \text{A}\)、もう一方向には \(0.2 \, \text{A}\) が流れることがわかります。
これで、3つの抵抗それぞれを流れる電流がわかったので、各抵抗について「抵抗値 × (電流)²」を計算して、それぞれの消費電力を出します。
最後に、3つの抵抗の消費電力を全部足し合わせれば、答えの \(13 \, \text{W}\) が出ます。
各抵抗の消費電力を個別に計算し、それらを合計することで、総消費電力は \(13 \, \text{W}\) と求められました。計算過程はやや長くなりますが、一つ一つのステップは基本的な法則の適用であり、丁寧に行えば確実に答えにたどり着けます。この結果は、後述する別解によって簡単に検算することができます。
思考の道筋とポイント
回路におけるエネルギー保存則に着目します。回路内でエネルギーを供給しているのは電池だけであり、エネルギーを消費しているのは3つの抵抗だけです。したがって、「全抵抗で消費される電力の総和」は、「電池が供給する電力」と等しくなるはずです。
電池が供給する電力は、公式 \(P=VI\) を使って計算できます。ここで \(V\) は電池の電圧(\(26 \, \text{V}\))、\(I\) は電池から流れ出す主電流です。
したがって、主電流さえ分かれば、各抵抗の消費電力を個別に計算することなく、一回の計算で答えを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (電池の供給電力) = (全抵抗での消費電力の総和)
- 電池の供給電力の公式: \(P=VI\)
- この解法でも、主電流を求める計算は必要となる。
具体的な解説と立式
まず、回路全体を流れる主電流 \(I_{\text{全体}}\) を求める必要があります。これは主たる解法で行った計算と同じです。
- 回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 40 + \left( \frac{1}{20} + \frac{1}{30} \right)^{-1}
\end{aligned}
$$ - 主電流 \(I_{\text{全体}}\) をオームの法則で求めます。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{全体}} &= \frac{E}{R_{\text{全体}}}
\end{aligned}
$$ - 電池の供給電力 \(P_{\text{供給}}\) を計算します。これが求める総消費電力 \(P_{\text{合計}}\) と等しくなります。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{合計}} &= P_{\text{供給}} = E \cdot I_{\text{全体}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電力: \(P=VI\)
- オームの法則: \(V=RI\)
- 抵抗の直列・並列合成
1. 回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 40 + \left( \frac{3+2}{60} \right)^{-1} \\[2.0ex]
&= 40 + \left( \frac{5}{60} \right)^{-1} \\[2.0ex]
&= 40 + 12 \\[2.0ex]
&= 52 \, \Omega
\end{aligned}
$$
2. 主電流 \(I_{\text{全体}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{全体}} &= \frac{26 \, \text{V}}{52 \, \Omega} \\[2.0ex]
&= 0.5 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
3. 電池の供給電力、すなわち総消費電力を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{合計}} &= 26 \, \text{V} \times 0.5 \, \text{A} \\[2.0ex]
&= 13 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
別の考え方として、「使ったお金の合計は、財布から出したお金の合計と同じ」という当たり前のことを利用します。
回路の3つの抵抗が消費する電力の合計は、電池が供給した電力と必ず等しくなります。
だから、各抵抗の消費電力をいちいち計算しなくても、電池がどれだけの電力を供給したか(電池の電圧 × 回路全体に流れる電流)を計算するだけで、答えがわかってしまいます。この方法の方が、計算がずっと楽になります。
主たる解法と完全に一致する \(13 \, \text{W}\) という答えが得られました。エネルギー保存則という物理の根本法則に基づいた、エレガントで計算も簡単な優れた解法です。主たる解法の検算としても非常に有効です。
思考の道筋とポイント
回路全体を、値が \(R_{\text{全体}}\) の一つの大きな抵抗と見なします。この「合成抵抗」で消費される電力が、求めるべき総消費電力に他なりません。
回路全体にかかる電圧は電源電圧 \(E=26 \, \text{V}\) であり、全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) は計算で求められます。この2つの量が分かっていれば、消費電力の公式 \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を回路全体に適用することで、主電流を計算するステップすら経ずに、一回の計算で答えを導き出すことができます。
この設問における重要なポイント
- 回路全体を一つの合成抵抗とみなす視点。
- 消費電力の公式 \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を回路全体に適用する。
- この解法では、電流を計算する必要が全くない。
具体的な解説と立式
まず、回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を求めます。これは主たる解法や別解1で行った計算と同じです。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 40 + \left( \frac{1}{20} + \frac{1}{30} \right)^{-1}
\end{aligned}
$$
次に、この合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) に電源電圧 \(E\) がかかっていると考えて、総消費電力 \(P_{\text{合計}}\) を公式 \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{合計}} &= \frac{E^2}{R_{\text{全体}}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電力: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
- 抵抗の直列・並列合成
1. 回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 40 + 12 \\[2.0ex]
&= 52 \, \Omega
\end{aligned}
$$
2. 総消費電力 \(P_{\text{合計}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{合計}} &= \frac{(26 \, \text{V})^2}{52 \, \Omega} \\[2.0ex]
&= \frac{26 \times 26}{52} \\[2.0ex]
&= \frac{26 \times 26}{2 \times 26} \\[2.0ex]
&= \frac{26}{2} \\[2.0ex]
&= 13 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
さらにスマートな考え方です。まず、3つある抵抗を全部まとめて、1つの巨大な「まとめ抵抗(合成抵抗)」と見なします。このまとめ抵抗の値を計算すると \(52 \, \Omega\) になります。
あとは、この \(52 \, \Omega\) のまとめ抵抗に \(26 \, \text{V}\) の電圧がかかっていると考えて、公式 \(P = (\text{電圧})^2 \div (\text{抵抗})\) を使えば、全体の消費電力が一発で計算できます。この方法だと、電流を計算する必要すらないので、最も手っ取り早いかもしれません。
他の解法と完全に一致する \(13 \, \text{W}\) という答えが得られました。主電流を計算するステップすら不要なため、3つの解法の中では最も計算ステップが少なく、効率的な解法と言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギー保存則の回路への応用:
- 核心: この問題の根幹は、回路におけるエネルギーの流れを理解し、それを電力という形で定量的に扱うことにあります。特に、「電池が供給するエネルギー(電力)は、回路内の全抵抗で消費されるエネルギー(電力)の総和に等しい」というエネルギー保存則が、最も本質的な物理法則です。
- 理解のポイント:
- 供給側: 電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変換し、電荷を電位の高い方へ押し上げることで、回路にエネルギーを供給します。その仕事率が「供給電力 \(P=VI\)’」です。
- 消費側: 抵抗は、流れる電子と陽イオンの衝突によって電気エネルギーを熱エネルギー(ジュール熱)に変換します。その変換率が「消費電力 \(P=RI^2\)’」です。
- 保存則: 閉じた回路ではエネルギーの逃げ場がないため、単位時間あたりに供給されるエネルギーと消費されるエネルギーは必ず釣り合います。この視点を持つことが、別解1のようなエレガントな解法につながります。
- 複数の電力公式の使い分け:
- 核心: 消費電力を表す3つの公式 \(P=VI\), \(P=RI^2\), \(P=\frac{V^2}{R}\) は、すべて等価ですが、問題の状況に応じて最も計算が楽になる公式を選択する能力が重要です。
- 理解のポイント:
- \(P=RI^2\): 各抵抗を流れる「電流」が分かっている場合に最も便利です。主たる解法で使われました。
- \(P=VI\): 回路全体など、「電圧」と「電流」の両方が分かっている場合に便利です。別解1で電池の供給電力を求める際に使われました。
- \(P=\frac{V^2}{R}\): 各抵抗にかかる「電圧」が分かっている場合や、別解2のように「全体の電圧」と「全体の合成抵抗」が分かっている場合に便利です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 特定の抵抗での消費電力を問う問題: 「\(20 \, \Omega\)の抵抗での消費電力はいくらか?」といった問題。本問の主たる解法のように、その抵抗を流れる電流またはかかる電圧を正確に求めることが目標になります。
- 消費電力が最大になる条件を求める問題: 可変抵抗を含む回路で、「抵抗Rで消費される電力が最大になるときのRの値はいくらか」といった問題。電力の式を立て、それをRの関数として微分して最大値を求める、といった数学的なアプローチが必要になります。
- コンデンサーの充電エネルギーとの関連: 抵抗での消費電力(ジュール熱)はエネルギーが失われる現象ですが、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー \(\frac{1}{2}CV^2\) はエネルギーが保存される現象です。この違いを意識することが重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 何を問われているかを明確にする: 「特定の抵抗」での消費電力か、「回路全体」での総消費電力かを確認します。
- 「総消費電力」を問われた場合の戦略:
- 真っ先に「電池の供給電力で解けないか?」と考えます(別解1)。そのためには、主電流を求める必要があります。
- 次に「全体の合成抵抗で解けないか?」と考えます(別解2)。そのためには、全体の合成抵抗を求める必要があります。
- これらが困難な場合に初めて、各抵抗の消費電力を個別に計算する、という手順で考えると効率的です。
- どの公式が最も楽かを見極める: 回路の構造を見て、各部分の「電流」と「電圧」のどちらが求めやすいかを判断し、使う電力公式を選択します。並列部分では電圧が共通なので\(P=\frac{V^2}{R}\)が、直列部分では電流が共通なので\(P=RI^2\)が使いやすい傾向にあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電流と電圧の取り違え:
- 誤解: 並列部分で電流が等しいと勘違いしたり、直列部分で電圧が等しいと勘違いしてしまう。
- 対策: 「直列は電流が一定、電圧が分かれる」「並列は電圧が一定、電流が分かれる」という基本中の基本を、回路図を見るたびに唱えるようにして徹底します。
- 2乗の計算ミス:
- 誤解: \(P=RI^2\) の計算で、\(I\)の2乗を忘れてしまう。特に、\(I=0.5\)A のときに \(0.5^2=2.5\) のように間違えやすい。
- 対策: \(0.5^2 = (1/2)^2 = 1/4 = 0.25\) のように、小数は分数に直して考えるとミスが減ります。また、計算の際には、公式を声に出して「アール、アイ、二乗」と確認する癖をつけるのが有効です。
- 合成抵抗での電力計算の誤り:
- 誤解: 例えば、並列部分の合成抵抗\(R_p\)と主電流\(I_{\text{all}}\)を使って、\(P=R_p I_{\text{all}}^2\) のように、部分的な抵抗値と全体の電流値を組み合わせてしまう。
- 対策: 電力公式の \(V, I, R\) は、必ず「同じ部分に関する物理量」でなければならない、という大原則を徹底します。全体の電力を計算するなら、全体の電圧、全体の電流、全体の抵抗を使います。部分の電力を計算するなら、その部分の電圧、電流、抵抗を使います。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 主たる解法での \(P=RI^2\) の選択:
- 選定理由: この解法では、まず回路の各部分を流れる「電流」をすべて計算するプロセスを踏みます。したがって、各抵抗について「抵抗値\(R\)」と「電流\(I\)」が既知の状態になります。この2つの情報から直接電力を計算できる公式は \(P=RI^2\) なので、これを選択するのが最も合理的です。
- 適用根拠: この公式は、オームの法則 \(V=RI\) を電力の基本定義 \(P=VI\) に代入することで得られます (\(P=(RI)I=RI^2\))。物理的に完全に正当化された関係式です。
- 別解1での \(P=VI\) の選択:
- 選定理由: この解法では、「電池」というエネルギー供給源に着目します。電池については、その両端の電圧\(V\)(起電力)と、そこから流れ出す電流\(I\)(主電流)が分かっています。この2つの情報から直接電力を計算できるのは \(P=VI\) です。
- 適用根拠: \(P=VI\) は、電力の最も基本的な定義式です。単位電荷\(q\)が電位差\(V\)を移動する際に得るエネルギーは\(qV\)であり、単位時間あたりに流れる電荷の量(電流)が\(I=q/t\)なので、単位時間あたりのエネルギー(仕事率=電力)は \(P = (qV)/t = V(q/t) = VI\) となります。
- 別解2での \(P=\frac{V^2}{R}\) の選択:
- 選定理由: この解法では、回路全体を「一つの合成抵抗」と見なします。この合成抵抗については、その両端にかかる電圧\(V\)(電源電圧)と、抵抗値\(R\)(合成抵抗)が分かっています。この2つの情報から直接電力を計算できるのは \(P=\frac{V^2}{R}\) です。
- 適用根拠: この公式は、オームの法則 \(I=V/R\) を電力の基本定義 \(P=VI\) に代入することで得られます (\(P=V(V/R)=V^2/R\))。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 回路の単純化から始める: 複雑な回路を見たら、まず並列部分を一つの合成抵抗に置き換えるなど、回路図をよりシンプルな形に描き直すことから始めましょう。全体像が把握しやすくなり、計算の見通しが立ちます。
- 分岐電流の計算は比を使う: 主たる解法では並列部分の電圧を計算してから各電流を求めましたが、並列回路では電流は抵抗値の逆比に分配されます。\(20\Omega:30\Omega = 2:3\) なので、電流は \(3:2\) に分配されます。主電流 \(0.5\)A を \(3:2\) に分けると、\(0.3\)A と \(0.2\)A になる、と暗算レベルで計算することも可能です。
- 答えの桁感を持つ: 例えば、\(100\)Wの電球は非常に明るい、というような日常感覚を持っておくと、計算結果が \(1300\)W のようになったときに「何かおかしい」と気づくことができます。物理的な量のスケール感を養うことも、ミスを防ぐ上で重要です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
53 ジュール熱
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(分母の平方完成)を主たる解説としつつ、以下の2つの別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: 相加平均と相乗平均の関係を用いる解法
- 模範解答にも示されているアプローチで、数学的な不等式を利用して分母の最小値を求めます。
- 別解2: 微分を用いる解法
- 模範解答でも示唆されているアプローチで、消費電力\(P\)を抵抗\(R\)の関数とみなし、微分して増減を調べることで最大値を求めます。
- 別解1: 相加平均と相乗平均の関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 数学的アプローチの多様性: 同じ物理問題に対して、平方完成、相加・相乗平均、微分という異なる数学的ツールでアプローチする経験は、数学的思考力と応用力を高めます。
- 解法の汎用性: 特に微分を用いる方法は、より複雑な関数の最大・最小問題を解く際の最も汎用的な手法であり、物理の様々な分野で応用が効きます。
- 物理的本質の再確認: どの解法を用いても「外部抵抗と内部抵抗が等しいときに消費電力が最大になる」という同じ物理的結論に至ることを確認できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「内部抵抗を持つ電源から取り出せる最大電力」です。外部に接続する抵抗\(R\)の値を変えると、回路を流れる電流と抵抗\(R\)にかかる電圧が変化し、その結果として抵抗\(R\)での消費電力も変化します。この消費電力が最大になる条件を求める、典型的な最大・最小問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 内部抵抗を含む回路のオームの法則: 回路を流れる電流は、起電力\(E\)を、外部抵抗\(R\)と内部抵抗\(r\)の和で割ることで求められます。
- 消費電力の公式: 抵抗での消費電力は \(P=RI^2\) で計算できます。
- 関数の最大・最小問題: 消費電力\(P\)を抵抗\(R\)の関数として表し、その関数が最大値をとる条件を数学的な手法(平方完成、相加・相乗平均、微分など)を用いて見つけ出します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回路を流れる電流\(I\)を、\(E, R, r\)を用いて表します。
- 次に、抵抗\(R\)での消費電力\(P\)を、公式\(P=RI^2\)に代入し、\(R\)の関数として表します。
- 得られた\(P\)の式が最大となる条件を、数学的な手法を用いて求めます。