基本問題
228 水平ばね振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が単振動の公式 \(v=A\omega\) を用いるのに対し、別解では点Pと点Oにおける力学的エネルギーが保存されることを利用して速さを求めます。
- 設問(3)の別解: 運動方程式から直接求める解法
- 模範解答が単振動の加速度の公式 \(a=-\omega^2 x\) を用いるのに対し、別解では点Qで物体に働く力を考え、運動方程式 \(ma=F\) を直接立てて加速度を求めます。
- 設問(4)の別解: 単振動の変位の式を用いる解法
- 模範解答が周期の \(1/4\) という性質を用いるのに対し、別解では単振動の変位を時間の関数 \(x(t)\) として表し、数学的に時間を計算します。
- 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 単振動の各種公式が、より基本的な運動方程式やエネルギー保存則から導かれるものであることを理解できます。
- 数学的側面の理解: 単振動が三角関数で記述される現象であることを具体的に体験し、物理と数学のつながりを深めることができます。
- 解法の選択肢拡大: 問題に応じて、公式を直接使う方法、エネルギーに着目する方法、運動方程式に立ち返る方法など、複数のアプローチを使い分ける能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「水平ばね振り子における単振動の解析」です。ばねにつながれた物体の単振動について、力、速さ、加速度、周期といった基本的な物理量を正しく理解し、計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フックの法則: ばねの弾性力は、自然長からの伸びや縮みに比例すること (\(F=kx\))。単振動における復元力を与えます。
- 単振動の基本関係式: 角振動数 \(\omega\)、周期 \(T\)、振動数 \(f\) の関係 (\(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\), \(T = \frac{2\pi}{\omega}\), \(f=\frac{1}{T}\)) を理解していること。
- 単振動における位置、速度、加速度: 振動の中心(つり合いの位置)と端(折り返し点)で、変位、速度、加速度がどのようになるかを把握していること。特に、中心で速さ最大・加速度ゼロ、端で速さゼロ・加速度の大きさが最大となる点を理解することが重要です。
- 力学的エネルギー保存則: なめらかな水平面上での運動なので、ばねの弾性エネルギーと物体の運動エネルギーの和(力学的エネルギー)が保存されること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2), (3)では、単振動の基本的な性質と公式を適用します。物体の位置に応じて、働く力(復元力)、速さ、加速度を計算します。
- (4)では、単振動の周期性を利用します。振動の端から中心までの移動時間は、周期の \(1/4\) であることを用いて計算します。
- (5)では、物体に働く力が変化した後の運動を考えます。力が働かなくなった物体がどのようになるかは、慣性の法則からわかります。
問(1)
思考の道筋とポイント
点Pで手をはなした瞬間、物体は静止しています。このとき物体に働く水平方向の力は、ばねが縮んでいることによる弾性力のみです。フックの法則を用いてこの力の大きさを計算します。
この設問における重要なポイント
- ばねの弾性力は、自然長からの変位(伸びまたは縮み)の大きさに比例する。
- 力の大きさは \(F=kx\) で与えられる。ここで \(x\) は自然長からの距離。
- 点Pは自然長(点O)から距離 \(A\) だけ縮んだ位置にある。
具体的な解説と立式
ばねは自然長の位置Oから距離 \(A\) だけ縮んでいます。フックの法則によれば、ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばね定数 \(k\) と縮みの大きさ \(x\) を用いて次のように表されます。
$$ F = kx $$
この問題では、縮みの大きさが \(x=A\) なので、物体に働く水平方向の力の大きさは、
$$ F = kA $$
となります。この力はばねが元に戻ろうとする向き、すなわち右向きに働きます。
使用した物理公式
- フックの法則: \(F = kx\)
この設問では、与えられた文字を使って大きさを表すだけなので、具体的な数値計算はありません。
ばねを \(A\) という長さだけギュッと縮めて、その先端に物体を置いている状態です。手を離した瞬間に、ばねが「元に戻りたい!」と物体を押す力はどれくらいですか?という問題です。ばねの力は、縮めた長さに比例するので、単純に「ばねの硬さ(\(k\)) × 縮めた長さ(\(A\))」で計算できます。
点Pで物体に働く水平方向の力の大きさは \(kA\) です。この力が復元力となって、物体は単振動を開始します。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体は点Oを中心として単振動します。単振動において、振動の中心を通過するときに物体の速さは最大になります。単振動の最大速度の公式 \(v_{\text{max}} = A\omega\) を用いて計算します。そのためには、まず角振動数 \(\omega\) を求める必要があります。
この設問における重要なポイント
- 点Oは単振動の中心であり、ここで速さが最大となる。
- 単振動の振幅は \(A\)。
- 角振動数 \(\omega\) は、ばね定数 \(k\) と質量 \(m\) から \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) で決まる。
- 速さの最大値は \(v_{\text{max}} = A\omega\)。
具体的な解説と立式
ばね振り子の角振動数 \(\omega\) は、ばね定数 \(k\) と物体の質量 \(m\) を用いて次のように表されます。
$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} $$
単振動では、振動の中心(点O)で速さが最大になります。その最大値 \(v\) は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて、
$$ v = A\omega $$
と表されます。
先に求めた \(\omega\) の式を代入すると、点Oでの速さ \(v\) が求まります。
$$ v = A \sqrt{\frac{k}{m}} $$
使用した物理公式
- ばね振り子の角振動数: \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\)
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
上記の立式で答えが導かれているため、追加の計算はありません。
物体は点Pで力を受けて、だんだんスピードを上げていき、ばねが自然の長さになる点Oで最も速くなります。この一番速いときのスピードはいくらですか?という問題です。単振動では、一番速いときのスピードは「振れ幅(\(A\)) × 振動の勢いを表す数(\(\omega\))」で計算できるという公式があるので、それに当てはめて計算します。
点Oでの速さは \(A\sqrt{\frac{k}{m}}\) と求まりました。質量 \(m\) が大きいほど、またばね定数 \(k\) が小さいほど、速さは小さくなります。これは、物体が動きにくかったり、ばねの力が弱かったりすることを反映しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
なめらかな水平面上での運動なので、摩擦によるエネルギー損失はありません。ばねの弾性力は保存力なので、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと弾性エネルギーの和)は保存されます。この法則を、物体の位置が点Pのときと点Oのときで適用し、点Oでの速さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー \(E = (\text{運動エネルギー}) + (\text{弾性エネルギー})\) が一定に保たれる。
- 運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\)、弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}kx^2\)。
- 点Pでは速さが \(0\)、ばねの縮みが \(A\)。
- 点Oでは速さが \(v\)、ばねの縮みが \(0\)。
具体的な解説と立式
点Pと点Oにおける力学的エネルギーは等しくなります。
- 点Pでの力学的エネルギー \(E_P\):
物体は静止しているので運動エネルギーは \(0\)。ばねは \(A\) だけ縮んでいるので、弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}kA^2\)。
$$ E_P = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}kA^2 $$ - 点Oでの力学的エネルギー \(E_O\):
物体の速さを \(v\) とすると、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\)。ばねは自然長なので、弾性エネルギーは \(0\)。
$$ E_O = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}k(0)^2 = \frac{1}{2}mv^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_P = E_O\) より、
$$ \frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E = K+U = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 弾性エネルギー: \(U = \frac{1}{2}kx^2\)
上記で立てた式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
kA^2 &= mv^2 \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{k}{m}A^2
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$ v = \sqrt{\frac{k}{m}A^2} = A\sqrt{\frac{k}{m}} $$
点Pでばねが蓄えている「バネのエネルギー」が、物体が点Oに移動する過程で、すべて「物体のスピードのエネルギー」に変換されると考えます。エネルギーの量は変わらないので、「はじめのバネのエネルギー = あとのスピードのエネルギー」という等式を立てて、そこからスピードを逆算する方法です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。単振動の公式を覚えていなくても、より基本的な法則であるエネルギー保存則から速さを導出できることを示しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Qは単振動のもう一方の端(折り返し点)です。単振動において、加速度は変位に比例し、向きは常に中心(点O)を向きます。加速度の公式 \(a = -\omega^2 x\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 点Qは振動の端であり、変位が最大 (\(x=A\)) となる。
- 振動の端では、速さが一瞬 \(0\) になり、加速度の大きさが最大となる。
- 加速度の向きは、常に振動の中心である点Oを向く。点Qにいるときは左向き。
具体的な解説と立式
単振動の加速度 \(a\) は、振動の中心からの変位 \(x\) を用いて次のように表されます。
$$ a = -\omega^2 x $$
ここで、\(\omega\) は角振動数で \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) です。
点Qは、振動の中心Oから右向きに距離 \(A\) の位置にあるので、変位は \(x=A\) です。これを加速度の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= -\omega^2 A \\[2.0ex]
&= -\left(\sqrt{\frac{k}{m}}\right)^2 A \\[2.0ex]
&= -\frac{k}{m}A
\end{aligned}
$$
負の符号は、加速度の向きが変位 \(x\) の向き(右向き)と逆、すなわち左向きであることを示しています。
したがって、加速度は「左向きに大きさ \(\frac{k}{m}A\)」となります。
使用した物理公式
- 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\)
上記の立式で答えが導かれているため、追加の計算はありません。
点Qは、ばねが一番伸びきった場所です。ここでは物体の動きが一瞬止まり、今度は左向きに引っ張られ始めます。この瞬間の「加速の度合い(加速度)」はどれくらいですか?という問題です。単振動では、端っこほど中心に戻ろうとする力が強く、加速度も最大になります。公式に当てはめて計算します。マイナスの符号は「左向き」を意味しています。
点Qでの加速度は左向きに \(\frac{k}{m}A\) と求まりました。これは、点Qでばねが \(A\) だけ伸びているため、フックの法則により左向きに \(kA\) の力が働き、運動方程式 \(ma = -kA\) からも導かれる結果と一致しており、妥当です。
思考の道筋とポイント
点Qにおける物体の加速度を、運動方程式 \(ma=F\) から直接求めます。そのためには、まず点Qで物体に働く力を特定する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 点Qでは、ばねは自然長から右向きに \(A\) だけ伸びている。
- フックの法則により、物体はばねから左向きに弾性力を受ける。
- 運動方程式 \(ma=F\) を立てる。右向きを正とする。
具体的な解説と立式
右向きを正の向きとします。
点Qにおいて、物体の位置は \(x=+A\) です。
このとき、ばねは自然長から \(A\) だけ伸びているため、フックの法則により物体に働く弾性力 \(F\) は、
$$ F = -kA $$
となります。負の符号は、力が左向き(負の向き)に働くことを示しています。
物体の質量は \(m\)、加速度を \(a\) として運動方程式 \(ma=F\) を立てると、
$$ ma = -kA $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- フックの法則: \(F = -kx\) (復元力としての表現)
上記で立てた式を \(a\) について解きます。
$$ a = -\frac{k}{m}A $$
負の符号は加速度が左向きであることを意味します。したがって、加速度は左向きに大きさ \(\frac{k}{m}A\) となります。
点Qで物体に何が起きているかをシンプルに考えます。ばねが \(A\) だけ伸びているので、物体は左向きに \(kA\) という力で引っ張られます。物理の基本ルール「力 = 質量 × 加速度」(\(F=ma\)) にこの状況を当てはめると、「\(kA = m \times a\)」という関係が成り立ちます。これを \(a\) について解けば、加速度が計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。単振動の加速度の公式が、運動方程式という力学の基本法則から直接導かれるものであることがよくわかります。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Pから点Oまでの運動は、単振動の \(1/4\) 周期分に相当します。点P(端)→点O(中心)→点Q(端)→点O(中心)→点P(端)と動くのが1周期です。したがって、まず周期 \(T\) を求め、それを \(4\) で割れば求める時間になります。
この設問における重要なポイント
- 単振動の1周期は「端→中心→端→中心→端」という運動。
- 端から中心までの移動にかかる時間は、周期 \(T\) の \(1/4\)。
- 周期 \(T\) は角振動数 \(\omega\) から \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) で計算できる。
具体的な解説と立式
まず、単振動の周期 \(T\) を求めます。周期 \(T\) と角振動数 \(\omega\) の間には次の関係があります。
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} $$
(2)で用いたように、\(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) なので、
$$ T = 2\pi \sqrt{\frac{m}{k}} $$
物体が点P(振動の端)から点O(振動の中心)まで進むのにかかる時間 \(t\) は、周期 \(T\) の \(1/4\) です。
$$ t = \frac{1}{4}T $$
したがって、
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{1}{4} \times 2\pi \sqrt{\frac{m}{k}} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2} \sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 単振動の周期: \(T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\)
- 端から中心までの時間: \(t = T/4\)
上記の立式で答えが導かれているため、追加の計算はありません。
ブランコが一番高いところから一番低いところまで下りてくるのにかかる時間は、1往復する時間(周期)のちょうど \(1/4\) です。この問題もそれと同じで、端っこ(P)から真ん中(O)まで動く時間を知りたいので、まず1往復の時間(周期 \(T\))を公式で計算し、それを4で割れば答えが出ます。
時間は \(\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}\) と求まりました。この時間は振幅 \(A\) には依存しません。これは単振動の重要な性質(周期の等時性)であり、物理的に正しい結果です。
思考の道筋とポイント
単振動の運動を、時間の関数として数式で表現し、その式から時間を求めます。時刻 \(t=0\) で点P (\(x=-A\)) にいた物体が、初めて点O (\(x=0\)) に到達する時刻 \(t\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 単振動の変位は \(x(t) = A\sin(\omega t + \phi)\) または \(x(t) = A\cos(\omega t + \phi)\) で表される。
- 初期条件(\(t=0\) での位置と速度)から、適切な関数の形と初期位相 \(\phi\) を決定する。
- \(t=0\) で \(x=-A\) (端)から運動を始めるので、\(\cos\) 型で \(x(t) = -A\cos(\omega t)\) と表すのが便利。
具体的な解説と立式
右向きを正とし、振動の中心Oを原点 \(x=0\) とします。
時刻 \(t=0\) に点P (\(x=-A\)) で手をはなしたとします。このとき初速度は \(0\) です。
この運動を表す変位の式は、
$$ x(t) = -A\cos(\omega t) $$
と書くことができます。(確認: \(t=0\) を代入すると \(x(0) = -A\cos(0) = -A\) となり、初期条件を満たします。)
ここで、\(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) です。
物体が点Oに到達するのは \(x(t)=0\) となるときです。
$$ 0 = -A\cos(\omega t) $$
\(A \neq 0\) なので、
$$ \cos(\omega t) = 0 $$
この式を最初に満たすのは、\(\omega t\) の値が \(\frac{\pi}{2}\) のときです。
$$ \omega t = \frac{\pi}{2} $$
したがって、求める時間 \(t\) は、
$$ t = \frac{\pi}{2\omega} $$
\(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{\pi}{2\sqrt{\frac{k}{m}}} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 単振動の変位の式: \(x(t) = -A\cos(\omega t)\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\)
上記の立式で答えが導かれているため、追加の計算はありません。
単振動の動きは、三角関数(サインやコサイン)のグラフの形で正確に表すことができます。この別解では、まずこの物体の位置を時間の式で表す「設計図」(\(x = -A\cos(\omega t)\))を作ります。そして、「位置 \(x\) が \(0\) (点O) になるのは、時間 \(t\) がいくつのときですか?」という問いを、この設計図(方程式)を解くことで数学的に求めています。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。単振動の周期性を直感的に利用するだけでなく、運動を数式で記述して解析的に解くこともできることを示しており、単振動の数学的な側面への理解を深めることができます。
問(5)
思考の道筋とポイント
点Qに達した瞬間、物体とばねの接続が外れます。この瞬間の物体の速度と、その後に物体に働く力を考えます。力が働かなければ、物体は慣性の法則に従って運動を続けます。
この設問における重要なポイント
- 点Qは振動の端(折り返し点)であり、物体の速度は一瞬 \(0\) になる。
- 接続が外れた後、物体に働く水平方向の力はなくなる(ばねの弾性力が作用しなくなる)。
- 水平面はなめらかなので摩擦力も働かない。
- 水平方向に力が働かない物体は、そのときの速度を保ち続ける(慣性の法則)。
具体的な解説と立式
物体が点Qに達した瞬間、単振動の折り返し点であるため、物体の速さは \(v=0\) です。
この瞬間にばねとの接続が外れると、物体を水平方向に押したり引いたりする力(ばねの弾性力)がなくなります。
水平面はなめらかなので、摩擦力も働きません。
したがって、接続が外れた後、物体に働く水平方向の力は \(0\) になります。
力が働かない物体は、そのときの運動状態を維持します(慣性の法則)。
点Qに達した瞬間の速度は \(0\) であったため、物体はその後も速度 \(0\) を保ち続けます。
つまり、物体は点Qの位置で静止します。
使用した物理公式
- 慣性の法則
この設問は定性的な説明を求めるものであり、計算はありません。
点Qは、ばねが一番伸びきって、物体の動きが一瞬止まる場所です。ちょうどそのタイミングで、ばねと物体をつないでいたフックがパチンと外れたらどうなりますか?という問題です。動きが止まった瞬間に、引っ張る力(ばねの力)がなくなったのですから、物体はもう動くきっかけがありません。なので、その場(点Q)で止まったままになります。
物体は点Qに静止するという結論は、慣性の法則から導かれる妥当なものです。もし接続が外れるのが振動の途中(例えば点O)であれば、物体はその瞬間の速度で等速直線運動を続けることになります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単振動の運動モデルの理解
- 核心: この問題の根幹は、ばねにつながれた物体の運動が「単振動」という特定の運動モデルに従うことを理解し、そのモデルを記述する物理法則や公式を適用する能力です。
- 理解のポイント:
- 復元力と運動の関係: ばねの弾性力(フックの法則 \(F=-kx\))が「復元力」として働き、物体の加速度を常に中心位置に向かわせることが、単振動を引き起こす本質です。この関係を運動方程式 \(ma=-kx\) として数式化できることが全ての解析の出発点となります。
- エネルギー保存則の適用: なめらかな水平面上では、ばねの弾性エネルギーと物体の運動エネルギーの和である「力学的エネルギー」が保存されます。これにより、運動の途中での速さなどを、運動方程式とは別の視点から求めることができます。特に「ある位置での速さ」を問われた場合に強力な手段となります。
- 単振動の運動学的特徴: 単振動は周期的な運動であり、その特徴(中心で速さ最大・加速度ゼロ、端で速さゼロ・加速度最大)を把握していることが、問題を直感的に解く上で非常に重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直ばね振り子: 重力が加わるため、振動の中心が「ばねの自然長」の位置から「重力と弾性力がつりあう位置」にずれます。しかし、その新しいつり合いの位置を中心とした単振動であることに変わりはなく、周期の公式などは水平ばね振り子と全く同じです。重力による位置エネルギーの変化も考慮する必要があるため、エネルギー保存則を適用する際は注意が必要です。
- 単振り子: 振れ角が小さい場合、おもりの運動は単振動とみなせます。このとき、復元力は重力の接線成分の一部が担い、周期は \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) となります。ばね振り子との類似性で理解することが重要です。(例:ばね定数 \(k\) が \(mg/l\) に相当する)
- U字管内の液体の振動: U字管に入れた液体を少しずらして放すと、液面は単振動します。この場合、ずれた分の液柱の重さが復元力として働き、系全体の質量が振動する物体の質量に相当します。
- 円運動の正射影: 等速円運動する物体を真横から見ると、その影の運動は単振動になります。この関係を理解すると、単振動の変位、速度、加速度の式を三角関数で表現する意味が直感的にわかります。
- 初見の問題での着眼点:
- 振動の中心はどこか?: まず、物体に働く力がつりあう位置を探します。その位置が単振動の中心です。水平ばね振り子では自然長の位置、鉛直ばね振り子では重力と弾性力がつりあう位置になります。
- 復元力の形は \(F=-Kx\) か?: 振動の中心からの変位を \(x\) としたとき、物体に働く合力が \(-Kx\) (\(K\) は正の定数)の形で表せるかを確認します。この形になっていれば、その運動は単振動であり、角振動数は \(\omega = \sqrt{K/m}\) となります。
- 振幅 \(A\) はいくらか?: 振動の初期条件(どこから放したか、初速度はいくらか)から、振動の端(折り返し点)までの距離、すなわち振幅 \(A\) を決定します。
- エネルギーは保存されるか?: 摩擦や空気抵抗など、非保存力が仕事をしないかを確認します。もし保存されるなら、力学的エネルギー保存則が強力な解法ツールになります。特に、特定の二点間での速さの変化を問う問題で有効です。
- どの物理法則を使うか判断する:
- 力や加速度を問われたら → 運動方程式 \(ma=F\) や \(a=-\omega^2 x\) を考える。
- 速さを問われたら → エネルギー保存則や \(v_{\text{max}}=A\omega\) を考える。
- 時間を問われたら → 周期 \(T\) を求め、\(T/4\), \(T/2\) などの周期性を利用するか、変位の式 \(x(t)\) を立てて解く。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動の中心を自然長の位置と勘違いする(特に鉛直ばね振り子で):
- 誤解: どんなばね振り子でも、振動の中心はばねが自然の長さになる点だと思い込んでしまう。
- 対策: 振動の中心は、あくまで「力のつり合いの位置」です。水平ばね振り子では、たまたま自然長の位置で力がつりあうだけです。鉛直ばね振り子のように重力が働く場合は、必ず「重力=弾性力」となる位置を計算し、そこを振動の中心(座標の原点)として考える癖をつけましょう。
- 変位 \(x\) の意味を取り違える:
- 誤解: フックの法則 \(F=kx\) の \(x\)(ばねの伸び・縮み)と、単振動の公式 \(a=-\omega^2 x\) の \(x\)(振動の中心からの変位)を混同してしまう。
- 対策: 水平ばね振り子では両者は一致しますが、鉛直ばね振り子では異なります。常に、「ばねの伸び・縮みは自然長から測る」「単振動の変位は振動の中心(つり合い点)から測る」という原則を意識して区別しましょう。
- 周期の公式の混同:
- 誤解: ばね振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) と、単振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) をうっかり間違えて使ってしまう。
- 対策: 公式を丸暗記するだけでなく、その意味を理解しましょう。ばね振り子では「物体が重い(\(m\)大)ほど、ばねが弱い(\(k\)小)ほど」ゆっくり振動する。単振り子では「振り子が長い(\(l\)大)ほど」ゆっくり振動する(重さ \(m\) にはよらない)。このように物理的なイメージと結びつけて覚えておくと、混同を防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(フックの法則):
- 選定理由: 求めたいのは「力」です。ばねが原因で生じる力なので、ばねの性質を表す基本法則であるフックの法則 \(F=kx\) を選択するのは自然な流れです。
- 適用根拠: 問題文に「ばね定数 \(k\)」「自然長からの距離 \(A\)」という、フックの法則を適用するための情報がすべて与えられています。
- (2)での公式選択(\(v=A\omega\) または エネルギー保存則):
- 選定理由(公式): 求めたいのは「振動の中心での速さ」、すなわち「速さの最大値」です。単振動における運動学的な量を直接求める公式として \(v_{\text{max}}=A\omega\) が存在するため、これを選択するのが最も手っ取り早い方法です。
- 適用根拠(公式): 振幅 \(A\) は与えられており、角振動数 \(\omega\) は系の物理的性質(\(k\) と \(m\))から一意に決まります。したがって、公式を適用する条件は整っています。
- 選定理由(エネルギー保存則): 運動の始点(点P)と終点(点O)の状態が明確で、その間の速さを知りたいという状況です。また、摩擦がないため力学的エネルギーが保存されることがわかっています。このような「2点間の状態変化」を扱う問題では、エネルギー保存則が非常に有効な選択肢となります。
- 適用根拠(エネルギー保存則): 点Pでは運動エネルギーがゼロ、点Oでは弾性エネルギーがゼロというように、各点でのエネルギーの形がシンプルで計算しやすいことも、この法則の適用を後押しします。
- (3)での公式選択(\(a=-\omega^2 x\) または 運動方程式):
- 選定理由(公式): 求めたいのは「特定の変位 \(x=A\) における加速度」です。単振動の変位と加速度を直接結びつける公式が \(a=-\omega^2 x\) であるため、これを選択するのが最も効率的です。
- 適用根拠(公式): \(\omega\) と \(x\) が分かっているため、公式に代入するだけで答えが得られます。
- 選定理由(運動方程式): 加速度は力の直接的な結果です。したがって、力学の根本原理である運動方程式 \(ma=F\) に立ち返ることは、常に正しいアプローチです。
- 適用根拠(運動方程式): 点Qで物体に働く力はフックの法則から \(F=-kA\) と明確にわかるため、運動方程式を立てることで直接加速度を計算できます。
- (4)での公式選択(周期性 \(t=T/4\)):
- 選定理由: 求めたいのは「端から中心までの時間」です。これは単振動の周期的な性質から、1周期の \(1/4\) であることが知られています。この性質を利用するのが最も直感的で簡単な解法です。
- 適用根拠: 運動が単振動であることが保証されているため、その周期性を利用することに問題はありません。周期 \(T\) は系の物理的性質から計算できるため、時間を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- もし問題に具体的な数値(\(k=10\,\text{N/m}\), \(m=0.1\,\text{kg}\) など)が与えられていても、まずは文字(\(k, m, A\))のまま式を立てて、最終的な答えの式を導出しましょう。例えば(2)なら \(v = A\sqrt{k/m}\) という式を導いてから、最後に数値を代入します。これにより、途中の計算が複雑になるのを防ぎ、物理的な意味を見失いにくくなります。
- 単位による検算:
- (2)の答え \(v = A\sqrt{k/m}\) の単位を確認してみましょう。\(A\) は \([\text{m}]\)、\(k\) は \([\text{N/m}] = [\text{kg}\cdot\text{m/s}^2 / \text{m}] = [\text{kg/s}^2]\)、\(m\) は \([\text{kg}]\) です。
- \(\sqrt{k/m}\) の単位は \(\sqrt{[\text{kg/s}^2] / [\text{kg}]} = \sqrt{1/\text{s}^2} = [1/\text{s}]\) となります。
- したがって、\(A\sqrt{k/m}\) の単位は \([\text{m}] \times [1/\text{s}] = [\text{m/s}]\) となり、確かに速さの単位と一致します。このように単位を確認することで、式の形が正しいかどうかをチェックできます。
- 物理的な極端な状況を考える:
- (2)の答え \(v = A\sqrt{k/m}\) について考えてみましょう。
- もしばねが非常に硬かったら(\(k \rightarrow \infty\))、速さ \(v\) は非常に大きくなるはずです。式もそうなっています。
- もし物体が非常に重かったら(\(m \rightarrow \infty\))、動きにくいので速さ \(v\) は非常に小さくなるはずです。式もそうなっています。
- このように、極端なケースを代入して、結果が直感と合うかを確認することで、式の妥当性を吟味できます。
- 符号の確認:
- (3)の加速度を求める際、\(a = -\frac{k}{m}A\) となりました。点Q (\(x=+A\)) では、力は中心(原点)を向く、つまり負の向きに働くはずです。したがって、加速度も負になるはずであり、計算結果の符号と物理的な考察が一致していることを確認します。この一手間が符号ミスを防ぎます。
- ルートの計算:
- この問題では文字式ですが、数値計算がある場合、ルートの中の計算は慎重に行いましょう。例えば \(\sqrt{1.96}\) のような計算が出てきたら、\(1.96 = 196 \times 10^{-2} = 14^2 \times 10^{-2} = (1.4)^2\) のように、平方数を見つける練習を日頃から行っておくとスムーズです。
229 鉛直ばね振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解1: 基本的な力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が単振動の公式 \(v_{\text{max}}=A\omega\) を用いるのに対し、別解1では重力位置エネルギー、弾性エネルギー、運動エネルギーの和が保存されるという基本に忠実な立式で速さを求めます。
- 設問(2)の別解2: 単振動に特化したエネルギー保存則を用いる解法
- 別解2では、つりあいの位置をエネルギーの基準にとることで、重力と弾性エネルギーの一部を相殺させ、水平ばね振り子と全く同じ形のエネルギー保存則 \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\) を用いて、より簡潔に速さを求めます。
- 設問(2)の別解1: 基本的な力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 単振動の公式が、より根源的な力学的エネルギー保存則とどのように関連しているかを理解できます。また、基準の取り方によって問題の見通しがどう変わるかを学ぶ良い機会となります。
- 計算技術の向上: 鉛直ばね振り子の問題を、水平ばね振り子と等価な問題として扱う計算テクニックを習得でき、計算ミスを減らし、解答時間を短縮できます。
- 解法の選択肢拡大: 運動方程式や単振動の公式だけでなく、エネルギーという異なる視点から問題を解くアプローチを身につけることで、より複雑な問題に対応できる応用力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直ばね振り子の単振動」です。水平ばね振り子との違いである重力の影響を正しく理解し、振動の中心、周期、速さなどを計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 鉛直ばね振り子では、重力とばねの弾性力がつりあう位置が単振動の中心となります。
- 復元力の理解: 振動の中心からの変位を \(x\) とすると、合力(復元力)が \(F=-kx\) の形で表せることを理解していること。鉛直方向でも、復元力の比例定数はばね定数 \(k\) と同じになります。
- 単振動の周期の普遍性: 鉛直ばね振り子の周期は、重力の影響を受けず、水平ばね振り子と全く同じ公式 \(T=2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) で与えられることを理解していること。
- 単振動の振幅と最大速度: つりあいの位置から物体を静かにはなした点までの距離が振幅 \(A\) となり、速さは振動の中心で最大値 \(v_{\text{max}}=A\omega\) をとること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず鉛直ばね振り子の運動方程式を立て、復元力が \(F=-kx\) の形になることを確認します。これにより、周期が水平ばね振り子と同じになることを導きます。
- (2)では、(1)で求めた角振動数と、問題で与えられた振幅を用いて、単振動の最大速度の公式に当てはめて計算します。
- (3)では、(1)で導いた周期の公式が何に依存しているかを考察し、振幅の変化が周期に影響を与えるかどうかを判断します。
問(1)
思考の道筋とポイント
鉛直ばね振り子の周期を求めます。この運動が単振動であることを示すために、まず力のつり合いの位置を基準として運動方程式を立てます。その結果、復元力が変位に比例する形 (\(F=-kx\)) になることを示し、角振動数 \(\omega\) を経由して周期 \(T\) を導出します。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心は、重力と弾性力がつりあう位置である。
- ばねの伸びは「自然長」の位置から測る。
- 単振動の変位は「つりあいの位置」から測る。
- 運動方程式を立て、\(ma=-Kx\) の形から角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) を見つける。
具体的な解説と立式
まず、小球Bに働く重力と弾性力がつりあう位置を考えます。ばねの自然長の位置から \(x_0\) だけ伸びた位置でつりあうとすると、力のつりあいの式は、
$$ mg = kx_0 \quad \cdots ① $$
このつりあいの位置が、単振動の中心となります。
次に、このつりあいの位置からさらに下向きに \(x\) だけ変位した位置にあるときの小球Bの運動方程式を立てます。下向きを正とします。
このとき、小球Bに働く力は、
- 重力: \(mg\)(下向き)
- 弾性力: \(k(x_0+x)\)(上向き)
したがって、運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ ma = mg – k(x_0+x) $$
となります。ここで、右辺を展開すると、
$$ ma = mg – kx_0 – kx $$
この式に、つりあいの関係式① (\(mg = kx_0\)) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
ma &= (kx_0) – kx_0 – kx \\[2.0ex]
ma &= -kx
\end{aligned}
$$
この式は、復元力が \(F=-kx\) で与えられる単振動の運動方程式そのものです。
この式と \(ma = -m\omega^2 x\) を比較することで、角振動数 \(\omega\) がわかります。
$$
\begin{aligned}
m\omega^2 &= k \\[2.0ex]
\omega &= \sqrt{\frac{k}{m}}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) は \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) で与えられるので、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(F_{\text{上}} = F_{\text{下}}\)
- フックの法則: \(F=kx\)
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 単振動の周期: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
上記の立式過程で答えが導かれています。
ばねを縦に吊るすと、おもりの重さで少し伸びたところで一旦静止します。ここが「つりあいの位置」で、ブランコでいう一番低い場所にあたります。ここを基準に振動を考えると、重力の影響は見かけ上なくなり、まるで水平なばね振り子と同じように振る舞います。そのため、周期を計算する公式も水平のときと全く同じになります。
鉛直ばね振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) となり、水平ばね振り子の周期と完全に一致しました。これは、重力が振動の中心をずらす効果しか持たず、振動の速さ(周期)には影響しないという重要な事実を示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
単振動における速さの最大値を求めます。速さは振動の中心(つりあいの位置)で最大になります。最大速度の公式 \(v_{\text{max}} = A\omega\) を用いて計算します。この問題では、振幅 \(A\) がつりあいの位置から引き下げた距離 \(d\) に相当します。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になるのは、振動の中心である「つりあいの位置」。
- 振幅 \(A\) は、振動の中心から静かにはなした点までの距離に等しい。よって \(A=d\)。
- 角振動数 \(\omega\) は、(1)で求めた \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) を用いる。
具体的な解説と立式
つりあいの位置から距離 \(d\) だけ引き下げて「静かにはなす」ので、この引き下げた位置が振動の端(最下点)になります。
したがって、単振動の振幅 \(A\) は、
$$ A = d $$
となります。
速さの最大値 \(v_{\text{max}}\) は、振動の中心(つりあいの位置)を通過するときに記録され、その値は振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて次のように表されます。
$$ v_{\text{max}} = A\omega $$
(1)で求めた \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\) と \(A=d\) を代入すると、
$$ v_{\text{max}} = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\)
上記の立式で答えが導かれています。
一番スピードが出るのは、振動の真ん中(つりあいの位置)を通過する瞬間です。その速さは「振れ幅 × 振動の勢い」で計算できます。今回は「つりあいの位置」から \(d\) だけ引っ張って離したので、振れ幅は \(d\) です。これに(1)で考えた振動の勢い(角振動数)を掛ければ、答えが出ます。
速さの最大値は \(d\sqrt{\frac{k}{m}}\) と求まりました。振幅 \(d\) が大きいほど、ばね定数 \(k\) が大きいほど、また質量 \(m\) が小さいほど速くなるという、物理的に直感と合う結果です。
思考の道筋とポイント
ばねの弾性力と重力はともに保存力なので、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性エネルギーの和)は保存されます。この法則を、手をはなす点(最下点)とつりあいの位置(中心)とで適用し、最大速さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 + mgy + \frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) が一定。
- エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは、つりあいの位置を \(y=0\) とする)。
- 最下点では速さが \(0\)、つりあいの位置では速さが最大となる。
具体的な解説と立式
- 基準の設定
- 重力による位置エネルギーの基準: つりあいの位置 (\(y=0\))
- ばねの自然長の位置を \(y=x_0\) とする。
- つりあいの条件
- (1)で導いたように、力のつり合いから \(mg = kx_0\)。
- 手をはなす点(最下点)でのエネルギー \(E_{\text{下}}\)
- 位置: \(y = -d\)
- 速さ: \(v = 0\)
- ばねの自然長からの伸び: \(x_0 + d\)
- エネルギー:
$$ E_{\text{下}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mg(-d) + \frac{1}{2}k(x_0+d)^2 $$
- つりあいの位置(中心)でのエネルギー \(E_{\text{中心}}\)
- 位置: \(y = 0\)
- 速さ: \(v_{\text{max}}\)
- ばねの自然長からの伸び: \(x_0\)
- エネルギー:
$$ E_{\text{中心}} = \frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 + mg(0) + \frac{1}{2}k(x_0)^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{下}} = E_{\text{中心}}\) より、
$$ -mgd + \frac{1}{2}k(x_0+d)^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}k(x_0)^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 運動エネルギー: \(K=\frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U_g=mgy\)
- 弾性エネルギー: \(U_s=\frac{1}{2}kx^2\)
上記で立てた式を \(v_{\text{max}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 &= -mgd + \frac{1}{2}k(x_0+d)^2 – \frac{1}{2}k(x_0)^2 \\[2.0ex]
&= -mgd + \frac{1}{2}k(x_0^2 + 2x_0d + d^2) – \frac{1}{2}kx_0^2 \\[2.0ex]
&= -mgd + \frac{1}{2}kx_0^2 + kx_0d + \frac{1}{2}kd^2 – \frac{1}{2}kx_0^2 \\[2.0ex]
&= -mgd + kx_0d + \frac{1}{2}kd^2
\end{aligned}
$$
ここで、つりあいの条件 \(mg = kx_0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 &= -mgd + (mg)d + \frac{1}{2}kd^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 &= \frac{1}{2}kd^2 \\[2.0ex]
v_{\text{max}}^2 &= \frac{k}{m}d^2
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{max}}>0\) なので、
$$ v_{\text{max}} = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$
一番下まで引っ張った瞬間の「エネルギーの合計(位置のエネルギー+バネのエネルギー)」と、振動の真ん中を通過する瞬間の「エネルギーの合計(スピードのエネルギー+位置のエネルギー+バネのエネルギー)」は等しくなります。このエネルギーの保存関係を使って、真ん中でのスピードを逆算する方法です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。重力が関わる複雑な状況でも、エネルギー保存則が正しく適用できれば、同じ結論に達することを示しています。
思考の道筋とポイント
鉛直ばね振り子では、つりあいの位置を基準に考えると、重力による位置エネルギーと弾性エネルギーの変化分をまとめて「有効な弾性エネルギー」として扱うことができます。これにより、エネルギー保存則が水平ばね振り子と全く同じ \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\) というシンプルな形で書け、計算が大幅に簡単になります。
この設問における重要なポイント
- つりあいの位置をエネルギーの基準点(有効な位置エネルギーが \(0\))とする。
- つりあいの位置からの変位を \(x\) とする。
- 保存されるエネルギーは \(E = (\text{運動エネルギー}) + (\text{有効な弾性エネルギー}) = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\)。
- 手をはなす点(最下点)では、変位は \(x=d\)、速さは \(0\)。
- つりあいの位置(中心)では、変位は \(x=0\)、速さは最大。
具体的な解説と立式
鉛直ばね振り子の力学的エネルギーは、つりあいの位置からの変位を \(x\) として、
$$ E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 + (\text{定数}) $$
と表せます。この定数項を無視すれば、保存されるエネルギーは水平ばね振り子と同じ形になります。
- 手をはなす点(最下点)でのエネルギー \(E_{\text{下}}\)
- つりあいの位置からの変位: \(x=d\)
- 速さ: \(v=0\)
- エネルギー:
$$ E_{\text{下}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}k(d)^2 = \frac{1}{2}kd^2 $$
- つりあいの位置(中心)でのエネルギー \(E_{\text{中心}}\)
- つりあいの位置からの変位: \(x=0\)
- 速さ: \(v_{\text{max}}\)
- エネルギー:
$$ E_{\text{中心}} = \frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}k(0)^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 $$
単振動のエネルギー保存則 \(E_{\text{下}} = E_{\text{中心}}\) より、
$$ \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 $$
使用した物理公式
- 単振動のエネルギー保存則: \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\)
上記で立てた式を \(v_{\text{max}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
mv_{\text{max}}^2 &= kd^2 \\[2.0ex]
v_{\text{max}}^2 &= \frac{k}{m}d^2
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{max}}>0\) なので、
$$ v_{\text{max}} = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$
重力が常に関わる鉛直ばね振り子は計算が面倒に見えますが、実はうまい方法があります。「つりあいの位置」を基準にすると、重力の影響をばねのエネルギーの一部として吸収させて「見えない」ようにできます。その結果、まるで重力がない水平なばね振り子と全く同じエネルギーの式が使え、とても簡単に計算できるのです。
他の解法と完全に同じ結果が、はるかに少ない計算で得られました。この「つりあいの位置を基準としたエネルギー保存則」は、鉛直ばね振り子や、斜面上のばね振り子など、重力が関わる単振動の問題を解く上で非常に強力なテクニックです。
問(3)
思考の道筋とポイント
単振動の周期が何によって決まるかを考えます。(1)で導出した周期の公式に、引き下げる距離(振幅)が含まれているかどうかを確認します。
この設問における重要なポイント
- 単振動の周期は、質量 \(m\) と、復元力の比例定数(この場合はばね定数 \(k\))のみによって決まる。
- 周期は振幅(振動の大きさ)には依存しない。これを「周期の等時性」という。
具体的な解説と立式
(1)で導出した単振動の周期の式は、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
です。
この式を見ると、周期 \(T\) は小球の質量 \(m\) とばね定数 \(k\) のみで決まり、振幅(引き下げる距離 \(d\))は含まれていません。
したがって、つりあいの位置から引き下げる距離を \(d\) から \(\frac{d}{2}\) に変えても(つまり、振幅を半分にしても)、周期 \(T\) は変化しません。
使用した物理公式
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\)
この設問は定性的な説明を求めるものであり、計算はありません。
ブランコを大きく漕いでも、小さく漕いでも、1往復にかかる時間はほとんど変わりません。これと同じように、ばね振り子も、大きく振動させても小さく振動させても、1往復にかかる時間(周期)は同じです。周期は、おもりの重さとばねの硬さだけで決まります。
単振動の周期は振幅によらない、という「周期の等時性」は単振動の最も重要な性質の一つです。この問題を通して、その性質を再確認することができました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 鉛直ばね振り子における単振動のモデル化
- 核心: この問題の根幹は、重力が存在する状況下でのばね振り子の運動を、正しく「単振動」としてモデル化する能力です。特に、振動の中心が「自然長」から「力のつり合いの位置」にずれることを理解し、その上で単振動の法則を適用することが核心となります。
- 理解のポイント:
- 振動中心の特定: まず、物体に働く全ての力(重力と弾性力)が完全につりあう位置を求めます。この「力のつり合いの位置」こそが、単振動の不動の中心点となります。
- 復元力の導出: 振動の中心からの変位を \(x\) としたとき、物体に働く合力が、変位 \(x\) に比例し、常につり合いの位置を向く力(\(F=-kx\))になることを運動方程式から導出できることが重要です。この導出過程で、重力とつり合い点での弾性力が相殺され、結果的に復元力の比例定数がばね定数 \(k\) と一致することを確認します。
- 周期の普遍性: 上記の復元力の形から、鉛直ばね振り子の周期は水平ばね振り子と全く同じ公式で計算できる、という重要な結論に至ります。重力は周期に影響を与えません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上のばね振り子: 振動の方向が斜面に沿っているだけで、考え方は鉛直ばね振り子と全く同じです。重力の斜面方向成分と弾性力がつりあう位置が振動の中心となり、周期の公式も変わりません。
- 浮力を受ける物体の振動: 水に浮いている物体を少し押し沈めて放すと、物体の重さと浮力のつり合いの位置を中心として単振動します。この場合、復元力は浮力の変化分によって生じます。
- 電気力を受ける荷電粒子の振動: 固定された電荷の間に置かれた荷電粒子が、つりあいの位置を中心に単振動する問題など。クーロン力が復元力として働きます。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは「力のつり合いの位置」を探す: どんな振動問題でも、最初に考えるべきは力がつりあう不動点です。ここが振動の中心(座標の原点)になります。
- 振幅 \(A\) を正しく把握する: 振幅は「振動の中心」から「振動の端(折り返し点)」までの距離です。問題文の「つりあいの位置から \(d\) だけ引き下げて」のような記述から、振幅を正確に読み取ります。
- 周期は \(m\) と \(k\) のみで決まる: ばね振り子の場合、周期は振幅や重力加速度には依存しません。この「周期の等時性」は非常に重要な性質で、(3)のような問いに即答するための鍵となります。
- エネルギー保存則を使い分ける:
- 基本に忠実な方法(別解1): 運動エネルギー、重力位置エネルギー、弾性エネルギーの3つの和が保存される、という基本形で立式します。計算は少し煩雑になりますが、どんな状況でも使える最も基本的な考え方です。
- 単振動に特化した方法(別解2): 鉛直ばね振り子では、「つりあいの位置」を基準にすると、重力と弾性力の一部がキャンセルされ、見かけ上 \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\) という水平ばね振り子と同じ形のエネルギー保存則が使えます。これは計算を劇的に簡単にするための応用テクニックです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動の中心を「ばねの自然長」の位置と誤解する:
- 誤解: 水平ばね振り子の感覚で、ばねが自然の長さになる点が中心だと思い込んでしまう。
- 対策: 常に「力がつりあう位置が中心」という原則に立ち返りましょう。鉛直方向では、まず重力 \(mg\) と弾性力 \(kx_0\) が等しくなる位置を計算し、そこを座標の原点として問題を解き始める癖をつけることが最も重要です。
- 変位 \(x\) とばねの伸びを混同する:
- 誤解: 単振動の公式に出てくる変位 \(x\)(つり合い点からの距離)と、弾性エネルギーの公式に必要なばねの伸び(自然長からの距離)を同じものとして扱ってしまう。
- 対策: 「変位 \(x\) はつり合い点から」「ばねの伸びは自然長から」と、それぞれの基準点を常に意識して区別しましょう。つり合い点でのばねの伸びを \(x_0\) とすると、変位 \(x\) の位置でのばねの伸びは \(x_0+x\) となります。
- エネルギー保存則の基準点設定ミス:
- 誤解: 重力位置エネルギーと弾性エネルギーの基準点を曖昧にしたまま立式し、計算が混乱する。
- 対策: 別解1のように基本に忠実に解く場合は、「重力位置エネルギーの基準はどこか(例:つり合い点)」「弾性エネルギーは常に自然長を基準とする」ということを明確に意識します。別解2のテクニックを使う場合は、「つり合い点を基準にすれば、有効な位置エネルギーは \(\frac{1}{2}kx^2\) だけでよい」と割り切って使うことが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)でのアプローチ選択(運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは「周期」ですが、その前に、この運動が本当に「単振動」であるか、そしてその角振動数がいくつになるかを物理的に証明する必要があります。運動の性質を力の観点から決定する法則は運動方程式 \(ma=F\) です。
- 適用根拠: 物体に働く力(重力、弾性力)をすべて考慮して運動方程式を立て、式を整理することで \(ma=-kx\) の形を導き出します。この形になることが、単振動であることの証明であり、同時に角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) を決定する根拠となります。周期 \(T=2\pi/\omega\) はその直接的な帰結です。
- (2)での公式選択(\(v_{\text{max}}=A\omega\)):
- 選定理由: 求めたいのは「速さの最大値」です。運動が単振動であることが(1)で確定しており、振幅 \(A=d\) も問題文から明らかです。単振動の運動学的な特徴(速さ、加速度など)を直接計算する公式群の中から、最も適したものとして \(v_{\text{max}}=A\omega\) を選択するのが合理的かつ最速です。
- 適用根拠: 単振動であること、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) が既知であることから、公式を適用する条件は完全に満たされています。
- (2)別解でのアプローチ選択(エネルギー保存則):
- 選定理由: 運動の始点(最下点)と、速さを求めたい点(中心)の2点間の状態変化を問う問題であり、途中の時間経過は関係ありません。また、働く力(重力、弾性力)がすべて保存力であるため、エネルギー保存則が有効な選択肢となります。
- 適用根拠(別解1): 物理の最も基本的な法則の一つであり、単振動の公式を忘れても導出できる普遍的なアプローチです。
- 適用根拠(別解2): 鉛直ばね振り子という特定の状況において、計算を大幅に簡略化できる非常に強力なテクニックです。この方法が使える根拠は、(1)で示したように、つり合いの位置を基準にすると重力の影響が見かけ上消えることにあります。
- (3)でのアプローチ選択(周期の公式の考察):
- 選定理由: 「周期がどう変化するか」という定性的な問いです。これは、(1)で導出した周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) がどの物理量に依存しているかを調べることで答えられます。
- 適用根拠: 周期の公式に振幅を表す文字(\(d\) や \(A\))が含まれていないという事実が、「周期は振幅によらない」という結論の直接的な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- つり合いの式を最初に書く:
- 鉛直ばね振り子の問題では、計算を始める前に、まず \(mg=kx_0\) という力のつり合いの式をページの隅にでも書いておきましょう。この式は、運動方程式を単純化したり、エネルギー保存則の計算を簡略化したりする際に必ず必要になります。
- 文字の定義を明確にする:
- \(x_0\): 自然長からつり合い点までの伸び
- \(x\): つり合い点からの変位
- \(d\): 振幅
- これらの文字がそれぞれ何を意味するのかを混同しないように、図に書き込むなどして明確に区別しましょう。
- エネルギー保存則の立式は慎重に:
- 別解1のように基本に忠実に解く場合、各項の符号と基準点に細心の注意を払いましょう。特に重力位置エネルギーの符号ミスは頻発します。
- 別解2のテクニックを使う場合は、「変位 \(x\) は必ずつり合い点からの距離である」ことを絶対に忘れないでください。自然長からの伸びを代入すると間違いになります。
- 物理的な吟味:
- (1)で求めた周期の式に重力加速度 \(g\) が入っていないことを確認します。もし入っていたら、どこかで計算ミスをしています。
- (2)で求めた速さの式が、振幅 \(d\) に比例することを確認します。大きく引っ張れば速くなるのは当然なので、直感と合っているかを確認する良い指標になります。
230 斜面上のばね振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「斜面上のばね振り子の単振動」です。鉛直ばね振り子と同様に、重力の影響(この場合は斜面方向の成分)がある状況での単振動を解析します。振動の中心と周期がどのように決まるかを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の分解: 重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に正しく分解できること。
- 力のつりあい: 単振動の中心は、物体に働く全ての力がつりあう位置であること。斜面上のばね振り子では、重力の斜面成分とばねの弾性力がつりあう点が中心となります。
- 運動方程式: つりあいの位置からの変位を用いて運動方程式を立て、その運動が単振動(復元力が \(F=-kx\) の形)になることを確認すること。
- 単振動の周期: ばね振り子の周期は、振動する状況(水平、鉛直、斜面)によらず、質量 \(m\) とばね定数 \(k\) のみで決まること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずおもりにはたらく力を図示し、斜面に平行な方向の力のつりあいを考えます。重力の斜面成分と弾性力が等しくなる条件から、そのときのばねの伸びを計算します。
- (2)では、(1)で求めたつりあいの位置を基準(原点)として、そこからわずかにずれた位置でのおもりの運動方程式を立てます。式を整理することで、この運動が単振動であることを示し、周期を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
単振動の中心は、おもりに働く力がつりあう位置です。なめらかな斜面上では、おもりに働く斜面方向の力は「重力の斜面成分」と「ばねの弾性力」です。この2つの力がつりあうときの、ばねの自然長からの伸びを求めます。
この設問における重要なポイント
- おもりに働く重力 \(mg\) を、斜面に平行な成分 \(mg\sin\theta\) と、斜面に垂直な成分 \(mg\cos\theta\) に分解する。
- 単振動の中心(つりあいの位置)では、斜面に平行な方向の力がつりあっている。
- ばねの弾性力は、自然長からの伸びに比例する(フックの法則 \(F=kx\))。
具体的な解説と立式
単振動の中心(つりあいの位置)でのばねの自然長からの伸びを \(x_0\) とします。
このとき、おもりに働く斜面に平行な方向の力は以下の2つです。
- 重力の斜面成分: 斜面下向きに \(mg\sin\theta\)
- ばねの弾性力: 斜面上向きに \(kx_0\)
おもりはつりあいの位置で静止しているので、これらの力の大きさは等しくなります。
(斜面下向きの力)=(斜面上向きの力)より、
$$ mg\sin\theta = kx_0 $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- フックの法則: \(F=kx\)
上記で立てた力のつりあいの式を \(x_0\) について解きます。
$$ x_0 = \frac{mg\sin\theta}{k} $$
斜面におもりを置くと、重力によって滑り落ちようとします。この滑り落ちようとする力(\(mg\sin\theta\))と、ばねが伸びて「これ以上行かせないぞ」と引き戻す力(\(kx_0\))がちょうど同じになる点があります。そこがおもりが一旦落ち着く場所であり、単振動の真ん中(中心)になります。この問題では、そのときのばねの伸び \(x_0\) を計算します。
単振動の中心は、ばねの伸びが \(\frac{mg\sin\theta}{k}\) になったところであると求まりました。
この結果を吟味してみましょう。もし斜面の傾斜がない場合 (\(\theta=0\))、\(\sin\theta=0\) なので \(x_0=0\) となり、水平ばね振り子(中心は自然長)と一致します。もし斜面が垂直な壁になった場合 (\(\theta=90^\circ\))、\(\sin\theta=1\) なので \(x_0=\frac{mg}{k}\) となり、鉛直ばね振り子のつり合いの伸びと一致します。このように、既知の状況と照らし合わせても妥当な結果であることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
単振動の周期を求めます。(1)で求めたつりあいの位置を基準として、そこからおもりが変位したときの運動方程式を立てます。運動方程式が \(ma=-Kx\) の形に整理できれば、その運動は単振動であり、角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) から周期 \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心(つりあいの位置)を原点として座標を設定する。
- つりあいの位置からの変位を \(x\) とする。
- 運動方程式を立てる際、(1)で求めたつり合いの条件式を利用して式を簡略化する。
具体的な解説と立式
(1)で求めたつりあいの位置を原点とし、斜面下向きを正の向きとします。
つりあいの位置から、おもりが斜面下向きに \(x\) だけ変位したときを考えます。
このとき、ばねの自然長からの伸びは \(x_0 + x\) となります。
おもりに働く斜面に平行な方向の力は、
- 重力の斜面成分: \(mg\sin\theta\)(正の向き)
- ばねの弾性力: \(k(x_0+x)\)(負の向き)
したがって、おもりの運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ ma = mg\sin\theta – k(x_0+x) $$
右辺を展開すると、
$$ ma = mg\sin\theta – kx_0 – kx $$
ここで、(1)で導いたつり合いの条件式 \(mg\sin\theta = kx_0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
ma &= (kx_0) – kx_0 – kx \\[2.0ex]
ma &= -kx
\end{aligned}
$$
この式は、復元力が \(F=-kx\) で与えられる単振動の運動方程式です。
この式と、単振動の運動方程式の一般形 \(ma = -m\omega^2 x\) を比較すると、
$$
\begin{aligned}
m\omega^2 &= k \\[2.0ex]
\omega &= \sqrt{\frac{k}{m}}
\end{aligned}
$$
したがって、周期 \(T\) は \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) の関係から、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 単振動の周期: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
上記の立式過程で答えが導かれています。
この問題は、一見複雑に見えますが、前問の「鉛直ばね振り子」と本質は同じです。鉛直ばね振り子では「重力 \(mg\)」がつり合いの位置をずらしていましたが、今回は「重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\)」がその役割を果たしているだけです。つり合いの位置を基準に運動の式を立てると、この重力成分の影響が見事に消去され、結局は水平なばね振り子と全く同じ形の運動方程式になります。そのため、周期も水平のときと同じ公式で計算できるのです。
単振動の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) と求まりました。この結果は、水平ばね振り子や鉛直ばね振り子の周期と完全に同じです。このことから、ばね振り子の周期は、重力の影響の受け方(振動させる向き)によらず、おもりの質量 \(m\) とばね定数 \(k\) のみで決まるという、非常に重要な普遍的な性質があることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重力が関わる系における単振動のモデル化
- 核心: この問題の根幹は、水平・鉛直・斜面といった異なる状況下でのばね振り子の運動が、すべて同じ物理的本質を持つ「単振動」として統一的に理解できることを示す点にあります。特に、重力(またはその成分)が振動の中心をずらすだけで、周期には影響を与えないという普遍的な法則を、運動方程式を通じて導き出すプロセスが核心です。
- 理解のポイント:
- 振動中心の決定: どのような状況であれ、単振動の中心は「物体に働く全ての力がつりあう位置」です。この問題では、重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\) と弾性力 \(kx_0\) がつりあう点が中心となります。この原則を機械的に適用できることが第一歩です。
- 運動方程式による証明: つり合いの位置を基準(原点)として運動方程式を立てると、重力成分とつり合い点での弾性力が相殺され、常に \(ma=-kx\) というシンプルな形に帰着します。この数学的な変形が、状況によらず周期が同じになる物理的な理由を明確に示しています。
- ばね振り子の周期の普遍性: 以上のプロセスを経て、「ばね振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) は、傾斜角 \(\theta\) や重力加速度 \(g\) には依存しない」という結論を導き、深く理解することが最終目標です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直ばね振り子: この問題で \(\theta=90^\circ\) とした場合に相当し、全く同じ考え方で解くことができます。
- 水平ばね振り子: この問題で \(\theta=0^\circ\) とした場合に相当します。
- 電場中の荷電粒子の振動: 一様な電場中にばねでつながれた荷電粒子を置くと、クーロン力と弾性力がつりあう点を中心に単振動します。重力の代わりにクーロン力が中心をずらすだけで、本質は同じです。
- 液体中のばね振り子: 浮力と重力が加わる中で、それらと弾性力がつりあう点を中心に単振動します。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは力をすべて図示し、つり合いの位置を探す: 問題が複雑に見えても、基本は同じです。物体に働く力をすべて書き出し、それらがつりあう点を見つけます。そこが単振動の中心です。
- 振動方向の座標軸を設定する: 振動の中心を原点とし、振動する方向に座標軸(例えば、斜面下向きにx軸)を設定します。これにより、運動方程式が立てやすくなります。
- つり合いの式を最初に立てておく: (1)で求めた \(mg\sin\theta = kx_0\) のようなつり合いの式は、(2)の運動方程式を簡単にするための鍵となります。必ず最初に計算しておきましょう。
- 運動方程式を \(ma=-Kx\) の形に変形することを目指す: 運動方程式を立てた後、つり合いの式を使って整理し、\(ma = -(\text{正の定数}) \times x\) の形になるかを確認します。この形になれば単振動であり、周期は \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で求まります。この問題では \(K=k\) となりました。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 重力の分解ミス:
- 誤解: 重力 \(mg\) の斜面成分を \(mg\cos\theta\) と間違えたり、分解する方向を間違えたりする。
- 対策: 角度 \(\theta\) がどこに来るかを、図を丁寧に書いて常に確認する癖をつけましょう。斜面が水平に近づく(\(\theta \rightarrow 0\))と、斜面成分は \(0\) に近づくはずなので \(mg\sin\theta\) が正しい、という極端な状況を考えるのも有効な検算方法です。
- つり合いの位置と自然長の位置の混同:
- 誤解: 水平ばね振り子と同じ感覚で、ばねが自然長の点を振動の中心だと考えてしまう。
- 対策: 「力がつりあう位置が中心」という原則を徹底します。重力が関わる場合(鉛直、斜面)、中心は必ず自然長の位置からずれます。このずれを最初に計算することが、問題を正しく解くための第一歩です。
- 周期の式に \(g\) や \(\theta\) を入れてしまう:
- 誤解: 重力や斜面が関係しているので、周期の式にも \(g\) や \(\theta\) が入るのではないかと考えてしまう。
- 対策: 運動方程式を立てて \(ma=-kx\) の形を導出するプロセスを一度自分でしっかり行い、「重力項はつり合いの式によって相殺される」ことを体験的に理解しましょう。ばね振り子の周期は \(m\) と \(k\) だけで決まる、という事実を確信をもって使えるようになります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)でのアプローチ選択(力のつりあい):
- 選定理由: 求めたいのは「単振動の中心」です。物理学における単振動の中心の定義は「復元力がゼロになる点」、すなわち「力がつりあう点」です。したがって、力のつりあいの式を立てるのは、定義から導かれる必然的なアプローチです。
- 適用根拠: 物体に働く力(重力、弾性力)はすべて既知であり、それらが斜面方向でつりあうという条件を数式化することで、未知数であるばねの伸び \(x_0\) を求めることができます。
- (2)でのアプローチ選択(運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは「周期」です。周期は角振動数 \(\omega\) から決まり、角振動数は運動のダイナミクス(力と加速度の関係)によって決まります。力と加速度の関係を記述する基本法則は運動方程式 \(ma=F\) です。
- 適用根拠: (1)で特定した振動の中心を基準として、そこからの変位 \(x\) を用いて運動方程式を立てます。この方程式が単振動の定義式 \(ma=-Kx\) と同じ形になることを示すことで、角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) が特定でき、周期を計算することができます。このプロセスは、その運動が単振動であることを証明し、同時に周期を求めるための最も厳密で基本的な方法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 丁寧な作図:
- 斜面、物体、ばね、そして力のベクトルを丁寧に図に書き込みましょう。特に、重力を分解した成分(\(mg\sin\theta, mg\cos\theta\))と、つり合いの位置(伸び \(x_0\))、そこからの変位 \(x\) を明確に図示することで、立式ミスを大幅に減らすことができます。
- 座標軸と正の向きを明記する:
- 運動方程式を立てる前に、「斜面下向きを正とする」のように、座標軸の向きを自分で宣言する癖をつけましょう。これにより、力の符号を機械的に決定でき、混乱を防げます。
- つり合いの式を有効活用する:
- (2)の運動方程式の計算で、\(ma = mg\sin\theta – kx_0 – kx\) となったときに、すぐに \(mg\sin\theta = kx_0\) を代入して \(ma=-kx\) と変形できるように、(1)で求めたつり合いの式を常に意識しておきましょう。この変形が、重力が関わるばね振り子問題の共通の「決め手」となります。
- 結果の吟味:
- (1)で求めた伸び \(x_0\) が、\(\theta=0\) や \(\theta=90^\circ\) という極端な場合に、既知の答え(\(0\) や \(mg/k\))と一致するかを確認する。
- (2)で求めた周期 \(T\) が、\(\theta\) や \(g\) に依存しない形になっているかを確認する。もしこれらの文字が残っていたら、計算のどこかでつり合いの式の代入を忘れている可能性が高いです。
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231 ばね振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: ばねの並列接続とみなす解法
- 模範解答が、物体に働く力を都度計算して復元力の比例定数を求めるのに対し、別解では2本のばねの配置が「並列接続」と等価であるとみなし、先に合成ばね定数を求めてから周期を計算します。
- 設問(2)の別解: ばねの並列接続とみなす解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの理解深化: 個別の力を足し合わせるという操作が、物理的には「ばねの合成」というモデル化に対応していることを理解できます。
- 知識の体系化: 「並列接続」や「直列接続」といった、ばねの合成に関する知識を整理し、応用する良い機会となります。
- 解法の効率化: ばねの接続の仕方が並列であると瞬時に見抜ければ、より迅速に問題を解くことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「2本のばねで支えられた物体の単振動」です。複数のばねから力を受ける物体の運動を解析し、系全体としての有効なばね定数(復元力の比例定数)を求めて周期を計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フックの法則: 各ばねが自然長から変位したときに生じる弾性力を、\(F=kx\) を用いて正しく計算できること。
- 力の合成: 物体に働く複数の弾性力を、ベクトルとして正しく合成できること。
- 単振動の復元力: 合成された力が、振動の中心からの変位 \(x\) に比例し、常に中心を向く力(\(F=-Kx\) の形)になることを見抜けること。
- 単振動の周期の公式: 復元力の比例定数 \(K\) を用いて、周期を \(T=2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) と計算できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、物体が原点Oから位置 \(x\) に変位したときに、2本のばねがそれぞれどれだけ伸び縮みするかを考えます。フックの法則に従って各ばねからの弾性力を求め、それらの合力を計算します。
- (2)では、(1)で求めた合力が単振動の復元力であることを確認します。復元力の式 \(F=-Kx\) と比較して、この系全体の有効なばね定数 \(K\) を特定し、周期の公式に代入します。