問題130 電磁場中の荷電粒子の運動 (東京大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問[B]の別解: 微積分を用いた体系的解法(等加速度運動の導出)
- 模範解答が等加速度直線運動の公式を既知として適用しているのに対し、別解では運動方程式(微分方程式)を立式し、それを積分することで速度と位置の式を導出します。
- 設問[D](3)の別解: 微積分を用いた体系的解法(サイクロイド軌道の解析)
- 模範解答がローレンツ力の成分に着目して定性的に速度変化を説明しているのに対し、別解では電磁場中の運動方程式(連立微分方程式)を厳密に解き、速度の関数 \(v_y(t)\) を導出することで、通過時間が短くなることを数学的に証明します。
- 設問[B]の別解: 微積分を用いた体系的解法(等加速度運動の導出)
- 上記の別解が有益である理由
- [B]の別解: 公式の暗記ではなく、運動の法則から現象を記述する物理の基礎力を養います。
- [D](3)の別解: 複雑な電磁場中の運動(ドリフト運動)を解析的に扱う手法を学ぶことで、定性的な議論の裏にある数学的な構造を理解できます。これは大学物理への架け橋となる重要な視点です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電場および磁場中での荷電粒子の運動」です。
電場による加速、偏向(放物線運動)、そして電磁場が直交する領域での運動(ローレンツ力を含む運動)を段階的に考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係): 電場による仕事が運動エネルギーの変化になります。
- 運動方程式: 電場からは静電気力 \(q\vec{E}\)、磁場からはローレンツ力 \(q(\vec{v} \times \vec{B})\) を受けます。
- ローレンツ力の性質: 常に速度ベクトルと垂直にはたらくため、仕事をしません(速さを変えません)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、電位差による加速をエネルギー保存則で解きます。
- [B]では、一様電場中の運動を、軸ごとに等速運動と等加速度運動に分解して解析します。
- [C]では、比電荷(\(q/m\))への依存性を考察します。
- [D]では、電場と磁場が共存する場合の力のつりあいや、ローレンツ力による軌道の変化を考察します。
問[A]
思考の道筋とポイント
陽子(電荷 \(q\)、質量 \(m\))が、電極 a, b 間の電位差 \(V\) によって加速されます。
初速度は無視できる(\(0\))ので、電場がした仕事がそのまま運動エネルギーになります。
この設問における重要なポイント
- 電場の仕事: 電荷 \(q\) が電位差 \(V\) で加速されるとき、得られる仕事は \(qV\) です。
具体的な解説と立式
電極 b を通過した瞬間の速さを \(v_0\) とします。
エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{後の運動エネルギー}) – (\text{前の運動エネルギー}) &= (\text{電場がした仕事}) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 – 0 &= qV
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 電場の仕事: \(W = qV\)
式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= qV \\[2.0ex]
v_0^2 &= \frac{2qV}{m}
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{\frac{2qV}{m}}
\end{aligned}
$$
電気の坂道(電圧 \(V\))を転がり落ちることで、電気的な位置エネルギー \(qV\) がすべて運動エネルギーに変わりました。
答えは \(\sqrt{\frac{2qV}{m}}\) です。
電圧 \(V\) が高いほど、電荷 \(q\) が大きいほど速くなり、質量 \(m\) が大きいほど遅くなるという直感と一致します。
問[B] (1)
思考の道筋とポイント
偏向部(電極 c, d 間)には \(z\) 軸正の向きに一様な電場 \(E\) がかかっています。
陽子は \(y\) 軸正の向きに速さ \(v_0\) で入射します。
力は \(z\) 軸方向にのみはたらくため、運動を \(y\) 軸方向と \(z\) 軸方向に分解して考えます。
この設問における重要なポイント
- 運動の分解:
- \(y\) 軸方向: 力がはたらかない \(\rightarrow\) 等速直線運動
- \(z\) 軸方向: 一定の静電気力 \(qE\) を受ける \(\rightarrow\) 等加速度直線運動
具体的な解説と立式
偏向部を通過する時間を \(t\) とします。
\(y\) 軸方向には速さ \(v_0\) で距離 \(l\) を進むので、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
l &= v_0 t \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
\(z\) 軸方向の運動方程式を立てます。加速度を \(a_z\) とします。
$$
\begin{aligned}
(\text{質量} \times \text{加速度}) &= (\text{静電気力}) \\[2.0ex]
ma_z &= qE \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
\(z\) 軸方向の初速度は \(0\) なので、時刻 \(t\) における変位 \(z_1\) は等加速度運動の公式より以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
z_1 &= \frac{1}{2}a_z t^2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(x = vt\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
式①より、通過時間 \(t\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{l}{v_0}
\end{aligned}
$$
式②より、加速度 \(a_z\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
a_z &= \frac{qE}{m}
\end{aligned}
$$
これらを式③に代入して \(z_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
z_1 &= \frac{1}{2} \cdot \frac{qE}{m} \cdot \left( \frac{l}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{qEl^2}{2mv_0^2}
\end{aligned}
$$
横方向(\(y\)方向)にはそのままのスピードで進みますが、縦方向(\(z\)方向)には電気の力でどんどん加速されます。
横に進むのにかかる時間 \(t\) の間に、縦方向にどれだけ落ちる(上がる)かを計算しました。これは水平投射(ボールを横に投げる運動)と同じ放物線運動です。
答えは \(\frac{qEl^2}{2mv_0^2}\) です。
電場 \(E\) が強いほど、距離 \(l\) が長いほど大きく曲がり(変位が大きくなり)、速さ \(v_0\) が速いほど曲がりにくい(変位が小さい)ため、妥当です。
問[B] (2)
思考の道筋とポイント
陽子が電極 c に衝突するということは、偏向部を出る前(または出た瞬間)に \(z\) 座標が電極の位置 \(h\) に達するということです。
「衝突することなく偏向部を出る」ための限界条件を考えます。
この設問における重要なポイント
- 衝突の条件: 偏向部を出る瞬間の変位 \(z_1\) が、電極の間隔の半分 \(h\) 以上になると衝突します。
- 限界値: \(z_1 = h\) となるときの電場の強さが \(E_1\) です。
具体的な解説と立式
(1)で求めた \(z_1\) の式において、\(v_0\) を [A] の結果 \(v_0^2 = \frac{2qV}{m}\) を用いて書き換えます。
$$
\begin{aligned}
z_1 &= \frac{qEl^2}{2m} \cdot \frac{1}{v_0^2} \\[2.0ex]
&= \frac{qEl^2}{2m} \cdot \frac{m}{2qV} \\[2.0ex]
&= \frac{El^2}{4V}
\end{aligned}
$$
衝突する条件は \(z_1 > h\) です。境界となる値 \(E_1\) は \(z_1 = h\) のときなので、以下の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{E_1 l^2}{4V} &= h
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- なし(これまでの結果の代入)
式を \(E_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
E_1 l^2 &= 4Vh \\[2.0ex]
E_1 &= \frac{4Vh}{l^2}
\end{aligned}
$$
先ほど求めた変位 \(z_1\) の式に、最初の加速電圧 \(V\) の関係を代入して整理すると、なんと電荷 \(q\) や質量 \(m\) が消えてしまいました。
変位は電圧の比 \(E/V\) だけで決まります。
この変位が壁までの距離 \(h\) に達してしまうような電場の強さ \(E_1\) を逆算しました。
答えは \(\frac{4Vh}{l^2}\) です。
加速電圧 \(V\) が大きいほど(速いので)衝突させるには強い電場が必要、隙間 \(h\) が広いほど強い電場が必要、長さ \(l\) が長いほど(長く力を受けるので)弱い電場でも衝突する、という関係が読み取れ、妥当です。
思考の道筋とポイント
公式を暗記するのではなく、運動方程式(微分方程式)から出発して位置の式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の積分: 加速度を積分して速度、速度を積分して位置を求めます。
具体的な解説と立式
\(z\) 軸方向の運動方程式は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2z}{dt^2} &= qE
\end{aligned}
$$
これを \(t\) で積分します(初期条件:\(t=0\) で \(v_z=0, z=0\))。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(m \frac{d^2x}{dt^2} = F\)
- 微積分の基本定理
まず加速度について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{d^2z}{dt^2} &= \frac{qE}{m}
\end{aligned}
$$
1回積分して速度 \(v_z\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dz}{dt} &= \int \frac{qE}{m} dt \\[2.0ex]
&= \frac{qE}{m}t + C_1
\end{aligned}
$$
初期条件 \(v_z(0)=0\) より \(C_1=0\) です。
さらにもう1回積分して位置 \(z\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
z &= \int \frac{qE}{m}t dt \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\frac{qE}{m}t^2 + C_2
\end{aligned}
$$
初期条件 \(z(0)=0\) より \(C_2=0\) です。
よって、以下の式が得られます。
$$
\begin{aligned}
z(t) &= \frac{1}{2}\frac{qE}{m}t^2
\end{aligned}
$$
これは公式と同じ結果です。
力 \(F=qE\) が一定なので、加速度も一定です。
加速度を時間で積み上げると速度になり、速度を時間で積み上げると位置になります。
微積分を使うことで、公式を覚えていなくても自然に答えにたどり着けます。
公式を用いた場合と全く同じ結果が得られました。
問[C]
思考の道筋とポイント
陽子の代わりに \(\alpha\)粒子(電荷 \(2q\)、質量 \(4m\))を用います。
[B](2) の計算過程で見たように、変位 \(z_1\) が比電荷 \(q/m\) に依存するかどうかを確認します。
この設問における重要なポイント
- 変位の依存性: \(z_1 = \frac{El^2}{4V}\) という式には、電荷 \(q\) も質量 \(m\) も含まれていません。
具体的な解説と立式
[B](2) の解説で導出した通り、偏向部を出る瞬間の変位 \(z\) は、加速電圧 \(V\) を用いて表すと以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
z &= \frac{El^2}{4V}
\end{aligned}
$$
この式は粒子の電荷 \(q\) や質量 \(m\) に依存しません。
したがって、\(\alpha\)粒子の場合の変位 \(z_2\) も、陽子の場合の変位 \(z_1\) と等しくなります。
使用した物理公式
- [B]の結果
$$
\begin{aligned}
z_2 &= z_1
\end{aligned}
$$
重い粒子は加速されにくい(\(v_0\) が小さい)ので、偏向部をゆっくり通過します。ゆっくり通過すると、その分長い時間電場から力を受けるので、大きく曲げられます。
一方で、重い粒子は曲がりにくい性質もあります。
「遅いから曲がりやすい」効果と「重いから曲がりにくい」効果が、加速電圧 \(V\) で加速された粒子の場合、ちょうど打ち消し合います。
結果として、どんな粒子でも同じ電圧で加速すれば同じ軌道を描きます。
答えは \(z_1\) です。
これは質量分析器などの原理に関連する重要な性質です。
問[D] (1)
思考の道筋とポイント
電場 \(E_1\)(\(z\)軸正方向)に加え、磁場 \(B\)(\(x\)軸正方向)をかけます。
陽子は直進した、つまり力がつりあって合力が \(0\) になったということです。
陽子の速度は \(y\) 軸正方向なので、フレミングの左手の法則を用いてローレンツ力の向きを確認します。
この設問における重要なポイント
- 力のつりあい:
- 静電気力: \(qE_1\)(\(z\)軸正方向)
- ローレンツ力: \(qv_0 B_1\)(向きは以下で確認)
- ローレンツ力の向き:
- 磁場 \(\vec{B}\): \(x\)軸正方向(手前)
- 速度 \(\vec{v}\): \(y\)軸正方向(右)
- 力 \(\vec{F}\): \(z\)軸負方向(下)
- (検算: \(\vec{v} \times \vec{B} = (0, v_0, 0) \times (B, 0, 0) = (0, 0, -v_0 B)\))
具体的な解説と立式
陽子が直進するためには、\(z\) 軸方向の力がつりあっている必要があります。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの静電気力}) &= (\text{下向きのローレンツ力}) \\[2.0ex]
qE_1 &= qv_0 B_1
\end{aligned}
$$
また、直進するということは \(y\) 軸方向の等速直線運動なので、通過時間 \(T_1\) は距離 \(l\) を速さ \(v_0\) で割ったものになります。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{l}{v_0}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(F_{\text{電}} = F_{\text{磁}}\)
- ローレンツ力: \(f = qvB\)
力のつりあいの式より、\(B_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
B_1 &= \frac{E_1}{v_0}
\end{aligned}
$$
\(T_1\) はそのままです。
上向きに引っ張る電気の力と、下向きに押さえつける磁石の力(ローレンツ力)がぴったり同じ強さになったので、粒子はまっすぐ進みました。
これを「速度選択器(ウィーン・フィルター)」と呼びます。特定の速さ \(v_0 = E/B\) を持つ粒子だけが直進できる仕組みです。
答えは \(B_1 = \frac{E_1}{v_0}, T_1 = \frac{l}{v_0}\) です。
速い粒子ほど大きなローレンツ力を受けるため、つりあうための磁場は弱くて済みます(\(B \propto 1/v_0\))。妥当です。
問[D] (2)
思考の道筋とポイント
磁場を \(B_2 (< B_1)\) に弱めました。
下向きのローレンツ力が弱まるため、上向きの静電気力が勝ち、陽子は上に曲がります(\(z_3 > 0\))。
このときの速さ \(v_1\) を求めます。
ローレンツ力は仕事をしないため、仕事をするのは電場のみです。エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を使います。
この設問における重要なポイント
- ローレンツ力の仕事: 常に速度と垂直なので仕事は \(0\) です。
- 電場の仕事: \(z\) 軸方向に \(z_3\) だけ移動したので、仕事は \(qE_1 z_3\) です。
具体的な解説と立式
偏向部を出る直前の速さを \(v_1\) とします。
運動エネルギーの変化量は、電場がした仕事に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
(\text{後の運動エネルギー}) – (\text{前の運動エネルギー}) &= (\text{電場がした仕事}) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_1^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 &= qE_1 z_3
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
式を \(v_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_1^2 &= \frac{1}{2}mv_0^2 + qE_1 z_3 \\[2.0ex]
v_1^2 &= v_0^2 + \frac{2qE_1 z_3}{m}
\end{aligned}
$$
ここで、[A]の結果 \(v_0^2 = \frac{2qV}{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_1^2 &= \frac{2qV}{m} + \frac{2qE_1 z_3}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{2q}{m}(V + E_1 z_3)
\end{aligned}
$$
\(v_1 > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
v_1 &= \sqrt{\frac{2q}{m}(V + E_1 z_3)}
\end{aligned}
$$
磁石の力は粒子の進路を曲げるだけで、スピードを変える能力(仕事をする能力)がありません。
スピードを変えたのは、やはり電気の力だけです。
最初に \(V\) で加速され、さらに偏向部で \(z\) 方向に \(z_3\) だけ動いた分(電位差 \(E_1 z_3\))加速されました。
答えは \(\sqrt{\frac{2q}{m}(V + E_1 z_3)}\) です。
電場の方向に移動した分だけエネルギーが増えているので妥当です。
問[D] (3)
思考の道筋とポイント
磁場 \(B\) を \(0\) から \(B_1\) まで変化させたときの通過時間 \(T\) の変化を考えます。
通過時間 \(T\) は、\(y\) 軸方向(進行方向)の平均速度で決まります。
\(y\) 軸方向の運動に影響を与えるのは、ローレンツ力の \(y\) 成分です。
この設問における重要なポイント
- ローレンツ力の \(y\) 成分:
- 粒子は \(z\) 軸正方向(上)に曲がるため、\(z\) 成分の速度 \(v_z > 0\) を持ちます。
- 磁場 \(B\)(\(x\)軸正方向)と速度 \(v_z\)(\(z\)軸正方向)によるローレンツ力は、\(y\) 軸正方向にはたらきます。
- \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\) の \(y\) 成分: \(F_y = q v_z B\)。
- 速度の変化: \(F_y > 0\) なので、\(y\) 軸方向の速度 \(v_y\) は初速度 \(v_0\) より大きくなります。
具体的な解説と立式
- \(B=0\) のとき:
電場のみなので、\(y\) 軸方向には力がはたらきません。\(v_y = v_0\)(一定)となり、\(T = T_1\) です。 - \(B=B_1\) のとき:
直進するので、\(v_z = 0\) です。よってローレンツ力の \(y\) 成分 \(F_y = q(0)B = 0\) となり、\(v_y = v_0\)(一定)。\(T = T_1\) です。 - \(0 < B < B_1\) のとき:
上向きの静電気力が勝つため、粒子は上に曲がります(\(v_z > 0\))。
このとき、ローレンツ力の \(y\) 成分 \(F_y = q v_z B\) は正の値になります。
つまり、粒子は \(y\) 軸正方向に加速され、\(v_y > v_0\) となります。
平均速度が \(v_0\) より大きくなるため、通過時間 \(T\) は \(T_1\) より短くなります。
以上より、両端で \(T_1\)、中間で \(T_1\) より小さくなるグラフ(下に凸のグラフ)を選びます。
使用した物理公式
- ローレンツ力の向き(フレミングの左手の法則)
グラフの形状から判断します。
\(B=0, B_1\) で \(T=T_1\)。
その間で \(T < T_1\)。
これに該当するのは(ア)です。
磁場が中途半端な強さのとき、粒子は上に曲がります。
上に曲がる動き(上向きの速度)と磁場が相互作用して、粒子を「前へ押し出す力」が生まれます。
この力のおかげで、粒子は最初よりも速く前へ進むことになり、通り抜ける時間が短くなります。
正解は(ア)です。
直感的には「曲がると道のりが長くなるから時間がかかるのでは?」と思いがちですが、ここでは「ローレンツ力による加速効果」が効いてくるため、逆に時間は短くなります。非常に興味深い現象です。
思考の道筋とポイント
定性的な説明だけでなく、運動方程式を厳密に解いて速度 \(v_y(t)\) の関数形を導出し、\(v_y > v_0\) となることを数学的に証明します。
この設問における重要なポイント
- 連立微分方程式: \(y\) 成分と \(z\) 成分の運動方程式が連動します。
- サイクロイド運動: 電磁場中の荷電粒子は、回転しながらドリフトする複雑な運動を行います。
具体的な解説と立式
運動方程式の各成分は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv_y}{dt} &= q v_z B \quad \cdots ④ \\[2.0ex]
m \frac{dv_z}{dt} &= qE – q v_y B \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
サイクロトロン角周波数 \(\omega = \frac{qB}{m}\) を用いて整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{dv_y}{dt} &= \omega v_z \\[2.0ex]
\frac{dv_z}{dt} &= \frac{qE}{m} – \omega v_y
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(m \vec{a} = \vec{F}\)
- ローレンツ力: \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\)
この連立微分方程式を解きます(初期条件 \(v_y(0)=v_0, v_z(0)=0\))。
解は以下のようになります(導出過程は省略しますが、微分して元の方程式を満たすことで確認できます)。
$$
\begin{aligned}
v_y(t) &= \frac{E}{B} + \left( v_0 – \frac{E}{B} \right) \cos \omega t
\end{aligned}
$$
ここで、\(B < B_1 = \frac{E}{v_0}\) より、\(\frac{E}{B} > v_0\) です。
ドリフト速度 \(V_d = \frac{E}{B}\) と置くと、\(V_d > v_0\) であり、
$$
\begin{aligned}
v_y(t) &= V_d – (V_d – v_0) \cos \omega t
\end{aligned}
$$
となります。\(\cos \omega t \le 1\) なので、以下の不等式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
v_y(t) &\ge V_d – (V_d – v_0) \\[2.0ex]
&= v_0
\end{aligned}
$$
等号成立は \(t=0\) のみ(短い時間内では)。
常に \(v_y(t) \ge v_0\) であるため、平均速度は \(v_0\) より大きくなり、通過時間は短くなることが数学的に示されました。
運動方程式を解くと、速度 \(v_y\) が時間とともにどう変化するかが正確に分かります。
計算結果を見ると、\(v_y\) は常に最初の速度 \(v_0\) 以上になることが分かりました。
つまり、平均すると必ず速くなるので、通過時間は短くなります。
定性的な議論と同じ結論が、数学的に厳密に導かれました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と磁場の役割分担
- 核心: 電場は荷電粒子に対して仕事をし、運動エネルギー(速さ)を変化させますが、磁場(ローレンツ力)は常に速度と垂直にはたらくため仕事をせず、運動の向きだけを変えます。
- 理解のポイント:
- エネルギー保存則: 速さの変化を問われたら、電場の仕事だけを考えればOKです(磁場は無視)。
- 軌道の変化: 磁場は円運動やらせん運動を引き起こす「向心力」的な役割を果たします。
- 運動の独立性と分解
- 核心: 直交座標系において、力がはたらく方向(\(z\)軸)と力がはたらかない方向(\(y\)軸)の運動は独立しており、それぞれ等加速度運動と等速直線運動として分解して解析できます。
- 理解のポイント:
- 放物線運動: 一様重力場中の斜方投射と同じように、一様電場中の荷電粒子の運動も放物線を描きます。
- 速度選択器(ウィーン・フィルター)の原理
- 核心: 電場による静電気力 \(qE\) と磁場によるローレンツ力 \(qvB\) がつりあう条件 \(v = E/B\) を満たす粒子だけが、力を受けずに直進できます。
- 理解のポイント:
- 比電荷によらない: この条件式には電荷 \(q\) も質量 \(m\) も含まれていないため、どんな粒子でもこの速度であれば直進します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 質量分析器: 速度選択器で速度を揃えた後、磁場だけで偏向させて質量(比電荷)を測定する装置。本問の後半部分がその原理の一部です。
- サイクロトロン: 電場と磁場を時間的に切り替える装置ですが、本問のように空間的に共存させるケース(ホール効果やプラズマ中のドリフト運動)との対比が重要です。
- ブラウン管(オシロスコープ): 電場による偏向を利用して電子ビームを制御する仕組みは、本問の[B]と全く同じ原理です。
- 初見の問題での着眼点:
- 場の種類の確認: 「電場だけ」「磁場だけ」「両方ある」のどの領域にいるかを明確に区別します。
- 力の向きの作図: 特にローレンツ力は、フレミングの左手の法則を使って、速度ベクトルに対してどの向きにはたらくかを必ず図に描き込みます。
- 仕事の有無: 「速さは変わるか?」と問われたら、ローレンツ力は無視し、電位差による仕事だけを計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ローレンツ力で加速すると勘違いする:
- 誤解: 「力があるから加速する(エネルギーが増える)」と直感的に思い込み、磁場中でも速さが増える式を立ててしまう。
- 対策: 「ローレンツ力は仕事ゼロ」を呪文のように唱えましょう。運動方程式を立てても、速度方向の成分はゼロであることを確認します。
- 比電荷の依存性を見落とす:
- 誤解: 「重い粒子(\(\alpha\)粒子)の方が曲がりにくいだろう」と感覚だけで判断し、計算せずに結論を出してしまう。
- 対策: 必ず数式変形を行い、最終的な式に \(q\) や \(m\) が残るかどうかを確認します。本問のように \(q/m\) がキャンセルされるケースは多々あります。
- 3次元的な力の向きの取り違え:
- 誤解: \(x, y, z\) 軸が複雑に絡むと、フレミングの法則を適用する指の向きを間違えやすい。
- 対策: 問題用紙を回転させて、自分の手首に無理のない向きに合わせてから法則を適用するか、ベクトルの外積(右ネジの法則)を使って数学的に確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係):
- 選定理由: 電場による加速を扱う際、等加速度運動の公式から時間を消去するよりも、電位差 \(V\) と電荷 \(q\) の積で直接エネルギー変化を計算する方が圧倒的に速く、ミスが少ないため。
- 適用根拠: 電場は保存力場であり、始点と終点の電位差だけで仕事が決まるため。
- 運動方程式の成分分解:
- 選定理由: 2次元・3次元の運動を一度に扱うのは難しいため、力がはたらく方向とはたらかない方向に分けることで、単純な1次元運動の組み合わせに帰着させるため。
- 適用根拠: 直交座標系における運動の独立性が成立しているため。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 意識: \(q, E, B, m, v\) など多くの文字が登場するため、計算途中で文字が入れ替わったり消えたりするミスが起きやすい。
- 実践: 答えが出たら単位を確認します。例えば磁場 \(B\) の答えが \(E/v\) なら、単位は \([\text{V}/\text{m}] / [\text{m}/\text{s}] = [\text{V} \cdot \text{s}/\text{m}^2] = [\text{Wb}/\text{m}^2] = [\text{T}]\) となり正しいと判断できます。
- 極限的なケースでの検算:
- 意識: 「もし電圧が0なら?」「もし磁場が無限大なら?」といった極端な状況を想定する。
- 実践: [B](2)の式で \(V \to \infty\) (超高速)とすると \(E_1 \to \infty\) となり、「速すぎて曲がらないから、ぶつけるには無限の電場が必要」という直感と一致することを確認します。
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問題131 金属円筒中を落下するネオジム磁石 (18 千葉工大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(イ)(ウ)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の導出と解析)
- 模範解答では、力のつりあいや定性的な議論で終端速度を扱っていますが、別解では、電磁誘導による抗力が速度 \(v\) に比例すること(\(F=kv\))を数式で導出し、微分方程式としての運動方程式を解くことで、速度の時間変化 \(v(t)\) と終端速度を定量的に導きます。
- 設問(イ)(ウ)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の導出と解析)
- 上記の別解が有益である理由
- 「なぜ速度が一定になるのか」「なぜ抗力が速度に依存するのか」という物理的背景を、ファラデーの法則とエネルギー保存則から論理的に理解できるため。
- 空気抵抗を受ける落下運動など、他分野の類似問題にも応用できる汎用的な数学的手法(変数分離形微分方程式)を習得できるため。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電磁誘導と物体の運動(電磁気的な減衰運動)」です。
磁石が導体中を落下する際、電磁誘導によって生じる電流が磁場から力を受け、その反作用として磁石自体も力を受ける様子を解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- レンツの法則: 誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きに磁場を作るように流れます。
- フレミングの左手の法則: 電流が磁場から受ける力の向きを決定します。
- 作用・反作用の法則: 導体(コイル)が磁石から力を受けるとき、磁石も導体から逆向きで同じ大きさの力を受けます。
- 運動方程式と力のつりあい: 磁石には重力と、電磁誘導による上向きの抵抗力が働きます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (a)〜(c)では、微小なコイル部分に着目し、レンツの法則とフレミングの左手の法則を用いて、電流の向きと力の向き・大きさを丁寧に導出します。
- (イ)では、磁石全体に着目し、働く力を整理して運動方程式を立てます。
- (ウ)では、速度が一定になった状態(終端速度)における力のつりあいを考えます。
問(a)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
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