Step 2
322 コンデンサーの電気容量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平行板コンデンサーの電気容量の導出」です。ガウスの法則から出発し、電場、電位差を順に求め、最終的に電気容量の公式を導き、さらにクーロンの法則の比例定数と真空の誘電率の関係を明らかにします。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ガウスの法則: 電荷から出る電気力線の総本数は \(N = 4\pi k Q\) で与えられます。
- 電場の強さの定義: 電場の強さ \(E\) は、電場に垂直な単位面積を貫く電気力線の本数に等しくなります。
- 一様な電場と電位差の関係: 一様な電場 \(E\) の中で、距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差 \(V\) は \(V=Ed\) で表されます。
- コンデンサーの基本式: コンデンサーが蓄える電気量 \(Q\)、極板間の電圧 \(V\)、電気容量 \(C\) の間には \(Q=CV\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ① ガウスの法則を適用して、正極板の電荷 \(+Q\) から出る電気力線の総本数を求めます。
- ②, ③ 電気力線が面積 \(S\) の極板から一様に出ていると考え、単位面積あたりの本数を計算し、電場の強さ \(E\) を求めます。
- ④ 関係式 \(V=Ed\) を用いて、極板間の電圧 \(V\) を計算します。
- ⑤ ④で求めた式から、電気量 \(Q\) と電圧 \(V\) の関係を読み取ります。
- ⑥ コンデンサーの定義式 \(C=Q/V\) を用いて、電気容量 \(C\) を \(k, S, d\) で表します。
- ⑦ ⑥で求めた \(C\) の表式と、与えられている公式 \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\) を比較し、\(\varepsilon_0\) と \(k\) の関係式を導きます。
空欄①
思考の道筋とポイント
正電荷 \(+Q\) をもつ金属板から出る電気力線の総本数を求める問題です。これはガウスの法則の基本公式そのものです。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則: 真空中で電荷 \(Q\) [C] から出る電気力線の総本数 \(N\) は、クーロンの法則の比例定数 \(k\) を用いて \(N = 4\pi k Q\) と表される。
具体的な解説と立式
ガウスの法則によれば、電荷量 \(Q\) の点電荷を囲む閉曲面を貫く電気力線の総本数は、電荷量に比例します。その比例定数を含めた公式が \(N = 4\pi k Q\) です。これは点電荷だけでなく、導体上の電荷の総和に対しても適用できます。
したがって、正電荷 \(+Q\) をもつ金属板から出る電気力線の総本数は、この公式から直接求められます。
$$ N = 4\pi k Q $$
使用した物理公式
- ガウスの法則: \(N = 4\pi k Q\)
この設問は公式を適用するのみであり、具体的な計算は不要です。
物理学の基本的なルール(ガウスの法則)として、「電荷 \(Q\) があると、その周りには \(4\pi k Q\) 本の電気の矢印(電気力線)が湧き出す」と決まっています。この問題では、このルールをそのまま答えとして書けばOKです。
正電荷をもつ金属板から出る電気力線の本数は \(4\pi k Q\) 本となります。
空欄②
思考の道筋とポイント
金属板の間で、電気力線に垂直な単位面積(1 m²)を貫く電気力線の本数を求める問題です。①で求めた総本数を、金属板の面積 \(S\) で割ることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 平行板コンデンサー内の電気力線は、極板間で一様(等間隔で平行)であるとみなせる(端の効果は無視)。
- 単位面積あたりの本数(密度)は、総本数を全面積で割ることで計算できる。
具体的な解説と立式
①で求めた電気力線の総本数 \(N = 4\pi k Q\) が、面積 \(S\) の金属板から垂直に、かつ一様に出ていると考えます。
したがって、単位面積を貫く電気力線の本数は、総本数 \(N\) を面積 \(S\) で割ることで求められます。
$$ (\text{単位面積あたりの本数}) = \frac{N}{S} $$
使用した物理公式
- ①の結果: \(N = 4\pi k Q\)
①で求めた \(N = 4\pi k Q\) を上の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
(\text{単位面積あたりの本数}) &= \frac{4\pi k Q}{S}
\end{aligned}
$$
①で、金属板全体から出る電気力線の合計本数が \(4\pi k Q\) 本だとわかりました。これらの線が面積 \(S\) の板から均等に出ていると考えると、1 m² あたりの本数は「合計本数 ÷ 面積」で計算できます。
金属板間で電気力線に垂直な単位面積を貫く電気力線の本数は \(\displaystyle\frac{4\pi k Q}{S}\) 本となります。
空欄③
思考の道筋とポイント
金属板間の電場の強さ \(E\) を求める問題です。電場の強さは、その定義から、②で求めた「単位面積を貫く電気力線の本数」と等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 電場の強さ \(E\) の物理的意味: 電場に垂直な単位面積を貫く電気力線の本数は、その場所の電場の強さ \(E\) に等しい。
具体的な解説と立式
電場の強さ \(E\) は、電気力線の密度によって表されます。具体的には、「電場に垂直な単位面積を貫く電気力線の本数」が電場の強さの定義です。
したがって、②で求めた値がそのまま電場の強さ \(E\) となります。
$$ E = (\text{単位面積あたりの電気力線の本数}) $$
使用した物理公式
- 電場の強さの定義
②の結果から、電場の強さ \(E\) は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{4\pi k Q}{S}
\end{aligned}
$$
「電場の強さ」という物理量は、「電気力線がどれだけ密集しているか」で定義されています。これは、まさに②で計算した「1 m² あたりの電気力線の本数」そのものです。したがって、②の答えがそのまま③の答えになります。
金属板間の電場の強さ \(E\) は \(\displaystyle\frac{4\pi k Q}{S}\) [V/m] となります。
空欄④
思考の道筋とポイント
金属板間の電圧(電位差) \(V\) を求める問題です。平行板コンデンサーの極板間のように一様な電場中では、電圧 \(V\) は「電場の強さ \(E\) × 距離 \(d\)」で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場と電位差の関係: 一様な電場 \(E\) の中で、電場の向きに沿って距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差 \(V\) は、\(V=Ed\) で与えられる。
具体的な解説と立式
平行板コンデンサーの極板間の電場は一様であるとみなせます。この一様な電場の強さが \(E\) で、極板間の距離が \(d\) であるため、両極板間の電圧 \(V\) は以下の式で計算できます。
$$ V = E d $$
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
- ③の結果: \(E = \displaystyle\frac{4\pi k Q}{S}\)
③で求めた \(E\) の式を \(V=Ed\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= \left( \frac{4\pi k Q}{S} \right) \times d \\[2.0ex]&= \frac{4\pi k Q d}{S}
\end{aligned}
$$
電圧は「電気的な高さの差」と考えることができます。このとき、電場の強さ \(E\) は「坂道の傾き」に相当します。傾きが \(E\) の坂道を、距離 \(d\) だけ進んだときの高さの差 \(V\) は、「傾き × 距離」つまり \(E \times d\) で求められます。
金属板間の電圧 \(V\) は \(\displaystyle\frac{4\pi k Q d}{S}\) [V] となります。
空欄⑤
思考の道筋とポイント
コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) が、何に比例するかを答える問題です。コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) や、④で導出した関係式から考察します。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの基本性質: コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) は、そのコンデンサーの極板間の電圧 \(V\) に比例する。その比例定数が電気容量 \(C\) である (\(Q=CV\))。
具体的な解説と立式
④で導出した電圧 \(V\) の式は \(V = \displaystyle\frac{4\pi k d}{S} Q\) です。
この式を \(Q\) について整理すると、
$$ Q = \left( \frac{S}{4\pi k d} \right) V $$
となります。ここで、面積 \(S\) と距離 \(d\) は一定なので、括弧内の \(\left( \displaystyle\frac{S}{4\pi k d} \right)\) は定数です。これは電気容量 \(C\) にあたります。
この式から、電気量 \(Q\) は電圧 \(V\) に比例することがわかります。
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
この設問は物理的な関係性を問うものであり、具体的な計算は不要です。
コンデンサーは電気をためる「バケツ」のようなものです。電圧 \(V\) は、電気を流し込もうとする「圧力」のようなものだと考えられます。圧力を強くすれば(電圧を高くすれば)、バケツにたまる電気の量 \(Q\) も多くなります。したがって、電気量 \(Q\) は電圧に比例します。
蓄えられる電気量 \(Q\) は、\(S, d\) が一定の場合、電圧に比例します。
空欄⑥
思考の道筋とポイント
コンデンサーの電気容量 \(C\) を求める問題です。電気容量は、定義式 \(C=Q/V\) に、④で求めた電圧 \(V\) の式を代入することで計算できます。
この設問における重要なポイント
- 電気容量の定義: 電気容量 \(C\) は、コンデンサーに \(1\) V の電圧をかけたときに蓄えられる電気量として定義され、\(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) で計算される。
具体的な解説と立式
電気容量 \(C\) の定義式は以下の通りです。
$$ C = \frac{Q}{V} $$
この式の \(V\) に、④で求めた \(V = \displaystyle\frac{4\pi k Q d}{S}\) を代入して \(C\) を計算します。
使用した物理公式
- 電気容量の定義: \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\)
- ④の結果: \(V = \displaystyle\frac{4\pi k Q d}{S}\)
定義式に \(V\) を代入して計算を進めます。
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{Q}{V} \\[2.0ex]&= \frac{Q}{\displaystyle\frac{4\pi k Q d}{S}} \\[2.0ex]&= Q \cdot \frac{S}{4\pi k Q d} \\[2.0ex]&= \frac{S}{4\pi k d}
\end{aligned}
$$
電気容量 \(C\) は、そのコンデンサーの「性能」を表す値で、「1 V あたり、どれだけの電気をためられるか」を示します。計算するには、単純に「電気量 \(Q\) ÷ 電圧 \(V\)」を実行します。④で計算した電圧の式を使って割り算をすれば、答えが求まります。
電気容量 \(C\) は \(\displaystyle\frac{S}{4\pi k d}\) [F] となります。この式から、電気容量は極板の面積 \(S\) に比例し、極板間の距離 \(d\) に反比例することがわかります。
空欄⑦
思考の道筋とポイント
⑥で導出した電気容量 \(C\) の式と、真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) を用いた公式 \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\) を比較し、\(\varepsilon_0\) がクーロン定数 \(k\) を用いてどのように表されるかを求める問題です。
この設問における重要なポイント
- 物理定数間の関係: クーロンの法則の比例定数 \(k\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) は、どちらも真空中の電磁気的な性質を表す定数であり、互いに変換可能な関係にある。
具体的な解説と立式
⑥で求めた電気容量の式と、問題文で与えられている真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) を用いた電気容量の公式は、どちらも同じ平行板コンデンサーの電気容量を表しているので、等しいはずです。
したがって、これらを等号で結びます。
$$ \frac{S}{4\pi k d} = \varepsilon_0 \frac{S}{d} $$
この等式を \(\varepsilon_0\) について解きます。
使用した物理公式
- ⑥の結果: \(C = \displaystyle\frac{S}{4\pi k d}\)
- 平行板コンデンサーの電気容量の公式: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
上記で立てた等式を \(\varepsilon_0\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
\varepsilon_0 \frac{S}{d} &= \frac{S}{4\pi k d} \\[2.0ex]\varepsilon_0 &= \frac{S}{4\pi k d} \cdot \frac{d}{S} \\[2.0ex]\varepsilon_0 &= \frac{1}{4\pi k}
\end{aligned}
$$
⑥で自分たちの手で計算して求めた \(C\) の式と、教科書に載っている \(C\) の公式(\(\varepsilon_0\) を使った式)は、同じものを指しているはずです。そこで、この2つの式を「=」でつなぎます。両辺に共通して含まれている \(S\) と \(d\) を消去すると、\(\varepsilon_0\) と \(k\) の関係だけが残ります。
真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) は、クーロンの法則の比例定数 \(k\) を用いて \(\varepsilon_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi k}\) [F/m] と表されます。これは電磁気学における非常に重要な関係式です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの物理量の連鎖的導出:
- 核心: この問題は、コンデンサーに関する物理量、すなわち電荷\(Q\)、電気力線数\(N\)、電場\(E\)、電圧\(V\)、電気容量\(C\)が、互いにどのように関連し合っているかを、一連の論理的な流れで理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 出発点 (\(Q \rightarrow N\)): 全ての源は電荷\(Q\)です。ガウスの法則 \(N=4\pi k Q\) により、電荷が電気力線という形で電場を生み出す様子を定量化します。
- 電場の決定 (\(N \rightarrow E\)): 電気力線の「密度」が電場の強さ\(E\)を定義します (\(E = N/S\))。これにより、空間的な広がりを持つ物理量に変換されます。
- 電圧の計算 (\(E \rightarrow V\)): 電場が空間に作る「電気的な高低差」が電圧\(V\)です。一様な電場では、単純な掛け算 \(V=Ed\) で求まります。
- 電気容量の定義 (\(Q, V \rightarrow C\)): 最終的に、蓄えた電荷\(Q\)と、その結果生じた電圧\(V\)の「比」をとることで、コンデンサーの性能そのものを表す電気容量\(C\) (\(C=Q/V\))が導かれます。この \(Q \rightarrow E \rightarrow V \rightarrow C\) という一連の流れをマスターすることが最重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 同軸円筒コンデンサー・球コンデンサーの電気容量: 平行板では電場\(E\)が一定でしたが、これらの形状では中心からの距離\(r\)に依存して\(E\)が変化します(例: \(E \propto 1/r\))。電圧\(V\)を求める際に \(V=Ed\) ではなく積分計算が必要になりますが、「\(Q \rightarrow E \rightarrow V \rightarrow C\)」という導出の基本フローは全く同じです。
- 誘電体を挿入したコンデンサー: 誘電体を挿入すると、真空の誘電率\(\varepsilon_0\)が物質の誘電率\(\varepsilon\) (\(\varepsilon > \varepsilon_0\)) に置き換わると考えます。これにより電場が弱められ、結果として電気容量\(C\)が増大します。クーロン定数\(k\)で考える場合は、\(k\)が\(k’ = k/\varepsilon_r\)(\(\varepsilon_r\)は比誘電率)に変化すると考えれば同様に解けます。
- ガウスの法則を直接用いる電場計算: 点電荷、無限に長い帯電した直線、帯電した球殻などが作る電場を、対称性の良い「ガウス面」を設定して求める問題。この問題の①〜③は、まさにその計算を実行していることに相当します。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷分布の対称性を確認する: まず、電荷の分布を見て、電場が一様になるか(平行板)、距離に依存して変化するか(円筒、球)を判断します。これにより、電圧\(V\)の計算方法(\(V=Ed\)か、積分か)が決まります。
- 導出のフローを確認する: 問題が何を求めさせているかを確認し、「\(Q \rightarrow E \rightarrow V \rightarrow C\)」のどの段階の計算なのかを意識します。例えば、電場\(E\)が与えられていれば、\(E \rightarrow V \rightarrow C\)のステップから始めればよいと判断できます。
- 定数(\(k\) or \(\varepsilon_0\))を確認する: 問題文や設問で、クーロン定数\(k\)と誘電率\(\varepsilon_0\)のどちらを主として使っているかを確認します。最終的に求められる式の形がどちらの定数を含むべきかを意識することで、計算の方向性が定まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(Q=CV\) の式の因果関係の誤解:
- 誤解: \(C = Q/V\) という式を見て、「電気容量\(C\)は、電気量\(Q\)に比例し、電圧\(V\)に反比例する」と誤って解釈してしまう。
- 対策: 電気容量\(C\)は、コンデンサーの面積\(S\)や極板間距離\(d\)といった「形状」のみで決まる固有の性能値(定数)であると強く意識してください。この式は「電圧\(V\)をかけると、そのコンデンサーの性能\(C\)に応じて\(Q\)の電荷がたまる」という因果関係を表しています。\(Q\)と\(V\)は比例関係にあり、その比例定数が\(C\)です。
- 電場の強さと電気力線総数の混同:
- 誤解: ③で電場の強さ\(E\)を求める際に、①で求めた電気力線の「総本数」\(4\pi k Q\)を、そのまま電場の強さだと勘違いしてしまう。
- 対策: 電場の強さ\(E\)は、電気力線の「密度」であると定義を明確に覚えることが重要です。「密度」という言葉から、「単位面積あたり」、つまり「面積\(S\)で割る」という操作が必ず必要になると連想できるようにしましょう。
- クーロン定数\(k\)と誘電率\(\varepsilon_0\)の関係の混乱:
- 誤解: \(k\)と\(\varepsilon_0\)が別々の文脈で登場するため、両者の関係性がわからなくなり、式の変換で混乱する。
- 対策: \(k\)は「電荷間に働く力」の文脈(クーロンの法則)で、\(\varepsilon_0\)は「電場の生じやすさ、誘電しやすさ」の文脈(ガウスの法則、コンデンサー)で主に使われる定数だと役割を区別します。そして、両者を結びつける重要な関係式 \(\varepsilon_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi k}\) を、この問題のように一度自分で導出し、いつでも使えるようにしておくことが有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ガウスの法則 (\(N=4\pi k Q\)):
- 選定理由: この問題の出発点は「電荷\(Q\)」です。その電荷が周囲の空間にどのような影響(電場)を及ぼすかを記述する最初のステップとして、電荷量と電気力線の本数を結びつけるこの法則が不可欠です。
- 適用根拠: 電気力線という概念を用いて電場を視覚的・定量的に扱う電磁気学の基本法則であり、電荷が存在する限り、この法則が成り立ちます。
- 電場の強さの定義 (\(E = N/S\)):
- 選定理由: 「電気力線」という仮想的な概念から、物理的に測定可能な「電場の強さ\(E\)」へと変換するために必要です。
- 適用根拠: 平行板コンデンサーでは、電気力線が極板間で一様(等密度)に分布していると理想化できるため、「総本数 ÷ 面積」という単純な計算で電場の強さを求めることができます。
- 一様な電場と電位差の関係 (\(V=Ed\)):
- 選定理由: 電場の情報(\(E\))から、コンデンサーの性能を評価するもう一つの重要パラメータである「電圧\(V\)」を導出するために用います。
- 適用根拠: 平行板コンデンサー内部の電場は、極板間のどの場所でも強さと向きが同じ「一様な電場」とみなせるため、このシンプルな関係式が極めて有効に適用できます。
- 電気容量の定義 (\(C=Q/V\)):
- 選定理由: 問題の最終目標である「電気容量\(C\)」を計算するための定義式そのものです。
- 適用根拠: これまでの計算で、\(Q\)と\(V\)の関係が \(Q = (\text{定数}) \times V\) の形で導かれました。この比例定数こそが電気容量\(C\)の定義であり、この式を適用することで\(C\)を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の割り算は逆数の掛け算で:
- ⑥の \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) の計算では、分母の\(V\)がさらに分数 (\(\displaystyle\frac{4\pi k Q d}{S}\)) になっています。このような「分数分の分数」の形はミスを誘発します。必ず \(C = Q \div (\displaystyle\frac{4\pi k Q d}{S}) = Q \times (\displaystyle\frac{S}{4\pi k Q d})\) のように、逆数の掛け算の形に一段階書き直してから計算を進める癖をつけましょう。
- 約分は慎重に:
- 上記の計算で、分子と分母にある\(Q\)を約分で消去します。このとき、他の文字(\(k, S, d\)など)を誤って消してしまわないよう、一つ一つ指で確認しながら消すくらいの慎重さが大切です。特に、電気容量\(C\)は\(Q\)や\(V\)に依存しないはずなので、計算結果に\(Q\)が残っていたら間違いを疑う、という自己検閲が有効です。
- 等式変形での共通項の整理:
- ⑦で \(\varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d} = \displaystyle\frac{S}{4\pi k d}\) の両辺を比較する際、共通している部分(この場合は \(\displaystyle\frac{S}{d}\))を一つの塊と見て、それを両辺から取り除くようにすると、残りの部分の関係(\(\varepsilon_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi k}\))が明瞭になります。式全体を漠然と眺めるのではなく、共通部分や特徴的な部分を見つけ出す意識を持つと、計算が速く正確になります。
323 平行板コンデンサー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーの極板間隔を変化させたときの物理量の変化」です。特に、「電源に接続したまま」の場合と「電源から切り離した後」の場合で、どの物理量が一定に保たれるかを理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)。電荷量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)の関係を表します。
- 平行板コンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)。電気容量が極板の面積\(S\)に比例し、極板間隔\(d\)に反比例することを示します。
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)。極板間の電場\(E\)と電圧\(V\)、間隔\(d\)の関係です。
- 操作による条件の違い:
- 電源に接続したまま操作 → 電圧\(V\)が一定に保たれる。
- 電源から切り離して操作 → 電荷の移動ができないため、電気量\(Q\)が一定に保たれる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、与えられた数値と基本公式を用いて、電気量\(Q\)と電場\(E\)を具体的に計算します。
- (3)では、「電圧\(V\)が一定」という条件下で、極板間隔\(d\)を2倍にしたとき、各物理量(\(C, Q, E\))がどのように変化するかを、関係式を元に追跡します。
- (4)では、「電気量\(Q\)が一定」という条件下で、同様の操作を行った場合の変化を追跡します。
問(1)
思考の道筋とポイント
コンデンサーに蓄えられる電気量\(Q\)を求める問題です。電気容量\(C\)と電圧\(V\)が与えられているので、コンデンサーの基本式\(Q=CV\)を直接用いて計算します。単位の接頭辞\(\mu\)(マイクロ)の扱いに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
- 単位の換算: \(1 \mu \text{F} = 1 \times 10^{-6} \text{ F}\)
具体的な解説と立式
電気容量\(C\)、コンデンサーにかかる電圧\(V\)、蓄えられる電気量\(Q\)の間には、以下の関係があります。
$$ Q = CV $$
問題で与えられた値は \(C = 0.50 \mu \text{F} = 0.50 \times 10^{-6} \text{ F}\)、\(V = 4.0 \times 10^2 \text{ V}\) です。これらの値を上式に代入します。
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
与えられた値を代入して\(Q\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= (0.50 \times 10^{-6}) \times (4.0 \times 10^2) \\[2.0ex]&= (0.50 \times 4.0) \times 10^{-6+2} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^{-4} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
コンデンサーにたまる電気の量(\(Q\))は、そのコンデンサーの性能(電気容量\(C\))と、かけた電圧(\(V\))の掛け算で求めることができます。今回は \(C=0.50 \mu \text{F}\)、\(V=4.0 \times 10^2 \text{ V}\) なので、この2つを掛け合わせます。\(\mu\)は\(10^{-6}\)のことなので、忘れずに変換して計算します。
コンデンサーに蓄えられる電気量は \(2.0 \times 10^{-4} \text{ C}\) です。
問(2)
思考の道筋とポイント
極板間にできる電場の強さ\(E\)を求める問題です。平行板コンデンサーの極板間の電場は一様とみなせます。電圧\(V\)と極板間隔\(d\)が分かっているので、関係式\(V=Ed\)を用いて\(E\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)。これを変形すると \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\) となる。
具体的な解説と立式
一様な電場\(E\)の中の、電場の向きに沿った距離\(d\)だけ離れた2点間の電位差\(V\)は、\(V=Ed\)と表されます。
これを電場の強さ\(E\)について解くと、
$$ E = \frac{V}{d} $$
となります。問題で与えられた値は \(V = 4.0 \times 10^2 \text{ V}\)、\(d = 2.0 \times 10^{-3} \text{ m}\) です。
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
与えられた値を代入して\(E\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{4.0 \times 10^2}{2.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= \frac{4.0}{2.0} \times 10^{2 – (-3)} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^5 \text{ [V/m]}
\end{aligned}
$$
電場の強さ(\(E\))は、電圧(\(V\))を極板間の距離(\(d\))で割ることで求められます。電場が「電気的な坂道の傾き」だとすると、電圧は「高低差」、距離は「水平距離」にあたります。「傾き=高低差÷水平距離」という関係と同じです。
極板間にできる電場の強さは \(2.0 \times 10^5 \text{ V/m}\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「電源を接続したまま」極板の間隔\(d\)を2倍に広げる、という操作後の各物理量(\(C, V, Q, E\))の変化を問う問題です。最も重要なのは「電源を接続したまま」という条件が「電圧\(V\)が一定」を意味することを理解することです。これを基点に、各物理量の変化を順に追っていきます。
この設問における重要なポイント
- 条件の解釈: 「電源を接続したまま」 → 電圧\(V\)は一定。
- 各物理量の関係式:
- \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
- \(Q=CV\)
- \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\)
具体的な解説と立式
変化前の間隔を\(d\)、各物理量を\(C, V, Q, E\)とし、変化後の間隔を\(d’ = 2d\)、各物理量を\(C’, V’, Q’, E’\)とします。
条件より、\(V’ = V\)(1倍)です。
(ア) 電気容量\(C\)の変化
電気容量の式 \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\) を用います。\(d\)が2倍になるので、
$$ C’ = \varepsilon_0 \frac{S}{d’} = \varepsilon_0 \frac{S}{2d} = \frac{1}{2} \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d} \right) = \frac{1}{2} C $$
よって、電気容量は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
(イ) 電圧\(V\)の変化
電源に接続されたままなので、電圧は電源の電圧で一定に保たれます。
$$ V’ = V $$
よって、電圧は 1 倍(変化しない)です。
(ウ) 電気量\(Q\)の変化
基本式 \(Q=CV\) を用います。
$$ Q’ = C’V’ = \left( \frac{1}{2}C \right) \cdot V = \frac{1}{2} (CV) = \frac{1}{2} Q $$
よって、電気量は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
(エ) 電場\(E\)の変化
関係式 \(E=V/d\) を用います。
$$ E’ = \frac{V’}{d’} = \frac{V}{2d} = \frac{1}{2} \left( \frac{V}{d} \right) = \frac{1}{2} E $$
よって、電場の強さは \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
使用した物理公式
- \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
- \(Q=CV\)
- \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\)
この設問は変化率を問うものであり、具体的な数値計算は不要です。上記の立式が計算過程に相当します。
「電源につなぎっぱなし」は「電圧がずっと同じ」ということを意味します。
(ア) 板の間隔を2倍に広げると、電気をためる性能(\(C\))は半分に落ちます。
(イ) 電圧は電源につながっているので、変わりません(1倍)。
(ウ) 性能が半分になったので、同じ電圧でもためられる電気の量(\(Q\))は半分になります。
(エ) 電圧は同じままで距離だけが2倍になったので、電気的な坂道の傾き(\(E\))は半分になります。
(ア) \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍、(イ) 1 倍、(ウ) \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍、(エ) \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍となります。
問(4)
思考の道筋とポイント
「電源を切りはなして」から極板の間隔\(d\)を2倍に広げる、という操作後の各物理量の変化を問う問題です。この場合の最も重要なポイントは「電源から切り離した」という条件が「電気量\(Q\)が一定」を意味することを理解することです。電荷は孤立した導体から逃げることができないためです。
この設問における重要なポイント
- 条件の解釈: 「電源を切りはなして」 → 電気量\(Q\)は一定。
- 各物理量の関係式: (3)と同様の式を用いますが、\(Q\)が一定という条件から出発します。
具体的な解説と立式
(3)と同様に、変化前を\(C, V, Q, E\)、変化後を\(C’, V’, Q’, E’\)とします。間隔は\(d’ = 2d\)です。
条件より、\(Q’ = Q\)(1倍)です。
(ア) 電気容量\(C\)の変化
これは(3)のアと同じです。極板間隔\(d\)のみに依存するため、操作の条件(電源接続or切断)にはよりません。
$$ C’ = \varepsilon_0 \frac{S}{d’} = \varepsilon_0 \frac{S}{2d} = \frac{1}{2} C $$
よって、電気容量は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
(イ) 電圧\(V\)の変化
基本式 \(Q=CV\) を \(V=Q/C\) と変形して考えます。
$$ V’ = \frac{Q’}{C’} = \frac{Q}{\frac{1}{2}C} = 2 \left( \frac{Q}{C} \right) = 2V $$
よって、電圧は 2 倍になります。
(ウ) 電気量\(Q\)の変化
電源から切り離されているため、電荷は極板上に保存されます。
$$ Q’ = Q $$
よって、電気量は 1 倍(変化しない)です。
(エ) 電場\(E\)の変化
関係式 \(E=V/d\) を用います。
$$ E’ = \frac{V’}{d’} = \frac{2V}{2d} = \frac{V}{d} = E $$
よって、電場の強さは 1 倍(変化しない)です。
具体的な解説と立式
電場の強さ\(E\)は、\(E=V/d\), \(V=Q/C\), \(C=\varepsilon_0 S/d\) の3式を組み合わせることで、
$$ E = \frac{V}{d} = \frac{Q/C}{d} = \frac{Q}{Cd} = \frac{Q}{(\varepsilon_0 S/d)d} = \frac{Q}{\varepsilon_0 S} $$
と表すこともできます。この問題(4)の状況では、電気量\(Q\)、真空の誘電率\(\varepsilon_0\)、極板面積\(S\)はすべて変化しません。したがって、この式から電場\(E\)は一定、つまり1倍になることが直接わかります。
結論と吟味
この方法を使えば、(イ)で電圧の変化を計算する前に(エ)の答えがわかります。物理量の関係を多角的に理解しておくと、より簡単に見通しよく解ける場合があります。
使用した物理公式
- \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
- \(Q=CV\)
- \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\)
この設問は変化率を問うものであり、具体的な数値計算は不要です。上記の立式が計算過程に相当します。
「電源を切りはなす」は「たまった電気の量(\(Q\))が同じまま」ということを意味します。
(ア) 板の間隔を2倍に広げると、性能(\(C\))は半分に落ちます。
(イ) 同じ量の電気を性能の悪い入れ物(\(C\)が半分)に無理やり入れるので、電圧(\(V\))は2倍に上がります。
(ウ) 電気の量(\(Q\))は逃げ場がないので、変わりません(1倍)。
(エ) 電圧が2倍になり、距離も2倍になったので、打ち消し合って電気的な坂道の傾き(\(E\))は変わりません(1倍)。
(ア) \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍、(イ) 2 倍、(ウ) 1 倍、(エ) 1 倍となります。特に(エ)で電場が一定になるという結果は、ガウスの法則から導かれる重要な性質です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサー操作における「不変量」の特定:
- 核心: この問題の成否を分けるのは、コンデンサーに対する操作(極板間隔の変更)の際に、「何が一定に保たれるか(不変量)」を正しく見抜けるかどうかです。
- 理解のポイント:
- 電源に接続したまま → 電圧\(V\)が一定: コンデンサーは常に電源に接続されているため、その両端の電位差は電源の電圧と等しく保たれ続けます。電荷\(Q\)は、この一定の電圧を維持するために、コンデンサーと電源の間を自由に移動できます。
- 電源から切り離した後 → 電気量\(Q\)が一定: コンデンサーが回路から孤立すると、蓄えられた電荷の逃げ道がなくなります。したがって、極板上の電気量\(Q\)は変化しようがなく、一定に保たれます。この状態で極板間隔などを変えると、一定の\(Q\)を維持するために電圧\(V\)が変化します。
- この2つのシナリオの違いを理解し、それぞれの状況でどの物理量を基点に考えるべきかを判断することが、この問題の最大の鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 誘電体の挿入・抜去: 極板間に比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を挿入すると、電気容量が \(C \rightarrow \varepsilon_r C\) と変化します。この操作を「電源接続時」に行うか「切断後」に行うかで、(3)と(4)と全く同じ思考フローで解くことができます。
- コンデンサーに蓄えられるエネルギーの変化: この問題に加えて、静電エネルギー \(U\)(\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\))がどう変化するかを問う問題は非常に多いです。不変量(\(V\)または\(Q\))を含む方の公式を選ぶと計算が楽になります。(例:V一定なら\(U=\frac{1}{2}CV^2\)、Q一定なら\(U=\frac{Q^2}{2C}\))
- 複数のコンデンサー回路: 直列・並列回路の一部で極板間隔を変える問題。まず合成容量の変化を計算し、回路全体の電圧・電荷の配分がどう変わるかを追跡します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「接続したまま」か「切りはなして」かを確認: 問題文のこのフレーズに真っ先に印をつけます。これが全ての思考の出発点です。
- 不変量を明記する: 条件を確認したら、解答の余白に「\(V=\text{一定}\)」または「\(Q=\text{一定}\)」と大きく書き出します。
- 直接変化する量を特定する: 次に、操作(間隔を広げる、誘電体を入れる等)によって、どの物理量(主に電気容量\(C\))が直接的に変化するかを \(C=\varepsilon_0 S/d\) の式から求めます。
- 基本公式で連鎖を追う: 「不変量」と「\(C\)の変化」を使い、\(Q=CV\) と \(V=Ed\) を駆使して、残りの物理量の変化をドミノ倒しのように一つずつ確定させていきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「接続」と「切断」の条件の混同:
- 誤解: (3)と(4)は似ているため、どちらの状況でも同じように考えてしまい、不変量を間違える。
- 対策: 問題を解き始める前に、問題文の「電源を接続したまま」「電源を切りはなして」というキーワードに丸をつけ、「V一定」「Q一定」と物理的な意味をメモする習慣をつけましょう。この2つは全く異なる物理現象だと強く認識することが重要です。
- 全ての物理量が変化するとの思い込み:
- 誤解: 極板間隔を変えたのだから、\(C, V, Q, E\)の全てが何倍かに変化するはずだと思い込み、不変量の存在を見落とす。
- 対策: 「なぜVが一定なのか? → 電源が電圧を供給し続けるから」「なぜQが一定なのか? → 電荷の逃げ道がないから」という物理的な理由をセットで理解することが有効です。これにより、不変量の存在を確信を持って使うことができます。
- 公式の適用ミス:
- 誤解: (4)の(エ)で電場を求めるとき、(3)と同じように \(E=V/d\) を考え、Vが2倍、dが2倍だから \(E’ = 2V/2d = E\) と計算するのは正しい。しかし、(3)の(エ)で \(E=Q/\varepsilon_0 S\) を使おうとして、\(Q\)が\(\frac{1}{2}\)倍になるから\(E\)も\(\frac{1}{2}\)倍、と考えるのは結果的に正しいが、遠回り。
- 対策: どの公式がどの物理量を結びつけているかを意識し、最も少ないステップで解けるルートを選ぶのが理想です。(3)では\(V\)が一定なので\(E=V/d\)から\(E \propto 1/d\)と考えるのが最も速く、(4)では\(Q\)が一定なので\(E=Q/\varepsilon_0 S\)から\(E\)が一定と考えるのが最も速いです。基本の3公式(\(Q=CV, C=\varepsilon_0 S/d, V=Ed\))から状況に応じて判断する力を養いましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\) (電気容量の式):
- 選定理由: この問題の操作は「極板間隔\(d\)の変化」です。この操作が、まずどの物理パラメータに直接影響を及ぼすかを記述するのがこの式です。コンデンサーの「形状」がその「性能(容量)」を決定するという物理的意味を持ちます。
- 適用根拠: (3)(4)ともに、全ての変化を考察する上での最初のステップとして、\(d\)が2倍になることで\(C\)が\(\frac{1}{2}\)倍になることを確定させるために使います。
- \(Q=CV\) (コンデンサーの基本式):
- 選定理由: コンデンサーを特徴づける3つの基本量\(Q, C, V\)の関係を示す、最も重要な式です。
- 適用根拠: この式は、状況に応じて主役を変える便利なツールです。
- (3)「\(V\)一定」の状況下では、\(C\)の変化が\(Q\)にどう影響するか (\(Q \propto C\)) を見るために使います。
- (4)「\(Q\)一定」の状況下では、\(C\)の変化が\(V\)にどう影響するか (\(V \propto 1/C\)) を見るために使います(\(V=Q/C\)の形で)。
- \(V=Ed\) (一様な電場と電位差の関係):
- 選定理由: 電場\(E\)という空間的な物理量と、測定しやすい電圧\(V\)を結びつける関係式です。
- 適用根拠: (3)では\(V\)が一定なので、\(d\)の変化から\(E\)の変化を求めます (\(E \propto 1/d\))。(4)では、先に求めた\(V\)と\(d\)の変化を使って、\(E\)の変化を求めます (\(E’ = V’/d’\))。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 変化率の計算を丁寧に行う:
- 変化後の量を「’(プライム)」をつけて区別し、「\(d’ = 2d\)」のように定義を明確にします。
- \(C’ = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d’} = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{2d} = \frac{1}{2} \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d} \right) = \frac{1}{2} C\) のように、必ず元の物理量の形を作り出し、その係数として「何倍になったか」を抽出する計算方法を徹底します。
- 単位の接頭辞の換算:
- (1)の計算で、\(\mu\)F(マイクロファラド)を \(10^{-6}\) F に正確に換算することが必須です。k(キロ, \(10^3\)), m(ミリ, \(10^{-3}\)), n(ナノ, \(10^{-9}\)), p(ピコ, \(10^{-12}\)) など、よく使われる接頭辞は確実に覚えておきましょう。
- 指数計算の正確性:
- (1)や(2)のような数値計算では、\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\) や \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) といった指数法則をミスなく適用することが求められます。特に、\(10^2 / 10^{-3} = 10^{2-(-3)} = 10^5\) のような、負の指数の割り算は符号ミスに注意が必要です。
- 思考プロセスの可視化:
- (3)や(4)のように複数の物理量の変化を追う問題では、頭の中だけで考えず、紙に書き出すことが有効です。
- 例:「(4) Q一定の場合」→ 「①\(d \rightarrow 2d\)」→「②\(C \rightarrow \frac{1}{2}C\)」→「③\(V=Q/C\)より\(V \rightarrow 2V\)」→「④\(E=V/d\)より\(E \rightarrow E\)」のように、変化の連鎖を矢印でつないで整理すると、混乱を防ぎ、見直しも容易になります。
324 コンデンサーのエネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーの静電エネルギーの導出と、充電過程におけるエネルギー収支」です。コンデンサーに電荷を蓄えるのに必要な仕事が、なぜ\(\frac{1}{2}QV\)となるのかをグラフを用いて理解し、さらに電源が供給するエネルギーとの差が何になるのかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)。電気量\(Q\)と電位差\(V\)は比例関係にあります。
- 仕事の定義: 電荷\(q\)を電位差\(V\)のところに運ぶ仕事は\(W=qV\)で与えられます。
- \(V-Q\)グラフとエネルギー: コンデンサーの充電に必要な仕事(静電エネルギー)は、\(V-Q\)グラフと\(Q\)軸で囲まれた面積に等しくなります。
- エネルギー保存則: 電源がした仕事は、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーと、回路で発生するジュール熱の和に等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 空欄①, ②: コンデンサーの基本式\(Q=CV\)から、電気量と電位差の関係を導きます。
- 空欄③: 仕事の定義\(W=qV\)を、微小な電荷\(\Delta Q\)を充電する過程に適用します。
- 空欄④: \(V-Q\)グラフの面積を計算することで、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーの公式を導出します。
- 空欄⑤: 電源がした仕事の定義(\(W_{\text{電源}} = QV_{\text{電源}}\))を適用し、(4)の結果と比較してエネルギー収支を考えます。
思考の道筋とポイント(空欄①, ②)
コンデンサーに蓄えられる電気量\(Q\)と、そのときの極板間の電位差\(V\)の関係を問う問題です。すべての基本となるコンデンサーの定義式\(Q=CV\)から考えます。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの基本式\(Q=CV\)より、電気量\(Q\)と電位差\(V\)は比例関係にある。
- 電気容量\(C\)は、そのコンデンサーの形状などで決まる定数である。
具体的な解説と立式
空欄①
コンデンサーの基本式\(Q=CV\)において、電気容量\(C\)は定数です。したがって、蓄えられる電気量\(Q\)は、コンデンサーの両極板間の電位差\(V\)に比例します。問題文では主語が「蓄えられる電気量」なので、これは「電位差に比例して増加する」となります。
空欄②
基本式\(Q=CV\)を、電位差\(V\)について解くと、以下の関係式が得られます。
$$ V = \frac{Q}{C} $$
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
この設問は、物理法則の理解と簡単な式変形を問うものであり、具体的な数値計算は不要です。
コンデンサーは電気をためるバケツのようなものです。たまった電気の量(\(Q\))が多くなるほど、電気的な圧力(電位差\(V\))も直線的に高くなっていきます。つまり、この2つは「比例」の関係にあります。この関係を式で表したものが\(Q=CV\)で、これを\(V\)について書き直すと\(V=Q/C\)となります。
空欄①は「比例」、空欄②は「\(\displaystyle\frac{Q}{C}\)」となります。問題の\(V-Q\)グラフが原点を通る直線であることからも、\(V\)と\(Q\)の比例関係が確認できます。
思考の道筋とポイント(空欄③)
電位差が\(V’\)の状態で、さらに微小な電気量\(\Delta Q\)を充電するのに必要な仕事\(\Delta W\)を求めます。これは、電荷\(\Delta Q\)を電位差\(V’\)のところに「運び込む」仕事と考えることができます。
この設問における重要なポイント
- 電荷\(q\)を電位差\(V\)のところに運ぶ仕事は \(W=qV\)。
- 微小な充電過程(\(\Delta Q\)は非常に小さい)では、電位差はその間ほぼ一定(\(V’\))とみなせる。
具体的な解説と立式
仕事の基本公式\(W=qV\)をこの状況に適用します。今、運びたい電荷の量は\(\Delta Q\)で、そのときの電位差は\(V’\)です。\(\Delta Q\)が微小量であるため、この電荷を運んでいる間の電位差は\(V’\)で一定と近似できます。
したがって、必要な仕事\(\Delta W\)は、
$$ \Delta W = (\text{運ぶ電荷}) \times (\text{その場所の電位差}) $$
という関係から、次のように立式できます。
$$ \Delta W = \Delta Q \cdot V’ $$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W=qV\)
公式の適用のみであり、計算は不要です。
電気の粒(電荷\(\Delta Q\))を、高さ\(V’\)の崖の上に持ち上げる仕事をイメージしてください。物理における仕事は「(力)×(距離)」ですが、電気の世界では「(電荷)×(電位差)」で計算できます。したがって、仕事は\(\Delta Q \times V’\)となります。これは、\(V-Q\)グラフ上の、幅\(\Delta Q\)、高さ\(V’\)の細長い長方形の面積に相当します。
微小な充電に必要な仕事は\(\Delta Q \cdot V’\)です。
思考の道筋とポイント(空欄④)
コンデンサーを電位差0から\(V\)まで充電するのに必要な総仕事、すなわちコンデンサーの静電エネルギー\(U\)を求めます。これは、空欄③で考えた微小な仕事\(\Delta W = V’ \Delta Q\)を、充電開始(\(Q=0\))から終了(\(Q=Q\))まで全て足し合わせる(積分する)ことに相当します。\(V-Q\)グラフでは、グラフと横軸で囲まれた部分の面積を求めることに対応します。
この設問における重要なポイント
- \(V-Q\)グラフの面積は、コンデンサーの静電エネルギー\(U\)を表す。
- 三角形の面積の公式は、\(\displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})\)。
具体的な解説と立式
充電に必要な総仕事である静電エネルギー\(U\)は、\(V-Q\)グラフの面積に等しくなります。
グラフの形状は、底辺の長さが最終的な電気量\(Q\)、高さが最終的な電位差\(V\)の直角三角形です。
したがって、その面積\(U\)は、
$$ U = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) $$
から、次のように求められます。
$$ U = \frac{1}{2} Q V $$
使用した物理公式
- \(V-Q\)グラフの面積が静電エネルギーを表すという関係。
面積計算のみであり、代数的な計算過程はありません。
充電に必要なトータルの仕事は、\(V-Q\)グラフに描かれた三角形の面積を計算すれば求まります。底辺が\(Q\)、高さが\(V\)なので、面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で \(\displaystyle\frac{1}{2}QV\) となります。仕事が\(QV\)にならないのは、充電開始時は電圧が0で、徐々に電圧が上がっていくため、常に最大の電圧\(V\)で仕事をするわけではないからです。
コンデンサーの静電エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}QV\) です。この式は、\(Q=CV\)を用いることで、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) や \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) といった形にも変形でき、状況に応じて使い分けられます。
思考の道筋とポイント(空欄⑤)
電圧\(V\)の電源を使ってコンデンサーを充電したときに、電源がした仕事\(W_{\text{電源}}\)を求めます。これは、空欄④で求めたコンデンサーに蓄えられたエネルギーとは異なる物理量であることに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 電源がした仕事 \(W_{\text{電源}}\) = (電源が送り出した総電荷) × (電源の電圧)。
- 電源の電圧は、充電中常に一定である。
- エネルギー保存則: \(W_{\text{電源}} = U_{\text{コンデンサー}} + Q_{\text{ジュール熱}}\)
具体的な解説と立式
電源は、充電プロセスを通じて常に一定の電圧\(V\)を保っています。コンデンサーを最終的に電気量\(Q\)まで充電するということは、電源は合計で\(Q\)の量の電荷を、電圧\(V\)で回路に送り出したことになります。
したがって、電源がした仕事\(W_{\text{電源}}\)は、仕事の定義から次のように計算されます。
$$ W_{\text{電源}} = Q V $$
この結果と空欄④の結果を比較すると、
電源がした仕事: \(QV\)
コンデンサーに蓄えられたエネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}QV\)
となり、電源がした仕事の半分しかコンデンサーには蓄えられていないことがわかります。残りの半分(\(QV – \frac{1}{2}QV = \frac{1}{2}QV\))は、回路の導線などの抵抗によってジュール熱として消費され、失われます。
使用した物理公式
- 電源がした仕事の定義: \(W=qV\)
- エネルギー保存則
公式の適用のみであり、計算は不要です。
電源は、高さ\(V\)のポンプだと考えてください。このポンプが、量\(Q\)の水をくみ上げた(電荷を送り出した)ので、ポンプがした仕事は単純な掛け算で \(Q \times V\) となります。しかし、コンデンサーというタンクにたまった水のエネルギー(位置エネルギー)は、④で見たように\(\displaystyle\frac{1}{2}QV\)しかありません。この差額である\(\displaystyle\frac{1}{2}QV\)は、水を送るパイプの摩擦で発生した熱(ジュール熱)として失われた、と考えることができます。
電源がした仕事は\(QV\)です。これはコンデンサーに蓄えられるエネルギーのちょうど2倍であり、充電においてはエネルギーの50%が熱として失われるという、電磁気学における非常に重要な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(V-Q\)グラフの面積とエネルギーの関係:
- 核心: コンデンサーの静電エネルギー\(U\)が、\(V-Q\)グラフと\(Q\)軸で囲まれた「三角形」の面積に等しいこと(\(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV\))を理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 微小な仕事: 電位差\(V’\)のときに微小電荷\(\Delta Q\)を運ぶ仕事は\(\Delta W = V’ \Delta Q\)。これはグラフ上の細い長方形の面積にあたります。
- 総仕事(エネルギー): この微小な仕事を充電開始(\(Q=0\))から終了(\(Q=Q\))まで足し合わせる(積分する)と、最終的にグラフ下の三角形全体の面積になります。
- 充電過程のエネルギー収支:
- 核心: 「電源がした仕事(\(W_{\text{電源}}=QV\))」、「コンデンサーに蓄えられた静電エネルギー(\(U=\frac{1}{2}QV\))」、そして「回路で発生したジュール熱(\(Q_{\text{熱}}=\frac{1}{2}QV\))」の3者の関係(\(W_{\text{電源}} = U + Q_{\text{熱}}\))を理解すること。
- 理解のポイント: 電源は常に一定の電圧\(V\)で電荷を供給しますが、コンデンサーの電圧は0から徐々に上がっていきます。この「電圧差」があるために、エネルギーの一部が熱として失われ、\(W_{\text{電源}} \neq U\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗を含むRC回路の過渡現象: スイッチを入れた直後や十分に時間が経過した後の電流や電圧を問う問題。ジュール熱の総量を計算させる問題もこの知識の応用です。
- コンデンサーの接続替え: 充電済みのコンデンサーを別のコンデンサーや抵抗に接続する問題。接続の前後でエネルギー保存則(ジュール熱が発生するため成り立たない)と電荷保存則(孤立系では成り立つ)のどちらが適用できるかを考えることが鍵となります。
- 非線形なコンデンサー: もし\(V-Q\)グラフが直線でなく曲線で与えられた場合でも、「グラフの面積がエネルギー」という原理は変わりません。この場合は積分計算が必要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: \(V-Q\)グラフか、\(Q-V\)グラフかを確認します。どちらでも面積がエネルギーを表しますが、底辺と高さが逆になるので注意が必要です。
- 「静電エネルギー」と「電源がした仕事」を区別する: 問題文がどちらを問うているかを明確に区別します。両者は異なる物理量であり、抵抗を含む回路での充電では通常 \(W_{\text{電源}} = 2U\) の関係にあります。
- エネルギーの公式を使い分ける: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) の3つの公式をいつでも導出・利用できるようにしておきます。問題で与えられている変数に応じて最も計算しやすい形を選びましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静電エネルギーを\(QV\)としてしまうミス:
- 誤解: 仕事は「電荷×電圧」だから、エネルギーも\(QV\)だろうと短絡的に考えてしまう。
- 対策: 充電中、電圧は0から\(V\)まで「徐々に増加する」ことを常に意識してください。したがって、平均の電圧は\(\frac{V}{2}\)と考えることができ、仕事は \(Q \times (\text{平均電圧}) = Q \times \frac{V}{2} = \frac{1}{2}QV\) とイメージすると間違いを防げます。\(V-Q\)グラフが「三角形」になることを視覚的に覚えておくのが最も効果的です。
- 電源がした仕事と静電エネルギーの混同:
- 誤解: (4)と(5)は同じものだと考え、両方とも\(\frac{1}{2}QV\)または\(QV\)と答えてしまう。
- 対策: 「電源」と「コンデンサー」を主語にして考えましょう。「電源がした仕事」は、電源が”一定の電圧\(V\)”で電荷\(Q\)を送り出した結果なので\(QV\)です。「コンデンサーに蓄えられたエネルギー」は、電圧が”0から\(V\)に変化する過程”の結果なので\(\frac{1}{2}QV\)です。主語と状況を意識して区別してください。
- エネルギー保存則の誤用:
- 誤解: コンデンサーの充電過程で、エネルギーは保存されるので「電源がした仕事=静電エネルギー」だと考えてしまう。
- 対策: 回路に抵抗成分(導線にも微小な抵抗があります)が存在する限り、電流が流れれば必ずジュール熱が発生します。したがって、充電のような電流が流れる過程では、電磁気的なエネルギーは保存されません(熱エネルギーも含めた全エネルギーは保存されます)。「電源がした仕事の半分は熱になる」と覚えておくと良いでしょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(W=qV\) (仕事の定義):
- 選定理由: エネルギーや仕事の議論の全ての出発点です。電位の定義そのもの(単位電荷あたりの位置エネルギー)から導かれる基本公式です。
- 適用根拠: (3)では微小電荷\(\Delta Q\)を運ぶ微小な仕事を計算するために、(5)では総電荷\(Q\)を電源が送り出す総仕事を計算するために、この定義を適用します。
- \(U = \int dW = \int V’ dQ\) (積分の考え方):
- 選定理由: 電圧が一定でない状況で総仕事を求めるための唯一の正しい方法です。
- 適用根拠: (4)で\(V-Q\)グラフの面積を求めるのは、この積分計算を視覚的に行っていることに他なりません。\(V’ = Q/C\)を代入して積分すると \(U = \int_0^Q (Q/C) dQ = [\frac{Q^2}{2C}]_0^Q = \frac{Q^2}{2C}\) となり、公式が導出できます。高校物理ではグラフ面積でこの計算を代用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの面積計算での係数忘れ: 三角形の面積公式 \(\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})\) の「\(\displaystyle\frac{1}{2}\)」を絶対に忘れないようにしましょう。これは最も多いケアレスミスの一つです。
- 変数の区別: \(V\)(最終電圧)と\(V’\)(充電途中の電圧)、\(\Delta Q\)(微小な電荷)と\(Q\)(総電荷)など、似た記号を問題文の定義通りに正確に区別して考えることが重要です。
- 公式の導出を一度は行ってみる: \(\displaystyle\frac{1}{2}QV\), \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\), \(\displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) の3つの公式を丸暗記するだけでなく、\(Q=CV\)を使って互いに変換できるように練習しておきましょう。これにより、どの公式が基本形かを理解でき、記憶が定着しやすくなります。
325 コンデンサーの並列接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーの並列接続」です。スイッチを閉じた後、コンデンサーがどのように充電され、回路全体や各コンデンサーにどれだけの電気量やエネルギーが蓄えられるかを計算します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本公式: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)の関係式 \(Q=CV\) は全ての計算の基礎となります。
- コンデンサーの並列接続: 複数のコンデンサーを並列に接続した際の合成容量の求め方と、その物理的意味を理解することが重要です。
- 並列接続の特徴: 並列に接続された各コンデンサーには、等しい電圧がかかります。この性質が各コンデンサーの電気量を計算する鍵となります。
- 静電エネルギー: コンデンサーに蓄えられるエネルギーの公式(\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\))を理解し、状況に応じて使い分ける能力が求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、問題の回路図からコンデンサーが並列接続されていることを確認し、並列接続の合成容量の公式を適用します。
- (2)では、(1)で求めた回路全体の合成容量と電源電圧を用いて、コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) から回路全体に蓄えられる総電気量を計算します。これが電池を通過した電気量に相当します。
- (3)では、並列接続の特徴(各コンデンサーにかかる電圧が等しい)を利用して、コンデンサー\(C_1\)に蓄えられた電気量と静電エネルギーをそれぞれ公式を用いて計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
回路全体の合成容量を求める問題です。まず、回路図から2つのコンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)がどのように接続されているか(直列か並列か)を正確に判断することが第一歩です。この問題では、それぞれのコンデンサーの両端が共通の2点で接続されているため、並列接続であることがわかります。並列接続の場合の合成容量の計算方法を適用します。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの並列接続では、合成容量は各コンデンサーの電気容量の和となる。
- 合成容量の公式: \(C = C_1 + C_2 + \dots\)
具体的な解説と立式
求める全体の電気容量(合成容量)を \(C\) とします。コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) は並列に接続されているため、合成容量はそれぞれの電気容量の和に等しくなります。
与えられた値は \(C_1 = 4.0 \, [\mu\text{F}]\), \(C_2 = 5.0 \, [\mu\text{F}]\) です。
したがって、合成容量\(C\)は次の式で表されます。
$$ C = C_1 + C_2 $$
使用した物理公式
- コンデンサーの並列接続における合成容量: \(C = C_1 + C_2\)
与えられた値を代入して、合成容量\(C\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
C &= 4.0 + 5.0 \\[2.0ex]&= 9.0 \, [\mu\text{F}]\end{aligned}
$$
2つのコンデンサーが「横並び」に接続されているのが並列接続です。この場合、電気を蓄えるための面積が合わさって広くなるようなイメージで、全体の性能(電気容量)は単純な足し算で求めることができます。したがって、\(4.0 \mu\text{F}\) と \(5.0 \mu\text{F}\) を足して \(9.0 \mu\text{F}\) となります。
全体の電気容量は \(9.0 \mu\text{F}\) です。並列接続では、各コンデンサーが独立して充電されるため、蓄えられる電荷の総量が増加します。そのため、合成容量が個々の容量よりも大きくなるという結果は物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電池を通過した電気量を求める問題です。スイッチを閉じて十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了します。このとき、電池から送り出された電気量は、回路全体(合成コンデンサー)に蓄えられた総電気量に等しくなります。したがって、(1)で求めた合成容量 \(C\) と電源の電圧 \(V\) を用いて、基本公式 \(Q=CV\) から総電気量 \(Q\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 電池を通過した電気量 = 回路全体の合成コンデンサーに蓄えられた総電気量。
- コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) を用いて計算する。
具体的な解説と立式
求める電気量を \(Q\) とします。これは、合成容量 \(C\) のコンデンサーに電圧 \(V\) をかけたときに蓄えられる電気量に等しいです。
(1)で求めた合成容量は \(C = 9.0 \, [\mu\text{F}] = 9.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\) で、電源の電圧は \(V = 6.0 \, [\text{V}]\) です。
コンデンサーの基本公式より、
$$ Q = CV $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
各値を代入して、電気量\(Q\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= (9.0 \times 10^{-6}) \times 6.0 \\[2.0ex]&= 54 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 5.4 \times 10^{-5} \, [\text{C}]\end{aligned}
$$
回路全体を、(1)で求めた \(9.0 \mu\text{F}\) の性能を持つ一つの大きなコンデンサーだと考えます。この大きなコンデンサーに \(6.0 \text{V}\) の電池をつなぐと、どれだけの電気が蓄えられるかを計算します。これは「電気量 = 電気容量 × 電圧」という基本公式に値を当てはめるだけで求めることができます。
電池を通過した電気量は \(5.4 \times 10^{-5} \text{C}\) です。この値は、後で各コンデンサーに分配される電気量の合計となります。計算は正しく、物理的な意味とも合致しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
コンデンサー \(C_1\) に蓄えられる電気量 \(Q_1\) と静電エネルギー \(U_1\) を求める問題です。並列接続の最も重要な特徴は「各コンデンサーにかかる電圧が等しい」ことです。この場合、\(C_1\) と \(C_2\) にはどちらも電源の電圧 \(V = 6.0 \, \text{V}\) がかかります。この電圧と \(C_1\) の電気容量を使って、\(Q_1\) と \(U_1\) をそれぞれ公式から計算します。
この設問における重要なポイント
- 並列接続では、各コンデンサーにかかる電圧は電源電圧に等しい。(\(V_1 = V_2 = V\))
- 電気量 \(Q_1\) は \(Q_1 = C_1 V\) で計算する。
- 静電エネルギー \(U_1\) は \(U_1 = \displaystyle\frac{1}{2}C_1 V^2\) などの公式で計算する。
具体的な解説と立式
コンデンサー \(C_1\) にかかる電圧 \(V_1\) は、電源の電圧 \(V\) に等しく、\(V_1 = 6.0 \, [\text{V}]\) です。
\(C_1\) の電気容量は \(C_1 = 4.0 \, [\mu\text{F}] = 4.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\) です。
求める電気量を \(Q_1\)、静電エネルギーを \(U_1\) とすると、それぞれの公式は以下のようになります。
$$ Q_1 = C_1 V_1 $$
$$ U_1 = \displaystyle\frac{1}{2} C_1 V_1^2 $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
電気量 \(Q_1\) の計算:
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= (4.0 \times 10^{-6}) \times 6.0 \\[2.0ex]&= 24 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 2.4 \times 10^{-5} \, [\text{C}]\end{aligned}
$$
静電エネルギー \(U_1\) の計算:
$$
\begin{aligned}
U_1 &= \displaystyle\frac{1}{2} \times (4.0 \times 10^{-6}) \times (6.0)^2 \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} \times (4.0 \times 10^{-6}) \times 36 \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^{-6}) \times 36 \\[2.0ex]&= 72 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 7.2 \times 10^{-5} \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
並列接続では、2つのコンデンサー \(C_1\), \(C_2\) の両方に、電池の電圧 \(6.0 \text{V}\) がそのままかかります。そのため、\(C_1\) だけを取り出して考えて、その電気量とエネルギーを計算すればOKです。「電気量 = 電気容量 × 電圧」と「エネルギー = 1/2 × 電気容量 × (電圧)²」の公式に、\(C_1\) の値と電圧 \(6.0 \text{V}\) を代入して計算します。
コンデンサー \(C_1\) に蓄えられる電気量は \(2.4 \times 10^{-5} \text{C}\)、静電エネルギーは \(7.2 \times 10^{-5} \text{J}\) です。同様に \(C_2\) の電気量を計算すると \(Q_2 = C_2 V = (5.0 \times 10^{-6}) \times 6.0 = 3.0 \times 10^{-5} \text{C}\) となり、\(Q_1 + Q_2 = (2.4 + 3.0) \times 10^{-5} = 5.4 \times 10^{-5} \text{C}\) となって(2)で求めた総電気量 \(Q\) と一致します。このことからも計算が正しいことが確認できます。
思考の道筋とポイント
(2)で求めた回路全体の電気量 \(Q\) が、2つのコンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) にどのように分配されるかを考える別解です。並列接続では各コンデンサーにかかる電圧が等しいため (\(V = Q_1/C_1 = Q_2/C_2\))、蓄えられる電気量 \(Q\) は電気容量 \(C\) に比例します (\(Q_1:Q_2 = C_1:C_2\))。この比例配分の関係を使って \(Q_1\) を求め、その後、エネルギーの公式を用いて \(U_1\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 並列接続では、総電気量 \(Q\) は各コンデンサーの電気容量の比に分配される。
- \(Q_1 = \displaystyle\frac{C_1}{C_1+C_2} Q\)
- 電気量 \(Q_1\) が分かれば、静電エネルギーは \(U_1 = \displaystyle\frac{Q_1^2}{2C_1}\) で計算できる。
具体的な解説と立式
(2)で求めた回路全体の電気量は \(Q = 5.4 \times 10^{-5} \, [\text{C}]\) です。
この総電気量 \(Q\) が、電気容量 \(C_1 = 4.0 \, [\mu\text{F}]\) と \(C_2 = 5.0 \, [\mu\text{F}]\) の比に応じて \(C_1\) と \(C_2\) に分配されます。
\(C_1\) に蓄えられる電気量 \(Q_1\) は、以下の式で表されます。
$$ Q_1 = \left( \displaystyle\frac{C_1}{C_1 + C_2} \right) Q $$
\(Q_1\) が求まった後、静電エネルギー \(U_1\) は、電気量と電気容量を用いた公式で計算します。
$$ U_1 = \displaystyle\frac{Q_1^2}{2C_1} $$
使用した物理公式
- 並列接続における電気量の分配則: \(Q_1 = \left( \displaystyle\frac{C_1}{C_1 + C_2} \right) Q\)
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)
電気量 \(Q_1\) の計算:
\(C_1\) と \(C_2\) の比は \(4.0 : 5.0\) なので、\(C_1+C_2 = 9.0 \, [\mu\text{F}]\)。
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= \left( \displaystyle\frac{4.0}{4.0 + 5.0} \right) \times (5.4 \times 10^{-5}) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{4.0}{9.0} \times (5.4 \times 10^{-5}) \\[2.0ex]&= 4.0 \times (0.6 \times 10^{-5}) \\[2.0ex]&= 2.4 \times 10^{-5} \, [\text{C}]\end{aligned}
$$
静電エネルギー \(U_1\) の計算:
$$
\begin{aligned}
U_1 &= \displaystyle\frac{(2.4 \times 10^{-5})^2}{2 \times (4.0 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{5.76 \times 10^{-10}}{8.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= 0.72 \times 10^{-4} \\[2.0ex]&= 7.2 \times 10^{-5} \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
(2)で計算した全体の電気量 \(5.4 \times 10^{-5} \text{C}\) を、お菓子を分けるように2つのコンデンサーに分け与えると考えます。このとき、性能の良い(電気容量の大きい)コンデンサーほど多くの電気をもらいます。分け方の比率は電気容量の比、つまり \(4.0 : 5.0\) です。\(C_1\) がもらう分は、全体の \(4.0 / (4.0+5.0)\) すなわち \(4/9\) となります。全体の電気量に \(4/9\) を掛けて \(C_1\) の電気量を求めます。エネルギーは、その電気量の値を使って公式から計算します。
電気量は \(2.4 \times 10^{-5} \text{C}\)、静電エネルギーは \(7.2 \times 10^{-5} \text{J}\) となり、最初の解法と完全に一致しました。これにより、異なる物理的視点(電圧が等しいと考えるか、電荷が分配されると考えるか)からアプローチしても同じ結論に至ることが確認でき、理解が深まります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの並列接続の性質:
- 核心: この問題は、コンデンサーの並列接続における基本的な法則を理解しているかを問うています。特に「合成容量の計算方法」と「各コンデンサーにかかる電圧の関係」が二大核心です。
- 理解のポイント:
- 合成容量: 並列接続では、回路全体の電気容量(合成容量)は、各コンデンサーの電気容量の単純な和になります (\(C = C_1 + C_2\))。これは、電気を蓄える極板の面積が実質的に増加するとイメージすると理解しやすいです。
- 電圧の関係: 並列に接続された各コンデンサーには、電源から供給される電圧が等しくかかります (\(V_1 = V_2 = V\))。これが並列接続を分析する上での最も重要なルールです。
- コンデンサーの基本公式:
- 核心: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)を結びつける \(Q=CV\) という関係式は、コンデンサー回路の問題を解く上での万能ツールです。
- 理解のポイント:
- この式は、回路全体(合成容量)に対しても、個々のコンデンサーに対しても同様に成り立ちます。どの部分について考えているのかを意識しながら適用することが重要です。
- 静電エネルギーの公式 (\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)) も同様に、全体・個別の両方に適用できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 直列接続の問題: 並列接続と対になる問題です。直列では「電気量が等しい (\(Q_1=Q_2\))」「電圧が電気容量の逆比に分配される」という性質を使う点が異なります。
- スイッチの切り替え問題: 充電完了後、電池から切り離して別のコンデンサーに接続するような問題。この場合、切り離された回路部分での「電気量保存則」が解法の鍵となります。
- 誘電体の挿入問題: 充電後、コンデンサーの極板間に誘電体を挿入する問題。誘電体を入れると電気容量が変化 (\(C’ = \varepsilon_r C\)) します。その際、「電池に接続したままか(電圧一定)」、「電池から切り離された後か(電気量一定)」で、その後の電気量や電圧の変化が異なるため、条件を正確に読み取ることが重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の接続形態を把握する: まず、コンデンサーが「並列」なのか「直列」なのか、あるいはその組み合わせ(直並列回路)なのかを正確に見抜きます。
- 「不変量」と「共通量」を探す: 回路の状況に応じて、何が一定に保たれるかを見極めます。「電池に接続されている部分 → 電圧が一定」「孤立している部分 → 電気量が保存」。また、並列接続なら「電圧が共通」、直列接続なら「電気量が共通」という性質に着目します。
- 公式の戦略的選択: 求める物理量と、分かっている物理量に応じて、エネルギー公式などを使い分けます。例えば、電圧が共通な並列接続のエネルギーを考えるなら \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) が、電気量が共通な直列接続なら \(U=\displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) が計算しやすいことが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 直列と並列の公式の混同:
- 誤解: 並列接続の問題なのに、直列接続の合成容量の公式 (\(\displaystyle\frac{1}{C} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\)) を誤って適用してしまう。
- 対策: 「並列は足すだけ、直列は逆数の和」と明確に区別して覚える。回路図を見て、コンデンサーが横に並んでいれば並列、縦に連なっていれば直列、という視覚的な判断基準を持つと良いでしょう。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: 電気容量の \(4.0 \mu\text{F}\) の「\(\mu\)(マイクロ)」を \(10^{-6}\) に換算するのを忘れ、\(Q = 9.0 \times 6.0 = 54 \, [\text{C}]\) のような桁違いの計算をしてしまう。
- 対策: 計算を始める前に、問題で与えられた単位をすべて国際単位系(SI単位)の基本単位(ファラッド[F]、ボルト[V]など)に変換する癖をつける。「\(\mu\) は \(10^{-6}\)」と機械的に置換しましょう。
- 電気量の分配の誤解:
- 誤解: (3)の別解アプローチで、総電気量 \(Q\) が \(C_1\) と \(C_2\) に半分ずつ(等しく)分配されると勘違いしてしまう。
- 対策: 並列接続の原理は「電圧が等しい」ことです。その結果として、\(Q=CV\) の関係から「電気量は電気容量に比例して分配される」と論理的に理解することが重要です。電気量が等しくなるのは、\(C_1=C_2\) の特別な場合だけです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 並列接続の合成容量 (\(C = C_1 + C_2\)):
- 選定理由: (1)で、複数のコンデンサーからなる回路全体を、あたかも一つのコンデンサーであるかのように扱うために必要でした。これにより、(2)で回路全体の総電気量を \(Q=CV\) で一発で計算できます。
- 適用根拠: 並列接続では、各コンデンサーにかかる電圧は等しく \(V\) です。回路全体の電気量 \(Q\) は、各コンデンサーの電気量の和 \(Q_1+Q_2\) になります。\(Q_1=C_1V\), \(Q_2=C_2V\) を代入すると、\(Q = C_1V + C_2V = (C_1+C_2)V\) となります。これを回路全体の公式 \(Q=CV\) と比較することで、合成容量 \(C\) が \(C_1+C_2\) に等しいことが論理的に導かれます。
- 静電エネルギー公式の使い分け (\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) vs \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)):
- 選定理由: (3)で静電エネルギーを求める際に、どの公式を使うのが最も効率的かを判断するために選択します。
- 適用根拠:
- メインの解法: 並列接続なので、\(C_1\) にかかる電圧が電源電圧 \(V\) と等しいことがすぐに分かります。既知の値である \(C_1\) と \(V\) を直接使える \(U_1 = \displaystyle\frac{1}{2}C_1V^2\) を使うのが最も合理的で計算も楽です。
- 別解: 先に電気量の分配を計算して \(Q_1\) を求めました。この計算結果を活かすには、\(Q_1\) と \(C_1\) を使って計算できる \(U_1 = \displaystyle\frac{Q_1^2}{2C_1}\) を使うのが自然な流れです。どちらの公式を使っても同じ答えにたどり着きますが、その時点での既知の量に応じて最適な公式を選ぶことで、計算の手間を減らし、ミスを防ぐことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の取り扱い: \(10^{-6}\) のような指数を含む計算では、数値部分(係数)と指数部分を分けて計算する習慣をつけましょう。例えば、\((2.4 \times 10^{-5})^2\) は、\((2.4)^2\) と \((10^{-5})^2\) に分けて計算し、最後に合体させるとミスが減ります。(\(5.76 \times 10^{-10}\))
- 単位の一貫性: 計算の最初から最後まで、単位の一貫性を保つことが重要です。特に、電気容量を \(\mu\text{F}\) のまま計算に使い、最後の答えだけを無理やり調整しようとすると、桁のミスが起こりがちです。最初にすべて基本単位に直すのが安全です。
- 有効数字の確認: 問題文で与えられている数値(\(4.0, 5.0, 6.0\))はすべて有効数字2桁です。最終的な答えも、これに揃えて \(9.0 \, \mu\text{F}\) や \(5.4 \times 10^{-5} \, \text{C}\) のように、適切な桁数で表現するよう心がけましょう。
- 検算の習慣: (3)の解答後に行ったように、\(Q_1\) と \(Q_2\) をそれぞれ計算し、その和が(2)で求めた総電気量 \(Q\) と一致するかを確認する(\(2.4 \times 10^{-5} + 3.0 \times 10^{-5} = 5.4 \times 10^{-5}\))。このような簡単な検算が、ケアレスミスを発見する強力な武器になります。
326 コンデンサーの接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「スイッチの切り替えを伴うコンデンサーの充電と電荷の再配分」です。コンデンサーの基本的な性質に加え、回路の接続状態が変化する際にどの物理量が保存されるかを見抜く力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本公式: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)の関係式 \(Q=CV\) は、あらゆる場面で基本となります。
- 電気量保存則: 電池から切り離された「孤立した導体部分」では、電荷の移動はあっても、その部分の電気量の総和は操作の前後で一定に保たれます。これがこの問題の最も重要な鍵です。
- 電荷の再配分: 充電されたコンデンサーを別のコンデンサーに接続すると、電荷が移動して最終的に両者の電圧が等しくなります。これは実質的に並列接続の状態になることを意味します。
- 電流計を流れる電気量: 電流計は、その断面を通過した正電荷の総量を測定します。これは、コンデンサーの極板の電気量がどれだけ変化したかに対応します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、コンデンサー\(C_1\)が電池で充電される際の電気量を、基本公式を用いて計算します。
- (2)では、充電済みの\(C_1\)と未充電の\(C_2\)を接続します。このとき「電気量保存則」を立式し、再配分後の各コンデンサーの電気量を求めます。電流計を流れた量は、\(C_2\)に蓄えられた電気量に等しくなります。
- (3)では、(2)の状態からさらにスイッチ操作が加わります。各段階におけるコンデンサーの電気量を正確に把握し、(2)と同様に電気量保存則を用いて、最終的に電流計を流れた電気量(=\(C_2\)の電気量の増加分)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチSをM側に倒すと、電池Eによってコンデンサー\(C_1\)が充電されます。電流計Aは電池と\(C_1\)の間に接続されているため、\(C_1\)が充電される過程で流れる電荷をすべて測定します。したがって、十分に時間が経過した後に\(C_1\)に蓄えられている電気量を求めれば、それが電流計を流れた電気量となります。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの充電完了時、そのコンデンサーの極板間の電圧は電源電圧に等しくなる。
- 電流計を流れた電気量は、充電によってコンデンサーに蓄えられた電気量に等しい。
具体的な解説と立式
求める電気量を\(Q_1\)とします。コンデンサー\(C_1\)は、電圧\(E\)の電池で充電されるので、充電が完了したとき、\(C_1\)の極板間の電圧は\(E\)になります。
コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) より、\(C_1\)に蓄えられる電気量\(Q_1\)は次のように表せます。
$$ Q_1 = C_1 E $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
この設問では、文字式のまま答えるため、具体的な数値計算は不要です。
スイッチをM側に入れると、電池がコンデンサー\(C_1\)に電気を送り込みます。電流計は、その電気が通り抜けるのを見張っている料金所のようなものです。コンデンサー\(C_1\)が電気で満タンになるまでに通り過ぎた電気の総量が、電流計の計測値となります。これは、最終的に\(C_1\)に蓄えられた電気量そのものです。
電流計を流れる電気量は \(C_1 E\) です。これはコンデンサーの充電における最も基本的な関係です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で\(C_1\)が充電された後、スイッチSをN側に倒します。すると、充電済みの\(C_1\)と未充電の\(C_2\)が接続されます。このとき、\(C_1\)の上側極板と\(C_2\)の上側極板(および下側極板同士)は電池から切り離された「孤立系」となります。そのため、電荷は\(C_1\)から\(C_2\)へ移動しますが、2つのコンデンサーの電気量の合計は保存されます(電気量保存則)。電荷の移動は、両者の電圧が等しくなるまで続きます。電流計を流れた電気量は、このとき\(C_2\)に流れ込んだ電気量に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 電気量保存則: 接続の前後で、孤立部分の電気量の総和は一定である。
- 電荷再配分の最終状態: 接続されたコンデンサーの電圧は等しくなる。
具体的な解説と立式
スイッチをN側に倒す直前の各コンデンサーの電気量は、
\(Q_{1, \text{前}} = C_1 E\)
\(Q_{2, \text{前}} = 0\)
よって、孤立部分の総電気量は \(Q_{\text{合計}} = Q_{1, \text{前}} + Q_{2, \text{前}} = C_1 E\) です。
スイッチをN側に倒して十分に時間が経過した後、共通の電圧を\(V\)とします。このときの各コンデンサーの電気量を\(Q_1’\), \(Q_2’\)とすると、
$$ Q_1′ = C_1 V \quad \cdots ① $$
$$ Q_2′ = C_2 V \quad \cdots ② $$
電気量保存則より、
$$ Q_1′ + Q_2′ = Q_{\text{合計}} \quad \cdots ③ $$
電流計を流れた電気量は、\(C_2\)に蓄えられた電気量\(Q_2’\)に等しいので、これを求めます。
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 電気量保存則: \(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\)
①、②を③に代入して、共通電圧\(V\)を求めます。
$$ (C_1 + C_2)V = C_1 E $$
$$ V = \displaystyle\frac{C_1 E}{C_1 + C_2} $$
この\(V\)を②に代入して、電流計を流れた電気量\(Q_2’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_2′ &= C_2 V \\[2.0ex]&= C_2 \left( \displaystyle\frac{C_1 E}{C_1 + C_2} \right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 C_2 E}{C_1 + C_2}
\end{aligned}
$$
水が満タンのバケツ\(C_1\)と、空のバケツ\(C_2\)をパイプ(電流計)でつなぐ状況を想像してください。水は\(C_1\)から\(C_2\)へ流れ、最終的に二つのバケツの水位(電圧)が同じ高さになります。このとき、全体の水の量(総電気量)は変わりません。電流計を流れた水の量は、空だったバケツ\(C_2\)にたまった水の量に等しくなります。
電流計を流れる電気量は \(\displaystyle\frac{C_1 C_2 E}{C_1 + C_2}\) です。この量は、\(C_1\)から失われた電気量 \(\Delta Q_1 = Q_1 – Q_1′ = C_1 E – C_1 V\) と等しくなっており、計算の整合性が取れています。
問(3)
思考の道筋とポイント
この設問は2段階の操作からなります。まず(2)の状態からSをM側に倒し、次にN側に倒します。各段階でのコンデンサーの電気量を正確に追跡することが重要です。
- SをM側に倒す: \(C_1\)は再び電池Eで充電され、電気量は\(C_1 E\)に戻ります。一方、\(C_2\)は(2)の最終状態のままです。
- SをN側に倒す: この操作の直前の総電気量を求め、(2)と同様に電気量保存則を適用して、操作後の\(C_2\)の電気量を計算します。
- 電流計を流れる電気量: 求める量は、2番目の「SをN側に倒す」操作によって\(C_2\)の電気量がどれだけ「増加したか」です。
この設問における重要なポイント
- 各操作の前後で、回路のどの部分が孤立しているかを見極め、電気量を正確に追跡する。
- 求める量は、ある操作による電気量の「変化量」であることに注意する。
具体的な解説と立式
ステップ1: SをM側に倒した直後の状態
\(C_1\)は再充電され、その電気量は \(Q_{1, \text{再充電後}} = C_1 E\) となります。
\(C_2\)の電気量は(2)の最終状態のままで、\(Q_{2, \text{前}} = \displaystyle\frac{C_1 C_2 E}{C_1 + C_2}\) です。
ステップ2: SをN側に倒す操作
この操作の直前の孤立系の総電気量は、
$$ Q_{\text{合計}}’ = Q_{1, \text{再充電後}} + Q_{2, \text{前}} $$
操作後、十分に時間が経過したときの共通電圧を\(V’\)、\(C_2\)の電気量を\(Q_{2, \text{後}}\)とします。
電気量保存則より、
$$ (C_1 + C_2)V’ = Q_{\text{合計}}’ $$
そして、\(C_2\)の最終的な電気量は、
$$ Q_{2, \text{後}} = C_2 V’ $$
電流計を流れた電気量\(\Delta Q_2\)は、\(C_2\)の電気量の増加分なので、
$$ \Delta Q_2 = Q_{2, \text{後}} – Q_{2, \text{前}} $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 電気量保存則: \(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\)
まず、操作直前の総電気量\(Q_{\text{合計}}’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{合計}}’ &= C_1 E + \displaystyle\frac{C_1 C_2 E}{C_1 + C_2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 E (C_1 + C_2) + C_1 C_2 E}{C_1 + C_2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1^2 E + C_1 C_2 E + C_1 C_2 E}{C_1 + C_2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1(C_1 + 2C_2)E}{C_1 + C_2}
\end{aligned}
$$
次に、共通電圧\(V’\)を求めます。
$$ V’ = \displaystyle\frac{Q_{\text{合計}}’}{C_1 + C_2} = \displaystyle\frac{C_1(C_1 + 2C_2)E}{(C_1 + C_2)^2} $$
これを用いて、操作後の\(C_2\)の電気量\(Q_{2, \text{後}}\)を計算します。
$$ Q_{2, \text{後}} = C_2 V’ = \displaystyle\frac{C_1 C_2 (C_1 + 2C_2)E}{(C_1 + C_2)^2} $$
最後に、電流計を流れた電気量(\(C_2\)の増加分)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q_2 &= Q_{2, \text{後}} – Q_{2, \text{前}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 C_2 (C_1 + 2C_2)E}{(C_1 + C_2)^2} – \displaystyle\frac{C_1 C_2 E}{C_1 + C_2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 C_2 (C_1 + 2C_2)E – C_1 C_2 E(C_1 + C_2)}{(C_1 + C_2)^2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 C_2 E [ (C_1 + 2C_2) – (C_1 + C_2) ]}{(C_1 + C_2)^2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 C_2 E [ C_2 ]}{(C_1 + C_2)^2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{C_1 C_2^2 E}{(C_1 + C_2)^2}
\end{aligned}
$$
(2)で一度水を分け合った後、バケツ\(C_1\)だけを蛇口(電池)に持っていき、再び満タンにします。このとき、バケツ\(C_2\)には(2)で分け合った分の水が残っています。そして、再び満タンの\(C_1\)と、水が少し入っている\(C_2\)をパイプでつなぎます。このときパイプ(電流計)を流れる水の量は、\(C_2\)に「追加で」入ってきた水の量に相当します。
N側に倒してから電流計を流れる電気量は \(\displaystyle\frac{C_1 C_2^2 E}{(C_1 + C_2)^2}\) です。計算は複雑ですが、電気量保存則という一貫した原理に基づいており、各ステップの物理状態を正確に追跡することで導出できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気量保存則:
- 核心: この問題の全ての設問を貫く最も重要な法則は「電気量保存則」です。特に、電池から切り離された「孤立部分」において、電荷の総和はスイッチ操作の前後で変わらないという点を理解することが不可欠です。
- 理解のポイント:
- (2)では、充電された\(C_1\)と未充電の\(C_2\)を接続する際、\(C_1\)と\(C_2\)の上側極板(および下側極板)のペアが孤立部分を形成します。この部分の総電気量 \(Q = C_1E\) が保存されます。
- (3)では、再充電された\(C_1\)と、既に電荷を持つ\(C_2\)を接続します。このときの孤立部分の総電気量は \(Q’ = C_1E + Q_2\) となり、この値が保存されます。
- 電荷の再配分と最終状態:
- 核心: 孤立した導体系内でコンデンサーを接続すると、電荷が移動し、最終的に各コンデンサーの電圧が等しくなります。
- 理解のポイント:
- 電圧が等しくなるということは、実質的に「並列接続」の状態になることを意味します。したがって、再配分後の各コンデンサーの電気量は、共通電圧\(V\)を用いて \(Q_1′ = C_1V\), \(Q_2′ = C_2V\) と表せます。
- この性質と電気量保存則を連立させることで、未知数である共通電圧\(V\)や再配分後の電気量\(Q_1′, Q_2’\)を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 複数回のスイッチ切り替え: (3)のように、操作を繰り返す問題。各ステップの初期状態(電気量)を正確に把握し、次のステップの計算に引き継ぐことが重要です。計算ミスが連鎖しやすいので注意が必要です。
- 極性を逆にして接続: 充電済みのコンデンサーを、極性を逆にして別のコンデンサーに接続する問題。この場合、電気量保存則を立てる際に、一方の電気量を負の値として扱う必要があります。例えば、総電気量は \(Q_{\text{合計}} = Q_1 – Q_2\) のようになります。
- 抵抗を含む回路(RC回路): スイッチを切り替えた直後や十分に時間が経過した後の電流や電気量を問う問題。十分に時間が経過すればコンデンサー部分は断線とみなせますが、過渡現象を問われる場合は微分方程式が必要になることもあります(高校範囲外が多い)。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の「孤立部分」を探す: スイッチ操作によって、電池から切り離される導線のつながった部分を特定します。ここが電気量保存則を適用する舞台です。
- 操作前後の状態を整理する: 各コンデンサーについて、「操作前の電気量」と「操作後の電気量」を文字で設定し、表のように整理すると考えやすくなります。
- 「何を問われているか」を明確にする: 問題が「最終的な電気量」を問うているのか、(2)や(3)のように「電流計を流れた電気量(=電気量の変化量)」を問うているのかを正確に区別します。後者の場合は、必ず引き算の計算が必要になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電気量保存の対象を間違える:
- 誤解: (2)や(3)で、スイッチをN側に倒した後の総電気量を、常に最初の \(C_1E\) だと勘違いしてしまう。
- 対策: 電気量保存則は、あくまで「その操作の直前」の総電気量が保存されるという法則です。(3)のように、操作前に\(C_2\)にも電荷が蓄えられている場合は、それも合算したものが保存される総電気量になります。操作ごとに初期条件が更新されることを意識しましょう。
- 電流計が測る量を勘違いする:
- 誤解: 電流計を流れる電気量を、常にコンデンサーの最終的な電気量そのものだと思ってしまう。
- 対策: 電流計は「そこを通過した電荷の量」を測定します。これは、電流計の先にあるコンデンサーの「電気量の変化分(増加分)」に相当します。(2)では\(C_2\)の初期電荷が0だったので結果的に最終電荷と一致しましたが、(3)では初期電荷が0ではないため、「後の量 – 前の量」を計算する必要があります。
- 複雑な分数の計算ミス:
- 誤解: (3)の計算過程で、分数の足し算や引き算、約分などでミスをする。
- 対策: 焦らず、一つ一つのステップを丁寧に行うことが最も重要です。特に、通分する際は、分子全体に括弧をつけて分配法則を適用するなど、基本的な計算ルールを徹底します。例えば、\(\displaystyle\frac{A}{B} – \displaystyle\frac{C}{D} = \displaystyle\frac{AD-BC}{BD}\) のような計算は、各項の符号に注意しながら慎重に進めましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気量保存則 (\(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\)):
- 選定理由: (2)と(3)で、電池から切り離された回路部分での電荷の移動を扱うため、この法則が必須となります。外部との電荷のやり取りがない限り、孤立系の総電荷は不変であるという物理学の基本原理です。
- 適用根拠: スイッチをN側に倒すと、\(C_1\)と\(C_2\)の上側極板(および下側極板)は、回路の他の部分から電気的に孤立します。電荷はこれらの極板間で移動することはできますが、外部に逃げたり、外部から入ってきたりすることはできません。したがって、これらの極板が持つ電気量の合計は、接続の前後で変化しないのです。
- 電荷の再配分 (\(Q_1′ + Q_2′ = (C_1+C_2)V\)):
- 選定理由: 電気量保存則だけでは、再配分後の各コンデンサーの電気量(\(Q_1′, Q_2’\))を特定できません。もう一つの条件式として、最終状態の物理的性質(電圧が等しくなる)を利用する必要があります。
- 適用根拠: 導線で接続された導体は、最終的に電位が等しくなります(静電平衡)。コンデンサーの場合、これは極板間の電圧が等しくなることを意味します。この共通電圧を\(V\)とすると、各コンデンサーの電気量は \(Q_1’=C_1V\), \(Q_2’=C_2V\) と表せます。これを電気量保存の式に代入することで、未知数であった\(V\)や各電気量を求めることができます。これは、実質的に合成容量 \((C_1+C_2)\) のコンデンサーが電圧\(V\)で充電されている状態と等価です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: (3)のように複雑な文字式を扱う場合、共通因数でくくることを常に意識すると、計算が劇的に楽になります。最後の計算過程で \(C_1 C_2 E\) を共通因数として括りだしたことで、分子の計算が \((C_1 + 2C_2) – (C_1 + C_2)\) という非常に簡単な形になりました。
- 段階的な計算: 複雑な問題では、最終目標(例:\(\Delta Q_2\))を直接計算しようとせず、中間目標(例:\(Q_{\text{合計}}’\), \(V’\), \(Q_{2, \text{後}}\))を一つずつクリアしていくことが重要です。各ステップで計算結果を確認しながら進めることで、ミスを早期に発見できます。
- 物理的な意味の確認: 計算結果が出たら、その物理的な意味を考えます。例えば、(2)で求めた\(Q_2’\)は、必ず元の\(Q_1\)より小さくなるはずです。また、(3)で求めた\(\Delta Q_2\)は正の値になるはずです(\(C_2\)の電荷は増加するため)。このような直感的なチェックが、符号ミスなどの単純な誤りを見つけるのに役立ちます。
327 コンデンサーの接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「充電済みコンデンサーの再接続と電荷の再配分」です。すでに電荷を蓄えている複数のコンデンサーを接続したときに、電荷がどのように移動し、最終的にどのような状態に落ち着くかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気量保存則: 外部の回路から電気的に切り離された部分(孤立系)では、電荷の移動はあっても、その部分の電気量の総和は操作の前後で一定に保たれます。
- 電荷の再配分と最終状態: 導線で接続されたコンデンサー間では、最終的に両者の極板間の電圧が等しくなるまで電荷の移動が起こります。これは実質的に並列接続の状態になることを意味します。
- コンデンサーの基本公式: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)の関係式 \(Q=CV\) は、初期状態の電気量を計算したり、最終状態を記述したりする上で不可欠です。
- 極性の扱い: コンデンサーを接続する向き(正極どうしか、正極と負極か)によって、保存される総電気量の計算方法が変わる点に注意が必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、接続する前の各コンデンサーが蓄えている電気量を、\(Q=CV\) を用いて計算します。
- (1)では、正極どうしを接続するため、孤立系の総電気量は各電気量の「和」として保存されると考え、電気量保存則を立式します。
- (2)では、正極と負極を接続するため、一方の電気量を負として扱い、総電気量は各電気量の「差」として保存されると考え、電気量保存則を立式します。
- どちらの設問でも、最終的に電圧が等しくなることを利用して、共通の電圧を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの充電済みコンデンサーの正極どうし、負極どうしを接続する問題です。この接続方法は、実質的に2つのコンデンサーを並列に接続することと同じです。接続後、電荷は2つのコンデンサー間で再配分されますが、外部とはつながっていないため、2つのコンデンサーの正極側(または負極側)の極板を合わせた孤立系での電気量の総和は保存されます。最終的に、両者の電圧は等しくなります。この2つの条件(電気量保存、電圧が等しい)から、最終的な共通電圧を求めます。
この設問における重要なポイント
- 接続前の各コンデンサーの電気量を \(Q=CV\) で正確に計算する。
- 孤立部分(上側極板のペア、下側極板のペア)の総電気量が保存される。
- 同極接続の場合、総電気量は単純な和で計算できる。(\(Q_{\text{合計}} = Q_1 + Q_2\))
- 接続完了後は、両コンデンサーの電圧が等しくなる。
具体的な解説と立式
まず、接続前の各コンデンサーの電気量 \(Q_1, Q_2\) を求めます。
コンデンサー\(C_1\)について: \(C_1 = 3.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\), \(V_{1,\text{初}} = 100 \, [\text{V}]\)
$$ Q_1 = C_1 V_{1,\text{初}} $$
コンデンサー\(C_2\)について: \(C_2 = 1.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\), \(V_{2,\text{初}} = 200 \, [\text{V}]\)
$$ Q_2 = C_2 V_{2,\text{初}} $$
接続後の共通の電圧を \(V_1\) とします。接続後の各コンデンサーの電気量を \(Q_1′, Q_2’\) とすると、
$$ Q_1′ = C_1 V_1 $$
$$ Q_2′ = C_2 V_1 $$
電気量保存則より、接続前後の総電気量は等しいので、
$$ Q_1′ + Q_2′ = Q_1 + Q_2 $$
この式に上の関係を代入すると、
$$ (C_1 + C_2)V_1 = C_1 V_{1,\text{初}} + C_2 V_{2,\text{初}} $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 電気量保存則
まず、接続前の電気量 \(Q_1, Q_2\) を計算します。
$$ Q_1 = (3.0 \times 10^{-6}) \times 100 = 3.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}] $$
$$ Q_2 = (1.0 \times 10^{-6}) \times 200 = 2.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}] $$
電気量保存則の式に、これらの値と電気容量を代入します。
$$
\begin{aligned}
(3.0 \times 10^{-6} + 1.0 \times 10^{-6}) V_1 &= 3.0 \times 10^{-4} + 2.0 \times 10^{-4} \\[2.0ex](4.0 \times 10^{-6}) V_1 &= 5.0 \times 10^{-4} \\[2.0ex]V_1 &= \displaystyle\frac{5.0 \times 10^{-4}}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= 1.25 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 125 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁(3.0, 1.0)なので、答えも有効数字2桁に丸めます。
$$ V_1 \approx 1.3 \times 10^2 \, [\text{V}] $$
100Lの水が入った容量3.0のバケツと、200Lの水が入った容量1.0のバケツがあるとします。この2つのバケツをパイプでつなぐと、水は移動し、最終的に2つのバケツの水位(電圧)が同じになります。このとき、全体の水の量(\(100+200=300\))は変わらず、全体の容量(\(3.0+1.0=4.0\))に均等に分配されます。最終的な水位は「全体の水の量 ÷ 全体の容量」で計算できます。
共通電圧は約 \(1.3 \times 10^2 \, \text{V}\) となります。この値は、元の電圧である100Vと200Vの間の値であり、物理的に妥当です。また、電気容量の大きい\(C_1\)側の電圧(100V)により近い値になっていることも、理にかなっています。
思考の道筋とポイント
この別解では、2つのコンデンサーを一つの合成コンデンサーと見なして解きます。正極どうし、負極どうしの接続は並列接続そのものです。したがって、並列接続の合成容量の公式と、全体の電気量を求めて、\(Q=CV\) の関係から一気に電圧を計算します。
この設問における重要なポイント
- 同極接続は並列接続と等価である。
- 総電気量 \(Q_{\text{合計}}\) と合成容量 \(C_{\text{合計}}\) を求め、\(V = Q_{\text{合計}} / C_{\text{合計}}\) で計算する。
具体的な解説と立式
接続前の総電気量 \(Q_{\text{合計}}\) は、各コンデンサーの電気量の和です。
$$ Q_{\text{合計}} = Q_1 + Q_2 = C_1 V_{1,\text{初}} + C_2 V_{2,\text{初}} $$
並列接続の合成容量 \(C_{\text{合計}}\) は、各コンデンサーの電気容量の和です。
$$ C_{\text{合計}} = C_1 + C_2 $$
求める共通電圧を \(V_1\) とすると、回路全体で \(Q_{\text{合計}} = C_{\text{合計}} V_1\) が成り立ちます。
$$ V_1 = \displaystyle\frac{Q_{\text{合計}}}{C_{\text{合計}}} = \displaystyle\frac{C_1 V_{1,\text{初}} + C_2 V_{2,\text{初}}}{C_1 + C_2} $$
使用した物理公式
- コンデンサーの並列接続: \(C = C_1 + C_2\)
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
接続前の電気量をそれぞれ計算します。
\(Q_1 = 3.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}]\)
\(Q_2 = 2.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}]\)
よって、総電気量は、
$$ Q_{\text{合計}} = 3.0 \times 10^{-4} + 2.0 \times 10^{-4} = 5.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}] $$
合成容量は、
$$ C_{\text{合計}} = 3.0 \times 10^{-6} + 1.0 \times 10^{-6} = 4.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}] $$
したがって、共通電圧 \(V_1\) は、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \displaystyle\frac{5.0 \times 10^{-4}}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= 125 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
有効数字を2桁に丸めて、\(V_1 \approx 1.3 \times 10^2 \, [\text{V}]\)。
2つのコンデンサーを合体させて、容量が \(4.0 \mu\text{F}\) の一つの大きなコンデンサーと考えます。この大きなコンデンサーに蓄えられている電気の総量は、もともと2つが持っていた電気の合計 \(5.0 \times 10^{-4} \text{C}\) です。この大きなコンデンサーの電圧は、「電気量 ÷ 電気容量」で計算できます。
最初の解法と全く同じ結果になりました。電気量保存則から出発する考え方と、合成容量を用いる考え方は、本質的に同じことを別の視点から見ているだけであり、どちらも正しいアプローチです。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度は、一方のコンデンサーの正極と、もう一方の負極を接続します。この場合も、接続された部分は孤立系をなすため電気量保存則が成り立ちますが、極性が逆であるため、電荷が互いに打ち消しあう効果を考慮しなければなりません。どちらか一方の極板の電位を正と定め、それに対して逆の極性を持つ電気量は負の値として扱います。
この設問における重要なポイント
- 異極接続の場合、総電気量は各電気量の「差」で計算される。
- 電気量の符号に注意して電気量保存則を立式する。
- 接続完了後は、(1)と同様に両コンデンサーの電圧が等しくなる。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、接続前の電気量は \(Q_1 = 3.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}]\), \(Q_2 = 2.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}]\) です。
\(C_1\)の正極側につながる極板の電気量を正とすると、\(C_2\)の負極側がつながるので、\(C_2\)が持つ電気量は負として扱います。したがって、接続前の孤立系の総電気量は、
$$ Q_{\text{合計}} = Q_1 – Q_2 $$
接続後の共通電圧を \(V_2\) とすると、接続後の総電気量は \((C_1 + C_2)V_2\) と表せます。
電気量保存則より、
$$ (C_1 + C_2)V_2 = Q_1 – Q_2 $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 電気量保存則(符号を考慮)
接続前の電気量の差を計算します。
$$ Q_{\text{合計}} = 3.0 \times 10^{-4} – 2.0 \times 10^{-4} = 1.0 \times 10^{-4} \, [\text{C}] $$
合成容量は(1)と同じく \(C_{\text{合計}} = 4.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\) です。
電気量保存則の式から \(V_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(4.0 \times 10^{-6}) V_2 &= 1.0 \times 10^{-4} \\[2.0ex]V_2 &= \displaystyle\frac{1.0 \times 10^{-4}}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= 0.25 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 25 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
この結果は有効数字2桁で表されています。
(1)のバケツの例えで言うと、今度は片方のバケツをひっくり返して(逆向きに)つなぐようなものです。すると、200Lの水は逆向きの力として働き、100Lの水と打ち消し合います。結果として、正味で \(300-200=100\)L の水が、全体の容量4.0のバケツに入っているのと同じ状態になります。最終的な水位は「残った水の量 ÷ 全体の容量」で計算できます。
共通電圧は \(25 \, \text{V}\) となります。\(Q_1 > Q_2\) であったため、最終的な電圧の向きは \(C_1\) の元の向きと同じになります。電荷が打ち消しあった結果、電圧が(1)の場合よりも大幅に小さくなるという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気量保存則:
- 核心: 2つの充電済みコンデンサーを、電池などの外部電源から切り離した状態で接続するため、導線でつながれた部分(孤立系)の電気量の総和は、接続の前後で変化しません。この「電気量保存則」を正しく立式できるかが、この問題の最大の鍵です。
- 理解のポイント:
- 同極接続 (1): 正極どうし、負極どうしを接続する場合、孤立系(例えば上側極板のペア)の総電気量は、単純な和 \(Q_{\text{合計}} = Q_1 + Q_2\) となります。
- 異極接続 (2): 正極と負極を接続する場合、電荷が打ち消しあうため、総電気量は差 \(Q_{\text{合計}} = |Q_1 – Q_2|\) となります。立式する際は、一方の電気量を正、もう一方を負として扱います (\(Q_{\text{合計}} = Q_1 – Q_2\))。
- 電荷再配分の最終状態(電圧の均一化):
- 核心: 導線で接続されたコンデンサー間では、最終的に両者の電圧が等しくなるまで電荷の移動が起こります。
- 理解のポイント:
- この「電圧が等しくなる」という状態は、コンデンサーが並列に接続されていることと等価です。
- したがって、最終的な共通電圧を\(V\)とすると、各コンデンサーの電気量は \(Q_1′ = C_1V\), \(Q_2′ = C_2V\) と表せます。この関係と電気量保存則を組み合わせることで、未知数である共通電圧\(V\)を解くことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 未充電コンデンサーとの接続: 充電済みのコンデンサーに、電荷のないコンデンサーを接続する問題。基本的な考え方は同じですが、初期電気量の一つが0になるため計算が少し簡単になります。
- アースとの接続: 充電済みコンデンサーの片方の極板をアース(接地)する問題。アースは電位が0で、電荷を無限に吸い込んだり放出したりできる巨大な導体とみなします。アースされた極板の電位は0になります。
- 3つ以上のコンデンサーの接続: 考え方は2つの場合と全く同じです。孤立系の総電気量を計算し、最終的に全てのコンデンサーの電圧が等しくなるとして方程式を立てます。
- 初見の問題での着眼点:
- 初期状態の把握: まず、接続前の各コンデンサーの電気量(\(Q=CV\))を、符号を意識して正確に計算します。これが全ての計算の元データになります。
- 接続方法の確認: 問題文や図から、「正極どうし」なのか「正極と負極」なのかを絶対に間違えないように読み取ります。これにより、保存される総電気量が「和」になるか「差」になるかが決まります。
- 最終状態のモデル化: 接続後の状態は「電圧が等しい並列接続」であると見なします。これにより、合成容量の考え方(別解のアプローチ)も利用できると判断できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 異極接続での符号ミス:
- 誤解: (2)で正極と負極を接続しているにもかかわらず、総電気量を(1)と同じように単純な和で計算してしまう。
- 対策: 「正極と負極を接続」という言葉が出てきたら、危険信号と捉えましょう。図を描いて、どちらの極板がプラスでどちらがマイナスかを確認し、電気量保存の式を立てる際に \(Q_1 – Q_2\) のように必ず引き算にする、というルールを徹底します。
- 電圧が保存されるという誤解:
- 誤解: 接続後の共通電圧を、元の電圧の単純な平均(例: \((100+200)/2 = 150\text{V}\))や、加重平均で安易に計算しようとする。
- 対策: 保存されるのはあくまで「電気量」であり、「電圧」ではない、という原理を強く意識してください。電圧は、保存された電気量が再配分された「結果」として決まる量です。必ず電気量保存則から導出する癖をつけましょう。
- 有効数字の取り扱い:
- 誤解: (1)の計算結果である125Vを、そのまま最終的な答えとしてしまう。
- 対策: 問題で与えられている数値(3.0µF, 1.0µF)の有効数字が2桁であることに注意します。物理の問題では、特に指示がない限り、計算結果も与えられた数値の最も小さい有効数字の桁数に合わせるのが原則です。計算途中では多めの桁数で計算し、最後に四捨五入して答えを整形します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気量保存則 (\(Q_1′ + Q_2′ = Q_1 \pm Q_2\)):
- 選定理由: この問題では、コンデンサー同士を接続する際、電池などの外部電源から切り離されています。このような「孤立系」の内部で起こる現象を記述するための最も基本的な法則が電気量保存則です。
- 適用根拠: 導線でつながれた上側極板のペアと下側極板のペアは、それぞれが電気的に閉じた系(孤立系)を形成します。電荷はこれらの極板間で移動することはできますが、系の外に逃げたり、外部から入ってきたりすることはできません。したがって、これらの極板が持つ電気量の合計は、接続の前後で変化しないのです。
- 合成コンデンサーの考え方 (\(V = Q_{\text{合計}}/C_{\text{合計}}\)):
- 選定理由: (1)の別解で用いたこの方法は、問題をよりシンプルに捉え直すための強力なツールです。複数のコンデンサーを一つの等価なコンデンサーと見なすことで、計算の見通しが良くなります。
- 適用根拠: 最終的に電圧が等しくなる状態は、定義上「並列接続」です。並列接続されたコンデンサー群は、合成容量 \(C_{\text{合計}} = C_1 + C_2\) を持つ一つのコンデンサーと見なせます。この合成コンデンサーに、保存された総電気量 \(Q_{\text{合計}}\) が蓄えられていると考えると、その電圧は基本公式 \(Q=CV\) から \(V = Q_{\text{合計}}/C_{\text{合計}}\) と一意に定まります。これは、電気量保存則と各コンデンサーの \(Q=CV\) を連立して解くことと数学的に等価です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の事前処理: 計算を始める前に、問題中の単位(µFなど)をSI基本単位(F)に変換する習慣をつけましょう。この問題では、方程式の両辺で \(10^{-6}\) が打ち消されるため結果に影響しませんが、静電エネルギー(\(U = \frac{1}{2}CV^2\))などを計算する問題では、この単位換算を怠ると致命的なミスにつながります。
- 初期値の計算を最優先: 問題の操作に入る前に、まず各コンデンサーが蓄えている初期電気量 \(Q_1, Q_2\) を、間違いなく計算してメモしておきます。これが全ての計算の土台となるため、ここで間違うと全てが台無しになります。
- 符号の明示: (2)のように異極接続を扱う際は、立式の段階で「\(Q_1\)を正、\(Q_2\)を負とする」などと方針を明確にし、式に符号をはっきりと反映させることが重要です。計算結果の符号が物理的に妥当か(例えば、\(Q_1 > Q_2\) だったので最終電圧は正になるはず、など)を最後に吟味するのも良い習慣です。
328 コンデンサーの接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「合成容量の公式が成立する条件」です。コンデンサーの接続方法を見た目だけで判断するのではなく、並列接続・直列接続の物理的な定義に立ち返って、公式が適用可能かどうかを判断する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 並列接続の定義: 複数のコンデンサーの極板間の電圧がすべて等しい状態。このとき、合成容量の公式 \(C = C_1 + C_2\) が使えます。
- 直列接続の定義: 複数のコンデンサーに蓄えられる電気量がすべて等しい状態。このとき、合成容量の公式 \(\displaystyle\frac{1}{C} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\) が使えます。
- 電気量保存則: 回路の中で、電池などから切り離された「孤立部分」では、電荷の出入りがないため、その部分の電気量の総和は操作の前後で一定に保たれます。
- コンデンサーの基本公式: \(Q=CV\) は、すべての考察の基礎となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、スイッチを閉じた後の状態を考え、各コンデンサーの電圧がどうなるかを分析し、並列接続の定義を満たすか検証します。
- (2)では、問題文で与えられた条件「\(Q_1=Q_2\)」が、直列接続の定義そのものであることを確認します。
- (3)では、スイッチを閉じた後の孤立部分に電気量保存則を適用し、その結果、各コンデンサーの電気量がどうなるかを分析して、直列接続の定義を満たすか検証します。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた後の回路がどのような接続状態になるかを考えます。スイッチを閉じると、コンデンサー\(C_1\)の上側極板と\(C_2\)の上側極板が一本の導線で結ばれ、同様に下側の極板どうしも結ばれます。これにより、2つのコンデンサーの極板間の電位差(電圧)は必然的に等しくなります。電圧が等しいという条件は、並列接続の定義そのものです。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じると、各コンデンサーの極板間の電圧が等しくなる。
- 電圧が等しい接続が「並列接続」の定義である。
- 回路全体の電気量は、各コンデンサーの電気量の和になる。
具体的な解説と立式
スイッチを閉じた後の共通の電圧を\(V\)とします。このとき、各コンデンサーに蓄えられる電気量をそれぞれ \(Q_1′, Q_2’\) とすると、
$$ Q_1′ = C_1 V \quad \cdots ① $$
$$ Q_2′ = C_2 V \quad \cdots ② $$
この回路全体を一つの合成コンデンサーと見なしたとき、その電気量を\(Q\)、合成容量を\(C\)とすると、
$$ Q = CV \quad \cdots ③ $$
また、回路全体の電気量は各コンデンサーの電気量の和に等しいので、
$$ Q = Q_1′ + Q_2′ \quad \cdots ④ $$
①, ②, ③を④に代入すると、
$$ CV = C_1 V + C_2 V $$
両辺を\(V\)で割ると、
$$ C = C_1 + C_2 $$
これは並列接続の合成容量の公式そのものです。
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 並列接続の定義(電圧が等しい)
上記は公式の導出過程であり、この問題自体に具体的な計算はありません。
スイッチを閉じると、2つのコンデンサーのプラス側どうし、マイナス側どうしが直接つながります。これは、2つのコンデンサーが「横並び」になるのと同じで、並列接続そのものです。したがって、並列接続のルール(合成容量の公式)が使えます。
接続後の状態が並列接続の定義(電圧が等しい)を満たすため、並列接続の合成容量の式が使えます。
問(2)
思考の道筋とポイント
この設問では、2つのコンデンサーに蓄えられている電気量が等しい(\(Q_1=Q_2\))という条件が与えられています。この「各コンデンサーの電気量が等しい」という条件は、直列接続の定義そのものです。したがって、この条件が満たされている限り、この2つのコンデンサーの組み合わせは直列接続として扱うことができます。
この設問における重要なポイント
- 直列接続の定義は、各コンデンサーに蓄えられる電気量が等しいことである。(\(Q_1=Q_2\))
- 回路全体の電圧は、各コンデンサーの電圧の和になる。(\(V = V_1 + V_2\))
具体的な解説と立式
この接続全体を一つの合成コンデンサーと見なします。合成容量を\(C’\)、全体の電気量を\(Q’\)、全体の電圧を\(V’\)とします。
直列接続の定義より、全体の電気量は各コンデンサーの電気量に等しくなります。
$$ Q’ = Q_1 = Q_2 \quad \cdots ⑤ $$
また、全体の電圧は各コンデンサーの電圧の和になります。
$$ V’ = V_1 + V_2 \quad \cdots ⑥ $$
各コンデンサーおよび合成コンデンサーについて、\(Q=CV\)の関係を電圧について解くと、
$$ V_1 = \displaystyle\frac{Q_1}{C_1} \quad \cdots ⑦ $$
$$ V_2 = \displaystyle\frac{Q_2}{C_2} \quad \cdots ⑧ $$
$$ V’ = \displaystyle\frac{Q’}{C’} \quad \cdots ⑨ $$
⑦, ⑧, ⑨を⑥に代入すると、
$$ \displaystyle\frac{Q’}{C’} = \displaystyle\frac{Q_1}{C_1} + \displaystyle\frac{Q_2}{C_2} $$
ここで、⑤の関係(\(Q’ = Q_1 = Q_2\))を使うと、両辺を\(Q’\)で割ることができ、
$$ \displaystyle\frac{1}{C’} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2} $$
これは直列接続の合成容量の公式そのものです。
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 直列接続の定義(電気量が等しい)
上記は公式の導出過程であり、この問題自体に具体的な計算はありません。
2つのコンデンサーが「縦一列」に並んでいて、蓄えられている電気の量が同じである、という状況が与えられています。これはまさに直列接続の特徴そのものです。したがって、直列接続のルール(合成容量の公式)が使えます。
与えられた条件が直列接続の定義を満たすため、直列接続の合成容量の式が使えます。
問(3)
思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた後の回路を考えます。このとき、\(C_1\)の下側極板と\(C_2\)の上側極板は、導線で結ばれており、回路の他の部分からは電気的に切り離されています。このような「孤立部分」では、電気量保存則が成り立ちます。この法則を適用して、スイッチを閉じた後の各コンデンサーの電気量\(Q_1′, Q_2’\)の関係を調べ、それが直列または並列の定義を満たすかを確認します。
この設問における重要なポイント
- 回路の孤立部分を見つけ、その部分の総電気量が保存されることを利用する。
- 初期電荷が0でない場合、電気量保存則を適用しても、必ずしも \(Q_1′ = Q_2’\) とはならない。
- 直列接続の公式が使えるのは、各コンデンサーの電気量が等しい場合に限られる。
具体的な解説と立式
スイッチを閉じる前の孤立部分(\(C_1\)の下側極板と\(C_2\)の上側極板)の総電気量を計算します。
問題の図より、\(C_1\)には初期電荷\(Q_0\)が蓄えられているので、その下側極板の電気量は \(-Q_0\) です。
\(C_2\)には初期電荷がないので、その上側極板の電気量は 0 です。
よって、接続前の孤立部分の総電気量は、
$$ Q_{\text{孤立, 前}} = -Q_0 + 0 = -Q_0 $$
スイッチを閉じた後、\(C_1\), \(C_2\)に蓄えられる電気量をそれぞれ \(Q_1′, Q_2’\) とします。このとき、孤立部分の総電気量は、\(C_1\)の下側極板の電荷\(-Q_1’\)と\(C_2\)の上側極板の電荷\(+Q_2’\)の和になります。
$$ Q_{\text{孤立, 後}} = -Q_1′ + Q_2′ $$
電気量保存則(\(Q_{\text{孤立, 前}} = Q_{\text{孤立, 後}}\))より、
$$ -Q_1′ + Q_2′ = -Q_0 $$
これを変形すると、
$$ Q_1′ = Q_2′ + Q_0 $$
問題の条件より \(Q_0 \neq 0\) なので、この式は \(Q_1′ \neq Q_2’\) であることを示しています。
使用した物理公式
- 電気量保存則
上記は関係式の導出過程であり、この問題自体に具体的な計算はありません。
2つのコンデンサーを直列につなぎますが、片方のコンデンサー\(C_1\)にはあらかじめ電気が溜まっています。この状態で電池につなぐと、\(C_1\)と\(C_2\)の間にある導線部分の電気の量は、操作の前後で変わりません。この「電気量保存の法則」を使って計算すると、最終的に\(C_1\)と\(C_2\)に溜まる電気の量は等しくならないことがわかります。直列接続のルールが使えるのは「電気の量が等しい」ときだけなので、この場合は使えません。また、明らかに並列接続でもないので、どちらの公式も使えない、ということになります。
最終的に各コンデンサーに蓄えられる電気量が等しくない(\(Q_1′ \neq Q_2’\))ため、直列接続の定義を満たしません。したがって、直列接続の合成容量の式は使えません。また、接続形態から明らかに並列接続ではないため、並列接続の合成容量の式も使えません。よって、どちらの式も使えないということになります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 合成容量の公式が成立する「定義」の理解:
- 核心: この問題は、並列接続や直列接続の合成容量の公式を、単なる計算式としてではなく、その公式が成り立つための「物理的な条件(定義)」として理解しているかを問うています。
- 理解のポイント:
- 並列接続の定義: 複数のコンデンサーの電圧が等しいこと。この条件が満たされるときのみ、\(C = C_1 + C_2\) が使えます。
- 直列接続の定義: 複数のコンデンサーの電気量が等しいこと。この条件が満たされるときのみ、\(\displaystyle\frac{1}{C} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\) が使えます。
- 電気量保存則:
- 核心: (3)のように、一見すると直列に見えるが公式が使えないケースを判断する上で、電気量保存則が決定的な役割を果たします。回路内の「孤立部分」を見つけ出し、その部分の総電荷が不変であることを利用して、最終的な電荷の関係を導き出します。
- 理解のポイント:
- (3)では、\(C_1\)の下側極板と\(C_2\)の上側極板からなる孤立部分に着目します。
- 初期状態の総電荷(\(-Q_0 + 0 = -Q_0\))と、最終状態の総電荷(\(-Q_1′ + Q_2’\))が等しいという式を立てることで、\(Q_1′ \neq Q_2’\) という結論を導き、直列接続の定義を満たさないことを証明します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 初期電荷を持つコンデンサーの直列・並列接続: (3)のように、あらかじめ充電されたコンデンサーを含む回路では、安易に合成容量の公式を使わず、必ず電気量保存則やキルヒホッフの法則に立ち返って考える必要があります。
- 複雑なスイッチング回路: スイッチの開閉によって接続形態が変わる回路。各状態において、どの部分が並列・直列の定義を満たすか、あるいはどちらでもないかを、電圧や電荷の関係から判断します。
- ダイオードを含むコンデンサー回路: ダイオードは一方向にしか電流を流さないため、充電・放電の経路が非対称になります。この場合も、単純な合成容量の考え方が通用しないことが多いです。
- 初見の問題での着眼点:
- 見た目に惑わされない: コンデンサーが縦に並んでいても直列とは限らず、横に並んでいても並列とは限りません。まず、公式の適用を疑う姿勢が重要です。
- 定義に立ち返る: 「この接続は、各コンデンサーの電圧が等しいか?」「電気量が等しいか?」と自問自答します。
- 孤立部分を探す: 回路内に電池から切り離された部分がないかを探します。もしあれば、電気量保存則が強力な武器になります。特に、直列に見える接続の間に孤立部分がある場合は、その部分の初期電荷が0であるかどうかを必ず確認します。初期電荷が0なら直列公式が使え、0でなければ使えません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 見た目による接続形態の誤判断:
- 誤解: (3)の回路を見て、コンデンサーが直列に並んでいるから、何も考えずに直列接続の公式が使えると判断してしまう。
- 対策: 「直列に見える」ことと「直列接続の定義を満たす」ことは違う、と肝に銘じること。直列接続の公式が使えるのは、孤立部分の初期電荷が0の場合(つまり、未充電のコンデンサーを直列に接続した場合)に限られる、という重要な例外をセットで覚えておくことが有効です。
- 電気量保存則の適用ミス:
- 誤解: (3)で孤立部分の電気量を考える際に、極板の電荷の符号を間違える。例えば、総電荷を \(-Q_1′ – Q_2’\) などとしてしまう。
- 対策: コンデンサーの片方の極板が \(+Q\) なら、もう一方は必ず \(-Q\) であるという基本を再確認します。孤立部分を構成する各極板の電荷がプラスなのかマイナスなのかを一つずつ丁寧に確認し、代数和(符号を含めた和)をとることを徹底します。
- 並列と直列の定義の混同:
- 誤解: 電圧が等しいのが直列、電気量が等しいのが並列、というように逆さまに覚えてしまう。
- 対策: イメージで覚えるのが効果的です。「並列」は川の分岐のように、高さ(電圧)が同じ場所を流れるイメージ。「直列」は一本道のように、流れる水の量(電気量)がどこでも同じイメージ。このように物理的な描像と結びつけて記憶すると混同しにくくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 並列接続の公式 (\(C=C_1+C_2\)):
- 選定理由: (1)で、スイッチを閉じた後の状態が「電圧が等しい」という並列接続の定義を完全に満たすため、この公式が適用可能であると判断しました。
- 適用根拠: 回路全体の電気量 \(Q\) は各コンデンサーの電気量の和 \(Q_1’+Q_2’\) であり、電圧は共通で \(V\) です。\(Q=CV\), \(Q_1’=C_1V\), \(Q_2’=C_2V\) を \(Q=Q_1’+Q_2’\) に代入すると、\(CV = C_1V + C_2V\) となり、\(C=C_1+C_2\) が導かれます。この導出過程そのものが、公式適用の論理的根拠です。
- 直列接続の公式 (\(\frac{1}{C}=\frac{1}{C_1}+\frac{1}{C_2}\)):
- 選定理由: (2)では、問題文で「\(Q_1=Q_2\)」という直列接続の定義そのものが条件として与えられているため、この公式が適用可能であると判断しました。
- 適用根拠: 回路全体の電圧 \(V’\) は各コンデンサーの電圧の和 \(V_1+V_2\) であり、電気量は共通で \(Q’\) です。\(V’=Q’/C’\), \(V_1=Q’/C_1\), \(V_2=Q’/C_2\) を \(V’=V_1+V_2\) に代入すると、\(\frac{Q’}{C’} = \frac{Q’}{C_1} + \frac{Q’}{C_2}\) となり、\(\frac{1}{C’} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\) が導かれます。
- 電気量保存則 (\(Q_{\text{孤立,後}} = Q_{\text{孤立,前}}\)):
- 選定理由: (3)では、見た目は直列ですが、初期電荷の存在により直列の定義を満たすか不明です。このような、公式が使えるかどうかが自明でない場合に、より根源的な法則である電気量保存則に立ち返って真偽を判断するために用いました。
- 適用根拠: 電荷は勝手に生まれたり消えたりせず、また孤立した導体からは出入りできません。この物理学の大原則に基づき、孤立部分の総電荷は不変であると断定できます。この法則から導かれた \(Q_1′ \neq Q_2’\) という結果は、直列接続の公式が使えないことの動かぬ証拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は概念の理解を問うものであり、具体的な数値計算はありません。しかし、(3)のような思考プロセスで重要なのは、論理の飛躍をなくすことです。
- ステップ・バイ・ステップの思考: 「スイッチを閉じる前はどうなっているか?」→「孤立部分はどこか?」→「その部分の総電荷はいくつか?」→「スイッチを閉じた後はどうなるか?」→「その部分の総電荷はどう表せるか?」→「保存則を立てるとどうなるか?」というように、思考のステップを一つずつ着実に進めることが、正しい結論に至るための鍵です。
- 図を用いた思考整理: (3)の解説のように、回路図に電荷の符号(+, -)や文字(\(Q_1′, Q_2’\)など)を書き込みながら考えると、状況を視覚的に把握しやすくなり、立式ミスを防ぐことができます。
329 コンデンサーの直列接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーの直列接続と誘電体の挿入」です。基本的な直列接続の性質を理解しているかに加え、誘電体を挿入した際にコンデンサーの電気容量や回路の状態がどう変化するかを考察する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの直列接続: 各コンデンサーに蓄えられる電気量が等しく、全体の電圧は各コンデンサーの電圧の和になります。電圧は電気容量の逆比に分配されます。
- 一様な電界: 平行板コンデンサーの内部の電界は一様であり、強さ\(E\)、極板間の電圧\(V\)、極板間隔\(d\)の間には \(E=V/d\) の関係があります。
- 誘電体の効果: コンデンサーの極板間に比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を満たすと、電気容量は\(\varepsilon_r\)倍になります (\(C’ = \varepsilon_r C\))。
- 静電エネルギー: コンデンサーに蓄えられるエネルギーの公式(\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\))を正しく使うことが求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、まず直列接続された2つのコンデンサーにそれぞれかかる電圧を求め、それをもとに電界の強さと電気量を計算します。
- (3)では、\(C_1\)に絶縁油(誘電体)を満たした後の新しい電気容量を計算し、変化した電気容量に応じて再分配される電圧を求めます。
- (4)では、(3)で求めた新しい電気容量と電圧の値を用いて、静電エネルギーの公式からエネルギーを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチを閉じたとき、2つのコンデンサー\(C_1, C_2\)は直列に接続されます。問題の条件より、\(C_1\)と\(C_2\)の電気容量は等しいです。直列接続では、各コンデンサーにかかる電圧の大きさは電気容量の大きさに反比例するため、電気容量が等しい場合は電圧も等しく分配されます。全体の電圧10Vが\(C_1, C_2\)に均等にかかることから\(C_1\)の電圧を求め、電界の公式 \(E=V/d\) を用いて電界の強さを計算します。
この設問における重要なポイント
- 直列接続では、電圧は電気容量の逆比に分配される。
- 電気容量が等しい場合、電圧は等分される。
- 一様な電界の公式: \(E=V/d\)。
具体的な解説と立式
コンデンサー\(C_1, C_2\)は直列接続されており、電気容量が等しい(\(C_1=C_2=2.0 \times 10^{-9} \text{ F}\))ため、それぞれにかかる電圧\(V_1, V_2\)も等しくなります。
電源の電圧は10Vなので、電圧の和について以下の式が成り立ちます。
$$ V_1 + V_2 = 10 $$
\(V_1=V_2\)であることから、
$$ 2V_1 = 10 $$
よって、\(C_1\)にかかる電圧は \(V_1 = 5.0 \, [\text{V}]\) となります。
求める電界の強さを\(E\)、極板間隔を\(d\)とすると、公式は以下のようになります。
$$ E = \displaystyle\frac{V_1}{d} $$
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差の関係: \(E = V/d\)
各値を代入して、電界の強さ\(E\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \displaystyle\frac{5.0}{1.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^3 \, [\text{V/m}]\end{aligned}
$$
2つの同じ性能のコンデンサーが縦に直列につながっているので、電池の10Vの電圧は、2つに均等に5Vずつ分けられます。コンデンサー\(C_1\)にかかる電圧が5Vで、その極板の間の距離が\(1.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)なので、電界の強さは「電圧 ÷ 距離」で計算できます。
\(C_1\)の極板間の電界の強さは \(5.0 \times 10^3 \text{ V/m}\) です。直列接続の電圧分配の法則を正しく適用できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
コンデンサー\(C_1\)に蓄えられる電気量を求める問題です。(1)で\(C_1\)にかかる電圧\(V_1\)は \(5.0 \text{ V}\) と求まっています。コンデンサーの電気容量\(C_1\)も与えられているので、基本公式 \(Q=CV\) を用いて電気量を計算します。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) を用いる。
具体的な解説と立式
求める電気量を\(Q_1\)とします。\(C_1\)の電気容量は \(C_1 = 2.0 \times 10^{-9} \, [\text{F}]\)、かかる電圧は \(V_1 = 5.0 \, [\text{V}]\) です。
コンデンサーの基本公式より、
$$ Q_1 = C_1 V_1 $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
各値を代入して、電気量\(Q_1\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= (2.0 \times 10^{-9}) \times 5.0 \\[2.0ex]&= 10 \times 10^{-9} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^{-8} \, [\text{C}]\end{aligned}
$$
(1)でコンデンサー\(C_1\)にかかる電圧が5Vだとわかりました。コンデンサーの性能(電気容量)は\(2.0 \times 10^{-9} \text{ F}\)と与えられているので、「電気量 = 電気容量 × 電圧」の公式にこれらの値を当てはめて計算します。
\(C_1\)に蓄えられる電気量は \(1.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) です。基本的な公式を正しく適用できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
\(C_1\)の極板間に比誘電率4.0の絶縁油を満たします。これにより、\(C_1\)の電気容量が変化します。新しい電気容量\(C_1’\)を計算した後、直列接続における電圧分配の法則を再度適用します。直列接続では、電圧は電気容量の逆比に分配されるため、\(C_1’\)と\(C_2\)の容量比から、\(C_1\)にかかる新しい電圧\(V_1’\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 誘電体を満たすと、電気容量は比誘電率\(\varepsilon_r\)倍になる (\(C’ = \varepsilon_r C\))。
- 直列接続では、電圧は電気容量の逆比に分配される。(\(V_1 : V_2 = \frac{1}{C_1} : \frac{1}{C_2} = C_2 : C_1\))
具体的な解説と立式
絶縁油を満たした後の\(C_1\)の電気容量を\(C_1’\)とします。
$$ C_1′ = \varepsilon_r C_1 $$
この\(C_1’\)と\(C_2\)が直列に接続されており、全体の電圧は10Vです。\(C_1\)にかかる電圧を\(V_1’\)とすると、電圧分配の公式より、
$$ V_1′ = \displaystyle\frac{C_2}{C_1′ + C_2} \times 10 $$
使用した物理公式
- 誘電体による電気容量の変化: \(C’ = \varepsilon_r C\)
- 直列接続における電圧分配則
まず、新しい電気容量\(C_1’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
C_1′ &= 4.0 \times (2.0 \times 10^{-9}) \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^{-9} \, [\text{F}]\end{aligned}
$$
次に、電圧分配の公式を用いて\(V_1’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_1′ &= \displaystyle\frac{2.0 \times 10^{-9}}{8.0 \times 10^{-9} + 2.0 \times 10^{-9}} \times 10 \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{2.0 \times 10^{-9}}{10.0 \times 10^{-9}} \times 10 \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{2.0}{10.0} \times 10 \\[2.0ex]&= 2.0 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
絶縁油を入れると、コンデンサー\(C_1\)の性能(電気容量)が4倍になります。直列接続では、性能が低い(容量が小さい)コンデンサーほど多くの電圧を引き受けます。全体の10Vを、新しい性能の比 \(8.0 : 2.0\) の逆比、つまり \(2.0 : 8.0 = 1 : 4\) の比率で分け合います。\(C_1\)が引き受ける電圧は、全体の \(1/(1+4) = 1/5\) なので、\(10\text{V} \times (1/5) = 2.0\text{V}\) となります。
\(C_1\)の電圧は \(2.0 \text{ V}\) です。\(C_1\)の電気容量が増加した結果、分担する電圧が5.0Vから2.0Vに減少しました。これは物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
合成容量を計算してから、各コンデンサーの電圧を求める別解です。まず、新しい電気容量\(C_1’\)と\(C_2\)の直列合成容量\(C_{\text{合成}}\)を求めます。次に、回路全体に蓄えられる電気量\(Q_{\text{全体}}\)を \(Q=CV\) で計算します。直列接続では、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しく、\(Q_{\text{全体}}\)に等しくなります。この関係から、\(C_1\)にかかる電圧\(V_1’\)を \(V=Q/C\) で逆算します。
この設問における重要なポイント
- 直列接続の合成容量の公式: \(\displaystyle\frac{1}{C} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\)
- 直列接続では、各コンデンサーの電気量は回路全体の電気量と等しい。
具体的な解説と立式
\(C_1’\)と\(C_2\)の直列合成容量を\(C_{\text{合成}}\)とすると、
$$ \displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1′} + \displaystyle\frac{1}{C_2} $$
回路全体に蓄えられる電気量\(Q_{\text{全体}}\)は、
$$ Q_{\text{全体}} = C_{\text{合成}} \times 10 $$
直列接続なので、\(C_1’\)に蓄えられる電気量\(Q_1’\)は\(Q_{\text{全体}}\)に等しいです。(\(Q_1′ = Q_{\text{全体}}\))
したがって、\(C_1’\)にかかる電圧\(V_1’\)は、
$$ V_1′ = \displaystyle\frac{Q_1′}{C_1′} $$
使用した物理公式
- 直列接続の合成容量: \(\displaystyle\frac{1}{C} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\)
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
まず、合成容量\(C_{\text{合成}}\)を計算します。\(C_1′ = 8.0 \times 10^{-9} \text{ F}\), \(C_2 = 2.0 \times 10^{-9} \text{ F}\) なので、
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} &= \displaystyle\frac{1}{8.0 \times 10^{-9}} + \displaystyle\frac{1}{2.0 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1 + 4}{8.0 \times 10^{-9}} = \displaystyle\frac{5}{8.0 \times 10^{-9}}
\end{aligned}
$$
$$ C_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{8.0 \times 10^{-9}}{5} = 1.6 \times 10^{-9} \, [\text{F}] $$
次に、全体の電気量\(Q_{\text{全体}}\)を計算します。
$$ Q_{\text{全体}} = (1.6 \times 10^{-9}) \times 10 = 1.6 \times 10^{-8} \, [\text{C}] $$
最後に、\(V_1’\)を計算します。\(Q_1′ = Q_{\text{全体}}\)なので、
$$
\begin{aligned}
V_1′ &= \displaystyle\frac{1.6 \times 10^{-8}}{8.0 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= 0.2 \times 10 \\[2.0ex]&= 2.0 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
まず、回路全体を一つのコンデンサーと見なして、その総合性能(合成容量)を計算します。次に、その総合性能のコンデンサーに10Vの電圧をかけたときに蓄えられる全体の電気量を計算します。直列接続なので、この電気量が\(C_1\)にも\(C_2\)にも同じだけ蓄えられているはずです。この電気量と\(C_1\)の新しい性能(電気容量)から、「電圧 = 電気量 ÷ 電気容量」で\(C_1\)の電圧を逆算します。
電圧は \(2.0 \text{ V}\) となり、メインの解法と一致しました。どちらのアプローチでも解けることを確認できました。
思考の道筋とポイント
電気量保存則とキルヒホッフの第2法則(電圧則)を連立させて解く、最も基本的なアプローチです。\(C_1\)と\(C_2\)の間にある導線部分は、回路の他の部分から孤立しています。スイッチを入れる前、この部分の電気量は0だったので、入れた後も0のまま保存されます。この電気量保存の式と、各コンデンサーの電圧の和が電源電圧に等しいという式を連立させて解きます。
この設問における重要なポイント
- 孤立部分の電気量保存則を適用する。
- 回路全体の電圧の関係(キルヒホッフの第2法則)を立式する。
具体的な解説と立式
絶縁油を満たした後の\(C_1, C_2\)にかかる電圧をそれぞれ\(V_1′, V_2’\)とします。
孤立部分(\(C_1\)の下側極板と\(C_2\)の上側極板)の電気量保存を考えます。
\(C_1\)の下側極板の電荷は \(-Q_1′ = -C_1’V_1’\)。
\(C_2\)の上側極板の電荷は \(+Q_2′ = +C_2V_2’\)。
初期の電気量は0なので、保存則より、
$$ -C_1’V_1′ + C_2V_2′ = 0 \quad \cdots ① $$
また、回路全体の電圧の関係より、
$$ V_1′ + V_2′ = 10 \quad \cdots ② $$
この連立方程式を解いて\(V_1’\)を求めます。
使用した物理公式
- 電気量保存則
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
①式に \(C_1′ = 8.0 \times 10^{-9} \text{ F}\), \(C_2 = 2.0 \times 10^{-9} \text{ F}\) を代入します。
$$ -(8.0 \times 10^{-9})V_1′ + (2.0 \times 10^{-9})V_2′ = 0 $$
$$ 4V_1′ = V_2′ $$
これを②式に代入します。
$$
\begin{aligned}
V_1′ + (4V_1′) &= 10 \\[2.0ex]5V_1′ &= 10 \\[2.0ex]V_1′ &= 2.0 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
2つのコンデンサーの間にある導線部分は、外部から隔離されています。最初、この部分の電気は0だったので、操作後も0のはずです。この部分の電気は「\(C_2\)のプラスの電気」と「\(C_1\)のマイナスの電気」からなるので、これらの大きさが等しくなるはずです。つまり、\(C_1\)と\(C_2\)に蓄えられる電気量は等しい、ということがわかります。この条件と、2つのコンデンサーの電圧の合計が10Vであるという条件を組み合わせることで、それぞれの電圧を計算できます。
電圧は \(2.0 \text{ V}\) となり、他の解法とも一致しました。これは最も原理的な解法であり、合成容量の公式が使えないような複雑な場合でも通用する強力な方法です。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で求めた\(C_1\)の新しい状態(電気容量\(C_1’\)と電圧\(V_1’\))を使って、静電エネルギーを計算します。静電エネルギーの公式は3種類ありますが、\(C\)と\(V\)が分かっているので、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を使うのが最も直接的です。
この設問における重要なポイント
- 静電エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を正しく使う。
- (3)で求めた値(変化後の値)を用いることに注意する。
具体的な解説と立式
求める静電エネルギーを\(U_1\)とします。(3)の結果より、\(C_1\)の電気容量は \(C_1′ = 8.0 \times 10^{-9} \, [\text{F}]\)、かかる電圧は \(V_1′ = 2.0 \, [\text{V}]\) です。
静電エネルギーの公式にこれらの値を代入します。
$$ U_1 = \displaystyle\frac{1}{2} C_1′ (V_1′)^2 $$
使用した物理公式
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
各値を代入して、静電エネルギー\(U_1\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
U_1 &= \displaystyle\frac{1}{2} \times (8.0 \times 10^{-9}) \times (2.0)^2 \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} \times (8.0 \times 10^{-9}) \times 4.0 \\[2.0ex]&= 16 \times 10^{-9} \\[2.0ex]&= 1.6 \times 10^{-8} \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
(3)で、絶縁油を入れた後のコンデンサー\(C_1\)の性能(電気容量)と、そこにかかる電圧がわかりました。エネルギーを求めるには、公式「エネルギー = 1/2 × 電気容量 × (電圧)²」に、これらの値をそのまま代入すれば計算できます。
\(C_1\)に蓄えられる静電エネルギーは \(1.6 \times 10^{-8} \text{ J}\) です。計算は正しく、物理的な意味とも合致しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの直列接続の性質:
- 核心: 直列に接続されたコンデンサーの基本的な振る舞いを理解していることが全ての土台となります。特に重要なのは「電圧の分配」と「電気量の関係」です。
- 理解のポイント:
- 電気量が等しい: 直列接続では、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しくなります (\(Q_1 = Q_2\))。これは、間に挟まれた孤立部分の電気量が保存されるためです。
- 電圧の分配: 各コンデンサーにかかる電圧は、電気容量の「逆比」に分配されます (\(V_1 : V_2 = C_2 : C_1\))。電気を溜めにくい(容量が小さい)コンデンサーほど、多くの電圧を分担します。
- 誘電体の挿入による電気容量の変化:
- 核心: コンデンサーの極板間に誘電体を挿入すると、そのコンデンサーの性能(電気容量)が向上するという物理現象を理解していることが重要です。
- 理解のポイント:
- 電気容量の増加: 比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体で満たすと、電気容量は\(\varepsilon_r\)倍になります (\(C’ = \varepsilon_r C\))。
- 回路への影響: 一つのコンデンサーの電気容量が変わると、直列回路全体の電圧の分配比率が変化し、各コンデンサーの電圧や蓄えられる電気量が再調整されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電池を切り離してから誘電体を挿入する問題: この場合、回路全体の電圧は一定ではなく、回路全体の「電気量」が保存されます。この条件の違いによって、最終的な電圧やエネルギーの計算結果が大きく異なります。
- 極板間隔を変化させる問題: コンデンサーの極板間隔を変えると、電気容量が変化します(\(C \propto 1/d\))。これも誘電体の挿入と同様に、電気容量の変化が回路全体に影響を及ぼす問題パターンです。
- 一部だけ誘電体を挿入する問題: 極板間の一部にだけ誘電体を挿入する場合、そのコンデンサーは「誘電体部分」と「空気部分」の2つのコンデンサーが直列または並列に接続されていると見なして解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 操作の前後で何が変わったか?: まず、誘電体の挿入や極板間隔の変化などによって、どのコンデンサーの電気容量がどのように変化したかを特定します。
- 回路の「不変量」は何か?: 次に、その操作が「電池に接続したまま」行われたのか、「電池から切り離した後」に行われたのかを確認します。
- 電池に接続したまま → 回路全体の電圧が一定。
- 電池から切り離した後 → 回路全体の電気量が一定。
- 解法の選択: (3)のように、複数の解法が考えられます。「電圧分配則」は速く、「合成容量」は全体の振る舞いを捉えやすく、「電気量保存+電圧則」は最も原理的で応用範囲が広いです。問題に応じて最適なアプローチを選びましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧分配の比率の混同:
- 誤解: (3)で、電圧が電気容量の比 (\(C_1′ : C_2\)) に分配されると勘違いし、\(V_1′ = \frac{C_1′}{C_1’+C_2} \times 10\) と計算してしまう。
- 対策: 「電圧は容量の逆比」と明確に覚えること。\(V_1:V_2 = C_2:C_1\) という関係を常に意識し、分配の式を立てるときは、求める電圧のコンデンサーとは「逆」のコンデンサーの容量が分子に来る (\(V_1′ = \frac{C_2}{C_1’+C_2}V\)) ことを確認する癖をつけましょう。
- 誘電体挿入後も電気量が等しいことを見落とす:
- 誤解: 誘電体を挿入して\(C_1\)の容量が変わったことで、\(Q_1′ \neq Q_2’\) になるのではないかと混乱してしまう。
- 対策: 回路は依然として直列接続のままです。電池に接続されている限り、電荷は再移動して、最終的には必ず \(Q_1′ = Q_2’\) の状態に落ち着きます。直列接続である限り、電気量は常に等しいという原則を信じることが重要です。
- エネルギー計算で使う値の混同:
- 誤解: (4)で静電エネルギーを計算する際に、(3)で変化した後の値 (\(C_1′, V_1’\)) ではなく、変化前の値 (\(C_1, V_1\)) を使ってしまう。
- 対策: 問題の時系列を意識し、「どの時点でのエネルギーを問われているか」を明確に確認します。(4)は「(3)の場合に」とあるので、(3)で求めた最新の物理量を使って計算することを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電圧分配則 (\(V_1′ = \frac{C_2}{C_1’+C_2}V\)):
- 選定理由: (3)のメイン解法。直列接続された回路で、各コンデンサーの電圧を直接、かつ迅速に求めるのに最も適した公式です。
- 適用根拠: この公式は、直列接続の2つの基本性質「\(Q_1’=Q_2’\)」と「\(V_1’+V_2’=V\)」を連立させて解いた結果です。\(C_1’V_1′ = C_2V_2’\) と \(V_2′ = V – V_1’\) から \(V_2’\) を消去すれば、この公式が導出できます。つまり、2つの基本法則を凝縮した便利なツールと言えます。
- 合成容量の利用 (\(\frac{1}{C}=\frac{1}{C_1}+\frac{1}{C_2}\)):
- 選定理由: (3)の別解1。回路全体を一つのコンデンサーと見なすことで、まず回路全体の電気量を把握し、そこから個々の要素(電圧)を分析していくアプローチです。
- 適用根拠: 回路全体に蓄えられる電気量\(Q\)は、合成容量\(C_{\text{合成}}\)と全体電圧\(V\)を用いて \(Q=C_{\text{合成}}V\) と表せます。直列接続では、この\(Q\)が各コンデンサーの電気量と等しくなるため、\(Q_1’=Q\)となります。この関係から、\(V_1′ = Q_1’/C_1’\) として電圧を逆算できます。
- 電気量保存則+電圧則:
- 選定理由: (3)の別解2。合成容量の公式が使えないような、より複雑な回路にも対応できる最も原理的な解法です。
- 適用根拠: 直列接続のコンデンサー間に存在する導線部分は、外部から電気的に孤立しています。したがって、この部分の正味の電荷は常に0に保たれるはずです(電気量保存)。この条件 (\(-Q_1′ + Q_2′ = 0\)) と、回路全体の電圧則(キルヒホッフの第2法則 \(V_1’+V_2’=V\))は、いかなる定常状態においても成り立つ普遍的な法則です。この2つを連立させることで、あらゆる直列回路の問題を解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算: \(10^{-9}\) や \(10^{-3}\) といった指数計算は、数値部分と指数部分を分けて計算するとミスが減ります。例えば、\(\frac{5.0 \times 10^{-4}}{4.0 \times 10^{-6}}\) は、\(\frac{5.0}{4.0}\) と \(\frac{10^{-4}}{10^{-6}}\) に分けて計算し、最後に結果を合わせます。
- 単位の確認: 最終的な答えの単位が正しいか(電界ならV/m, 電気量ならC, 電圧ならV, エネルギーならJ)を必ず確認する癖をつけましょう。
- 検算の習慣: (3)で\(V_1’=2.0\text{V}\)と求めたら、\(V_2’\)も計算してみます。電圧分配の比は \(C_2:C_1′ = 2.0:8.0 = 1:4\) なので、\(V_2′ = \frac{4}{1+4} \times 10 = 8.0\text{V}\) となります。そして、\(V_1’+V_2′ = 2.0+8.0 = 10\text{V}\) となり、全体の電圧と一致することを確認できます。このような簡単な検算で、計算ミスを大幅に減らせます。
330 極板間への物体の挿入
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーへの誘電体・導体の挿入と電気量保存則」です。充電されたコンデンサーを電源から切り離した後に、極板間に物体を挿入すると、電気容量が変化し、それに伴って電圧がどう変わるかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本公式: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)の関係式 \(Q=CV\) は全ての計算の基礎となります。
- 電気量保存則: 電源から切り離されたコンデンサーでは、その後にどのような操作を加えても、蓄えられている電気量\(Q\)は一定に保たれます。
- 誘電体の挿入: 極板間を比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体で満たすと、電気容量は\(\varepsilon_r\)倍になります (\(C’ = \varepsilon_r C\))。
- 導体(金属板)の挿入: 極板間に厚さ\(t\)の金属板を挿入すると、その部分は電界が0となり、実質的に極板間隔が\(t\)だけ狭くなったのと同じ効果をもたらします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずコンデンサーの基本公式\(Q=CV\)を用いて、充電によって蓄えられる電気量を計算します。
- (2)では、電源から切り離されているため(1)で求めた電気量\(Q\)が保存されることを利用します。ボール紙(誘電体)の挿入によって変化した新しい電気容量を求め、\(V=Q/C\)の関係から電圧を計算します。
- (3)では、金属板の挿入によって実質的な極板間隔が変化し、それによって電気容量がどう変わるかを考えます。(2)と同様に、電気量保存則から新しい電圧を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
コンデンサーを電源につないで充電したときに蓄えられる電気量を求める、基本的な問題です。与えられた電気容量\(C\)と電圧\(V\)の値を、コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) に代入して計算します。単位の換算(\(\mu\text{F} \rightarrow \text{F}\))を忘れないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの基本公式: \(Q=CV\)。
- 単位の接頭語「\(\mu\)(マイクロ)」は \(10^{-6}\) を意味する。
具体的な解説と立式
求める電気量を\(Q\)、電気容量を\(C\)、電圧を\(V\)とします。
与えられた値は \(C = 1.0 \times 10^{-3} \, [\mu\text{F}] = 1.0 \times 10^{-3} \times 10^{-6} \, [\text{F}] = 1.0 \times 10^{-9} \, [\text{F}]\)、\(V = 320 \, [\text{V}]\) です。
コンデンサーの基本公式は以下の通りです。
$$ Q = CV $$
使用した物理公式
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
与えられた値を代入して、電気量\(Q\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= (1.0 \times 10^{-9}) \times 320 \\[2.0ex]&= 320 \times 10^{-9} \\[2.0ex]&= 3.2 \times 10^2 \times 10^{-9} \\[2.0ex]&= 3.2 \times 10^{-7} \, [\text{C}]\end{aligned}
$$
コンデンサーにどれだけの電気が蓄えられるかは、「コンデンサーの性能(電気容量)× かけた電圧」で計算できます。問題で与えられた値をこの基本公式に当てはめるだけで答えが求まります。ただし、電気容量の単位を「マイクロファラッド」から「ファラッド」に直すのを忘れないようにしましょう。
蓄えられる電気量は \(3.2 \times 10^{-7} \text{ C}\) です。基本的な公式と単位換算を正しく行えました。
問(2)
思考の道筋とポイント
電源を切り離してから、極板間にボール紙(誘電体)を挿入します。ここでの最重要ポイントは「電気量保存則」です。電源から切り離されたコンデンサーは、外部との電荷のやりとりができないため、(1)で蓄えられた電気量\(Q\)がそのまま保たれます。一方、誘電体を挿入するとコンデンサーの電気容量は変化します。この新しい電気容量\(C’\)と、保存されている電気量\(Q\)から、新しい電圧\(V’\)を \(V=Q/C\) の関係式を使って求めます。
この設問における重要なポイント
- 電源から切り離されたコンデンサーでは、電気量\(Q\)が保存される。
- 比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を満たすと、電気容量は \(C’ = \varepsilon_r C\) となる。
具体的な解説と立式
(1)より、保存される電気量は \(Q = 3.2 \times 10^{-7} \, [\text{C}]\) です。
ボール紙を挿入した後の電気容量を\(C’\)とします。比誘電率\(\varepsilon_r = 3.2\)、元の電気容量\(C = 1.0 \times 10^{-9} \, [\text{F}]\)なので、
$$ C’ = \varepsilon_r C $$
求める電圧を\(V’\)とすると、電気量保存則とコンデンサーの基本公式から、
$$ Q = C’V’ $$
したがって、\(V’\)は次のように表せます。
$$ V’ = \displaystyle\frac{Q}{C’} = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_r C} $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- 誘電体による電気容量の変化: \(C’ = \varepsilon_r C\)
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
まず、新しい電気容量\(C’\)を計算します。
$$ C’ = 3.2 \times (1.0 \times 10^{-9}) = 3.2 \times 10^{-9} \, [\text{F}] $$
次に、新しい電圧\(V’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
V’ &= \displaystyle\frac{3.2 \times 10^{-7}}{3.2 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^2 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
コンデンサーを電源から外したので、蓄えられた電気の量は変わりません。そこにボール紙を入れると、コンデンサーはより多くの電気を蓄えられる状態(性能がアップした状態)になります。同じ量の電気でも、より高性能な器に入れると、その勢い(電圧)は弱まります。電圧は「電気量 ÷ 新しい電気容量」で計算できます。
極板間の電圧は \(1.0 \times 10^2 \text{ V}\) になります。電気容量が3.2倍になった結果、電圧が \(1/3.2\) 倍の100Vに減少しました。これは物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
今度は、ボール紙の代わりに金属板を挿入します。金属板は導体なので、その内部では電界が0になります。これは、コンデンサーの極板間隔が、金属板の厚さの分だけ実質的に狭くなったと考えることができます。間隔が狭くなると電気容量は増加します。この新しい電気容量\(C”\)を求め、(2)と同様に電気量保存則を用いて新しい電圧\(V”\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 電気量\(Q\)は(1)から保存されている。
- 厚さ\(t\)の金属板を挿入すると、極板間隔が\(d\)から\(d-t\)になったのと等価である。
- 平行板コンデンサーの電気容量は、極板間隔に反比例する (\(C \propto 1/d\))。
具体的な解説と立式
元の極板間隔を\(d\)とすると、挿入する金属板の厚さは \(t = d/4\) です。
金属板を挿入した後の実質的な極板間隔は \(d” = d – t = d – \frac{1}{4}d = \frac{3}{4}d\) となります。
電気容量は極板間隔に反比例するため、新しい電気容量\(C”\)は、
$$ C” = \displaystyle\frac{d}{d”} C = \displaystyle\frac{d}{\frac{3}{4}d} C = \displaystyle\frac{4}{3}C $$
保存されている電気量\(Q\)と新しい電気容量\(C”\)から、求める電圧\(V”\)は次のように計算できます。
$$ V” = \displaystyle\frac{Q}{C”} $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- 導体挿入による電気容量の変化
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
まず、新しい電気容量\(C”\)を計算します。
$$ C” = \displaystyle\frac{4}{3} \times (1.0 \times 10^{-9}) \, [\text{F}] $$
次に、新しい電圧\(V”\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
V” &= \displaystyle\frac{3.2 \times 10^{-7}}{\frac{4}{3} \times 1.0 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{3 \times 3.2 \times 10^{-7}}{4 \times 1.0 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= 3 \times 0.8 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 2.4 \times 10^2 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
金属板をコンデンサーの間に挿入すると、その金属板の厚さの分だけ、電気が影響を及ぼす空間が狭くなります。つまり、コンデンサーの極板の間隔が実質的に狭くなったのと同じ効果があります。間隔が元の\(3/4\)になったので、コンデンサーの性能(電気容量)は逆数の\(4/3\)倍に良くなります。電気の量は変わらないので、電圧は「電気量 ÷ 新しい電気容量」で計算できます。
極板間の電圧は \(2.4 \times 10^2 \text{ V}\) です。電気容量が\(4/3\)倍になったので、電圧は\(3/4\)倍 (\(320\text{V} \times 3/4 = 240\text{V}\)) になりました。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
電界の考え方を用いた別解です。電源から切り離されたコンデンサーでは、極板上の電気量\(Q\)が一定なので、極板の電荷密度も一定です。したがって、極板間の空間に生じる電界の強さ\(E\)は、金属板を挿入しても変わりません。ただし、金属板の内部は電界が0になります。電圧は「電界の強さ × 距離」で決まるため、電界が存在する空間の距離が短くなった分だけ、電圧が下がると考えます。
この設問における重要なポイント
- 孤立したコンデンサーでは、極板間の電界の強さ\(E\)は一定に保たれる。
- 導体(金属板)の内部では電界は0である。
- 電圧は \(V=Ed\) で計算するが、電界が存在する距離のみを考える。
具体的な解説と立式
元の状態での電界の強さを\(E\)、極板間隔を\(d\)とすると、元の電圧\(V=320\text{V}\)は、
$$ V = Ed $$
金属板を挿入した後、電界の強さ\(E\)は変わりません。しかし、電界が存在する空間の距離は、金属板の厚さ \(t=d/4\) を除いた \(d” = d – t = \frac{3}{4}d\) となります。
したがって、新しい電圧\(V”\)は、
$$ V” = E \times d” = E \times \left(\frac{3}{4}d\right) $$
ここで \(E = V/d\) の関係を代入すると、
$$ V” = \left(\displaystyle\frac{V}{d}\right) \times \left(\frac{3}{4}d\right) = \displaystyle\frac{3}{4}V $$
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差の関係: \(V=Ed\)
元の電圧 \(V=320\text{V}\) を用いて、\(V”\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
V” &= \displaystyle\frac{3}{4} \times 320 \\[2.0ex]&= 3 \times 80 \\[2.0ex]&= 240 \\[2.0ex]&= 2.4 \times 10^2 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
電源から切り離されているので、電気力線の総本数は変わりません。金属板の中には電気力線は入れないので、電気力線が通る空間の「電界の強さ」は元のままです。電圧は「電界の強さ × 距離」で決まりますが、金属板の厚さ分は距離としてカウントされません。電界が存在する距離が元の\(3/4\)になったので、電圧も元の\(3/4\)になります。
電圧は \(2.4 \times 10^2 \text{ V}\) となり、メインの解法と一致しました。こちらの解法の方が、電気容量の変化を介さずに直接電圧を計算できるため、より直感的で計算も簡単です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気量保存則:
- 核心: (2)と(3)の操作は、コンデンサーを「電源から切り離し」てから行われます。この一言が、この問題の状況を決定づける最も重要な条件です。電源から孤立したコンデンサーでは、その後に極板間に何を挿入しようとも、蓄えられた電気量\(Q\)は一定に保たれます。
- 理解のポイント:
- \(Q\)が一定であるため、コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) は \(V = Q/C\) という形に書き換えられます。これは、電圧\(V\)が電気容量\(C\)に反比例して変化することを意味します。
- 電気容量\(C\)が大きくなれば電圧\(V\)は下がり、\(C\)が小さくなれば\(V\)は上がる、という関係を直感的に理解することが重要です。
- 物体の挿入による電気容量の変化:
- 核心: 極板間に物体を挿入すると、コンデンサーの電気容量が変化します。その変化の仕方が、挿入する物体が「誘電体」か「導体」かによって異なります。
- 理解のポイント:
- 誘電体の挿入 (2): 比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体で満たすと、電気容量は\(\varepsilon_r\)倍になります (\(C’ = \varepsilon_r C\))。誘電分極によって電界が弱められ、より多くの電荷を蓄えられるようになるためです。
- 導体(金属板)の挿入 (3): 厚さ\(t\)の導体を挿入すると、導体内部の電界が0になるため、実質的に極板間隔が\(d\)から\(d-t\)に狭まったのと同じ効果になります。電気容量は間隔に反比例するため、\(C” = \frac{d}{d-t}C\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電池に接続したまま物体を挿入する問題: この場合、保存されるのは「電気量」ではなく「電圧」です。\(V\)が一定なので、\(Q=CV\)の関係から、電気容量\(C\)の変化がそのまま電気量\(Q\)の変化に反映されます。
- 挿入する物体の厚さが極板間隔より狭い場合:
- 誘電体の場合: 厚さ\(t\)の誘電体を挿入すると、空気部分と誘電体部分の2つのコンデンサーが直列に接続されていると見なして合成容量を計算します。
- 導体の場合: (3)と同じ考え方で、極板間隔が\(d-t\)になったとして計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「電源から切り離し」の有無を確認: 問題文のこのキーワードを見逃さないことが最重要です。これにより、\(Q\)が保存されるのか、\(V\)が保存されるのかという、問題の根幹が決まります。
- 挿入された物体の材質を特定: それが「誘電体(絶縁体)」なのか「導体(金属)」なのかを判断します。これにより、電気容量の変化の計算方法が決まります。
- 変化の連鎖を追う: 「物体の挿入」→「電気容量\(C\)の変化」→「\(Q\)または\(V\)の保存則」→「求めたい物理量(\(V\)や\(Q\))の変化」という一連の因果関係を順に追って考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(Q\)保存と\(V\)保存の混同:
- 誤解: 電源から切り離されているのに、電圧が320Vのまま一定だと勘違いして計算を進めてしまう。
- 対策: 「充電後、電源を切り離し…」というフレーズを読んだ瞬間に、問題用紙の余白に「\(Q=\text{一定}\)」と大きくメモする習慣をつけましょう。これが思考のブレを防ぐ最も効果的な対策です。
- 金属板挿入時の電気容量の計算ミス:
- 誤解: (3)で、金属板を挿入した後の電気容量を、厚さの比を使って \(\frac{1}{4}C\) や \(\frac{3}{4}C\) などと誤って計算してしまう。
- 対策: 電気容量は極板間隔\(d\)に「反比例」することを強く意識します。間隔が\(\frac{3}{4}\)倍になるのだから、容量はその逆数の\(\frac{4}{3}\)倍になる、という関係を正確に適用することが重要です。
- (3)の別解における思考の混同:
- 誤解: 別解のアプローチで、「電界の強さ\(E\)は不変」という結論を、(2)の誘電体を挿入した場合にも適用しようとしてしまう。
- 対策: 「電界の強さ\(E\)が不変」なのは、孤立したコンデンサーの極板間に「導体」を挿入した場合の特別な性質です。誘電体を挿入すると、誘電分極によって元の電界が弱められるため、電界の強さは変化します(\(E’ = E/\varepsilon_r\))。導体と誘電体で、電界の振る舞いが根本的に異なることを区別して理解する必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気量保存則 (\(Q=\text{一定}\)):
- 選定理由: (2)と(3)の操作は、コンデンサーが回路から電気的に孤立した状態で行われます。このような状況を記述する最も基本的な法則が電気量保存則です。
- 適用根拠: 電源から切り離されたコンデンサーの極板は、電荷の逃げ場も供給源もありません。したがって、最初に蓄えられた電荷は、内部の状態がどのように変化しようとも、その総量は変わることができません。この不変量に着目することが、問題を解く突破口となります。
- 電気容量の変化の公式 (\(C’=\varepsilon_r C\) や \(C”=\frac{d}{d-t}C\)):
- 選定理由: 物体を挿入した後のコンデンサーの状態を定量的に記述するために必要です。
- 適用根拠:
- 誘電体: 誘電率\(\varepsilon\)は、物質がどれだけ電界を弱め、電荷を蓄えやすくするかを示す指標です。平行板コンデンサーの容量は \(C = \varepsilon \frac{S}{d}\) と表され、真空の誘電率\(\varepsilon_0\)との比 \(\varepsilon_r = \varepsilon/\varepsilon_0\) が比誘電率です。したがって、\(C’ = \varepsilon_r (\varepsilon_0 \frac{S}{d}) = \varepsilon_r C\) となります。
- 導体: 導体を挿入すると、実効的な間隔が\(d-t\)になるため、容量の公式は \(C” = \varepsilon_0 \frac{S}{d-t}\) となります。元の容量 \(C=\varepsilon_0 \frac{S}{d}\) と比較すると、\(C” = \frac{d}{d-t}C\) という関係が導かれます。
- 電圧と電界の関係 (\(V=Ed\)):
- 選定理由: (3)の別解で用いたこの方法は、電気容量という中間的な概念を介さずに、より直接的に電圧を求めるためのアプローチです。
- 適用根拠: 一様な電界\(E\)中での電位差(電圧)\(V\)は、電界の強さと距離\(d\)の積で定義されます。孤立したコンデンサーに導体を挿入した場合、極板の電荷密度が変わらないため電界の強さ\(E\)は不変ですが、電界が存在する空間の距離が\(d-t\)に減少します。したがって、新しい電圧は \(V” = E(d-t)\) と直接計算できるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一: (1)で \(1.0 \times 10^{-3} \mu\text{F}\) を計算に使う際、\(\mu\) を \(10^{-6}\) に直すのを忘れないようにします。\(1.0 \times 10^{-3} \times 10^{-6} = 1.0 \times 10^{-9} \text{ F}\) と、計算開始前にSI基本単位に変換する癖をつけることが重要です。
- 分数の計算: (3)で \(\frac{Q}{C”}\) を計算する際、\(C” = \frac{4}{3}C\) のように分数が分母に来ます。このような場合、慌てずに逆数を掛ける (\(\frac{Q}{\frac{4}{3}C} = Q \times \frac{3}{4C}\)) と、計算ミスを減らせます。
- 比の利用: (3)の別解のように、比の関係を利用すると計算が簡単になることが多いです。\(V” = \frac{3}{4}V\) のように、具体的な数値を代入する前に文字式で関係を導き出すと、見通しが良くなり、計算ミスも減ります。
331 コンデンサーの耐電圧
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーの接続と耐電圧」です。電気容量や耐電圧が異なるコンデンサーを接続した際に、回路全体として安全にかけられる電圧の最大値がいくらになるかを、並列接続と直列接続のそれぞれの性質に基づいて考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 耐電圧: コンデンサーが破壊されずに耐えられる電圧の限界値。これを超えると絶縁破壊が起こり、コンデンサーとして機能しなくなります。
- 並列接続の性質: 各コンデンサーにかかる電圧は等しくなります。(\(V_1 = V_2 = V_{\text{全体}}\))
- 直列接続の性質: 各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しくなります。(\(Q_1 = Q_2\))
- 電圧の分配: 直列接続では、各コンデンサーにかかる電圧は電気容量の逆比に分配されます。(\(V_1 : V_2 = C_2 : C_1\))
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 並列接続の場合: 各コンデンサーに同じ電圧がかかるため、耐電圧がより小さい方のコンデンサーが先に限界に達します。したがって、回路全体の耐電圧は、個々の耐電圧の最小値となります。
- 直列接続の場合: 電圧が分配されるため、どちらのコンデンサーが先に限界に達するかを慎重に判断する必要があります。電圧の分配比を計算し、一方のコンデンサーが耐電圧に達したとき、もう一方のコンデンサーの電圧がその耐電圧を超えていないかを確認します。
並列接続の場合
思考の道筋とポイント
2つのコンデンサーを並列に接続した場合に、全体にかけられる電圧の最大値を求めます。並列接続の最も重要な特徴は「各コンデンサーに同じ大きさの電圧がかかる」ことです。全体の電圧を徐々に上げていくと、\(C_1\)と\(C_2\)にかかる電圧も同じように上昇していきます。どちらかのコンデンサーが自身の耐電圧に達した時点で、それ以上電圧を上げることはできません。したがって、回路全体の限界は、耐電圧がより小さい方によって決まります。
この設問における重要なポイント
- 並列接続では、各コンデンサーにかかる電圧は等しい。(\(V_1 = V_2 = V_{\text{全体}}\))
- 回路全体の耐電圧は、各コンデンサーの耐電圧のうち、最も小さい値に制限される。
具体的な解説と立式
コンデンサー\(C_1\)の耐電圧は \(V_{1,\text{耐}} = 600 \, [\text{V}]\) です。
コンデンサー\(C_2\)の耐電圧は \(V_{2,\text{耐}} = 500 \, [\text{V}]\) です。
並列接続では、全体にかける電圧を\(V_{\text{全体}}\)とすると、\(C_1\)にかかる電圧\(V_1\)と\(C_2\)にかかる電圧\(V_2\)は、
$$ V_1 = V_2 = V_{\text{全体}} $$
となります。
もし、\(V_{\text{全体}}\)を500Vより大きくすると、\(V_2\)が\(C_2\)の耐電圧を超えてしまい、\(C_2\)は破壊されます。したがって、安全にかけられる電圧の最大値は、\(C_1\)と\(C_2\)の耐電圧のうち、小さい方の値となります。
$$ V_{\text{並列,最大}} = \min(V_{1,\text{耐}}, V_{2,\text{耐}}) $$
使用した物理公式
- 並列接続における電圧の関係
与えられた耐電圧の値を比較します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{並列,最大}} &= \min(600, 500) \\[2.0ex]&= 500 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
2つのコンデンサーを横に並べてつなぐと、両方に同じ電圧がかかります。片方は600Vまで、もう片方は500Vまで耐えられます。この状態で電圧を上げていくと、500Vになった時点で、耐電圧の低い方が限界に達してしまいます。そのため、全体としても500Vまでしかかけることができません。
並列接続の場合に全体にかけられる電圧の最大値は500Vです。これは、耐電圧の小さい\(C_2\)によって制限されるため、物理的に妥当な結論です。
直列接続の場合
思考の道筋とポイント
2つのコンデンサーを直列に接続した場合に、全体にかけられる電圧の最大値を求めます。直列接続では、電圧は各コンデンサーの電気容量の逆比に分配されます。そのため、単純に耐電圧の大小だけでは、どちらが先に壊れるかを判断できません。まず電圧の分配比を計算し、その比率を保ったまま全体の電圧を上げていったときに、どちらのコンデンサーが先に自身の耐電圧に達するかを特定することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 直列接続では、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しい。(\(Q_1=Q_2\))
- 電圧は電気容量の逆比に分配される。(\(V_1 : V_2 = C_2 : C_1\))
- どちらのコンデンサーが先に耐電圧に達するかを、分配比を考慮して判断する。
具体的な解説と立式
\(C_1, C_2\)にかかる電圧をそれぞれ\(V_1, V_2\)とします。直列接続では電気量が等しく、\(Q=CV\)の関係から電圧\(V\)は電気容量\(C\)に反比例します。
したがって、電圧の分配比は、
$$ V_1 : V_2 = \displaystyle\frac{1}{C_1} : \displaystyle\frac{1}{C_2} = C_2 : C_1 $$
次に、どちらのコンデンサーが先に耐電圧に達するかを調べます。
仮説1: \(C_1\)が先に耐電圧\(600 \, \text{V}\)に達した場合
このとき、\(V_1 = 600 \, [\text{V}]\)です。分配比から\(V_2\)を計算すると、
$$ V_2 = \displaystyle\frac{C_1}{C_2} V_1 $$
この\(V_2\)が\(C_2\)の耐電圧\(500 \, \text{V}\)以下であれば、この状態は実現可能です。
仮説2: \(C_2\)が先に耐電圧\(500 \, \text{V}\)に達した場合
このとき、\(V_2 = 500 \, [\text{V}]\)です。分配比から\(V_1\)を計算すると、
$$ V_1 = \displaystyle\frac{C_2}{C_1} V_2 $$
この\(V_1\)が\(C_1\)の耐電圧\(600 \, \text{V}\)以下でなければ、この状態は実現不可能です。
実現可能な限界状態での電圧の和が、全体にかけられる最大の電圧となります。
$$ V_{\text{直列,最大}} = V_1 + V_2 $$
使用した物理公式
- 直列接続における電圧分配則
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
まず、電圧の分配比を計算します。
\(C_1 = 2.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\), \(C_2 = 3.0 \times 10^{-6} \, [\text{F}]\) なので、
$$ V_1 : V_2 = C_2 : C_1 = (3.0 \times 10^{-6}) : (2.0 \times 10^{-6}) = 3 : 2 $$
次に、仮説を検証します。
仮説1の検証: \(V_1 = 600 \, [\text{V}]\) のとき、
$$ V_2 = \displaystyle\frac{2}{3} V_1 = \displaystyle\frac{2}{3} \times 600 = 400 \, [\text{V}] $$
この値は\(C_2\)の耐電圧500Vより小さいので、この状態は実現可能です。
仮説2の検証: \(V_2 = 500 \, [\text{V}]\) のとき、
$$ V_1 = \displaystyle\frac{3}{2} V_2 = \displaystyle\frac{3}{2} \times 500 = 750 \, [\text{V}] $$
この値は\(C_1\)の耐電圧600Vを超えてしまっているため、この状態になる前に\(C_1\)が破壊されます。よって、この状態は実現不可能です。
したがって、回路の限界は\(C_1\)が耐電圧600Vに達したときです。このときの全体の電圧は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{直列,最大}} &= V_1 + V_2 \\[2.0ex]&= 600 + 400 \\[2.0ex]&= 1000 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
2つのコンデンサーを縦につなぐと、電圧は不均等に分けられます。性能(電気容量)が低い\(C_1\)の方が多くの電圧を引き受け、その比率は3:2になります。この比率を保ったまま全体の電圧を上げていくと、より多くの電圧を引き受ける\(C_1\)が、先に自身の限界である600Vに達します。そのとき、\(C_2\)にかかっている電圧は400Vで、まだ限界(500V)には余裕があります。\(C_1\)が限界に達した時点で、それ以上電圧は上げられないので、このときの全体の電圧 \(600\text{V} + 400\text{V} = 1000\text{V}\) が最大値となります。
直列接続の場合に全体にかけられる電圧の最大値は1000Vです。電圧分配比が大きい\(C_1\)が先に耐電圧に達することで限界が決まるという結果は、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
電圧ではなく「電気量」を基準に考えるアプローチです。直列接続では各コンデンサーの電気量が等しくなるため、回路全体として蓄えられる電気量の限界は、各コンデンサーが個別に耐えられる最大電気量のうち「小さい方」によって決まります。この限界電気量から、全体の最大電圧を逆算します。
この設問における重要なポイント
- 各コンデンサーが耐えうる最大電気量 (\(Q_{\text{max}} = C \times V_{\text{耐}}\)) を計算する。
- 直列回路全体の限界電気量は、各コンデンサーの\(Q_{\text{max}}\)の最小値となる。
- 限界電気量から、そのときの各コンデンサーの電圧を計算し、合計する。
具体的な解説と立式
まず、各コンデンサーが耐えられる最大電気量 \(Q_{1,\text{max}}\), \(Q_{2,\text{max}}\) を計算します。
$$ Q_{1,\text{max}} = C_1 V_{1,\text{耐}} $$
$$ Q_{2,\text{max}} = C_2 V_{2,\text{耐}} $$
直列接続では電気量が共通なので、回路全体が耐えられる電気量の限界 \(Q_{\text{限界}}\) は、これらのうち小さい方になります。
$$ Q_{\text{限界}} = \min(Q_{1,\text{max}}, Q_{2,\text{max}}) $$
この限界電気量が蓄えられているとき、\(C_1, C_2\) にかかる電圧を \(V_1, V_2\) とすると、
$$ V_1 = \displaystyle\frac{Q_{\text{限界}}}{C_1}, \quad V_2 = \displaystyle\frac{Q_{\text{限界}}}{C_2} $$
全体の最大電圧はこれらの和になります。
$$ V_{\text{直列,最大}} = V_1 + V_2 $$
各コンデンサーの最大電気量を計算します。
$$ Q_{1,\text{max}} = (2.0 \times 10^{-6}) \times 600 = 1.2 \times 10^{-3} \, [\text{C}] $$
$$ Q_{2,\text{max}} = (3.0 \times 10^{-6}) \times 500 = 1.5 \times 10^{-3} \, [\text{C}] $$
回路の限界電気量は、小さい方の \(Q_{\text{限界}} = 1.2 \times 10^{-3} \, [\text{C}]\) です。
このとき、各コンデンサーの電圧は、
$$ V_1 = \displaystyle\frac{1.2 \times 10^{-3}}{2.0 \times 10^{-6}} = 600 \, [\text{V}] \quad (=V_{1,\text{耐}}) $$
$$ V_2 = \displaystyle\frac{1.2 \times 10^{-3}}{3.0 \times 10^{-6}} = 400 \, [\text{V}] $$
全体の最大電圧は、
$$ V_{\text{直列,最大}} = 600 + 400 = 1000 \, [\text{V}] $$
それぞれのコンデンサーが「どれだけの電気量を溜められるか」という器の大きさ(最大電気量)を計算します。\(C_1\)は1.2mC、\(C_2\)は1.5mCまで溜められます。これらを直列につなぐと、同じ量の電気が流れるので、小さい方の器である1.2mCが限界になります。回路全体に1.2mCの電気が流れているとき、各コンデンサーの電圧がどうなるかを計算し、それらを足し合わせることで全体の最大電圧が求まります。
最大電圧は1000Vとなり、メインの解法と一致しました。このアプローチは、どちらのコンデンサーが先に限界に達するかをより直接的に判断できるため、論理的に明快です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの接続方法と基本法則:
- 核心: 並列接続と直列接続、それぞれの物理的な性質を正確に理解していることが全ての基礎となります。
- 理解のポイント:
- 並列接続: 各コンデンサーにかかる電圧が等しい (\(V_1 = V_2\))。
- 直列接続: 各コンデンサーに蓄えられる電気量が等しい (\(Q_1 = Q_2\))。この結果、電圧は電気容量の逆比に分配される (\(V_1 : V_2 = C_2 : C_1\))。
- 「耐電圧」という制約条件:
- 核心: この問題は単なる回路計算ではなく、「耐電圧」という、各部品が持つ物理的な限界を考慮に入れる必要があります。回路全体の限界は、最も弱い部分(先に限界に達する部品)によって決まります。
- 理解のポイント:
- 並列接続では、電圧が共通なため、耐電圧が最も低いコンデンサーが回路全体の限界を決定します。
- 直列接続では、電圧が不均等に分配されるため、単純に耐電圧の大小だけでは判断できません。電圧の分配比と各々の耐電圧を組み合わせて、どちらが先に限界に達するかを慎重に評価する必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 3つ以上のコンデンサーの接続: 3つ以上のコンデンサーが直列に接続されている場合も、電圧の分配比は \(V_1:V_2:V_3 = \frac{1}{C_1}:\frac{1}{C_2}:\frac{1}{C_3}\) となります。この比率を使って、どのコンデンサーが最初に耐電圧に達するかを特定します。
- 直並列回路: 直列部分と並列部分が組み合わさった回路。各部分の性質を順に適用して、全体の耐電圧を求めます。例えば、並列部分の合成容量と耐電圧をまず求め、それを一つのコンデンサーと見なして、残りの部分と直列接続として考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 接続方法の確認: まず、回路が「並列」か「直列」か、あるいはその組み合わせかを正確に把握します。
- 限界を決めるのは誰か?:
- 並列の場合:耐電圧が一番小さいコンデンサーが限界を決めると即座に判断します。
- 直列の場合:「どちらが先に壊れるか?」という視点で考えます。そのためには、まず電圧の分配比 (\(V_1:V_2\)) を計算します。
- 限界状態のシミュレーション: 直列接続では、計算した分配比を元に、「もし\(C_1\)が耐電圧に達したら、\(C_2\)の電圧はいくつか?それは\(C_2\)の耐電圧を超えていないか?」という検証を行います。逆のパターン(\(C_2\)が先に達したら…)も同様に検証し、矛盾のない限界状態を見つけ出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 直列接続の耐電圧の誤解:
- 誤解: 直列接続の全体の耐電圧を、個々の耐電圧の和(600V + 500V = 1100V)や、小さい方の値(500V)と勘違いしてしまう。
- 対策: 直列接続では電圧が「分配」されることを強く意識します。単純な足し算や比較ではなく、必ず「分配比」を考慮に入れるという手順を徹底してください。全体の耐電圧は、限界状態における各電圧の和であり、個々の耐電圧の和とは一般に異なります。
- 限界に達するコンデンサーの判断ミス:
- 誤解: 直列接続で、耐電圧が低い\(C_2\)(500V)の方が、耐電圧が高い\(C_1\)(600V)より先に壊れるだろうと直感で判断してしまう。
- 対策: 直感に頼らず、必ず電圧の分配比を計算すること。この問題では、\(C_1\)の方が容量が小さいため、より多くの電圧(3/2倍)を引き受けます。そのため、耐電圧が600Vと高くても、500Vの\(C_2\)より先に限界に達します。この「容量が小さい方が多くの電圧を分担する」という性質を理解することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 並列接続の電圧則 (\(V_1=V_2=V_{\text{全体}}\)):
- 選定理由: 並列接続の定義そのものです。この法則により、回路全体にかかる電圧が、そのまま各コンデンサーにかかることがわかります。
- 適用根拠: 全体の電圧を\(V\)とすると、\(V_1=V\), \(V_2=V\) です。安全であるためには \(V_1 \le V_{1,\text{耐}}\) かつ \(V_2 \le V_{2,\text{耐}}\) が必要です。つまり \(V \le 600\) かつ \(V \le 500\) となります。この両方を満たす最大の\(V\)は500Vです。これが「耐電圧の小さい方で決まる」という結論の論理的根拠です。
- 直列接続の電圧分配則 (\(V_1:V_2 = C_2:C_1\)):
- 選定理由: 直列接続において、全体の電圧が各コンデンサーにどのように分配されるかを知るための必須の法則です。これにより、どちらが先に限界に達するかを定量的に判断できます。
- 適用根拠: この法則は、直列接続の基本である「電気量が等しい (\(Q_1=Q_2\))」から導かれます。\(Q_1=C_1V_1\), \(Q_2=C_2V_2\) なので、\(C_1V_1 = C_2V_2\) となります。この式を比の形に直すと \(V_1:V_2 = C_2:C_1\) が得られます。
- 最大電気量によるアプローチ(別解):
- 選定理由: 電圧ではなく「電気量」を基準に考えることで、問題を別の角度から解くことができます。
- 適用根拠: 直列接続では電気量が共通なので、回路全体として蓄えられる電気量の限界は、各コンデンサーが耐えられる最大電気量のうち「小さい方」によって決まります。
- 各コンデンサーが耐えられる最大電気量を計算する。
\(Q_{1,\text{max}} = C_1 V_{1,\text{耐}} = (2.0 \times 10^{-6}) \times 600 = 1.2 \times 10^{-3} \, \text{C}\)
\(Q_{2,\text{max}} = C_2 V_{2,\text{耐}} = (3.0 \times 10^{-6}) \times 500 = 1.5 \times 10^{-3} \, \text{C}\) - 回路全体の限界電気量は、このうち小さい方、つまり \(Q_{\text{限界}} = 1.2 \times 10^{-3} \, \text{C}\) となる。
- この限界電気量が蓄えられているときの各コンデンサーの電圧を計算し、合計する。
\(V_1 = V_{1,\text{耐}} = 600 \, \text{V}\)
\(V_2 = Q_{\text{限界}}/C_2 = (1.2 \times 10^{-3}) / (3.0 \times 10^{-6}) = 400 \, \text{V}\)
\(V_{\text{全体,max}} = V_1 + V_2 = 600 + 400 = 1000 \, \text{V}\)
この方法は、論理的に明快で、特にコンデンサーの数が多い場合に有効です。
- 各コンデンサーが耐えられる最大電気量を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の計算: \(V_1:V_2 = C_2:C_1\) のように、添字が逆転する関係を正確に扱うことが重要です。計算用紙に比を書き出す際に、どの値がどのコンデンサーに対応するのかを明確にしましょう。
- 仮説検証の徹底: 直列接続の場合、「\(C_1\)が先に限界に達すると仮定」「\(C_2\)が先に限界に達すると仮定」という2つのシナリオを、面倒くさがらずに両方とも検証する癖をつけましょう。片方の検証で矛盾が見つかれば(もう一方の耐電圧を超えてしまうなど)、もう片方が正しい限界状態であると確定できます。
- 単位の確認: この問題ではµFのまま比を計算できますが、電気量を計算する際には必ずFに直すなど、単位の一貫性を保つ意識が重要です。
332 極板間の引力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平行板コンデンサーの諸量と極板間引力」です。コンデンサーの基本的な物理量(電気容量、電位差、電界、静電エネルギー)を公式から導出し、さらに極板を動かした際のエネルギー変化と、それに関連する仕事や力の関係を考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 平行板コンデンサーの電気容量: 極板の面積\(S\)と間隔\(d\)で決まるコンデンサーの性能を表す公式 \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) が全ての出発点となります。
- コンデンサーの基本公式: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)を結びつける \(Q=CV\) と、それに関連する電界(\(E=V/d\))や静電エネルギー(\(U=\frac{1}{2}QV\))の公式を使いこなすことが求められます。
- 電気量保存則: (2)の操作は「\(Q\)が変わらないように」行われるため、コンデンサーが電気的に孤立している状況を考えます。このとき、蓄えられた電気量\(Q\)は一定に保たれます。
- 仕事とエネルギーの関係: (3)では、外力がした仕事が静電エネルギーの増加に等しいという、エネルギー保存則の考え方を用いて、極板間に働く力を求めます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず電気容量\(C\)を文字で表し、コンデンサーの基本公式を順に適用して\(V, E, U\)を導出します。
- (2)では、電気量\(Q\)が一定の条件の下で、極板間隔が\(d\)から\(d+\Delta d\)に変化したときの静電エネルギーを(1)の結果を利用して求め、その差分を計算します。
- (3)では、仕事の定義 \(W=F\Delta x\) と、(2)で求めたエネルギー変化が外力の仕事に等しいという関係から、力\(F\)を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
平行板コンデンサーに電荷\(Q\)が与えられたときの基本的な物理量である、電位差\(V\)、電界の強さ\(E\)、静電エネルギー\(U\)を求める問題です。これらの公式を暗記していなくても、最も基本的な「平行板コンデンサーの電気容量の公式」から出発し、\(Q=CV\), \(V=Ed\), \(U=\frac{1}{2}QV\) といった公式を順に適用していくことで、すべて導出することができます。
この設問における重要なポイント
- 平行板コンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
- コンデンサーの基本公式: \(Q=CV\)
- 一様な電界と電位差の関係: \(V=Ed\)
- 静電エネルギーの公式: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)
具体的な解説と立式
まず、面積\(S\)、極板間隔\(d\)の平行板コンデンサーの電気容量\(C\)を定義します。
$$ C = \varepsilon_0 \frac{S}{d} $$
電位差\(V\)は、\(Q=CV\)の関係を\(V\)について解くことで求められます。
$$ V = \frac{Q}{C} $$
電界の強さ\(E\)は、一様な電界中での電位差と電界の関係式 \(V=Ed\) を\(E\)について解くことで求められます。
$$ E = \frac{V}{d} $$
静電エネルギー\(U\)は、最も基本的な定義式である \(U=\frac{1}{2}QV\) を用いて求めます。
$$ U = \frac{1}{2}QV $$
使用した物理公式
- 平行板コンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
- 電気量、電気容量、電圧の関係: \(Q=CV\)
- 一様な電界と電位差の関係: \(V=Ed\)
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV\)
上記の式に、\(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) を代入して、各量を\(Q, d, S, \varepsilon_0\)で表します。
電位差 \(V\) の計算:
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{Q}{C} = \frac{Q}{\varepsilon_0 \frac{S}{d}} \\[2.0ex]&= \frac{Qd}{\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
電界の強さ \(E\) の計算:
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{V}{d} = \frac{1}{d} \left( \frac{Qd}{\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q}{\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
静電エネルギー \(U\) の計算:
$$
\begin{aligned}
U &= \frac{1}{2}QV = \frac{1}{2}Q \left( \frac{Qd}{\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
まず、このコンデンサーの性能(電気容量)を文字式で表します。次に、電圧は「電気量 ÷ 性能」、電界の強さは「電圧 ÷ 距離」、エネルギーは「1/2 × 電気量 × 電圧」という基本ルールに従って、求めた式を次々と代入していくことで、すべての量を計算できます。
電位差は \(V = \frac{Qd}{\varepsilon_0 S}\)、電界の強さは \(E = \frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)、静電エネルギーは \(U = \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}\) となります。これらの公式はコンデンサー分野の基本であり、相互の関係を理解しておくことが重要です。特に、孤立したコンデンサーでは\(Q\)が一定なので、電界\(E\)は極板間隔によらず一定であるという点は注目に値します。
問(2)
思考の道筋とポイント
極板間隔を\(\Delta d\)だけ増やしたときの静電エネルギーの変化\(\Delta U\)を求める問題です。問題文の「\(Q\)が変わらないように」という記述から、コンデンサーは電気的に孤立しており、電気量\(Q\)が保存されることがわかります。この条件の下で、(1)で求めた静電エネルギーの公式を利用して、距離が\(d+\Delta d\)になったときのエネルギー\(U’\)を計算し、その差 \(\Delta U = U’ – U\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 孤立したコンデンサーでは電気量\(Q\)が保存される。
- \(Q\)が一定の場合、静電エネルギーは極板間隔\(d\)に比例する (\(U \propto d\))。
具体的な解説と立式
(1)で求めた静電エネルギーの公式 \(U = \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}\) を用います。
極板間の距離が\(d+\Delta d\)になったときの静電エネルギーを\(U’\)とすると、この式の\(d\)を\(d+\Delta d\)に置き換えることで求められます。
$$ U’ = \frac{Q^2 (d+\Delta d)}{2\varepsilon_0 S} $$
エネルギーの変化量\(\Delta U\)は、変化後のエネルギーから変化前のエネルギーを引くことで計算できます。
$$ \Delta U = U’ – U $$
使用した物理公式
- 静電エネルギーの公式: \(U = \displaystyle\frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}\)
\(\Delta U = U’ – U\) の式に、具体的な表現を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{Q^2 (d+\Delta d)}{2\varepsilon_0 S} – \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S} \\[2.0ex]&= \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S} \left( (d+\Delta d) – d \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q^2 \Delta d}{2\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
(1)で求めたエネルギーの公式は、距離\(d\)に比例することがわかります。距離が\(\Delta d\)だけ増えたのですから、エネルギーもそれに比例して増加します。その増加量は、(1)の公式の\(d\)を\(\Delta d\)に置き換えるだけで簡単に計算できます。
静電エネルギーの変化は \(\Delta U = \frac{Q^2 \Delta d}{2\varepsilon_0 S}\) です。極板を引き離すには、極板間の引力に逆らって外力が仕事をする必要があります。その仕事の分だけエネルギーが増加するため、\(\Delta U\)が正の値になるのは物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
外力の大きさを求める問題です。「外力のする仕事が\(\Delta U\)に等しい」という、仕事とエネルギーの関係が与えられています。外力の大きさを\(F\)とすると、距離\(\Delta d\)だけゆっくり動かすのに要する仕事は \(W = F\Delta d\) と表せます。この仕事\(W\)が(2)で求めた\(\Delta U\)に等しいという関係式を立て、\(F\)について解きます。
この設問における重要なポイント
- 仕事とエネルギーの関係: \(W = \Delta E\)。
- 仕事の定義: \(W = F \Delta x\)。
- この外力\(F\)は、極板間に働く静電気的な引力とつりあっている。
具体的な解説と立式
外力の大きさを\(F\)とします。この力で極板を距離\(\Delta d\)だけゆっくりと動かすときの仕事\(W\)は、
$$ W = F \Delta d $$
問題の条件より、この仕事が静電エネルギーの変化\(\Delta U\)に等しいので、
$$ F \Delta d = \Delta U $$
この式を\(F\)について解くと、
$$ F = \frac{\Delta U}{\Delta d} $$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx\)
- 仕事とエネルギーの関係
この式に、(2)で求めた\(\Delta U = \frac{Q^2 \Delta d}{2\varepsilon_0 S}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{1}{\Delta d} \left( \frac{Q^2 \Delta d}{2\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
「仕事 = 力 × 動かした距離」という関係があります。また、問題文から「仕事 = エネルギーの変化量」であることがわかっています。この2つを組み合わせると、「力 × 動かした距離 = エネルギーの変化量」となります。したがって、「力 = エネルギーの変化量 ÷ 動かした距離」で計算することができます。
外力の大きさは \(F = \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) です。この力は、極板間に働く静電気的な引力とつりあう力です。したがって、この式は極板間引力の大きさを表す重要な公式でもあります。興味深いことに、この引力の大きさは極板間の距離\(d\)には依存しないことがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの基本物理量の相互関係:
- 核心: 平行板コンデンサーの最も基本的な性質である電気容量の公式 \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) を出発点として、他の物理量(\(Q, V, E, U\))を次々と導出できる、その一連の論理の流れを理解していることが重要です。
- 理解のポイント:
- \(C\)が分かれば、\(Q=CV\) から \(V = Q/C\) が求まる。
- \(V\)が分かれば、\(V=Ed\) から \(E = V/d\) が求まる。
- \(Q\)と\(V\)が分かれば、\(U = \frac{1}{2}QV\) が求まる。
この連鎖関係を自在に使いこなすことが、コンデンサーの問題を解く上での基本スキルとなります。
- 電気量保存則と仕事とエネルギーの関係:
- 核心: (2)以降の操作は、コンデンサーが電源から切り離された「孤立系」で行われます。このとき「電気量\(Q\)が保存される」という法則と、外力がした仕事が「静電エネルギーの変化に等しい」というエネルギー保存則が、問題を解くための2大原理となります。
- 理解のポイント:
- 電気量保存 (\(Q=\text{一定}\)): 孤立系では、極板間隔\(d\)を変えても\(Q\)は変化しません。そのため、(1)で求めたエネルギーの公式 \(U = \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}\) から、エネルギー\(U\)は間隔\(d\)に比例して変化することがわかります。
- 仕事とエネルギー (\(W=\Delta U\)): 外力が系にした仕事は、その系のエネルギーを増加させます。この問題では、外力が極板間の引力に逆らってした仕事が、そのまま静電エネルギーの増加分\(\Delta U\)になります。この関係を利用して、未知の力\(F\)を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電池に接続したまま極板を動かす問題: この場合、保存されるのは電気量\(Q\)ではなく電圧\(V\)です。\(V\)が一定なので、エネルギーは \(U = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}(\varepsilon_0 \frac{S}{d})V^2\) となり、間隔\(d\)に反比例して変化します。このとき、外力の仕事とエネルギー変化の関係は \(W_{\text{外力}} + W_{\text{電池}} = \Delta U\) となり、より複雑になります。
- 極板間引力を電界の考え方で求める問題: 極板Aが作る電界は \(E_A = \frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\) です(ガウスの法則より)。この電界から極板B上の電荷\(+Q\)が受ける力として \(F = Q \times E_A = \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) と計算します。この方法は、本問の(3)と同じ結果を与え、力の大きさが距離によらないことをより直接的に示します。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の状態を確認: まず、コンデンサーが「電源から孤立している(\(Q\)一定)」のか、「電源に接続されている(\(V\)一定)」のかを問題文から正確に読み取ります。これが最も重要な分岐点です。
- どの物理量で式を立てるか選択: \(Q\)が一定のときは、全ての量を\(Q\)を使って表すと見通しが良くなります(例: \(U = \frac{Q^2}{2C}\))。逆に\(V\)が一定のときは、\(V\)を使って表すと便利です(例: \(U = \frac{1}{2}CV^2\))。
- 仕事とエネルギーの関係を疑う: 力や仕事が問われた場合、系のエネルギーがどのように変化したかを計算し、\(W=\Delta U\) の関係からアプローチできないかを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(Q\)一定と\(V\)一定の混同:
- 誤解: (2)で極板間隔を広げたときに、(1)の電位差\(V\)が保たれると勘違いしてしまう。
- 対策: 問題文の「\(Q\)が変わらないようにして」や、物理的な状況(電源から切り離されている)から、「\(Q\)が一定」であることを最初に確定させ、用紙に大きくメモする習慣をつけましょう。
- 静電エネルギーの公式の選択ミス:
- 誤解: (2)のエネルギー変化を計算する際に、\(U=\frac{1}{2}CV^2\) を使おうとして計算が複雑になる。(\(C\)も\(V\)も\(d\)の関数であるため)
- 対策: 状況に応じて最適な公式を選択する訓練を積むことが重要です。この問題のように\(Q\)が一定のときは、\(Q\)と\(d\)だけで表される \(U = \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}\) を使うのが最も賢明です。これにより、エネルギーが\(d\)に単純に比例することが一目でわかります。
- 極板間引力の公式の誤解:
- 誤解: 極板Bが受ける力を、極板AとBが作る合成電界\(E\)を用いて \(F=QE\) と計算してしまう。
- 対策: 力は「自分以外のものが作る場から受ける」という原理を思い出してください。極板Bは、極板A「だけ」が作る電界 \(E/2\) から力を受けます。したがって、正しい力は \(F=Q(E/2)\) となります。この計算結果が、本問の(3)でエネルギーから導いた結果と一致することを確認すると、理解が深まります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 平行板コンデンサーの電気容量 (\(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\)):
- 選定理由: (1)で、与えられた情報(電荷\(Q\))と求めたい物理量(\(V, E, U\))を繋ぐための、最も基本的な関係式として使用しました。この公式がなければ、他の量は計算できません。
- 適用根拠: この公式は、平行板間に一様な電界ができるという理想的な状況を仮定し、ガウスの法則と電位の定義から導出される、平行板コンデンサーの構造と性能を結びつける根源的な式です。
- 静電エネルギーの公式 (\(U = \frac{Q^2 d}{2\varepsilon_0 S}\)):
- 選定理由: (2)でエネルギーの変化を計算する際に、この形を選択しました。なぜなら、この問題の条件下では\(Q, \varepsilon_0, S\)が全て定数であり、エネルギー\(U\)が変数である極板間隔\(d\)のみの単純な一次関数として表せるからです。これにより、変化量の計算が非常に容易になります。
- 適用根拠: この式は、\(U=\frac{Q^2}{2C}\) に \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) を代入して得られます。\(Q\)が一定という条件下で、エネルギーが\(C\)に反比例し、\(d\)に比例するという物理的性質を明確に示しています。
- 仕事とエネルギーの関係 (\(F\Delta d = \Delta U\)):
- 選定理由: (3)で、直接測定することが難しい「力」を、測定や計算が比較的容易な「エネルギー」から間接的に求めるために、この普遍的な原理を用いました。
- 適用根拠: 保存力(この場合は静電気力)に逆らって外力がした仕事は、その系のポテンシャルエネルギー(静電エネルギー)の増加分として蓄えられます。外力は極板間の引力とつりあっているので、\(F_{\text{外力}} = F_{\text{引力}}\)です。したがって、\(F_{\text{引力}}\Delta d = \Delta U\) という関係が成り立ち、ここから引力の大きさを求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: この問題はすべて文字式での計算です。分数の計算、特に分母に分数が来る場合(例: \(V=Q/C\))は、慎重に逆数をとって整理しましょう。
- 差分の計算: (2)で\(\Delta U = U’ – U\)を計算する際、共通因数(\(\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\))で括りだすことで、計算が \((d+\Delta d) – d = \Delta d\) と非常にシンプルになります。闇雲に展開するのではなく、式全体を眺めて共通部分を見つける癖をつけましょう。
- 微小変化量の扱い: \(\Delta d\) や \(\Delta U\) といった微小変化量を扱う際は、それらが最終的にどのような物理量に対応するかを意識することが重要です。(3)では、\(\Delta U\) を \(\Delta d\) で割ることで、次元的にも(エネルギー/距離 = 力)、物理的意味からも、力が求まることが確認できます。
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