基本例題
基本例題31 単振動の式
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 復元力の比例定数\(K\)を求める解法
- 模範解答が運動方程式 \(F=-m\omega^2x\) を直接用いるのに対し、別解ではまず単振動の復元力の式 \(F=-Kx\) から比例定数 \(K\) を求め、その後に角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) を計算します。
- 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が三角関数を用いて計算するのに対し、別解では単振動における力学的エネルギーが保存されることを利用して、速さを直接求めます。
- 設問(3)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が最大速度の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を用いるのに対し、別解では設問(2)と同様に力学的エネルギー保存則を用いて計算します。
- 設問(1)の別解: 復元力の比例定数\(K\)を求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 運動方程式のアプローチと、復元力の比例定数 \(K\) やエネルギー保存則といった異なる物理概念との関連性を理解することで、単振動をより多角的に捉える力が養われます。
- 解法の選択肢拡大: 特に速さを求める問題において、三角関数を用いる方法だけでなく、エネルギー保存則という強力な別のアプローチがあることを学ぶことで、問題に応じて最適な解法を選択する能力が高まります。
- 計算の効率化: 設問(2)のように、エネルギー保存則を用いると三角関数の計算を回避でき、より直接的かつ簡潔に答えを導ける場合があります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「単振動の運動方程式と各種物理量の関係」です。単振動を表す基本的な式を理解し、それらを使いこなして角振動数、周期、速さ、加速度といった物理量を計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単振動の運動方程式: 物体に働く復元力が変位に比例するとき、その運動は単振動となり、運動方程式は \(ma = -Kx\) と表されます。角振動数 \(\omega\) を用いると \(a = -\omega^2 x\) となります。
- 復元力の理解: 単振動では、物体は常に振動の中心に向かう力(復元力)を受けます。その大きさは、中心からの距離(変位)に比例します。
- 単振動の各種公式: 変位 \(x\)、速さ \(v\)、加速度 \(a\) を、振幅 \(A\)、角振動数 \(\omega\)、時刻 \(t\) を用いて表す公式群を正しく適用できること。
- 単振動におけるエネルギー保存則: 摩擦や空気抵抗がなければ、単振動する物体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定に保たれます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず問題で与えられた特定の点(点P)での力と変位の値を使って、単振動の運動方程式から角振動数 \(\omega\) を求めます。次に、周期 \(T\) と \(\omega\) の関係式 \(T=2\pi/\omega\) を使って周期を計算します。
- (2)以降では、(1)で求めた \(\omega\) と問題文で与えられた振幅 \(A\) を使って、各設問で問われている物理量(速さ、加速度)を公式に当てはめて計算していきます。
問(1)
思考の道筋とポイント
単振動している物体に働く復元力は \(F = -m\omega^2 x\) と表せます。問題文では、\(x=3.0\,\text{m}\) のときに \(12\,\text{N}\) の力を受けるとあります。図から、この力は原点O(振動の中心)を向いていることがわかります。つまり、変位が正の向き (\(x=+3.0\,\text{m}\)) のとき、力は負の向き (\(F=-12\,\text{N}\)) に働いています。これらの値を \(F = -m\omega^2 x\) に代入することで、角振動数 \(\omega\) を求めることができます。周期 \(T\) は \(\omega\) が分かれば公式 \(T=2\pi/\omega\) ですぐに計算できます。
この設問における重要なポイント
- 復元力 \(F\) と変位 \(x\) の符号の関係を正しく理解する。\(F\) と \(x\) は常に逆向きなので、符号が逆になる。
- 単振動の運動方程式 \(ma=F\) と加速度の式 \(a=-\omega^2 x\) を結びつけて、\(F=-m\omega^2 x\) を導けること。
- 角振動数 \(\omega\) と周期 \(T\) の関係式 \(T=2\pi/\omega\) を覚えていること。
具体的な解説と立式
単振動する物体の質量を \(m\)、角振動数を \(\omega\)、変位を \(x\) とすると、物体に働く復元力 \(F\) は、
$$ F = -m\omega^2 x $$
と表されます。
問題の条件より、\(m=1.0\,\text{kg}\)、\(x=3.0\,\text{m}\) のとき \(F=-12\,\text{N}\) です。これらの値を代入すると、
$$ -12 = -1.0 \times \omega^2 \times 3.0 $$
この方程式を解くことで \(\omega\) が求まります。
次に、周期 \(T\) は角振動数 \(\omega\) と以下の関係があります。
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} $$
使用した物理公式
- 単振動の復元力: \(F = -m\omega^2 x\)
- 周期と角振動数の関係: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
まず、角振動数 \(\omega\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-12 &= -1.0 \times \omega^2 \times 3.0 \\[2.0ex]
12 &= 3.0 \omega^2 \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{12}{3.0} \\[2.0ex]
\omega^2 &= 4.0
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$ \omega = 2.0\,\text{rad/s} $$
次に、周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi}{2.0} \\[2.0ex]
&= \pi
\end{aligned}
$$
\(\pi \approx 3.14\) を用いて計算すると、
$$ T \approx 3.14\,\text{s} $$
有効数字2桁で答えるため、\(3.1\,\text{s}\) となります。
単振動は、中心から離れれば離れるほど、中心に戻そうとする力が強くなる運動です。その「力の強さ」と「中心からの距離」の関係式に、問題で与えられた「\(x=3.0\,\text{m}\) のとき \(12\,\text{N}\)」という具体的な数値を入れてあげることで、この振動のペース(角振動数)がわかります。振動のペースがわかれば、1往復にかかる時間(周期)も計算できる、という流れです。
角振動数は \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\)、周期は \(T \approx 3.1\,\text{s}\) と求まりました。値は物理的に妥当な範囲です。
思考の道筋とポイント
単振動は、ばね振り子の運動と同じ形をしています。ばね振り子では、復元力は \(F=-Kx\)(\(K\) はばね定数)と表されます。この問題の復元力も同じ形をしているはずなので、まずこの比例定数 \(K\)(ばね定数に相当するもの)を求めます。\(K\) と質量 \(m\) がわかれば、ばね振り子の角振動数の公式 \(\omega = \sqrt{K/m}\) を使って \(\omega\) を計算することができます。
この設問における重要なポイント
- あらゆる単振動は、復元力の式 \(F=-Kx\) で記述できることを理解している。
- 角振動数 \(\omega\)、質量 \(m\)、復元力の比例定数 \(K\) の間に \(\omega^2 = K/m\) の関係があることを理解している。
具体的な解説と立式
単振動の復元力 \(F\) は、変位 \(x\) に比例し、向きが逆なので、比例定数を \(K\) として
$$ F = -Kx $$
と書けます。問題の条件 \(x=3.0\,\text{m}\) のとき \(F=-12\,\text{N}\) を代入すると、
$$ -12 = -K \times 3.0 $$
この式から \(K\) を求めます。
次に、角振動数 \(\omega\) は \(m\) と \(K\) を用いて、
$$ \omega = \sqrt{\frac{K}{m}} $$
と表されるので、求めた \(K\) と \(m=1.0\,\text{kg}\) を代入して \(\omega\) を計算します。周期 \(T\) は主たる解法と同様に \(T=2\pi/\omega\) で求めます。
使用した物理公式
- 復元力の式: \(F=-Kx\)
- 角振動数の式: \(\omega = \sqrt{K/m}\)
まず、復元力の比例定数 \(K\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-12 &= -K \times 3.0 \\[2.0ex]
K &= \frac{12}{3.0} \\[2.0ex]
K &= 4.0\,\text{N/m}
\end{aligned}
$$
次に、この \(K\) を使って角振動数 \(\omega\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{K}{m}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{4.0}{1.0}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0} \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{rad/s}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) の計算は主たる解法と同じです。
$$ T = \pi \approx 3.1\,\text{s} $$
この単振動を、目に見えない「空気のばね」で起こっていると考えてみましょう。まず、\(3.0\,\text{m}\) 伸ばしたときに \(12\,\text{N}\) の力が働くことから、この空気のばねの硬さ(ばね定数)を計算します。ばねが硬いほど、そしておもりが軽いほど、振動は速くなります。その関係式を使って、振動のペース(角振動数)を求める方法です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。\(F=-m\omega^2x\) と \(F=-Kx\) を比較することで、\(K=m\omega^2\) という関係が成り立っていることがわかります。この関係は単振動を理解する上で非常に重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体の位置 \(x\) が時刻 \(t\) の関数として \(x=A\sin\omega t\)(または \(A\cos\omega t\))と表されることを利用します。振幅 \(A=5.0\,\text{m}\) と (1)で求めた \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) を使います。点P (\(x=3.0\,\text{m}\)) にいるときの時刻 \(t\) を直接求める必要はありません。\(x=A\sin\omega t\) の関係から \(\sin\omega t\) の値を求め、次に三角関数の公式 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を使って \(\cos\omega t\) の値を求めます。速さ \(v\) は \(v=A\omega\cos\omega t\) と表されるので、ここに求めた値を代入すれば速さが計算できます。速さは大きさなので、絶対値をとって正の値で答えます。
この設問における重要なポイント
- 単振動の変位と速度の公式 \(x=A\sin\omega t\), \(v=A\omega\cos\omega t\) を理解している。
- 三角関数の相互関係 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を利用できる。
- 速さは速度の大きさであり、常に \(0\) 以上の値であること。
具体的な解説と立式
単振動の変位 \(x\) と速さ \(v\) は、振幅を \(A\)、角振動数を \(\omega\) とすると、ある基準時刻からの時間 \(t\) を用いて、
$$ x = A\sin\omega t \quad \cdots ① $$
$$ v = A\omega\cos\omega t \quad \cdots ② $$
と表せます。(位相によっては \(\sin\) が \(\cos\) になることもありますが、最終的な結果は同じです)
まず、式①に \(x=3.0\,\text{m}\), \(A=5.0\,\text{m}\) を代入して \(\sin\omega t\) を求めます。
$$ 3.0 = 5.0 \sin\omega t $$
次に、三角関数の公式 \(\sin^2(\omega t) + \cos^2(\omega t) = 1\) を使って \(\cos\omega t\) の値を求めます。
最後に、求めた値を式②に代入して速さ \(v\) を計算します。
使用した物理公式
- 単振動の変位: \(x = A\sin\omega t\)
- 単振動の速度: \(v = A\omega\cos\omega t\)
- 三角関数の公式: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\)
まず、\(\sin\omega t\) の値を求めます。
$$
\begin{aligned}
3.0 &= 5.0 \sin\omega t \\[2.0ex]
\sin\omega t &= \frac{3.0}{5.0} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{5}
\end{aligned}
$$
次に、\(\cos\omega t\) の値を求めます。
$$
\begin{aligned}
\cos^2\omega t &= 1 – \sin^2\omega t \\[2.0ex]
&= 1 – \left(\frac{3}{5}\right)^2 \\[2.0ex]
&= 1 – \frac{9}{25} \\[2.0ex]
&= \frac{16}{25}
\end{aligned}
$$
よって、
$$ \cos\omega t = \pm \sqrt{\frac{16}{25}} = \pm \frac{4}{5} $$
これを速さの式に代入します。速さは大きさなので、絶対値をとります。
$$
\begin{aligned}
v &= |A\omega\cos\omega t| \\[2.0ex]
&= \left| 5.0 \times 2.0 \times \left(\pm \frac{4}{5}\right) \right| \\[2.0ex]
&= \left| 10 \times \left(\pm \frac{4}{5}\right) \right| \\[2.0ex]
&= 10 \times \frac{4}{5} \\[2.0ex]
&= 8.0\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
単振動の運動は、円運動を横から見た影の動きと同じです。物体の位置は三角関数(サイン)で、速さは三角関数(コサイン)で表せます。位置が \(x=3.0\,\text{m}\) と分かっているので、そこからサインの値を計算します。サインの値が分かれば、相方であるコサインの値も計算できます。最後に、そのコサインの値を使って速さを計算する、というパズルのような手順です。
点Pにおける速さは \(8.0\,\text{m/s}\) と求まりました。この値は、次の設問で求める最大速度よりは小さいはずであり、妥当な値と考えられます。
思考の道筋とポイント
単振動では、摩擦などがなければ力学的エネルギーが保存されます。力学的エネルギーは、運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) と、復元力による位置エネルギー \(\frac{1}{2}Kx^2\) の和です。(1)の別解で求めた復元力の比例定数 \(K=4.0\,\text{N/m}\) を使います。
まず、エネルギーが最も計算しやすい点、つまり振動の端(振幅 \(A\) の点)でのエネルギーを計算します。端では速さが \(0\) なので、エネルギーは位置エネルギーのみです。このエネルギーの値が、振動中のどの点でも保たれます。
次に、点P (\(x=3.0\,\text{m}\)) でのエネルギーを考えます。この点でのエネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギーの和です。この値が、先ほど計算した振動の端でのエネルギーと等しい、という式を立てれば、未知数である速さ \(v\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 単振動において力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2\) が保存されることを知っている。
- 振動の端 (\(x=\pm A\)) では速さが \(0\) になり、振動の中心 (\(x=0\)) では速さが最大になることを理解している。
具体的な解説と立式
単振動の力学的エネルギー \(E\) は、
$$ E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = (\text{一定}) $$
と表されます。ここで \(m=1.0\,\text{kg}\)、\(K=4.0\,\text{N/m}\) です。
まず、振動の端 \(x=A=5.0\,\text{m}\) でのエネルギーを考えます。この点では速さは \(v=0\) なので、全エネルギー \(E\) は、
$$ E = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}KA^2 = \frac{1}{2}KA^2 $$
次に、点P (\(x=3.0\,\text{m}\)) での速さを \(v_{\text{P}}\) とすると、この点での力学的エネルギーは、
$$ E = \frac{1}{2}mv_{\text{P}}^2 + \frac{1}{2}K(3.0)^2 $$
エネルギー保存則より、これらのエネルギーは等しいので、
$$ \frac{1}{2}KA^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{P}}^2 + \frac{1}{2}K(3.0)^2 $$
この方程式を \(v_{\text{P}}\) について解きます。
使用した物理公式
- 単振動の力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
まず、系全体の力学的エネルギー \(E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}KA^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 4.0 \times (5.0)^2 \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 25 \\[2.0ex]
&= 50\,\text{J}
\end{aligned}
$$
次に、点P (\(x=3.0\,\text{m}\)) でのエネルギー保存則の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{\text{P}}^2 + \frac{1}{2}Kx^2 &= E \\[2.0ex]
\frac{1}{2} \times 1.0 \times v_{\text{P}}^2 + \frac{1}{2} \times 4.0 \times (3.0)^2 &= 50 \\[2.0ex]
0.5 v_{\text{P}}^2 + 2.0 \times 9.0 &= 50 \\[2.0ex]
0.5 v_{\text{P}}^2 + 18 &= 50 \\[2.0ex]
0.5 v_{\text{P}}^2 &= 32 \\[2.0ex]
v_{\text{P}}^2 &= 64
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{P}} > 0\) なので、
$$ v_{\text{P}} = 8.0\,\text{m/s} $$
単振動をジェットコースターに例えてみましょう。一番高いところ(振動の端)ではスピードがゼロで、位置エネルギーが最大です。そこから下るにつれて、位置エネルギーが運動エネルギーに変わり、スピードが上がっていきます。エネルギーの総量は常に一定です。この問題では、一番高いところのエネルギーを計算し、次に \(x=3.0\,\text{m}\) という高さの地点での位置エネルギーを計算します。エネルギーの総量から位置エネルギーを引いた残りが、その地点での運動エネルギーになるはずです。そこから速さを逆算する方法です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。エネルギー保存則は、途中の時刻や角度を考える必要がなく、速さを直接求められるため、非常に強力な解法です。
問(3)
思考の道筋とポイント
振動の中心 (\(x=0\)) は、復元力が \(0\) になり、位置エネルギーが最小(基準にとれば \(0\))になる点です。その代わり、物体の速さは最大になります。単振動における最大速度 \(v_{\text{最大}}\) は、公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) で与えられます。振幅 \(A=5.0\,\text{m}\) と (1)で求めた角振動数 \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) をこの式に代入するだけで計算できます。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心 (\(x=0\)) で速さが最大になることを理解している。
- 最大速度の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を覚えている。
具体的な解説と立式
単振動において、物体の速さは振動の中心 (\(x=0\)) で最大値 \(v_{\text{最大}}\) をとります。その値は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて、
$$ v_{\text{最大}} = A\omega $$
と表されます。
問題で与えられた \(A=5.0\,\text{m}\) と、(1)で求めた \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) を代入します。
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 10\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
ブランコが一番低いところを通過するときが、一番スピードが出ますよね。単振動も同じで、振動の中心を通過するときが最も速くなります。その最速スピードは、振幅(どれだけ大きく振れるか)と振動のペース(角振動数)を掛け合わせるだけで計算できる、という便利な公式があります。
最大速度は \(10\,\text{m/s}\) と求まりました。これは(2)で求めた点Pでの速さ \(8.0\,\text{m/s}\) よりも大きく、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
設問(2)の別解と同様に、力学的エネルギー保存則を用います。振動の中心 (\(x=0\)) での速さを \(v_{\text{最大}}\) とします。この点での力学的エネルギーは、位置エネルギーが \(0\) なので、運動エネルギーのみとなります。この値が、(2)の別解で計算した系全体のエネルギー \(E=50\,\text{J}\) と等しくなる、という式を立てて \(v_{\text{最大}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心 (\(x=0\)) では、復元力による位置エネルギーが \(0\) になる。
- 力学的エネルギーのすべてが運動エネルギーに変換されるため、速さが最大になる。
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則より、
$$ \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = E = (\text{一定}) $$
振動の中心 (\(x=0\)) では、速さは最大値 \(v_{\text{最大}}\) となり、位置エネルギーは \(0\) です。
$$ \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}K(0)^2 = E $$
したがって、
$$ \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 = E $$
(2)の別解より、この系の全エネルギーは \(E=50\,\text{J}\) でした。この値を代入して \(v_{\text{最大}}\) を解きます。
使用した物理公式
- 単振動の力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 &= E \\[2.0ex]
\frac{1}{2} \times 1.0 \times v_{\text{最大}}^2 &= 50 \\[2.0ex]
0.5 v_{\text{最大}}^2 &= 50 \\[2.0ex]
v_{\text{最大}}^2 &= 100
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{最大}} > 0\) なので、
$$ v_{\text{最大}} = 10\,\text{m/s} $$
ジェットコースターが一番低い地点(振動の中心)に来たときを考えます。このとき、高さが基準なので位置エネルギーはゼロです。つまり、持っていたエネルギーのすべてが運動エネルギー(スピード)に変わっています。エネルギーの総量は分かっているので、そこから速さを逆算することができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。エネルギー保存則が、単振動の様々な場面で有効なツールであることがわかります。
問(4)
思考の道筋とポイント
単振動の加速度 \(a\) は、変位 \(x\) に比例し、向きが逆になります。この関係は公式 \(a = -\omega^2 x\) で表されます。(1)で角振動数 \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) は求まっています。問題では点Qの変位が \(x=-0.50\,\text{m}\) と与えられているので、これらの値を公式に代入するだけで加速度 \(a\) が計算できます。加速度はベクトル量なので、符号(向き)も重要です。
この設問における重要なポイント
- 加速度と変位の関係式 \(a = -\omega^2 x\) を覚えている。
- 加速度の符号が変位の符号と逆になることを理解している(加速度は常に中心を向く)。
具体的な解説と立式
単振動の加速度 \(a\) と変位 \(x\) の関係は、
$$ a = -\omega^2 x $$
で与えられます。
ここに、(1)で求めた \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) と、問題で与えられた \(x=-0.50\,\text{m}\) を代入します。
使用した物理公式
- 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
$$
\begin{aligned}
a &= -\omega^2 x \\[2.0ex]
&= -(2.0)^2 \times (-0.50) \\[2.0ex]
&= -4.0 \times (-0.50) \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
計算結果が正の値なので、加速度の向きは \(x\) 軸の正の向きです。
単振動では、物体は常に中心に引っ張られます。加速度の向きは、その引っ張られる力の向きと同じです。点Q (\(x=-0.50\,\text{m}\)) は中心より左側にあるので、中心(右側)に向かって引っ張られます。つまり、加速度は右向き(正の向き)になります。その大きさは、中心からの距離に比例して決まります。その関係を表す公式に数値を代入して計算します。
加速度は \(a=2.0\,\text{m/s}^2\) と求まりました。変位が負のときに加速度が正となっており、常の中心(原点O)を向くという加速度の特徴と一致しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
加速度の大きさは、公式 \(a = -\omega^2 x\) から \(|a| = \omega^2 |x|\) となります。角振動数 \(\omega\) は一定なので、加速度の大きさが最大になるのは、変位の大きさ \(|x|\) が最大になるときです。変位の大きさが最大になるのは振動の両端、つまり \(x = \pm A\) の点です。したがって、加速度の大きさの最大値 \(a_{\text{最大}}\) は、\(|x|=A\) を代入して \(a_{\text{最大}} = A\omega^2\) となります。
この設問における重要なポイント
- 加速度の大きさが、振動の両端(変位が最大の点)で最大になることを理解している。
- 加速度の大きさの最大値の公式 \(a_{\text{最大}} = A\omega^2\) を覚えている。
具体的な解説と立式
単振動の加速度の大きさ \(|a|\) は、
$$ |a| = |-\omega^2 x| = \omega^2 |x| $$
この式から、\(|a|\) は変位の大きさ \(|x|\) に比例することがわかります。
したがって、\(|a|\) が最大になるのは \(|x|\) が最大になるとき、すなわち振動の端 \(|x|=A\) のときです。
加速度の大きさの最大値 \(a_{\text{最大}}\) は、
$$ a_{\text{最大}} = A\omega^2 $$
と表されます。
ここに、\(A=5.0\,\text{m}\) と \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) を代入します。
使用した物理公式
- 単振動の最大加速度: \(a_{\text{最大}} = A\omega^2\)
$$
\begin{aligned}
a_{\text{最大}} &= A\omega^2 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 20\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
ブランコで一番高いところまで振れた瞬間、向きを切り替えるために最も強く逆向きに引っ張られますよね。単振動も同じで、振動の中心から最も離れた両端で、中心に戻ろうとする力が最大になり、その結果として加速度の大きさも最大になります。その最大値は、振幅と振動ペース(角振動数)の2乗を掛け合わせることで計算できます。
加速度の大きさの最大値は \(20\,\text{m/s}^2\) と求まりました。これは(4)で求めた \(x=-0.50\,\text{m}\) での加速度 \(2.0\,\text{m/s}^2\) よりも大きく、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単振動の運動方程式(復元力の式)
- 核心: この問題の全ての設問の基礎となるのは、単振動が「復元力」という、常に中心を向き、中心からの距離(変位)に比例する力によって引き起こされる運動であるという理解です。これを数式で表現したものが、運動方程式 \(ma = -Kx\) や、加速度の式 \(a = -\omega^2 x\)、力の式 \(F = -m\omega^2 x\) です。
- 理解のポイント:
- \(F \propto -x\): 力 \(F\) が変位 \(x\) に比例し(\(\propto\))、向きが常に逆(マイナス符号)であることが単振動の本質です。設問(1)では、この関係に具体的な数値を代入することで、比例関係を決める重要なパラメータである角振動数 \(\omega\) を特定しています。
- パラメータの相互関係: 復元力の比例定数 \(K\)、質量 \(m\)、角振動数 \(\omega\) の間には \(K = m\omega^2\) という重要な関係があります。これにより、どれか2つが分かれば残りの1つを計算でき、単振動の特性(周期など)を完全に記述できます。
- 単振動における各種物理量の関係式
- 核心: 運動方程式を解くことで得られる、変位・速度・加速度の具体的な関係式を使いこなすことです。特に、振動の中心と端点における物理量の特徴(速度が最大/ゼロ、加速度がゼロ/最大)を理解していることが重要です。
- 理解のポイント:
- 最大値の公式: 振動の中心(\(x=0\))で速さは最大値 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) となり、振動の端(\(x=\pm A\))で加速度の大きさは最大値 \(a_{\text{最大}} = A\omega^2\) となります。設問(3)と(5)は、これらの公式を直接適用する問題です。
- 任意の位置での関係: 設問(2)や(4)のように、任意の位置 \(x\) での速さや加速度を求めるには、\(v = \pm \omega \sqrt{A^2-x^2}\) や \(a = -\omega^2 x\) といった、位置と直接関連づける公式が有効です。
- 単振動における力学的エネルギー保存則
- 核心: 復元力(ばねの弾性力と同じ性質を持つ)は保存力であるため、摩擦などがなければ、単振動の系の力学的エネルギー \(E = (\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2\) は一定に保たれる、という法則です。
- 理解のポイント:
- エネルギーの変換: 振動中、運動エネルギーと位置エネルギーは互いに変換し合いますが、その合計値は常に一定です。振動の端では全てが位置エネルギー (\(\frac{1}{2}KA^2\))、振動の中心では全てが運動エネルギー (\(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\)) となります。
- 速さの計算に強力: 設問(2)の別解のように、特定の位置での速さを求めたい場合に、時刻や三角関数を介さずに直接計算できる非常に強力なツールとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばね振り子(水平・鉛直・斜面): 最も典型的な単振動の例です。特に鉛直ばね振り子や斜面上のばね振り子では、重力の成分によって「つり合いの位置(振動の中心)」が自然長の位置からずれる点に注意が必要です。しかし、一度振動の中心を見つければ、そこからの変位に対して全く同じ単振動の式が成り立ちます。
- 単振り子: 糸におもりをつけた振り子の運動は、振れ角が非常に小さい場合に単振動とみなせます。この場合、復元力は重力の接線方向成分となり、\(F \approx -mg\theta = -(mg/L)x\) と近似できることから、\(K=mg/L\) の単振動として扱えます。
- U字管内の液体の振動: U字管に入れた液体を一方に押し下げてから放すと、左右の液面の高さの差によって生じる重力が復元力となり、液体全体が単振動します。
- 水に浮く物体の上下振動: 円柱などを水に浮かべ、少し押し沈めてから放すと、浮力と重力の差が復元力となって上下に単振動します。アルキメデスの原理と単振動の融合問題です。
- 初見の問題での着眼点:
- まず「つり合いの位置」を探す: 物体に働く力がすべてつり合う位置はどこかを見つけます。ここが単振動の「中心」になります。
- つり合いの位置からの「変位 \(x\)」を設定する: つり合いの位置を原点として、そこから物体が少しずれた状態を考え、そのずれを文字 \(x\) で置きます。
- その位置での「合力」を計算する: 変位 \(x\) の位置で、物体に働くすべての力を書き出し、その合力 \(F\) を \(x\) の式で表します。
- 復元力の形 \(F = -Kx\) になっているか確認する: 計算した合力が \(F = -(\text{正の定数}) \times x\) という形になっていれば、その運動は単振動であると断定できます。この「正の定数」の部分が、その系の復元力の比例定数 \(K\) にあたります。
- \(K\) から \(\omega\) と \(T\) を求める: \(K\) が特定できれば、角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) と周期 \(T = 2\pi/\omega\) は自動的に計算できます。
- エネルギー保存則が使えるか検討する: 速さを問われた場合は、力学的エネルギー保存則が使えないか考えましょう。保存力(重力、弾性力、浮力など)以外の力(摩擦力など)が仕事をしていなければ、エネルギー保存則は有効な解法となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 復元力・加速度の符号ミス:
- 誤解: \(F = m\omega^2 x\) や \(a = \omega^2 x\) のように、力の向きを考えずにプラスの式を立ててしまう。
- 対策: 「復元力」と「加速度」は、その名の通り、常に中心に「復元」しようとする向き、つまり「変位 \(x\) とは逆向き」に働きます。この「逆向き」という意味のマイナス符号を、\(F=-Kx\) や \(a=-\omega^2 x\) の式に必ずつける癖をつけましょう。\(x\) に負の値を代入する際は、\(a = -\omega^2(-0.50)\) のように括弧を使い、符号の計算ミスを防ぎましょう。
- 振幅 \(A\) と変位 \(x\) の混同:
- 誤解: 振幅 \(A\) を振動の端から端までの距離(直径)だと勘違いする。あるいは、ある瞬間の位置である変位 \(x\) と、振動の最大幅である振幅 \(A\) を式の中でごちゃ混ぜに使ってしまう。
- 対策: 言葉の定義を正確に覚えましょう。「振幅 \(A\)」は「振動の中心から端までの最大距離」であり、定数です。「変位 \(x\)」は「ある瞬間の、中心からの位置」であり、\(-A \le x \le A\) の範囲で時間と共に変化する変数です。
- 角振動数 \(\omega\) と振動数 \(f\) の混同:
- 誤解: \(\omega\) と \(f\) を同じものだと思い込み、周期の計算などで \(T=2\pi/\omega\) と \(T=1/f\) を混同する。
- 対策: 意味を理解して区別しましょう。\(\omega\) は「\(1\)秒あたりに進む角度(単位: \(\text{rad/s}\))」、\(f\) は「\(1\)秒あたりに往復する回数(単位: \(\text{Hz}\))」です。\(1\)往復(\(1\)回転)は \(2\pi\) ラジアンなので、\(\omega = 2\pi f\) という関係が成り立ちます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(\(F = -m\omega^2 x\)):
- 選定理由: 求めたいのは「角振動数 \(\omega\)」と「周期 \(T\)」。与えられているのは、ある「変位 \(x\)」における「力 \(F\)」です。力、変位、角振動数という3つの物理量を直接結びつける基本法則が \(F = -m\omega^2 x\) であるため、これを選択するのは必然です。
- 適用根拠: 問題文で「単振動をしている」と明言されているため、単振動の運動を記述するこの最も基本的な関係式を無条件で適用することができます。
- (2)での公式選択(三角関数 or エネルギー保存則):
- 選定理由(模範解答): 求めたいのは「速さ \(v\)」、与えられているのは「変位 \(x\)」。単振動の運動が円運動の射影であることを考えると、変位は \(x=A\sin\omega t\)、速度は \(v=A\omega\cos\omega t\) と表せます。三角関数の公式 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を利用することで、時刻 \(t\) を消去し、\(x\) の情報から \(v\) を導き出すことができます。これは単振動の定義に立ち返った基本的な解法です。
- 選定理由(別解): 求めたい物理量が「速さ」であり、途中の時間経過に興味がない場合、運動の前後(この場合は端点と点P)の状態をエネルギーという量で結びつける「エネルギー保存則」が非常に強力な選択肢となります。
- 適用根拠: この系では、仕事をする力は保存力である復元力のみです。したがって、系の力学的エネルギーは保存されるという物理的な事実が、この法則を適用する根拠となります。
- (4), (5)での公式選択(\(a = -\omega^2 x\) と \(a_{\text{最大}} = A\omega^2\)):
- 選定理由: 求めたいのは「加速度 \(a\)」。与えられているのは「変位 \(x\)」。加速度と変位を最も直接的に結びつける関係式が \(a = -\omega^2 x\) です。加速度の最大値を求める(5)では、変位の大きさが最大となる \(|x|=A\) を代入した \(a_{\text{最大}} = A\omega^2\) を使うのが最も効率的です。
- 適用根拠: これらも単振動の定義から導かれる基本的な関係式であり、問題の状況に直接適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を意識する:
- 角振動数 \(\omega\) の単位は \(\text{rad/s}\)、振動数 \(f\) は \(\text{Hz}\) (\(=\text{s}^{-1}\))、周期 \(T\) は \(\text{s}\) です。計算結果の単位が物理的に正しいか常に確認する癖をつけましょう。
- 符号のダブルチェック:
- 単振動の式にはマイナス符号が頻繁に登場します。\(F=-Kx\), \(a=-\omega^2 x\) のマイナスを書き忘れないようにしましょう。また、\(x\) に負の値を代入する際は、\(a = -(2.0)^2 \times (-0.50)\) のように、括弧を丁寧に使って計算し、符号の取り違えを防ぎましょう。
- 2乗の計算に注意:
- \(\omega^2\), \(A^2\), \(x^2\) など、2乗の計算が非常に多い分野です。エネルギーの式 \(\frac{1}{2}mv^2\) や \(\frac{1}{2}Kx^2\) の2乗をうっかり忘れるミスは頻発します。式を書き出すたびに、指数が正しいか指差し確認するくらいの慎重さが大切です。
- 概算による検算:
- (3)で最大速度 \(v_{\text{最大}}=10\,\text{m/s}\) を求めた後、(2)の点Pでの速さを計算したら、当然 \(10\,\text{m/s}\) より小さい値になるはずです。もし計算結果が \(10\) を超えていたら、どこかで間違えていると気づけます。
- (5)の最大加速度は、(1)の \(x=3.0\,\text{m}\) での力(\(12\,\text{N}\))から計算した加速度 \(a=F/m=12\,\text{m/s}^2\) と比較できます。加速度は変位に比例するので、端点 \(x=5.0\,\text{m}\) での加速度は \(12 \times (5.0/3.0) = 20\,\text{m/s}^2\) となるはずだ、と比例計算で見積もることができます。
- 物理的な状況と照らし合わせる:
- 振動の中心 (\(x=0\)): 力と加速度は \(0\)、速さは最大。
- 振動の端 (\(x=\pm A\)): 速さは \(0\)、力と加速度の大きさは最大。
- 自分の計算結果が、これらの単振動の基本的な特徴と矛盾していないか、最後に必ず振り返りましょう。例えば、\(x=A\) での速さを計算して \(0\) 以外の値が出たら、計算ミスを疑うことができます。
基本例題32 鉛直ばね振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 運動方程式から角振動数を求める解法
- 模範解答が力のつり合いの式からばね定数を求め、周期の公式に代入するのに対し、別解ではつり合いの位置を原点として運動方程式を立て、単振動の基本式 \(a=-\omega^2 x\) と比較することで角振動数 \(\omega\) を直接導き、周期を計算します。
- 設問(4)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が最大速度の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を用いるのに対し、別解では重力と弾性力による力学的エネルギーが保存されることを利用して、手を離した瞬間(上端)と振動の中心でのエネルギーを比較し、速さを直接求めます。
- 設問(3)の別解: 運動方程式から角振動数を求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 運動方程式を立てることで、鉛直ばね振り子の復元力が \(F=-kx\) の形になることを根本から理解できます。また、エネルギー保存則を用いることで、単振動がエネルギーの変換過程であるという別の側面から現象を捉える力が養われます。
- 解法の選択肢拡大: 速さを求める問題に対して、運動の公式だけでなくエネルギー保存則という強力なアプローチがあることを学ぶことで、より複雑な問題にも対応できる引き出しが増えます。
- 体系的理解の促進: 力学の二大原理である運動方程式とエネルギー保存則が、どちらも同じ結論を導くことを体験することで、物理法則の普遍性やつながりを実感できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直ばね振り子の単振動解析」です。重力の影響下でばねに吊るされた物体の単振動について、振動の中心、振幅、周期、速さといった基本的な物理量を正しく理解し、計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 鉛直ばね振り子では、重力と弾性力がつりあう位置が単振動の中心となります。
- 単振動の復元力: 振動の中心からの変位を \(x\) とすると、物体に働く合力(復元力)が \(F=-Kx\) の形で表されることを理解していること。
- 単振動の周期の公式: 周期 \(T\) が質量 \(m\) と復元力の比例定数 \(K\)(ばね定数 \(k\) に相当)を用いて \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) と表されることを知っていること。
- 単振動における力学的エネルギー保存則: 重力と弾性力はともに保存力なので、系の力学的エネルギー(運動エネルギー+重力による位置エネルギー+弾性エネルギー)の和は一定に保たれます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず小球に働く重力とばねの弾性力がつりあう位置を求め、そこが振動の中心であることを理解します。
- (2)では、単振動の振幅が「振動の中心から振動の端までの距離」であることを基に、手を離した瞬間の位置(上端)と(1)で求めた中心の位置との差を計算します。
- (3)では、(1)の力のつり合いの式を用いてばね定数 \(k\) を \(m, g, a\) で表し、それを周期の公式に代入して周期 \(T\) を求めます。
- (4)では、振動の中心では速さが最大になることを利用し、最大速度の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) に(2)で求めた振幅 \(A\) と(3)の結果から得られる角振動数 \(\omega\) を代入して計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
鉛直ばね振り子における単振動の中心は、ばねの自然長の位置ではなく、おもりを吊るしたときに重力とばねの弾性力がちょうどつりあって静止する位置です。問題文に「ばねが \(a\) の長さだけ伸びて静止した」とあるので、この位置がまさに振動の中心となります。問われているのは「天井から」の距離なので、ばねの自然長 \(l\) と、つり合いまでの伸び \(a\) を足し合わせる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 単振動の中心は、物体に働く合力がゼロになる「力のつり合いの位置」である。
- 鉛直ばね振り子では、重力 \(mg\) と弾性力 \(ka\) がつりあう点が中心となる。
具体的な解説と立式
単振動の中心は、小球に働く力がつりあう位置です。
小球に働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、鉛直上向きのばねの弾性力です。
ばねの伸びが \(a\) のときに力がつりあうので、ばね定数を \(k\) とすると、力のつり合いの式は、
$$ (\text{上向きの弾性力}) = (\text{下向きの重力}) $$
$$ ka = mg $$
となります。
このとき、ばねの長さは自然長 \(l\) に伸び \(a\) を加えた \(l+a\) となっています。
したがって、天井から振動の中心までの距離は \(l+a\) です。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(F_{\text{合力}}=0\)
- フックの法則: \(F=kx\)
求める距離は、ばねの自然長とつり合い時の伸びの和なので、
$$ (\text{距離}) = l + a $$
となります。
ばねにおもりをぶら下げて、ビヨーンと揺れる前に静かに止まる場所がありますよね。その「ちょうど止まるところ」が、この単振動のど真ん中(中心)になります。問題では、天井からその真ん中までの距離を聞かれているので、もともとのばねの長さ \(l\) と、おもりの重さで伸びた長さ \(a\) を足せばOKです。
天井から振動の中心までの距離は \(l+a\) と求まりました。これは鉛直ばね振り子の基本事項です。
問(2)
思考の道筋とポイント
単振動の「振幅」とは、「振動の中心から振動の端(運動の折り返し点)までの距離」のことです。この問題では、小球を「ばねの長さが \(l\) となるようにして急に手をはなす」とあります。ばねの長さが \(l\) というのは、ばねが自然長の状態です。手を離した瞬間は速さがゼロなので、この位置が単振動の上側の端(上端)になります。
したがって、振幅は(1)で求めた振動の中心(つり合いの位置)と、この上端(自然長の位置)との距離を求めればよいことになります。
この設問における重要なポイント
- 振幅は、振動の中心から端までの距離である。
- 静かに手を離した位置は、速さが \(0\) なので振動の端となる。
具体的な解説と立式
振幅 \(A\) は、振動の中心と端点の間の距離です。
- 振動の中心: 天井から \(l+a\) の位置。
- 振動の上端: 手を離した位置、すなわちばねが自然長になる天井から \(l\) の位置。
したがって、振幅 \(A\) はこれらの位置の差となります。
$$ A = (l+a) – l = a $$
使用した物理公式
- 振幅の定義
$$
\begin{aligned}
(\text{振幅}) &= (\text{振動中心の天井からの距離}) – (\text{振動上端の天井からの距離}) \\[2.0ex]
A &= (l+a) – l \\[2.0ex]
&= a
\end{aligned}
$$
振幅とは、振動の真ん中から、一番上または一番下までの「振れ幅」のことです。今回は、ばねが元の長さに戻るまで持ち上げてから手を離しました。振動の真ん中は「\(a\) だけ伸びた場所」だったので、手を離した「元の長さの場所」から真ん中までの距離は、ちょうど \(a\) になります。これが振幅です。
振幅は \(a\) と求まりました。この問題の設定では、つり合いの伸びがそのまま振幅になるという、典型的なパターンです。
問(3)
思考の道筋とポイント
単振動の周期 \(T\) を求める公式は \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) です。この式を使うには、ばね定数 \(k\) が必要です。問題文には \(k\) が与えられていませんが、(1)で考えた力のつり合いの式 \(ka=mg\) を使うことで、\(k\) を他の文字(\(m, g, a\))で表すことができます。この \(k\) を周期の公式に代入することで、周期 \(T\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) を覚えていること。
- 力のつり合いの式 \(ka=mg\) を利用して、未知のばね定数 \(k\) を消去する。
具体的な解説と立式
まず、力のつり合いの式からばね定数 \(k\) を求めます。
(1)で立てた力のつり合いの式は、
$$ ka = mg $$
これを \(k\) について解くと、
$$ k = \frac{mg}{a} \quad \cdots ① $$
次に、単振動の周期の公式
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \quad \cdots ② $$
に、式①を代入します。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(ka=mg\)
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/k}\)
式②に式①を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{\frac{mg}{a}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{m \cdot \frac{a}{mg}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}
\end{aligned}
$$
1往復にかかる時間(周期)は、おもりの「重さ(質量)」とばねの「硬さ(ばね定数)」で決まります。この問題ではばねの硬さが分かりませんが、代わりに「おもりを吊るしたら \(a\) だけ伸びた」という情報があります。この情報からばねの硬さを逆算して、周期を計算する、という手順です。面白いことに、最終的な答えにはおもりの重さもばねの硬さも消えて、「伸び \(a\)」だけで決まるというシンプルな形になります。
周期は \(T=2\pi\sqrt{a/g}\) と求まりました。この結果は、鉛直ばね振り子の周期が、つり合い時の伸び \(a\) で決まる単振り子(周期 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) の \(L\) が \(a\) に相当)と同じ形になることを示しており、物理的に非常に重要な関係です。
思考の道筋とポイント
単振動の周期は、運動方程式を立てて角振動数 \(\omega\) を求めることでも計算できます。まず、力のつり合いの位置(振動の中心)を原点として座標軸を設定します。次に、物体が原点から少しずれた位置(変位 \(x\))にあるときに働く合力を計算し、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。この式が単振動の基本形式 \(ma=-Kx\)(この場合 \(K=k\))となれば、\(\omega^2 = k/m\) の関係から \(\omega\) が求まり、周期 \(T=2\pi/\omega\) を計算できます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式を立てる際は、つり合いの位置を基準(原点)に取ると式が簡潔になる。
- 運動方程式が \(a = -(\text{定数}) \times x\) の形になることを確認する。
具体的な解説と立式
力のつり合いの位置を原点とし、鉛直下向きを正とする \(x\) 軸をとります。
物体が変位 \(x\) の位置にあるとき、ばねの自然長からの伸びは \(a+x\) となります。
このとき、物体に働く力は、
- 重力: \(mg\)(下向き、正)
- 弾性力: \(k(a+x)\)(上向き、負)
したがって、運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ ma = mg – k(a+x) $$
ここで、力のつり合いの条件 \(mg=ka\) を用いて式を整理します。
$$
\begin{aligned}
ma &= ka – k(a+x) \\[2.0ex]
ma &= ka – ka – kx \\[2.0ex]
ma &= -kx
\end{aligned}
$$
これは単振動の運動方程式の形をしています。この式から加速度 \(a\) は、
$$ a = -\frac{k}{m}x $$
単振動の加速度の一般式 \(a = -\omega^2 x\) と比較すると、
$$ \omega^2 = \frac{k}{m} $$
よって、角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) が得られます。
周期 \(T\) は \(T=2\pi/\omega\) なので、
$$ T = \frac{2\pi}{\sqrt{k/m}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
ここからは、主たる解法と同様に \(k=mg/a\) を代入します。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 角振動数と周期の関係: \(T=2\pi/\omega\)
主たる解法と同じ計算により、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}} $$
となります。
振動している途中の、ある一瞬を切り取って考えます。その瞬間に物体に働いている力(重力とばねの力)をすべて足し合わせて、物理学の基本ルールである運動の法則(\(ma=F\))の式を立てます。その式を整理すると、不思議なことに、いかにも単振動らしいシンプルな形(\(ma = -kx\))になります。この形から、振動のペース(角振動数)が分かり、周期も計算できる、という根本的なアプローチです。
運動方程式という力学の第一原理から出発して、主たる解法と同じ周期の公式を導くことができました。これにより、なぜこの運動が単振動になるのか、その復元力が何であるかを明確に理解することができます。
問(4)
思考の道筋とポイント
小球の速さは、振動の中心を通過するときに最大になります。単振動の最大速度 \(v_{\text{最大}}\) は、公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) で与えられます。振幅 \(A\) は(2)で \(A=a\) と求まっています。角振動数 \(\omega\) は、(3)で求めた周期 \(T=2\pi\sqrt{a/g}\) から、\(\omega = 2\pi/T\) の関係を使って計算できます。これらの値を公式に代入すれば、最大速度が求まります。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心で速さは最大になる。
- 最大速度の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を利用する。
- 周期 \(T\) と角振動数 \(\omega\) の関係 \(\omega=2\pi/T\) を利用する。
具体的な解説と立式
振動の中心を通過するときの速さは、最大速度 \(v_{\text{最大}}\) に等しいです。
$$ v_{\text{最大}} = A\omega $$
(2)より、振幅は \(A=a\)。
(3)より、周期は \(T=2\pi\sqrt{a/g}\) なので、角振動数 \(\omega\) は、
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{2\pi}{2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}} = \sqrt{\frac{g}{a}} $$
これらの \(A\) と \(\omega\) を最大速度の式に代入します。
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
- 角振動数と周期の関係: \(\omega = 2\pi/T\)
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega \\[2.0ex]
&= a \cdot \sqrt{\frac{g}{a}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{a^2 \cdot \frac{g}{a}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{ag}
\end{aligned}
$$
ブランコが一番低いところを通過するときが一番速いのと同じで、このおもりも振動の真ん中を通過するときにスピードが最大になります。その最大スピードは、「振れ幅(振幅)」と「振動のペース(角振動数)」を掛け算することで計算できます。それぞれの値をこれまでの設問で求めているので、それを使って計算します。
速さは \(\sqrt{ag}\) と求まりました。振幅 \(a\) が大きいほど、また重力加速度 \(g\) が大きい(復元力が強い)ほど速くなるという、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
この運動では、仕事をする力は保存力である重力と弾性力のみなので、力学的エネルギーが保存されます。速さを求める問題では、このエネルギー保存則が非常に有効です。運動の始点(手を離した上端)と、速さを求めたい点(振動の中心)の2点を選び、それぞれの点での力学的エネルギー(運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性エネルギーの和)が等しいという式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2\) が保存される。
- エネルギーを計算する上で、位置エネルギーの基準点を明確に設定する。
具体的な解説と立式
力のつり合いの位置(振動の中心)を、重力による位置エネルギーの基準点(高さ \(0\))とします。
- 手を離した瞬間(上端)のエネルギー \(E_{\text{上端}}\)
- 速さ: \(v=0\)。よって運動エネルギーは \(0\)。
- 位置: 基準点より \(a\) だけ上方。よって重力位置エネルギーは \(mga\)。
- ばねの伸び: 自然長なので伸びは \(0\)。よって弾性エネルギーは \(0\)。
- 合計: \(E_{\text{上端}} = 0 + mga + 0 = mga\)。
- 振動の中心を通過する瞬間のエネルギー \(E_{\text{中心}}\)
- 速さ: 求める速さ \(v_{\text{最大}}\)。よって運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\)。
- 位置: 基準点なので高さ \(0\)。よって重力位置エネルギーは \(0\)。
- ばねの伸び: つり合いの位置なので伸びは \(a\)。よって弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}ka^2\)。
- 合計: \(E_{\text{中心}} = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + 0 + \frac{1}{2}ka^2\)。
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{上端}} = E_{\text{中心}}\) より、
$$ mga = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}ka^2 $$
この式を \(v_{\text{最大}}\) について解きます。計算には、つり合いの式 \(mg=ka\) を利用します。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U_g+U_e = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
- 弾性エネルギー: \(U_e = \frac{1}{2}kx^2\)
エネルギー保存則の式に、つり合いの条件 \(mg=ka\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(ka)a &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}ka^2 \\[2.0ex]
ka^2 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}ka^2
\end{aligned}
$$
両辺から \(\frac{1}{2}ka^2\) を引くと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}ka^2 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 \\[2.0ex]
v_{\text{最大}}^2 &= \frac{k}{m}a^2
\end{aligned}
$$
ここで、再び \(k=mg/a\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}}^2 &= \frac{mg/a}{m}a^2 \\[2.0ex]
&= \frac{g}{a}a^2 \\[2.0ex]
&= ag
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ v_{\text{最大}} = \sqrt{ag} $$
おもりを持ち上げたとき、おもりは「高さ」のエネルギーを持っています。手を離すと、おもりは下に落ちながらスピードを上げ、そのエネルギーは「速さ」のエネルギーと「ばねを伸ばす」エネルギーに変わっていきます。エネルギーの種類は変わっても、その総量は変わりません。この「エネルギーの収支が合う」という法則を使って、一番速くなる真ん中の地点での速さを計算する方法です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。運動方程式とは全く異なるアプローチであるエネルギー保存則からも同じ答えが導かれることは、物理法則の整合性を示す良い例です。特に速さを求める問題では、エネルギー保存則は計算が直感的で強力な武器となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いの位置が振動の中心
- 核心: 鉛直ばね振り子を理解する上での出発点です。水平なばね振り子と異なり、常に重力が働いているため、ばねが自然長の位置ではなく、重力と弾性力がつりあう位置が単振動の中心となります。この問題では、設問(1)でまずこの中心位置を特定させ、その後の全ての設問の基準点としています。
- 理解のポイント:
- つり合いの式: 振動の中心(つり合いの位置)では、力の合力がゼロです。ばねの伸びを \(a\)、ばね定数を \(k\) とすると、\((\text{上向きの弾性力}) = (\text{下向きの重力})\) より \(ka=mg\) という極めて重要な関係式が成り立ちます。この式は、未知のばね定数 \(k\) を求める際などに繰り返し使われます。
- 単振動の復元力と周期
- 核心: つり合いの位置からの変位を \(x\) とすると、物体に働く合力(復元力)は \(F=-kx\) という、変位に比例し向きが逆の力になることです。この形になるからこそ、この運動は単振動であると言えます。そして、その周期は \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) で与えられます。
- 理解のポイント:
- 重力は見かけ上消える: つり合いの位置を基準に考えると、重力とつり合い分の弾性力は常に打ち消し合います。その結果、復元力として働くのは、つり合いの位置からの変位 \(x\) によって生じる弾性力 \(kx\) のみとなります。これにより、鉛直ばね振り子は水平ばね振り子と全く同じ周期になるのです。
- 周期の導出: 設問(3)では、周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) に、力のつり合いの式から得られる \(k=mg/a\) を代入することで、周期を \(m\) や \(k\) を含まない \(T=2\pi\sqrt{a/g}\) という形で導出しています。これは、つり合い時の伸び \(a\) さえ分かれば周期が計算できることを示しています。
- 単振動における力学的エネルギー保存則
- 核心: 重力と弾性力はどちらも保存力なので、これらの力が働く系では、力学的エネルギーの総和が一定に保たれます。この法則は、特に特定の点での速さを求めたい場合に強力な道具となります。
- 理解のポイント:
- 3つのエネルギーの和: 鉛直ばね振り子における力学的エネルギーは、①運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)、②重力による位置エネルギー \(mgh\)、③弾性エネルギー \(\frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) の3つの和で構成されます。
- エネルギーの変換: 振動中、これら3つのエネルギーは互いに形を変えながらも、その合計値は常に一定です。設問(4)の別解では、手を離した瞬間(運動エネルギーがゼロ)と振動の中心(速さが最大)でのエネルギーを比較することで、速さを求めています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平ばね振り子: 重力の影響がなく、ばねの自然長の位置がそのまま振動の中心となる、最も基本的な単振動です。
- 斜面上のばね振り子: 重力の斜面方向成分 (\(mg\sin\theta\)) と弾性力がつりあう位置が振動の中心になります。基本的な考え方は鉛直ばね振り子と全く同じです。
- 浮力を受ける物体の単振動: 水に浮く物体を少し押し沈めて放すと、浮力と重力の合力が復元力となって単振動します。この場合も、浮力と重力がつりあう位置が振動の中心となります。
- 単振り子: 振れ角が小さい場合、重力の接線成分が復元力となり、単振動とみなせます。周期は \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) となり、本問の周期 \(T=2\pi\sqrt{a/g}\) と非常に似た形をしています。
- 初見の問題での着眼点:
- まず「力のつり合いの位置」を特定する: 問題文を読み、物体に働く力がすべてつりあうのはどの位置かを考えます。ここが単振動の「中心」であり、全ての基準となります。
- 「振幅」を決定する: 振幅は「振動の中心」と「運動の端(手を離した位置など、速さがゼロになる点)」との距離です。中心を特定した後、初期条件から端の位置を見つけ、その差を計算します。
- 周期を求めるための「比例定数 \(K\)」を探す: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を使うために、復元力の比例定数 \(K\) を特定します。ばね振り子では \(K=k\)(ばね定数)です。\(k\) が未知の場合は、力のつり合いの式を使って消去できないか検討します。
- 運動方程式を立ててみる: 周期の公式を忘れたり、復元力が自明でなかったりする場合は、つり合いの位置を原点として運動方程式 \(ma=F_{\text{合力}}\) を立てます。式を整理して \(a = -(\text{定数}) \times x\) の形になれば、その「定数」が \(\omega^2\) にあたります。
- 速さを問われたら「エネルギー保存則」を疑う: 運動の始点と終点の状態が分かっていて、その間の速さを問われた場合、力学的エネルギー保存則が使えないか検討しましょう。位置エネルギーの基準点を自分で設定し、各点でのエネルギーを書き出して等しいと置けば、速さを計算できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動の中心を「自然長の位置」と間違える:
- 誤解: 水平ばね振り子の感覚で、ばねが伸びも縮みもしていない自然長の位置が振動の中心だと考えてしまう。
- 対策: 鉛直方向では常に重力が働いていることを忘れないでください。振動の中心は、その重力と弾性力が「つりあう」位置です。必ず最初に「力のつり合いの位置はどこか?」と自問する癖をつけましょう。
- 振幅の定義を誤解する:
- 誤解: 手を離した位置の天井からの距離(この問題では \(l\))を振幅としてしまう。あるいは、振動の端から端までの距離を振幅と勘違いする。
- 対策: 振幅は、常に「振動の中心から」の最大距離です。①中心の位置を確定させ、②端の位置を確定させ、③その2点間の距離を計算する、という手順を徹底しましょう。
- エネルギー保存則における位置エネルギーの基準点の混乱:
- 誤解: 重力による位置エネルギー (\(mgh\)) と弾性エネルギー (\(\frac{1}{2}kx^2\)) の基準点を混同する。
- 対策: 2つの位置エネルギーは別物だと明確に区別しましょう。弾性エネルギーの基準(伸びがゼロ)は、常に「ばねの自然長」の位置で固定です。一方、重力による位置エネルギーの基準(高さがゼロ)は、計算が楽になるように自分で自由に設定できます(例えば、つり合いの位置や最下点など)。計算を始める前に、どこを高さの基準にするかを図に明記すると混乱を防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)でのアプローチ選択(力のつり合い):
- 選定理由: 「振動の中心」という物理的な概念は、「物体に働く合力がゼロになる位置」という定義と直結しています。したがって、力のつり合いの式を立てることが、中心を特定するための最も直接的で論理的なアプローチです。
- 適用根拠: 物体が静止している(つりあっている)状態では、加速度がゼロであり、運動方程式 \(ma=F\) から合力 \(F\) がゼロになるという、力学の基本原理を適用しています。
- (3)での公式選択(周期の公式+つり合いの式):
- 選定理由: 求めたいのは「周期 \(T\)」。単振動の周期の公式は \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) です。しかし、この問題ではばね定数 \(k\) が与えられていません。このような場合、物理では未知数を消去するために、別の物理法則から得られる関係式を探します。それが(1)で用いた力のつり合いの式 \(ka=mg\) です。
- 適用根拠: 2つの独立した物理法則(単振動の周期の法則と、力のつり合いの法則)が同時に成り立っているため、これらを連立方程式として解くことで、未知数 \(k\) を消去し、与えられた文字だけで周期を表すことができます。
- (4)での公式選択(\(v_{\text{最大}}=A\omega\) or エネルギー保存則):
- 選定理由(模範解答): 求めたいのは「振動の中心での速さ」、すなわち「最大速度」です。単振動の運動を解析した結果として得られる、最大速度を振幅と角振動数で直接表す公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を使うのが最も効率的です。
- 選定理由(別解): 速さを問う問題で、運動の始点(上端)と終点(中心)の状態がはっきりしている場合、エネルギー保存則は非常に強力な選択肢となります。途中の運動の様子(加速度など)を一切考慮せず、始点と終点のエネルギー状態を比較するだけで答えが導けます。
- 適用根拠: この系で仕事をする力(重力、弾性力)はどちらも保存力であり、摩擦などの非保存力が仕事をしないため、力学的エネルギー保存則が厳密に成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- (3)の周期の計算のように、まず \(k=mg/a\) を文字のまま周期の公式に代入しましょう。もし具体的な数値が与えられていても、できるだけ最後まで文字式で計算を進める方が、物理的な意味が見えやすく、約分などによって計算が楽になることが多いです。
- ルートの計算を丁寧に行う:
- (3)の \(T=2\pi\sqrt{m/(mg/a)}\) のような、分数が入れ子になったルートの計算では、分母の逆数を掛ける操作 (\(m \cdot a/mg\)) を焦らずに一段階ずつ行いましょう。
- (4)の \(v = a\sqrt{g/a}\) から \(v=\sqrt{ag}\) への変形では、ルートの外にある \(a\) を中に入れる際に \(a^2\) になることを意識します。\(a = \sqrt{a^2}\) なので、\(\sqrt{a^2} \cdot \sqrt{g/a} = \sqrt{a^2 \cdot g/a} = \sqrt{ag}\) となります。
- 図を書いて位置関係を整理する:
- 鉛直ばね振り子の問題では、「天井」「自然長の位置」「つり合いの位置(振動の中心)」「手を離した位置(上端)」「最下点」など、多くの位置が登場し混乱しがちです。簡単な数直線を縦に描き、それぞれの位置と、それらの間の距離(\(l\), \(a\) など)を書き込むことで、振幅や位置エネルギーの計算ミスを劇的に減らすことができます。
- 単位ではなく次元(ディメンション)を確認する:
- (3)の周期の答え \(\sqrt{a/g}\) の次元を確認してみましょう。\(a\) は長さ[\(\text{L}\)]、\(g\) は加速度[\(\text{L}/\text{T}^2\)]なので、\(\sqrt{[\text{L}] / ([\text{L}/\text{T}^2])} = \sqrt{\text{T}^2} = [\text{T}]\)。これは時間(周期)の次元と一致しており、式がもっともらしいことが分かります。
- (4)の速さの答え \(\sqrt{ag}\) の次元は、\(\sqrt{[\text{L}] \cdot [\text{L}/\text{T}^2]} = \sqrt{[\text{L}^2/\text{T}^2]} = [\text{L}/\text{T}]\)。これは速さの次元と一致します。このような次元解析は、複雑な計算の検算に非常に有効です。
基本例題33 電車の中の単振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 地上(慣性系)から見た運動方程式による解法
- 模範解答が電車内(非慣性系)から見て慣性力を考えるのに対し、別解では地上(慣性系)から見て運動方程式を立て、おもりの運動を解析します。
- 設問(4)の別解: 復元力から周期を導出する解法
- 模範解答が見かけの重力加速度という概念を用いて公式を類推適用するのに対し、別解では振動の中心からの微小変位に対する復元力を実際に計算し、単振動の定義(\(F=-Kx\))に基づいて周期を厳密に導出します。
- 設問(3)の別解: 地上(慣性系)から見た運動方程式による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系と非慣性系という異なる視点から問題を解くことで、慣性力の物理的意味や座標系の取り方による解法の違いを深く理解できます。
- 論理的思考力の養成: 「見かけの重力」という便利な概念が、なぜ成立するのかを復元力の計算を通じて根本から理解することで、公式を暗記するだけでなく、その成り立ちから論理的に考察する力が養われます。
- 解法の基本の確認: 単振動の周期を求める基本に立ち返る(復元力を求めて \(F=-Kx\) の形にする)良い訓練になり、より複雑な振動問題への応用力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「慣性力が働く非慣性系での単振り子の運動解析」です。加速度運動する乗り物の中という非慣性系において、慣性力を考慮することで、見かけ上、重力の向きと大きさが変化した世界での単振り子の運動として捉え直すことが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 慣性力: 加速度 \(a\) で運動する観測者(非慣性系)から見ると、質量 \(m\) の物体には加速度と逆向きに大きさ \(ma\) の慣性力が働いているように見えること。
- 力のつり合い: 単振動の中心は、物体に働くすべての力(実在の力と慣性力)がつりあう位置であること。
- 見かけの重力: 非慣性系では、本来の重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」とみなすことで、問題を静止系のアナロジーで考えられること。
- 単振り子の周期の公式: 周期が \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) で与えられることを理解し、重力加速度 \(g\) の部分を「見かけの重力加速度 \(g’\)」に置き換えて応用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、電車が等速直線運動をしているため加速度はゼロ、したがって慣性力は働きません。よって、地上で静止している場合と全く同じ単振り子として扱います。
- (3), (4)では、電車が等加速度運動をしているため、電車内の観測者から見るとおもりには慣性力が働きます。この慣性力と本来の重力の合力を「見かけの重力」として考え、この見かけの重力が支配する世界での力のつり合い(振動の中心)と周期を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
電車は「等速度」で走行しています。物理学において重要なのは速度ではなく「加速度」です。等速直線運動は加速度が \(0\) の運動です。慣性力は、観測者が加速度運動している場合にのみ現れる見かけの力であり、その大きさは \(ma\) と表されます。いま加速度 \(a=0\) なので、おもりには慣性力は働きません。したがって、この状況は電車が地上で静止している場合と物理的に全く同じです。静止した状態で、おもりは重力と糸の張力だけを受けるので、糸は真下、つまり鉛直方向を向きます。
この設問における重要なポイント
- 等速直線運動は加速度が \(0\) の運動である。
- 慣性力が生じるのは、観測者がいる座標系が「加速している」場合のみである。
具体的な解説と立式
電車は等速直線運動をしているので、加速度は \(a=0\) です。
電車内の観測者から見ても、おもりに働く慣性力 \(F_{\text{慣性}} = ma\) は \(0\) です。
したがって、おもりに働く力は鉛直下向きの重力 \(mg\) と糸の張力 \(S\) のみです。
おもりが静止しているとき、これらの力はつりあっているので、張力 \(S\) は鉛直上向きに働きます。
よって、糸は鉛直方向になります。
使用した物理公式
- 慣性力: \(F_{\text{慣性}}=ma\) (ただし \(a=0\))
計算は不要です。
新幹線が揺れずにスーッと一定の速さで走っているとき、車内に吊るされたつり革がまっすぐ垂れ下がっているのと同じ状況です。速さが一定なら、特別な力(慣性力)は働かないので、おもりはただ重力に引かれて真下を向くだけです。
慣性力が働かないため、糸は鉛直方向を向きます。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、電車が等速直線運動している状況は、地上で静止している状況と全く同じです。したがって、この単振り子の周期は、通常の単振り子の周期の公式をそのまま適用すれば求まります。
この設問における重要なポイント
- 単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) を覚えていること。
- 等速直線運動中は、物理法則が静止時と同じように成り立つこと(ガリレイの相対性原理)。
具体的な解説と立式
慣性力が働かないため、この振り子に影響を与える重力加速度は通常の \(g\) です。
長さ \(L\) の単振り子の周期 \(T\) の公式は、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{L}{g}} $$
です。
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{L/g}\)
公式を適用するのみで、計算は不要です。
(1)と同じ理由で、電車が止まっているときと全く同じブランコだと考えられます。したがって、周期も普段我々が知っている単振り子の公式で計算できます。
周期は \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) となります。
問(3)
思考の道筋とポイント
電車が水平方向に大きさ \(a\) の加速度で運動しているため、電車と一緒に運動する観測者から見ると、おもりには進行方向と逆向き(図では左向き)に大きさ \(ma\) の慣性力が働いているように見えます。
単振動の中心は、おもりに働くすべての力(この場合は、①重力、②糸の張力、③慣性力)がつりあう位置です。これらの3つの力がつりあうとき、糸が鉛直方向からどれだけ傾くかを計算します。
この設問における重要なポイント
- 加速度 \(a\) の非慣性系では、加速度と逆向きに慣性力 \(ma\) が働く。
- 単振動の中心は、すべての力のベクトル和がゼロになる「力のつり合い」の位置である。
具体的な解説と立式
電車内の観測者から見ると、おもりには以下の3つの力が働いてつりあっています。
- 糸の張力 \(S\) (斜め上向き)
- 重力 \(mg\) (鉛直下向き)
- 慣性力 \(ma\) (水平左向き)
力のつり合いを、水平方向と鉛直方向の成分に分けて考えます。
- 水平方向のつり合い:
$$ (\text{右向きの力}) = (\text{左向きの力}) $$
$$ S\sin\theta = ma \quad \cdots ① $$ - 鉛直方向のつり合い:
$$ (\text{上向きの力}) = (\text{下向きの力}) $$
$$ S\cos\theta = mg \quad \cdots ② $$
求めたいのは \(\tan\theta\) なので、式①を式②で割ることで \(S\) を消去します。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 慣性力: \(F_{\text{慣性}}=ma\)
式① \(\div\) 式② より、
$$
\begin{aligned}
\frac{S\sin\theta}{S\cos\theta} &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]
\tan\theta &= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
電車が右向きに急発進すると、体は左向きにグッと押されるように感じます。これが慣性力です。振り子のおもりも同様に、左向きに \(ma\) という力で押されます。一方で、おもりには常に真下に引く重力 \(mg\) も働いています。この「左向きの力」と「下向きの力」の2つと、糸が引っ張る力がちょうど釣り合うために、糸は斜めに傾きます。その傾き具合を計算する問題です。
\(\tan\theta = a/g\) と求まりました。電車の加速度 \(a\) が大きいほど、また重力 \(g\) が小さいほど、傾きが大きくなるという直感に合う結果です。
思考の道筋とポイント
地上で静止している観測者(慣性系)からこの現象を見てみましょう。この観測者からは、慣性力は見えません。おもりに働く力は、重力 \(mg\) と張力 \(S\) の2つだけです。そして、おもりは静止しているのではなく、電車と一緒に水平右向きに加速度 \(a\) で運動しています。したがって、力のつり合いではなく、運動方程式を立てて考えます。
この設問における重要なポイント
- 慣性系では、慣性力は存在しない。
- 見かけの運動に合わせて、運動方程式 \(ma=F\) を立てる。
具体的な解説と立式
地上から見ると、おもりは水平方向に加速度 \(a\) で運動し、鉛直方向には動いていません。
したがって、運動方程式は水平方向と鉛直方向で以下のようになります。
- 水平方向の運動方程式:
$$ ma_x = F_x $$
$$ ma = S\sin\theta \quad \cdots ③ $$ - 鉛直方向の力のつり合い:
$$ S\cos\theta = mg \quad \cdots ④ $$
この2つの式は、主たる解法の式①、②と全く同じです。したがって、これを解けば同じ結果が得られます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
式③ \(\div\) 式④ より、
$$
\begin{aligned}
\frac{S\sin\theta}{S\cos\theta} &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]
\tan\theta &= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
電車を外から見ている人にとって、振り子のおもりは電車と一緒に右向きに加速しています。なぜ加速できるのかというと、糸が斜めに傾いて、その張力の一部が右向きの成分となっておもりを引っ張っているからです。運動の法則(\(ma=F\))を使って、この「加速させるための力」と「重力」のバランスを計算すると、糸の傾きがわかります。
非慣性系で慣性力を考えて力のつり合いを解く方法と、慣性系で運動方程式を解く方法、どちらも全く同じ結論に至りました。これは、慣性力が座標系の加速度に起因する見かけの力であることを示しています。どちらの視点で解いても良いことを理解しておくのが重要です。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)の状況では、電車内の観測者から見ると、おもりは常に下向きの重力 \(mg\) と左向きの慣性力 \(ma\) を受けています。この2つの力の合力を「見かけの重力」と考えることができます。この見かけの重力の方向が、この世界での「真下」に相当し、その大きさが「見かけの重力加速度」を決めます。
この振り子は、重力加速度がこの「見かけの重力加速度 \(g’\)」になった単振り子と全く同じように振る舞います。したがって、単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) の \(g\) を、この \(g’\) に置き換えることで周期を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 重力と慣性力の合力を「見かけの重力」とみなす。
- 見かけの重力の大きさから「見かけの重力加速度 \(g’\)」を求める。
- 周期の公式の \(g\) を \(g’\) に置き換えて計算する。
具体的な解説と立式
重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) は常に直角をなすベクトルです。
この2つの力の合力である「見かけの重力」の大きさを \(F’\) とすると、三平方の定理より、
$$ (F’)^2 = (mg)^2 + (ma)^2 $$
見かけの重力加速度を \(g’\) とすると、\(F’ = mg’\) と書けるので、
$$ (mg’)^2 = m^2(g^2 + a^2) $$
$$ g’^2 = g^2 + a^2 $$
$$ g’ = \sqrt{g^2 + a^2} $$
この \(g’\) を使って、単振り子の周期の公式を書き換えます。求める周期を \(T’\) とすると、
$$ T’ = 2\pi\sqrt{\frac{L}{g’}} $$
ここに \(g’\) を代入します。
使用した物理公式
- 見かけの重力加速度: \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\)
- 単振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{L/g}\)
$$
\begin{aligned}
T’ &= 2\pi\sqrt{\frac{L}{g’}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{L}{\sqrt{g^2+a^2}}}
\end{aligned}
$$
加速している電車の中は、まるで重力が斜め後ろ向きに強くなったような特殊な空間になります。この問題は、「もしも重力がそんな風に変わった星があったら、そこでの振り子の周期はどうなりますか?」という問いと同じです。まず、その星の「見かけの重力加速度」の大きさを計算し、それを周期の公式に当てはめるだけで答えが出ます。
周期は \(T’ = 2\pi\sqrt{L/\sqrt{g^2+a^2}}\) と求まりました。加速度 \(a\) が加わることで、分母が \(g\) より大きくなるため、周期 \(T’\) は静止時の周期 \(T\) よりも短くなります。これは、見かけの重力が強くなることで、振り子を元に戻そうとする力が強くなり、振動が速くなることに対応しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
周期を求める基本に立ち返り、つり合いの位置からの微小な変位に対して働く「復元力」を計算します。その復元力が \(F = -Kx\) の形をしていれば、その運動は単振動であり、周期は \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で計算できます。この方法により、「見かけの重力」という考え方を使わずに、周期を直接導出します。
この設問における重要なポイント
- 単振動の周期は、復元力の比例定数 \(K\) によって決まる (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\))。
- 微小な振動では、\(\sin\phi \approx \phi\) という近似が使える。
具体的な解説と立式
電車内の観測者から見ます。おもりは「見かけの重力」(大きさ \(mg’\))によって、角度 \(\theta\) の方向につり下げられています。
このつり合いの位置から、振り子の軌道に沿って微小な角度 \(\phi\) だけずらしたとします。
このとき、おもりに働く力のうち、軌道の接線方向(元の位置に戻そうとする方向)の成分が復元力 \(F_{\text{復元}}\) となります。
復元力は、見かけの重力 \(mg’\) の接線成分です。
$$ F_{\text{復元}} = -mg’\sin\phi $$
ここで、\(\phi\) は非常に小さいので、\(\sin\phi \approx \phi\) と近似できます。
$$ F_{\text{復元}} \approx -mg’\phi $$
また、つり合いの位置からの軌道に沿った変位を \(x\) とすると、\(x = L\phi\) の関係があるので、\(\phi = x/L\) となります。これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
F_{\text{復元}} &\approx -mg’\left(\frac{x}{L}\right) \\[2.0ex]
&= -\left(\frac{mg’}{L}\right)x
\end{aligned}
$$
これは、\(F = -Kx\) の形をしています。復元力の比例定数 \(K\) は、
$$ K = \frac{mg’}{L} $$
となります。したがって、周期 \(T’\) は、
$$
\begin{aligned}
T’ &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{mg’/L}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{L}{g’}}
\end{aligned}
$$
ここに \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\) を代入すれば、主たる解法と同じ結果が得られます。
使用した物理公式
- 復元力の定義
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
$$
\begin{aligned}
T’ &= 2\pi\sqrt{\frac{L}{g’}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{L}{\sqrt{g^2+a^2}}}
\end{aligned}
$$
周期を計算するための、より丁寧で基本的な方法です。振り子を少しだけ手でずらしたとき、真ん中に戻ろうとする力がどれくらいの強さになるかを計算します。この「戻ろうとする力」が強いほど、振動は速く(周期は短く)なります。この力の強さをきちんと計算すると、結果的に「見かけの重力」を使って考えた場合と全く同じ周期になることがわかります。
復元力を直接計算するという、単振動の定義に立ち返ったアプローチによって、主たる解法と同じ結果を導くことができました。これにより、「見かけの重力加速度」を用いて周期の公式を類推的に適用する方法が、物理的に正当であることが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力と非慣性系
- 核心: この問題の根幹は、加速度運動する座標系(非慣性系、この場合は電車)で物体の運動を考える際に現れる「慣性力」の概念を正しく理解し、適用することです。慣性力は、観測者が乗っている系の加速度 \(\vec{a}\) とは逆向きに、大きさ \(F=ma\) で働く「見かけの力」です。
- 理解のポイント:
- 非慣性系での運動法則: 電車内にいる観測者にとっては、この慣性力を他の実在の力(重力、張力など)と全く同じように扱うことで、力のつり合いや運動方程式といったニュートンの法則を形式的に適用できます。設問(3)では、慣性力を導入することで、3つの力がつりあう静的な問題として扱っています。
- 加速度がゼロなら慣性力もゼロ: 設問(1), (2)のように、電車が等速直線運動(加速度 \(a=0\))している場合は慣性力は働かず、地上で静止している場合と全く同じ物理現象となります。
- 見かけの重力
- 核心: 非慣性系において、本来の重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」とみなす考え方です。これにより、複雑な状況をより単純な問題に置き換えることができます。
- 理解のポイント:
- 重力の変化として捉える: 加速する電車内は、あたかも重力の大きさと向きが変わった別の惑星にいるかのような状況と等価です。この問題では、下向きの重力 \(mg\) と水平向きの慣性力 \(ma\) の合力が、その世界の「真の重力」として振る舞います。
- 公式の応用: この「見かけの重力」の考え方を用いると、設問(4)のように、単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) の重力加速度 \(g\) の部分を、「見かけの重力加速度 \(g’\)」に置き換えるだけで、複雑な計算なしに答えを導き出すことができます。
- 単振り子の周期
- 核心: 単振り子の周期は、糸の長さ \(L\) と、振り子を振動させる源となる重力加速度 \(g\) によって決まるという基本法則です。
- 理解のポイント:
- 復元力と周期の関係: 周期は、振り子をつり合いの位置に戻そうとする「復元力」の強さに依存します。復元力が強いほど、振動は速く(周期は短く)なります。
- \(g\) の役割: 公式における \(g\) は、この復元力を生み出す根源です。したがって、見かけの重力が強くなり \(g\) が \(g’\) に増大すれば、復元力も強くなり、周期は短くなる、という物理的な因果関係を理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の物理現象: エレベーターが上下に加速する場合、慣性力は鉛直方向に働きます。見かけの重力は \(m(g \pm \alpha)\) となり、体重計の目盛りやばね振り子の周期が変化します。
- 回転座標系(遠心力): 回転する円盤やメリーゴーランドの上では、中心から外向きに「遠心力」という慣性力が働きます。この遠心力と他の力を合わせた力のつり合いを考える問題に応用できます。
- 自由落下する箱の中: 箱が重力加速度 \(g\) で自由落下する場合、箱の中の物体には上向きに慣性力 \(mg\) が働きます。これが重力と完全に打ち消し合うため、箱の中は「無重力状態」となり、振り子は振動しません。
- 初見の問題での着眼点:
- まず座標系(視点)を決める: 問題を「乗り物の外(地上)から見るか(慣性系)」、「乗り物の中から見るか(非慣性系)」を最初に決めます。どちらでも解けますが、通常は乗り物の中(非慣性系)から見た方が、物体が静止したり単純な振動に見えたりするため、考えやすいことが多いです。
- 非慣性系で考える場合:
- Step 1: 慣性力を書き込む: 系の加速度 \(\vec{a}\) を確認し、それと真逆の向きに慣性力 \(-m\vec{a}\) を図に書き加えます。
- Step 2: 力のつり合いを考える: 慣性力を含めたすべての力がつりあう位置を探します。そこが、その系における物体の安定点であり、単振動の「中心」となります。
- Step 3: 「見かけの重力」を合成する: 重力と慣性力をベクトルとして合成し、「見かけの重力 \(m\vec{g’}\)」を作ります。
- Step 4: 公式を類推適用する: 静止系での公式(例: \(T=2\pi\sqrt{L/g}\))の \(g\) を、見かけの重力加速度 \(g’\) に置き換えて答えを求めます。
- 慣性系で考える場合:
- 慣性力は考えず、実在の力(重力、張力など)のみを図示します。
- 物体は乗り物と一緒に加速していることを念頭に、運動方程式 \(m\vec{a}_{\text{絶対}} = \vec{F}_{\text{合力}}\) を立てて解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の向きの間違い:
- 誤解: 電車の加速度と同じ向きに慣性力を作用させてしまう。
- 対策: 慣性力は、あくまで加速度運動する系から見た「見かけの力」であり、その向きは系の加速度と必ず逆向きになります。電車が右に加速すれば、慣性力は左です。「加速と逆」と呪文のように覚えましょう。
- 等速運動と加速度運動の混同:
- 誤解: 電車が動いていれば、いつでも慣性力が働くと思ってしまう。
- 対策: 慣性力の大きさは \(ma\) であり、「加速度 \(a\)」に比例します。速度が一定の「等速直線運動」では \(a=0\) なので、慣性力も \(0\) です。問題文の「等速度」と「加速度」という言葉を注意深く読み分けましょう。
- 見かけの重力加速度の計算ミス:
- 誤解: 重力加速度 \(g\) と電車の加速度 \(a\) が直交しているのに、見かけの重力加速度を \(g’ = g+a\) のように、単純な足し算(スカラー和)で計算してしまう。
- 対策: 力はベクトルです。重力 \(mg\)(下向き)と慣性力 \(ma\)(横向き)の合力は、ベクトルの合成(平行四辺形や三角形の法則)で求めます。この問題では2つのベクトルが直交しているので、三平方の定理を用いて合力の大きさを \(\sqrt{(mg)^2+(ma)^2}\) と計算します。必ず図を描いてベクトルの関係を視覚的に捉えることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (3)でのアプローチ選択(非慣性系での力のつり合い):
- 選定理由: 求めたいのは「単振動の中心」での糸の角度です。単振動の中心とは、その座標系において力がつりあって静止できる点です。加速度運動する電車内という「非慣性系」で物体が静止して見える状況を考えるには、見かけの力である「慣性力」を導入し、「力のつり合い」の式を立てるのが最も直接的で論理的な方法です。
- 適用根拠: 非慣性系では、実在の力に慣性力を加えることで、ニュートンの運動法則(特につり合いの法則)が形式的に成り立つという「ダランベールの原理」を適用しています。これにより、動的な問題を静的な問題に変換して解くことができます。
- (4)でのアプローチ選択(見かけの重力+周期公式のアナロジー):
- 選定理由: 求めたいのは「周期」。(3)で、この系での力のつり合いが、重力と慣性力の合力(見かけの重力)によって決まることがわかりました。この「見かけの重力」が、この世界での実質的な重力として振る舞うと解釈すれば、単振り子の周期公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) の \(g\) を、見かけの重力加速度 \(g’\) に置き換えるだけで周期が求まるはずだ、という物理的な類推(アナロジー)が成り立ちます。これは、復元力を直接計算するよりもはるかに簡潔です。
- 適用根拠: このアナロジーが物理的に正しいことは、別解で示したように、つり合いの位置からの復元力を厳密に計算し、単振動の周期の定義式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に当てはめることで証明されます。高校物理では、この強力なアナロジーを使いこなすことが重要なテクニックとなります。
- 別解でのアプローチ選択(慣性系での運動方程式、復元力の計算):
- 選定理由: 「慣性力」や「見かけの重力」といった概念を使わずに、力学の基本法則(運動方程式)や単振動の定義(復元力)に立ち返って問題を解きたい場合に選択します。これは、より根本的な理解を深め、なぜアナロジーが成り立つのかを論理的に確認する上で非常に有益です。
- 適用根拠: 慣性系における運動方程式 \(ma=F\) や、単振動の定義 \(F=-Kx\) は、物理学の最も基本的な法則であり、あらゆる力学現象の出発点です。これらの基本法則から出発することで、より応用的・発展的な問題にも対応できる盤石な基礎力が養われます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 力の図示を徹底する:
- この問題の成否は、正確な力の図示にかかっています。特に(3)では、張力 \(S\)、重力 \(mg\)、慣性力 \(ma\) の3つの力を、向きと力の始点を意識してベクトル矢印で正確に図に描き込みましょう。図が描ければ、力の分解やつり合いの式の立式ミスが格段に減ります。
- ベクトルの合成を図で確認する:
- (4)で見かけの重力加速度 \(g’\) を求める際は、下向きの \(g\) と横向きの \(a\) からなる直角三角形を図示し、その斜辺の長さとして \(g’=\sqrt{g^2+a^2}\) を求める、という視覚的なイメージを持つことが重要です。これにより、\(g+a\) のような単純な足し算のミスを防げます。
- 三角関数の定義に立ち返る:
- (3)で \(\tan\theta\) を求める際、力のつり合いの式 \(S\sin\theta = ma\) と \(S\cos\theta = mg\) を立てた後、\(\tan\theta = \frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) であることを思い出せば、自然と「(縦の式)分の(横の式)」ではなく「(横の式)分の(縦の式)」、つまり \(\frac{ma}{mg}\) を計算すればよいと判断できます。
- 極端な場合を代入して検算する:
- 計算結果の式がもっともらしいかを確認するために、極端な値を代入してみましょう。
- もし加速度 \(a=0\) なら: (3)の答えは \(\tan\theta=0\) となり \(\theta=0\)。(4)の答えは \(T’ = 2\pi\sqrt{L/\sqrt{g^2+0}} = 2\pi\sqrt{L/g}\) となります。これらは(1), (2)の静止時の結果と完全に一致するため、式が正しい可能性が高いと判断できます。
- もし重力 \(g=0\)(無重力空間)なら: (3)の答えは \(\tan\theta \to \infty\) となり \(\theta=90^\circ\)。糸は水平になります。(4)の答えは \(T’ = 2\pi\sqrt{L/\sqrt{0+a^2}} = 2\pi\sqrt{L/a}\) となります。これは、加速度 \(a\) が重力加速度の役割を果たす単振り子とみなせることを示しており、物理的に妥当です。
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基本問題
224 等速円運動と単振動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、等速円運動と単振動の基本的な関係性を理解するための穴埋め問題です。単振動の各式が、等速円運動の物理量を特定の軸に射影(影を落とすこと)することで、どのように導出されるかを体系的に学習することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等速円運動の基本量: 角速度 \(\omega\)、周期 \(T\)、半径 \(A\) の関係を理解していること。特に、回転角 \(\theta\) が \(\theta=\omega t\) と表されること、周期 \(T\) が \(T=2\pi/\omega\) となることが基本です。
- 正射影の考え方: 円周上を動く点の位置や、その点における速度ベクトル・加速度ベクトルを、一直線(この問題では \(x\) 軸)上に射影するとどうなるかを、三角関数を用いて正しく表現できること。
- 単振動の定義: 等速円運動の正射影として現れる往復運動が単振動であり、その変位、速度、加速度がどのように表されるかを理解すること。特に、加速度が変位に比例し、向きが常に逆(\(a=-\omega^2 x\))になるという関係は、単振動を特徴づける最も重要な性質です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)、(イ)では、まず等速円運動そのものの性質について、角速度の定義から回転角と周期を求めます。
- (ウ)〜(オ)では、円運動する点Pの位置、速度、加速度を考え、それぞれの \(x\) 成分(\(x\) 軸への正射影)を三角関数を用いて表現します。
- (カ)では、(ウ)と(オ)で求めた式から時刻 \(t\) を含まない形に変形し、変位 \(x\) と加速度 \(a\) の間の普遍的な関係式を導きます。
- (キ)、(ク)では、単振動の式における用語の定義(位相、初期位相)について答えます。