一番記憶に残る勉強法は「人に教えること」だった ― 教えるつもり学習の科学と物理での回し方

授業を聞いた。解説を読んだ。例題も解いた。「うん、分かった」と思う。

ところが、友達に「これどういうこと?」と聞かれて説明しようとすると――最初の一言は出るのに、その先で言葉が詰まる。

「分かってたはずなのに、なんで説明できないんだ?」――この瞬間、実は君はとても価値のあるものを手にしています。それは「分かったつもりだったけど、本当はまだ定着していなかった場所」が、はっきり見えたという事実です。そして、この”詰まり”をわざと起こしにいく勉強法こそが、数ある学習法の中でも特に記憶に残りやすいと分かっています。それが「教えるつもり勉強法」です。

こんな覚えありませんか?
□ 授業や解説を読むと分かるのに、いざ自分で説明しようとすると止まる
□ 問題集を何周もしているのに、本番で手が動かない
□ 「読む・解く」はするが、「自分の言葉で言い直す」はしていない
□ 友達に教えていたら、自分の理解が浅かったことに気づいた経験がある

「読んで分かる」と「人に教えられる」は、まったく別の状態です。そして本番のテストで必要なのは、後者に近い”自分で再現できる”状態です。この記事では、わざわざ人に教えるつもりで学ぶと、なぜ記憶に残るのか――その仕組みと、相手がいなくても今日の1問から回せる3ステップを扱います。

生徒
先生、読んだら分かるんです。でも友達に説明しようとすると、急に言葉が出てこなくて…。やっぱり理解できてないんですかね。
まこと
いいえ、それは「教えようとした人だけが受け取れるご褒美」です。説明で詰まった場所=まだ定着していない場所。読むだけでは絶対に気づけない穴が、教えようとした瞬間に光って見える。今日はその光らせ方を一緒に練習しましょう。
📍 今の君
→ 読む・解くはしているが、自分の言葉で説明する練習はしていない。だから「分かったつもり」のまま本番で崩れる
🎯 この記事を読み終えた後
→ 「教えるつもり」で学ぶと記憶に残る仕組みを理解し、相手がいなくても1問から回せる3ステップが手元にある
🛣️ ここまでの距離
→ 読了10分 / 今日解いた1問を、解答を閉じて1分間、声に出して”教えるつもり”で説明してみる

まず一つ、試してほしいことがあります。今日解いた問題を一つ思い浮かべて、解答を閉じたまま、その問題を1分間、何も知らない後輩に向かって声に出して説明できるでしょうか。「説明できる気がする」と「本当に説明できる」の間には、はっきりした壁があります。その壁を味方につける方法を、これから見ていきましょう。

まず知ってほしい ― 「教えるつもり」は、ただ読むより記憶に残る

最初に、少し意外な事実をお伝えします。

学習科学の研究で、同じ教材を「後でテストを受けるために覚えてね」と言われて勉強したグループと、「後で他の人に教えてもらうから覚えてね」と言われて勉強したグループを比べたものがあります。やったことは同じ「勉強」なのに、結果は分かれました。“教えるつもり”で学んだグループのほうが、時間がたった後のテストで成績が高かったのです。さらに、準備だけでなく実際に声に出して説明したグループは、その差がもっと大きく、しかも長く続きました。

面白いのは、両グループとも「同じ時間、同じ教材」で勉強していること。違いはたった一つ、頭の中の”構え”だけです。「テストのため」だと、人はつい受け身で読み流します。一方「人に教えるため」と思った瞬間、脳は「どこが大事か」「どう順番に話すか」「聞かれたらどう答えるか」を勝手に準備し始める。この準備こそが、記憶を深く刻む正体です。

セルフチェック ― 君は「教えるつもり」で学べているか

■ 「教えるつもり学習」できているかセルフチェック
□ 勉強の後、解答やノートを閉じて自分の言葉で言い直したことがない
□ 説明するときも、結局は教科書や解説の言い回しをなぞっている
□ 「なぜこの式を使うのか」を、人に聞かれても答えられない気がする
□ 問題が解けたら「分かった」とし、その先は確認していない
□ アウトプット(思い出す・説明する)より、インプット(読む)の時間が圧倒的に長い

チェックがついても、落ち込む必要はありません。むしろ「伸びしろの在りか」が見つかったということです。やり方を少し変えるだけで、同じ勉強時間から受け取れる定着量が変わります。

同じ「教えるつもり」でも、効くやり方と効かないやり方がある

ここで大事な注意があります。「人に教えるといい」と聞いて、教科書を開いたまま音読する人がいますが、それではほとんど効果が出ません。効くやり方と効かないやり方は、はっきり分かれています。下の表で見比べてください。

場面 ✕ 効かない「教えるつもり」 ◯ 効く「教えるつもり」
資料の扱い ノートや解説を見ながら説明する 閉じて、記憶から引き出して説明する
言葉づかい 教科書の言い回しをそのまま読み上げる 自分の言葉に言い換え、身近な例も足す
深さ 手順を「こうやる」と並べるだけ 「なぜそうするのか」まで答える
合格ライン すらすら言えたら満足して終わり 詰まった所を見つけ、そこを埋めてから終わる
▲ 左は「読み上げ」、右は「組み立て直し」。記憶に残るのは右だけ。違いは”閉じて・自分の言葉で・なぜまで・詰まりを埋める”の4点
まこと
14年間、たくさんの生徒を見てきて断言できます。左の「読み上げ型」をいくら回しても伸びません。逆に、右の「閉じて・なぜまで」をやり始めた子は、数週間で解き直しの質が変わります。同じ”教えるつもり”でも、中身がまるで別物なんです。

なぜ「教えるつもり」で記憶に残るのか ― 受け身の読みとの違い

ここで、根本の仕組みに触れておきます。なぜ”教えるつもり”になるだけで、定着が変わるのでしょうか。理由は大きく3つあります。

1つ目は「組み立て直し」です。人に教えようとすると、脳は教材の中から大事な所を選び、順番につなぎ、自分の知識と結びつけて説明を組み立てます。この「選ぶ・つなぐ・結びつける」という能動的な作業そのものが、記憶を深く刻みます。ただ目で文字を追う受け身の読みでは、この作業が起きません。

2つ目は「思い出す力」です。資料を閉じて説明する行為は、記憶の中から情報を引っぱり出す訓練そのもの。思い出す練習をした内容ほど、後で再現しやすくなることは、数多くの研究で確かめられています。逆に、解説を見ながら話すと”思い出す”動作がゼロになり、効果はほとんど消えます。これが、さっきの表で「閉じる」を強調した理由です。

3つ目は「穴が見える」こと。説明しようとして言葉が詰まった瞬間――そこが、まだ定着していない場所です。受け身で読んでいる限り、この”詰まり信号”は一度も鳴りません。読むと「分かった気」になり、抜けている所を素通りしてしまうからです。教えるつもりになることは、自分の理解の穴を自分で点検する装置を起動することなのです。

物理は特に「教えるつもり」が効く科目

そして物理は、この勉強法がとりわけよく効く科目です。理由は、物理が「用語の暗記」よりも「なぜそうなるか」という因果のつながりで成り立っているから。

例えば「斜面の問題では重力を分解する」と手順だけ覚えても、本番で少し設定が変わると手が止まります。でも「なぜ重力を分解するのか」「なぜその2方向に分けるのか」を人に説明できる状態なら、設定が変わっても自分で組み立て直せる。教えるつもりで「なぜ」まで言葉にする作業は、物理で一番大事な”構造の理解”を直接鍛えます。実際、概念のつながりが命になる理科や数学のような科目ほど、教える学習の効果が大きく出ることが報告されています。

考え方を一つ、入れ替えましょう。
説明で詰まるのは「失敗」ではありません。「定着していない場所を見つけられた=前進」です。本番までに穴を見つけて埋められれば勝ち。怖いのは、穴があるのに気づかないまま本番を迎えることのほうです。詰まりは、敵ではなく地図の印です。

処方箋 ― 「教えるつもり学習」を3つの動作で実装する

ここからは具体策です。「友達がいないと無理では?」と思うかもしれませんが、心配いりません。相手は実在しなくてかまいません。むしろ一人のほうが、緊張せずに自分の理解に集中できます。次の3ステップは、今日の解き直し1問から実装できます。

STEP 1: 閉じて1分、声に出して教える

何をするか: 解いた1問について、解答とノートを閉じ、1分間、声に出して”教えるつもり”で説明する。

  • 解答を一度確認したら、解答もノートも閉じる
  • タイマーを1分セット
  • 「後輩に教えるつもり」で声に出す(どんな問題か → どの方針で → どの式を使い → なぜその式か)
  • 詰まった瞬間が、君の”未定着”の在りか。そこに印をつける

必ず声に出すのがポイントです。頭の中だけだと、詰まっても「まあ分かってる」とごまかせてしまう。口に出すと、ごまかしが効きません。言葉が止まった瞬間が、はっきり分かります。

STEP 2: 説明に「なぜ?」を3回足す

何をするか: 説明できた部分にも、「なぜ?」を3回ぶつけてみる。

手順を並べるだけ(「まず分解して、次に式を立てて…」)で終わると、教科書の読み上げと変わりません。そこに自分で問いを足します。「なぜこの方針を選んだ?」「なぜこの式が使える?(どの条件のとき成り立つ?)」「どこでこのやり方は通用しなくなる?」。この3つの問いに答えられない箇所が、本当の穴です。

これは、説明を「手順の暗唱」から「理解の再構築」へ引き上げるための、いちばん大事な仕掛けです。すらすら言えても「なぜ?」で詰まるなら、それはまだ定着していない証拠。「なぜ」に答えられて初めて、本番で応用が利く状態になります。

STEP 3: 詰まった1点だけを埋め、もう一度教え直す

何をするか: 詰まった箇所だけ教科書や解説に戻って確認し、もう一度閉じて、その部分を教え直す

全部を読み直す必要はありません。詰まるのは、たいてい1問につき1〜2か所だけ。その1〜2点を確認したら、すぐ閉じて、もう一度声に出して説明します。「閉じる → 詰まる → 1点だけ開いて確認 → また閉じて言い直す」のサイクルが、定着を一気に進めます。確認しっぱなしで終えず、必ず「閉じて言い直す」まで戻るのがコツです。

「教えるつもり」で記憶に残る3段の流れ ① 覚える 読む・解く(インプット) ② 閉じて教える 選ぶ・つなぐ・なぜ? ③ 詰まり=未定着 教えるから見える穴 詰まった1点を埋めれば、そこが定着する。 ただ覚えるだけでは、この穴は最後まで見えない。
▲ 「覚える→閉じて教える→詰まる」と進むと、見えなかった未定着が、つぶせる1点に変わる
🎯 今日の1アクション

今日解いた1問だけでいい。解答を閉じて、1分間、後輩に教えるつもりで声に出す。詰まったら、その1点だけ確認して、もう一度閉じて言い直す。たった1問・5分で、君の理解の穴が1つ、ふさがります。

この「自分に問いを立てながら学ぶ」やり方には、しっかりした裏づけがあります。学んだ内容に「これはどういう意味か」「これとあれはどう関係するか」と自分で問いを立てながら勉強した生徒は、ただ読み返した生徒より、後のテストの成績がはっきり高かったという研究があります。STEP 2の「なぜ?を3回」は、まさにこの問いを自分に投げる動作です。

相手がいなくても回せる ― 一人用の「教えるつもり」3パターン

「教える相手なんていない」――大丈夫です。一人でできる形があります。

  • スマホ録画: カメラに向かって、後輩に教えるつもりで1問を説明して録画する。後で見返すと、自分の説明の曖昧な所が客観的に見えます。対面と違って緊張せず、何度でも撮り直せます。
  • ぬいぐるみ・空いた椅子相手: 目の前に”聞き手”を置いて話すだけで、独り言より説明が丁寧になります。子どもっぽく感じるかもしれませんが、効果は本物です。
  • 指導台本を書く: 声を出しにくい環境なら、「誰かに教える台本」を書き出す。ただし要約に逃げないこと。仮の生徒から「なぜ?」と聞かれる前提で、理由まで書きます。

どの形でも、共通の合格ラインは同じです。「閉じて・自分の言葉で・なぜまで・詰まりを埋める」。この4点さえ守れば、相手が人でもカメラでもぬいぐるみでも、記憶への効き目は変わりません。

実践 ― 力学的エネルギー保存を「教えるつもり」で1回回す

抽象論で終わらせないために、定番の「なめらかな斜面を滑り下りる物体」を例に、3ステップの前後を並べてみます。

摩擦のない斜面で、高さ \(h\) から物体が静かに滑り下りる。解説は「力学的エネルギーが保存するので、位置エネルギー \(mgh\) が運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) に移る」と進みます。ここで多くの人が、「なぜ保存するといえるのか」という肝心の前提を素通りします。手順は追えても、「なぜ」が抜けたままなのです。

力学的エネルギー保存「教えるつもり」Before / After
場面 Before(読むだけ) After(教えるつもりで)
解説を読んだ後 「エネルギー保存ね、なるほど」で次へ 閉じて1分「なぜ保存するの?」と声に出して教える
詰まりの発見 詰まらない(読めてしまうから) 「なぜ摩擦がないと保存するのか言えない」と判明
「なぜ?」を足す なし(手順だけ覚える) 「摩擦=熱で逃がす力。それが無いから総量が減らない」と気づく
埋め方 解説をもう一度読む(穴は残る) その1点だけ確認し、閉じて言い直して腹落ち
本番(摩擦あり問題) 「保存?しない?」と固まる 「摩擦があるから保存しない」と自分で判断できる

違いは、解説の読み込み量ではありません。“教えるつもりで、なぜまで言う”動作を1つ挟んだかどうか。それだけで、もやもやは「なぜ保存するか」という1点に絞られ、埋めるべき穴がはっきりします。そして一度「なぜ」を自分の言葉で言えた知識は、設定が変わっても崩れません。

“分かったつもり”は、人に教えようとした瞬間に正体を現す。詰まった1点を埋めれば、それは本番で崩れない理解に変わる。

まこと先生の診察室 ― 「教えるつもり学習」伴走版

「教えるつもりで説明すると、いつも同じ所で詰まる君へ ― アウトプットを一緒に回す伴走診察室」

共田 誠(ともだ まこと)
共田 誠(ともだ まこと) 物理専門オンライン家庭教師 / 指導歴14年 / 2000人指導
YouTube物理クイズチャンネル運営
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以下、いくつ当てはまりますか?

□ 読むと分かるのに、いざ説明しようとすると言葉が止まる
□ 「教えるつもり」を試したが、自分の説明が合っているか不安
□ 手順は言えるが「なぜ?」と聞かれると答えに詰まる
□ 詰まった所を見つけても、その先の埋め方が分からない
□ アウトプットを一人で続けるのが、続かない・自信が持てない

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共田 誠(まこと先生)

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共田 誠(まこと先生)

高校物理講師・プロ家庭教師 / 指導歴14年

上智大学理工学部物理学科卒。私立高校の非常勤講師として進学クラスから基礎クラスまで幅広く担当。大手家庭教師センター3社でプロ家庭教師を経験し、現在はオンライン専門で全国の高校生を個別指導中。

暗記物理の撲滅」を掲げ、生徒の思考のクセを診断・矯正するドクター型アプローチで指導。表面的なテクニックではなく、初見の問題に強い思考力を育てる。

800+解説記事
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