405 電流
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、導体内を流れる電流の正体が自由電子の集団的な運動であるという微視的なモデルに基づいて、電流の大きさを表現する式を導出するものです。
この問題の核心は、マクロな物理量である「電流 \(I\)」を、ミクロな物理量である「電子の電気量 \(e\)」「電子の数密度 \(n\)」「電子の速さ \(v\)」「導体の断面積 \(S\)」と結びつけることです。
- 導体の断面積: \(S \text{ [m}^2\text{]}\)
- 自由電子の速さ: \(v \text{ [m/s]}\)
- 単位体積あたりの自由電子の数(数密度): \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)
- 電子の電気量の大きさ(電気素量): \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- (1) \(t\) [s] 間に断面Aを通過する電気量: \(Q \text{ [C]}\)
- (3) 銅の数密度: \(n = 8.5 \times 10^{28} \text{ 個/m}^3\)
- (3) 銅線の断面積: \(S = 1.0 \text{ mm}^2\)
- (3) 電流: \(I = 1.0 \text{ A}\)
- (1) 電流の大きさ \(I\) を、\(Q\) と \(t\) を用いて表す。
- (2) 電流の大きさ \(I\) を、\(e, n, v, S\) を用いて表す。
- (3) 与えられた条件下での自由電子の速さ \(v\) の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 「単位時間あたり」に着目して電流を直接求める解法
- 模範解答が「時間 \(t\) の間に通過する総電気量 \(Q\) を求め、\(I=Q/t\) で割る」のに対し、別解では「電流は単位時間あたりに通過する電気量」という定義から、1秒間に通過する電気量を直接計算して \(I\) を導出します。
- 設問(2)の別解: 「単位時間あたり」に着目して電流を直接求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 定義への回帰: 「電流とは何か」という物理量の定義に立ち返って考えることで、公式の丸暗記ではなく、その成り立ちを根本から理解できます。
- 思考の効率化: 慣れてくると、時間 \(t\) を媒介せずに直接 \(I\) を求める方が、思考のステップが少なくなり、より迅速に立式できるようになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、導出される関係式 \(I=envS\) は完全に一致し、(3)の計算結果にも影響はありません。
この問題のテーマは「電流の微視的表現」です。電流という目に見えない現象を、自由電子という粒子の運動モデルで理解することが目標です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の定義: 電流とは、導体のある断面を単位時間(1秒間)に通過する電気量の大きさである。
- 自由電子モデル: 金属内の自由電子が、電場に引かれて一斉に一定の速さで動くことで電流が生じると考えるモデル。
- 円柱の体積計算: 体積は「底面積 × 高さ」で計算できる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で電流の定義式を正しく記述します。
- 次に、(2)で問題の誘導に従い、時間 \(t\) の間に断面を通過する電子の総数を考え、それらが持つ電気量の合計 \(Q\) を求め、(1)の定義式に代入して \(I\) を導出します。
- 最後に、(3)で(2)で導いた式を \(v\) について解き、与えられた数値を代入して電子の速さを計算します。単位換算に注意が必要です。
問(1) 電流の大きさ \(I\) を、\(Q\) と \(t\) を用いて表す。
思考の道筋とポイント
これは電流の定義そのものを問う問題です。電流とは「単位時間あたりに、ある断面を通過する電気量」と定義されます。この定義を数式で表現することが求められています。
この設問における重要なポイント
- 電流 \(I\) [A]、電気量 \(Q\) [C]、時間 \(t\) [s] の3つの物理量の関係を正しく理解しているかが問われます。
- 「単位時間あたり」という言葉が「時間で割る」という操作に対応することを理解することが重要です。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) の定義は、導体の任意の断面を時間 \(t\) の間に電気量 \(Q\) が通過するとき、その比で与えられます。
$$ I = \frac{Q}{t} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 電流の定義
この設問は定義を式で表すだけなので、計算過程はありません。
電流の強さ \(I\) は、電気の流れの「勢い」のようなものです。例えば、水道の蛇口から \(t\) 秒間に出てきた水の総量が \(Q\) リットルだったとします。このとき、1秒あたりの水の量、つまり水の勢いは「総量 \(Q\) ÷ 時間 \(t\)」で計算できます。電気の流れもこれと全く同じで、電流の勢い \(I\) は「電気の総量 \(Q\) ÷ 時間 \(t\)」で表されます。
電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{Q}{t}\) [A] と表されます。これは電流の定義そのものであり、物理学における基本的な関係式です。
問(2) 電流の大きさ \(I\) を、\(e, n, v, S\) を用いて表す。
思考の道筋とポイント
問題文の図と誘導に従って、電流の正体である自由電子の動きから電流の大きさを導出します。ポイントは、時間 \(t\) の間に断面Aを通過する電子が、もともとどの領域にいたかを考えることです。これらの電子が持つ電気量の総量 \(Q\) を計算し、(1)で確認した \(I=Q/t\) の関係式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 通過する電子の特定: 時刻 \(0\) から \(t\) の間に断面Aを通過する電子は、時刻 \(0\) の時点で断面Aの右側(上流側)で、距離 \(vt\) 以内の領域にいた電子たちです。
- 体積の計算: これらの電子が占める領域は、底面積が \(S\)、高さ(長さ)が \(vt\) の円柱と見なせます。その体積は \(V = S \times vt\) です。
- 総数の計算: 単位体積あたりの電子の数が \(n\) なので、体積 \(V\) の中にいる電子の総数 \(N\) は \(N = nV\) で計算できます。
- 総電気量の計算: 電子1個の電気量の大きさが \(e\) なので、電子 \(N\) 個が持つ電気量の総量 \(Q\) は \(Q = eN\) です。
具体的な解説と立式
時刻 \(0\) から \(t\) [s] の間に、速さ \(v\) [m/s] で移動する電子は \(vt\) [m] の距離を進みます。
したがって、この時間内に断面Aを通過する電子は、時刻 \(0\) の時点で図(a)の斜線部、すなわち断面積 \(S\)、長さ \(vt\) の円柱内に存在していた電子です。
この円柱の体積 \(V\) は、
$$ V = S \times vt = Svt \quad \cdots ① $$
この体積 \(V\) の中に含まれる自由電子の総数 \(N\) は、単位体積あたりの数 \(n\) を用いて、
$$ N = nV = n(Svt) = nSvt \quad \cdots ② $$
これらの電子が持つ電気量の総量 \(Q\) は、電子1個の電気量の大きさ \(e\) を用いて、
$$ Q = eN = e(nSvt) = enSvt \quad \cdots ③ $$
(1)で確認した電流の定義式 \(I = \displaystyle\frac{Q}{t}\) に、この \(Q\) を代入します。
$$ I = \frac{Q}{t} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 電流の定義: \(I = Q/t\)
- 円柱の体積: \(V = (\text{底面積}) \times (\text{高さ})\)
④式に③式を代入して \(I\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{enSvt}{t} \\[2.0ex]
&= envS
\end{aligned}
$$
たくさんの人が一列になって、秒速 \(v\) メートルで歩いているパレードを想像してください。あるゲートを \(t\) 秒間に何人が通過するかを考えます。\(t\) 秒間で列は \(vt\) メートル進むので、ゲートから \(vt\) メートル手前までにいた人たちが全員通過することになります。人の列の断面積を \(S\)、人の密度を \(n\) とすると、通過した人の総数は「密度 \(n\) × 断面積 \(S\) × 長さ \(vt\)」で計算できます。電流もこれと同じで、「人」を「電子」に、「人の密度」を「電子の密度 \(n\)」に置き換え、さらに電子1個が \(e\) という大きさの電気を持っているので、通過した電気の総量 \(Q\) は \(e \times n \times S \times vt\) となります。電流 \(I\) は1秒あたりの量なので、これを時間 \(t\) で割ると \(envS\) となります。
電流の大きさは \(I = envS\) [A] と表されます。この式は、電流が、その担い手である電子の数密度 \(n\)、電気素量 \(e\)、速さ \(v\)、そして導線の断面積 \(S\) にそれぞれ比例することを示しており、物理的に非常に直感的な結果です。これは電流を微視的な視点で理解するための基本となる重要な公式です。
思考の道筋とポイント
電流の定義が「単位時間(1秒)あたりに断面を通過する電気量」であることに着目し、時間 \(t\) を一般的に考えるのではなく、最初から「1秒間」に何が起こるかを考えます。これにより、より直接的に電流 \(I\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 1秒間に進む距離: 電子は1秒間に \(v\) [m] の距離を進みます。
- 1秒間に通過する体積: したがって、断面Aを1秒間に通過する電子は、断面積 \(S\)、長さ \(v\) の円柱内にいた電子たちです。
- 1秒間に通過する電気量: この円柱内に含まれる電子の総電気量が、定義によりそのまま電流 \(I\) の大きさとなります。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、定義により、単位時間(1秒)あたりに断面Aを通過する電気量の大きさです。
1秒間に、電子は \(v\) [m] の距離を進みます。
よって、1秒間に断面Aを通過する電子は、断面積 \(S\)、長さ \(v\) の円柱内に含まれていた電子です。
この「1秒間に通過する円柱」の体積 \(V_1\) は、
$$ V_1 = S \times v = Sv \quad \cdots ① $$
この体積 \(V_1\) の中に含まれる自由電子の総数 \(N_1\) は、
$$ N_1 = nV_1 = n(Sv) = nSv \quad \cdots ② $$
これらの電子が持つ電気量の総量が、1秒あたりに通過する電気量、すなわち電流 \(I\) です。
$$ I = eN_1 = e(nSv) = enSv \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電流の定義
立式の過程で \(I = enSv\) が直接導出されるため、ここでの計算過程はありません。
電流の強さを知りたいので、「1秒間」に注目します。1秒で電子は \(v\) メートル進みます。ということは、断面積 \(S\) のゲートを1秒間に通り抜けるのは、ゲートから \(v\) メートル手前までの範囲にいる電子たち全員です。この電子たちの数を数え(\(n \times S \times v\) 個)、持っている電気量(1個あたり \(e\))を全部足し合わせれば(\(e\) を掛ければ)、それが「1秒あたりの電気量」、つまり電流の大きさ \(I\) になります。
主たる解法と同じく \(I = envS\) [A] という結果が得られました。時間 \(t\) を経由せずに、電流の定義に直接立ち返って考えることで、よりシンプルに式を導出できます。どちらの考え方も理解しておくことが重要です。
問(3) 与えられた条件下での自由電子の速さ \(v\) の値。
思考の道筋とポイント
(2)で導出した関係式 \(I = envS\) を利用します。この式には、求めたい自由電子の速さ \(v\) と、問題文で与えられている物理量(\(I, e, n, S\))が含まれています。式を \(v\) について解き、数値を代入して計算します。最大の注意点は、断面積 \(S\) の単位を mm² から m² へ正しく換算することです。
この設問における重要なポイント
- 式の変形: \(I = envS\) を \(v\) について解くと \(v = \displaystyle\frac{I}{enS}\) となります。
- 単位換算: 断面積 \(S\) が \(1.0 \text{ mm}^2\) で与えられています。SI基本単位であるメートル(m)に合わせる必要があります。
\(1 \text{ mm} = 10^{-3} \text{ m}\) であるから、
\(1 \text{ mm}^2 = (1 \text{ mm}) \times (1 \text{ mm}) = (10^{-3} \text{ m}) \times (10^{-3} \text{ m}) = 10^{-6} \text{ m}^2\)
となります。 - 有効数字: 与えられている数値(\(1.0\) A, \(1.0\) mm², \(8.5 \times 10^{28}\), \(1.6 \times 10^{-19}\))の有効数字はすべて2桁なので、計算結果も2桁で答えるのが適切です。
具体的な解説と立式
(2)で導出した関係式 \(I = envS\) を、求めたい速さ \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{I}{enS} \quad \cdots ① $$
ここに、与えられた数値を代入します。
- \(I = 1.0 \text{ A}\)
- \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- \(n = 8.5 \times 10^{28} \text{ 個/m}^3\)
- \(S = 1.0 \text{ mm}^2 = 1.0 \times 10^{-6} \text{ m}^2\)
使用した物理公式
- 電流の微視的表現: \(I = envS\)
①式に数値を代入して \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{1.0}{(1.6 \times 10^{-19}) \times (8.5 \times 10^{28}) \times (1.0 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{(1.6 \times 8.5) \times (10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6})} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{13.6 \times 10^{-19+28-6}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{13.6 \times 10^{3}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{13600} \\[2.0ex]
&\approx 0.00007352… \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
結果を有効数字2桁で表すために、科学技術表記に直します。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 7.352… \times 10^{-5} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁目を四捨五入すると、
$$ v \approx 7.4 \times 10^{-5} \text{ [m/s]} $$
(2)で作った公式 \(I=envS\) を使って、今度は電子の平均的な速さ \(v\) を逆算する問題です。電流の強さ \(I\)、電子の密度 \(n\)、電子1個の電気量 \(e\)、導線の断面積 \(S\) はすべて分かっているので、公式を「\(v = …\)」の形に変形して、それぞれの値を当てはめて計算します。計算で一番気をつけないといけないのは、断面積の単位を「平方ミリメートル」から「平方メートル」に直すことです。これを忘れると、答えが大きくずれてしまいます。
自由電子の速さは \(v \approx 7.4 \times 10^{-5}\) m/s となります。
これは、\(0.074\) mm/s という非常に遅い速さです。私たちがスイッチを入れると瞬時に電気がつくように感じるのは、導線の中にいる無数の自由電子が、電場によって「一斉に」動き始めるからです。個々の電子がコンセントから電球まで移動するわけではなく、将棋倒しのように電気的な影響が光速に近い速さで伝わるのです。計算結果が非常に小さい値になったことは、この物理的な事実と一致しており、妥当な結果と言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流の定義と微視的モデルの結合:
- 核心: この問題の核心は、マクロな現象である「電流 \(I = Q/t\)」と、その原因であるミクロな「自由電子の集団運動」を結びつけることにあります。電流の正体が、電気素量 \(e\) を持つ多数の荷電粒子(自由電子)が、数密度 \(n\)、平均速度 \(v\) で、断面積 \(S\) の導体中を移動する現象であることを理解することが全てです。
- 理解のポイント: \(I=envS\) という公式は、これらミクロな量を掛け合わせることで、マクロな電流の大きさが決まることを示しています。\(e\) は定数なので、電流を大きくするには「電子の密度 \(n\) を増やす(=材質を変える)」「電子の速度 \(v\) を上げる(=電圧を上げる)」「導線の断面積 \(S\) を大きくする(=太い線を使う)」という方法があることが、この式から直感的に理解できます。
- 通過する粒子の体積計算:
- 核心: 時間 \(t\) の間に特定の断面を通過する粒子の総量を計算する際、「速さ \(v \times\) 時間 \(t = vt\)」で得られる「長さ」が鍵となります。この長さと断面積 \(S\) を掛け合わせた体積 \(Svt\) こそが、通過する粒子がもともといた空間領域を表します。
- 理解のポイント: この考え方は、電流だけでなく、流体力学における流量の計算や、風が窓に及ぼす力を考える際など、様々な物理現象に応用できる非常に汎用性の高い思考ツールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- イオンの移動による電流: 電解液中での陽イオンと陰イオンの移動による電流を考える問題。両方のイオンが電流に寄与しますが、移動方向が逆であることなどを考慮する必要があります。
- 半導体中の電流: 半導体では、負電荷を持つ「電子」と、正電荷を持つと見なせる「正孔(ホール)」の両方が電流の担い手(キャリア)となります。それぞれの密度や移動度(速度)が異なる場合、全体の電流は両者の和として計算されます。
- 気体放電: 真空管や放電管内で、電離した気体イオンと電子が移動することによる電流。
- 初見の問題での着眼点:
- 電流の担い手(キャリア)は何か?: まず、電流を運んでいる粒子が何かを特定します(電子か、イオンか、正孔か)。
- キャリアの情報を整理する: その粒子の電気量 \(q\)、数密度 \(n\)、速さ \(v\) は何かを問題文から読み取ります。複数のキャリアがある場合は、それぞれについて整理します。
- 「単位時間あたり」を考える: 電流を求めたい場合、常に「1秒間に何が起きるか」を考えるのが最も直接的です。1秒間にキャリアが進む距離は \(v\)、そのキャリアが通過する体積は \(Sv\)、その体積内のキャリアの数は \(nSv\)、そしてそれらが運ぶ総電気量は \(qnSv\) となります。これがそのまま電流 \(I\) です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス:
- 誤解: 断面積 \(S\) の単位 \(1.0 \text{ mm}^2\) を \(1.0 \times 10^{-3} \text{ m}^2\) と間違えてしまう。
- 対策: 単位の換算は、元の単位がどう構成されているかを考えるのが確実です。「mm」が \(10^{-3}\) m なので、「mm²」は \((10^{-3} \text{ m})^2 = 10^{-6} \text{ m}^2\) となります。面積なら指数が2倍、体積なら3倍になると覚えておきましょう。
- 電子の速度に関する誤解:
- 誤解: スイッチを入れると瞬時に明かりがつくので、電子も光速に近い速さで移動していると考えてしまう。
- 対策: 計算結果が非常に遅い速度(\(10^{-5}\) m/s のオーダー)になることを知っておくことが重要です。瞬時に明かりがつくのは、導線内の電子が一斉に動き始める「合図」(電場)が光速で伝わるためであり、個々の電子の移動速度(ドリフト速度)は非常に遅い、という物理イメージを確立しておきましょう。
- 電流の向きと電子の移動方向の混同:
- 誤解: 電流の向きと電子の移動方向を同じだと考えてしまう。
- 対策: 「電流の向きは、正電荷が移動する向き」と定義されています。電子は負電荷を持つため、電子が移動する向きと「逆向き」が電流の向きとなります。この問題では大きさのみを扱っていますが、向きが問われる問題では注意が必要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 「動く歩道」のイメージ: 導体を「動く歩道」、自由電子をその上に乗っている「人」とイメージします。電流の大きさは、ゲートを1秒間に通過する「人数」に相当します。人の密度が高く(\(n\) が大きい)、歩道が速く(\(v\) が大きい)、歩道の幅が広い(\(S\) が大きい)ほど、通過人数は増えます。このイメージが \(I=envS\) の式と直結します。
- 問題の図の活用: 問題で与えられた図(a)と(b)は、この問題を解くための思考プロセスそのものを表しています。時刻 \(0\) で断面Aの右側にあった円柱状の電子集団が、時刻 \(t\) にはそっくりそのまま断面Aの左側に移動する。この「電子の塊が移動する」というイメージが、通過した電気量 \(Q\) を計算する上で非常に重要です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 流れの方向を明確にする: 電子の移動方向(例えば左向き)と、電流の向き(右向き)を矢印で明確に区別して描くと、混乱を防げます。
- 体積を意識した図示: 断面を通過する電子の量を考えるときは、単なる線ではなく、問題の図のように「長さ \(vt\)」と「断面積 \(S\)」を持つ「円柱」として立体的に描くことで、体積 \(Svt\) という発想に至りやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電流の定義式 \(I = Q/t\):
- 選定理由: これは物理学における「電流」という量の定義そのものです。他の法則から導かれるものではなく、全ての電流に関する議論の出発点となる大前提の式です。設問(1)で問われ、(2)で \(Q\) を具体的に計算した後に適用するのは、論理的な必然です。
- 適用根拠: アンペア(A)という単位が、クーロン(C)毎秒(s)と定義されていることからも、この式の正当性がわかります。
- 電流の微視的表現 \(I = envS\):
- 選定理由: この式は、電流というマクロな量を、その担い手である電子の性質(\(e, n, v\))というミクロな量と結びつけるための関係式です。設問(2)では、まさにこの関係を導出することが求められており、(3)ではこの導出した式を具体的な計算に利用します。
- 適用根拠: この式は、電流の定義 \(I=Q/t\) と、時間 \(t\) で断面を通過する電子が体積 \(Svt\) 内にいたという幾何学的な考察から、論理的に導出されたものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電流の定義の確認:
- 戦略: 電流の定義を思い出し、式で表現する。
- フロー: ①「電流は単位時間あたりの電気量」→ ② \(I = Q/t\)。
- (2) 電流の微視的表現の導出:
- 戦略: 問題の誘導に従い、時間 \(t\) で断面を通過する電子の総電気量 \(Q\) を求める。
- フロー: ①時間 \(t\) で電子が進む距離は \(vt\) → ②この間に断面を通過する電子がいた体積は \(Svt\) → ③その体積内の電子の総数は \(n \times (Svt)\) → ④それらの総電気量 \(Q\) は \(e \times nSvt\) → ⑤ \(I=Q/t\) に代入し、\(t\) を消去して \(I=envS\) を得る。
- (3) 具体的な数値計算:
- 戦略: (2)で導いた式を、求めたい \(v\) について解き、数値を代入する。
- フロー: ① \(I=envS\) を変形して \(v = I/(enS)\) を得る → ②断面積 \(S\) の単位を mm² から m² に換算する (\(10^{-6}\) 倍) → ③全ての数値を代入し、指数計算と数値計算を慎重に行う → ④有効数字を考慮して最終的な答えを出す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算をまとめる: (3)の計算では、分母に \(10^{-19}\), \(10^{28}\), \(10^{-6}\) が現れます。これらを先にまとめて \(10^{-19+28-6} = 10^3\) と計算してから、係数部分(\(1.6 \times 8.5\))の計算に移ると、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 単位の確認: 計算の最後に、求めた値の単位が本当に m/s になっているかを確認する習慣をつけましょう。\(I[\text{A}=\text{C/s}], e[\text{C}], n[\text{m}^{-3}], S[\text{m}^2]\) なので、\(I/(enS)\) の単位は \((\text{C/s}) / (\text{C} \cdot \text{m}^{-3} \cdot \text{m}^2) = (\text{C/s}) / (\text{C} \cdot \text{m}^{-1}) = \text{m/s}\) となり、確かに速さの単位になっていることが確認できます。
- 概算で桁をチェック: \(1.6 \times 8.5\) は、だいたい \(1.5 \times 9 = 13.5\) くらいだと暗算できます。分母は \(13.5 \times 10^3\) 程度なので、\(1 / (13500)\) となり、答えは \(10^{-4}\) から \(10^{-5}\) のオーダーになるだろうと予測できます。計算結果の桁が大きくずれていないかを確認するのに有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) \(I=envS\): この式は、電流 \(I\) が各パラメータ \(e, n, v, S\) に比例することを示しています。これは「電子の電気量が大きいほど」「密度が高いほど」「速く動くほど」「通り道が太いほど」電流が大きくなるという直感と一致しており、物理的に妥当です。
- (3) \(v \approx 7.4 \times 10^{-5}\) m/s: 前述の通り、この「非常に遅い」という結果は、電流の物理モデルとして正しい描像です。もし計算結果が光速に近いような大きな値になったら、単位換算などの計算ミスを疑うべきです。
- 別解との比較:
- (2)の解法では、「時間 \(t\) の間に通過する量 \(Q\) を求めて \(t\) で割る」方法と、「単位時間(1秒)に通過する量を直接求める」方法がありました。どちらも同じ \(I=envS\) という結論に至ることを確認することで、この公式の正しさと、物理現象に対する多角的なアプローチの有効性を再認識できます。思考プロセスが違っても同じ結論に達することは、その結論が強固なものであることを示唆しています。
405 電流
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、導体内を流れる電流の正体が自由電子の集団的な運動であるという微視的なモデルに基づいて、電流の大きさを表現する式を導出するものです。
この問題の核心は、マクロな物理量である「電流 \(I\)」を、ミクロな物理量である「電子の電気量 \(e\)」「電子の数密度 \(n\)」「電子の速さ \(v\)」「導体の断面積 \(S\)」と結びつけることです。
- 導体の断面積: \(S \text{ [m}^2\text{]}\)
- 自由電子の速さ: \(v \text{ [m/s]}\)
- 単位体積あたりの自由電子の数(数密度): \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)
- 電子の電気量の大きさ(電気素量): \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- (1) \(t\) [s] 間に断面Aを通過する電気量: \(Q \text{ [C]}\)
- (3) 銅の数密度: \(n = 8.5 \times 10^{28} \text{ 個/m}^3\)
- (3) 銅線の断面積: \(S = 1.0 \text{ mm}^2\)
- (3) 電流: \(I = 1.0 \text{ A}\)
- (1) 電流の大きさ \(I\) を、\(Q\) と \(t\) を用いて表す。
- (2) 電流の大きさ \(I\) を、\(e, n, v, S\) を用いて表す。
- (3) 与えられた条件下での自由電子の速さ \(v\) の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 「単位時間あたり」に着目して電流を直接求める解法
- 模範解答が「時間 \(t\) の間に通過する総電気量 \(Q\) を求め、\(I=Q/t\) で割る」のに対し、別解では「電流は単位時間あたりに通過する電気量」という定義から、1秒間に通過する電気量を直接計算して \(I\) を導出します。
- 設問(2)の別解: 「単位時間あたり」に着目して電流を直接求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 定義への回帰: 「電流とは何か」という物理量の定義に立ち返って考えることで、公式の丸暗記ではなく、その成り立ちを根本から理解できます。
- 思考の効率化: 慣れてくると、時間 \(t\) を媒介せずに直接 \(I\) を求める方が、思考のステップが少なくなり、より迅速に立式できるようになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、導出される関係式 \(I=envS\) は完全に一致し、(3)の計算結果にも影響はありません。
この問題のテーマは「電流の微視的表現」です。電流という目に見えない現象を、自由電子という粒子の運動モデルで理解することが目標です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の定義: 電流とは、導体のある断面を単位時間(1秒間)に通過する電気量の大きさである。
- 自由電子モデル: 金属内の自由電子が、電場に引かれて一斉に一定の速さで動くことで電流が生じると考えるモデル。
- 円柱の体積計算: 体積は「底面積 × 高さ」で計算できる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で電流の定義式を正しく記述します。
- 次に、(2)で問題の誘導に従い、時間 \(t\) の間に断面を通過する電子の総数を考え、それらが持つ電気量の合計 \(Q\) を求め、(1)の定義式に代入して \(I\) を導出します。
- 最後に、(3)で(2)で導いた式を \(v\) について解き、与えられた数値を代入して電子の速さを計算します。単位換算に注意が必要です。
問(1)
思考の道筋とポイント
これは電流の定義そのものを問う問題です。電流とは「単位時間あたりに、ある断面を通過する電気量」と定義されます。この定義を数式で表現することが求められています。
この設問における重要なポイント
- 電流 \(I\) [A]、電気量 \(Q\) [C]、時間 \(t\) [s] の3つの物理量の関係を正しく理解しているかが問われます。
- 「単位時間あたり」という言葉が「時間で割る」という操作に対応することを理解することが重要です。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) の定義は、導体の任意の断面を時間 \(t\) の間に電気量 \(Q\) が通過するとき、その比で与えられます。
$$ I = \frac{Q}{t} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 電流の定義
この設問は定義を式で表すだけなので、計算過程はありません。
電流の強さ \(I\) は、電気の流れの「勢い」のようなものです。例えば、水道の蛇口から \(t\) 秒間に出てきた水の総量が \(Q\) リットルだったとします。このとき、1秒あたりの水の量、つまり水の勢いは「総量 \(Q\) ÷ 時間 \(t\)」で計算できます。電気の流れもこれと全く同じで、電流の勢い \(I\) は「電気の総量 \(Q\) ÷ 時間 \(t\)」で表されます。
電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{Q}{t}\) [A] と表されます。これは電流の定義そのものであり、物理学における基本的な関係式です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問題文の図と誘導に従って、電流の正体である自由電子の動きから電流の大きさを導出します。ポイントは、時間 \(t\) の間に断面Aを通過する電子が、もともとどの領域にいたかを考えることです。これらの電子が持つ電気量の総量 \(Q\) を計算し、(1)で確認した \(I=Q/t\) の関係式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 通過する電子の特定: 時刻 \(0\) から \(t\) の間に断面Aを通過する電子は、時刻 \(0\) の時点で断面Aの右側(上流側)で、距離 \(vt\) 以内の領域にいた電子たちです。
- 体積の計算: これらの電子が占める領域は、底面積が \(S\)、高さ(長さ)が \(vt\) の円柱と見なせます。その体積は \(V = Svt\) です。
- 総数の計算: 単位体積あたりの電子の数が \(n\) なので、体積 \(V\) の中にいる電子の総数 \(N\) は \(N = nV\) で計算できます。
- 総電気量の計算: 電子1個の電気量の大きさが \(e\) なので、電子 \(N\) 個が持つ電気量の総量 \(Q\) は \(Q = eN\) です。
具体的な解説と立式
時刻 \(0\) から \(t\) [s] の間に、速さ \(v\) [m/s] で移動する電子は \(vt\) [m] の距離を進みます。
したがって、この時間内に断面Aを通過する電子は、時刻 \(0\) の時点で図(a)の斜線部、すなわち断面積 \(S\)、長さ \(vt\) の円柱内に存在していた電子です。
この円柱の体積 \(V\) は、
$$ V = Svt \quad \cdots ① $$
この体積 \(V\) の中に含まれる自由電子の総数 \(N\) は、単位体積あたりの数 \(n\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
N &= nV \\[2.0ex]
&= nSvt \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これらの電子が持つ電気量の総量 \(Q\) は、電子1個の電気量の大きさ \(e\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
Q &= eN \\[2.0ex]
&= enSvt \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
(1)で確認した電流の定義式 \(I = \displaystyle\frac{Q}{t}\) に、この \(Q\) を代入します。
$$ I = \frac{Q}{t} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 電流の定義: \(I = Q/t\)
- 円柱の体積: \(V = (\text{底面積}) \times (\text{高さ})\)
④式に③式を代入して \(I\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{enSvt}{t} \\[2.0ex]
&= envS
\end{aligned}
$$
たくさんの人が一列になって、秒速 \(v\) メートルで歩いているパレードを想像してください。あるゲートを \(t\) 秒間に何人が通過するかを考えます。\(t\) 秒間で列は \(vt\) メートル進むので、ゲートから \(vt\) メートル手前までにいた人たちが全員通過することになります。人の列の断面積を \(S\)、人の密度を \(n\) とすると、通過した人の総数は「密度 \(n\) × 断面積 \(S\) × 長さ \(vt\)」で計算できます。電流もこれと同じで、「人」を「電子」に、「人の密度」を「電子の密度 \(n\)」に置き換え、さらに電子1個が \(e\) という大きさの電気を持っているので、通過した電気の総量 \(Q\) は \(e \times n \times S \times vt\) となります。電流 \(I\) は1秒あたりの量なので、これを時間 \(t\) で割ると \(envS\) となります。
電流の大きさは \(I = envS\) [A] と表されます。この式は、電流が、その担い手である電子の数密度 \(n\)、電気素量 \(e\)、速さ \(v\)、そして導線の断面積 \(S\) にそれぞれ比例することを示しており、物理的に非常に直感的な結果です。これは電流を微視的な視点で理解するための基本となる重要な公式です。
思考の道筋とポイント
電流の定義が「単位時間(1秒)あたりに断面を通過する電気量」であることに着目し、時間 \(t\) を一般的に考えるのではなく、最初から「1秒間」に何が起こるかを考えます。これにより、より直接的に電流 \(I\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 1秒間に進む距離: 電子は1秒間に \(v\) [m] の距離を進みます。
- 1秒間に通過する体積: したがって、断面Aを1秒間に通過する電子は、断面積 \(S\)、長さ \(v\) の円柱内にいた電子たちです。
- 1秒間に通過する電気量: この円柱内に含まれる電子の総電気量が、定義によりそのまま電流 \(I\) の大きさとなります。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、定義により、単位時間(1秒)あたりに断面Aを通過する電気量の大きさです。
1秒間に、電子は \(v\) [m] の距離を進みます。
よって、1秒間に断面Aを通過する電子は、断面積 \(S\)、長さ \(v\) の円柱内に含まれていた電子です。
この「1秒間に通過する円柱」の体積 \(V_1\) は、
$$ V_1 = Sv \quad \cdots ① $$
この体積 \(V_1\) の中に含まれる自由電子の総数 \(N_1\) は、
$$
\begin{aligned}
N_1 &= nV_1 \\[2.0ex]
&= nSv \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これらの電子が持つ電気量の総量が、1秒あたりに通過する電気量、すなわち電流 \(I\) です。
$$
\begin{aligned}
I &= eN_1 \\[2.0ex]
&= enSv \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電流の定義
立式の過程で \(I = enSv\) が直接導出されるため、ここでの計算過程はありません。
電流の強さを知りたいので、「1秒間」に注目します。1秒で電子は \(v\) メートル進みます。ということは、断面積 \(S\) のゲートを1秒間に通り抜けるのは、ゲートから \(v\) メートル手前までの範囲にいる電子たち全員です。この電子たちの数を数え(\(n \times S \times v\) 個)、持っている電気量(1個あたり \(e\))を全部足し合わせれば(\(e\) を掛ければ)、それが「1秒あたりの電気量」、つまり電流の大きさ \(I\) になります。
主たる解法と同じく \(I = envS\) [A] という結果が得られました。時間 \(t\) を経由せずに、電流の定義に直接立ち返って考えることで、よりシンプルに式を導出できます。どちらの考え方も理解しておくことが重要です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で導出した関係式 \(I = envS\) を利用します。この式には、求めたい自由電子の速さ \(v\) と、問題文で与えられている物理量(\(I, e, n, S\))が含まれています。式を \(v\) について解き、数値を代入して計算します。最大の注意点は、断面積 \(S\) の単位を mm² から m² へ正しく換算することです。
この設問における重要なポイント
- 式の変形: \(I = envS\) を \(v\) について解くと \(v = \displaystyle\frac{I}{enS}\) となります。
- 単位換算: 断面積 \(S\) が \(1.0 \text{ mm}^2\) で与えられています。SI基本単位であるメートル(m)に合わせる必要があります。
\(1 \text{ mm} = 10^{-3} \text{ m}\) であるから、
\(1 \text{ mm}^2 = (1 \text{ mm}) \times (1 \text{ mm}) = (10^{-3} \text{ m}) \times (10^{-3} \text{ m}) = 10^{-6} \text{ m}^2\)
となります。 - 有効数字: 与えられている数値(\(1.0\) A, \(1.0\) mm², \(8.5 \times 10^{28}\), \(1.6 \times 10^{-19}\))の有効数字はすべて2桁なので、計算結果も2桁で答えるのが適切です。
具体的な解説と立式
(2)で導出した関係式 \(I = envS\) を、求めたい速さ \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{I}{enS} \quad \cdots ① $$
ここに、与えられた数値を代入します。
- \(I = 1.0 \text{ A}\)
- \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- \(n = 8.5 \times 10^{28} \text{ 個/m}^3\)
- \(S = 1.0 \text{ mm}^2 = 1.0 \times 10^{-6} \text{ m}^2\)
使用した物理公式
- 電流の微視的表現: \(I = envS\)
①式に数値を代入して \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{1.0}{(1.6 \times 10^{-19}) \times (8.5 \times 10^{28}) \times (1.0 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{(1.6 \times 8.5) \times (10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6})} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{13.6 \times 10^{-19+28-6}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{13.6 \times 10^{3}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0}{13600} \\[2.0ex]
&\approx 0.00007352… \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
結果を有効数字2桁で表すために、科学技術表記に直します。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 7.352… \times 10^{-5} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁目を四捨五入すると、
$$ v \approx 7.4 \times 10^{-5} \text{ [m/s]} $$
(2)で作った公式 \(I=envS\) を使って、今度は電子の平均的な速さ \(v\) を逆算する問題です。電流の強さ \(I\)、電子の密度 \(n\)、電子1個の電気量 \(e\)、導線の断面積 \(S\) はすべて分かっているので、公式を「\(v = …\)」の形に変形して、それぞれの値を当てはめて計算します。計算で一番気をつけないといけないのは、断面積の単位を「平方ミリメートル」から「平方メートル」に直すことです。これを忘れると、答えが大きくずれてしまいます。
自由電子の速さは \(v \approx 7.4 \times 10^{-5}\) m/s となります。
これは、\(0.074\) mm/s という非常に遅い速さです。私たちがスイッチを入れると瞬時に電気がつくように感じるのは、導線の中にいる無数の自由電子が、電場によって「一斉に」動き始めるからです。個々の電子がコンセントから電球まで移動するわけではなく、将棋倒しのように電気的な影響が光速に近い速さで伝わるのです。計算結果が非常に小さい値になったことは、この物理的な事実と一致しており、妥当な結果と言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流の定義と微視的モデルの結合:
- 核心: この問題の核心は、マクロな現象である「電流 \(I = Q/t\)」と、その原因であるミクロな「自由電子の集団運動」を結びつけることにあります。電流の正体が、電気素量 \(e\) を持つ多数の荷電粒子(自由電子)が、数密度 \(n\)、平均速度 \(v\) で、断面積 \(S\) の導体中を移動する現象であることを理解することが全てです。
- 理解のポイント: \(I=envS\) という公式は、これらミクロな量を掛け合わせることで、マクロな電流の大きさが決まることを示しています。\(e\) は定数なので、電流を大きくするには「電子の密度 \(n\) を増やす(=材質を変える)」「電子の速度 \(v\) を上げる(=電圧を上げる)」「導線の断面積 \(S\) を大きくする(=太い線を使う)」という方法があることが、この式から直感的に理解できます。
- 通過する粒子の体積計算:
- 核心: 時間 \(t\) の間に特定の断面を通過する粒子の総量を計算する際、「速さ \(v \times\) 時間 \(t = vt\)」で得られる「長さ」が鍵となります。この長さと断面積 \(S\) を掛け合わせた体積 \(Svt\) こそが、通過する粒子がもともといた空間領域を表します。
- 理解のポイント: この考え方は、電流だけでなく、流体力学における流量の計算や、風が窓に及ぼす力を考える際など、様々な物理現象に応用できる非常に汎用性の高い思考ツールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- イオンの移動による電流: 電解液中での陽イオンと陰イオンの移動による電流を考える問題。両方のイオンが電流に寄与しますが、移動方向が逆であることなどを考慮する必要があります。
- 半導体中の電流: 半導体では、負電荷を持つ「電子」と、正電荷を持つと見なせる「正孔(ホール)」の両方が電流の担い手(キャリア)となります。それぞれの密度や移動度(速度)が異なる場合、全体の電流は両者の和として計算されます。
- 気体放電: 真空管や放電管内で、電離した気体イオンと電子が移動することによる電流。
- 初見の問題での着眼点:
- 電流の担い手(キャリア)は何か?: まず、電流を運んでいる粒子が何かを特定します(電子か、イオンか、正孔か)。
- キャリアの情報を整理する: その粒子の電気量 \(q\)、数密度 \(n\)、速さ \(v\) は何かを問題文から読み取ります。複数のキャリアがある場合は、それぞれについて整理します。
- 「単位時間あたり」を考える: 電流を求めたい場合、常に「1秒間に何が起きるか」を考えるのが最も直接的です。1秒間にキャリアが進む距離は \(v\)、そのキャリアが通過する体積は \(Sv\)、その体積内のキャリアの数は \(nSv\)、そしてそれらが運ぶ総電気量は \(qnSv\) となります。これがそのまま電流 \(I\) です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス:
- 誤解: 断面積 \(S\) の単位 \(1.0 \text{ mm}^2\) を \(1.0 \times 10^{-3} \text{ m}^2\) と間違えてしまう。
- 対策: 単位の換算は、元の単位がどう構成されているかを考えるのが確実です。「mm」が \(10^{-3}\) m なので、「mm²」は \((10^{-3} \text{ m})^2 = 10^{-6} \text{ m}^2\) となります。面積なら指数が2倍、体積なら3倍になると覚えておきましょう。
- 電子の速度に関する誤解:
- 誤解: スイッチを入れると瞬時に明かりがつくので、電子も光速に近い速さで移動していると考えてしまう。
- 対策: 計算結果が非常に遅い速度(\(10^{-5}\) m/s のオーダー)になることを知っておくことが重要です。瞬時に明かりがつくのは、導線内の電子が一斉に動き始める「合図」(電場)が光速で伝わるためであり、個々の電子の移動速度(ドリフト速度)は非常に遅い、という物理イメージを確立しておきましょう。
- 電流の向きと電子の移動方向の混同:
- 誤解: 電流の向きと電子の移動方向を同じだと考えてしまう。
- 対策: 「電流の向きは、正電荷が移動する向き」と定義されています。電子は負電荷を持つため、電子が移動する向きと「逆向き」が電流の向きとなります。この問題では大きさのみを扱っていますが、向きが問われる問題では注意が必要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 「動く歩道」のイメージ: 導体を「動く歩道」、自由電子をその上に乗っている「人」とイメージします。電流の大きさは、ゲートを1秒間に通過する「人数」に相当します。人の密度が高く(\(n\) が大きい)、歩道が速く(\(v\) が大きい)、歩道の幅が広い(\(S\) が大きい)ほど、通過人数は増えます。このイメージが \(I=envS\) の式と直結します。
- 問題の図の活用: 問題で与えられた図(a)と(b)は、この問題を解くための思考プロセスそのものを表しています。時刻 \(0\) で断面Aの右側にあった円柱状の電子集団が、時刻 \(t\) にはそっくりそのまま断面Aの左側に移動する。この「電子の塊が移動する」というイメージが、通過した電気量 \(Q\) を計算する上で非常に重要です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 流れの方向を明確にする: 電子の移動方向(例えば左向き)と、電流の向き(右向き)を矢印で明確に区別して描くと、混乱を防げます。
- 体積を意識した図示: 断面を通過する電子の量を考えるときは、単なる線ではなく、問題の図のように「長さ \(vt\)」と「断面積 \(S\)」を持つ「円柱」として立体的に描くことで、体積 \(Svt\) という発想に至りやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電流の定義式 \(I = Q/t\):
- 選定理由: これは物理学における「電流」という量の定義そのものです。他の法則から導かれるものではなく、全ての電流に関する議論の出発点となる大前提の式です。設問(1)で問われ、(2)で \(Q\) を具体的に計算した後に適用するのは、論理的な必然です。
- 適用根拠: アンペア(A)という単位が、クーロン(C)毎秒(s)と定義されていることからも、この式の正当性がわかります。
- 電流の微視的表現 \(I = envS\):
- 選定理由: この式は、電流というマクロな量を、その担い手である電子の性質(\(e, n, v\))というミクロな量と結びつけるための関係式です。設問(2)では、まさにこの関係を導出することが求められており、(3)ではこの導出した式を具体的な計算に利用します。
- 適用根拠: この式は、電流の定義 \(I=Q/t\) と、時間 \(t\) で断面を通過する電子が体積 \(Svt\) 内にいたという幾何学的な考察から、論理的に導出されたものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電流の定義の確認:
- 戦略: 電流の定義を思い出し、式で表現する。
- フロー: ①「電流は単位時間あたりの電気量」→ ② \(I = Q/t\)。
- (2) 電流の微視的表現の導出:
- 戦略: 問題の誘導に従い、時間 \(t\) で断面を通過する電子の総電気量 \(Q\) を求める。
- フロー: ①時間 \(t\) で電子が進む距離は \(vt\) → ②この間に断面を通過する電子がいた体積は \(Svt\) → ③その体積内の電子の総数は \(n \times (Svt)\) → ④それらの総電気量 \(Q\) は \(e \times nSvt\) → ⑤ \(I=Q/t\) に代入し、\(t\) を消去して \(I=envS\) を得る。
- (3) 具体的な数値計算:
- 戦略: (2)で導いた式を、求めたい \(v\) について解き、数値を代入する。
- フロー: ① \(I=envS\) を変形して \(v = I/(enS)\) を得る → ②断面積 \(S\) の単位を mm² から m² に換算する (\(10^{-6}\) 倍) → ③全ての数値を代入し、指数計算と数値計算を慎重に行う → ④有効数字を考慮して最終的な答えを出す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算をまとめる: (3)の計算では、分母に \(10^{-19}\), \(10^{28}\), \(10^{-6}\) が現れます。これらを先にまとめて \(10^{-19+28-6} = 10^3\) と計算してから、係数部分(\(1.6 \times 8.5\))の計算に移ると、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 単位の確認: 計算の最後に、求めた値の単位が本当に m/s になっているかを確認する習慣をつけましょう。\(I[\text{A}=\text{C/s}], e[\text{C}], n[\text{m}^{-3}], S[\text{m}^2]\) なので、\(I/(enS)\) の単位は \((\text{C/s}) / (\text{C} \cdot \text{m}^{-3} \cdot \text{m}^2) = (\text{C/s}) / (\text{C} \cdot \text{m}^{-1}) = \text{m/s}\) となり、確かに速さの単位になっていることが確認できます。
- 概算で桁をチェック: \(1.6 \times 8.5\) は、だいたい \(1.5 \times 9 = 13.5\) くらいだと暗算できます。分母は \(13.5 \times 10^3\) 程度なので、\(1 / (13500)\) となり、答えは \(10^{-4}\) から \(10^{-5}\) のオーダーになるだろうと予測できます。計算結果の桁が大きくずれていないかを確認するのに有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) \(I=envS\): この式は、電流 \(I\) が各パラメータ \(e, n, v, S\) に比例することを示しています。これは「電子の電気量が大きいほど」「密度が高いほど」「速く動くほど」「通り道が太いほど」電流が大きくなるという直感と一致しており、物理的に妥当です。
- (3) \(v \approx 7.4 \times 10^{-5}\) m/s: 前述の通り、この「非常に遅い」という結果は、電流の物理モデルとして正しい描像です。もし計算結果が光速に近いような大きな値になったら、単位換算などの計算ミスを疑うべきです。
- 別解との比較:
- (2)の解法では、「時間 \(t\) の間に通過する量 \(Q\) を求めて \(t\) で割る」方法と、「単位時間(1秒)に通過する量を直接求める」方法がありました。どちらも同じ \(I=envS\) という結論に至ることを確認することで、この公式の正しさと、物理現象に対する多角的なアプローチの有効性を再認識できます。思考プロセスが違っても同じ結論に達することは、その結論が強固なものであることを示唆しています。
406 抵抗率
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、導線の抵抗値がその形状(長さ、断面積)と材質(抵抗率)によってどのように決まるかを、I-Vグラフの読み取りと関連付けて理解する力を問うものです。
この問題の核心は、オームの法則 \(V=RI\) と抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) という2つの基本法則を自在に使いこなし、グラフから得られる情報と結びつけることです。
- 導線A, Bは同じ物質でできている(抵抗率 \(\rho\) が等しい)。
- 導線A, Bの断面は円形である。
- 電圧Vと電流Iの関係がグラフで与えられている。
- (2) A, Bの太さが同じ(断面積 \(S_{\text{A}} = S_{\text{B}}\))。
- (3) A, Bの長さが同じ(\(l_{\text{A}} = l_{\text{B}}\))。
- (4) 導線Bの断面積: \(S_{\text{B}} = 0.11 \text{ mm}^2\)
- (4) 導線Bの長さ: \(l_{\text{B}} = 1.0 \text{ m}\)
- (1) A, Bどちらの抵抗値が大きいか。
- (2) 太さが同じ場合、Bの長さ \(l_{\text{B}}\) はAの長さ \(l_{\text{A}}\) の何倍か。
- (3) 長さが同じ場合、Bの直径 \(d_{\text{B}}\) はAの直径 \(d_{\text{A}}\) の何倍か。
- (4) この物質の抵抗率 \(\rho\) はいくらか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: グラフの傾きから抵抗値を判断する解法
- 模範解答が「特定の電圧値における電流の大小」を比較するのに対し、別解では「I-Vグラフの傾き(の逆数)」が抵抗値を表すことに着目して、グラフの傾きの大小から直接抵抗値の大小を判断します。
- 設問(1)の別解: グラフの傾きから抵抗値を判断する解法
- 上記の別解が有益である理由
- グラフの物理的解釈: I-Vグラフにおける「傾き」という幾何学的な特徴が、抵抗という物理量にどう対応するかを理解することで、グラフ問題への対応力が向上します。
- 定性的・直感的理解: 数値を具体的に読み取らなくても、グラフの見た目だけで抵抗の大小を瞬時に判断できるようになり、問題解決のスピードと直感力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、設問(1)の結論(Aの方が抵抗値が大きい)は完全に一致します。
この問題のテーマは「オームの法則と抵抗率」です。グラフから電気抵抗を求め、その抵抗値が導線の長さや断面積とどう関係しているかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則: 抵抗にかかる電圧 \(V\)、流れる電流 \(I\)、抵抗値 \(R\) の間には \(V=RI\) の関係が成り立つ。
- 抵抗率の式: 抵抗値 \(R\) は、物質の種類で決まる抵抗率 \(\rho\)、導線の長さ \(l\)、断面積 \(S\) を用いて \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) と表される。
- I-Vグラフの解釈: グラフの傾きが \(I/V\) を表すため、その逆数 \(V/I\) が抵抗値 \(R\) に相当する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)でグラフからA, Bの抵抗値の大小を比較します。
- 次に、グラフの読み取りやすい点から、オームの法則を用いてA, Bそれぞれの具体的な抵抗値を計算します。
- (2), (3)では、抵抗率の式を使い、抵抗値の比と長さや断面積の比の関係を導き、問いに答えます。
- 最後に、(4)でBの具体的な抵抗値、長さ、断面積を用いて、抵抗率 \(\rho\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
導線AとBの抵抗値の大小を比較する問題です。抵抗とは「電流の流れにくさ」を表す量です。したがって、同じ電圧をかけたとき、より電流が流れにくい(=電流値が小さい)方が、抵抗値が大きいと言えます。グラフ上で同じ電圧値のときの電流値を比較します。
この設問における重要なポイント
- 抵抗の概念理解: 抵抗が大きいほど、電流は流れにくい。
- グラフの読み取り: グラフの横軸(電圧)を固定し、縦軸(電流)の値を比較する。
具体的な解説と立式
オームの法則 \(V=RI\) を変形すると \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\) となります。
この式から、同じ電圧 \(V\) を加えた場合、抵抗値 \(R\) が大きいほど、流れる電流 \(I\) は小さくなることがわかります。
グラフから、読み取りやすい点として電圧 \(V=4.0 \text{ V}\) のときを考えます。
このとき、導線Aに流れる電流 \(I_{\text{A}}\) と導線Bに流れる電流 \(I_{\text{B}}\) は、グラフから以下のように読み取れます。
$$ I_{\text{A}} = 0.10 \text{ A} $$
$$ I_{\text{B}} = 0.40 \text{ A} $$
同じ電圧 \(V=4.0 \text{ V}\) を加えたときに \(I_{\text{A}} < I_{\text{B}}\) であるため、電流の流れにくさ、すなわち抵抗値はAの方が大きいと判断できます。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
この設問は大小比較なので、具体的な計算は不要です。
抵抗は「電気の通りにくさ」です。AとBという2つのトンネルがあり、どちらが通りにくいかを比べるようなものです。同じ「圧力(電圧)」をかけたときに、通り抜ける「車の台数(電流)」が少ない方が、通りにくい(抵抗が大きい)トンネルだと言えます。グラフを見ると、例えば4.0Vの電圧をかけたとき、Aには0.10Aしか流れないのに、Bには0.40Aも流れています。したがって、Aの方が電気が通りにくく、抵抗値が大きいとわかります。
抵抗値が大きいのはAです。同じ電圧で電流が小さい方が抵抗が大きいという物理的な直感と、グラフの読み取り結果が一致しています。
思考の道筋とポイント
I-Vグラフ(縦軸が電流I、横軸が電圧V)において、原点とグラフ上の点を結ぶ直線の傾きが何を表すかを考えます。この傾きと抵抗値の関係から、大小を判断します。
この設問における重要なポイント
- グラフの傾きの物理的意味: 傾きは「縦軸の変化量 ÷ 横軸の変化量」なので、このグラフでは \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta V}\) を表します。
- 傾きと抵抗の関係: オームの法則 \(V=RI\) を変形すると \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) となります。これはグラフの傾きの逆数 \(\left(\displaystyle\frac{I}{V}\right)^{-1}\) です。つまり、傾きが急なほど抵抗値は小さく、傾きが緩やかなほど抵抗値は大きいことになります。
具体的な解説と立式
I-Vグラフにおいて、傾きは \(\displaystyle\frac{I}{V}\) を表します。
オームの法則 \(V=RI\) より、\(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) なので、抵抗値 \(R\) はグラフの傾きの逆数に相当します。
$$ R = \frac{1}{\text{傾き}} $$
グラフを見ると、直線Bの方が直線Aよりも傾きが急です。
$$ (\text{傾き})_{\text{B}} > (\text{傾き})_{\text{A}} $$
したがって、その逆数である抵抗値は、Aの方がBよりも大きくなります。
$$ R_{\text{A}} > R_{\text{B}} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
この設問は大小比較なので、具体的な計算は不要です。
このグラフは、横軸が電圧、縦軸が電流なので、グラフの「傾き」は「電流 ÷ 電圧」を表します。一方、抵抗は「電圧 ÷ 電流」で計算されるので、抵抗は「グラフの傾きの逆数」になります。グラフを見ると、Bの方がAよりも傾きが急です。傾きが大きいということは、その逆数である抵抗値は小さいということです。したがって、傾きが緩やかなAの方が抵抗値は大きいと分かります。
抵抗値が大きいのはAです。主たる解法と同じ結論が得られました。グラフの傾きという幾何学的な特徴から、物理的な意味を読み取る良い練習になります。
問(2)
思考の道筋とポイント
AとBの太さが同じという条件の下で、長さの比を求める問題です。まず、(1)と同様にグラフからAとBの具体的な抵抗値を計算します。次に、抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) を用いて、抵抗値と長さの関係を考えます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗値の計算: グラフの読み取りやすい点(例えば \(V=4.0 \text{ V}\))の電圧と電流の値を使って、オームの法則 \(R=V/I\) から \(R_{\text{A}}\) と \(R_{\text{B}}\) を計算する。
- 抵抗率の式の利用: AとBは同じ物質(\(\rho\)が同じ)で、太さも同じ(\(S\)が同じ)なので、抵抗率の式から抵抗値 \(R\) は長さ \(l\) に比例する(\(R \propto l\))ことがわかります。
- 比の計算: 抵抗値の比 \(\displaystyle\frac{R_{\text{B}}}{R_{\text{A}}}\) が、そのまま長さの比 \(\displaystyle\frac{l_{\text{B}}}{l_{\text{A}}}\) に等しくなります。
具体的な解説と立式
まず、導線A, Bの抵抗値 \(R_{\text{A}}\), \(R_{\text{B}}\) をグラフから求めます。
電圧 \(V=4.0 \text{ V}\) のとき、電流は \(I_{\text{A}} = 0.10 \text{ A}\), \(I_{\text{B}} = 0.40 \text{ A}\) なので、オームの法則 \(R=V/I\) より、
$$ R_{\text{A}} = \frac{4.0}{0.10} = 40 \text{ } \Omega \quad \cdots ① $$
$$ R_{\text{B}} = \frac{4.0}{0.40} = 10 \text{ } \Omega \quad \cdots ② $$
次に、抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) をA, Bそれぞれに適用します。
$$ R_{\text{A}} = \rho \frac{l_{\text{A}}}{S_{\text{A}}} \quad \cdots ③ $$
$$ R_{\text{B}} = \rho \frac{l_{\text{B}}}{S_{\text{B}}} \quad \cdots ④ $$
問題の条件より、AとBは同じ物質(\(\rho\)が共通)で、太さが同じ(\(S_{\text{A}} = S_{\text{B}}\))です。
④式を③式で割ると、
$$ \frac{R_{\text{B}}}{R_{\text{A}}} = \frac{\rho \frac{l_{\text{B}}}{S_{\text{B}}}}{\rho \frac{l_{\text{A}}}{S_{\text{A}}}} $$
\( \rho \) と \( S \) が共通なので、
$$ \frac{R_{\text{B}}}{R_{\text{A}}} = \frac{l_{\text{B}}}{l_{\text{A}}} \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 抵抗率の式: \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\)
⑤式に①, ②で求めた抵抗値の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{l_{\text{B}}}{l_{\text{A}}} &= \frac{R_{\text{B}}}{R_{\text{A}}} \\[2.0ex]
&= \frac{10}{40} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4}
\end{aligned}
$$
したがって、Bの長さはAの長さの \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍です。
電気の通りにくさ(抵抗)は、道のりが長いほど大きく、道幅が広いほど小さくなります。この問題では「太さが同じ」なので、道幅は同じです。ということは、抵抗の大きさは純粋に「道のりの長さ」だけで決まります。まずグラフから、Aの抵抗は40Ω、Bの抵抗は10Ωだと計算できます。Bの抵抗はAの抵抗の \(10/40 = 1/4\) です。抵抗が \(1/4\) ということは、道のりの長さも \(1/4\) であるはずです。
Bの長さはAの長さの \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍です。Bの方が抵抗値が小さいので、長さが短いというのは物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
AとBの長さが同じという条件の下で、直径の比を求める問題です。基本的な流れは(2)と同じですが、今度は抵抗値と断面積の関係に着目します。
この設問における重要なポイント
- 抵抗値の計算: (2)で計算した \(R_{\text{A}}=40 \text{ } \Omega\), \(R_{\text{B}}=10 \text{ } \Omega\) を利用する。
- 抵抗率の式の利用: AとBは同じ物質(\(\rho\)が同じ)で、長さも同じ(\(l\)が同じ)なので、抵抗率の式から抵抗値 \(R\) は断面積 \(S\) に反比例する(\(R \propto 1/S\))ことがわかります。これは \(RS = \text{一定}\) を意味します。
- 断面積と直径の関係: 断面は円形なので、直径を \(d\) とすると断面積 \(S\) は \(S = \pi \left(\displaystyle\frac{d}{2}\right)^2\) と表されます。
具体的な解説と立式
(2)と同様に、\(R_{\text{A}} = 40 \text{ } \Omega\), \(R_{\text{B}} = 10 \text{ } \Omega\) です。
抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) において、AとBは同じ物質(\(\rho\)が共通)で、長さが同じ(\(l_{\text{A}} = l_{\text{B}}\))です。
したがって、抵抗値 \(R\) は断面積 \(S\) に反比例します。この関係は次のように書けます。
$$ R_{\text{A}}S_{\text{A}} = R_{\text{B}}S_{\text{B}} \quad (=\rho l) \quad \cdots ① $$
導線の直径をそれぞれ \(d_{\text{A}}\), \(d_{\text{B}}\) とすると、断面積 \(S_{\text{A}}\), \(S_{\text{B}}\) は、
$$ S_{\text{A}} = \pi \left(\frac{d_{\text{A}}}{2}\right)^2 \quad \cdots ② $$
$$ S_{\text{B}} = \pi \left(\frac{d_{\text{B}}}{2}\right)^2 \quad \cdots ③ $$
①式に②, ③式を代入します。
$$ R_{\text{A}} \pi \left(\frac{d_{\text{A}}}{2}\right)^2 = R_{\text{B}} \pi \left(\frac{d_{\text{B}}}{2}\right)^2 \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 抵抗率の式: \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\)
- 円の面積: \(S = \pi r^2\)
④式の両辺を整理し、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{A}} \frac{\pi d_{\text{A}}^2}{4} &= R_{\text{B}} \frac{\pi d_{\text{B}}^2}{4} \\[2.0ex]
R_{\text{A}} d_{\text{A}}^2 &= R_{\text{B}} d_{\text{B}}^2 \\[2.0ex]
40 \times d_{\text{A}}^2 &= 10 \times d_{\text{B}}^2 \\[2.0ex]
4 d_{\text{A}}^2 &= d_{\text{B}}^2
\end{aligned}
$$
両辺の正の平方根をとると、
$$ 2 d_{\text{A}} = d_{\text{B}} $$
したがって、Bの直径はAの直径の2倍です。
今度は「長さが同じ」なので、道のりは同じです。抵抗の大きさは「道幅(断面積)」だけで決まります。道幅が広いほど、電気は通りやすい(抵抗は小さい)です。Bの抵抗(10Ω)はAの抵抗(40Ω)の \(1/4\) なので、Bの方がずっと通りやすいです。抵抗が \(1/4\) になるためには、道幅である断面積を4倍にする必要があります。面積を4倍にするには、円の直径を何倍にすればよいでしょうか?面積は直径の2乗に比例するので、直径を2倍にすれば、面積は \(2^2=4\) 倍になります。よって、Bの直径はAの2倍です。
Bの直径はAの直径の2倍です。Bの方が抵抗値が小さいので、断面積が大きく(太く)なっているはずであり、直径が大きいという結果は物理的に妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
物質の抵抗率 \(\rho\) を求める問題です。抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) を \(\rho\) について解き、導線Bに関する具体的な数値(抵抗値、長さ、断面積)を代入して計算します。
この設問における重要なポイント
- 式の変形: \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) を \(\rho\) について解くと \(\rho = \displaystyle\frac{RS}{l}\) となります。
- 数値の代入: 導線Bについて、抵抗値 \(R_{\text{B}}=10 \text{ } \Omega\)、長さ \(l_{\text{B}}=1.0 \text{ m}\)、断面積 \(S_{\text{B}}=0.11 \text{ mm}^2\) を代入します。
- 単位換算: 断面積 \(S_{\text{B}}\) の単位を mm² から m² へ正しく換算することが不可欠です。\(1 \text{ mm}^2 = 10^{-6} \text{ m}^2\)。
具体的な解説と立式
抵抗率の式を \(\rho\) について解きます。
$$ \rho = \frac{RS}{l} \quad \cdots ① $$
この式に、導線Bの値を代入して抵抗率を求めます。
- \(R_{\text{B}} = 10 \text{ } \Omega\)
- \(l_{\text{B}} = 1.0 \text{ m}\)
- \(S_{\text{B}} = 0.11 \text{ mm}^2 = 0.11 \times 10^{-6} \text{ m}^2\)
使用した物理公式
- 抵抗率の式: \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\)
①式に導線Bの値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\rho &= \frac{R_{\text{B}}S_{\text{B}}}{l_{\text{B}}} \\[2.0ex]
&= \frac{10 \times (0.11 \times 10^{-6})}{1.0} \\[2.0ex]
&= 1.1 \times 10^{-6} \text{ [}\Omega \cdot \text{m]}
\end{aligned}
$$
抵抗率 \(\rho\) は、その物質が持つ「電気の通りにくさの固有値」のようなものです。これを計算するために、公式 \(R = \rho \times l/S\) を \(\rho = R \times S/l\) の形に変形します。あとは、導線Bについて分かっている情報、つまり抵抗値 \(R_{\text{B}}\) (10Ω)、断面積 \(S_{\text{B}}\) (0.11 mm²)、長さ \(l_{\text{B}}\) (1.0 m) をこの式に当てはめて計算するだけです。ここでも、断面積の単位を m² に直すのを忘れないように注意が必要です。
この物質の抵抗率は \(1.1 \times 10^{-6} \text{ } \Omega \cdot \text{m}\) です。この値は、ニクロム線などの合金の抵抗率に近い値であり、物理的に妥当な範囲の大きさです。計算過程での単位換算が正しく行われているかどうかが、この問題の鍵となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- オームの法則 \(V=RI\):
- 核心: 電圧、電流、抵抗という電気回路における最も基本的な3つの量を結びつける法則です。この問題では、グラフから読み取った電圧と電流の値を用いて、未知の抵抗値を算出するための計算ツールとして機能します。
- 理解のポイント: I-Vグラフが直線になる(電圧と電流が比例する)こと自体が、その導体がオームの法則に従う「オーム性抵抗」であることを示しています。
- 抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\):
- 核心: 抵抗値という電気的な性質が、導線の長さ \(l\) や断面積 \(S\) といった幾何学的な形状、そして物質固有の値である抵抗率 \(\rho\) によってどのように決まるかを示す、ミクロとマクロを結ぶ重要な関係式です。
- 理解のポイント: この式は、抵抗が長さに比例し(\(R \propto l\))、断面積に反比例する(\(R \propto 1/S\))という2つの重要な比例関係を内包しています。問題の(2)と(3)は、まさにこの比例・反比例関係を正しく理解しているかを問うています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗の温度変化: 多くの物質では、温度が上がると抵抗率 \(\rho\) が大きくなり、結果として抵抗値 \(R\) も増加します。その際の抵抗値の変化を計算する問題。
- 合成抵抗: 形状や材質の異なる複数の抵抗を直列または並列に接続したときの、全体の抵抗値を求める問題。
- コンデンサーのアナロジー: コンデンサーの電気容量 \(C = \varepsilon \displaystyle\frac{S}{d}\) の式は、抵抗の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) と非常によく似た構造をしています。\(C\) は面積 \(S\) に比例し、極板間距離 \(d\) に反比例します。この構造の類似性を理解しておくと、両方の概念を覚えやすくなります。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: まずグラフの縦軸と横軸がそれぞれ何(IかVか)を表しているかを確認します。I-Vグラフなら傾きの逆数が抵抗、V-Iグラフなら傾きそのものが抵抗になります。
- 「何が同じで、何が違うか」を整理する: 問題文中の「同じ物質」「太さが同じ」「長さが同じ」といった条件をマークし、抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) の中で、どの変数が定数で、どの変数が変化するのかを明確にします。
- 比の形に持ち込む: 複数の物体の比較問題では、直接値を求めるのではなく、「比」を考えるのが定石です。\(R_{\text{A}}\) と \(R_{\text{B}}\) の比を計算し、それが長さの比や断面積の比とどう関係するかを式で表現します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 抵抗と抵抗率の混同:
- 誤解: 抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\) を同じものだと考えてしまう。
- 対策: 「抵抗率 \(\rho\)」は物質固有の値(例:銅、鉄など材質で決まる)、「抵抗 \(R\)」はその物質を使って作られた部品の電気の流れにくさ(長さや太さで変わる)と区別します。抵抗率は「1mあたりの断面積1m²の導線の抵抗値」という基本単位の抵抗と考えると分かりやすいです。
- 断面積と直径(半径)の関係の誤解:
- 誤解: 抵抗が断面積 \(S\) に反比例するからといって、直径 \(d\) にも反比例すると勘違いしてしまう。
- 対策: 断面積 \(S\) は直径 \(d\) の2乗に比例します(\(S \propto d^2\))。したがって、抵抗 \(R\) は直径 \(d\) の2乗に反比例します(\(R \propto 1/d^2\))。この「2乗」の関係を見落とさないように、必ず \(S = \pi (d/2)^2\) の式を一度書き出してから考える習慣をつけましょう。
- 単位換算のミス:
- 誤解: (4)で断面積 \(0.11 \text{ mm}^2\) を \(0.11 \times 10^{-3} \text{ m}^2\) のように、mmとmの関係(\(10^{-3}\))をそのまま使ってしまう。
- 対策: 面積の単位換算では、指数の部分が2倍になることを常に意識します。\(1 \text{ mm} = 10^{-3} \text{ m}\) なので、\(1 \text{ mm}^2 = (10^{-3})^2 \text{ m}^2 = 10^{-6} \text{ m}^2\) です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 「水道管」のアナロジー: 電気の流れを水の流れに例えるのは非常に有効です。
- 電圧 \(V\) → 水圧
- 電流 \(I\) → 流量(単位時間に流れる水の量)
- 抵抗 \(R\) → 水道管の水の流れにくさ
- 長さ \(l\) → 水道管の長さ(長いほど抵抗大)
- 断面積 \(S\) → 水道管の太さ(太いほど抵抗小)
- 抵抗率 \(\rho\) → 水道管内部のザラザラ具合(材質による流れにくさ)
- このイメージを使えば、(2)は「太さが同じなら、管が短いBの方が流れやすい(抵抗が小さい)」、(3)は「長さが同じでBの方が流れやすいなら、Bの方が太い管だ」と直感的に理解できます。
- 「水道管」のアナロジー: 電気の流れを水の流れに例えるのは非常に有効です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- (2)や(3)を考える際、AとBの導線を簡単な円柱で描いてみると良いでしょう。
- (2)では、\(S\)を同じ幅で描き、\(l_{\text{B}}\) を \(l_{\text{A}}\) より明らかに短く描く。
- (3)では、\(l\)を同じ長さで描き、\(S_{\text{B}}\) を \(S_{\text{A}}\) より明らかに太く描く。
- このように条件を視覚化することで、計算結果が妥当かどうかを直感的に判断しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則 \(V=RI\):
- 選定理由: 問題で電圧と電流の関係を示すグラフが与えられています。このグラフは、電圧と電流という測定可能なマクロな量から、直接測定が難しい抵抗値という内部パラメータを抽出するための架け橋です。その架け橋となる法則がオームの法則です。
- 適用根拠: グラフが原点を通る直線であることから、この導体がオームの法則に従うと判断できるため、この法則を適用することが正当化されます。
- 抵抗率の式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\):
- 選定理由: (2)以降の設問では、抵抗値と導線の「長さ」「太さ(断面積、直径)」といった幾何学的形状との関係が問われています。この関係性を記述する唯一の公式が抵抗率の式です。
- 適用根拠: 導線が「同じ物質で均一にできている」という条件から、抵抗率 \(\rho\) が定数として扱え、この式が適用できることが保証されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 抵抗の大小比較:
- 戦略: 抵抗の定義(電流の流れにくさ)に立ち返るか、グラフの傾きの意味を考える。
- フロー(定義): ①同じ電圧 \(V\) を設定 → ②グラフから電流 \(I_{\text{A}}\), \(I_{\text{B}}\) を読み取る → ③電流が小さい方が抵抗が大きいと判断。
- フロー(傾き): ①グラフの傾きは \(I/V\) を意味する → ②抵抗 \(R\) は \(V/I\) なので傾きの逆数 → ③傾きが緩やかな方が抵抗が大きいと判断。
- (2),(3) 形状の比較:
- 戦略: まずグラフから具体的な抵抗値を計算し、その比を取る。次に、抵抗率の式から抵抗比と形状(長さ、断面積)の比の関係式を立て、連立させて解く。
- フロー: ①グラフから \(R_{\text{A}}\), \(R_{\text{B}}\) を計算 → ②抵抗比 \(\frac{R_{\text{B}}}{R_{\text{A}}}\) を求める → ③抵抗率の式 \(R=\rho l/S\) で、問題の条件(\(l\)が同じ、\(S\)が同じなど)を考慮して、抵抗比と形状の比の関係式を導出 → ④両者を等しいとおいて、未知の比を計算。
- (4) 抵抗率の計算:
- 戦略: 抵抗率の式を \(\rho\) について解き、必要な値をすべて代入する。
- フロー: ①\(R=\rho l/S\) を \(\rho = RS/l\) に変形 → ②導線Bの \(R_{\text{B}}\), \(l_{\text{B}}\), \(S_{\text{B}}\) の値を代入 → ③断面積の単位を m² に換算 → ④計算を実行。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 読み取りやすい点を選ぶ: グラフから値を読み取る際は、(4.0 V, 0.10 A) や (4.0 V, 0.40 A) のように、グリッドの線が交差している点を正確に選びましょう。中途半端な点を選ぶと、読み取り誤差が生じます。
- 比の計算を有効活用: (2)や(3)のように比を問う問題では、\(R_{\text{A}}=40, R_{\text{B}}=10\) と具体的な値を出すのも良いですが、\(R_{\text{A}} : R_{\text{B}} = 4:1\) のように比の関係だけを使うと、計算がよりシンプルになる場合があります。
- 2乗の計算を慎重に: (3)で \(4 d_{\text{A}}^2 = d_{\text{B}}^2\) から \(2 d_{\text{A}} = d_{\text{B}}\) を導く計算は、平方根を取る操作です。焦って2乗や平方根の関係を間違えないようにしましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) Aの抵抗が大きい: グラフでAの方が傾きが緩やかなので、同じ電圧でも電流が流れにくいことを示しており、妥当です。
- (2) BはAの1/4の長さ: Bの方が抵抗が小さいので、太さが同じなら短いはず。妥当です。
- (3) BはAの2倍の直径: Bの方が抵抗が小さいので、長さが同じなら太いはず。妥当です。また、抵抗が1/4になるには面積が4倍、つまり直径が2倍になる必要があり、計算結果と一致します。
- (4) \(\rho = 1.1 \times 10^{-6} \Omega \cdot \text{m}\): この値は、一般的な金属(例:銅 \(\sim 10^{-8}\))よりは大きく、半導体よりは小さい、ニクロム線などの合金で使われる値のオーダーです。極端に大きすぎたり小さすぎたりしないため、妥当な値と考えられます。
- 別解との比較:
- (1)では「特定の値で比較する方法」と「傾きで比較する方法」がありました。両方のアプローチで同じ結論(Aの方が抵抗が大きい)に至ることを確認することで、グラフの解釈が正しかったと自信を持つことができます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
407 抵抗の接続
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、直列接続と並列接続が混在した複雑な回路の合成抵抗を計算し、回路全体を流れる電流を求める能力を試すものです。特に、一部の抵抗が可変である場合に、回路を流れる電流がどのように変化するかを、数式とグラフを用いて考察する点が重要です。
この問題の核心は、「回路の一部を合成抵抗で置き換えて単純化していく」という、複雑な回路問題を解くための基本的なアプローチを正しく実行できるかどうかにあります。
- 抵抗値: \(R_1\), \(R_2\), \(R_3\) [Ω]
- 起電力: \(E\) [V]
- 抵抗 \(R_2\) は可変抵抗である。
- 抵抗 \(R_1\) を流れる電流を \(I_1\) [A] とする。
- (3)の条件: \(R_1 = R_3\)
- (1) 3つの抵抗 \(R_1\), \(R_2\), \(R_3\) の合成抵抗 \(R\)
- (2) 抵抗 \(R_1\) を流れる電流 \(I_1\)
- (3) \(R_1=R_3\) のとき、\(R_2\) を0から増加させたときの \(I_1\) の変化を表すグラフ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 極限状態で考える定性的な解法
- 模範解答が \(I_1\) を \(R_2\) の関数として数式で追い、その増減を調べるのに対し、別解では可変抵抗 \(R_2\) の値が両極端な場合、すなわち \(R_2=0\) の場合と \(R_2 \rightarrow \infty\) の場合に回路がどうなるかを考え、その2点間の変化を推測することでグラフの形を特定します。
- 設問(3)の別解: 極限状態で考える定性的な解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 複雑な計算をせずとも、回路の「極限状態」を考えることで、全体の振る舞いを大まかに掴むという、物理的な問題解決における強力な直感力を養うことができます。
- 検算・思考の補助: 定量的な計算を行う前に、この方法で大まかな答えの形を予測したり、計算結果がその予測と合っているかを確認したりする「検算」ツールとして非常に有効です。
- 選択肢問題への応用: グラフ選択問題など、答えの形が定性的に分かれば解ける問題に対して、計算を省略し、迅速に解答を導き出すテクニックとして応用できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、設問(3)で選択すべきグラフが①であるという結論は完全に一致します。
この問題のテーマは「抵抗の合成」です。直列・並列が組み合わさった回路を、段階的に単純化していくことが目標です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 並列接続の合成抵抗: 2つの抵抗 \(R_a\), \(R_b\) の並列接続では、合成抵抗 \(R_{ab}\) は \(\displaystyle\frac{1}{R_{ab}} = \frac{1}{R_a} + \frac{1}{R_b}\) で計算される。これは \(R_{ab} = \displaystyle\frac{R_a R_b}{R_a + R_b}\)(和分の積)と変形できる。
- 直列接続の合成抵抗: 2つの抵抗 \(R_a\), \(R_b\) の直列接続では、合成抵抗 \(R_{ab}\) は \(R_{ab} = R_a + R_b\) となる。
- オームの法則: 回路全体について、電源の電圧 \(E\)、回路全体の合成抵抗 \(R\)、回路全体を流れる電流 \(I\) の間に \(E=RI\) の関係が成り立つ。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で回路の最も内側にある \(R_2\) と \(R_3\) の並列部分の合成抵抗を求めます。
- 次に、その合成抵抗と \(R_1\) が直列に接続されていると考えて、回路全体の合成抵抗を求めます。
- (2)では、(1)で求めた回路全体の合成抵抗とオームの法則を用いて、電源から流れ出る電流、すなわち \(R_1\) を流れる電流 \(I_1\) を計算します。
- (3)では、(2)で求めた \(I_1\) の式に \(R_1=R_3\) の条件を代入し、\(R_2\) の値の変化に応じて \(I_1\) がどのように変化するかを分析します。