「良問の風」攻略ガイド(136〜140問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題136 (富山大+上智大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、抵抗(\(R\))、コンデンサー(\(C\))、コイル(\(L\))を直列に接続した交流回路に関する問題です。オシロスコープで抵抗の両端の電圧を観測したところ、その波形が与えられています。この情報をもとに、回路の様々な電気的性質を解析していきます。交流回路における各素子の振る舞い、位相の概念、実効値、電力、そしてインピーダンスの理解が問われます。

与えられた条件
  • 抵抗 \(R\)、電気容量 \(C\) のコンデンサー、自己インダクタンス \(L\) のコイルが直列に接続されている(図1)。
  • 交流電源に接続されている。
  • オシロスコープで抵抗 \(R\) の両端の電圧を観測。
  • 抵抗 \(R\) の両端の電圧 \(v_R(t)\) は、周期 \(T\)、最大値 \(V_0\) の正弦曲線で変化する(図2)。この電圧は \(v_R(t) = V_0 \sin(\omega t)\) と表すことができるものとする。
問われていること
  1. (1) 交流の角周波数 \(\omega\) を求めよ。
  2. (2) 抵抗に流れる電流 \(i\) を時刻 \(t\) の関数として表せ。また実効値を求めよ。
  3. (3) この直列回路での消費電力(平均電力)を求めよ。
  4. (4) コンデンサーにかかる電圧 \(v_C\) の実効値を求めよ。また、電圧 \(v_C\) を時刻 \(t\) の関数として表せ。
  5. (5) 図2で、コンデンサーにかかる電圧が0になる時刻 \(t\) を \(0 \le t \le T\) の範囲で求めよ。
  6. (6) コイルにかかる電圧 \(v_L\) の実効値を求めよ。また、電圧 \(v_L\) を時刻 \(t\) の関数として表せ。
  7. (7) 電源電圧の最大値 \(V_1\) を求めよ。また、ab間の電圧の最大値 \(V_2\) を求めよ。(ab間は抵抗とコンデンサーの両端)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、交流回路における各素子(抵抗、コンデンサー、コイル)の電圧と電流の位相関係、そしてリアクタンス(交流における抵抗のようなもの)の概念です。

  • 抵抗 \(R\): 電圧と電流は同位相です。オームの法則 \(v=Ri\) が瞬時値でも成り立ちます。
  • コンデンサー \(C\): 電流に対して電圧の位相は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れます。リアクタンスは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) です。
  • コイル \(L\): 電流に対して電圧の位相は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進みます。リアクタンスは \(X_L = \omega L\) です。

また、電圧や電流の「実効値」は、交流の大きさを平均的な仕事率の観点から表すもので、最大値を \(\sqrt{2}\) で割った値となります。回路全体の電圧や電流の関係を考える際には、「インピーダンス」(抵抗とリアクタンスを合成したもの)を用います。

問1

思考の道筋とポイント

交流の角周波数 \(\omega\) と周期 \(T\) の間には基本的な関係があります。図2のグラフから周期 \(T\) が読み取れることを利用します。

この設問における重要なポイント

  • 角周波数 \(\omega\) と周期 \(T\) の関係式を正しく理解しているか。

具体的な解説と立式

図2に示される抵抗 \(R\) の両端の電圧 \(v_R(t)\) は周期的な正弦波です。この波形が一つの完全なサイクルを終えるのにかかる時間が周期 \(T\) です。角周波数 \(\omega\) は、この周期 \(T\) と次の関係で結ばれています。
$$ \omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T} \quad \cdots ① $$
これは、位相が \(2\pi\) ラジアン(1周)進むのに \(T\) 秒かかることを意味し、単位時間あたりに進む位相の角度が角周波数です。

使用した物理公式

  • 角周波数と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
計算過程

設問の指示により \(T\) を用いて答えるため、式①がそのまま解答となります。

計算方法の平易な説明

交流の振動の速さを表す「角周波数 \(\omega\)」は、振動が1往復するのにかかる時間「周期 \(T\)」と \(\omega = 2\pi / T\) という関係があります。これは定義なので、そのまま用います。

結論と吟味

交流の角周波数 \(\omega\) は \(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\) です。単位は [rad/s](ラジアン毎秒)となります。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\)

問2

思考の道筋とポイント

抵抗 \(R\) にかかる電圧 \(v_R(t)\) が分かっているので、オームの法則を使って抵抗を流れる電流 \(i(t)\) を求めます。抵抗では電圧と電流の位相は同じです。電流の瞬時値の式から最大値を読み取り、実効値を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 抵抗における電圧と電流の位相関係(同位相)。
  • オームの法則 \(v=Ri\) の適用。
  • 電流の最大値から実効値を計算する方法 (\(I_{\text{実効}} = I_{\text{最大}} / \sqrt{2}\))。

具体的な解説と立式

抵抗 \(R\) にかかる電圧 \(v_R(t)\) は、図2より \(v_R(t) = V_0 \sin(\omega t)\) と表されます。抵抗においては、電圧と電流の間にオームの法則が成り立ち、位相は同位相です。したがって、電流 \(i(t)\) は、
$$ i(t) = \displaystyle\frac{v_R(t)}{R} \quad \cdots ② $$
と表せます。この式から電流の瞬時値が求まります。
電流の最大値を \(I_0\) とすると、電流の実効値 \(I_{\text{実効}}\) は、
$$ I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} \quad \cdots ③ $$
で与えられます。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(v = Ri\)
  • 実効値の定義: \(I_{\text{実効}} = I_{\text{最大}} / \sqrt{2}\)
計算過程

式②に \(v_R(t) = V_0 \sin(\omega t)\) を代入して、電流 \(i(t)\) の瞬時式を求めます。
$$ i(t) = \displaystyle\frac{V_0 \sin(\omega t)}{R} = \left(\displaystyle\frac{V_0}{R}\right) \sin(\omega t) $$
この式より、電流の最大値 \(I_0\) は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) であることがわかります。
次に、この \(I_0\) を式③に代入して、実効値 \(I_{\text{実効}}\) を求めます。
$$ I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{V_0/R}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R} $$

計算方法の平易な説明
  1. 抵抗にかかる電圧が \(V_0 \sin(\omega t)\) なので、オームの法則 \(i = v/R\) を使って電流を求めると、\(i(t) = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin(\omega t)\) となります。これが電流の時刻 \(t\) での値を表す式です。
  2. この式の \(\sin\) の前にくっついている \(\displaystyle\frac{V_0}{R}\) が電流の振幅、つまり最大値です。
  3. 実効値は、この最大値を \(\sqrt{2}\) で割ることで求められるので、\(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) となります。
結論と吟味

抵抗に流れる電流 \(i(t)\) は \(\left(\displaystyle\frac{V_0}{R}\right) \sin(\omega t)\) であり、その実効値 \(I_{\text{実効}}\) は \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) です。電流の位相は抵抗の電圧と等しく \(\sin(\omega t)\) であり、これは抵抗の性質と一致しています。

解答 (2) \(i(t) = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin(\omega t)\), 実効値: \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\)

問3

思考の道筋とポイント

交流回路で電力を消費するのは抵抗だけです。コイルやコンデンサーはエネルギーを蓄えたり放出したりしますが、平均すると電力消費はゼロです。抵抗での消費電力は、実効電流と実効電圧を用いて計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 交流回路で電力を消費するのは抵抗のみであること。
  • 消費電力の公式 \(P = I_{\text{実効}}^2 R\) や \(P = V_{R\text{実効}} I_{\text{実効}}\) を使えること。
  • 抵抗にかかる電圧の実効値 \(V_{R\text{実効}} = V_0 / \sqrt{2}\)。

具体的な解説と立式

RLC直列回路において、平均的に電力を消費するのは抵抗 \(R\) のみです。コイル \(L\) とコンデンサー \(C\) は、理想的な場合、エネルギーを一時的に蓄えたり放出したりするだけで、1周期全体で見ると電力を消費しません。
抵抗 \(R\) での消費電力 \(P\) は、抵抗を流れる電流の実効値 \(I_{\text{実効}}\) と抵抗 \(R\) を用いて、
$$ P = I_{\text{実効}}^2 R \quad \cdots ④ $$
と表されます。あるいは、抵抗にかかる電圧の実効値 \(V_{R\text{実効}}\) と電流の実効値 \(I_{\text{実効}}\) を用いて、
$$ P = V_{R\text{実効}} I_{\text{実効}} \quad \cdots ⑤ $$
とも書けます。ここで、抵抗にかかる電圧の最大値は \(V_0\) なので、その実効値は \(V_{R\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\) です。電流の実効値 \(I_{\text{実効}}\) は問(2)で求めた \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) です。

使用した物理公式

  • 抵抗での消費電力: \(P = I_{\text{実効}}^2 R\) または \(P = V_{\text{実効}} I_{\text{実効}}\)
計算過程

式④に、問(2)で求めた電流の実効値 \(I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) を代入します。
$$ P = \left(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\right)^2 R $$
括弧内を2乗すると、
$$ P = \left(\displaystyle\frac{V_0^2}{(\sqrt{2})^2 R^2}\right) R = \left(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R^2}\right) R $$
\(R\) で約分すると、
$$ P = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R} $$
別解として、式⑤に \(V_{R\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\) と \(I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) を代入しても同じ結果が得られます。
$$ P = \left(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\right) \left(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\right) = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R} $$

計算方法の平易な説明
  1. 交流回路でジュール熱としてエネルギーを消費するのは抵抗だけです。
  2. 消費電力は「(実効電流)\(^2\) × 抵抗値」で計算できます。
  3. (2)で求めた実効電流は \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) なので、これを2乗して \(R\) を掛けると、消費電力は \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) となります。
結論と吟味

この直列回路での消費電力 \(P\) は \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) です。単位は [W] (ワット) です。この結果は、抵抗にかかる電圧の最大値 \(V_0\) と抵抗値 \(R\) だけで表されており、回路の他の定数(\(L\) や \(C\))には依存しません。これは、コイルとコンデンサーが電力を消費しないという事実と整合します。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\)

問4

思考の道筋とポイント

コンデンサーにかかる電圧を考えます。まず、回路を流れる電流 \(i(t)\) は問(2)で求まっています。コンデンサーでは、電圧の位相は電流の位相よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。コンデンサーのリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を用いて電圧の最大値を計算し、そこから実効値と瞬時値を求めます。

この設問における重要なポイント

  • コンデンサーのリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)。
  • コンデンサーの電圧と電流の位相関係(電圧が電流より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる)。
  • 電圧の最大値 \(V_{C0} = X_C I_0\)。
  • 実効値と瞬時値の表現。

具体的な解説と立式

コンデンサー \(C\) にかかる電圧 \(v_C(t)\) を求めます。回路を流れる電流は \(i(t) = I_0 \sin(\omega t)\) であり、その最大値は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) です(問(2)より)。
コンデンサーのリアクタンス(容量リアクタンス) \(X_C\) は、
$$ X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} \quad \cdots ⑥ $$
です。コンデンサーにかかる電圧の最大値 \(V_{C0}\) は、電流の最大値 \(I_0\) とリアクタンス \(X_C\) を用いて、
$$ V_{C0} = X_C I_0 \quad \cdots ⑦ $$
と表されます。コンデンサーにかかる電圧の実効値 \(V_{C\text{実効}}\) は、この最大値 \(V_{C0}\) を \(\sqrt{2}\) で割ることで得られます。
$$ V_{C\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{C0}}{\sqrt{2}} \quad \cdots ⑧ $$
また、コンデンサーでは電圧の位相が電流の位相よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。電流が \(i(t) = I_0 \sin(\omega t)\) なので、電圧 \(v_C(t)\) は、
$$ v_C(t) = V_{C0} \sin\left(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2}\right) \quad \cdots ⑨ $$
と表されます。三角関数の性質 \(\sin(\theta – \pi/2) = -\cos\theta\) を用いると、
$$ v_C(t) = -V_{C0} \cos(\omega t) \quad \cdots ⑩ $$
とも書けます。

使用した物理公式

  • 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
  • 電圧・電流の最大値の関係: \(V_0 = X_C I_0\)
  • 実効値の定義: \(V_{\text{実効}} = V_{\text{最大}} / \sqrt{2}\)
  • コンデンサーの電圧の位相: 電流に対し \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる。
計算過程

まず、電圧の最大値 \(V_{C0}\) を求めます。式⑥と \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) を式⑦に代入します。
$$ V_{C0} = \left(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\right) \left(\displaystyle\frac{V_0}{R}\right) = \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} $$
次に、この \(V_{C0}\) を用いて実効値 \(V_{C\text{実効}}\) を式⑧から求めます。
$$ V_{C\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{C0}}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{V_0/\omega CR}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}\omega CR} $$
最後に、電圧の瞬時値 \(v_C(t)\) を求めます。式⑨(または⑩)に \(V_{C0} = \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR}\) を代入します。模範解答に合わせて \(\sin\) で表現すると、
$$ v_C(t) = \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \sin\left(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2}\right) $$
また、\(\cos\) で表現すると、
$$ v_C(t) = -\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \cos(\omega t) $$

計算方法の平易な説明
  1. コンデンサーの交流に対する「抵抗のようなもの」(リアクタンス)は \(X_C = 1/(\omega C)\) です。
  2. コンデンサーにかかる電圧の最大値は「リアクタンス \(X_C\) × 電流の最大値 \(I_0\)」で計算できます。\(I_0 = V_0/R\) なので、電圧の最大値は \(V_{C0} = (1/\omega C) \times (V_0/R) = V_0/(\omega CR)\) です。
  3. この最大値を \(\sqrt{2}\) で割ると、実効値 \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}\omega CR}\) が得られます。
  4. コンデンサーでは、電圧の位相は電流よりも \(90^\circ\)(つまり \(\pi/2\) ラジアン)遅れます。電流が \(\sin(\omega t)\) の形で表されているので、電圧は \(\sin(\omega t – \pi/2)\) という形になります。これに電圧の最大値を掛ければ、瞬時値の式が得られます。
結論と吟味

コンデンサーにかかる電圧の実効値は \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}\omega CR}\) です。また、電圧 \(v_C(t)\) を時刻 \(t\) の関数として表すと \(v_C(t) = \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \sin\left(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2}\right)\) または \(-\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \cos(\omega t)\) となります。電圧の位相が電流 \(\sin(\omega t)\) よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れていることが確認できます。

解答 (4) 実効値: \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}\omega CR}\), \(v_C(t) = \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \sin\left(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2}\right)\) (または \(-\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \cos(\omega t)\))

問5

思考の道筋とポイント

問(4)で求めたコンデンサーにかかる電圧 \(v_C(t)\) の瞬時値の式を使い、\(v_C(t)=0\) となる時刻 \(t\) を求めます。三角関数の値が0になる条件を考え、与えられた範囲 \(0 \le t \le T\) で解を選びます。

この設問における重要なポイント

  • 三角関数 \(\cos\theta = 0\) (または \(\sin\phi = 0\)) となる \(\theta\) (または \(\phi\)) の値を正しく求めること。
  • \(\omega = 2\pi/T\) の関係を使って、時刻 \(t\) を周期 \(T\) で表すこと。
  • 指定された時間範囲内の解を選ぶこと。

具体的な解説と立式

問(4)で、コンデンサーにかかる電圧 \(v_C(t)\) は \(v_C(t) = -\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \cos(\omega t)\) と求められました (模範解答の \(v_C\) の式 \(\sin(\omega t – \pi/2)\) を使っても同じ結果が得られます)。
この電圧が0になる、すなわち \(v_C(t)=0\) となる時刻 \(t\) を求めます。
電圧の振幅 \(\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR}\) は0ではない(\(V_0 \neq 0\) と仮定)ので、\(v_C(t)=0\) となるのは、
$$ \cos(\omega t) = 0 \quad \cdots ⑪ $$
が成り立つときです。一般に \(\cos\theta = 0\) となるのは、\(\theta = \displaystyle\frac{\pi}{2} + n\pi\) (ここで \(n\) は整数)のときです。
したがって、
$$ \omega t = \displaystyle\frac{\pi}{2} + n\pi \quad \cdots ⑫ $$
となります。角周波数 \(\omega\) は問(1)より \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) です。

使用した物理公式

  • \(\cos\theta = 0\) のとき、\(\theta = \displaystyle\frac{\pi}{2} + n\pi\) (nは整数)
  • \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
計算過程

式⑫に \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入します。
$$ \left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right) t = \displaystyle\frac{\pi}{2} + n\pi $$
両辺を \(\pi\) で割ると、
$$ \left(\displaystyle\frac{2}{T}\right) t = \displaystyle\frac{1}{2} + n $$
\(t\) について解くと、
$$ t = \left(\displaystyle\frac{1}{2} + n\right) \displaystyle\frac{T}{2} = \displaystyle\frac{T}{4} + n\displaystyle\frac{T}{2} $$
ここで、与えられた範囲 \(0 \le t \le T\) で考えます。

  • \(n=0\) のとき: \(t = \displaystyle\frac{T}{4} + 0 \cdot \displaystyle\frac{T}{2} = \displaystyle\frac{T}{4}\)。これは \(0 \le \displaystyle\frac{T}{4} \le T\) を満たします。
  • \(n=1\) のとき: \(t = \displaystyle\frac{T}{4} + 1 \cdot \displaystyle\frac{T}{2} = \displaystyle\frac{T}{4} + \displaystyle\frac{2T}{4} = \displaystyle\frac{3T}{4}\)。これは \(0 \le \displaystyle\frac{3T}{4} \le T\) を満たします。
  • \(n=2\) のとき: \(t = \displaystyle\frac{T}{4} + 2 \cdot \displaystyle\frac{T}{2} = \displaystyle\frac{T}{4} + T = \displaystyle\frac{5T}{4}\)。これは \(T\) を超えるため範囲外です。
  • \(n=-1\) のとき: \(t = \displaystyle\frac{T}{4} – 1 \cdot \displaystyle\frac{T}{2} = -\displaystyle\frac{T}{4}\)。これは \(0\) より小さいため範囲外です。

したがって、条件を満たす時刻 \(t\) は \(\displaystyle\frac{T}{4}\) と \(\displaystyle\frac{3T}{4}\) です。

計算方法の平易な説明
  1. コンデンサーの電圧は (4) で求めたように \(-\text{定数} \times \cos(\omega t)\) という形をしています。これが0になるのは、\(\cos(\omega t)\) が0になるときです。
  2. コサイン関数 \(\cos\theta\) が0になるのは、角度 \(\theta\) が \(90^\circ (\pi/2), 270^\circ (3\pi/2), 450^\circ (5\pi/2), \dots\) のときです。
  3. したがって、\(\omega t = \pi/2\) または \(\omega t = 3\pi/2\) が、\(0 \le t \le T\) の範囲(つまり \(0 \le \omega t \le 2\pi\) の範囲)で考えられる角度です。
  4. \(\omega = 2\pi/T\) を使って \(t\) に直すと、\(t = (\pi/2) / (2\pi/T) = T/4\) と \(t = (3\pi/2) / (2\pi/T) = 3T/4\) が得られます。
結論と吟味

コンデンサーにかかる電圧が0になる時刻 \(t\) は、\(0 \le t \le T\) の範囲で \(t = \displaystyle\frac{T}{4}\) と \(t = \displaystyle\frac{3T}{4}\) です。
電流 \(i(t) \propto \sin(\omega t)\) が最大値 (\(t=T/4\)) または最小値 (\(t=3T/4\)) をとるとき、コンデンサーの電圧 \(v_C(t) \propto -\cos(\omega t)\) は0となります。これは、コンデンサーへの電荷の蓄積量が0から最大(または最小)へ、あるいは最大(または最小)から0へと変化する中間点であり、電流(電荷の時間変化率)が極値をとるタイミングと一致します。

解答 (5) \(t = \displaystyle\frac{T}{4}, \displaystyle\frac{3T}{4}\)

問6

思考の道筋とポイント

コイルにかかる電圧を考えます。回路を流れる電流 \(i(t)\) は問(2)で求まっています。コイルでは、電圧の位相は電流の位相よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。コイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\) を用いて電圧の最大値を計算し、そこから実効値と瞬時値を求めます。

この設問における重要なポイント

  • コイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\)。
  • コイルの電圧と電流の位相関係(電圧が電流より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む)。
  • 電圧の最大値 \(V_{L0} = X_L I_0\)。
  • 実効値と瞬時値の表現。

具体的な解説と立式

コイル \(L\) にかかる電圧 \(v_L(t)\) を求めます。回路を流れる電流は \(i(t) = I_0 \sin(\omega t)\) であり、その最大値は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) です(問(2)より)。
コイルのリアクタンス(誘導リアクタンス) \(X_L\) は、
$$ X_L = \omega L \quad \cdots ⑬ $$
です。コイルにかかる電圧の最大値 \(V_{L0}\) は、電流の最大値 \(I_0\) とリアクタンス \(X_L\) を用いて、
$$ V_{L0} = X_L I_0 \quad \cdots ⑭ $$
と表されます。コイルにかかる電圧の実効値 \(V_{L\text{実効}}\) は、この最大値 \(V_{L0}\) を \(\sqrt{2}\) で割ることで得られます。
$$ V_{L\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{L0}}{\sqrt{2}} \quad \cdots ⑮ $$
また、コイルでは電圧の位相が電流の位相よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。電流が \(i(t) = I_0 \sin(\omega t)\) なので、電圧 \(v_L(t)\) は、
$$ v_L(t) = V_{L0} \sin\left(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}\right) \quad \cdots ⑯ $$
と表されます。三角関数の性質 \(\sin(\theta + \pi/2) = \cos\theta\) を用いると、
$$ v_L(t) = V_{L0} \cos(\omega t) \quad \cdots ⑰ $$
とも書けます。

使用した物理公式

  • 誘導リアクタンス: \(X_L = \omega L\)
  • 電圧・電流の最大値の関係: \(V_0 = X_L I_0\)
  • 実効値の定義: \(V_{\text{実効}} = V_{\text{最大}} / \sqrt{2}\)
  • コイルの電圧の位相: 電流に対し \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。
計算過程

まず、電圧の最大値 \(V_{L0}\) を求めます。式⑬と \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) を式⑭に代入します。
$$ V_{L0} = (\omega L) \left(\displaystyle\frac{V_0}{R}\right) = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} $$
次に、この \(V_{L0}\) を用いて実効値 \(V_{L\text{実効}}\) を式⑮から求めます。
$$ V_{L\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{L0}}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{\omega L V_0/R}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{\sqrt{2}R} $$
最後に、電圧の瞬時値 \(v_L(t)\) を求めます。式⑯(または⑰)に \(V_{L0} = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R}\) を代入します。模範解答に合わせて \(\cos\) で表現すると、
$$ v_L(t) = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \cos(\omega t) $$
また、\(\sin\) で表現すると、
$$ v_L(t) = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \sin\left(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}\right) $$

計算方法の平易な説明
  1. コイルの交流に対する「抵抗のようなもの」(リアクタンス)は \(X_L = \omega L\) です。
  2. コイルにかかる電圧の最大値は「リアクタンス \(X_L\) × 電流の最大値 \(I_0\)」で計算できます。\(I_0 = V_0/R\) なので、電圧の最大値は \(V_{L0} = (\omega L) \times (V_0/R) = \omega L V_0/R\) です。
  3. この最大値を \(\sqrt{2}\) で割ると、実効値 \(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{\sqrt{2}R}\) が得られます。
  4. コイルでは、電圧の位相は電流よりも \(90^\circ\)(つまり \(\pi/2\) ラジアン)進みます。電流が \(\sin(\omega t)\) の形で表されているので、電圧は \(\sin(\omega t + \pi/2)\) という形になります。これは \(\cos(\omega t)\) と同じです。これに電圧の最大値を掛ければ、瞬時値の式が得られます。
結論と吟味

コイルにかかる電圧の実効値は \(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{\sqrt{2}R}\) です。また、電圧 \(v_L(t)\) を時刻 \(t\) の関数として表すと \(v_L(t) = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \cos(\omega t)\) または \(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \sin\left(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}\right)\) となります。電圧の位相が電流 \(\sin(\omega t)\) よりも \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進んでいることが確認できます。

解答 (6) 実効値: \(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{\sqrt{2}R}\), \(v_L(t) = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \cos(\omega t)\) (または \(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \sin\left(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}\right)\))

問7

思考の道筋とポイント

電源電圧 \(v(t)\) は、キルヒホッフの電圧則より、抵抗、コンデンサー、コイルにかかる各電圧の瞬時値の和です。\(v(t) = v_R(t) + v_C(t) + v_L(t)\)。これらの和を三角関数の合成で一つの正弦波にし、その振幅(最大値)を求めます。あるいは、回路全体のインピーダンス \(Z\) を求め、\(V_{\text{最大}} = Z I_0\) の関係を使います。
ab間の電圧 \(v_{ab}(t)\) は抵抗とコンデンサーにかかる電圧の和 \(v_R(t) + v_C(t)\) です。同様に最大値を求めます。

この設問における重要なポイント

  • キルヒホッフの電圧則の適用(瞬時値の和)。
  • RLC直列回路のインピーダンス \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\)。
  • RC直列部分のインピーダンス \(Z_{RC} = \sqrt{R^2 + X_C^2}\)。
  • 電圧の最大値 \(V_{\text{最大}} = Z I_0\) の関係。
  • あるいは、三角関数の合成 \(A\sin\theta + B\cos\theta = \sqrt{A^2+B^2}\sin(\theta+\alpha)\) を用いて振幅を求める。

具体的な解説と立式

電源電圧の最大値 \(V_1\):
電源電圧 \(v(t)\) は、各素子にかかる電圧の瞬時値の和です。
$$ v(t) = v_R(t) + v_L(t) + v_C(t) \quad \cdots ⑱ $$
これまでの結果を代入すると、
\(v_R(t) = V_0 \sin(\omega t)\)
\(v_L(t) = \displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} \cos(\omega t)\)
\(v_C(t) = -\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \cos(\omega t)\)
よって、
$$ v(t) = V_0 \sin(\omega t) + \left(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} – \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR}\right) \cos(\omega t) \quad \cdots ⑲ $$
この式は \(A \sin(\omega t) + B \cos(\omega t)\) の形をしており、その最大値(振幅) \(V_1\) は \(\sqrt{A^2+B^2}\) で与えられます。
$$ V_1 = \sqrt{V_0^2 + \left(\displaystyle\frac{\omega L V_0}{R} – \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR}\right)^2} \quad \cdots ⑳ $$
別解として、回路全体のインピーダンス \(Z\) を用いる方法があります。電流の最大値は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) です。RLC直列回路のインピーダンス \(Z\) は、
$$ Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2} = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2} \quad \cdots ㉑ $$
電源電圧の最大値 \(V_1\) は、
$$ V_1 = I_0 Z \quad \cdots ㉒ $$
です。

ab間の電圧の最大値 \(V_2\):
ab間の電圧 \(v_{ab}(t)\) は、抵抗 \(R\) とコンデンサー \(C\) にかかる電圧の和です。
$$ v_{ab}(t) = v_R(t) + v_C(t) \quad \cdots ㉓ $$
$$ v_{ab}(t) = V_0 \sin(\omega t) – \displaystyle\frac{V_0}{\omega CR} \cos(\omega t) \quad \cdots ㉔ $$
この最大値(振幅) \(V_2\) は、
$$ V_2 = \sqrt{V_0^2 + \left(-\displaystyle\frac{V_0}{\omega CR}\right)^2} \quad \cdots ㉕ $$
別解として、RC直列部分のインピーダンス \(Z_{RC}\) を用いる方法があります。
$$ Z_{RC} = \sqrt{R^2 + X_C^2} = \sqrt{R^2 + \left(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2} \quad \cdots ㉖ $$
ab間の電圧の最大値 \(V_2\) は、
$$ V_2 = I_0 Z_{RC} \quad \cdots ㉗ $$
です。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの電圧則
  • RLC直列回路のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\)
  • RC直列回路のインピーダンス: \(Z_{RC} = \sqrt{R^2 + X_C^2}\)
  • 電圧の最大値: \(V_{\text{最大}} = Z I_0\)
  • 三角関数の合成 (振幅): \(\sqrt{A^2+B^2}\)
計算過程

電源電圧の最大値 \(V_1\):
式㉒に \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) と式㉑を代入します。
$$ V_1 = \left(\displaystyle\frac{V_0}{R}\right) \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2} $$
これが \(V_1\) です。

ab間の電圧の最大値 \(V_2\):
式㉗に \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) と式㉖を代入します。
$$ V_2 = \left(\displaystyle\frac{V_0}{R}\right) \sqrt{R^2 + \left(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2} $$
これが \(V_2\) です。

計算方法の平易な説明
  1. 電源電圧の最大値 \(V_1\):
    • 電源電圧は、抵抗、コイル、コンデンサーの電圧をすべて「ベクトル的に」足し合わせたものです。
    • 回路全体の「合成抵抗」(インピーダンス \(Z\))は \(\sqrt{R^2 + (\omega L – 1/(\omega C))^2}\) です。
    • 電源電圧の最大値は「インピーダンス \(Z\) × 電流の最大値 \(I_0\)」で求められます。\(I_0 = V_0/R\) を使うと、上の式が得られます。
  2. ab間の電圧の最大値 \(V_2\):
    • ab間の電圧は、抵抗とコンデンサーの電圧を「ベクトル的に」足し合わせたものです。
    • 抵抗とコンデンサーの部分だけの「合成抵抗」(インピーダンス \(Z_{RC}\))は \(\sqrt{R^2 + (1/(\omega C))^2}\) です。
    • ab間電圧の最大値は「インピーダンス \(Z_{RC}\) × 電流の最大値 \(I_0\)」で求められます。\(I_0 = V_0/R\) を使うと、上の式が得られます。
結論と吟味

電源電圧の最大値 \(V_1\) は \(\displaystyle\frac{V_0}{R}\sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\) であり、ab間の電圧の最大値 \(V_2\) は \(\displaystyle\frac{V_0}{R}\sqrt{R^2 + \left(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\) です。
これらの結果は、RLC直列回路およびRC直列回路のインピーダンスの定義と、電圧と電流の関係 \(V=ZI\) から導かれるものであり、物理的に妥当です。\(V_0\) が抵抗 \(R\) にかかる電圧の最大値であることに注意して、\(I_0 = V_0/R\) を基準に計算を進めている点がポイントです。

解答 (7) \(V_1 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\), \(V_2 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\sqrt{R^2 + \left(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 交流回路における各素子の電圧と電流の位相関係とリアクタンス:
    • 抵抗(\(R\)): 電圧 \(v_R\) と電流 \(i\) は同位相。\(v_R = Ri\)。
    • コンデンサー(\(C\)): 電圧 \(v_C\) は電流 \(i\) より位相が \(\pi/2\) 遅れる。リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)。
    • コイル(\(L\)): 電圧 \(v_L\) は電流 \(i\) より位相が \(\pi/2\) 進む。リアクタンス \(X_L = \omega L\)。
  • 角周波数と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)。
  • 実効値と最大値の関係: \(V_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{\text{最大}}}{\sqrt{2}}\), \(I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{I_{\text{最大}}}{\sqrt{2}}\)。これらは交流の「平均的な強さ」を表します。
  • 交流電力の消費: 平均電力は抵抗でのみ消費される (\(P = I_{\text{実効}}^2 R\))。コイルとコンデンサーはエネルギーをやり取りするだけで消費はしない(理想的な場合)。
  • キルヒホッフの電圧則: 瞬時値において、電源電圧は各素子の電圧降下の和に等しい (\(v_{\text{電源}} = v_R + v_L + v_C\))。
  • インピーダンスの概念:
    • RLC直列回路全体のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\)。
    • RC直列部分のインピーダンス: \(Z_{RC} = \sqrt{R^2 + X_C^2}\)。
    • 電圧と電流の大きさの関係: \(V_{\text{最大}} = Z I_{\text{最大}}\) または \(V_{\text{実効}} = Z I_{\text{実効}}\)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用パターン:
    • RLC並列回路:各素子にかかる電圧が共通となり、電流が分岐する。電流のベクトル和(または複素和)で全体の電流を考える。
    • 共振回路:\(X_L = X_C\) となる特定の角周波数(共振角周波数)での回路の振る舞い(インピーダンスが最小、電流が最大など)。
    • 電源電圧や全体の電流のグラフから、回路定数や各部の電圧・電流を求める問題。
    • 特定の素子間の電圧や、特定の素子を流れる電流の位相差を問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 基準信号の特定: まず、どの物理量(電圧か電流か)が基準として与えられているか、または設定できるかを確認する。本問では抵抗の電圧 \(v_R(t)\) が基準。
    2. 回路の接続形態: 直列か並列か。直列なら電流が全部品で共通、並列なら電圧が全部品で共通。
    3. 位相関係の把握: 基準信号に対して、他の部分の電圧や電流の位相がどうなるかを常に意識する。「コイルは進む、コンデンサは遅れる」は基本。
    4. ベクトル図(フェーザ図)の活用: 電圧や電流の大きさと位相関係を視覚的に表現すると、合成電圧や合成電流の計算、位相差の理解が容易になる。特に直列回路では電流を基準に各電圧のベクトルを、並列回路では電圧を基準に各電流のベクトルを描くと良い。
    5. リアクタンスとインピーダンスの計算: \(\omega\) の値(または \(T\) から計算)、\(L\)、\(C\) の値から各リアクタンスを正確に計算し、それらを合成してインピーダンスを求める。
  • 問題解決のヒント・注意点:
    • \(\sin(\theta \pm \pi/2) = \pm \cos\theta\), \(\cos(\theta \pm \pi/2) = \mp \sin\theta\) のような三角関数の変換はスムーズにできるようにする。
    • 三角関数の合成 \(A\sin x + B\cos x = \sqrt{A^2+B^2} \sin(x+\alpha)\) は、振幅(最大値)を求める際に非常に有効。
    • 問題文で「\(T\) を用いて答えよ」「\(\omega\) を用いて答えよ」などの指示を見逃さない。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電圧と電流の位相関係の混同:
    • コイル(L)では電圧が電流より \(\pi/2\) 進み、コンデンサー(C)では電圧が電流より \(\pi/2\) 遅れる。これを逆に覚えたり、基準を間違えたりしやすい。
    • 対策: 「CIVIL」の法則(C:IがVより進む、L:VがIより進む)や、各素子の物理的な動作(コイルは電流変化を妨げようとし、コンデンサは電荷を溜めてから電圧が生じる)をイメージして覚える。常に電流を基準にするか電圧を基準にするか明確にする。
  • 最大値と実効値の使い分けミス:
    • 電力計算は実効値で行うのが基本。\(V=ZI\) の関係は最大値同士でも実効値同士でも成り立つが、混用は不可。
    • 対策: 問題で何が問われているか(最大値か実効値か)を常に確認し、計算過程で一貫性を持たせる。電力は \(P=V_{\text{実効}}I_{\text{実効}}\cos\phi\) (\(\phi\) は電圧と電流の位相差)または抵抗では \(P=I_{\text{実効}}^2 R\)。
  • インピーダンス計算の符号ミス:
    • \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) の \(X_L – X_C\) の部分。\(X_C – X_L\) にしてしまうと、位相の進み遅れが逆になる。
    • 対策: ベクトル図で、\(X_L\) が上向き(\(+j\omega L\))、\(X_C\) が下向き(\(-j/(\omega C)\))であることをイメージし、その差の大きさを考える。
  • 三角関数の計算ミス:
    • \(v_C(t)=0\) のような条件から時刻 \(t\) を求める際に、\(\cos(\omega t)=0\) となる \(\omega t\) の値を複数正しく列挙し、与えられた範囲の \(t\) を選ぶ過程でのミス。
    • 対策: 単位円や三角関数のグラフを頭に描き、一般解(例:\(\omega t = \pi/2 + n\pi\))を考えてから、具体的な \(n\) の値を代入して範囲内の解を選ぶ。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 抵抗の電圧 \(v_R\) が基準 (\(\sin(\omega t)\))。電流 \(i\) はこれとピッタリ同じように振動。
    • コンデンサー電圧 \(v_C\): 電流 \(i\) が最大/最小のとき(電荷の流入/流出が最も激しいとき)に \(v_C=0\)。電流が0のとき(電荷の流入/流出が止まったとき)に \(|v_C|\) が最大(電荷が最も溜まっている)。電流に対して90°遅れる。
    • コイル電圧 \(v_L\): 電流 \(i\) の変化率が最大のとき(\(i=0\) で傾きが最大)に \(|v_L|\) が最大。電流が最大/最小のとき(傾きが0)に \(v_L=0\)。電流に対して90°進む。
  • 図示(ベクトル図/フェーザ図)の有効性:
    • (7)の電源電圧やab間電圧の最大値を求める際、非常に有効。
    • 電流 \(I_0\)(またはその実効値 \(I_{\text{実効}}\))を基準として水平右向きに描く。
    • 抵抗の電圧 \(V_{R0} = RI_0\) は電流と同相なので、同じ向きに描く。
    • コイルの電圧 \(V_{L0} = X_L I_0\) は電流より \(\pi/2\) 進むので、真上向きに描く。
    • コンデンサーの電圧 \(V_{C0} = X_C I_0\) は電流より \(\pi/2\) 遅れるので、真下向きに描く。
    • これらの電圧ベクトルを合成することで、電源電圧ベクトルの大きさと位相が求まる。
      • \(V_1\) は、\(V_{R0}\), \(V_{L0}\), \(V_{C0}\) のベクトル和の大きさ。\(V_{L0}\) と \(V_{C0}\) は逆向きなので、その差 \(|V_{L0}-V_{C0}|\) と \(V_{R0}\) を直角三角形の辺として合成する。
      • \(V_2\) は、\(V_{R0}\) と \(V_{C0}\) のベクトル和の大きさ。これらを直角三角形の辺として合成する。
  • 図を描く際の注意点:
    • 各ベクトルの長さは、対応する電圧(またはリアクタンスや抵抗)の大きさを反映するように、おおよその比率で描く。
    • 位相差(角度)は正確に \(\pi/2\) (90°) で描く。
    • 基準となるベクトル(通常は電流か抵抗の電圧)を明確にする。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\omega = 2\pi/T\): 周期 \(T\) で繰り返す正弦波の角振動数を定義する基本的な関係式。
  • \(v=Ri\): 抵抗における電圧と電流の瞬時的な比例関係を示すオームの法則。交流でも位相のずれなく成り立つ。
  • \(X_C = 1/(\omega C)\), \(X_L = \omega L\): コンデンサーとコイルが交流電流に対して示す「妨げにくさ」を表すリアクタンス。周波数 \(\omega\) に依存する点が重要。これらは \(V_0 = X I_0\) の形でオームの法則に似た関係で使われる。
  • 位相関係 (\(\pm \pi/2\)):
    • コンデンサー: \(i = C \frac{dv_C}{dt}\)。もし \(v_C \propto \sin(\omega t – \pi/2)\) なら \(i \propto \cos(\omega t – \pi/2) = \sin(\omega t)\)。電圧が電流より \(\pi/2\) 遅れる。
    • コイル: \(v_L = L \frac{di}{dt}\)。もし \(i \propto \sin(\omega t)\) なら \(v_L \propto \cos(\omega t) = \sin(\omega t + \pi/2)\)。電圧が電流より \(\pi/2\) 進む。
  • \(P = I_{\text{実効}}^2 R\): ジュール熱による電力消費は抵抗でのみ起こる。実効値を用いることで、直流と同じ形の電力式が使える。
  • インピーダンス (\(Z = \sqrt{R^2 + (X_L-X_C)^2}\)): RLC直列回路における電圧と電流の「比」だけでなく、それらの間の「位相差」も含む総合的な抵抗の概念。各電圧ベクトルの合成結果から導かれる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 角周波数: 周期 \(T\) から \(\omega = 2\pi/T\) を適用。
  2. (2) 電流:
    1. 抵抗の電圧 \(v_R = V_0 \sin(\omega t)\) とオームの法則 \(i = v_R/R\) から \(i(t)\) を求める。
    2. \(i(t)\) の振幅 \(I_0 = V_0/R\) を読み取り、実効値 \(I_{\text{実効}} = I_0/\sqrt{2}\) を計算。
  3. (3) 消費電力: \(I_{\text{実効}}\) を用いて \(P = I_{\text{実効}}^2 R\) を計算。
  4. (4) コンデンサー電圧:
    1. リアクタンス \(X_C = 1/(\omega C)\) を計算。
    2. 電圧の最大値 \(V_{C0} = X_C I_0\) を計算。
    3. 実効値 \(V_{C\text{実効}} = V_{C0}/\sqrt{2}\) を計算。
    4. 瞬時値 \(v_C(t) = V_{C0} \sin(\omega t – \pi/2)\) を記述。
  5. (5) \(v_C(t)=0\) の時刻: \(v_C(t)\) の式(例:\(-V_{C0}\cos(\omega t)\))から \(\cos(\omega t)=0\) となる \(\omega t\) を求め、\(t\) に変換して範囲内の解を選ぶ。
  6. (6) コイル電圧:
    1. リアクタンス \(X_L = \omega L\) を計算。
    2. 電圧の最大値 \(V_{L0} = X_L I_0\) を計算。
    3. 実効値 \(V_{L\text{実効}} = V_{L0}/\sqrt{2}\) を計算。
    4. 瞬時値 \(v_L(t) = V_{L0} \sin(\omega t + \pi/2)\) (または \(V_{L0}\cos(\omega t)\)) を記述。
  7. (7) 合成電圧の最大値:
    1. \(V_1\) (電源電圧): RLC全体のインピーダンス \(Z = \sqrt{R^2+(X_L-X_C)^2}\) を求め、\(V_1 = Z I_0\) を計算。
    2. \(V_2\) (ab間電圧): RC部分のインピーダンス \(Z_{RC} = \sqrt{R^2+X_C^2}\) を求め、\(V_2 = Z_{RC} I_0\) を計算。
    3. (別解: 各瞬時電圧の和 \(v_R+v_L+v_C\) や \(v_R+v_C\) を三角関数の合成で \(A\sin(\omega t + \phi)\) の形にし、振幅 \(A\) を求める。)

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の意識: 計算の各段階で物理量の単位が正しいか(例:リアクタンスやインピーダンスは \(\Omega\))を確認する。
  • 文字と数値の区別: \(\omega\), \(L\), \(C\), \(R\), \(V_0\), \(T\) など多くの文字が出てくるので、混同しないように注意する。特に \(\omega\) と \(W\) (仕事・電力) など。
  • 分数の計算: \(X_C = 1/(\omega C)\) や、それを含むインピーダンス計算など、分数の取り扱いは慎重に。逆数を取るのを忘れない。
  • 平方根の計算: インピーダンス計算や実効値の \(\sqrt{2}\) の扱い。二乗し忘れたり、ルートを取り忘れたりしない。
  • 式の整理: \(I_0 = V_0/R\) のような関係を途中で代入して、式をシンプルに保つことで見通しを良くする。最終的な答えの形が指定されている場合はそれに合わせる。
  • 符号の確認: \(X_L – X_C\) の符号、三角関数の位相ずれによる符号の変化(例:\(\sin(\theta-\pi/2) = -\cos\theta\))に注意する。
  • 一貫性の保持: 最大値で計算を進めるか、実効値で計算を進めるか、方針を一貫させる(特に \(V=ZI\) の関係を使うとき)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との比較:
    • 例えば、\(\omega L \gg 1/(\omega C)\) の場合(周波数が非常に高いか、Lが大きいか、Cが小さい)、回路は誘導的になり、電源電圧の位相は電流より進むはず。結果がそれと整合するか?
    • 共振条件 \(\omega L = 1/(\omega C)\) のとき、インピーダンス \(Z=R\) となり最小になる。このとき、(7)の \(V_1\) の式で \(X_L-X_C=0\) とすると \(V_1 = (V_0/R) \sqrt{R^2} = V_0\)。これは、抵抗にかかる電圧の最大値が電源電圧の最大値と等しくなることを意味し、共振時は回路が純抵抗のように振る舞うことと整合する。
  • 極端な条件での確認:
    • もし \(L=0\) ならRC回路、\(C \rightarrow \infty\) (ほぼ短絡) ならRL回路。その場合のインピーダンスや電圧の式と一致するか確認する。
    • もし \(\omega \rightarrow 0\) (直流に近い) なら、\(X_L \rightarrow 0\), \(X_C \rightarrow \infty\) (コンデンサは開放)。回路はどうなるか?
    • もし \(\omega \rightarrow \infty\) なら、\(X_L \rightarrow \infty\), \(X_C \rightarrow 0\) (コイルは開放、コンデンサは短絡)。回路はどうなるか?
  • 単位の確認:最終的な答えの単位が、求められている物理量の単位と一致しているか必ず確認する。
  • 数値のオーダー感覚: もし具体的な数値が与えられている問題なら、計算結果が現実離れした値になっていないか大まかにチェックする。

問題137 (横浜市立大+奈良女子大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、スイッチの切り替えによって回路の状態が変化する状況を扱います。前半(1)では、電池、抵抗、コンデンサーからなるRC回路の充電過程における過渡現象を、後半(2)では、充電されたコンデンサーとコイルからなるLC回路における電気振動を考察します。スイッチ操作のタイミングと、それによるコンデンサーやコイルの振る舞いの変化を正確に捉えることが重要です。

与えられた条件
  • 回路構成: 起電力 \(V\) の電池、抵抗値 \(R\) の抵抗、電気容量 \(C\) のコンデンサー、自己インダクタンス \(L\) のコイル、スイッチS₁, S₂からなる。
  • 初期状態: スイッチS₁, S₂は開いている。
  • 電池やコイルなどの内部抵抗は無視する。
  • 操作(1): スイッチS₁を閉じる。
  • 操作(2): S₁を閉じて十分時間が経過した後、S₁を開き、次にS₂を閉じる。
  • (2)(イ)と(ウ)において、電流 \(i\) は時計回りの向きを正とする。
問われていること
  1. (1) スイッチS₁を閉じたとき:
    • (ア) 閉じた直後に抵抗に流れる電流 \(I_0\)。
    • (イ) 電流が \(I\) (\(0 \le I \le I_0\)) になったとき、コンデンサーに蓄えられた電気量 \(q\)。
    • (ウ) 十分時間が経過した後、コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\)。
  2. (2) S₁を閉じて十分時間経過後、S₁を開き、S₂を閉じたとき:
    • (ア) 回路を流れる振動電流 \(i\) の最大値 \(i_m\)。
    • (イ) S₂を閉じた直後からの \(i\) の時間変化の図示。
    • (ウ) S₂を閉じてから、コンデンサーの下側極板Bの電荷が正で最大となるまでにかかる時間。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念を理解しておく必要があります。

  • RC回路の過渡現象:
    • スイッチ投入直後、コンデンサーはまだ電荷を蓄えていないため、両端の電圧は0(導線とみなせる)。
    • 十分時間経過後(直流回路において)、コンデンサーは充電を完了し、電流を流さなくなる(断線とみなせる)。
    • 途中経過では、キルヒホッフの電圧則と \(q=CV_C\) の関係から回路方程式が立てられる。
  • LC電気振動:
    • 抵抗がないLC回路では、コンデンサーの静電エネルギーとコイルの磁気エネルギーの和が保存される。
    • 電荷や電流は単振動(正弦波的に変化)する。
    • 固有角振動数は \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)、周期は \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)。
  • オームの法則: \(V_R = RI\)。
  • コンデンサーの基本式: \(q = CV_C\)。
  • コイルのエネルギー: \(U_L = \frac{1}{2}Li^2\)。

問1 (ア)

思考の道筋とポイント

スイッチS₁を閉じた「直後」という条件が重要です。この瞬間、コンデンサーにはまだ電荷が蓄えられていません。電荷がないコンデンサーの電圧は0であるため、回路におけるコンデンサーの役割を考えます。

この設問における重要なポイント

  • スイッチを閉じた直後、コンデンサーの電荷は0。
  • 電荷が0のコンデンサーの両端の電圧は0であり、導線(短絡状態)とみなせる。
  • 回路は実質的に電池と抵抗のみの単純な回路となる。

具体的な解説と立式

スイッチS₁を閉じた直後の瞬間を考えます。この時点では、コンデンサー \(C\) には電荷が蓄積されていません。したがって、コンデンサーの電気量 \(q\) は0です。
コンデンサーの電圧 \(V_C\) は \(V_C = q/C\) と表されるため、\(q=0\) のとき \(V_C=0\) となります。
これは、スイッチを閉じた直後のコンデンサーが、回路において電圧降下を引き起こさないただの導線(短絡状態)として振る舞うことを意味します。
その結果、この瞬間の回路は、起電力 \(V\) の電池と抵抗 \(R\) のみが接続されたものと等価になります。
この回路に流れる電流を \(I_0\) とすると、オームの法則により、
$$I_0 = \displaystyle\frac{V}{R} \quad \cdots ①$$
と求めることができます。

使用した物理公式

  • コンデンサーの電圧と電荷の関係: \(V_C = q/C\)
  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

式①がそのまま解答となります。

計算方法の平易な説明

スイッチをポンと入れた瞬間、コンデンサーはまだ空っぽで、電気を全く蓄えていません。そのため、コンデンサーの両端にはまだ電圧がかかっていません。これは、コンデンサーがただの電線(ショートしているのと同じ)のように振る舞っていると考えることができます。すると、回路は電池 \(V\) と抵抗 \(R\) だけがつながった簡単な形になるので、流れる電流 \(I_0\) はオームの法則から \(V/R\) と計算できます。

結論と吟味

S₁を閉じた直後に抵抗に流れる電流 \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{V}{R}\) です。これはコンデンサーが初期状態で電荷を持たず、電圧降下を生じさせないため、回路の電流が電池の起電力と抵抗のみによって決まることを示しています。

解答 (1)(ア) \(\displaystyle\frac{V}{R}\)

問1 (イ)

思考の道筋とポイント

スイッチS₁が閉じられた後、回路に電流 \(I\) が流れている(充電が進んでいる途中の)状態を考えます。このとき、抵抗 \(R\) での電圧降下と、コンデンサー \(C\) にかかる電圧の関係をキルヒホッフの第2法則を用いて記述し、コンデンサーの電気量 \(q\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 回路に電流 \(I\) が流れているとき、抵抗 \(R\) で \(RI\) の電圧降下が生じる。
  • キルヒホッフの第2法則(電圧則)を閉回路に適用する。
  • コンデンサーの基本式 \(q = CV_C\) を用いる。

具体的な解説と立式

スイッチS₁が閉じられ、コンデンサー \(C\) への充電が進み、回路に電流 \(I\) が流れている状態を考えます。この電流 \(I\) は抵抗 \(R\) を通過するため、抵抗の両端には \(V_R = RI\) の電圧降下が発生します。
コンデンサーにかかっている電圧を \(V_C\) とします。
電池、抵抗、コンデンサーを含む閉回路に対してキルヒホッフの第2法則を適用すると、電池の起電力 \(V\) は、抵抗での電圧降下 \(V_R\) とコンデンサーの電圧 \(V_C\) の和に等しくなります。
$$V = V_R + V_C \quad \cdots ②$$
ここに \(V_R = RI\) を代入すると、
$$V = RI + V_C \quad \cdots ③$$
この式から、コンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) は次のように表せます。
$$V_C = V – RI \quad \cdots ④$$
コンデンサーに蓄えられている電気量 \(q\) は、その静電容量 \(C\) と電圧 \(V_C\) を用いて \(q = CV_C\) と書けるので、
$$q = C V_C \quad \cdots ⑤$$
となります。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V_R = RI\)
  • キルヒホッフの第2法則: \(\Sigma V = 0\) (閉回路の電位差の代数和は0)
  • コンデンサーの基本式: \(q = CV_C\)
計算過程

式④で求めたコンデンサーの電圧 \(V_C = V – RI\) を、式⑤の \(q = CV_C\) に代入します。
$$q = C(V – RI)$$
これが、電流が \(I\) のときにコンデンサーに蓄えられている電気量 \(q\) です。

計算方法の平易な説明

電流 \(I\) が回路を流れているとき、抵抗 \(R\) の部分で \(RI\) だけ電圧が下がります。電池の電圧は \(V\) なので、コンデンサーにかかることができる電圧は、電池の電圧から抵抗で下がった分を引いた \(V – RI\) となります。コンデンサーにたまる電気の量 \(q\) は、「コンデンサーの容量 \(C\) × コンデンサーにかかる電圧 \(V_C\)」なので、\(q = C \times (V – RI)\) と計算できます。

結論と吟味

電流が \(I\) のときにコンデンサーに蓄えられた電気量 \(q\) は \(C(V-RI)\) です。
この式は理にかなっています。例えば、(ア)で考えたスイッチ投入直後では \(I=I_0=V/R\) なので、\(q = C(V – R(V/R)) = C(V-V) = 0\) となり、電荷が0であることと一致します。また、後で(ウ)で見るように、電流が流れなくなった \(I=0\) のときには \(q=CV\) となり、コンデンサーが電圧 \(V\) まで充電された状態を示します。

解答 (1)(イ) \(C(V-RI)\)

問1 (ウ)

思考の道筋とポイント

スイッチS₁を閉じて「十分時間が経過した」後を考えます。この状態ではコンデンサーの充電が完了し、回路には直流電流が流れなくなります。このときのコンデンサーの電圧と電気量を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 十分時間が経過すると、コンデンサーへの充電が完了する。
  • 直流回路において、充電が完了したコンデンサーは電流を通さない(回路が断線したのと同じ状態)。
  • 回路電流が0になると、抵抗での電圧降下も0になる。
  • コンデンサーの電圧は電池の起電力に等しくなる。

具体的な解説と立式

スイッチS₁を閉じてから十分な時間が経過すると、コンデンサー \(C\) は最大限まで充電されます。直流回路において、コンデンサーの充電が完了すると、コンデンサーを通じて電流は流れなくなります。これは、コンデンサー部分が回路的に「開放」または「断線」したのと同じ状態と見なせます。
したがって、回路を流れる電流 \(I\) は0になります。
$$I_{\text{最終}} = 0 \quad \cdots ⑥$$
電流が0なので、抵抗 \(R\) での電圧降下 \(V_R\) は、オームの法則 \(V_R = RI\) より、\(V_R = R \cdot 0 = 0\) となります。
再びキルヒホッフの第2法則(式②: \(V = V_R + V_C\)) を考えると、\(V_R = 0\) であるため、
$$V = 0 + V_C$$
となり、コンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) は電池の起電力 \(V\) に等しくなります。
$$V_C = V \quad \cdots ⑦$$
このときにコンデンサーに蓄えられている最終的な電気量を \(Q\) とすると、コンデンサーの基本式 \(Q = CV_C\) より、
$$Q = CV \quad \cdots ⑧$$
と求められます。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V_R = RI\)
  • キルヒホッフの第2法則
  • コンデンサーの基本式: \(Q = CV_C\)
計算過程

式⑧がそのまま解答となります。

計算方法の平易な説明

スイッチを入れてからものすごく時間が経つと、コンデンサーは電気でいっぱいになり、もうそれ以上電気を蓄えられません。このとき、回路には電流が流れなくなります(電流が0アンペア)。電流が流れないということは、抵抗 \(R\) の部分では電圧が全く下がらなくなります(電圧降下が0ボルト)。その結果、電池の電圧 \(V\) がそのまま全部コンデンサーにかかることになります。コンデンサーにたまる電気の量 \(Q\) は、「コンデンサーの容量 \(C\) × コンデンサーにかかる電圧 \(V\)」なので、\(Q = CV\) となります。

結論と吟味

十分時間が経過した後にコンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) は \(CV\) です。これは、コンデンサーが最終的に電池の電圧 \(V\) まで充電されることを示しており、RC直流回路における定常状態として正しい結果です。

解答 (1)(ウ) \(CV\)

問2 (ア)

思考の道筋とポイント

S₁を閉じて十分時間が経過した状態からスタートします。このときコンデンサーは \(Q=CV\) の電気量で電圧 \(V\) に充電されています。次にS₁を開き、S₂を閉じると、充電されたコンデンサー \(C\) とコイル \(L\) のみからなるLC回路が形成されます。このLC回路では、抵抗がないためエネルギー損失がなく、電気振動が起こります。コンデンサーの静電エネルギーとコイルの磁気エネルギーの和が保存されることを利用して、電流の最大値を求めます。

この設問における重要なポイント

  • S₂を閉じる直前のコンデンサーのエネルギーがLC回路の全エネルギーとなる。
  • LC回路におけるエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}\frac{q^2}{C} + \frac{1}{2}Li^2 = \text{一定}\)。
  • 電流が最大のとき、コンデンサーの電荷は0になり、エネルギーはすべてコイルの磁気エネルギーになる。

具体的な解説と立式

まず、S₁を閉じて十分時間が経過した状態では、(1)(ウ)よりコンデンサー \(C\) には電気量 \(Q=CV\) が蓄えられており、コンデンサーの電圧は \(V\) です。このとき、回路に電流は流れていません。
次にS₁を開き、続いてS₂を閉じると、この充電されたコンデンサー \(C\) とコイル \(L\) だけで構成される閉回路(LC回路)ができます。この回路では、コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーとコイルに蓄えられる磁気エネルギーの間で、エネルギーが周期的に移り変わる電気振動が発生します。
S₂を閉じた直後(この瞬間を \(t’=0\) とする)のエネルギーを考えます。

  • コンデンサーの電気量は \(q(0) = Q = CV\)。
  • コンデンサーの静電エネルギー \(U_{C\text{初期}}\) は、\(U_{C\text{初期}} = \frac{1}{2}\frac{Q^2}{C} = \frac{1}{2}\frac{(CV)^2}{C} = \frac{1}{2}CV^2\)。
  • S₂を閉じた直後はまだ電流が流れ始めていないので、コイルを流れる電流 \(i(0) = 0\)。
  • コイルの磁気エネルギー \(U_{L\text{初期}}\) は、\(U_{L\text{初期}} = \frac{1}{2}Li(0)^2 = 0\)。

したがって、LC回路の全エネルギー \(E_{\text{全}}\) は、\(E_{\text{全}} = U_{C\text{初期}} + U_{L\text{初期}} = \frac{1}{2}CV^2\) で、この値は振動中に保存されます。
回路を流れる振動電流が最大値 \(i_m\) に達したとき、コンデンサーの電荷は一時的に0になり、その静電エネルギーも0になります。この瞬間、全てのエネルギーはコイルの磁気エネルギーとして蓄えられています。

  • 電流が \(i_m\) のときのコンデンサーの静電エネルギー \(U_{C\text{電流最大時}} = 0\)。
  • 電流が \(i_m\) のときのコイルの磁気エネルギー \(U_{L\text{電流最大時}} = \frac{1}{2}Li_m^2\)。

エネルギー保存則により、S₂を閉じた直後の全エネルギーと、電流が最大のときの全エネルギーは等しいので、
$$\frac{1}{2}CV^2 + 0 = 0 + \frac{1}{2}Li_m^2 \quad \cdots ⑨$$
この式から電流の最大値 \(i_m\) を求めます。

使用した物理公式

  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U_C = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}\frac{Q^2}{C}\)
  • コイルの磁気エネルギー: \(U_L = \frac{1}{2}Li^2\)
  • LC回路におけるエネルギー保存則
計算過程

式⑨の両辺に2を掛けて整理すると、
$$CV^2 = Li_m^2$$
\(i_m^2\) について解くと、
$$i_m^2 = \displaystyle\frac{C}{L}V^2$$
\(i_m\) は電流の最大値であり正の値なので、両辺の正の平方根をとると、
$$i_m = \sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}V^2} = V\sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}$$
(ここで \(V\) は電池の起電力で正としています)。

計算方法の平易な説明

S₂を閉じる前、コンデンサーにはエネルギー \(\frac{1}{2}CV^2\) が蓄えられています。コイルにはエネルギーがありません(電流が流れていないため)。S₂を閉じると、このコンデンサーのエネルギーがコイルのエネルギーになったり、またコンデンサーに戻ったりする「エネルギーのキャッチボール」(電気振動)が始まります。このキャッチボールの間、エネルギーの合計はずっと同じです(エネルギー保存)。
電流が一番大きくなる瞬間には、コンデンサーのエネルギーは空っぽ(0)になり、すべてのエネルギーがコイルに移って磁気エネルギー \(\frac{1}{2}Li_m^2\) となります。そこで、「最初のコンデンサーのエネルギー = 電流最大時のコイルのエネルギー」という式、つまり \(\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}Li_m^2\) が成り立ちます。これを \(i_m\) について解けばOKです。

結論と吟味

回路を流れる振動電流の最大値 \(i_m\) は \(V\sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}\) です。この結果は、コンデンサーの初期の蓄えエネルギーが大きいほど(\(C\) や \(V\) が大きいほど)、またコイルのインダクタンス \(L\) が小さい(電流が変化しやすい)ほど、振動電流の最大値が大きくなることを示しており、直感的にも理解できます。

解答 (2)(ア) \(V\sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}\)

問2 (イ)

思考の道筋とポイント

S₂を閉じた直後からのLC振動における電流 \(i\) の時間変化をグラフで示します。LC振動の電流は正弦波(または余弦波)になります。S₂を閉じた瞬間の初期条件(コンデンサーの電荷、回路の電流)と、電流が流れ始める向きから、グラフの形を決定します。

この設問における重要なポイント

  • LC振動の電流は \(i(t’) = i_m \sin(\omega_0 t’ + \text{初期位相})\) の形で表される。
  • 固有角振動数 \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)、周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)。
  • S₂を閉じた直後 (\(t’=0\)) の初期条件: \(q(0) = CV\), \(i(0)=0\)。
  • 電流の正の向き(時計回り)の定義に従い、放電開始時の電流の増減の向きを判断する。

具体的な解説と立式

S₂を閉じた瞬間を新しい時刻の基準 \(t’=0\) とします。このとき、

  • コンデンサーの上側極板Aには正の電荷 \(+Q = +CV\) が、下側極板Bには負の電荷 \(-Q = -CV\) が蓄えられています(電池の接続向きから、S₁充電時にAが正、Bが負)。
  • 回路に流れる電流 \(i(0)\) は0です。

S₂を閉じると、コンデンサーは放電を開始します。上側極板Aの正電荷がコイルLを通って下側極板Bへ流れ込もうとします。電流の向きは時計回りを正と定義されているため、この放電電流は正の向きに流れ始めます。つまり、\(t’=0\) の直後、電流 \(i\) は0から正の方向へ増加していきます。
LC回路における電流 \(i(t’)\) の時間変化は、一般に \(i(t’) = i_m \sin(\omega_0 t’ + \alpha)\) と書くことができます。ここで、\(i_m\) は(ア)で求めた電流の最大値、\(\omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) はLC回路の固有角振動数、\(\alpha\) は初期位相です。
初期条件 \(i(0)=0\) を適用すると、\(i_m \sin(\alpha) = 0\)。\(i_m \neq 0\) なので \(\sin(\alpha)=0\)。これは \(\alpha=0\) または \(\alpha=\pi\) を意味します。
次に、\(t’=0\) で電流が正の向きに増加するという条件を考えます。電流の導関数(変化の速さ)は \(\frac{di}{dt’} = i_m \omega_0 \cos(\omega_0 t’ + \alpha)\)。\(t’=0\) でこの値が正であるためには、\(i_m \omega_0 \cos(\alpha) > 0\)、つまり \(\cos(\alpha)>0\) である必要があります。
\(\sin(\alpha)=0\) かつ \(\cos(\alpha)>0\) を満たすのは \(\alpha=0\) です。
したがって、電流の時間変化は次のように表されます。
$$i(t’) = i_m \sin(\omega_0 t’) = i_m \sin\left(\frac{t’}{\sqrt{LC}}\right) \quad \cdots ⑩$$
ここで \(i_m = V\sqrt{C/L}\) です。
このグラフは、振幅 \(i_m\)、角振動数 \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)、周期 \(T_0 = 2\pi/\omega_0 = 2\pi\sqrt{LC}\) の正弦曲線です。\(t’=0\) で \(i=0\) から始まり、正の方向に増加します。

使用した物理公式

  • LC回路の固有角振動数: \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)
  • LC回路の周期: \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)
  • 電流の初期条件と増加方向の考慮
計算過程

作図のための情報を整理します。

  • グラフの形: 正弦波 (\(\sin\))。
  • 振幅(最大値): \(i_m = V\sqrt{C/L}\)。
  • 周期: \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)。
  • 初期値 (\(t’=0\)): \(i(0)=0\)。
  • 初期の傾き: 正(原点から右肩上がりに始まる)。
  • 電流が0になる点: \(t’ = 0, \pi\sqrt{LC}, 2\pi\sqrt{LC}, \dots\) (つまり \(0, T_0/2, T_0, \dots\))。
  • 電流が正の最大値 \(i_m\) になる点: \(t’ = \frac{\pi}{2}\sqrt{LC}\) (つまり \(T_0/4\))。
  • 電流が負の最大値 \(-i_m\) になる点: \(t’ = \frac{3\pi}{2}\sqrt{LC}\) (つまり \(3T_0/4\))。
計算方法の平易な説明

グラフを描くには、まず横軸に時間 \(t’\)(または問題文に合わせて \(t\))、縦軸に電流 \(i\) を取ります。

  1. S₂を閉じた瞬間 (\(t’=0\)) は電流が0なので、グラフは原点 \((0,0)\) からスタートします。
  2. コンデンサーに蓄えられたプラスの電気(A極板側)が時計回りに流れ出すので、電流はプラスの方向に増え始めます。つまり、グラフは原点から右肩上がりに始まります。
  3. 電流の振動はきれいなサインカーブを描き、最大値 \(i_m\) と最小値 \(-i_m\) の間を行ったり来たりします。
  4. この振動が1回終わって元に戻るまでの時間(周期)は \(2\pi\sqrt{LC}\) です。
  5. グラフには、横軸に \(0\), \(\pi\sqrt{LC}\), \(2\pi\sqrt{LC}\) といった時間、縦軸に \(i_m\), \(-i_m\) といった電流の値を書き込むと、振動の様子がよく分かります。
結論と吟味

(模範解答の図を参照し、横軸を時間 \(t\)、縦軸を電流 \(i\) とし、原点 \((0,0)\) を通り、時刻 \(t=\frac{\pi}{2}\sqrt{LC}\) で最大値 \(i_m\) をとり、時刻 \(t=\pi\sqrt{LC}\) で \(i=0\) となり、時刻 \(t=\frac{3\pi}{2}\sqrt{LC}\) で最小値 \(-i_m\) をとり、時刻 \(t=2\pi\sqrt{LC}\) で \(i=0\) となる、周期 \(2\pi\sqrt{LC}\) の正弦曲線を描く)。このグラフは、LC振動の基本的な電流変化を示しています。

解答 (2)(イ) (模範解答の図を参照し、原点から始まり正弦的に増加する、振幅 \(i_m\)、周期 \(2\pi\sqrt{LC}\) のグラフを描く)

問2 (ウ)

思考の道筋とポイント

S₂を閉じた直後のコンデンサーの極板Bの電荷は負です。これが時間とともに変化し、正で最大になるまでの時間を求めます。LC振動における電荷の時間変化を考え、その周期性を利用します。

この設問における重要なポイント

  • S₂を閉じた直後 (\(t’=0\)): 上極板Aが \(+CV\), 下極板Bが \(-CV\)。
  • LC振動におけるコンデンサーの電荷は \(q_A(t’) = CV \cos(\omega_0 t’)\) のように変化する(上極板Aの電荷とした場合)。
  • 下極板Bの電荷 \(q_B(t’) = -q_A(t’) = -CV \cos(\omega_0 t’)\)。
  • \(q_B(t’)\) が正で最大 (\(+CV\)) となる条件を求める。
  • これはLC振動の半周期に相当する。

具体的な解説と立式

S₂を閉じた時刻を \(t’=0\) とします。このとき、コンデンサーの上側極板Aの電荷は \(q_A(0) = +CV\)、下側極板Bの電荷は \(q_B(0) = -CV\) です。
LC回路の電気振動において、コンデンサーの上側極板Aの電荷 \(q_A(t’)\) は、\(t’=0\) で \(+CV\) であり、電流 \(i(t’) = i_m \sin(\omega_0 t’)\) との関係 \(i(t’) = -\frac{dq_A}{dt’}\) を満たすように変化します(電流がAから流れ出すとAの電荷は減少するため)。この条件を満たす電荷の時間変化は、
$$q_A(t’) = CV \cos(\omega_0 t’) \quad \cdots ⑪$$
と表されます。ここで \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\) です。
コンデンサーの下側極板Bの電荷 \(q_B(t’)\) は、上側極板Aの電荷と常に符号が逆で大きさが等しくなります(コンデンサー全体では電荷を持たないため)。
$$q_B(t’) = -q_A(t’) = -CV \cos(\omega_0 t’) \quad \cdots ⑫$$
問題では、下側極板Bの電荷が「正で最大」となるまでの時間を求めています。\(q_B(t’)\) がとりうる正の最大値は \(+CV\) です(これは、初めに上側極板Aが持っていた電荷が完全に下側極板Bに移動し、極性が反転した状態です)。
したがって、\(q_B(t’) = +CV\) となる時刻 \(t’\) を見つければよいことになります。式⑫より、
$$-CV \cos(\omega_0 t’) = +CV$$
$$\cos(\omega_0 t’) = -1 \quad \cdots ⑬$$
この式を満たす最も小さい正の \(\omega_0 t’\) の値は \(\pi\) です(\(\cos\pi = -1\))。
$$\omega_0 t’ = \pi$$
よって、求める時間 \(t’\) は、
$$t’ = \displaystyle\frac{\pi}{\omega_0} \quad \cdots ⑭$$

使用した物理公式

  • LC振動における電荷の時間変化: \(q(t’) = Q_{\text{最大}} \cos(\omega_0 t’ + \text{初期位相})\)
  • 固有角振動数: \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)
  • LC振動の周期: \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)
計算過程

式⑭に、LC回路の固有角振動数 \(\omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) を代入します。
$$t’ = \displaystyle\frac{\pi}{1/\sqrt{LC}} = \pi\sqrt{LC}$$
これは、LC振動の周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\) のちょうど半分 (\(T_0/2\)) です。

計算方法の平易な説明

LC振動では、コンデンサーの電気がプラスとマイナスの間を行ったり来たりします。

  1. スタート時 (\(t’=0\)):下側極板Bはマイナスの電気で最大(\(-CV\))。
  2. 時間が経つと:Bのマイナスの電気が減っていき、やがて0になり、次にプラスの電気がたまり始めます。
  3. Bの電気がプラスで最大 (\(+CV\)) になるのは、ちょうど振動の半分の時間が経過したときです。
  4. 振動が1周する時間(周期)は \(2\pi\sqrt{LC}\) なので、その半分の時間は \(\pi\sqrt{LC}\) となります。

これは、ブランコが一番低いところから反対側の一番高いところまで行くのに、1往復の半分の時間がかかるのと同じようなイメージです。

結論と吟味

S₂を閉じてから、コンデンサーの下側極板Bの電荷が正で最大となるまでにかかる時間は \(\pi\sqrt{LC}\) です。これはLC振動の半周期に相当し、コンデンサーの電荷の極性が完全に反転するのに要する時間です。初期状態でB極板は負に最大帯電しており、半周期後に正に最大帯電するという変化は、電気振動の基本的な性質と一致しています。

解答 (2)(ウ) \(\pi\sqrt{LC}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • コンデンサーの過渡現象 (RC回路):
    • スイッチ投入直後のコンデンサーは電荷ゼロで電圧ゼロ(導線扱い)。これにより初期電流が決まる。
    • 十分時間経過後のコンデンサー(直流において)は充電完了し電流ゼロ(断線扱い)。このときのコンデンサーの電圧は電源電圧に等しくなる(他の抵抗が直列にない場合)。
    • 充電途中の電圧・電流の関係はキルヒホッフの第2法則 \(V = RI + q/C\) で記述される。
  • LC電気振動:
    • 抵抗がないLC回路では、エネルギー保存則(\(\frac{1}{2}\frac{q^2}{C} + \frac{1}{2}Li^2 = \text{一定}\))が成り立つ。
    • 電荷 \(q\) と電流 \(i\) は、固有角振動数 \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)(周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\))で単振動する。
    • 電荷が最大のとき電流はゼロ、電流が最大のとき電荷はゼロというように、エネルギーが静電エネルギーと磁気エネルギーの間で移り変わる。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用パターン:
    • RLC回路の過渡現象(特に減衰振動)。スイッチ操作により振動が開始/停止/変化する問題。
    • 複数のスイッチがあり、操作の順番によって回路構成が変わる問題。各段階での定常状態や過渡状態を正しく把握する必要がある。
    • LC振動の初期条件が異なる場合(例えば、S₂を閉じたときにコイルにも初期電流が流れている、コンデンサーの初期電荷が異なるなど)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. スイッチ操作のシーケンスの確認: 問題文を丁寧に読み、スイッチがどの順番で、どのタイミング(「直後」「十分時間後」など)で操作されるかを正確に把握する。
    2. 各状態でのコンデンサーとコイルの振る舞い:
      • コンデンサー: 直流で十分時間経てば開放。交流や過渡現象では \(q=CV_C\)。スイッチ投入直後は \(V_C=0\)。
      • コイル: 直流で十分時間経てば短絡(ただの導線、\(V_L=0\))。急な電流変化を嫌う(電流の連続性)。スイッチ投入直後は開放(電流を流さない)と見なせる場合もある(自己誘導)。
    3. エネルギー保存則の適用条件: 回路に抵抗成分が含まれず、エネルギーの散逸がない場合にLC振動の解析に有効。
    4. 初期条件の特定: 電気振動の問題では、振動が始まる瞬間(\(t=0\) と設定する点)のコンデンサーの電荷 \(q_0\) とコイルを流れる電流 \(i_0\) を正確に求めることが、その後の振動の式(振幅や位相)を決定する上で最も重要。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 「スイッチON直後」のコンデンサー/コイルの扱い:
    • コンデンサー:電荷が0なので電圧も0。短絡(導線)とみなす。電流は流れる。
    • コイル:電流が0から急に変化できないため、もし初期電流が0なら直後も0。電流を流さない開放状態と見なせる場合が多い(特に自己インダクタンスが大きい場合)。ただし、電圧は発生しうる(\(V_L = L di/dt\))。
    • 対策:それぞれの素子の \(V-I\) 特性や \(q-V\), \(\Phi-I\) 特性を基本に立ち返って考える。
  • 「十分時間経過後」(直流定常状態)の扱い:
    • コンデンサー:充電完了し電流は流れない。開放(断線)とみなす。
    • コイル:電流変化がなくなり自己誘導起電力ゼロ。短絡(導線)とみなす。
    • 対策:定常状態では時間変化 \(d/dt\) が0になることを意識する。
  • LC振動の初期位相の決定ミス:
    • \(q(t)\) や \(i(t)\) を \(\sin\) や \(\cos\) で表す際、\(t=0\) の値だけでなく、その変化の向き(微分係数の符号)も考慮しないと位相が一意に決まらないことがある。
    • 対策:(2)(イ)の解説のように、\(i(0)=0\) から \(\sin \alpha = 0\) を導き、さらに \(di/dt > 0\) から \(\cos \alpha > 0\) を導いて \(\alpha=0\) を特定する、といった丁寧な吟味を行う。
  • 電荷の符号と電流の向きの混乱:
    • コンデンサーのどちらの極板の電荷を \(q\) としているか、電流のどの向きを正としているかで、\(i=dq/dt\) なのか \(i=-dq/dt\) なのかが変わる。これが振動の式の符号や位相に影響する。
    • 対策:問題文の定義((2)(イ)の但し書きなど)をしっかり確認し、自分で図に正の向きを書き込んで統一的に扱う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • (1) RC回路の充電: 空のバケツ(コンデンサー)に徐々に水が溜まっていくイメージ。初めは勢いよく水が入る(電流大)が、水面が上がる(電圧上昇)と勢いが弱まり(電流小)、満水で止まる(電流0)。
    • (2) LC電気振動: コンデンサー(電気エネルギーを蓄えるタンク)とコイル(磁気エネルギーを蓄えるフライホイールや慣性を持つ水車)が繋がれたシステム。タンクの水位(電圧・電荷)が下がると水流(電流)が生じ、水車を回す。水車が勢いよく回っているとき(電流最大)はタンクが空(電荷ゼロ)。やがて水車の勢いで逆向きに水がタンクに押し戻され(逆充電)、これを繰り返す。
  • 図示の有効性:
    • 回路図に、各瞬間の電流の向きやコンデンサーの極板の電荷の符号を書き込むと、状況把握に役立つ。
    • (2)(イ)の電流 \(i\) の時間変化のグラフは、LC振動の周期性、振幅、初期位相を視覚的に理解するために必須。同様にコンデンサーの電荷 \(q\) の時間変化のグラフも描けると、両者の位相関係(\(i\) と \(q\) は\(\pi/2\)ずれる)が一層明確になる。
  • 図を描く際の注意点(特に振動グラフ):
    • 横軸(時間 \(t\))と縦軸(電流 \(i\) や電荷 \(q\))を明記する。
    • 原点(\(t=0\))での値と、その点での傾き(増加するか減少するか、または極値か)を初期条件から正しく反映させる。
    • 振幅(最大値・最小値)と周期(1サイクルにかかる時間)がグラフから読み取れるように、目盛りや特徴的な点の座標(例:\(t=T_0/4, T_0/2, \dots\))を記入する。
    • 正弦波か余弦波か、位相のずれはどうかを意識して滑らかなカーブを描く。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの第2法則(電圧則): 閉回路を一周すると電位が元に戻るという、電位の保存的性質の現れ。回路方程式の基本。
  • オームの法則 (\(V_R=RI\)) とコンデンサーの式 (\(q=CV_C\)): これらは各素子の電気的特性を定義する構成方程式。これらとキルヒホッフの法則を組み合わせることで、回路の状態を記述する方程式が得られる。
  • エネルギー保存則(LC回路 \(\frac{1}{2}\frac{q^2}{C} + \frac{1}{2}Li^2 = \text{一定}\)): 抵抗によるエネルギー散逸がない理想的なLC回路では、電磁場のエネルギーの総和が時間的に変化しないことを示す。これにより、ある瞬間の状態から別の瞬間の状態(特にエネルギーが片方の素子に集中する瞬間)を関係づけることができる。これは、LC回路の微分方程式を積分した結果(エネルギー積分)に相当する。
  • LC振動の周期 (\(T_0=2\pi\sqrt{LC}\)) と角振動数 (\(\omega_0=1/\sqrt{LC}\)): これらはLC回路に固有の振動特性。力学における単振動の周期 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) との類似性(\(L \leftrightarrow m\), \(1/C \leftrightarrow k\))を考えると覚えやすい。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)(ア) S₁ON直後: \(V_C=0\)(\(C\)は短絡)であるため、回路は \(V, R\) のみとなり、その結果 \(I_0 = V/R\)。
  2. (1)(イ) 充電途中(電流 \(I\)): キルヒホッフ則 \(V = RI + V_C\) より \(V_C = V-RI\)。\(q=CV_C\) に代入すると \(q = C(V-RI)\)。
  3. (1)(ウ) S₁ON十分後: \(I=0\)(\(C\)は開放)となるので \(V_R=0\)。キルヒホッフ則より \(V_C=V\)。その結果 \(Q=CV\)。
  4. (2) S₁OFF, S₂ON(LC振動開始):
    • 初期条件(\(t’=0\)):\(q(0)=Q=CV\)(A極板), \(i(0)=0\)。
    • (ア) \(i_m\) の計算:エネルギー保存則 \(\frac{1}{2C}Q^2 + \frac{1}{2}L(0)^2 = \frac{1}{2C}(0)^2 + \frac{1}{2}Li_m^2\) より、\(\frac{1}{C}(CV)^2 = Li_m^2\) となり、\(CV^2 = Li_m^2\)。ゆえに \(i_m = V\sqrt{C/L}\)。
    • (イ) \(i(t’)\) のグラフ:\(i(0)=0\) で、AからBへ(時計回り正)電流が流れ出すので \(di/dt’ > 0\)。よって \(i(t’) = i_m \sin(\omega_0 t’)\), \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)。周期 \(T_0=2\pi\sqrt{LC}\)。
    • (ウ) B極板電荷が正で最大: 上A極板電荷 \(q_A(t’) = CV\cos(\omega_0 t’)\)。下B極板電荷 \(q_B(t’) = -CV\cos(\omega_0 t’)\)。これが \(+CV\) になるのは \(\cos(\omega_0 t’) = -1\) のとき。最小の正の解は \(\omega_0 t’ = \pi\)。よって \(t’ = \pi/\omega_0 = \pi\sqrt{LC}\)(半周期)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • スイッチ操作の区切りを明確に: 各操作によって回路の「初期状態」が変わることを意識する。(1)の最終状態が(2)の初期状態になる。
  • 文字の定義を正確に: \(q\) がどの極板の電荷か、\(I_0\) と \(i_m\) は何の電流の最大値かなどを混同しない。
  • エネルギーの形態変換の理解: LC振動では、静電エネルギー \(\leftrightarrow\) 磁気エネルギーの変換。最大値と0の間を振動。
  • 平方根と二乗の計算: エネルギーの式や \(i_m\) の計算でルートや二乗を間違えない。
  • 周期と角振動数の関係: \(T = 2\pi/\omega\) または \(\omega = 2\pi/T\)。\(\sqrt{LC}\) がどちらに関わるか(\(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\), \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\))を正確に。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • (1)の各段階の物理的意味:
    • (ア) \(I_0=V/R\):コンデンサが空なら抵抗のみで電流が決まる。
    • (イ) \(q=C(V-RI)\):電流が減るほど \(V-RI\) は \(V\) に近づき、\(q\) は \(CV\) に近づく。
    • (ウ) \(Q=CV\):最終的にコンデンサは電源電圧まで充電される。
  • (2)LC振動の特性:
    • \(i_m = V\sqrt{C/L}\):\(C\) が大きいほど初期エネルギー大であり、\(i_m\) は大きくなる。\(L\) が大きいほど電流が流れにくく、\(i_m\) は小さくなる。これは直感と合う。
    • (イ)グラフ:\(t’=0\) で \(i=0\)。\(q=CV\) から放電するので電流は増加する。1周期後には元の \(i=0\) に戻る。
    • (ウ) \(\pi\sqrt{LC}\):半周期で電荷の極性が反転する。これは振動現象として自然。
  • 単位の確認: \(Q\) はクーロン[C]、\(I\) はアンペア[A]、\(t\) は秒[s]など、基本的な単位があっているか。

問題138 (自治医科大+山形大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、スイッチ操作によってRLC回路の接続状態が変化し、それに伴う過渡現象や電気振動を扱う問題です。スイッチを閉じた直後や十分時間が経過した後のコイルとコンデンサーの振る舞い、そしてスイッチを開いた後に生じるLC電気振動の性質を理解しているかが問われます。

与えられた条件
  • 電気容量 \(C\) のコンデンサー、自己インダクタンス \(L\) のコイル、抵抗値 \(R\) の抵抗、起電力 \(V\) の電池が図のように接続されている。
  • 初めスイッチSは開いている。
  • \(R\) 以外の抵抗はないものとする。
問われていること
  1. (1) Sを閉じた直後に電池を流れる電流 \(I_0\)。
  2. (2) Sを閉じてから十分に時間がたったとき、コイルを流れる電流 \(I_L\)。また、このときのコンデンサーの電気量。
  3. (3) 次にSを開いた。コイルを流れる電流が最初に0になるまでの時間。
  4. (4) その後のコンデンサーの電位差の最大値 \(V_m\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で基本となるのは、直流回路におけるコイルとコンデンサーの過渡的な振る舞いと定常状態での振る舞い、そしてLC回路における電気振動とエネルギー保存則です。

  • スイッチ操作直後のコイルとコンデンサー:
    • コイル: 直前に電流が流れていなければ、急な電流変化を妨げるため、電流を流さない「開放」状態に近い。
    • コンデンサー: 直前に電荷が蓄えられていなければ、電圧は0で、電流を妨げない「短絡」状態に近い。
  • 直流定常状態でのコイルとコンデンサー:
    • コイル: 電流の時間変化がなくなると誘導起電力は0となり、抵抗のない導線(短絡)として振る舞う。
    • コンデンサー: 充電が完了すると電流を流さなくなり、「開放」状態となる。
  • LC電気振動:
    • コイルの磁気エネルギーとコンデンサーの静電エネルギーが互いに変換し合いながら振動する。
    • 回路に抵抗がなければ、全電磁エネルギーは保存される。
    • 固有角振動数は \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)、周期は \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)。

問1

思考の道筋とポイント

スイッチSを閉じた「直後」の回路の状態を考えます。コイルとコンデンサーがこの瞬間にどのように振る舞うかが鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • スイッチを閉じた直後、コイルは電流の変化を妨げるため電流を通さない(開放状態と見なせる)。
  • スイッチを閉じた直後、コンデンサーは電荷を蓄えていないため電圧が0(短絡状態と見なせる)。
  • これらの条件から、電流が流れる経路を特定する。

具体的な解説と立式

スイッチSを閉じた直後の瞬間を考えます。

  • コイル \(L\) の振る舞い:スイッチを閉じる前は電流が0でした。コイルは電流の急激な変化を妨げる性質(自己誘導)があるため、閉じた直後もコイル部分には電流が流れないと考えられます。つまり、コイルは「開放(断線)」していると見なせます。
  • コンデンサー \(C\) の振る舞い:スイッチを閉じる前は電荷が蓄えられていません。したがって、閉じた直後のコンデンサーの電気量は0であり、その両端の電位差も \(V_C = q/C = 0/C = 0\) となります。これはコンデンサーが「短絡(導線)」状態であると見なせることを意味します。

これらのことから、スイッチSを閉じた直後、電流は電池Vから抵抗Rを通り、短絡状態のコンデンサーCを通って戻る経路を流れます。コイルLの経路には電流は流れません。
したがって、回路全体としては電池Vに抵抗Rのみが接続されているのと同じ状況になります(コンデンサー部分は電圧降下がないため)。
よって、電池を流れる電流 \(I_0\) はオームの法則より、
$$I_0 = \displaystyle\frac{V}{R} \quad \cdots ①$$
と求められます。

使用した物理公式

  • コイルのスイッチオン直後の性質(電流変化を妨げる)
  • コンデンサーのスイッチオン直後の性質(電荷ゼロなら電圧ゼロ)
  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

式①がそのまま解答となります。

計算方法の平易な説明

スイッチを入れた瞬間を考えます。

  1. コイルは、急に電流が流れ出すのを嫌うので、最初は電流を通しません。道が切れているようなものです。
  2. コンデンサーは、まだ電気がたまっていないので、電圧がかかっていません。ただの電線のようなものです。
  3. なので、電池から出た電流は、抵抗\(R\)を通って、コイルの道は避けてコンデンサーの道を通ります。
  4. コンデンサーはただの電線と同じなので、実質的には電池に抵抗\(R\)だけがつながっているのと同じです。
  5. したがって、オームの法則から電流は \(I_0 = V/R\) となります。
結論と吟味

Sを閉じた直後に電池を流れる電流 \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{V}{R}\) です。これは、コイルの電流しゃ断効果とコンデンサーの短絡効果により、電流が抵抗Rとコンデンサーの経路を選択するためです。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{V}{R}\)

問2

思考の道筋とポイント

スイッチSを閉じてから「十分に時間がたった」とき、回路は直流定常状態に達します。このときのコイルとコンデンサーの振る舞いを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 直流定常状態では、コイルは抵抗のない導線(短絡状態)とみなせる。
  • 直流定常状態では、コンデンサーは充電が完了し電流を通さない(開放状態)とみなせる。
  • これらの条件から、電流が流れる経路と各部の電圧、電気量を特定する。

具体的な解説と立式

スイッチSを閉じてから十分に時間が経過すると、回路は直流定常状態になります。

  • コイル \(L\) の振る舞い:直流電流に対して、コイルのインダクタンスによる電圧降下(自己誘導起電力 \(L\frac{di}{dt}\))は、電流が一定なので \(di/dt=0\) となり、0になります。したがって、コイルは抵抗が0の単なる導線(短絡状態)として振る舞います。
  • コンデンサー \(C\) の振る舞い:直流電流に対して、コンデンサーは最終的に充電が完了し、それ以上電流を流さなくなります。したがって、コンデンサー部分は「開放(断線)」状態として振る舞います。

この状態では、電流は電池Vから抵抗Rを通り、短絡状態のコイルLを通って戻る経路を流れます。コンデンサーCの経路には電流は流れません。
したがって、コイルを流れる電流 \(I_L\) は、この閉回路にオームの法則を適用して(コイルの抵抗は0)、
$$I_L = \displaystyle\frac{V}{R} \quad \cdots ②$$
と求められます。
次に、コンデンサーの電気量を考えます。十分時間が経過したとき、コイルLは抵抗ゼロの導線として振る舞っています。回路図を見ると、コンデンサーCはコイルLと並列に接続されています。抵抗ゼロの導線(コイルL)の両端の電位差は0です。並列接続なので、コンデンサーCの両端の電位差 \(V_C\) も0になります。
$$V_C = 0 \quad \cdots ③$$したがって、コンデンサーに蓄えられる電気量 \(q\) は、\(q = CV_C\) より、$$q = C \cdot 0 = 0 \quad \cdots ④$$
となります。

使用した物理公式

  • コイルの直流定常状態での性質(短絡)
  • コンデンサーの直流定常状態での性質(開放)
  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • コンデンサーの基本式: \(q = CV_C\)
計算過程

コイルを流れる電流 \(I_L\) は式②より \(\displaystyle\frac{V}{R}\) です。
コンデンサーの電気量 \(q\) は式④より \(0\) です。

計算方法の平易な説明

スイッチを入れてから長い時間がたつと、回路は落ち着きます。

  1. コイルは、電流が一定になるとただの電線と同じになります(抵抗ゼロ)。
  2. コンデンサーは、電気でいっぱいになると(またはこの回路では電圧がかからなくなり)、電流を通さなくなります(道が切れたのと同じ)。
  3. なので、電流は電池から出て、抵抗\(R\)を通り、電線になったコイルを通って電池に戻ります。コンデンサーの道は通れません。このときの電流 \(I_L\) は \(V/R\) です。
  4. コンデンサーですが、コイルがただの電線になっているため、コイルの両端の電圧は0です。コンデンサーはコイルと並列につながっているので、コンデンサーの電圧も0になります。電圧が0なので、コンデンサーにたまる電気も0です。
結論と吟味

Sを閉じてから十分に時間がたったとき、コイルを流れる電流 \(I_L\) は \(\displaystyle\frac{V}{R}\) であり、このときのコンデンサーの電気量は \(0\) です。コンデンサーに電荷が蓄えられないのは、コイルが短絡導線となり、結果的にコンデンサーの両端の電位差が0になるためです。

解答 (2) \(I_L = \displaystyle\frac{V}{R}\), 電気量: \(0\)

問3

思考の道筋とポイント

スイッチSを開く直前の状態(問2の結果)が、Sを開いた後のLC回路の初期条件となります。LC回路では電気振動が始まります。コイルの電流が最初に0になるまでの時間を、LC振動の周期を元に考えます。

この設問における重要なポイント

  • Sを開くとLC回路が形成される。
  • 初期条件: Sを開いた瞬間(\(t”=0\) とする)のコイルの電流 \(i(0) = I_L = V/R\)、コンデンサーの電荷 \(q(0) = 0\)。
  • LC振動の電流は \(i(t”) = I_L \cos(\omega_0 t”)\) の形で変化する。
  • 電流が0になるのは、振動の1/4周期後。
  • LC回路の固有角振動数 \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)、周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\)。

具体的な解説と立式

スイッチSを開く直前、コイルLには電流 \(I_L = V/R\) が流れており(例えば図の上から下向き)、コンデンサーCの電気量は0です。
スイッチSを開くと、電池Vと抵抗Rの部分が回路から切り離され、コイルLとコンデンサーCのみからなる閉回路(LC回路)が形成されます。このLC回路で電気振動が始まります。
Sを開いた瞬間を新たな時刻の基準 \(t”=0\) とします。このときの初期条件は、

  • コイルを流れる電流: \(i(0) = I_L = V/R\)。
  • コンデンサーの電気量: \(q(0) = 0\)。

初期状態でコンデンサーの電荷が0で、コイルに電流 \(I_L\) が流れているため、この電流によってコンデンサーの充電が始まります。コイルの電流はコンデンサーに流れ込み、徐々に減少していきます。
LC回路における電流 \(i(t”)\) の時間変化は、初期電流が \(I_L\) で、初期電荷が0であることから、
$$i(t”) = I_L \cos(\omega_0 t”) \quad \cdots ⑤$$
と表すことができます。ここで、\(\omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) はLC回路の固有角振動数です。この式は、\(t”=0\) で \(i(0)=I_L \cos(0) = I_L\) を満たし、また、このとき電荷が0から充電され始める(電流が最大値から減少し始める)という状況と整合します。
コイルを流れる電流 \(i(t”)\) が最初に0になるのは、\(\cos(\omega_0 t”) = 0\) となるときです。これを満たす最も小さい正の \(\omega_0 t”\) は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。
$$\omega_0 t” = \displaystyle\frac{\pi}{2}$$したがって、求める時間 \(t”\) は、$$t” = \displaystyle\frac{\pi}{2\omega_0} \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • LC回路の固有角振動数: \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)
  • LC振動における電流の時間変化(初期条件を考慮)
計算過程

式⑥に固有角振動数 \(\omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) を代入します。
$$t” = \displaystyle\frac{\pi}{2(1/\sqrt{LC})} = \displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{LC}$$
これはLC振動の周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) (4分の1周期) にあたります。

計算方法の平易な説明

スイッチSを開くと、コイルとコンデンサーだけの世界で電気の振動が始まります。

  1. スタート時:コイルには \(I_L\) の電流が流れていて、コンデンサーは空っぽです。
  2. コイルを流れる電流がだんだんコンデンサーに電気を送り込みます。
  3. コイルの電流が0になったとき、コンデンサーの電気はマックスにたまります。
  4. この「電流マックス」から「電流ゼロ(電気マックス)」までの変化は、電気の振動1サイクルのうちのちょうど4分の1の時間で起こります。
  5. 電気の振動が1周する時間(周期)は \(2\pi\sqrt{LC}\) なので、その4分の1の時間は \(\frac{\pi}{2}\sqrt{LC}\) となります。
結論と吟味

Sを開いた後、コイルを流れる電流が最初に0になるまでの時間は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{LC}\) です。これはLC振動の1/4周期であり、コイルに蓄えられていた磁気エネルギーがすべてコンデンサーの静電エネルギーに変換されるまでの時間に相当します。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{LC}\)

問4

思考の道筋とポイント

LC回路の電気振動において、エネルギーは保存されます。Sを開いた直後のコイルの磁気エネルギーが、その後コンデンサーの静電エネルギーに変換されます。コンデンサーの電位差が最大になるとき、そのエネルギーも最大となり、それは初期のコイルのエネルギーに等しくなります。

この設問における重要なポイント

  • LC回路におけるエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}Li^2 + \frac{1}{2}CV_C^2 = \text{一定}\)。
  • Sを開いた直後の全エネルギー(コイルの磁気エネルギー)を計算する。
  • コンデンサーの電位差が最大 (\(V_m\)) のとき、電流は0になり、エネルギーはすべてコンデンサーの静電エネルギーになる。

具体的な解説と立式

スイッチSを開いた後のLC回路では、抵抗がないため、電気的エネルギーは保存されます。
Sを開いた直後(\(t”=0\))の初期状態を考えます。

  • コイルには電流 \(I_L = V/R\) が流れているので、コイルの磁気エネルギー \(U_{L\text{初期}}\) は、
    $$U_{L\text{初期}} = \frac{1}{2}LI_L^2 = \frac{1}{2}L\left(\frac{V}{R}\right)^2 \quad \cdots ⑦$$
  • コンデンサーには電荷が蓄えられていないので、コンデンサーの静電エネルギー \(U_{C\text{初期}}\) は、
    $$U_{C\text{初期}} = 0 \quad \cdots ⑧$$

したがって、LC回路の全エネルギー \(E_{\text{全}}\) は、
$$E_{\text{全}} = U_{L\text{初期}} + U_{C\text{初期}} = \frac{1}{2}L\left(\frac{V}{R}\right)^2 \quad \cdots ⑨$$
このエネルギーが振動中に保存されます。
その後、コンデンサーの電位差が最大値 \(V_m\) に達したときを考えます。このとき、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーは最大となり、
$$U_{C\text{最大}} = \frac{1}{2}CV_m^2 \quad \cdots ⑩$$エネルギーがコンデンサーに最大限蓄えられた瞬間、コイルを流れる電流は一時的に0になります。したがって、コイルの磁気エネルギーは、$$U_{L\text{電流ゼロ時}} = 0 \quad \cdots ⑪$$エネルギー保存則により、初期の全エネルギーとコンデンサーの電位差が最大のときの全エネルギーは等しいので、$$E_{\text{全}} = U_{C\text{最大}} + U_{L\text{電流ゼロ時}}$$式⑨、⑩、⑪を代入すると、$$\frac{1}{2}L\left(\frac{V}{R}\right)^2 = \frac{1}{2}CV_m^2 + 0 \quad \cdots ⑫$$
この式から \(V_m\) を求めます。

使用した物理公式

  • コイルの磁気エネルギー: \(U_L = \frac{1}{2}Li^2\)
  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U_C = \frac{1}{2}CV^2\)
  • LC回路におけるエネルギー保存則
計算過程

式⑫の両辺から \(\frac{1}{2}\) を消去します。
$$L\left(\frac{V}{R}\right)^2 = CV_m^2$$\(V_m^2\) について解くと、$$V_m^2 = \frac{L}{C}\left(\frac{V}{R}\right)^2$$\(V_m\) は電位差の大きさ(最大値)なので正の値をとります。両辺の正の平方根をとると(\(V, R, L, C\) はすべて正)、$$V_m = \sqrt{\frac{L}{C}\left(\frac{V}{R}\right)^2} = \frac{V}{R}\sqrt{\frac{L}{C}}$$

計算方法の平易な説明

スイッチSを開いた瞬間、コイルには \(I_L = V/R\) の電流が流れていて、これがエネルギー \(\frac{1}{2}LI_L^2\) を持っています。コンデンサーは空っぽです。
電気が振動し始めると、コイルのエネルギーがコンデンサーに移っていきます。
コンデンサーの電圧が最大 \(V_m\) になったとき、コンデンサーのエネルギーは \(\frac{1}{2}CV_m^2\) となり、このときコイルの電流は0なのでコイルのエネルギーも0です。
エネルギーはずっと保存されるので、「スタート時のコイルのエネルギー = 電圧最大時のコンデンサーのエネルギー」が成り立ちます。
つまり、\(\frac{1}{2}L I_L^2 = \frac{1}{2}C V_m^2\)。
ここに \(I_L = V/R\) を代入して \(V_m\) を求めればよいのです。

結論と吟味

その後のコンデンサーの電位差の最大値 \(V_m\) は \(\displaystyle\frac{V}{R}\sqrt{\displaystyle\frac{L}{C}}\) です。この値は、元の電池の電圧 \(V\) よりも大きくなることも小さくなることもあり、その比は \(\frac{1}{R}\sqrt{L/C}\) で決まります。これは、LC回路の特性インピーダンス \(\sqrt{L/C}\) と抵抗 \(R\) の比に関連しており、共振現象における電圧や電流の拡大(または縮小)効果の一端を示唆しています。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{V}{R}\sqrt{\displaystyle\frac{L}{C}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 過渡現象におけるコイルとコンデンサーの振る舞い:
    • スイッチ投入直後(変化の始まり):コイルは電流の変化を妨げようとし(電流を維持しようとする、または0からなら電流を通さない)、コンデンサーは電荷がなければ電圧0(電流を妨げない)。
    • 直流定常状態(変化の終わり):コイルは電流変化がないのでただの導線(電圧0)、コンデンサーは充電完了で電流を通さない(電圧は回路構成による)。
  • キルヒホッフの電圧則: 回路のどのループについても電位差の代数和は0。回路方程式の基本。
  • LC電気振動とエネルギー保存:
    • 抵抗がないLC回路では、コイルの磁気エネルギー \(\frac{1}{2}Li^2\) とコンデンサーの静電エネルギー \(\frac{1}{2}\frac{q^2}{C}\)(または \(\frac{1}{2}CV_C^2\))の合計は常に一定。
    • このエネルギーのやり取りによって、電荷や電流が周期的に変動する(固有角振動数 \(\omega_0 = 1/\sqrt{LC}\)、周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{LC}\))。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用パターン:
    • RLC回路でのスイッチ操作:減衰振動や、スイッチ切り替えによる振動モードの変化など。
    • 複数のスイッチや複雑な接続を持つ回路での過渡応答や定常状態の解析。
    • 電気振動の初期条件が異なる場合(例:コンデンサーに初期電荷があり、コイルにも初期電流がある状態からの振動)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. スイッチ操作の正確な把握: 操作の「前」「直後」「十分時間後」の各段階で、回路がどのようになっているか、何が変化し何が連続かを明確にする。
    2. LとCの「性格」の理解: コイルは電流の「現状維持」を好み、コンデンサーは電圧の「現状維持」(電荷量に比例)を好む。急な変化に対してどう応答するか。
    3. エネルギーの流れの追跡: エネルギーはどこから来てどこへ行くのか。保存されるのか、散逸するのか。LC回路では保存されることが鍵。
    4. 初期条件の設定: 特に振動現象を扱う場合、振動が始まる瞬間の状態(電荷、電流など)を正確に設定することが、その後の挙動を記述する上で極めて重要。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • コイル・コンデンサーの過渡応答の混同:
    • 「スイッチON直後、コイルは開放、コンデンサは短絡」と「十分時間後(直流定常)、コイルは短絡、コンデンサは開放」を逆に覚えてしまう。
    • 対策:「コイルは電流を保ちたがり、コンデンサは電荷を溜めたがる」という基本性質から、それぞれの極限状態を論理的に導く練習をする。
  • LC振動の初期条件の誤り:
    • Sを開いた瞬間のコイルの電流やコンデンサーの電荷を、その前の状態から正しく引き継げていない。
    • 対策:スイッチ操作の直前と直後で、コイルの電流とコンデンサーの電荷(電圧)は連続的に変化する(急にジャンプしない)ことを原則として考える。
  • エネルギー保存則の適用範囲:
    • 回路に抵抗Rが含まれている部分でLC振動と同じようにエネルギー保存則を適用してしまう。
    • 対策:エネルギー保存則が使えるのは、エネルギーの散逸がない理想的なLC部分のみ。抵抗があればジュール熱としてエネルギーは失われる。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の極意

  • 現象のイメージ化:
    • (1) スイッチON直後: コイルが「重い扉」でコンデンサーが「素通りの通路」。電流は抵抗を通って通路へ。
    • (2) 十分時間後: コイルが「完全に開いた扉(抵抗なし)」でコンデンサーが「行き止まりの道」。電流は抵抗と開いた扉を通り、行き止まりには行かない。
    • (3)(4) LC振動: 水槽(コンデンサー)とポンプ付き水車(コイル)を繋いだ水路。水槽の水位(電荷・電圧)と水流(電流)・水車の回転(磁気エネルギー)が交互に変化する。
  • 図示の有効性:
    • 各段階(スイッチON直後、十分時間後、Sを開いた後)での等価回路図を描くことで、電流の流れ方や電圧のかかり方が視覚的に理解しやすくなる。
    • LC振動における電荷 \(q(t)\) と電流 \(i(t)\) の時間変化のグラフを併せて描くことで、両者の位相のずれ(\(\pi/2\))や、エネルギーが最大になるタイミングなどが明確になる。
  • 図を描く際の注意点:
    • 等価回路では、開放部分は断線、短絡部分は導線として明確に描く。
    • 振動グラフでは、横軸(時間)、縦軸(電荷や電流)、振幅、周期、初期値(\(t=0\)での値と傾き)を正しく示す。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • コイルの電圧 \(V_L = L \frac{di}{dt}\) とコンデンサーの電流 \(i_C = C \frac{dV_C}{dt}\): これらはコイルとコンデンサーの基本的な電気的特性(電磁誘導と電荷蓄積能力)を微分形で表したもの。過渡現象の解析ではこれらの関係が本質的。
    • スイッチON直後:\(di/dt\) や \(dV_C/dt\) が有限なら、\(L\) があれば \(V_L\) が発生し電流を抑え、\(C\) があれば \(i_C\) が流れて \(V_C\) が変化し始める。
    • 定常状態:\(di/dt=0, dV_C/dt=0\) (電流 \(i_C=0\))。
  • エネルギーの式 \(\frac{1}{2}Li^2\), \(\frac{1}{2}CV_C^2\): コイルやコンデンサーがエネルギーを蓄える能力を定量化したもの。LC振動ではこれらの和が保存されることが、運動方程式(または回路方程式)を解く代わりに現象を捉える強力な手段となる。
  • LC振動の周期 \(T_0=2\pi\sqrt{LC}\): LC回路の微分方程式 \(L\frac{d^2q}{dt^2} + \frac{1}{C}q = 0\) から導かれる、電荷 \(q\) (または電流 \(i\))の単振動の周期。これは力学の \(m\frac{d^2x}{dt^2} + kx = 0\) と同じ形。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) スイッチS ON 直後:
    1. コイルLは開放(電流 \(I_L=0\))、コンデンサーCは短絡(電圧 \(V_C=0\))と判断。
    2. 電流はRとCの経路に流れる。Cは電圧0なので、全電圧VがRにかかる。
    3. オームの法則から \(I_0 = V/R\)。
  2. (2) スイッチS ON 十分時間後(直流定常状態):
    1. コイルLは短絡(電圧 \(V_L=0\))、コンデンサーCは開放(電流 \(I_C=0\))と判断。
    2. 電流はRとLの経路に流れる。Cには流れない。
    3. RとLの直列回路と見なせるので(Lの抵抗は0)、\(I_L = V/R\)。
    4. CはLと並列。Lの電圧が0なので、\(V_C=0\)。よってコンデンサーの電気量 \(q=CV_C=0\)。
  3. (3) スイッチS OFF後(LC振動開始):
    1. 初期条件:\(t”=0\) でコイル電流 \(i(0) = I_L = V/R\)、コンデンサー電荷 \(q(0)=0\)。
    2. LC振動の電流は \(i(t”) = i_m \cos(\omega_0 t” + \phi)\) の形。\(i(0)=I_L\), \(q(0)=0\) から \(i_m=I_L\), \(\phi=0\)。つまり \(i(t”)=I_L\cos(\omega_0 t”)\)。
    3. \(i(t”)=0\) となるのは \(\cos(\omega_0 t”)=0\) のとき。最小の正の解は \(\omega_0 t” = \pi/2\)。
    4. 時間 \(t” = \pi/(2\omega_0) = (\pi/2)\sqrt{LC}\)。
  4. (4) コンデンサーの最大電位差 \(V_m\):
    1. エネルギー保存則を用いる。
    2. 初期エネルギー(S OFF直後):全てコイルのエネルギー \(E_{\text{初期}} = \frac{1}{2}LI_L^2\)。
    3. コンデンサー電圧最大時:全てコンデンサーのエネルギー \(E_{\text{C最大}} = \frac{1}{2}CV_m^2\)。このときコイル電流は0。
    4. \(E_{\text{初期}} = E_{\text{C最大}}\) より \(\frac{1}{2}LI_L^2 = \frac{1}{2}CV_m^2\)。
    5. \(V_m = I_L \sqrt{L/C}\)。\(I_L=V/R\) を代入して \(V_m = (V/R)\sqrt{L/C}\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 各状態でのLとCのモデル化を正確に:「開放」なのか「短絡」なのか、その結果電圧/電流がどうなるのかを間違えない。
  • 初期条件の正確な引き継ぎ: スイッチ操作の直前と直後で、何が保存され(コイルの電流、コンデンサの電荷)、何がリセットされるのかを明確にする。
  • エネルギーの式の確認: \(\frac{1}{2}LI^2\) と \(\frac{1}{2}CV^2\) (または \(\frac{Q^2}{2C}\)) を混同しない。
  • LC振動の周期と角振動数: \(T_0=2\pi\sqrt{LC}\), \(\omega_0=1/\sqrt{LC}\)。これらの関係や、周期の何分の一で特定の状態になるかを正確に。例えば、「電流最大からゼロ」または「電荷ゼロから最大」は \(T_0/4\)。「電荷最大から逆極性の電荷最大」は \(T_0/2\)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • (1)と(2)の電流値の一致: \(I_0 = I_L = V/R\)。これは、(1)ではCが短絡としてRのみで電流が決まり、(2)ではLが短絡としてRのみで電流が決まるため。物理的状況は異なるが、結果的に同じ値になる理由を理解する。
  • (2)のコンデンサー電気量0の理由: コイルが導線となり、コンデンサー両端を短絡する形になるため電圧がかからない。
  • (3)の時間の物理的意味: コイルのエネルギーが全てコンデンサーに移るまでの時間(1/4周期)。
  • (4)の\(V_m\)の値: \(V_m\) が元の電源電圧 \(V\) と異なる値になりうる (\(\frac{1}{R}\sqrt{L/C} \neq 1\) の場合)。これはエネルギーの変換効率やインピーダンスの整合とは異なる、LC振動におけるエネルギーの形態変化の結果。特に \(R\) が小さい場合や \(\sqrt{L/C}\) が大きい場合に \(V_m\) が \(V\) よりかなり大きくなることもあり得る(共振昇圧の原理に近い)。

問題139 (富山大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電場によって加速された電子が、平行極板コンデンサー内の電場を通過し、その後電場のない空間を経て蛍光面に到達するまでの運動を解析するものです。さらに、コンデンサー内に磁場を加えて電子を直進させる条件についても考察します。荷電粒子の運動に関する基本的な法則(エネルギー保存則、運動方程式、ローレンツ力など)の理解と応用が求められます。

与えられた条件
  • 電子:質量 \(m\)[kg]、電荷 \(-e\)[C] (\(e>0\))。
  • 加速:初速度0の電子を電圧 \(V_0\)[V]で加速。
  • 平行極板コンデンサー:極板間隔 \(d\)[m]、極板の長さ \(l\)[m]、極板間電圧 \(V\)[V]。
  • 座標系:電子の入射方向をx軸、極板の左端を原点Oとする。極板はx軸に平行。y軸は極板に垂直(図から判断すると、上の極板がy軸正側、下の極板がy軸負側、またはその逆で、電場がy方向にかかる)。
  • 電場:極板間には一様な電場(電界)が存在する。
  • 蛍光面:x軸に垂直で、\(x=L\)[m]の位置にある。
問われていること
  1. (1) 平行極板間に入射するときの電子の速さ \(v_0\)。
  2. (2) 極板間で電子が受ける力の大きさ。極板の右端 (\(x=l\)) における電子のy座標 \(y_1\)。
  3. (3) 蛍光面に到達したときの電子のy座標 \(y_2\)。
  4. (4) 平行極板間の領域に一様な磁場(磁界)を加え、電子の軌道をx軸からそれないようにするための磁束密度 \(B\) および磁場の向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):荷電粒子が電場からされる仕事と運動エネルギーの変化の関係。
  • 一様な電場:平行極板コンデンサーがつくる電場の強さ \(E=V/d\)。
  • 電場中の荷電粒子の運動:電場から受ける力 \(F=qE\)。この力による加速度運動。
  • 等速直線運動と等加速度直線運動:力が働かない場合や一定の力が働く場合の運動の記述。
  • ローレンツ力:磁場中を運動する荷電粒子が受ける力 \(F=qvB\sin\theta\)。力の向きはフレミングの左手の法則。
  • 力のつりあい:複数の力を受けても運動状態が変化しない(ここでは直進する)ための条件。

問1

思考の道筋とポイント

初速度0の電子が電圧 \(V_0\) で加速される過程を考えます。電場が電子にした仕事が、電子の運動エネルギーに変換されるというエネルギー保存則(または仕事と運動エネルギーの関係)を用います。

この設問における重要なポイント

  • 電子の電荷は \(-e\) であるが、エネルギーの大きさを考える際は \(e (>0)\) を用いる。
  • 電位差 \(V_0\) で加速された荷電粒子が得る運動エネルギーは \(eV_0\)。
  • 運動エネルギーの定義式 \(\frac{1}{2}mv^2\)。

具体的な解説と立式

質量 \(m\)、電荷の大きさ \(e\) の電子が、初速度0から電位差 \(V_0\) によって加速されるとき、電場からされる仕事は \(eV_0\) です。この仕事はすべて電子の運動エネルギーの増加に等しくなります。
加速後の電子の速さを \(v_0\) とすると、その運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\) です。初速度が0なので、運動エネルギーの増加量はそのまま \(\frac{1}{2}mv_0^2\) となります。
したがって、エネルギー保存則(仕事と運動エネルギーの関係)から、次の式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = eV_0 \quad \cdots ①$$
この式を \(v_0\) について解きます。

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー保存則): \(W = \Delta K\)
  • 電場が電荷にする仕事: \(W = qV\) (ここでは \(eV_0\))
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

式①の両辺を \(m\) で割り、2を掛けると、
$$v_0^2 = \frac{2eV_0}{m}$$速さ \(v_0\) は正の値をとるので、平方根をとると、$$v_0 = \sqrt{\frac{2eV_0}{m}}$$

計算方法の平易な説明

電子が電圧 \(V_0\) で加速されるとき、電気的な位置エネルギー \(eV_0\) が運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\) に変わります。「失った位置エネルギー = 得た運動エネルギー」と考えるか、電場からされた仕事が運動エネルギーになったと考え、\(\frac{1}{2}mv_0^2 = eV_0\) という式を立てます。これを \(v_0\) について解けば、平行極板に入射するときの速さが求まります。

結論と吟味

平行極板間に入射するときの電子の速さ \(v_0\) は \(\sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0}{m}}\) です。この速さは、加速電圧 \(V_0\) が大きいほど、また電子の比電荷 \(e/m\) が大きいほど大きくなり、物理的に妥当です。

解答 (1) \(\sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0}{m}}\)

問2

思考の道筋とポイント

平行極板コンデンサー内では、一様な電場が形成されます。この電場から電子が受ける力を計算します。その後、電子はx方向には等速運動、y方向にはこの力を受けて等加速度運動をすると考え、極板の右端に到達したときのy座標を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 平行極板間の電場の強さ \(E = V/d\)。
  • 電荷 \(q\) の粒子が電場 \(E\) から受ける力の大きさ \(F = |q|E\)。
  • 運動の分解:x方向(初速 \(v_0\)、力なし、よって等速運動)、y方向(初速0、一定の力、よって等加速度運動)。
  • 等加速度運動の変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\)。

具体的な解説と立式

極板間で電子が受ける力の大きさ:
平行極板間の電位差が \(V\)、極板間隔が \(d\) なので、極板間に生じる一様な電場の強さ \(E\) は、
$$E = \frac{V}{d} \quad \cdots ②$$です。電子の電荷の大きさは \(e\) なので、この電場から電子が受ける静電気力の大きさ \(F\) は、$$F = eE \quad \cdots ③$$
となります。
式②を式③に代入すると、
$$F = e\frac{V}{d} = \frac{eV}{d}$$
これが電子が受ける力の大きさです。力の向きは、電子の電荷が負であるため、電場の向きと逆向きになります。(問題図では上の極板が電位が高く、下の極板が電位が低いと仮定すると、電場はy軸負の向き、電子が受ける力はy軸正の向きとなります。)

極板の右端 (\(x=l\)) における電子のy座標 \(y_1\):
電子はx方向に初速度 \(v_0\) で入射し、x方向には力を受けないため等速直線運動をします。極板の長さが \(l\) なので、電子が極板間を通過するのにかかる時間 \(t_1\) は、
$$t_1 = \frac{l}{v_0} \quad \cdots ④$$y方向には、上記で求めた一定の力 \(F = \frac{eV}{d}\) を受けます。電子の質量を \(m\) とすると、y方向の加速度 \(a_y\) は運動方程式 \(F = ma_y\) より、$$a_y = \frac{F}{m} = \frac{eV}{md} \quad \cdots ⑤$$電子はy方向には初速度0で入射し(図の原点Oを通過するときはy方向の速度成分なし)、一定の加速度 \(a_y\) で運動します。したがって、時間 \(t_1\) 後のy方向の変位 \(y_1\) は、等加速度直線運動の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) において \(v_{0y}=0\) として、$$y_1 = \frac{1}{2}a_y t_1^2 \quad \cdots ⑥$$
となります。

使用した物理公式

  • 電場の強さ(平行極板):\(E = V/d\)
  • 電場から受ける力:\(F = qE\)
  • 運動方程式:\(F = ma\)
  • 等速直線運動:距離 = 速さ × 時間 (\(l = v_0 t_1\))
  • 等加速度直線運動:\(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{eV}{d}\) です。
次に \(y_1\) を求めます。式⑥に式④ (\(t_1 = l/v_0\)) と式⑤ (\(a_y = eV/(md)\)) を代入します。
$$y_1 = \frac{1}{2} \left(\frac{eV}{md}\right) \left(\frac{l}{v_0}\right)^2$$
$$y_1 = \frac{eVl^2}{2mdv_0^2}$$

計算方法の平易な説明

力の大きさ:平行な金属板の間に電圧\(V\)をかけると、間隔\(d\)に応じて \(E=V/d\) の強さの電場ができます。電気の粒(ここでは電子、電気量\(e\))がこの電場の中に入ると、\(F=eE\) の力を受けます。なので、力の大きさは \(e \times (V/d) = eV/d\) となります。
y座標 \(y_1\):

  1. 電子は横(x方向)にはまっすぐ速さ \(v_0\) で進みます。板の長さが \(l\) なので、通り抜けるのにかかる時間は \(t_1 = l/v_0\) です。
  2. 縦(y方向)には、上で計算した力 \(F\) を受けてグーッと曲げられます。このときの加速度は \(a_y = F/m = eV/(md)\) です。
  3. 初めはy方向に動いていなかったので、\(t_1\) 秒後にどれだけy方向にずれるか (\(y_1\)) は、おなじみの公式 \(y = \frac{1}{2}at^2\) を使って、\(y_1 = \frac{1}{2}a_y t_1^2\) で計算できます。
  4. これに \(a_y\) と \(t_1\) の式を代入すれば、\(y_1\) が求まります。
結論と吟味

極板間で電子が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{eV}{d}\) です。
極板の右端 (\(x=l\)) における電子のy座標 \(y_1\) は \(\displaystyle\frac{eVl^2}{2mdv_0^2}\) です。
この \(y_1\) の式から、極板間の電圧 \(V\) が大きいほど、極板の長さ \(l\) が長いほど、また電子の入射速度 \(v_0\) が遅く、質量 \(m\) が小さいほど、y方向への変位が大きくなることがわかります。これは物理的な直感と一致しています。

解答 (2) 力の大きさ: \(\displaystyle\frac{eV}{d}\), \(y_1 = \displaystyle\frac{eVl^2}{2mdv_0^2}\)

問3

思考の道筋とポイント

電子が平行極板を出た後は、力を受けないため等速直線運動をします。極板を出る瞬間の速度(x成分とy成分)を求め、その速度で蛍光面 (\(x=L\)) まで進むときのy座標を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 極板を出た後は力が働かないので等速直線運動。
  • 極板を出る瞬間の速度ベクトル(x成分 \(v_0\)、y成分 \(v_{y1}=a_y t_1\))がその後の運動方向を決定する。
  • 蛍光面までの水平距離 (\(L-l\)) とx方向の速度 (\(v_0\)) から、極板外での飛行時間 \(t_2\) を求める。
  • その時間 \(t_2\) でのy方向の変位を計算し、\(y_1\) に加える。

具体的な解説と立式

電子が極板の右端 (\(x=l\)) を出るときの状態は、(2)の考察より以下の通りです。

  • y座標:\(y_1 = \displaystyle\frac{eVl^2}{2mdv_0^2}\)
  • x方向の速度:\(v_x = v_0\) (一定)
  • y方向の速度 \(v_{y1}\):極板内で時間 \(t_1 = l/v_0\) の間、加速度 \(a_y = eV/(md)\) で加速されたので、
    $$v_{y1} = a_y t_1 = \left(\frac{eV}{md}\right)\left(\frac{l}{v_0}\right) = \frac{eVl}{mdv_0} \quad \cdots ⑦$$

極板を出た後 (\(x>l\))、電子は力を受けないため、この速度 (\(v_x=v_0, v_y=v_{y1}\)) で等速直線運動をします。
蛍光面は \(x=L\) の位置にあります。電子が極板の右端 (\(x=l\)) から蛍光面 (\(x=L\)) までx方向に進む距離は \(L-l\) です。この間、x方向の速度は \(v_0\) で一定なので、かかる時間 \(t_2\) は、
$$t_2 = \frac{L-l}{v_0} \quad \cdots ⑧$$この時間 \(t_2\) の間に、電子はy方向にも速度 \(v_{y1}\) で等速直線運動をするため、y方向に進む距離 \(\Delta y\) は、$$\Delta y = v_{y1} t_2 \quad \cdots ⑨$$したがって、蛍光面に到達したときの電子のy座標 \(y_2\) は、極板を出たときのy座標 \(y_1\) に、その後のy方向の変位 \(\Delta y\) を加えたものになります。$$y_2 = y_1 + \Delta y = y_1 + v_{y1} t_2 \quad \cdots ⑩$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度:\(v_y = v_{0y} + at\)
  • 等速直線運動:距離 = 速さ × 時間
計算過程

式⑩に、\(y_1 = \displaystyle\frac{eVl^2}{2mdv_0^2}\)、式⑦の \(v_{y1} = \displaystyle\frac{eVl}{mdv_0}\)、および式⑧の \(t_2 = \displaystyle\frac{L-l}{v_0}\) を代入します。
$$y_2 = \frac{eVl^2}{2mdv_0^2} + \left(\frac{eVl}{mdv_0}\right) \left(\frac{L-l}{v_0}\right)$$
$$y_2 = \frac{eVl^2}{2mdv_0^2} + \frac{eVl(L-l)}{mdv_0^2}$$共通の因子 \(\displaystyle\frac{eVl}{mdv_0^2}\) でくくって整理します。$$y_2 = \frac{eVl}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + (L-l) \right)$$
$$y_2 = \frac{eVl}{mdv_0^2} \left( L – \frac{l}{2} \right)$$したがって、$$y_2 = \frac{eVl(L-l/2)}{mdv_0^2}$$

計算方法の平易な説明

電子が平行な板の間を抜けた後、蛍光板に当たるまでの動きを考えます。

  1. 板を抜けた瞬間、電子はすでにy方向に \(y_1\) だけずれています。また、y方向にも \(v_{y1}\) という速さを持っています。
  2. 板の外では力が働かないので、電子はそのままの速さでまっすぐ進みます。
  3. 蛍光板までの水平方向の残りの距離は \(L-l\) です。電子は水平方向にはずっと速さ \(v_0\) で進むので、この距離を進むのにかかる時間は \(t_2 = (L-l)/v_0\) です。
  4. この時間 \(t_2\) の間に、電子はy方向にも速さ \(v_{y1}\) で進み続けるので、y方向にさらに \(\Delta y = v_{y1}t_2\) だけ移動します。
  5. 最終的に蛍光板に当たるときのy座標 \(y_2\) は、板を抜けたときのy座標 \(y_1\) に、その後y方向に進んだ距離 \(\Delta y\) を足したものになります。
結論と吟味

蛍光面に到達したときの電子のy座標 \(y_2\) は \(\displaystyle\frac{eVl(L-l/2)}{mdv_0^2}\) です。
この結果は、\(L=l\) の場合(蛍光面が極板のすぐ右端にある場合)を考えると、\(y_2 = \frac{eVl(l-l/2)}{mdv_0^2} = \frac{eVl^2}{2mdv_0^2}\) となり、これは \(y_1\) と一致します。したがって、矛盾はありません。
また、この運動は、極板を出た点 \((l, y_1)\) から、傾き \(v_{y1}/v_0\) の直線に沿って進むと考えることもできます。その直線の式は \(y – y_1 = \frac{v_{y1}}{v_0}(x-l)\) であり、\(x=L\) を代入すれば \(y_2\) が求まります。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{eVl(L-l/2)}{mdv_0^2}\)

問4

思考の道筋とポイント

電子の軌道をx軸からそれないようにする、つまりy方向に力を受けないようにするためには、電場による力と磁場によるローレンツ力がつりあう必要があります。それぞれの力の向きと大きさを考え、つりあい条件から磁束密度 \(B\) と磁場の向きを決定します。

この設問における重要なポイント

  • 電子が直進するためには、y方向の合力が0である必要がある。
  • 電場による力 \(F_e = eE\)。
  • ローレンツ力 \(F_m = ev_0B\) (速度と磁場が垂直な場合)。
  • フレミングの左手の法則を用いて、ローレンツ力の向きと磁場の向きの関係を正しく判断する(電子は負電荷であることに注意)。

具体的な解説と立式

電子が平行極板間をx軸に沿って直進するためには、電子がy方向に受ける力の合力が0でなければなりません。
極板間には電場 \(E = V/d\) が存在します。電子(電荷 \(-e\))がこの電場から受ける静電気力の大きさ \(F_e\) は、
$$F_e = eE = e\frac{V}{d} \quad \cdots ⑬$$
です。問題図の極板の電位設定(上側が電位 \(V\)、下側が電位 \(0\))から、電場はy軸の負の向き(上から下へ)にかかっています。電子の電荷は負なので、この静電気力 \(F_e\) はy軸の正の向き(下から上へ)に働きます。
この静電気力 \(F_e\) とつりあうために、磁場からローレンツ力を受ける必要があります。電子の速度は \(v_0\) でx軸の正の向きです。磁束密度を \(B\) とすると、ローレンツ力の大きさ \(F_m\) は、電子の速度ベクトルと磁場ベクトルが垂直である場合に最大となり、その大きさは、
$$F_m = ev_0 B \quad \cdots ⑭$$
となります。電子が直進するためには、このローレンツ力 \(F_m\) が静電気力 \(F_e\) と大きさが等しく、向きが反対(つまりy軸の負の向き)でなければなりません。
磁場の向きの決定:
電子の速度 \(\vec{v_0}\) はx軸の正の向き (\(+\hat{i}\))。受けたいローレンツ力 \(\vec{F_m}\) はy軸の負の向き (\(-\hat{j}\))。電子の電荷は \(q=-e\)。ローレンツ力の公式は \(\vec{F_m} = q(\vec{v_0} \times \vec{B})\)。
フレミングの左手の法則を用いる場合、電流の向きは電子の運動方向と逆向き、すなわちx軸の負の向きと考えます。

  • 電流の向き(中指):x軸負の向き
  • 力の向き(親指):y軸負の向き

このとき、磁場の向き(人差し指)は、紙面の裏から表へ向かう向き(z軸の正の向き)となります。
磁束密度の大きさの決定:
力のつりあい条件は \(F_e = F_m\) なので、式⑬と⑭より、
$$e\frac{V}{d} = ev_0 B \quad \cdots ⑮$$
この式から磁束密度 \(B\) の大きさを求めます。

使用した物理公式

  • 電場から受ける力: \(F_e = eE = eV/d\)
  • ローレンツ力: \(F_m = ev_0B\) (速度と磁場が垂直な場合)
  • フレミングの左手の法則(またはローレンツ力のベクトル外積)
  • 力のつりあい条件
計算過程

式⑮の両辺から \(e\) を消去すると、
$$\frac{V}{d} = v_0 B$$これを \(B\) について解くと、$$B = \frac{V}{v_0 d}$$

計算方法の平易な説明

電子がまっすぐ進むためには、電場から受ける上向きの力(例えば)と、磁場から受ける下向きの力がちょうど同じ大きさになればよいわけです。

  1. 電場による力は、大きさ \(eV/d\)。向きは(問題の図から判断すると)上向きです。
  2. これとつりあうローレンツ力は、下向きで同じ大きさである必要があります。
  3. 電子はx軸正の向きに速さ \(v_0\) で飛んでいます。フレミングの左手の法則を使って、電流の向き(電子の動きと逆)、力の向き(下向き)から磁場の向きを探すと、「紙面の裏から表へ向かう向き」となります。
  4. ローレンツ力の大きさは \(ev_0B\) です。
  5. 力のつりあいから \(eV/d = ev_0B\) という式が成り立ちます。これを \(B\) について解けば、磁束密度の大きさが求まります。
結論と吟味

電子の軌道をx軸からそれないようにするためには、

  • 磁場の向き:紙面の裏から表へ向かう向き(図のx軸、y軸に対して垂直で、手前向き)
  • 磁束密度の大きさ \(B\):\(\displaystyle\frac{V}{v_0 d}\)

この条件は、特定の速度の荷電粒子だけが電場と磁場の両方が存在する空間を直進できる「速度選択器」の原理と同じです。入射速度 \(v_0\) が \(E/B = (V/d)/B\) に等しい場合に直進します。これを \(B\) について解くと \(B = V/(v_0d)\) となり、求めた結果と一致します。

解答 (4) 磁場の向き: 紙面の裏から表へ向かう向き, 磁束密度 \(B = \displaystyle\frac{V}{v_0 d}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー保存則): 電子が電位差 \(V_0\) で加速される際に得る運動エネルギーは \(eV_0\) であり、これが \(\frac{1}{2}mv_0^2\) に等しい。
  • 一様な電場中での荷電粒子の運動: 電場の強さは \(E=V/d\)。荷電粒子(電荷 \(q\))は力 \(F=qE\) を受ける。電子の場合、電荷が \(-e\) なので力の向きは電場と逆。運動は、電場に垂直な方向の等速運動と、電場に平行な方向の等加速度運動に分解して考えられる。
  • 等速直線運動と等加速度直線運動の公式: これらを用いて、特定の時間後の位置や速度を計算する。
  • ローレンツ力と力のつりあい: 磁場中を速度 \(\vec{v}\) で運動する電荷 \(q\) の粒子は、ローレンツ力 \(\vec{F}=q(\vec{v}\times\vec{B})\) を受ける。粒子が直進するためには、受ける力のベクトル和がゼロになる必要がある(力のつりあい)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用パターン:
    • ブラウン管の電子銃、偏向板の仕組み。
    • 質量分析器(速度選択器と磁場による分離)。
    • サイクロトロンなど、粒子加速器の原理。
    • ホール効果など、電磁場中でのキャリアの振る舞い。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 荷電粒子の運動区間の分割: 問題の状況を、力が働く区間(加速電場、偏向電場、磁場など)と力が働かない区間(等速直線運動)に分けて考える。
    2. 各区間での力の特定: 電場による力か、磁場による力か、あるいは両方か。その向きと大きさを正確に求める。
    3. 運動の分解: 力が特定の方向にしか働かない場合、運動をその方向とそれに垂直な方向に分解すると見通しが良くなることが多い(例:本問の極板内での運動)。
    4. エネルギー保存則の適用可能性: 保存力が働く場合や、仕事とエネルギーの関係が使える場面では積極的に利用する。
    5. ベクトルの扱い: 力、速度、加速度、電場、磁場はベクトル量なので、その向きを常に意識する。特にローレンツ力の向きは外積やフレミングの左手の法則で慎重に決定する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の電荷の符号: 電子の電荷は負 (\(-e\))。これにより、電場から受ける力の向きは電場の向きと逆になり、ローレンツ力の向きもフレミングの左手の法則を適用する際に注意が必要(電流の向きを電子の運動と逆向きに取る)。
    • 対策:常に電荷の符号を意識し、力の向きを慎重に判断する。大きさは \(eE\), \(evB\) と絶対値で計算し、向きは別途判断するのが安全。
  • ローレンツ力の向きの決定: フレミングの左手の法則の指の割り当て(中指:電流、人差し指:磁場、親指:力)を間違えたり、電子の場合の電流の向きの取り扱いを誤ったりしやすい。
    • 対策:法則を正確に記憶し、図を描いて指の向きを確認しながら適用する。電子の場合は「電流は電子の運動と逆」と頭の中で変換するステップを入れる。
  • 運動の切り替わりの不理解: 極板を出た瞬間に運動が等速直線運動に切り替わることを忘れ、極板内と同じ加速度運動が続くと誤解する。
    • 対策:力が作用する領域と作用しない領域を明確に区別し、それぞれの領域で適切な運動法則を適用する。
  • 座標と変位の混同: \(y_1\) は \(x=l\) におけるy座標(原点からの変位)だが、その後の \(\Delta y\) は \(y_1\) からのさらなる変位。最終的な座標 \(y_2\) はこれらの和。
    • 対策:どの時点の、どの基準からの位置や変位を計算しているのかを常に明確にする。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の極意

  • 現象のイメージ化:
    • 電子が電場に引かれて加速される様子。
    • 平行極板コンデンサー内で、横殴りの風(電場による力)を受けながら直進しようとするボールのような軌道(放物線)。
    • コンデンサーを出た後、その勢いのまま斜め方向に飛んでいく様子。
    • 電場と磁場の中で、二つの力(静電気力とローレンツ力)が絶妙なバランスでつりあって直進する様子。
  • 図示の有効性:
    • 問題図に、力のベクトル(静電気力、ローレンツ力)、速度ベクトル(初速度、各点での速度)、加速度ベクトルを書き込むことで、運動の様子が視각的に理解しやすくなる。
    • 特に(3)では、極板を出た点での速度ベクトルを元に、その後の直進軌道と蛍光面との交点を図示すると、幾何学的な関係(相似三角形など)からも解ける場合がある。
    • (4)では、電場による力とローレンツ力のつり合いをベクトル図で明確に描くことが、磁場の向きを決定する上で非常に重要。
  • 図を描く際の注意点:
    • ベクトルの始点、向き、相対的な大きさをできるだけ正確に描く。
    • 座標軸との関係(成分)を意識する。
    • フレミングの左手の法則を使う際は、指の向きを図と対応させながら確認する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\frac{1}{2}mv^2 = qV\) (エネルギー保存): 保存力である静電気力がする仕事が運動エネルギーに変わるという、エネルギーの観点からのアプローチ。初速と終速、電位差が関わる場合に有効。
  • \(E=V/d\), \(F=qE\) (電場と力): 電位差と距離から電場の強さを求め、その電場が電荷に及ぼす力を計算する基本。
  • \(F=ma\), \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\), \(v=v_0+at\) (運動方程式と運動の法則): 力が分かれば加速度が分かり、加速度が分かれば任意の時間後の速度や位置が分かる。特に一定の力が働く場合に有効。
  • ローレンツ力 \(F=qvB\sin\theta\) とフレミングの左手の法則: 磁場が運動する荷電粒子に及ぼす力。向きの決定が特に重要。
  • 力のつりあい (\(\Sigma \vec{F} = \vec{0}\)): 粒子が等速直線運動(ここでは静止も含む直進)をするための条件。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 入射速度 \(v_0\):
    1. 電子が得るエネルギー \(eV_0\)。
    2. 運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\)。
    3. エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = eV_0\) から \(v_0\) を解く。
  2. (2) 極板内の力とy座標 \(y_1\):
    1. 電場の強さ \(E=V/d\)。
    2. 電子が受ける力 \(F=eE=eV/d\)。
    3. y方向の加速度 \(a_y=F/m = eV/(md)\)。
    4. x方向は等速 \(v_0\)。極板通過時間 \(t_1=l/v_0\)。
    5. y方向の変位 \(y_1 = (1/2)a_y t_1^2\)。代入して \(y_1\) を計算。
  3. (3) 蛍光面でのy座標 \(y_2\):
    1. 極板出射時のy方向速度 \(v_{y1} = a_y t_1\)。
    2. 極板出射後の飛行時間(x方向距離 \(L-l\)、速度 \(v_0\)) \(t_2 = (L-l)/v_0\)。
    3. 極板出射後のy方向変位 \(\Delta y = v_{y1}t_2\)。
    4. \(y_2 = y_1 + \Delta y\)。代入・整理して \(y_2\) を計算。
  4. (4) 直進条件(磁場):
    1. 電場による力 \(F_e = eV/d\)(向きを確定)。
    2. ローレンツ力 \(F_m = ev_0B\)。
    3. \(F_e\) と \(F_m\) がつりあう(大きさが等しく向きが逆)条件を考える。
    4. 力の向きの条件から、フレミングの左手の法則を用いて磁場の向きを決定。
    5. 力の大きさの条件 \(F_e=F_m\) から磁束密度 \(B\) を解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 記号の区別: 加速電圧 \(V_0\) と偏向電圧 \(V\) を混同しない。極板の長さ \(l\) と蛍光面までの距離 \(L\) を正確に使い分ける。
  • 電荷の符号: 電子の電荷は \(-e\)。力の向きやエネルギーの計算で符号の扱いに注意する(エネルギーはスカラーなので \(eV_0\) でよいが、力のベクトルを考える際は \(q\vec{E}\) で \(q=-e\))。
  • 分数の計算: \(y_1, y_2\) などの計算では、複数の項や分数が組み合わさるので、通分や約分、式の整理を丁寧に行う。
  • 単位の一貫性: すべてMKSA単位系(SI単位系)で計算を進めるのが基本。最終的な答えの単位が物理的に妥当か確認する(例:速度なら m/s、力なら N、磁束密度なら T)。
  • 平方根の扱い: \(v_0\) の計算などで平方根が出てくる。二乗や平方根の外し方を間違えない。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的なパラメータへの依存性:
    • \(y_1, y_2\) が \(V\)(偏向電圧)に比例し、\(m, d, v_0^2\) に反比例することは直感的に妥当か?(偏向電圧大でよく曲がる。質量大・間隔大・初速大で曲がりにくい)
    • \(v_0\) が \(V_0\)(加速電圧)の平方根に比例することは妥当か?
    • (4)の \(B\) が \(V\) に比例し、\(v_0, d\) に反比例することは妥当か?(強い電場には強い磁場が必要。速い粒子では、同じ磁場でもローレンツ力は大きくなるので、電場力が一定なら磁場は弱くてよい。)
  • 極端な場合の考察:
    • もし \(V=0\)(偏向電圧なし)なら、\(y_1=0, y_2=0\) となり、電子は直進するか?
    • もし \(l=0\)(極板の長さなし)なら、\(y_1=0, y_2=0\) となるか?
    • (4)で \(V=0\) なら \(B=0\) で直進するか?
  • 結果の次元(単位)確認: 例えば(1)で求めた \(v_0\) の単位がちゃんと速度の単位 [m/s] になっているか、(4)で求めた \(B\) の単位が磁束密度の単位 [T] になっているかなどを、各物理量の単位から検証する。

問題140 (奈良女子大+横浜市立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一様な磁場中で荷電粒子が初速度を与えられて運動する様子を、打ち出し角度を変えながら考察するものです。ローレンツ力の理解、等速円運動、等速直線運動、そしてそれらが合成されたらせん運動の解析が中心となります。

与えられた条件
  • 空間:z軸の正の方向に磁束密度\(B\)の一様な磁界。
  • 荷電粒子:質量\(m\)、電荷\(q(>0)\)。
  • 打ち出し:原点Oからyz面内でy軸から角度\(\theta\)の方向に一定速度\(v\)で打ち出す。
  • 重力の影響は無視する。
問われていること
  1. (1) y軸の正の方向 (\(\theta=0\)) に打ち出した場合の等速円運動の中心点の座標と周期。
  2. (2) z軸の正の方向 (\(\theta=\pi/2\)) に打ち出した場合の荷電粒子の運動の説明。
  3. (3) y軸との角度\(\theta\) (\(0 < \theta < \pi/2\)) の方向に打ち出した場合:
    • (ア) 荷電粒子の運動の説明。
    • (イ) 次に初めてz軸と交わるまでの時間と、その交点Pまでの距離OP。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、磁場中を運動する荷電粒子が受けるローレンツ力についての理解が不可欠です。ローレンツ力は常に荷電粒子の速度ベクトルと磁場ベクトルの両方に垂直であり、磁場は荷電粒子に対して仕事をしないため、粒子の運動エネルギー(つまり速さ)は変化しません。

  • ローレンツ力:電荷 \(q\) の荷電粒子が磁束密度 \(\vec{B}\) の磁場中を速度 \(\vec{v}\) で運動するときに受ける力 \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\)。力の向きはフレミングの左手の法則に従い、大きさは \(F = qvB\sin\phi\)(\(\phi\) は \(\vec{v}\) と \(\vec{B}\) のなす角)。
  • 磁場と垂直な速度成分:この成分がローレンツ力を生み、等速円運動の原因となる。
  • 磁場と平行な速度成分:この成分に対してはローレンツ力は働かず、粒子はこの方向に等速直線運動を続ける。

問1

思考の道筋とポイント

荷電粒子が磁場と垂直な方向に打ち出される場合、ローレンツ力を向心力として等速円運動をします。この運動の半径と周期を求め、円運動の中心座標を特定します。

この設問における重要なポイント

  • 速度ベクトルと磁場ベクトルが垂直であるため、ローレンツ力の大きさは \(qvB\)。
  • ローレンツ力が向心力となる (\(m v^2/r = qvB\))。
  • 運動はxy平面内で起こる。
  • 円運動の周期は \(T = 2\pi r / v\)。

具体的な解説と立式

荷電粒子をy軸の正の方向 (\(\theta=0\)) に速さ \(v\) で打ち出すと、速度ベクトル \(\vec{v}=(0, v, 0)\) となります。磁場はz軸の正の方向 \(\vec{B}=(0, 0, B)\) にかかっています。このとき、\(\vec{v}\) と \(\vec{B}\) は互いに垂直です。
荷電粒子が受けるローレンツ力 \(\vec{F}\) の向きは、フレミングの左手の法則によりx軸の正の方向となります(電流の向きは \(+q\) の運動方向であるy軸正方向、磁場はz軸正方向)。力の大きさ \(F\) は、\(\vec{v} \perp \vec{B}\) なので、
$$F = qvB \quad \cdots ①$$です。このローレンツ力は常に速度ベクトルに垂直であるため、粒子は等速円運動をします。この力が円運動の向心力となります。円運動の半径を \(r\) とすると、運動方程式は、$$m\frac{v^2}{r} = qvB \quad \cdots ②$$
と表せます。
粒子は原点Oからy軸正方向に打ち出され、x軸正方向に力を受けて曲がり始めるため、円運動はxy平面内で行われます。円運動の中心は、原点Oから見て、初めに力が働くx軸正方向に半径 \(r\) だけ移動した点になります。
1周するのに要する時間、すなわち周期 \(T\) は、円周 \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで求められます。
$$T = \frac{2\pi r}{v} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F = qvB\) (速度と磁場が垂直な場合)
  • 等速円運動の運動方程式(向心力): \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • 周期と速さ、半径の関係: \(T = 2\pi r / v\)
計算過程

まず、式②から円運動の半径 \(r\) を求めます。
$$r = \frac{mv^2}{qvB} = \frac{mv}{qB} \quad \cdots ④$$

粒子は原点O(0,0,0)からy軸正方向に打ち出され、直後にx軸正方向にローレンツ力を受けます。したがって、円運動の中心はx軸上にあり、そのx座標は \(r\) に等しく、y座標とz座標は0です。よって、中心点の座標 \((x_0, y_0, z_0)\) は、
$$(x_0, y_0, z_0) = \left(\frac{mv}{qB}, 0, 0\right)$$

となります。
次に、周期 \(T\) を求めます。式④で求めた \(r\) を式③に代入します。
$$T = \frac{2\pi}{v} \left(\frac{mv}{qB}\right) = \frac{2\pi m}{qB} \quad \cdots ⑤$$

これが1周するのに要する時間です。

計算方法の平易な説明

荷電粒子が磁場に対して垂直に飛び込むと、ローレンツ力という力を受けて曲げられます。この力は常に進行方向と垂直なので、粒子は速さを変えずにくるくる回る円運動をします。

  1. この円運動の「円の中心に向かう力(向心力)」の役割をローレンツ力が担います。
  2. 「向心力の大きさの公式」と「ローレンツ力の大きさの公式」をイコールで結び (\(mv^2/r = qvB\))、円の半径 \(r\) を計算します。
  3. 円の中心は、打ち出された点から、最初に力がかかった向きに半径 \(r\) だけずれたところです。
  4. 円を1周するのにかかる時間(周期)は、円周の長さ (\(2\pi r\)) を速さ (\(v\)) で割れば求まります。
結論と吟味

等速円運動の中心点の座標は \(\left(\displaystyle\frac{mv}{qB}, 0, 0\right)\) であり、1周するのに要する時間(周期)は \(\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) です。この周期は、荷電粒子の速さ \(v\) によらないという重要な特徴があります。速い粒子ほど大きな円を描くため、結果的に1周にかかる時間は同じになります。

解答 (1) 中心点の座標: \(\left(\displaystyle\frac{mv}{qB}, 0, 0\right)\), 時間: \(\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\)

問2

思考の道筋とポイント

荷電粒子が磁場の方向と平行に打ち出された場合を考えます。ローレンツ力の大きさの公式 \(F = qvB\sin\phi\) において、速度ベクトルと磁場ベクトルのなす角 \(\phi\) がどうなるかを確認します。

この設問における重要なポイント

  • 速度ベクトルと磁場ベクトルが平行な場合、\(\sin\phi = 0\)。
  • ローレンツ力が働かない場合、粒子は初速度のまま等速直線運動をする(慣性の法則)。

具体的な解説と立式

荷電粒子をz軸の正の方向 (\(\theta=\pi/2\)) に速さ \(v\) で打ち出すと、速度ベクトル \(\vec{v}\) は磁場ベクトル \(\vec{B}\)(これもz軸正方向)と平行になります。つまり、\(\vec{v}\) と \(\vec{B}\) のなす角 \(\phi\) は \(0^\circ\) です。
荷電粒子が磁場から受けるローレンツ力の大きさ \(F\) は、
$$F = qvB\sin\phi$$
と表されます。今、\(\phi=0^\circ\) なので、\(\sin 0^\circ = 0\) です。
したがって、ローレンツ力の大きさは、
$$F = qvB \cdot 0 = 0$$
となり、荷電粒子は磁場から力を受けません。
磁場から力を受けず、問題文より重力の影響も無視するため、荷電粒子には何も力が作用しないことになります。運動の法則(慣性の法則)によれば、力が働かない物体は、その時点での速度を保って等速直線運動を続けます。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F = qvB\sin\phi\)
  • 慣性の法則(力が0なら等速直線運動)
計算過程

上記の考察により、力が働かないため、粒子は初速度 \(v\) でz軸の正の方向に等速直線運動をします。

計算方法の平易な説明

荷電粒子が磁場と同じ向きに飛んでいく場合、磁場を「横切る」動きがないため、ローレンツ力は発生しません。力が全く働かないので、粒子は最初に打ち出された速さと向きのまま、まっすぐ進み続けます。つまり、z軸に沿って速さ \(v\) で等速直線運動をします。

結論と吟味

荷電粒子は、初速度 \(v\) のまま、z軸の正の方向に等速直線運動をする。 これは、速度ベクトルと磁場ベクトルが平行な場合にはローレンツ力が働かないという基本原理に基づいています。

解答 (2) z軸の正の方向に速さ \(v\) で等速直線運動をする。

問3 (ア)

思考の道筋とポイント

初速度ベクトル \(\vec{v}\) を、磁場 \(\vec{B}\)(z軸方向)に平行な成分と垂直な成分に分解して考えます。平行な成分はローレンツ力に影響せず、垂直な成分がローレンツ力を受けて円運動をします。この二つの運動の合成が、粒子の全体の運動となります。

この設問における重要なポイント

  • 速度の分解:\(v_z = v\sin\theta\)(磁場に平行)、\(v_{\perp} = v\cos\theta\)(磁場に垂直な速度成分、これがxy平面での円運動の速さになる)。
  • 磁場に平行な速度成分 \(v_z\) は変化せず、z軸方向に等速直線運動。
  • 磁場に垂直な速度成分 \(v\cos\theta\) は、xy平面内で等速円運動。
  • これらの合成運動は「らせん運動」。

具体的な解説と立式

荷電粒子の初速度 \(\vec{v}\) は、yz面内でy軸からz軸の方向へ角度 \(\theta\) をなしています。 この速度ベクトルを、磁場 \(\vec{B}\)(z軸正方向)に平行な成分と垂直な成分に分解します。

  • 磁場に平行な速度成分(z軸成分):\(v_{\parallel} = v_z = v\sin\theta\)
  • 磁場に垂直な速度成分(xy平面内での円運動の速さとなる成分):\(v_{\perp} = v\cos\theta\) (初期のx成分は0、初期のy成分がこれに相当)

z軸方向の運動:
磁場に平行な速度成分 \(v_z = v\sin\theta\) に対してはローレンツ力は働きません。したがって、粒子はz軸方向には初速度 \(v_z\) のままで等速直線運動をします。
xy平面内の運動:
磁場に垂直な速度の大きさは \(v_{\perp} = v\cos\theta\) です。この速度成分に対してローレンツ力が働き、これが向心力となって粒子はxy平面内で等速円運動をします。 この円運動の速さは \(v_{\perp}\) で一定です。
この円運動の半径 \(r_{\text{らせん}}\) は、(1)の式④で \(v\) を \(v_{\perp}\) に置き換えて、
$$r_{\text{らせん}} = \frac{m v_{\perp}}{qB} = \frac{m(v\cos\theta)}{qB}$$となります。また、この円運動の周期 \(T_{\text{らせん}}\) は、(1)の式⑤と同様に、円運動の速さにはよらず、$$T_{\text{らせん}} = \frac{2\pi m}{qB}$$
となります。
合成された運動:
したがって、荷電粒子は、z軸方向に速さ \(v\sin\theta\) で等速直線運動をしながら、同時にxy平面内で速さ \(v\cos\theta\) の等速円運動をします。これら二つの運動が合成された結果、粒子は磁場の方向(z軸)を軸とするらせん軌道を描いて運動します。

使用した物理公式

  • 速度のベクトル分解
  • ローレンツ力(磁場と平行な速度成分には働かない)
  • 等速円運動の半径と周期の公式(磁場と垂直な速度成分に対して適用)
  • 運動の合成
計算過程

上記の考察が運動の説明となります。

計算方法の平易な説明

荷電粒子の速さ \(v\) を、磁場と同じ方向(z軸方向)の成分と、磁場と垂直な方向(xy平面で円を描く成分)の二つに分けます。

  • 磁場と同じ方向の速さの成分 (\(v\sin\theta\)):この方向にはローレンツ力が働かないので、粒子はずっとこの速さでz軸方向に進み続けます(まっすぐな運動)。
  • 磁場と垂直な方向の速さの成分 (\(v\cos\theta\)):この方向の速さに対してローレンツ力が働き、粒子はxy平面内で円を描くように運動します((1)と同じ円運動)。

この「まっすぐ進む運動」と「円を描く運動」が同時に起こるので、全体としてはバネのような「らせん」の形を描いて進んでいくことになります。

結論と吟味

荷電粒子は、磁場の方向(z軸)を軸として、xy平面内では速さ \(v\cos\theta\) で等速円運動をし、同時にz軸方向へは速さ \(v\sin\theta\) で等速直線運動をする。その結果、全体としてはらせん運動(螺旋運動)をする。

解答 (3)(ア) 磁場の方向(z軸)を軸とする、らせん運動をする。xy平面内では速さ \(v\cos\theta\) で等速円運動をし、z軸方向へは速さ \(v\sin\theta\) で等速直線運動をする。

問3 (イ)

思考の道筋とポイント

粒子が再びz軸と交わるのは、xy平面内での円運動がちょうど1周する(または整数周する)ときです。「次に初めて」なので、1周したときを考えます。この時間は円運動の周期に等しくなります。その間にz軸方向に進んだ距離がOP間の距離です。

この設問における重要なポイント

  • 粒子がz軸と交わるのは、xy平面内での円運動が1周期するごと。
  • 円運動の周期は、円運動の速さによらず \(T = 2\pi m/(qB)\)。
  • z軸方向には速さ \(v\sin\theta\) で等速直線運動。
  • 距離 = 速さ × 時間。

具体的な解説と立式

荷電粒子は原点Oから打ち出され、(ア)で説明したようにらせん運動をします。このらせん運動の軸はz軸です。したがって、粒子が次に初めてz軸と交わるのは、xy平面内での円運動がちょうど1周して、粒子のx座標とy座標が再び (0,0) になるときです(実際にはz軸上の点に戻る)。
このxy平面内での円運動の周期 \(T\) は、(ア)で述べたように、また(1)の結果からもわかるように、円運動の速さ (\(v\cos\theta\)) には依存せず、
$$T = \frac{2\pi m}{qB} \quad \cdots ⑦$$
です。 これが、次に初めてz軸と交わるまでの時間 \(t_P\) となります。
この時間 \(t_P = T\) の間に、粒子はz軸方向に速さ \(v_z = v\sin\theta\) で等速直線運動をしています。したがって、原点Oからこの交点Pまでの距離(OP間の距離)は、z軸方向に進んだ距離に等しく、
$$\text{OP} = v_z \cdot t_P = (v\sin\theta) \cdot T \quad \cdots ⑧$$
と求められます。

使用した物理公式

  • 等速円運動の周期: \(T = 2\pi m/(qB)\)
  • 等速直線運動の距離: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

求める時間は、式⑦より、
$$t_P = \frac{2\pi m}{qB}$$
です。
OP間の距離は、式⑧に \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) を代入して、
$$\text{OP} = (v\sin\theta) \cdot \frac{2\pi m}{qB} = \frac{2\pi mv\sin\theta}{qB}$$
です。

計算方法の平易な説明

粒子が「次に初めてz軸と交わる」というのは、xy平面で見ると円をちょうど1周して、元のx,yの位置(つまりz軸上)に戻ってくるということです。

  1. xy平面での円運動が1周するのにかかる時間(周期)は、(1)で計算したように、速さに関係なく \(2\pi m/(qB)\) です。これが求める時間です。
  2. この時間の間、粒子はz軸方向にも速さ \(v\sin\theta\) でまっすぐ進んでいます。
  3. したがって、OP間の距離は「z軸方向の速さ × 周期」で計算できます。
結論と吟味

原点Oから荷電粒子が打ち出されてから、次に初めてz軸と交わるまでの時間は \(\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) です。この交点をPとするとき、OP間の距離は \(\displaystyle\frac{2\pi mv\sin\theta}{qB}\) です。
時間は、打ち出し角度 \(\theta\) や初速度 \(v\) のうち磁場と垂直な成分には依存せず、粒子の質量 \(m\)、電荷 \(q\)、磁束密度 \(B\) のみで決まります。OP間の距離(らせんの1ピッチに相当)は、\(v\sin\theta\)(z軸方向の初速)に比例します。もし \(\theta=0\) ならOP=0でz軸から離れず、もし \(\theta=\pi/2\) ならz軸上を直進するので「交わる」というより常にz軸上にあります(この場合OPは \(vT\) となります)。

解答 (3)(イ) 時間: \(\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\), 距離OP: \(\displaystyle\frac{2\pi mv\sin\theta}{qB}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力:磁場中で運動する荷電粒子が受ける力 \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\)。力の向きはフレミングの左手の法則で、大きさは \(F = qvB\sin\phi\)。磁場は荷電粒子に仕事をしないため、速さは変わらない。
  • 運動の分解と合成:速度ベクトルを磁場に平行な成分と垂直な成分に分解することで、複雑な運動(らせん運動)も、それぞれ等速直線運動と等速円運動という基本的な運動の組み合わせとして理解できる。
  • 等速円運動:ローレンツ力が向心力となる場合(速度が磁場と垂直な成分について)。半径 \(r = mv_{\perp}/(qB)\)、周期 \(T = 2\pi m/(qB)\)。特に周期は \(v_{\perp}\) によらない点が重要。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用パターン:
    • 電場と磁場の両方が存在する中での荷電粒子の運動(例:速度選択器、サイクロトロン、ホール効果)。
    • 地磁気中での荷電粒子(宇宙線など)の運動。
    • らせん運動のピッチ(1周期で軸方向に進む距離)や半径を具体的に計算させる問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 初期条件の確認:荷電粒子の電荷の符号 \(q\)、質量 \(m\)、初速度 \(\vec{v}\) の大きさと向き。
    2. 磁場の向きと大きさ:磁場が一様か、どの方向を向いているか。
    3. 速度ベクトルの分解:初速度 \(\vec{v}\) を、磁場 \(\vec{B}\) に平行な成分 \(\vec{v}_{\parallel}\) と垂直な成分 \(\vec{v}_{\perp}\) に分解する。
    4. 各成分の運動の考察:
      • \(\vec{v}_{\parallel}\) による運動:ローレンツ力は0なので、磁場方向には等速直線運動。
      • \(\vec{v}_{\perp}\) による運動:ローレンツ力が向心力となり、磁場と垂直な面内で等速円運動。
    5. 運動の合成:これら2つの運動を合成して全体の軌道を把握する(直線、円、らせんなど)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ローレンツ力の向きの決定:フレミングの左手の法則の適用ミス(特に電荷 \(q\) が負の場合や、\(\vec{v}\) と \(\vec{B}\) の方向が座標軸と斜めになっている場合)。
    • 対策:電流の向き(正電荷の運動方向)を正確に設定し、指の役割(中指:電流、人差し指:磁場、親指:力)を確実に。3次元的な場合は図を丁寧に描く。
  • 速度成分の分解:角度 \(\theta\) の取り方により \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) が入れ替わるため、問題文や図をよく見て、どちらが平行成分でどちらが垂直成分かを正確に判断する。
    • 対策:分解するベクトルと基準となる軸(ここでは磁場の向きであるz軸)とのなす角を明確にし、三角比を適用する。
  • 円運動の半径・周期の公式における速度:円運動の半径を求める際に使う速度は、磁場と垂直な速度成分 \(v_{\perp}\) である(\(r=mv_{\perp}/(qB)\))。一方、周期 \(T=2\pi m/(qB)\) は \(v_{\perp}\) によらない。これを混同しやすい。
    • 対策:公式の導出過程(\(mv_{\perp}^2/r = qv_{\perp}B\) から \(r\) を出し、\(T=2\pi r/v_{\perp}\) に代入)を理解しておけば間違えにくい。
  • (3)(イ)「z軸と交わる」の解釈:らせん運動の軸がz軸であるため、xy平面内で1回転すれば必ずz軸上の点に戻る(z座標は変化しているが)。これをxy平面の原点Oに戻ると誤解しない。
    • 対策:運動をxy平面への射影(円運動)とz軸方向の運動(等速直線運動)に分けて考え、z軸との交差がxy平面での円運動の1周期に対応することを理解する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の極意

  • 現象のイメージ化:
    • (1) 等速円運動:磁力線に対して垂直に投げ込まれたボールが、見えない糸(ローレンツ力)で中心に引かれながら回るイメージ。
    • (2) 等速直線運動:磁力線に沿って投げられたボールは、何の横やりも入らずそのまま進むイメージ。
    • (3) らせん運動:磁力線という「軸」に巻きつくように、バネやネジの溝のような軌道を描いて進むイメージ。円を描きながら軸方向にも進んでいる。
  • 図示の有効性:
    • 初速度ベクトル \(\vec{v}\) を磁場に平行な成分 \(\vec{v}_{\parallel}\) と垂直な成分 \(\vec{v}_{\perp}\) に分解する図。
    • xy平面に射影した円運動の軌跡と、その中心、半径を示す図。z軸を円運動の中心を通る軸として描く。
    • z軸方向の運動を時間の関数として示す(\(z = v_{\parallel}t\) のグラフは直線)。
    • 3次元的ならせん軌道の概略図。磁力線と軌道の関係がわかるように描くと良い。
  • 図を描く際の注意点:
    • 座標軸(x, y, z)と磁場 \(\vec{B}\)、速度 \(\vec{v}\) の各成分、ローレンツ力 \(\vec{F}\) の向きを正確に記入する。
    • 円運動の回転方向(ローレンツ力の向きから決まる)を正しく示す。
    • らせんのピッチ(1周期でz方向に進む距離)を意識して描くと、運動の全体像が掴みやすい。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • ローレンツ力の公式 \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\): 磁場が運動する電荷に力を及ぼすという電磁気学の基本法則。この力の性質(速度と磁場の両方に垂直、仕事をしない)が粒子の運動形態を決定する。
  • 運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\): 力と運動(加速度)を結びつけるニュートン力学の基本。ローレンツ力をこの \(\vec{F}\) に代入することで、具体的な運動の様子が導かれる。
  • 速度の分解: 複雑なベクトル量(ここでは初速度)を、互いに独立に扱える成分(磁場に平行な成分と垂直な成分)に分けることで、それぞれの成分に対する物理法則を適用しやすくなる。重ね合わせの原理にも通じる考え方。
  • 等速円運動の運動方程式 \(mv^2/r = F_{\text{向心力}}\): 円運動を維持するためには常に中心向きの力(向心力)が必要であるという条件式。磁場中ではローレンツ力がこの役割を担う。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) \(\theta=0\) (y軸方向入射):
    1. \(\vec{v} \perp \vec{B}\) であることを確認。ローレンツ力の大きさ \(F=qvB\)。向きはフレミングの左手でx軸正方向。
    2. この \(F\) が向心力となり等速円運動。\(mv^2/r = qvB\) より半径 \(r = mv/(qB)\)。
    3. 中心は初期の力の向きに \(r\) ずれた点なので \((r, 0, 0)\)。
    4. 周期 \(T = 2\pi r/v = 2\pi m/(qB)\)。
  2. (2) \(\theta=\pi/2\) (z軸方向入射):
    1. \(\vec{v} \parallel \vec{B}\) であることを確認。
    2. ローレンツ力の大きさ \(F=qvB\sin 0^\circ = 0\)。
    3. 力が働かないので、初速度 \(v\) のままz軸正方向に等速直線運動。
  3. (3) 一般角 \(\theta\) での入射:
    1. (ア) 運動の説明:
      • 速度を分解:\(v_z = v\sin\theta\) (z軸成分、磁場に平行)、\(v_y’ = v\cos\theta\) (yz平面内のy軸成分、磁場に垂直な速度の大きさ)。
      • z軸方向:\(v_z\) で等速直線運動。
      • xy平面内:速さ \(v_y’\) で等速円運動。半径 \(r’ = mv_y’/(qB) = m(v\cos\theta)/(qB)\)。周期 \(T = 2\pi m/(qB)\) (周期は円運動の速さによらない)。
      • 合成運動:z軸を軸とするらせん運動。
    2. (イ) z軸との再交点:
      • 時間:xy平面の円運動の1周期 \(T = 2\pi m/(qB)\)。
      • OP間の距離:z軸方向に進んだ距離なので、\(v_z \times T = (v\sin\theta) \times (2\pi m/(qB))\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 角度\(\theta\)の取り扱い: 問題文の「y軸から角度\(\theta\)」を正しく図に反映し、速度成分を \(v\cos\theta\), \(v\sin\theta\) に分解する際に、どちらがどの成分に対応するかを間違えない。
  • ローレンツ力の向き: フレミングの左手の法則を適用する際、電荷が正であること、電流の向き、磁場の向き、力の向きを一つ一つ丁寧に確認する。
  • 円運動の半径と周期: 半径の式には円運動の速さが入るが、周期の式には速さが入らない(\(m, q, B\) のみで決まる)ことをしっかり区別する。
  • 文字の書き間違い: \(m, v, q, B, r, T, \theta\) など多くの記号が出てくるので、混同したり書き間違えたりしないように注意する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • (3)の解が(1)や(2)の特殊な場合を含んでいるか確認:
    • (3)で \(\theta=0\) とすると、\(v_z=0\), \(v_y’=v\)。らせん運動は半径 \(mv/(qB)\) の円運動(xy平面内)になり、OP間(z方向の進み)は0。これは(1)の状況と一致する。
    • (3)で \(\theta=\pi/2\) とすると、\(v_z=v\), \(v_y’=0\)。xy平面での円運動の半径は0(円運動しない)、z軸方向には速さ \(v\) で等速直線運動。これは(2)の状況と一致する。
  • 物理量の次元(単位)の確認: 例えば、周期の次元が[時間]になっているか、半径や距離の次元が[長さ]になっているかなどを確認する。
  • 極端な条件: \(B \to 0\) のとき、ローレンツ力は0に近づくので、円運動の半径は無限大に発散し、周期も無限大になるはず。(1)や(3)の式がそれを示しているか(分母に\(B\)がある)。
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