未来の得点力へ!物理基礎 問題演習「ばねの弾性力と仕事」【高校物理対応】

今回の問題

dynamics#38

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ばねの弾性力と仕事、弾性エネルギー」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然の長さからの伸びや縮みに比例するという法則です (\(F=kx\))。
  • 弾性力による位置エネルギー: 伸びたり縮んだりしたばねが持つエネルギーのことで、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) と表されます。
  • 仕事とエネルギーの関係: 物体に外力が仕事をすると、その分だけ物体のエネルギーが変化します。特に、ゆっくりと物体を動かす場合、外力がした仕事は位置エネルギーの変化量に等しくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、ばねを「ゆっくり」押し縮める状況から、加えている力とばねの弾性力がつり合っていると考え、フックの法則を用いて力の大きさを計算します。
  2. (2)では、加える力がばねの縮みに比例して大きくなる(一定ではない)ことに注意が必要です。この力がした仕事は、\(F-x\)グラフを描いたときの面積として求めるか、または仕事とエネルギーの関係から、ばねに蓄えられた弾性エネルギーの量を計算することで求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
ばねを「ゆっくり」押し縮めるという記述が重要です。これは、各瞬間において、人が加えている力と、ばねが元に戻ろうとする力(弾性力)が常につり合っている状態を意味します。したがって、ばねが \(0.20 \, \text{m}\) 縮んだ瞬間の弾性力の大きさを求めれば、それがそのまま加えている力の大きさになります。弾性力の大きさはフックの法則 \(F=kx\) で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 「ゆっくり」動かす \(\rightarrow\) 加える力と弾性力はつり合っている。
  • ばねの弾性力の大きさは、フックの法則 \(F=kx\) で与えられる。
  • \(x\) は自然の長さからの「変化量(伸びまたは縮み)」である。

具体的な解説と立式
フックの法則によれば、ばねが自然の長さから \(x\) だけ縮んでいるとき、ばねの弾性力の大きさは \(F_{\text{ばね}} = kx\) となります。
問題文の「ゆっくり押し縮めた」という条件から、加えている力 \(F\) の大きさと弾性力の大きさは等しいと考えられます。
$$ F = F_{\text{ばね}} = kx \quad \cdots ① $$
この式に、ばね定数 \(k = 1.5 \times 10^2 \, \text{N/m}\)、縮み \(x = 0.20 \, \text{m}\) を代入して、力 \(F\) を求めます。

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F=kx\)
計算過程

式①に与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= (1.5 \times 10^2) \times 0.20 \\[2.0ex]&= 150 \times 0.20 \\[2.0ex]&= 30
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字は2桁なので、答えも2桁で表すのが適切です。
$$ F = 30 \, \text{[N]} $$

この設問の平易な説明

ばねを縮めるとき、そのばねが元に戻ろうとして押し返してくる力と、同じ大きさの力で押し続ける必要があります。ばねが押し返してくる力の大きさは「ばね定数 \(\times\) 縮んだ長さ」という公式で計算できます。問題の値をこの公式に当てはめると、加えている力の大きさがわかります。

結論と吟味

ばねが \(0.20 \, \text{m}\) 縮んでいるときに加えている力の大きさは \(30 \, \text{N}\) です。単位も正しく、物理的に妥当な値です。

解答 (1) \(30 \, \text{N}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ばねを押し縮める間に、加える力がした仕事 \(W\) を求めます。ここで重要なのは、加える力 \(F\) は一定ではないということです。ばねの縮みが \(0\) のときは力も \(0\) ですが、縮みが大きくなるにつれて力も \(F=kx\) の関係で直線的に増加します。このように力が変化する場合の仕事は、単純な「力 \(\times\) 距離」では計算できません。\(F-x\)グラフを描き、そのグラフと \(x\) 軸で囲まれた部分の面積が仕事に等しいことを利用して計算します。
この設問における重要なポイント

  • ばねを縮める力は、縮みに比例して大きくなるため、一定ではない。
  • 力が変化する場合の仕事は、\(F-x\)グラフの面積として求められる。
  • \(F=kx\) のグラフは原点を通る直線なので、面積は三角形の面積公式で計算できる。

具体的な解説と立式
加える力の大きさ \(F\) は、ばねの縮み \(x\) に比例して \(F=kx\) と表せます。これをグラフにすると、縦軸を \(F\)、横軸を \(x\) としたとき、原点を通り傾きが \(k\) の直線になります。
ばねを縮み \(0\) から \(x_f = 0.20 \, \text{m}\) まで押し縮める間に、この力がした仕事 \(W\) は、\(F-x\)グラフにおいて、\(x=0\) から \(x=x_f\) までの範囲で直線と \(x\) 軸が囲む三角形の面積に等しくなります。

この三角形の底辺の長さは \(x_f\)、高さは縮みが \(x_f\) のときの力の大きさ \(F_f = kx_f\) です。
したがって、仕事 \(W\) は次のように計算できます。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} x_f \cdot F_f \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} x_f (kx_f) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} kx_f^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事の定義(\(F-x\)グラフの面積)
  • フックの法則: \(F=kx\)
計算過程

(1)の結果から、縮みが \(x_f = 0.20 \, \text{m}\) のときの力は \(F_f = 30 \, \text{N}\) です。
三角形の面積として計算すると、
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 0.20 \times 30 \\[2.0ex]&= 0.10 \times 30 \\[2.0ex]&= 3.0
\end{aligned}
$$
したがって、仕事は \(3.0 \, \text{[J]}\) となります。

この設問の平易な説明

ばねを縮めるとき、はじめは力が必要ありませんが(\(0 \, \text{N}\))、だんだん力が必要になり、最終的に \(0.20 \, \text{m}\) 縮めたときには \(30 \, \text{N}\) の力になります。このように力が \(0\) から \(30 \, \text{N}\) まで変化する場合、仕事の計算には「平均の力」を使います。平均の力は \((0 + 30) \div 2 = 15 \, \text{N}\) です。この平均の力で \(0.20 \, \text{m}\) 動かしたと考えると、仕事は \(15 \, \text{N} \times 0.20 \, \text{m} = 3.0 \, \text{J}\) と計算できます。

結論と吟味

力のした仕事は \(3.0 \, \text{J}\) です。仕事が正の値であることから、力が物体にエネルギーを与えたことがわかります。この仕事によって、ばねには弾性エネルギーが蓄えられます。

解答 (2) \(3.0 \, \text{J}\)
別解: 弾性エネルギーを用いた解法

思考の道筋とポイント
仕事とエネルギーの関係を用いると、より直接的に計算できます。床はなめらかで、物体はゆっくり動くため運動エネルギーは変化しません。この場合、「外力がした仕事」は、そのまま「ばねの弾性エネルギーの増加量」に等しくなります。したがって、ばねが \(0.20 \, \text{m}\) 縮んだときに蓄えられている弾性エネルギーを計算すれば、それが求める仕事 \(W\) となります。
この設問における重要なポイント

  • ゆっくり動かす場合、外力がした仕事 \(W\) は弾性エネルギーの変化量 \(\Delta U\) に等しい (\(W = \Delta U\))。
  • 弾性エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。

具体的な解説と立式
外力がした仕事 \(W\) は、ばねの弾性エネルギーの変化量 \(\Delta U\) に等しくなります。
$$ W = \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}} $$
押し縮める前は自然の長さなので、縮み \(x_{\text{前}} = 0\)。このときの弾性エネルギーは、
$$ U_{\text{前}} = \frac{1}{2}k(0)^2 = 0 $$
\(0.20 \, \text{m}\) 押し縮めた後の縮みは \(x_{\text{後}} = 0.20 \, \text{m}\)。このときの弾性エネルギーは、
$$ U_{\text{後}} = \frac{1}{2}kx_{\text{後}}^2 $$
したがって、求める仕事 \(W\) は、
$$
\begin{aligned}
W &= U_{\text{後}} – U_{\text{前}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}kx_{\text{後}}^2 – 0 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}kx_{\text{後}}^2
\end{aligned}
$$
これはメインの解法で導出した式②と一致します。

使用した物理公式

  • 弾性力による位置エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
  • 仕事とエネルギーの関係: \(W = \Delta U\)
計算過程

与えられた値を代入して \(W\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{1}{2} \times (1.5 \times 10^2) \times (0.20)^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 150 \times 0.040 \\[2.0ex]&= 75 \times 0.040 \\[2.0ex]&= 3.0
\end{aligned}
$$
したがって、仕事は \(3.0 \, \text{[J]}\) となります。

この設問の平易な説明

ばねを縮めるために人がした仕事は、どこにも消えず、すべて「弾性エネルギー」という形でばねの中に蓄えられます。したがって、ばねに蓄えられたエネルギーの量を計算すれば、それが人のした仕事の量と同じになります。弾性エネルギーは「\(\frac{1}{2} \times\) ばね定数 \(\times\) (縮んだ長さ)\(^2\)」という公式で計算できます。

結論と吟味

メインの解法と同じく、仕事は \(3.0 \, \text{J}\) という結果が得られました。これは、仕事とエネルギーの関係が正しく成り立っていることを示しています。どちらのアプローチでも解けるようにしておくと、理解が深まります。


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【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • フックの法則と弾性エネルギーの関係性:
    • 核心: この問題の根幹は、ばねの性質を表す2つの重要な法則、フックの法則 (\(F=kx\)) と弾性エネルギーの公式 (\(U=\frac{1}{2}kx^2\)) を正しく理解し、適用できるかという点にあります。特に、力が変化する場合の仕事が、蓄えられるエネルギーと等しいという「仕事とエネルギーの原理」を体感することが最も重要です。
    • 理解のポイント: なぜ仕事の計算で \(\frac{1}{2}\) がつくのかを、\(F-x\)グラフの「三角形の面積」として視覚的に理解することが、丸暗記を防ぎ、応用力を高める鍵となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 途中からさらに動かす場合: ばねが既に \(x_1\) 縮んでいる状態から、さらに \(x_2\) まで縮める仕事は、エネルギーの変化量 \(\Delta U = \frac{1}{2}kx_2^2 – \frac{1}{2}kx_1^2\) で計算します。\(F-x\)グラフでは、台形の面積を求めることに相当します。
    • ばねを伸ばす場合: ばねを縮めるのではなく、自然長から伸ばす場合も、力の向きや変位の向きは変わりますが、力の大きさと変位の関係は同じ \(F=kx\) です。したがって、仕事やエネルギーの計算式は全く同じ形になります。
    • 鉛直につるした場合: ばねを鉛直につるし、おもりの重力で伸びている状態を考える問題もあります。この場合、力のつり合いの位置(自然長ではない)や、重力による位置エネルギーも考慮に入れる必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の性質を確認: まず、物体にはたらく力が「一定」か「変化するか」を見極めます。ばねの弾性力は後者の典型例です。
    2. 「ゆっくり」のキーワード: 問題文に「ゆっくり」とあれば、それは「力のつり合い」と「運動エネルギーの変化は無視できる」という2つの重要なヒントを与えてくれています。
    3. 仕事かエネルギーか: 「仕事」を問われた場合、力が一定なら \(W=Fx\)、力が変化するなら \(F-x\)グラフの面積(またはエネルギー変化)と考えます。どちらのアプローチが簡単かを見極めるのがポイントです。
    4. 始点と終点の状態を明確に: エネルギーを考える際は、変化の「前」と「後」で、ばねの変位や物体の高さなどがどうなっているかを正確に把握することが第一歩です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 仕事の計算で力が一定だと誤解する:
    • 誤解: (1)で求めた力 \(F=30 \, \text{N}\) を使って、仕事 \(W\) を \(W = Fx = 30 \times 0.20 = 6.0 \, \text{J}\) と計算してしまう。
    • 対策: ばねを押し始めるとき力は \(0\) であることを常に意識しましょう。力が \(0\) から \(30 \, \text{N}\) まで「変化した」のだから、最大値を使ってはいけない、と自分に言い聞かせる癖をつけます。
  • 弾性エネルギーの公式の \(\frac{1}{2}\) を忘れる:
    • 誤解: \(U=kx^2\) として計算してしまう。
    • 対策: \(F-x\)グラフが「三角形」であることを頭に焼き付けましょう。三角形の面積公式には \(\frac{1}{2}\) が必ず付いてくるので、忘れにくくなります。
  • 単位の換算ミス:
    • 誤解: 問題がセンチメートル(\(\text{cm}\))で与えられた場合に、メートル(\(\text{m}\))に直さず計算してしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、すべての単位を基本単位(この場合は \(\text{m}\), \(\text{N}\))に統一する習慣をつけましょう。今回は問題ありませんが、頻出のミスです。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • フックの法則 (\(F=kx\)):
    • 選定理由: (1)で「ばねが縮んでいるときの力」を問われているため、ばねの力に関する基本法則であるフックの法則を用いるのが最も直接的です。
    • 適用根拠: これは、理想的なばねの性質をモデル化した実験法則です。多くの物理問題の出発点となります。
  • \(F-x\)グラフの面積 = 仕事:
    • 選定理由: (2)で「力がした仕事」を問われており、その力が一定ではないため、仕事の基本定義に立ち返る必要があります。力が変化する場合の仕事は、微小な距離 \(\Delta x\) を動かす仕事 \(F(x)\Delta x\) を足し合わせる(積分する)ことで求められ、これはグラフの面積計算と等価です。
    • 適用根拠: これは仕事という物理量の、より一般的な定義です。力が一定の場合の \(W=Fx\) は、この考え方の特別な場合(グラフが長方形になる)に過ぎません。
  • 仕事とエネルギーの関係 (\(W=\Delta U\)):
    • 選定理由: (2)の別解として、より物理的な洞察に基づいた解法です。外から加えた仕事が、どこへ行ったのか(エネルギーとして蓄えられた)を考えるアプローチです。
    • 適用根拠: これはエネルギー保存則の現れです。エネルギーは勝手に生まれたり消えたりせず、仕事を通じて形態を変えたり移動したりする、という物理学の大原則に基づいています。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 指数の扱いを丁寧に行う: \(1.5 \times 10^2\) のような科学記法での計算は、\(150\) のように整数に直してから計算すると、桁数のミスが減ることがあります。
  • 小数の二乗計算: \((0.20)^2\) のような計算は、\(0.2 \times 0.2 = 0.04\) と小数点の位置を間違えないように注意します。不安な場合は \( (2 \times 10^{-1})^2 = 4 \times 10^{-2} = 0.04 \) のように指数で考えると確実です。
  • 分数に変換する: 小数計算が苦手な場合、\(0.20 = \displaystyle\frac{2}{10} = \displaystyle\frac{1}{5}\) のように分数に直すと計算が楽になることがあります。\(W = \displaystyle\frac{1}{2} \times 150 \times (\displaystyle\frac{1}{5})^2 = \displaystyle\frac{1}{2} \times 150 \times \displaystyle\frac{1}{25} = 75 \times \displaystyle\frac{1}{25} = 3\)。
  • 有効数字を最後に意識する: 計算途中では多めの桁数で計算し、最後の答えを出す段階で、問題文で与えられた数値の有効数字(今回は2桁)に合わせるようにしましょう。\(3\) ではなく \(3.0\) と答える意識が大切です。

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