今回の問題
dynamics#40【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「仕事率の計算とその応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事率の定義: 仕事率\(P\)は、単位時間(1秒)あたりにする仕事のことで、時間\(t\)の間に仕事\(W\)をしたとき、\(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) で与えられます。単位はワット[\(\text{W}\)]です。
- 仕事率と力・速さの関係: 物体を一定の力\(F\)で引きながら、力の向きに速さ\(v\)で動かすとき、その仕事率は \(P = Fv\) という関係式で表すことができます。
- 力のつり合い: 物体が「等速度」で運動しているとき、物体にはたらく力の合力は\(0\)です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、仕事率の定義式 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) に与えられた仕事\(W\)と時間\(t\)を代入して、仕事率\(P\)を計算します。時間の単位を「分」から「秒」に変換することが重要です。
- (2)では、(1)で求めた仕事率\(P\)と、物体を等速度で引き上げるという条件を使います。まず、引き上げるのに必要な力\(F\)を力のつり合いから求め、次に仕事率のもう一つの公式 \(P=Fv\) を用いて、速さ\(v\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
仕事率の定義は「単位時間あたりの仕事」です。公式は \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) です。問題文で仕事\(W\)と時間\(t\)が与えられているので、この公式に代入すれば仕事率\(P\)が求まります。ただし、仕事率の単位ワット[\(\text{W}\)]は、ジュール毎秒[\(\text{J/s}\)]と定義されているため、時間の単位を「分」から「秒」に直して計算する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 仕事率の公式 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) を正しく使う。
- 時間の単位を国際単位系の基本単位である「秒」に変換する。(\(1\)分 \(= 60\)秒)
具体的な解説と立式
仕事率\(P\)は、仕事\(W\)をかかった時間\(t\)で割ることで求められます。
$$ P = \frac{W}{t} \quad \cdots ① $$
問題文で与えられている値は、
- 仕事 \(W = 1.8 \times 10^6 \, \text{J}\)
- 時間 \(t = 10\)分
時間の単位を秒に変換します。
$$ t = 10 \text{ [分]} = 10 \times 60 \text{ [秒]} = 600 \text{ [s]} $$
これらの値を式①に代入して、仕事率\(P\)を計算します。
- 仕事率の定義: \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)
与えられた値を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{1.8 \times 10^6}{600} \\[2.0ex]&= \frac{1.8 \times 10^6}{6 \times 10^2} \\[2.0ex]&= \frac{1.8}{6} \times 10^{(6-2)} \\[2.0ex]&= 0.3 \times 10^4 \\[2.0ex]&= 3000
\end{aligned}
$$
科学記法で表すと \(3.0 \times 10^3 \, \text{W}\) となります。問題文の有効数字が2桁であることから、\(3.0 \times 10^3\) と答えるのが適切です。
仕事率とは「1秒あたりにどれだけの仕事ができるか」という能力を表す数値です。問題では「10分間(600秒)で \(1.8 \times 10^6 \, \text{J}\) の仕事をした」とあるので、1秒あたりの仕事量を求めるには、仕事の総量をかかった秒数で割り算します。\(1.8 \times 10^6 \div 600\) を計算すると、答えが求まります。
モーターの仕事率は \(3.0 \times 10^3 \, \text{W}\) です。単位も正しく、計算も問題ありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
このモーターを使って物体を「等速度」で引き上げる状況を考えます。まず、物体を等速度で引き上げるために必要な力\(F\)の大きさを求めます。等速度運動なので、力のつり合いが成り立っています。つまり、モーターが引き上げる力\(F\)と、物体にはたらく重力\(mg\)が等しくなります。
次に、仕事率\(P\)、力\(F\)、速さ\(v\)の関係式 \(P=Fv\) を使います。(1)で仕事率\(P\)は求まっており、力\(F\)も計算できるので、この式から速さ\(v\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 「等速度」\(\rightarrow\) 力のつり合いが成り立っている。
- モーターが物体を引き上げる力\(F\)は、物体の重力\(mg\)に等しい。
- 仕事率、力、速さの関係式 \(P=Fv\) を利用する。
具体的な解説と立式
まず、物体を等速度で引き上げるための力\(F\)を求めます。
力のつり合いより、引き上げる力\(F\)は物体の重力\(mg\)と等しくなります。
$$ F = mg \quad \cdots ② $$
与えられた値は、
- 質量 \(m = 5.0 \times 10^2 \, \text{kg}\)
- 重力加速度の大きさ \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
次に、仕事率\(P\)、力\(F\)、速さ\(v\)の関係式を用います。
$$ P = Fv \quad \cdots ③ $$
この式を\(v\)について解くと、
$$ v = \frac{P}{F} $$
となります。この式に(1)で求めた\(P\)と、式②で計算する\(F\)を代入します。
- 力のつり合いの式
- 仕事率と力・速さの関係: \(P=Fv\)
まず、式②を用いて力\(F\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= mg \\[2.0ex]&= (5.0 \times 10^2) \times 9.8 \\[2.0ex]&= 500 \times 9.8 \\[2.0ex]&= 4900 \, \text{[N]}
\end{aligned}
$$
次に、この\(F\)と(1)で求めた \(P = 3000 \, \text{W}\) を用いて、速さ\(v\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{P}{F} \\[2.0ex]&= \frac{3000}{4900} \\[2.0ex]&= \frac{30}{49} \\[2.0ex]&\approx 0.612…
\end{aligned}
$$
有効数字は2桁なので、小数第3位を四捨五入して \(0.61\) とします。
$$ v \approx 0.61 \, \text{[m/s]} $$
モーターの能力(仕事率)は \(3000 \, \text{W}\) で一定です。これは「1秒間に \(3000 \, \text{J}\) の仕事ができる」という意味です。一方、重さ \(4900 \, \text{N}\) の物体を \(1 \, \text{m}\) 持ち上げるには \(4900 \, \text{J}\) の仕事が必要です。モーターは \(1\) 秒間に \(3000 \, \text{J}\) しか仕事ができないので、\(1\) 秒間に \(1 \, \text{m}\) も持ち上げることはできません。どれだけ持ち上げられるか(=速さ)は、\(3000 \div 4900\) という割り算で計算できます。
物体の上昇速度は約 \(0.61 \, \text{m/s}\) です。単位も正しく、物理的に妥当な値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仕事率の2つの表現 (\(P = W/t\) と \(P = Fv\)) の使い分け:
- 核心: この問題は、仕事率\(P\)が2通りの方法で表現できることを理解し、状況に応じて適切に使い分ける能力を問うています。\(P = W/t\) は仕事率の定義そのものであり、\(P = Fv\) は力学的な運動と結びつけた応用形です。この2つの式が同じ「仕事率」を表していることを認識することが最も重要です。
- 理解のポイント: \(P=Fv\) は、\(P = W/t\) から導出できます。距離\(x\)を動かす仕事は \(W=Fx\)、時間は \(t=x/v\) なので、\(P = \displaystyle\frac{Fx}{x/v} = Fv\) となります。この導出を一度自分で行うことで、2つの式が別物ではないと深く理解できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面を引き上げる問題: 物体を斜面に沿って引き上げる場合、引き上げる力\(F\)は重力の斜面成分である \(mg\sin\theta\) とつり合います(摩擦がなければ)。この力\(F\)を使って \(P=Fv\) を適用します。
- 空気抵抗や摩擦がある場合: 自動車が一定の速さで走る問題などでは、エンジン(モーター)の仕事率は、空気抵抗や摩擦力といった抵抗力に逆らって進むための力\(F\)と速さ\(v\)の積、\(P=Fv\) で計算されます。
- 効率が与えられる場合: 「効率80%のモーター」の場合、モーターの消費する電力(入力)と、実際に物体を持ち上げる仕事率(出力)は異なります。\(P_{\text{出力}} = P_{\text{入力}} \times 0.8\) のような関係を考慮する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 何を問われているか確認: 「仕事率」を問われているのか、それとも「仕事率を使って何か別の量(力、速さなど)」を問われているのかを明確にします。
- 与えられている情報を整理: 「仕事\(W\)と時間\(t\)」が与えられていれば \(P=W/t\) を、「力\(F\)と速さ\(v\)」が関係していれば \(P=Fv\) を使う可能性が高いです。
- 運動の状態を確認: 「等速度」というキーワードがあれば、それは「力のつり合い」を意味する重要なヒントです。まず力のつり合いの式を立てて、必要な力\(F\)を求めることが定石です。
- 単位の統一: 計算を始める前に、必ず全ての物理量の単位を国際単位系(\(\text{m, kg, s, J, W, N}\)など)に揃えることを徹底します。特に「分」や「km/h」は要注意です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 時間の単位換算忘れ:
- 誤解: (1)で時間を「10分」のまま計算してしまい、\(P = 1.8 \times 10^6 / 10 = 1.8 \times 10^5 \, \text{W}\) と間違える。
- 対策: 仕事率の単位[\(\text{W}\)]が[\(\text{J/s}\)]であることを強く意識しましょう。「毎秒」という部分がポイントです。計算前に必ず単位を確認し、「分」→「秒」の変換を機械的に行う習慣をつけます。
- 力\(F\)を質量\(m\)と混同する:
- 誤解: (2)で \(P=mv\) として計算してしまう。
- 対策: \(P=Fv\) の\(F\)は「力(Force)」であり、単位はニュートン[\(\text{N}\)]です。質量[\(\text{kg}\)]とは全く別の物理量であることを明確に区別しましょう。力\(F\)を求めるには、質量\(m\)に重力加速度\(g\)を掛ける (\(F=mg\)) というワンクッションが必要です。
- 有効数字の処理ミス:
- 誤解: \(30/49\) の計算で、割り切れないからといって \(0.6\) や \(0.612\) など、中途半端な桁数で答えてしまう。
- 対策: 問題文で使われている数値の有効数字を確認する癖をつけます。この問題では \(1.8, 5.0, 9.8\) などが2桁なので、答えも2桁(小数第2位まで)に揃えるのが適切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 仕事率の定義式 (\(P = W/t\)):
- 選定理由: (1)は「仕事率とは〜」という定義の説明に続く設問であり、仕事\(W\)と時間\(t\)が直接与えられています。したがって、仕事率の定義式そのものを適用するのが最も自然で論理的な選択です。
- 適用根拠: これは「仕事率」という物理量の定義そのものです。物理学では、多くの量が「単位時間あたり」で定義されており(速さ=単位時間あたりの移動距離、加速度=単位時間あたりの速度変化など)、仕事率もその一つです。
- 仕事率の応用式 (\(P = Fv\)):
- 選定理由: (2)では、モーターの能力(仕事率\(P\))が、物体の運動(速さ\(v\))にどう影響するかを問うています。仕事率を力学的な運動と直接結びつけるこの公式が、問題を解くための鍵となります。
- 適用根拠: この公式は、仕事率の定義 \(P=W/t\) と仕事の定義 \(W=Fx\) を組み合わせることで導かれます。微小時間\(\Delta t\)の間に\(\Delta x\)だけ動いたとすると、仕事は \(\Delta W = F\Delta x\)。仕事率は \(P = \Delta W / \Delta t = F(\Delta x / \Delta t)\)。ここで \(\Delta x / \Delta t\) は速さ\(v\)なので、\(P=Fv\)が導かれます。これは定義から論理的に導出される関係式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 大きな数字は指数で扱う: \(1.8 \times 10^6\) や \(6 \times 10^2\) のように、大きな数は指数(科学記法)のまま計算を進めると、ゼロの数を間違えるといったケアレスミスを防げます。指数の割り算は、\(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) という法則を使うと簡単です。
- 計算しやすいように式を変形する: \(v = P/F = P/(mg)\) のように、代入する前に文字式で最終的な形まで変形しておくと、何を計算すればよいか見通しが立ちやすくなります。
- 概算で見当をつける: \(v = 3000/4900\) を計算する際、\(4900\) はおよそ \(5000\) なので、\(v \approx 3000/5000 = 3/5 = 0.6\) と概算できます。これにより、計算結果が \(6.1\) や \(0.061\) のような桁違いの値になったときに、間違いに気づくことができます。
- 単位の確認: 最終的に求めた速さの単位が \([\text{m/s}]\) になっているかを確認します。\(P[\text{W}] / F[\text{N}] = (\text{J/s}) / \text{N} = (\text{N}\cdot\text{m}/\text{s}) / \text{N} = \text{m/s}\) となり、単位が合っていることが確かめられます。
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