「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 8】プロセス

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

プロセス

1 度数法と弧度法

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答と一部異なる方針で解説を進めます。

  1. 解説の方針が模範解答と異なる点
    • (1) 変換の基準: 模範解答では「\(360^\circ\) が \(2\pi\) rad」であることを基準に比率計算をしていますが、本解説ではより応用が利き、計算も簡潔になることが多い「\(180^\circ\) が \(\pi\) rad」であることを基準に変換を行います。
  2. なぜ模範解答と異なるアプローチを取るのか
    • 計算の簡潔化: \(180^\circ = \pi\) rad を用いると、変換式が \( \theta_{\text{rad}} = \theta_{\text{deg}} \times \displaystyle\frac{\pi}{180} \) となり、多くの場合で計算がよりシンプルになります。
    • 概念的理解の深化: 半円(\(180^\circ\))が \(\pi\) rad に対応するという関係は、三角関数や円運動の議論で頻繁に現れるため、この関係に慣れておくことが物理の学習全体で有利に働きます。
  3. 結果に与える影響
    • 途中の計算式は異なりますが、物理的に正しいアプローチであるため、最終的に得られる値は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「度数法と弧度法の変換」です。物理学、特に円運動や単振動を学ぶ上での基礎となる角度の表現方法をマスターします。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 弧度法(ラジアン)の定義
  2. 度数法と弧度法の関係 (\(180^\circ = \pi\) rad)
  3. 比率を用いた角度の変換

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. \(180^\circ = \pi\) rad という関係式から、\(1^\circ\) あたりのラジアン量を求める。
  2. その関係を用いて、まず直角 (\(90^\circ\)) を弧度法に変換する。
  3. 同様に、\(60^\circ\) を弧度法に変換する。

思考の道筋とポイント
物理、特に円運動や単振動、波動を扱う上で、角度の単位として「度数法(°)」の代わりに「弧度法(ラジアン, rad)」が頻繁に使われます。これは、弧度法を用いると多くの物理公式がシンプルな形で表現できるためです。この問題を通して、度数法から弧度法への変換ルールを理解し、自在に使いこなせるようになることが目的です。変換の鍵は、\(180^\circ = \pi\) rad という非常に重要な関係式です。これを「\(1^\circ\) は何 rad か」という形に直して利用します。

この設問における重要なポイント

  • 弧度法(ラジアン)の定義: 半径 \(r\) の円において、長さ \(r\) の弧に対する中心角の大きさが \(1\) ラジアン (\(1\) rad) です。
  • 円周とラジアン: 円周の長さは \(2\pi r\) なので、円全体 (\(360^\circ\)) の中心角は、\( \displaystyle\frac{2\pi r}{r} = 2\pi \) rad となります。
  • 度数法との関係: 上記より、\(360^\circ = 2\pi\) rad が成り立ちます。この両辺を \(2\) で割ることで、より使いやすい関係式 \(180^\circ = \pi\) rad が得られます。これが変換の基本となります。
  • 変換公式:
    • 度数法から弧度法へ: \(x^\circ = x \times \displaystyle\frac{\pi}{180}\) rad
    • 弧度法から度数法へ: \(y\) rad \( = y \times \displaystyle\frac{180}{\pi}\) 度

具体的な解説と立式
この問題では、度数法で与えられた角度を弧度法に変換します。
基本となる関係式は \(180^\circ = \pi\) rad です。
この式の両辺を \(180\) で割ると、\(1^\circ = \displaystyle\frac{\pi}{180}\) rad という関係が得られます。この関係式を使えば、任意の度数 \(x^\circ\) をラジアンに変換できます。

問1: 直角 (\(90^\circ\)) の変換
直角は \(90^\circ\) です。\(1^\circ = \displaystyle\frac{\pi}{180}\) rad なので、\(90^\circ\) はその \(90\) 倍です。
したがって、求める角度を \(\theta_1\) とすると、
$$
\theta_1 = 90 \times \frac{\pi}{180}
$$

問2: \(60^\circ\) の変換
同様に、\(1^\circ = \displaystyle\frac{\pi}{180}\) rad なので、\(60^\circ\) はその \(60\) 倍です。
したがって、求める角度を \(\theta_2\) とすると、
$$
\theta_2 = 60 \times \frac{\pi}{180}
$$

使用した物理公式

  • 度数法と弧度法の関係式: \(180^\circ = \pi\) rad
  • 度数法から弧度法への変換: \(x^\circ = x \times \displaystyle\frac{\pi}{180}\) [rad]
計算過程

直角 (\(90^\circ\)) の計算
「具体的な解説と立式」で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\theta_1 &= 90 \times \frac{\pi}{180} \\[2.0ex]
&= \frac{90}{180} \pi \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \pi \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2} \quad [\text{rad}]
\end{aligned}
$$

\(60^\circ\) の計算
同様に、\(60^\circ\) についても計算します。
$$
\begin{aligned}
\theta_2 &= 60 \times \frac{\pi}{180} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{180} \pi \\[2.0ex]
&= \frac{1}{3} \pi \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{3} \quad [\text{rad}]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

角度の表し方には、私たちが普段よく使う「度(°)」の他に、物理の世界でとてもよく使われる「ラジアン(rad)」という単位があります。
ピザをイメージすると分かりやすいかもしれません。ピザをまっすぐ半分に切ると \(180^\circ\) の半円になりますね。このとき、カーブしている外側の部分(弧)の長さは、ピザの半径の約 \(3.14\) 倍になります。この「\(3.14…\)」がおなじみの円周率 \(\pi\) です。
この事実から、「\(180^\circ\) は \(\pi\) ラジアンである」というルールが決まっています。
このルールさえ覚えておけば、どんな角度でも変換できます。

  • 「直角」は \(90^\circ\) で、\(180^\circ\) のちょうど半分です。だから、ラジアンで表したときも \(\pi\) の半分の \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad となります。
  • 「\(60^\circ\)」は \(180^\circ\) を \(3\) つに分けたうちの \(1\) つ、つまり \(3\) 分の \(1\) です。だから、ラジアンで表したときも \(\pi\) の \(3\) 分の \(1\) の \(\displaystyle\frac{\pi}{3}\) rad となります。

 

別解: \(360^\circ = 2\pi\) rad を基準にする方法

思考の道筋とポイント
円全体の角度が \(360^\circ\) であり、これが弧度法では \(2\pi\) rad に対応することを利用する方法です。求めたい角度が円全体に対してどれくらいの割合(分数)になるかを考え、その割合を \(2\pi\) rad に掛けることで変換します。これは模範解答で用いられているアプローチです。

この設問における重要なポイント

  • 基準となる関係式: \(360^\circ = 2\pi\) rad
  • 変換の考え方: 求めたい角度を \(\theta_{\text{deg}}\) とすると、ラジアン \(\theta_{\text{rad}}\) は、円全体 (\(2\pi\)) に対する割合を掛けることで求められます。
    $$ \theta_{\text{rad}} = 2\pi \times \frac{\theta_{\text{deg}}}{360} $$
  • この方法は、角度を「円全体に対するパーツ」として直感的に捉えやすい利点があります。

具体的な解説と立式
円周に対する中心角は \(360^\circ\) であり、これは弧度法では \(2\pi\) rad に相当します。

問1: 直角 (\(90^\circ\)) の変換
直角 \(90^\circ\) は、円全体 \(360^\circ\) の \(\displaystyle\frac{90}{360} = \displaystyle\frac{1}{4}\) です。
したがって、弧度法での角度も、円全体を表す \(2\pi\) rad の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) となります。
$$
\theta_1 = 2\pi \times \frac{90}{360}
$$

問2: \(60^\circ\) の変換
\(60^\circ\) は、円全体 \(360^\circ\) の \(\displaystyle\frac{60}{360} = \displaystyle\frac{1}{6}\) です。
したがって、弧度法での角度も、円全体を表す \(2\pi\) rad の \(\displaystyle\frac{1}{6}\) となります。
$$
\theta_2 = 2\pi \times \frac{60}{360}
$$

使用した物理公式

  • 円周の中心角: \(360^\circ = 2\pi\) rad
計算過程

直角 (\(90^\circ\)) の計算
$$
\begin{aligned}
\theta_1 &= 2\pi \times \frac{90}{360} \\[2.0ex]
&= 2\pi \times \frac{1}{4} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2} \quad [\text{rad}]
\end{aligned}
$$

\(60^\circ\) の計算
$$
\begin{aligned}
\theta_2 &= 2\pi \times \frac{60}{360} \\[2.0ex]
&= 2\pi \times \frac{1}{6} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{3} \quad [\text{rad}]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

もう一つの考え方として、「円をぐるっと一周すると \(360^\circ\)。これをラジアンで言うと \(2\pi\) rad になる」というルールを使う方法もあります。

  • 直角 (\(90^\circ\)) は、一周 (\(360^\circ\)) のちょうど \(4\) 分の \(1\) です。だから、ラジアンも一周分 (\(2\pi\)) の \(4\) 分の \(1\) で、\(2\pi \div 4 = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad と計算できます。
  • \(60^\circ\) は、一周 (\(360^\circ\)) の \(6\) 分の \(1\) です。だから、ラジアンも一周分 (\(2\pi\)) の \(6\) 分の \(1\) で、\(2\pi \div 6 = \displaystyle\frac{\pi}{3}\) rad となります。
解答  直角:\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad, \(60^\circ\):\(\displaystyle\frac{\pi}{3}\) rad

2 等速円運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等速円運動における速度・加速度・力の向きの概念的理解」です。一見すると単純ですが、ベクトル量の物理的意味を正確に捉える上で非常に重要な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ベクトルとしての速度と加速度の定義
  2. 「速さ」と「速度」の厳密な違い
  3. 加速度の定義(\(\vec{a} = \displaystyle\frac{\Delta \vec{v}}{\Delta t}\))
  4. 運動方程式(\(m\vec{a} = \vec{F}\))

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 速度の向きを、運動の瞬間的な進行方向として考える。
  2. 加速度の向きを、速度ベクトルの変化(引き算)の向きとして作図から求める。
  3. 力の向きを、運動方程式から加速度の向きと同じであると結論付ける。

思考の道筋とポイント
「速さが一定」という言葉に惑わされないことが、この問題を解く上での最大のポイントです。物理で扱う「速度」は向きを持つベクトル量であり、円運動では物体の進行方向が絶えず変化しています。つまり、「速さ」は一定でも「速度」は変化し続けているのです。
物理法則によれば、速度が変化している(つまり、ゼロでない速度の変化 \(\Delta \vec{v}\) がある)場合、そこには必ず加速度 \(\vec{a}\) が存在します。この加速度の向きが分かれば、運動方程式 \(m\vec{a}=\vec{F}\) を通して、物体に働く力の合力の向きも自ずと明らかになります。

この設問における重要なポイント

  • 等速円運動: 「速さ」が一定の円運動。しかし、進行方向が常に変わるため、「速度」は刻一刻と変化する加速度運動です。
  • 速度 \(\vec{v}\): 常に円の軌道の接線方向を向きます。これは、その瞬間の物体の進行方向そのものです。
  • 加速度 \(\vec{a}\): 常に円の中心方向を向きます。この加速度は速度の「大きさ」を変えるのではなく、速度の「向き」を変化させる役割を担っています。このため、向心加速度と呼ばれます。
  • 力の合力 \(\vec{F}\): 運動方程式 \(m\vec{a}=\vec{F}\) より、力の向きは常に加速度の向きと一致します。したがって、力の合力も円の中心方向を向きます。この力を向心力と呼びます。

具体的な解説と立式
この問題は計算ではなく、物理概念の正しい理解を問うものです。各物理量の向きを順に考えていきましょう。

1. 速度の向き
物体の速度とは、「その瞬間に物体がどちらの方向に進んでいるか」を示すベクトル量です。円運動している物体をある瞬間に切り取って見ると、その物体は円の接線方向に進もうとしています。もし、その瞬間に物体を引っ張る力がなくなれば、物体は慣性の法則に従って、その場から接線方向にまっすぐ飛んでいきます。したがって、速度の向きは常に「円の接線の向き」となります。

2. 加速度の向き
加速度の定義は、単位時間あたりの「速度の変化」です。数式で書くと \(\vec{a} \propto \Delta \vec{v} = \vec{v}_{\text{後}} – \vec{v}_{\text{前}}\) となります。つまり、加速度の向きは、速度変化ベクトル \(\Delta \vec{v}\) の向きと同じです。
ある点Pでの速度を \(\vec{v}\)、そこから微小時間だけ進んだ点Qでの速度を \(\vec{v}’\) とします。等速円運動なので、ベクトルの長さ(速さ)は同じです(\(|\vec{v}| = |\vec{v}’|\))。
速度の変化 \(\Delta \vec{v}\) は、ベクトルの引き算 \(\vec{v}’ – \vec{v}\) で求められます。これらのベクトルの始点を揃えて作図すると、\(\Delta \vec{v}\) は \(\vec{v}\) の終点から \(\vec{v}’\) の終点へ向かうベクトルとなります。
点Qを点Pに限りなく近づける(微小時間を考える)と、この \(\Delta \vec{v}\) の向きは、点Pにおける円の中心方向を向くことが分かります。したがって、加速度の向きは「円の中心の向き」となります。

3. 力の合力の向き
物体の運動と力の関係は、ニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) によって記述されます。
ここで、\(m\) は物体の質量で、向きを持たない正のスカラー量です。この式は、ベクトル \(\vec{a}\) に正のスカラー \(m\) を掛けるとベクトル \(\vec{F}\) になることを意味しており、ベクトル \(\vec{F}\) と \(\vec{a}\) の向きが完全に一致することを示しています。
上で見たように、等速円運動の加速度 \(\vec{a}\) は常に円の中心を向いています。したがって、物体が受けている力の合力 \(\vec{F}\) も常に「円の中心の向き」を向くことになります。

使用した物理公式

  • 加速度の定義: \(\vec{a} = \displaystyle\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta \vec{v}}{\Delta t} = \displaystyle\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\vec{v}(t+\Delta t) – \vec{v}(t)}{\Delta t}\)
  • 運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\)
計算過程

この問題は物理概念に関する問いであり、具体的な計算過程はありません。

この設問の平易な説明

ハンマー投げをイメージしてみましょう。選手がハンマーをぐるぐる回している状態が等速円運動です。

  • 速度の向きは?:もし選手がワイヤーをパッと離したら、ハンマーはどの方向に飛んでいくでしょうか?まっすぐ、離した瞬間の接線方向に飛んでいきますね。これが「速度の向き」です。
  • 力の向きは?:ハンマーが円を描いて飛び去らないのは、選手がワイヤーを常に自分(円の中心)に向かって引っ張り続けているからです。この「中心に引く力」がなければ円運動はできません。これが「力の合力の向き」です。
  • 加速度の向きは?:物理の世界の大きなルールに、「力の向きと加速度の向きは同じ」というものがあります(運動方程式)。選手が中心に向かって力を加えているので、加速度も同じく「円の中心の向き」になります。「速さが一定なのに加速?」と不思議に思うかもしれませんが、物理でいう「加速」はスピードアップだけでなく、「向きを変える」働きも含まれます。円運動では、中心向きの力が常にハンマーの進行方向を内側へ内側へと曲げ続けているのです。この「向きを変える」働きが加速度の正体です。
解答  速度:円の接線の向き, 加速度:円の中心の向き, 合力:円の中心の向き

3 等速円運動の向心力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等速円運動における向心力としての静止摩擦力」です。円運動を維持するために必要な「向心力」の正体が、この場面ではどの力なのかを突き止める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等速円運動には中心向きの力(向心力)が必要であること。
  2. 運動方程式 (\(m\vec{a} = \vec{F}\))。
  3. 静止摩擦力の役割と向き。
  4. (別解)非慣性系と遠心力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体が等速円運動していることから、加速度の向きを特定する。
  2. 運動方程式を用いて、物体に働く合力の向きを特定する。
  3. 物体に働く水平方向の力をリストアップし、合力の正体が摩擦力であることを突き止める。

思考の道筋とポイント
この問題は、直前の問題「2 等速円運動」で学んだ知識を応用する絶好の機会です。問題2では、等速円運動する物体には、必ず「円の中心向きの加速度」と「円の中心向きの合力」が存在することを確認しました。
この問題のポイントは、その「円の中心向きの合力」の役割を、具体的にどの力が担っているのかを考える点にあります。物体は回転盤の上で滑らずに一緒に回っています。もし摩擦がなければ、物体は慣性の法則に従ってまっすぐ進もうとし、回転盤の上から外側にずれていってしまいます。それを防ぎ、円運動を続けさせているのが、回転盤と物体の間の静止摩擦力なのです。

この設問における重要なポイント

  • 向心力: 物体を円運動させるために必要な、常に円の中心を向く力のことです。向心力という名前の力が単独で存在するわけではなく、張力、万有引力、摩擦力といった、その場に存在する具体的な力が「向心力としての役割」を担います。
  • 静止摩擦力: 物体が接触面に対して滑り出そうとするのを妨げる向きに働きます。この問題では、物体は慣性によって円の外側へ飛び出そうとする傾向を持ちます。それを妨げるために、静止摩擦力は円の中心(イの向き)に働きます。
  • 慣性系: 加速していない静止した観測者(例えば、回転盤の外の床に立っている人)から見た世界です。ニュートンの運動法則がそのままの形で成り立ちます。

具体的な解説と立式
この問題は、静止した観測者(慣性系)の視点から考えます。

  1. まず、物体は回転盤とともに「等速円運動」をしています。問題2で学んだように、等速円運動をしている物体の加速度 \(\vec{a}\) は、常に円の中心を向いています。
  2. 次に、運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) を考えます。この式から、物体に働く力の合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) の向きは、加速度 \(\vec{a}\) の向きと完全に一致します。つまり、合力も円の中心を向いている必要があります。
  3. 最後に、この物体に実際に働いている力をリストアップし、合力の正体を突き止めます。
    • 鉛直方向:重力(下向き)と、回転盤からの垂直抗力(上向き)が働いており、これらはつり合っています。
    • 水平方向:物体が回転盤から受ける力は「静止摩擦力」のみです。
  4. 以上のことから、水平方向の合力は静止摩擦力そのものです。そして、その合力の向きは円の中心を向いている必要があるので、結論として、静止摩擦力の向きは円の中心方向である「イ」となります。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\)
  • 等速円運動の加速度の向き: 円の中心向き
計算過程

この問題は物理概念に関する問いであり、具体的な計算過程はありません。

この設問の平易な説明

あなたがバスに乗って急カーブを曲がる場面を想像してみてください。カーブを曲がる瞬間、あなたの体はカーブの外側に押し付けられるように感じますよね。これは、あなたの体が「まっすぐ進み続けたい」という性質(慣性)を持っているからです。それでもあなたがバスと一緒にカーブを曲がれるのは、座席とのお尻の間の摩擦や、自分で手すりを掴む力(中心向きの力)が、あなたをカーブの内側へ引っ張ってくれているおかげです。
この問題の物体も全く同じです。物体は本当はまっすぐ進みたい。でも回転盤が動くから、一緒に曲がらなければなりません。そのために、回転盤の表面が、物体が外に滑り出さないように中心に向かって「グイッ」と引き留めてあげる必要があります。この引き留める力が「静止摩擦力」です。したがって、摩擦力の向きは中心向きの「イ」になります。

別解: 非慣性系(回転する物体の上)から見た考え方

思考の道筋とポイント
観測者が物体と一緒に回転盤に乗っている、という特殊な視点(非慣性系)で考えてみます。この観測者から見ると、物体はずっと目の前で「静止」しています。物理では、物体が静止しているとき、その物体に働く力は「つりあっている」と考えます。この視点では、「遠心力」という見かけの力を導入することで、力のつりあいを考えられるようになります。

この設問における重要なポイント

  • 非慣性系(回転座標系): 加速している(この場合は回転している)観測者から見た世界です。
  • 遠心力: 回転する非慣性系で観測したときに現れる「見かけの力」です。常に回転の中心から遠ざかる向きに働きます。
  • 力のつりあい: この観測者から見ると物体は静止しているので、物体に働くすべての力(実際に存在する力+見かけの力)はつりあっているように見えます。

具体的な解説と立式
物体と一緒に回転盤の上に乗っている観測者の視点で考えます。

  1. この観測者から見ると、物体は常に同じ位置にあり、「静止」しています。
  2. 物体が静止しているということは、物体に働く水平方向の力がつりあっているように見えます。
  3. この観測者には、物体に以下の \(2\) つの水平方向の力が働いているように見えます。
    • 回転盤から受ける「静止摩擦力 \(\vec{f}\)」
    • 見かけの力である「遠心力 \(\vec{F}_{\text{遠心力}}\)」
  4. 遠心力は、定義により、常に回転の中心から遠ざかる向き(エの向き)に働きます。
  5. 物体が静止している(力がつりあっている)ためには、静止摩擦力 \(\vec{f}\) が、遠心力 \(\vec{F}_{\text{遠心力}}\) とちょうど反対向きで、同じ大きさでなければなりません。
    (中心向きの力)=(外向きの力)
    $$ f = F_{\text{遠心力}} $$
  6. したがって、静止摩擦力 \(\vec{f}\) の向きは、遠心力(エの向き)とは逆の、円の中心を向く「イ」となります。

使用した物理公式

  • 非慣性系での力のつりあい
  • 遠心力の向き: 回転の中心から遠ざかる向き
計算過程

この問題は物理概念に関する問いであり、具体的な計算過程はありません。

この設問の平易な説明

あなたが回転盤の上の物体そのものになったと想像してください。目が回って、外側に放り出されそうな強い力を感じますよね。これが「遠心力」です。でも、あなたは回転盤の上にいられます。それは、足元(回転盤の表面)が、あなたが外に飛び出さないように、内側(中心)に向かって踏ん張ってくれているからです。この踏ん張りが「静止摩擦力」です。外向きに感じる遠心力と、内向きに働く静止摩擦力がちょうどつりあっているので、あなたは回転盤の上で静止していられるのです。したがって、摩擦力は中心向きの「イ」になります。

解答  イ
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4 等速円運動の基本量

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等速円運動の基本量の計算」です。問題文で与えられた情報から、周期、速さ、角速度、向心力といった円運動を特徴づける物理量を公式に基づいて計算する、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 周期、振動数、角速度、速さの定義と相互関係
  2. 等速円運動の運動方程式
  3. 向心力の公式 (\(F=mr\omega^2\) または \(F=m\displaystyle\frac{v^2}{r}\))
  4. 有効数字の処理

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文の「\(6.0 \, \text{s}\) 間に \(3.0\) 回転」という情報から、まず周期 \(T\)(または振動数 \(f\))を求める。
  2. 求めた周期 \(T\) を使って、速さ \(v\) と角速度 \(\omega\) を公式から計算する。
  3. 最後に、質量 \(m\)、半径 \(r\)、そして求めた \(v\) または \(\omega\) を使って向心力の大きさ \(F\) を計算する。

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