発展例題
発展例題14 重ねた物体との衝突
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 一体となったときの速度を求める設問の別解: A, B, Cの系全体で運動量保存則を用いる解法
- 模範解答が「衝突直後」と「一体化後」の間でAとBの系の運動量保存を考えるのに対し、別解では「衝突前」と「一体化後」の間でA, B, Cの系全体の運動量保存を考え、一気に速度を求めます。
 
 
 - 一体となったときの速度を求める設問の別解: A, B, Cの系全体で運動量保存則を用いる解法
 - 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: どの範囲を「系」とみなすか、どの時間区間で物理法則を適用するかによって、解法が異なることを学べます。
 - 思考の柔軟性向上: 問題を複数の段階に分割して考える方法と、最初と最後だけに着目して全体を貫く保存則を見出す方法の両方を体験できます。
 - 解法の選択肢拡大: 複雑な過程をすべて追わなくても、系全体で保存される量を見抜けば問題を単純化できる場合があることを学びます。
 
 - 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
 
 
この問題のテーマは「分裂・合体を含む物体の運動量保存」です。特に、衝突が起こる瞬間と、その後に摩擦力が働いて一体となる過程の2段階に分けて考える点が特徴的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 外力が働かない(または、内力に比べて無視できるほど小さい)系では、系の全運動量は保存されること。
 - 反発係数(はねかえり係数)の式: 2物体の衝突前後の相対速度の関係を表す式を正しく使えること。
 - 「瞬間的な衝突」の物理的意味: 衝突時間が極めて短いため、衝突中に働く力(撃力)は非常に大きいが、摩擦力のような有限の大きさの力による力積は無視できること。
 - 内力と外力の区別: どの物体を一つの「系」とみなすかによって、ある力が内力になるか外力になるかを正しく判断できること。
 
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、CとAの「衝突の瞬間」に着目します。衝突は瞬間的に起こり、この間、Bはまだ動き出さないため、AとCの2物体からなる系で「運動量保存則」と「反発係数の式」を連立させて、衝突直後のAとCの速度を求めます。
 - 次に、「衝突直後」から「AとBが一体となって運動する」までの過程に着目します。この過程では、AとBの間で摩擦力が働きますが、これはAとBからなる系にとっては「内力」です。床はなめらかなので、この系には水平方向の「外力」が働かないため、「運動量保存則」が成り立ちます。これを用いて、一体となったときの速度を求めます。
 
問 衝突直後のAとCの速度、一体となったときのAとBの速度
思考の道筋とポイント
この問題は2つの段階に分けて考えます。
第一段階は「CとAの衝突」。これは瞬間的な出来事です。このとき、AとBの間の摩擦力や、Aと床の間の垂直抗力などは、衝突の力(撃力)に比べて非常に小さく、その力積は無視できます。また、Bはまだ動き出していません。したがって、AとCの2物体だけで運動量保存則を考えます。
第二段階は「AとBの一体化」。衝突直後から、AとBが摩擦力によって同じ速度になるまでの過程です。このとき、AとBを一つの系とみなすと、摩擦力は系内部の力(内力)になります。床はなめらかなので、この系には水平方向の外力が働きません。よって、AとBの系の運動量が保存されます。
衝突直後のAとCの速度を求める
この設問における重要なポイント
- 衝突は瞬間的に起こるため、Bはまだ動いていないとみなせる。
 - AとCの系で、水平方向には外力が働かない(撃力は内力)ので、運動量が保存される。
 - 反発係数の式を用いることで、運動量保存則と合わせて連立方程式を立てられる。
 
具体的な解説と立式
衝突前のCの速度を \(v_0\)、衝突直後のAの速度を \(v_A\)、Cの速度を \(v_C\) とします。右向きを正とします。
- 運動量保存則
衝突前後のAとCの系全体の運動量は保存されます。
(衝突前の運動量の和) = (衝突後の運動量の和)
$$ mv_0 + 2m \cdot 0 = mv_C + 2mv_A \quad \cdots ① $$ - 反発係数の式
AとCの間の反発係数は \(e\) なので、
$$ e = -\frac{(\text{衝突後の相対速度})}{(\text{衝突前の相対速度})} $$
$$ e = -\displaystyle\frac{v_A – v_C}{0 – v_0} \quad \cdots ② $$ 
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v’_1 + m_2v’_2\)
 - 反発係数の式: \(e = -\displaystyle\frac{v’_1 – v’_2}{v_1 – v_2}\)
 
まず、式①と②を整理します。
式①の両辺を \(m\) で割ると、
$$ v_0 = v_C + 2v_A \quad \cdots ①’ $$
式②を変形すると、
$$
\begin{aligned}
e &= \displaystyle\frac{v_A – v_C}{v_0}
\end{aligned}
$$
$$ ev_0 = v_A – v_C \quad \cdots ②’ $$
式①’と②’を連立して解きます。
まず、\(v_C\) を消去するために、式①’と式②’の両辺を足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
(v_0) + (ev_0) &= (v_C + 2v_A) + (v_A – v_C) \\[2.0ex]
(1+e)v_0 &= 3v_A
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ v_A = \displaystyle\frac{1+e}{3}v_0 $$
次に、この結果を式②’に代入して \(v_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_C &= v_A – ev_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1+e}{3}v_0 – ev_0 \\[2.0ex]
&= \left( \displaystyle\frac{1+e}{3} – e \right)v_0 \\[2.0ex]
&= \left( \displaystyle\frac{1+e – 3e}{3} \right)v_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1-2e}{3}v_0
\end{aligned}
$$
一体となったときのAとBの速度を求める
この設問における重要なポイント
- 衝突直後から一体化するまでの間、AとBを一つの系とみなす。
 - AとBの間で働く動摩擦力は、この系における内力である。
 - 床はなめらかなので、AとBの系には水平方向の外力が働かない。よって、この系の運動量は保存される。
 
具体的な解説と立式
衝突直後のAの速度は \(v_A\)、Bの速度は \(0\) です。
一体となったときのAとBの共通の速度を \(v_{AB}\) とします。
AとBの系で運動量保存則を立てます。
(衝突直後の運動量の和) = (一体化後の運動量の和)
$$ 2mv_A + m \cdot 0 = (2m + m)v_{AB} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = (m_1+m_2)V\)
 
式③に、先ほど求めた \(v_A = \displaystyle\frac{1+e}{3}v_0\) を代入します。
$$
2m \left( \displaystyle\frac{1+e}{3}v_0 \right) = 3m v_{AB}
$$
両辺を \(m\) で割ると、
$$
\displaystyle\frac{2(1+e)}{3}v_0 = 3v_{AB}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
v_{AB} &= \displaystyle\frac{1}{3} \times \displaystyle\frac{2(1+e)}{3}v_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2(1+e)}{9}v_0
\end{aligned}
$$
この問題は、ビリヤードの玉突きと、電車に飛び乗る人の2つの出来事が連続して起こるようなものです。
まず、Cという玉が止まっているAという玉にぶつかります。この衝撃でAは動き出しますが、Aの上に乗っているBさんはまだその場にとどまろうとします(衝突直後)。これが第一段階です。
次に、動き出したA(電車)の上で、Bさん(乗客)が足を踏ん張って、やがてAと同じ速度で進むようになります。このとき、AとBの間では摩擦力が働きますが、AとBを一つのグループとして見れば、外から誰も押したり引いたりしていないので、グループ全体の勢い(運動量)は変わりません。これを使って、最終的な速度を計算します。
衝突直後の速度は \(v_A = \displaystyle\frac{1+e}{3}v_0\)、\(v_C = \displaystyle\frac{1-2e}{3}v_0\) と求まりました。
\(e\) は \(0 \le e \le 1\) の範囲の値をとります。
もし \(e=1\)(完全弾性衝突)なら、\(v_A = \displaystyle\frac{2}{3}v_0\)、\(v_C = -\displaystyle\frac{1}{3}v_0\) となり、Cははね返されます。
もし \(e=0\)(完全非弾性衝突)なら、\(v_A = v_C = \displaystyle\frac{1}{3}v_0\) となり、AとCは一体となって運動します。
もし \(e=0.5\) なら、\(v_C=0\) となり、Cはその場に停止します。
これらの結果は物理的に妥当です。
一体となったときの速度は \(v_{AB} = \displaystyle\frac{2(1+e)}{9}v_0\) と求まりました。
衝突直後のAの速度 \(v_A\) と比較すると、\(v_{AB} = \displaystyle\frac{2}{3}v_A\) となり、Bを加速させた分、Aの速度は遅くなっていることがわかります。これも物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
この問題の現象全体、つまり「CがAに衝突する前から、AとBが一体化する後まで」を通して考えます。
A, B, Cの3物体を一つの「系」とみなします。この系に働く水平方向の力は、CとAの間の撃力、AとBの間の摩擦力ですが、これらはすべて系内部の力(内力)です。床はなめらかなので、系全体には水平方向の外力が働きません。
したがって、系の全運動量は、最初から最後まで保存されます。このことを利用して、一体化した後のAとBの速度を、衝突直後の速度を介さずに直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- A, B, Cの3物体を一つの系とみなす。
 - 衝突前から一体化後まで、系全体の水平方向の運動量は保存される。
 - 「初め」の状態(衝突前)と「終わり」の状態(一体化後)の運動量を比較するだけでよい。
 
具体的な解説と立式
- 「初め」の状態(衝突前)
- Aの速度: \(0\)
 - Bの速度: \(0\)
 - Cの速度: \(v_0\)
 - 系全体の運動量 \(P_{\text{初}}\) は、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{初}} &= 2m \cdot 0 + m \cdot 0 + mv_0 \\[2.0ex]
&= mv_0
\end{aligned}
$$ 
 - 「終わり」の状態(AとBが一体化後)
- AとBは一体となり、共通の速度 \(v_{AB}\) で運動する。
 - Cは衝突によって速度が \(v_C\) に変化し、その後はA, Bと相互作用しないため、速度 \(v_C\) のまま等速直線運動を続ける。
 - 系全体の運動量 \(P_{\text{後}}\) は、
$$ P_{\text{後}} = (2m+m)v_{AB} + mv_C $$ 
 
運動量保存則 \(P_{\text{初}} = P_{\text{後}}\) より、
$$ mv_0 = (2m+m)v_{AB} + mv_C \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 運動量保存則
 
この別解で \(v_{AB}\) を求めるには、まず \(v_C\) を知る必要があります。\(v_C\) は主たる解法と同様に、AとCの衝突に関する運動量保存則と反発係数の式から求めます。
$$ v_C = \displaystyle\frac{1-2e}{3}v_0 $$
この結果を式④に代入します。
$$ mv_0 = 3mv_{AB} + m \left( \displaystyle\frac{1-2e}{3}v_0 \right) $$
両辺を \(m\) で割ると、
$$ v_0 = 3v_{AB} + \displaystyle\frac{1-2e}{3}v_0 $$
\(v_{AB}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
3v_{AB} &= v_0 – \displaystyle\frac{1-2e}{3}v_0 \\[2.0ex]
&= \left( 1 – \displaystyle\frac{1-2e}{3} \right)v_0 \\[2.0ex]
&= \left( \displaystyle\frac{3 – (1-2e)}{3} \right)v_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2+2e}{3}v_0
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
v_{AB} &= \displaystyle\frac{1}{3} \times \displaystyle\frac{2(1+e)}{3}v_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2(1+e)}{9}v_0
\end{aligned}
$$
A, B, Cの3人を一つのグループとして考えます。最初にCさんだけが勢い(運動量)を持っていました。その後、グループ内でCさんがAさんを突き飛ばしたり、AさんとBさんがくっついたりといろいろなことが起こりますが、グループの外からは誰も力を加えていません。そのため、グループ全体の勢いの合計は、最初から最後までずっと同じはずです。この「全体の勢いは変わらない」という法則を使って、最終的にAさんとBさんが一体になったときの速度を計算する方法です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、途中の過程(衝突直後のAの速度など)を計算する必要がなく、最初と最後の状態だけを比較すればよいため、見通しが良い場合があります。ただし、この方法でも結局は衝突後のCの速度 \(v_C\) が必要になるため、AとCの衝突について個別に考えるステップは省略できません。どの範囲を「系」ととらえ、どの時間区間で保存則を適用するかを意識することが重要です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則の適用範囲の的確な判断
- 核心: この問題は、一見複雑な現象を「衝突の瞬間」と「その後の運動(一体化)」という2つの独立した段階に分解し、それぞれの段階で適切な「系」を設定して運動量保存則を適用する能力を問うています。どの時間区間で、どの物体グループの運動量が保存されるかを見抜くことが全てです。
 - 理解のポイント:
- 段階1(CとAの衝突): 衝突は「瞬間的」に起こるため、摩擦力のような有限の大きさの力による力積は、撃力に比べて無視できます。また、Bはこの瞬間まだ動き出せません。したがって、衝突の直前直後では「AとCの2物体」を系とみなし、運動量保存則を適用します。
 - 段階2(AとBの一体化): 衝突が終わった後、AとBは摩擦力(これはAとBの系にとっては内力)を及ぼしあいながら、やがて一体となります。床はなめらかなので、この過程で「AとBの2物体」を系とみなすと、水平方向の外力は働いていません。よって、衝突直後から一体化後までの間で、この系の運動量は保存されます。
 
 
 - 反発係数の式の併用
- 核心: 衝突現象では、運動量保存則だけでは未知数(衝突後の各物体の速度)を決定できない場合がほとんどです。そこで、運動量を補完するもう一つの関係式として、反発係数(はねかえり係数)の式を連立させるのが定石です。
 - 理解のポイント:
- 反発係数の式 \( e = -\frac{(\text{衝突後の相対速度})}{(\text{衝突前の相対速度})} \) は、衝突によってどれだけ運動エネルギーが失われるかを表す指標です。この式を正しく立てることで、未知数と同じ数の独立した方程式を揃えることができます。
 
 
 
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分裂: 静止した物体が爆発などで2つ以上に分裂する問題。分裂は内部の力(内力)によるものなので、分裂前後で系全体の運動量は保存されます。
 - 台車上での相対運動: なめらかな床の上にある台車の上で、人が歩いたり物体が滑ったりする問題。「人と台車」を一つの系とみなせば、水平方向の外力は働かないため、運動量が保存されます。
 - ロケットの推進: ロケットが燃料を後方に噴射して加速する問題。「ロケット本体と噴射された燃料」を一つの系とみなせば、運動量保存則が成り立ちます。
 - 多段階の衝突・合体: 今回のように、衝突の後に合体が起こる、あるいは合体した物体がさらに別の物体と衝突するなど、複数の現象が連続して起こる問題。各段階ごとに適切な系を設定し、保存則を適用していくことが重要です。
 
 - 初見の問題での着眼点:
- 現象を時間軸で分解する: まず、問題で起きている現象を「衝突の瞬間」「摩擦で滑る期間」「一体化」のように、時間的なステップに分解して考えます。
 - 各ステップで「系」を定義する: 分解した各ステップにおいて、どの物体を一つのグループ(系)とみなすかを決定します。
 - 外力の有無をチェックする: 定義した系に対し、考えている方向(多くは水平方向)に外力が働いていないかを確認します。床がなめらか、水平方向から力を加えていない、などの記述がヒントになります。
 - 保存則の選択:
- 外力(の力積)がゼロ、または無視できる場合 → 運動量保存則が適用できます。瞬間的な衝突や分裂、内力のみが働く運動では最有力候補です。
 - 非保存力(摩擦力、空気抵抗、非弾性衝突など)が仕事をしない場合 → 力学的エネルギー保存則が適用できます。この問題では、非弾性衝突や摩擦がエネルギーを失わせるため、力学的エネルギー保存則は使えません。
 
 - 方程式の数を数える: 運動量保存則を立てた後、未知数の数と方程式の数が合っているかを確認します。足りなければ、反発係数の式など、別の関係式が使えないか検討します。
 
 
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則の適用範囲の混同:
- 誤解: CとAが衝突する瞬間に、AとBの間の摩擦力も重要な力だと考え、AとCの2体系で運動量保存則を使うことをためらってしまう。
 - 対策: 「衝突は瞬間的」という言葉の物理的な意味を正確に理解しましょう。衝突中に働く撃力は極めて大きいため、その瞬間に働く摩擦力のような有限の力の影響(力積)は無視して構いません。したがって、衝突の直前直後という「点」で時間を止め、衝突に関与したAとCだけの運動量保存を考えるのが正しいアプローチです。
 
 - 一体化の過程に無関係な物体を含めてしまう:
- 誤解: AとBが一体化する過程を考える際に、すでに離れていったCも運動量保存の式に入れてしまう。
 - 対策: 現象を時系列で明確に区別しましょう。CとAの衝突は「一瞬」で完了します。その後、Cは自身の速度で飛び去り、AとBの物語とは無関係になります。AとBの一体化は、その後の「時間のかかる」現象です。したがって、主たる解法のように「衝突直後」と「一体化後」の2つの時点でAとBの系の運動量を比較するのが最もシンプルです。
 
 - 反発係数の式の符号ミス:
- 誤解: 反発係数の式の定義 \( e = -\frac{v’_A – v’_C}{v_A – v_C} \) に含まれるマイナス符号を忘れたり、分子と分母で速度の引き算の順番(A-CなのかC-Aなのか)を統一しなかったりする。
 - 対策: 式を \( e = -\frac{(\text{後の相対速度})}{(\text{前の相対速度})} \) という言葉で覚えましょう。そして、相対速度を計算するときは、常に「(物体Aの速度)-(物体Cの速度)」のように、基準とする順番を一貫させることが重要です。
 
 
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (衝突直後の速度)での公式選択(運動量保存則+反発係数の式):
- 選定理由: 「衝突」という現象を扱う問題では、運動量保存則が最も基本的なツールです。問題文に「なめらかな床」とあることから、衝突するAとCの系には水平方向の外力が働かないため、運動量保存則の適用が確定します。しかし、求めたい未知数が衝突後の速度 \(v_A\) と \(v_C\) の2つであるのに対し、運動量保存則の式は1本しかありません。この未知数と式の数の不一致を解消するために、衝突現象を記述するもう一つの法則である「反発係数の式」を導入する必要があるのです。
 - 適用根拠: 運動量保存則は、外力による力積が無視できる系で成り立つ普遍的な法則です。反発係数の式は、衝突における力学的エネルギーの保存の度合いを示す関係式であり、この2つを組み合わせるのが衝突問題を解くための王道パターンです。
 
 - (一体化後の速度)での公式選択(運動量保存則):
- 選定理由: 「一体となって運動する」という記述は、複数の物体が合体する典型的な状況であり、運動量保存則の出番です。AとBが一体化する過程で働く力は、両者の間で及ぼしあう摩擦力だけです。この摩擦力をAとBの系における「内力」とみなせば、系には水平方向の外力が働かないことになります。
 - 適用根拠: AとBからなる系に、水平方向の外力が働かない(力積がゼロである)という物理的な事実が、運動量保存則を適用する直接的な根拠となります。
 
 - (補足)なぜ力学的エネルギー保存則は使えないのか?:
- 理由: この問題の一連の現象では、力学的エネルギーは保存されません。
- CとAの衝突時: 問題文で反発係数 \(e\) が与えられており、\(e=1\)(完全弾性衝突)とは限りません。\(e<1\) の場合、衝突によって運動エネルギーの一部が熱や音のエネルギーに変わり、失われます。
 - AとBの一体化時: AとBの間で動摩擦力が仕事をし、摩擦熱が発生します。この過程でも力学的エネルギーは減少します。
 
 - 結論: このようにエネルギーが失われる(非保存力が仕事をする)ため、エネルギー保存則を用いて速度を求めることはできません。
 
 - 理由: この問題の一連の現象では、力学的エネルギーは保存されません。
 
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を遂行する:
- 最初に \(m\) や \(v_0\) に具体的な数値を代入するのではなく、文字のまま式を立て、計算を進めましょう。この問題のように、途中で質量 \(m\) がきれいに約分されて消えることが多く、計算の手間が省けます。また、最終的な答えの単位が速度の単位になっているかなどの検算(次元解析)も容易になります。
 
 - 連立方程式は加減法で解く:
- 衝突の問題では、運動量保存則の式と反発係数の式を連立させることが多いですが、これらは足し算や引き算(加減法)をすると、片方の変数がきれいに消去できる形になっていることがほとんどです。代入法よりも計算がシンプルになり、ミスを減らせます。
 
 - 分数の通分を丁寧に行う:
- \(v_C\) を求める計算で登場する \( \left( \frac{1+e}{3} – e \right)v_0 \) のような計算では、通分を焦らずに行いましょう。\( \frac{1+e – 3e}{3} \) のように、分子の符号に注意して丁寧に計算することが重要です。
 
 - 物理的な妥当性で検算する:
- 計算で得られた答えが、物理的にあり得る状況かを最後に考えましょう。
- \(v_A = \frac{1+e}{3}v_0\): \(e\) は \(0\) から \(1\) の間の値なので、\(v_A\) は必ず正の値となり、Aが右向きに動くという直感と一致します。
 - \(v_C = \frac{1-2e}{3}v_0\): この式の符号は \(e\) の値によって変わります。\(e<0.5\) なら正(Cは前進)、\(e=0.5\) ならゼロ(Cは停止)、\(e>0.5\) なら負(Cははね返る)。これらはすべて物理的に起こりうるシナリオであり、答えが妥当であることを裏付けています。
 - \(v_{AB} = \frac{2(1+e)}{9}v_0\): これは \(v_A\) と比較すると \(v_{AB} = \frac{2}{3}v_A\) となります。静止していたBを動かすためにAが減速するのは当然なので、\(v_{AB} < v_A\) というこの関係も妥当です。
 
 
 - 計算で得られた答えが、物理的にあり得る状況かを最後に考えましょう。
 - 状況ごとに図を描く:
- 「衝突前」「衝突直後」「一体化後」の3つの場面について、それぞれ簡単な図を描き、各物体の速度ベクトルを矢印で示すと、状況を視覚的に整理できます。これにより、立式の際にどの速度を使えばよいかが明確になり、ミスを防げます。
 
 
発展例題15 斜めの衝突
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 別解1: 鉛直方向の変位に着目する解法
- 模範解答がBから最高点までの時間を求めて2倍するのに対し、別解ではBからCまでの全区間において鉛直方向の変位が \(0\) になることを利用し、滞空時間を二次方程式から直接求めます。
 
 - 別解2: 運動の対称性を利用する解法
- 模範解答が速度の公式(\(v=v_0+at\))から時間を求めるのに対し、別解ではA→Bの自由落下とB→Cの投げ上げ運動の対称性に着目し、落下距離や上昇距離の公式(\(y = \frac{1}{2}gt^2\) など)から時間を求めます。
 
 
 - 別解1: 鉛直方向の変位に着目する解法
 - 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 同じ放物運動を、速度の時間変化で捉える方法(模範解答)と、位置の時間変化で捉える方法(別解1)の違いと関連性を理解できます。
 - 思考の柔軟性向上: 問題の条件に応じて、最高点を経由するか、全区間を直接扱うかなど、効率的な解法を選択する訓練になります。また、運動の対称性(別解2)という物理的な洞察を利用する視点も養われます。
 - 解法の選択肢拡大: 等加速度運動の3つの公式を、求める量に応じて自在に使い分ける能力が高まります。
 
 - 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
 
 
この問題のテーマは「斜めの衝突と放物運動」です。水平投射された物体が床で衝突し、再び放物運動を行うという、運動の分解と衝突法則を組み合わせた典型問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 水平方向の運動(力が働かないので等速直線運動)と、鉛直方向の運動(重力が働くので等加速度直線運動)に分けて独立に考えること。
 - 反発係数の式: 衝突面の「垂直方向」の速度成分にのみ適用されること。衝突後の垂直方向の速さは、衝突前の \(e\) 倍になります。
 - なめらかな床での衝突: 衝突面の「水平方向(平行方向)」には力が働かないため、速度成分は衝突の前後で変化しないこと。
 - 放物運動の対称性: 物体を投げ上げてから同じ高さに戻ってくるまでの運動では、上昇にかかる時間と下降にかかる時間は等しいこと。
 
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、A→Bの運動(水平投射)を水平・鉛直に分解して考え、小球が点Bに到達する直前の速度の鉛直成分を求めます。
 - 次に、点Bでの床との衝突において、反発係数の法則を適用します。水平方向の速度は変わらず、鉛直方向の速度が \(e\) 倍になってはね返るとして、衝突直後の速度を求めます。
 - 最後に、衝突後のB→Cの運動(斜方投射)を考えます。鉛直方向の運動からB→C間の滞空時間を求め、その時間と一定である水平方向の速さから、BC間の距離を計算します。
 
問 BC間の距離
思考の道筋とポイント
斜めに衝突する物体の運動を考えるときの鉄則は、速度を衝突面に「垂直な成分」と「水平な成分」に分解することです。
この問題では、床が水平なので、速度の「鉛直成分」と「水平成分」に分解すればよいことになります。
- 水平成分: 床はなめらかなので、衝突の際に水平方向には全く力を受けません。したがって、小球の速度の水平成分は、最初から最後までずっと \(v_0\) のままです。
 - 鉛直成分: 衝突の直前、小球は下向きの速さを持っています。衝突ではね返ることで、この速さが \(e\) 倍された上向きの速さに変わります。
 
衝突後のB→Cの運動は、初速度が(水平: \(v_0\), 鉛直上向き: \(v_2\))の斜方投射と全く同じです。BC間の距離は「(水平方向の速さ \(v_0\))×(BからCまでかかった時間)」で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 運動をA→B(水平投射)とB→C(斜方投射)の2段階に分ける。
 - 速度を常に水平成分と鉛直成分に分解して考える。
 - 衝突の前後で、水平速度は \(v_0\) で一定。
 - 衝突の前後で、鉛直速度の大きさは \(e\) 倍になり、向きは逆転する。
 
具体的な解説と立式
この問題を4つのステップで解いていきます。
ステップ1: Bでの衝突直前の速度を求める
AからBまでの運動で、水平方向の速さは \(v_0\) で一定です。
鉛直方向は、初速度 \(0\) で高さ \(h\) を自由落下する運動と同じです。衝突直前の鉛直方向の速さを \(v_1\) とすると、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) より、
$$ v_1^2 – 0^2 = 2gh $$
ステップ2: Bでの衝突直後の速度を求める
衝突直後の速度の水平成分は \(v_0\) のまま変わりません。
衝突直後の鉛直成分の速さを \(v_2\) とします。反発係数の定義より、鉛直方向にはね返った直後の速さは、衝突直前の速さの \(e\) 倍になるので、
$$ v_2 = ev_1 $$
ステップ3: BからCまでの時間(滞空時間)を求める
BからCの運動は、鉛直方向には初速度 \(v_2\) で投げ上げられ、同じ高さに戻ってくる運動です。
対称性から、Bから最高点まで上がる時間と、最高点からCまで下りる時間は同じです。Bから最高点まで上がる時間を \(t\) とします。
最高点では鉛直方向の速度が \(0\) になるので、公式 \(v = v_0 + at\) より、
$$ 0 = v_2 – gt $$
BからCまでの全時間 \(T\) は、この2倍なので \(T = 2t\) です。
ステップ4: BC間の距離を求める
BC間の距離を \(x\) とします。水平方向は常に速さ \(v_0\) の等速直線運動なので、距離は「速さ × 時間」で求められます。
$$ x = v_0 T $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\), \(v = v_0 + at\)
 - 反発係数の定義: \(v’ = ev\)
 - 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
 
ステップ1から順に計算していきます。
- \(v_1\) の計算
$$
\begin{aligned}
v_1^2 &= 2gh \\[2.0ex]
v_1 &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$ - \(v_2\) の計算
$$ v_2 = ev_1 = e\sqrt{2gh} $$ - 時間 \(t\) と \(T\) の計算
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{v_2}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{e\sqrt{2gh}}{g} \\[2.0ex]
&= e\sqrt{\frac{2gh}{g^2}} \\[2.0ex]
&= e\sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
よって、BからCまでの全時間 \(T\) は、
$$ T = 2t = 2e\sqrt{\frac{2h}{g}} $$ - 距離 \(x\) の計算
$$
\begin{aligned}
x &= v_0 T \\[2.0ex]
&= v_0 \times 2e\sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= 2ev_0\sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$ 
ボールを真横に投げると、重力に引かれてだんだん下に落ちていき、放物線を描いて床にぶつかります(A→B)。
床ではね返るとき、ボールが持っていた下向きの勢いが、反発係数 \(e\) という割合だけ弱められて、上向きの勢いに変わります。横向きの勢いは、床がつるつるなので全く変わりません。
はね返った後(B→C)は、弱まった上向きの勢いと、変わらない横向きの勢いで、再び放物線を描いて飛んでいきます。
このBからCまで飛んでいる時間を計算し、その時間にずっと一定だった横向きの速さを掛けてあげれば、BC間の距離が計算できます。
BC間の距離は \(2ev_0\sqrt{2h/g}\) と求まりました。
この結果を吟味してみましょう。
- \(e\) が大きい(よくはね返る)ほど、滞空時間が長くなるので、距離 \(x\) は長くなります。
 - 初速度 \(v_0\) が大きいほど、同じ滞空時間でもより遠くまで飛ぶので、距離 \(x\) は長くなります。
 - 高さ \(h\) が大きいほど、衝突前の落下速度が大きくなり、はね返った後の初速も大きくなるため滞空時間が長くなり、距離 \(x\) は長くなります。
 
これらの関係はすべて物理的な直感と一致しており、妥当な結果であると言えます。
思考の道筋とポイント
模範解答では、B→最高点→Cという運動を、対称性を利用して「最高点までの時間の2倍」として滞空時間を求めました。
この別解では、B→Cの運動全体を一つの運動と捉え、鉛直方向の「変位」が \(0\) になることを利用して、滞空時間を直接求めます。
この設問における重要なポイント
- B→Cの運動を、初速度(水平 \(v_0\), 鉛直 \(v_2\))の斜方投射とみなす。
 - Bから出発してCに着地するまでの間、鉛直方向の移動距離(変位)は \(0\) である。
 - 等加速度運動の変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) を利用する。
 
具体的な解説と立式
主たる解法と同様に、衝突直後の鉛直方向の速さ \(v_2\) を求めます。
$$ v_2 = e\sqrt{2gh} $$
BからCまでの時間を \(T\) とします。鉛直上向きを正とすると、この間の鉛直方向の変位は \(0\) です。
変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) に、初速度 \(v_2\)、時間 \(T\)、加速度 \(-g\) を代入すると、
$$ 0 = v_2 T + \frac{1}{2}(-g)T^2 $$
この方程式を解くことで、滞空時間 \(T\) が直接求まります。
BC間の距離 \(x\) は、
$$ x = v_0 T $$
で計算できます。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
 
まず、滞空時間 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= v_2 T – \frac{1}{2}gT^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gT^2 – v_2 T &= 0 \\[2.0ex]
T \left( \frac{1}{2}gT – v_2 \right) &= 0
\end{aligned}
$$
\(T=0\) はBを出発した瞬間なので、求める時間は \(T>0\) の解です。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}gT – v_2 &= 0 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gT &= v_2 \\[2.0ex]
T &= \frac{2v_2}{g}
\end{aligned}
$$
ここに \(v_2 = e\sqrt{2gh}\) を代入すると、
$$ T = \frac{2e\sqrt{2gh}}{g} = 2e\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
これは主たる解法の結果と一致します。
したがって、BC間の距離 \(x\) も同じ結果になります。
$$ x = v_0 T = 2ev_0\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
ボールがB地点からはね返って、再び床のC地点に落ちるまでの時間を考えます。このとき、ボールは上がって下りてくるので、結局、上下方向には移動していないことになります(変位がゼロ)。この「上下方向の移動距離がゼロ」という条件を使って、飛んでいる時間を計算する方法です。最高点がどこかを考えなくても、出発点と到着点の高さが同じなら使える便利な考え方です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。放物運動の対称性を利用して最高点までの時間を考える方法も、変位の式から直接滞空時間を求める方法も、どちらも有効なアプローチです。問題によっては後者の方が計算が楽な場合もあります。
思考の道筋とポイント
物体の落下と投げ上げの運動は、時間について対称的な関係にあります。この別解では、速度ではなく「距離」と「時間」の関係式を主軸に、運動の対称性を利用して時間を求めます。
この設問における重要なポイント
- A→Bの落下時間は、高さ \(h\) からの自由落下時間と等しい。
 - B→Cの運動で達する最高点の高さ \(h’\) を求める。
 - B→Cの滞空時間は、高さ \(h’\) からの自由落下時間の2倍と等しい。
 
具体的な解説と立式
ステップ1: 衝突直後の鉛直速度 \(v_2\) を求める
主たる解法と同様に、\(v_1 = \sqrt{2gh}\) であり、\(v_2 = ev_1 = e\sqrt{2gh}\) です。
ステップ2: B→Cの運動での最高点の高さを求める
Bからはね返った小球が達する最高点の高さを \(h’\) とします。B点での鉛直方向の運動エネルギーが、最高点での位置エネルギーに変わると考えます(力学的エネルギー保存)。あるいは、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使います。最高点では鉛直速度が \(0\) になるので、
$$ 0^2 – v_2^2 = 2(-g)h’ $$
ステップ3: B→Cの滞空時間を求める
Bから最高点までの上昇時間は、最高点(高さ \(h’\))からBまで自由落下してくる時間と等しいです。自由落下の公式 \(y = \frac{1}{2}at^2\) より、
$$ h’ = \frac{1}{2}gt_{\text{上り}}^2 $$
BからCまでの全時間 \(T\) は、この2倍なので \(T = 2t_{\text{上り}}\) です。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\), \(y = \frac{1}{2}at^2\)
 
- 最高点の高さ \(h’\) の計算
$$
\begin{aligned}
2gh’ &= v_2^2 \\[2.0ex]
h’ &= \frac{v_2^2}{2g}
\end{aligned}
$$
ここに \(v_2 = e\sqrt{2gh}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
h’ &= \frac{(e\sqrt{2gh})^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 \cdot 2gh}{2g} \\[2.0ex]
&= e^2h
\end{aligned}
$$ - 滞空時間 \(T\) の計算
まず、上り時間 \(t_{\text{上り}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
t_{\text{上り}}^2 &= \frac{2h’}{g} \\[2.0ex]
t_{\text{上り}} &= \sqrt{\frac{2h’}{g}}
\end{aligned}
$$
ここに \(h’ = e^2h\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
t_{\text{上り}} &= \sqrt{\frac{2e^2h}{g}} \\[2.0ex]
&= e\sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
全時間 \(T\) は、
$$ T = 2t_{\text{上り}} = 2e\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
これは主たる解法の結果と一致します。したがって、BC間の距離 \(x\) も同じ結果になります。
$$ x = v_0 T = 2ev_0\sqrt{\frac{2h}{g}} $$ 
ボールがはね返った後、どれくらいの高さまで上がるかをまず計算します。はね返る勢いが強いほど高く上がります。計算すると、最初にもともといた高さ \(h\) の \(e^2\) 倍の高さまで上がることがわかります。
次に、その高さからボールが落ちてくるのにかかる時間を計算し、それを2倍すれば、飛んでいる時間全体がわかります(上がる時間と下りる時間は同じなので)。この時間と、横向きの速さを掛ければ、BC間の距離が求まります。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、速度の公式ではなく距離の公式を主体に組み立てられており、物理現象を別の角度から見ることができます。特に「はね返った後の最高到達点が、元の高さの \(e^2\) 倍になる」という関係は、他の問題でも応用できる重要な知見です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解(水平成分と鉛直成分)
- 核心: 2次元の運動を、互いに影響しない1次元の運動(水平方向の等速直線運動と鉛直方向の等加速度直線運動)の組み合わせとして捉えることです。斜めの運動を扱う上での最も基本的な考え方です。
 - 理解のポイント:
- 水平方向: 小球には水平方向に力が働かないため、速度は常に \(v_0\) で一定です。
 - 鉛直方向: 小球には常に鉛直下向きに重力が働くため、等加速度直線運動をします。
 
 
 - 衝突における速度成分の選択的変化
- 核心: 衝突現象では、速度を衝突面に「垂直な成分」と「平行な成分」に分解し、それぞれの成分がどのように変化するかを正しく理解することです。
 - 理解のポイント:
- 垂直成分: 反発係数 \(e\) が関係し、はね返り後の速さは衝突前の速さの \(e\) 倍になります(\(v’_{\perp} = e v_{\perp}\))。
 - 平行成分: 衝突面がなめらかな場合、摩擦力が働かないため、この成分は変化しません(\(v’_{\parallel} = v_{\parallel}\))。
 
 
 
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁との斜め衝突: ボールが鉛直な壁に斜めに衝突する問題。この場合は、壁に垂直な方向(水平方向)の速度成分が \(e\) 倍になり、壁に平行な方向(鉛直方向)の速度成分は重力の影響を受けますが、衝突の瞬間では変化しません。
 - 角度のある斜面との衝突: 水平ではなく、角度のついた斜面に物体が衝突する問題。この場合は、座標軸を斜面に「垂直」と「平行」な方向に設定し、重力や速度をその方向に分解して考える必要があります。
 - 連続する多重衝突: 2つの壁の間をボールが何度も往復するような問題。一回の衝突で速度成分がどう変わるかのルールを、繰り返し適用していくだけです。
 
 - 初見の問題での着眼点:
- まずは運動を分解する: 運動を水平と鉛直、あるいは衝突面に平行と垂直な成分に分解することを考えます。これが全ての出発点です。
 - 衝突の前後で運動を分ける: 運動全体を「衝突前の運動」と「衝突後の運動」の2つのフェーズに分けて考えます。
 - 衝突の瞬間に注目する: 衝突の直前と直後で、各速度成分がどう変化したかを整理します。「変わらないのはどれか?」「\(e\) 倍になるのはどれか?」を明確にします。
 - 時間(滞空時間)を求める: 衝突後の放物運動で、水平距離を求めるには滞空時間が必要です。鉛直方向の運動に着目し、(a)最高点までの時間の2倍、(b)変位が0になる時間、(c)最高点の高さから落下する時間の2倍、など、複数の方法で求められないか検討します。
 - 最終的な量を計算する: 求めた時間と、一定である水平(平行)方向の速さを掛け合わせて、距離を求めます。
 
 
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反発係数を速度全体に掛けてしまう:
- 誤解: 衝突後の速さが、衝突前の速さの \(e\) 倍になると考えてしまう(\(\sqrt{v_{0}^2 + v_{2}^2} = e\sqrt{v_{0}^2 + v_{1}^2}\) としてしまう)。
 - 対策: 反発係数は、あくまで衝突面に「垂直な」速度成分の比であることを徹底して覚えましょう。速度はベクトル量なので、成分ごとに分けて扱う癖をつけましょう。
 
 - 水平速度も変化すると考えてしまう:
- 誤解: 衝突によって、水平方向の速さ \(v_0\) も何らかの影響を受けると考えてしまう。
 - 対策: 「床はなめらか」という条件に注目します。これは「摩擦がない」という意味であり、水平方向には力が働かない(力積がゼロ)ことを意味します。力が働かなければ、運動は変化しません。したがって、水平速度は不変です。
 
 - 重力の影響を水平運動に入れてしまう:
- 誤解: B→Cの運動で、水平方向の速さも重力によって変化する(例えば減速する)と考えてしまう。
 - 対策: 重力は常に鉛直下向きにしか働きません。水平方向には全く影響を与えません。運動の分解の原則を再確認し、「水平運動」と「鉛直運動」は完全に独立していることを意識しましょう。
 
 
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (A→B, B→C)での公式選択(等速・等加速度運動の公式):
- 選定理由: 小球に働く力は、運動中ずっと「鉛直下向きの重力」のみです。物理の基本原則として、力が働かない方向は「等速直線運動」、一定の力が働く方向は「等加速度直線運動」をします。したがって、水平方向と鉛直方向で、それぞれの運動に対応する公式を選択するのは必然です。
 - 適用根拠: 運動の種類(等速か、等加速度か)を特定することが、公式選択の唯一の根拠です。
 
 - (Bでの衝突)でのアプローチ選択(反発係数の式):
- 選定理由: 「衝突」や「はねかえり」というキーワードがあり、かつ「反発係数 \(e\)」が与えられている場合、反発係数の式を使うのが最も直接的です。この式は、衝突の複雑な過程(物体が変形して元に戻るなど)を詳細に分析しなくても、衝突前後の速度の関係だけをシンプルに記述してくれる非常に便利なツールです。
 - 適用根拠: 反発係数の定義そのものが、この式を適用する根拠となります。特に、斜めの衝突では、衝突面に垂直な成分にのみ適用するというルールが重要です。
 
 
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- ルート(平方根)の計算を正確に行う:
- 計算の途中で \( \frac{\sqrt{2gh}}{g} \) のような形が出てきます。これをルートの中にまとめる際は、\( \sqrt{\frac{2gh}{g^2}} = \sqrt{\frac{2h}{g}} \) のように、分母を2乗してルートの中に入れる操作を正確に行いましょう。
 
 - 文字式のまま計算を進める:
- \(g=9.8\) などの数値を最初から代入せず、最後まで文字式のまま計算を進めることで、式がシンプルになり、見通しが良くなります。また、最終的な答えの物理的な意味(どの量に比例するかなど)も分かりやすくなります。
 
 - 次元解析で検算する:
- 最終的に得られた答え \(2ev_0\sqrt{2h/g}\) の単位(次元)が、本当に距離になっているかを確認しましょう。
\(e\) は無次元、\(v_0\) は \([\text{m/s}]\)。ルートの中は \(\sqrt{[\text{m}]/[\text{m/s}^2]} = \sqrt{[\text{s}^2]} = [\text{s}]\) となり、時間の単位です。
したがって、全体では \([\text{m/s}] \times [\text{s}] = [\text{m}]\) となり、正しく距離の単位になっています。この確認で、大きな間違いを防げます。 
 - 最終的に得られた答え \(2ev_0\sqrt{2h/g}\) の単位(次元)が、本当に距離になっているかを確認しましょう。
 - 極端な条件で妥当性を確認する:
- もし \(e=0\)(全くはね返らない)なら、\(x=0\) となり、BC間は存在しないので妥当です。
 - もし \(h=0\)(最初から床にある)なら、\(x=0\) となり、これも妥当です。
 - もし \(v_0=0\)(真下に落とす)なら、\(x=0\) となり、真上にはね返るだけなので妥当です。
 - このように、いくつかの極端なケースを代入してみて、直感と合う結果になるかを確認するのも有効な検算方法です。
 
 
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発展問題
201 斜め方向の衝突
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 運動量保存則をベクトル図で解く解法
- 模範解答が運動量保存則をx, y成分に分解して連立方程式を解くのに対し、別解では運動量ベクトルがなす三角形の図形的な性質を利用して、三角比を用いて速さを直接求めます。
 
 
 - 設問(1)の別解: 運動量保存則をベクトル図で解く解法
 - 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 運動量保存則がベクトルの和として成り立つという本質を、図形的に直感的に理解することができます。
 - 思考の柔軟性向上: 代数的な計算だけでなく、幾何学的なアプローチも有効であることを学び、問題に応じて最適な解法を選択する訓練になります。
 - 計算の効率化: この問題のように、ベクトルがなす角度に特徴がある場合(今回は直角)、計算が大幅に簡略化できることを体験できます。
 
 - 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
 
 
この問題のテーマは「2次元平面上での運動量保存則とエネルギー保存則」です。衝突現象をベクトル量である運動量を用いて正しく解析し、弾性衝突の条件を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 衝突や分裂の前後で、外力が働かなければ系全体の運動量のベクトル和は保存されます。ベクトルであるため、2次元の運動では2つの方向成分に分けて考える必要があります。
 - 運動量の成分分解: ベクトルである運動量を、互いに直交する2つの軸(例: x軸、y軸)の成分に分解して扱う技術が不可欠です。
 - 力学的エネルギー保存則: 弾性衝突とは、衝突の前後で系全体の力学的エネルギー(この場合は運動エネルギーの和)が保存される衝突のことです。
 - スカラー量とベクトル量の区別: 運動量は向きを持つベクトル量ですが、エネルギーは向きを持たないスカラー量です。この違いを正しく理解し、計算で混同しないことが重要です。
 
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず衝突前の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定します。次に、衝突前後のx方向、y方向それぞれの運動量の和が等しいとして、運動量保存則の式を2本立てます。得られた連立方程式を解くことで、衝突後の速さ \(v_A\) と \(v_B\) を求めます。
 - (2)では、「弾性衝突」の定義に基づき、衝突前と衝突後で力学的エネルギーの和が保存されることを示します。具体的には、(1)で求めた \(v_A\) と \(v_B\) を用いて衝突後の運動エネルギーの和を計算し、衝突前の運動エネルギーと等しくなることを確認します。