370 帯電した小球のつりあい
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、荷電粒子にはたらく静電気力、重力、そして糸の張力の3つが釣り合っている状況を分析します。それぞれの力を正しく理解し、ベクトルとして扱えるかが問われます。また、点電荷がつくる電場と電位の計算、そしてそれらの重ね合わせの原理も重要なテーマです。
- 糸の長さ: \(l\)
- 小球A, Bの電気量: \(q\) (\(q>0\))
- 小球A, Bの質量: 等しい (これを \(m\) とする)
- 静止時の糸と鉛直線のなす角: \(\theta\)
- クーロンの法則の比例定数: \(k\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 電位の基準: 無限遠
- (1) 小球AがBに及ぼす静電気力 \(F\) の大きさ
- (2) 点Oにおける合成電場の向きと強さ \(E\)
- (3) 点Oにおける電位 \(V\)
- (4) 小球Aにはたらく糸の張力 \(T\) の大きさ
- (5) 小球Aの質量 \(m\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4), (5)の別解: 力のベクトル三角形を用いる解法
- 模範解答が力を水平・鉛直成分に分解して連立方程式を解くのに対し、別解では3力のつりあいをベクトル三角形として捉え、三角比を用いて直接的に張力と質量を求めます。
- 問(4), (5)の別解: 力のベクトル三角形を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 幾何学的理解: 力のつりあいを代数的な連立方程式としてだけでなく、閉じたベクトル三角形という幾何学的なイメージで捉えることができ、物理現象の視覚的理解が深まります。
- 解法の多様性: 3つの力がつりあう静力学の問題において、成分分解以外の強力な解法ツールを学ぶことができます。
- 計算の簡略化: 成分分解と連立方程式の過程を省略し、三角比の関係から直接答えを導けるため、場合によっては計算が大幅に簡略化されます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「静電気力と重力がはたらく中での荷電粒子のつりあい」です。複数の力をベクトルとして正しく扱い、つりあいの条件を適用することが全体の鍵となります。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く静電気力の大きさを計算するための基本法則です。
- 電場と電位の重ね合わせ: 複数の電荷が作る電場はベクトル和、電位はスカラー和で求められます。この違いを明確に区別することが重要です。
- 力のつりあい: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。力を成分分解して考えるのが基本アプローチです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で小球AとBの間の距離を求め、クーロンの法則を適用して静電気力の大きさを計算します。
- 次に、(2)と(3)で、点OにAとBがそれぞれつくる電場(ベクトル)と電位(スカラー)を求め、重ね合わせの原理に従って合成します。
- 最後に、(4)と(5)で、小球Aにはたらく3つの力(重力、張力、静電気力)のつりあいの式を立て、未知数である張力と質量を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
AとBの間には、互いに反発しあう静電気力(斥力)がはたらきます。この力の大きさをクーロンの法則を用いて計算します。そのためには、まずAとBの間の直線距離を求める必要があります。図の幾何学的な関係から距離を正しく導出することが第一歩です。
この設問における重要なポイント
- 小球間の距離: 図より、点Oから下ろした鉛直線と小球A(またはB)との水平距離は \(l\sin\theta\) です。したがって、小球AとBの間の距離 \(r\) はその2倍、\(r = 2l\sin\theta\) となります。
- クーロンの法則: 距離 \(r\) 離れた2つの電荷 \(q_1, q_2\) にはたらく静電気力 \(F\) の大きさは \(F = k\displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) で与えられます。
具体的な解説と立式
求める静電気力の大きさを \(F\) とします。まず、小球AとBの間の距離 \(r\) を求めます。
図から、A, Bそれぞれの水平位置は、点Oの真下から測って \(l\sin\theta\) だけ離れています。
したがって、A-B間の距離 \(r\) は、
$$ r = 2l\sin\theta \quad \cdots ① $$
クーロンの法則より、この2つの小球間にはたらく静電気力 \(F\) の大きさは、
$$ F = k\frac{q \cdot q}{r^2} = k\frac{q^2}{r^2} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\)
②式に①式を代入して \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= k\frac{q^2}{(2l\sin\theta)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
プラスの電気を帯びた2つの玉AとBは、お互いに反発しあいます。この反発力の大きさを求める問題です。力の大きさは、2つの玉の間の「距離」がわからないと計算できません。まず、図形の問題として、三角比を使ってAとBの間の距離を求めます。その距離をクーロンの法則の公式に代入すれば、力の大きさが計算できます。
Aの電荷がBの電荷に及ぼす静電気力の大きさは \(\displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta}\) です。これはBがAに及ぼす力と大きさが等しく、向きが逆です(作用・反作用の関係)。
問(2)
思考の道筋とポイント
電場はベクトル量です。点Oには、電荷Aが作る電場 \(\vec{E}_{\text{A}}\) と電荷Bが作る電場 \(\vec{E}_{\text{B}}\) が存在します。求める合成電場 \(\vec{E}\) は、この2つのベクトルを足し合わせたもの(\(\vec{E} = \vec{E}_{\text{A}} + \vec{E}_{\text{B}}\))です。図の対称性から、合成電場の向きをまず考察し、その後、ベクトルの成分計算によって強さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 電場の向き: 正電荷は、自身の位置から放射状に遠ざかる向きに電場をつくります。したがって、AがOにつくる電場 \(\vec{E}_{\text{A}}\) はAからOへ向かう向き、BがOにつくる電場 \(\vec{E}_{\text{B}}\) はBからOへ向かう向きです。
- ベクトルの合成: \(\vec{E}_{\text{A}}\) と \(\vec{E}_{\text{B}}\) は大きさが等しく、鉛直線に対して対称な向きを向いています。そのため、水平成分は互いに打ち消し合い、鉛直成分のみが残ります。
具体的な解説と立式
点Oにおける、小球Aによる電場を \(\vec{E}_{\text{A}}\)、小球Bによる電場を \(\vec{E}_{\text{B}}\) とします。
点電荷 \(q\) から距離 \(r\) の点につくられる電場の強さの公式 \(E = k\displaystyle\frac{q}{r^2}\) を用います。
A, BともにO点からの距離は \(l\) なので、それぞれの電場の強さ \(E_{\text{A}}\), \(E_{\text{B}}\) は等しく、
$$ E_{\text{A}} = E_{\text{B}} = k\frac{q}{l^2} \quad \cdots ① $$
電場の向きは、\(\vec{E}_{\text{A}}\) がA→O方向、\(\vec{E}_{\text{B}}\) がB→O方向です。
合成電場 \(\vec{E}\) を考えます。図aからわかるように、\(\vec{E}_{\text{A}}\) と \(\vec{E}_{\text{B}}\) の水平成分は大きさが同じで逆向きのため、打ち消し合います。鉛直上向きの成分は加算されます。
したがって、合成電場の向きは鉛直上向きとなります。
その強さ \(E\) は、それぞれの電場の鉛直成分の和に等しくなります。
$$ E = E_{\text{A}}\cos\theta + E_{\text{B}}\cos\theta \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 点電荷のまわりの電場: \(E = k\displaystyle\frac{q}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせ(ベクトル和)
②式に①式の値を代入して \(E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \left(k\frac{q}{l^2}\right)\cos\theta + \left(k\frac{q}{l^2}\right)\cos\theta \\[2.0ex]
&= 2 \cdot k\frac{q}{l^2} \cdot \cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{2kq\cos\theta}{l^2}
\end{aligned}
$$
もし天井のO点にプラスの電気を帯びた小さな粒を置いたら、どちら向きに力を受けるかを考える問題です。Aの玉(プラス)とBの玉(プラス)は、どちらもO点に置いた粒を反発します。AはA→Oの向きに、BはB→Oの向きに力を及ぼします。この2つの力は、ちょうど綱引きのように斜め上向きに働きます。左右に引っ張る成分は打ち消し合うので、合わさった力は真上を向きます。この真上を向く力の大きさを計算します。
合成電場の向きは鉛直上向き、強さは \(\displaystyle\frac{2kq\cos\theta}{l^2}\) です。
\(\theta=0\) のとき(A,Bが真下にあるとき)、\(\cos\theta=1\) で電場は最大値 \(\displaystyle\frac{2kq}{l^2}\) となり、\(\theta=90^\circ\) のとき(A,Bが水平に並んだとき)、\(\cos\theta=0\) で鉛直成分は0となり、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電位はスカラー量です。したがって、点Oにおける合成電位 \(V\) は、Aが作る電位 \(V_{\text{A}}\) とBが作る電位 \(V_{\text{B}}\) の単純な足し算(スカラー和)で求められます。ベクトルのような向きの考慮は不要です。
この設問における重要なポイント
- 電位はスカラー: 電位には向きがありません。複数の電荷が作る電位は、それぞれの電位を単純に足し合わせるだけでOKです。
- 点電荷の電位: 点電荷 \(q\) から距離 \(r\) の点の電位は \(V = k\displaystyle\frac{q}{r}\) で与えられます。
具体的な解説と立式
点Oにおける、小球Aによる電位を \(V_{\text{A}}\)、小球Bによる電位を \(V_{\text{B}}\) とします。
点電荷 \(q\) から距離 \(r\) の点につくられる電位の公式 \(V = k\displaystyle\frac{q}{r}\) を用います。
A, BともにO点からの距離は \(l\) なので、それぞれの電位は、
$$ V_{\text{A}} = k\frac{q}{l} \quad \cdots ① $$
$$ V_{\text{B}} = k\frac{q}{l} \quad \cdots ② $$
電位はスカラー量なので、点Oでの合成電位 \(V\) はこれらの和となります。
$$ V = V_{\text{A}} + V_{\text{B}} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 点電荷のまわりの電位: \(V = k\displaystyle\frac{q}{r}\)
- 電位の重ね合わせ(スカラー和)
③式に①式と②式の値を代入して \(V\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= k\frac{q}{l} + k\frac{q}{l} \\[2.0ex]
&= \frac{2kq}{l}
\end{aligned}
$$
電位は「電気的な位置エネルギーの高さ」のようなものです。Aの玉がO点につくる「高さ」と、Bの玉がO点につくる「高さ」を単純に足し算すれば、O点の総合的な「電気的な高さ」がわかります。向きを考える必要がないので、計算はとてもシンプルです。
点Oの電位は \(\displaystyle\frac{2kq}{l}\) です。電位は距離に反比例するため、この結果は妥当です。
問(4), (5)
思考の道筋とポイント
小球Aは静止しているため、Aにはたらく全ての力のベクトル和はゼロになります(力のつりあい)。Aにはたらく力は、①糸の張力 \(\vec{T}\)、②重力 \(m\vec{g}\)、③Bからの静電気力 \(\vec{F}\) の3つです。これらの力のつりあいを考えるために、力を水平方向と鉛直方向に分解し、それぞれの方向で「力の和がゼロ」という式を立てます。得られた2つの連立方程式を解くことで、未知数である張力 \(T\) と質量 \(m\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力の図示: 小球Aにはたらく3つの力を、向きと作用点を正確に図示することが最も重要です。張力は糸に沿って斜め上向き、重力は鉛直下向き、静電気力は水平右向きです。
- 力の分解: 斜めを向いている張力 \(\vec{T}\) を、水平成分 \(T\sin\theta\) と鉛直成分 \(T\cos\theta\) に分解します。
- つりあいの立式: 水平方向と鉛直方向、それぞれの力の合計がゼロになるように式を立てます。
- 水平: (右向きの力) – (左向きの力) = 0
- 鉛直: (上向きの力) – (下向きの力) = 0
具体的な解説と立式
小球Aの質量を \(m\)、糸の張力の大きさを \(T\) とします。小球Aにはたらく力は以下の3つです。
- 糸の張力 \(\vec{T}\) (糸に沿って斜め上向き)
- 重力 \(m\vec{g}\) (鉛直下向き)
- 静電気力 \(\vec{F}\) (水平右向き、(1)で計算済み)
これらの力がつりあっているので、水平方向と鉛直方向の成分に分けてつりあいの式を立てます。
水平方向の力のつりあい:
$$ T\sin\theta – F = 0 \quad \cdots ① $$
鉛直方向の力のつりあい:
$$ T\cos\theta – mg = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
問(4) 張力 \(T\) の計算
①式を \(T\) について解きます。
$$ T = \frac{F}{\sin\theta} $$
この式に、問(1)で求めた \(F = \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{\sin\theta} \cdot \left( \frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{kq^2}{4l^2\sin^3\theta}
\end{aligned}
$$
問(5) 質量 \(m\) の計算
②式を \(m\) について解きます。
$$ m = \frac{T\cos\theta}{g} $$
この式に、上で求めた \(T = \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^3\theta}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{1}{g} \cdot \left( \frac{kq^2}{4l^2\sin^3\theta} \right) \cdot \cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{kq^2\cos\theta}{4gl^2\sin^3\theta}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) の関係を用いると、\(\displaystyle\frac{\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{1}{\tan\theta}\) なので、式をよりシンプルにできます。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{kq^2}{4gl^2\sin^2\theta} \cdot \frac{\cos\theta}{\sin\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{kq^2}{4gl^2\sin^2\theta\tan\theta}
\end{aligned}
$$
空中に静止している小球Aには、斜め上に引っ張る「糸の力」、真下に引っ張る「重力」、真横に押す「電気の力」の3つが働いて、完璧にバランスが取れています。このバランスを数式にするため、斜めの力を「横方向の分」と「縦方向の分」に分けます。そして、「左右の力のつりあい」と「上下の力のつりあい」という2つのルールで式を立てます。この2つの式を解くことで、未知数だった「糸の力」と「質量」を求めることができます。
(4) Aにはたらく糸の張力の大きさは \(\displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^3\theta}\) です。
(5) Aの質量は \(\displaystyle\frac{kq^2}{4gl^2\sin^2\theta\tan\theta}\) です。
\(\theta\) が小さいとき、\(\sin\theta \approx \tan\theta \approx \theta\) となり、\(T \propto 1/\theta^3\), \(m \propto 1/\theta^3\) となります。角度が少しでも開くためには、非常に大きな張力と質量が必要になることが示唆され、物理的な直感と合致します。
思考の道筋とポイント
小球Aにはたらく3つの力 \(\vec{T}\), \(m\vec{g}\), \(\vec{F}\) がつりあっているため、これらのベクトルを矢印でつなぐと、閉じた三角形(力のベクトル三角形)ができます。この三角形の辺の長さと角度の関係(三角比)を用いることで、力の大きさの関係式を直接導き、張力 \(T\) と質量 \(m\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のベクトル三角形: \(\vec{T} + m\vec{g} + \vec{F} = \vec{0}\) を図示します。重力 \(m\vec{g}\)(鉛直下向き)と静電気力 \(\vec{F}\)(水平向き)は直交します。張力 \(\vec{T}\) は、この2つのベクトルの和とつりあう向きになります。
- 三角比の利用: ベクトル三角形は、辺の比が力の大きさの比に対応する直角三角形となります。この三角形の辺の比から、\(T, mg, F\) の関係を \(\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta\) で表します。
具体的な解説と立式
小球Aにはたらく3つの力、張力 \(\vec{T}\)、重力 \(m\vec{g}\)、静電気力 \(\vec{F}\) がつりあっている。これらの力のベクトルを図に描くと、閉じた直角三角形を形成します。
この三角形において、張力 \(T\) が斜辺、静電気力 \(F\) が水平な辺、重力 \(mg\) が鉛直な辺に対応します。
張力 \(\vec{T}\) と鉛直線のなす角が \(\theta\) なので、力のベクトル三角形の角度の関係から、以下の三角比の関係が成り立ちます。
$$ \sin\theta = \frac{F}{T} \quad \cdots ③ $$
$$ \cos\theta = \frac{mg}{T} \quad \cdots ④ $$
$$ \tan\theta = \frac{F}{mg} \quad \cdots ⑤ $$
これらの美しい関係式から、\(T\) と \(m\) を \(F\) を使って直接表すことができます。
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 三角比
問(4) 張力 \(T\) の計算
③式を \(T\) について解きます。
$$ T = \frac{F}{\sin\theta} $$
この関係は、主たる解法の式①と全く同じです。問(1)の結果 \(F = \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{\sin\theta} \cdot \left( \frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{kq^2}{4l^2\sin^3\theta}
\end{aligned}
$$
問(5) 質量 \(m\) の計算
⑤式を \(m\) について解きます。
$$ m = \frac{F}{g\tan\theta} $$
問(1)の結果 \(F = \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{1}{g\tan\theta} \cdot \left( \frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{kq^2}{4gl^2\sin^2\theta\tan\theta}
\end{aligned}
$$
静止している小球に働く3つの力(張力、重力、電気力)の矢印をつなぎ合わせると、ぴったり閉じた直角三角形が描けます。この三角形の辺の長さがそれぞれの力の大きさに対応します。三角比(サイン、コサイン、タンジェント)を使うと、この三角形の辺の長さの比が簡単にわかります。この関係を使えば、面倒な成分分解をせずに、直接、張力や質量を計算することができます。
張力 \(T\) と質量 \(m\) は、主たる解法で得られた結果と完全に一致しました。3つの力がつりあう状況では、力のベクトル三角形を考えるアプローチが非常に見通しが良く、計算も簡潔になることが多いです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつりあい:
- 核心: 物体が「静止している」という条件は、その物体にはたらく全ての力のベクトル和がゼロであることを意味します。この問題では、小球Aにはたらく「重力」「静電気力」「張力」の3つの力がつりあっています。
- 理解のポイント: つりあいを式にするには、ベクトルを成分に分解するのが基本です。水平方向の力の和=0、鉛直方向の力の和=0、という2本の式を立てて連立させるのが王道のアプローチです。
- 電場と電位の重ね合わせの原理:
- 核心: 複数の電荷が空間のある点につくる電場や電位は、それぞれの電荷が単独でつくるものの「重ね合わせ」で求められます。
- 理解のポイント: 最も重要なのは、電場がベクトル量(向きを持つ量)であり、電位がスカラー量(大きさだけの量)であるという違いです。したがって、電場を合成するときはベクトルの和(力の合成と同じ)を、電位を合成するときは単純なスカラーの和(ただの足し算)を計算する必要があります。この区別が曖昧だと、(2)と(3)で必ず間違えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばねと荷電粒子: 糸の代わりにばねで小球を吊るし、静電気力と弾性力、重力がつりあう問題。
- 斜面上の荷電粒子: 摩擦のある斜面上に置かれた荷電粒子が、重力、垂直抗力、静電気力、摩擦力によって静止している問題。
- ローレンツ力との複合問題: 電場だけでなく磁場もかかっている空間で、荷電粒子がローレンツ力、静電気力、重力などを受けて運動または静止する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体にはたらく力を全て図示する: これが力学問題の絶対的な第一歩です。重力、張力、静電気力など、考えられる力を漏れなく矢印で描き込みます。
- 座標軸を適切に設定する: 水平・鉛直方向のつりあいを考えるなら、水平・鉛直にx-y軸を取るのが最も素直です。
- 電場と電位の違いを常に意識する: 問題で電場と電位の両方が問われたら、「ベクトル和」と「スカラー和」というキーワードを頭の中で復唱し、計算方法を混同しないようにします。
- 幾何学的な関係を読み取る: クーロンの法則や電場の計算には、電荷間の距離が必要です。図形から三角比などを使って正確に距離を求めることが、計算の前提となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電場と電位の計算の混同:
- 誤解: 電場の合成をスカラー和で計算したり(\(E = E_A + E_B\))、電位の合成でベクトルの分解を考えたりしてしまう。
- 対策: 「電場は力(ベクトル)、電位はエネルギー(スカラー)」という物理的なイメージと結びつけて覚えましょう。電場は「+1Cの電荷が受ける力」、電位は「+1Cの電荷が持つ位置エネルギー」です。力は向きが重要ですが、エネルギーの足し算に向きは関係ありません。
- 力の分解における \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の取り違え:
- 誤解: 張力\(T\)の鉛直成分を\(T\sin\theta\)、水平成分を\(T\cos\theta\)としてしまう。
- 対策: 角度\(\theta\)がどの角かを正確に図で確認し、「\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)成分」「\(\theta\)の向かい側の辺が\(\sin\theta\)成分」というように、直角三角形との対応関係をその都度確認する癖をつけましょう。
- クーロンの法則で用いる距離の間違い:
- 誤解: 小球AとBの間の距離を、糸の長さ\(l\)だと勘違いしてしまう。
- 対策: クーロンの法則は2つの電荷の「直線距離」で決まります。図をよく見て、A-B間の距離は\(l\)ではなく、\(2l\sin\theta\)であることを幾何学的に導出するプロセスを省略しないことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力の図示: この問題の最重要スキルです。小球Aを点で描き、その点から「重力(真下)」「静電気力(真横)」「張力(斜め上)」の3本の矢印を生やす図を、何よりも先に描きましょう。全ての思考はこの図から始まります。
- 力のベクトル三角形: 別解で用いた考え方です。3つの力のベクトル(矢印)を、頭と尾が繋がるように移動させてみましょう(\(\vec{F}\)の終点から\(m\vec{g}\)を開始し、その終点から\(\vec{T}\)を開始すると、始点に戻ってくる)。すると、辺の長さが\(F, mg, T\)に対応する直角三角形が描けます。この図を描くことで、力のつりあいが「閉じた多角形」として視覚的に理解でき、三角比の関係が一目瞭然になります。
- 電場の合成の図示: 点Oに「+1Cの試験電荷」を置いたと想像します。小球A(正電荷)はこの試験電荷をA→Oの向きに反発し、B(正電荷)もB→Oの向きに反発します。この2つの反発力(ベクトル)を矢印で描き、平行四辺形を作図すると、その対角線が合成電場を表します。図の対称性から、対角線が真上を向くことが直感的に理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい:
- 選定理由: 問題文に「静止した」とあるためです。これは物体が加速していない(加速度\(\vec{a}=\vec{0}\))ことを意味し、運動方程式(\(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\))が、力のつりあいの式(\(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\))となるからです。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則は、我々の身の回りの力学現象を記述する根源的な法則です。
- クーロンの法則 (\(F = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\)):
- 選定理由: 「電荷」にはたらく「静電気力」の大きさを計算するための、電磁気学における基本法則だからです。
- 適用根拠: 2つの点電荷間に働く力を記述する、実験的に確立された法則です。
- 力のベクトル三角形と三角比:
- 選定理由: 3つの力(特に、互いに直交する2力と残りの1力)がつりあう状況で、成分分解と連立方程式の計算を簡略化し、幾何学的な関係から直接力の比を求めるために選択します。
- 適用根拠: ベクトルの和がゼロであること(\(\vec{A}+\vec{B}+\vec{C}=\vec{0}\))と、ベクトルを図形的に配置すると閉じた三角形になることは、数学的に等価です。したがって、力のつりあいの問題を、図形の辺の比の問題に置き換えることができます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 静電気力の計算:
- 戦略: クーロンの法則を適用する。そのためにまず電荷間距離を求める。
- フロー: ①図の幾何学的関係からA-B間の距離 \(r = 2l\sin\theta\) を導出 → ②クーロンの法則 \(F = k\frac{q^2}{r^2}\) に代入して \(F\) を計算。
- (2), (3) 電場・電位の計算:
- 戦略: 重ね合わせの原理を、電場(ベクトル和)と電位(スカラー和)の違いを意識して適用する。
- フロー: ①A, BからOまでの距離が \(l\) であることを確認 → ②A, BがOにつくる電場 \(E_A, E_B\) と電位 \(V_A, V_B\) をそれぞれ計算 → ③電場はベクトルとして合成(対称性から鉛直成分の和を計算)、電位はスカラーとして単純に足し算する。
- (4), (5) 張力・質量の計算(主たる解法):
- 戦略: 力のつりあいを成分分解して連立方程式を解く。
- フロー: ①Aにはたらく3力(張力、重力、静電気力)を図示 → ②張力を水平・鉛直成分に分解 → ③水平方向のつりあいの式を立て、(4)の張力\(T\)を求める → ④鉛直方向のつりあいの式を立て、(5)の質量\(m\)を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の代入は慎重に: (4)の計算で \(T = \displaystyle\frac{F}{\sin\theta}\) に \(F = \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta}\) を代入する際、焦って暗算すると分母・分子を間違いやすいです。\(T = \left( \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta} \right) \div \sin\theta = \left( \displaystyle\frac{kq^2}{4l^2\sin^2\theta} \right) \times \displaystyle\frac{1}{\sin\theta}\) のように、割り算を逆数の掛け算に直すステップを挟むと、\(\sin^3\theta\) が分母に来ることが明確になり、ミスを防げます。
- 文字が多い式の整理: 最終的な答えは \(m = \displaystyle\frac{kq^2}{4gl^2\sin^2\theta\tan\theta}\) のように多くの文字を含みます。計算過程で、数字、定数(\(k, g\))、変数(\(l, q, \theta\))を混同しないよう、一つ一つの項を丁寧に書き写しましょう。
- 三角関数の関係式を使いこなす: (5)の答えは \(\displaystyle\frac{kq^2\cos\theta}{4gl^2\sin^3\theta}\) のままでも間違いではありませんが、模範解答のように \(\tan\theta\) を使って整理すると、より簡潔で見通しが良くなります。\(\displaystyle\frac{\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{1}{\tan\theta}\) の関係に気づけるように、普段から意識しておきましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討(極限チェック):
- もし \(\theta \rightarrow 0\) なら: 2つの小球がほぼ接している状態。このとき \(\sin\theta \rightarrow 0\) なので、張力 \(T\) と質量 \(m\) の式の分母がゼロに近づき、\(T \rightarrow \infty\), \(m \rightarrow \infty\) となります。これは「ごくわずかでも糸を開くためには、非常に強い斥力が必要で、それを支えるためには巨大な張力と重さが必要になる」という直感に合致します。
- もし \(\theta \rightarrow 90^\circ\) なら: 糸が水平になる状態。このとき \(\cos\theta \rightarrow 0\) です。鉛直方向のつりあいの式 \(T\cos\theta = mg\) から、右辺の \(mg\) がゼロでない限り、この式は成り立ちません。つまり、重力がある限り糸が完全に水平になることはない、という物理的に正しい結論を導けます。
- 別解との比較:
- この問題では、(4)(5)を「成分分解」で解く方法と、「力のベクトル三角形」で解く方法がありました。全く異なるアプローチにもかかわらず、最終的に全く同じ答えにたどり着きました。これは、両方の解法の正しさと、自分の計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。
371 一様な電場内での荷電粒子の運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な電場と重力場が共存する空間での荷電粒子の運動を扱います。電位や静電気力がする仕事の定義を正しく理解しているか、そして水平方向(等加速度運動)と鉛直方向(重力下での運動)の運動を独立して分析できるかが問われます。
- 一様な電場の強さと向き: \(E\)、水平方向右向き
- 荷電粒子の質量: \(m\)
- 荷電粒子の電気量: \(q\) (\(q>0\))
- PR間の長さ: \(l\)
- PQとPRのなす角: \(\theta\)
- 点Rは点Qの鉛直上方にある
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- (1) 点Pと点Rのどちらの電位が高いか、またその電位差 \(V\)
- (2) MをQ→Pへ移すときの静電気力がする仕事 \(W_{\text{QP}}\)
- (3) MをR→Pへ移すときの静電気力がする仕事 \(W_{\text{RP}}\)
- (4) MをPで静かにはなしたとき、面Bに到達するまでの時間 \(t\)
- (5) MをPで鉛直上向きに打ち上げたとき、Qに到達するための初速度 \(v_0\) の大きさ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2), (3)の別解: 電位差と仕事の関係式 \(W=qV\) を用いる解法
- 模範解答が仕事の定義式 \(W=Fx\cos\phi\) から直接計算するのに対し、別解では(1)で求めた電位差を利用して、より簡潔に仕事を求めます。
- 問(2), (3)の別解: 電位差と仕事の関係式 \(W=qV\) を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理概念の連携: 仕事、電位、エネルギーという電磁気学と力学における中心的な概念が、\(W=qV\) やエネルギー保存則といった形で密接に連携していることを体感できます。
- 解法の選択肢: 荷電粒子の運動を解析する際に、「運動方程式(運動学)」と「エネルギー保存則」という2つの強力なアプローチがあることを学び、問題に応じて適切な方を選択する能力が養われます。
- 計算の効率化: 特にエネルギー保存則を用いる別解では、運動の途中経過(時間)を考慮する必要がなく、始点と終点の状態のみに着目すればよいため、計算が大幅に簡潔になる場合があります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電場と重力場における荷電粒子の運動」です。電場による力と重力を分けて考えることが基本となります。
- 一様な電場と電位の関係: 電場は電位の高い方から低い方へ向かう。電位差 \(V\) は \(V=Ed\) で計算できます。ここで \(d\) は電場の向きに沿った距離です。
- 静電気力がする仕事: 仕事は \(W=Fx\cos\phi\) で計算できます。また、電位差 \(V\) を使って \(W=qV\) とも表せます。静電気力は保存力であり、仕事は経路に依らないという性質も重要です。
- 運動の独立性: 荷電粒子にはたらく力は、水平方向には静電気力のみ、鉛直方向には重力のみです。したがって、水平方向の運動と鉛直方向の運動は、それぞれ独立した運動として扱うことができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電場の向きと電位の関係から高低を判断し、\(V=Ed\) の公式を使って電位差を求めます。
- (2), (3)では、静電気力がする仕事を計算します。仕事の定義式を使う方法と、(1)の電位差を利用する方法があります。
- (4)では、水平方向の運動にのみ着目し、静電気力による等加速度直線運動として考え、運動学の公式を適用します。
- (5)では、(4)で求めた時間を使って、鉛直方向の運動を鉛直投げ上げとして考え、Qに到達する(鉛直変位が0になる)条件から初速度を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
電場の向きと電位の高低関係、そして一様な電場における電位差の公式 \(V=Ed\) を正しく使えるかが問われます。電場は「電位の坂」を下る向きに生じることを理解していれば、電位の高い点はすぐに判断できます。電位差を計算する際の距離 \(d\) は、電場の向きに沿って測った距離であることに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 電場と電位の関係: 電場は、電位が高い方から低い方へ向かって生じます。
- 電位差の計算: 一様な電場 \(E\) において、電場の向きに沿った距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差 \(V\) は \(V=Ed\) で与えられます。
- 幾何学的関係: 点Pと点Rの電位差を考える際、重要なのは電場方向の距離、すなわち水平距離です。図から、P-R間の水平距離は \(l\cos\theta\) となります。
具体的な解説と立式
電場は水平右向きに生じているため、電位は左側(面A側)が高く、右側(面B側)が低くなります。点Pは点Rよりも左側にあります。より正確には、点Pと点Rの電位差は、PとQの電位差に等しくなります(RとQは同じ鉛直面上にあるため、等電位面上にある)。点Pは面A上に、点Qは面B上にあるため、点Pの方が電位が高いです。
次に、電位差 \(V\) を求めます。求める電位差は、点Pと点Rの電位差ですが、これは点Pと点Qの電位差に等しいです。
点Pと点Qの、電場の向きに沿った距離(水平距離) \(d\) は、図より、
$$ d = l\cos\theta \quad \cdots ① $$
一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を用いて、電位差 \(V\) は、
$$ V = E \cdot d \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
②式に①式を代入して \(V\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= E \cdot (l\cos\theta) \\[2.0ex]
&= El\cos\theta
\end{aligned}
$$
電場は「電気的な坂道」のようなもので、必ず高い方から低い方へ向かいます。この問題では電場が右向きなので、電気的な坂は左が高く右が低いことになります。P点とR点を比べると、P点の方が左側にあるので、P点の方が電位が高いです。電位差(坂の高さの差)は、「坂の傾き(電場の強さ \(E\))」に「坂の向きに沿って進んだ距離(水平距離 \(d\))」を掛けることで計算できます。
電位が高いのは点Pで、その電位差は \(El\cos\theta\) です。この結果は、電場の定義と公式に沿ったものであり、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
静電気力がする仕事 \(W\) を計算する問題です。仕事の定義式 \(W = Fx\cos\phi\) を用いて直接計算する方法が模範解答のアプローチです。ここで \(F\) は静電気力の大きさ、\(x\) は移動距離、\(\phi\) は力と移動の向きのなす角です。
この設問における重要なポイント
- 静電気力: 正電荷 \(q\) が電場 \(E\) から受ける静電気力 \(F\) の大きさは \(F=qE\) で、向きは電場の向きと同じ(右向き)です。
- 仕事の計算: 荷電粒子MはQ→Pへ、つまり右から左へ移動します。移動の向きは左向き、静電気力は右向きなので、力と移動の向きのなす角は \(180^\circ\) です。
具体的な解説と立式
荷電粒子Mが受ける静電気力の大きさ \(F\) は、
$$ F = qE \quad \cdots ① $$
この力の向きは、電場と同じく水平右向きです。
Mを点Qから点Pへ移すとき、移動距離は \(l\cos\theta\) で、移動の向きは水平左向きです。
静電気力 \(\vec{F}\) の向き(右向き)と移動の向き(左向き)のなす角は \(180^\circ\) です。
仕事の定義式 \(W = (\text{力の大きさ}) \times (\text{距離}) \times \cos(\text{なす角})\) より、静電気力がする仕事 \(W_{\text{QP}}\) は、
$$ W_{\text{QP}} = F \cdot (l\cos\theta) \cdot \cos(180^\circ) \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F=qE\)
- 仕事の定義: \(W = Fx\cos\phi\)
②式に①式の \(F=qE\) と \(\cos(180^\circ)=-1\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{QP}} &= (qE) \cdot (l\cos\theta) \cdot (-1) \\[2.0ex]
&= -qEl\cos\theta
\end{aligned}
$$
荷電粒子をQからPへ動かすとき、電気の力がする仕事を計算します。電気の力は右向きに粒子を引っ張っていますが、粒子はそれに逆らって左向きに動きます。このように、力の向きと反対に物体が動くとき、その力がする仕事はマイナスになります。仕事の大きさは「力の大きさ」×「移動距離」で計算します。
仕事 \(W_{\text{QP}}\) は \(-qEl\cos\theta\) となり、負の値です。これは、静電気力(右向き)に逆らって移動(左向き)させているため、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
問(2)と同様に、静電気力がする仕事を計算します。今回はR→Pという斜めの経路ですが、静電気力は保存力なので、仕事は経路に依らず、始点と終点の電位差のみで決まります。この性質を知っていれば、R→Pの仕事はQ→Pの仕事と等しくなると即座に分かります。ここでは、模範解答に従い、仕事の定義から計算してみます。
この設問における重要なポイント
- 仕事の定義の適用: 力 \(\vec{F}\) と変位 \(\vec{l}\) のなす角が \(\phi\) のとき、仕事は \(W = |\vec{F}| |\vec{l}| \cos\phi\) です。
- ベクトルの成分: 仕事を計算するもう一つの方法は、力を変位の方向の成分に分解することです。静電気力 \(\vec{F}\)(水平右向き)の、変位PRの方向の成分は \(F\cos\theta\) です。ただし、この成分の向きはP→Rの向きです。
- 力と変位の向き: 実際の移動はR→Pなので、力のPR方向成分とは逆向きです。したがって、なす角は \(180^\circ\) となります。
具体的な解説と立式
荷電粒子Mが受ける静電気力 \(\vec{F}\) は、大きさ \(qE\) で水平右向きです。
Mを点Rから点Pへ移すとき、移動経路はR→Pで、距離は \(l\) です。
模範解答で採用されている、力を移動方向に射影する方法で考えます。
静電気力 \(F\) のPR方向の成分の大きさは \(F\cos\theta\) です。この成分の向きはP→Rの向きです。
粒子はR→Pへ、距離 \(l\) だけ移動します。これは力の成分の向きと逆向きなので、なす角は \(180^\circ\) です。
したがって、仕事 \(W_{\text{RP}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{RP}} &= (F\cos\theta) \cdot l \cdot \cos(180^\circ) \\[2.0ex]
&= (qE\cos\theta) \cdot l \cdot (-1) \\[2.0ex]
&= -qEl\cos\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx\cos\phi\)
上記立式で計算は完了しています。
$$ W_{\text{RP}} = -qEl\cos\theta $$
今度はRからPへ、斜めに粒子を動かします。このときも、右向きに働く電気の力に逆らって左方向へ動いている成分があります。電気の力がする仕事は、実は移動経路がまっすぐでも斜めでも関係なく、結局「横方向にどれだけ動いたか」だけで決まります。R→Pの移動は、横方向にはQ→Pと同じだけ動いているので、仕事の量も(2)と全く同じになります。
仕事 \(W_{\text{RP}}\) は \(-qEl\cos\theta\) となり、(2)の \(W_{\text{QP}}\) と完全に一致しました。これは静電気力が保存力であり、その仕事が経路に依らないことを示しています。物理的に非常に重要な性質の現れです。
思考の道筋とポイント
静電気力がする仕事は、荷電粒子の電気量 \(q\) と、始点と終点の電位差 \(V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) の積で与えられます(\(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\))。(1)でP点とQ点(R点)の電位差を既に求めているので、これを利用すれば一瞬で仕事が計算できます。
この設問における重要なポイント
- 仕事と電位差の関係: 始点Aから終点Bへ電荷 \(q\) を運ぶときに静電気力がする仕事は \(W_{\text{AB}} = q(V_{\text{A}} – V_{\text{B}})\) で与えられます。
- 電位差の符号: (1)で求めた \(V=El\cos\theta\) は電位差の「大きさ」です。\(V_{\text{P}} > V_{\text{Q}}\) なので、\(V_{\text{P}} – V_{\text{Q}} = El\cos\theta\) であり、\(V_{\text{Q}} – V_{\text{P}} = -El\cos\theta\) となります。
具体的な解説と立式
問(2) \(W_{\text{QP}}\) の計算
始点がQ、終点がPなので、仕事 \(W_{\text{QP}}\) は、
$$ W_{\text{QP}} = q(V_{\text{Q}} – V_{\text{P}}) \quad \cdots ① $$
(1)より、\(V_{\text{P}} – V_{\text{Q}} = El\cos\theta\) なので、\(V_{\text{Q}} – V_{\text{P}} = -(V_{\text{P}} – V_{\text{Q}}) = -El\cos\theta\) です。これを①に代入します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{QP}} &= q(-El\cos\theta) \\[2.0ex]
&= -qEl\cos\theta
\end{aligned}
$$
問(3) \(W_{\text{RP}}\) の計算
始点がR、終点がPです。点Rと点Qは等電位なので \(V_{\text{R}} = V_{\text{Q}}\) です。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{RP}} &= q(V_{\text{R}} – V_{\text{P}}) \\[2.0ex]
&= q(V_{\text{Q}} – V_{\text{P}})
\end{aligned}
$$
これは問(2)と全く同じ式なので、結果も同じになります。
$$ W_{\text{RP}} = -qEl\cos\theta $$
電気の力がする仕事は、「電気量」×「移動前後の電気的な高さの差」という簡単な式でも計算できます。(1)でP点とQ点(R点)の「高さの差」は計算済みです。Q(R)からPへは「低い場所」から「高い場所」へ移動するので、高さの差はマイナスになります。これに電気量を掛けるだけで、すぐに仕事が求まります。
仕事の定義から計算した主たる解法と、電位差を用いて計算した別解が完全に一致しました。これにより、両方のアプローチの正しさが確認できます。
問(4)
思考の道筋とポイント
P点で静かにはなされた荷電粒子は、水平方向には静電気力 \(F=qE\) を受けて等加速度運動をします。鉛直方向には重力のみが働きますが、この設問では水平方向の運動(面Bへの到達)のみが問われているため、鉛直方向の運動は無視して考えます。
この設問における重要なポイント
- 運動の分離: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は独立しています。
- 水平方向の運動: 初速度0、一定の力 \(F=qE\) を受ける等加速度直線運動です。
- 運動方程式と運動学の公式: 運動方程式 \(ma=F\) から加速度 \(a\) を求め、等加速度運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を使って時間 \(t\) を求めます。
具体的な解説と立式
荷電粒子Mにはたらく水平方向の力は、静電気力 \(F=qE\) のみです。
水平方向の運動方程式を立て、加速度 \(a\) を求めます。
$$ ma = qE \quad \cdots ① $$
よって、
$$ a = \frac{qE}{m} \quad \cdots ② $$
粒子は点Pから面Bまで、水平方向に距離 \(l\cos\theta\) を移動します。
初速度は0なので、等加速度直線運動の変位の式 \(x = \frac{1}{2}at^2\) を用いて、
$$ l\cos\theta = \frac{1}{2}at^2 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 等加速度直線運動の公式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
③式に②式の \(a\) を代入し、\(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
l\cos\theta &= \frac{1}{2} \left(\frac{qE}{m}\right) t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{2ml\cos\theta}{qE}
\end{aligned}
$$
\(t>0\) なので、
$$ t = \sqrt{\frac{2ml\cos\theta}{qE}} $$
P点に置いた粒子は、電気の力で右向きに引っ張られて加速していきます。これは、坂道をボールが転がり落ちるのと同じ「等加速度運動」です。まず、運動方程式(ニュートンの第二法則)から加速度を計算します。次に、P点から面Bまでの距離を、この加速度で進むのにかかる時間を、運動学の公式を使って計算します。
時間は \(\sqrt{\frac{2ml\cos\theta}{qE}}\) となります。質量 \(m\) が大きいほど、また電気量 \(q\) や電場 \(E\) が小さいほど、時間がかかるという結果は、物理的な直感と一致しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
この運動は、水平方向には(4)と同じ等加速度運動、鉛直方向には初速度 \(v_0\) の鉛直投げ上げ運動を組み合わせた「放物運動」のような運動になります。粒子が点Qに到達するということは、(4)で求めた時間 \(t\) が経過したときに、ちょうど鉛直方向の変位が0になっていればよい、と考えます。
この設問における重要なポイント
- 運動の合成: 水平方向の運動と鉛直方向の運動を、同じ時間 \(t\) で結びつけて考えます。
- 鉛直方向の運動: 初速度 \(v_0\) で上向き、重力加速度 \(g\) が下向きにはたらく鉛直投げ上げ運動です。
- 到達条件: 時間 \(t\) 後の鉛直方向の変位 \(y\) が0になることが、点Qに到達するための条件です。
具体的な解説と立式
粒子がPからQに到達するまでの時間は、水平距離 \(l\cos\theta\) を移動する時間なので、(4)で求めた \(t\) と同じです。
$$ t = \sqrt{\frac{2ml\cos\theta}{qE}} \quad \cdots ① $$
この時間 \(t\) の間に、鉛直方向の運動を考えます。初速度 \(v_0\) の鉛直投げ上げなので、時間 \(t\) 後の鉛直変位 \(y\) は、
$$ y = v_0 t – \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ② $$
点Qに到達するとき、鉛直変位は \(y=0\) となります。
$$ 0 = v_0 t – \frac{1}{2}gt^2 $$
\(t>0\) なので、両辺を \(t\) で割ることができます。
$$ v_0 – \frac{1}{2}gt = 0 $$
よって、
$$ v_0 = \frac{1}{2}gt \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げの公式: \(y = v_0 t – \frac{1}{2}gt^2\)
③式に①式の \(t\) を代入して \(v_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \frac{g}{2} \sqrt{\frac{2ml\cos\theta}{qE}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{1}{4} \cdot \frac{2ml\cos\theta}{qE}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{ml\cos\theta}{2qE}}
\end{aligned}
$$
P点から真上に投げ上げた粒子が、電気の力で右に流されながら、ちょうどQ点に落ちてくるための初速度を求める問題です。まず、粒子がPからQの真横まで移動するのにかかる時間は(4)で計算済みです。この時間と全く同じ時間で、投げ上げた粒子が元の高さに戻ってくればOKです。鉛直投げ上げ運動で、ある時間後に元の高さに戻るための初速度を、運動学の公式を使って計算します。
初速度 \(v_0\) は \(g \sqrt{\frac{ml\cos\theta}{2qE}}\) となります。重力 \(g\) が大きいほど、また水平方向の移動に時間がかかる(\(m\) が大きい、\(qE\) が小さい)ほど、高く打ち上げる必要があり、\(v_0\) が大きくなるという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性(運動の分離):
- 核心: 荷電粒子にはたらく力が、水平方向(静電気力)と鉛直方向(重力)で互いに直交し、独立しています。このため、全体の運動を「水平方向の等加速度運動」と「鉛直方向の投げ上げ運動」という2つの単純な運動の組み合わせとして分析できます。
- 理解のポイント: この考え方は、斜方投射を水平方向の等速直線運動と鉛直方向の鉛直投げ上げに分けて考えるのと全く同じです。複雑な運動も、直交する成分に分解すれば、それぞれを個別に扱うことができる、という力学の非常に強力な原則です。
- 仕事とエネルギーの関係:
- 核心: 静電気力がする仕事は、仕事の定義式 \(W=Fx\cos\phi\) からも、電位差を用いた関係式 \(W=q(V_{\text{始}}-V_{\text{終}})\) からも求めることができます。
- 理解のポイント: 特に、静電気力は「保存力」であるため、その仕事は移動経路に依らず、始点と終点の位置(電位差)だけで決まるという性質が重要です。(2)のQ→Pの仕事と(3)のR→Pの仕事が同じ値になるのは、この性質の現れです。このことを理解していれば、(3)は計算するまでもなく(2)と同じ答えになると分かります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射と一様電場: 荷電粒子を斜めに打ち出す問題。重力と静電気力が同じ向き(または逆向き)に働く場合、見かけの重力加速度が変わっただけの斜方投射として扱えます。
- 磁場中での荷電粒子の運動(ローレンツ力): 電場に加えて磁場もかかっている場合。荷電粒子は速度に垂直な向きにローレンツ力を受け、円運動やらせん運動をします。
- コンデンサー内の電子の運動: 極板間の電場は一様とみなせるため、この問題と考え方は同じです。電子(負電荷)なので、力の向きが電場と逆になる点に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の方向を分析する: まず、物体にはたらく力(この問題では静電気力と重力)を全て図示します。それらの力がどの方向を向いているかを確認します。
- 運動を分解できないか検討する: 力が互いに直交する成分に分けられる場合、「運動の分離」が使えないか考えます。これが最も強力な解法になることが多いです。
- エネルギー保存則が使えるか検討する: 始点と終点の状態だけが問われている場合(特に、速さを問う問題)、エネルギー保存則が有効なことが多いです。ただし、この問題の(5)のように、複数の力が異なる方向に働く場合は、運動学の公式の方が簡潔な場合もあるため、両方のアプローチを念頭に置くことが重要です。
- 「仕事」が問われたら、2つのルートを考える: 仕事を問われたら、①仕事の定義 \(W=Fx\cos\phi\) で計算するルートと、②電位差 \(W=qV\) で計算するルートの2つを常に思い浮かべましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電位差を計算するときの距離 \(d\) の取り方:
- 誤解: \(V=Ed\) の公式を使う際に、2点間の直線距離をそのまま \(d\) としてしまう。例えば、P-R間の電位差を \(El\) と計算してしまう。
- 対策: 公式 \(V=Ed\) の \(d\) は、必ず「電場の向きに沿った距離」であることを徹底しましょう。電場に垂直な方向(この問題では鉛直方向)に移動しても電位は変化しません。したがって、P-R間の電位差は、P-Q間の電位差と同じになります。
- 仕事の符号の間違い:
- 誤解: 静電気力がする仕事の正負を間違える。
- 対策: 力の向きと移動の向きを常に図示して確認しましょう。同じ向きなら仕事は正、逆向きなら負、直角ならゼロです。また、「電位」で考える方法も有効です。正電荷が電位の高い方へ移動するとき、力に逆らうので仕事は負。電位の低い方へ移動するとき、力と同じ向きなので仕事は正、と覚えましょう。
- 水平運動と鉛直運動の混同:
- 誤解: (4)で水平方向の運動を考えるべきなのに、重力の影響を入れてしまったり、(5)で鉛直方向の運動を考えるべきなのに、静電気力の影響を入れてしまったりする。
- 対策: 「水平方向の運動方程式」「鉛直方向の運動方程式」と、はっきりと分けて式を立てる習慣をつけましょう。そして、両者を結びつけるのは時間 \(t\) のみである、と意識することが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 等電位線をイメージする: 電場が水平右向きなので、等電位線(面)はそれに垂直な鉛直面になります。面Aや面Bが等電位面です。点Qと点Rは同じ鉛直線上にあるので、同じ等電位面上にあり、\(V_{\text{Q}}=V_{\text{R}}\) であることが視覚的に理解できます。このイメージがあれば、(3)の仕事が(2)と同じになる理由も直感的にわかります。
- 運動の軌跡を図示する: (5)の運動は、P点から鉛直上向きに打ち上げられ、右向きの静電気力によって軌道が曲げられ、ちょうどQ点に着地する放物線に似た軌道を描きます。この軌跡をイメージすることで、「水平方向には \(l\cos\theta\) 進み」「鉛直方向には元の高さに戻ってくる」という2つの条件を、時間 \(t\) で結びつければよい、という解法の道筋が見えやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=Ed\) (一様な電場と電位差):
- 選定理由: 問題文に「一様な電場」と明記されており、電位差を求める必要があるため、この公式が最も直接的です。
- 適用根拠: 電場の定義 \(E = – \frac{dV}{dx}\) を、電場が一定の条件で積分した結果がこの式です。一様な電場という特殊な状況下で成り立つ、非常に便利な関係式です。
- 運動方程式 \(ma=F\) と運動学の公式:
- 選定理由: 粒子が「力を受けて運動する」という、まさに力学の根幹をなす現象だからです。特に、力が一定(静電気力も重力も一定)であるため、加速度も一定となり、等加速度運動の公式が全面的に適用できます。
- 適用根拠: 運動の第2法則は、力の効果(加速度)を記述する基本法則です。等加速度運動の公式は、この法則を積分して得られる、時間、変位、速度の関係式であり、加速度が一定の運動を解析するための標準的なツールです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電位差の計算:
- 戦略: 電場の向きから電位の高低を判断し、公式 \(V=Ed\) を適用する。
- フロー: ①電場は左から右へ向かうので、Pの方がRより電位が高いと判断 → ②PとRの電場方向の距離 \(d=l\cos\theta\) を求める → ③\(V=Ed\) に代入して電位差を計算。
- (2), (3) 仕事の計算:
- 戦略: 仕事の定義式 \(W=Fx\cos\phi\) を使うか、電位差の関係式 \(W=qV\) を使う。
- フロー(定義式): ①静電気力 \(F=qE\) を計算 → ②移動経路と力の向きのなす角 \(\phi\) を特定 → ③\(W=F \cdot (\text{距離}) \cdot \cos\phi\) に代入。
- フロー(電位差): ①始点と終点の電位差 \(V_{\text{始}}-V_{\text{終}}\) を(1)の結果から求める → ②\(W=q(V_{\text{始}}-V_{\text{終}})\) に代入。
- (4), (5) 運動の解析:
- 戦略: 運動を水平と鉛直に分離し、それぞれを等加速度運動として扱う。時間 \(t\) を共通のパラメータとして両者を結びつける。
- フロー: ①【水平】運動方程式から加速度 \(a\) を求める → ②【水平】変位の公式から面Bまでの時間 \(t\) を計算((4)の答え) → ③【鉛直】鉛直投げ上げの変位の式を立てる → ④【鉛直】時間 \(t\) のときに変位 \(y=0\) となる条件から、初速度 \(v_0\) を計算((5)の答え)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 平方根の計算: (5)の計算で、\(v_0 = \frac{g}{2} \sqrt{\dots}\) のように、ルートの外にある係数を中に入れる際は、2乗して入れる(\(\frac{g}{2} = \sqrt{\frac{g^2}{4}}\))ことを忘れないようにしましょう。これにより、ルートの中身を正しく約分できます。
- 文字の代入は最後に: (5)の計算では、まず \(v_0 = \frac{1}{2}gt\) という関係式を導き、最後に(4)で求めた \(t\) の具体的な式を代入しています。このように、計算の最終段階まで記号のまま計算を進めることで、途中の式が簡潔になり、見通しが良くなってミスが減ります。
- 単位や次元の確認: 例えば、(5)で求めた \(v_0\) の次元が速度の次元 ([L][T]\(^{-1}\)) になっているかを確認する(次元解析)のも有効な検算方法です。\(g\sqrt{ml/qE}\) の次元を考えると、\(g\)が[L][T]\(^{-2}\)、\(qE\)が力[M][L][T]\(^{-2}\)、\(m\)が[M]、\(l\)が[L]なので、\(\sqrt{ml/qE}\) は \(\sqrt{[M][L]/([M][L][T]^{-2})} = \sqrt{[T]^2} = [T]\) となり、\(g\sqrt{ml/qE}\) の次元は [L][T]\(^{-2}\) \(\times\) [T] = [L][T]\(^{-1}\) となり、速度の次元と一致します。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (4) 時間 \(t\): もし電場 \(E\) や電荷 \(q\) が非常に大きければ、水平方向の力が強くなるので、面Bに到達する時間 \(t\) は短くなるはずです。式の形 \(t = \sqrt{\frac{2ml\cos\theta}{qE}}\) は、分母に \(qE\) があるため、この直感と一致しています。
- (5) 初速度 \(v_0\): もし重力 \(g\) がなければ、鉛直方向に力を受けないので、初速度は \(v_0=0\) でよいはずです。式の形 \(v_0 = g \sqrt{\dots}\) は、\(g=0\) のとき \(v_0=0\) となり、この直感と一致しています。逆に、もし電場 \(E\) が非常に強ければ、水平方向の移動時間が非常に短くなるため、その短い時間で元の高さに戻るには、非常に大きな初速度 \(v_0\) が必要になるはずです。式の分母に \(\sqrt{E}\) があるため、この直感とも一致します。
- 別解との比較:
- (2), (3)の仕事は、「仕事の定義」と「電位差」という2つの異なるアプローチで計算でき、結果が一致しました。これにより、仕事と電位の関係 (\(W=qV\)) の理解が深まり、計算の正しさも確認できます。
372 帯電した棒がつくる電場
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、無限に長い直線状の電荷分布が作る電場について、ガウスの法則を用いて考察するものです。ガウスの法則の概念と、それを利用して対称性の良い電荷分布が作る電場を計算する能力が問われます。
- 対象: 真空中で十分に長くて細い棒
- 線電荷密度: \(\rho\) [C/m] (正電荷が均等に帯電)
- クーロンの法則の比例定数: \(k_0\) [N·m²/C²]
- 思考の道具: 棒を中心軸とする半径 \(r\)、長さ \(L\) の閉円筒(ガウス面)
- (ア) 円筒の側面を貫く電気力線の本数
- (イ) 棒から距離 \(r\) の位置での電場の強さ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(イ), (ア)の別解: ガウスの法則と電場の定義から直接立式する解法
- 模範解答が「(ア) 電気力線の本数 → (イ) 電場の強さ」の順で求めるのに対し、別解ではガウスの法則と電場の定義を連立させて「(イ) 電場の強さ」を直接導出し、その結果から「(ア) 電気力線の本数」を計算します。
- 設問(イ), (ア)の別解: ガウスの法則と電場の定義から直接立式する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「電気力線の本数」という共通の物理量を介して、ガウスの法則と電場の定義がどのように結びつくかを明確に理解できます。
- 異なるアプローチの学習: 物理法則を個別に適用するだけでなく、複数の法則を連立方程式として捉え、代数的に解を導くという問題解決アプローチを学ぶことができます。
- 概念の対応関係の理解: 「電気力線の総本数」と「電場の強さ×面積」が等しいという関係は、大学で学ぶ電束の概念そのものであり、将来の学習へのスムーズな移行を助けます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の順序や用いる数学的表現が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ガウスの法則を用いた、対称性の良い電荷分布が作る電場の計算」です。問題の誘導に従い、ガウスの法則を段階的に適用していきます。
- ガウスの法則: 閉曲面を貫く電気力線の総本数 \(N\) は、その内部にある総電気量 \(Q\) のみによって決まり、\(N = 4\pi k_0 Q\) と表されます。
- 電気力線の性質と対称性: 「十分に長い棒」という条件から、電気力線は棒に垂直な方向に、放射状に広がると考えられます。これにより、考えるべき面を円筒の側面に限定できます。
- 電場の定義: 電場の強さ \(E\) は、その場所での電気力線の密度、すなわち「単位面積あたりを垂直に貫く電気力線の本数」として定義されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、まずガウスの法則を適用するために、考えようとしている円筒の内部に含まれる総電気量 \(Q\) を計算します。そして、ガウスの法則の公式に代入して、円筒側面を貫く電気力線の本数を求めます。
- (イ)では、電場の強さが電気力線の密度であることを利用します。(ア)で求めた電気力線の本数を、円筒の側面積で割ることで、電場の強さを計算します。
問(ア)
思考の道筋とポイント
ガウスの法則 \(N = 4\pi k_0 Q\) を使って、円筒面を貫く電気力線の本数 \(N\) を求めます。この法則を適用するためには、まず円筒の内部に含まれる総電気量 \(Q\) を求める必要があります。線電荷密度 \(\rho\) の意味を正しく理解することが鍵です。
この設問における重要なポイント
- 内部電荷の計算: 線電荷密度は「1mあたりの電気量」です。したがって、長さ \(L\) の部分に含まれる総電気量 \(Q\) は、\(Q = \rho \times L\) となります。
- ガウスの法則の適用: 上で求めた \(Q\) を、ガウスの法則の公式 \(N = 4\pi k_0 Q\) に代入します。
- 対称性からの考察: 棒は十分に長く、一様に帯電しているため、電気力線は棒に垂直な方向にのみ、放射状に広がります。したがって、円筒の上面と下面(蓋の部分)を貫く電気力線は0本と考えることができます。よって、ガウス面である円筒全体を貫く電気力線の本数は、すべて側面を貫くことになります。
具体的な解説と立式
ガウスの法則を適用するために、まず、長さ \(L\)、半径 \(r\) の円筒の内部に含まれる総電気量 \(Q\) を求めます。
棒の線電荷密度は \(\rho\) [C/m] なので、長さ \(L\) [m] の部分が持つ電気量 \(Q\) は、
$$ Q = \rho L \quad \cdots ① $$
ガウスの法則によれば、電荷 \(Q\) から出る電気力線の総本数 \(N\) は、
$$ N = 4\pi k_0 Q \quad \cdots ② $$
対称性から、これらの電気力線はすべて円筒の側面を垂直に貫きます。したがって、側面を貫く電気力線の本数はこの \(N\) に等しくなります。
使用した物理公式
- ガウスの法則: \(N = 4\pi k_0 Q\)
②式に①式を代入して、側面を貫く電気力線の本数 \(N\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
N &= 4\pi k_0 (\rho L) \\[2.0ex]
&= 4\pi k_0 \rho L
\end{aligned}
$$
ガウスの法則は、「ある領域をすっぽり覆う架空の箱(この問題では円筒)を考えたとき、箱の表面から湧き出てくる電気力線の総本数は、箱の中に入っている電気の量だけで決まる」という便利なルールです。まず、円筒の中に入っている電気の量を計算します。これは「1mあたりの電気量 \(\rho\)」に「円筒の長さ \(L\)」を掛けるだけです。次に、その電気量をガウスの法則の公式に当てはめれば、電気力線の本数が求まります。
円筒の側面を貫く電気力線の本数は \(4\pi k_0 \rho L\) 本です。電気力線の本数は、内部の電気量 \(\rho L\) に比例するという、ガウスの法則の基本的な関係を示しています。
問(イ)
思考の道筋とポイント
電場の強さ \(E\) は、「単位面積あたりを垂直に貫く電気力線の本数」として定義されます。つまり、電気力線の「密度」が電場の強さを表します。(ア)で求めた電気力線の総本数を、その電気力線が貫いている面の面積(円筒の側面積)で割ることで、電場の強さを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 電場の定義: 電場の強さ \(E\) は、電気力線の面密度に等しい。\(E = \displaystyle\frac{N}{S}\)
- 側面積の計算: 半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒の側面積 \(S\) は、展開すると縦 \(L\)、横 \(2\pi r\) の長方形になるため、\(S = 2\pi r L\) となります。
具体的な解説と立式
電場の強さ \(E\) は、単位面積を垂直に貫く電気力線の本数で定義されます。
棒からの距離が \(r\) の点、すなわち円筒の側面における電場の強さ \(E\) は、(ア)で求めた側面を貫く電気力線の本数 \(N\) を、側面の面積 \(S\) で割ることで求められます。
$$ E = \frac{N}{S} \quad \cdots ① $$
円筒の側面積 \(S\) は、
$$ S = 2\pi r L \quad \cdots ② $$
(ア)で求めた電気力線の本数は、
$$ N = 4\pi k_0 \rho L \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電場の定義(電気力線密度): \(E = \displaystyle\frac{N}{S}\)
①式に②式と③式を代入して、電場の強さ \(E\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{4\pi k_0 \rho L}{2\pi r L} \\[2.0ex]
&= \frac{2k_0 \rho}{r}
\end{aligned}
$$
電場の強さは、電気力線がどれくらい混み合っているか、という「密度」で表されます。(ア)で、円筒の側面全体を貫く電気力線の総本数を計算しました。この総本数を、側面全体の面積で割ってあげることで、「1平方メートルあたりの電気力線の本数」がわかります。これが、そのまま電場の強さになります。
棒から距離 \(r\) の位置での電場の強さは \(\displaystyle\frac{2k_0 \rho}{r}\) です。この結果は、電場の強さが距離 \(r\) に反比例することを示しています。点電荷の電場が \(r^2\) に反比例するのとは異なる、重要な結果です。
思考の道筋とポイント
ガウスの法則と電場の定義を、それぞれ独立した式として立て、それらを連立させて解くアプローチです。模範解答が「電気力線の本数を求めてから、それを面積で割る」という段階的な思考なのに対し、この別解では物理法則を最初から等式で結びつけ、代数的に解を導きます。
この設問における重要なポイント
- 2つの基本法則の立式:
- ガウスの法則: 閉曲面を貫く電気力線の総本数 \(N\) は、内部電荷 \(Q\) を用いて \(N = 4\pi k_0 Q\) と表される。
- 電場の定義: 電場の強さ \(E\) は、単位面積あたりの電気力線の本数なので、面積 \(S\) の面を貫く電気力線の本数 \(N\) との関係は \(E = \frac{N}{S}\)、すなわち \(N = ES\) と表される。
- 物理量の結合: 上記2つの式は、どちらも同じ物理量「電気力線の本数 \(N\)」を表しています。したがって、これらを等しいとおくことで、電場の強さ \(E\) を直接求める方程式を立てることができます。
具体的な解説と立式
まず(イ)の電場の強さ \(E\) を求めます。
棒から距離 \(r\) の円筒側面を貫く電気力線の本数を \(N\) とします。
電場の強さの定義より、電場の強さ \(E\) と電気力線の本数 \(N\)、側面積 \(S=2\pi rL\) の間には次の関係が成り立ちます。
$$ N = E \cdot S = E \cdot (2\pi r L) \quad \cdots ① $$
一方、ガウスの法則より、この電気力線の本数 \(N\) は、円筒内部の総電気量 \(Q = \rho L\) を用いて、次のように表すこともできます。
$$ N = 4\pi k_0 Q = 4\pi k_0 (\rho L) \quad \cdots ② $$
①式と②式は、どちらも同じ電気力線の本数 \(N\) を表しているので、等しいとおくことができます。
$$ E \cdot (2\pi r L) = 4\pi k_0 \rho L \quad \cdots ③ $$
この方程式を解くことで、(イ)の電場の強さ \(E\) が直接求まります。
次に、(ア)の電気力線の本数 \(N\) を求めます。
これは②式そのものです。
使用した物理公式
- 電場の定義(電気力線密度): \(N = ES\)
- ガウスの法則: \(N = 4\pi k_0 Q\)
まず、③式を \(E\) について解き、(イ)を求めます。
$$
\begin{aligned}
E \cdot (2\pi r L) &= 4\pi k_0 \rho L \\[2.0ex]
E &= \frac{4\pi k_0 \rho L}{2\pi r L} \\[2.0ex]
&= \frac{2k_0 \rho}{r}
\end{aligned}
$$
これが(イ)の答えです。
次に、(ア)の電気力線の本数 \(N\) を求めます。②式から直接計算できます。
$$
\begin{aligned}
N &= 4\pi k_0 (\rho L) \\[2.0ex]
&= 4\pi k_0 \rho L
\end{aligned}
$$
これが(ア)の答えです。
この問題には2つの重要なルールがあります。ルール1は「電気力線の本数 = 電場の強さ × 面積」、ルール2は「電気力線の本数 = 4πk₀ × 中の電気量」です。どちらの式も「電気力線の本数」を計算するためのものなので、この2つの式の右辺は等しいはずです。この等式「電場の強さ × 面積 = 4πk₀ × 中の電気量」を立てることで、(イ)の電場の強さを直接計算できます。(ア)の電気力線の本数は、ルール2の式を使えばすぐに計算できます。
主たる解法とは逆の順序で(イ)→(ア)と求めましたが、得られた答えは完全に一致しました。物理法則を最初から等式で結びつけて解くこの方法は、より代数的で汎用性の高いアプローチと言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ガウスの法則 (\(N = 4\pi k_0 Q\)):
- 核心: この問題の根幹をなす法則です。「任意の閉じた曲面(ガウス面)を貫く電気力線の正味の本数は、その曲面内部にある電気量の総和 \(Q\) に比例する」という、電場の基本的な性質を表します。
- 理解のポイント: この法則の強力な点は、内部の電荷の配置や、外部にどんな電荷があろうとも、内部の総電荷だけで電気力線の総本数が決まるという点です。複雑な電荷分布でも、対称性の良いガウス面を適切に設定することで、電場の計算が劇的に簡単になります。
- 電場の強さと電気力線密度の関係 (\(E = N/S\)):
- 核心: 電場の強さ \(E\) は、物理的には「その場所での電気力線の混み具合(面密度)」として定義されます。
- 理解のポイント: ガウスの法則が電気力線の「総本数」を与えるのに対し、この関係式は「密度」と「強さ」を結びつけます。ガウスの法則とこの定義を組み合わせること(別解のアプローチ \(ES = 4\pi k_0 Q\))が、電場を求める際の定石となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 球対称な電荷分布: 中身の詰まった球や、球殻状に電荷が分布している場合。ガウス面として、同心球を考えることで、球の外側や内側の電場を計算できます。
- 無限に広い板状の電荷分布: 無限に広い平面に電荷が一様に分布している場合。ガウス面として、板を貫く円柱や角柱を考えることで、場所によらない一様な電場が作られることを導けます。
- 導体球や導体殻: 導体内部の電場がゼロであるという性質とガウスの法則を組み合わせることで、導体表面の電荷分布などを解析する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷分布の対称性を見抜く: ガウスの法則が有効なのは、電荷分布に対称性がある場合です。問題文から「無限に長い(円筒対称)」「球状(球対称)」「無限に広い(平面対称)」といったキーワードを読み取り、どのような対称性があるかをまず把握します。
- 適切なガウス面を設定する: 見抜いた対称性に合わせて、ガウス面を選びます。円筒対称なら「円筒」、球対称なら「球面」が基本です。ガウス面上で電場の強さが一定になり、かつ電場ベクトルが面に垂直(または平行)になるように設定するのがコツです。
- ガウス面の内部にある電荷を正確に計算する: 設定したガウス面の中に、どれだけの電気量が含まれているかを計算します。体積電荷密度、面電荷密度、線電荷密度など、与えられた密度に応じて正しく計算することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 内部電荷の計算ミス:
- 誤解: 線電荷密度 \(\rho\) [C/m] を、そのまま電気量 \(Q\) として使ってしまう。
- 対策: 密度の単位を常に意識しましょう。\(\rho\) は「1mあたり」の電気量なので、長さ \(L\) の部分の電気量は \(\rho \times L\) となります。体積密度なら体積を、面積密度なら面積を掛ける必要があります。
- 面積の計算ミス:
- 誤解: 円筒の側面積を、円の面積 \(\pi r^2\) や球の表面積 \(4\pi r^2\) と混同してしまう。
- 対策: 円筒の側面を展開すると、縦が \(L\)、横が円周 \(2\pi r\) の長方形になることをイメージしましょう。これにより、側面積は \(2\pi r L\) であることが確実にわかります。
- ガウスの法則の適用範囲の誤解:
- 誤解: ガウスの法則はどんな状況でも使える万能な法則だと考え、対称性のない電荷分布(例:有限の長さの棒)に対しても無理に適用しようとする。
- 対策: ガウスの法則自体は常に成り立ちますが、「電場の計算」に使えるのは、対称性によって \(E\) がガウス面上で一定とみなせる場合に限られる、と理解しましょう。対称性がない場合は、クーロンの法則を積分するなど、別の複雑な計算が必要になります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電気力線の放射状の広がり: 「十分に長い棒」から出る電気力線は、棒の上下方向の影響が打ち消しあうため、棒に垂直な方向に、まるでハリネズミの針のように放射状に広がっていく様子をイメージします。このイメージがあれば、円筒の上面と下面を貫く電気力線が0であり、側面だけを考えればよいことが直感的に理解できます。
- ガウス面としての円筒: 帯電した棒を芯にして、トイレットペーパーをかぶせるようなイメージで、ガウス面である円筒を想像します。芯(棒)から放射状に出た電気力線が、トイレットペーパーの側面を垂直に突き抜けていく様子を思い浮かべると、電場と側面が垂直であることや、側面上で電場の強さが一定であることが納得しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ガウスの法則 (\(N = 4\pi k_0 Q\)):
- 選定理由: 点電荷ではなく、「無限に長い棒」という連続的に分布した電荷が作る電場を求める問題だからです。このような対称性の良い電荷分布に対して、クーロンの法則を積分するよりもはるかに簡単に電場を求めることができる、最も強力なツールがガウスの法則です。
- 適用根拠: この法則は、クーロンの法則と等価な、電場に関する基本法則(マクスウェル方程式の一つ)です。電荷が存在すれば、そのまわりに必ずこの法則に従う電場が形成されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (ア) 電気力線の本数の計算:
- 戦略: ガウスの法則を適用する。
- フロー: ①ガウス面(円筒)内部の総電荷 \(Q\) を計算する (\(Q=\rho L\)) → ②ガウスの法則の公式 \(N=4\pi k_0 Q\) に代入する → ③対称性から、この \(N\) がすべて側面を貫く本数であると結論づける。
- (イ) 電場の強さの計算:
- 戦略: 電場の強さが電気力線の密度であることを利用する。
- フロー: ①(ア)で求めた本数 \(N\) を分子にする → ②電気力線が貫く面積、すなわち円筒の側面積 \(S=2\pi rL\) を計算し、分母にする → ③\(E = N/S\) を計算する。
- 別解のロジカルフロー:
- 戦略: 「電気力線の本数」を仲介として、2つの物理法則を等式で結び、直接電場を求める。
- フロー: ①電場の定義から \(N=ES\) を立式 → ②ガウスの法則から \(N=4\pi k_0 Q\) を立式 → ③両式を結合して \(ES = 4\pi k_0 Q\) という方程式を作る → ④この方程式を解いて \(E\) を求める((イ)の答え) → ⑤求めた \(E\) または \(Q\) を使って \(N\) を計算する((ア)の答え)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の約分を丁寧に行う: (イ)の計算 \(E = \frac{4\pi k_0 \rho L}{2\pi r L}\) では、多くの文字や定数が含まれます。数字(4と2)、定数(\(\pi\)、\(k_0\))、変数(\(\rho, L, r\))を一つずつ確認しながら、落ち着いて約分しましょう。特に、分母と分子の両方にある \(L\) や \(\pi\) を消し忘れないように注意が必要です。
- 最終的な式の形を意識する: (イ)の答え \(\displaystyle\frac{2k_0 \rho}{r}\) は、点電荷の電場 \(k_0 \frac{Q}{r^2}\) と形が似ていますが、距離への依存性が \(1/r\) と \(1/r^2\) で異なります。このような代表的な結果の形を覚えておくと、自分の計算結果が妥当かどうかを判断する一つの材料になります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (イ) 電場の強さ: 電場の強さが \(\displaystyle\frac{2k_0 \rho}{r}\) となり、距離 \(r\) に反比例するという結果。これは、電荷が線状に分布しているため、点電荷 (\(1/r^2\)) ほど急激には弱まらず、しかし距離が離れると弱まる、という直感に合致します。また、線電荷密度 \(\rho\) が大きいほど電場が強くなるという点も妥当です。
- 次元の確認: \(k_0\) の単位は [N·m²/C²]、\(\rho\) の単位は [C/m]、\(r\) の単位は [m] です。したがって、\(\frac{k_0 \rho}{r}\) の単位は \(\frac{[\text{N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2] \cdot [\text{C}/\text{m}]}{[\text{m}]} = [\text{N}/\text{C}]\) となり、これは電場の強さの単位と正しく一致します。
- 別解との比較:
- この問題では、「(ア)→(イ)」の順で解く方法と、「(イ)→(ア)」の順で解く別解がありました。異なる思考プロセスを経ても同じ結論に達したことは、ガウスの法則と電場の定義の関係性を正しく理解できていることの証拠となります。
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373 帯電した球体がつくる電場
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、球対称な電荷分布が作る電場を、ガウスの法則を用いて求める典型問題です。(1), (2)では「導体球」、(3)では「一様に帯電した絶縁体の球」と、異なる状況設定における電場の違いを理解することが重要です。
- クーロンの法則の比例定数: \(k\)
- 導体球A (図1)
- 半径: \(a\)
- 総電気量: \(Q\) (\(Q>0\))
- 球体B (図2)
- 半径: \(a\)
- 体積電荷密度: \(\rho\) [C/m³] (\(\rho>0\), 一定)
- (1) 導体球Aの内部 (\(r<a\)) の電場の強さ
- (2) 導体球Aの外部 (\(r>a\)) の電場の強さ
- (3) 球体Bの内部 (\(r \le a\)) の電場の強さ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ガウスの法則を用いた球対称な電場の計算」です。導体と絶縁体(一様帯電)での電荷分布の違いが、内部の電場にどう影響するかを理解することが核心です。
- 導体の性質: 静電状態にある導体の内部には電場が存在しません(電場は0)。導体に与えられた過剰な電荷は、すべて表面に分布します。
- ガウスの法則: 閉曲面を貫く電気力線の総本数 \(N\) は、内部の総電気量 \(Q_{\text{内部}}\) を用いて \(N = 4\pi k Q_{\text{内部}}\) と表されます。
- 電場の定義とガウスの法則の結合: 電場の強さ \(E\) は電気力線の密度 (\(E=N/S\)) なので、ガウスの法則と組み合わせると \(ES = 4\pi k Q_{\text{内部}}\) という、電場を計算するための強力な関係式が得られます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、導体の基本的な性質を思い出します。
- (2)では、導体球の外側に、中心O、半径\(r\)の球面(ガウス面)を考え、ガウスの法則を適用します。
- (3)では、球体Bの内側に、中心O、半径\(r\)の球面(ガウス面)を考え、ガウスの法則を適用します。このとき、ガウス面の内部に含まれる電荷量を、体積電荷密度を使って正しく計算することが鍵となります。