「参考書は5冊やりました。塾にも通いました。YouTubeも見ました。それでも物理の点が上がらないんです。もう、何をすればいいのか分かりません」
高3の生徒から、こういう相談を受けることがあります。
話を聞くと、サボっていた人はほとんどいません。むしろ、人一倍がんばってきた人ばかりです。それなのに結果が出ない。だから、心が折れかけている。
はじめに、いちばん大事なことをお伝えします。がんばっても伸びない状態が続いて「もう無理だ」と感じるのは、あなたが弱いからではありません。人の心は、努力と結果がつながらない経験をくり返すと、そう感じるようにできているのです。そして、その状態から抜け出す道すじも、研究で分かってきています。
💡 この記事は「全部試したのに伸びない」と感じている高3のための記事です。新しい参考書は紹介しません。かわりに、①折れかけた気持ちを立て直す考え方 ②1問の解き方の変え方 ③最初の1週間の過ごし方 を、心理学と物理教育の研究、そして指導歴14年の現場での観察をもとにお伝えします。
なぜ「全部試した」のに伸びないのか
「やっても無駄」は、心が学んでしまった反応
心理学には「学習性無力感」という言葉があります。もとは動物の実験から見つかったもので、何をしても結果が変わらない経験が続くと、やがて「やっても無駄だ」と学んでしまい、動けなくなるという現象です(Overmier & Seligman, 1967)。のちに人間の研究へ広げられ、「結果が出なかった原因を自分でどう説明するか」によって、無力感の強さが変わることが示されました(Abramson ら, 1978)。
この状態は、めずらしいものではありません。韓国の中高生約2,600人を中1から高2まで追いかけた調査では、学年が上がるにつれて、学習性無力感が平均して強まっていくことが報告されています(Chang & Won, 2026)。勉強がむずかしくなり、テストの回数が増えるほど、「やってもできない」経験は積み重なりやすいのです。
つまり、いまのあなたの「もう無理だ」は、才能の証明ではなく、努力と結果のつながりが見えない期間が長く続いたことへの、自然な反応です。
参考書を変えても、解き方が同じなら結果も同じ
もう1つ、大事な事実があります。参考書を5冊やっても伸びなかったのは、参考書が悪かったからではない可能性が高い、ということです。
物理の初心者と熟達者(物理を専門にしている人)の解き方をくらべた研究があります。初心者は、問題を「斜面の問題」「ばねの問題」のように見た目で分類しがちでした。一方、熟達者は「エネルギーが保存される問題」のように、使う法則で分類していました(Chi ら, 1981。人数は8人ずつの小さな研究です)。また別の研究では、初心者は「求めたい量が入っている公式」を探すところから始めがちで、熟達者は分かっている量から順に組み立てていく傾向が見られました(Larkin ら, 1980)。
見た目で問題を分け、公式を探す解き方のままなら、参考書を何冊変えても、同じところでつまずきます。変えるべきだったのは教材ではなく、1問への向き合い方だったのです。
この記事を読み終えると、こうなります
読了後の到達点
まず最初にやること ―― 原因の置き場所を変える
最初にやるのは、勉強ではありません。「なぜ伸びなかったのか」という説明を、言い直すことです。
心理学者のワイナーは、人が成功や失敗の原因をどう説明するかを整理しました。その中でとくに大事なのが、その原因を自分で変えられるかどうかという見方です(Weiner, 1985)。「才能がない」は、自分では変えられない原因です。だから次もきっと同じだと思えて、やる気がなくなります。「やり方が合っていなかった」は、自分で変えられる原因です。だから、次は変わるかもしれないと思えます。
この「言い直し」は、気休めではありません。原因の説明を「変えられるもの」へ向け直す練習(原因帰属の再訓練)を、大学のオンライン授業で試した研究があります。ふだん物事を深く考え込むのが苦手な学生たちのあいだで、この練習を受けた学生の最終成績は平均約77点、比べる相手としてストレスを減らす練習を受けた学生は約73点でした(Hamm ら, 2017)。また、やる気に働きかける方法を調べた74本の研究をまとめた分析でも、こうした働きかけは平均して学業に中くらいの効果があると報告されています(Lazowski & Hulleman, 2016)。
言い直しの例
◯「公式を探す解き方のままで、図や条件を整理する手順を使っていなかった」
◯「教材は変えたけれど、1問への向き合い方は変えていなかった」
◯「まだ、今日の1問の解き方を変えていないだけ」
紙に、いまの気持ちを1行書いてください。そして、その下に「やり方」の言葉で言い直した1行を書きます。これが、最初の1日目にやることです。
次にやること ―― 1問を「手順どおり」に解く
原因を「やり方」に置いたら、次はそのやり方を実際に変えます。量は1日に1問からで十分です。大事なのは、問題の数ではなく1問を解く手順です。
問題を解く前に「図を描き、分かっていることを書き出し、使う法則を決める」という手順を学生にさせた実験があります。手順を1段ずつ読み上げて従ってもらった学生は、3問中の最終的な正解が平均2.75問、とくに指示をしなかった学生は平均0.63問でした(Heller & Reif, 1984)。これは手順に従ってもらった直後の結果で、身につけたあとの成績ではありません。それでも、手順そのものに力があることを示しています。また、図を描く習慣をつける授業を受けた学生は図を描く回数が多く、図を描く学生ほど点数が高い傾向も報告されています(Mason & Singh, 2010)。
具体的には、次の4つの手順です。例として「高さ\(h\)から静かに落とした物体の、地面に着く直前の速さ\(v\)を求める」問題で見てみましょう(空気抵抗は考えません)。
手順1: 図を描く
問題文を読んだら、まず図を描きます。上手な絵でなくてかまいません。物体の位置と、高さ\(h\)がどこからどこまでかが分かれば十分です。
手順2: 分かっている量と、求める量を書き出す
図の横に、分かっている量(高さ\(h\)、最初の速さは\(0\))と、求める量(速さ\(v\))を書き出します。ここで「何が分かっていて、何が分からないのか」がはっきりします。
手順3: 使う法則を選んでから、式を立てる
次に、どの法則を使うかを言葉で決めます。空気抵抗を考えないので、物体に仕事をする力は重力だけです。だから「力学的エネルギー保存」が使えます。法則が決まってから、はじめて式を立てます。地面を高さの基準(位置エネルギー\(0\))にとると、落ちはじめの位置エネルギーが、地面の直前ですべて運動エネルギーに変わるので、
$$\begin{aligned}
mgh &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}$$
となります。「公式を探す」のではなく、「法則を選んでから式を作る」。この順番が、熟達者の解き方に近づく第一歩です。
手順4: 答えを確かめる
最後に、出てきた答えを2つの方法で確かめます。1つめは単位です。\(g\)の単位は\(\text{m}/\text{s}^2\)、\(h\)の単位は\(\text{m}\)で、\(2\)は単位を持たない数なので、答えの\(\sqrt{2gh}\)の単位は\(\text{m}/\text{s}\)。ちゃんと速さの単位になっています。2つめは極端な場合です。\(h=0\)、つまり高さがなければ、\(v=0\)になるはずです。式に入れると、たしかに\(v=0\)になります。
大学に入ったばかりの学生を調べた研究では、単位で答えを確かめる学生は多かった一方で、極端な場合を考えて確かめる学生は少なかったと報告されています(Burkholder ら, 2020)。この2つめの確かめ方を身につけるだけで、ほかの人と差がつきます。
そのあとにやること ―― 「できた」を小さく積み上げる
3つめは、目標の立て方と記録のつけ方です。
算数が苦手な小学生40人を対象にした実験で、「1回ごとに、このページまでやる」という近い小さな目標を立てた子どもたちは、遠い大きな目標だけを立てた子どもたちよりも、「自分はできる」という感覚(自己効力感)も、実際の力も、算数への興味も高まりました(Bandura & Schunk, 1981)。対象は小学生ですが、「遠い目標より、近い小さな目標」という考え方は、絶望しかけているときこそ役に立ちます。
さらに、多くの研究をまとめた分析では、成績(できた経験)が自信を育てる向きの関係がはっきり見られ、子どもを対象にした研究では、この向きだけが確認されています(Talsma ら, 2018)。自信がついてからやるのではなく、小さく「できた」を重ねるうちに、自信があとからついてくるのです。
だから、記録するのは「何時間やったか」ではありません。「今日、手順どおりに解けた1問」です。ノートの1ページを「できた記録」専用にして、解けた問題の番号と、自分で気づいた点を1行ずつ書いていきます。
最初の1週間の過ごし方
ここまでの3つを、1週間の予定に落とします。新しい参考書は買いません。いま手元にある問題集を1冊だけ使います。
| 日 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1日目 | いまの気持ちを1行書き、「やり方」の言葉で言い直す。使う問題集を1冊に決める | 15分 |
| 2日目 | 基本問題を1問、4つの手順どおりに解く。「できた記録」に1行書く | 1問 |
| 3日目 | 同じ単元の基本問題を2問。手順2(書き出し)を省かない | 2問 |
| 4日目 | 2問。答えが出たら、単位と極端な場合の2つで確かめる | 2問 |
| 5日目 | 3問。解く前に「この問題はどの法則か」を言葉で言ってから式を立てる | 3問 |
| 6日目 | 2〜5日目に解いた問題を、答えを見ずにもう一度解く | 解き直し |
| 7日目 | 「できた記録」を読み返し、1週間で何問できたかを数える。次の1週間の単元を決める | 15分 |
1日に解く数は、わざと少なくしてあります。いまのあなたに必要なのは、量で自分を追い込むことではなく、「手順どおりにやれば解ける」という経験を、毎日確実に1つ増やすことだからです。物足りなく感じたら、それは回復しはじめているサインです。2週目から数を増やしてかまいません。
なぜ「原因の置き場所」から始めるのか ―― ドクター・メソッドの考え方
物理が「伸びない」のは、風邪でいう「熱が出ている」状態です。熱だけを下げようとして、薬(参考書)を次々に変えても、原因が残っていればまた熱は出ます。当方は、点数(症状)ではなく、その奥にある解き方のクセと、結果の受け止め方(根)を診ます。これを「ドクター・メソッド」と呼んでいます。
「全部試したのに伸びない」を、根本から診る
まこと先生(共田 誠)
物理専門オンライン家庭教師 / 指導歴14年・のべ2000人
YouTube物理クイズチャンネル運営
「全部やったのに伸びない」と相談に来た生徒は、14年間で何人もいました。共通していたのは、才能の差ではなく、問題を見た目で分けて公式を探す解き方と、「伸びないのは自分がダメだから」という受け止め方でした。原因の置き場所を変え、1問の解き方を変えた生徒は、点数より先に表情が変わっていきました。症状(点数)ではなく、その奥のクセを診て、一人ひとりに合った処方箋を出す ―― それが私のドクター・メソッドです。
自分の「つまずき方のタイプ」を知りたい人へ
この記事は、折れかけた気持ちを立て直し、最初の1週間を動かすための記事です。物理でのつまずき方には、いくつかのタイプがあります。「自分はどのタイプなのか、はっきり知りたい」と思ったら、次の記事で診断できます。
合わせて読みたい記事・次の一歩
Dr.まことの物理カルテ(無料診断)
→ 単元ごとに、どこでつまずいているかを確かめたい人へ
勉強が続かない時の2つのモチベーション
→ 1週間の予定が3日で止まりそうな人へ
勉強法の地図
→ 今の自分の状態から、次に読む記事を選べる地図です
月額会員(高校物理の全範囲の授業動画)
→ 手順どおりに解く練習の前に、単元の考え方を動画で確かめたい人へ(料金と最新の条件はリンク先でご確認ください)
📝 本記事について
本記事の「最初の1週間」の進め方は、当方が指導歴14年・のべ2000人の高校生を指導してきた現場の観察と、下の研究をもとに組み立てたものです。1日の問題数や日数は目安です。紹介した研究は、対象(小学生・大学生・海外の中高生など)や条件がそれぞれ異なり、高校3年生の物理で同じ数値が出ることを示すものではありません。
参考にした研究
Overmier, J. B., & Seligman, M. E. P. (1967). Journal of Comparative and Physiological Psychology, 63(1), 28-33.
Abramson, L. Y., Seligman, M. E. P., & Teasdale, J. D. (1978). Journal of Abnormal Psychology, 87(1), 49-74.
Chang, Y., & Won, S. (2026). Journal of Research on Adolescence, 36(1), e70160.
Chi, M. T. H., Feltovich, P. J., & Glaser, R. (1981). Cognitive Science, 5(2), 121-152.
Larkin, J. H., McDermott, J., Simon, D. P., & Simon, H. A. (1980). Science, 208(4450), 1335-1342.
Weiner, B. (1985). Psychological Review, 92(4), 548-573.
Hamm, J. M., Perry, R. P., Chipperfield, J. G., Murayama, K., & Weiner, B. (2017). Motivation and Emotion, 41(5), 600-616.
Lazowski, R. A., & Hulleman, C. S. (2016). Review of Educational Research, 86(2), 602-640.
Heller, J. I., & Reif, F. (1984). Cognition and Instruction, 1(2), 177-216.
Mason, A., & Singh, C. (2010). American Journal of Physics, 78(7), 748-754.
Burkholder, E., Blackmon, L., & Wieman, C. (2020). Physical Review Physics Education Research, 16, 020134.
Bandura, A., & Schunk, D. H. (1981). Journal of Personality and Social Psychology, 41(3), 586-598.
Talsma, K., Schüz, B., Schwarzer, R., & Norris, K. (2018). Learning and Individual Differences, 61, 136-150.
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