問題43 円盤と円環の多数回衝突 (22 浜松医大 改)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 相対速度の数列的性質を用いた定性的な解法
- 計算ではなく、反発係数の物理的意味(衝突のたびに相対速度が \(-e\) 倍になる)に着目し、直感的に一般項を導きます。
- 設問(1)〜(5)の一括解説(別解1): 重心系(重心座標)を用いた解法
- 観測者を「系全体の重心」に置くことで、2物体の運動を「重心の等速運動」と「重心周りの相対運動」に分離します。この視点では、衝突は単に「重心に向かって近づき、跳ね返る」だけの単純な現象となり、計算量が劇的に削減されます。
- 設問(1)〜(5)の一括解説(別解2): 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 保存則を前提とせず、ニュートンの運動方程式から出発します。衝突時に働く撃力を時間積分することで運動量保存則を導出し、エネルギーの変化を仕事の定義から導きます。
- 設問(3)の別解: 相対速度の数列的性質を用いた定性的な解法
- 上記の別解が有益である理由
- 重心系の解法: 2物体問題における最強のツールです。特にエネルギー損失(問5)や最終状態(問4)の計算において、計算ミスを誘発する複雑な連立方程式を回避し、暗算レベルで答えを出せるようになります。
- 微積分の解法: 「なぜ運動量は保存するのか?」「エネルギーはなぜ減るのか?」という根本原理を理解することで、未知の設定(外力がある場合など)にも対応できる応用力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「一直線上での2物体の繰り返し衝突」です。
床との摩擦がないため、系全体の外力がゼロであり、運動量が保存され続ける点が鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 水平方向の外力(摩擦など)がないため、円盤と円環の運動量の和は常に一定です。
- 反発係数(はねかえり係数)の定義: 衝突直後の相対速度は、衝突直前の相対速度の \(-e\) 倍になります。
- 相対速度: 観測者(円環)から見た相手(円盤)の速度で考えることで、移動時間の計算が単純化されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、1回目の衝突前後の保存則と反発係数の式を連立して速度を求めます。
- (2)では、円環に対する円盤の相対速度を用いて、衝突間の移動時間を計算します。
- (3)では、衝突のたびに相対速度が \(-e\) 倍になる規則性を利用して一般項を求めます。
- (4)では、無限回衝突後の極限状態(相対速度ゼロ)を考えます。
- (5)(6)では、エネルギーの定義式に従って損失量を計算し、その物理的意味を考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
円盤が円環の内壁(点P)に衝突する現象です。
衝突前後で成り立つ2つの基本式を立てます。
1. 運動量保存則: 水平方向の外力(摩擦など)がないため、系の全運動量は保存されます。
2. 反発係数の式: 衝突の前後で、互いに遠ざかる速さは近づく速さの \(e\) 倍になります(相対速度の比)。
この設問における重要なポイント
- 速度の正負: 問題文で「右向き(OからPへの向き)を正」と指定されています。未知の速度 \(v_1, V_1\) も正の向きと仮定して立式します。
- 反発係数の定義: \(e = -\displaystyle\frac{\text{衝突後の相対速度}}{\text{衝突前の相対速度}}\) の形を正確に使います。
具体的な解説と立式
衝突前の円盤の速度は \(v_0\)、円環の速度は \(0\) です。
衝突後の円盤の速度を \(v_1\)、円環の速度を \(V_1\) とします(共に右向きを正とします)。
運動量保存則より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
mv_0 + M \cdot 0 &= mv_1 + MV_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
反発係数の式より、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
e &= – \frac{v_1 – V_1}{v_0 – 0} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\)
- 反発係数の式: \(e = – \displaystyle\frac{v’ – V’}{v – V}\)
式②を変形します。
$$
\begin{aligned}
-e v_0 &= v_1 – V_1 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
式①と式②’を連立して \(v_1, V_1\) を求めます。
まず、\(v_1\) を消去して \(V_1\) を求めます。
式②’より \(v_1\) を \(V_1\) で表します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= V_1 – ev_0
\end{aligned}
$$
これを式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
mv_0 &= m(V_1 – ev_0) + MV_1 \\[2.0ex]
mv_0 &= mV_1 – mev_0 + MV_1 \\[2.0ex]
mv_0 + mev_0 &= (M+m)V_1 \\[2.0ex]
m(1+e)v_0 &= (M+m)V_1
\end{aligned}
$$
よって、\(V_1\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \frac{(1+e)m}{M+m}v_0
\end{aligned}
$$
次に \(v_1\) を求めます。先ほどの \(v_1 = V_1 – ev_0\) に求めた \(V_1\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= \frac{(1+e)m}{M+m}v_0 – ev_0 \\[2.0ex]
&= \left( \frac{m + em}{M+m} – \frac{e(M+m)}{M+m} \right) v_0 \\[2.0ex]
&= \frac{m + em – eM – em}{M+m} v_0 \\[2.0ex]
&= \frac{m – eM}{M+m} v_0
\end{aligned}
$$
軽い円盤が止まっている重い円環にぶつかりました。
ぶつかった後、円環は弾き飛ばされて右へ動き出します(\(V_1 > 0\))。
円盤は、もし円環がすごく重ければ(\(M\) が大きければ)跳ね返されますが、そうでなければ速度が落ちつつも右へ進み続けるかもしれません。計算結果の \(v_1\) の分子 \(m-eM\) がその挙動(正なら右、負なら左へ跳ね返る)を表しています。
\(V_1\) は常に正であり、円環が右へ動き出すことと一致します。
\(v_1\) は \(m > eM\) なら右向き、\(m < eM\) なら左向きとなります。
単位を確認すると、係数は無次元で速度 \(v_0\) が掛かっているため正しいです。
問(2)
思考の道筋とポイント
求める時間は、「Oを出発してPにぶつかるまでの時間」と「Pで跳ね返ってからQにぶつかるまでの時間」の合計です。
前半は単純な等速直線運動です。
後半は、円盤も円環も動いているため、「円環から見た円盤の相対運動」で考えると計算が楽になります。
この設問における重要なポイント
- 相対速度の活用: 共に動く2物体の衝突までの時間は、\(\text{時間} = \displaystyle\frac{\text{相対距離}}{\text{相対速さ}}\) で求められます。
- 距離の確認: OからPまでは距離 \(a\)、PからQまでは円環の内径分の距離 \(2a\) です。
具体的な解説と立式
まず、円盤が点Oから点Pまで進む時間 \(t_1\) を求めます。距離は \(a\)、速さは \(v_0\) です。
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{a}{v_0}
\end{aligned}
$$
次に、点Pでの衝突後、点Qに衝突するまでの時間 \(t_2\) を求めます。
円環に対する円盤の相対速度 \(u_1\) は、右向きを正として以下のように定義されます。
$$
\begin{aligned}
u_1 &= v_1 – V_1
\end{aligned}
$$
問(1)の式②’ \(v_1 – V_1 = -ev_0\) より、
$$
\begin{aligned}
u_1 &= -ev_0
\end{aligned}
$$
これは、円環から見て円盤が左向きに速さ \(ev_0\) で遠ざかっていることを意味します。
PからQまでの相対距離(円環の内径)は \(2a\) です。
よって、時間 \(t_2\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{\text{相対距離}}{\text{相対速さの大きさ}} \\[2.0ex]
&= \frac{2a}{|u_1|}
\end{aligned}
$$
求める合計時間 \(T\) は \(t_1 + t_2\) です。
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(t = \displaystyle\frac{x}{v}\)
- 相対速度: \(u = v_A – v_B\)
\(t_2\) に \(|u_1| = ev_0\) を代入し、\(T\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{2a}{ev_0}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
T &= t_1 + t_2 \\[2.0ex]
&= \frac{a}{v_0} + \frac{2a}{ev_0} \\[2.0ex]
&= \frac{a}{v_0} \left( 1 + \frac{2}{e} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{a(e+2)}{ev_0}
\end{aligned}
$$
最初は円盤だけが動いているので、距離 \(a\) を速さ \(v_0\) で割るだけです。
衝突した後は、円環も逃げるように動きますが、円盤はそれ以上の速さで(相対的に)逆側へ向かいます。
「円環に乗っている人」から見れば、円盤は速さ \(ev_0\) で壁Pから壁Qへ向かって飛んでくるように見えます。その距離 \(2a\) を進む時間を足し合わせました。
\(e\) が小さい(跳ね返りが弱い)ほど、相対速度が遅くなるため、次までの時間 \(t_2\) は長くなります。式は分母に \(e\) があるため、この性質を満たしています。
問(3)
思考の道筋とポイント
\(n\) 回目の衝突直後の円盤の速度 \(v_n\) と円環の速度 \(V_n\) の差、つまり相対速度 \(u_n = v_n – V_n\) を求めます。
毎回まじめに連立方程式を解く必要はありません。反発係数の定義そのものが「衝突のたびに相対速度がどう変化するか」を表していることに着目します。
この設問における重要なポイント
- 反発係数の物理的意味: 「衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の \(-e\) 倍になる」という規則性(漸化式)を利用します。
具体的な解説と立式
\(n\) 回目の衝突直後の相対速度を \(u_n\) と定義します。
$$
\begin{aligned}
u_n &= v_n – V_n
\end{aligned}
$$
\(n\) 回目の衝突において、衝突直前の相対速度は \(u_{n-1}\) です(\((n-1)\) 回目の衝突直後の相対速度と同じまま、等速で次の壁に到達するため)。
反発係数の定義より、以下の漸化式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
u_n &= -e u_{n-1}
\end{aligned}
$$
初回の衝突前(\(0\) 回目)の相対速度は \(u_0\) です。
$$
\begin{aligned}
u_0 &= v_0 – 0 \\[2.0ex]
&= v_0
\end{aligned}
$$
この数列は、初項 \(v_0\)、公比 \(-e\) の等比数列となります。
使用した物理公式
- 等比数列の一般項: \(a_n = a_0 r^n\)
一般項を求めます。
$$
\begin{aligned}
u_n &= u_0 \cdot (-e)^n \\[2.0ex]
&= v_0 (-e)^n
\end{aligned}
$$
したがって、求める \(v_n – V_n\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
v_n – V_n &= v_0 (-e)^n
\end{aligned}
$$
壁にぶつかるたびに、相手から見た速さは \(e\) 倍に減り、向きは逆転します。
最初は \(v_0\) だった相対速度が、1回目で \(-ev_0\)、2回目で \(e^2 v_0\) … と変化していく様子を数式にしました。
\(n=1\) のとき \(-ev_0\) となり、問(1)の結果(式②’)と一致します。
\(0 < e < 1\) なので、回数を重ねるごとに相対速度の大きさは小さくなっていきます。
思考の道筋とポイント
数式変形ではなく、物理現象の定性的な性質から直感的に答えを導きます。
この設問における重要なポイント
- 相対速度の変化則: 衝突のたびに相対速度が \(-e\) 倍になるという事実を直接利用します。
具体的な解説と立式
1回目の衝突前の円環に対する円盤の相対速度は \(v_0\) です。
衝突のたびに、相対速度の大きさは \(e\) 倍になり、向きは反対になります。
つまり、相対速度は衝突ごとに \(-e\) 倍されます。
使用した物理公式
- 反発係数の定義(定性的解釈)
\(n\) 回目の衝突直後の相対速度 \(v_n – V_n\) は、初めの相対速度 \(v_0\) に \(-e\) を \(n\) 回掛けたものになります。
$$
\begin{aligned}
v_n – V_n &= v_0 \times (-e)^n \\[2.0ex]
&= (-e)^n v_0
\end{aligned}
$$
計算式を立てるまでもなく、「ぶつかるたびに \(-e\) 倍」というルールを \(n\) 回適用すれば答えになります。
メインの解法と同じ結果が得られます。
問(4)
思考の道筋とポイント
「多数回の衝突をくり返す」とは、\(n \to \infty\) の極限を考えることです。
(3)の結果を利用して相対速度の極限を求め、さらに運動量保存則と組み合わせることで、最終的な速度 \(V_F\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 極限の振る舞い: \(0 < e < 1\) なので、\(n \to \infty\) のとき \(e^n \to 0\) となります。つまり、最終的に2物体は同じ速度(相対速度0)になります。
- 全運動量の保存: 衝突を何回繰り返しても、系全体の運動量は最初の \(mv_0\) から変化しません。
具体的な解説と立式
(3)の結果において、\(0 < e < 1\) より、\(n \to \infty\) のとき \((-e)^n \to 0\) となります。
よって、最終的な相対速度は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
\lim_{n \to \infty} (v_n – V_n) &= 0
\end{aligned}
$$
したがって、最終的な円盤の速度と円環の速度は等しくなります。これを \(V_F\) とします。
$$
\begin{aligned}
\lim_{n \to \infty} v_n &= \lim_{n \to \infty} V_n \\[2.0ex]
&= V_F
\end{aligned}
$$
つまり、円盤と円環は一体となって等速運動します。
最初と最後の状態で運動量保存則を立式します。
$$
\begin{aligned}
mv_0 &= (M+m)V_F
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 極限: \(\lim_{n \to \infty} r^n = 0 \quad (|r|<1)\)
- 運動量保存則
上の式を \(V_F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_F &= \frac{m}{M+m}v_0
\end{aligned}
$$
衝突を繰り返すと、だんだん相対速度が小さくなり、最終的には円盤が円環の中で静止した状態(=全体として同じ速度で動く状態)になります。
これは、あたかも2物体が合体したのと同じ状態です。
「最初持っていた運動量 \(mv_0\) を、最終的に全員(質量 \(M+m\))で分け合った」と考えれば、速度が求まります。
質量 \(M\) が非常に大きい場合、\(V_F \approx 0\) となり、壁にぶつかって止まることに対応します。
\(M=0\) なら \(V_F = v_0\) で、速度は変わりません。妥当な結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
エネルギーの減少量 \(\Delta K\) を定義通りに計算します。
初期状態の運動エネルギー \(K_0\) と、最終状態(問4の状態)の運動エネルギー \(K_F\) をそれぞれ求め、その差をとります。
この設問における重要なポイント
- 定義通りの計算: \(K = \frac{1}{2}mv^2\) の公式を正確に適用します。
- 最終状態の速度: 問(4)で求めた \(V_F\) を使います。
具体的な解説と立式
初期の運動エネルギー \(K_0\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2}mv_0^2
\end{aligned}
$$
最終状態の運動エネルギー \(K_F\) は、質量 \(M+m\) の物体が速度 \(V_F\) で動いているので、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
K_F &= \frac{1}{2}(M+m)V_F^2
\end{aligned}
$$
求める差 \(\Delta K\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
\Delta K &= K_0 – K_F
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
\(K_F\) に \(V_F = \frac{m}{M+m}v_0\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
K_F &= \frac{1}{2}(M+m) \left( \frac{m}{M+m}v_0 \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(M+m) \frac{m^2}{(M+m)^2} v_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \frac{m^2}{M+m} v_0^2
\end{aligned}
$$
よって、\(\Delta K\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta K &= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2} \frac{m^2}{M+m} v_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left( 1 – \frac{m}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left( \frac{M+m – m}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{M+m} \\[2.0ex]
&= \frac{mM}{2(M+m)}v_0^2
\end{aligned}
$$
衝突のたびに「ゴン!」と音がしたり熱が出たりして、エネルギーが少しずつ失われます。
無限回衝突した後に残ったエネルギーを計算し、最初持っていたエネルギーから引くことで、合計でどれだけ無駄になったか(失われたか)を計算しました。
\(M=0\) または \(m=0\) のときは衝突によるエネルギー授受や損失が発生しないため \(\Delta K = 0\) となるはずです。式はこれを満たしています。
問(6)
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則が成り立たない系において、失われたエネルギーがどこへ行ったのかを問う定型的な記述問題です。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存の法則: エネルギーは消滅せず、形を変えるだけです。運動エネルギーが減った分は、他の形態のエネルギーに変換されています。
具体的な解説と立式
非弾性衝突(\(0 < e < 1\))では、運動エネルギーの一部が、物体の変形に伴う内部エネルギーや、音、熱などのエネルギーに変換されて散逸します。
使用した物理公式
- エネルギー保存の法則(広義)
計算はありません。
衝突によって失われた運動エネルギーは、消えてなくなったわけではなく、熱や音といった別の形のエネルギーに変わりました。
模範解答の記述と整合します。
思考の道筋とポイント
2物体問題において、観測者を「2物体の重心」に置く(重心系)と、物理現象が劇的に単純化されます。
重心系では、「重心の速度は一定(外力ゼロより)」であり、「2物体は重心位置で衝突し、互いに逆向きに跳ね返るだけ」という対称的な運動になります。
この設問における重要なポイント
- 重心速度 \(v_G\): 全運動量を全質量で割った値で、衝突前後で不変です。
- 相対運動エネルギー: 重心系から見た運動エネルギーの和で、衝突により減少するのはこの部分だけです。
具体的な解説と立式
1. 重心速度の導出
系の重心速度 \(v_G\) は、運動量保存則より常に一定です。
$$
\begin{aligned}
v_G &= \frac{mv_0 + M \cdot 0}{M+m} \\[2.0ex]
&= \frac{m}{M+m}v_0
\end{aligned}
$$
これが問(4)の答え(最終的な共通速度)そのものです。なぜなら、相対運動がなくなれば、両物体は重心と同じ速度で動くからです。
2. 重心系での速度と衝突
重心から見た円盤の初期速度 \(v’_0\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
v’_0 &= v_0 – v_G \\[2.0ex]
&= v_0 – \frac{m}{M+m}v_0 \\[2.0ex]
&= \frac{M}{M+m}v_0
\end{aligned}
$$
重心系では、衝突のたびに速度が \(-e\) 倍になります。
\(n\) 回衝突後の重心系速度 \(v’_n\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
v’_n &= v’_0 \cdot (-e)^n
\end{aligned}
$$
実験室系の速度 \(v_n\) に戻すには、\(v_G\) を足します。
$$
\begin{aligned}
v_n &= v’_n + v_G \\[2.0ex]
&= (-e)^n \frac{M}{M+m}v_0 + \frac{m}{M+m}v_0
\end{aligned}
$$
\(n=1\) を代入すれば、問(1)の答えが得られます。
3. エネルギー損失の計算
全運動エネルギー \(K\) は、「重心の運動エネルギー \(K_G\)」と「相対運動エネルギー \(K_{\text{相対}}\)」の和に分解できます(ケーニッヒの定理)。
$$
\begin{aligned}
K &= K_G + K_{\text{相対}}
\end{aligned}
$$
ここで各項は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
K_G &= \frac{1}{2}(M+m)v_G^2 \quad (\text{一定}) \\[2.0ex]
K_{\text{相対}} &= \frac{1}{2}\mu u^2
\end{aligned}
$$
ただし、\(\mu = \frac{mM}{M+m}\) は換算質量、\(u\) は相対速度です。
衝突によって失われるのは \(K_{\text{相対}}\) のみです。
最終的に相対速度 \(u \to 0\) となるため、失われるエネルギー \(\Delta K\) は、初期の相対運動エネルギーそのものです。
初期の相対速度は \(u_0 = v_0\) なので、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\Delta K &= \frac{1}{2}\mu v_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \frac{mM}{M+m} v_0^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 重心速度: \(v_G = \displaystyle\frac{\sum m_i v_i}{\sum m_i}\)
- ケーニッヒの定理: \(K = \frac{1}{2}M_{\text{全}}v_G^2 + K_{\text{相対}}\)
上記の解説内で計算済みです。
「全体としての動き(重心)」と「内部での動き(相対運動)」を分けて考えました。
衝突しても「全体の動き」は変わらないので、エネルギーが減るのは「内部の動き」の部分だけです。
最終的に内部の動きが止まるなら、最初に持っていた「内部の動きのエネルギー」がそのまま損失量になります。
重心系を用いることで、問(1)〜(5)の全てを統一的な視点で、かつ最小限の計算で解くことができます。
思考の道筋とポイント
運動量保存則やエネルギーの式を既知とせず、ニュートンの運動方程式から出発して、衝突現象を記述します。
衝突時に働く撃力(非常に大きな力)を \(F(t)\) とし、これを時間積分することで速度変化(力積の関係)を導きます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の積分: \(m \displaystyle\frac{dv}{dt} = F\) の両辺を \(t\) で積分すると、運動量変化 \(mv’ – mv = \int F dt\) が得られます。
- 作用・反作用の法則: 円盤が受ける力を \(F(t)\) とすると、円環は \(-F(t)\) を受けます。
具体的な解説と立式
衝突中の時刻 \(t\) における円盤の速度を \(v(t)\)、円環の速度を \(V(t)\) とします。
円盤が円環から受ける力(左向き)を \(-F(t)\) (\(F(t)>0\))とすると、運動方程式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv}{dt} &= -F(t) \quad \cdots \text{(A)} \\[2.0ex]
M \frac{dV}{dt} &= +F(t) \quad \cdots \text{(B)}
\end{aligned}
$$
1. 運動量保存則の導出
(A)式と(B)式の辺々を加えます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv}{dt} + M \frac{dV}{dt} &= 0 \\[2.0ex]
\frac{d}{dt} (mv + MV) &= 0
\end{aligned}
$$
これを時間積分すると、\(mv + MV = \text{一定}\) となり、運動量保存則が導かれます。
2. 相対運動と反発係数
(A)式を \(m\)、(B)式を \(M\) で割り、辺々を引いて相対加速度を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dv}{dt} – \frac{dV}{dt} &= -\left( \frac{1}{m} + \frac{1}{M} \right) F(t) \\[2.0ex]
\frac{d}{dt}(v – V) &= – \frac{M+m}{mM} F(t)
\end{aligned}
$$
相対速度 \(u = v – V\) とおき、衝突の開始時刻 \(t_{\text{始}}\) から終了時刻 \(t_{\text{終}}\) まで積分します。
$$
\begin{aligned}
u(t_{\text{終}}) – u(t_{\text{始}}) &= – \frac{M+m}{mM} \int_{t_{\text{始}}}^{t_{\text{終}}} F(t) dt
\end{aligned}
$$
ここで、弾性衝突の理論(エネルギー保存)や素材の性質から、衝突後の相対速度が \(-e\) 倍になるという実験事実(構成方程式)を導入します。
$$
\begin{aligned}
u(t_{\text{終}}) &= -e u(t_{\text{始}})
\end{aligned}
$$
これにより、問(3)の漸化式 \(u_n = -e u_{n-1}\) が正当化されます。
3. エネルギー損失の導出
運動エネルギーの変化率を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{dK}{dt} &= \frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}MV^2 \right) \\[2.0ex]
&= mv \frac{dv}{dt} + MV \frac{dV}{dt}
\end{aligned}
$$
これに運動方程式(A)(B)を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{dK}{dt} &= v(-F) + V(F) \\[2.0ex]
&= -(v – V)F \\[2.0ex]
&= -u F
\end{aligned}
$$
これを積分してエネルギー損失 \(\Delta K\) を求めます。
\(F\) と \(u\) の関係は衝突のモデルに依存しますが、結果として相対運動エネルギーの減少分 \(\frac{1}{2}\mu (1-e^2) u_{\text{前}}^2\) (1回の衝突あたり)が導かれます。
無限回の総和をとると、相対運動エネルギーが全て失われることになります。
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式: \(ma = F\)
- 微積分の基本定理: \(\int \displaystyle\frac{df}{dt} dt = f\)
上記の解説内で計算済みです。
運動方程式を出発点とすることで、保存則が「天から降ってきた公式」ではなく、作用・反作用の法則からの必然的な帰結であることが理解できます。
微積分を用いることで、物理法則の根底にあるつながりが見え、より深い理解が得られます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則と外力ゼロの系
- 核心: 水平面内での運動であり、摩擦などの外力が働かないため、円盤と円環の運動量の総和は衝突を繰り返しても未来永劫保存される。
- 理解のポイント:
- 個々の物体の速度は衝突のたびに不連続に変化するが、和 \(mv + MV\) は常に一定不変である。
- 最終状態(問4)の速度を求める際、中間の複雑な衝突過程を無視して、最初と最後だけで保存則を立式できる。
- 反発係数と相対速度の数列的変化
- 核心: 衝突という現象は、相対速度(互いに近づく/遠ざかる速さ)を \(-e\) 倍にする変換操作である。
- 理解のポイント:
- 衝突のたびに相対速度の大きさは \(e\) 倍になり、向きは逆転する。
- この規則性により、速度変化を「初項 \(v_0\)、公比 \(-e\) の等比数列」として扱うことができる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 無限回衝突後の最終状態: 「無限回衝突する」=「相対速度が0になる」=「合体する」と読み替えることで、連立方程式を解かずに運動量保存則一発で最終速度が求まる。
- 動く壁との衝突: 相手(円環)も動く場合、静止系で考えると計算が煩雑になる。「相手に乗った観測者(相対速度)」の視点を導入することで、固定壁との衝突と同じように扱える。
- 初見の問題での着眼点:
- 保存量の確認: 外力がないか?(運動量保存)、非保存力がないか?(エネルギー保存)。今回は摩擦なしだが衝突(非弾性)なので、運動量は保存、エネルギーは非保存。
- 重心系の検討: 2物体が相互作用する問題では、「重心の運動」と「相対運動」に分けると見通しが良くなることが多い。特にエネルギー損失を問われたら重心系(換算質量)が最強の武器になる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 相対速度の符号と定義の取り違え:
- 誤解: 公式 \(e = – \frac{v’ – V’}{v – V}\) の分母分子で、引く順序(自分-相手 なのか 相手-自分 なのか)を混同し、符号が逆になる。
- 対策: 「遠ざかる速さ」= \(e \times\) 「近づく速さ」という速さ(大きさ)の関係で立式し、その後で図を見て向き(符号)を調整する習慣をつける。または、定義式を絶対的なものとして、未知数を全て正の向きと仮定して機械的に代入する。
- 無限等比級数の和と極限の混同:
- 誤解: 問(4)で「速度の総和」などを計算しようとして、無限等比級数の和の公式を使ってしまう。
- 対策: 問われているのは「最終的な速度(状態)」なのか「総移動距離(積算量)」なのかを区別する。今回は速度の極限値なので、級数の和ではなく数列の極限(\(n \to \infty\))を考える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での連立方程式(運動量保存+反発係数):
- 選定理由: 衝突前後の速度を個別に求める最も標準的かつ確実な方法であるため。
- 適用根拠: 外力が働かないため運動量が保存し、衝突の性質が反発係数で与えられているため。
- 問(5)での定義通りの計算(\(K_0 – K_F\)):
- 選定理由: 重心系などの高度な概念を使わなくても、問(4)までの結果を代入するだけで確実に解けるため、試験場での再現性が高い。
- 適用根拠: エネルギーはスカラー量であり、各物体のエネルギーを単純に足し引きできるため。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 極限的なケースでの検算(極端な質量):
- 意識: 答えが出たら、質量 \(M\) や \(m\) を極端な値にしてみる。
- 実践: \(M \to \infty\)(円環が巨大な壁)とすると、円盤は単に跳ね返るだけ(\(v_1 \to -ev_0\))になるはず。問(1)の解 \(\frac{m-eM}{M+m}v_0\) で \(M\) が支配的になると \(-e v_0\) になり、整合する。
- 次元解析(単位チェック):
- 意識: 文字式の答えが、物理量として正しい次元を持っているか確認する。
- 実践: 問(2)の時間は \(\frac{\text{長さ}}{\text{速さ}}\) の次元になっているか? 問(5)のエネルギーは \(\text{質量} \times \text{速さ}^2\) の次元になっているか? 係数の分数部分が無次元(質量/質量など)になっているかを確認する。
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問題44 棒でつながれた2物体の運動 (東京大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問[A](2)の別解: 微積分を用いた体系的解法(問(1)(2)の一括導出)
- 円運動の運動方程式(極座標形式)を立式し、接線方向の成分を積分することでエネルギー保存則(問1)を、半径方向の成分から抗力(問2)を体系的に導出します。
- 設問[A](6)の別解: 重心系(重心座標)とケーニッヒの定理を用いた解法
- 系全体の運動エネルギーを「重心の運動エネルギー」と「相対運動エネルギー」に分離することで、複雑な連立方程式を回避し、保存則の本質的な構造を可視化します。
- 設問[A](2)の別解: 微積分を用いた体系的解法(問(1)(2)の一括導出)
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分の解法: 「エネルギー保存則」が運動方程式の積分形であることを理解し、力学的エネルギーと力の関係を深く把握できます。
- 重心系の解法: 2物体問題における計算量を大幅に削減できる強力なツールであり、特に衝突や分裂を含む問題で威力を発揮します。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「拘束条件(棒)のある2物体の連成運動」です。
前半は物体Aが静止しているため物体Bの単振り子運動として扱えますが、後半はAも動き出すため、運動量保存則や相対運動の視点が必要になります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がない間は、重力による位置エネルギーと運動エネルギーの和が保存されます。
- 円運動の運動方程式: 棒につながれた物体Bは円軌道を描くため、中心方向(向心力)と接線方向の運動方程式が基本となります。
- 作用・反作用の法則: 棒がBを押す力と、棒がAを押す力は、大きさが等しく向きが逆です。
- 運動量保存則: 水平方向に外力が働かない場合、系全体の運動量の水平成分は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A](1)(2)では、Aが静止しているため、Bの円運動としてエネルギー保存則と運動方程式を立式します。
- [A](3)では、Aにはたらく力のつりあいから、壁からの垂直抗力が \(0\) になる条件を探ります。
- [A](5)(6)では、Aが動き出した後の運動を、水平方向の運動量保存則を用いて解析します。
- [B]では、摩擦力が関与するため、力のつりあいの式に摩擦力を組み込んで考えます。
問[A] (1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
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