「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第25章】基本問題433~439

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基本問題

433 ソレノイドがつくる磁場

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ソレノイドコイルが作る磁場の計算」です。電流によって作られる磁場の大きさを公式を用いて計算し、外部の磁場と重ね合わせる基本的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ソレノイド内部に生じる磁場の強さの公式 \(H=nI\) を理解していること。
  2. 「単位長さあたりの巻数 \(n\)」の意味を正しく理解し、与えられた全長 \(L\) と総巻数 \(N\) から計算できること (\(n=N/L\))。
  3. 磁場を「打ち消す」という条件が、大きさが等しく逆向きの磁場を重ね合わせることを意味すると理解していること。
  4. 物理計算における単位の統一(特に、長さを cm から m に変換すること)の重要性を認識していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文で与えられたコイルの全長と総巻数から、単位長さあたりの巻数 \(n\) を計算します。
  2. ソレノイドが作る磁場の強さ \(H_{\text{コイル}}\) が、打ち消すべき地磁気の強さ \(H_{\text{地磁気}}\) と等しくなる、という条件式を立てます。
  3. ソレノイドの磁場の公式 \(H_{\text{コイル}}=nI\) を用いて、必要な電流 \(I\) の値を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題の目標は、ソレノイドコイルを使って地磁気を「打ち消す」ために必要な電流の値を求めることです。「打ち消す」という現象を物理的に解釈することが第一歩となります。これは、ソレノイドが作る磁場と地磁気が「同じ大きさ」で「逆向き」になる状態を指します。したがって、ソレノイドが作るべき磁場の強さ \(H_{\text{コイル}}\) は、地磁気の強さ \(H_{\text{地磁気}}\) と等しい \(30 \, \text{A/m}\) となります。
次に、ソレノイドがこの強さの磁場を作るために必要な電流 \(I\) を、公式 \(H=nI\) を用いて逆算します。この公式を使うには「単位長さあたりの巻数 \(n\)」が必要ですが、問題文にはコイルの全長 \(L\) と総巻数 \(N\) が与えられているため、まず \(n = N/L\) の関係から \(n\) を計算する必要があります。このとき、単位をメートルに揃えることを忘れないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • ソレノイド内部の磁場の強さの公式は \(H=nI\)。
  • 単位長さあたりの巻数 \(n\) は、総巻数 \(N\) をコイルの長さ \(L\) で割ることで求められる (\(n = \displaystyle\frac{N}{L}\))。
  • 計算に使用する物理量は、SI基本単位系に統一する。特に長さはセンチメートル [cm] からメートル [m] へ変換する。
  • 磁場を打ち消す条件は、大きさが等しく、向きが逆であること。

具体的な解説と立式
ソレノイドコイルが内部に作る磁場の強さを \(H_{\text{コイル}}\)、地磁気の強さを \(H_{\text{地磁気}}\) とします。
コイル内部で地磁気を打ち消すためには、コイルが作る磁場の向きが地磁気の向きと逆で、かつその大きさが等しくなければなりません。
したがって、大きさに関する条件として次式が成り立ちます。
$$ H_{\text{コイル}} = H_{\text{地磁気}} \quad \cdots ① $$
ソレノイドが作る磁場の強さ \(H_{\text{コイル}}\) は、単位長さあたりの巻数 \(n\) と電流 \(I\) を用いて、次のように表されます。
$$ H_{\text{コイル}} = nI \quad \cdots ② $$
①、②より、流すべき電流 \(I\) に関して以下の関係式を立てることができます。
$$ nI = H_{\text{地磁気}} $$

使用した物理公式

  • ソレノイドが作る磁場の強さ: \(H = nI\)
計算過程

まず、単位長さあたりの巻数 \(n\) を求めます。
問題文より、コイルの長さは \(L = 40 \, \text{cm} = 0.40 \, \text{m}\)、総巻数は \(N = 1600\) 回です。
したがって、単位長さあたりの巻数 \(n\) は、
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{N}{L} \\[2.0ex]
&= \frac{1600}{0.40} \\[2.0ex]
&= 4000 \\[2.0ex]
&= 4.0 \times 10^3 \, \text{[/m]}
\end{aligned}
$$
次に、立式した \(nI = H_{\text{地磁気}}\) を電流 \(I\) について解き、数値を代入します。地磁気の強さは \(H_{\text{地磁気}} = 30 \, \text{A/m}\) です。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{H_{\text{地磁気}}}{n} \\[2.0ex]
&= \frac{30}{4.0 \times 10^3} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{4.0} \times 10 \times 10^{-3} \\[2.0ex]
&= 0.75 \times 10^{-2} \\[2.0ex]
&= 7.5 \times 10^{-3} \, \text{[A]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コイルに電流を流すと、電磁石になって磁場を作ります。この問題は、その自作の磁場を使って、もともとそこにある地球の磁場(地磁気)をちょうどゼロにしたい、という状況です。
何かを「打ち消す」には、それと「同じ強さ」で「正反対の向き」のものをぶつければうまくいきます。つまり、地磁気と全く同じ強さ(\(30 \, \text{A/m}\))の磁場を、逆向きに作ってやればよいわけです。
ソレノイドコイルが作る磁場の強さは、簡単な掛け算の公式 \(H=nI\) で決まります。ここで \(n\) は「コイルが \(1 \, \text{m}\) の長さにどれだけ密に巻かれているか」を示す値で、\(I\) が流す電流です。
問題文には「長さ \(40 \, \text{cm}\) で \(1600\) 回巻き」とあるので、まずこれを「\(1 \, \text{m}\) あたりだと何回巻きに相当するか」に換算して \(n\) を求めます。
あとは、作りたい磁場の強さ \(H=30 \, \text{A/m}\) と計算した \(n\) を公式にあてはめれば、必要な電流 \(I\) が逆算できます。

結論と吟味

計算の結果、流すべき電流は \(I = 7.5 \times 10^{-3} \, \text{A}\) であることがわかりました。この電流を、コイルの軸を地磁気の方向に向けた状態で、地磁気とは逆向きの磁場が発生する向きに流すことで、コイル内部の磁場を打ち消すことができます。電流の向きは、右ねじの法則で判断できます。
\(7.5 \times 10^{-3} \, \text{A}\) は \(7.5 \, \text{mA}\) であり、実験室で扱うことのできる現実的な電流値です。地磁気はそれほど強い磁場ではないため、比較的小さな電流で打ち消せるという結果は物理的に妥当であると考えられます。

解答 \(7.5 \times 10^{-3} \, \text{A}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ソレノイド内部の磁場:
    • 核心: この問題の根幹は、ソレノイドコイルに電流を流したときに、その内部に一様な磁場が作られるという現象と、その強さを計算する公式を理解しているかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 公式: ソレノイド内部の磁場の強さ \(H\) は、単位長さあたりの巻数 \(n\) と電流 \(I\) の積で与えられます (\(H=nI\))。この公式は、電流という原因から磁場という結果を直接的に結びつける、非常に強力な関係式です。
      • 一様性: 「細長いソレノイド」の内部では、磁場は場所によらずほぼ一様であるという性質が重要です。これにより、コイル内部のどの点でも同じ強さの磁場を考えることができます。
  • 磁場の重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の原因によって磁場が生じている場合、ある点での合成磁場は、それぞれの原因が単独で作る磁場をベクトル的に足し合わせたものになる、という「重ね合わせの原理」を理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 「打ち消す」の意味: 問題文の「地球磁場を打ち消す」という表現は、重ね合わせの原理の応用です。これは、コイルが作る磁場 \(\vec{H}_{\text{コイル}}\) と地磁気 \(\vec{H}_{\text{地磁気}}\) のベクトル和がゼロになる状態、すなわち \(\vec{H}_{\text{コイル}} + \vec{H}_{\text{地磁気}} = \vec{0}\) を意味します。
      • 立式への応用: このベクトル式から、大きさが等しく (\(H_{\text{コイル}} = H_{\text{地磁気}}\))、向きが逆であるという条件を導き出し、計算を進めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 磁気シールドの問題: 精密機器を地磁気などの外部磁場から守るために、強磁性体で覆う「磁気シールド」の問題に応用できます。この場合、外部磁場を打ち消すように強磁性体内部に誘導される磁化の大きさを考えることになります。
    • トロイダルコイルの問題: ソレノイドを円環状に曲げたトロイダルコイル内部の磁場を求める問題も、本質的には同じ考え方です。コイルの全長を円周の長さとして計算し、\(H=nI\) を適用します。
    • 磁束密度 \(B\) を用いる問題: 問題で問われるのが磁場の強さ \(H\) ではなく磁束密度 \(B\) であっても、\(B = \mu H\) (\(\mu\) は透磁率)という関係式を追加で用いるだけで、全く同じ手順で解くことができます。真空や空気中では \(\mu\) は真空の透磁率 \(\mu_0\) となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場の源は何か?: まず、磁場を作っている原因が何かを特定します。この問題では「ソレノイドを流れる電流」と「地球」の2つです。
    2. 求めたい状態は何か?: 次に、問題が要求している最終的な状態を物理的に解釈します。「打ち消す」なら合成磁場がゼロ、「強める」なら同じ向きに足し合わせる、などです。
    3. 単位系の確認: 問題文で与えられている物理量の単位を確認し、計算前にSI基本単位(メートル、アンペアなど)に変換します。特に長さの単位(cm → m)は間違いやすいポイントです。
    4. 公式の選択: 磁場の源(ソレノイド、直線電流、円形電流など)に応じた正しい公式を選択します。ソレノイドであれば \(H=nI\) を即座に思い出せるようにしておくことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単位長さあたりの巻数 \(n\) の誤解:
    • 誤解: 総巻数 \(N\) をそのまま公式 \(H=NI\) に代入してしまう。
    • 対策: 公式は \(H=nI\) であり、\(n\) は「1メートルあたりの巻数」であると正確に覚えることが重要です。問題文で与えられた全長 \(L\) と総巻数 \(N\) から、まず \(n = \displaystyle\frac{N}{L}\) を計算する、という一手間を常に意識しましょう。
  • 長さの単位換算忘れ:
    • 誤解: コイルの長さ \(40 \, \text{cm}\) を、\(0.40 \, \text{m}\) に直さずに計算してしまう。
    • 対策: 物理計算の基本として、計算を始める前に全ての物理量をSI基本単位に揃えることを習慣づけましょう。問題文の数値をチェックし、横に [m] や [kg] などの単位を書き込むとミスを防げます。
  • 磁場の強さ \(H\) と磁束密度 \(B\) の混同:
    • 誤解: \(H=nI\) で計算した値を磁束密度 \(B\) の値だと思い込んでしまう、あるいはその逆。
    • 対策: \(H\)(磁場の強さ、単位: A/m)と \(B\)(磁束密度、単位: T (テスラ))は異なる物理量であることを明確に区別します。両者の関係は \(B = \mu H\) です。問題でどちらが問われているか、単位にも着目して正確に把握することが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ソレノイドの公式 \(H=nI\) の選定:
    • 選定理由: この問題は「細長いコイル(ソレノイド)」が作る磁場を扱うため、ソレノイド内部の磁場を記述する最も直接的で適切な公式として \(H=nI\) を選択します。この公式は、ソレノイドの形状(単位長さあたりの巻数 \(n\))と電気的性質(電流 \(I\))から、内部に生じる磁場の強さ \(H\) を直接計算できるため、問題の要求に最も合致しています。
    • 適用根拠: この公式は、アンペールの法則をソレノイドに適用することで導出されます。ソレノイド内部に一様な磁場が形成されるという理想的な状況を仮定しており、「細長いコイル」という問題文の条件が、この公式を高い精度で適用できる根拠となっています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位換算の儀式化: 問題文を読んだら、まず与えられた数値をSI単位に直してメモする習慣をつけましょう。「\(L = 40 \, \text{cm} \rightarrow 0.40 \, \text{m}\)」のように、計算用紙の最初に書き出してしまうのが有効です。
  • 文字式での整理: いきなり数値を代入するのではなく、まずは文字式のまま解法を進めるのが鉄則です。
    1. \(H_{\text{コイル}} = H_{\text{地磁気}}\)
    2. \(nI = H_{\text{地磁気}}\)
    3. \(I = \displaystyle\frac{H_{\text{地磁気}}}{n}\)
    4. \(I = \displaystyle\frac{H_{\text{地磁気}}}{N/L} = \displaystyle\frac{L H_{\text{地磁気}}}{N}\)

    このように、求めたい量(この場合は \(I\))を、与えられた量(\(L, N, H_{\text{地磁気}}\))で表す式を導いてから、最後にまとめて数値を代入すると、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。

  • 指数計算の徹底: \(4000\) や \(0.0075\) のような数値は、\(4.0 \times 10^3\) や \(7.5 \times 10^{-3}\) のように、有効数字と \(10\) のべき乗の形(科学的表記)で扱う癖をつけましょう。これにより、桁数の間違いを劇的に減らすことができます。特に割り算では、指数の部分は指数法則(\(10^a / 10^b = 10^{a-b}\))で簡単に処理できるため、計算が楽になります。

434 電流が磁場から受ける力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている公式 \(F=IBl\sin\theta\) を直接用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 電流(が流れる導体)を成分分解して考える解法
      • 模範解答が公式を直接適用するのに対し、別解では電流を磁場に平行な成分と垂直な成分に分け、「力を生み出すのは垂直成分のみ」という物理的本質から立式します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: なぜ公式に \(\sin\theta\) が含まれるのか、その根源的な理由(力は電流と磁場の垂直成分の間にのみ働く)を理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 公式を暗記していなくても、より基本的な原理(\(F=IBL\)は垂直な場合に成り立つ)から問題を解決する能力が養われます。
  3. 結果への影響
    • 計算過程は異なりますが、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「磁場中で電流が受ける力(電磁力)の計算」です。電流が流れる導体が磁場から受ける力の向きと大きさを、法則と公式に基づいて正しく求めることができるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電流が磁場から受ける力の公式: \(F=IBl\sin\theta\) を知っており、各記号が何を表すかを理解していること。
  2. 力の向きを決定する法則: フレミングの左手の法則を正しく適用できること。
  3. ベクトルの成分分解: 力を生み出すのは、磁場と電流の互いに垂直な成分であるという物理的な意味を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、フレミングの左手の法則を用いて、力の「向き」を決定します。
  2. 次に、力の「大きさ」を公式 \(F=IBl\sin\theta\) に問題文の数値を代入して計算します。

思考の道筋とポイント
電流が磁場から受ける力(電磁力)を求める、基本的な問題です。力はベクトル量なので、「向き」と「大きさ」をそれぞれ分けて考えるのが定石です。
「向き」の決定には、フレミングの左手の法則を用います。左手の中指(電流)、人差し指(磁場)、親指(力)の三者の向きを、問題の図に合わせて正確に適用することが重要です。
「大きさ」の計算には、公式 \(F=IBl\sin\theta\) を用います。この公式の \(\theta\) は、電流の向きと磁場の向きがなす角です。問題文から各物理量を正しく読み取り、式に代入します。
この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則を正しく適用し、力の向きを判断できること。
  • 公式 \(F=IBl\sin\theta\) の \(\theta\) が、電流と磁場のなす角であることを正確に理解していること。
  • 与えられた物理量(\(I, B, l\))がすべてSI基本単位(A, T, m)で与えられているため、単位換算は不要であることに気づくこと。

具体的な解説と立式
この問題では、導体棒が受ける力の「向き」と「大きさ」の両方を求める必要があります。

1. 力の向き
フレミングの左手の法則を適用します。

  • 中指を電流の向き(PからQの向き)に合わせます。
  • 人差し指を磁場の向き(図の右向き)に合わせます。

このとき、親指は紙面に垂直で、裏から表に向かう方向を指します。これが導体棒が受ける力の向きです。

2. 力の大きさ
電流が磁場から受ける力の大きさ \(F\) は、電流の大きさ \(I\)、磁束密度の大きさ \(B\)、磁場中にある導体の長さ \(l\)、そして電流の向きと磁場の向きのなす角 \(\theta\) を用いて、以下の式で与えられます。
$$ F = IBl\sin\theta $$

使用した物理公式

  • 電流が磁場から受ける力(電磁力): \(F=IBl\sin\theta\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

問題文で与えられた値を、力の大きさを求める公式に代入します。
与えられた値は、\(I = 2.0 \, \text{A}\)、\(B = 1.5 \, \text{T}\)、\(l = 0.20 \, \text{m}\)、\(\theta = 30^\circ\) です。
$$
\begin{aligned}
F &= IBl\sin\theta \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 1.5 \times 0.20 \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 1.5 \times 0.20 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 1.5 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 0.30 \, \text{[N]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

磁石の中に電流を流した導線を置くと、導線が力を受けて動きます。これはモーターの基本原理です。この問題では、その力の「向き」と「強さ」を求めます。
「向き」は「フレミングの左手の法則」というルールで決まります。左手の中指を「電流」、人差し指を「磁場」の向きに合わせると、親指が向いた方向が「力」の向きになります。図に合わせてやってみると、力の向きは紙面の手前向きになることがわかります。
「強さ」は、電流 \(I\)、磁場の強さ \(B\)、導線の長さ \(l\) を使った掛け算で計算できます。ただし、この問題のように電流と磁場が斜めになっている場合は、その角度 \(\theta\) を考慮して \(F=IBl\sin\theta\) という公式を使います。問題文の値をすべてこの式に入れて計算すれば、力の大きさが求まります。

結論と吟味

力の向きは紙面に垂直で裏から表の向き、大きさは \(0.30 \, \text{N}\) となります。フレミングの左手の法則と電磁力の公式を正しく適用することで、基本的ながらも重要な物理現象を定量的に評価することができました。

解答 向き: 紙面に垂直で裏から表の向き、大きさ: \(0.30 \, \text{N}\)
別解: 電流の成分分解を用いる解法

思考の道筋とポイント
電磁力の根源的な性質である「力は、電流と磁場の互いに垂直な成分の間にのみ働く」という点に着目するアプローチです。電流が流れる導体棒を、磁場に平行な成分と垂直な成分に仮想的に分解し、力を生み出す垂直成分に対してのみ、基本公式 \(F=IBL\) を適用します。これにより、なぜ公式に \(\sin\theta\) が現れるのかを物理的に理解することができます。
この設問における重要なポイント

  • 力を生み出すのは、電流の、磁場に対する垂直成分のみである。
  • 磁場に垂直な導体棒の「有効長さ」は \(l_{\perp} = l \sin\theta\) と表せる。
  • この有効長さ \(l_{\perp}\) を用いて、電流と磁場が垂直な場合の基本公式 \(F=I B l_{\perp}\) を適用する。

具体的な解説と立式
1. 力の向き
力の向きは、主たる解法と同様にフレミングの左手の法則により、紙面に垂直で裏から表の向きとなります。

2. 力の大きさ
電流が流れる導体棒のうち、磁場 \(\vec{B}\) から力を受けるのは、磁場に対して垂直な成分だけです。
そこで、導体棒の長さ \(l\) のうち、磁場に垂直な方向の「有効長さ」 \(l_{\perp}\) を考えます。図から、この有効長さは三角比を用いて次のように表せます。
$$ l_{\perp} = l \sin\theta \quad \cdots ① $$
この有効長さ \(l_{\perp}\) の部分が、磁束密度 \(B\) の磁場から受ける力の大きさ \(F\) は、電流と磁場が直角に交わる場合の基本公式 \(F=IBL\) を用いて、
$$ F = I B l_{\perp} \quad \cdots ② $$
と立式できます。①を②に代入すると、主たる解法で用いた公式と同じ \(F = I B (l \sin\theta)\) が導かれます。

使用した物理公式

  • 電流が磁場から受ける力(電流と磁場が垂直な場合): \(F=IBL\)
  • 三角関数によるベクトルの成分分解
計算過程

まず、磁場に垂直な導体棒の有効長さ \(l_{\perp}\) を求めます。
\(\theta = 30^\circ\)、\(l = 0.20 \, \text{m}\) なので、
$$ l_{\perp} = 0.20 \times \sin 30^\circ = 0.20 \times \frac{1}{2} = 0.10 \, \text{[m]} $$
次に、この有効長さを用いて、力の大きさを計算します。
\(I = 2.0 \, \text{A}\)、\(B = 1.5 \, \text{T}\) なので、
$$
\begin{aligned}
F &= I B l_{\perp} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 1.5 \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 0.30 \, \text{[N]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

別の考え方として、導体棒を「磁場に逆らっている部分」と「磁場の向きに流されている部分」に分けてみましょう。実は、電磁力は「磁場に逆らっている部分」にしか働きません。
この問題では、導体棒は磁場に対して \(30^\circ\) 傾いています。この傾いた導体棒のうち、磁場に対して完全に垂直になっている成分の長さ(これを「有効長さ」と呼びます)を計算します。これは三角関数を使って、有効長さ \(l_{\perp}\) は (元の長さ) \(\times \sin 30^\circ\) で求められます。
あとは、この「有効長さ」を使って、電流と磁場が垂直な場合の基本公式 \(F = I \times B \times (\text{有効長さ})\) に当てはめて計算します。この方法だと、なぜ公式に \(\sin\theta\) が必要になるのかが、理屈でよく分かります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果 \(0.30 \, \text{N}\) が得られました。このアプローチは、公式 \(F=IBl\sin\theta\) の物理的な意味をより深く理解するのに役立ち、公式の丸暗記から脱却する上で非常に有益です。

解答 向き: 紙面に垂直で裏から表の向き、大きさ: \(0.30 \, \text{N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電磁力(ローレンツ力)の基本法則:
    • 核心: この問題の根幹は、「磁場中を流れる電流(=運動する荷電粒子)は、磁場から力を受ける」という電磁気学の基本原理を理解し、その力の向きと大きさを定量的に計算できることにあります。
    • 理解のポイント:
      • 力の発生源: 力は、電流 \(I\) と磁場 \(B\) の両方が存在し、かつ両者が平行でない場合にのみ発生します。
      • 力の向き(フレミングの左手の法則): 力の向きは、電流の向きと磁場の向きの両方に対して垂直になります。この三次元的な関係を把握するための便利な道具が「フレミングの左手の法則」です。
      • 力の大きさ(\(F=IBl\sin\theta\)): 力の大きさは、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、導体の長さ \(l\) に比例します。また、電流と磁場のなす角 \(\theta\) の正弦 \(\sin\theta\) にも比例し、両者が垂直なとき (\(\theta=90^\circ\)) に力が最大となり、平行なとき (\(\theta=0^\circ\)) には力はゼロになります。
  • 力のベクトル的性質と成分分解:
    • 核心: 電磁力は、電流ベクトルと磁場ベクトルの両方に垂直な方向に働くという、ベクトル的な性質を持っています。この性質を理解することが、公式の丸暗記からの脱却につながります。
    • 理解のポイント:
      • 垂直成分の重要性: 力を生み出すのは、電流と磁場の互いに垂直な成分の組み合わせだけです。電流を磁場に平行な成分と垂直な成分に分解した場合、力を受けるのは後者のみです。
      • \(\sin\theta\) の物理的意味: 公式 \(F=IBl\sin\theta\) に含まれる \(l\sin\theta\) という項は、まさに「磁場に垂直な導体の有効長さ」を表しています。この理解があれば、公式を忘れても、より基本的な原理から力の大きさを導出できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ローレンツ力を問う問題: 電流ではなく、荷電粒子1個(電子や陽イオンなど)が磁場中で受ける力を問う問題。基本は同じですが、公式は \(f=qvB\sin\theta\) となります。電流 \(I\) が、多数の荷電粒子の運動の集まりであることを理解していれば、両者は本質的に同じ現象として捉えられます。
    • ホール効果: 導体内の荷電粒子がローレンツ力を受けて偏ることにより、導体の側面に電位差が生じる現象です。この電位差を測定することで、導体内のキャリア(電荷の運び手)の種類や密度を知ることができます。
    • モーターのトルク計算: コイルが磁場から受ける力を計算し、回転軸周りの力のモーメント(トルク)を求める問題。本問はその最も基本的な要素計算にあたります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の「向き」と「大きさ」を分離: 電磁力の問題は、必ず「向き」と「大きさ」の2つの要素に分けて考えます。
    2. 向きの決定: フレミングの左手の法則を適用します。図に、電流(I)、磁場(B)、力(F)の向きをベクトル矢印で書き込むと、間違いが減ります。
    3. 大きさの計算: 公式 \(F=IBl\sin\theta\) を使います。特に、角度 \(\theta\) が「電流と磁場のなす角」であることを図から正確に読み取ることが重要です。
    4. 成分分解の視点: 公式を忘れたり、複雑な設定で迷ったりした場合は、「力を生むのは垂直成分だけ」という基本原理に立ち返ります。電流か磁場のどちらかを、もう一方に対して垂直な成分と平行な成分に分解して考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • フレミングの左手の法則の誤適用:
    • 誤解: 右手を使ってしまう、指の割り当て(電・磁・力)を間違える、電流の向きを逆にするなど。
    • 対策: 「左手」で「電(中指)・磁(人差し指)・力(親指)」という対応を、語呂合わせ(「でん・じ・りょく」など)で確実に覚えること。試験本番では、実際に左手を使って、図の向きに指を合わせて確認する作業を怠らないようにしましょう。
  • 角度 \(\theta\) の取り違え:
    • 誤解: 問題の図に描かれている角度を、何も考えずに \(\theta\) として代入してしまう。例えば、導体と「磁場に垂直な線」とのなす角が与えられている場合に、それをそのまま使ってしまう。
    • 対策: 常に「\(\theta\) は電流の向きと磁場の向きが直接なす角」と定義を再確認する癖をつけます。図に電流と磁場のベクトルを矢印で描き、その間の角度を明確にすることが有効です。
  • \(\sin\) と \(\cos\) の混同:
    • 誤解: 成分分解する際に、\(\sin\theta\) を使うべきところで \(\cos\theta\) を使ってしまう。
    • 対策: 求める成分が、角度 \(\theta\) を「挟む辺」なのか「対辺」なのかを図で確認する習慣をつけましょう。\(l\sin\theta\) は角度 \(\theta\) の対辺(向かい合う辺)の長さ、\(l\cos\theta\) は隣辺(接する辺)の長さに対応します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(F=IBl\sin\theta\) の選定:
    • 選定理由: この問題は「一様な磁場中に置かれた直線状の導体」が受ける力を求める、最も典型的な状況です。この状況を記述するために実験的に見出され、理論的に導出されたのが \(F=IBl\sin\theta\) という公式であり、これを用いるのが最も直接的かつ効率的です。
    • 適用根拠: この公式は、個々の荷電粒子が受けるローレンツ力 \(f=qvB\sin\theta\) を、導体全体で足し合わせることで導出されます。電流 \(I\) は単位時間あたりに導体の断面を通過する電荷の量、長さ \(l\) は力の働く範囲を規定しており、これらのマクロな量(\(I, l\))とミクロな現象(ローレンツ力)を結びつけています。問題の状況は、この公式が成り立つ理想的な条件をすべて満たしています。
  • 成分分解アプローチの選定(別解):
    • 選定理由: 公式の物理的意味を深く理解し、応用力を高めるためにこのアプローチを選びました。「なぜ \(\sin\theta\) がつくのか?」という疑問に答えるものであり、公式を単なる暗記項目ではなく、物理法則の必然的な帰結として捉えることができます。
    • 適用根拠: 「力はベクトルであり、重ね合わせの原理が成り立つ」という物理学の基本原則に基づいています。電流ベクトルを互いに直交する2つの成分に分解し、それぞれの成分が受ける力を個別に考えて足し合わせる(この場合は平行成分が受ける力はゼロ)という操作は、物理的に完全に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の確認: この問題ではSI基本単位で与えられていますが、常に単位を確認する癖をつけましょう。もし電流が [mA]、長さが [cm] で与えられていたら、計算前に [A] と [m] に変換する作業を忘れないようにします。
  • 三角関数の値の暗記: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\sin 45^\circ = \sqrt{2}/2\), \(\sin 60^\circ = \sqrt{3}/2\) などの基本的な三角関数の値は、即座に出てくるようにしておくことが時間短縮と計算ミス防止につながります。
  • 計算の順序の工夫: 掛け算の順序を工夫すると、計算が楽になることがあります。
    \(F = 2.0 \times 1.5 \times 0.20 \times \sin 30^\circ\)
    この計算では、先に \(2.0 \times \sin 30^\circ = 2.0 \times (1/2) = 1.0\) を計算すると、
    \(F = 1.0 \times 1.5 \times 0.20 = 0.30\)
    となり、暗算でもできるほど簡単になります。計算しやすい組み合わせを見つける癖をつけましょう。

435 モーター

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電流が磁場から受ける力とモーターの回転原理」です。電流が流れる導線が磁場の中に置かれると力を受ける、という基本法則(フレミングの左手の法則)を正しく理解し、それがモーターのように連続的な回転運動を生み出す仕組み(整流子の役割)に結びつけて考えられるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. フレミングの左手の法則: 磁場中を流れる電流が受ける力の向きを決定する法則です。「電(中指)・磁(人差し指)・力(親指)」の三者の向きの関係を正確に適用できることが必須です。
  2. 磁場の向き: 特に断りがない限り、磁場の向きは磁石のN極から出てS極へ向かう向きとして考えます。
  3. 力のモーメント(偶力): コイルの対辺にはたらく、向きが反対で大きさが等しい一対の力(偶力)が、コイルに回転運動を引き起こす「力のモーメント」を生み出します。この力のモーメントの向きが、コイルの回転方向を決定します。
  4. 整流子の働き: モーターが一定方向に回転し続けるための核心的な部品です。半回転ごとにコイルに流れる電流の向きを逆転させることで、回転の向きを常に一定に保つ役割を理解していることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1), (2)では、図に示された各状況において、「電流の向き」と「磁場の向き」を正確に把握します。その上で、フレミングの左手の法則をコイルの各辺(ABとCD)に適用し、はたらく力の向きを一つずつ決定します。
  2. (3)では、(1)と(2)の結果を比較します。コイルが半回転すると、辺ABと辺CDの位置が入れ替わりますが、それでも同じ方向に回転し続けるのはなぜかを考えます。その鍵となるのが、ブラシと整流子による「電流の向きの切り替え」です。
  3. (4)では、(1)や(2)で求めた力の向きが、コイル全体としてどちら向きの回転を引き起こすかを判断します。コイルを正面(ブラシ側)から見たときに、各辺がどちらに動くかをイメージすることがポイントです。

問(1)

思考の道筋とポイント
図1の状態における、辺ABと辺CDにはたらく力の向きを求める問題です。力を求めるには、フレミングの左手の法則を用います。そのために、まず「磁場の向き」と「辺AB、辺CDを流れる電流の向き」をそれぞれ正確に特定することが第一歩となります。
この設問における重要なポイント

  • 磁場の向き:磁石のN極(右側)からS極(左側)へ向かう向き、すなわち図の「左向き」です。
  • 電流の向き:電源の正極から出て、ブラシ、整流子を経由し、コイルをA→B→C→Dの順に流れます。したがって、辺ABでは「AからBへ(手前から奥へ)」、辺CDでは「CからDへ(奥から手前へ)」電流が流れます。
  • フレミングの左手の法則の適用:特定した「磁場」と「電流」の向きを、左手の指(人差し指:磁場、中指:電流)に正しく対応させ、親指が指す力の向きを読み取ります。

具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を、辺ABと辺CDにそれぞれ適用します。

1. 辺ABにはたらく力

  • 磁場の向き:左向き
  • 電流の向き:手前から奥へ
  • 法則の適用:左手の人差し指を左に、中指を奥に向けます。このとき、親指は「上向き」を指します。

2. 辺CDにはたらく力

  • 磁場の向き:左向き
  • 電流の向き:奥から手前へ
  • 法則の適用:左手の人差し指を左に、中指を手前に向けます。このとき、親指は「下向き」を指します。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

この設問では、法則を適用して向きを決定するのみで、数値計算はありません。

この設問の平易な説明

モーターの中のコイルに力がはたらく向きは、「フレミングの左手の法則」でわかります。左手の人差し指を「磁場の向き(N極からS極へ)」、中指を「電流の向き」に合わせると、親指が「力の向き」を示します。
まず辺ABについて。磁場はN極(右)からS極(左)へ向かうので、人差し指を左に向けます。電流はAからBへ、つまり手前から奥へ流れるので、中指を奥に向けます。すると、親指は自然と上を向きます。これが辺ABにはたらく力の向きです。
次に辺CD。磁場は同じく左向きなので人差し指は左のまま。電流はCからDへ、つまり奥から手前に流れるので、中指を手前に向けます。すると、今度は親指が下を向きます。これが辺CDにはたらく力の向きです。

結論と吟味

図1の状態では、辺ABには上向きの力、辺CDには下向きの力がはたらきます。この一対の力によって、コイルは回転を始めます。この結果は、モーターの基本的な動作原理と一致しており、妥当であると言えます。

解答 (1) AB:上向き, CD:下向き

問(2)

思考の道筋とポイント
図2(図1から半回転した状態)における、辺ABと辺CDにはたらく力の向きを求める問題です。問(1)と全く同じように、フレミングの左手の法則を適用します。ただし、コイルが半回転したことで、「コイルの各辺の位置」と「コイルを流れる電流の向き」が図1の時とどう変化したかを正確に把握することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • コイルの位置の変化:図1の状態から半回転した結果、辺ABは右側(N極側)に、辺CDは左側(S極側)に移動しています。
  • 電流の向きの変化:半回転の過程で、整流子とブラシの接触が切り替わります。これにより、コイルに流れる電流の向きが逆転します。電流は電源の正極からD→C→B→Aの順に流れるようになります。したがって、辺ABでは「BからAへ(奥から手前へ)」、辺CDでは「CからDへ」ではなく「DからCへ(手前から奥へ)」電流が流れます。
  • 磁場の向き:磁石の位置は変わらないので、磁場の向きは変わらず「左向き」です。

具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を、図2の状態の辺ABと辺CDにそれぞれ適用します。

1. 辺ABにはたらく力

  • 位置:右側(N極側)
  • 磁場の向き:左向き
  • 電流の向き:奥から手前へ
  • 法則の適用:左手の人差し指を左に、中指を手前に向けます。このとき、親指は「下向き」を指します。

2. 辺CDにはたらく力

  • 位置:左側(S極側)
  • 磁場の向き:左向き
  • 電流の向き:手前から奥へ
  • 法則の適用:左手の人差し指を左に、中指を奥に向けます。このとき、親指は「上向き」を指します。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

この設問でも、法則を適用して向きを決定するのみで、数値計算はありません。

この設問の平易な説明

コイルが半回転して図2の状態になりました。ここでもフレミングの左手の法則を使います。
まず辺ABについて。今度は辺ABが右側にあります。磁場は相変わらず左向きなので人差し指は左へ。電流はBからAへ、つまり奥から手前に流れます。人差し指を左に、中指を手前に向けると、親指は下を向きます。
次に辺CD。今度は辺CDが左側にあります。磁場は左向き(人差し指は左)。電流はDからCへ、つまり手前から奥へ流れます。人差し指を左に、中指を奥に向けると、親指は上を向きます。
図1の時と力の向きが逆になっていることに注目してください。

結論と吟味

図2の状態では、辺ABには下向きの力、辺CDには上向きの力がはたらきます。問(1)の結果と比較すると、コイルの辺の位置は入れ替わりましたが、空間的に見て「左側にある辺には上向きの力」「右側にある辺には下向きの力」がはたらいていることがわかります。これにより、コイルは同じ方向への回転を続けることができます。

解答 (2) AB:下向き, CD:上向き

問(3)

思考の道筋とポイント
整流子の役割を問う問題です。問(1)と問(2)の結果から、コイルが回転し続けるために整流子が何をしているのかを考察します。もし整流子がなければ、コイル内の電流の向きは常に一定です。その場合、半回転した後にどうなるかを想像すると、整流子の重要性が見えてきます。
この設問における重要なポイント

  • 連続回転の条件:モーターが回り続けるためには、常に同じ方向の回転力(力のモーメント)を受け続ける必要があります。
  • 電流の向きの反転:問(1)と問(2)の比較から、コイルが半回転すると、コイル自身を流れる電流の向きが逆転していることがわかります(図1ではA→B、図2ではB→A)。
  • 反転のメカニズム:この電流の向きの反転を引き起こしているのが、回転する整流子と固定されたブラシの組み合わせです。半回転ごとに接触する部分が入れ替わることで、外部回路からコイルへの電流の供給方向を切り替えています。

具体的な解説と立式
(文章による説明が中心となります)
問(1)では、左側の辺ABに上向きの力、右側の辺CDに下向きの力がはたらきました。
問(2)では、半回転して左側にきた辺CDに上向きの力、右側にきた辺ABに下向きの力がはたらきました。

もし整流子が無く、コイル内の電流の向きが常にA→B→C→Dのままだと仮定します。すると、図2の状況(辺ABが右、辺CDが左)では、辺ABには上向きの力、辺CDには下向きの力がはたらくことになり、コイルを逆回転(反時計回り)させようとする力になってしまいます。これでは連続的な回転は起こりません。

整流子は、コイルが半回転するタイミングでブラシとの接続を切り替え、コイルに流れる電流の向きを反転させます。この働きにより、コイルがどの角度にあっても、常に同じ方向(この問題では時計回り)に回転させる力がはたらき続けるのです。

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程

(なし)

この設問の平易な説明

モーターがグルグルと一方向に回り続けるための「秘訣」が整流子です。もし整流子がないと、コイルは半回転したところで「逆向きの力」を受けてしまい、行ったり来たりの振動で止まってしまいます。
整流子は、コイルが半回転する絶妙なタイミングで、流れる電流の向きをプラスマイナス逆にする「自動切り替えスイッチ」の役割をしています。このおかげで、コイルは常に「こっちに回れ!」という指令(力)を受け続けることができ、一方向にスムーズに回転できるのです。

結論と吟味

整流子の役割は、コイルの回転と同期してコイルに流れる電流の向きを半回転ごとに反転させることです。これにより、コイルには常に一定方向の回転力がはたらき、モーターは連続的に回転することができます。これはモーターの基本原理そのものであり、的確な説明です。

解答 (3) 電流の向きを半周ごとに反転させ、コイルが同じ向きに回転するような力がはたらくようにしている。

問(4)

思考の道筋とポイント
コイルの回転方向を決定する問題です。問(1)で求めた力の向きが、コイル全体をどちら向きに回転させるかを考えます。「ブラシ・整流子の側からコイルを見たとき」という視点の指定があるので、その視点から力のモーメントの向きを判断します。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントの向き:図1において、コイルの左側にある辺ABには上向きの力が、右側にある辺CDには下向きの力がはたらきます。
  • 視点:ブラシ・整流子の側(図でいうと手前側)から見る。
  • 回転のイメージ:左側が持ち上がり、右側が沈み込むような運動は、時計の針が進む向きの回転と同じです。

具体的な解説と立式
(文章による説明が中心となります)
図1の状態を考えます。

  • 辺AB(左側)にはたらく力:上向き
  • 辺CD(右側)にはたらく力:下向き

この一対の力(偶力)は、コイルの回転軸周りに力のモーメントを生じさせます。ブラシ・整流子の側から見ると、コイルの左半分は上(奥)へ、右半分は下(手前)へ動こうとします。この回転は「時計回り」です。

問(2)で見たように、半回転した後も、整流子の働きによって、やはり時計回りに回転させる力がはたらき続けます。したがって、コイルは時計回りに連続して回転します。

使用した物理公式

  • 力のモーメント(概念)
計算過程

(なし)

この設問の平易な説明

コイルがどっちに回るかは、(1)で調べた力の向きを見ればわかります。
図1のコイルを、手前の整流子側から見てみましょう。左側の辺ABは「上向き」に、右側の辺CDは「下向き」に力を受けます。これは、自動車のハンドルを想像したとき、左手を上に、右手を下に動かすのと同じ動きです。ハンドルは時計回りに回りますよね。
したがって、このコイルも時計回りに回転します。

結論と吟味

辺ABと辺CDにはたらく力の向きから、コイルは時計回りに回転すると判断できます。この回転方向は、(2)と(3)で確認した連続回転の仕組みとも整合性がとれており、妥当な結論です。

解答 (4) 時計回り

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • フレミングの左手の法則と力のモーメントの組み合わせ:
    • 核心: この問題の根幹は、単にフレミングの左手の法則で力の向きを求めるだけでなく、その力がコイル全体に「回転運動」をどのように引き起こすか、すなわち「力のモーメント」の概念まで理解しているかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 力の発生(原因): フレミングの左手の法則は、磁場中の電流が受ける力の「向き」と「大きさ」を決定する基本法則です。これは回転の「素」となる力を求めるステップです。
      • 回転運動(結果): コイルの対辺(ABとCD)にはたらく、向きが逆で平行な一対の力(偶力)が、コイルに「力のモーメント」を生み出します。この力のモーメントこそが、コイルを回転させる直接の原因です。
      • 橋渡し: 「フレミングの法則で各辺の力を求める」→「それらの力が作る力のモーメントの向きを考える」→「コイルの回転方向がわかる」という一連の流れで物理現象を捉えることが核心です。
  • モーターの連続回転と整流子の役割:
    • 核心: 「なぜモーターは一方向に回り続けられるのか?」という問いに対する物理的な答えが「整流子による電流の向きの反転」であることを理解することが、この問題のもう一つの重要な核心です。
    • 理解のポイント:
      • もし整流子がなかったら: コイルが半回転すると、力のモーメントの向きが逆転してしまい、コイルは元の位置に戻ろうとします。これでは連続回転は実現できません。
      • 整流子の機能: 整流子は、力のモーメントが逆転する絶妙なタイミングで、コイルに流れる電流の向き自体を反転させます。結果として、力のモー明との向きは常に一定に保たれ、連続的な回転が可能になります。
      • 本質: 整流子は、コイルの機械的な回転と電気的なスイッチングを同期させる、非常に巧妙な仕組みであると理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 発電機(ダイナモ)の問題: モーターは「電気エネルギー→運動エネルギー」の変換装置ですが、発電機はその逆で「運動エネルギー→電気エネルギー」の変換装置です。コイルを外部から強制的に回転させたときに、どの向きに誘導電流が流れるかを問う問題は、この問題と表裏一体です。使う法則が「フレミングの右手の法則」に変わるだけで、磁場、運動、電流の三者の関係を考える点は共通しています。
    • コイルの回転角と力のモーメントの関係: コイルの回転角度によって、電流が磁場から受ける力のモーメントの大きさが変化します。コイル面が磁場に垂直なとき(図の姿勢から90度回転したとき)は力のモーメントが最大になり、平行なとき(図の姿勢)は力がはたらいても回転軸からの距離が0なのでモーメントは0になる、といった関係を問う問題に応用できます。
    • 電流計・電圧計の原理: メーターの針が振れる原理も、コイルが磁場から受ける力を利用しています。流れる電流の大きさに比例した力のモーメントが発生し、それがばねの力とつりあう位置まで針が回転する、という仕組みの問題に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 三要素の特定: まず、問題の図や文から「磁場の向き(N→S)」「電流の向き(+→-)」「運動(力)の向き」の三要素のうち、どれが分かっていて、どれを求めるべきかを確認します。
    2. 法則の選択: 力を求めるなら「左手の法則」、誘導電流を求めるなら「右手の法則」と、目的に応じて適切な法則を選択します。混同しないように注意が必要です。
    3. 回転の有無の確認: 問題が単に「直線導線にはたらく力」を問うているのか、それとも「コイルの回転」まで含んでいるのかを見極めます。回転を含む場合は、必ず「力のモーメント」を意識し、回転軸と力の向きの関係を考えます。
    4. 整流子の存在確認: 図に整流子(半円状の金属環)とブラシがあれば、それは「連続回転」がテーマであることの強いサインです。半回転ごとに電流の向きが反転することを前提に思考を進めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • フレミングの右手の法則との混同:
    • 誤解: モーター(力を求める)の問題なのに、発電機(誘導電流を求める)で使う「右手の法則」を誤って適用してしまう。
    • 対策: 「(電気を)もらうから左手、出すから右手」や「モーターの『モ』は左手の中指の形に似ている」など、自分なりの覚え方で区別を徹底します。問題を解き始める前に「これは力を求める問題だから左手」と指差し確認する習慣をつけるのが有効です。
  • 電流の向きの誤認:
    • 誤解: 図2のようにコイルが半回転しても、電流の向きは図1と同じA→B→C→Dのままだと考えてしまう。
    • 対策: 電流は常に「電源の正極」から出発し、「負極」に戻るという大原則を忘れないことです。図2では、正極につながっているブラシは整流子のD側の部分に接触しています。したがって、電流はD→C→B→Aと流れることを、回路図を指でなぞって確認する癖をつけましょう。
  • 力の向きと回転方向の混同:
    • 誤解: 辺ABにはたらく力が「上向き」だから、コイルは「上」に動くと考えてしまう。
    • 対策: 力はあくまで「並進運動」の向きであり、回転運動は「力のモーメント」によって決まる、と明確に区別します。コイルの回転軸を意識し、「左側が上に、右側が下に」動くなら「時計回り」というように、回転運動に正しく翻訳するステップを必ず踏むようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • フレミングの左手の法則:
    • 選定理由: (1)と(2)では、磁場の中に置かれた導線(コイルの辺)に流れる電流が、どちらの向きに力を受けるかを明らかにすることが目的です。この「磁場・電流・力」の三者の向きの関係を規定する唯一の法則がフレミングの左手の法則であるため、これを選択します。
    • 適用根拠: この法則は、ローレンツ力(磁場中を運動する荷電粒子が受ける力)を、導線中の多数の電子の流れ(=電流)に対してマクロな視点で表現し直したものです。実験的に確立された電磁気学の基本法則であり、この状況に適用することは物理的に正当です。
  • 力のモーメント(概念):
    • 選定理由: (4)では、コイルが「回転」する向きを問われています。物体を回転させる能力は「力」そのものではなく、「力のモーメント」によって決まります。したがって、(1)で求めた個々の「力」を統合し、回転運動として解釈するために、力のモーメントの考え方が必要になります。
    • 適用根拠: コイルの辺ABと辺CDにはたらく力は、大きさが等しく向きが反対で、作用線がずれている「偶力」を形成します。偶力は物体に並進運動を起こさず、回転運動のみを引き起こします。この偶力が作る力のモーメントの向きを考えることで、回転方向を論理的に決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指の向きの徹底確認: フレミングの法則を使う際は、焦って指を動かすのではなく、一つずつ確認する「儀式」を取り入れましょう。
    1. まず人差し指を「磁場の向き(N→S)」に固定する。
    2. 次に、人差し指の向きは変えずに、手首をひねって中指を「電流の向き」に合わせる。
    3. 最後に、親指が自然に向く方向を読み取る。この3ステップを、声に出しながら行うとさらに効果的です。
  • 図への書き込み: 問題用紙の図に、直接矢印を書き込むことを習慣にしましょう。
    1. 磁場の向き(NからSへ)を太い矢印で書き込む。
    2. 電流の向き(+から-へ)を、コイルの各辺に沿って矢印で書き込む。
    3. フレミングの法則で求めた力の向きを、各辺から立体的に(上向きなら⦿、下向きなら⊗のように)書き込む。

    このように情報を可視化することで、頭の中だけで考えるよりもミスが劇的に減ります。

  • 視点の固定: (4)のように回転方向を問われたら、「自分はどこから見ているのか」という視点を最初に確定させます。この問題では「ブラシ・整流子の側から見る」と指定されているので、その視点から見たときの各辺の動き(左が上がる、右が下がるなど)をイメージします。視点がぶれると、時計回りと反時計回りを間違える原因になります。
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436 斜面レールで静止するパイプ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 水平・鉛直方向に力を分解する解法
      • 模範解答が斜面に平行・垂直な方向に力を分解するのに対し、別解では水平・鉛直方向に力を分解して連立方程式を解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 力の分解の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる座標系で力を分解する経験を積むことで、問題に応じて最適なアプローチを選択する能力が養われます。
    • 解法の汎用性理解: 別解で用いる連立方程式を解く方法は、より複雑な力のつり合い問題にも応用できる基本的な手法であり、その手順を学ぶことができます。
    • 物理的理解の確認: 異なる計算過程を経ても同じ結論に至ることを確認することで、力のつり合いという物理法則の普遍性への理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「磁場中での導体棒に働く力のつり合い」です。電流が磁場から受ける力を正しく求め、重力など他の力とのつり合いを考えることができるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電流が磁場から受ける力(ローレンツ力): 電流 \(I\) が流れる長さ \(l\) の導体が、磁束密度 \(B\) の磁場から受ける力の大きさ \(F=IBl\) と、その向きをフレミングの左手の法則で決定できること。
  2. 力のつり合い: 物体が静止しているとき、その物体に働くすべての力のベクトル和がゼロになるという条件を式にできること。
  3. 力の分解: 複数の力が働く場合、計算しやすいように適切な座標軸(例:斜面に平行・垂直)を設定し、各力をその成分に分解できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、パイプが斜面を滑り落ちないために必要な力の向きを考え、フレミングの左手の法則を適用して磁場の向きを特定します。
  2. (2)では、パイプに働くすべての力(重力、垂直抗力、磁場からの力)を図示し、斜面に平行な方向の力のつり合いの式を立てて、磁束密度の大きさを求めます。
  3. (3)では、電源の電圧を上げたときに電流がどう変化し、それに伴って磁場からの力がどう変わるかを考え、力のつり合いが崩れた後のパイプの運動を予測します。

問(1)

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