模試が返ってくる。間違えた問題の解説を開く。一行ずつ読んでいくと「なるほど」「あ、そうか」と思える。
数日後、同じ問題をもう一度解いてみる。なぜか、手が止まる。
「解説は読んだ。理解したはずなのに、なぜ解けないんだ?」「そもそも、自分は何が分かっていないんだ?」――この“分からないことが、何なのか分からない”という、つかみどころのないもやもや。これを抱えているのは、君だけではありません。そして――これは理解力の問題ではなく、未理解が”言葉になっていない”から見えていないという、認知の構造的な問題です。
「分かった気がする」と「本当に分かっている」は、別の状態です。そして本番で必要なのは、後者です。この記事では、その境目にある”もやもや”に名前をつけ、今日の解き直し1問から消していく技術を扱います。
→ 模試の解説を読むと「なるほど」と思えるのに、解き直すと手が止まる。自分が何を分かっていないのか、その正体が見えない状態
→ 「分からない」を4タイプに切り分け、1分間の自己説明で理解の穴を自分で見つける技術が手元にある。今日の解き直しから即実装できる
→ 読了10分 / 今日間違えた1問を、解説を見ずに1分間声に出して説明してみる
- なぜ “解説を読んでも分からないことが分からない” のか――未理解が言葉になっていないという正体
- 君の「分からない」を切り分ける4タイプ分類――言葉・式・方針・イメージのどこで詰まっているか
- 今日から使える3ステップ――1分自己説明 × 解説への「?」付け × 1分メモ書きで未理解を見える化する
まず一つ、試してほしいことがあります。今日間違えた問題を一つ思い浮かべて、解説を閉じたまま、その問題を1分間、知らない人に向かって声に出して説明できるでしょうか。「説明できる気がする」と「本当に説明できる」の間には、はっきりした壁があります。その壁の正体を、次から診断していきましょう。
まず、君の「分からない」に名前をつけよう
最初に、少しだけ意外な事実をお伝えします。
ある研究で、物理の問題を解いている生徒たちの様子を細かく観察したものがあります。そこで分かったのは――成績が伸び悩んでいる生徒ほど、「ここは理解できた」「全部はっきりした」と口にする回数が多いという事実でした。実際にはまだ解けないのに、です。逆に、よくできる生徒は「ここはまだ分からない」「なぜこうなるんだろう」と、未理解を口に出す回数のほうが多かったのです。
これは「分かった気の錯覚」と呼ばれる現象です。情報がスムーズに読めると、脳はそれを「理解した」と早合点してしまう。解説が分かりやすく書かれているほど、この錯覚は起きやすい。つまり、”分からないことが分からない”のは、君の頭が悪いからではなく、脳がもともと持っているクセなのです。
だからこそ、最初にやるべきは「もっと頑張って理解する」ことではありません。自分の”分からない”がどこにあるのかを、外に出して見えるようにすること。そのための最初の道具が、次のセルフチェックです。
セルフチェック ― 君のもやもやの居場所を探す5項目
チェックがついた項目があっても、落ち込む必要はありません。むしろ逆です。チェックがついた場所こそ、君の”分からない”の居場所。今までぼんやりしていたものが、少し輪郭を持ち始めた証拠です。
「分からない」は4タイプに分けられる
物理の「分からない」は、実は大きく4つのタイプに切り分けられます。下の表で、自分のもやもやがどれに近いかを探してみてください。タイプが分かれば、それぞれに効く”言語化の問い”があります。
| タイプ | 詰まりの正体 | 自分への”言語化の問い” |
|---|---|---|
| Type 1 言葉の壁 |
用語の意味を、自分の言葉で言えない(教科書の言い回ししか出てこない) | 「この言葉、教科書を見ずに小学生に説明できる?」 |
| Type 2 式の飛躍 |
解説の式から次の式へ、なぜ進めるのか説明できない | 「この式から次の式へ、なぜ進める?どの条件を使った?」 |
| Type 3 方針の壁 |
なぜその解き方を最初に選ぶのか、理由が言えない | 「なぜ最初にこの方針?他のやり方ではダメな理由は?」 |
| Type 4 イメージの壁 |
問題の状況や現象が、頭に絵として浮かばない | 「この状況を、図や身近な例で説明できる?」 |
なぜ “読んでも分からない” のか ― 受け身の読みは穴を残す
ここで、根本の仕組みに触れておきます。なぜ解説を読むだけでは、”分からない”が消えないのでしょうか。
ある研究で、同じ教材を使って2つのグループを比べた実験があります。一方は解説をただ2回読むグループ。もう一方は解説を読みながら、自分に向かって声に出して説明するグループです。後でテストすると――2回読んだグループの伸びは約12%。説明しながら読んだグループの伸びは約23%。“説明しながら”のほうが、伸びはおよそ倍でした。
差を生んだのは、頭の使い方です。ただ読むのは受け身。文字を目で追っているうちに「分かった気」になり、抜けている部分はそのまま素通りしてしまう。一方、自分で説明しようとすると、言葉にできない箇所で必ず詰まる。その「詰まり」こそが、未理解の在りかを教えてくれる信号なのです。読むだけでは、この信号が一度も鳴りません。
物理ならではの落とし穴 ― 「式の飛躍」と「暗黙の前提」
物理の解説には、特有の難しさがあります。それは“書かれていない前提”が多いこと。
例えば「3本の糸でつるされた結び目」を扱う問題で、解説はいきなり「結び目にはたらく力の和はゼロ」と書き始めます。でも――なぜ結び目を一つの”物体”として扱っていいのか、なぜ力の和がゼロなのかは、たいてい書かれていません。解説を書く人にとっては当たり前すぎて、省略されているのです。
読み手がここを「なるほど」と流すと、表向きは理解したように見えて、実は一番大事な”つなぎ目”が穴のまま残ります。これが「式の飛躍」(Type 2)や「方針の壁」(Type 3)の正体です。実際、解説への依存が強い生徒ほど、1つの問題の解説を平均6〜7回も見返し、目的のないまま何行も読み返していた、という観察もあります。回数を重ねても、”自分に説明する”動作がないと、穴は埋まらないのです。
「分からない=ダメ」ではありません。「分からないを見つけられた=前進」です。本番までに穴を見つけて埋められれば勝ち。怖いのは、穴があるのに見えていないまま本番を迎えることのほうです。詰まりは、敵ではなく地図の印です。
処方箋 ― 「分からない」を3つの動作で見える化する
ここからは具体策です。次の3ステップは、「もっと深く理解しよう」という抽象的な精神論ではありません。頭の中の未理解を、物理的に外へ取り出して見える化するための、手を動かす手順です。今日の解き直し1問から実装できます。
STEP 1: 1分間、自分に説明する
何をするか: 間違えた1問について、解説を閉じて、1分間、声に出して説明する。
- 解説を一度読んだら、ノートも解説も閉じる
- タイマーを1分セット
- その問題を「友達に教えるつもり」で声に出す(なぜこの方針か → どの式を使うか → なぜその式か)
- 詰まった瞬間が、君の”分からない”の在りか。そこを4タイプのどれかでメモする
声に出すのがポイントです。頭の中だけだと、詰まっても「まあ分かってる」とごまかせてしまう。口に出すと、ごまかしが効かない。言葉が止まった瞬間が、はっきり分かります。
STEP 2: 解説の各行に「?」を付ける
何をするか: 詰まった問題の解説に戻り、一行ごとに「?」を付けられるかチェックする。
ただ読むのではなく、各行に対して2つの問いを投げます。「この行は、どんな条件のときに使える?」「この行は、何のためにある?」。この2つにすぐ答えられない行があれば、そこに赤で「?」を書き込む。「?」が付いた行こそ、君が次に潰すべき1点です。
全部の行に「?」を付ける必要はありません。スラスラ答えられる行は飛ばしてよい。「?」が付くのは、たいてい1問につき1〜2行だけ。その1〜2行を集中的に埋めれば、その問題の”分からない”は消えます。
STEP 3: 1分間、紙に書き出す(0秒思考メモ)
何をするか: 「?」が残った箇所について、頭に浮かぶことを1分間、紙に殴り書きする。きれいに書く必要はありません。
例えば「なぜ斜面で力を分解するのか分からない」なら、紙の一番上にその問いを書いて、下に思いつくまま書く。「重力はまっすぐ下を向いている」「でも物体は斜面に沿って動く」「だから斜面の向きに合わせて分けたい」……と。書くことで、頭の中のもやもやが目の前に並び、抜けている部分が見えてきます。これは”頭の中だけで考える”のをやめて、思考を外に出す作業です。
頭の中だけで考えると、同じところをぐるぐる回ってしまう。紙に出すと、考えが一本道に並び、どこで切れているかが見える。1分で十分です。むしろ1分だからこそ、毎日続けられます。
今日間違えた1問だけでいい。解説を閉じて、1分間、声に出して説明してみる。詰まったら、それが「言葉・式・方針・イメージ」のどれかをメモする。たった1問・3分で、君の”分からない”は1つ、名前を持ちます。
この「自分に問いかけながら学ぶ」やり方には、しっかりした裏づけがあります。学んだ内容に対して「これはどういう意味か」「これとあれはどう関係するか」と自分に問いを立てながら勉強した生徒は、ただ復習した生徒より、後のテストの成績がはっきり高かったという研究があります。自分への問いは、理解を一段深く掘る道具なのです。
なお、「書く」ことには、もう一つ別の効果も報告されています。高校生に近い年代を対象にした実験で、テスト本番の前に10分間、不安に感じていることを紙に書き出した生徒は、成績が平均で一段階分ほど上がったという結果があります。頭の中を一度紙に下ろすと、考えるための余白が生まれるためだと考えられています。ただしこれは万能薬ではなく、効果には個人差もあります。あくまで本筋(未理解の見える化)を支える補助として、「もやもやしたら、まず紙に出す」を覚えておいてください。
実践 ― 斜面の問題で「分からない」を1つ潰す
抽象論で終わらせないために、定番の「斜面上の物体」を例に、3ステップの前後を並べてみます。
斜面の上に物体が置かれている。解説は「重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する」と進み、垂直抗力 \(N\) は斜面に垂直な重力成分 \(mg\cos\theta\) とつり合い、斜面に沿った成分 \(mg\sin\theta\) が物体を滑らせる、と書きます。ここで多くの人が、“なぜ重力をこの2方向に分けるのか”という暗黙の前提を素通りします。Type 3(方針の壁)と Type 4(イメージの壁)が同時に潜む場所です。
| 場面 | Before(読むだけ) | After(説明してから) |
|---|---|---|
| 解説を読んだ後 | 「力を分解するのね、なるほど」で次へ | 閉じて1分「なぜこの2方向に分ける?」と声に出す |
| 詰まりの発見 | 詰まらない(読めてしまうから) | 「なぜ斜面に沿った向きで分けるか言えない」と判明 |
| 穴の名前づけ | なし(もやもやのまま) | Type 3 方針の壁+Type 4 イメージの壁、と特定 |
| 埋め方 | 解説をもう一度読み返す(穴は残る) | 「物体が動く向きに合わせて分けたい」と1分メモで腹落ち |
| 模試本番 | 「なぜか手が止まる」 | 「動く向きで分ける」と自分の言葉で再現できる |
違いは、解説の読み込み量ではありません。“自分で説明する”動作を1つ挟んだかどうか。それだけで、もやもやは「Type 3+Type 4」という名前を持ち、埋めるべき1点がはっきりします。名前のついた”分からない”は、もう怖くありません。
“分からない”は、消すのではなく、まず名前をつける。名前がつけば、それは今日つぶせる1点に変わる。
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