問題07 斜面をのぼる小球の運動 (上智大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)[エ]の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
- 模範解答が等加速度運動の公式を用いて速度を求めるのに対し、別解ではエネルギー保存則を用いて、高さの変化から直接速度を求めます。
- 設問(2)[ク]の別解: 運動の対称性を用いた解法
- 模範解答が変位の式から時間を計算するのに対し、別解では「最高点までの時間の2倍」という対称性を利用して計算を簡略化します。
- 全設問共通の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 公式を既知とせず、運動方程式を立式し、それを時間で積分することで速度と位置の式を導出し、全ての設問を一貫して解きます。
- 設問(1)[エ]の別解: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- エネルギー保存則: 加速度や時間を経由せずに始点と終点の関係を直接結びつけるため、計算量が減りミスを防げます。
- 対称性: 2次方程式を解く手間を省き、物理的直感に基づいて素早く解答にたどり着けます。
- 微積分: 「公式に当てはめる」のではなく、ニュートンの運動方程式という原理から出発するため、斜面の角度が変化する場合などの応用問題にも対応できる基礎力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面上での放物運動と座標変換」です。3次元的な空間運動を、斜面に沿った成分と水平成分に分解して考える力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の分解と運動の独立性: 重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解し、\(x\) 軸方向(水平)と \(y’\) 軸方向(斜面)の運動を独立して扱います。
- 等加速度運動: 斜面方向には一定の重力成分が働くため、等加速度運動の公式が適用できます。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がないため、重力による位置エネルギーと運動エネルギーの総和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、小球に働く力を分析し、各方向の運動の性質(等速か等加速か)を見極めます。その後、等加速度運動の公式を用いて速度や時間を計算します。
- (2)では、斜面を登り切れるかどうかの「臨界条件」を考察し、再び下面に戻ってくる場合の運動時間を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、小球に働く力を図示して分析します。
斜面の角度は \(\phi\) です。重力 \(mg\) を斜面に垂直な成分と、斜面に平行な成分(\(y’\) 軸方向)に分解します。
摩擦がないため、斜面上の \(x\) 軸方向(水平方向)には力が働きません。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の取り方: 問題の図に従い、\(x\) 軸は斜面の等高線方向、\(y’\) 軸は斜面の最大傾斜方向(上向き正)にとります。
- 初速度の分解: 小球の初速度 \(v\) は、\(y\) 軸(斜面に向かう水平方向)と角度 \(\theta_1\) をなしています。
- \(x\) 成分: \(v_{x\text{初}} = v \sin \theta_1\)
- \(y’\) 成分(斜面に沿った成分): \(v_{y’\text{初}} = v \cos \theta_1\)
- 注意: 通常の \(x\) 軸からの角度設定とは異なり、\(y\) 軸基準の角度であることに注意が必要です(図3「斜面を真上から見た図」参照)。
具体的な解説と立式
[ア]、[イ]について
小球(質量 \(m\))に働く力を考えます。
斜面に垂直な方向には、重力の分力 \(mg \cos \phi\) と垂直抗力 \(N\) がつりあっています。
斜面に平行な面内での運動方程式を立てます。\(x\) 軸方向の加速度を \(a_x\)、\(y’\) 軸方向の加速度を \(a_{y’}\) とします。
\(x\) 軸方向には力が働かないため、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
m a_x &= 0
\end{aligned}
$$
\(y’\) 軸方向(斜面上向き正)には、重力の斜面成分 \(mg \sin \phi\) が下向き(負の向き)に働きます。
$$
\begin{aligned}
m a_{y’} &= – mg \sin \phi
\end{aligned}
$$
[ウ]について
\(x\) 方向は等速度運動なので、上面に到達したときの速度の \(x\) 成分 \(v_x\) は、初速度の \(x\) 成分 \(v_{x\text{初}}\) と等しくなります。
初速度ベクトル \(v\) と \(y\) 軸のなす角が \(\theta_1\) であることから、\(x\) 成分を立式します。
$$
\begin{aligned}
v_x &= v_{x\text{初}}
\end{aligned}
$$
[エ]について
斜面を登り切ったとき(上面に到達したとき)の \(y’\) 方向の速度成分を \(v_{y’}\) とします。
斜面の高さを \(h\)、斜面の傾角を \(\phi\) とすると、斜面の長さ(移動距離)\(L\) は幾何学的に以下の関係を満たします。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{h}{\sin \phi}
\end{aligned}
$$
\(y’\) 方向の運動について、等加速度運動の公式「速度の2乗の差=2×加速度×変位」を用います。
初速度は \(v_{y’\text{初}} = v \cos \theta_1\)、加速度は \(a_{y’}\)、変位は \(L\) です。
$$
\begin{aligned}
v_{y’}^2 – v_{y’\text{初}}^2 &= 2 a_{y’} L
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
[ア]、[イ]の計算
運動方程式より加速度を求めます。
$$
\begin{aligned}
a_x &= 0 \\[2.0ex]
a_{y’} &= – g \sin \phi
\end{aligned}
$$
これより、以下の結論が得られます。
- \(x\) 方向: 加速度 \(0\) なので、等速度運動(選択肢①)。
- \(y’\) 方向: 加速度 \(a = -g \sin \phi\) の等加速度運動(選択肢②)。
[ウ]の計算
立式より、初速度の成分を代入して求めます。
$$
\begin{aligned}
v_x &= v \sin \theta_1
\end{aligned}
$$
[エ]の計算
等加速度運動の式に各値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{y’}^2 – (v \cos \theta_1)^2 &= 2 (-g \sin \phi) \cdot \frac{h}{\sin \phi} \\[2.0ex]
v_{y’}^2 – v^2 \cos^2 \theta_1 &= -2gh \\[2.0ex]
v_{y’}^2 &= v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh
\end{aligned}
$$
\(v_{y’} > 0\) (登り切るので速度は正)より、平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v_{y’} &= \sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh}
\end{aligned}
$$
上面は水平なので、この斜面方向の速度成分 \(v_{y’}\) が、そのまま上面での \(y\) 方向速度 \(v_y\) となります。
まず、重力が斜面の下向きに引っ張るため、登るにつれてスピードが落ちていくことを確認しました。
水平方向(横方向)には邪魔する力がないので、スピードは変わりません。
斜面方向(縦方向)については、「どれくらいの距離を登ると、どれくらいスピードが落ちるか」という公式を使って計算しました。斜面の長さは高さ \(h\) と角度 \(\phi\) から求められます。
[ア]: ① 等速度運動
[イ]: ② 加速度 \(a = -g \sin \phi\) の等加速度運動
[ウ]: \(v \sin \theta_1\)
[エ]: \(\sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh}\)
ルートの中身が正であることは、登り切れる条件(初速度の運動エネルギーが位置エネルギーより大きい)に対応しており、物理的に妥当です。
[ア] ①
[イ] ②
[ウ] \(\displaystyle v \sin \theta_1\)
[エ] \(\displaystyle \sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh}\)
思考の道筋とポイント
摩擦がないため、保存力である重力のみが仕事をします。したがって、力学的エネルギー保存則が成立します。
下面(高さ \(0\))と上面(高さ \(h\))でのエネルギーを比較します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: \((\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \text{一定}\)
- 速度の合成: 全速度の2乗は、成分の2乗の和に等しい(\(v^2 = v_x^2 + v_y^2\))。
具体的な解説と立式
下面での速さは \(v\)、上面での速さを \(v’\) とします。
力学的エネルギー保存則より以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} m v^2 &= \frac{1}{2} m (v’)^2 + mgh
\end{aligned}
$$
上面での速度 \(v’\) は、\(x\) 成分 \(v_x\) と \(y\) 成分 \(v_y\)(斜面を登り切った直後の \(v_{y’}\))の合成速度です。
三平方の定理より以下の関係があります。
$$
\begin{aligned}
(v’)^2 &= v_x^2 + v_y^2
\end{aligned}
$$
また、\(x\) 成分は変化しないため、以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
v_x &= v \sin \theta_1
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K + U = \text{一定}\)
- 三平方の定理: \(v^2 = v_x^2 + v_y^2\)
エネルギー保存則の式を変形して \(v_y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} m v^2 &= \frac{1}{2} m (v_x^2 + v_y^2) + mgh \\[2.0ex]
v^2 &= (v \sin \theta_1)^2 + v_y^2 + 2gh \\[2.0ex]
v_y^2 &= v^2 – v^2 \sin^2 \theta_1 – 2gh \\[2.0ex]
&= v^2 (1 – \sin^2 \theta_1) – 2gh
\end{aligned}
$$
三角関数の関係式 \(1 – \sin^2 \theta_1 = \cos^2 \theta_1\) を用います。
$$
\begin{aligned}
v_y^2 &= v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh \\[2.0ex]
v_y &= \sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh}
\end{aligned}
$$
「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の合計が変わらないというルールを使いました。
登った分だけ位置エネルギーが増えるので、その分運動エネルギー(速さ)が減ります。
横方向の速さは変わらないので、減った分はすべて縦方向の速さから引かれることになります。
等加速度運動の公式を用いた場合と全く同じ結果が得られました。加速度や斜面の長さを計算する必要がないため、計算ミスを減らせる有効な方法です。
[オ]について
思考の道筋とポイント
斜面を登り始めてから上面に到達するまでの時間 \(t\) を求めます。
\(y’\) 方向の速度が、初速度 \(v_{y’\text{初}}\) から上面での速度 \(v_{y’}\) に変化するまでの時間を計算します。
具体的な解説と立式
等加速度運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を \(y’\) 方向に適用します。
上面に到達したときの速度 \(v_{y’}\) は先ほど求めた値([エ]の答え)です。
$$
\begin{aligned}
v_{y’} &= v_{y’\text{初}} + a_{y’} t
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度運動の速度公式: \(v = v_0 + at\)
値を代入して \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh} &= v \cos \theta_1 + (-g \sin \phi) t \\[2.0ex]
(g \sin \phi) t &= v \cos \theta_1 – \sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh} \\[2.0ex]
t &= \frac{v \cos \theta_1 – \sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh}}{g \sin \phi}
\end{aligned}
$$
速度が「初めの速度」から「終わりの速度」に変わるまでに、どれくらいの時間がかかるかを計算しました。
ブレーキ(重力による減速)が一定の強さでかかっているので、速度の変化量をブレーキの強さ(加速度)で割ることで時間が求まります。
分母の \(g \sin \phi\) は加速度の大きさ、分子は速度の減少量を表しており、次元は \([\text{L/T}] / [\text{L/T}^2] = [\text{T}]\) となり正しいです。
[カ]について
思考の道筋とポイント
上面での小球の進む方向 \(\theta_2\) は、速度ベクトル \(\vec{v}’\) の向きです。
\(\theta_1, \theta_2\) は共に \(y\) 軸(進行方向基準)とのなす角として定義されています。
\(x\) 方向の速度成分が変わらないこと(\(v_x = v’_x\))と、速さが変化することを利用します。
具体的な解説と立式
下面での速度の \(x\) 成分は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
v_x &= v \sin \theta_1
\end{aligned}
$$
上面での速度の \(x\) 成分(速さを \(v’\) とする)は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
v’_x &= v’ \sin \theta_2
\end{aligned}
$$
\(x\) 方向は等速なので \(v_x = v’_x\) です。
$$
\begin{aligned}
v \sin \theta_1 &= v’ \sin \theta_2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
これを変形して \(\frac{\sin \theta_1}{\sin \theta_2}\) を求めます。
使用した物理公式
- 速度の成分分解: \(v_x = v \sin \theta\)
式①より比を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\sin \theta_1}{\sin \theta_2} &= \frac{v’}{v}
\end{aligned}
$$
ここで、上面での速さ \(v’\) は、エネルギー保存則(別解で求めた式)より以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} m v^2 &= \frac{1}{2} m (v’)^2 + mgh \\[2.0ex]
(v’)^2 &= v^2 – 2gh \\[2.0ex]
v’ &= \sqrt{v^2 – 2gh}
\end{aligned}
$$
これを代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\sin \theta_1}{\sin \theta_2} &= \frac{\sqrt{v^2 – 2gh}}{v} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{v^2 – 2gh}{v^2}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1 – \frac{2gh}{v^2}}
\end{aligned}
$$
光が屈折するときのように、粒子の速さが変わると進む向きが変わります。
横方向(\(x\) 方向)のスピードは変わらないのに、縦方向(\(y\) 方向)のスピードが遅くなったため、全体としての進む向きは横に寝ていきます(角度 \(\theta\) が大きくなる)。
その比率は、登る前と登った後の「全体の速さの比」で決まります。
\(v^2 > 2gh\) (登り切れる条件)であればルートの中身は正となり、値は1より小さくなります。これは \(\sin \theta_1 < \sin \theta_2\)、つまり \(\theta_1 < \theta_2\) を意味し、図の状況と一致します。
問(2)
[キ]について
思考の道筋とポイント
\(\theta_1\) を大きくしていく(横向きに打ち出す)と、斜面を登るための初速度成分 \(v_{y’\text{初}} = v \cos \theta_1\) が小さくなります。
ある角度 \(\theta_c\) を超えると、登り切る前に斜面方向の速度が \(0\) になってしまい、上面に到達できなくなります。
「上面に到達できずに戻ってくる」境界の条件(臨界条件)は、「上面の高さに達した瞬間に、ちょうど斜面方向の速度 \(v_{y’}\) が \(0\) になる」ことです。
具体的な解説と立式
上面に到達したときの斜面方向速度 \(v_{y’}\) は、[エ]で求めた通りです。
$$
\begin{aligned}
v_{y’} &= \sqrt{v^2 \cos^2 \theta_1 – 2gh}
\end{aligned}
$$
これが実数として存在するためには、ルートの中身が \(0\) 以上でなければなりません。
臨界角 \(\theta_c\) のとき、ルートの中身がちょうど \(0\) になります。
$$
\begin{aligned}
v^2 \cos^2 \theta_c – 2gh &= 0
\end{aligned}
$$
また、問題文では \(\sin \theta_c\) の形を求めているため、\(\cos^2 \theta_c = 1 – \sin^2 \theta_c\) を利用します。
使用した物理公式
- 三角関数の相互関係: \(\sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1\)
条件式を変形します。
$$
\begin{aligned}
v^2 (1 – \sin^2 \theta_c) &= 2gh \\[2.0ex]
1 – \sin^2 \theta_c &= \frac{2gh}{v^2} \\[2.0ex]
\sin^2 \theta_c &= 1 – \frac{2gh}{v^2}
\end{aligned}
$$
\(\theta_c\) は鋭角なので \(\sin \theta_c > 0\) です。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_c &= \sqrt{1 – \frac{2gh}{v^2}}
\end{aligned}
$$
斜面を登り切るギリギリの条件を考えました。
角度をつけすぎると、縦方向の勢いが足りなくなって途中で落ちてしまいます。
ちょうど登り切った瞬間に縦方向の速度がゼロになるような角度を計算しました。
この式は、[カ]の答えにおいて \(\theta_2 = 90^\circ\) (\(\sin \theta_2 = 1\))とした場合と一致します。
\(\theta_2 = 90^\circ\) というのは、上面に達した瞬間に真横(\(x\) 軸方向)を向いている、つまり縦方向の速度がなくなった状態を意味し、物理的に整合しています。
[ク]について
思考の道筋とポイント
\(\theta_1 > \theta_c\) の場合、小球は途中で最高点に達し、滑り落ちて下面に戻ってきます。
斜面方向(\(y’\) 軸方向)の運動だけに注目します。
初速度 \(v_{y’\text{初}} = v \cos \theta_1\)、加速度 \(a_{y’} = -g \sin \phi\) の等加速度運動を行い、変位が再び \(0\) になるまでの時間 \(t’\) を求めます。
具体的な解説と立式
等加速度運動の変位の公式 \(y’ = v_0 t + \frac{1}{2} a t^2\) を用います。
戻ってきたとき、変位 \(y’\) は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
0 &= v_{y’\text{初}} t’ + \frac{1}{2} a_{y’} (t’)^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度運動の変位公式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2} a t^2\)
値を代入します。
$$
\begin{aligned}
0 &= (v \cos \theta_1) t’ + \frac{1}{2} (-g \sin \phi) (t’)^2
\end{aligned}
$$
\(t’ > 0\) なので、両辺を \(t’\) で割ることができます(あるいは因数分解して \(0\) でない方の解を選びます)。
$$
\begin{aligned}
(v \cos \theta_1) t’ – \frac{1}{2} (g \sin \phi) (t’)^2 &= 0 \\[2.0ex]
t’ \left( v \cos \theta_1 – \frac{1}{2} g \sin \phi \cdot t’ \right) &= 0
\end{aligned}
$$
\(t’ \neq 0\) より、括弧内が \(0\) になります。
$$
\begin{aligned}
v \cos \theta_1 &= \frac{1}{2} g \sin \phi \cdot t’ \\[2.0ex]
t’ &= \frac{2 v \cos \theta_1}{g \sin \phi}
\end{aligned}
$$
ボールを真上に投げ上げて手元に戻ってくるまでの時間を計算するのと同じです。
斜面に沿って「行って帰ってくる」運動なので、変位(スタート地点からの距離)がゼロになる時間を求めました。
分母は加速度、分子は速度の次元を持つため、全体として時間の次元になります。
また、重力加速度 \(g\) が大きいほど、あるいは斜面角度 \(\phi\) が大きいほど(急なほど)、すぐに戻ってくるため時間は短くなります。これは直感と一致します。
思考の道筋とポイント
等加速度運動(放物運動)では、行き(最高点まで)の時間と、帰り(最高点から戻るまで)の時間は等しくなります。
最高点では速度が瞬間的に \(0\) になります。
この設問における重要なポイント
- 放物運動の対称性: 上昇時間と下降時間は等しい。
- 最高点の条件: 速度の鉛直(斜面)成分が \(0\) になる。
具体的な解説と立式
最高点に達するまでの時間を \(t_{\text{最高}}\) とします。
最高点での速度は \(0\) なので、速度の式 \(v = v_0 + at\) より以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
0 &= v_{y’\text{初}} + a_{y’} t_{\text{最高}}
\end{aligned}
$$
求める時間 \(t’\) は、往復なので \(t_{\text{最高}}\) の2倍です。
$$
\begin{aligned}
t’ &= 2 t_{\text{最高}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度運動の速度公式: \(v = v_0 + at\)
まず \(t_{\text{最高}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= v \cos \theta_1 + (-g \sin \phi) t_{\text{最高}} \\[2.0ex]
t_{\text{最高}} &= \frac{v \cos \theta_1}{g \sin \phi}
\end{aligned}
$$
これを2倍して \(t’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
t’ &= 2 \times \frac{v \cos \theta_1}{g \sin \phi} \\[2.0ex]
&= \frac{2 v \cos \theta_1}{g \sin \phi}
\end{aligned}
$$
「行きにかかる時間」と「帰りにかかる時間」は同じです。
最高点まで登る時間を計算して、それを2倍するだけで答えが出ます。
最高点では一瞬止まる(速度がゼロになる)ことを利用しました。
変位の式を解いた場合と同じ結果が、より簡単な計算で得られました。放物運動の対称性は強力なツールです。
思考の道筋とポイント
公式を暗記するのではなく、ニュートンの運動方程式から出発して、積分によって速度と位置を導出します。
これにより、[ア]〜[ク]の全ての答えが一つの原理から導かれることを示します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の立式: 力の成分を正確に記述する。
- 初期条件の適用: 積分定数を決定するために、\(t=0\) での位置と速度を用いる。
具体的な解説と立式
斜面上の座標系として、水平方向に \(x\) 軸、最大傾斜方向(上向き)に \(y’\) 軸をとります。時刻 \(t=0\) で原点にあるとします。
運動方程式は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2 x}{dt^2} &= 0 \quad \cdots ① \\[2.0ex]
m \frac{d^2 y’}{dt^2} &= -mg \sin \phi \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
初期条件(\(t=0\))は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
x(0) &= 0, \quad v_x(0) = v \sin \theta_1 \\[2.0ex]
y'(0) &= 0, \quad v_{y’}(0) = v \cos \theta_1
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(m \frac{d^2 \vec{r}}{dt^2} = \vec{F}\)
- 微積分の基本関係: \(v = \int a \, dt\), \(x = \int v \, dt\)
1. \(x\) 方向の運動
式①より加速度は \(0\) です。積分して速度を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dx}{dt} &= \int 0 \, dt + C_1 \\[2.0ex]
&= v \sin \theta_1 \quad (\text{初期条件より})
\end{aligned}
$$
これは一定なので、等速度運動です([ア]、[ウ]の答え)。
2. \(y’\) 方向の運動
式②の両辺を \(m\) で割り、加速度を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{d^2 y’}{dt^2} &= -g \sin \phi
\end{aligned}
$$
これは一定なので、等加速度運動です([イ]の答え)。
時間 \(t\) で積分して速度 \(v_{y’}(t)\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{y’}(t) &= \frac{dy’}{dt} \\[2.0ex]
&= \int (-g \sin \phi) \, dt + C_2 \\[2.0ex]
&= – (g \sin \phi) t + v \cos \theta_1 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
さらに積分して位置 \(y'(t)\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
y'(t) &= \int \{ – (g \sin \phi) t + v \cos \theta_1 \} \, dt + C_3 \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{2} (g \sin \phi) t^2 + (v \cos \theta_1) t \quad \cdots ④ \quad (y'(0)=0 \text{より} C_3=0)
\end{aligned}
$$
3. 各設問への適用
- [エ](速度と位置の関係):
式③より \(t\) を \(v_{y’}\) で表し、式④に代入して \(t\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{v \cos \theta_1 – v_{y’}}{g \sin \phi}
\end{aligned}
$$
これを式④に代入して整理すると、以下の関係式が導かれます。
$$
\begin{aligned}
v_{y’}^2 – (v \cos \theta_1)^2 &= 2(-g \sin \phi)y’
\end{aligned}
$$
ここで \(y’ = L = h/\sin \phi\) を代入すれば[エ]の答えになります。 - [オ](到達時間):
式③において、\(v_{y’}(t)\) が[エ]で求めた速度になるときの \(t\) を解けば求まります。 - [ク](戻る時間):
式④において、\(y'(t’) = 0\) となる \(t’ (>0)\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2} (g \sin \phi) (t’)^2 + (v \cos \theta_1) t’ &= 0 \\[2.0ex]
t’ \left( v \cos \theta_1 – \frac{1}{2} g \sin \phi \cdot t’ \right) &= 0
\end{aligned}
$$
これより \(t’ = \frac{2 v \cos \theta_1}{g \sin \phi}\) が導かれます。
「力 \(\to\) 加速度 \(\to\) 速度 \(\to\) 位置」という物理学の王道の流れですべてを導きました。
個別の公式を覚えていなくても、運動方程式さえ立てられれば、あとは数学の力ですべての答えが出せることを確認しました。
微積分を用いることで、等速度運動や等加速度運動の公式が自然に導出され、すべての設問に対して矛盾なく解答が得られました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性と成分分解
- 核心: 3次元的な運動を、力が働く方向(斜面方向)と働かない方向(水平方向)に分解することで、単純な1次元運動の組み合わせとして処理できます。
- 理解のポイント:
- 直交座標の利点: 互いに直交する方向の運動は互いに影響を与えません(独立性)。
- 重力の分解: 斜面上の運動では、重力を「斜面を滑り落ちさせる成分(\(mg \sin \phi\))」と「斜面に押し付ける成分(\(mg \cos \phi\))」に分解するのが定石です。
- 力学的エネルギー保存則
- 核心: 摩擦や空気抵抗などの非保存力が仕事をしない場合、物体の持つ運動エネルギーと位置エネルギーの総和は常に一定に保たれます。
- 理解のポイント:
- 経路無関係: どのような軌道を描いても、始点と終点の高さの差だけで速度変化が決まります。
- 計算の短縮: 時間や加速度を求める必要がない場合、運動方程式よりも圧倒的に速く解けます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射: 今回の問題は、実質的に「重力が \(g \sin \phi\) に弱まった世界での斜方投射」と同じです。通常の放物運動の公式(\(g\) を \(g \sin \phi\) に置き換えるだけ)がそのまま使えます。
- 曲面上の運動: 斜面が曲面になっても、摩擦がなければエネルギー保存則は成立します。高さ \(h\) だけで速度が決まるという本質は変わりません。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の有無を確認する: どの方向に力が働いているか(加速するか)、どの方向に働いていないか(等速か)を最初に見極めます。
- 座標軸を設定する: 力の方向に合わせて軸をとります。斜面なら「斜面に沿った方向」と「垂直な方向」が基本です。
- 保存則の適用可否: 摩擦がなければまずエネルギー保存則を疑います。「速さ」や「高さ」が問われたら保存則、「時間」が問われたら運動方程式(等加速度運動の公式)と使い分けます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 角度の取り違え:
- 誤解: 斜面の角度 \(\phi\) と、打ち出し角度 \(\theta_1\) を混同してしまう。あるいは、\(\theta_1\) を \(x\) 軸基準だと思い込んで \(\cos\) と \(\sin\) を逆にしてしまう。
- 対策: 図に必ず角度を書き込み、直角三角形を描いて「どちらが底辺(\(\cos\))でどちらが高さ(\(\sin\))か」を目で見て確認する癖をつけます。
- 「最高点」の条件の誤解:
- 誤解: 最高点で「速度が \(0\) になる」と思い込んでしまう。
- 対策: 最高点で \(0\) になるのは「斜面方向(縦方向)の速度成分」だけです。水平方向(横方向)の速度はずっと残っているため、全速度は \(0\) になりません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 設問(1)[エ]でのエネルギー保存則(別解):
- 選定理由: 求めるものが「速度」であり、途中経過(時間や加速度)に興味がないため。等加速度運動の公式を連立するよりも計算ステップが少なく、ミスが出にくいです。
- 適用根拠: 摩擦がなく、非保存力の仕事がゼロであるため、力学的エネルギーが保存される条件を満たしています。
- 設問(2)[ク]での対称性の利用(別解):
- 選定理由: 2次方程式を解く手間を省けるため。また、「行って帰ってくる」という現象の全体像を捉えやすいため。
- 適用根拠: 等加速度運動(放物運動)の軌道は、最高点を軸として時間的・空間に対称であるという特性があるため。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 次元解析(単位チェック):
- 意識: 答えの式が物理的に正しい次元を持っているか常に疑う。
- 実践: 例えば時間の答えが \(\sqrt{L/g}\) (\([\text{T}]\)) の形になっているか、速度の答えが \(\sqrt{gh}\) (\([\text{L/T}]\)) の形になっているかを確認します。もし \(g/h\) のようになっていたら間違いです。
- 極限のチェック:
- 意識: 極端な値を代入して、直感と合うか確かめる。
- 実践: \(\phi=0\)(平坦)なら重力の影響を受けず等速になるはず、\(\phi=90^\circ\)(垂直落下)なら自由落下と同じになるはず、といった極限を想定して式の妥当性を検証します。
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問題08 人と体重計を乗せたゴンドラのつりあい (17 藤田保健衛生大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 系全体(人+ゴンドラ)に着目した解法
- 模範解答が人とゴンドラそれぞれの式を連立して解くのに対し、別解では人とゴンドラを「ひととかたまりの物体」とみなして、外力のつりあいから一発で張力を求めます。
- 全設問共通の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式)
- 「つりあい」を自明とせず、ニュートンの運動方程式を立式し、加速度が \(0\) であるという条件からつりあいの式を導出します。
- 設問(2)の別解: 系全体(人+ゴンドラ)に着目した解法
- 上記の別解が有益である理由
- 系全体の解法: 未知数である垂直抗力(内力)を消去して考えられるため、計算量が劇的に減り、検算としても非常に有効です。
- 微積分: 静力学(つりあい)も動力学(運動方程式)の特別な場合(\(a=0\))として統一的に理解することで、物理法則の体系的な把握を促します。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「束縛された物体系の力のつりあい」です。
複数の物体が接触したり紐でつながれたりしている状況で、注目する物体を正しく選び、そこにはたらく力を漏れなく見つけ出す力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 作用・反作用の法則: 人が体重計を押す力と、体重計が人を押し返す力は、大きさが等しく向きが逆です。
- 力のつりあい: 静止している物体では、はたらく力のベクトル和が \(0\) になります。
- 系(システム)の選択: 複数の物体を個別に考えるか、まとめて考えるかによって、内力と外力の扱いが変わります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、人とゴンドラを別々の物体として扱い、それぞれにはたらく力を図示してつりあいの式を立てます。
- (2)では、(1)で立てた連立方程式を解いて張力を求めます。
- (3)では、求めた垂直抗力をもとに、体重計の「読み(質量換算値)」を答えます。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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