「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第30章】基本問題527~532

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基本問題

527 核反応

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「核分裂と連鎖反応のメカニズム」です。原子力発電の基本原理である、ウランの核分裂反応がどのようにして始まり、どのようにして継続していくのか、その一連のプロセスに関する基本的な用語の知識が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 核反応の種類: 原子核が変化する反応には、重い原子核が分裂する「核分裂」と、軽い原子核が合体する「核融合」があることを理解していること。
  2. 核分裂のトリガー: ウラン235のような原子核の核分裂は、特定の粒子が衝突・吸収されることによって引き起こされることを知っていること。
  3. 連鎖反応の原理: 1回の核分裂によって放出された粒子が、次の核分裂の引き金となり、反応が連続して起こる仕組みを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 文章を順に読み解き、各空欄が核分裂反応のプロセスのどの部分(きっかけ、現象名、継続の仕組み)を指しているのかを把握します。
  2. それぞれの空欄について、物理学的な定義と最も合致する用語を選択肢から選びます。

空欄 ア

思考の道筋とポイント
「ウラン235の原子核に が衝突し吸収される」ことで反応が始まり、反応後には「複数個の(ア)に分かれる」と記述されています。この反応のきっかけとなり、かつ反応後にも生成される粒子 が何かを特定します。

この設問における重要なポイント

  • 原子核は、正の電荷を持つ陽子と、電荷を持たない中性子で構成されており、全体として正に帯電しています。
  • 正の電荷を持つ陽子(①)や、負の電荷を持つ電子(③)は、原子核に近づくと電気的な力(反発力や引力)を受けます。特に陽子は原子核と反発するため、衝突させるのは容易ではありません。
  • 電荷を持たない中性子(②)は、電気的な反発を受けずに原子核に近づき、吸収されやすい性質があります。
  • ウラン235の核分裂は、この中性子が原子核に吸収されることで誘発されます。そして、その反応の結果、新たに2~3個の中性子が放出されます。

具体的な解説と立式
問題文の記述「(ア)が衝突し」「複数個の(ア)に分かれる」は、核分裂反応の入力と出力に同じ種類の粒子が関わっていることを示しています。ウラン235の核分裂反応は、熱中性子(速度の遅い中性子)が原子核に吸収されることで引き起こされ、その結果として核が分裂し、複数個の高速な中性子が放出される、というプロセスです。したがって、空欄 には「中性子」が入ります。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

原子核はプラス電気を帯びた塊です。ここにプラス電気の「陽子」をぶつけようとしても、磁石の同じ極同士のように反発してしまいます。しかし、電気的に中立な「中性子」であれば、反発されることなく原子核にスッと入り込むことができます。ウランの核分裂は、この中性子がぶつかることをきっかけにスタートし、反応後にも次の反応のきっかけとなる中性子が飛び出してきます。

結論と吟味

核分裂反応を引き起こし、かつ反応後にも放出されて次の反応の担い手となる粒子は中性子です。したがって、選択肢②が最も適当です。

解答 (ア)

空欄 イ

思考の道筋とポイント
「ウラン235の原子核に(ア)が吸収されると、2つの別の原子核と複数個の(ア)に分かれる。この現象を という」という記述から、この現象そのものの名称を答えます。

この設問における重要なポイント

  • 核反応は、原子核が変化する反応の総称です。
  • 核分裂(④): 1つの重い原子核が、中性子などを吸収して不安定になり、2つ(またはそれ以上)のより軽い原子核に分裂する現象です。ウランの反応はこちらに該当します。
  • 核融合(⑤): 2つの軽い原子核が、非常に高い温度と圧力の下で合体し、1つのより重い原子核になる現象です。太陽の中心で起きている反応がこれに当たります。
  • 放射性崩壊(⑦): 不安定な原子核が、放射線(α線、β線、γ線など)を放出して、別の原子核に自発的に変わる現象です。外部から粒子を衝突させる必要はありません。

具体的な解説と立式
問題文の「1つのウラン原子核が」「2つの別の原子核に分かれる」という記述は、まさに「核分裂」の定義そのものです。したがって、空欄 には「核分裂」が入ります。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

大きくて不安定な雪だるまに小石(中性子)をぶつけたら、2つの小さな雪だるまと、いくつかの雪の破片(中性子)にバラバラになった、というイメージです。このように、1つの重い原子核が分裂する現象を、その名の通り「核分裂」と呼びます。

結論と吟味

重い原子核が分裂する現象の名称は核分裂です。したがって、選択肢④が最も適当です。

解答 (イ)

空欄 ウ

思考の道筋とポイント
「この現象によって生じた(ア)が別のウラン235の原子核に吸収され、さらに次々と同様な現象がくり返される反応を という」という記述から、反応が連続して起こる仕組みの名称を答えます。

この設問における重要なポイント

  • 1回の核分裂で、入力した1個の中性子に対し、出力として平均2.5個程度の中性子が得られます。
  • この出力された中性子が、次の核分裂の入力となることで、反応がネズミ算式に増えていきます。
  • このように、ある反応の結果が次の同じ反応の原因となって、反応が持続・拡大していく現象を一般に「連鎖反応」と呼びます。

具体的な解説と立式
1回の核分裂で放出された中性子(ア)が、次の核分裂の引き金(トリガー)となる。この反応が、まるで鎖の輪がつながっていくように連続して発生することから、この現象を「連鎖反応」と呼びます。原子力発電所ではこの反応を制御しながらゆっくりと行い、原子爆弾では無制御に一気に行うことで、莫大なエネルギーを解放します。したがって、空欄 には「連鎖反応」が入ります。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

ドミノ倒しをイメージしてください。最初の1個を倒すこと(最初の核分裂)がきっかけとなり、それが次のドミノを倒し、そのドミノがさらに次のドミノを倒し…というように、反応が次から次へと自動的に広がっていきます。このように反応が鎖のようにつながっていく現象を「連鎖反応」と呼びます。

結論と吟味

核分裂が連続して持続的に起こる反応の名称は連鎖反応です。したがって、選択肢⑥が最も適当です。

解答 (ウ)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 核分裂と連鎖反応のメカニズム:
    • 核心: この問題の根幹は、原子力エネルギーの解放原理である「核分裂」と、その反応を継続・増幅させる「連鎖反応」のメカニズムを、一連のストーリーとして正しく理解しているかという点にあります。
    • 理解のポイント:
      • 入力(トリガー): 核分裂は、外部から「中性子」が1個入力されることから始まります。
      • 反応(プロセス): 中性子を吸収した重い原子核(例:ウラン235)が、2つの軽い原子核に「核分裂」します。
      • 出力(次のトリガー): このとき、莫大なエネルギーと同時に、新たに「複数個の中性子」が放出されます。
      • 継続(ループ): 放出された中性子が、周りにある別のウラン235原子核に吸収され、次の核分裂を引き起こします。これが「連鎖反応」です。
      • この「入力→反応→出力→次の入力…」という一連の流れをセットで覚えることが最も重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 核融合との比較: 核分裂と対になる概念である「核融合」に関する空欄補充問題。「軽い原子核どうしが合体して重い原子核になる反応を(核融合)といい、太陽の中心で起きている」といった形式です。
    • 原子炉の制御: 連鎖反応を制御する方法を問う問題。「原子炉では、(制御棒)を挿入して中性子を吸収させ、連鎖反応の速度を調整している」といった内容です。
    • 放射性崩壊との違い: 「ウラン238がα線を放出してトリウムに変わる現象は(放射性崩壊)である」のように、核分裂と、粒子を衝突させずに自発的に起こる放射性崩壊との違いを問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 反応の主体を見極める: 問題文が「重い原子核が分裂する」話なのか、「軽い原子核が合体する」話なのかをまず確認します。これで「核分裂」か「核融合」かの大きな方向性が決まります。
    2. 反応の「きっかけ」と「結果」に注目する: 反応が「自発的に」起こるのか、それとも「粒子が衝突して」起こるのか。また、反応の結果として何が放出されるのかに注目します。「中性子が衝突し、中性子が放出される」という記述があれば、それは核分裂の連鎖反応の可能性が非常に高いです。
    3. 反応のスケール感(1回か、連続か): 問題文が1回きりの反応について述べているのか(イ:核分裂)、それとも反応が次々と続く様子を述べているのか(ウ:連鎖反応)を区別して読み取ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 核分裂と核融合の混同:
    • 誤解: どちらも核反応であるため、重い原子核が分裂するのがどちらで、軽い原子核が合体するのがどちらか混同してしまう。
    • 対策: 「分裂」は「分かれて裂ける」、「融合」は「融(と)けて合う」という漢字の意味をそのまま覚えましょう。ウランのような重い原子核は不安定なので「分裂」しやすく、水素のような軽い原子核は超高温・超高圧下で「融合」しやすい、と具体的な例とセットで記憶するのが効果的です。
  • 連鎖反応と放射性崩壊の混同:
    • 誤解: どちらも原子核が変化する連続的な現象であるため、区別が曖昧になる。
    • 対策: 「連鎖反応」は、反応で生まれた粒子が次の反応の引き金になる、ドミノ倒しのような現象です。一方、「放射性崩壊」は、それぞれの原子核が周りとは無関係に、自発的に崩壊していく現象です。きっかけが必要かどうかが大きな違いです。
  • 核分裂のきっかけとなる粒子の誤解:
    • 誤解: 原子核には陽子と中性子があるので、陽子をぶつけても核分裂が起きるのではないかと考えてしまう。
    • 対策: 原子核は陽子によって全体がプラスに帯電しているため、同じプラスの電荷を持つ陽子は電気的な反発力(クーロン力)によって簡単には近づけません。電気的に中性である「中性子」だからこそ、反発を受けずに原子核に吸収されやすい、という物理的な理由を理解しておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 因果関係に基づくストーリー理解:
    • 選定理由: この問題は、公式ではなく、一連の物理現象の因果関係を正しく捉えることが求められます。そのため、各用語を単独の知識として覚えるのではなく、一連のストーリーとして論理的に結びつけて理解することが重要です。
    • 適用根拠:
      1. 原因: なぜ核分裂が起きるのか? → (ア:中性子)が衝突するから。
      2. 現象: その結果何が起きるのか? → (イ:核分裂)という現象が起きる。
      3. 結果と次の原因: 核分裂の結果、次の反応の引き金となる中性子が放出され、反応が続いていく。この仕組みを何と呼ぶか? → (ウ:連鎖反応)。

      このように、「原因→現象→結果」という論理的な連鎖をたどることで、各空欄に入るべき用語が必然的に決まります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 用語の定義の正確な暗記: この問題は知識問題であり、計算はありません。ミスを防ぐには、各用語の定義を正確に覚えることが最も重要です。
    • キーワード対比表の作成: ノートに「核分裂 vs 核融合」「連鎖反応 vs 放射性崩壊」といった対比表を作り、それぞれの「主体(重い核/軽い核)」「きっかけ(中性子/不要)」「現象(分裂/合体)」などを簡潔にまとめてみましょう。違いを明確に意識することで、混同を防げます。
    • 模式図を描いてみる: ウランの原子核に中性子が当たり、2つの原子核と複数の中性子に分かれる様子を、簡単な丸で描いてみましょう。さらに、その放出された中性子が別のウラン原子核に向かっていく矢印を描き加えることで、連鎖反応のイメージを視覚的に捉えることができます。
    • 声に出して説明する: 「ウラン235に中性子が当たると核分裂が起きて、そのとき飛び出した中性子がまた別のウランに当たって連鎖反応になる」という一連の流れを、何も見ずに声に出して説明できるか試してみましょう。他人に説明できるレベルで理解していれば、知識は定着しています。

528 放射線

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「放射線の種類と性質の理解」です。不安定な原子核から放出される放射線には、α線、β線、γ線の3つの主要な種類があり、それぞれの「正体」と、それに起因する「性質(電荷、透過力、電離作用)」を正確に理解し、区別できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 放射線の正体:
    • α線:ヘリウムの原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) の流れ。
    • β線:高速な電子 \(e^-\) の流れ。
    • γ線:波長の短い高エネルギーの電磁波。
  2. 放射線の電荷:
    • α線:陽子2個を含むため、正の電荷(\(+2e\))を持つ。
    • β線:電子であるため、負の電荷(\(-e\))を持つ。
    • γ線:電磁波(光の仲間)であるため、電荷を持たない。
  3. 透過力: 物質を通り抜ける能力。電荷を持たず、物質と相互作用しにくいγ線が最も強く、電荷が大きく重いα線が最も弱い。(強さの順:γ線 > β線 > α線)
  4. 電離作用: 物質中を通過する際に、原子から電子を弾き飛ばしてイオンに変える能力。電荷が大きくエネルギーを失いやすいα線が最も強く、電荷を持たないγ線が最も弱い。(強さの順:α線 > β線 > γ線)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)から(7)の各説明文が、「正体」「電荷」「性質」のどれについて述べているかを読み取ります。
  2. α線、β線、γ線のそれぞれの特徴をまとめた上のリストと照らし合わせ、最も合致する放射線を選択します。

問(1)

思考の道筋とポイント
「エネルギーの大きな電子である」という記述は、放射線の「正体」について述べています。α線、β線、γ線のうち、どれが電子の流れであるかを特定します。

この設問における重要なポイント

  • α線の正体はヘリウム原子核。
  • β線の正体は電子。
  • γ線の正体は電磁波。

具体的な解説と立式
放射線の定義によれば、β線は原子核内の中性子が陽子に変わる際などに放出される、高速な電子の流れです。したがって、この説明はβ線に合致します。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

放射線には3人のキャラクターがいて、それぞれ正体が違います。この問題は「正体が『電子』なのは誰ですか?」と聞いています。これはβ線の自己紹介そのものです。

結論と吟味

「エネルギーの大きな電子」はβ線の定義そのものです。したがって、②が正解です。

解答 (1)

問(2)

思考の道筋とポイント
「エネルギーの大きな、ヘリウムの原子核である」という記述も、放射線の「正体」に関するものです。3種類の放射線のうち、ヘリウム原子核の流れであるものを特定します。

この設問における重要なポイント

  • α線の正体はヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))。
  • β線の正体は電子。
  • γ線の正体は電磁波。

具体的な解説と立式
放射線の定義によれば、α線は陽子2個と中性子2個からなるヘリウムの原子核の流れです。したがって、この説明はα線に合致します。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

今度は「正体が『ヘリウムの原子核』なのは誰ですか?」という質問です。これはα線の自己紹介そのものです。

結論と吟味

「エネルギーの大きな、ヘリウムの原子核」はα線の定義そのものです。したがって、①が正解です。

解答 (2)

問(3)

思考の道筋とポイント
「波長の短い電磁波である」という記述も、放射線の「正体」に関するものです。3種類の放射線のうち、粒子ではなく電磁波(光の仲間)であるものを特定します。

この設問における重要なポイント

  • α線とβ線は粒子(質量を持つ)の流れ。
  • γ線は電磁波(質量を持たない)の一種。X線よりもさらに波長が短く、エネルギーが高い。

具体的な解説と立式
放射線の定義によれば、γ線は原子核がエネルギーの高い状態から低い状態へ移る際に放出される、高エネルギーの電磁波です。したがって、この説明はγ線に合致します。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

最後に「正体が『電磁波』なのは誰ですか?」という質問です。α線とβ線は粒のつぶてのようなものですが、γ線だけは目に見えない強力な光のようなものです。したがって、これはγ線の説明です。

結論と吟味

「波長の短い電磁波」はγ線の定義そのものです。したがって、③が正解です。

解答 (3)

問(4)

思考の道筋とポイント
「正の電気を帯びている」という記述は、放射線の「電荷」に関するものです。それぞれの放射線の正体を考え、どの粒子が正の電荷を持つかを判断します。

この設問における重要なポイント

  • α線(ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\)): 陽子2個(正電荷)と中性子2個(電荷なし)からなるため、全体として正の電荷を持つ。
  • β線(電子 \(e^-\)): 電子そのものであるため、負の電荷を持つ。
  • γ線(電磁波): 光の仲間なので、電荷を持たない。

具体的な解説と立式
上記ポイントの検討により、正の電気を帯びているのはα線のみです。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

電気の性質についての質問です。α線はプラスの電気を持つ陽子を2個含んでいるので、全体としてプラスです。β線はマイナスの電気を持つ電子そのものなので、マイナスです。γ線は電気を帯びていません。したがって、「プラスの電気」を持つのはα線です。

結論と吟味

正の電荷を持つのはα線だけです。したがって、①が正解です。

解答 (4)

問(5)

思考の道筋とポイント
「負の電気を帯びている」という記述も、放射線の「電荷」に関するものです。(4)と同様に、それぞれの正体から電荷を判断します。

この設問における重要なポイント

  • α線: 正の電荷を持つ。
  • β線: 負の電荷を持つ。
  • γ線: 電荷を持たない。

具体的な解説と立式
上記ポイントの検討により、負の電気を帯びているのはβ線のみです。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

今度は「マイナスの電気」を持つのは誰か、という質問です。β線の正体は電子であり、電子はマイナスの電気を持っているので、答えはβ線です。

結論と吟味

負の電荷を持つのはβ線だけです。したがって、②が正解です。

解答 (5)

問(6)

思考の道筋とポイント
「透過力が最も強い」という記述は、放射線の「性質」に関するものです。3種類の放射線のうち、物質を通り抜ける能力が最も高いものはどれかを特定します。

この設問における重要なポイント

  • 透過力は、物質との相互作用のしにくさで決まります。
  • α線: 電荷が大きく(\(+2e\))重いため、物質と激しく相互作用し、すぐにエネルギーを失い止まります。透過力は最も弱い(紙1枚で止まる)。
  • β線: α線よりは軽いが電荷(\(-e\))を持つため、物質と相互作用します。透過力は中間(数mmのアルミ板で止まる)。
  • γ線: 電荷を持たないため、物質と相互作用しにくく、原子の間をすり抜けていきます。透過力は最も強い(厚い鉛やコンクリートが必要)。

具体的な解説と立式
上記ポイントの検討により、透過力が最も強いのはγ線です。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

「壁などを通り抜ける能力(透過力)」が一番高いのは誰か、という質問です。α線は大きくて重いので、すぐにぶつかって止まります。β線はもう少し進めます。γ線は電気を帯びていない幽霊のような存在なので、物質の中をスイスイと通り抜けていきます。したがって、γ線が最も透過力が強いです。

結論と吟味

電荷を持たないγ線が最も透過力が強いという性質は、放射線を理解する上で非常に重要です。したがって、③が正解です。

解答 (6)

問(7)

思考の道筋とポイント
「電離作用が最も強い」という記述も、放射線の「性質」に関するものです。「電離作用」とは、他の原子から電子をはぎ取る能力のことです。透過力とは逆の性質になります。

この設問における重要なポイント

  • 電離作用は、物質との相互作用のしやすさで決まります。
  • α線: 電荷が\(+2e\)と大きく、質量も大きいため、他の原子に近づいたときに強い電気力で電子を引きはがします。電離作用は最も強い。
  • β線: 電荷は\(-e\)でα線より小さく、質量も軽いので、電離作用は中間。
  • γ線: 電荷を持たないので、直接的に電子を引きはがす力は弱いです。電離作用は最も弱い。
  • 一般に、透過力と電離作用の強さは逆の関係になります。

具体的な解説と立式
上記ポイントの検討により、電離作用が最も強いのはα線です。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

「他の物質をイオンに変える能力(電離作用)」が一番強いのは誰か、という質問です。これは、通り道にいる他の原子にちょっかいを出して、電子を奪い取る能力のことです。α線は体が大きくて電気も強いので、最もちょっかいを出す力が強く、すぐにエネルギーを使い果たして止まります(透過力が弱い)。したがって、α線が最も電離作用が強いです。

結論と吟味

電離作用が最も強いのはα線であるという事実は、透過力が最も弱いことと表裏一体の関係にあります。したがって、①が正解です。

解答 (7)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 放射線の正体とそれに起因する性質の関連性:
    • 核心: この問題の根幹は、α線、β線、γ線の「正体」を正確に記憶し、その正体(粒子か電磁波か、電荷の有無・大小、質量の大小)から、二次的な性質(透過力、電離作用)がどのように決まるのかを論理的に理解することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 「正体」がすべての基本: まず、α線=\({}_{2}^{4}\text{He}\)原子核、β線=\(e^-\)、γ線=電磁波、という3つの定義を完璧に覚えることが出発点です。
      • 「電荷」は正体から決まる:
        • α線:陽子2個を持つ → 正電荷。
        • β線:電子そのもの → 負電荷。
        • γ線:光の仲間 → 電荷なし。
      • 「性質」は電荷と質量から決まる:
        • 相互作用の強さ: 物質との相互作用(他の原子に影響を与える度合い)は、基本的に「電荷が大きいほど」「質量が大きいほど」強くなります。したがって、相互作用の強さは α > β > γ の順になります。
        • 電離作用と透過力: 「電離作用」は相互作用の強さと比例し、「透過力」は相互作用の強さと反比例します。
          • 電離作用(相互作用しやすい): α > β > γ
          • 透過力(相互作用しにくい): γ > β > α
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 放射線の軌跡を問う問題: 磁場や電場中に放射線を入射させたときの軌跡を描かせる、あるいは選ばせる問題。フレミングの左手の法則やローレンツ力を使い、電荷の正負と進行方向から曲がる向きを判断します。(α線とβ線は逆向きに曲がり、γ線は直進する。)
    • 放射線の遮蔽: 「α線を止めるには紙で十分だが、γ線を止めるには厚い鉛が必要である」といった、具体的な遮蔽物質と関連付けた問題。
    • 放射性崩壊の種類: α崩壊(原子番号が2、質量数が4減少)、β崩壊(原子番号が1増加、質量数は変化しない)、γ崩壊(原子番号も質量数も変化しない)の規則性を問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「正体」を問うているか「性質」を問うているか: 問題文が「~である」と断定している場合(例:電子である)、それは「正体」を問うています。「~が最も強い」と比較している場合(例:透過力が最も強い)、それは「性質」を問うています。この区別を最初につけることが重要です。
    2. 性質の問いは「トレードオフ」を思い出す: 「透過力」と「電離作用」は、基本的にトレードオフ(一方が強ければ他方は弱い)の関係にあることを思い出しましょう。「透過力が最も強いのは?」と聞かれたら、「つまり、相互作用が一番弱いやつだな」→「電荷がないγ線だ」と連想できます。「電離作用が最も強いのは?」なら、「相互作用が一番強いやつだな」→「電荷が大きくて重いα線だ」と推論できます。
    3. 電荷の正負を判断する: 電荷に関する問いでは、まず正体を思い出し、その構成粒子(陽子、電子)から電荷を判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 透過力と電離作用の関係の混同:
    • 誤解: どちらが強くてどちらが弱いのか、ごちゃ混ぜになってしまう。
    • 対策: ボウリングの球でイメージするのが効果的です。
      • α線: 大きくて重いボウリング球。ピン(原子)に当たると派手に弾き飛ばす(電離作用が強い)が、すぐに勢いを失って止まる(透過力が弱い)。
      • γ線: 小さくて軽いピンポン玉(むしろ幽霊)。ピン(原子)の間をすり抜けて奥まで進む(透過力が強い)が、ピンをほとんど倒せない(電離作用が弱い)。
      • β線はその中間です。このイメージで「透過力⇔電離作用」の逆相関関係を覚えましょう。
  • α線の正体の勘違い:
    • 誤解: α線を「ヘリウム原子」そのものだと思ってしまう。
    • 対策: α線は、ヘリウム原子から電子2個が剥ぎ取られた「ヘリウム原子」であると正確に覚えましょう。電子を持っていないからこそ、全体として \(+2e\) の正電荷を持ちます。
  • γ線とβ線の混同:
    • 誤解: ギリシャ文字の見た目が似ているため、性質を取り違えてしまう。
    • 対策: β(ベータ)は英語の “body” (体、粒子) のB、γ(ガンマ)は光の波をイメージさせる形、とこじつけでも良いので自分なりの覚え方を作りましょう。β線が粒子で、γ線が波(電磁波)であることが区別の基本です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 定義に基づく知識の体系化:
    • 選定理由: この問題は、公式ではなく、定義された知識をいかに体系的に整理し、応用できるかを試すものです。思考の出発点は、常に3種類の放射線の「正体」の定義です。
    • 適用根拠: 物理学における多くの性質は、その対象の根源的な定義から論理的に導かれます。
      1. 定義(公理): α線はヘリウム原子核、β線は電子、γ線は電磁波である。
      2. 第一階層の性質(定理1): 上記の定義から、電荷はそれぞれ正、負、なしであると導かれる。
      3. 第二階層の性質(定理2): 定義と定理1から、物質との相互作用の強弱が決まり、それによって透過力と電離作用の強弱が導かれる。

      このように、一つの基本定義から、ドミノ倒しのように他の性質が論理的に導出されるという知識の階層構造を意識することが、この問題を解く上での「思考法」となります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 知識整理のための比較表作成: この問題は知識問題なので、ミスを防ぐには情報の整理が最も重要です。
    • ノートに、行を「α線」「β線」「γ線」、列を「正体」「電荷」「質量(大小)」「透過力(順位)」「電離作用(順位)」「遮蔽物(例)」とした表を作成しましょう。
    • この表を自分で埋めることで、3者の違いが明確になり、記憶が整理されます。特に「透過力」と「電離作用」の順位が逆になることを視覚的に確認できます。
  • 語呂合わせやイメージの活用:
    • 「アルファ(α)は一番偉い(重い)から、電離作用(影響力)は一番強いが、遠くへは行けない(透過力は弱い)」
    • 「ガンマ(γ)線は幽霊(ghost)のG。壁をすり抜ける(透過力が強い)が、物に触れない(電離作用が弱い)」
    • 自分に合った覚えやすいイメージや語呂合わせを作ることで、混同しやすい知識を確実に記憶することができます。
  • 消去法によるアプローチ: もし一つの説明文がどの放射線か分からなくても、他の確実な説明文から埋めていくことで、残りの選択肢を絞ることができます。例えば、(1)~(3)の「正体」に関する問いを先にすべて解いてしまえば、残りの性質に関する問いを考える際に、より少ない選択肢の中から判断できます。

529 放射線

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「放射線の性質と人体への影響を表す線量の定義」です。放射線が人体に与える影響を正しく評価するために、物理的な性質(電離作用、透過力)だけでなく、放射線防護で用いられる様々な「線量」の定義と単位を正確に理解しているかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電離作用と透過力の関係: 放射線の種類によって、物質原子から電子を弾き飛ばす能力(電離作用)と、物質を通り抜ける能力(透過力)が異なること。一般に、この二つの性質は逆の相関関係にあります。
  2. 吸収線量 [Gy]: 放射線から物質が吸収したエネルギーの量を物理的に表す指標。放射線の種類や人体への影響は考慮されていません。
  3. 等価線量 [Sv]: 吸収線量に、放射線の種類(α線、β線、γ線など)による生物学的効果の違いを補正する係数を掛けたもの。
  4. 実効線量 [Sv]: 各組織・臓器の等価線量に、それぞれの組織の放射線感受性の違いを補正する係数を掛け、全身について合計したもの。全身へのリスクを評価するための指標です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、α線、β線、γ線の電離作用と透過力の強さを比較し、問題文の記述に合致するものを選択します。
  2. (2)では、放射線防護で使われる各線量(吸収線量、等価線量、実効線量)の定義を順に理解し、空欄に当てはまる用語とその単位を選択します。

問(1)

思考の道筋とポイント
この設問は、放射線の生物学的影響に関する基本的な性質を問うています。「細胞を傷つける作用」が「電離作用」に、「体内の深い部分に影響を及ぼす」が「透過力」に対応することを理解することが鍵です。

この設問における重要なポイント

  • 細胞を傷つける作用(電離作用)の強さの順は、α線 > β線 > γ線 です。α線は電荷が大きく重いため、狭い範囲に大きなエネルギーを与え、細胞を破壊する力が最も強いです。
  • 透過力の強さの順は、γ線 > β線 > α線 です。γ線は電荷を持たないため物質と反応しにくく、体を深く突き抜けることができます。
  • したがって、「作用が最も大きい」のはα線、「深い部分に影響を及ぼす」のはγ線となります。

具体的な解説と立式

  • 空欄ア: 「人体の細胞を傷つける作用が最も大きい」のは、電離作用が最も強い放射線です。これはα線に該当します。
  • 空欄イ: 「体内の深い部分にも影響を及ぼす」のは、透過力が最も強い放射線です。これはγ線に該当します。

したがって、アには① α、イには③ γが入ります。

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

放射線をボールに例えてみましょう。
アに入るのは「細胞を傷つける力が一番強い」放射線です。これは、重いボウリングの球のようなα線です。当たった場所を大きく壊しますが、遠くへは飛びません。
イに入るのは「体の奥深くまで届く」放射線です。これは、壁をすり抜ける幽霊のようなγ線です。一つ一つの細胞を壊す力は弱いですが、体の内部にある重要な臓器まで到達してしまいます。

結論と吟味

電離作用が最も強いのはα線、透過力が最も強いのはγ線であるという放射線の基本性質に基づき、アが①、イが③と正しく判断できます。

解答 (1) (ア) ① (イ) ③

問(2)

思考の道筋とポイント
この設問は、放射線の人体への影響を評価するために定義されている、いくつかの「線量」とその単位に関する知識を問うています。物理的なエネルギー吸収から、全身のリスク評価へと、段階的に定義が複雑になっていく流れを理解することが重要です。

この設問における重要なポイント

  • ステップ1(物理量): 物質が放射線から吸収したエネルギーそのものを表すのが「吸収線量」(ウ)で、単位は「グレイ [Gy]」(エ)です。(\(1 \, \text{Gy} = 1 \, \text{J/kg}\))
  • ステップ2(生物学的影響): 吸収線量に、放射線の種類(α線は影響大、γ線は影響小など)の違いを考慮したものが「等価線量」です。単位は「シーベルト [Sv]」です。
  • ステップ3(全身リスク): 等価線量に、さらに当たる体の部位(生殖腺は影響大、皮膚は影響小など)の違いを考慮し、全身への影響として評価したものが「実効線量」(オ)です。単位は同じく「シーベルト [Sv]」(カ)です。

具体的な解説と立式

  • 空欄ウ、エ: 「物質1kg当たりが吸収するエネルギー」は、吸収線量の定義そのものです。したがって、ウには⑦「吸収線量」が入り、その単位であるエには⑥「Gy (グレイ)」が入ります。
  • 空欄オ、カ: 「放射線の種類や、放射線を受ける組織・器官などによって、その影響の度合いが異なる。以上のことを考慮して、全身への放射線の影響を表した量」は、最終的なリスク指標である実効線量の定義です。したがって、オには⑧「実効線量」が入り、その単位であるカには④「Sv (シーベルト)」が入ります。

 

使用した物理公式

  • この問題では、特定の物理公式は使用しません。
計算過程

この問題では、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

放射線の影響を測るには、いくつかの「ものさし」があります。
まず、単純に「どれだけエネルギーを受け取ったか」を測る物理的なものさしが「吸収線量[Gy]」(ウ、エ)です。
しかし、放射線にはパンチの重いα線と軽いγ線があります。この「パンチの種類の違い」を考慮したダメージ量を表すのが「等価線量[Sv]」です。
さらに、同じパンチでも「腕に当たる」のと「急所に当たる」のではダメージが違います。この「当たる場所の違い」まで考えて、体全体への影響を評価する最終的なものさしが「実効線量[Sv]」(オ、カ)です。ニュースなどで聞く「シーベルト」は、この最終的な影響を表しています。

結論と吟味

放射線防護で用いられる線量の定義を正しく理解していれば、ウ(吸収線量)、エ(Gy)、オ(実効線量)、カ(Sv)と正しく選択できます。

解答 (2) (ウ) ⑦ (エ) ⑥ (オ) ⑧ (カ) ④

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 放射線の性質と線量の段階的定義:
    • 核心: この問題の根幹は、放射線の物理的性質(電離作用・透過力)と、人体への影響を評価するために段階的に定義された3つの線量(吸収線量、等価線量、実効線量)の関係性を体系的に理解しているかという点にあります。
    • 理解のポイント:
      • 物理的性質: (1)で問われた「細胞を傷つける作用(電離作用)」と「体内深部への影響(透過力)」は、放射線そのものが持つ物理的な性質です。
      • 線量の階層構造: (2)で問われた線量は、以下のような階層構造になっています。
        1. 【物理】吸収線量 [Gy]: 物質が吸収したエネルギー量 (\(\text{J/kg}\))。すべての基本となる物理量。
        2. 【生物①】等価線量 [Sv]: 吸収線量に「放射線の種類」による影響の違い(α線は危険、γ線は比較的安全など)を補正したもの。
        3. 【生物②】実効線量 [Sv]: 等価線量に「体の部位」による感受性の違い(生殖腺は敏感、皮膚は鈍感など)を補正し、全身で合計したもの。
      • この「物理量 → 生物学的影響(放射線の種類) → 全身リスク(体の部位)」というステップアップの流れを理解することが、線量概念をマスターする鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 線量の計算問題: 「ある組織がγ線で \(2.0 \, \text{mGy}\) の吸収線量を受けた。γ線の放射線荷重係数を1とすると、等価線量は何 \(\text{mSv}\) か」といった、定義に基づいた簡単な計算問題。(\(2.0 \, \text{mGy} \times 1 = 2.0 \, \text{mSv}\))
    • 放射能(Bq)との違い: 放射線を出す能力(放射能)の単位であるベクレル[Bq]と、放射線を受けた影響(線量)の単位であるグレイ[Gy]やシーベルト[Sv]の違いを問う問題。「Bqは線源の強さ、Svは人体が受けた影響」という区別が重要です。
    • 具体的な被ばく事例: 「自然放射線による年間の被ばく量」「胸部X線検査1回あたりの被ばく量」など、具体的な数値例を挙げて、実効線量の概念を問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物理的性質か、人体影響か: 問題文が「透過力」や「電離作用」について述べていれば、それは放射線自体の物理的な性質の話です。一方、「吸収エネルギー」や「全身への影響」とあれば、それは線量の話だと判断します。
    2. 線量の問いでは「補正」のキーワードを探す:
      • 単に「吸収したエネルギー」なら→吸収線量[Gy]。
      • 「放射線の種類を考慮」とあれば→等価線量[Sv]。
      • 「組織や器官の違い(全身への影響)を考慮」とあれば→実効線量[Sv]。
    3. 単位に注目する: 単位が[Gy]か[Sv]かを見るだけで、どのレベルの線量を話しているのかを推測できます。[Gy]なら吸収線量、[Sv]なら等価線量か実効線量です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 等価線量と実効線量の混同:
    • 誤解: どちらも単位がシーベルト[Sv]であるため、定義が曖昧になってしまう。
    • 対策: 「等価」は放射線の種類を「等しく評価する」ための線量、「実効」は体の部位の違いまで考慮した「実質的な効果」を表す線量、と漢字の意味と関連付けて覚えましょう。「実効線量」が最も総合的なリスク指標であると位置づけることが重要です。
  • ベクレル(Bq)とグレイ(Gy)/シーベルト(Sv)の混同:
    • 誤解: 放射線に関する単位をすべて同じようなものだと考えてしまう。
    • 対策: イメージで区別するのが有効です。
      • ベクレル[Bq]: 懐中電灯の「明るさ(ルーメン)」のようなもの。放射線を出す線源の能力を表す。
      • グレイ[Gy]: 懐中電灯の光が当たった壁が受け取った「熱エネルギー(ジュール)」のようなもの。物質が吸収した物理的なエネルギー量
      • シーベルト[Sv]: 懐中電灯の光が目に当たったときの「眩しさ、ダメージ」のようなもの。人体が受けた生物学的な影響の度合い
  • 電離作用と細胞への影響の関係:
    • 誤解: 透過力が強いγ線の方が、体の奥まで届くので危険だと考えてしまう。
    • 対策: 危険性(細胞を傷つける作用)は、主に電離作用の強さで決まります。α線は透過力は弱く皮膚で止まりますが、もし体内に取り込んでしまうと、特定の臓器に甚大なダメージを与えます。一方、γ線は体を突き抜ける分、エネルギーを体内に落としていく割合は少ないです。状況によって危険性は異なりますが、「単位長さあたりに与えるダメージ」はα線が最も大きいと理解しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 概念の階層的理解:
    • 選定理由: この問題は、公式ではなく概念の理解を問うています。複数の似た概念を正しく使い分けるには、それらの関係性を階層的に整理する思考法が有効です。
    • 適用根拠:
      1. Level 1: 物理現象放射線が物質にエネルギーを与える。→ これを定量化したのが「吸収線量 (Gy)
      2. Level 2: 放射線の種類による補正同じエネルギーでも、α線とγ線では生物への影響が違う。→ 吸収線量に放射線荷重係数を掛けて補正したのが「等価線量 (Sv)
      3. Level 3: 組織の感受性による補正同じ放射線でも、当たる部位によってリスクが違う。→ 等価線量に組織荷重係数を掛けて全身で合計したのが「実効線量 (Sv)

      このように、より現実に即したリスク評価を行うために、どのような補正が加えられていくのか、という論理的なステップを理解することが、これらの用語を正しく使い分けるための根拠となります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 知識のカード化:
    • 「吸収線量」「等価線量」「実効線量」「放射能」といったキーワードで情報カードを作成しましょう。
    • カードの表に用語(例:実効線量)、裏にその「定義」「単位」「キーワード(全身への影響など)」を簡潔に書きます。
    • このカードを使って、用語当てクイズのように繰り返し学習することで、それぞれの定義と単位の結びつきが強固になります。
  • 関連付けで覚える:
    • 「吸収線量[Gy]」は物理的なエネルギー吸収なので、物理学者ルイス・ハロルド・グレイの名前。
    • 「実効線量[Sv]」など生物学的影響は、放射線防護に貢献したロルフ・マキシミリアン・シーベルトの名前。
    • 「放射能[Bq]」は放射能を発見したアンリ・ベクレルの名前。
    • このように、人名と業績を関連付けると、単位の使い分けがしやすくなります。
  • 図やイラストで整理する:
    • 人体図を描き、外部からα線、β線、γ線が入射する様子をイラストにしてみましょう。α線は皮膚で止まり、β線は皮膚の下まで、γ線は体を突き抜ける絵を描くことで、透過力の違いが視覚的に理解できます。
    • 線量の階層構造を、ピラミッド図やフローチャートで表現するのも有効です。土台に「吸収線量」、その上に「等価線量」、頂点に「実効線量」と配置し、各ステップで何の補正が加わるかを書き込むと、関係性が一目瞭然になります。
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530 放射線

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 単位を先に変換してから計算する解法
      • 模範解答が、まずマイクロシーベルト[\(\mu\text{Sv}\)]のまま年間の累積量を計算し、最後にミリシーベルト[\(\text{mSv}\)]へ単位換算するのに対し、別解では、最初に1時間あたりの実効線量をミリシーベルト[\(\text{mSv}\)]に変換してから計算を開始します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算戦略の学習: 最初に最終的な答えの単位系に揃えてから計算するというアプローチは、物理計算における基本的な戦略の一つであり、その有効性を学ぶことができます。
    • 単位換算能力の向上: SI接頭語である「マイクロ(\(\mu\))」と「ミリ(m)」の関係を、計算の早い段階で意識する良い練習となります。
    • 思考の柔軟性: 問題に応じて、計算の途中で単位換算する方が楽か、最初にすべて変換してしまう方が楽か、といった判断力を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「線量率からの積算線量の計算」です。単位時間あたりに受ける放射線の量(線量率)が分かっているときに、ある一定期間に蓄積される放射線の総量(積算線量)を求める、基本的な計算問題です。単位の扱いやSI接頭語の変換を正確に行えるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 線量率と積算線量の関係: 積算線量(総量)は、線量率(単位時間あたりの量)に時間を掛けることで求められるという、物理における基本的な比例関係。
  2. 時間の単位換算: 1年間が何時間になるかを正しく計算できること(1年 = 365日, 1日 = 24時間)。
  3. SI接頭語の理解: マイクロ(\(\mu\))が\(10^{-6}\)、ミリ(m)が\(10^{-3}\)を意味することを理解し、\(\mu\text{Sv}\)と\(\text{mSv}\)の間の単位換算が正しく行えること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、1年間が合計で何時間になるのかを計算します。
  2. 次に、与えられた1時間あたりの実効線量に、計算した総時間を掛けて、1年間の累積実効線量を求めます。この時点での単位はマイクロシーベルト[\(\mu\text{Sv}\)]です。
  3. 最後に、計算結果を問題で要求されているミリシーベルト[\(\text{mSv}\)]に単位換算します。

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