無料でしっかり基礎固め!物理基礎 問題演習「熱効率の応用計算:エンジンの燃料を求める」【高校物理対応】

問題の確認

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各設問の思考プロセス

この問題は、熱機関(ディーゼル機関)の性能(仕事率、熱効率)から、実際に必要な燃料の量を求める、熱力学の具体的な応用問題です。

最終的に求めたいのは「重油の質量 \(m\) [kg]」です。このゴールから逆算して、必要な情報を集めていくのが効率的な思考プロセスです。

  1. ゴール: 重油の質量 \(m\) を知りたい
    • 質量 \(m\) は、必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) と、重油1kgあたりの発熱量 \(q\) が分かれば、\(m = Q_{\text{in}} / q\) で計算できます。そのためには、まず \(Q_{\text{in}}\) を求める必要があります。
  2. ステップ2: 必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) を知りたい
    • 必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) は、熱効率 \(e\) の定義式 \(e = W / Q_{\text{in}}\) から逆算できます。つまり、\(Q_{\text{in}} = W / e\) です。そのためには、エンジンがした仕事 \(W\) を求める必要があります。
  3. ステップ1: エンジンがした仕事 \(W\) を知りたい
    • 仕事 \(W\) は、仕事率 \(P\) と運転時間 \(t\) が与えられているので、\(W = P \times t\) で計算できます。これで、計算の出発点が決まりました。

このように、ゴールから遡って思考を組み立て、「仕事W → 必要な熱量Q_in → 燃料の質量m」という順番で計算を進めていきます。計算の際は、kWをWに、時間を秒に変換するなど、単位をきちんと揃えることが重要です。

各設問の具体的な解説と解答

必要な重油の質量の計算

問われている内容の明確化
この問題で問われているのは、最大仕事率 2520 kW のディーゼル機関を1時間動かすために必要な重油の質量 \(m\) [kg] です。

具体的な解説と立式
この問題を解くために、以下の3つのステップで立式します。

ステップ1: 1時間でした仕事 \(W\) の計算
仕事 \(W\) は仕事率 \(P\) と時間 \(t\) の積で求められます。計算にあたり、単位を国際単位系(SI単位)であるワット[W]と秒[s]に揃える必要があります。

  • 仕事率: \(P = 2520 \, \text{kW} = 2520 \times 10^3 \, \text{W}\)
  • 時間: \(t = 1 \, \text{時間} = 60 \, \text{分} \times 60 \, \text{秒/分} = 3600 \, \text{s}\)

したがって、仕事 \(W\) は次のように立式できます。
$$W = P \times t \quad \cdots ①$$

ステップ2: 必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) の計算
熱効率 \(e\) の定義式 \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\) を変形し、投入された熱量 \(Q_{\text{in}}\) を求めます。
$$Q_{\text{in}} = \frac{W}{e} \quad \cdots ②$$
熱効率はパーセント表示なので、計算では小数(\(40\% \rightarrow 0.40\))に変換して用います。

ステップ3: 必要な重油の質量 \(m\) の計算
投入された熱量 \(Q_{\text{in}}\) は、質量 \(m\) の重油を燃やすことで得られます。重油1kgあたりの発熱量は \(q\) なので、
$$Q_{\text{in}} = m \times q$$となります。これを \(m\) について解くと、
$$m = \frac{Q_{\text{in}}}{q} \quad \cdots ③$$
となります。

使用した物理公式:

  1. 仕事: \(W = P \times t\) (仕事 = 仕事率 × 時間)
  2. 熱効率: \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{in}}}\) (熱効率 = 仕事 / 供給熱量)
  3. 発熱量: \(Q_{\text{in}} = m \times q\) (供給熱量 = 質量 × 発熱量)

計算過程
まず、式①を用いて仕事 \(W\) [J] を計算します。
$$W = (2520 \times 10^3 \, \text{W}) \times 3600 \, \text{s}$$
計算しやすいように科学記数法を用いると、\(2520 = 2.52 \times 10^3\)、\(3600 = 3.6 \times 10^3\) なので、
$$W = (2.52 \times 10^6 \, \text{W}) \times (3.6 \times 10^3 \, \text{s})$$
$$W = (2.52 \times 3.6) \times 10^{6+3} = 9.072 \times 10^9 \, \text{J}$$

次に、式②を用いて必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) [J] を計算します。熱効率は \(e = 40\% = 0.40\) です。
$$Q_{\text{in}} = \frac{9.072 \times 10^9}{0.40} = 22.68 \times 10^9 \, \text{J}$$

最後に、式③を用いて重油の質量 \(m\) [kg] を計算します。発熱量は \(q = 4.2 \times 10^7 \, \text{J/kg}\) です。
$$m = \frac{22.68 \times 10^9 \, \text{J}}{4.2 \times 10^7 \, \text{J/kg}}$$
数値部分と指数部分を分けて計算します。
$$m = \frac{22.68}{4.2} \times \frac{10^9}{10^7} = 5.4 \times 10^{9-7} = 5.4 \times 10^2 \, \text{kg}$$
$$m = 540 \, \text{kg}$$

計算方法の平易な説明

  • ステップ1: エンジンが1時間でした仕事量を計算する
    仕事率(1秒あたりの仕事)が 2520 kW = 2,520,000 W です。1時間は3600秒なので、総仕事量は \(2,520,000 \times 3600 = 9,072,000,000\) J となります。
  • ステップ2: その仕事をするのに必要だった熱エネルギーを計算する
    このエンジンは効率40%なので、投入した熱エネルギーの40%しか仕事になりません。つまり「投入した熱 × 0.40 = 仕事量」です。逆算すると「必要な熱 = 仕事量 ÷ 0.40」なので、\(9,072,000,000 \div 0.40 = 22,680,000,000\) J の熱が必要です。
  • ステップ3: 必要な熱から燃料の重さを計算する
    重油は1kgあたり \(4.2 \times 10^7\) J の熱を出すので、必要な重さは「必要な熱 ÷ 1kgあたりの熱」で計算できます。
    \(22,680,000,000 \div 42,000,000 = 540\) kg となります。

結論と吟味
全速力で1時間運航するために必要な重油は 540 kg です。
単位を確認すると、最終的な計算は J を J/kg で割っているため、kg となり、質量の単位として正しいです。数値の大きさも、大型船のエンジンを1時間動かす燃料としては、妥当な範囲と考えられます。

この設問における重要なポイント

  • 仕事率(kW)から仕事(J)を計算する際の単位変換(kW→W, 時間→秒)を忘れないこと。
  • 熱効率の定義 \(e = W / Q_{\text{in}}\) を正しく理解し、必要な熱量 \(Q_{\text{in}}\) を求めるために式変形できること。
  • 熱効率を計算に使う際は、パーセント表示(40%)ではなく小数(0.40)に直すこと。
  • 発熱量の単位(J/kg)の意味を理解し、必要な熱量から燃料の質量を計算できること。
解答:
540 kg

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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則

  • 仕事率 (Power): 単位時間あたりに行われる仕事。単位はワット[W](= J/s)。仕事率に時間を掛けると、その時間内に行われた総仕事量が求まる。
  • 熱効率 (Thermal Efficiency): 熱機関が、供給された熱エネルギーをどれだけ効率よく仕事に変換できるかを示す指標。\(e = (\text{した仕事}) / (\text{供給された熱})\) で定義され、1(100%)を超えることはない(熱力学第二法則)。
  • エネルギー変換と保存: この問題では、「燃料の化学エネルギー → 熱エネルギー → 仕事」というエネルギー変換が行われている。その変換効率が熱効率である。エネルギーは形を変えるだけで、なくなるわけではない(エネルギー保存の法則)。

類似の問題を解く上でのヒントや注意点

  • 単位の統一: 物理計算の基本として、計算を始める前に全ての物理量の単位を国際単位系(SI単位:メートル、キログラム、秒、ジュール、ワットなど)に揃える癖をつけることが非常に重要です。特に仕事率の「kW(キロワット)」や時間の「hour(時間)」は、そのまま計算に使うと間違いのもとです。
  • エネルギーの流れを図でイメージする: 「燃料から \(Q_{\text{in}}\) の熱が発生 → エンジンが \(W\) の仕事をし、残りの \(Q_{\text{out}}\) の熱を捨てる」というエネルギーの流れを簡単な図で描いてみると、熱効率の式の意味(\(W = e Q_{\text{in}}\))が視覚的に理解しやすくなります。

よくある誤解や間違いやすいポイント

  • 単位変換のミス: kW を W に直す(1000倍する)のを忘れたり、1時間を60秒と勘違いしたりするミスがよくあります。\(1 \text{kW} = 1000 \text{W}\), \(1 \text{hour} = 3600 \text{s}\) を正確に覚えましょう。
  • 熱効率の式の分子と分母の混同: \(e = W / Q_{\text{in}}\) なのか \(e = Q_{\text{in}} / W\) なのかを混同してしまうことがあります。効率は常に1以下(100%以下)であり、仕事 \(W\) は供給熱量 \(Q_{\text{in}}\) より必ず小さくなることを覚えておけば、\(W\) が分子に来ることがわかります。
  • パーセントのまま計算: 効率40%を、0.40に直さず40のまま計算してしまうと、答えが大きくずれてしまいます。

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