今回の問題
thermodynamicsall#06_cropped【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱機関の仕事と熱効率」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事と仕事率の関係: 仕事率(単位時間あたりの仕事)に時間を掛けることで、その時間内に行われた総仕事量を計算できます。
- 熱効率の定義: 熱機関が供給された熱エネルギーを、どれだけ効率よく仕事に変換できたかを示す割合です。公式は \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\) で表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、エンジンが1時間でした仕事 \(W\) を「仕事率 \(\times\) 時間」で計算します。
- 次に、熱効率の公式を用いて、その仕事をするために必要だった熱量 \(Q_{\text{in}}\) を逆算します。
- 最後に、必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) を、重油1kgあたりの発熱量で割ることで、必要な重油の質量を求めます。
解説
思考の道筋とポイント
最終的に求めたいのは「重油の質量 \(m\)」です。このゴールから逆算して思考を組み立てます。
- 質量 \(m\) を知るには、エンジンに供給すべき総熱量 \(Q_{\text{in}}\) が必要です。
- 総熱量 \(Q_{\text{in}}\) を知るには、エンジンが実際に行った仕事 \(W\) が必要です。
- 仕事 \(W\) は、仕事率 \(P\) と時間 \(t\) から計算できます。
この「\(W \to Q_{\text{in}} \to m\)」という流れで計算を進めます。計算の際は、単位をSI単位系(W, s, J, kg)に統一することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 仕事率から仕事、熱効率から供給熱量、供給熱量から燃料質量、と段階的に計算できる。
- kWをWに、時間を秒に、パーセントを小数に、それぞれ正しく変換できる。
- 熱効率の公式 \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\) を正しく理解し、変形できる。
具体的な解説と立式
1. 1時間でした仕事 \(W\) の計算
仕事率 \(P\) と時間 \(t\) から、仕事 \(W\) を求めます。
$$ P = 2520 \text{ [kW]} = 2.52 \times 10^6 \text{ [W]} $$
$$ t = 1 \text{ [時間]} = 3600 \text{ [s]} $$
仕事 \(W\) は、
$$ W = P t \quad \cdots ① $$
2. 必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) の計算
熱効率 \(e\) の定義式 \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\) を変形します。
$$ Q_{\text{in}} = \frac{W}{e} \quad \cdots ② $$
熱効率 \(e\) は、
$$ e = 40 \text{ [%]} = 0.40 $$
3. 必要な重油の質量 \(m\) の計算
供給された熱量 \(Q_{\text{in}}\) は、質量 \(m\) の重油の発熱量 \(q\) によって得られます。
$$ Q_{\text{in}} = m q $$
これを \(m\) について解くと、
$$ m = \frac{Q_{\text{in}}}{q} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 仕事: \(W = Pt\)
- 熱効率: \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\)
まず、式①を用いて仕事 \(W\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= (2.52 \times 10^6 \text{ [W]}) \times (3600 \text{ [s]}) \\[2.0ex]&= (2.52 \times 10^6) \times (3.6 \times 10^3) \text{ [J]} \\[2.0ex]&= (2.52 \times 3.6) \times 10^{6+3} \text{ [J]} \\[2.0ex]&= 9.072 \times 10^9 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{in}} &= \frac{9.072 \times 10^9}{0.40} \\[2.0ex]&= 22.68 \times 10^9 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
最後に、式③を用いて重油の質量 \(m\) を計算します。重油1kgの発熱量は \(q = 4.2 \times 10^7 \text{ J}\) です。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{22.68 \times 10^9 \text{ [J]}}{4.2 \times 10^7 \text{ [J/kg]}} \\[2.0ex]&= \frac{22.68}{4.2} \times 10^{9-7} \text{ [kg]} \\[2.0ex]&= 5.4 \times 10^2 \text{ [kg]} \\[2.0ex]&= 540 \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
まず、エンジンが1時間でした仕事の量を計算します。仕事率は1秒あたりの仕事なので、\(2520 \text{ kW} = 2520000 \text{ W}\) に、1時間 = 3600秒を掛けて、\(9.072 \times 10^9\) J の仕事をします。次に、このエンジンは効率が40%なので、仕事をするためには、仕事量の \(1/0.40\) 倍の熱エネルギーが必要です。計算すると \(22.68 \times 10^9\) J の熱が必要だとわかります。最後に、この熱を発生させるのに必要な重油の量を計算します。重油は1kgあたり \(4.2 \times 10^7\) J の熱を出すので、必要な熱量をこれで割ると、\(540\) kg となります。
必要な重油の質量は \(540\) kg です。計算の各ステップで単位を正しく扱い、物理法則を順に適用することで、妥当な結果が得られました。
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【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱効率の概念:
- 核心: この問題は、熱機関が供給された熱エネルギー(\(Q_{\text{in}}\))を、どれだけの割合で有効な仕事(\(W\))に変換できるか、という「熱効率(\(e\))」の概念を正しく理解し、数式 \(e = W/Q_{\text{in}}\) として使えるかが全てです。
- 理解のポイント: 熱機関は、供給された熱を100%仕事に変えることはできず、必ず一部の熱を外部に捨てます(熱力学第二法則)。熱効率は、この「変換効率」を表す重要な指標です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 捨てた熱量(排熱)を問う問題: 「この機関が1時間に排出する熱量はいくらか?」と問われた場合。エネルギー保存則より、\(Q_{\text{in}} = W + Q_{\text{out}}\) なので、\(Q_{\text{out}} = Q_{\text{in}} – W\) で計算できます。また、\(Q_{\text{out}} = (1-e)Q_{\text{in}}\) としても計算可能です。
- カルノーサイクルの問題: 高熱源の温度 \(T_H\) と低熱源の温度 \(T_L\) が与えられている理想的な熱機関(カルノーサイクル)の場合、熱効率は \(e = 1 – \frac{T_L}{T_H}\) で計算できます。この効率を使って仕事や必要な熱量を求める問題に応用できます。
- 発電所の効率計算: 「発電所の出力が○○kWで、熱効率が△△%のとき、1日に消費する燃料の量は?」といった、より大規模なスケールの問題。考え方はこの問題と全く同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの流れを整理する: 「燃料の化学エネルギー \(\to\) 熱 \(Q_{\text{in}}\) \(\to\) 仕事 \(W\) + 排熱 \(Q_{\text{out}}\)」というエネルギーの流れを頭に描きます。
- 与えられた物理量を確認する: 仕事率(\(P\))、時間(\(t\))、熱効率(\(e\))、発熱量(\(q\))など、どの情報が与えられているかを確認します。
- ゴールから逆算する: 最終的に求めたい量(この場合は質量\(m\))から、「これを求めるには何が必要か?」と逆算して思考の道筋を立てます。(\(m \leftarrow Q_{\text{in}} \leftarrow W \leftarrow P, t\))
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位変換のミス:
- 誤解: kWをWに(\(\times 1000\))、時間を秒に(\(\times 3600\))変換し忘れる。
- 対策: 計算を始める前に、すべての単位をSI基本単位(W, s, J, kg)に書き直す癖をつけましょう。問題用紙の数値に直接書き込むと効果的です。
- 熱効率の式の混同:
- 誤解: \(e = W/Q_{\text{in}}\) の分子と分母を逆にしてしまう。
- 対策: 効率は必ず1以下(100%以下)になるので、仕事\(W\)は供給熱量\(Q_{\text{in}}\)より小さくなります。したがって、小さい方(\(W\))が大きい方(\(Q_{\text{in}}\))を割ると覚えておけば間違いません。
- パーセントの扱い:
- 誤解: 40%を0.4に直さず、40のまま計算してしまう。
- 対策: 「%」は「/100」を意味する記号だと覚え、計算式に入れる前には必ず小数に直すことを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(W = Pt\) (仕事の定義):
- 選定理由: 仕事率\(P\)は「単位時間あたりの仕事」と定義されるため、時間\(t\)の間の総仕事量を求めるには、掛け算をするのが自然です。
- 適用根拠: 仕事率の単位はワット[W]であり、これはジュール毎秒[J/s]と等価です。したがって、[J/s] \(\times\) [s] = [J] となり、単位の観点からもこの式が正しいことがわかります。
- \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\) (熱効率の定義):
- 選定理由: 熱機関の「性能」を評価するための最も基本的な定義式だからです。
- 適用根拠: 「投入したエネルギーのうち、どれだけが目的の仕事として取り出せたか」という割合を示すのが効率の考え方です。これは、あらゆる効率(エネルギー変換効率など)に共通する考え方であり、\((\text{出力})/(\text{入力})\) という形で表されます。熱機関の場合、入力が供給熱量\(Q_{\text{in}}\)、出力が仕事\(W\)に対応します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算を有効活用する: \(2520 \times 3600\) のような大きな数の計算は、\( (2.52 \times 10^3) \times (3.6 \times 10^3) \) のように指数表記に直して計算すると、0の数を間違えるミスが劇的に減ります。
- 計算を分割する: 一つの長い式で計算しようとせず、\(W\), \(Q_{\text{in}}\), \(m\) と段階を分けて、それぞれの計算結果を確認しながら進めると、ミスを発見しやすくなります。
- 概算で桁を確認する:
- 仕事: \(W \approx (2.5 \times 10^6) \times (4 \times 10^3) = 10 \times 10^9 = 1 \times 10^{10}\) J。実際の値 \(9.072 \times 10^9\) J と桁が合っています。
- 熱量: \(Q_{\text{in}} = W/0.4 = W \times 2.5 \approx (1 \times 10^{10}) \times 2.5 = 2.5 \times 10^{10}\) J。実際の値 \(2.268 \times 10^{10}\) J と桁が合っています。
- 質量: \(m = Q_{\text{in}}/q \approx (2.5 \times 10^{10}) / (4 \times 10^7) \approx 0.6 \times 10^3 = 600\) kg。実際の値 \(540\) kg と近いので、大きな間違いはなさそうです。
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