「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅱ 章 8】基本例題~基本問題209

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基本例題

基本例題27 等速円運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)(ウ)の別解: 速さ \(v\) を用いて向心力を求める解法
      • 模範解答が角速度 \(\omega\) を用いて運動方程式を立てるのに対し、別解では速さ \(v\) を用いて運動方程式を立てます。
    • 設問(2)の別解: 先に限界速さ \(v\) を求めてから角速度 \(\omega\) を求める解法
      • 模範解答が運動方程式から直接、限界の角速度を求めるのに対し、別解ではまず糸が切れる限界の速さを求め、その結果から角速度を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の柔軟性向上: 向心力の表現には \(mr\omega^2\) と \(m\frac{v^2}{r}\) の2通りがあることを学び、問題で与えられた条件や求める量に応じて、どちらの公式を使えば効率的かを判断する訓練になります。
    • 物理概念の深化: 速さ \(v\) と角速度 \(\omega\) という異なる物理量が、\(v=r\omega\) という関係で結びついていることを再確認し、円運動の多面的な理解を深めることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「なめらかな水平面上での等速円運動」です。円運動を記述するための基本的な物理量(周期、角速度、速さ)の関係と、円運動を引き起こす「向心力」の概念を正しく理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等速円運動の基本公式: 周期 \(T\)、角速度 \(\omega\)、速さ \(v\)、半径 \(r\) の間には、\(\omega = \frac{2\pi}{T}\) や \(v=r\omega\) といった基本的な関係があること。
  2. 向心力: 円運動をする物体には、常に円の中心を向いた力(向心力)が働いていること。この向心力は、重力や張力といった、物体に実際に働く力の合力によって供給される。
  3. 円運動の運動方程式: 物体の質量を \(m\)、向心力の大きさを \(F\) とすると、運動方程式は \(ma=F\) と書ける。ここで加速度 \(a\) は向心加速度であり、\(a=r\omega^2\) または \(a=m\frac{v^2}{r}\) と表される。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず(ア)で周期 \(T\) から角速度 \(\omega\) を定義式より求めます。(イ)では、(ア)で求めた \(\omega\) と半径 \(r\) を用いて速さ \(v\) を計算します。(ウ)では、物体に働く力を考え、糸の張力が向心力として作用していることから、円運動の運動方程式を立てて張力を求めます。
  2. (2)では、(1)で立てた運動方程式を利用します。糸が切れる限界の張力 \(18\,\text{N}\) を運動方程式に代入し、そのときの角速度を逆算します。

問(1)

(ア) 角速度

思考の道筋とポイント
角速度 \(\omega\) は、\(1\) 秒あたりに回転する角度(ラジアン)を表します。物体は周期 \(T\) 秒で \(1\) 周(\(2\pi\) ラジアン)するので、角速度は \(2\pi\) を \(T\) で割ることで求められます。これは角速度の定義そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 周期 \(T\) は、\(1\) 周するのにかかる時間である。
  • \(1\) 周の角度は \(2\pi\) ラジアンである。
  • 角速度は以下の関係式で表されることを理解していること。$$ \omega = \frac{\text{回転した角度}}{\text{かかった時間}} $$

具体的な解説と立式
周期 \(T\) と角速度 \(\omega_1\) の関係式は、
$$ \omega_1 = \frac{2\pi}{T} $$
です。問題ではこの関係式を用いて角速度を表現することが求められています。

使用した物理公式

  • 角速度と周期の関係式: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\)
計算過程

この設問では、与えられた文字 \(T\) を用いて角速度を表すため、具体的な計算はありません。上記の立式がそのまま答えとなります。

この設問の平易な説明

「角速度」とは、物体がどれくらいのペースで「角度」を変えていくか、という速さのことです。この物体は \(T\) 秒かけて \(1\) 周、つまり \(360\) 度(物理では \(2\pi\) ラジアンと言います)回転します。なので、\(1\) 秒あたりの回転角度は、単純に \(2\pi\) を \(T\) で割れば計算できます。

結論と吟味

角速度は \(\omega_1 = \frac{2\pi}{T}\) と表されます。周期 \(T\) が短いほど、角速度は大きくなり、速く回転することに対応しており、物理的に妥当です。

解答 (1)(ア) 角速度: \(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\)

(イ) 小物体の速さ

思考の道筋とポイント
物体の速さ \(v\) は、角速度 \(\omega\) と回転半径 \(r\) を用いて \(v=r\omega\) と表されます。(ア)で求めた角速度 \(\omega_1\) をこの式に代入することで、速さ \(v\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 速さ \(v\)、半径 \(r\)、角速度 \(\omega\) の関係式 \(v=r\omega\) を正しく使えること。

具体的な解説と立式
速さ \(v\) は、半径 \(r\) と角速度 \(\omega_1\) を用いて、
$$ v = r\omega_1 $$
と表されます。(ア)で求めた \(\omega_1 = \frac{2\pi}{T}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 速さと角速度の関係式: \(v=r\omega\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v &= r\omega_1 \\[2.0ex]
&= r \times \frac{2\pi}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi r}{T}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

物体の「速さ」は、円周の長さ(\(2\pi r\))を、\(1\) 周するのにかかる時間(\(T\))で割ることで求められます。これは小学校で習う「速さ=道のり÷時間」と同じ考え方です。また、(ア)で求めた「角度の速さ」に「半径」を掛けても計算できます。

結論と吟味

速さは \(v = \frac{2\pi r}{T}\) と求まりました。この式は、円周 \(2\pi r\) を周期 \(T\) で割ったものに等しく、速さの定義と一致しており妥当です。

解答 (1)(イ) 小物体の速さ: \(\displaystyle\frac{2\pi r}{T}\)

(ウ) 糸の張力の大きさ

思考の道筋とポイント
物体はなめらかな水平面上で運動しており、鉛直方向には重力と垂直抗力がつり合っています。水平方向には糸の張力のみが働き、この張力が円運動の中心を向く「向心力」の役割を果たしています。したがって、円運動の運動方程式を立てることで、張力の大きさを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 物体に働く水平方向の力は、糸の張力 \(S\) のみである。
  • この張力 \(S\) が、等速円運動の向心力となっている。
  • 円運動の運動方程式 \(ma = F\) において、加速度は向心加速度 \(a=r\omega^2\) を用いる。

具体的な解説と立式
糸の張力の大きさを \(S\) とします。この張力 \(S\) が向心力となり、物体は等速円運動をします。質量 \(m\)、半径 \(r\)、角速度 \(\omega_1\) の円運動における運動方程式は、
$$ m(r\omega_1^2) = S $$
となります。この式を \(S\) について整理し、(ア)で求めた \(\omega_1 = \frac{2\pi}{T}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
S &= mr\omega_1^2 \\[2.0ex]
&= mr \left( \frac{2\pi}{T} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi^2 mr}{T^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

物体を円運動させるためには、常に中心に向かって引っ張り続ける力が必要です。この力を「向心力」と呼びます。この問題では、糸が物体を引っ張る力(張力)が、その向心力の役割をすべて担っています。したがって、張力の大きさは、向心力の大きさを計算する公式 \(mr\omega^2\) から求めることができます。

結論と吟味

張力の大きさは \(S = \frac{4\pi^2 mr}{T^2}\) と求まりました。この式から、質量 \(m\) や半径 \(r\) が大きいほど、また周期 \(T\) が短い(=速く回転する)ほど、大きな張力が必要になることがわかります。これは物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1)(ウ) 糸の張力の大きさ: \(\displaystyle\frac{4\pi^2 mr}{T^2}\)
別解: 速さ \(v\) を用いて向心力を求める解法

思考の道筋とポイント
向心力の大きさは、角速度 \(\omega\) を用いる \(mr\omega^2\) の他に、速さ \(v\) を用いる \(m\frac{v^2}{r}\) という形でも表せます。(イ)で求めた速さ \(v\) を使って、こちらの公式から張力を求めることも可能です。
この設問における重要なポイント

  • 向心力の表現には \(F=mr\omega^2\) と \(F=m\frac{v^2}{r}\) の2通りがある。
  • (イ)で求めた速さ \(v = \frac{2\pi r}{T}\) を利用する。

具体的な解説と立式
糸の張力 \(S\) は向心力に等しいので、速さ \(v\) を用いた運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = S $$
となります。この式に、(イ)で求めた \(v = \frac{2\pi r}{T}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
S &= m\frac{v^2}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{m}{r} \left( \frac{2\pi r}{T} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{m}{r} \cdot \frac{4\pi^2 r^2}{T^2} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi^2 mr}{T^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

向心力(この問題では張力)を計算する公式には、角速度を使うものと、速さを使うものの2種類があります。この別解では、(イ)で計算した速さを使って、張力を求めています。もちろん、どちらの方法を使っても、最終的な答えは同じになります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果 \(S = \frac{4\pi^2 mr}{T^2}\) が得られました。問題に応じて、角速度と速さのどちらを使うかを選択することで、計算を簡略化できる場合があります。

解答 (1)(ウ) 糸の張力の大きさ: \(\displaystyle\frac{4\pi^2 mr}{T^2}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
角速度が大きくなるほど、円運動に必要な向心力、すなわち糸の張力は大きくなります。糸が切れるのは、この張力が限界値の \(18\,\text{N}\) に達したときです。(1)(ウ)で立てた運動方程式 \(S = mr\omega^2\) に、\(S=18\,\text{N}\) と与えられた \(m, r\) の値を代入し、そのときの角速度 \(\omega_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 糸が切れる条件は、張力が限界値 \(S=18\,\text{N}\) に達すること。
  • 運動方程式 \(S = mr\omega^2\) を \(\omega\) について解く。

具体的な解説と立式
糸が切れる直前の角速度を \(\omega_2\) とします。このとき、糸の張力は限界値の \(18\,\text{N}\) に等しくなります。したがって、円運動の運動方程式は、
$$ mr\omega_2^2 = 18 $$
となります。この式を \(\omega_2\) について解きます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
計算過程

与えられた値を代入して \(\omega_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(0.50 \times 1.0) \omega_2^2 &= 18 \\[2.0ex]
0.50 \omega_2^2 &= 18 \\[2.0ex]
\omega_2^2 &= \frac{18}{0.50} \\[2.0ex]
\omega_2^2 &= 36
\end{aligned}
$$
\(\omega_2 > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega_2 &= \sqrt{36} \\[2.0ex]
&= 6.0\,\text{rad/s}
\end{aligned}
$$
したがって、角速度が \(6.0\,\text{rad/s}\) よりも大きくなると、張力が \(18\,\text{N}\) を超えて糸が切れます。

この設問の平易な説明

回転のペースをどんどん上げていくと、糸にかかる力(張力)も強くなっていきます。この糸は \(18\,\text{N}\) の力までしか耐えられません。ちょうど張力が \(18\,\text{N}\) になる瞬間の「回転のペース(角速度)」はいくつですか?という問題です。(1)で使った式に、張力 \(S=18\) などの具体的な数字を当てはめて逆算すれば答えが出ます。

結論と吟味

角速度が \(6.0\,\text{rad/s}\) のときに張力が限界値に達することがわかりました。したがって、これよりも角速度が大きくなると糸は切れます。答えの有効数字も2桁で適切です。

解答 (2) \(6.0\,\text{rad/s}\)
別解: 先に限界速さ \(v\) を求めてから角速度 \(\omega\) を求める解法

思考の道筋とポイント
角速度を直接求める代わりに、まず糸が切れる限界の速さ \(v_{\text{最大}}\) を求め、その速さから \(v=r\omega\) の関係式を使って限界の角速度 \(\omega_{\text{最大}}\) を計算する方法です。速さを用いた運動方程式 \(S = m\frac{v^2}{r}\) を利用します。
この設問における重要なポイント

  • まず、限界張力 \(S=18\,\text{N}\) のときの速さ \(v_{\text{最大}}\) を求める。
  • 次に、\(v_{\text{最大}} = r\omega_{\text{最大}}\) の関係から角速度 \(\omega_{\text{最大}}\) を求める。

具体的な解説と立式
糸が切れる直前の速さを \(v_{\text{最大}}\) とします。このとき、張力は \(18\,\text{N}\) なので、速さを用いた運動方程式は、
$$ m\frac{v_{\text{最大}}^2}{r} = 18 $$
となります。この式から \(v_{\text{最大}}\) を求め、次に \(v_{\text{最大}} = r\omega_{\text{最大}}\) の関係を用いて、限界の角速度 \(\omega_{\text{最大}}\) を求めます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F\)
  • 速さと角速度の関係式: \(v=r\omega\)
計算過程

まず、限界の速さ \(v_{\text{最大}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0.50 \times \frac{v_{\text{最大}}^2}{1.0} &= 18 \\[2.0ex]
0.50 v_{\text{最大}}^2 &= 18 \\[2.0ex]
v_{\text{最大}}^2 &= 36
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{最大}} > 0\) なので、
$$ v_{\text{最大}} = 6.0\,\text{m/s} $$
次に、この速さから限界の角速度 \(\omega_{\text{最大}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\omega_{\text{最大}} &= \frac{v_{\text{最大}}}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0}{1.0} \\[2.0ex]
&= 6.0\,\text{rad/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず「糸が切れるのは、物体の速さが何 \(\text{m/s}\) になったときか?」を計算します。計算すると、秒速 \(6.0\,\text{m}\) だとわかります。次に、「秒速 \(6.0\,\text{m}\) で回っているとき、その回転ペース(角速度)はいくつか?」を計算し直す、という二段階の方法です。もちろん、答えは同じになります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果 \(6.0\,\text{rad/s}\) が得られました。問題によっては、速さを経由して考えた方が直感的に分かりやすい場合もあります。

解答 (2) \(6.0\,\text{rad/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 等速円運動の運動学的関係式
    • 核心: この問題は、まず円運動を記述するための基本的な物理量(周期、角速度、速さ)の関係を正しく理解しているかを問うています。これらは運動の原因である「力」を考える前に、運動の様子そのものを表現するための言語です。
    • 理解のポイント:
      • 角速度 \(\omega\): \(1\) 秒あたりに回転する角度(ラジアン)を表します。周期 \(T\) で \(1\) 周(\(2\pi\) ラジアン)することから、定義式 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) が導かれます。
      • 速さ \(v\): 円周の長さ \(2\pi r\) を周期 \(T\) で割ったものですが、角速度 \(\omega\) とは \(v=r\omega\) という非常に重要な関係で結びついています。これは、同じ角速度でも半径が大きいほど速く移動することを意味します。
  • 円運動の運動方程式(向心力の理解)
    • 核心: 物体がまっすぐ進まずに円を描いて運動し続けるためには、常に円の中心に向かって引き続ける力が必要である、という力学的な原理を理解することです。この力のことを「向心力」と呼びます。
    • 理解のポイント:
      • 向心力の正体: 向心力は、重力や張力のように独立して存在する力ではありません。物体に実際に働いている様々な力(この問題では糸の張力)の「合力」が、円運動の中心を向いている場合に、その合力を「向心力」と呼びます。
      • 運動方程式の適用: 円運動の運動方程式は \(ma=F\) と書けます。ここで加速度 \(a\) は「向心加速度」であり、\(a=r\omega^2\) または \(a=\frac{v^2}{r}\) と表されます。\(F\) には向心力の正体である力の大きさを代入します。この問題では、\(mr\omega^2 = S\) という式が核心となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 円錐振り子: おもりを糸で吊るし、水平面内でくるくる回す運動。この場合、重力と糸の張力の「合力」が水平方向の向心力となります。鉛直方向の力のつりあいと、水平方向の運動方程式の2本を立てるのが定石です。
    • 回転する円盤上の物体(レコード盤の上のコインなど): 物体と一緒に円盤が回転する運動。物体が滑り出さないのは、静止摩擦力が向心力の役割を果たしているからです。角速度が大きくなると、必要な向心力も増大し、やがて最大静止摩擦力を超えて物体は外に飛び出します。
    • 万有引力による円運動: 地球の周りを回る月や人工衛星の運動。この場合は、地球との間に働く万有引力が向心力となります。
    • カーブを曲がる自動車: タイヤと路面の間の静止摩擦力が、車体をカーブの内側に向ける向心力となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずは力をすべて図示する: どんな力学の問題でも基本です。重力、張力、垂直抗力、摩擦力など、物体に働く力をベクトル矢印で漏れなく書き込みます。
    2. 円運動の中心と半径を特定する: 物体がどの点を中心に、どれくらいの半径で回っているのかを正確に把握します。円錐振り子などでは、半径が糸の長さと異なるため特に注意が必要です。
    3. 向心力の正体を見抜く: 図示した力の中で、どの力が(あるいはどの力の成分の合力が)円運動の中心を向いているかを見つけ出します。これが円運動の問題を解く上での最大の鍵です。
    4. 運動方程式を立てる方向を決める: 円運動の中心に向かう方向を正として、その方向について運動方程式を立てます。円運動の平面に垂直な方向(例えばこの問題の鉛直方向)については、力がつり合っている場合が多いです。
    5. \(mr\omega^2\) と \(m\frac{v^2}{r}\) を使い分ける:
      • 周期 \(T\) や角速度 \(\omega\)(回転数)が与えられている、あるいは問われている場合は → \(mr\omega^2 = F\) を使うと計算が早いです。
      • 速さ \(v\) が与えられている、あるいは問われている場合は → \(m\frac{v^2}{r} = F\) を使うと便利です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「向心力」という未知の力を書き加えてしまう:
    • 誤解: 物体に働く力を図示する際に、重力、張力などと並べて、円の中心向きに「向心力 \(F\)」という力を書き込んでしまう。
    • 対策: 向心力は力の「種類」ではなく、力の「役割」の名前だと覚えましょう。物体に実際に働いている具体的な力(この問題なら張力)が、円運動をさせる役割を担っているのです。力の図示では、あくまで重力、張力、摩擦力といった具体的な力だけを書き出します。
  • 遠心力と混同して「力のつりあい」と考えてしまう:
    • 誤解: 「中心向きの張力と、外向きの遠心力がつり合っている」と考えて、\(S – mr\omega^2 = 0\) のような式を立ててしまう。
    • 対策: 遠心力は、回転する物体と一緒に動く特殊な視点(非慣性系)で考えたときの「見かけの力」です。高校物理の基本は、床で静止している人の視点(慣性系)で考えることです。この視点では、物体には中心向きの力しか働いておらず、その力によって「加速」している(運動方程式が成り立つ)と考えます。つりあいではなく「運動方程式 \(ma=F\)」を立てる、と徹底しましょう。
  • 公式のうろ覚えによるミス:
    • 誤解: 向心加速度の公式を \(r^2\omega\) や \(\frac{v}{r^2}\) のように、文字や次数の組み合わせを間違えて覚えてしまう。
    • 対策: 単位で検算する癖をつけましょう。加速度の単位は \(\text{m/s}^2\) です。
      • \(r\omega^2\) の単位は \(\text{m} \times (\text{rad/s})^2 = \text{m/s}^2\) となりOK。(radは無次元なので無視できます)
      • \(\frac{v^2}{r}\) の単位は \((\text{m/s})^2 / \text{m} = (\text{m}^2/\text{s}^2) / \text{m} = \text{m/s}^2\) となりOK。
      • このように単位を確認すれば、公式が正しいかどうかをチェックできます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)(ア)(イ)での公式選択(運動学の定義式):
    • 選定理由: 設問で問われているのは「角速度 \(\omega\)」と「速さ \(v\)」であり、与えられているのは「周期 \(T\)」です。これらは運動の原因である「力」とは無関係に、運動の様子( kinematics: 運動学)を記述する量同士の関係です。
    • 適用根拠: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) は、「\(T\) 秒で \(1\) 周(\(2\pi\) ラジアン)回るときの、\(1\) 秒あたりの回転角は?」という角速度の定義そのものです。また、\(v=r\omega\) は、角速度(角度の速さ)を実際の移動速度に変換するための、弧度法の定義から導かれる最も基本的な関係式です。したがって、これらの定義式を用いるのは必然的な選択です。
  • (1)(ウ)での公式選択(円運動の運動方程式):
    • 選定理由: 問われているのは「張力 \(S\)」という「力」です。力と運動(この場合は円運動という加速度運動)の関係を記述する法則は、運動方程式 \(ma=F\) しかありません。
    • 適用根拠: 物体は円運動をしているため、その加速度は向心加速度 \(a=r\omega^2\) であることが分かっています。そして、その加速度を生み出している原因の力(向心力 \(F\))は、物体に働く唯一の水平方向の力である張力 \(S\) です。これらの物理的な事実を \(ma=F\) の形に当てはめることで、\(mr\omega^2 = S\) という関係式が論理的に導かれます。
  • (2)でのアプローチ選択(運動方程式の応用):
    • 選定理由: 「糸が切れる」という物理現象を、数式で表現する必要があります。これは「張力 \(S\) が限界値 \(18\,\text{N}\) に達する」ことと同じです。この条件と、(1)で確立した物理法則(\(S=mr\omega^2\))を結びつけることで、未知数である限界の角速度 \(\omega_2\) を求めることができます。
    • 適用根拠: (1)で導いた \(S=mr\omega^2\) という関係は、この物体が円運動をする限り常に成り立つ普遍的な法則です。したがって、特定の条件(\(S=18\,\text{N}\))をこの式に代入して、そのときの \(\omega\) を求めるという操作は、物理的に完全に正当です。これは、方程式を使って未知数を求めるという数学的な操作に他なりません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 式を立ててから数値を代入する:
    • (2)の計算で、いきなり \(0.50 \times 1.0 \times \omega_2^2 = 18\) と書くのではなく、まず \(mr\omega_2^2 = S\) という文字式の関係を明確にし、それを \(\omega_2^2 = \frac{S}{mr}\) のように解きたい変数について整理してから、最後に数値を代入する癖をつけましょう。見通しが良くなり、代入ミスや転記ミスを防げます。
  • 単位を意識して検算する:
    • 計算の途中で、式の両辺の単位が合っているかを確認しましょう。例えば、\(\omega_2^2 = \frac{S}{mr}\) の右辺の単位は \(\frac{\text{N}}{\text{kg} \cdot \text{m}}\) です。ここで \(\text{N} = \text{kg} \cdot \text{m/s}^2\) であることを思い出すと、\(\frac{\text{kg} \cdot \text{m/s}^2}{\text{kg} \cdot \text{m}} = \frac{1}{\text{s}^2}\) となります。これは角速度 \(\omega\) の単位 \((\text{rad/s})\) の2乗と一致しており、式が正しそうだと確認できます。
  • 平方根の計算を丁寧に行う:
    • (2)では \(\omega_2^2 = 36\) となり計算は簡単ですが、もし \(\omega_2^2 = 3.6\) のようになった場合、\(\omega_2 = \sqrt{3.6} = \sqrt{\frac{36}{10}} = \frac{6}{\sqrt{10}}\) のように焦らず変形します。あるいは、\(\omega_2^2 = 144\) なら \(\omega_2 = 12\)、\(\omega_2^2 = 1.44\) なら \(\omega_2 = 1.2\) のように、小数点の位置と桁数の関係を落ち着いて処理することが大切です。
  • 物理的な直感と照らし合わせる:
    • (1)(ウ)で求めた張力の式 \(S = \frac{4\pi^2 mr}{T^2}\) を見てみましょう。質量 \(m\) が大きいほど、半径 \(r\) が大きいほど、周期 \(T\) が短い(速く回る)ほど、張力 \(S\) が大きくなる、という関係になっています。これは「重いものを」「大きな円で」「速く」回すほど、糸が切れそうになるという日常的な感覚と一致します。このように、得られた結果が直感に合うかを確認するのも良い検算方法です。

基本例題28 慣性力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1), (2)の別解: 地面に静止した観測者から見た運動方程式を用いる解法
      • 模範解答が台車上の観測者の視点(非慣性系)で「慣性力」という見かけの力を導入し、「力のつりあい」として解くのに対し、別解では地面に静止した観測者の視点(慣性系)で、物体が台車とともに加速する様子を「運動方程式」で解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 同じ現象を異なる立場(慣性系と非慣性系)から見ることで、慣性力がなぜ導入されるのか、その本質(加速度運動する物体から見たときの「見かけの力」であること)を深く理解できます。
    • 解法の選択肢拡大: 慣性系の運動方程式で解く方法は、力学の最も基本的なアプローチです。この基本に立ち返ることで、慣性力の概念がなくても問題を解けることを確認し、思考の基礎を固めることができます。
    • 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、力のつりあいで考えた方が楽な場合(非慣性系)と、運動方程式で考えた方が直感的な場合(慣性系)があり、両方の視点を持つことで、より柔軟に問題に取り組む力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれの視点で解いても、最終的に得られる答えは完全に一致します。

この問題のテーマは「慣性力」です。加速度運動する乗り物(非慣性系)の中から物体の運動を見るときに現れる「見かけの力」である慣性力の概念を理解し、それを用いて力のつりあいを考えることが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 慣性力: 加速度 \(a\) で運動する観測者から質量 \(m\) の物体を見ると、物体には観測者の加速度と逆向きに、大きさ \(ma\) の「慣性力」という見かけの力が働いているように見えること。
  2. 非慣性系での力のつりあい: 加速度運動する観測者(非慣性系)から見て物体が静止している場合、その物体にはたらく「実在の力」と「慣性力」の合力が \(0\) になっている(=力がつり合っている)と考えることができる。
  3. 静止摩擦力と最大静止摩擦力: 物体が滑り出さないように働く静止摩擦力には限界があり、その最大値(最大静止摩擦力)は \(F_{\text{最大}} = \mu N\) (\(\mu\): 静止摩擦係数, \(N\): 垂直抗力)で与えられること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題の指示通り「台車上から見た」視点(非慣性系)で考えます。物体に働く実在の力(重力、垂直抗力、静止摩擦力)に加えて、見かけの力である「慣性力」を図示します。台車上からは物体は静止して見えるので、これらの力がつり合っているという式を立てて、摩擦力の大きさを求めます。
  2. (2)では、(1)の状況で台車の加速度 \(a\) を大きくしていくと考えます。加速度が大きくなると慣性力も大きくなり、それとつり合うために静止摩擦力も大きくなります。物体が「すべり出す直前」には、この静止摩擦力が最大静止摩擦力 \(\mu N\) に達すると考え、そのときの力のつりあいの式から加速度 \(a\) を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「台車上から見る」という視点(非慣性系)で物体の運動を考えることです。この視点では、物体に働く力として、実際に接触したり引かれたりして働く「実在の力」に加えて、台車が加速することによって生じる「見かけの力」、すなわち「慣性力」を考慮する必要があります。台車上の観測者から見れば、物体は目の前で静止しているので、これらの力の合計がつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント

  • 観測者は加速度 \(a\) で運動する台車上にいる(非慣性系)。
  • 物体には、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、静止摩擦力 \(F\) という実在の力に加え、見かけの力である慣性力が働く。
  • 慣性力の大きさは \(ma\) で、向きは観測者の加速度(右向き)とは逆の「左向き」である。
  • 台車上から見ると物体は静止しているので、水平方向、鉛直方向ともに力がつり合っている。

具体的な解説と立式
台車上の観測者から見たときに物体にはたらく力は以下の通りです。

  • 重力: 鉛直下向きに大きさ \(mg\)。
  • 垂直抗力: 鉛直上向きに大きさ \(N\)。
  • 慣性力: 台車の加速度が右向きなので、それとは逆の左向きに大きさ \(ma\)。
  • 静止摩擦力: 慣性力によって物体は左に動かされそうになるのを妨げるため、右向きに大きさ \(F\)。

これらの力を図示します。(模範解答の図を参照)
台車上の観測者から見ると物体は静止しているので、水平方向の力がつり合っています。

(右向きの力の和)=(左向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
F &= ma
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = ma\)
  • 力のつりあい
計算過程

上記の立式から、静止摩擦力の大きさ \(F\) は \(ma\) であることが直接わかります。

この設問の平易な説明

急発進する電車に乗っていると、自分の体が進行方向と逆向きにグッと押されるように感じます。これが「慣性力」です。この問題でも、台車が右向きに加速すると、台車上の物体には左向きに「慣性力」という見えない力が働きます。しかし、物体は実際には動いていません。それは、台車の床との間の摩擦力が、慣性力と反対の右向きに働いて、物体が動かないように支えているからです。物体が動かないということは、この「慣性力」と「摩擦力」がちょうど同じ大きさでつり合っているということです。

結論と吟味

台車上から見ると、物体には左向きに大きさ \(ma\) の慣性力が働き、それとつりあうために右向きに大きさ \(ma\) の静止摩擦力が働いていることがわかります。加速度 \(a\) が大きいほど、大きな摩擦力が必要になるという関係も直感的に理解できます。

解答 (1) 図は模範解答の解説図を参照。摩擦力の大きさ: \(ma\)

問(2)

思考の道筋とポイント
台車の加速度 \(a\) を大きくしていくと、(1)で見たように、物体に働く慣性力 \(ma\) も大きくなります。それに伴い、物体が滑らないように支える静止摩擦力 \(F\) も \(F=ma\) の関係を保ちながら大きくなっていきます。しかし、静止摩擦力には限界があり、その最大値が「最大静止摩擦力 \(\mu N\)」です。物体が滑り出すのは、慣性力がこの限界を超えようとする瞬間、つまり静止摩擦力が最大静止摩擦力に達したときです。この瞬間の力のつりあいの式を立てることで、限界の加速度を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 物体が「すべり出す直前」の状態を考える。
  • このとき、静止摩擦力は最大値、すなわち最大静止摩擦力 \(F_{\text{最大}} = \mu N\) となる。
  • 鉛直方向の力のつりあいから、垂直抗力 \(N\) の大きさを求める。
  • 水平方向の力のつりあいの式に、\(F = \mu N\) を代入する。

具体的な解説と立式
物体がすべり出す直前の加速度を \(a\) とします。
このとき、物体に働く力は(1)と同様ですが、静止摩擦力が最大静止摩擦力 \(\mu N\) になっています。

まず、鉛直方向の力のつりあいを考えます。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
N &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、水平方向の力のつりあいを考えます。このとき、静止摩擦力は右向きに \(\mu N\)、慣性力は左向きに \(ma\) です。
(右向きの力の和)=(左向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
\mu N &= ma \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これで、未知数 \(N\) と \(a\) を含む2本の連立方程式が立てられました。

使用した物理公式

  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{最大}} = \mu N\)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = ma\)
  • 力のつりあい
計算過程

式①で求めた \(N=mg\) を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
\mu (mg) &= ma \\[2.0ex]
\mu mg &= ma
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
a &= \mu g
\end{aligned}
$$
これは、滑り出す「直前」の加速度です。したがって、加速度がこの値よりも大きくなると、物体は滑り出します。

この設問の平易な説明

台車の加速が激しくなるほど、物体を左にずらそうとする慣性力は強くなります。それに対抗する摩擦力も頑張りますが、摩擦力にも限界があります。その限界を超えた瞬間に、物体はズルッと滑り出してしまいます。この問題は、「摩擦力が限界に達するのは、台車の加速度がいくつになったときですか?」と聞いています。鉛直方向の力のつり合いから垂直抗力を求め、それを使って摩擦力の限界値(最大静止摩擦力)を計算し、その力が慣性力とつり合うときの加速度を求めれば答えが出ます。

結論と吟味

加速度が \(\mu g\) よりも大きくなるときに物体は滑り出すことがわかりました。この結果は、物体の質量 \(m\) にはよらないことを示しています。重い物体ほど大きな慣性力が働きますが、同時に垂直抗力も大きくなるため最大静止摩擦力も大きくなり、結果として滑り出しやすさは質量によらない、という物理的に妥当な結論です。

解答 (2) \(\mu g\)
別解: 地面に静止した観測者から見た運動方程式を用いる解法

思考の道筋とポイント
この別解では、慣性力という「見かけの力」を使わずに、力学の基本であるニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を使って問題を解きます。視点は、地面に静止している観測者(慣性系)です。この観測者から見ると、滑り出す前の物体は、台車と一体となって右向きに加速度 \(a\) で運動しています。なぜ物体は加速できるのか?それは、台車から物体に対して、運動方向(右向き)に静止摩擦力が働いているからです。この静止摩擦力が、物体を加速させる力の正体です。
この設問における重要なポイント

  • 観測者は地面に静止している(慣性系)。
  • 慣性力は考えない。物体に働く力は実在の力(重力、垂直抗力、静止摩擦力)のみ。
  • 物体は台車とともに右向きに加速度 \(a\) で運動している。
  • 物体を右向きに加速させている力は、右向きにはたらく「静止摩擦力」である。
  • 物体の運動方程式 \(ma=F\) を立てる。

(1) 摩擦力の大きさ

具体的な解説と立式
地面に静止した観測者から見ると、物体は水平右向きに加速度 \(a\) で運動しています。
物体に働く力は、

  • 重力: 鉛直下向きに \(mg\)。
  • 垂直抗力: 鉛直上向きに \(N\)。
  • 静止摩擦力: 物体を右向きに加速させるため、右向きに \(F\)。

鉛直方向は力がつり合っているので、\(N=mg\) です。
水平方向については、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。加速度の向き(右向き)を正とします。
物体を加速させている力は静止摩擦力 \(F\) のみなので、
$$
\begin{aligned}
ma &= F
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

上記の運動方程式から、静止摩擦力の大きさ \(F\) は \(ma\) であることがわかります。

この設問の平易な説明

地面に立って見ている人からすると、台車上の物体は、台車と一緒に右向きに加速しています。物体が加速するということは、ニュートンの法則により、必ず右向きの力が働いているはずです。その力の正体は、台車の床が物体を押す「静止摩擦力」です。運動方程式 \(ma=F\) は、「物体の勢い(\(ma\))は、加えられた力(\(F\))に等しい」という意味なので、この場合、摩擦力の大きさは \(ma\) になります。

結論と吟味

慣性力を使わずに運動方程式から考えても、摩擦力の大きさは \(ma\) となり、主たる解法の結果と完全に一致します。摩擦力が物体を加速させる原動力になっているという点が、この考え方のポイントです。

解答 (1) 摩擦力の大きさ: \(ma\)

(2) 物体がすべり出すときの加速度

思考の道筋とポイント
地面に静止した観測者から見ると、物体を右向きに加速させているのは静止摩擦力です。台車の加速度 \(a\) が大きくなるほど、物体を一緒に加速させるためにより大きな静止摩擦力が必要になります (\(F=ma\))。しかし、静止摩擦力には限界値(最大静止摩擦力 \(\mu N\))があります。加速度が大きくなりすぎて、物体を加速させるのに必要な力がこの限界を超えてしまうと、物体はもはや台車についていけなくなり、滑り出します。この限界の瞬間の運動方程式を立てることで、滑り出すときの加速度を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 物体が「すべり出す直前」には、物体を加速させている静止摩擦力が最大値 \(\mu N\) に達している。
  • 鉛直方向の力のつりあいから \(N=mg\) が成り立つ。
  • 水平方向の運動方程式 \(ma=F\) に、\(F=\mu N\) を代入する。

具体的な解説と立式
物体がすべり出す直前の加速度を \(a\) とします。
このとき、物体を加速させている静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(\mu N\) になっています。
鉛直方向の力のつりあいから、
$$
\begin{aligned}
N &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
水平方向の運動方程式は、加速度の向き(右向き)を正として、
$$
\begin{aligned}
ma &= (\text{右向きの力}) \\[2.0ex]
ma &= \mu N \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{最大}} = \mu N\)
計算過程

式①で求めた \(N=mg\) を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
ma &= \mu (mg) \\[2.0ex]
ma &= \mu mg
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
a &= \mu g
\end{aligned}
$$
この加速度が、物体が滑らずに一体となって運動できる限界の加速度です。これよりも大きくなると滑り出します。

この設問の平易な説明

地面から見ると、台車の上にある物体は、台車から「摩擦力」で右向きに押されることで、一緒に加速しています。しかし、摩擦力で押せる力には限界があります。台車の加速が激しくなりすぎて、物体を加速させるのに必要な力が摩擦力の限界を超えてしまうと、物体は取り残されて滑ってしまいます。この「必要な力(\(ma\))」が「摩擦力の限界(\(\mu N = \mu mg\))」と等しくなる瞬間の加速度を計算するのが、この解法です。

結論と吟味

慣性力を使わない運動方程式のアプローチでも、主たる解法と完全に同じ結論 \(a = \mu g\) が得られました。どちらの視点(非慣性系 or 慣性系)で解くかは、問題の状況や好みによりますが、両方の考え方をマスターしておくことが重要です。

解答 (2) \(\mu g\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 慣性力と非慣性系での力のつりあい
    • 核心: この問題の根幹は、加速度運動している観測者(台車上の人)の立場(=非慣性系)で物体の運動を記述する方法を理解することです。この立場では、物体に実際に働く力(重力、垂直抗力、摩擦力)に加えて、観測者の加速度と逆向きに大きさ \(ma\) の「慣性力」という見かけの力を導入します。
    • 理解のポイント:
      • なぜ慣性力を考えるのか: 加速度運動する乗り物の中では、ニュートンの運動法則がそのままでは成り立ちません。そこで、「慣性力」という架空の力を付け加えることで、あたかも静止しているときと同じように「力のつりあい」の式を立てられるようにした、便利な思考上の道具が慣性力です。
      • 力のつりあい: 台車上の人から見れば、物体は滑り出すまでずっと静止しています。したがって、「物体に働くすべての力(実在の力+慣性力)の合力がゼロである」という、力のつりあいの式を立てることができます。これにより、加速度運動の問題を、より簡単な静止した物体の問題(静力学)として扱うことができます。
  • 静止摩擦力が限界に達する条件
    • 核心: 「物体がすべり出す」という物理現象を、数式で表現することです。これは、物体が滑らないように支えている静止摩擦力が、耐えられる限界値である「最大静止摩擦力」に達した瞬間を指します。
    • 理解のポイント:
      • 静止摩擦力の性質: 静止摩擦力は、加えられた力に応じて大きさを変えることができる「調整可能な力」です。しかし、その大きさには上限があり、それが最大静止摩擦力 \(F_{\text{最大}} = \mu N\) です。
      • 限界条件の立式: (2)では、加速度の増大に伴って大きくなる慣性力 \(ma\) と静止摩擦力がつり合っている状態を考え、静止摩擦力がその最大値 \(\mu N\) になった瞬間の力のつりあいの式を立てることで、限界の加速度を求めます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電車内の現象: 加速する電車内で、つり革が傾いたり、ヘリウム風船が進行方向に傾いたりする問題。これらは、つり革(おもり)や風船(空気)に働く慣性力を考えることで説明できます。
    • エレベーター内の現象: 上昇・下降するエレベーターの中で、体重計の目盛りが変化したり、天井から吊るしたばねの伸びが変化したりする問題。エレベーターの加速度と同じ向きまたは逆向きの慣性力を考慮して、力のつりあいを考えます。
    • 斜面上を運動する台上の物体: 斜面を滑り落ちる台の上にある物体が滑るかどうかを問う問題。この場合、慣性力は斜面に平行な向きに働くため、力の分解が重要になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まず視点を決める: 問題を「地面に静止した人(慣性系)」から見るか、「加速する乗り物に乗った人(非慣性系)」から見るかを最初に決めます。問題文に「〜から見ると」という指定があればそれに従います。指定がなければ、どちらが考えやすいかで選びます。
    2. 非慣性系(慣性力を使う)で解く場合:
      • (a) 観測者の加速度 \(\vec{a}\) の向きと大きさを確認します。
      • (b) 物体に働く「実在の力」(重力、張力、垂直抗力、摩擦力など)をすべて図示します。
      • (c) 加速度 \(\vec{a}\) とは逆向きに、大きさ \(ma\) の「慣性力」を書き加えます。
      • (d) 観測者から見て物体が静止しているなら、これらの力の「つりあい」の式を立てます。
    3. 慣性系(運動方程式を使う)で解く場合(別解のアプローチ):
      • (a) 地面から見た物体の加速度 \(\vec{a}\) を確認します(多くの場合、乗り物と同じ加速度です)。
      • (b) 物体に働く「実在の力」をすべて図示します(慣性力は書きません)。
      • (c) 運動の方向を正として、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
    4. 「〜し始める」という限界条件を見抜く: 「滑り出す」「浮き上がる」「離れる」といった言葉は、物理的な限界状態を示唆しています。それぞれ「静止摩擦力が最大静止摩擦力になる (\(F=\mu N\))」「垂直抗力がゼロになる (\(N=0\))」といった条件に置き換えて立式します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 慣性力の向きを間違える:
    • 誤解: 慣性力を、観測者の加速度と同じ向きに描いてしまう。
    • 対策: 慣性力は、必ず「観測者の加速度と逆向き」です。急発進する電車で体が後ろに押される、急ブレーキで前に倒れそうになる、という日常体験と結びつけて覚えましょう。「加速度に抵抗する(逆らう)向きの力」とイメージすると間違いが減ります。
  • 慣性系と非慣性系の考え方を混同する:
    • 誤解: 地面から見ている(慣性系)のに慣性力を考えたり、台車から見ている(非慣性系)のに運動方程式を立てようとして \(ma = F – ma\) のような混乱した式を作ってしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、「視点:地面(慣性系)、法則:運動方程式」あるいは「視点:台車(非慣性系)、法則:慣性力を含めた力のつりあい」のように、自分の解法の方針を明確に宣言する癖をつけましょう。一つの式の中に、異なる視点の考え方を混ぜてはいけません。
  • 静止摩擦力の向きを逆に考えてしまう(慣性系で解く場合):
    • 誤解: 物体は右に動いているのだから、摩擦力は運動を妨げる左向きのはずだ、と考えてしまう。
    • 対策: 静止摩擦力は「運動」を妨げるのではなく、「滑り」を妨げる力です。この問題で、もし摩擦がなければ物体は慣性でその場に留まろうとし、加速する台車に対して「左向きに滑り」ます。静止摩擦力は、この「左への滑り」を防ぐために「右向き」に働きます。この右向きの摩擦力こそが、物体を台車と一緒に加速させる原動力となっているのです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)でのアプローチ選択(非慣性系での力のつりあい):
    • 選定理由: 問題文で「台車上から見たときに」と視点が明確に指定されています。この視点では、物体は「静止」して見えます。動いている物体の運動法則(運動方程式)を考えるよりも、静止している物体の力のつりあいを考える方が、直感的で計算も単純になることが多いです。
    • 適用根拠: 加速度運動する座標系(非慣性系)では、見かけの力である「慣性力」を導入することで、ニュートンの法則が「力のつりあい」という形で適用できる、という物理学の原理に基づいています。これは、複雑な問題をより単純な問題に変換するための、確立された思考法です。
  • 別解でのアプローチ選択(慣性系での運動方程式):
    • 選定理由: こちらは、力学の最も基本となるニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を用いる、物理学の王道ともいえるアプローチです。慣性力という特殊な概念を使わずに、すべての現象を「力と加速度の関係」という基本法則だけで説明しようとする考え方です。
    • 適用根拠: 地面に静止した観測者(慣性系)から見れば、物体は明らかに「加速度運動」をしています。運動(加速度)とその原因(力)の関係を記述する普遍的な法則は運動方程式であるため、この公式を選択するのは必然です。
  • (2)での公式選択(最大静止摩擦力):
    • 選定理由: 「すべり出す」という現象は、それまで物体を支えていた静止摩擦力が限界に達したことを意味します。この物理的な「限界条件」を数式で表現するために、最大静止摩擦力の公式が必要となります。
    • 適用根拠: 静止摩擦力の最大値が、垂直抗力 \(N\) と静止摩擦係数 \(\mu\) を用いて \(F_{\text{最大}} = \mu N\) と表されることは、実験的に確立された物理法則です。この法則を、(1)で立てた関係式(力のつりあい、あるいは運動方程式)に適用することで、限界状態における加速度を論理的に導き出すことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 最初に力の図示を完璧に行う:
    • 計算を始める前に、物体に働く力をすべてベクトル矢印で図に書き込みましょう。非慣性系で考えるなら、慣性力も(例えば点線で)忘れずに書き加えます。どの力がどの方向を向いているかを視覚的に把握することが、正しい立式の第一歩です。
  • 文字式のまま最後まで解く:
    • この問題は元々文字式ですが、もし数値が与えられていたとしても、まずは \(a = \mu g\) のように文字式の形で答えを導き、最後の最後に数値を代入する習慣をつけましょう。これにより、式の物理的な意味が明確になり、途中の計算ミスも減らせます。
  • 座標軸を明確にする:
    • 水平右向きをx軸の正、鉛直上向きをy軸の正、のように、必ず座標軸を設定しましょう。そして、「x方向の力のつりあい」「y方向の力のつりあい」のように、方向ごとに式を立てることで、頭の中が整理され、符号のミスなどを防げます。
  • 2つの視点での検算:
    • もし時間に余裕があれば、非慣性系(慣性力+つりあい)で解いた後、検算として慣性系(運動方程式)でも解いてみましょう。逆もまた然りです。全く異なるアプローチで同じ答えが得られれば、その解答が正しいという確信度は非常に高まります。
  • 結果を吟味する:
    • (2)で得られた答え \(a = \mu g\) は、質量 \(m\) に依存しません。これは、「重い物体は慣性力が大きいが、その分、最大静止摩擦力も大きいので、滑り出しやすさは変わらない」ということを意味します。このように、得られた答えが物理的に妥当な意味を持っているかを確認する癖をつけると、間違いに気づきやすくなります。

基本例題29 円錐振り子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: おもりとともに回転する観測者の視点で解く方法
      • 模範解答の主たる解説が、地上に静止した観測者の視点(慣性系)から「運動方程式」を立てるのに対し、別解ではおもりとともに回転する観測者の視点(非慣性系)から、見かけの力である「遠心力」を導入し、「力のつりあい」として解きます。(この別解は模範解答にも記載されていますが、本解説ではより詳細な説明を加えます。)
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 同じ現象を、運動していると捉える立場(慣性系)と、静止していると捉える立場(非慣性系)の両方から解析することで、円運動の本質と「慣性力(遠心力)」の概念をより深く理解することができます。
    • 解法の選択肢拡大: 円運動の問題は「運動方程式」でも「遠心力を含めた力のつりあい」でも解くことができます。両方のアプローチを習得することで、問題に応じてより考えやすい方を選択できるようになり、応用力が向上します。
  3. 結果への影響
    • いずれの視点で解いても、立式に至る考え方が異なるだけで、最終的に得られる方程式と答えは完全に一致します。

この問題のテーマは「円錐振り子」です。これは、等速円運動の代表的な例であり、力のつりあいと運動方程式を組み合わせて解析する問題の典型です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の分解: 物体に働く力を、運動を解析しやすい方向(この場合は水平方向と鉛直方向)に分解する技術。
  2. 鉛直方向の力のつりあい: おもりは上下には動かないため、鉛直方向の力はつり合っていること。
  3. 水平方向の円運動: おもりは水平面内で円運動しており、その運動を引き起こす「向心力」が働いていること。
  4. 向心力の正体: 向心力は独立した力ではなく、この問題では「糸の張力の水平成分」がその役割を担っていることを見抜く力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まずおもりに働く力を図示し、鉛直方向と水平方向に分解します。おもりは上下動しないので、鉛直方向の力のつりあいの式を立てることで、糸の張力を求めます。
  2. (2)では、水平方向の運動に着目します。糸の張力の水平成分が向心力となっていることから、円運動の運動方程式を立てます。(1)で求めた張力を利用して、角速度を計算し、最後に周期を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
おもりは水平面内を運動しており、上下方向には動いていません。このことから、おもりに働く力の「鉛直成分」はつり合っているはずです。おもりに働く力は「重力」と「糸の張力」の2つです。このうち、斜め上向きの張力を鉛直成分と水平成分に分解し、鉛直方向の力のつりあいの式を立てることで、張力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • おもりに働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、糸に沿った向きの張力 \(S\) のみである。
  • 張力 \(S\) を、鉛直上向きの成分 \(S\cos\theta\) と、水平中心向きの成分 \(S\sin\theta\) に正しく分解できること。
  • おもりは上下に動かないので、鉛直方向の力はつり合っている。

具体的な解説と立式
おもりが受ける糸の張力の大きさを \(S\) とします。
おもりに働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と張力 \(S\) です。
張力 \(S\) を鉛直成分と水平成分に分解すると、

  • 鉛直成分: \(S\cos\theta\) (上向き)
  • 水平成分: \(S\sin\theta\) (円運動の中心向き)

となります。

おもりは鉛直方向には運動しないので、この方向の力はつり合っています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
S\cos\theta &= mg
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
計算過程

上記のつりあいの式を \(S\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
S &= \frac{mg}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

おもりが空中で同じ高さを保ちながら回り続けられるのは、下に引っぱる「重力」と、糸が斜め上に引っぱる力のうちの「真上に引っぱる成分」が、ちょうど同じ大きさでバランスを取っているからです。この力のバランスの式を立てることで、糸がどれくらいの強さでピンと張っているか(張力)を計算できます。

結論と吟味

張力の大きさは \(S = \frac{mg}{\cos\theta}\) と求まりました。この式から、角度 \(\theta\) が \(90^\circ\) に近づく(振り子が水平に近づく)ほど、\(\cos\theta\) は \(0\) に近づき、張力 \(S\) は無限大に発散することがわかります。これは、重力に逆らって振り子を完全に水平に保つことは不可能であるという物理的な事実と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
おもりは水平面内で等速円運動をしています。物体が円運動をするためには、常に円の中心方向を向いた力、すなわち「向心力」が必要です。(1)で考えた力の分解から、この向心力の役割を果たしているのは「張力の水平成分 \(S\sin\theta\)」であることがわかります。円運動の半径が \(L\sin\theta\) であることに注意して、円運動の運動方程式 \(mr\omega^2 = F\) を立て、角速度 \(\omega\) を求めます。周期 \(T\) は、角速度の定義式 \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) から計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の半径 \(r\) は、糸の長さ \(L\) ではなく \(r = L\sin\theta\) である。
  • 向心力 \(F\) の正体は、張力の水平成分 \(S\sin\theta\) である。
  • 円運動の運動方程式 \(mr\omega^2 = F\) を正しく適用する。

具体的な解説と立式
まず、円運動の半径 \(r\) を求めます。図の直角三角形から、
$$
\begin{aligned}
r &= L\sin\theta
\end{aligned}
$$
次に、向心力 \(F\) を特定します。これは張力の水平成分なので、
$$
\begin{aligned}
F &= S\sin\theta
\end{aligned}
$$
円運動の運動方程式 \(mr\omega^2 = F\) に、これらの \(r\) と \(F\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m(L\sin\theta)\omega^2 &= S\sin\theta \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式に、(1)で求めた \(S = \frac{mg}{\cos\theta}\) を代入して、角速度 \(\omega\) を求めます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
  • 周期と角速度の関係: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
計算過程

(1)の結果を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
m(L\sin\theta)\omega^2 &= \left( \frac{mg}{\cos\theta} \right) \sin\theta \\[2.0ex]
m(L\sin\theta)\omega^2 &= mg \frac{\sin\theta}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\sin\theta\) を消去すると(\(\theta \neq 0\) なので \(\sin\theta \neq 0\))、
$$
\begin{aligned}
L\omega^2 &= \frac{g}{\cos\theta} \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g}{L\cos\theta}
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{g}{L\cos\theta}}
\end{aligned}
$$
次に、周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi \div \sqrt{\frac{g}{L\cos\theta}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{L\cos\theta}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

おもりがまっすぐ飛んでいかずに、ぐるぐると円を描いて回り続けることができるのは、糸が常に円の中心に向かっておもりを引っ張り続けているからです。この「中心に向かって引っ張る力」(張力の水平成分)が、おもりに円運動をさせている原因です。この関係を「運動方程式」という物理のルールに当てはめて計算すると、おもりの回転のペース(角速度)がわかります。周期は、1周するのにかかる時間なので、角速度がわかれば計算できます。

結論と吟味

角速度は \(\omega = \sqrt{\frac{g}{L\cos\theta}}\)、周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{L\cos\theta}{g}}\) と求まりました。糸の長さ \(L\) が長いほど、周期 \(T\) が長くなる(ゆっくり回る)ことや、重力加速度 \(g\) が大きいほど、周期 \(T\) が短くなる(速く回る)ことは、単振り子の公式とも似ており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) 角速度: \(\sqrt{\displaystyle\frac{g}{L\cos\theta}}\), 周期: \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{L\cos\theta}{g}}\)
別解: おもりとともに回転する観測者の視点で解く方法

思考の道筋とポイント
おもりと一緒に円運動する観測者の視点(非慣性系)で考えます。この観測者から見ると、おもりは常に目の前で静止しています。この視点では、実在の力(重力、張力)に加えて、見かけの力である「遠心力」が働いているように見えます。遠心力は、円運動の中心から外側に向かって働く力です。おもりが静止して見えるのは、これら3つの力(重力、張力、遠心力)が完全につり合っているからだと考えます。
この設問における重要なポイント

  • 観測者は、おもりとともに角速度 \(\omega\) で回転している(非慣性系)。
  • おもりには、重力、張力に加えて、円の外向きに「遠心力」が働いているように見える。
  • 遠心力の大きさは、向心力と同じ \(mr\omega^2 = m(L\sin\theta)\omega^2\) である。
  • おもりは静止して見えるので、水平方向、鉛直方向ともに力がつり合っている。

具体的な解説と立式
おもりとともに回転する観測者から見ると、おもりには以下の3つの力が働いてつり合っています。

  • 重力: 鉛直下向きに \(mg\)。
  • 張力: 糸に沿って斜め上向きに \(S\)。
  • 遠心力: 水平かつ円の外向きに \(F_{\text{遠心力}}\)。大きさは \(m(L\sin\theta)\omega^2\)。

これらの力がつり合っているので、各方向の力のつりあいの式を立てます。
まず、鉛直方向の力のつりあいを考えます。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
S\cos\theta &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、水平方向の力のつりあいを考えます。
(内向きの力の和)=(外向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
S\sin\theta &= m(L\sin\theta)\omega^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心力}} = mr\omega^2\)
計算過程

式①と式②は、主たる解法で立てた「鉛直方向のつりあいの式」と「水平方向の運動方程式」と全く同じ形をしています。したがって、この連立方程式を解くことで、同じ結果が得られます。
式①から \(S = \frac{mg}{\cos\theta}\) を求め、式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{mg}{\cos\theta} \right) \sin\theta &= m(L\sin\theta)\omega^2
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法の計算過程の最初の式と同一です。したがって、これを解くと、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{g}{L\cos\theta}}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{L\cos\theta}{g}}
\end{aligned}
$$
となります。

この設問の平易な説明

もし自分がおもりの上に乗って、一緒にぐるぐる回っていると想像してみてください。あなたから見れば、おもりは止まっているように見えます。しかし、体は常に外側へ放り出されそうな強い力を感じます。これが「遠心力」です。あなたにとっては、この外向きの「遠心力」と、糸が内側に引っ張る力(張力の水平成分)がちょうどつり合っているから、自分は動かずにいられる、と感じるわけです。この力のつり合いの考え方を使っても、回転のペースを計算することができます。

結論と吟味

遠心力という見かけの力を導入し、力のつりあいとして考える非慣性系の立場でも、慣性系で運動方程式を立てた場合と全く同じ結果が得られました。これは、遠心力が運動方程式の加速度の項(\(ma\))を、力の項として移項したものと数学的に等価であることを示しています。どちらの考え方も物理的に正しく、強力な解法です。

解答 (2) 角速度: \(\sqrt{\displaystyle\frac{g}{L\cos\theta}}\), 周期: \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{L\cos\theta}{g}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力の分解と、方向ごとの関係式の立式
    • 核心: この問題の根幹は、斜めを向いた力(張力)を、物理的に意味のある2つの方向(鉛直方向と水平方向)に分解し、それぞれの方向で独立した物理法則を適用する能力です。
    • 理解のポイント:
      • 鉛直方向 → 力のつりあい: おもりは上下には動いていない、つまり鉛直方向の加速度はゼロです。したがって、この方向については力の合力がゼロになるという「力のつりあい」の式(\(S\cos\theta = mg\))を立てます。
      • 水平方向 → 運動方程式: おもりは水平面内で円運動をしています。これは、常に円の中心に向かう加速度を持つ「加速度運動」です。したがって、この方向については「運動方程式」(\(m(L\sin\theta)\omega^2 = S\sin\theta\))を立てます。
      • このように、1つの物体に対して、方向によって異なる物理法則(つりあい or 運動方程式)を使い分けることが、この問題の最大のポイントです。
  • 向心力の正体の特定
    • 核心: 円運動の問題では、「何が向心力の役割を果たしているのか?」を見抜くことが常に鍵となります。向心力は、重力や張力のように独立して存在する力ではありません。
    • 理解のポイント:
      • 力の合力として現れる: この問題では、おもりに働く実在の力は重力と張力だけです。この2つの力の合力を計算すると、ちょうど円運動の中心を向く水平な力になります。この「合力」こそが向心力です。
      • 成分で考える: より実践的には、張力を水平・鉛直に分解したとき、その「水平成分 \(S\sin\theta\)」が、重力とつり合うことなく唯一水平方向に残る力となります。この力が、物体を円運動させる向心力そのものなのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • バンクのあるカーブを曲がる自動車: 自動車が傾いた(バンクのついた)カーブを走る問題。この場合、垂直抗力の水平成分と重力の合力が、車を曲げるための向心力となります。特定の速さで走ると、摩擦力がなくても曲がれる「釣り合いの速さ」を求める問題が典型的です。
    • 回転する円錐面の内側を滑る小球: 逆さにした円錐の内側を、小球が同じ高さを保ちながらぐるぐる回る運動。この場合も、垂直抗力の水平成分が向心力となり、円錐振り子と全く同じ考え方で解くことができます。
    • 荷電粒子の磁場中でのらせん運動: 一様な磁場中で、荷電粒子が磁場に対して斜めに入射した場合の運動。磁場に垂直な速度成分によって円運動をし、平行な速度成分によって等速直線運動をするため、全体としてらせんを描きます。円運動の部分は、ローレンツ力が向心力となる円運動の問題として解析します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずは力をすべて図示する: 力学の基本です。重力、張力、垂直抗力など、物体に働く力を漏れなく書き出します。
    2. 運動の様子を観察し、座標軸を設定する: 物体がどの平面で運動しているか(この問題では水平面)、どの方向には動いていないか(鉛直方向)を把握します。それに合わせて、解析しやすい座標軸(水平・鉛直)を設定します。
    3. 斜めの力を座標軸に沿って分解する: 設定した座標軸に対して斜めを向いている力(この問題では張力)を、すべて成分に分解します。三角関数の使い方(\(\sin\theta\) か \(\cos\theta\) か)を間違えないように注意します。
    4. 方向ごとに法則を適用する:
      • 動いていない(加速度ゼロの)方向 → 「力のつりあい」の式を立てる。
      • 加速度運動している方向 → 「運動方程式」を立てる。円運動の場合は、向心加速度(\(r\omega^2\) または \(\frac{v^2}{r}\))を用いる。
    5. 円運動の半径 \(r\) を正確に求める: 図形をよく見て、円運動の半径が何で表されるかを正確に把握します。この問題のように、糸の長さ \(L\) がそのまま半径にならないケースは非常に多いので、特に注意が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 張力と重力をつり合わせようとしてしまう:
    • 誤解: \(S=mg\) のような、単純な力のつりあいの式を立ててしまう。
    • 対策: 物体に働く力はベクトルであり、向きが異なります。張力は斜め上向き、重力は真下向きなので、大きさが同じでもつり合うことはありえません。力がつり合うのは、あくまで特定の「方向」の成分だけです。必ず力を分解してから、方向ごとに式を立てる癖をつけましょう。
  • 円運動の半径を糸の長さ \(L\) と勘違いする:
    • 誤解: 運動方程式を立てる際に、半径 \(r\) の部分に糸の長さ \(L\) を代入して、\(mL\omega^2 = F\) といった式を作ってしまう。
    • 対策: 必ず問題の図をよく見て、「物体がどの平面で」「どの点を中心に」回っているかを確認しましょう。この問題では、おもりは水平面内を回っており、その中心は振り子の支点の真下にあります。したがって、半径は図の三角形の底辺の長さ \(L\sin\theta\) となります。
  • 向心力と張力の水平成分を別の力だと考えてしまう:
    • 誤解: 水平方向の運動方程式を立てる際に、中心向きの力として「向心力 \(F\)” と “張力の水平成分 \(S\sin\theta\)」の両方を考えてしまう。
    • 対策: 「向心力は力の愛称(役割名)」と覚えましょう。円運動をさせる力の正体は、必ず張力や重力、摩擦力といった具体的な力(あるいはその成分)です。この問題では、張力の水平成分 \(S\sin\theta\) が「向心力という役割」を担っているのです。運動方程式の右辺には、この力の正体である \(S\sin\theta\) を書きます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(力のつりあい):
    • 選定理由: 求めたいのは「張力 \(S\)」です。そして、おもりの運動を観察すると、鉛直方向には全く動いていない、つまり「加速度がゼロ」であることがわかります。加速度がゼロのときの力と運動の関係を記述するのが、力のつりあいの法則(運動方程式 \(ma=F\) で \(a=0\) とした場合)です。
    • 適用根拠: 物理法則はベクトル式であり、方向ごとに独立して成り立ちます。物体全体の運動は加速度運動(円運動)ですが、その「鉛直方向の成分」だけを取り出して見れば、加速度はゼロです。したがって、鉛直方向の力の成分だけを集めてきて、つりあいの式を立てるという操作は、物理的に完全に正当です。
  • (2)での公式選択(円運動の運動方程式):
    • 選定理由: 求めたいのは「角速度 \(\omega\)」という、運動の様子を表す量です。そして、おもりの水平方向の運動は、明らかに「円運動」という加速度運動です。力(この場合は張力の水平成分)と加速度運動の関係を記述する法則は、運動方程式 \(ma=F\) です。
    • 適用根拠: 物体が円運動をするとき、その向心加速度の大きさが \(a=r\omega^2\) で与えられることは、運動学的に導かれる事実です。そして、その加速度を生み出す原因となる力(向心力)が、この問題では張力の水平成分 \(S\sin\theta\) であることが、力の分解によって明らかになっています。これらの事実を、ニュートンの第二法則 \(ma=F\) に当てはめることで、\(m(L\sin\theta)\omega^2 = S\sin\theta\) という式が論理的に導かれます。
  • 別解でのアプローチ選択(遠心力を含めた力のつりあい):
    • 選定理由: 円運動の問題を、静止した物体の力のつりあいの問題として、よりシンプルに捉え直したい場合に有効な選択肢です。運動方程式を立てるのが苦手な場合でも、力のつりあいなら考えやすい、という学習者にとって有益なアプローチです。
    • 適用根拠: 加速度運動する座標系(非慣性系)では、見かけの力である「慣性力(円運動の場合は特に遠心力と呼ぶ)」を導入することで、静止座標系(慣性系)と同じように物理法則を扱うことができます。この場合、観測者から見て物体は静止しているので、すべての力(実在の力+遠心力)のベクトル和がゼロになる、という「力のつりあい」が適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 力の分解で \(\sin\) と \(\cos\) を間違えない:
    • 図に角度 \(\theta\) を書き込み、「\(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)」「\(\theta\) の向かい側の辺が \(\sin\theta\)」と機械的に覚えるのではなく、直角三角形の辺の比を常に意識しましょう。張力 \(S\) を斜辺とする直角三角形を描き、鉛直成分(底辺)が \(S\cos\theta\)、水平成分(高さ)が \(S\sin\theta\) となることを、毎回確認する癖をつけるとミスが減ります。
  • 文字の消去を慎重に行う:
    • (2)の計算過程で、\(m(L\sin\theta)\omega^2 = (\frac{mg}{\cos\theta})\sin\theta\) のような式が出てきます。ここで、両辺にある \(m\) や \(\sin\theta\) を慌てて消去すると、間違いのもとです。まずは式全体を整理し、\(mL\sin\theta \cdot \omega^2 = mg \cdot \frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) のように見やすくしてから、共通の項を一つずつ丁寧に消去していくと確実です。
  • 平方根の計算:
    • 最終的に \(\omega^2 = \frac{g}{L\cos\theta}\) のように2乗の形が出てきたら、ルートを付けるのを忘れないようにしましょう。逆に、周期 \(T\) を求める際に \(\omega\) を代入するときは、\(T = 2\pi / \omega\) なので、分母と分子が逆になることに注意が必要です。\(2\pi\sqrt{\text{(\(\omega^2\) の逆数)}}\) と考えると計算しやすくなります。
  • 単位や次元での検算:
    • 求めた周期の式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{L\cos\theta}{g}}\) の次元をチェックしてみましょう。ルートの中は \(\frac{[\text{長さ}]}{[\text{長さ}]/[\text{時間}]^2} = [\text{時間}]^2\) となり、全体の次元は \([\text{時間}]\) となって、周期の次元と一致します。もし式を間違えて \(T = 2\pi\sqrt{\frac{g}{L\cos\theta}}\) としてしまうと、次元が \(1/[\text{時間}]\) となり、間違いに気づくことができます。

基本例題30 鉛直面内の円運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 遠心力を用いた力のつりあいによる解法
      • 模範解答が、地上に静止した観測者の視点(慣性系)から円運動の「運動方程式」を立てるのに対し、別解では小物体とともに運動する観測者の視点(非慣性系)から、見かけの力である「遠心力」を導入し、「力のつりあい」として解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 同じ現象を、運動していると捉える立場(慣性系)と、静止していると捉える立場(非慣性系)の両方から解析することで、円運動の本質と「遠心力」の概念をより深く理解することができます。
    • 解法の選択肢拡大: 鉛直面内の円運動の問題は「運動方程式」でも「遠心力を含めた力のつりあい」でも解くことができます。両方のアプローチを習得することで、問題に応じてより考えやすい方を選択できるようになり、応用力が向上します。
  3. 結果への影響
    • いずれの視点で解いても、立式に至る考え方が異なるだけで、最終的に得られる方程式と答えは完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直面内の円運動と力学的エネルギー保存則」です。速さを求めるためにエネルギー保存則を用い、その結果を使って力を解析するために運動方程式を立てる、という力学の重要テーマを組み合わせた典型問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: 摩擦や空気抵抗がない場合、物体の「位置エネルギー」と「運動エネルギー」の和は一定に保たれること。
  2. 円運動の運動方程式: 物体が円運動をするためには、常に円の中心に向かう力(向心力)が必要であり、その大きさは \(m\frac{v^2}{r}\) または \(mr\omega^2\) で表されること。
  3. 向心力の正体: 向心力は、物体に実際に働く力(この問題では重力と垂直抗力)の合力によって供給されること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、小物体が高さ \(h\) から最下点まで滑り降りる過程で、摩擦がないため力学的エネルギーが保存されることを利用します。はじめの位置エネルギーが、最下点での運動エネルギーに変換されるとして、速さを計算します。
  2. (2)では、最下点での小物体の運動に着目します。この瞬間、小物体は半径 \(r\) の円運動の一部と見なせます。小物体に働く力(重力と垂直抗力)を図示し、これらの合力が向心力として働いているとして、円運動の運動方程式を立てます。この式に(1)で求めた速さを代入して、垂直抗力を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小物体は摩擦のない斜面を滑り降ります。このとき、物体に仕事をする力は保存力である重力のみなので、力学的エネルギー(位置エネルギーと運動エネルギーの和)は保存されます。高さ \(h\) の点でのエネルギーと、最下点でのエネルギーが等しいという式を立てることで、最下点での速さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 摩擦がないため、力学的エネルギー保存則が成り立つ。
  • 位置エネルギーの基準点を、計算が最も簡単になる最下点に設定する。
  • はじめの状態(高さ \(h\)): 位置エネルギー \(mgh\)、運動エネルギー \(0\) (静かにすべりおりたため)。
  • あとの状態(最下点): 位置エネルギー \(0\)、運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)。

具体的な解説と立式
最下点を高さの基準(位置エネルギー \(0\))とします。
すべり始める直前の、高さ \(h\) の点での力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= mgh + \frac{1}{2}m(0)^2 \\[2.0ex]
&= mgh
\end{aligned}
$$
最下点に達したときの速さを \(v\) とすると、その点での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= mg(0) + \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$
\begin{aligned}
mgh &= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
  • 位置エネルギー: \(U=mgh\)
  • 運動エネルギー: \(K=\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

上記で立てた式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= mgh \\[2.0ex]
v^2 &= 2gh
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ジェットコースターが高いところから一番低いところに下りてくるとき、どんどんスピードが上がります。これは、持っていた「高さのエネルギー(位置エネルギー)」が「スピードのエネルギー(運動エネルギー)」に姿を変えたためです。摩擦がない場合、エネルギーは失われないので、「はじめの高さのエネルギー」と「終わりのスピードのエネルギー」は等しくなります。この関係を使って速さを計算します。

結論と吟味

最下点での速さは \(v = \sqrt{2gh}\) と求まりました。この結果は、小物体が高さ \(h\) から自由落下したときの速さと同じです。途中の斜面の形に関わらず、高さの差だけで速さが決まるという、力学的エネルギー保存則の重要な性質がよく表れています。

解答 (1) \(\sqrt{2gh}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
最下点において、小物体は半径 \(r\) の円軌道上を運動しています。したがって、この瞬間、小物体は円運動をしていると見なせます。円運動をするためには、必ず円の中心方向を向いた力(向心力)が必要です。この問題では、小物体に働く力は「下向きの重力 \(mg\)」と「上向きの垂直抗力 \(N\)」です。この2つの力の合力が、円の中心(上向き)への向心力として働いています。この関係を円運動の運動方程式として立式し、(1)で求めた速さ \(v\) を用いて垂直抗力 \(N\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 最下点での運動は、半径 \(r\) の円運動の一部と見なせる。
  • 小物体に働く力は、鉛直上向きの垂直抗力 \(N\) と、鉛直下向きの重力 \(mg\)。
  • 円運動の中心は上側にあるため、上向きを正とする。
  • 向心力は、これらの力の合力、すなわち \(N – mg\) である。

具体的な解説と立式
最下点での小物体の速さは \(v\) です。この点で小物体に働く力は、

  • 重力: 鉛直下向きに \(mg\)。
  • 垂直抗力: 鉛直上向きに \(N\)。

円運動の中心は軌道の上側にあるので、中心方向である上向きを正とします。
向心力 \(F\) は、これらの力の合力なので、
$$
\begin{aligned}
F &= N – mg
\end{aligned}
$$
円運動の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F\) にこれを代入すると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= N – mg
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

上記で立てた運動方程式を \(N\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
N &= mg + m\frac{v^2}{r}
\end{aligned}
$$
この式に、(1)で求めた \(v^2 = 2gh\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg + m\frac{2gh}{r} \\[2.0ex]
&= mg \left( 1 + \frac{2h}{r} \right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

最下点を通過する瞬間、小物体は地面を強く押し付けながら上にカーブしようとします。このとき、地面が小物体を押し返す力(垂直抗力)は、単に物体の重さを支えるだけでなく、物体の進路を上に曲げるための追加の力(向心力)も供給しなければなりません。したがって、垂直抗力は「物体の重さ」と「カーブさせるための力」の合計となり、重力 \(mg\) よりも大きくなります。

結論と吟味

垂直抗力の大きさは \(N = mg(1 + \frac{2h}{r})\) と求まりました。この式から、\(h>0\) の場合、必ず \(N > mg\) となることがわかります。つまり、動いているときの垂直抗力は、静止しているときの垂直抗力(\(N=mg\))よりも大きくなります。これは、ジェットコースターの谷底で体がシートに強く押し付けられる感覚と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(mg\left(1 + \displaystyle\frac{2h}{r}\right)\)
別解: 遠心力を用いた力のつりあいによる解法

思考の道筋とポイント
小物体と一緒に運動する観測者の視点(非慣性系)で考えます。この観測者から見ると、最下点の一瞬、物体は静止しているように見えます。この視点では、物体に実在の力(重力、垂直抗力)に加えて、見かけの力である「遠心力」が働いているように見えます。遠心力は、円運動の中心から遠ざかる向き、つまり最下点では鉛直下向きに働きます。この観測者にとっては、これらの3つの力(垂直抗力、重力、遠心力)が完全につり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント

  • 観測者は小物体と一緒に運動している(非慣性系)。
  • 物体には、上向きの垂直抗力 \(N\)、下向きの重力 \(mg\) に加え、円運動の中心から遠ざかる向き(下向き)に遠心力が働く。
  • 遠心力の大きさは \(m\frac{v^2}{r}\)。
  • これらの力がつり合っていると考える。

具体的な解説と立式
小物体とともに運動する観測者から見ると、最下点で物体に働く力は以下の通りです。

  • 垂直抗力: 鉛直上向きに \(N\)。
  • 重力: 鉛直下向きに \(mg\)。
  • 遠心力: 円の中心から遠ざかる向き、すなわち鉛直下向きに \(m\frac{v^2}{r}\)。

この観測者から見ると、物体は静止しているので、鉛直方向の力がつり合っています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
N &= mg + m\frac{v^2}{r}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心力}} = m\frac{v^2}{r}\)
計算過程

このつりあいの式は、主たる解法で立てた運動方程式を \(N\) について整理した式と全く同じです。
この式に、(1)で求めた \(v^2 = 2gh\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg + m\frac{2gh}{r} \\[2.0ex]
&= mg \left( 1 + \frac{2h}{r} \right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

もし自分が小物体に乗っていたら、最下点で体が下に強く押し付けられるように感じるはずです。これが「遠心力」です。この視点では、地面が上に押し返す力(垂直抗力)が、自分の重さと、この下向きの遠心力の両方を支えているから、自分は上下に動かずにいられる、と考えることができます。この力のバランスの式からも、垂直抗力の大きさを計算できます。

結論と吟味

運動方程式を移項した形と同じ式が得られ、当然ながら同じ答えになりました。円運動の問題を力のつりあいの問題として扱える便利な方法であり、慣性系からのアプローチと合わせて理解しておくことで、より深い理解につながります。

解答 (2) \(mg\left(1 + \displaystyle\frac{2h}{r}\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式の連携
    • 核心: この問題は、力学における2つの最重要法則、「力学的エネルギー保存則」と「運動方程式」を、適切な場面で使い分け、連携させて解く能力を問うています。これは、高校力学の応用問題における最も典型的な思考パターンの一つです。
    • 理解のポイント:
      • エネルギー保存則の役割 → 速さを求める: 物体がA地点からB地点へ移動するような、過程を含む運動において、途中の力などを問わず「速さ」や「高さ」を求めたい場合に、力学的エネルギー保存則は絶大な威力を発揮します。この問題では、高さ\(h\)から最下点までの「過程」を経て変化した「速さ」を求めるために使われます。
      • 運動方程式の役割 → 力を求める: ある「特定の瞬間」における物体の運動状態(速さ、加速度)と、その瞬間に物体に働いている「力」との関係を記述するのが運動方程式です。この問題では、「最下点」という特定の瞬間に働く「垂直抗力」を求めるために使われます。
      • 連携: (1)でエネルギー保存則を用いて求めた速さ \(v\) の情報(\(v^2=2gh\))を、(2)で立てた運動方程式に代入する、という流れが核心です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ジェットコースターのループ運動: 最高点や最下点での速さや垂直抗力を求める問題。ループを無事に一周するための初速の条件(最高点で垂直抗力 \(N \ge 0\))を問う問題は非常に典型的です。
    • 振り子の運動: 糸で吊るしたおもりが最下点を通過するときの速さと張力や、ある角度まで振れたときの速さと張力を求める問題。
    • なめらかな半球上を滑る物体の運動: 物体が半球上のどこで面から離れるか(垂直抗力 \(N=0\) となるか)を問う問題。これも、エネルギー保存則で任意の角度での速さを求め、その点での円運動の運動方程式に代入して \(N\) を求め、\(N=0\) となる条件を探します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. エネルギーは保存されるか?: まず、問題文を読んで「摩擦がない」「なめらかな」といったキーワードを探します。これがあれば、力学的エネルギー保存則が使える可能性が非常に高いです。
    2. どの2点でエネルギーを比較するか?: エネルギー保存則を使うと決めたら、情報が最も多い「始点」(この問題では高さ\(h\)の点)と、求めたい量を含む「終点」(最下点)の2点を選び、それぞれの位置エネルギーと運動エネルギーを書き出します。
    3. 力を問われたら、その瞬間の円運動を疑う: 「垂直抗力」「張力」といった力を問われたら、その点が円軌道の一部になっていないかを確認します。なっていれば、その瞬間の円運動として運動方程式を立てます。
    4. 向心力の正体を特定する: 運動方程式を立てるために、その瞬間に物体に働いている力をすべて図示し、どの力(の合力)が円の中心方向を向いているか(=向心力の役割を果たしているか)を正確に見抜きます。
    5. 「離れる」「ゆるむ」は \(N=0\) or \(T=0\) と読み替える: 問題で「面から離れる」「糸がゆるむ」といった条件が出てきたら、それはそれぞれ「垂直抗力 \(N=0\)」「張力 \(T=0\)」となる瞬間を指している、と数式的に翻訳することが解法の鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • (2)で力のつりあいと考えてしまう:
    • 誤解: 最下点では、上向きの垂直抗力 \(N\) と下向きの重力 \(mg\) がつり合っていると考えて、\(N=mg\) と間違えてしまう。
    • 対策: 物体は静止しているのではなく、猛スピードでカーブしている最中です。つまり、進路を上に曲げるための「上向きの加速度」を持っています。加速度があるということは、力はつり合っておらず、上向きの力のほうが大きいはずです。したがって、合力(\(N-mg\))が加速度を生む、という運動方程式を立てる必要があります。
  • 向心力の向きを逆に考えてしまう:
    • 誤解: なんとなく重力と同じ下向きを正としてしまい、運動方程式を \(m\frac{v^2}{r} = mg – N\) のように立ててしまう。
    • 対策: 円運動の運動方程式を立てる際の鉄則は、「常に円の中心方向を正とする」ことです。最下点では、円の中心は「上」にあります。したがって、上向きを正とし、上向きの力(\(N\))から下向きの力(\(mg\))を引いたものが、正の向きの向心力になると考えます。
  • 「向心力」という力を新たに書き加えてしまう:
    • 誤解: 物体に働く力を図示する際に、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\) に加えて、円の中心向きに「向心力 \(F\)”」という第3の力を書き込んでしまう。
    • 対策: 向心力は力の「種類」ではなく「役割名」です。この問題では、垂直抗力と重力の「合力(\(N-mg\))」が、全体として「向心力という役割」を果たしているのです。運動方程式の右辺(力の項)には、この力の正体である \(N-mg\) を書きます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(力学的エネルギー保存則):
    • 選定理由: 求めたいのは「速さ \(v\)」であり、与えられているのは「高さ \(h\)」です。運動の始点と終点の状態(位置と速さ)を結びつける法則の中で、途中の経路や時間に依存しないものがエネルギー保存則です。時間や加速度を求める必要がないこの設問では、最も直接的で強力な選択肢となります。
    • 適用根拠: 問題文に「摩擦のない」と明記されており、物体に仕事をする力が保存力である重力のみであるため、力学的エネルギーが保存されるという物理的な条件が満たされています。
  • (2)での公式選択(円運動の運動方程式):
    • 選定理由: 求めたいのは「垂直抗力 \(N\)」という「力」です。ある特定の瞬間における力と運動(加速度)の関係を記述する法則は、運動方程式 \(ma=F\) です。
    • 適用根拠: 物体は最下点という「瞬間」において、半径 \(r\) の円軌道上を速さ \(v\) で通過しています。このとき、物体は円の中心に向かって \(a = \frac{v^2}{r}\) という大きさの向心加速度を持っていることが運動学的にわかっています。この加速度を生み出している原因が、物体に働く力の合力(向心力)です。この因果関係を数式で結びつけるのが運動方程式の役割です。
  • 2つの法則の使い分けの論理:
    • 力学的エネルギー保存則は、異なる2つの状態(点)を結びつける「時間的・空間的な法則」です。
    • 運動方程式は、ある1つの状態(瞬間)における物理量の関係を記述する「瞬間的な法則」です。
    • この問題のように、まずエネルギー保存則で「ある瞬間の速さ」を求め、その情報を「その瞬間の運動方程式」に代入して「その瞬間の力」を求める、という流れは、2つの法則の役割を的確に使い分けた、非常に論理的な解法プロセスです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • \(v^2\) のまま代入する:
    • (1)で \(v = \sqrt{2gh}\) と求めた後、(2)の \(m\frac{v^2}{r}\) に代入する際に、わざわざルートを2乗するのではなく、(1)の計算途中に出てくる \(v^2 = 2gh\) の形をそのまま代入しましょう。計算が一段階減り、ミスを防ぐことができます。
  • 文字式で整理してから代入する:
    • (2)の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = N – mg\) を、まず求めたい \(N\) について \(N = mg + m\frac{v^2}{r}\) と整理します。このように、代入する前に式を整理する癖をつけると、計算の見通しが良くなります。
  • 共通因数でくくる:
    • 計算結果が \(N = mg + m\frac{2gh}{r}\) のようになったら、そこで止めずに共通因数 \(mg\) でくくり、\(N = mg(1 + \frac{2h}{r})\) と整理しましょう。答えがよりシンプルになり、物理的な意味(重力の何倍か)も捉えやすくなります。
  • 極端な場合を考えて検算する:
    • もし \(h=0\) だったら(つまり、最下点で静止していたら)、答えは \(N = mg(1+0) = mg\) となり、静止時の力のつり合いと一致します。
    • もし \(r\) が非常に小さい(カーブが非常に急)なら、\(\frac{2h}{r}\) の項が大きくなり、\(N\) も非常に大きくなります。これも、急カーブほど強い力が必要という直感と一致します。このように、簡単なケースを代入して結果が妥当かを確認するのも良い検算方法です。
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基本問題

206 地球の公転運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解: 速さを先に求める解法
      • 模範解答が角速度の定義から出発するのに対し、別解では速さを「円周÷周期」という直感的な定義から先に求め、そこから他の量を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 角速度と速さという、円運動を記述する2つの基本的な物理量が、互いにどのように関連しているかを異なる視点から理解することができます。
    • 思考の柔軟性向上: 「速さ=道のり÷時間」という基本的な概念が、円運動においても有効であることを再確認でき、公式を丸暗記するのではなく、その意味から物理量を導き出す訓練になります。
    • 解法の選択肢拡大: 問題によっては速さが先に与えられる場合もあり、速さを起点として他の量を計算するアプローチに慣れておくことは応用につながります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「等速円運動の基本量の算出」です。等速円運動を特徴づける物理量(角速度、速さ、向心加速度、周期など)の間の関係を正しく理解し、公式を適用することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 周期と角速度の関係: 周期 \(T\) は \(1\) 周(\(2\pi\) ラジアン)するのにかかる時間であることから、角速度 \(\omega\) と \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) の関係にあること。
  2. 速さと角速度の関係: 円運動の速さ \(v\) は、角速度 \(\omega\) と半径 \(r\) を用いて \(v=r\omega\) と表されること。
  3. 向心加速度の表現: 向心加速度 \(a\) は、角速度を用いると \(a=r\omega^2\)、速さを用いると \(a=\frac{v^2}{r}\) と、2通りに表現できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、周期 \(T\) が与えられているので、周期と角速度の関係式から角速度 \(\omega\) を求めます。
  2. 次に、求めた角速度 \(\omega\) と半径 \(R\) を用いて、速さ \(v\) を計算します。
  3. 最後に、角速度 \(\omega\) と半径 \(R\) を用いて、向心加速度 \(a\) を計算します。

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

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