基本問題
415 電池の接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「内部抵抗を持つ電池の直列接続と並列接続」です。電池を複数組み合わせる際に、回路全体の起電力と内部抵抗がどのように変化するかを理解し、流れる電流を計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電池の直列接続: 複数の電池を直列につなぐと、全体の起電力は各電池の起電力の和、全体の内部抵抗も各内部抵抗の和になる。
- 電池の並列接続: 同じ性能の電池を複数並列につなぐと、全体の起電力は1個の電池の起電力と変わらないが、全体の内部抵抗は小さくなる。
- キルヒホッフの第二法則(電圧則): 回路全体の「起電力の和」が、外部抵抗とすべての内部抵抗での「電圧降下の和」に等しいという関係を正しく立式できること。
- キルヒホッフの第一法則(電流則): 並列接続の場合、回路全体の電流が各電池に均等に分配されることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電池2個を直列に接続した回路を考えます。まず、回路全体の合成起電力と合成内部抵抗を求めます。次に、外部抵抗と合成内部抵抗を合わせた回路全体の合成抵抗を計算し、キルヒホッフの第二法則(またはオームの法則)を適用して電流を求めます。
- (2)では、電池2個を並列に接続した回路を考えます。この場合、回路が分岐するため、キルヒホッフの法則をより丁寧(ていねい)に適用する必要があります。外側のループに着目し、電圧則の式を立てて電流を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
電池2個を直列に接続した場合の回路です。この回路は、より強力な一つの電池(合成起電力、合成内部抵抗を持つ)に外部抵抗を接続した、単純な直列回路と見なすことができます。
- 合成起電力: 同じ向きに直列接続されているので、起電力は足し算されます。
- 合成内部抵抗: 内部抵抗も直列接続なので、足し算されます。
- 回路全体の抵抗: 外部抵抗と合成内部抵抗の和になります。
これらの値を用いて、キルヒホッフの第二法則「起電力の和 = 電圧降下の和」を適用します。
この設問における重要なポイント
- 直列接続された電池の合成起電力: \(E_{\text{合成}} = E_1 + E_2\)。
- 直列接続された電池の合成内部抵抗: \(r_{\text{合成}} = r_1 + r_2\)。
- 回路全体の電圧降下は、外部抵抗とすべての内部抵抗で生じる。
具体的な解説と立式
電池2個を直列に接続すると、回路全体は一つのループになります。このループにキルヒホッフの第二法則を適用します。
- 起電力の和: 1.5Vの電池が2個、同じ向きに接続されているので、合成起電力は \(1.5 + 1.5 = 3.0\)V。
- 電圧降下の和: 回路には、外部抵抗1.0Ωと、2個の内部抵抗0.50Ωが直列に接続されています。回路全体を流れる電流を\(I_1\)とすると、各抵抗での電圧降下の和は \(1.0 \times I_1 + 0.50 \times I_1 + 0.50 \times I_1\)。
したがって、「起電力の和 = 電圧降下の和」より、以下の関係式が成り立ちます。
$$ 1.5 + 1.5 = (1.0 \times I_1) + (0.50 \times I_1) + (0.50 \times I_1) $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第二法則(電圧則)
上記で立式した式を整理して \(I_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
3.0 &= (1.0 + 0.50 + 0.50) I_1 \\[2.0ex]
3.0 &= 2.0 I_1 \\[2.0ex]
I_1 &= \frac{3.0}{2.0} \\[2.0ex]
&= 1.5 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
電池を2つ直列につなぐと、パワー(起電力)も内部の通りにくさ(内部抵抗)も2倍になります。つまり、この回路は「3.0Vの電池」と「1.0Ωの内部抵抗」を持つ一つの大きな電池と見なせます。
この大きな電池に、外付けで1.0Ωの抵抗をつないだのと同じです。
回路全体の通りにくさ(合成抵抗)は、内部の1.0Ωと外部の1.0Ωを合わせて2.0Ω。
全体のパワーが3.0Vなので、オームの法則から、流れる電流は \(3.0 \div 2.0 = 1.5\)A と計算できます。
直列接続により、電池1個の場合よりも大きな電流を流せることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
電池2個を並列に接続した場合の回路です。この場合、回路は分岐を持つため、少し複雑になります。外部抵抗を流れる電流を\(I_2\)とします。この電流は、2つの電池から供給されます。電池は同じ性能なので、電流は均等に分かれ、各電池からは \(\frac{I_2}{2}\) の電流が流れ出すと考えられます。
キルヒホッフの第二法則を適用するために、閉じたループを一つ選びます。例えば、「上の電池、外部抵抗、下の電池の接続線」を通る外周のループを考えます。このループには、電源は1つ(上の電池)、抵抗は2つ(外部抵抗と上の電池の内部抵抗)が含まれます。
この設問における重要なポイント
- 同じ電池の並列接続では、回路に供給される電圧は電池1個分の起電力と考える。
- 回路全体の電流\(I_2\)は、各電池に \(\frac{I_2}{2}\) ずつ分かれて流れる。
- ループを一つ選び、電圧則を適用する。
具体的な解説と立式
外部抵抗1.0Ωを流れる電流を\(I_2\)とします。2つの電池は同じものなので、この電流は2つの電池から半分ずつ供給されると考えられます。つまり、各電池を流れる電流は \(\frac{I_2}{2}\) です。
ここで、上の電池と外部抵抗を含む閉回路(図の点線で囲まれた外周の上半分)に着目し、キルヒホッフの第二法則を適用します。
- 起電力の和: このループに含まれる電源は上の電池1個のみなので、1.5V。
- 電圧降下の和:
- 外部抵抗1.0Ωには、電流\(I_2\)が流れるので、電圧降下は \(1.0 \times I_2\)。
- 上の電池の内部抵抗0.50Ωには、電流 \(\frac{I_2}{2}\) が流れるので、電圧降下は \(0.50 \times \frac{I_2}{2}\)。
したがって、「起電力の和 = 電圧降下の和」より、以下の関係式が成り立ちます。
$$ 1.5 = (1.0 \times I_2) + \left(0.50 \times \frac{I_2}{2}\right) $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第一法則(電流則)
- キルヒホッフの第二法則(電圧則)
上記で立式した式を整理して \(I_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.5 &= 1.0 I_2 + 0.25 I_2 \\[2.0ex]
1.5 &= 1.25 I_2 \\[2.0ex]
I_2 &= \frac{1.5}{1.25} \\[2.0ex]
&= \frac{150}{125} \\[2.0ex]
&= \frac{6}{5} \\[2.0ex]
&= 1.2 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
電池を2つ並列につなぐと、全体のパワー(起電力)は1個分と変わりませんが、電流を分担して供給できるので、内部の通りにくさ(内部抵抗)が実質的に半分になります。つまり、この回路は「1.5Vの電池」と「0.25Ωの内部抵抗」を持つ一つの電池と見なせます。
この電池に、外付けで1.0Ωの抵抗をつないだのと同じです。
回路全体の通りにくさ(合成抵抗)は、内部の0.25Ωと外部の1.0Ωを合わせて1.25Ω。
全体のパワーが1.5Vなので、オームの法則から、流れる電流は \(1.5 \div 1.25 = 1.2\)A と計算できます。
並列接続の場合、外部抵抗に流れる電流は1.2Aとなりました。これは(1)の直列接続の場合(1.5A)よりも小さい値です。この問題の条件下では、直列接続の方がより大きな電流を外部抵抗に供給できることがわかります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電池の合成(等価電源):
- 核心: この問題の根幹は、複数の電池の組み合わせを、あたかも一つの電池(等価電源)であるかのように見なして、その合成された起電力と内部抵抗を求めることができるか、という点にあります。この考え方を用いることで、複雑に見える回路を単純な直流回路に置き換えて考えることができます。
- 理解のポイント:
- 直列接続:
- 合成起電力: \(E_{\text{合成}} = E_1 + E_2 + \dots\) (向きが同じ場合)
- 合成内部抵抗: \(r_{\text{合成}} = r_1 + r_2 + \dots\)
- イメージ: パワーも内部抵抗も単純に足し算される。
- 並列接続(同一性能の電池N個の場合):
- 合成起電力: \(E_{\text{合成}} = E_1\) (1個分と変わらない)
- 合成内部抵抗: \(r_{\text{合成}} = \frac{r_1}{N}\)
- イメージ: パワーは変わらないが、電流を分担するため通りやすさ(内部抵抗の逆数)がN倍になり、内部抵抗は1/Nになる。
- 直列接続:
- キルヒホッフの法則の適用:
- 核心: 電池の合成という考え方が難しい場合でも、キルヒホッフの法則はどんな回路にも適用できる万能なツールです。特に(2)の並列接続のように回路が分岐を持つ場合、ループを一つ正しく選び、電圧則を適用することで機械的に解を導くことができます。
- 理解のポイント:
- (1)の直列回路も、もちろんキルヒホッフの法則で解けます。\(E_1+E_2 = I_1 R + I_1 r_1 + I_1 r_2\) という式は、まさに法則そのものです。
- (2)の並列回路では、外側のループ(電池1個+外部抵抗)に着目するのが定石です。このとき、ループ内の電池の内部抵抗には、その電池自身を流れる電流(\(\frac{I_2}{2}\))を掛ける、という点に注意が必要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆向きの直列接続: 起電力\(E_1, E_2\) (\(E_1 > E_2\)) の電池を逆向きに直列接続した場合。合成起電力は差で与えられ \(E_{\text{合成}} = E_1 – E_2\)、内部抵抗は和 \(r_{\text{合成}} = r_1 + r_2\) となります。
- 性能の異なる電池の並列接続: これは高校範囲では難問ですが、キルヒホッフの法則を使えば原理的に解くことができます。各電池から流れ出す電流を\(I_A, I_B\)と未知数で置き、電流則と2つのループに対する電圧則で連立方程式を立てます。
- 最大電力を取り出す問題: 本問の回路に接続する外部抵抗\(R\)を可変にしたとき、\(R\)で消費される電力が最大になる条件を問う問題。合成された電池の内部抵抗\(r_{\text{合成}}\)と、外部抵抗\(R\)が等しくなるとき(\(R=r_{\text{合成}}\))に電力は最大になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 接続方法の確認: まず、電池が直列につながっているか、並列につながっているかを図から正確に読み取ります。
- 向きの確認: 直列の場合、すべての電池が同じ向きか、逆向きのものが含まれていないかを確認します。
- 単純化(等価電源)を試みる: まず、電池群を一つの等価電源と見なせないか考えます。合成起電力と合成内部抵抗が簡単に計算できれば、回路全体が単純な直列回路になり、計算が非常に楽になります。
- 単純化が難しいならキルヒホッフの法則: 性能の異なる電池の並列接続など、単純化が難しい場合は、基本に立ち返り、未知電流を設定してキルヒホッフの法則で連立方程式を立てる方針に切り替えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 並列接続の起電力:
- 誤解: 並列接続でも起電力を足し算してしまい、\(E_{\text{合成}} = 1.5 + 1.5 = 3.0\)V と考えてしまう。
- 対策: 並列接続は、電圧(電位差)を増やすためのものではなく、電流の供給能力を高めたり、電池を長持ちさせたりするための接続方法であると理解しましょう。並列に接続された電池の両端の電位差は、どの電池で見ても同じなので、全体の起電力は1個分と変わりません。
- 並列接続の内部抵抗:
- 誤解: 並列接続でも内部抵抗を足し算してしまう。
- 対策: 抵抗の並列接続の公式 \(\frac{1}{r_{\text{合成}}} = \frac{1}{r_1} + \frac{1}{r_2}\) を適用します。同じ抵抗\(r\)が2個なら \(r_{\text{合成}} = r/2\) となります。電流の通り道が2本に増えるので、全体として通りやすく(抵抗が小さく)なるとイメージしましょう。
- キルヒホッフの法則適用時の電流の選択ミス:
- 誤解: (2)の電圧則の式を立てる際に、内部抵抗での電圧降下を \(0.50 \times I_2\) と計算してしまう。
- 対策: 電圧降下は、その抵抗自身を流れる電流で計算しなければなりません。外部抵抗には回路全体の電流\(I_2\)が流れますが、分岐した先の内部抵抗には、その枝路を流れる電流(\(\frac{I_2}{2}\))しか流れません。ループをたどる際は、各部品をどの電流が流れているかを常に意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 等価電源(電池の合成)の考え方:
- 選定理由: この考え方は、回路をより単純な形にモデル化し、見通しを良くするための強力なツールです。特に直列接続や、同一性能の電池の並列接続では、この方法が最も早く直感的に問題を解くことができます。
- 適用根拠: 複数の電池の組み合わせであっても、その全体をブラックボックスと見れば、外部から見たその性質は、ある一つの起電力と内部抵抗を持つ「等価電源」として表現できる、というテブナンの定理(大学範囲)の考えに基づいています。高校物理では、その簡単なケースとして直列・並列接続を扱います。
- キルヒホッフの法則の選択:
- 選定理由: (2)の模範解答では、等価電源の考え方ではなく、キルヒホッフの法則が用いられています。これは、分岐を含む回路の解析における最も基本的で、どんな状況にも適用できる普遍的な解法だからです。
- 適用根拠: 電荷量保存則(第一法則)とエネルギー保存則(第二法則)は、物理学の根幹をなす法則であり、どのような電気回路にも例外なく適用できます。そのため、どのような複雑な問題に遭遇しても、この法則に立ち返れば必ず解けるという安心感があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図の描き直し: 問題で与えられた図が複雑に見える場合、自分で分かりやすいように回路図を描き直すのが有効です。
- (1)なら、2つの電池と2つの抵抗が輪になっているだけの単純な図を描く。
- (2)なら、電池2つが並列につながり、そこから1本の線が出て外部抵抗につながる図を描く。
視覚的に構造を単純化することで、立式ミスを防ぎます。
- 小数の計算: 1.25 のような小数での割り算は、分数に直す(\(1.25 = \frac{5}{4}\))か、あるいは分母分子を100倍して整数にする(\(\frac{1.5}{1.25} = \frac{150}{125}\))と、計算ミスが減り、約分もしやすくなります。
- 物理的な妥当性の確認:
- (1)と(2)の結果を比較してみましょう。直列(1.5A)の方が並列(1.2A)より大きな電流が流れました。これはなぜでしょうか?
- 直列: \(I_1 = \frac{2E}{R+2r} = \frac{3.0}{1.0+1.0} = 1.5\)A
- 並列: \(I_2 = \frac{E}{R+r/2} = \frac{1.5}{1.0+0.25} = 1.2\)A
この問題では、外部抵抗\(R=1.0\)Ωが内部抵抗\(r=0.5\)Ωより大きいため、起電力を大きくする直列接続の方が有利でした。逆に、もし外部抵抗が非常に小さい場合は、内部抵抗を小さくできる並列接続の方が大きな電流を流せることもあります。このように、得られた結果を比較し、その理由を考察する癖をつけると、物理への理解が深まります。
416 電池の起電力と内部抵抗の測定
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている、グラフ上の2点の座標を端子電圧の式に代入して連立方程式を解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1), (2)の別解: グラフの切片と傾きから直接読み取る解法
- 主たる解法が代数計算によって起電力と内部抵抗を求めるのに対し、この別解では端子電圧の式 \(V = E – rI\) が持つグラフ上の物理的意味(縦軸切片が起電力\(E\)、傾きが\(-r\))に着目し、グラフから直接値を読み取ります。
- 設問(5), (6)の別解: 電力公式 \(P=I^2R\) を用いる解法
- 模範解答が消費電力の計算に \(P=IV\) を用いているのに対し、この別解では \(P=I^2R\) を用いて計算します。これにより、異なる公式を用いても同じ結果が得られることを確認します。
- 設問(1), (2)の別解: グラフの切片と傾きから直接読み取る解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的意味の深化: グラフの切片や傾きが、起電力や内部抵抗という物理量に直接対応していることを理解することで、数式と物理現象の結びつきがより強固になります。
- 解法の多様性と検算能力: 一つの問題に対して、代数的に解く方法とグラフから直接読み取る方法の両方を経験することで、思考の柔軟性が養われます。また、一方の解法で得た結果をもう一方の解法で確認することができ、強力な検算ツールとなります。
- 公式選択の練習: 消費電力の計算において、複数の公式(\(P=IV, P=I^2R\))を場面に応じて使い分ける練習となり、問題解決能力の幅が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電池の電流-電圧特性グラフからの起電力と内部抵抗の読み取り」です。内部抵抗を持つ電池の振る舞いを表すグラフを正しく解釈し、そこから電池の基本性能である起電力(\(E\))と内部抵抗(\(r\))を特定する手法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 端子電圧の式: 内部抵抗\(r\)、起電力\(E\)の電池から電流\(I\)が流れ出ているとき、電池の両端の電圧(端子電圧)\(V\)は、\(V = E – rI\) となることを理解していること。
- グラフの解釈: 上記の端子電圧の式が、縦軸を\(V\)、横軸を\(I\)とするグラフ上で直線を表すことを理解すること。
- 縦軸切片(\(I=0\)の点): 起電力 \(E\) に相当する。
- 傾き: 内部抵抗 \(r\) のマイナス値 (\(-r\)) に相当する。
- 横軸切片(\(V=0\)の点): 電池をショート(短絡)させたときの電流(短絡電流)に相当する。
- オームの法則: 外部抵抗\(R\)にかかる電圧は、その抵抗を流れる電流\(I\)を用いて \(V=RI\) と表せること。グラフ上の各点は、ある特定の\(R\)の値に対応している。
- 電力の公式: 消費電力を計算する公式(\(P=IV, P=I^2R\))を正しく適用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、端子電圧の式 \(V = E – rI\) が直線を表すことに着目します。グラフから読み取りやすい2点の座標をこの式に代入し、\(E\)と\(r\)に関する連立方程式を立てて解きます。
- (3)では、\(R=r\)という条件を、端子電圧の式 \(V=E-rI\) とオームの法則 \(V=RI\) を組み合わせた式に代入し、そのときの電流\(I\)を計算して、グラフ上で対応する点を探します。
- (4)では、「ショート」が外部抵抗\(R=0\)の状態であることを理解し、そのときの電流を端子電圧の式またはグラフから求めます。
- (5), (6)では、状態Bに対応する電圧と電流の値をグラフから読み取り、オームの法則や電力の公式を用いて各物理量を計算します。
問(1), (2)
思考の道筋とポイント
電池の端子電圧\(V\)と電流\(I\)の関係式 \(V = E – rI\) は、\(V\)を縦軸、\(I\)を横軸にとると、\(V\)切片が\(E\)、傾きが\(-r\)の一次関数(直線)となります。したがって、グラフからこれらの値を読み取ることで、起電力\(E\)と内部抵抗\(r\)を求めることができます。
ここでは、計算の精度を高めるため、グラフ上の読み取りやすい2点の座標を式に代入して連立方程式を解く方法をとります。
この設問における重要なポイント
- 端子電圧の式: \(V = E – rI\)。
- グラフ上の点はすべてこの関係式を満たす。
- 読み取りやすい2点の座標を使って連立方程式を解く。
具体的な解説と立式
グラフ上の読み取りやすい2点として、点B(1.0, 1.6)と点F(3.0, 0)を選びます。これらの座標の値を、端子電圧の式 \(V = E – rI\) にそれぞれ代入します。
- 点B (I=1.0, V=1.6) を代入:
$$ 1.6 = E – r \times 1.0 \quad \cdots ① $$ - 点F (I=3.0, V=0) を代入:
$$ 0 = E – r \times 3.0 \quad \cdots ② $$
これで、未知数\(E\)と\(r\)に関する連立一次方程式が2本得られました。
使用した物理公式
- 端子電圧の式: \(V = E – rI\)
連立方程式①, ②を解きます。
②より、
$$ E = 3.0r $$
これを①に代入します。
$$
\begin{aligned}
1.6 &= 3.0r – 1.0r \\[2.0ex]
1.6 &= 2.0r \\[2.0ex]
r &= \frac{1.6}{2.0} \\[2.0ex]
&= 0.80 \, \text{Ω}
\end{aligned}
$$
求まった\(r\)を \(E=3.0r\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= 3.0 \times 0.80 \\[2.0ex]
&= 2.4 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
したがって、起電力\(E\)は2.4V、内部抵抗\(r\)は0.80Ωです。
電池の性能(起電力\(E\)と内部抵抗\(r\))を知るための実験結果が、図2のグラフです。このグラフ上の点はすべて、\(V = E – rI\) という関係式を満たしています。これは、中学数学で習った直線の式 \(y = b + ax\) と同じ形です(\(V\)が\(y\)、\(I\)が\(x\)、\(E\)が切片\(b\)、\(-r\)が傾き\(a\)に対応)。
直線の式を求めるには、通る2点の座標が分かれば十分です。グラフから読みやすいB点とF点の座標をこの式に代入して、連立方程式を解けば、未知数である\(E\)と\(r\)が求まります。
電池の起電力は2.4V、内部抵抗は0.80Ωと求まりました。グラフ上の他の点、例えばC(1.5, 1.2)を代入しても \(1.2 = 2.4 – 0.80 \times 1.5 = 2.4 – 1.2 = 1.2\) となり、式が成り立っていることから、結果は妥当であると確認できます。
思考の道筋とポイント
端子電圧の式 \(V = E – rI\) が持つグラフ上の物理的意味に直接着目します。
- 起電力 \(E\): 電流が流れていない(\(I=0\))ときの電圧なので、グラフの縦軸切片に相当します。
- 内部抵抗 \(r\): グラフの傾きが \(-r\) に相当します。
これらの特徴をグラフから直接読み取ることで、連立方程式を解かずに \(E\) と \(r\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- グラフの縦軸切片 \(\rightarrow\) 起電力 \(E\)。
- グラフの傾き \(\rightarrow\) \(-r\)。
具体的な解説と立式
- (1) 起電力 \(E\):
グラフの直線を左に延長し、縦軸(\(I=0\)の線)との交点を読み取ります。図から、この交点は \(V=2.4\)V であることがわかります。
$$ E = 2.4 \, \text{V} $$ - (2) 内部抵抗 \(r\):
グラフの傾きを計算します。読み取りやすい2点、B(1.0, 1.6)とF(3.0, 0)を使います。
$$ \text{傾き} = \frac{\Delta V}{\Delta I} = \frac{V_F – V_B}{I_F – I_B} $$
この傾きが \(-r\) に等しくなります。
計算過程
$$
\begin{aligned}
\text{傾き} &= \frac{0 – 1.6}{3.0 – 1.0} \\[2.0ex]
&= \frac{-1.6}{2.0} \\[2.0ex]
&= -0.80
\end{aligned}
$$
傾きが \(-r\) なので、
$$
\begin{aligned}
-r &= -0.80 \\[2.0ex]
r &= 0.80 \, \text{Ω}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。グラフの物理的意味を理解していれば、こちらの方法の方がより直感的で素早く解くことができます。
問(3)
思考の道筋とポイント
\(R=r\) の状態が、グラフ上のどの点に対応するかを探す問題です。この回路では、端子電圧\(V\)は外部抵抗\(R\)にかかる電圧でもあるため、オームの法則 \(V=RI\) も同時に成り立っています。
したがって、\(R=r\) のときは \(V=rI\) となります。この関係式と、電池の特性式 \(V=E-rI\) を連立させて、そのときの電流\(I\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 回路では常に \(V=E-rI\) と \(V=RI\) が同時に成り立つ。
- \(R=r\) の条件を代入して、そのときの \(I\) を求める。
具体的な解説と立式
2つの関係式、
$$ V = E – rI \quad \cdots (a) $$
$$ V = RI \quad \cdots (b) $$
が常に成り立っています。
(a)と(b)から、
$$
\begin{aligned}
E – rI &= RI \\[2.0ex]
E &= (R+r)I \\[2.0ex]
I &= \frac{E}{R+r}
\end{aligned}
$$
ここで、条件 \(R=r\) を代入すると、
$$ I = \frac{E}{r+r} = \frac{E}{2r} $$
使用した物理公式
- 端子電圧の式: \(V = E – rI\)
- オームの法則: \(V=RI\)
(1), (2)で求めた \(E=2.4\)V, \(r=0.80\)Ω を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{2.4}{2 \times 0.80} \\[2.0ex]
&= \frac{2.4}{1.6} \\[2.0ex]
&= \frac{24}{16} \\[2.0ex]
&= 1.5 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
電流が1.5Aとなるのは、グラフ上で点Cです。
外部抵抗\(R\)と内部抵抗\(r\)の値が等しくなる特別な状態を探す問題です。このとき、電池が生み出す全電圧\(E\)は、外部抵抗\(R\)と内部抵抗\(r\)でちょうど半分ずつ分け合われることになります。つまり、端子電圧\(V\)は起電力\(E\)の半分、\(V=E/2\)となります。
\(E=2.4\)Vなので、\(V=1.2\)Vです。グラフで\(V=1.2\)Vとなる点を探すと、それは点C(I=1.5A)であることがわかります。
\(R=r\)の状態は、外部で消費される電力が最大になる重要な状態です。このとき、電流は1.5A、電圧は1.2Vとなります。
問(4)
思考の道筋とポイント
電池をショート(短絡)させるということは、外部抵抗が0 (\(R=0\)) の状態で接続することと同じです。このとき、端子電圧は \(V=RI=0 \times I = 0\)V となります。
したがって、グラフ上で \(V=0\) となる点を探せば、それがショートしたときの電流(短絡電流)です。
この設問における重要なポイント
- ショート(短絡) \(\Leftrightarrow\) 外部抵抗 \(R=0\)。
- \(R=0\) のとき、端子電圧 \(V=0\)。
- グラフの横軸切点が短絡電流を表す。
具体的な解説と立式
端子電圧の式 \(V=E-rI\) に、\(V=0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
0 &= E – rI \\[2.0ex]
rI &= E \\[2.0ex]
I &= \frac{E}{r}
\end{aligned}
$$
これが短絡電流の式です。
使用した物理公式
- 端子電圧の式: \(V = E – rI\)
(1), (2)で求めた \(E=2.4\)V, \(r=0.80\)Ω を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{2.4}{0.80} \\[2.0ex]
&= \frac{24}{8} \\[2.0ex]
&= 3.0 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
これは、グラフ上の点Fの座標(3.0, 0)の電流値と一致します。
電池をショートさせるというのは、抵抗が全くない導線でプラスとマイナスをつなぐ、最も危険な状態です。このとき、電気の流れを邪魔するのは電池の中の内部抵抗\(r\)だけになります。したがって、オームの法則から、流れる電流は \(I = E/r\) となります。また、グラフで言うと、外部の電圧が0 (\(V=0\)) の状態なので、横軸との交点を見ればOKです。
短絡電流は3.0Aと求まりました。これは、この電池から取り出すことができる最大の電流値です。
問(5)
思考の道筋とポイント
状態Bにおける外部抵抗\(R_B\)の値と、そこで消費される電力\(P_B\)を求めます。
まず、グラフから状態Bのときの電圧\(V_B\)と電流\(I_B\)の値を正確に読み取ります。
次に、オームの法則 \(V=RI\) を用いて抵抗値 \(R_B = V_B/I_B\) を計算します。
最後に、電力の公式 \(P=IV\) を用いて消費電力 \(P_B = I_B V_B\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- グラフから状態Bの座標(\(I_B, V_B\))を読み取る。
- オームの法則 \(R=V/I\) で抵抗値を計算。
- 電力の公式 \(P=IV\) で消費電力を計算。
具体的な解説と立式
グラフより、状態Bの座標は (I=1.0A, V=1.6V) です。
- 抵抗値 \(R_B\):
オームの法則 \(V_B = R_B I_B\) より、
$$ R_B = \frac{V_B}{I_B} $$ - 消費電力 \(P_B\):
電力の公式 \(P=IV\) より、
$$ P_B = I_B V_B $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 電力の公式: \(P=IV\)
読み取った値を代入します。
- 抵抗値 \(R_B\):
$$
\begin{aligned}
R_B &= \frac{1.6}{1.0} \\[2.0ex]
&= 1.6 \, \text{Ω}
\end{aligned}
$$ - 消費電力 \(P_B\):
$$
\begin{aligned}
P_B &= 1.0 \times 1.6 \\[2.0ex]
&= 1.6 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
グラフのB点に注目する問題です。グラフの縦軸と横軸から、B点では「電流が1.0A、電圧が1.6V」であることが読み取れます。
抵抗の値は、オームの法則から「電圧 ÷ 電流」で計算できます。
消費電力は、単純に「電圧 × 電流」で計算できます。
状態Bは、外部に1.6Ωの抵抗を接続した状態であり、そのとき抵抗では1.6Wの電力が消費されていることがわかりました。
思考の道筋とポイント
消費電力\(P_B\)を、別の公式 \(P=I^2R\) を用いて計算します。状態Bの電流\(I_B\)と、上で計算した抵抗値\(R_B\)を使います。
具体的な解説と立式
電力の公式 \(P=I^2R\) を用います。
$$ P_B = I_B^2 R_B $$
計算過程
\(I_B=1.0\)A, \(R_B=1.6\)Ω を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_B &= (1.0)^2 \times 1.6 \\[2.0ex]
&= 1 \times 1.6 \\[2.0ex]
&= 1.6 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。どの電力公式を使っても正しく計算できることを確認できます。
問(6)
思考の道筋とポイント
状態Bにおいて、内部抵抗\(r\)で生じる電圧降下\(V_r\)と、消費電力\(P_r\)を求めます。
状態Bでは電流が \(I_B=1.0\)A 流れているので、内部抵抗\(r=0.80\)Ωによる電圧降下はオームの法則から計算できます。
消費電力も同様に、内部抵抗\(r\)とそこを流れる電流\(I_B\)を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 注目しているのが「内部抵抗」であることを明確にする。
- 内部抵抗を流れる電流も、外部抵抗と同じ\(I_B\)である。
具体的な解説と立式
状態Bにおいて、電流は \(I_B=1.0\)A、内部抵抗は \(r=0.80\)Ω です。
- 内部抵抗による電圧降下 \(V_r\):
オームの法則より、
$$ V_r = r I_B $$ - 内部抵抗での消費電力 \(P_r\):
電力の公式 \(P=I^2r\) を用いるのが簡単です。
$$ P_r = I_B^2 r $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 電力の公式: \(P=I^2R\)
値を代入します。
- 電圧降下 \(V_r\):
$$
\begin{aligned}
V_r &= 0.80 \times 1.0 \\[2.0ex]
&= 0.80 \, \text{V}
\end{aligned}
$$ - 消費電力 \(P_r\):
$$
\begin{aligned}
P_r &= (1.0)^2 \times 0.80 \\[2.0ex]
&= 0.80 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
電池の「内部」で起きていることを調べる問題です。状態Bでは1.0Aの電流が流れていますが、この電流は電池の内部も通過します。
電池の内部抵抗は0.80Ωなので、ここで「電圧のロス(電圧降下)」と「エネルギーのロス(消費電力)」が発生します。これらをオームの法則と電力の公式で計算します。
内部抵抗による電圧降下は0.80V、消費電力は0.80Wと求まりました。
ここで、エネルギー保存則が成り立っているか検算してみましょう。
- 電源が供給する全電力: \(P_{\text{供給}} = I_B E = 1.0 \times 2.4 = 2.4\)W。
- 外部と内部での消費電力の和: \(P_B + P_r = 1.6 + 0.80 = 2.4\)W。
両者は一致しており、計算の正しさが確認できます。
思考の道筋とポイント
内部抵抗での消費電力\(P_r\)を、別の公式 \(P=IV\) を用いて計算します。この場合の電圧は、内部抵抗にかかる電圧、すなわち内部電圧降下\(V_r\)です。
具体的な解説と立式
電力の公式 \(P=IV\) を用います。
$$ P_r = I_B V_r $$
計算過程
\(I_B=1.0\)A, \(V_r=0.80\)V を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_r &= 1.0 \times 0.80 \\[2.0ex]
&= 0.80 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 端子電圧の式 \(V = E – rI\) とそのグラフ的解釈:
- 核心: この問題の根幹は、内部抵抗を持つ電池の振る舞いを表す最重要式 \(V = E – rI\) を理解し、それを一次関数のグラフとして解釈できるかという点にあります。
- 理解のポイント:
- \(V = E – rI\) の意味: 電池の端子から取り出せる電圧(端子電圧\(V\))は、電池本来の能力(起電力\(E\))から、内部抵抗\(r\)で消費される電圧降下(\(rI\))を差し引いたものである。
- グラフとの対応:
- 縦軸切片 (\(I=0\)): 電流が流れていないとき、内部での電圧降下は0。よって端子電圧は起電力に等しい (\(V=E\))。
- 傾き: グラフの傾き \(\frac{\Delta V}{\Delta I}\) は、式の係数から \(-r\) に等しい。グラフが右下がりなのは、電流を多く取り出すほど内部でのロスが増え、端子電圧が下がることを意味する。
- 横軸切片 (\(V=0\)): 端子電圧が0になる状態、つまり電池をショートさせた状態。このときの電流が短絡電流 \(I = E/r\)。
- オームの法則 \(V=RI\) との連立:
- 核心: 回路が動作しているとき、電池の端子電圧\(V\)は、同時に外部抵抗\(R\)にかかる電圧でもあります。したがって、電池の特性を表す \(V=E-rI\) と、外部回路の性質を表す \(V=RI\) が常に同時に成り立っている、という視点が重要です。
- 理解のポイント: グラフ上の直線上の点は、すべて \(V=E-rI\) を満たします。そして、その各点(A, B, C…)は、それぞれ異なる外部抵抗\(R\)を接続したときの動作状態を表しており、その点においては \(V=RI\) も満たされています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 外部抵抗Rでの消費電力が最大の点: (3)で求めた \(R=r\) の状態(点C)は、外部抵抗での消費電力 \(P=IV\) が最大になる点です。グラフ上で \(P=IV\) が最大となる点を求めさせる問題は頻出です。
- グラフの交点問題: 豆電球のような非線形抵抗の特性曲線と、電池の特性直線 \(V=E-rI\) を同じグラフに描き、その交点として回路の動作点を求める問題。本問の考え方を応用できます。
- 電池の効率: 電池の効率\(\eta\)は、電源が供給する全電力(\(EI\))のうち、外部で有効に使われた電力(\(VI\))の割合、\(\eta = \frac{VI}{EI} = \frac{V}{E}\)で与えられます。グラフの各点について、効率を計算させる問題などに応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- V-I図か、I-V図か: まず、グラフの縦軸と横軸がそれぞれ何を表しているかを確認します。縦軸がV、横軸がIなら、切片が\(E\)、傾きが\(-r\)と直感的に対応します。
- 読み取りやすい格子点を探す: グラフから値を読み取る際は、できるだけ目盛りの線上に正確に乗っている点(格子点)を2点探します。これにより、計算の誤差を最小限に抑えられます。
- 問われている物理量と式の関係を整理:
- 起電力\(E\), 内部抵抗\(r\) \(\rightarrow\) \(V=E-rI\) を使う。
- 外部抵抗\(R\) \(\rightarrow\) \(V=RI\) を使う。
- 消費電力\(P\) \(\rightarrow\) \(P=IV, P=I^2R, P=V^2/R\) のどれが使いやすいか考える。
- 「ショート」「開放」の意味を理解: 「ショート(短絡)」は\(R=0\)、\(V=0\)の状態。「開放」は\(R \rightarrow \infty\)、\(I=0\)の状態。これらがグラフのどの点に対応するかを即座に判断できるようにします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 傾きと内部抵抗の符号:
- 誤解: グラフの傾きがそのまま内部抵抗\(r\)だと勘違いしてしまう。
- 対策: \(V = E – rI\) の式を、数学の \(y = b + ax\) と比較し、傾き\(a\)に相当するのは\(-r\)であることを明確に意識します。グラフは右下がりなので傾きは負であり、抵抗\(r\)は正の値なので、\(r = -(\text{傾き})\) となります。
- 有効数字の処理:
- 誤解: グラフから読み取った値や計算結果の有効数字を考慮しない。
- 対策: 問題文に「有効数字2桁で表せ」という指示がある場合、それに従う必要があります。グラフの読み取りは通常、最小目盛りの1/10まで読み取りますが、本問では格子点が明確なので、1.0A, 1.6Vのように読み取れます。計算結果も、\(E=2.4\)V, \(r=0.80\)Ω のように、指示された桁数に合わせることを忘れないようにしましょう。
- 消費電力の計算対象の混同:
- 誤解: (6)で内部抵抗での消費電力を問われているのに、外部抵抗での消費電力と同じように計算してしまう。
- 対策: 問題文をよく読み、「どの部品の」「どの物理量」を問われているのかを正確に把握します。(5)は外部抵抗\(R\)について、(6)は内部抵抗\(r\)について問われています。計算に使う抵抗値も、\(R_B=1.6\)Ωと\(r=0.80\)Ωで明確に区別する必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 端子電圧の式 \(V=E-rI\):
- 選定理由: この式は、内部抵抗を持つ電池の振る舞いを記述する、この問題の出発点となる最重要公式です。実験で測定される端子電圧\(V\)と電流\(I\)の関係を、電池の内部パラメータである\(E\)と\(r\)に結びつける唯一の式です。
- 適用根拠: この式は、電池を含んだ閉回路に対するキルヒホッフの第二法則(エネルギー保存則) \(E = V + rI\) を変形したものです。したがって、どのような外部抵抗を接続しても、この電池自身の特性として常に成り立ちます。
- 電力の公式の使い分け \(P=IV\) vs \(P=I^2R\):
- 選定理由: (5), (6)の別解で示したように、消費電力の計算には複数の公式が使えます。
- 適用根拠:
- \(P=IV\): 電圧と電流が直接分かっている場合に最も計算が簡単な公式。抵抗値が不明な部品(豆電球など)や、抵抗値を計算する手間を省きたい場合に有効。
- \(P=I^2R\): 電流と抵抗値が分かっている場合に有効。特に、直列回路のように電流が共通な場合に、各部品の消費電力を比較しやすい。
どちらを使っても結果は同じですが、その場の状況で最も計算が楽な公式を選択する判断力が求められます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの情報を表にまとめる: グラフから読み取った情報を、以下のような簡単な表にまとめると、思考が整理され、計算ミスが減ります。
状態 電流 I [A] 電圧 V [V] 外部抵抗 R=V/I [Ω] A 0.5 2.0 4.0 B 1.0 1.6 1.6 C 1.5 1.2 0.80 F 3.0 0 0 - 連立方程式の確実な処理: (1), (2)を連立方程式で解く場合、加減法が有効です。\(1.6 = E – 1.0r\)\(0 = E – 3.0r\)上の式から下の式を引くと、\(1.6 = 2.0r\) となり、Eが消去されてrがすぐに求まります。
- エネルギー保存則による検算: (5), (6)で求めた値を使い、エネルギーが保存しているかを確認する。
- 電源の供給電力: \(P_{\text{供給}} = EI_B = 2.4 \times 1.0 = 2.4\) W
- 消費電力の和: \(P_B + P_r = 1.6 + 0.80 = 2.4\) W
供給電力と消費電力の和が一致することを確認できれば、計算が正しいという強い確信が得られます。
417 電力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(イ)の別解1: 相加・相乗平均の関係を用いる解法
- 模範解答が代数的な式変形(平方完成に似た手法)で分母の最小値を求めるのに対し、別解では相加・相乗平均の関係を用いてより簡潔に最小値を導出します。
- 設問(イ)の別解2: 微分法を用いる解法
- 消費電力の式を抵抗\(R\)の関数とみなし、微分法(数学III)を用いて最大値を求める、より解析的なアプローチです。
- 設問(イ)の別解3: 内部抵抗の概念を応用する解法
- 回路を「内部抵抗を持つ電池」と「外部抵抗」のモデルとみなすことで、計算を一切行わずに物理法則から直接答えを導きます。
- 設問(イ)の別解1: 相加・相乗平均の関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 数学的アプローチの多様性: 同じ物理現象に対して、代数的手法、相加・相乗平均、微分法といった異なる数学的道具でアプローチする経験は、問題解決能力の幅を広げます。
- 物理的本質の深化: 別解3のように、問題をより一般的な物理モデルに当てはめて考えることで、「なぜその条件で最大になるのか」という物理的な背景への理解が深まります。
- 解法の効率化: 別解1や別解3は、主たる解法よりも少ない計算ステップで答えに到達できるため、実戦的な時間短縮に繋がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「直流回路における消費電力と、その最大値問題」です。特に、回路の一部分の消費電力が、抵抗値の変化によってどのように変わるかを分析し、最大となる条件を求めることが中心となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則: 回路の電圧、電流、抵抗の関係を正しく理解していること。
- 消費電力の公式: \(P=IV=I^2R=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) の3つの形を理解し、状況に応じて最適な式を選択できること。
- 合成抵抗: 直列接続された抵抗の合成抵抗が、各抵抗の和で与えられることを理解していること。
- 関数の最大・最小問題: 物理法則から導かれた式を、ある変数の関数とみなし、その最大値または最小値を与える条件を数学的に求める能力。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、回路「全体」の消費電力が与えられているため、オームの法則と電力の公式を用いて、回路全体の抵抗値から未知の抵抗値を逆算します。
- (イ)では、「可変抵抗」の消費電力を、その抵抗値\(R\)の関数として立式します。そして、その関数が最大値をとる条件を、式変形や数学的な定理を用いて見つけ出します。
問(ア)
思考の道筋とポイント
回路「全体」の消費電力が与えられている点がポイントです。したがって、回路全体の電圧(電源電圧)、回路全体の抵抗(合成抵抗)、回路全体の消費電力の関係式を立てるのが最も直接的な解法です。電力の公式のうち、電圧と抵抗で表される \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を使うと、電流を計算する必要がなく、一手で解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 直列回路の合成抵抗は、各抵抗値の和で計算できる。
- 回路全体について考えるときは、電圧、抵抗、電力もすべて「全体」の値を用いる。
- 3つの電力公式 \(P=IV, P=I^2R, P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) のうち、問題で与えられている量(今回は電圧\(V\)と電力\(P\))から求めたい量(抵抗\(R\))を最も簡単に計算できる式を選ぶ。
具体的な解説と立式
可変抵抗の抵抗値を \(R_{\text{ア}}\) [Ω] とします。この抵抗と \(4.0\) Ωの抵抗は直列に接続されているため、回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) はその和となります。
$$ R_{\text{全体}} = R_{\text{ア}} + 4.0 $$
電源の電圧は \(V=20\) V、回路全体の消費電力は \(P_{\text{全体}}=20\) W です。これらの関係を、電力の公式 \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) に当てはめます。
$$ P_{\text{全体}} = \frac{V^2}{R_{\text{全体}}} $$
したがって、立式は以下のようになります。
$$ 20 = \frac{20^2}{R_{\text{ア}} + 4.0} $$
使用した物理公式
- 直列回路の合成抵抗: \(R_{\text{合成}} = R_1 + R_2\)
- 消費電力: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
上記で立式した方程式を \(R_{\text{ア}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
20 &= \frac{20^2}{R_{\text{ア}} + 4.0} \\[2.0ex]
R_{\text{ア}} + 4.0 &= \frac{400}{20} \\[2.0ex]
R_{\text{ア}} + 4.0 &= 20 \\[2.0ex]
R_{\text{ア}} &= 20 – 4.0 \\[2.0ex]
R_{\text{ア}} &= 16
\end{aligned}
$$
この問題は「家全体で20Wの電力を使っているとき、調整できる抵抗(可変抵抗)の値はいくつですか?」と聞いています。電源は20Vです。物理の公式「電力 = (電圧 × 電圧) ÷ 抵抗」を使うと、回路全体の抵抗がわかります。実際に計算すると、全体の抵抗は20Ωです。この20Ωは、可変抵抗と、もともとあった4.0Ωの抵抗を足した値なので、引き算をすれば可変抵抗の値は \(20 – 4.0 = 16\)Ω だとわかります。
回路全体の消費電力が20Wのとき、可変抵抗の抵抗値は \(16\) Ωとなります。抵抗値は正の値であり、物理的に妥当な結果です。
問(イ)
思考の道筋とポイント
この設問の核心は、「可変抵抗での」消費電力が最大になる条件を求めることです。(ア)とは違い、回路全体ではなく一部分に着目している点が重要です。
まず、可変抵抗の消費電力 \(P\) を、その抵抗値 \(R\) の関数として表現することが第一歩です。直列回路なので、まず回路全体を流れる電流 \(I\) を \(R\) を用いて表し、次に電力の公式 \(P=I^2R\) を使って \(P\) を \(R\) の関数で表します。
その結果得られる \(P(R) = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) という分数関数が、どのような \(R\) の値のときに最大になるか、という数学の問題に帰着します。模範解答では、この式を巧みに変形して、分母が最小になる条件から答えを導いています。
この設問における重要なポイント
- 注目すべきは「可変抵抗での」消費電力であること。
- 消費電力 \(P\) を、変化させる抵抗値 \(R\) のみの関数として立式すること。
- \(P=I^2R\) の式において、電流 \(I\) も \(R\) の値によって変化することに注意する。(\(P\) は単純に \(R\) に比例するわけではない)
- 分数関数の最大値を求めるための、数学的な式変形の技術。
具体的な解説と立式
可変抵抗の抵抗値を \(R\) [Ω]、固定抵抗の値を \(r=4.0\) [Ω]、電源電圧を \(E=20\) V とします。
まず、回路全体を流れる電流 \(I\) をオームの法則から求めます。
$$ I = \frac{E}{R+r} \quad \cdots ① $$
次に、可変抵抗 \(R\) で消費される電力 \(P\) を、公式 \(P=I^2R\) を用いて計算します。①を代入すると、
$$ P = \left( \frac{E}{R+r} \right)^2 R = \frac{E^2 R}{(R+r)^2} \quad \cdots ② $$
この式が最大となる条件を探します。このままでは分かりにくいので、分母と分子を \(R\) で割ります(\(R>0\) なので問題ありません)。
$$ P = \frac{E^2}{\frac{(R+r)^2}{R}} = \frac{E^2}{\frac{R^2+2Rr+r^2}{R}} = \frac{E^2}{R + 2r + \frac{r^2}{R}} $$
この式から、\(P\) が最大になるのは、分母の \(R + 2r + \frac{r^2}{R}\) が最小になるときだとわかります。
模範解答では、②の式を別の形で変形しています。分母と分子を \(\sqrt{R}\) で割る(分母は \((\sqrt{R})^2=R\) で割るのと同じ)と、
$$ P = \frac{E^2}{\left( \frac{R+r}{\sqrt{R}} \right)^2} = \frac{E^2}{\left( \sqrt{R} + \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2} \quad \cdots ③ $$
この分母の \( \left( \sqrt{R} + \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2 \) が最小になる条件を考えます。ここで、数学公式 \((a+b)^2 = (a-b)^2 + 4ab\) を利用します。
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
- 消費電力: \(P = I^2 R\)
- 数学的関係式: \((a+b)^2 = (a-b)^2 + 4ab\)
式③の分母の項に、\(a=\sqrt{R}\), \(b=\displaystyle\frac{r}{\sqrt{R}}\) として数学公式を適用します。
$$
\begin{aligned}
\left( \sqrt{R} + \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2 &= \left( \sqrt{R} – \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2 + 4 \cdot \sqrt{R} \cdot \frac{r}{\sqrt{R}} \\[2.0ex]
&= \left( \sqrt{R} – \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2 + 4r
\end{aligned}
$$
この式において、\(r\) は定数(\(4.0\)Ω)です。第1項の \( \left( \sqrt{R} – \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2 \) は、実数の2乗なので必ず0以上になります (\(\ge 0\))。
したがって、この分母の式が最小値をとるのは、\( \left( \sqrt{R} – \frac{r}{\sqrt{R}} \right)^2 = 0 \) となるときです。
この条件は、
$$ \sqrt{R} – \frac{r}{\sqrt{R}} = 0 $$
$$ \sqrt{R} = \frac{r}{\sqrt{R}} $$
両辺に \(\sqrt{R}\) を掛けて、
$$ R = r $$
となるときです。
よって、消費電力 \(P\) は、可変抵抗の値 \(R\) が固定抵抗の値 \(r\) と等しくなるときに最大となります。
$$ R = r = 4.0 \, [Ω] $$
「可変抵抗で使われる電力を最大にするには、抵抗値をいくらにすればよいか?」という問題です。抵抗値を小さくしすぎると、電流はたくさん流れますが抵抗自体が小さいので電力はあまり大きくならず、逆に抵抗値を大きくしすぎると、今度は電流が流れにくくなってやはり電力は小さくなってしまいます。
つまり、ちょうど良い「頃合い」の値があるはずです。この関係を数式で表し、数学のテクニックを使って「山のてっぺん」を探すと、可変抵抗の値が、もう一方の固定抵抗の値と全く同じ \(4.0\)Ω になったときに、電力が最大になることがわかります。
可変抵抗での消費電力が最大になるのは、その抵抗値が直列接続された固定抵抗の値と等しい \(4.0\) Ωのときである、という結果が得られました。これは「内部抵抗と外部抵抗が等しいときに外部抵抗での消費電力が最大になる」という、物理学でよく知られた重要な結果と一致しており、妥当なものです。
思考の道筋とポイント
消費電力の式を \(P = \displaystyle\frac{E^2}{R + 2r + \frac{r^2}{R}}\) と変形したのち、分母が最小になる条件を考えます。分母のうち、\(2r\) は定数なので、変数部分である \(R + \frac{r^2}{R}\) が最小になる条件を求めればよいことになります。ここで、\(R>0\) であることから、数学で学ぶ「相加・相乗平均の関係」を適用することができます。
この設問における重要なポイント
- 相加・相乗平均の関係: 2つの正の数 \(a, b\) について、\(a+b \ge 2\sqrt{ab}\) が常に成り立つ。等号が成立するのは \(a=b\) のとき。
- この関係を適用できる形(和と積)を式の中から見つけ出す洞察力。
具体的な解説と立式
主たる解法と同様に、消費電力 \(P\) は次式で与えられます。
$$ P = \frac{E^2}{R + 2r + \frac{r^2}{R}} $$
\(P\) を最大にするには、分母 \(f(R) = R + \frac{r^2}{R} + 2r\) を最小にする必要があります。
ここで、\(R > 0\) かつ \(\frac{r^2}{R} > 0\) なので、この2つの項に対して相加・相乗平均の関係を適用します。
$$ R + \frac{r^2}{R} \ge 2\sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} $$
使用した物理公式
- 消費電力: \(P = I^2 R\)
- 数学的関係式: 相加・相乗平均の関係
相加・相乗平均の関係を計算すると、
$$
\begin{aligned}
R + \frac{r^2}{R} &\ge 2\sqrt{r^2} \\[2.0ex]
R + \frac{r^2}{R} &\ge 2r
\end{aligned}
$$
この関係の等号が成立するとき、\(R + \frac{r^2}{R}\) は最小値 \(2r\) をとります。
等号が成立する条件は、和をとった2つの数が等しいとき、すなわち、
$$ R = \frac{r^2}{R} $$
$$ R^2 = r^2 $$
\(R>0, r>0\) より、\(R=r\) のときです。
このとき、分母 \(f(R)\) 全体も最小値 \(f(r) = (2r) + 2r = 4r\) をとり、消費電力 \(P\) は最大となります。
したがって、求める抵抗値は \(R=r=4.0\) [Ω] です。
数学には「2つの正の数を足したものは、ある特定の値より必ず大きくなる」という便利な法則(相加・相乗平均の関係)があります。そして、その最小値になるのは、足し合わせた2つの数が等しいときです。
電力の式をうまく変形すると、分母に「\(R + (\text{定数})/R\)」という形が出てきます。この法則を当てはめると、\(R\) と \((\text{定数})/R\) が等しくなるとき、つまり \(R=r\) のときに分母が最小になり、電力が最大になると、複雑な計算なしでわかります。
主たる解法と全く同じ \(R=4.0\) Ω という結果が得られました。相加・相乗平均の関係は、物理における最大・最小問題で頻繁に利用される強力な数学的ツールです。
思考の道筋とポイント
消費電力 \(P\) を抵抗値 \(R\) の関数 \(P(R)\) とみなし、数学IIIで学ぶ微分法を用いて関数の最大値を直接求めるアプローチです。\(P(R)\) を \(R\) で微分して導関数 \(P'(R)\) を求め、\(P'(R)=0\) となる \(R\) の値が最大値を与える候補となります。増減表を作成することで、その候補が実際に最大値を与えることを確認します。
この設問における重要なポイント
- 商の微分法: \(\left(\displaystyle\frac{f(x)}{g(x)}\right)’ = \displaystyle\frac{f'(x)g(x) – f(x)g'(x)}{\{g(x)\}^2}\) を正しく適用できること。
- 導関数の符号と元の関数の増減の関係を理解していること。
具体的な解説と立式
消費電力 \(P\) は \(R\) の関数として次のように表されます。
$$ P(R) = \frac{E^2 R}{(R+r)^2} $$
ここで \(E\) と \(r\) は定数です。この関数を \(R\) について微分します。計算を簡単にするため、定数 \(E^2\) は一旦無視して \(\displaystyle\frac{R}{(R+r)^2}\) の部分を微分します。商の微分法を用いると、
$$ \frac{d}{dR}\left( \frac{R}{(R+r)^2} \right) $$
を計算します。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P = I^2 R\)
- 数学的関係式: 商の微分法
$$
\begin{aligned}
P'(R) &= E^2 \cdot \frac{d}{dR}\left( \frac{R}{(R+r)^2} \right) \\[2.0ex]
&= E^2 \cdot \frac{\left(\frac{d}{dR}R\right) \cdot (R+r)^2 – R \cdot \left(\frac{d}{dR}(R+r)^2\right)}{\left((R+r)^2\right)^2} \\[2.0ex]
&= E^2 \cdot \frac{1 \cdot (R+r)^2 – R \cdot 2(R+r) \cdot 1}{(R+r)^4} \\[2.0ex]
&= E^2 \cdot \frac{(R+r) – 2R}{(R+r)^3} \\[2.0ex]
&= E^2 \cdot \frac{r-R}{(R+r)^3}
\end{aligned}
$$
\(P'(R)=0\) となるのは、分子が0になるときなので、\(r-R=0\)、すなわち \(R=r\) のときです。
ここで増減を調べます。\(E^2 > 0\), \((R+r)^3 > 0\) なので、\(P'(R)\) の符号は分子の \(r-R\) の符号と一致します。
- \(0 < R < r\) のとき: \(r-R > 0\) なので \(P'(R) > 0\)。よって \(P(R)\) は増加。
- \(R > r\) のとき: \(r-R < 0\) なので \(P'(R) < 0\)。よって \(P(R)\) は減少。
したがって、\(P(R)\) は \(R=r\) のときに極大かつ最大となります。
求める抵抗値は \(R=r=4.0\) [Ω] です。
微分とは、関数のグラフのある点での「傾き」を調べるための数学の道具です。消費電力のグラフを想像したとき、電力が最大になる「山のてっぺん」では、接線の傾きは水平、つまりゼロになるはずです。そこで、電力の式を微分して「傾きの式」を求め、その傾きがゼロになるような抵抗 \(R\) の値を探します。計算の結果、\(R\) が固定抵抗 \(r\) と同じ \(4.0\)Ω のときに傾きがゼロになることがわかり、これが電力が最大になる点だと確認できます。
微分を用いることで、代数的な工夫をせずとも機械的な計算によって最大値を与える条件を導くことができました。他の解法と同じ結果が得られ、数学的な正しさが裏付けられます。
思考の道筋とポイント
この問題の回路構成が、物理で学ぶ「内部抵抗を持つ電池と外部抵抗」という典型的なモデルと全く同じであることに気づくことが、この解法の鍵です。電源(20V)と固定抵抗(4.0Ω)をひとまとめにして、「起電力20V、内部抵抗4.0Ωの電池」とみなします。すると、可変抵抗は、この「みなし電池」に接続された「外部抵抗」と考えることができます。
この設問における重要なポイント
- 内部抵抗を持つ電池から、外部抵抗で取り出せる消費電力が最大になる条件を知っていること。
- その条件は「外部抵抗の大きさ = 内部抵抗の大きさ」である。
- 問題の回路を、この一般的なモデルに当てはめて考える抽象化能力。
具体的な解説と立式
物理学において、起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\) の電池に、外部抵抗 \(R\) を接続した回路は頻繁に登場します。
このとき、外部抵抗 \(R\) で消費される電力 \(P\) が最大になるのは、
$$ R = r $$
のときである、ということが重要な法則として知られています。
今回の問題の回路は、
- 電源電圧 \(E=20\) V を「起電力」
- 固定抵抗 \(r=4.0\) Ω を「内部抵抗」
- 可変抵抗を「外部抵抗 \(R\)」
とみなすことができます。
使用した物理公式
- 内部抵抗を持つ電池の、外部抵抗での消費電力が最大となる条件: \(R=r\)
上記の物理法則をこの問題に直接適用します。
可変抵抗 \(R\) での消費電力が最大になる条件は、
$$ R = r $$
問題で与えられた値は \(r=4.0\) Ω なので、
$$ R = 4.0 \, [Ω] $$
となります。この解法では、複雑な式変形や計算は一切不要です。
物理には「電池から最も多くの電力を取り出したいなら、電池が元々持っている内部の抵抗と、外につなぐ機器の抵抗の値を同じにすればよい」という便利な法則があります。
この問題の回路を、「20Vの電源と4.0Ωの抵抗」をひとまとめにして「内部抵抗が4.0Ωの特殊な電池」だと考えてみましょう。すると、可変抵抗は、その電池につなぐ「外部の機器」ということになります。
この法則を当てはめれば、計算するまでもなく、可変抵抗の値が内部抵抗と同じ4.0Ωになったときに、取り出せる電力が最大になると結論できます。
物理法則の知識を適用することで、一切の計算をすることなく結論を導くことができました。これは、問題の構造をより本質的なレベルで理解していることを示す、非常に見通しの良い解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 消費電力の公式の使い分け:
- 核心: 消費電力の公式 \(P=IV=I^2R=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) は3つの形がありますが、これらは等価ではありません。状況に応じて最も計算が簡単になる、あるいは物理的な考察がしやすくなる式を選択する能力が問われます。
- 理解のポイント:
- (ア)のように回路「全体」を考える場合: 電源電圧\(V\)が一定なので、\(P_{\text{全体}} = \displaystyle\frac{V^2}{R_{\text{全体}}}\) を使うのが最も効率的です。
- (イ)のように直列回路の「一部分」を考える場合: 回路のどの部分でも電流\(I\)が共通なので、\(P=I^2R\) を出発点として立式するのが基本です。ここで重要なのは、その電流\(I\)自体が可変抵抗\(R\)の値によって変化する (\(I = E/(R+r)\)) ため、単純に\(P\)が\(R\)に比例するわけではない、という点を理解することです。
- 外部抵抗での消費電力最大条件:
- 核心: 「起電力\(E\)、内部抵抗\(r\)の電源に対し、外部抵抗\(R\)での消費電力が最大になるのは \(R=r\) のときである」という物理法則を理解し、応用できることが重要です。
- 理解のポイント:
- この法則は、単なる公式として暗記するだけでなく、「なぜそうなるのか」を理解しておくことが応用力を高めます。抵抗\(R\)が小さすぎると電流は大きいが\(R\)自体が小さいため電力が伸びず、\(R\)が大きすぎると今度は電流が小さくなりすぎて電力が落ち込む、というトレードオフの関係から、最適な「頃合い」が存在するという物理的イメージを持つことが大切です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電池と豆電球の問題: 「電池に豆電球を1個つなぐより、2個直列につないだ方が電池が長持ちするのはなぜか」といった問題は、本質的に同じ考え方を使います。回路全体の抵抗が増えることで電流が減り、電池からの総供給電力が小さくなるためです。
- 最大仕事率の問題: 機械的な系において、ある力がする仕事率(パワー)が最大になる条件を求める問題も、数学的には類似の構造を持つことがあります。
- インピーダンスマッチング: 交流回路において、電源から負荷へ最も効率よく電力を伝送するためには、電源の内部インピーダンスと負荷のインピーダンスを整合させる必要があります。これは、直流回路における本問の法則を交流に拡張したもので、全く同じ考え方に基づいています。
- 初見の問題での着眼点:
- 「全体の電力」か「一部の電力」か?: 問題が問うている消費電力が、回路全体のものなのか、それとも特定の抵抗でのものなのかを最初に明確にします。これにより、どの電力公式を主軸に考えるべきかの方針が立ちます。
- 何が変数で、何が定数か?: (イ)のように抵抗値が変化する場合、その変化に伴って電流や各部の電圧も変化します。どの物理量が定数(電源電圧など)で、どの物理量が変数(可変抵抗\(R\)、電流\(I\)など)なのかを正確に把握することが、正しい立式の第一歩です。
- 「内部抵抗モデル」は使えないか?: 回路が「電源+固定抵抗+可変抵抗」という直列構成になっている場合、(イ)の別解3のように「電源+固定抵抗」を「内部抵抗を持つ電池」とみなすことで、計算を大幅に簡略化できないか検討します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(P=I^2R\) の単純な比例関係の誤解:
- 誤解: (イ)で、消費電力 \(P=I^2R\) の式を見て、「\(P\)は\(R\)に比例するから、\(R\)が大きければ大きいほど電力は大きくなる」と考えてしまう。
- 対策: \(I\)も\(R\)の関数であることを常に意識します。\(P(R) = (I(R))^2 R\) のように、全ての変数を独立変数\(R\)で表現し直す癖をつけましょう。\(I = E/(R+r)\) を代入すれば、\(P\)が単純な比例関係ではないことが一目瞭然となります。
- 最大値を求める際の数学的処理ミス:
- 誤解: \(P = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) の最大値を求める際に、どう変形してよいかわからなくなる。あるいは、相加・相乗平均の関係を適用する際に、適用条件(正の数であること)を確認せずに使ってしまう。
- 対策: 最大・最小問題には複数のアプローチがあることを知っておくと心に余裕ができます。
- 平方完成に似た代数変形(模範解答)
- 相加・相乗平均(別解1)
- 微分法(別解2)
のいずれかの方法を確実にマスターしておきましょう。特に相加・相乗平均は、分母か分子に「\(x + a/x\)」の形を見つけたら適用を試みる、というパターンを覚えておくと有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (ア)での \(P = V^2/R\) の選択:
- 選定理由: 問題文で与えられているのは回路全体の電圧\(V\)と電力\(P\)であり、求めたいのは全体の抵抗\(R_{\text{全体}}\)に含まれる未知の抵抗値です。この3つの量(\(P, V, R\))を直接結びつける公式が \(P = V^2/R\) であり、電流\(I\)を介さずに済むため、最も計算が少ない選択肢となります。
- 適用根拠: この公式はオームの法則 \(V=IR\) と電力の基本形 \(P=IV\) から導出される (\(P=IV = I(IR) = I^2R\), \(P=IV = (V/R)V = V^2/R\)) ため、オームの法則が成り立つあらゆる回路部分に適用できます。今回は回路全体に適用しています。
- (イ)での \(P = I^2R\) の選択:
- 選定理由: (イ)では、可変抵抗\(R\)と固定抵抗\(r\)が直列に接続されています。直列回路の最も重要な特徴は「電流がどこでも等しい」ことです。したがって、電流\(I\)を基準に考えるのが最も自然です。可変抵抗での消費電力は、この共通の電流\(I\)を用いて \(P=I^2R\) と表すのが、物理的状況を最も素直に反映した立式となります。
- 適用根拠: この式を立てた後、電流\(I\)が\(R\)に依存すること(\(I=E/(R+r)\))を考慮して代入することで、消費電力\(P\)を独立変数\(R\)のみの関数として表現できます。これにより、数学的な最大値問題として解析することが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
(イ)の計算では、\(E=20\), \(r=4.0\) といった数値を最初から代入すると、式が複雑になり、物理的な意味も見失いがちです。\(P = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) のように、最後まで文字式のまま計算を進め、最大値の条件が \(R=r\) であると導き出してから、最後に \(r=4.0\) を代入するのが最も安全で、見通しの良い方法です。 - 分数関数の変形パターンの習得:
\(P = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) のような形の関数の最大値を求めるテクニックは頻出です。- 分母・分子を\(R\)で割り、分母に「\(R + 1/R\)」の形を作る。
- 分母・分子を\(\sqrt{R}\)で割り、分母に「\((\sqrt{R} + 1/\sqrt{R})^2\)」の形を作る。
このどちらかの変形パターンを覚えておき、機械的に実行できるように練習しておくと、試験本番で迷うことがなくなります。
- 物理法則による検算:
(イ)で \(R=4.0\)Ω という答えが出たとき、「これは内部抵抗と外部抵抗が等しいという、あの法則通りの結果だな」と確認する癖をつけましょう。もし計算結果が大きく異なっていれば、どこかで計算ミスを犯した可能性が高いと気づくことができます。物理法則の知識を、計算結果の妥当性をチェックする「検算ツール」として活用することが重要です。
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418 ホイートストンブリッジ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 電位の具体的な計算による解法
- 模範解答が定性的な電位の高低比較で結論を導くのに対し、別解では電源電圧を文字で設定し、実際に各点の電位を計算して大小関係を数学的に証明します。
- 設問(2)の別解: 電位の具体的な計算による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 定性的理解の定量的裏付け: 電位の高低を直感的に判断するだけでなく、実際に計算して確認する経験は、電位の概念に対する理解をより確実なものにします。
- 論理的思考力の養成: 「なぜそうなるのか」を数式を用いて厳密に証明するプロセスは、物理現象を論理的に分析する能力を養います。
- 応用力の向上: より複雑な回路で電位の比較が必要になった場合にも対応できる、汎用性の高い思考法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ホイートストンブリッジの原理とその応用」です。未知の抵抗値を精密に測定するためのこの回路の、平衡(バランス)条件と、平衡が崩れたときに電流がどちらに流れるかを理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ホイートストンブリッジの平衡条件: ブリッジの中央にある検流計に電流が流れない(つまり、2点間の電位が等しい)ための、4つの抵抗が満たすべき関係式を理解していること。
- 電位の概念: 回路の各点の電位が、抵抗による電圧降下によってどのように決まるかを理解していること。電流は電位の高い方から低い方へ流れるという大原則を把握していること。
- 抵抗と電流の関係: 電圧が一定のとき、抵抗が大きいほど電流は流れにくくなるという、オームの法則の基本的な理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「検流計に電流が流れなかった」という情報から、ブリッジが平衡状態にあると判断し、平衡条件の公式に既知の抵抗値を代入して未知の抵抗\(R_x\)を求めます。
- (2)では、抵抗\(R_x\)の値を変えたことで平衡が崩れた状況を考えます。抵抗値の変化によって、点Cと点Dのどちらの電位が高くなるかを判断し、電流の向きを決定します。