問題46 摩擦を受ける小球の円運動 (24 京都産業大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 有効ポテンシャルを用いた体系的解法
- 模範解答は、各設問ごとに力のつりあいを個別に検討していますが、別解では「回転座標系におけるポテンシャルエネルギー(有効ポテンシャル)」を定義し、その微分として力を導出します。
- この1つのポテンシャル関数から、つりあい位置(問1)、安定性(問2)、摩擦がある場合の静止条件(問3)を全て統一的に導きます。
- 設問(3)の別解: 有効ポテンシャルを用いた体系的解法
- 上記の別解が有益である理由
- 現象の全体像の把握: 力の矢印を毎回書くのではなく、エネルギーの「坂道」をイメージすることで、ビーズがどちらに動こうとするか(安定か不安定か)が直感的に理解できます。
- 応用力: 万有引力やばねを含む複雑な系でも、ポテンシャルさえ書ければ同様の手順で解けるため、物理的な視野が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「回転座標系における力のつりあいと運動の安定性」です。
回転する棒の上にある物体が、遠心力を受けてどのような位置でつりあうのか、またその位置からずれたときにどう動くのかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等速円運動の運動学: 半径 \(r\)、角速度 \(\omega\) のとき、速さは \(v=r\omega\)、向心加速度は \(a=r\omega^2\) です。
- 慣性力(遠心力): 回転する観測者から見ると、回転中心から遠ざかる向きに大きさ \(mr\omega^2\) の遠心力が働きます。
- 力の分解: 重力や遠心力を、運動を拘束する「棒に平行な方向」と「棒に垂直な方向」に分解して考えます。
- 静止摩擦力の性質: 物体が静止しているとき、静止摩擦力 \(F\) は \(F \le \mu N\)(最大静止摩擦力以下)を満たします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 前半は静止系(外から見る立場)で円運動の基礎式を確認し、後半は回転系(共に回る立場)で力のつりあいを立式してつりあい位置 \(r_0\) を求めます。
- (2) 位置が \(r_1\) に変わったとき、力のバランスがどう崩れるかを評価し、運動の向きを判断します。
- (3) 摩擦がある場合について、力のつりあいの式を立て直し、静止し続けるための不等式条件を解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
前半(ア〜エ)は、静止している観測者(実験室系)からの視点です。円運動の半径や速さ、向心力の定義を確認します。
後半(オ〜ク)は、ビーズと一緒に回転する観測者(回転系)からの視点です。この観測者には「遠心力」が見え、ビーズは静止して見えます。
この設問における重要なポイント
- 回転半径の幾何学: 棒の支点からの距離が \(r_0\) のとき、回転軸(鉛直軸)からの距離(回転半径)は \(r_0\) ではありません。図aを見て、直角三角形の辺の比から \(r_0 \sin\theta\) であることを見抜きます。
- 向心力の正体: 「向心力」という名前の力があるわけではありません。重力や垂直抗力の合力が、円の中心に向かう成分を持つとき、それが向心力の役割を果たします。
- 力の分解: 棒に沿った方向と垂直な方向に力を分解します。特に遠心力は水平方向なので、分解に注意が必要です。
具体的な解説と立式
【静止系での記述(ア〜エ)】
図aより、円運動の半径 \(R\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
R &= r_0 \sin\theta
\end{aligned}
$$
速さ \(v_0\) は、角速度 \(\omega\) を用いて \(v_0 = R\omega\) より、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= (r_0 \sin\theta) \omega \quad \cdots \text{アの答え}
\end{aligned}
$$
運動エネルギー \(K_0\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} m v_0^2 \quad \cdots \text{イの立式}
\end{aligned}
$$
向心力の大きさ \(F_0\) は、運動方程式 \(ma = F\) より、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
F_0 &= m R \omega^2 \quad \cdots \text{ウの立式}
\end{aligned}
$$
図bを見ると、ビーズにはたらく力は「重力」と「垂直抗力」の2つだけです。これらが合わさって水平方向の向心力を生み出しています。よって、向心力は「重力と垂直抗力の合力」です。
【回転系での記述(オ〜ク)】
回転系では、遠心力 \(f\) が働きます。その大きさは向心力と同じです。
$$
\begin{aligned}
f &= m R \omega^2 \\[2.0ex]
&= m (r_0 \sin\theta) \omega^2 \quad \cdots \text{オの答え}
\end{aligned}
$$
次に、力を「棒に垂直な方向」と「棒に平行な方向」に分解します。
重力 \(mg\)(鉛直下向き)の分解(図c参照):
- 棒に垂直な成分(図の右下向き): \(mg \sin\theta\) \(\quad \cdots \text{カの答え}\)
- 棒に平行な成分(図の左下向き): \(mg \cos\theta\)
遠心力 \(f\)(水平外向き)の分解(図c参照):
- 棒に垂直な成分(図の右下向き): \(f \cos\theta\)
- 棒に平行な成分(図の右上向き): \(f \sin\theta\)
力のつりあいの立式
ビーズは棒に対して静止しているので、各方向で力がつりあっています。
棒に垂直な方向のつりあい(図cの左上向きを正とします):
$$
\begin{aligned}
(\text{左上向きの力の和}) &= (\text{右下向きの力の和}) \\[2.0ex]
N &= mg \sin\theta + f \cos\theta \quad \cdots \text{キの立式}
\end{aligned}
$$
棒に平行な方向のつりあい(図cの右上向きを正とします):
$$
\begin{aligned}
(\text{右上向きの力の和}) &= (\text{左下向きの力の和}) \\[2.0ex]
f \sin\theta &= mg \cos\theta \quad \cdots \text{クの立式}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速円運動の速さ: \(v = r\omega\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 向心力・遠心力: \(F = mr\omega^2\)
- 力の分解(三角比)
アについて:
$$
\begin{aligned}
v_0 &= r_0 \omega \sin\theta
\end{aligned}
$$
イについて:
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} m (r_0 \omega \sin\theta)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} m r_0^2 \omega^2 \sin^2\theta
\end{aligned}
$$
ウについて:
$$
\begin{aligned}
F_0 &= m (r_0 \sin\theta) \omega^2 \\[2.0ex]
&= m r_0 \omega^2 \sin\theta
\end{aligned}
$$
クについて:
つりあいの式 \(f \sin\theta = mg \cos\theta\) に、\(f = m r_0 \omega^2 \sin\theta\) を代入して \(r_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(m r_0 \omega^2 \sin\theta) \sin\theta &= mg \cos\theta \\[2.0ex]
m r_0 \omega^2 \sin^2\theta &= mg \cos\theta \\[2.0ex]
r_0 &= \frac{mg \cos\theta}{m \omega^2 \sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{g \cos\theta}{\omega^2 \sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
さらに、\(\displaystyle \frac{\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{1}{\tan\theta}\) を用いて変形します。
$$
\begin{aligned}
r_0 &= \frac{g}{\omega^2 \sin\theta \tan\theta}
\end{aligned}
$$
まず、外から見たときの円運動の基本量(速さやエネルギー)を計算しました。回転半径が棒の長さそのものではなく、角度 \(\theta\) を考慮した \(r_0 \sin\theta\) になる点がポイントです。
次に、ビーズと一緒に回る視点に切り替えました。この視点では「遠心力」によってビーズが外側に引っ張られます。
棒の上でビーズが止まっているということは、「遠心力で外(上)に上がろうとする力」と「重力で内(下)に落ちようとする力」がちょうどバランスしているということです。このバランスの式を解くことで、つりあう位置 \(r_0\) が求まりました。
\(r_0 = \frac{g}{\omega^2 \sin\theta \tan\theta}\) という結果が得られました。
もし \(\omega\) が大きくなれば(速く回れば)、分母が大きくなるため \(r_0\) は小さくなる…? 一見直感に反するようですが、これは「同じ位置 \(r_0\) でつりあうために必要な条件」ではなく、「ある \(\omega\) のときどこでつりあうか」という式です。
式変形前の \(m r_0 \omega^2 \sin^2\theta = mg \cos\theta\) を見ると、左辺(遠心力成分)は \(r_0\) と \(\omega^2\) に比例します。重力成分(右辺)は一定です。
回転が速い(\(\omega\)大)と遠心力が強すぎるため、より内側(\(r_0\)小)でないと重力とつりあわない、という意味になります。物理的に妥当です。
ア: \(r_0 \omega \sin\theta\)
イ: \(\displaystyle \frac{1}{2} m r_0^2 \omega^2 \sin^2\theta\)
ウ: \(m r_0 \omega^2 \sin\theta\)
エ: ③
オ: \(m r_0 \omega^2 \sin\theta\)
カ: \(mg \sin\theta\)
キ: \(mg \sin\theta + f \cos\theta\)
ク: \(\displaystyle \frac{g}{\omega^2 \sin\theta \tan\theta}\)
問(2)
思考の道筋とポイント
つりあい位置 \(r_0\) から、外側(\(r_1 > r_0\))にずらして手を放します。
このとき、棒に平行な方向の力のバランスがどう崩れるかを考えます。
上向きの力(遠心力の成分)と下向きの力(重力の成分)のどちらが大きくなるかを比較します。
この設問における重要なポイント
- 力の距離依存性:
- 重力の棒平行成分 \(mg \cos\theta\) は、場所 \(r\) によらず一定です。
- 遠心力の棒平行成分 \(f \sin\theta = m(r \sin\theta)\omega^2 \sin\theta = m \omega^2 \sin^2\theta \cdot r\) は、距離 \(r\) に比例して大きくなります。
具体的な解説と立式
位置 \(r\) における棒に平行な方向の力 \(F_{\text{net}}\)(上向きを正)を考えます。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{net}}(r) &= (\text{遠心力の成分}) – (\text{重力の成分}) \\[2.0ex]
F_{\text{net}}(r) &= m r \omega^2 \sin^2\theta – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
問(1)の結果より、\(r=r_0\) のときは力がつりあっているので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
m r_0 \omega^2 \sin^2\theta – mg \cos\theta &= 0
\end{aligned}
$$
すなわち、\(mg \cos\theta = m r_0 \omega^2 \sin^2\theta\) です。
これを \(F_{\text{net}}(r)\) の式に代入して比較します。
使用した物理公式
- 力のつりあいと不均衡
\(r = r_1\) のときの力 \(F_{\text{net}}(r_1)\) は、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{net}}(r_1) &= m r_1 \omega^2 \sin^2\theta – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
ここで \(mg \cos\theta\) を \(r_0\) を使った式で置き換えます。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{net}}(r_1) &= m r_1 \omega^2 \sin^2\theta – m r_0 \omega^2 \sin^2\theta \\[2.0ex]
&= m \omega^2 \sin^2\theta (r_1 – r_0)
\end{aligned}
$$
問題文より \(r_1 > r_0\) なので、\((r_1 – r_0) > 0\) です。
したがって、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{net}}(r_1) &> 0
\end{aligned}
$$
となり、正の方向(棒に沿って上向き)に力が働きます。
ビーズが上向きに動くと、\(r\) はさらに大きくなり、遠心力成分もさらに大きくなるため、加速し続けます。
重力による「下に引く力」はずっと変わりませんが、遠心力による「上に引く力」は、回転軸から離れるほど(\(r\) が大きいほど)強くなります。
つりあいの位置 \(r_0\) よりも外側 \(r_1\) に置くと、遠心力の方が重力よりも強くなってしまいます。その結果、ビーズは外側(上)に向かって動き出します。
動けば動くほどさらに外側に行くので、遠心力はますます強くなり、ビーズはどんどん加速して上昇し続けます。
ビーズは棒に沿って上昇し続けます。これは選択肢②に該当します。
逆に \(r < r_0\) に置いた場合は、遠心力が弱まるため重力が勝ち、下向きに加速して原点(\(r=0\))に向かうことになります(ただし \(r=0\) を通り過ぎると逆側の遠心力が働くなどの議論になりますが、今回は \(r>r_0\) なので上昇一択です)。
問(3)
思考の道筋とポイント
今度は摩擦があります。\(r=r_1\) で静止したままということは、力の不均衡を静止摩擦力が支えているということです。
問(2)で見たように、\(r_1 > r_0\) では「上向きの力(遠心力成分)」が「下向きの力(重力成分)」より強い状態です。
したがって、静止摩擦力はそれに対抗して「下向き」に働いているはずです。
この設問における重要なポイント
- 摩擦力の向き: 物体が動き出そうとする方向と逆向きです。今回は上に動こうとするので、摩擦力は下向きです。
- 静止条件: 静止摩擦力 \(F\) が最大静止摩擦力 \(\mu N’\) を超えなければ静止できます。すなわち \(F \le \mu N’\) です。
具体的な解説と立式
位置 \(r_1\) における遠心力の大きさ \(f’\) は、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
f’ &= m r_1 \omega^2 \sin\theta
\end{aligned}
$$
棒に垂直な方向のつりあいより、垂直抗力 \(N’\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
(\text{左上向き}) &= (\text{右下向き}) \\[2.0ex]
N’ &= mg \sin\theta + f’ \cos\theta \quad \cdots \text{コの立式}
\end{aligned}
$$
棒に平行な方向のつりあいを考えます。
上向きの力は \(f’ \sin\theta\)、下向きの力は \(mg \cos\theta\) です。
\(r_1 > r_0\) より上向きの力が勝っているので、静止摩擦力 \(F\) は「下向き」に働きます。
$$
\begin{aligned}
(\text{右上向きの力の和}) &= (\text{左下向きの力の和}) \\[2.0ex]
f’ \sin\theta &= mg \cos\theta + F
\end{aligned}
$$
これより静止摩擦力 \(F\) は、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
F &= f’ \sin\theta – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
ビーズが静止し続ける条件は、以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
F &\le \mu N’
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 静止摩擦力の条件: \(F \le \mu N\)
コについて:
\(N’\) の式に \(f’\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N’ &= mg \sin\theta + (m r_1 \omega^2 \sin\theta) \cos\theta \\[2.0ex]
&= m \sin\theta (g + r_1 \omega^2 \cos\theta)
\end{aligned}
$$
サについて:
静止条件 \(F \le \mu N’\) に、\(F\) と \(N’\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ \sin\theta – mg \cos\theta &\le \mu (mg \sin\theta + f’ \cos\theta)
\end{aligned}
$$
\(f’ = m r_1 \omega^2 \sin\theta\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
m r_1 \omega^2 \sin^2\theta – mg \cos\theta &\le \mu mg \sin\theta + \mu m r_1 \omega^2 \sin\theta \cos\theta
\end{aligned}
$$
\(r_1\) を含む項を左辺に、それ以外を右辺に集めます。
$$
\begin{aligned}
m r_1 \omega^2 \sin^2\theta – \mu m r_1 \omega^2 \sin\theta \cos\theta &\le \mu mg \sin\theta + mg \cos\theta \\[2.0ex]
m r_1 \omega^2 \sin\theta (\sin\theta – \mu \cos\theta) &\le mg (\mu \sin\theta + \cos\theta)
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割り、\(r_1\) について解きます。ここで問題文の条件 \(\mu < \tan\theta\) より、\(\mu < \frac{\sin\theta}{\cos\theta} \Rightarrow \mu \cos\theta < \sin\theta\) なので、左辺の括弧内 \((\sin\theta – \mu \cos\theta)\) は正の値です。不等号の向きは変わりません。
$$
\begin{aligned}
r_1 &\le \frac{g (\cos\theta + \mu \sin\theta)}{\omega^2 \sin\theta (\sin\theta – \mu \cos\theta)}
\end{aligned}
$$
この式を、問(1)の \(r_0 = \frac{g \cos\theta}{\omega^2 \sin^2\theta}\) を使って変形します。
右辺の分母分子を \(\cos\theta\) で割って \(\tan\theta\) を作り出す方針が見通し良さそうです。
$$
\begin{aligned}
r_1 &\le \frac{g}{\omega^2 \sin\theta} \cdot \frac{\cos\theta + \mu \sin\theta}{\sin\theta – \mu \cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{g}{\omega^2 \sin\theta} \cdot \frac{1 + \mu \tan\theta}{\tan\theta – \mu}
\end{aligned}
$$
一方、\(r_0 = \frac{g}{\omega^2 \sin\theta \tan\theta}\) より、\(\frac{g}{\omega^2 \sin\theta} = r_0 \tan\theta\) です。これを代入します。
$$
\begin{aligned}
r_1 &\le (r_0 \tan\theta) \cdot \frac{1 + \mu \tan\theta}{\tan\theta – \mu} \\[2.0ex]
&= r_0 \times \frac{\tan\theta (1 + \mu \tan\theta)}{\tan\theta – \mu}
\end{aligned}
$$
摩擦がある場合、遠心力が少々強くても、摩擦力がブレーキとなってビーズを止めておくことができます。
しかし、\(r_1\) が大きすぎると遠心力が強くなりすぎて、摩擦力でも支えきれなくなります。
「摩擦力で耐えられる限界の場所はどこか?」を計算するために、「遠心力による上向きの引き」から「重力による下向きの引き」を引いた分が、最大摩擦力以下であればよい、という式を立てて解きました。
答えは \(r_1 \le r_0 \times \frac{\tan\theta(1+\mu\tan\theta)}{\tan\theta-\mu}\) となりました。
もし摩擦がない場合(\(\mu=0\))、右辺は \(r_0 \times \frac{\tan\theta}{\tan\theta} = r_0\) となります。つまり \(r_1 \le r_0\) となり、\(r_1 > r_0\) の領域では静止できない(問2の結果)ことと整合します。
また、分母の \(\tan\theta – \mu\) が \(0\) に近づくと右辺は無限大になります。これは摩擦が非常に大きい場合、どこに置いても静止できることを意味し、物理的に妥当です。
コ: \(g + r_1 \omega^2 \cos\theta\)
サ: \(\displaystyle \frac{\tan\theta(1+\mu\tan\theta)}{\tan\theta-\mu}\)
思考の道筋とポイント
模範解答では「力」に着目しましたが、ここでは「エネルギー(ポテンシャル)」に着目します。
回転系において、物体は「重力ポテンシャル」と「遠心力ポテンシャル」の2つの坂道の影響を受けます。これらを合成した「有効ポテンシャル \(U(r)\)」を考えることで、つりあい位置や安定性を一目で判断できます。
この設問における重要なポイント
- 遠心力ポテンシャル: 遠心力 \(f = mR\omega^2\) は中心から外向きの力なので、外に行くほど位置エネルギーが下がる(坂を下る)と考えます。その大きさは \(-\frac{1}{2}m(R\omega)^2\) です。
- 有効ポテンシャルの勾配: ポテンシャルのグラフの傾き \(-\frac{dU}{dr}\) が、その場所で物体が受ける力 \(F\) になります。
- 傾きが0の場所 \(\rightarrow\) 力がつりあう場所。
- 上に凸の場所 \(\rightarrow\) 不安定(玉が転がり落ちる)。
具体的な解説と立式
棒に沿った座標 \(r\) をとります。
重力による位置エネルギー \(U_g\)(基準は \(r=0\))は、高さ \(z = r \cos\theta\) より、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
U_g(r) &= mg r \cos\theta
\end{aligned}
$$
遠心力による位置エネルギー \(U_c\) は、回転半径 \(R = r \sin\theta\) を用いて、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
U_c(r) &= – \frac{1}{2} m (R\omega)^2 \\[2.0ex]
&= – \frac{1}{2} m \omega^2 r^2 \sin^2\theta
\end{aligned}
$$
これらを合わせた有効ポテンシャル \(U(r)\) は、以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
U(r) &= mg r \cos\theta – \frac{1}{2} m \omega^2 \sin^2\theta \cdot r^2
\end{aligned}
$$
棒に沿った方向の力 \(F(r)\)(\(r\)が増える向きを正)は、ポテンシャルの傾きの逆符号です。
$$
\begin{aligned}
F(r) &= – \frac{dU}{dr} \\[2.0ex]
&= – (mg \cos\theta – m \omega^2 \sin^2\theta \cdot r) \\[2.0ex]
&= m \omega^2 \sin^2\theta \cdot r – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
【問(1)の再解釈】
つりあい位置 \(r_0\) では力が0になるので、\(F(r_0) = 0\) です。
$$
\begin{aligned}
m \omega^2 \sin^2\theta \cdot r_0 – mg \cos\theta &= 0
\end{aligned}
$$
これより直ちに \(r_0 = \frac{g \cos\theta}{\omega^2 \sin^2\theta}\) が求まります。
【問(2)の再解釈】
\(U(r)\) は \(r\) の2次関数で、\(r^2\) の係数が負なので「上に凸の放物線」です。
頂点が \(r_0\) です。
\(r_1 > r_0\) の位置にビーズを置くということは、放物線の頂点より右側の斜面に置くということです。
当然、ビーズは坂を転がり落ちるように右側(\(r\)が増える方向)へ加速します。
数式的にも、\(r > r_0\) ならば \(F(r) > 0\)(正の力)となることが分かります。
【問(3)の再解釈】
\(r_1\) で静止するためには、ポテンシャルの坂を下ろうとする力 \(F(r_1)\) を、静止摩擦力が支えればよいわけです。
坂を下る力(駆動力)は \(F(r_1)\) です。
$$
\begin{aligned}
F(r_1) &= m \omega^2 \sin^2\theta \cdot r_1 – mg \cos\theta
\end{aligned}
$$
静止条件は \(|F(r_1)| \le \mu N’\) ですが、今回は \(F(r_1) > 0\) なので、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
F(r_1) &\le \mu N’
\end{aligned}
$$
この式は、模範解答で立てた \(f’ \sin\theta – mg \cos\theta \le \mu N’\) と完全に一致します。
あとは同様に計算するだけです。
使用した物理公式
- 保存力とポテンシャルの関係: \(F = – \frac{dU}{dr}\)
- 遠心力ポテンシャル: \(U_c = – \frac{1}{2} m (r\omega)^2\)
(問3の計算過程はメイン解説と同様のため省略します)
「重力で登りにくくなる坂」と「遠心力で外に引っ張られる(下りやすくなる)坂」を足し合わせると、全体としては「ある頂点(\(r_0\))を境に、外側に向かって急降下していく坂」になります。
頂点 \(r_0\) に置けば止まりますが、少しでも外側 \(r_1\) に置くと、転がり落ちていきます(上昇し続ける)。
摩擦がある場合は、坂の途中で踏ん張れるかどうかの勝負になります。
ポテンシャルを用いた解析により、つりあい位置の導出、不安定性の判定、摩擦による静止条件のすべてが、一つの関数 \(U(r)\) の性質として統一的に理解できました。
コ: \(g + r_1 \omega^2 \cos\theta\)
サ: \(\displaystyle \frac{\tan\theta(1+\mu\tan\theta)}{\tan\theta-\mu}\)
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回転座標系と慣性力(遠心力)
- 核心: 円運動する物体と一緒に回る観測者の視点に立つことで、動的な円運動の問題を、静的な「力のつりあい」の問題に変換して解くことができます。
- 理解のポイント:
- 遠心力の向きと大きさ: 常に回転中心から外向きに働き、大きさは \(mr\omega^2\) (または \(mv^2/r\))です。
- 回転半径の特定: 公式の \(r\) は「棒の長さ」ではなく「回転軸からの垂直距離」です。図形的に \(r \sin\theta\) となることを必ず確認する必要があります。
- 拘束条件下での力の分解
- 核心: 物体が棒や斜面などのレール(拘束条件)上にある場合、力を「運動可能な方向(接線方向)」と「拘束する方向(法線方向)」に分解することが鉄則です。
- 理解のポイント:
- 座標軸の設定: 鉛直・水平ではなく、棒に「平行」な軸と「垂直」な軸を設定します。
- 分解の実行: 重力(鉛直)と遠心力(水平)の両方を、この斜めの座標軸に合わせて正しく分解できるかが計算の成否を分けます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐容器内の円運動: 棒の代わりにすり鉢状の容器の内側を回る問題。垂直抗力の向きが変わるだけで、力の分解や方程式の立て方は本問と全く同じです。
- 弾性力が関与する円運動: ビーズがばねで回転軸や支点と繋がれている問題。力のつりあいの式に弾性力 \(kx\) (またはポテンシャルに \(\frac{1}{2}kx^2\))を追加するだけで対処できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回転軸と半径の確認: まず回転軸を見つけ、物体から軸までの最短距離(回転半径)を図に書き込みます。
- 視点の選択: 「外から見て運動方程式(\(ma=F\))」で解くか、「中で見てつりあい(\(F+f=0\))」で解くかを決めます。位置や静止条件を問われたら後者が圧倒的に有利です。
- 力の不均衡のチェック: パラメータ(半径や角速度)が変化したとき、遠心力と復元力(重力やばね)のどちらが勝つかを評価し、運動の向きを予測します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 回転半径の取り間違い:
- 誤解: 遠心力の公式 \(F = mr\omega^2\) の \(r\) に、うっかり棒の長さ(支点からの距離)をそのまま代入してしまう。
- 対策: 公式の \(r\) は「回転軸からの距離」です。必ず図に回転軸への垂線を引き、直角三角形の辺の比から \(r_{\text{回転}} = r_{\text{棒}} \sin\theta\) であることを視覚的に確認する癖をつけましょう。
- 摩擦力の向きの決めつけ:
- 誤解: 「摩擦力は重力に逆らうから上向きだろう」と直感だけで向きを決めてしまう。
- 対策: 摩擦力は「滑り出そうとする方向」と逆向きに働きます。まず摩擦がないとしたら遠心力で上に飛ぶのか、重力で下に落ちるのか(力の不均衡)を確認し、その逆向きに摩擦力を設定します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)後半での公式選択(回転座標系での力のつりあい):
- 選定理由: ビーズが棒に対して「静止」している状態を解析するため、加速度を考える運動方程式よりも、慣性力を導入して「力がつりあっている」とする方が直感的で計算ミスも減るからです。
- 適用根拠: 観測者が加速度運動(回転)している場合、慣性力(遠心力)を導入することで、慣性系と同様にニュートンの運動法則(つりあいの式)を適用できます。
- 問(3)での公式選択(静止摩擦力の不等式条件):
- 選定理由: 「静止し続ける」ための条件は、静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えないことです。限界ギリギリ(等号)だけでなく、余裕がある場合も含めて正しく記述できる不等式 \(F \le \mu N\) を採用しました。
- 適用根拠: 静止摩擦力は外力に応じて \(0\) から \(\mu N\) の間で受動的に変化する力であり、その上限が \(\mu N\) で規定されるという物理的性質に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 極限的なケースでの検算(リミットチェック):
- 意識: 導出した式が、極端な状況でも物理的に正しい振る舞いをするか確認します。
- 実践: 例えば \(\theta \to 0\)(棒が垂直)のとき、\(r_0\) の式はどうなるか? 重力の棒平行成分 \(mg \cos\theta\) は \(mg\) に近づき、遠心力成分は \(0\) になるため、つりあうには無限の回転速度が必要になる(あるいはつりあわない)はずです。式がこれと矛盾しないか確認します。
- 次元解析(ディメンションチェック):
- 意識: 文字式の計算結果が、求めたい物理量の単位(次元)を持っているか確認します。
- 実践: 長さ \(r\) を求める式なら、右辺の単位も全体として \([\text{L}]\)(メートル)になっている必要があります。\(g [\text{L}/\text{T}^2]\) と \(\omega^2 [1/\text{T}^2]\) の比 \(\frac{g}{\omega^2}\) は \([\text{L}]\) になるので、係数が無次元(三角関数など)であれば正しい可能性が高いと判断できます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題47 円筒表面をすべり落ちる小物体の運動 (15 東京電機大 改)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)および(5)の別解: 遠心力(慣性力)を用いた力のつりあいによる解法
- 模範解答は静止系(外から見る視点)での運動方程式を用いていますが、別解では物体と共に運動する観測者の視点(回転座標系)に立ち、遠心力を導入して力のつりあいとして解きます。
- 設問(1)〜(4)の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 運動方程式(接線方向および法線方向)から出発し、積分によってエネルギー保存則を導出し、垂直抗力の式を得るプロセスを一括して解説します。
- 設問(2)および(5)の別解: 遠心力(慣性力)を用いた力のつりあいによる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 遠心力の解法: 「力がつりあっている」という静的なイメージで捉えられるため、直感的に理解しやすく、立式ミスを防ぎやすい利点があります。
- 微積分の解法: 公式を暗記するのではなく、運動方程式という基本原理から全ての物理法則(エネルギー保存則など)が導かれる論理構造を理解することで、応用力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直面内の円運動」です。
ジェットコースターやループ・ザ・ループのような円軌道を描く運動において、物体の速さや面から受ける力がどのように変化するかを解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: なめらかな面(摩擦がない)での運動なので、重力による位置エネルギーと運動エネルギーの和は保存されます。
- 円運動の運動方程式: 円運動をする物体には、円の中心に向かう力(向心力)が必要です。半径方向の力の合力が向心力 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) となります。
- 面から離れる条件: 物体が面から離れる瞬間、面から受ける垂直抗力 \(N\) が \(0\) になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 力学的エネルギー保存則を用いて、任意の角度 \(\theta\) での速さを求めます。
- (2) 円の中心方向(法線方向)の運動方程式を立てて、垂直抗力 \(N\) を求めます。
- (3)(4) 「面から離れる \(\rightarrow N=0\)」という条件式を解きます。
- (5) 初速がある場合について、同様に運動方程式から離れる条件(\(N \le 0\))を考えます。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?