「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅳ 章 16】基本問題399~408

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基本問題

399 反射と屈折

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 臨界角を用いた判定法
      • 模範解答が屈折の法則を用いて \(\sin \theta > 1\) となることから全反射を導くのに対し、別解では臨界角 \(\theta_c\) を先に計算し、入射角との大小比較によって全反射を判定します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的直感の強化: 「入射角が臨界角を超えたら全反射」という全反射の定義に忠実なアプローチであり、現象の理解を深めます。
    • 計算の効率化: 臨界角 \(\sin \theta_c = 1/n\) は定数なので、複数の界面で全反射の判定が必要な場合に計算を省略できる可能性があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答え(作図結果)は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「プリズムにおける光の反射と屈折」です。直角二等辺三角形のプリズムに入射する光が、各界面でどのように振る舞うか(屈折して外に出るか、全反射して中に留まるか)を、屈折の法則と全反射の条件を用いて解析し、作図する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)。
  2. 全反射の条件: 屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進むとき、入射角 \(\theta\) が臨界角 \(\theta_c\) (\(\sin \theta_c = n_{\text{小}}/n_{\text{大}}\))より大きい場合、光はすべて反射します。
  3. 幾何学的関係: 直角二等辺三角形の角度(\(45^\circ, 90^\circ\))や、法線とのなす角を正しく読み取る幾何学的センスが必要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 光がプリズムに入射する点(点A)での屈折を考えます。入射角が \(0^\circ\) の場合は直進します。
  2. プリズム内部を進み、次の界面(点B)に到達したときの入射角を幾何学的に求めます。
  3. 点Bでの屈折の法則を立て、\(\sin \theta\) の値を確認します。もし \(\sin \theta > 1\) となれば全反射、そうでなければ屈折して外に出ます。
  4. 全反射した場合は反射の法則に従って進み、次の界面(点C)での振る舞いを同様に解析します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光は左側の面(点A)に垂直に入射します。垂直入射(入射角 \(0^\circ\))なので、屈折せずに直進します。
次に斜面(点B)に到達します。直角二等辺三角形の幾何学的性質から、ここでの入射角は \(45^\circ\) です。
ガラス(\(n=\sqrt{3}\))から空気(\(n=1\))への入射なので、全反射の可能性があります。屈折の法則を立てて検証します。
もし全反射なら、反射角 \(45^\circ\) で進み、上側の面(点C)に垂直に入射して外に出ます。
この設問における重要なポイント

  • 点A: 入射角 \(0^\circ\) \(\Rightarrow\) 直進。
  • 点B: 入射角 \(45^\circ\)。ガラス(\(\sqrt{3}\)) \(\to\) 空気(\(1\))。全反射の判定が必要。
  • 点C: 入射角 \(0^\circ\) \(\Rightarrow\) 直進。

具体的な解説と立式
【点Aでの屈折】
光はガラス面に垂直に入射するので、入射角は \(0^\circ\) です。屈折の法則より屈折角も \(0^\circ\) となり、光は直進します。

【点Bでの反射・屈折】
直進した光は斜面上の点Bに到達します。図形の幾何学的関係より、法線とのなす角(入射角)は \(45^\circ\) です。
屈折角を \(\theta_1\) とし、屈折の法則を立てます。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{3} \sin 45^\circ &= 1 \times \sin \theta_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
式①より \(\sin \theta_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_1 &= \sqrt{3} \times \frac{1}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{3}{2}}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{1.5} > 1\) なので、\(\sin \theta_1 > 1\) となります。
サインの値が1を超えることはないため、屈折光は存在しません。すなわち、全反射が起こります。
反射の法則より、反射角は入射角と同じ \(45^\circ\) です。

【点Cでの屈折】
点Bで全反射した光は、入射光と \(90^\circ\) の角度をなして上向きに進みます。
図形的に考えると、この光は上側の面(点C)に対して垂直に入射します。
入射角は \(0^\circ\) なので、光は屈折せずに直進し、空気中へ出ていきます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)
  • 全反射の条件: \(\sin \theta_{\text{屈折}} > 1\) となる場合
計算過程

上記解説内で完結しています。

この設問の平易な説明

まず、光はプリズムに真っ直ぐ入るので、そのまま曲がらずに進みます。
次に、斜めの壁にぶつかります。このとき、ガラスから空気に出ようとしますが、角度が浅すぎる(45度)ため、外に出られずに全部跳ね返されます(全反射)。計算してみると、外に出るための角度が存在しないことがわかります。
跳ね返った光は真上に向かい、上の面に真っ直ぐぶつかるので、そのまま外に出ます。
結果として、光はプリズムの中で直角に曲がって出てくることになります。

結論と吟味

光路は図1のようになります。直角プリズムによる全反射を利用して光の進行方向を90度変える、典型的な光学素子の動作と一致しています。

解答 解説の図1を参照
別解: 臨界角を用いた判定法(設問1)

思考の道筋とポイント
点Bでの全反射判定において、あらかじめ臨界角 \(\theta_c\) を求めておき、入射角 \(45^\circ\) と比較します。
この設問における重要なポイント

  • 臨界角 \(\theta_c\) の定義: \(\sin \theta_c = \frac{n_{\text{空気}}}{n_{\text{ガラス}}}\)。
  • 全反射条件: 入射角 \(> \theta_c\)。

具体的な解説と立式
ガラスから空気への臨界角を \(\theta_c\) とします。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_c &= \frac{1}{\sqrt{3}}
\end{aligned}
$$
点Bでの入射角は \(45^\circ\) なので、\(\sin 45^\circ = \frac{1}{\sqrt{2}}\) です。
大小を比較します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\sqrt{3}} &< \frac{1}{\sqrt{2}}
\end{aligned}
$$
サインは単調増加関数(\(0^\circ < \theta < 90^\circ\))なので、
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_c &< \sin 45^\circ \\[2.0ex]
\theta_c &< 45^\circ
\end{aligned}
$$
入射角 \(45^\circ\) が臨界角 \(\theta_c\) より大きいため、全反射が起こります。

使用した物理公式

  • 臨界角: \(\sin \theta_c = \frac{n_2}{n_1}\)
計算過程

上記解説内で完結しています。

この設問の平易な説明

「これ以上角度がつくと外に出られない」という限界の角度(臨界角)を計算します。サインの値で比べると、今回の入射角(45度)の方が限界よりも大きいことがわかります。つまり、角度がつきすぎていて外に出られないので、全反射します。

結論と吟味

模範解答と同じく全反射という結論が得られました。

解答 全反射する(作図は図1と同じ)

問(2)

思考の道筋とポイント
光は左側の面(点A)に \(60^\circ\) の入射角で入ります。屈折の法則で屈折角を求めます。
屈折した光は上側の面(点B)に到達します。幾何学的に入射角を求め、全反射するかどうか判定します。
点Bでの反射光(または屈折光)が斜面(点C)に到達したときの振る舞いを解析します。
図(2)のプリズムは、左下の角が \(60^\circ\)、右上の角が \(30^\circ\) の直角三角形です。
この設問における重要なポイント

  • 点A: 入射角 \(60^\circ\)。空気(\(1\)) \(\to\) ガラス(\(\sqrt{3}\))。屈折角を計算。
  • 点B: 幾何学的に入射角を特定。ガラス(\(\sqrt{3}\)) \(\to\) 空気(\(1\))。全反射判定。
  • 点C: 幾何学的に入射角を特定。ガラス(\(\sqrt{3}\)) \(\to\) 空気(\(1\))。屈折角を計算。

具体的な解説と立式
【点Aでの屈折】
入射角は \(60^\circ\) です。屈折角を \(\theta_1\) とします。
屈折の法則より、
$$
\begin{aligned}
1 \times \sin 60^\circ &= \sqrt{3} \times \sin \theta_1 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
式②より \(\theta_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_1 &= \frac{1}{\sqrt{3}} \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}
\end{aligned}
$$
よって、\(\theta_1 = 30^\circ\) です。

【点Bでの反射・屈折】
点Aでの屈折角が \(30^\circ\) なので、光線は水平に対して \(30^\circ\) 上向きに進みます。
点Bは上側の水平な面にあります。この面に対する法線は鉛直方向です。
したがって、点Bでの入射角は \(90^\circ – 30^\circ = 60^\circ\) となります。
入射角 \(60^\circ\) でガラスから空気へ進みます。屈折角を \(\theta_2\) とします。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{3} \sin 60^\circ &= 1 \times \sin \theta_2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
式③より \(\sin \theta_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_2 &= \sqrt{3} \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}
\end{aligned}
$$
\(\sin \theta_2 = 1.5 > 1\) なので、ここでも全反射が起こります。
反射角は \(60^\circ\) です。

【点Cでの屈折】
点Bで全反射した光は、斜面(点C)に向かいます。
幾何学的関係から、点Cでの入射角を求めます。
点Bでの反射角が \(60^\circ\) なので、反射光は水平面(上側の面)と \(30^\circ\) の角をなして下向きに進みます。
点Cにおける法線は、斜面(水平と \(30^\circ\) の角をなす)に対して垂直なので、水平面とは \(60^\circ\) の角をなします。
図形的に角度を追うと、光線と水平面のなす角が \(30^\circ\)、法線と水平面のなす角が \(60^\circ\) なので、点Cでの入射角 \(\theta_3\) は \(30^\circ\) となります(詳細は図3を参照)。
屈折角を \(\theta_4\) とします。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{3} \sin 30^\circ &= 1 \times \sin \theta_4 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
式④より \(\theta_4\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_4 &= \sqrt{3} \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}
\end{aligned}
$$
よって、\(\theta_4 = 60^\circ\) です。
光は斜面から \(60^\circ\) の角度で空気中へ出ていきます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則
  • 全反射の条件
計算過程

上記解説内で完結しています。

この設問の平易な説明
  1. 入り口(点A): 空気からガラスへ入るとき、光は内側に曲がります。計算すると、60度で入った光は30度になります。
  2. 上面(点B): 30度で進んできた光が上の面に当たります。法線(垂直な線)との角度を測ると、ここでの入射角は60度になります。ガラスから空気へ出ようとしますが、計算するとサインの値が1を超えてしまうため、ここでも全反射します。
  3. 斜面(点C): 全反射した光は斜面に向かいます。角度を追っていくと、斜面には30度で入射することがわかります。最後にガラスから空気へ出るとき、屈折の法則を使うと、60度の角度で外に出ていくことがわかります。
結論と吟味

光路は図2のようになります。点Aで屈折、点Bで全反射、点Cで屈折して出ていく複雑な経路ですが、一つ一つ法則を適用すれば確実に解けます。最終的に \(60^\circ\) で出ていくのは、点Aでの入射角と同じ値であり、対称性を感じさせます。

解答 解説の図2を参照

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 全反射の条件と臨界角
    • 核心: 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進むとき、入射角がある値(臨界角 \(\theta_c\))を超えると、光は境界面を透過できずにすべて反射されます。この現象を全反射といいます。
    • 理解のポイント:
      • 臨界角の定義: 屈折角がちょうど \(90^\circ\) になるときの入射角です。屈折の法則 \(n_1 \sin \theta_c = n_2 \sin 90^\circ\) から、\(\sin \theta_c = n_2/n_1\) (\(n_1 > n_2\))と導かれます。
      • 判定方法: 屈折の法則で計算した \(\sin \theta_{\text{屈折}}\) が \(1\) を超える場合、あるいは入射角が臨界角より大きい場合に全反射と判定します。
  • 幾何学的関係の把握
    • 核心: プリズムのような多面体では、ある面での屈折・反射角が次の面での入射角を決定します。この連鎖を追うためには、三角形の内角の和や錯角、法線との関係などの幾何学的知識が不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • 法線の作図: 各界面で必ず法線(面に垂直な線)を引き、角度はすべて法線基準で測ります。
      • 角度の追跡: 「反射角=入射角」や「直角三角形の鋭角」などを利用して、次々と角度を求めていきます。図を大きく描くことがミスを防ぐコツです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光ファイバー: コア内での全反射を繰り返して光を伝送する仕組み。入射角の条件を求める問題は本問の応用です。
    • 虹の原理: 水滴内での屈折と反射(全反射ではないが、反射光の強度が角度に依存)によって色が分かれる現象。球形プリズムとして解析します。
    • ダイヤモンドの輝き: 屈折率が非常に大きいため臨界角が小さく、内部に入った光が全反射を繰り返して上面から出てくる現象。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 屈折率の大小を確認する: 光が「密(\(n\)大)\(\to\) 疎(\(n\)小)」に進む箇所を探します。そこが全反射の危険地帯です。
    2. 臨界角を計算しておく: 全反射の可能性がある界面について、\(\sin \theta_c = n_{\text{小}}/n_{\text{大}}\) を計算しておくと、その後の議論がスムーズになります。
    3. 角度を具体的に書き込む: 図に \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) などの角度を書き込み、幾何学的に矛盾がないか確認しながら進めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 角度の定義ミス:
    • 誤解: 境界面とのなす角を入射角として計算してしまう。
    • 対策: 「角度は常に法線(縦線)から測る」を徹底します。特にプリズムの斜面では法線も斜めになるので注意が必要です。
  • 全反射の見落とし:
    • 誤解: 屈折の法則で \(\sin \theta > 1\) となったときに計算ミスだと思ってしまう、あるいは無理やり \(\sin \theta = 1\) としてしまう。
    • 対策: \(\sin \theta > 1\) は「屈折光が存在しない=全反射」という物理的なメッセージです。計算結果を信じて全反射と判定しましょう。
  • 図形の読み取りミス:
    • 誤解: 直角二等辺三角形だと思い込んで \(45^\circ\) を使ってしまう(実際は \(30^\circ-60^\circ-90^\circ\) の場合など)。
    • 対策: 問題文や図の角度指定を慎重に読み取ります。特に直角マークや角度の数値を指差し確認しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 屈折の法則 \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\) の選択:
    • 選定理由: 異なる媒質間での光の進行方向の変化を定量的に扱うための唯一の基本法則だからです。
    • 適用根拠: 幾何光学の範囲で、波長や干渉を考慮せず、光線の経路のみを追跡する問題であるため、この法則が直接適用されます。
  • 全反射条件 \(\sin \theta > 1\) の選択:
    • 選定理由: 屈折光が存在し得ない状況を数式的に判断するためです。
    • 適用根拠: サインの値は必ず \(1\) 以下でなければならないという数学的制約と、物理的な現象(全反射)が対応しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 有名角のサイン・コサイン:
    • \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の三角比(\(1/2, 1/\sqrt{2}, \sqrt{3}/2\))は、分母の有理化を含めて瞬時に変換できるようにしておきます。
    • \(\sqrt{2} \approx 1.41, \sqrt{3} \approx 1.73\) などの近似値を知っておくと、\(\sin \theta > 1\) の判定が素早くできます(例: \(\sqrt{3}/2 \times \sqrt{3} = 1.5 > 1\))。
  • 図形的な検算:
    • 作図した光路が、屈折の法則(密\(\to\)疎で法線から離れる、疎\(\to\)密で法線に近づく)や反射の法則(入射角=反射角)を満たしているか、目視でチェックします。極端におかしい角度になっていないか確認しましょう。

400 レンズと像

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(a)〜(c)の別解: レンズの公式を用いた数値的確認
      • 模範解答が作図によって像の位置を求めているのに対し、別解ではレンズの公式 \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を用いて、物体距離 \(a\) と焦点距離 \(f\) の関係から像距離 \(b\) の符号や大きさを定性的に確認します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 知識の統合: 作図(幾何光学)と公式(代数計算)の結果が一致することを確認することで、レンズの結像に対する理解が深まります。
    • 検算の手段: 作図が正しいかどうかを、数式を使って論理的にチェックする力が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答え(像の位置や種類)は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「レンズによる結像の作図」です。凸レンズと凹レンズの基本的な性質を理解し、代表的な光線の進み方を作図することで、像の位置や種類(実像・虚像、正立・倒立)を特定する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 凸レンズの光線の進み方:
    • 光軸に平行な光線は、屈折後に後方の焦点を通る。
    • レンズの中心を通る光線は、直進する。
    • 前方の焦点を通る光線は、屈折後に光軸に平行に進む。
  2. 凹レンズの光線の進み方:
    • 光軸に平行な光線は、屈折後に前方の焦点から出たように進む。
    • レンズの中心を通る光線は、直進する。
    • 後方の焦点に向かう光線は、屈折後に光軸に平行に進む。
  3. 実像と虚像: 屈折した光線が実際に交わる点にできるのが実像、光線の延長線が交わる点にできるのが虚像です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体の先端(点A’)から出る代表的な光線を2本以上描きます。
  2. それらの光線(またはその延長線)が交わる点を見つけ、そこを像の先端とします。
  3. 交点から光軸に垂線を下ろし、像全体を描きます。

問(a)

思考の道筋とポイント
凸レンズの前方、焦点距離の2倍よりも遠い位置に物体があります。この場合、レンズの後方(焦点と2倍焦点の間)に倒立実像ができるはずです。代表的な3本の光線のうち2本を選んで作図し、交点を求めます。
この設問における重要なポイント

  • レンズの種類: 凸レンズ。
  • 物体の位置: 焦点 \(F’\) の外側。
  • 作図すべき光線: 平行光線、中心を通る光線、焦点を通る光線。

具体的な解説と立式
点A’から出る以下の2本の光線を作図します。

  1. 光軸に平行な光線: レンズで屈折した後、後方の焦点 \(F\) を通るように直線を引きます。
  2. レンズの中心を通る光線: そのまま直進させます。

(3本目として、前方の焦点 \(F’\) を通る光線を描き、屈折後に光軸と平行に進ませても構いません。3本とも同じ点で交わります。)
これら2本の光線がレンズの後方で交わる点が、像の先端となります。交点から光軸に垂線を下ろし、矢印を描きます。

使用した物理公式

  • 凸レンズの作図ルール
計算過程

計算は不要で、作図のみです。

この設問の平易な説明

凸レンズの基本的な使い方のひとつです。遠くにある物体の光を集めて、反対側のスクリーンに映すような状況です。
「まっすぐ行って焦点へ曲がる線」と「真ん中を突っ切る線」の2本を描くと、レンズの向こう側でぶつかります。そこが像のできる場所です。上下逆さまの像(倒立実像)になります。

結論と吟味

作図の結果、レンズの後方(焦点 \(F\) より外側)に倒立実像ができます。これはカメラや眼の網膜に像を結ぶ原理と同じです。

解答 解説の図(a)を参照

問(b)

思考の道筋とポイント
凸レンズの前方、焦点 \(F’\) よりも内側(レンズに近い位置)に物体があります。この場合、光線はレンズの後方で広がってしまい交わりません。観察者から見ると、光線がレンズの前方から出ているように見えるため、正立虚像ができます。これを虫眼鏡(ルーペ)の原理といいます。
この設問における重要なポイント

  • レンズの種類: 凸レンズ。
  • 物体の位置: 焦点 \(F’\) の内側。
  • 作図の工夫: 屈折後の光線を逆方向に延長して交点を見つける。

具体的な解説と立式
点A’から出る以下の2本の光線を作図します。

  1. 光軸に平行な光線: レンズで屈折した後、後方の焦点 \(F\) を通るように進みます。
  2. レンズの中心を通る光線: そのまま直進させます。

この2本の光線はレンズの後方で広がっていくため、交わりません。そこで、屈折後の光線を点線でレンズの前方(物体側)へ延長します。
延長線が交わる点が、像の先端となります。交点から光軸に垂線を下ろし、矢印を描きます。

使用した物理公式

  • 凸レンズの作図ルール(虚像)
計算過程

計算は不要で、作図のみです。

この設問の平易な説明

虫眼鏡で物を拡大して見るときの状況です。物体をレンズに近づけすぎると、光は集まらずに広がってしまいます。でも、その広がった光を逆向きにたどっていくと、元の物体よりも後ろのほうで交わります。そこにあたかも大きな物体があるかのように見えます。これが虚像です。

結論と吟味

作図の結果、物体の後方(レンズから見て遠い側)に、物体よりも大きな正立虚像ができます。

解答 解説の図(b)を参照

問(c)

思考の道筋とポイント
凹レンズの場合、物体の位置に関わらず、常に正立虚像ができます。光軸に平行な光線が「焦点から出てきたように」広がる性質を利用します。
この設問における重要なポイント

  • レンズの種類: 凹レンズ。
  • 光線の進み方: 平行光線は発散する(前方の焦点 \(F’\) から出たように進む)。
  • 作図の工夫: 屈折後の光線を逆方向に延長する。

具体的な解説と立式
点A’から出る以下の2本の光線を作図します。

  1. 光軸に平行な光線: レンズで屈折した後、前方の焦点 \(F’\) から出たかのように広がって進みます。作図上は、点線で \(F’\) とレンズ上の入射点を結び、その延長線を描きます。
  2. レンズの中心を通る光線: そのまま直進させます。

(3本目として、後方の焦点 \(F\) に向かう光線を描き、屈折後に光軸と平行に進ませ、それを逆延長しても構いません。)
1の光線の延長線(点線)と、2の光線が交わる点が、像の先端となります。

使用した物理公式

  • 凹レンズの作図ルール
計算過程

計算は不要で、作図のみです。

この設問の平易な説明

凹レンズは光を広げるレンズです。「まっすぐ来た光は、手前の焦点からビームが出たみたいに広がる」というルールで描きます。中心を通る線と交わるところを探すと、必ず物体よりも小さくて、レンズに近い場所に像ができます。これはドアののぞき穴(ドアスコープ)などで使われる原理です。

結論と吟味

作図の結果、物体とレンズの間に、物体よりも小さな正立虚像ができます。

解答 解説の図(c)を参照
別解: レンズの公式を用いた数値的確認

思考の道筋とポイント
作図の結果が正しいか、レンズの公式 \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を使って確認します。
\(a\): 物体距離(常に正)
\(b\): 像距離(実像なら正、虚像なら負)
\(f\): 焦点距離(凸レンズなら正、凹レンズなら負)
この設問における重要なポイント

  • (a) \(a > f\) (凸レンズ) \(\Rightarrow b > 0\) (実像)
  • (b) \(a < f\) (凸レンズ) \(\Rightarrow b < 0\) (虚像)
  • (c) \(f < 0\) (凹レンズ) \(\Rightarrow\) 常に \(b < 0\) (虚像)

具体的な解説と立式
(a)の場合
物体は焦点の外側にあるので、\(a > f\) です。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b} &= \frac{1}{f} – \frac{1}{a} \\[2.0ex]
&= \frac{a – f}{af}
\end{aligned}
$$
\(a > f\) より分子は正なので、\(b > 0\) となります。これは実像ができることを意味し、作図結果と一致します。

(b)の場合
物体は焦点の内側にあるので、\(a < f\) です。
同様の式で、\(a – f < 0\) となるため、\(b < 0\) となります。これは虚像ができることを意味し、作図結果と一致します。
また、倍率 \(m = |\frac{b}{a}| = |\frac{f}{a-f}|\) を考えると、\(a\) が \(f\) に近いほど倍率が大きくなることもわかります。

(c)の場合
凹レンズなので焦点距離を \(-f\) (\(f>0\))とします。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{a} + \frac{1}{b} &= -\frac{1}{f} \\[2.0ex]
\frac{1}{b} &= -\frac{1}{f} – \frac{1}{a} \\[2.0ex]
&= -\frac{a + f}{af}
\end{aligned}
$$
右辺は常に負なので、\(b < 0\) となります。これは常に虚像ができることを意味し、作図結果と一致します。

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

上記解説内で完結しています。

この設問の平易な説明

数式を使っても、作図と同じ結果が予言できます。
(a)では \(b\) がプラスになるので「実像」、(b)と(c)では \(b\) がマイナスになるので「虚像」ができることが、計算からも確かめられます。

結論と吟味

作図による定性的な結果と、公式による定量的な考察が完全に整合しています。

解答 (a) 実像, (b) 虚像, (c) 虚像(詳細は上記)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンズの作図ルール(3本の代表光線)
    • 核心: どのような複雑な物体からの光も、以下の3つの基本ルールに従って進みます。これらを作図することで、計算せずとも像の位置や大きさを特定できます。
      1. 平行光線: 光軸に平行に入射した光は、屈折後に焦点を通る(凹レンズの場合は焦点から出たように進む)。
      2. 中心光線: レンズの中心(光学的中心)を通る光は、直進する。
      3. 焦点光線: 焦点を通って(凹レンズの場合は焦点に向かって)入射した光は、屈折後に光軸に平行に進む。
    • 理解のポイント:
      • 2本で十分: 像の位置を決めるには、これら3本のうち任意の2本の交点を見つければ十分です。通常は「平行光線」と「中心光線」が描きやすく、ミスが少ないです。
  • 実像と虚像の幾何学的意味
    • 核心: 「光線が実際に交わる」か「延長線が交わる」かが決定的な違いです。
    • 理解のポイント:
      • 実像: レンズを通過した光が一点に集まる場所。スクリーンを置けば像が映ります。倒立します。
      • 虚像: レンズを通過した光が広がってしまい、逆方向にたどると一点から出ているように見える場所。スクリーンには映りませんが、肉眼で覗くと見えます。正立します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 組み合わせレンズ: 2枚のレンズがある場合、1枚目の像を作図し、それを2枚目のレンズにとっての「物体」として再度作図します。1枚目の実像が2枚目の焦点の内側にできると、最終的に虚像になるなど、ステップごとの追跡が必要です。
    • 球面鏡(凹面鏡・凸面鏡): レンズと全く同じ3本のルール(平行\(\to\)焦点、中心\(\to\)反射角等しい、焦点\(\to\)平行)で作図できます。ただし、光が戻ってくる点に注意が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズの種類を確認する: 矢印の形(\(\updownarrow\) なら凸、\(\leftrightarrow\) のような形なら凹)や断面図を見て、凸レンズか凹レンズかを即座に判断します。
    2. 焦点の位置をマークする: \(F\) と \(F’\) がどこにあるかを確認します。特に凹レンズでは、平行光線が「手前の焦点 \(F’\)」から出るように広がるため、どちらの焦点を使うかが重要です。
    3. 物体の位置を確認する: 焦点距離 \(f\) に対して、物体が \(2f\) より遠いか、\(f\) と \(2f\) の間か、\(f\) より近いかを見極めます。これにより、像が拡大されるか縮小されるか、実像か虚像かの予測がつきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 凹レンズの焦点の取り違え:
    • 誤解: 平行光線を屈折させた後、誤って「後方の焦点 \(F\)」に通してしまう(凸レンズと同じにしてしまう)。
    • 対策: 凹レンズは「光を広げるレンズ」です。光が内側に集まったらおかしいと気づきましょう。「手前の焦点 \(F’\) からビームが出る」イメージを持ちます。
  • 虚像の作図忘れ:
    • 誤解: 光線が交わらない(広がっていく)のを見て、「像はできない」と答えてしまう。
    • 対策: 光線が広がってしまったら、即座に定規を当てて「逆方向に点線で延長」します。必ずどこかで交わります。
  • 矢印の向き:
    • 誤解: 像の位置は合っているのに、矢印の向き(上下)を書き忘れたり間違えたりする。
    • 対策: 交点は「矢印の先端」です。そこから光軸に向かって垂線を下ろすので、光軸より下なら下向き矢印、上なら上向き矢印になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 作図法の選択:
    • 選定理由: 問題文で「作図せよ」と指示されている場合はもちろんですが、計算問題であっても、像の大まかな位置や種類(倒立・正立)を直感的に把握するために最強のツールです。
    • 適用根拠: 幾何光学の基本原理(スネルの法則の近似)に基づいているため、近軸光線(光軸に近い光)である限り常に正しい結果を与えます。
  • レンズの公式(別解)の選択:
    • 選定理由: 作図が正しいかどうかの検算や、具体的な数値(倍率など)を知りたい場合に有効です。
    • 適用根拠: 作図と数式は表裏一体の関係にあり、\(a, b, f\) の符号や大小関係が、図上の位置関係と完全にリンクしているためです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 定規を使う習慣:
    • フリーハンドで描くと、光線が曲がって交点の位置が大きくずれることがあります。特に「平行」や「中心を通る直線」は定規で正確に引く練習をしましょう。
  • 典型パターンの暗記:
    • 凸レンズ:
      • \(2f\) より遠い \(\to\) \(f\) と \(2f\) の間に倒立縮小実像
      • \(2f\) の位置 \(\to\) \(2f\) の位置に倒立等大実像
      • \(f\) と \(2f\) の間 \(\to\) \(2f\) より遠くに倒立拡大実像
      • \(f\) より近い \(\to\) 後方に正立拡大虚像
    • 凹レンズ:
      • 常に正立縮小虚像
    • これらを覚えておけば、作図した瞬間に「あ、変だぞ」と気づけます。

401 凸レンズの実像

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解: 倍率の公式を用いた座標変換による解法
      • 模範解答が「倒立実像は上下左右が逆」という定性的な性質から判断しているのに対し、別解では倍率 \(m = -b/a\) (倒立を表す負号を含む)を用いて、物体の座標 \((x, y)\) が像の座標 \((-mx, -my)\) に変換されることを定量的に示します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 数学的厳密性: 「上下左右が逆」という言葉の曖昧さを排除し、座標変換として明確に理解できます。
    • 応用力: 倒立だけでなく、倍率 \(m\) によって像の大きさが変わることや、正立像(\(m > 0\))の場合にも同じ枠組みで考えられるようになります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答え(選択肢③)は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「凸レンズによる実像の向き」です。凸レンズによってスクリーン上にできる実像が、元の物体に対してどのような向き(倒立)になるかを理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 凸レンズの結像: 物体が焦点の外側にあるとき、レンズの後方に実像ができます。
  2. 倒立実像: 凸レンズによる実像は、元の物体に対して上下左右が逆転した「倒立像」となります。
  3. 座標系での理解: 物体上の点 \((x, y)\) は、像面上で点 \((-X, -Y)\) に対応します(倍率を考慮しない場合)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、スクリーン上に実像ができていることを確認します。これは物体が焦点の外側にあることを意味し、像は倒立実像となります。
  2. 「倒立」の意味を座標軸で考えます。上向き(\(y\) 軸正)の矢印は下向き(\(y\) 軸負)に、右向き(\(x\) 軸正)の矢印は左向き(\(x\) 軸負)になります。
  3. 選択肢の中から、\(x\) 軸、\(y\) 軸ともに負の向きを向いている矢印を選びます。

凸レンズの実像

思考の道筋とポイント
まず、凸レンズによってスクリーンに像ができていることから、これは「実像」であることを確認します。凸レンズの実像は必ず「倒立」します。
次に、「倒立」が具体的にどういうことかを考えます。単に上下がひっくり返るだけでなく、左右もひっくり返ります。つまり、原点を中心とした点対称な変換が行われます。
光源の矢印は \(x\) 軸正方向(右)と \(y\) 軸正方向(上)を向いています。これが点対称に移動するとどうなるかをイメージします。
この設問における重要なポイント

  • スクリーンに像ができる \(\Rightarrow\) 実像である。
  • 凸レンズの実像 \(\Rightarrow\) 倒立像(上下左右が逆)である。
  • 光源の矢印の向き: \(x\) 軸正(右)、\(y\) 軸正(上)。
  • 倒立像の矢印の向き: \(x\) 軸負(左)、\(y\) 軸負(下)。

具体的な解説と立式
物体(光源)は凸レンズの焦点の外側に置かれています。このとき、レンズの後方に置かれたスクリーン上には実像が結ばれます。
凸レンズによる実像は、物体に対して倒立の関係にあります。
「倒立」とは、上下が逆になるだけでなく、左右も逆になることを意味します。
光源の矢印は、

  • \(x\) 軸の正の向き(右向き)
  • \(y\) 軸の正の向き(上向き)

を向いています。
したがって、スクリーン上の像の矢印は、

  • \(x\) 軸の負の向き(左向き)
  • \(y\) 軸の負の向き(下向き)

を向くことになります。
これに該当する図は③です。

使用した物理公式

  • 凸レンズの結像特性(実像は倒立)
計算過程

計算は不要で、定性的な判断のみです。

この設問の平易な説明

凸レンズを通してスクリーンに映る像は、カメラや映画館のスクリーンと同じで、元の景色がひっくり返って映ります。
「ひっくり返る」というのは、上が下になるだけでなく、右が左になります。
元の矢印は「右」と「上」を向いているので、ひっくり返った像は「左」と「下」を向くことになります。
だから、左と下を向いている矢印が描かれている③が正解です。

結論と吟味

正解は③です。
①は左右が逆転しているが上下はそのまま、②は上下が逆転しているが左右はそのまま、④は上下左右ともそのまま(正立)です。倒立実像の性質(上下左右逆転)を満たすのは③のみです。

解答
別解: 倍率の公式を用いた座標変換による解法

思考の道筋とポイント
「倒立」という言葉の定義を数式で確認します。レンズの公式と倍率の公式を用いると、物体の位置座標と像の位置座標の関係を導くことができます。
物体距離を \(a\)、像距離を \(b\) とすると、横倍率 \(m\) は \(m = -b/a\) と表されます(マイナスは倒立を意味します)。これを使って、矢印の先端の座標がどこに移るかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • 倍率 \(m = -\frac{b}{a}\) (\(a, b > 0\))。
  • 物体上の点 \((x, y)\) は、像面上で \((mx, my) = (-\frac{b}{a}x, -\frac{b}{a}y)\) に写る。

具体的な解説と立式
物体(光源)までの距離を \(a\)、スクリーン(像)までの距離を \(b\) とします。実像ができるので \(a, b > 0\) です。
光学系における横倍率 \(m\) は以下の式で定義されます(符号の定義によるが、ここでは倒立を負とする標準的な定義を用います)。
$$
\begin{aligned}
m &= -\frac{b}{a}
\end{aligned}
$$
光源の矢印の先端の座標を、それぞれ \((x_0, 0)\) (\(x\) 軸方向の矢印)、\((0, y_0)\) (\(y\) 軸方向の矢印)とします。ここで \(x_0 > 0, y_0 > 0\) です。
像面上の対応する点の座標 \((X, Y)\) は、元の座標を \(m\) 倍したものになります。
\(x\) 軸方向の矢印の先端:
$$
\begin{aligned}
X &= m x_0 \\[2.0ex]
&= -\frac{b}{a} x_0
\end{aligned}
$$
\(a, b, x_0\) はすべて正なので、\(X < 0\) となります。つまり、\(x\) 軸負の向きです。

\(y\) 軸方向の矢印の先端:
$$
\begin{aligned}
Y &= m y_0 \\[2.0ex]
&= -\frac{b}{a} y_0
\end{aligned}
$$
同様に \(Y < 0\) となります。つまり、\(y\) 軸負の向きです。

使用した物理公式

  • 横倍率の公式: \(m = -\frac{b}{a}\)
計算過程

上記解説内で完結しています。

この設問の平易な説明

レンズを通すと、像の大きさは「倍率」倍になりますが、実像の場合は倍率にマイナスがつくと考えます。
プラスの座標にある点は、マイナスの倍率を掛けられるので、マイナスの座標に移ります。
つまり、プラス(右)にあったものはマイナス(左)へ、プラス(上)にあったものはマイナス(下)へ移動します。

結論と吟味

模範解答と同じく、\(x\) 軸負方向、\(y\) 軸負方向を向く③が正解となります。

解答

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 凸レンズによる実像の性質
    • 核心: 凸レンズによってスクリーン上に結ばれる実像は、必ず「倒立像」になります。これは、レンズの中心を通る光線が直進することから幾何学的に必然です。
    • 理解のポイント:
      • 点対称性: 「倒立」とは、単に上下が逆になるだけでなく、レンズの中心(光軸)を原点とした点対称な変換(180度回転)を意味します。したがって、上下だけでなく左右も逆転します。
      • 実像の条件: 物体が焦点の外側にあるときのみ実像ができます。焦点の内側にあるときは正立虚像となり、スクリーンには映りません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 顕微鏡や望遠鏡の像: 対物レンズでできた倒立実像を、接眼レンズ(ルーペ)で拡大して見る仕組みです。最終的に目に見える像が倒立か正立かを追跡する際に、この「倒立=点対称」の理解が役立ちます。
    • ピンホールカメラ: レンズを使わず小さな穴を通す場合も、光が直進するため倒立実像ができます。原理は凸レンズの中心を通る光線と同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 像の種類を特定する: 「スクリーンに映る」というキーワードがあれば、それは間違いなく実像です。凸レンズの実像なら倒立、凹面鏡の実像も倒立です。
    2. 座標軸の向きを確認する: 問題によっては、スクリーン上の座標軸の取り方が特殊な場合があります(例:レンズ側から見て右を正とするか、スクリーン裏から見て右を正とするか)。本問では「観測者がレンズ側からスクリーンを見る」と視点が指定されているので、それに従います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「上下逆」だけで判断してしまう:
    • 誤解: 「倒立」と聞いて、上下だけひっくり返して左右はそのままにしてしまう(鏡に映った像と混同する)。
    • 対策: 「倒立=180度回転」と覚えましょう。紙に矢印を描いて、それをくるっと180度回してみると、上下も左右も逆になることが体感できます。
  • 視点の混乱:
    • 誤解: スクリーンを「裏から透かして見る」のか「表(レンズ側)から見る」のかで左右が逆転するため、混乱する。
    • 対策: 問題文の指示「レンズ側からスクリーンを見る」を絶対視します。これは、自分がレンズの位置に立って、スクリーン上の絵を見ている状況です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 定性的な判断(倒立の性質)の選択:
    • 選定理由: 具体的な数値(焦点距離や物体の位置)が与えられておらず、選択肢を選ぶ形式であるため、計算よりも性質の理解を問う問題だからです。
    • 適用根拠: 「凸レンズの実像は倒立」という事実は、幾何光学の基本原理として確立されており、これだけで正解を導くのに十分です。
  • 倍率の公式 \(m = -b/a\) (別解)の選択:
    • 選定理由: 「倒立」の意味を数学的に厳密に確認したい場合や、像の大きさまで問われる場合に有効です。
    • 適用根拠: 負の倍率は座標の反転(\(x \to -x, y \to -y\))を意味するため、上下左右の逆転を数式で表現できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 作図による確認:
    • 計算や知識だけでなく、簡単な図を描いて確認する癖をつけましょう。矢印の先端からレンズの中心を通る直線を引けば、像が反対側(下・左)に行くことが一目瞭然です。
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402 凸レンズ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: ニュートンの公式を用いる解法
      • 模範解答がレンズの公式(ガウスの公式)を用いるのに対し、別解では焦点を基準としたニュートンの公式 \(xx’ = f^2\) を用いて計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算の簡略化: 分数の足し算を回避できるため、計算ミスを減らし、素早く解を導ける場合があります。
    • 物理的意味の理解: 焦点からの距離という視点を持つことで、レンズの結像特性を多角的に理解できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「凸レンズによる結像」です。レンズの公式を用いて像の位置や大きさを定量的に求めるとともに、レンズの一部を遮蔽したときの影響について定性的に理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンズの公式: \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)。ここで \(a\) は物体距離、\(b\) は像距離、\(f\) は焦点距離です。
  2. 倍率の公式: \(m = \left| \frac{b}{a} \right|\)。像の大きさは \(m \times (\text{物体の大きさ})\) です。
  3. 実像と虚像: \(b > 0\) なら実像(倒立)、\(b < 0\) なら虚像(正立)です。
  4. 結像の原理: 物体の一点から出た光は、レンズの全面を通って像の一点に集まります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた数値(\(a=30, f=20\))をレンズの公式に代入して \(b\) を求めます。\(b\) の符号から像の種類を判定し、倍率の公式を使って像の大きさを計算します。
  2. (2)では、結像の原理に基づいて、レンズの一部を覆ったときに像がどう変化するか(欠けるのか、暗くなるのか)を考察します。

問(1)

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