「重要問題集」徹底解説(126〜130問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題126 (法政大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、無限に長い直線電流\(I_1\)が、その近くに置かれた正方形のループ電流\(I_2\)に及ぼす力を分析する問題です。ループの各辺が受ける力を個別に、あるいは合力として考察し、最終的にループ全体が受ける力の合力を求めます。力の計算には積分的な考え方が含まれており、物理法則の深い理解が求められます。

与えられた条件
  • 直線導線L: 電流\(I_1\)が流れる。
  • 正方形導線ABCD: 一辺の長さ\(2r\)。電流\(I_2\)がA→B→C→D→Aの向きに流れる。
  • 配置: 辺ABはLと平行で、距離\(r\)だけ離れている。
  • その他: 真空の透磁率は\(\mu_0\)、円周率は\(\pi\)。\(I_2\)がつくる磁場は無視する。
問われていること
  • ア: \(I_1\)が導線ABの位置につくる磁場の強さ。
  • イ: 導線ABが\(I_1\)から受ける力の大きさ\(F_{\text{AB}}\)。
  • ウ: 力\(F_{\text{AB}}\)の向き。
  • エ: 導線ABとCDが受ける合力の、\(F_{\text{AB}}\)に対する倍率。
  • オ: 導線BC上の微小部分が受ける力\(\Delta F_{\text{BC}}\)の、\(F_{\text{AB}}\)に対する倍率。
  • カ: 力\(\Delta F_{\text{BC}}\)の向き。
  • キ: ループABCD全体が受ける合力の、\(F_{\text{AB}}\)に対する倍率。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「直線電流とループ電流の相互作用」です。ループの各辺が直線電流から受ける力を計算し、それらをベクトル的に合成することが中心となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 無限長直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) の公式を使い、場所によって強さが変わる磁場を計算します。
  2. 電流が磁場から受ける力: \(F=IBl\) の公式と、磁束密度と磁場の関係 \(B=\mu_0 H\) を用いて、各辺が受ける力を計算します。
  3. 力のベクトル和: ループ全体が受ける力は、4つの辺がそれぞれ受ける力のベクトル和です。対称性から打ち消しあう成分を見抜くことが重要です。
  4. 積分: 導線BCやDAのように、場所によって受ける力の大きさが変わる場合、本来は微小部分が受ける力を積分して全体の力を求めます。この問題では、その考え方の一部が問われます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、直線電流\(I_1\)に平行な辺ABとCDが受ける力を計算します。これらは辺全体で受ける磁場が一定なので、計算は単純です(ア、イ、ウ、エ)。
  2. 次に、直線電流\(I_1\)に垂直な辺BCとDAが受ける力を考えます。これらの辺は場所によって\(I_1\)からの距離が変わり、受ける磁場の強さも向きも変わるため、微小部分に分けて考えます(オ、カ)。
  3. 最後に、4辺が受ける力を全てベクトル的に足し合わせ、ループ全体の合力を求めます。対称性から、BCとDAが受ける力は互いに打ち消しあうことを見抜きます(キ)。

ア、イ、ウ

思考の道筋とポイント
導線ABが受ける力を求める問題です。(1)と同様に、まず導線ABの位置に導線Lの電流\(I_1\)がどのような磁場をつくっているかを計算し、その磁場からABが受ける力を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 無限長直線電流がつくる磁場の公式: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場と磁束密度の関係: \(B = \mu_0 H\)
  • 電流が磁場から受ける力の公式: \(F = IBl\)
  • 向きを決定する法則: 右ねじの法則(磁場の向き)、フレミングの左手の法則(力の向き)

具体的な解説と立式

: 導線Lの電流\(I_1\)が、距離\(r\)離れた導線ABの位置につくる磁場の強さ\(H_{\text{AB}}\)は、
$$ H_{\text{AB}} = \frac{I_1}{2\pi r} $$

: この磁場による磁束密度は \(B_{\text{AB}} = \mu_0 H_{\text{AB}}\) です。導線ABの長さは\(2r\)で、電流\(I_2\)が流れているので、受ける力の大きさ\(F_{\text{AB}}\)は、
$$ F_{\text{AB}} = I_2 B_{\text{AB}} (2r) $$

: 力の向きを考えます。

  • \(I_1\)がABの位置につくる磁場の向き: 右ねじの法則より、紙面の奥から手前に向かう向き。
  • 導線ABを流れる電流\(I_2\)の向き: 図の左向き(-x方向)。

フレミングの左手の法則を適用すると、力の向きがわかります。

使用した物理公式

  • 無限長直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁束密度: \(B = \mu_0 H\)
  • 電流が磁場から受ける力: \(F = IBl\)
計算過程

:
$$ H_{\text{AB}} = \frac{I_1}{2\pi r} $$

:
$$
\begin{aligned}
F_{\text{AB}} &= I_2 B_{\text{AB}} (2r) \\[2.0ex]&= I_2 (\mu_0 H_{\text{AB}}) (2r) \\[2.0ex]&= I_2 \mu_0 \left( \frac{I_1}{2\pi r} \right) (2r) \\[2.0ex]&= \frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi}
\end{aligned}
$$

: フレミングの左手の法則より、

  • 電流(中指): 左向き
  • 磁場(人差し指): 紙面の奥から手前向き

とすると、力(親指)は導線Lに近づく向き、つまり図の下向き(-y方向)を向きます。これは図2の③に相当します。

計算方法の平易な説明

まず、導線ABがある場所に、直線電流\(I_1\)がどれくらいの強さの磁場をつくっているかを公式で計算します(ア)。次に、その磁場の中で電流\(I_2\)を流している導線AB(長さ\(2r\))が、どれくらいの大きさの力を受けるかを力の公式で計算します(イ)。最後に、フレミングの左手の法則を使って、その力の向きを調べます(ウ)。

結論と吟味

ア: \(\displaystyle\frac{I_1}{2\pi r}\)
イ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi}\)
ウ: ③
導線Lと導線ABには平行で同じ向きの電流が流れていると見なせる部分があり、引力が働くはずです。計算結果の向きはLに近づく向きであり、引力と一致するため妥当です。

解答 ア: \(\displaystyle\frac{I_1}{2\pi r}\), イ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi}\), ウ: ③

思考の道筋とポイント
導線ABと導線CDが受ける力の合力を求めます。導線CDが受ける力\(F_{\text{CD}}\)の大きさと向きを、ABの場合と同様に計算し、\(F_{\text{AB}}\)とベクトル的に合成します。
この設問における重要なポイント

  • 力のベクトル和: 2つの力が逆向きであれば、合力の大きさは力の大きさの差となる。
  • 距離の変化: 導線CDは導線Lからの距離がABと異なるため、受ける磁場の強さも力の大きさも異なります。

具体的な解説と立式

Step 1: 導線CDが受ける力\(F_{\text{CD}}\)を求める。
導線CDは、導線Lから \(r+2r=3r\) の距離にあります。
この位置での磁場の強さ\(H_{\text{CD}}\)は、
$$ H_{\text{CD}} = \frac{I_1}{2\pi(3r)} = \frac{1}{3} \left( \frac{I_1}{2\pi r} \right) = \frac{1}{3} H_{\text{AB}} $$
したがって、導線CDが受ける力の大きさ\(F_{\text{CD}}\)は、
$$ F_{\text{CD}} = I_2 (\mu_0 H_{\text{CD}}) (2r) = I_2 \mu_0 \left( \frac{1}{3} H_{\text{AB}} \right) (2r) = \frac{1}{3} F_{\text{AB}} $$
力の向きは、フレミングの左手の法則で考えます。

  • 電流\(I_2\)の向き: 図の右向き(+x方向)。
  • 磁場の向き: 紙面の奥から手前向き。

よって、力は導線Lから遠ざかる向き、つまり図の上向き(+y方向)となります。

Step 2: 合力を求める。
力\(F_{\text{AB}}\)は下向き(大きさ\(F_{\text{AB}}\))、力\(F_{\text{CD}}\)は上向き(大きさ\(\frac{1}{3}F_{\text{AB}}\))です。
2つの力は逆向きなので、合力の大きさ\(F_{\text{AC}}\)は、
$$ F_{\text{AC}} = F_{\text{AB}} – F_{\text{CD}} = F_{\text{AB}} – \frac{1}{3}F_{\text{AB}} $$

使用した物理公式

  • (ア, イ, ウ) と同様。
計算過程

$$
\begin{aligned}
F_{\text{AC}} &= F_{\text{AB}} – \frac{1}{3}F_{\text{AB}} \\[2.0ex]&= \frac{2}{3}F_{\text{AB}}
\end{aligned}
$$
したがって、合力の大きさは\(F_{\text{AB}}\)の\(\displaystyle\frac{2}{3}\)倍です。

計算方法の平易な説明

導線CDが受ける力も、ABと同じ手順で計算します。ただし、Lからの距離が3倍になっているので、磁場は1/3になり、力も1/3になります。ABが受ける力は「下向き」、CDが受ける力は「上向き」なので、綱引きのように逆向きの力を合わせると、その差が合力となります。

結論と吟味

エ: \(\displaystyle\frac{2}{3}\)
導線Lに近いABの方が強い力を受けるため、合力はABが引かれる向き(下向き)になるはずです。計算結果も正の値であり、妥当です。

解答 エ: \(\displaystyle\frac{2}{3}\)

オ、カ

思考の道筋とポイント
導線BCのように、直線電流Lに対して垂直な導線を考えます。この導線は、場所によってLからの距離\(x\)が異なるため、受ける磁場の強さと向きが連続的に変化します。そのため、まず微小部分\(\Delta x\)を取り出して、そこが受ける力\(\Delta F_{\text{BC}}\)を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 微小部分への分割: 連続的に変化する量を扱う際の基本的な考え方。
  • 力の成分: 磁場と電流が直交していない場合、力の向きは両者に垂直な方向になる。

具体的な解説と立式

: 導線BC上で、Lから距離\(x\)の位置にある長さ\(\Delta x\)の微小部分を考えます。
この位置での磁場の強さ\(H_x\)は、
$$ H_x = \frac{I_1}{2\pi x} $$
この微小部分が受ける力の大きさ\(\Delta F_{\text{BC}}\)は、
$$ \Delta F_{\text{BC}} = I_2 (\mu_0 H_x) \Delta x = I_2 \mu_0 \left( \frac{I_1}{2\pi x} \right) \Delta x $$
この式を、\(F_{\text{AB}} = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi}\) を使って表し、倍率を求めます。
$$ \Delta F_{\text{BC}} = \left( \frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi} \right) \frac{\Delta x}{2x} = F_{\text{AB}} \frac{\Delta x}{2x} $$

: 力の向きをフレミングの左手の法則で考えます。

  • 電流\(I_2\)の向き: 図の上向き(+y方向)。
  • 磁場の向き: 紙面の奥から手前向き。

よって、力\(\Delta F_{\text{BC}}\)の向きは、図の右向き(+x方向)となります。これは図2の①に相当します。

使用した物理公式

  • (ア, イ, ウ) と同様。
計算過程

:
$$
\begin{aligned}
\Delta F_{\text{BC}} &= I_2 \mu_0 \frac{I_1}{2\pi x} \Delta x \\[2.0ex]&= \frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi} \cdot \frac{\Delta x}{2x} \\[2.0ex]&= F_{\text{AB}} \cdot \frac{\Delta x}{2x}
\end{aligned}
$$
したがって、\(\Delta F_{\text{BC}}\)は\(F_{\text{AB}}\)の\(\displaystyle\frac{\Delta x}{2x}\)倍です。

計算方法の平易な説明

導線BCは、場所によってLからの距離が違うので、一括で力を計算できません。そこで、BCを細かく切り刻んだ「微小部分\(\Delta x\)」に注目します。この微小部分が受ける力の大きさを計算し、基準となる力\(F_{\text{AB}}\)の何倍になっているかを式変形して求めます(オ)。力の向きは、これまで通りフレミングの左手の法則で調べます(カ)。

結論と吟味

オ: \(\displaystyle\frac{\Delta x}{2x}\)
カ: ①
導線BC全体が受ける力は、この微小な力を\(x=r\)から\(x=3r\)まで積分することで求められますが、この問題ではそこまでは問われていません。

解答 オ: \(\displaystyle\frac{\Delta x}{2x}\), カ: ①

思考の道筋とポイント
ループABCD全体が受ける力の合力を求めます。これは、4つの辺AB, BC, CD, DAがそれぞれ受ける力のベクトル和です。
この設問における重要なポイント

  • 対称性: 導線BCと導線DAは、直線電流Lに対して対称的な位置関係にあります。
  • 力の打ち消し: 対称性から、BCが受ける力とDAが受ける力は、大きさが等しく向きが逆になり、互いに打ち消しあうことを見抜くことが重要です。

具体的な解説と立式

Step 1: 導線BCとDAが受ける力を比較する。
導線DAについても、BCと同様に微小部分に分けて力を考えることができます。
BC上の点(x, y)とDA上の点(x, -y)を比較すると、

  • Lからの距離はどちらも同じ\(x\)。
  • 磁場の強さ、向きはどちらも同じ。
  • 電流の向きは、BCでは上向き(+y方向)、DAでは下向き(-y方向)で逆。

フレミングの左手の法則を適用すると、BC上の微小部分が受ける力は右向き(+x方向)、DA上の対応する微小部分が受ける力は左向き(-x方向)となります。
これを導線全体で合計(積分)すると、導線BC全体が受ける力と導線DA全体が受ける力は、大きさが等しく向きが真逆になります。
したがって、BCとDAが受ける力の合力は0です。

Step 2: ループ全体の合力を求める。
ループ全体の合力は、4辺が受ける力のベクトル和です。
$$ \vec{F}_{\text{total}} = \vec{F}_{\text{AB}} + \vec{F}_{\text{BC}} + \vec{F}_{\text{CD}} + \vec{F}_{\text{DA}} $$
ここで、\(\vec{F}_{\text{BC}} + \vec{F}_{\text{DA}} = 0\) なので、
$$ \vec{F}_{\text{total}} = \vec{F}_{\text{AB}} + \vec{F}_{\text{CD}} $$
この合力の大きさは、設問「エ」で既に計算済みです。
$$ F_{\text{total}} = F_{\text{AB}} – F_{\text{CD}} = \frac{2}{3}F_{\text{AB}} $$

使用した物理公式

  • 力のベクトル和、対称性の考察。
計算過程

上記の考察により、ループ全体が受ける力の合力の大きさは、設問「エ」で求めたABとCDの合力の大きさに等しくなります。
$$ F_{\text{total}} = \frac{2}{3}F_{\text{AB}} $$
したがって、合力の大きさは\(F_{\text{AB}}\)の\(\displaystyle\frac{2}{3}\)倍です。

計算方法の平易な説明

ループ全体が受ける力を考えます。辺BCが受ける力(右向き)と辺DAが受ける力(左向き)は、形が対称的なので、きれいに打ち消しあって合計0になります。したがって、ループ全体が受ける力は、結局、辺ABが受ける力(下向き)と辺CDが受ける力(上向き)の合計だけを考えればよいことになります。この計算は「エ」で既に行っており、結果は\(F_{\text{AB}}\)の2/3倍でした。

結論と吟味

キ: \(\displaystyle\frac{2}{3}\)
BCとDAの力が打ち消しあうという対称性からの考察は、この種の問題で頻出する重要なテクニックです。これにより、複雑な積分計算を回避して結論に至ることができます。

解答 キ: \(\displaystyle\frac{2}{3}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • アンペールの法則(直線電流がつくる磁場):
    • 核心: 無限長直線電流\(I_1\)がつくる磁場が、距離に反比例して \(H = \displaystyle\frac{I_1}{2\pi x}\) と変化すること。これが全ての力の計算の根源です。ループの各点が異なる強さの磁場に置かれていることが、この問題の複雑さの源泉です。
    • 理解のポイント: 磁場が一様でないため、力を受ける導線の場所によって力の大きさが変わる、という点をしっかり認識することが第一歩です。
  • 電流が磁場から受ける力(\(F=IBl\)):
    • 核心: 磁場\(B\)の中で電流\(I_2\)が流れる導線が力を受ける、という基本法則。この問題では、ループの各辺について、電流の向きと磁場の向きから力の大きさと向きを決定するために使われます。
    • 理解のポイント: \(B\)は\(I_1\)がつくり、\(I\)はループを流れる\(I_2\)であるという、作用・反作用の関係とは異なる「磁場を介した相互作用」の構造を理解することが重要です。
  • ベクトル和と対称性:
    • 核心: ループ全体が受ける力は、4つの辺が受ける力の「ベクトル和」であるということ。特に(キ)では、辺BCとDAが受ける力が対称性から互いに打ち消しあうことを見抜くのが最大のポイントです。
    • 理解のポイント: 複雑な計算に見えても、対称性を見つけることで計算を大幅に簡略化できる場合があります。物理の問題では、図形の対称性に注目する癖をつけることが有効です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ループを動かす問題: この問題の配置で、ループを動かしたときに発生する誘導起電力を求める問題。ループを貫く磁束の変化率(\(\Phi = \int B dS\), \(V = -\frac{d\Phi}{dt}\))を計算する必要があり、積分計算が必須となります。
    • ループが回転する問題: 直線電流のつくる磁場の中で、ループが軸周りに回転するときのトルク(力のモーメント)を求める問題。各辺が受ける力の大きさと作用点を考え、モーメントを計算する必要があります。
    • 異なる形状のループ: ループが長方形や三角形の場合でも、各辺が受ける力をベクトル的に合成するという基本方針は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場の一様性を確認する: まず、力を受ける導線が置かれている場所の磁場が、一様か非一様かを確認します。非一様(場所によって強さや向きが変わる)であれば、積分的な考え方が必要になります。
    2. 対称性を探す: 図形や電流の配置に対称性がないかを探します。対称性があれば、力の成分が打ち消しあったり、計算が簡略化されたりすることが多いです。
    3. 座標軸を設定し、ベクトルで考える: 力はベクトル量なので、座標軸を設定し、各力のx成分、y成分を計算して最後に合成する、というアプローチが確実です。この問題では、x方向の力(BCとDA)とy方向の力(ABとCD)に分けて考えられました。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 非一様な磁場での力の計算ミス:
    • 誤解: 辺BCが受ける力を計算する際に、中心点の磁場や平均の磁場を使って安易に \(F=IBl\) を適用してしまう。
    • 対策: 磁場が非一様な場合、力も場所によって変わるため、原則として積分が必要であると認識すること。(オ)のように微小部分で考えるのが正しいアプローチです。
  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: フレミングの左手の法則を適用する際に、電流や磁場の向きを間違える。特に、磁場の向きが紙面に垂直な場合に混乱しやすい。
    • 対策: 図に「電流」「磁場」「力」のベクトルを、それぞれ異なる種類の矢印(実線、破線など)で書き込み、指の向きと一つ一つ対応させながら確認する。焦らず、ゆっくり適用することが重要です。
  • 合力の計算での単純な足し算:
    • 誤解: 各辺が受ける力の大きさを計算した後、向きを考慮せずに単純に足してしまう。
    • 対策: 力はベクトルであることを常に意識する。各力の向きを図に矢印で描き込み、それを見ながら「同じ向きなら足し算、逆向きなら引き算、斜めなら成分分解」というベクトル演算の基本に忠実に従う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 磁力線の密度で磁場の強弱をイメージ: 直線電流Lの周りに、Lに近いほど密に、遠いほど疎になるような同心円状の磁力線を描くと、「ABは強い磁場、CDは弱い磁場、BCやDAは場所によって強さが変わる磁場」に置かれていることが視覚的に理解できます。
    • 力のベクトル図: (キ)を考える際に、ループの図とは別に、力のベクトルだけを抜き出した図(原点から出る4本の力ベクトル)を描くと、ベクトル和の計算が見やすくなります。BCとDAの力がx軸上で対称、ABとCDの力がy軸上で非対称であることが一目瞭然になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の活用: 問題で与えられた座標軸を有効に使い、力の向きを「+x方向」「-y方向」のように成分で表現すると、合成の際に混乱が少なくなります。
    • 記号の統一: 導線ABが受ける力を\(F_{\text{AB}}\)、その位置での磁場を\(H_{\text{AB}}\)のように、添字を使ってどの部分に関する量なのかを明確に区別して記述すると、思考が整理されます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)(直線電流の磁場):
    • 選定理由: 問題の力の源泉である、直線電流\(I_1\)がつくる磁場を計算するために必須の公式。
    • 適用根拠: アンペールの法則から導かれる、この状況設定における最も基本的な公式です。
  • \(F = IBl\)(電流が受ける力):
    • 選定理由: 磁場の中で電流が受ける「力」の大きさを問われているため。
    • 適用根拠: 磁場が一様で、電流と磁場が直交する場合の力の公式。辺ABとCDでは磁場が一様なため直接使えます。辺BCとDAでは、微小部分\(\Delta x\)では磁場が一様とみなせるため、\(\Delta F = I_2 B_x \Delta x\) の形で適用します。
  • 対称性の利用(積分計算の回避):
    • 選定理由: (キ)で、辺BCとDAが受ける力を真面目に積分計算するのは大変なため。
    • 適用根拠: 図形の対称性と物理法則の対称性から、BCとDAが受ける力は大きさが等しく逆向きになることが明らかです。これにより、複雑な計算をせずに合力が0になると結論できます。試験では、このような計算回避のテクニックが時間短縮に繋がります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. ア〜ウ (辺ABの力):
    • 戦略: 基本公式を順に適用。
    • フロー: ①LがABの位置につくる磁場\(H_{\text{AB}}\)を計算。②\(B_{\text{AB}}=\mu_0 H_{\text{AB}}\)で磁束密度に。③\(F_{\text{AB}}=I_2 B_{\text{AB}} (2r)\)で力を計算。④フレミングの法則で向きを決定。
  2. エ (ABとCDの合力):
    • 戦略: CDの力を計算し、ABの力とベクトル的に合成。
    • フロー: ①LがCDの位置につくる磁場\(H_{\text{CD}}\)と力\(F_{\text{CD}}\)を計算。②\(F_{\text{CD}}\)と\(F_{\text{AB}}\)の向きが逆であることを確認。③合力 = \(F_{\text{AB}} – F_{\text{CD}}\)。④\(F_{\text{AB}}\)との比を求める。
  3. オ, カ (辺BCの微小部分の力):
    • 戦略: 任意の位置xにある微小部分\(\Delta x\)に注目して力を計算。
    • フロー: ①距離xでの磁場\(H_x\)を計算。②微小な力\(\Delta F_{\text{BC}} = I_2 (\mu_0 H_x) \Delta x\)を立式。③\(F_{\text{AB}}\)で割って倍率を求める。④フレミングの法則で向きを決定。
  4. キ (全体の合力):
    • 戦略: 対称性を利用して、計算を簡略化する。
    • フロー: ①辺BCとDAが受ける力は、対称性から大きさが等しく逆向きなので、合力は0になると判断。②したがって、全体の合力はABとCDの合力に等しいと結論。③「エ」の結果をそのまま引用する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 基準を明確にする: (エ, オ, キ)のように「\(F_{\text{AB}}\)の何倍か」を問う問題では、基準となる\(F_{\text{AB}}\)の式(\(\frac{\mu_0 I_1 I_2}{\pi}\))を最初に明確に書き出しておき、他の力の式を計算するたびに、この基準の形でくくり出せないか意識すると、式変形がスムーズに進みます。
  • 文字の整理: \(\mu_0, \pi, I_1, I_2, r\)など多くの文字が登場します。計算過程で書き間違えたり、消し忘れたりしないよう、注意深く式を扱いましょう。
  • 検算: 平行な電流(ABとL)は引力、反平行な電流(CDとL)は斥力、という基本的な性質と、計算結果(力の向き)が一致しているかを確認するだけでも、単純なミスを発見できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (エ, キ)合力の向き: 導線Lに近い辺ABが受ける引力は、遠い辺CDが受ける斥力よりも強いはずです(磁場は距離に反比例するため)。したがって、ループ全体としては、Lに引き寄せられる向きの力が残るはずです。計算結果(合力は\(F_{\text{AB}}\)と同じ向き)と一致しており、妥当です。
    • (キ)BCとDAの力の相殺: BC上の各部分が受ける力(右向き)と、DA上の対応する部分が受ける力(左向き)は、Lからの距離が同じなので、磁場の強さも同じです。したがって、力の大きさも等しくなり、向きが逆なので打ち消しあう、という論理は物理的に完全に正しいです。
  • もし電流の向きが逆だったら?:
    • もしループ電流\(I_2\)の向きが逆(A→D→C→B→A)だったらどうなるか考えてみましょう。ABは斥力、CDは引力を受け、BCは左向き、DAは右向きの力を受けます。この場合もBCとDAの力は相殺し、全体の合力は斥力(上向き)で、大きさは同じく\(F_{\text{AB}}\)の\(\frac{2}{3}\)倍になります。このように、条件を変えて考察することで、法則の理解が深まります。

問題127 (群馬大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一様な磁場中に入射した荷電粒子の運動を扱う、電磁気学の典型的な問題です。初速度の向きによって、運動が等速円運動になる場合と、らせん運動になる場合の両方を考察します。ローレンツ力を向心力とする運動方程式の立式と、速度の成分分解が鍵となります。

与えられた条件
  • 磁場: y軸の正の向きに、大きさ\(B\)で一様。
  • 荷電粒子A: 質量\(m\)、電気量\(Q>0\)。
  • 重力: 無視する。
  • (1)〜(3): 初速度\(v\)がx軸の正の向き。
  • (4)〜(5): 初速度\(v’\)がxy平面内でx軸と角\(\theta\)をなす向き。
問われていること
  • (1) 粒子が受けるローレンツ力の大きさと向き。
  • (2) 円運動の軌跡を表す適切な図。
  • (3) 円運動の半径と周期。
  • (4) らせん運動の運動成分に関する空欄補充(ア、イ、ウ)。
  • (5) らせん運動において、1周期分のy軸方向への移動距離(ピッチ)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「磁場中の荷電粒子の運動」です。ローレンツ力の性質を正しく理解し、運動を記述することが中心となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 荷電粒子が磁場から受ける力。力の大きさは \(f=qvB\sin\phi\)(\(\phi\)は速度\(\vec{v}\)と磁場\(\vec{B}\)のなす角)、向きはフレミングの左手の法則で決まります。ローレンツ力は常に速度と垂直なため、仕事をせず、粒子の運動エネルギー(速さ)を変えません。
  2. 円運動の運動方程式: 磁場に垂直に入射した荷電粒子は、ローレンツ力を向心力として等速円運動をします。運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = f\) となります。
  3. 運動の分解: 速度ベクトルが磁場に対して斜めの場合、運動を「磁場に平行な成分」と「磁場に垂直な成分」に分解して考えます。平行成分は力を受けず等速直線運動を、垂直成分は等速円運動をします。
  4. らせん運動: 上記の等速直線運動と等速円運動が合成されると、粒子は「らせん運動」をします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、ローレンツ力の公式とフレミングの左手の法則を適用し、力の大きさと向きを求めます(問1)。
  2. 力の向きから円運動の中心がどの方向にあるかを考え、運動の軌跡を図示します(問2)。
  3. 円運動の運動方程式を立て、半径と周期を求めます(問3)。
  4. 速度を磁場に平行・垂直な成分に分解し、それぞれの方向でどのような運動をするかを考えます(問4)。
  5. らせん運動の1周期の時間(円運動の周期)と、その間に磁場平行方向に進む距離(ピッチ)を計算します(問5)。

問(1)

思考の道筋とポイント
荷電粒子が磁場から受ける力、すなわちローレンツ力の大きさと向きを求める基本的な問題です。公式とフレミングの左手の法則を正しく適用します。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式: \(f=qvB\)。この問題では、速度\(\vec{v}\)(x軸向き)と磁場\(\vec{B}\)(y軸向き)が直交しているので、\(\sin 90^\circ = 1\)です。
  • フレミングの左手の法則: 力の向きを決定します。正電荷(\(Q>0\))なので、電流の向きは速度の向きと同じと考えてよいです。

具体的な解説と立式
力の大きさ\(f\)は、ローレンツ力の公式より、
$$ f = QvB $$
力の向きは、フレミングの左手の法則を適用します。

  • 電流(中指)の向き: 速度の向きなので、x軸の正の向き。
  • 磁場(人差し指)の向き: y軸の正の向き。
  • 力(親指)の向き: z軸の正の向き(紙面の裏から表へ向かう向き)。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f=qvB\)
計算過程

立式がそのまま結論となります。
大きさ: \(f = QvB\)
向き: z軸の正の向き

計算方法の平易な説明

磁場の中で動く荷電粒子が受ける「ローレンツ力」の大きさと向きを答える問題です。大きさは公式 \(f=QvB\) に当てはめるだけです。向きは、フレミングの左手の法則を使って、「電流(速度)」「磁場」「力」の3つの向きの関係から求めます。

結論と吟味

大きさは \(QvB\)、向きはz軸の正の向き。物理法則を正しく適用した結果であり、妥当です。

解答 (1) 大きさ: \(QvB\), 向き: z軸の正の向き

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた力の向きを手がかりに、円運動の軌跡を考えます。力は常に運動の中心を向く(向心力)という性質を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 向心力の向き: 円運動では、力は常に円の中心を向きます。
  • ローレンツ力の性質: ローレンツ力は常に速度ベクトルに垂直です。
  • 座標系の見方: 各図がどの方向から見た図であるかを正しく理解することが重要です。

具体的な解説と立式
粒子は原点Oでx軸正の向きに打ち出され、直後にz軸正の向きに力を受けます。
円運動の向心力は常に円の中心を向くので、円の中心はz軸の正の領域にあることがわかります。
運動はxz平面内で起こります(速度がx成分、力がz成分を持つため)。
したがって、軌跡はxz平面内での円運動となり、その中心はz軸の正の側にあります。
これを満たす図は④です。

  • 図①, ②: yz平面またはxy平面での運動を描いており、不適切。
  • 図③: y軸が紙面に垂直な図で、xz平面内の運動を表しています。しかし、原点Oでx軸正の向きに進む粒子が受ける力はz軸正の向きなので、円の中心はz軸の正の側にあるはずです。図③は中心がz軸の負の側にあるため不適切。
  • 図④: y軸が紙面に垂直な図で、xz平面内の運動を表しています。原点Oでx軸正の向きに進む粒子が、z軸正の向きに力を受け、中心がz軸上にある円軌道を描いており、適切です。

使用した物理公式

  • 向心力の概念
計算過程

上記の考察により、適切な図は④であると判断できます。

計算方法の平易な説明

粒子はx軸方向に進み始めた瞬間、z軸方向に「蹴られ」ます。この「蹴る力」が常に行く手の内側(円の中心)に向かって働き続けることで、粒子はぐるぐると円を描きます。最初にz軸のプラス方向に蹴られたので、円の中心はz軸のプラス側にあるはずです。この条件に合う図を選びます。

結論と吟味

軌跡は④です。力の向きと円運動の性質から、論理的に正しい選択です。

解答 (2)

問(3)

思考の道筋とポイント
等速円運動の運動方程式を立てて、半径\(r\)と周期\(T\)を求めます。ローレンツ力が向心力の役割を果たしていることがポイントです。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = (\text{向心力})\)
  • 周期の定義: \(T = \displaystyle\frac{(\text{円周の長さ})}{(\text{速さ})} = \frac{2\pi r}{v}\)

具体的な解説と立式
荷電粒子は、速さ\(v\)で半径\(r\)の等速円運動をします。向心力は(1)で求めたローレンツ力\(f=QvB\)です。
運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = QvB $$
この式を\(r\)について解くことで、半径が求まります。
周期\(T\)は、求めた半径\(r\)を使って、
$$ T = \frac{2\pi r}{v} $$
の式から計算します。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = f\)
  • 周期の公式: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

半径\(r\)の計算:
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= QvB \\[2.0ex]\frac{mv}{r} &= QB \\[2.0ex]r &= \frac{mv}{QB}
\end{aligned}
$$
周期\(T\)の計算:
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi r}{v} \\[2.0ex]&= \frac{2\pi}{v} \left( \frac{mv}{QB} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2\pi m}{QB}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

円運動を続けるためには、外に飛び出そうとする勢い(慣性)と、中心に引っ張る力(向心力)が釣り合っている必要があります。この「力のつりあい」の式(運動方程式)を立てます。この式を解くと、円の半径が計算できます。周期は、その半径の円をぐるっと一周するのにかかる時間のことなので、「円周の長さ ÷ 速さ」で計算できます。

結論と吟味

半径 \(r = \displaystyle\frac{mv}{QB}\)、周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{QB}\)。
周期\(T\)が速さ\(v\)によらないという点は、磁場中での円運動の重要な特徴です。速い粒子ほど大きな円を描く(\(r\)は\(v\)に比例)ため、一周にかかる時間は同じになる、という物理的意味とも一致しており、妥当な結果です。

解答 (3) 半径: \(\displaystyle\frac{mv}{QB}\), 周期: \(\displaystyle\frac{2\pi m}{QB}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
速度が磁場に対して斜め向きの場合、運動を「磁場に平行な成分」と「磁場に垂直な成分」に分解して考えるのが定石です。それぞれの成分がどのような運動をするかを答えます。
この設問における重要なポイント

  • 運動の分解: 複雑な運動を、単純な運動の合成として捉える。
  • ローレンツ力の性質: 磁場に平行な速度成分はローレンツ力に寄与しない(力を受けない)。

具体的な解説と立式
初速度\(\vec{v’}\)を、磁場\(\vec{B}\)(y軸向き)に垂直な成分と平行な成分に分解します。

  • 磁場に垂直な面内では: x成分 \(v’_x = v’\cos\theta\)が磁場と直交するため、ローレンツ力を向心力とする運動をします。これはxz平面内での「等速円運動」です。よって、アは③
  • 磁場に平行な方向では: y成分 \(v’_y = v’\sin\theta\)が磁場と平行なため、ローレンツ力は働きません(\(f=QvB\sin 0^\circ = 0\))。したがって、y軸方向には力が作用せず、初速度のまま進み続ける「等速度運動」をします。よって、イは①
  • 合成された運動は: xz平面での円運動と、y軸方向への等速直線運動が同時に起こるため、粒子は全体としてバネのような軌道、すなわち「らせん運動」をします。よって、ウは④

使用した物理公式

  • ローレンツ力の性質
  • 運動の合成
計算過程

上記の考察により、ア:③, イ:①, ウ:④ となります。

計算方法の平易な説明

斜めに打ち出されたボールが、放物線を描きながらも「横方向には一定の速さで進み、縦方向には重力で加速する」と分解して考えるのと同じです。この問題では、粒子は「磁場に垂直な面(xz平面)ではクルクルと円運動」をしながら、「磁場に沿った方向(y軸方向)にはスーッと等速で進む」という2つの運動を同時に行います。この2つを合成すると、バネのような「らせん運動」になります。

結論と吟味

ア: ③ 等速円運動, イ: ① 等速度運動, ウ: ④ らせん運動。
磁場中の荷電粒子の運動に関する基本的な理解を問う問題であり、論理的に妥当な結論です。

解答 (4) ア: ③, イ: ①, ウ: ④

問(5)

思考の道筋とポイント
粒子がy軸を横切る距離を求めます。これは、らせん運動の「ピッチ」(1巻き分の長さ)を求めることに相当します。
ピッチは、「円運動を1周する時間(周期)」と「その間に磁場と平行に進む速度」の積で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • らせん運動の周期: らせん運動の周期は、その射影である円運動の周期に等しい。
  • 周期の普遍性: (3)で示したように、周期は速度の大きさによらず、質量、電気量、磁場で決まる。

具体的な解説と立式

Step 1: らせん運動の周期\(T’\)を求める。
らせん運動の周期は、xz平面内での円運動の周期と同じです。円運動の速度成分は \(v’_\perp = v’_x = v’\cos\theta\) です。
(3)で求めた周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{QB}\) は、速度の大きさによらないため、この場合もそのまま適用できます。
$$ T’ = \frac{2\pi m}{QB} $$

Step 2: y軸方向に移動する距離を求める。
粒子は、周期\(T’\)の時間だけ、y軸方向に速さ \(v’_y = v’\sin\theta\) で等速直線運動をします。
したがって、求める距離(ピッチ)\(L\)は、
$$ L = v’_y \times T’ $$

使用した物理公式

  • 周期の公式: \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{QB}\)
  • 等速直線運動の距離: (距離) = (速さ) × (時間)
計算過程

$$
\begin{aligned}
L &= v’_y \times T’ \\[2.0ex]&= (v’\sin\theta) \times \left( \frac{2\pi m}{QB} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2\pi m v’ \sin\theta}{QB}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子が「クルッ」と1周して元の位置(y軸上)に戻ってくるまでの時間を計算します。この時間は(3)で求めた周期と同じです。その時間の間、粒子はy軸方向にも一定の速さで進んでいるので、「y方向の速さ × 1周にかかる時間」を計算すれば、y軸方向にどれだけ進んだかがわかります。

結論と吟味

移動距離は \(\displaystyle\frac{2\pi m v’ \sin\theta}{QB}\) です。
各物理量の次元を確認すると、\(\frac{[kg][m/s]}{[C][T]} = \frac{[kg][m/s]}{[C][N/(A \cdot m)]} = \frac{[kg][m/s]}{[C][N/((C/s) \cdot m)]} = [m]\) となり、距離の次元と一致します。計算は妥当です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{2\pi m v’ \sin\theta}{QB}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力:
    • 核心: 磁場中で運動する荷電粒子が受ける力 \(f=qvB\sin\phi\) であり、その向きはフレミングの左手の法則に従うこと。この力は常に速度と垂直であるため、仕事をせず、粒子の速さを変えないという性質が極めて重要です。
    • 理解のポイント: この「仕事をしない」という性質が、運動が「等速」円運動や「等速」直線運動になる根拠です。
  • 運動の分解:
    • 核心: 速度ベクトル\(\vec{v}\)を、磁場\(\vec{B}\)に「平行な成分」と「垂直な成分」に分解して考えること。これが、らせん運動のような複雑な運動を理解するための鍵です。
    • 理解のポイント:
      • 垂直成分: ローレンツ力を向心力とする等速円運動の原因となる。
      • 平行成分: 力を受けないため、等速直線運動を続ける。
  • 円運動の運動方程式:
    • 核心: ローレンツ力を向心力として、\(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = f\) という運動方程式を立てること。これにより、円運動の半径や周期といった具体的な数値を導出できます。
    • 理解のポイント: これは、力学における円運動の知識と、電磁気学におけるローレンツ力の知識を結びつける重要な架け橋です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 速度選別機: 電場と磁場を垂直にかけ、ローレンツ力と静電気力が釣り合う(\(\vec{F} = q\vec{E} + q\vec{v} \times \vec{B} = 0\))特定の速度の粒子だけを直進させる装置。
    • サイクロトロン: 半円形の電極(ディー)内で磁場による円運動をさせ、電極間を通過するたびに電場で加速させる装置。周期が速度によらない性質を利用しています。
    • 質量分析器: 磁場中で円運動させ、その半径が質量に依存すること(\(r = \frac{mv}{QB}\))を利用して、同位体などの質量を分離・測定する装置。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. \(\vec{v}\)と\(\vec{B}\)の角度を確認: まず、初速度ベクトルと磁場ベクトルのなす角度\(\phi\)を確認します。
      • \(\phi=90^\circ\) \(\rightarrow\) 等速円運動
      • \(\phi=0^\circ\) or \(180^\circ\) \(\rightarrow\) 力を受けず、等速直線運動
      • \(0^\circ < \phi < 90^\circ\) \(\rightarrow\) らせん運動(運動の分解が必要)
    2. 力の向きを最初に決定: フレミングの左手の法則を使い、粒子がどちらに曲がるかを最初に把握します。これにより、円運動の中心がどの方向にあるか、軌跡の概形をイメージできます。
    3. 周期が速度によらないことを活用: 周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{QB}\) は、円運動の速度成分の大きさによらない普遍的な値です。らせん運動の問題(問5)でも、円運動の速度成分が\(v\)から\(v’\cos\theta\)に変わっても、周期は変わらないという点が計算の鍵になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 正負の電荷の扱い:
    • 誤解: 負電荷(電子など)の場合も、正電荷と同じようにフレミングの左手の法則を適用してしまう。
    • 対策: 負電荷の場合、電流の向きは「速度と逆向き」と考えます。または、フレミングの左手の法則で出た力の向きを、最後に「逆向き」にする、と覚えておきましょう。
  • らせん運動の半径と周期の計算ミス:
    • 誤解: らせん運動の半径を計算する運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v_\perp^2}{r} = Q v_\perp B\) に、元の速さ\(v’\)を代入してしまう。周期の計算で、磁場に平行な速度成分を使ってしまう。
    • 対策: 「円運動をするのは、あくまで磁場に垂直な速度成分\(v_\perp\)である」という原則を徹底します。半径の計算には\(v_\perp\)を、周期の計算には質量\(m\)と電気量\(Q\)(速度は不要)を、ピッチの計算には周期\(T\)と平行な速度成分\(v_\parallel\)を使う、と役割分担を明確にしましょう。
  • 三角関数の選択ミス:
    • 誤解: 速度を分解する際に、\(\cos\theta\)と\(\sin\theta\)を取り違える。
    • 対策: 必ず図を描き、角度\(\theta\)がどちらの辺に接しているかを確認して、「\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)」と機械的に判断します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 3次元座標でのベクトル図: x, y, z軸を描き、そこに速度ベクトル\(\vec{v}\)と磁場ベクトル\(\vec{B}\)を矢印で描き入れます。次に、フレミングの左手の法則を使って、力のベクトル\(\vec{f}\)を描き加えます。この3つのベクトルの立体的な関係を視覚化することが、運動を正しく理解する第一歩です。
    • 運動の射影: らせん運動を、xz平面(円運動)とy軸(等速直線運動)に射影した図をイメージします。スクリーンに映し出された影のように、「xzスクリーンには円が、yスクリーンには点が往復するように見える」と考えると、運動の分解が直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 視点の明記: (2)の選択肢のように、どの方向から見た図(どの軸が紙面に垂直か)なのかを明確に意識することが重要です。自分で図を描く際も、「y軸正の方向から見る」などと視点を定めると、軌跡を描きやすくなります。
    • 円運動の中心: 力の向きが分かれば、円運動の中心の位置が特定できます。軌跡の図には、中心点も描き込むと、半径との関係が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(f=QvB\)(ローレンツ力):
    • 選定理由: (1)で磁場から受ける「力」を問われているため。また、(3)で円運動の「向心力」として必要になるため。
    • 適用根拠: 磁場中を運動する荷電粒子に働く力を定義する、最も基本的な法則です。
  • \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = f\)(円運動の運動方程式):
    • 選定理由: (3)で円運動の「半径」を求めるため。向心力と慣性力(遠心力)のつり合いを表すこの式が、半径\(r\)と他の物理量とを結びつけます。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を、円運動の場合(加速度 \(a=\frac{v^2}{r}\))に適用したものです。
  • \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)(周期の公式):
    • 選定理由: (3)で円運動の「周期」を求めるため。
    • 適用根拠: 周期の定義そのものです。「距離=速さ×時間」から導かれます。
  • 運動の分解(ベクトル分解):
    • 選定理由: (4), (5)で、速度が磁場に対して斜めになっているため。このままでは運動を記述できないので、互いに独立した単純な運動(等速円運動と等速直線運動)に分解して解析する必要があります。
    • 適用根拠: ベクトルの性質に基づき、一つの運動を複数の独立した運動の合成として扱えるという、物理学における強力な解析手法です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)〜(3) 垂直入射(円運動):
    • 戦略: 法則を順に適用し、運動を特定する。
    • フロー: ①ローレンツ力の式で力の大きさを計算。②フレミングの法則で力の向きを決定。③力の向きから軌跡の概形を判断。④運動方程式 \(m\frac{v^2}{r}=QvB\) を立てる。⑤式を解いて半径\(r\)を求める。⑥\(T=\frac{2\pi r}{v}\) に代入して周期\(T\)を求める。
  2. (4)〜(5) 斜め入射(らせん運動):
    • 戦略: 運動を分解し、各成分を解析して合成する。
    • フロー: ①速度\(\vec{v’}\)を磁場に垂直な成分\(v’_\perp = v’\cos\theta\)と平行な成分\(v’_\parallel = v’\sin\theta\)に分解。②垂直方向は「等速円運動」、平行方向は「等速直線運動」と判断(ア, イ)。③合成して「らせん運動」と結論(ウ)。④らせんの周期は円運動の周期と同じで、速度によらないため(3)の結果 \(T’ = \frac{2\pi m}{QB}\) を使う。⑤ピッチ(求める距離)= \(v’_\parallel \times T’\) を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認: 最終的な答えの単位が、求められている物理量の単位(m, sなど)と一致するかを確認する習慣をつけましょう。次元解析は、式の形が正しいかどうかの強力なチェック手段です。
  • 文字の書き間違い: \(v\)と\(v’\)、\(r\)と\(r’\)など、似た記号を混同しないように注意深く記述しましょう。
  • 周期の公式の暗記: 周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{QB}\) は、速度\(v\)や半径\(r\)を含まない、非常に重要な結果です。この形を覚えておくと、(5)のような問題で、周期を再計算する手間が省け、計算ミスも減らせます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 周期: 周期\(T\)が速さ\(v\)によらない、という結果について、「なぜか?」を考えてみましょう。速い粒子はローレンツ力も強くなる(\(f \propto v\))が、円運動を維持するための向心力もより多く必要になる(\(F \propto v^2\))。しかし、半径も大きくなる(\(r \propto v\))ため、結果的に \(m\frac{v^2}{r} \propto \frac{v^2}{v} \propto v\) となり、力の\(v\)への比例関係と一致します。そして、大きな円周を速く回るため、一周の時間は同じになる、と納得できます。
    • (5) ピッチ: もし\(\theta=0^\circ\)なら、\(v’_\parallel=0\)となりピッチは0、つまり円運動になります。もし\(\theta=90^\circ\)なら、\(v’_\perp=0\)となり円運動せず、y軸上を等速直線運動します。これらの極端な場合を考え、式がそれらの状況と一致するかを確認することで、答えの妥当性を吟味できます。

問題128 (浜松医大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、前半でp-n接合ダイオードの基本的な性質を、後半でホール効果の原理を問う、半導体物理の重要な2つのテーマを扱っています。
(1)では、ダイオードの順方向・逆方向バイアス、キャリア(正孔と電子)、空乏層、整流作用といった基本的な語句の理解が試されます。
(2)以降では、金属中の電子をキャリアとして、磁場中で電流を流した際に発生するホール効果について、現象のメカニズム、キャリアの速さ、キャリア密度などを段階的に計算していきます。最後に、その知識をp型・n型半導体に応用します。

与えられた条件
  • (1) 半導体AとBを接合した回路。A側に正、B側に負の電圧をかけると電流が流れる。
  • (2)〜(4) 金属試料(キャリアは電子、電気素量\(e\))。幅\(a\)、長さ\(b\)、高さ\(c\)。鉛直下向きに磁場\(B\)、図の向きに電流\(I\)。
  • (5) (1)の半導体A, Bで同様の試料A’, B’を作成し、ホール効果を考える。
問われていること
  • (1) 空欄(ア〜キ)に入る適切な語句。
  • (2) ホール効果における高電位側の側面と、現象の名称。
  • (3) ローレンツ力と静電気力がつりあってキャリアが直進するときの速さ\(v\)。
  • (4) 単位体積当たりのキャリア数(キャリア密度)\(n\)。
  • (5) 試料A’(p型)、試料B’(n型)における高電位側の側面。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「半導体の性質とホール効果」です。ダイオードの動作原理と、磁場中のキャリアの振る舞いを物理法則に基づいて説明することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. p-n接合ダイオード: p型半導体(キャリア:正孔)とn型半導体(キャリア:電子)を接合したもの。p側に正、n側に負の電圧をかける(順方向バイアス)と電流が流れ、逆だとほとんど流れない。この性質を整流作用という。
  2. ローレンツ力: 磁場中で運動する荷電粒子が受ける力。向きはフレミングの左手の法則で決まる。キャリアの種類(正電荷か負電荷か)によって、力の向きの解釈が変わる点に注意。
  3. ホール効果: 電流が流れている導体に、電流と垂直に磁場をかけると、電流と磁場の両方に垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じる現象。この電位差の符号から、キャリアが正電荷か負電荷かを判別できる。
  4. 力のつりあい: ホール効果が定常状態に達すると、キャリアが受けるローレンツ力と、偏りによって生じた電場からの静電気力がつりあい、キャリアは直進する。
  5. 電流のミクロな表現: 電流\(I\)は、キャリアの密度\(n\)、電気量\(e\)、速さ\(v\)、断面積\(S\)を用いて \(I=envS\) と表される。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ダイオードに電流が流れる条件(順方向バイアス)から、半導体A, Bの型とキャリアを特定します。関連用語も答えます(問1)。
  2. 金属中のキャリア(電子)に働くローレンツ力の向きを考え、電子がどちらの側面に集まるかを判断します。これにより電位の高低が決まります(問2)。
  3. キャリアが直進する条件(ローレンツ力と静電気力のつりあい)から、力のつりあいの式を立てて速さ\(v\)を求めます(問3)。
  4. 電流のミクロな表現の公式に、(3)で求めた速さ\(v\)を代入し、キャリア密度\(n\)を求めます(問4)。
  5. (2)の考察を、キャリアが正孔(p型)と電子(n型)の各半導体にあてはめて、高電位になる側面を判断します(問5)。

問(1)

思考の道筋とポイント
p-n接合ダイオードの基本知識を問う問題です。電流が流れる「順方向バイアス」の条件を正しく理解しているかが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 順方向バイアス: p型側に正極、n型側に負極を接続すると電流が流れる。
  • キャリア: p型半導体の主なキャリアは正孔(ホール)、n型半導体の主なキャリアは電子。
  • ダイオードの構造と作用: p-n接合部にはキャリアのいない空乏層が存在する。一方向にしか電流を流さない性質を整流作用という。

具体的な解説と立式

  • ア, イ, ウ, エ: 図1では、半導体A側に電源の正極、B側に負極が接続されたときに電流が流れています。これは順方向バイアスの条件です。順方向バイアスでは、p型側に正極、n型側に負極を接続します。
    • したがって、Aはp型半導体(ア)、そのキャリアは正孔(ホール)(イ)です。
    • Bはn型半導体(ウ)、そのキャリアは電子(エ)です。
  • : 電圧を逆向きにかけると(逆方向バイアス)、p-n接合部で正孔と電子が互いに遠ざかり、キャリアがほとんど存在しない層が広がります。これを空乏層(オ)といいます。
  • カ, キ: このようにp-n接合を持つ電子部品をダイオード(カ)と呼びます。一方向にしか電流を流さない性質は整流作用(キ)と呼ばれ、交流を直流に変換するために利用されます。

使用した物理公式

  • (物理公式ではなく、半導体に関する知識)
計算過程

(知識を記述するため、計算過程はなし)

計算方法の平易な説明

ダイオードは電気の「一方通行の弁」のようなものです。電流が流れる向き(順方向)は、p型半導体にプラス、n型半導体にマイナスの電圧をかけるときです。問題の図から、Aがp型、Bがn型だとわかります。p型の主役はプラスの電気を持つ「正孔」、n型の主役はマイナスの電気を持つ「電子」です。これらの用語を正しく当てはめていきます。

結論と吟味

ア: p, イ: 正孔(ホール), ウ: n, エ: 電子, オ: 空乏層, カ: ダイオード, キ: 整流
半導体ダイオードの基本的な知識と一致しており、妥当です。

解答 (1) ア: p, イ: 正孔(ホール), ウ: n, エ: 電子, オ: 空乏層, カ: ダイオード, キ: 整流

問(2)

思考の道筋とポイント
金属試料にホール効果が現れる際の、電位の高低を問う問題です。キャリアである電子に働くローレンツ力の向きを正しく判断することが全てです。
この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則: ローレンツ力の向きを決定する。
  • キャリアの電荷: 電子は負電荷であるため、電流の向きとキャリアの運動方向は逆になる。この点を考慮してフレミングの法則を適用する必要がある。

具体的な解説と立式
キャリアは電子(負電荷)です。電流\(I\)が図の右向きに流れているので、電子の速度\(\vec{v}\)は左向きです。
この電子に働くローレンツ力\(\vec{F}\)の向きを、フレミングの左手の法則で考えます。

  • 電流の向き(電子の速度と逆向き): 右向き。
  • 磁場の向き: 鉛直下向き。
  • 力の向き: 側面Xから側面Yへ向かう向き。

このローレンツ力によって、電子は側面Yに引き寄せられ、蓄積します。

  • 側面Y: 電子(負電荷)が過剰になり、電位が低くなる。
  • 側面X: 電子が不足し、相対的に正に帯電するため、電位が高くなる。

この現象は、発見者の名にちなんでホール効果と呼ばれます。

使用した物理公式

  • ローレンツ力の概念(フレミングの左手の法則)
計算過程

(物理的な考察のため、計算過程はなし)

計算方法の平易な説明

電流の正体である電子は、電流の向きとは逆の左向きに動いています。この動いている電子が、上から下の磁場によって力を受け、進路を曲げられます。フレミングの左手の法則を使うと、電子は側面Yの方向に曲げられることがわかります。その結果、側面Yにはマイナスの電子がたまり、電位が低くなります。逆に、電子がいなくなった側面Xはプラスになり、電位が高くなります。

結論と吟味

高電位になるのは側面X。現象名はホール効果。
キャリアが負電荷である電子の場合のホール効果の基本原理と一致しており、妥当です。

解答 (2) 高電位の側面: 側面X, 現象名: ホール効果

問(3)

思考の道筋とポイント
ホール効果が定常状態になったとき、キャリアは直進します。これは、キャリアが受けるローレンツ力と、側面間に生じた電場からの静電気力がつりあっていることを意味します。この力のつりあいの式から、キャリアの速さ\(v\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい: ローレンツ力 = 静電気力
  • 一様な電場: 電位差\(V\)と距離\(a\)の間の電場は \(E = \displaystyle\frac{V}{a}\)
  • 静電気力: 電荷\(q\)が電場\(E\)から受ける力は \(f=qE\)

具体的な解説と立式
キャリアである電子(電気量\(e\))が受ける2つの力を考えます。

  • ローレンツ力\(F\): 大きさは \(F=evB\)。向きは(2)より、側面X→Yの向き。
  • 静電気力\(f\): 側面XとYの間に電位差\(V\)が生じると、XからYの向きに強さ \(E = \displaystyle\frac{V}{a}\) の電場が生じる。電子は負電荷なので、この電場から電場と逆向き、つまりY→Xの向きに大きさ \(f = eE = e\displaystyle\frac{V}{a}\) の静電気力を受ける。

電子が直進する条件は、これら2つの力がつりあうことなので、
$$ evB = e\frac{V}{a} $$
この式を\(v\)について解きます。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=evB\)
  • 静電気力: \(f=eE\)
  • 一様な電場: \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\)
計算過程

力のつりあいの式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
evB &= e\frac{V}{a} \\[2.0ex]vB &= \frac{V}{a} \\[2.0ex]v &= \frac{V}{Ba}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子が側面Yに偏ることで、側面XとYの間に「電場」という新しい力が生まれます。この電場は、電子を側面Xの方向へ引き戻そうとします。磁場による力(ローレンツ力)と、電場による力(静電気力)がちょうど同じ強さになると、電子はどちらにも曲がらずにまっすぐ進めるようになります。この「力のつりあい」の式を立てて、電子の速さ\(v\)を求めます。

結論と吟味

速さ \(v = \displaystyle\frac{V}{Ba}\)。
次元を確認すると、\([V]/([T][m]) = [V]/([Wb/m^2][m]) = [V]/([(V \cdot s)/m^2][m]) = [m/s]\) となり、速さの次元と一致します。結果は妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V}{Ba}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
電流\(I\)を、キャリアの密度や速さといったミクロな量で表す公式 \(I=envS\) を用います。この式に(3)で求めた速さ\(v\)を代入することで、キャリア密度\(n\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 電流のミクロな表現: \(I=envS\)
  • 断面積Sの特定: 電流の向きに垂直な面の面積を正しく計算する。

具体的な解説と立式
電流の公式は \(I=envS\) です。

  • \(I\): 電流の大きさ
  • \(e\): キャリアの電気量
  • \(n\): 単位体積当たりのキャリア数(キャリア密度)
  • \(v\): キャリアの速さ
  • \(S\): 電流に垂直な断面積

この問題では、電流は図の右向きに流れているので、それに垂直な断面は高さ\(c\)、幅\(a\)の長方形です。よって、断面積は \(S=ac\)。
したがって、
$$ I = en v (ac) $$
この式の\(v\)に、(3)で求めた \(v = \displaystyle\frac{V}{Ba}\) を代入し、\(n\)について解きます。

使用した物理公式

  • 電流のミクロな表現: \(I=envS\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I &= en(ac)v \\[2.0ex]I &= en(ac) \left( \frac{V}{Ba} \right) \\[2.0ex]I &= \frac{enVc}{B}
\end{aligned}
$$
この式を\(n\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
nBI &= enVc \\[2.0ex]n &= \frac{BI}{ecV}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電流の大きさ\(I\)は、ミクロに見ると「キャリアの数、速さ、通り道の断面積」などで決まります。その関係を表す公式 \(I=envS\) を使います。この公式に、(3)で求めたキャリアの速さ\(v\)を代入し、未知数であるキャリアの数\(n\)についての方程式として解きます。

結論と吟味

キャリア密度 \(n = \displaystyle\frac{BI}{ecV}\)。
測定可能な量(\(B, I, V\))と基本定数(\(e\))、試料の寸法(\(c\))から、直接は見えないキャリアの密度を求められることが、ホール効果の重要な応用の一つです。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{BI}{ecV}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(2)で行った考察を、キャリアが正孔であるp型半導体(試料A’)と、キャリアが電子であるn型半導体(試料B’)にそれぞれ適用します。キャリアの電荷の符号によって、ローレンツ力の向きは同じでも、どちらの側面に溜まるかが変わる点に注意します。
この設問における重要なポイント

  • p型半導体のキャリア: 正孔(正電荷)。電流と同じ向きに運動する。
  • n型半導体のキャリア: 電子(負電荷)。電流と逆向きに運動する。
  • ホール効果の応用: 高電位になる側面の情報から、半導体の型(p型かn型か)を判別できる。

具体的な解説と立式

  • 試料A’(p型半導体)の場合:
    • キャリアは正孔(電荷 \(+e\))。
    • 電流\(I\)が右向きなので、正孔の速度\(\vec{v}\)も右向き。
    • フレミングの左手の法則を適用:
      • 電流(速度)の向き: 右向き。
      • 磁場の向き: 鉛直下向き。
      • 力の向き: 側面X→Yの向き。
    • このローレンツ力により、正孔(正電荷)は側面Yに蓄積する。
    • 結果、側面Yが正に帯電し、電位が高くなる。
  • 試料B’(n型半導体)の場合:
    • キャリアは電子(電荷 \(-e\))。
    • これは(2)の金属の場合と全く同じ状況です。
    • 電子は側面Yに蓄積し、側面Yの電位が低くなる。
    • 結果、側面Xが正になり、電位が高くなる。

使用した物理公式

  • ローレンツ力の概念(フレミングの左手の法則)
計算過程

(物理的な考察のため、計算過程はなし)

計算方法の平易な説明

(2)と同じことを、今度は半導体で考えます。

  • 試料A’(p型): 主役はプラスの電気を持つ「正孔」です。正孔は電流と同じ向き(右)に進みます。フレミングの法則によると、この正孔は側面Yの方向に曲げられます。プラスの電気がYに溜まるので、側面Yの電位が高くなります。
  • 試料B’(n型): 主役はマイナスの電気を持つ「電子」です。これは(2)の金属と全く同じで、電子は側面Yに曲げられます。マイナスの電気がYに溜まるので、側面Yの電位は低くなり、逆に側面Xの電位が高くなります。
結論と吟味

試料A’では側面Yが、試料B’では側面Xが高電位になる。
キャリアの電荷の符号によって高電位側が逆転するというホール効果の最も重要な性質を問う問題であり、考察は妥当です。

解答 (5) 試料A’: 側面Y, 試料B’: 側面X

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ホール効果の原理(ローレンツ力と静電気力のつりあい):
    • 核心: 磁場中で電流を流すと、キャリアはローレンツ力を受けて偏る。その偏りによって生じた電場が、今度はキャリアに静電気力を及ぼす。最終的にこの2つの力がつりあうことで定常状態となり、側面に電位差(ホール電圧)が生じる。この一連のメカニズムがホール効果の根幹です。
    • 理解のポイント: \(evB = eE\) という力のつりあいの式が、(3)以降のすべての計算の出発点となります。
  • キャリアの電荷と運動方向:
    • 核心: 電流の向きは「正電荷の移動する向き」と定義されています。したがって、キャリアが正孔(正電荷)なら電流と同じ向きに、電子(負電荷)なら電流と逆の向きに運動します。
    • 理解のポイント: この違いが、フレミングの左手の法則を適用した際の力の向きの解釈に影響し、(5)でp型とn型で高電位側が逆転する原因となります。ホール効果が半導体の型を判別できる理由がここにあります。
  • 電流のミクロな表現(\(I=envS\)):
    • 核心: 回路全体を流れる電流\(I\)というマクロな量と、個々のキャリアの速さ\(v\)や数\(n\)といったミクロな量を結びつける重要な関係式です。
    • 理解のポイント: (4)でキャリア密度\(n\)を求める際に、(3)で求めたミクロな速さ\(v\)と、測定可能なマクロな量(\(I, V, B\)など)とを結びつけるために使われました。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホール素子(磁気センサ): ホール効果を利用して磁場の強さを測定する素子。ホール電圧\(V\)が磁場\(B\)に比例すること(\(V=vBa\))を利用します。未知の磁場\(B\)を、測定した\(V\)から求める問題などが出題されます。
    • 電磁ポンプ: 液体金属(導電性流体)に電流と磁場をかけると、流体全体がローレンツ力を受けて一方向に流れる装置。個々のイオンが受ける力を流体全体で考える応用例です。
    • キャリアの移動度(モビリティ): 電場中でのキャリアの速さ(ドリフト速度)を電場の強さで割った値 \(\mu = v/E\) を移動度といいます。ホール効果と電気伝導度の測定を組み合わせることで、この移動度を求める問題もあります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. キャリアは何か?: まず、問題で扱っている導体のキャリアが何か(電子か、正孔か)を明確にします。これにより、電流と速度の向きの関係、および電荷の符号が決まります。
    2. 力の図示: キャリア1個に注目し、それに働く「ローレンツ力」と「静電気力」をベクトル矢印で正確に図示します。力の向き、大きさを書き込むことで、つりあいの式を立てる準備ができます。
    3. マクロとミクロの橋渡し: 問題がキャリア密度\(n\)や速さ\(v\)のようなミクロな量を問うている場合、必ず \(I=envS\) のようなマクロな量との関係式を使うことになります。どの式とどの式を連立させればよいか、という視点で解法を探します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の速度の向き:
    • 誤解: 電流の向きを、そのまま電子の速度の向きとしてフレミングの左手の法則を適用してしまう。
    • 対策: 「電流の向き=正電荷の動く向き」「電子の動く向き=電流と逆向き」という大原則を常に意識します。図に電流\(I\)の矢印と、電子の速度\(v\)の矢印を別に描くのが有効です。
  • 静電気力の向き:
    • 誤解: 電場\(E\)の向きと、電子が受ける静電気力\(f\)の向きを同じだと考えてしまう。
    • 対策: 力の公式は \(\vec{f}=q\vec{E}\) です。電荷\(q\)が負(\(q=-e\))の場合、力\(\vec{f}\)は電場\(\vec{E}\)と逆向きになります。正電荷か負電荷かで力の向きが変わることを常に念頭に置きましょう。
  • 断面積Sの誤認:
    • 誤解: \(I=envS\) の公式の断面積\(S\)に、適当な面の面積(例えば \(ab\) や \(bc\))を代入してしまう。
    • 対策: \(S\)は必ず「電流の流れる向きに垂直な断面積」です。問題の図で電流の矢印を確認し、それを断ち切る面の面積はどこかを正確に読み取ります。この問題では、電流がbの方向に進むので、断面はacです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • キャリアの動きの逐次図:
      1. t=0: キャリアが直進。
      2. t>0: ローレンツ力でキャリアが片側に曲げられ始める。
      3. t>>0: 片側にキャリアが溜まり、逆向きの静電気力が発生。
      4. 定常状態: 2つの力がつりあい、キャリアは再び直進。

      このように、時間経過とともに現象がどう進展するかを段階的にイメージすると、ホール効果の物理的描像が明確になります。

    • 電位の等高線(等電位線): 定常状態では、側面XとYの間に電場ができます。この電場に垂直な線、つまりy軸に平行な線が等電位線になります。側面X側が電位が高く、Y側にいくほど低くなるような等高線をイメージすると、電位差の概念が理解しやすくなります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 3次元の矢印: 磁場や電流、力が紙面に垂直な場合、\(\otimes\)(奥から手前)や \(\odot\)(手前から奥)の記号を正しく使って、3次元的な関係を2次元の紙上で明確に表現することが重要です。
    • 電荷の分布: 側面XとYに、どちらに `+` が、どちらに `-` が溜まるのかを明記すると、電場の向きや電位の高低の判断ミスを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • フレミングの左手の法則:
    • 選定理由: (2), (5)で、磁場中を運動するキャリアが受ける力の「向き」を決定するために必要。
    • 適用根拠: ローレンツ力の向きを決定するための経験則であり、電磁気現象の基本です。
  • 力のつりあい(\(evB = eE\)):
    • 選定理由: (3)で、キャリアが「直進する」という条件が与えられているため。直進 \(\iff\) 合力ゼロ \(\iff\) 力のつりあい、という論理の流れから、この式を立てるのが必然となります。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則(合力がゼロなら静止または等速直線運動)の応用です。
  • \(I=envS\):
    • 選定理由: (4)で、マクロな量である電流\(I\)と、ミクロな量であるキャリア密度\(n\)の関係が問われているため、両者をつなぐこの公式を選択します。
    • 適用根拠: 電流の定義(単位時間あたりに断面を通過する電気量)から導出される、マクロとミクロを結ぶ基本式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) ダイオードの知識問題:
    • 戦略: 順方向バイアスの条件と、p型・n型の定義を思い出す。
    • フロー: 電流が流れる \(\rightarrow\) 順方向バイアス \(\rightarrow\) Aがp型、Bがn型 \(\rightarrow\) 各キャリアと用語を特定。
  2. (2) ホール効果の定性的な理解:
    • 戦略: キャリア(電子)に働くローレンツ力の向きを考える。
    • フロー: ①電流と逆向きに動く電子の速度の向きを特定。②フレミングの法則で力の向きを決定。③電子が溜まる側(電位が低い)と、その逆側(電位が高い)を判断。
  3. (3) キャリアの速さの導出:
    • 戦略: 力のつりあいの式を立てる。
    • フロー: ①ローレンツ力 \(F=evB\) と静電気力 \(f=eE=e\frac{V}{a}\) を立式。②\(F=f\) のつりあい式を立てる。③\(v\)について解く。
  4. (4) キャリア密度の導出:
    • 戦略: 電流のミクロな表現の式に、(3)の結果を代入する。
    • フロー: ①\(I=envS\) の公式を準備。②断面積\(S=ac\)を特定。③(3)で求めた\(v\)を代入。④\(n\)について解く。
  5. (5) p型・n型への応用:
    • 戦略: (2)の考察を、キャリアが正孔の場合と電子の場合にそれぞれ適用する。
    • フロー: ①p型(A’): キャリアは正孔(+e)。速度は電流と同じ向き。フレミングの法則を適用し、正孔が溜まる側(高電位側)を判断。②n型(B’): キャリアは電子(-e)。(2)と全く同じ。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 電荷の符号を常に意識: 特にフレミングの法則や静電気力の向きを考える際に、キャリアの電荷が正か負かで結論が逆になることがあります。計算の前に「キャリア:電子(-e)」などとメモしておくと、ミスを防げます。
  • 文字の多さに惑わされない: \(a, b, c, B, I, V, e, n, v\)など多くの文字が登場しますが、一つ一つの物理的な意味は明確です。どの式にどの文字が入るのか、定義をしっかり確認しながら立式しましょう。
  • 次元解析: (3)や(4)で得られた式の次元が、求められている物理量(速さなら[m/s]、密度なら[1/m³])の次元と一致するかを検算する癖をつけると、大きな間違いに気づくことができます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 速さv: \(v = V/(Ba)\) という結果は、ホール電圧\(V\)が大きいほど、また磁場\(B\)や試料の幅\(a\)が小さいほど、キャリアは速く動いている必要があることを示しています。これは物理的に直感と合っています。
    • (5) p型とn型の違い: ホール効果によって生じる電位差の向きが、キャリアの電荷の符号に依存するという結果は、ホール効果の最も重要な応用の一つです。これにより、未知の半導体がp型かn型かを実験的に決定できます。この結論の重要性を理解しておきましょう。
  • 他の物理現象との関連:
    • ホール効果はローレンツ力の一つの現れですが、同じローレンツ力は、モーターの原理や、サイクロトロン、質量分析器など、非常に多くの物理現象や技術の基礎となっています。一つの現象を学ぶ際に、その根底にある物理法則が他にどのように使われているかを考えると、物理学全体の理解が深まります。

問題129 (徳島大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電場による加速と磁場による円運動を交互に繰り返すことで荷電粒子を加速する装置「サイクロトロン」の動作原理を問う問題です。エネルギーと仕事の関係、ローレンツ力を向心力とする円運動、周期の性質など、力学と電磁気学の知識を総合的に活用する必要があります。

与えられた条件
  • 装置: 半円状の中空電極D\(_\text{L}\)とD\(_\text{R}\)が距離\(d\)で設置。
  • 電位: D\(_\text{L}\)の電位は0。D\(_\text{R}\)の電位は一定値。
  • 磁場: 電極内部にのみ、紙面の裏から表向きに強さ\(B\)の一様な磁場。
  • 粒子P: 質量\(m\)、正の電荷\(q\)。静止状態からスタート。
  • 〔A〕: D\(_\text{R}\)の電位が\(-V\)。
  • 〔B〕: D\(_\text{L}\)とD\(_\text{R}\)の間の電位を粒子が通過するたびに反転させる。
問われていること
  • (1) 粒子Pが最初にD\(_\text{R}\)に到達したときの速さ\(v\)。
  • (2) D\(_\text{R}\)内で運動中に粒子Pに働く力の名称。
  • (3) その力の大きさ\(F\)。
  • (4) D\(_\text{R}\)内での円運動の半径\(r\)。
  • (5) D\(_\text{R}\)内を半周するのにかかる時間\(t\)。
  • (6) 1周して再びD\(_\text{R}\)に入るときの速さ\(v_1\)。
  • (7) そのときの円運動の半径\(r_1\)。
  • (8) サイクロトロンの動作原理に関する記述の正誤判定。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「サイクロトロンの原理」です。荷電粒子が電場と磁場から受ける力とその影響を、運動の各段階で正確に分析することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事と運動エネルギーの関係: 物体がされた仕事は、その物体の運動エネルギーの変化に等しい(\(\Delta K = W\))。電場がする仕事は \(W=q\Delta\phi\)、ここで\(\Delta\phi\)は電位差。
  2. ローレンツ力: 磁場中で運動する荷電粒子が受ける力。\(f=qvB\)。この力は常に速度と垂直なため、仕事をせず、粒子の速さを変えない。
  3. 等速円運動: 磁場に垂直に入射した荷電粒子は、ローレンツ力を向心力として等速円運動をする。運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\)。
  4. 円運動の周期: 周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) は、粒子の速さや半径によらない。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 〔A〕では、まず電極間で粒子が電場から仕事をされて加速する過程を、エネルギー保存則(または仕事とエネルギーの関係)で考えます(問1)。
  2. 次に、磁場中に入った粒子がローレンツ力を受けて等速円運動する過程を、運動方程式を用いて解析します(問2〜5)。
  3. 〔B〕では、電極間の電位が反転し、粒子が繰り返し加速される状況を考えます。1周する間に何回、どれだけのエネルギーを得るかを正確に数え、そのときの速さと半径を計算します(問6, 7)。
  4. 最後に、これまでの考察を基に、サイクロトロンの動作原理に関する各記述の正しさを吟味します(問8)。

問(1)

思考の道筋とポイント
静止していた粒子Pが、電極D\(_\text{L}\)とD\(_\text{R}\)の間の電場によって加速される状況です。電場がした仕事が、そのまま粒子Pの運動エネルギーになる、という「仕事と運動エネルギーの関係」を用いて速さ\(v\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = W\)
  • 静電場がする仕事: \(W = q\Delta\phi\)。ここで\(\Delta\phi\)は電位差。

具体的な解説と立式
粒子Pは静止状態(初速度0)から運動を始めます。
電極D\(_\text{L}\)の電位は0、電極D\(_\text{R}\)の電位は\(-V\)です。
粒子P(電荷\(q\))がD\(_\text{L}\)からD\(_\text{R}\)へ移動する間に、電場がする仕事\(W\)は、
$$ W = q \times (\phi_{\text{スタート}} – \phi_{\text{ゴール}}) = q(0 – (-V)) = qV $$
仕事と運動エネルギーの関係より、この仕事が粒子Pの運動エネルギーの変化に等しくなります。
$$ \frac{1}{2}mv^2 – 0 = W $$
したがって、
$$ \frac{1}{2}mv^2 = qV $$
この式を\(v\)について解きます。

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
  • 静電気力がする仕事: \(W = q\Delta\phi\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= qV \\[2.0ex]v^2 &= \frac{2qV}{m} \\[2.0ex]v &= \sqrt{\frac{2qV}{m}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子は、電位が0の場所から電位が\(-V\)の場所へ移動します。正の電荷は電位が低い方へ移動するときに電場から力を受けて加速され、エネルギーを得ます。得たエネルギーの量(仕事)は \(qV\) です。このエネルギーがすべて粒子の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) に変わった、という式を立てて速さ\(v\)を求めます。

結論と吟味

速さ \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{2qV}{m}}\)。
エネルギー保存則に基づいた基本的な計算であり、妥当な結果です。

解答 (1) \(\sqrt{\displaystyle\frac{2qV}{m}}\)

問(2), (3)

思考の道筋とポイント
磁場が存在する電極D\(_\text{R}\)の空洞内に入った粒子に働く力を問うています。磁場中を運動する荷電粒子に働く力はローレンツ力です。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式: \(F=qvB\)。速度\(\vec{v}\)と磁場\(\vec{B}\)は直交しているため、\(\sin 90^\circ = 1\)。

具体的な解説と立式
(2) 磁場中を運動する荷電粒子にはたらく力はローレンツ力です。
(3) 粒子Pの速さは\(v\)、電気量は\(q\)、磁束密度は\(B\)です。速度と磁場は直交しているので、ローレンツ力の大きさ\(F\)は、
$$ F = qvB $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=qvB\)
計算過程

立式がそのまま結論となります。
(2) ローレンツ力
(3) \(F = qvB\)

計算方法の平易な説明

磁場の中を荷電粒子が動くと、磁場から特別な力を受けます。この力の名前は「ローレンツ力」です(問2)。その力の大きさは、粒子の電気量\(q\)、速さ\(v\)、磁場の強さ\(B\)の掛け算で計算できます(問3)。

結論と吟味

(2) ローレンツ力, (3) \(qvB\)。
基本的な定義を問う問題であり、妥当です。

解答 (2) ローレンツ力, (3) \(qvB\)

問(4)

思考の道筋とポイント
粒子はローレンツ力を向心力として等速円運動をします。円運動の運動方程式を立てて、半径\(r\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = (\text{向心力})\)

具体的な解説と立式
速さ\(v\)で運動する粒子が、ローレンツ力\(F=qvB\)を向心力として半径\(r\)の円運動をします。運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB $$
この式を\(r\)について解きます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= qvB \\[2.0ex]\frac{mv}{r} &= qB \\[2.0ex]r &= \frac{mv}{qB}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子が円運動を続けるためには、外に飛び出そうとする勢い(慣性)と、中心に引っ張る力(ローレンツ力)が釣り合っている必要があります。この「力のつりあい」の式(運動方程式)を立てて、円の半径\(r\)を求めます。

結論と吟味

半径 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\)。
サイクロトロンの基本原理を構成する重要な式であり、妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{mv}{qB}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
粒子が電極D\(_\text{R}\)内を半周するのにかかる時間を求めます。これは、円運動の周期の半分に相当します。
この設問における重要なポイント

  • 周期の定義: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
  • 半周期: 求める時間\(t\)は \(t = \displaystyle\frac{T}{2}\)

具体的な解説と立式
まず、円運動の周期\(T\)を求めます。(4)で求めた半径\(r\)の式を、周期の公式に代入します。
$$ T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi}{v} \left( \frac{mv}{qB} \right) = \frac{2\pi m}{qB} $$
求める時間は半周分なので、
$$ t = \frac{T}{2} $$

使用した物理公式

  • 円運動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
t &= \frac{1}{2} T \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \left( \frac{2\pi m}{qB} \right) \\[2.0ex]&= \frac{\pi m}{qB}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

円を一周するのにかかる時間(周期)をまず計算します。問題で問われているのは半周にかかる時間なので、計算した周期を2で割ります。

結論と吟味

時間 \(t = \displaystyle\frac{\pi m}{qB}\)。
この時間は、粒子の速さ\(v\)や半径\(r\)によらず、粒子固有の\(m, q\)と装置の磁場\(B\)だけで決まる、という点が非常に重要です。これがサイクロトロンが成立する根源的な理由です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{\pi m}{qB}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
〔B〕の操作では、粒子が電極間を通過するたびに加速されます。静止状態から1周して再びD\(_\text{R}\)に入るまでに、粒子が何回加速され、合計でどれだけのエネルギーを得たかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • エネルギーの蓄積: 粒子は電極間を通過するたびに、仕事\(qV\)をされて運動エネルギーが増加する。
  • 加速回数のカウント: 1周する間に何回ギャップを通過するかを正確に数える。

具体的な解説と立式
粒子Pが1周してD\(_\text{R}\)に再突入するまでのエネルギー獲得の履歴を追います。

  1. スタート(D\(_\text{L}\) \(\rightarrow\) D\(_\text{R}\)): D\(_\text{R}\)の電位は\(-V\)。仕事\(qV\)をされ、エネルギーは\(qV\)になる。
  2. D\(_\text{R}\)から出る: D\(_\text{R}\)の電位が\(+V\)に変わる。
  3. D\(_\text{R}\) \(\rightarrow\) D\(_\text{L}\): D\(_\text{L}\)の電位は0。仕事 \(q(V-0)=qV\) をされ、エネルギーは \(qV+qV=2qV\) になる。
  4. D\(_\text{L}\)から出る: D\(_\text{R}\)の電位が\(-V\)に戻る。
  5. D\(_\text{L}\) \(\rightarrow\) D\(_\text{R}\)(再突入): D\(_\text{R}\)の電位は\(-V\)。仕事 \(q(0-(-V))=qV\) をされ、エネルギーは \(2qV+qV=3qV\) になる。

したがって、D\(_\text{R}\)に再突入したときの速さを\(v_1\)とすると、その運動エネルギーは\(3qV\)に等しい。
$$ \frac{1}{2}mv_1^2 = 3qV $$
この式を\(v_1\)について解きます。

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_1^2 &= 3qV \\[2.0ex]v_1^2 &= \frac{6qV}{m} \\[2.0ex]v_1 &= \sqrt{\frac{6qV}{m}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子は、電極のすき間を渡るたびに、電位差\(V\)の電場によって\(qV\)のエネルギーをもらいます。スタートから1周して戻ってくるまでに、すき間を合計3回渡ります(D\(_\text{L}\)→D\(_\text{R}\)、D\(_\text{R}\)→D\(_\text{L}\)、D\(_\text{L}\)→D\(_\text{R}\))。したがって、合計で\(3qV\)のエネルギーをもらうことになります。このエネルギーがすべて運動エネルギーに変わったとして、速さ\(v_1\)を計算します。

結論と吟味

速さ \(v_1 = \sqrt{\displaystyle\frac{6qV}{m}}\)。
加速の回数を正しく数え、エネルギーの蓄積を計算した結果であり、妥当です。

解答 (6) \(\sqrt{\displaystyle\frac{6qV}{m}}\)

問(7)

思考の道筋とポイント
(4)で導出した半径の公式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) を、速さが\(v_1\)になった場合に適用するだけです。
この設問における重要なポイント

  • 半径と速さの比例関係: 円運動の半径は速さに比例する。

具体的な解説と立式
半径の公式に、速さとして\(v_1\)を代入します。
$$ r_1 = \frac{mv_1}{qB} $$

使用した物理公式

  • 円運動の半径の公式: \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\)
計算過程

立式がそのまま結論となります。
$$ r_1 = \frac{mv_1}{qB} $$

計算方法の平易な説明

(4)で、円運動の半径は「速さが速いほど大きくなる」という関係式を求めました。今回は速さが\(v_1\)になったので、その値を公式に当てはめるだけです。

結論と吟味

半径 \(r_1 = \displaystyle\frac{mv_1}{qB}\)。
基本的な公式の適用であり、妥当です。

解答 (7) \(\displaystyle\frac{mv_1}{qB}\)

問(8)

思考の道筋とポイント
(1)から(7)までの考察結果を基に、各記述の正誤を判断します。
この設問における重要なポイント

  • ① 加速のタイミング: 電極間で加速されるか?
  • ② 半周にかかる時間: 速さによって変わるか?
  • ③ エネルギーの変化: 磁場中でエネルギーは変化するか?
  • ④ 半径の変化: 周回ごとに半径はどうなるか?

具体的な解説と立式

  • ①: 粒子は電極D\(_\text{L}\)とD\(_\text{R}\)の間を通過するときに電場から仕事をされ、運動エネルギーが\(qV\)だけ大きくなる。したがって、この記述は正しい
  • ②: (5)で求めたように、電極内を半周するのにかかる時間 \(t = \displaystyle\frac{\pi m}{qB}\) は、速さ\(v\)によらない一定値である。したがって、「速くなるに従って短くなる」という記述は誤り
  • ③: 電極の空洞中では磁場しか働かない。ローレンツ力は常に速度と垂直なので、仕事をしない。したがって、運動エネルギーは変化しない(速さは一定)。この記述は誤り
  • ④: (6)で見たように、粒子は半周ごとに加速されて速さが大きくなる。(4)や(7)で見たように、半径は速さに比例する(\(r = \frac{mv}{qB}\))。したがって、半周するごとに半径は大きくなる。1周ごとでも当然大きくなる。この記述は正しい
  • ⑤: ①と④が正しいので、この記述は誤り

以上より、正しいものは①と④です。

使用した物理公式

  • これまでの設問の結論全て。
計算過程

(物理的な考察のため、計算過程はなし)

計算方法の平易な説明
  • ①: すき間を渡るときに電場からエネルギーをもらうので、エネルギーは大きくなる。→ 正しい。
  • ②: 半周にかかる時間は、速さに関係なくいつも同じ。→ 誤り。
  • ③: 磁場の中では、力は向きを変えるだけで、速さは変えない。エネルギーは変わらない。→ 誤り。
  • ④: 加速されて速くなると、遠心力が強くなるので、より大きな円を描くようになる。半径は大きくなる。→ 正しい。
結論と吟味

正しいのは①と④。
サイクロトロンの動作原理の核心部分(電場での加速、磁場での等速円運動、周期の不変性)を正しく理解できているかを確認する良問です。考察は妥当です。

解答 (8) ①, ④

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: 荷電粒子が加速されるのは、電極間の電場から仕事をされるときのみであること。その仕事 \(W=qV\) が、粒子の運動エネルギーの増加 \(\Delta K\) に等しい。これがサイクロトロンにおけるエネルギー増加の唯一の源です。
    • 理解のポイント: (1)や(6)で速さを計算する際の根拠となる、力学と電磁気学を繋ぐ重要な法則です。
  • ローレンツ力と等速円運動:
    • 核心: 電極内部の磁場中では、荷電粒子はローレンツ力 \(F=qvB\) を向心力として等速円運動を行うこと。運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = qvB\) を立てることで、運動の様子(半径など)を定量的に記述できます。
    • 理解のポイント: ローレンツ力は常に速度と垂直なため、仕事をせず、粒子の速さ(運動エネルギー)を変えないという点が極めて重要です。(8)の③の正誤判断に直結します。
  • 円運動の周期の普遍性:
    • 核心: 磁場中での円運動の周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) は、粒子の速さ\(v\)や軌道半径\(r\)に依存しない
    • 理解のポイント: この性質があるからこそ、粒子がどんなに速くなっても、電極間を通過するタイミングが一定になり、そのタイミングに合わせて電位を反転させることで連続的な加速が可能になります。これがサイクロトロンが機能する最も重要な原理であり、(8)の②の正誤判断の鍵です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • リニアック(線形加速器): 多数の円筒電極を一直線に並べ、粒子が電極間を通過するタイミングで電場をかけて加速する装置。サイクロトロンが磁場で軌道を曲げるのに対し、リニアックは長大な直線上で加速します。
    • 質量分析器: 磁場中で粒子を円運動させ、その軌道半径が質量に依存すること(\(r = \frac{mv}{qB}\))を利用して、イオンの質量を測定する装置。
    • シンクロトロン: サイクロトロンの発展形で、粒子のエネルギー増加に合わせて磁場の強さや電場の周波数を変化させ、より高エネルギーまで加速する装置。大学レベルの電磁気学や素粒子物理学に繋がります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズ分け: 粒子がどこで「加速」され、どこで「向きを変えられている」のか、運動のフェーズを明確に区別します。サイクロトロンでは「電極間(ギャップ)=加速フェーズ(電場)」、「電極内(ディー)=円運動フェーズ(磁場)」です。
    2. エネルギー収支を追う: 粒子がスタートしてから特定の地点に至るまでに、合計で何回加速され、どれだけの運動エネルギーを得たかを数え上げます。(6)のように、加速回数を正確に把握することが重要です。
    3. 周期の不変性を疑う/活用する: 「円運動の周期は速さによらない」という性質は非常に強力なツールです。速さが変わっても半周にかかる時間は同じである、という点を前提に思考を進めると、問題の見通しが良くなります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 仕事の計算での電位差の誤り:
    • 誤解: 仕事の計算 \(W=q\Delta\phi\) で、電位差\(\Delta\phi\)を単純に\(V\)としてしまい、符号や基準点を考慮しない。
    • 対策: 仕事は \(q(\phi_{\text{始点}} – \phi_{\text{終点}})\) で計算する、という定義に忠実に従います。(1)では \(q(0 – (-V)) = qV\)、(6)の2回目の加速では \(q(V – 0) = qV\) となり、常に正の仕事がされることを確認します。
  • 磁場中での加速の誤解:
    • 誤解: 磁場の中でも粒子は加速され、速くなると考えてしまう。
    • 対策: ローレンツ力は常に速度と垂直であり、進行方向には力を及ぼさないため、絶対に仕事をしないと覚えましょう。磁場の役割は、あくまで粒子の進路を曲げることだけです。
  • 加速回数の数え間違い:
    • 誤解: (6)で「1周」したから加速は2回、などと単純に考えてしまう。
    • 対策: 粒子の軌跡を実際に指で追いながら、「ギャップを何回通過したか」を数えます。スタート→1回目→半周→2回目→半周→3回目…というように、ステップを分けて考えることが有効です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギーの階段グラフ: 横軸に時間や周回数をとり、縦軸に運動エネルギーをとったグラフをイメージします。粒子がギャップを通過する瞬間にエネルギーが\(qV\)ずつ「カクン」と階段状に増え、ディー内を運動している間は一定に保たれる、という図を描くと、エネルギーの増加の様子が視覚的に理解できます。
    • 軌道のスパイラル図: (8)の④で述べられているように、粒子は加速されるたびに軌道半径が大きくなるため、その軌跡は渦巻き(スパイラル)状になります。中心から外側に向かって、だんだん半径の大きな半円を繋ぎ合わせた図を描くことで、サイクロトロン全体の動作をイメージできます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力のベクトル: 電極内では、常に軌道の中心を向くローレンツ力のベクトルを書き込むと、なぜ円運動するかが明確になります。
    • 電場の向き: 電極間では、電位の高い方から低い方へ向かう電場のベクトルを書き込むと、粒子がどちら向きに力を受けて加速されるかが分かりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\frac{1}{2}mv^2 = qV\)(仕事とエネルギーの関係):
    • 選定理由: (1), (6)で、電場による加速後の「速さ」を求めるため。エネルギーというスカラー量で計算できるため、力のベクトルや加速度を考えるより直接的で簡単です。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の一形態であり、保存力(静電気力)がする仕事と運動エネルギーの関係を表します。
  • \(m\frac{v^2}{r} = qvB\)(円運動の運動方程式):
    • 選定理由: (4), (7)で、磁場中での円運動の「半径」を求めるため。半径\(r\)と他の物理量(\(m, v, q, B\))を関係づける唯一の式です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を、円運動(\(a=\frac{v^2}{r}\))とローレンツ力(\(F=qvB\))の状況に適用したものです。
  • \(t = \frac{\pi m}{qB}\)(半周期の公式):
    • 選定理由: (5)で、半周にかかる「時間」を求めるため。また、(8)の②で、この時間が速さによらないことを示すために重要。
    • 適用根拠: 円運動の周期の定義 \(T=\frac{2\pi r}{v}\) と、半径の公式 \(r=\frac{mv}{qB}\) を組み合わせることで導出されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 〔A〕最初の半周:
    • 戦略: 「加速」→「円運動」の順で解析。
    • フロー: ①仕事とエネルギーの関係 \(\frac{1}{2}mv^2 = qV\) から速さ\(v\)を求める。②磁場中の力(ローレンツ力)を特定。③運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = qvB\) から半径\(r\)を求める。④半周期 \(t = T/2 = \pi r/v\) を計算する。
  2. 〔B〕繰り返し加速:
    • 戦略: エネルギーの蓄積を考え、基本公式を再適用。
    • フロー: ①1周する間にギャップを何回通過するか(3回)を数える。②合計の仕事 \(W_{\text{total}} = 3qV\) を計算。③仕事とエネルギーの関係 \(\frac{1}{2}mv_1^2 = 3qV\) から速さ\(v_1\)を求める。④半径の公式 \(r_1 = \frac{mv_1}{qB}\) に代入する。
  3. (8) 正誤判定:
    • 戦略: これまでの設問で導出した結論や物理法則の基本性質と、各選択肢の記述を照らし合わせる。
    • フロー: ①加速は電極間か? \(\rightarrow\) YES。②周期は速さに依存するか? \(\rightarrow\) NO。③磁場は仕事をするか? \(\rightarrow\) NO。④半径は速さに比例するか? \(\rightarrow\) YES。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • エネルギーの単位: 問題によってはエネルギーを電子ボルト(eV)で扱う場合もあります。この問題ではジュール(J)で一貫していますが、単位系には常に注意しましょう。
  • ルートの計算: 速さを求めると \(\sqrt{\dots}\) の形が頻出します。2乗を忘れたり、ルートを外し忘れたりしないように注意が必要です。
  • 一貫性の確認: (4)で求めた半径の式 \(r = \frac{mv}{qB}\) に(1)で求めた \(v = \sqrt{\frac{2qV}{m}}\) を代入すると \(r = \frac{m}{qB}\sqrt{\frac{2qV}{m}} = \frac{1}{B}\sqrt{\frac{2mV}{q}}\) となります。このように、各設問の答えが互いに矛盾なく繋がっているかを確認するのも良い練習になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 半径と速さの関係: \(r \propto v\)。速く動く粒子ほど大きな円を描く。これは直感的にも理解しやすいです。
    • 周期と速さの関係: \(T\)は\(v\)に依存しない。これはサイクロトロンの原理の根幹です。もし速い粒子ほど周期が短くなるなら、電位の反転タイミングをどんどん速くしなければならず、装置が複雑化してしまいます。周期が一定だからこそ、一定の周波数で電位を反転させるだけで連続加速が可能なのです。この物理的な意味を理解することが重要です。
  • 極限を考える:
    • もし磁場\(B\)が非常に強かったら? \(\rightarrow\) 半径\(r\)は小さく、周期\(T\)も短くなります。粒子はきついカーブを素早く曲がることになります。
    • もし質量\(m\)が非常に大きかったら? \(\rightarrow\) 半径\(r\)は大きく、周期\(T\)も長くなります。重い粒子は曲がりにくく、ゆっくりと回ることになります。

    このように、パラメータを極端に変えた場合にどうなるかを考えると、式の物理的な意味がより深く理解できます。

問題130 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電場による加速、電場や磁場による偏向など、電磁場中での荷電粒子の運動に関する基本的な要素を網羅した総合問題です。仕事とエネルギーの関係、運動の分解、ローレンツ力、力のつりあいといった複数の重要概念を、段階的に適用していく能力が問われます。

与えられた条件
  • 粒子の情報: 陽子(電荷 \(q>0\), 質量 \(m\))、α粒子(電荷 \(2q\), 質量 \(4m\))
  • 加速領域: 電極a, b間の電圧 \(V\)。初速度は無視できる。
  • 偏向領域:
    • y軸方向の長さ \(l\)。
    • 電極c, dの間隔 \(2h\) (\(z=\pm h\))。
    • z軸の正の向きに強さ \(E\) の一様な電場。
    • [D]では、x軸の正の向きに磁束密度 \(B\) の一様な磁場を追加。
  • その他: 真空中、重力・地磁気は無視。
問われていること
  • [A] 加速後の陽子の速さ \(v_0\)。
  • [B] (1) 電場のみの偏向部を出る際の陽子のz座標 \(z_1\)。 (2) 陽子が電極cに衝突するときの電場の強さ \(E_1\)。
  • [C] α粒子で同様の実験をした際のz座標 \(z_2\) と \(z_1\) の関係。
  • [D] 電場と磁場がある場合。
    • (1) 陽子が直進するときの磁束密度 \(B_1\) と通過時間 \(T_1\)。
    • (2) \(B=B_2 (<B_1)\) のとき、出射時の速さ \(v_1\) とz座標 \(z_3\) の関係。
    • (3) 磁束密度 \(B\) を変化させたときの通過時間 \(T\) の変化を示すグラフ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁場中での荷電粒子の運動」です。加速、偏向、速度選択、エネルギー保存など、この分野の基本要素が網羅されています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則): 電場がする仕事は運動エネルギーの変化に等しい。ローレンツ力は仕事をしない。
  2. 運動の分解: 力をx, y, zの各成分に分解し、それぞれの方向について運動方程式を立てて考える。特に、力が働かない方向は等速直線運動、一定の力が働く方向は等加速度直線運動となる。
  3. ローレンツ力: 荷電粒子が磁場から受ける力 \(F=qvB\)。力の向きはフレミングの左手の法則に従い、常に速度ベクトルに垂直である。
  4. 力のつりあい: 粒子が直進する場合、粒子にはたらく合力が0であることを意味する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、[A]でエネルギー保存則を用いて加速後の速さを求めます。これが以降の設問の初期条件となります。
  2. [B], [C]では、偏向領域での運動をy方向(等速)とz方向(等加速度)に分けて解析します。
  3. [D]では、電場による力と磁場による力(ローレンツ力)の合力を考え、運動を解析します。特に(3)では、ローレンツ力のy成分が通過時間にどう影響するかを考察します。

[A]

思考の道筋とポイント
陽子が電極a, b間で加速される過程を考えます。初速度が0の状態から、電場に仕事をされて運動エネルギーを得ます。この過程における仕事とエネルギーの関係式を立てることで、加速後の速さ \(v_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギーの関係: (後での運動エネルギー) – (前での運動エネルギー) = (された仕事)
  • 一様な電場中の電位差 \(V\) の領域で電荷 \(q\) がされる仕事は \(W = qV\)。
  • 初速度は無視できるので、初期の運動エネルギーは0とする。

具体的な解説と立式
陽子の電荷を \(q\)、質量を \(m\) とする。
電極aでの陽子の速さは0なので、運動エネルギーは \(K_a = 0\)。
電極aからbへ移動する間に、陽子は電場から仕事 \(W\) をされる。電位差が \(V\) なので、その仕事は、
$$ W = qV $$
電極bを通過する瞬間の速さを \(v_0\) とすると、そのときの運動エネルギーは \(K_b = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)。
仕事とエネルギーの関係より、
$$ K_b – K_a = W $$
したがって、以下の式が成り立つ。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 – 0 = qV $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事とエネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
  • 電場がする仕事: \(W = qV\)
計算過程

立式したエネルギーの式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= qV \\[2.0ex]v_0^2 &= \frac{2qV}{m}
\end{aligned}
$$
問題文より \(v_0 > 0\), \(q > 0\) なので、\(v_0\) は正の値をとります。
$$ v_0 = \sqrt{\frac{2qV}{m}} $$

計算方法の平易な説明

陽子は、電圧 \(V\) という「坂」を転がり落ちて加速するとイメージできます。電荷 \(q\) を持つ陽子がこの坂を下りることで \(qV\) という位置エネルギーを失い、その分だけ運動エネルギーを得ます。このエネルギーの変換式を立てて、速さを計算します。

別解: 運動方程式を用いた解法

思考の道筋とポイント
電極a, b間を一様な電場による等加速度直線運動として捉え、運動方程式と等加速度運動の公式を用いて \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 一様な電場と力の関係: \(F = qE\)
  • 電場と電位の関係: \(V = Ed\) (\(d\) は距離)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_{0}^2 = 2ax\)

具体的な解説と立式
電極a, b間の距離を \(y_0\)、その間の電場の強さを \(E_y\) とします。
陽子にはたらく静電気力は \(F_y = qE_y\)。
y方向の運動方程式は、
$$ ma_y = qE_y $$
したがって、加速度 \(a_y\) は、
$$ a_y = \frac{qE_y}{m} $$
これは一定なので、陽子は等加速度直線運動をします。
初速度0で距離 \(y_0\) だけ進んだ後の速さ \(v_0\) は、等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{0}^2 = 2ax\) より、
$$ v_0^2 – 0^2 = 2a_y y_0 $$
また、電位差 \(V\) と電場の強さ \(E_y\)、距離 \(y_0\) の間には \(V = E_y y_0\) の関係があります。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 静電気力: \(F=qE\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_{0}^2 = 2ax\)
  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= 2a_y y_0 \\[2.0ex]&= 2 \left( \frac{qE_y}{m} \right) y_0 \\[2.0ex]&= \frac{2q(E_y y_0)}{m}
\end{aligned}
$$
ここで \(V = E_y y_0\) を代入すると、
$$ v_0^2 = \frac{2qV}{m} $$
これは主解法で得られた式と一致します。よって、
$$ v_0 = \sqrt{\frac{2qV}{m}} $$

計算方法の平易な説明

まず、陽子にかかる力から加速度を求めます。次に、その一定の加速度でどれくらいの距離を動いたかを使って、最終的な速さを計算します。「力 \(\rightarrow\) 加速度 \(\rightarrow\) 速度」という運動方程式の基本的な考え方に沿った解法です。

結論と吟味

運動方程式から出発しても、エネルギー保存則から出発しても、同じ結果が得られました。これは、エネルギー保存則が運動方程式を積分した形に相当することを示しており、両者の整合性が確認できます。

結論と吟味

加速後の速さは \(v_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{2qV}{m}}\) となります。電圧 \(V\) が大きいほど、また、比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) が大きいほど速くなるという、物理的に妥当な結果です。

解答 [A] \(v_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{2qV}{m}}\)

[B]

問(1)

思考の道筋とポイント
偏向領域に入った陽子の運動を、y方向とz方向に分解して考えます。y方向には力が働かないため等速直線運動、z方向には一定の静電気力が働くため等加速度直線運動となります。偏向領域を通過する時間 \(t\) をy方向の運動から求め、その時間を使ってz方向の変位 \(z_1\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 運動の分解: 2次元の運動を、互いに直交する2つの1次元運動の組み合わせとして捉える。
  • y方向: 等速直線運動。距離 \(l\)、速さ \(v_0\)。
  • z方向: 等加速度直線運動。初速度0、加速度 \(a_z = \displaystyle\frac{F_z}{m} = \frac{qE}{m}\)。

具体的な解説と立式
偏向領域に入射した陽子の初速度は、y方向に \(v_0\)、z方向に0です。

y方向の運動:
力が働かないので等速直線運動をします。長さ \(l\) の領域を通過するのにかかる時間を \(t\) とすると、
$$ l = v_0 t \quad \cdots ① $$

z方向の運動:
z軸の正の向きに強さ \(E\) の電場があるので、陽子はz軸正の向きに静電気力 \(F_z = qE\) を受けます。
z方向の運動方程式は \(ma_z = qE\) となり、加速度は、
$$ a_z = \frac{qE}{m} \quad \cdots ② $$
初速度0の等加速度直線運動なので、時間 \(t\) 後のz座標(変位) \(z_1\) は、
$$ z_1 = \frac{1}{2}a_z t^2 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 静電気力: \(F = qE\)
計算過程

まず、①式から時間 \(t\) を求めます。
$$ t = \frac{l}{v_0} $$
次に、この \(t\) と②式の \(a_z\) を③式に代入して \(z_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
z_1 &= \frac{1}{2} \left( \frac{qE}{m} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{qEl^2}{2mv_0^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

陽子が横(y方向)に飛んでいる間に、縦(z方向)にどれだけ流されるかを計算します。まず、横に飛びきるのにかかる時間を計算します。次に、その時間の間、縦方向に一定の力で引っ張られ続けるので、どれだけ移動するかを等加速度運動の公式で求めます。これは、川を横切る船が流される問題や、水平投射された物体が重力で落下する問題と全く同じ考え方です。

結論と吟味

z座標は \(z_1 = \displaystyle\frac{qEl^2}{2mv_0^2}\) となります。電場 \(E\) や長さ \(l\) が大きいほど、また初速 \(v_0\) が遅いほど大きく変位するという、直感に合う結果です。

解答 (1) \(z_1 = \displaystyle\frac{qEl^2}{2mv_0^2}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
陽子が電極c (\(z=h\)) に衝突する条件を考えます。(1)で求めたz座標 \(z_1\) が \(h\) に達したときが、衝突する限界の状況です。このときの電場の強さを \(E_1\) とします。したがって、\(z_1 = h\) という式を立て、それを \(E\) について解くことで \(E_1\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 衝突の条件: 偏向領域を出る瞬間のz座標が、電極のz座標以上になること。\(z_1 \ge h\)。
  • 限界条件: 題意の \(E_1\) は、ちょうど \(z_1 = h\) となる場合の電場の強さである。

具体的な解説と立式
(1)で求めた \(z_1\) の式に、[A]で求めた \(v_0^2 = \displaystyle\frac{2qV}{m}\) を代入して、\(z_1\) を \(V, q, m\) を含まない形で表します。
$$
\begin{aligned}
z_1 &= \frac{qEl^2}{2m v_0^2} \\[2.0ex]&= \frac{qEl^2}{2m \left( \displaystyle\frac{2qV}{m} \right)} \\[2.0ex]&= \frac{qEl^2m}{4mqV} \\[2.0ex]&= \frac{El^2}{4V}
\end{aligned}
$$
陽子が電極cに衝突するのは \(z_1 \ge h\) のときです。題意より、電場の強さが \(E_1\) のときにちょうど衝突する(あるいはギリギリ衝突しない)ので、その条件は、
$$ h = \frac{E_1 l^2}{4V} $$

使用した物理公式

  • [B](1)および[A]の結果
計算過程

上記の関係式を \(E_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{E_1 l^2}{4V} \\[2.0ex]4Vh &= E_1 l^2 \\[2.0ex]E_1 &= \frac{4Vh}{l^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で、陽子がどれだけz方向に曲げられるかを表す式を求めました。この曲げられる距離が電極までの距離 \(h\) と等しくなるような、特別な電場の強さ \(E_1\) を逆算する問題です。

結論と吟味

衝突する限界の電場の強さは \(E_1 = \displaystyle\frac{4Vh}{l^2}\) となります。加速電圧 \(V\) や電極間隔 \(h\) が大きいほど、より強い電場でないと衝突しない、というのは理にかなっています。

解答 (2) \(E_1 = \displaystyle\frac{4Vh}{l^2}\)

[C]

思考の道筋とポイント
陽子のかわりにα粒子(電荷 \(2q\), 質量 \(4m\))を用いて同じ実験を行います。α粒子が偏向領域を出る際のz座標 \(z_2\) を求め、陽子のときの \(z_1\) と比較します。[B](2)の計算過程で導出した \(z_1 = \displaystyle\frac{El^2}{4V}\) という式が、粒子の電荷 \(q\) や質量 \(m\) に依存するかどうかを確認することが鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • α粒子の物理量: 電荷 \(q’ = 2q\), 質量 \(m’ = 4m\)。
  • 式の依存性: 最終的な変位の式が、粒子の固有の性質(電荷、質量)に依存するかどうかを調べる。

具体的な解説と立式
α粒子の場合のz座標を \(z_2\) とします。[B](1)で求めた一般式 \(z = \displaystyle\frac{q’El^2}{2m'(v_0′)^2}\) に、α粒子の物理量を代入して考えます。
まず、α粒子を電圧 \(V\) で加速した後の速さ \(v_0’\) を求めます。[A]の結果と同様に、
$$ \frac{1}{2}m'(v_0′)^2 = q’V $$
$$ (v_0′)^2 = \frac{2q’V}{m’} $$
これを \(z_2\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
z_2 &= \frac{q’El^2}{2m'(v_0′)^2} \\[2.0ex]&= \frac{q’El^2}{2m’ \left( \displaystyle\frac{2q’V}{m’} \right)} \\[2.0ex]&= \frac{q’El^2 m’}{4m’q’V} \\[2.0ex]&= \frac{El^2}{4V}
\end{aligned}
$$
一方、陽子の場合のz座標 \(z_1\) も、[B](2)の途中で計算したように、
$$ z_1 = \frac{El^2}{4V} $$
となります。

使用した物理公式

  • [A], [B]で用いた公式一式
計算過程

上記の立式から、\(z_2\) と \(z_1\) は同じ式で表されることがわかります。
$$ z_2 = \frac{El^2}{4V} $$
$$ z_1 = \frac{El^2}{4V} $$
したがって、
$$ z_2 = z_1 $$

計算方法の平易な説明

粒子の種類を陽子からα粒子に変えても、偏向部での曲がり具合(z座標)は変わらないことを示します。なぜなら、α粒子は陽子より重くて曲がりにくい(慣性が大きい)ですが、同時に電荷も大きいため電場から受ける力も強く、さらに加速電圧が同じだと陽子より初速が遅くなるため偏向領域にいる時間も長くなります。これらの効果が絶妙に打ち消しあい、結果として軌道は陽子と全く同じになるのです。

結論と吟味

\(z_2 = z_1\) となります。この結果は、この装置が粒子の種類(質量や電荷)によらず、加速電圧 \(V\) と偏向電場 \(E\)、装置の形状 \(l\) だけで軌道が決まる一種のエネルギー分析器として機能することを示唆しており、非常に興味深く、物理的に妥当な結論です。

解答 [C] \(z_2 = z_1\)

[D]

問(1)

思考の道筋とポイント
電場 \(E_1\) に加えて磁場 \(B_1\) をかけたところ、陽子が直進した、という状況です。「直進」とは、合力が0であることを意味します。この場合、z方向の静電気力と、磁場から受けるローレンツ力がつりあっていると考えられます。この力のつりあい条件から \(B_1\) を求めます。また、通過時間 \(T_1\) は、y方向に等速直線運動することから求めます。

この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい: 陽子が直進するため、z方向の合力が0。静電気力 = ローレンツ力。
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)。力の向きはフレミングの左手の法則で決まる。
  • 速度 \(v_0\) は+y方向、磁場 \(B_1\) は+x方向なので、ローレンツ力は-z方向にはたらく。
  • 静電気力は+z方向にはたらく。

具体的な解説と立式
陽子にはたらく力は以下の2つです。

  1. 静電気力: z軸正の向きに \(F_E = qE_1\)。
  2. ローレンツ力: 陽子は速さ \(v_0\) で+y方向に運動しており、磁場は+x方向にかかっている。フレミングの左手の法則より、ローレンツ力 \(F_L\) はz軸負の向きにはたらく。その大きさは、
    $$ F_L = qv_0 B_1 $$

陽子が直進するためには、これらの力がつりあっている必要があります。
$$ F_E = F_L $$
$$ qE_1 = qv_0 B_1 $$
この式から \(B_1\) を求めます。
また、陽子はy方向に速さ \(v_0\) の等速直線運動をするので、通過時間 \(T_1\) は、
$$ T_1 = \frac{l}{v_0} $$

使用した物理公式

  • 静電気力: \(F=qE\)
  • ローレンツ力: \(F=qvB\)
  • 力のつりあい: \(\sum F = 0\)
計算過程

まず、力のつりあいの式から \(B_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
qE_1 &= qv_0 B_1 \\[2.0ex]B_1 &= \frac{E_1}{v_0}
\end{aligned}
$$
次に、通過時間 \(T_1\) を求めます。
$$ T_1 = \frac{l}{v_0} $$

計算方法の平易な説明

この装置は「速度選択器」として働いています。電場による上向きの力と、磁場による下向きの力がちょうど釣り合うような、特定の速さの粒子だけがまっすぐ通り抜けられる仕組みです。今回は、速さ \(v_0\) の陽子がまっすぐ進んだので、そのときの磁場の強さ \(B_1\) を力のつりあいから計算します。通過時間は、まっすぐ進むだけなので、単純に距離を速さで割れば求まります。

結論と吟味

\(B_1 = \displaystyle\frac{E_1}{v_0}\), \(T_1 = \displaystyle\frac{l}{v_0}\) となります。どちらも \(v_0\) と \(E_1\), \(l\) という既知の量で表されており、妥当です。

解答 (1) \(B_1 = \displaystyle\frac{E_1}{v_0}\), \(T_1 = \displaystyle\frac{l}{v_0}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
磁場の強さが \(B_2\) (\(0 < B_2 < B_1\)) の場合、ローレンツ力が静電気力より弱くなるため、陽子は+z方向に曲げられます。このとき、出射時の速さを \(v_1\)、z座標を \(z_3\) とします。この過程でのエネルギーの変化を考えます。重要なのは「ローレンツ力は仕事をしない」という点です。したがって、陽子の運動エネルギーの変化は、静電気力がした仕事に等しくなります。

この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力は仕事をしない: ローレンツ力は常に速度の向きと垂直なので、移動方向への力の成分がなく、仕事をしない。
  • 仕事とエネルギーの関係: 粒子の運動エネルギーの変化は、静電気力がした仕事にのみ等しい。
  • 静電気力がした仕事: \(W_E = F_z \times (\text{z方向の変位}) = qE_1 z_3\)。

具体的な解説と立式
偏向領域に入る直前の陽子の運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)。
偏向領域を出る直前の陽子の速さは \(v_1\) なので、運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_1^2\)。
この間の運動エネルギーの変化は、
$$ \Delta K = \frac{1}{2}mv_1^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 $$
一方、この間に陽子がされた仕事は、静電気力による仕事 \(W_E\) のみです。z方向の変位が \(z_3\) なので、
$$ W_E = qE_1 z_3 $$
仕事とエネルギーの関係 \(\Delta K = W_E\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_1^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = qE_1 z_3 \quad \cdots ① $$
ここで、[A]の結果から \(v_0^2 = \displaystyle\frac{2qV}{m}\) なので、\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 = qV\) です。これを①式に代入します。
$$ \frac{1}{2}mv_1^2 – qV = qE_1 z_3 $$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
  • 静電気力がする仕事: \(W = F \cdot s = qEs\)
  • ローレンツ力は仕事をしない。
計算過程

エネルギーの式を \(v_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_1^2 &= qV + qE_1 z_3 \\[2.0ex]v_1^2 &= \frac{2(qV + qE_1 z_3)}{m} \\[2.0ex]&= \frac{2q(V + E_1 z_3)}{m}
\end{aligned}
$$
したがって、速さ \(v_1\) は、
$$ v_1 = \sqrt{\frac{2q(V + E_1 z_3)}{m}} $$

計算方法の平易な説明

陽子がゴールしたときの速さを求める問題です。この運動中、エネルギーを増やしてくれるのは電場だけです(磁場は進路を曲げるだけで、速さは変えません)。電場は、陽子がz方向に \(z_3\) だけ移動した分だけ、\(qE_1 z_3\) の仕事をしてエネルギーを与えます。したがって、ゴールのエネルギーは「スタート時のエネルギー \(qV\)」+「電場からもらったエネルギー \(qE_1 z_3\)」となります。このエネルギーの合計から速さを逆算します。

結論と吟味

速さ \(v_1\) は \(v_1 = \sqrt{\displaystyle\frac{2q(V + E_1 z_3)}{m}}\) となります。陽子が+z方向に変位する (\(z_3 > 0\)) と、静電気力から正の仕事をされるため、速さが増加する (\(v_1 > v_0\)) という物理的に正しい結果になっています。

解答 (2) \(v_1 = \sqrt{\displaystyle\frac{2q(V + E_1 z_3)}{m}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
磁束密度 \(B\) を \(0\) から \(B_1\) まで変化させたときの、偏向領域の通過時間 \(T\) の変化をグラフから選びます。通過時間 \(T\) は、y方向の運動によって決まります。y方向の運動が等速直線運動なのか、加速するのか、減速するのかを、ローレンツ力のy成分を調べることで判断します。

この設問における重要なポイント

  • 通過時間はy方向の運動で決まる: \(T = \displaystyle\frac{l}{(\text{y方向の平均速度})}\)。
  • ローレンツ力の成分を調べる: 速度ベクトル \(\vec{v}\) をy成分 \(v_y\) とz成分 \(v_z\) に分解し、それぞれの速度成分が受けるローレンツ力を考える。
  • \(0 < B < B_1\) では、陽子は+z方向に曲げられるため、速度のz成分 \(v_z\) は常に正となる。

具体的な解説と立式
陽子の速度を、y方向成分 \(v_y\) とz方向成分 \(v_z\) に分けて考えます。磁場はx方向にかかっています。
ローレンツ力は、フレミングの左手の法則により、速度の各成分に対して垂直にはたらきます。

  1. 速度成分 \(v_y\) (+y方向) によるローレンツ力: 磁場は+x方向なので、フレミングの左手の法則を適用すると、力は-z方向にはたらきます。大きさは \(F_{Lz} = qv_y B\)。
  2. 速度成分 \(v_z\) (+z方向) によるローレンツ力: 磁場は+x方向なので、フレミングの左手の法則を適用すると、力は+y方向にはたらきます。大きさは \(F_{Ly} = qv_z B\)。

ここで注目するのは、通過時間を決めるy方向の運動です。陽子には、y方向にローレンツ力の成分 \(F_{Ly} = qv_z B\) がはたらきます。
\(0 < B < B_1\) の範囲では、静電気力 \(qE_1\) がz方向のローレンツ力 \(F_{Lz}\) より大きいため、陽子は常に+z方向に加速されます。したがって、偏向領域内では常に速度のz成分 \(v_z > 0\) です。
\(q>0\), \(B>0\), \(v_z>0\) なので、y方向にはたらく力は常に \(F_{Ly} = qv_z B > 0\) となります。
これは、陽子がy方向にも加速されることを意味します。
したがって、y方向の平均速度は、初速 \(v_0\) よりも大きくなります。
通過時間 \(T\) は、
$$ T = \frac{l}{(\text{y方向の平均速度})} < \frac{l}{v_0} = T_1 $$
この効果は \(B=0\)(ローレンツ力が0)と \(B=B_1\)(直進して \(v_z=0\) のため \(F_{Ly}=0\))では生じません。\(B\) が0から増えるにつれてy方向への加速効果が現れ、\(B\) が \(B_1\) に近づくと再び効果が弱まります。
よって、グラフは \(B=0\) と \(B=B_1\) で \(T=T_1\) となり、その間では \(T < T_1\) となる下に凸の曲線を描きます。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=qvB\) (フレミングの左手の法則)
  • 運動と時間の関係
計算過程
  • \(B=0\) のとき: ローレンツ力は0。y方向は速さ \(v_0\) の等速直線運動。\(T = \displaystyle\frac{l}{v_0} = T_1\)。
  • \(B=B_1\) のとき: 直進する。y方向は速さ \(v_0\) の等速直線運動。\(T = \displaystyle\frac{l}{v_0} = T_1\)。
  • \(0 < B < B_1\) のとき: y方向に正の加速度を持つため、y方向の平均速度は \(v_0\) より大きい。よって \(T < T_1\)。

これらの条件を満たすグラフは (ア) です。

計算方法の平易な説明

通過時間は、横方向(y方向)の速さで決まります。磁場がかかると、陽子の進路はz方向(上)に曲がります。この「上向きの速度成分」と「x方向の磁場」の組み合わせにより、フレミングの法則から「横方向(y方向)を加速させる力」が生まれるのです。つまり、陽子はただ横に進むだけでなく、前にも加速されるようになります。そのため、何もしないとき(\(B=0\))や、力が釣り合ってまっすぐ進むとき(\(B=B_1\))よりも、早くゴールにたどり着きます。この効果が最も大きいのは \(B\) が0と \(B_1\) の中間のどこかになるため、グラフは下に凸の形になります。

結論と吟味

グラフは(ア)が適当です。ローレンツ力が速度のy成分とz成分の両方に影響を与え、結果としてy方向の運動を加速させるという、少し複雑ですが論理的な帰結です。ローレンツ力が全体として仕事をしないこと(y方向の正の仕事とz方向の負の仕事が打ち消しあう)も、この現象の重要な側面です。

解答 (3) (ア)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: 荷電粒子の運動を追跡する上で最も基本的な法則です。[A]の加速過程、[D](2)の偏向過程での速さの変化は、すべて「粒子の運動エネルギーの変化は、された仕事に等しい」という原則に基づいています。
    • 理解のポイント: 特に重要なのは、力がする仕事の計算です。静電気力は電位差や変位に沿って仕事をしますが、ローレンツ力は常に速度と垂直なため絶対に仕事をしないという性質を明確に区別することが、この種の問題を解く上での大前提となります。
  • 運動の分解と運動方程式:
    • 核心: [B]のように、複数の力が働く空間での運動は、x, y, zの直交する3方向の独立した運動に分解して考えるのが定石です。各方向について運動方程式(\(ma=F\))を立てることで、複雑な軌道を単純な運動(等速、等加速度)の組み合わせとして解析できます。
    • 理解のポイント: どの方向に、どの力が働くのかを正確に把握することが第一歩です。[B]ではy方向は力なし(等速)、z方向は静電気力(等加速度)。[D]ではz方向に静電気力とローレンツ力、y方向にローレンツ力が働きます。
  • ローレンツ力と力のつりあい:
    • 核心: [D](1)のように、荷電粒子が電磁場中で「直進」する場合、それは粒子にはたらく合力が0であることを意味します。この問題では、静電気力とローレンツ力が逆向きに働き、大きさが等しくなることでつりあいを実現しています。
    • 理解のポイント: この「力のつりあい」の条件(\(qE = qvB\))は、特定の速さ \(v = E/B\) を持つ粒子だけを選び出す「速度選択器」の原理そのものです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 質量分析器: 本問の装置は、加速部、速度選択部([D](1))、磁場偏向部を組み合わせた質量分析器の基本モデルです。速度選択器を通過後、磁場のみの領域に入射させ、その円運動の半径から粒子の比電荷(\(q/m\))を測定する問題は典型的な応用例です。
    • サイクロトロン: 半円形の電極(ディー)と一様な磁場を使い、粒子を円運動させながら交流電場で加速する装置。円運動の周期が速さによらないことを利用します。
    • ホール効果: 導体や半導体に電流を流しながら垂直に磁場をかけると、ローレンツ力によって電荷が偏り、電流方向にも磁場方向にも垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じる現象。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズ分け: 問題全体を「加速フェーズ」「偏向フェーズ」「直進フェーズ」のように、物理現象が異なる部分ごとに区切って考えます。
    2. 力のリストアップ: 各フェーズにおいて、粒子にはたらく力をすべて(静電気力、ローレンツ力、重力など)リストアップし、それぞれの力の向きと大きさを明確にします。
    3. 保存則の適用可能性: まず「エネルギー保存則は使えるか?(ローレンツ力だけならOK、静電気力が仕事をすればその分を考慮)」「運動量保存則は使えるか?(外力がなければOK)」といった保存則が使えないか検討します。使えれば計算が大幅に楽になります。
    4. 運動の分解: 保存則が使いにくい、あるいは軌道そのものを問われる場合は、運動を直交座標系で分解し、各軸について運動方程式を立てる、という基本に立ち返ります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ローレンツ力の向きの間違い:
    • 誤解: フレミングの左手の法則の適用を誤り、力の向きを逆や90度違う方向にしてしまう。特に、負電荷の粒子(電子など)の場合に、電流の向きを速度の向きと逆にするのを忘れる。
    • 対策: 法則を機械的に覚えるだけでなく、3次元の座標系を正確に描いて、指の向きを一つ一つ確認する習慣をつけましょう。正電荷の速度の向きが電流の向きです。
  • ローレンツ力が仕事をするという誤解:
    • 誤解: [D](2)で、速さが増加した原因にローレンツ力が関与していると考えてしまう。
    • 対策: 「ローレンツ力は常に速度ベクトルと垂直」\(\rightarrow\)「力の向きと移動方向は常に垂直」\(\rightarrow\)「仕事 \(W = Fs\cos\theta\) の \(\theta\) が常に90度」\(\rightarrow\)「仕事は常に0」という論理を徹底してください。速さを変えるのは、あくまで電場(または他の力)です。
  • 通過時間の計算ミス:
    • 誤解: [D](3)で、速さ \(v_1\) が \(v_0\) より速くなるから通過時間 \(T\) は短くなる、と短絡的に考えてしまう。
    • 対策: 通過時間は、偏向領域の長さ方向(この問題ではy方向)の運動だけで決まります。全体の速さ \(v_1\) ではなく、y方向の速度成分 \(v_y\) がどう変化するかを正確に追跡する必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: 各設問、特に[D]の電磁場領域では、粒子にはたらく静電気力 \(\vec{F}_E\) とローレンツ力 \(\vec{F}_L\) を、粒子の位置ごとにベクトルで図示すると状況が把握しやすくなります。特に[D](3)では、軌道が曲がって速度ベクトル \(\vec{v}\) の向きが変わることで、ローレンツ力 \(\vec{F}_L\) の向きも刻々と変わる様子を図示すると、y成分が生まれる理由が視覚的に理解できます。
    • 運動の軌跡の図示: [B]では放物線、[D](2)ではより複雑な曲線を描きます。なぜそのような軌道になるのかを、力のベクトルと関連付けながらラフスケッチを描くことで、現象の全体像を掴むことができます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 3次元座標の意識: この問題はx, y, zの3次元空間での運動です。図を描く際は、どの方向がx, y, zなのかを明確にし、特に力の向きをフレミングの法則で決定する際に、空間的な配置を間違えないように注意します。
    • ベクトルの分解: ローレンツ力や速度ベクトルを、必要に応じて座標軸に沿った成分に分解して図示すると、各方向の運動方程式との対応が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 仕事とエネルギーの関係:
    • 選定理由: [A], [D](2)のように、途中の経過(力や加速度)を問わず、始点と終点の「速さ(エネルギー)」の関係だけを知りたい場合に最も強力で効率的なツールです。
    • 適用根拠: エネルギー保存則という物理学の基本法則に基づきます。特に、保存力(静電気力)と非保存力(この問題ではなし)、仕事をしない力(ローレンツ力)の役割を区別して立式します。
  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: [B](1)のように、運動の途中経過(加速度や特定の時間後の位置、軌道)を知りたい場合に必須となります。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則という、力学の根幹をなす法則です。ベクトル方程式であるため、各成分に分解して適用します。
  • 力のつりあい \(\sum F = 0\):
    • 選定理由: [D](1)のように、粒子が「直進」や「静止」など、速度が変化しない状態にある場合に使います。運動方程式で \(a=0\) とした場合に相当します。
    • 適用根拠: 慣性の法則(運動の第一法則)の現れです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A] 加速後の速さ:
    • 戦略: エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いる。
    • フロー: ①初期エネルギー(\(0\))+電場がした仕事(\(qV\))=終端エネルギー(\(\frac{1}{2}mv_0^2\)) ②立式して \(v_0\) について解く。
  2. [B] 電場による偏向:
    • 戦略: 運動をy方向(等速)とz方向(等加速度)に分解する。
    • フロー: ①y方向の運動から通過時間 \(t = l/v_0\) を求める。 ②z方向の運動方程式から加速度 \(a_z\) を求める。 ③\(z_1 = \frac{1}{2}a_z t^2\) に代入する。 ④(2)では \(z_1=h\) として \(E_1\) を解く。
  3. [C] α粒子での偏向:
    • 戦略: [B]で導いた \(z_1\) の最終的な表現(\(q, m\) を消去した形)が粒子によらないことを示す。
    • フロー: ①α粒子の電荷と質量を \(2q, 4m\) として、[A]と[B]の計算をなぞる。 ②結果が陽子の \(z_1\) と同じになることを確認する。
  4. [D] 電磁場による運動:
    • 戦略: 静電気力とローレンツ力の合力を考える。
    • フロー: (1)「直進」\(\rightarrow\) 力のつりあい \(qE_1 = qv_0 B_1\) から \(B_1\) を求める。時間は \(T_1=l/v_0\)。 (2)エネルギー保存則を適用。「ローレンツ力は仕事をしない」が鍵。初期エネルギー+静電気力の仕事=終端エネルギー。 (3)通過時間はy方向の運動で決まる。ローレンツ力のy成分 \(F_{Ly}\) の有無を調べ、y方向の平均速度が \(v_0\) と比べてどうなるかを考察する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理: この問題のように多くの物理量記号が登場する場合、計算の途中で式が複雑になりがちです。[B](2)のように、\(v_0^2\) のまま代入するなど、前の設問の結果をうまく利用して式を簡潔に保つ工夫が有効です。
  • 単位の確認: 最終的に得られた答えの単位が、求めている物理量の単位と一致するかを確認する(ディメンションチェック)。例えば、[B](2)で求めた \(E_1 = \frac{4Vh}{l^2}\) の単位が電場 [V/m] になっているかを確認すると、[V][m]/[m²]=[V/m]となり、正しいことがわかります。
  • 極端な場合を考える: [D](3)では、\(B=0\) と \(B=B_1\) という両極端の状況をまず考えることで、グラフの端点が定まり、選択肢を絞り込むことができます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • [C] 粒子の種類によらない軌道: \(z_1=z_2\) という結果は一見不思議ですが、「重い粒子は曲がりにくいが、初速が遅くなるので偏向領域に長く滞在する」「電荷が大きい粒子は強く曲げられるが、初速が速くなるので滞在時間が短い」といった複数の効果が相殺した結果と解釈でき、物理的にあり得ることだと納得できます。
    • [D](2) 速さの増加: 陽子が+z方向に変位した結果、速さが増加した(\(v_1 > v_0\))。これは、陽子が電場のポテンシャルが低い方へ移動し、位置エネルギーを運動エネルギーに変換したことを意味しており、妥当です。
    • [D](3) 通過時間の短縮: ローレンツ力によって進行方向(y方向)に加速されるという結果は、ローレンツ力が速度のz成分と磁場のx成分から生まれることを考えると理解できます。力が常に速度と垂直であることから、軌道が曲がれば力の向きも変わり、進行方向の成分を持ちうる、というダイナミックな描像を持つことが重要です。
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