「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅲ 章 11】発展例題~発展問題285

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発展例題

発展例題23 氷の比熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 熱量の比と時間の比の関係を用いる解法
      • 模範解答が設問(1)で求めた加熱率[J/s]を具体的に用いるのに対し、別解では加熱率が一定であることを利用し、「水の昇温」過程との熱量の比を計算して融解熱を求めます。
    • 設問(3)の別解: 熱量の比と時間の比の関係を用いる解法
      • 設問(2)の別解と同様に、「水の昇温」過程との熱量の比を計算して氷の比熱を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「加熱率が一定」という条件を、具体的な数値[J/s]として使う方法と、比例関係(比)として使う方法の違いと関連性を理解することで、熱の問題をより多角的に捉える力が養われます。
    • 解法の選択肢拡大: 基準となる現象(今回は水の昇温)との比較によって未知数を求めるという、物理問題で頻出する「比で解く」アプローチを学べます。
    • 計算の効率化: 場合によっては、加熱率\(P\)を具体的に計算する手間を省けるため、計算が簡略化されることがあります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「物質の状態変化と熱量」です。ヒーターによって加熱された氷が、温度上昇、融解、そして水になってからの温度上昇という3つの過程を経る様子をグラフから読み取り、比熱や融解熱といった物理量を計算する典型問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱量と温度変化の関係式: 物体の温度を変化させるのに必要な熱量 \(Q\) は、質量 \(m\)、比熱 \(c\)、温度変化 \(\Delta T\) を用いて \(Q=mc\Delta T\) と表されます。
  2. 熱容量の概念: 物体全体の温度を \(1\,\text{K}\) 上昇させるのに必要な熱量を熱容量 \(C\) といい、\(Q=C\Delta T\) の関係が成り立ちます。
  3. 融解熱(潜熱)の概念: 固体が液体に状態変化する際には、温度は一定のまま熱(融解熱)が吸収されます。必要な熱量 \(Q\) は、質量 \(m\)、融解熱 \(L_f\) を用いて \(Q=mL_f\) と表されます。
  4. グラフから情報を読み取る力: グラフの各区間がどの物理過程(氷の昇温、融解、水の昇温)に対応するのかを正確に理解することが出発点となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まずグラフから、物質がすべて水に変化した後の温度上昇の区間を特定します。水の質量と比熱、容器の熱容量は既知なので、この区間の温度変化に必要な熱量を計算できます。その熱量と加熱時間から、ヒーターが毎秒供給する熱量を求めます。
  2. (2)では、グラフから氷が融解している区間(温度が \(0\)℃で一定の区間)を特定します。(1)で求めた毎秒の供給熱量と、融解にかかった時間から、氷 \(400\,\text{g}\) を融解させるのに使われた総熱量を計算し、そこから \(1\,\text{g}\) あたりの融解熱を求めます。
  3. (3)では、グラフから氷の温度が上昇している区間を特定します。(1)で求めた毎秒の供給熱量と、この区間の加熱時間から、氷と容器の温度上昇に使われた総熱量を計算します。この熱量と温度変化の値を用いて、未知数である氷の比熱を逆算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ヒーターは一定の割合で熱を供給しています。この「毎秒あたりの供給熱量」[J/s]を求めることが目的です。そのためには、加えられた熱量と、それによって引き起こされた温度変化の関係が正確にわかっている区間を見つける必要があります。
グラフの \(254\,\text{s}\) から \(314\,\text{s}\) の区間に注目します。このとき、氷はすべて溶けて水になっており、その水の温度が上昇しています。水の質量 \(m\)、水の比熱 \(c_{\text{水}}\)、容器の熱容量 \(C\)、そしてグラフから読み取れる温度変化 \(\Delta T\) と時間 \(\Delta t\) を使えば、吸収された総熱量を計算し、それを時間で割ることで毎秒あたりの供給熱量を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • グラフの \(254\,\text{s} \sim 314\,\text{s}\) の区間では、\(400\,\text{g}\) の「水」と熱容量 \(120\,\text{J/K}\) の容器が一緒に温められている。
  • 温度は \(0\)℃ から \(20\)℃ へ、\(20\)℃ (\(=20\,\text{K}\)) 上昇している。
  • この温度上昇にかかった時間は \(314 – 254 = 60\,\text{s}\) である。

具体的な解説と立式
まず、水 \(400\,\text{g}\) と容器をあわせた全体の熱容量 \(C_{\text{全体}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
C_{\text{全体}} &= (\text{水の熱容量}) + (\text{容器の熱容量}) \\[2.0ex]
&= m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}
\end{aligned}
$$
次に、\(254\,\text{s}\) から \(314\,\text{s}\) の間に、水と容器が吸収した熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) を計算します。温度変化は \(\Delta T = 20 – 0 = 20\,\text{K}\) です。
$$
Q_{\text{吸収}} = C_{\text{全体}} \Delta T
$$
ヒーターが毎秒供給する熱量を \(P\) [J/s] とします。加熱時間は \(\Delta t = 314 – 254 = 60\,\text{s}\) なので、この間に供給された熱量 \(Q_{\text{供給}}\) は、
$$
Q_{\text{供給}} = P \times \Delta t
$$
供給された熱はすべて吸収されるので、\(Q_{\text{供給}} = Q_{\text{吸収}}\) が成り立ちます。したがって、以下の関係式が立てられます。
$$
P \times (314 – 254) = (m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}) \times (20 – 0)
$$

使用した物理公式

  • 熱量と温度変化: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

水と容器をあわせた熱容量 \(C_{\text{全体}}\) は、\(m_{\text{水}}=400\,\text{g}\), \(c_{\text{水}}=4.2\,\text{J/(g·K)}\), \(C_{\text{容器}}=120\,\text{J/K}\) より、
$$
\begin{aligned}
C_{\text{全体}} &= 400 \times 4.2 + 120 \\[2.0ex]
&= 1680 + 120 \\[2.0ex]
&= 1800\,\text{J/K}
\end{aligned}
$$
\(254\,\text{s}\) から \(314\,\text{s}\) の間に吸収された熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) は、温度変化が \(20\,\text{K}\) なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{吸収}} &= 1800 \times 20 \\[2.0ex]
&= 36000\,\text{J}
\end{aligned}
$$
この熱量は \(60\,\text{s}\) の間に供給されたものです。ヒーターが毎秒供給する熱量を \(P\) とすると、
$$
\begin{aligned}
P \times 60 &= 36000 \\[2.0ex]
P &= \frac{36000}{60} \\[2.0ex]
P &= 600\,\text{J/s}
\end{aligned}
$$
設問は「毎秒何Jか」と問うているので、答えは \(600\,\text{J}\) となります。有効数字2桁で答えるため、\(6.0 \times 10^2\,\text{J}\) となります。

この設問の平易な説明

やかんでお湯を沸かすのをイメージしてください。この問題では、まず(1)で「コンロの火はどれくらいの強さですか?(1秒あたりにどれくらいの熱を出しますか?)」と聞かれています。グラフを見ると、後半に「水」を温めている区間があります。水の温まりやすさ(比熱)は分かっているので、この区間で「どれだけの時間で」「どれだけ温度が上がったか」を調べれば、コンロの火の強さを逆算できる、というわけです。

結論と吟味

ヒーターが毎秒供給する熱量は \(6.0 \times 10^2\,\text{J}\) と求まりました。この値は、この後の設問(2), (3)を解くための基礎となります。

解答 (1) \(6.0 \times 10^2\,\text{J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この設問では、氷 \(1\,\text{g}\) を \(0\)℃ の水 \(1\,\text{g}\) に変えるのに必要な熱量、すなわち「融解熱」[J/g] を求めます。
グラフで温度が \(0\)℃ のまま一定になっている区間、すなわち \(32\,\text{s}\) から \(254\,\text{s}\) の間は、供給された熱がすべて氷の融解(状態変化)に使われています。
(1)で求めた毎秒の供給熱量 \(P\) と、融解にかかった時間 \(\Delta t\) を掛けることで、氷 \(400\,\text{g}\) を融解させるのに必要な総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) を計算できます。この総熱量を氷の質量で割れば、\(1\,\text{g}\) あたりの融解熱が求まります。
この設問における重要なポイント

  • グラフの \(32\,\text{s} \sim 254\,\text{s}\) の平らな部分が、氷 \(400\,\text{g}\) が融解している区間である。
  • 融解にかかった時間は \(254 – 32 = 222\,\text{s}\) である。
  • この間、ヒーターは(1)で求めた毎秒 \(600\,\text{J}\) の熱を供給し続けている。

具体的な解説と立式
融解にかかった時間 \(\Delta t = 254 – 32 = 222\,\text{s}\) の間に供給された総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) は、(1)で求めた毎秒の供給熱量 \(P=600\,\text{J/s}\) を用いて、
$$
Q_{\text{融解}} = P \times \Delta t
$$
この熱量によって、質量 \(m_{\text{氷}} = 400\,\text{g}\) の氷がすべて融解しました。氷 \(1\,\text{g}\) あたりの融解熱を \(L_f\) [J/g] とすると、融解に必要な熱量は \(Q_{\text{融解}} = m_{\text{氷}} L_f\) と表せます。
したがって、以下の関係式が立てられます。
$$
m_{\text{氷}} L_f = P \times (254 – 32)
$$

使用した物理公式

  • 融解熱: \(Q = mL_f\)
計算過程

\(32\,\text{s}\) から \(254\,\text{s}\) の間に供給された総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{融解}} &= 600 \times (254 – 32) \\[2.0ex]
&= 600 \times 222 \\[2.0ex]
&= 133200\,\text{J}
\end{aligned}
$$
これが氷 \(400\,\text{g}\) を融解させるのに必要な熱量です。したがって、\(1\,\text{g}\) あたりの融解熱 \(L_f\) は、
$$
\begin{aligned}
L_f &= \frac{133200}{400} \\[2.0ex]
&= 333\,\text{J/g}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(3.3 \times 10^2\,\text{J}\) となります。

この設問の平易な説明

氷が溶けている間は、いくら熱を加えても温度は \(0\)℃ のままです。このとき、加えられた熱はすべて氷を水に変えるために使われます。(1)でわかったコンロの火の強さ(毎秒 \(600\,\text{J}\))で、氷が全部溶けるのに \(222\) 秒かかったことがグラフからわかります。つまり、氷 \(400\,\text{g}\) を溶かすのに必要な熱は \(600 \times 222\) [J] です。これを \(400\) で割れば、氷 \(1\,\text{g}\) を溶かすのに必要な熱量が計算できます。

結論と吟味

氷の融解熱は \(3.3 \times 10^2\,\text{J/g}\) と求まりました。これは物理の教科書などに載っている一般的な値(約 \(334\,\text{J/g}\))とほぼ一致しており、妥当な結果と言えます。

解答 (2) \(3.3 \times 10^2\,\text{J}\)
別解: 熱量の比と時間の比の関係を用いる解法

思考の道筋とポイント
ヒーターの加熱率 \(P\) [J/s] が一定であるため、各過程で吸収された熱量の比は、その過程にかかった時間の比に等しくなります。この性質を利用して、設問(1)で求めた加熱率 \(P\) の具体的な数値を使わずに、融解熱を求めることができます。
基準として、物理量がすべて既知である「水の昇温」過程(\(254\,\text{s} \sim 314\,\text{s}\))と比較します。
この設問における重要なポイント

  • 加熱率が一定なので、\((\text{熱量}) = (\text{加熱率}) \times (\text{時間})\) より、熱量と時間は比例する。
  • \(Q_{\text{融解}} : Q_{\text{水昇温}} = (\text{融解にかかった時間}) : (\text{水の昇温にかかった時間})\) が成り立つ。
  • 水の昇温にかかった時間は \(314 – 254 = 60\,\text{s}\)。
  • 融解にかかった時間は \(254 – 32 = 222\,\text{s}\)。

具体的な解説と立式
氷の融解過程(\(32\,\text{s} \sim 254\,\text{s}\))で吸収された熱量を \(Q_{\text{融解}}\)、水の昇温過程(\(254\,\text{s} \sim 314\,\text{s}\))で吸収された熱量を \(Q_{\text{水昇温}}\) とします。
それぞれの熱量は、氷の融解熱を \(L_f\) として、
$$
Q_{\text{融解}} = m_{\text{氷}} L_f = 400 L_f
$$
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水昇温}} &= (m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}) \Delta T_{\text{水}} \\[2.0ex]
&= (400 \times 4.2 + 120) \times (20 – 0)
\end{aligned}
$$
一方、熱量の比は時間の比に等しいので、
$$
\frac{Q_{\text{融解}}}{Q_{\text{水昇温}}} = \frac{254 – 32}{314 – 254} = \frac{222}{60}
$$
これらの式を組み合わせることで \(L_f\) を求めます。

使用した物理公式

  • 融解熱: \(Q = mL_f\)
  • 熱量と温度変化: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

まず、水の昇温で吸収された熱量 \(Q_{\text{水昇温}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水昇温}} &= (1680 + 120) \times 20 \\[2.0ex]
&= 1800 \times 20 \\[2.0ex]
&= 36000\,\text{J}
\end{aligned}
$$
次に、熱量の比の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{400 L_f}{36000} &= \frac{222}{60}
\end{aligned}
$$
\(L_f\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
400 L_f &= 36000 \times \frac{222}{60} \\[2.0ex]
400 L_f &= 600 \times 222 \\[2.0ex]
400 L_f &= 133200 \\[2.0ex]
L_f &= \frac{133200}{400} \\[2.0ex]
L_f &= 333\,\text{J/g}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(3.3 \times 10^2\,\text{J}\) となります。

この設問の平易な説明

コンロの火の強さがずっと同じなら、\(10\)分間加熱したときの熱量は、\(5\)分間加熱したときの熱量の\(2\)倍になります。この「熱量と時間は比例する」という当たり前の関係を使います。水の温度を上げるのに \(60\) 秒かかり、氷を溶かすのに \(222\) 秒かかったので、氷を溶かす熱量は、水の温度を上げた熱量の \(\frac{222}{60}\) 倍だとわかります。水の温度を上げた熱量は計算できるので、そこから氷を溶かす熱量を逆算する方法です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、加熱率 \(P\) を一度計算するというステップを挟まずに、熱量の比から直接答えを導ける点で、見通しが良い解法と言えます。

解答 (2) \(3.3 \times 10^2\,\text{J}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
この設問では、氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) [J/(g·K)]、つまり氷 \(1\,\text{g}\) の温度を \(1\,\text{K}\) (\(=1\)℃) 上げるのに必要な熱量を求めます。
グラフの最初の区間、\(0\,\text{s}\) から \(32\,\text{s}\) の間では、氷と容器の温度が \(-20\)℃ から \(0\)℃ へと上昇しています。
この温度上昇に使われた総熱量 \(Q_{\text{氷昇温}}\) は、(1)で求めた毎秒の供給熱量 \(P\) と、かかった時間 \(\Delta t\) から計算できます。一方、この熱量は、氷の温度上昇と容器の温度上昇に使われた熱量の和に等しいはずです。この関係から、\(Q_{\text{氷昇温}} = (m_{\text{氷}}c_{\text{氷}} + C_{\text{容器}}) \Delta T\) という式を立て、未知数である氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • グラフの \(0\,\text{s} \sim 32\,\text{s}\) の区間では、\(400\,\text{g}\) の「氷」と熱容量 \(120\,\text{J/K}\) の容器が一緒に温められている。
  • 温度は \(-20\)℃ から \(0\)℃ へ、\(20\)℃ (\(=20\,\text{K}\)) 上昇している。
  • この温度上昇にかかった時間は \(32 – 0 = 32\,\text{s}\) である。

具体的な解説と立式
氷の昇温にかかった時間 \(\Delta t = 32 – 0 = 32\,\text{s}\) の間に供給された総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) は、
$$
Q_{\text{供給}} = P \times \Delta t
$$
この熱量によって、質量 \(m_{\text{氷}} = 400\,\text{g}\) の氷と熱容量 \(C_{\text{容器}} = 120\,\text{J/K}\) の容器の温度が、\(\Delta T = 0 – (-20) = 20\,\text{K}\) だけ上昇しました。
この温度上昇に必要な熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) は、氷の比熱を \(c_{\text{氷}}\) とすると、
$$
Q_{\text{吸収}} = (m_{\text{氷}}c_{\text{氷}} + C_{\text{容器}}) \Delta T
$$
供給された熱はすべて吸収されるので \(Q_{\text{供給}} = Q_{\text{吸収}}\) より、
$$
P \times 32 = (400 \times c_{\text{氷}} + 120) \times (0 – (-20))
$$

使用した物理公式

  • 熱量と温度変化: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

\(0\,\text{s}\) から \(32\,\text{s}\) の間に供給された総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{供給}} &= 600 \times 32 \\[2.0ex]
&= 19200\,\text{J}
\end{aligned}
$$
この熱量が氷と容器の温度上昇に使われたので、
$$
\begin{aligned}
19200 &= (400 \times c_{\text{氷}} + 120) \times (0 – (-20)) \\[2.0ex]
19200 &= (400 c_{\text{氷}} + 120) \times 20
\end{aligned}
$$
両辺を \(20\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
960 &= 400 c_{\text{氷}} + 120
\end{aligned}
$$
\(120\) を移項すると、
$$
\begin{aligned}
960 – 120 &= 400 c_{\text{氷}} \\[2.0ex]
840 &= 400 c_{\text{氷}}
\end{aligned}
$$
したがって、氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) は、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{氷}} &= \frac{840}{400} \\[2.0ex]
&= 2.1\,\text{J/(g·K)}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

最後に、氷の温まりやすさ(比熱)を求めます。グラフの最初の部分で、氷が \(-20\)℃ から \(0\)℃ に温まっています。このとき、氷だけでなく、それが入っている容器も一緒に温まっていることに注意が必要です。(1)でわかったコンロの火の強さで \(32\) 秒間熱したときの熱量が、氷と容器を \(20\)℃ 温めた、という式を立てれば、そこから逆算して氷の比熱がわかります。

結論と吟味

氷の比熱は \(2.1\,\text{J/(g·K)}\) と求まりました。これは水の比熱 \(4.2\,\text{J/(g·K)}\) のちょうど半分であり、物理的に妥当な値です。一般に、氷は水よりも比熱が小さく、温まりやすいことが知られています。

解答 (3) \(2.1\,\text{J/(g·K)}\)
別解: 熱量の比と時間の比の関係を用いる解法

思考の道筋とポイント
設問(2)の別解と同様に、加熱率が一定であることから、熱量の比が時間の比に等しいことを利用します。
「氷の昇温」過程(\(0\,\text{s} \sim 32\,\text{s}\))と、基準となる「水の昇温」過程(\(254\,\text{s} \sim 314\,\text{s}\))を比較することで、氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 加熱率が一定なので、熱量と時間は比例する。
  • \(Q_{\text{氷昇温}} : Q_{\text{水昇温}} = (\text{氷の昇温にかかった時間}) : (\text{水の昇温にかかった時間})\) が成り立つ。
  • 水の昇温にかかった時間は \(314 – 254 = 60\,\text{s}\)。
  • 氷の昇温にかかった時間は \(32 – 0 = 32\,\text{s}\)。

具体的な解説と立式
氷の昇温過程(\(0\,\text{s} \sim 32\,\text{s}\))で吸収された熱量を \(Q_{\text{氷昇温}}\)、水の昇温過程(\(254\,\text{s} \sim 314\,\text{s}\))で吸収された熱量を \(Q_{\text{水昇温}}\) とします。
それぞれの熱量は、氷の比熱を \(c_{\text{氷}}\) として、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{氷昇温}} &= (m_{\text{氷}}c_{\text{氷}} + C_{\text{容器}}) \Delta T_{\text{氷}} \\[2.0ex]
&= (400 c_{\text{氷}} + 120) \times (0 – (-20))
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水昇温}} &= (m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}) \Delta T_{\text{水}} \\[2.0ex]
&= (400 \times 4.2 + 120) \times (20 – 0)
\end{aligned}
$$
一方、熱量の比は時間の比に等しいので、
$$
\frac{Q_{\text{氷昇温}}}{Q_{\text{水昇温}}} = \frac{32 – 0}{314 – 254} = \frac{32}{60}
$$
これらの式を組み合わせることで \(c_{\text{氷}}\) を求めます。

使用した物理公式

  • 熱量と温度変化: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

まず、水の昇温で吸収された熱量 \(Q_{\text{水昇温}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水昇温}} &= (1680 + 120) \times 20 \\[2.0ex]
&= 1800 \times 20 \\[2.0ex]
&= 36000\,\text{J}
\end{aligned}
$$
次に、熱量の比の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{(400 c_{\text{氷}} + 120) \times 20}{36000} &= \frac{32}{60}
\end{aligned}
$$
\(c_{\text{氷}}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
(400 c_{\text{氷}} + 120) \times 20 &= 36000 \times \frac{32}{60} \\[2.0ex]
(400 c_{\text{氷}} + 120) \times 20 &= 600 \times 32 \\[2.0ex]
(400 c_{\text{氷}} + 120) \times 20 &= 19200
\end{aligned}
$$
両辺を \(20\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
400 c_{\text{氷}} + 120 &= 960 \\[2.0ex]
400 c_{\text{氷}} &= 840 \\[2.0ex]
c_{\text{氷}} &= \frac{840}{400} \\[2.0ex]
c_{\text{氷}} &= 2.1\,\text{J/(g·K)}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)の別解と考え方は同じです。水の温度を上げるのに \(60\) 秒かかり、氷の温度を上げるのに \(32\) 秒かかったので、氷を温める熱量は、水を温める熱量の \(\frac{32}{60}\) 倍だとわかります。水を温める熱量は計算できるので、そこから氷を温める熱量を求め、氷の比熱を逆算する方法です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この別解は、物理現象を「比」で捉える視点を提供し、問題解決の引き出しを増やす上で非常に有益です。

解答 (3) \(2.1\,\text{J/(g·K)}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱量保存則とグラフの読解
    • 核心: この問題の根幹は、ヒーターから供給された熱量 \(Q_{\text{供給}}\) が、すべて物質の温度上昇(\(mc\Delta T\) や \(C\Delta T\))や状態変化(\(mL\))に使われるという熱量の保存関係を理解し、数式に落とし込む能力です。
    • 理解のポイント:
      • グラフの各区間がどの物理現象に対応しているかを正確に把握することが不可欠です。傾きが正の区間は温度上昇(顕熱の吸収)、傾きが \(0\) の水平な区間は状態変化(潜熱の吸収)を表します。
      • ヒーターの加熱率(毎秒の供給熱量)が一定であるという条件が鍵となります。これにより、加熱時間と供給された総熱量が比例関係にあることを利用して、各過程での熱量を計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 冷却曲線: 物質を一定の割合で冷却していくときの温度変化のグラフを扱う問題。考え方は加熱曲線と全く同じで、凝固熱や比熱を求めることができます。
    • 熱量計を用いた混合問題: 異なる温度の物質を断熱容器内で混ぜたときの最終的な温度を求める問題。「高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量」という熱量保存則の式を立てて解きます。
    • 電気と熱の融合問題: ヒーターの代わりに抵抗に電流を流して発生するジュール熱(\(P=IV=RI^2\))で物質を加熱する問題。電気の知識と熱の知識を結びつける必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずはグラフの区切りを見つける: 温度変化の様子が変わる点(グラフが折れ曲がる点や水平になる点)に注目し、それぞれの区間で何が起きているか(昇温、融解、沸騰など)を判断します。
    2. 熱の出入りを明確にする: 誰が熱を与え(この問題ではヒーター)、誰が熱を受け取っているか(氷、水、容器)の役割分担をはっきりさせます。
    3. 既知の物理量と未知の物理量を整理する: 問題文で与えられている値(質量、比熱、熱容量など)と、設問で求めたい値は何かをリストアップします。
    4. どの区間の情報が最も有用か判断する: 未知数が最も少なく、計算の突破口となる区間から手をつけるのが定石です。この問題では、水の比熱が既知である「水の昇温区間」がそれに該当します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 容器の熱容量を無視してしまう:
    • 誤解: 氷や水だけが熱を吸収すると考えてしまい、容器の存在を忘れてしまう。
    • 対策: 問題文に「容器」の記述と「熱容量」の値があれば、必ずそれも熱を受け取る(あるいは放出する)物体として計算に含める必要があります。\(Q = (mc + C)\Delta T\) のように、物質と容器を一体として、全体の熱容量を考えて式を立てる癖をつけましょう。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の計算ミス:
    • 誤解: 温度変化を考える際に、セルシウス温度(℃)と絶対温度(K)の扱いで混乱してしまう。特に負の温度が含まれると計算ミスをしやすい。
    • 対策: 温度「差」を考える場合、\(\Delta T\) [K] = \(\Delta t\) [℃] なので、セルシウス温度の差をそのまま使って問題ありません。例えば、\(-20\)℃ から \(0\)℃ への変化は、変化後の温度から変化前の温度を引いて \(0 – (-20) = 20\)℃ となり、温度差は \(20\,\text{K}\) です。符号の扱いに注意しましょう。
  • 比熱と熱容量の混同:
    • 誤解: 比熱は物質 \(1\,\text{g}\) あたりの温まりにくさ [J/(g·K)]、熱容量は物体「全体」の温まりにくさ [J/K] であるという違いを意識せずに使ってしまう。
    • 対策: 単位に注目するのが最も確実です。質量 \(m\) が式に含まれるか(\(mc\Delta T\))含まれないか(\(C\Delta T\))で区別しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(\(Q=mc\Delta T, Q=C\Delta T\)):
    • 選定理由: 求めたいのはヒーターの加熱率 \(P\) [J/s] です。これは、\(P = (\text{加えた熱量}) / (\text{かかった時間})\) で求まります。したがって、まず熱量を計算する必要があります。グラフの \(254 \sim 314\,\text{s}\) 区間では「温度上昇」という現象が起きています。温度上昇と熱量の関係を表す基本法則は \(Q=mc\Delta T\) と \(Q=C\Delta T\) であるため、これらの公式を選択するのは必然です。
    • 適用根拠: この区間では、水(質量 \(m\), 比熱 \(c\))と容器(熱容量 \(C\))が同時に温度上昇しています。したがって、両者が吸収した熱量の合計 \(mc\Delta T + C\Delta T = (mc+C)\Delta T\) を計算する必要があります。
  • (2)での公式選択(\(Q=mL_f\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「融解熱 \(L_f\)」です。これは、氷が水に「状態変化」するときの熱量に関わる物理量です。状態変化と熱量の関係を表す基本法則は \(Q=mL\) です。今回は融解なので \(Q=mL_f\) を選択します。
    • 適用根拠: グラフの \(32 \sim 254\,\text{s}\) 区間では、温度が一定のまま融解が進んでいます。この間に加えられた熱量 \(Q\) が、質量 \(m\) の氷をすべて融解させるのに使われたと解釈できるため、\(Q=mL_f\) の関係が成り立ちます。
  • (3)での公式選択(\(Q=mc\Delta T, Q=C\Delta T\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\)」です。これは、氷の「温度上昇」と熱量の関係から求まる物理量です。したがって、(1)と同様に \(Q=mc\Delta T\) と \(Q=C\Delta T\) を選択します。
    • 適用根拠: グラフの \(0 \sim 32\,\text{s}\) 区間では、氷(質量 \(m\), 比熱 \(c_{\text{氷}}\))と容器(熱容量 \(C\))が同時に温度上昇しています。この間に加えられた熱量 \(Q\) と温度変化 \(\Delta T\) がグラフから読み取れるため、\(Q = (mc_{\text{氷}}+C)\Delta T\) の式を立て、未知数 \(c_{\text{氷}}\) について解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位時間あたりの量と総量を区別する:
    • ヒーターが供給する熱量 \(P\) は「毎秒」あたりの量 [J/s] です。一方、実際に物質が吸収する熱量 \(Q\) は、それに時間を掛けた「総量」[J] です。\(Q=P \times \Delta t\) の関係を常に意識し、混同しないようにしましょう。
  • グラフの数値を正確に読み取る:
    • グラフの軸の単位([s], [℃])をまず確認します。そして、変化が起こる始点と終点の時刻や温度を正確に読み取り、引き算を間違えないように注意します。特に \(0 – (-20)\) のような負の数が絡む計算は慎重に行いましょう。
  • 大きな桁の計算は指数表記を活用する:
    • 例えば、\(36000\,\text{J}\) は \(3.6 \times 10^4\,\text{J}\)、\(133200\,\text{J}\) は \(1.332 \times 10^5\,\text{J}\) と書くことで、桁数のミスを減らせます。模範解答のように、計算の途中から \(1.8 \times 10^3\) や \(6.0 \times 10^2\) のように指数表記を使うと、計算の見通しが良くなります。
  • 物理的に妥当な値か吟味する:
    • (3)で求めた氷の比熱 \(2.1\,\text{J/(g·K)}\) が、水の比熱 \(4.2\,\text{J/(g·K)}\) と比べて極端に大きかったり小さかったりしないかを確認します。(一般に、氷は水より温まりやすい(比熱が小さい)ので、\(4.2\) より小さい値になるはず、という予測が立ちます。)
    • (2)で求めた融解熱 \(333\,\text{J/g}\) も、水の比熱 \(4.2\,\text{J/(g·K)}\) と比べてかなり大きい値であることが知られています。\(1\,\text{g}\) の水の温度を \(1\)℃ 上げるのに \(4.2\,\text{J}\) しか要らないのに対し、\(1\,\text{g}\) の氷を溶かすにはその約80倍の熱が必要、という感覚を持っておくと検算に役立ちます。
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発展問題

280 金属球の比熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解: 系全体の熱容量を考える解法
      • 模範解答が銅容器、水、金属球のそれぞれが吸収した熱量を個別に足し合わせるのに対し、別解ではこれら3つを一つの「系」とみなし、系全体の熱容量を考えて立式します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 個別の物体に着目する方法と、系全体を一つの大きな物体として捉える方法の違いと関連性を理解することで、熱の問題をより多角的に見る力が養われます。
    • 思考の柔軟性向上: 熱容量という概念をより深く理解し、複数の物体が関わる熱の問題をよりシンプルに、そして統一的に捉える良い訓練になります。
  3. 結果への影響
    • 立式の出発点となる考え方が異なりますが、最終的に導かれる方程式と答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「熱量保存則を用いた比熱の決定」です。複数の物質が混在する系において、外部から加えられた熱量がどのように分配されるかを考え、未知の物理量(比熱)を求める問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱量保存則: 「断熱容器」という条件から、外部との熱のやりとりは無視できます。したがって、ヒーターが供給した熱量は、すべて内部の物質(銅製容器、水、金属球)の温度上昇のために使われます。
  2. 熱量と温度変化の関係式: 物質の温度を \(\Delta T\) だけ上昇させるのに必要な熱量 \(Q\) は、その物質の質量 \(m\) と比熱 \(c\) を用いて、\(Q = mc\Delta T\) と表されます。
  3. 文字式の計算能力: この問題は具体的な数値ではなく、すべて文字で与えられているため、求めたい物理量について代数計算を正確に行う能力が求められます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ヒーターが \(t\) 秒間に供給した総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) を、与えられた記号 \(q, t\) を用いて表します。
  2. 銅製容器、水、金属球がそれぞれ温度上昇のために吸収した熱量 \(Q_1, Q_2, Q_3\) を、\(Q=mc\Delta T\) の公式を用いて、与えられた記号と未知数 \(c\) で表します。
  3. 熱量保存則「\(Q_{\text{供給}} = Q_1 + Q_2 + Q_3\)」に基づいて方程式を立てます。
  4. 立てた方程式を、求めたい金属球の比熱 \(c\) について解きます。

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