今回の問題
electromagnetic#23【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電流の正体と定義」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の向きの定義: 電流の向きは、「正の電荷が移動する向き」と定義されています。
- 電流の担い手: 金属中の電流は、負の電荷を持つ自由電子の移動によって生じます。
- 電流の定義式: 電流の大きさ \(I\) [A] は、「導線の断面を1秒あたりに通過する電気量 \(Q\) [C]」と定義されます。数式で表すと \(I = \frac{Q}{t}\) です。
- 電気素量: 電子1個が持つ電気量の大きさは電気素量 \(e\) と呼ばれ、その値は \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、電流の向きと自由電子の電荷の符号から、自由電子の移動方向を判断します。
- 次に、電流の定義を用いて、1秒間に断面を通過する総電気量を求めます。
- 最後に、その総電気量を電子1個あたりの電気量で割ることで、通過した自由電子の個数を計算します。
自由電子の移動方向と断面を通りぬける数
思考の道筋とポイント
この問題は2つの問いで構成されています。
前半は、電流の向きの定義を問う知識問題です。電流の向きは「正電荷の移動方向」と定められていますが、金属導線を流れる電流の正体は「負の電荷を持つ自由電子」の流れです。この関係から、電子の移動方向を判断します。
後半は、電流の大きさの定義から、断面を通過する電子の数を計算する問題です。電流 \(I\) [A] が「1秒間に断面を通過する総電気量」であることを利用し、その総電気量を電子1個の電気量の大きさで割ることで、電子の個数を求めます。
この設問における重要なポイント
- 自由電子の移動方向は、電流の向きと逆向きになる。
- 電流 \(I\) [A] は、1秒あたりに通過する電気量 [C/s] を意味する。
- 1秒間に通過する総電気量 \(Q_{\text{合計}}\) は、(電子の数 \(n\)) × (電子1個の電気量の大きさ \(e\)) で計算できる。
具体的な解説と立式
自由電子の移動方向について
問題では、電流が右向きに流れているとされています。
電流の向きは、正の電荷が移動する向きとして定義されています。
自由電子は、\( -1.6 \times 10^{-19} \) C という負の電荷を持っています。
負の電荷の流れが電流を作る場合、その移動方向は電流の向きとは逆になります。
したがって、右向きの電流が流れているとき、自由電子は左向きに移動しています。
断面を通りぬける自由電子の数について
電流の大きさ \(I\) は、単位時間あたりに導線の断面を通過する電気量として定義されます。
1秒間に断面を通過する自由電子の数を \(n\) [個/s]、電子1個が持つ電気量の大きさを電気素量 \(e\) [C] とすると、1秒間に断面を通過する総電気量 \(Q\) [C] は、
$$ Q = n \times e \quad \cdots ① $$
と表せます。
電流の定義より、\(I = \frac{Q}{1\text{s}}\) なので、電流の大きさ \(I\) はこの \(Q\) の値と等しくなります。
$$ I = ne \quad \cdots ② $$
問題で与えられた値は、電流 \(I = 3.2\) A、電子の電荷 \(-1.6 \times 10^{-19}\) C です。電気量の大きさは \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C となります。
式②を \(n\) について解き、これらの値を代入します。
使用した物理公式
- 電流の向きの定義: 正電荷の移動方向
- 電流の大きさの定義: \(I = ne\)
式②を \(n\) について解くと、
$$ n = \frac{I}{e} $$
となります。ここに、\(I = 3.2\) A、\(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C を代入します。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{3.2}{1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]&= \frac{3.2}{1.6} \times \frac{1}{10^{-19}} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^{19} \text{ [個/s]}
\end{aligned}
$$
まず、電子の動く向きを考えます。物理の世界では、「電流の向きはプラスの電気が流れる向き」と決められています。しかし、金属の中を実際に動いているのは、マイナスの電気を持つ自由電子です。マイナスのものが動く向きと、プラスのものが動く向きは逆になるので、電流が右向きなら、電子は左向きに動いています。
次に、電子の数を計算します。電流 3.2 A とは、「1秒間に 3.2 C の電気が通過する」という意味です。一方、電子は1個あたり \(1.6 \times 10^{-19}\) C の電気を持っています。したがって、1秒間に何個の電子が通過すれば合計 3.2 C になるかを計算するには、割り算をすればよいです。
通過する電子の数 = (全体の電気量) ÷ (電子1個の電気量) = \(3.2 \div (1.6 \times 10^{-19})\)
これを計算すると、\(2.0 \times 10^{19}\) 個となります。
自由電子は電流の向きと逆の左向きに移動しており、1秒間に導線の断面を通りぬける自由電子の数は \(2.0 \times 10^{19}\) 個/s です。電子が極めて小さい電気量しか持たないことを考えると、物理的に妥当な値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流の定義の二面性:
- 核心: 電流という現象は、2つの側面から理解する必要があります。
- 向きの定義(歴史的経緯): 電流の向きは「正電荷の移動方向」と決められている。
- ミクロな正体(物理的実体): 金属中の電流は「負電荷を持つ自由電子の移動」によって担われている。
- 理解のポイント: この2つの事実から、「自由電子の移動方向は、電流の向きと逆になる」という結論が導かれます。これは電気分野の最も基本的な約束事です。
- 核心: 電流という現象は、2つの側面から理解する必要があります。
- 電流の大きさの定義:
- 核心: 電流の大きさ \(I\) [A] は、「1秒あたりに断面を通過する電気量」と定義されます。
- 理解のポイント: \(I = \frac{Q}{t}\) という定義式は、電流を電荷の流れとして量的に捉えるための基本です。この問題のように、電荷の担い手が電子である場合は、\(Q\) を「電子の個数 × 電子1個の電気量」と分解して考えることで、ミクロな電子の数とマクロな電流の値を結びつけることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 自由電子の速さを求める問題: 導線の断面積\(S\)、単位体積あたりの自由電子の数(電子密度)\(N\) が与えられている場合、自由電子の平均の速さ(ドリフト速度)\(v\) を求める問題。\(I = eNvS\) という公式を使います。これは、\(I=ne\) の \(n\)(単位時間あたりの通過個数)を、電子密度\(N\)、断面積\(S\)、速さ\(v\)で表したものです。
- 電解液中の電流: 電解液中では、陽イオン(正電荷)と陰イオン(負電荷)が同時に逆向きに移動して電流を作ります。この場合、両方のイオンの移動による電流を足し合わせて全体の電流を考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 電流の担い手を確認する: 問題が扱っているのは「金属中の電子」なのか、「電解液中のイオン」なのか、あるいは「半導体中の電子と正孔」なのかを確認します。担い手の電荷の符号によって、移動方向と電流の向きの関係が変わります。
- 求めたい量と与えられている量の関係を整理する: 電流\(I\)、時間\(t\)、総電気量\(Q\)、電子の数\(n\)、電気素量\(e\)などの物理量のうち、何が与えられていて、何を求めたいのかを明確にし、\(I=Q/t\) や \(Q=ne\) といった基本公式をどう組み合わせるかを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電子の電荷の符号の扱い:
- 誤解: 計算時に電子の電荷 \(-1.6 \times 10^{-19}\) C をそのまま使ってしまい、個数が負の値になって混乱する。
- 対策: 電子の「個数」や電流の「大きさ」を計算する際は、負の符号は考えず、電気量の「大きさ(絶対値)」である電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C を使う、と割り切りましょう。電荷の符号は、移動方向を判断するときにのみ使います。
- \(10\)のべき乗の計算ミス:
- 誤解: \(\frac{1}{10^{-19}}\) を \(10^{-19}\) と計算してしまう。
- 対策: 指数法則 \( \frac{1}{a^{-m}} = a^m \) を確実にマスターしましょう。分母にある負の指数は、分子に持ってくると正の指数に変わります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電流の向きの定義:
- 選定理由: これは歴史的な経緯による「約束事」です。電子が発見されるより前に、電流の向きは「電池のプラス極からマイナス極へ流れる」と定められました。後に電流の正体がマイナスの電子の流れだとわかりましたが、定義を覆すと世界中の教科書や文献を書き換える大混乱になるため、そのままになっています。
- 適用根拠: 物理学における普遍的な定義なので、これに従うしかありません。
- 公式 \(I = ne\) (1秒あたり):
- 選定理由: マクロな物理量である電流 \(I\) と、ミクロな粒子(電子)の数 \(n\) を結びつけるための、最も直接的な関係式だからです。
- 適用根拠: この式は電流の定義そのものです。「1秒間に通過する総電気量(左辺 \(I\))」は、「1秒間に通過する粒子の数(\(n\))」に「粒子1個あたりの電気量(\(e\))」を掛けたものに等しい、というのは論理的に当然の関係です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数と係数を分けて計算する:
- \(\frac{3.2}{1.6 \times 10^{-19}}\) を計算する際、まず係数部分 \(\frac{3.2}{1.6} = 2.0\) を計算し、次に指数部分 \(\frac{1}{10^{-19}} = 10^{19}\) を計算します。最後にこれらを掛け合わせることで、複雑な計算を単純なステップに分解でき、ミスを減らせます。
- 単位から関係式を類推する:
- 電流の単位は [A] ですが、これは [C/s](クーロン毎秒)と等価です。一方、求めたい電子の数の単位は [個/s] です。
- [C/s] から [個/s] を作るには、[C/個] という単位を持つ量で割ればよいことがわかります。(\( \frac{[\text{C/s}]}{[\text{C/個}]} = [\text{個/s}] \))
- [C/個] という単位を持つ物理量は、まさに「電子1個あたりの電気量 \(e\)」です。このことから、\(n = I/e\) という関係式を忘れても、単位から導き出すことができます。
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