問題76 (弘前大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ピストンと物体を用いた熱機関のサイクルに関する問題です。各状態変化(定積変化、定圧変化)を正しく見抜き、力のつり合いと熱力学の法則を適用することが求められます。
この問題の核心は、サイクルを構成する各過程を正確に分析し、仕事と熱量を計算して、最終的に熱効率を求めることです。
- シリンダー: 底面積\(S\)、鉛直に設置。
- ピストン: 質量\(M_0\)、なめらかに動く。可動範囲は高さ\(h_0\)から\(h\)。
- 気体: 単原子分子理想気体。
- 初期状態: 温度\(T_0\)、圧力\(P_0\)(大気圧と同じ)、高さ\(h_0\)。
- 操作:
- 質量\(M\)の物体を乗せ、加熱 \(\rightarrow\) 動き出す瞬間が「状態1」。
- さらに加熱し、高さ\(h\)に到達 \(\rightarrow\) 「状態2」。
- 物体を降ろし、加熱をやめる \(\rightarrow\) ゆっくり下降し、高さ\(h_0\)で静止。
- 時間が経ち、温度\(T_0\)に戻る(初期状態へ)。
- その他: 重力加速度\(g\)。
- (1) 状態1の温度。
- (2) 初期状態から状態1までの吸収熱量。
- (3) 状態2の温度。
- (4) 状態1から状態2までの吸収熱量。
- (5) サイクルのp-V図。
- (6) 1サイクルでの仕事。
- (7) サイクルの熱効率。
- (8) 特定の条件下での熱効率の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱力学サイクル」です。特に、複数の状態変化を組み合わせた熱機関の仕事と効率を分析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: ピストンが静止しているか、ゆっくり動く場合、各瞬間でピストンにはたらく力はつり合っています。これにより、気体の圧力が決まります。大気圧の考慮を忘れないことが重要です。
- 状態変化の特定: 問題文の記述から、サイクルを構成する各過程が、定積変化、定圧変化のいずれに該当するかを正確に特定します。
- 熱力学第一法則: 気体のエネルギー収支(吸収した熱\(Q\)、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)、外部にした仕事\(W\))を記述する基本法則 \(Q = \Delta U + W\) を用います。
- 熱効率の定義: 熱機関が吸収した熱量全体のうち、どれだけを有効な仕事に変換できたかを示す割合 \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\) を計算します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、各状態(初期、状態1、状態2、下降時)における気体の圧力、体積、温度を、与えられた物理量を用いて表現します。
- 次に、各過程(初期→1、1→2)について、状態変化の種類を特定し、問われている物理量(温度、熱量)を計算します。
- サイクル全体のp-V図を描き、熱機関が1サイクルで外部にした正味の仕事\(W\)を求めます。
- 最後に、吸収した熱量の総和\(Q_{\text{吸収}}\)を求め、熱効率を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
状態1は、物体を乗せた後に加熱され、「ピストンが動きだした」瞬間です。このとき、気体の圧力は、上から押す大気圧とピストンおよび物体の重力の合力とつり合っています。初期状態から状態1までは、ピストンの高さが変わらないため、体積は一定です。したがって、この過程は「定積変化」であり、シャルルの法則が適用できます。
この設問における重要なポイント
- 「動きだした」瞬間は、力がつり合った状態とみなせること。
- 初期状態から状態1への変化が定積変化であること。
- 力のつり合いの式を立てる際、大気圧による力を忘れないこと。
具体的な解説と立式
状態1の圧力を\(P_1\)、温度を\(T_1\)とします。
初期状態から状態1までは体積が一定(\(V_0 = Sh_0\))の定積変化なので、シャルルの法則が成り立ちます。
$$\frac{P_0}{T_0} = \frac{P_1}{T_1} \quad \cdots ①$$
また、状態1ではピストンにはたらく力がつり合っています。ピストンにはたらく力は、
- 気体が下から押す力: \(P_1 S\) (上向き)
- 大気圧が上から押す力: \(P_0 S\) (下向き)
- ピストンと物体の重力: \((M+M_0)g\) (下向き)
よって、力のつり合いの式は、
$$P_1 S = P_0 S + (M+M_0)g \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) (定積変化)
- 力のつり合い: \(F_{\text{上向き}} = F_{\text{下向き}}\)
まず式②から\(P_1\)を求めます。両辺を\(S\)で割ると、
$$P_1 = P_0 + \frac{(M+M_0)g}{S}$$
次に、式①を\(T_1\)について解き、この\(P_1\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{P_1}{P_0} T_0 \\[2.0ex]&= \frac{P_0 + \frac{(M+M_0)g}{S}}{P_0} T_0 \\[2.0ex]&= \left(\frac{P_0}{P_0} + \frac{(M+M_0)g}{P_0 S}\right) T_0 \\[2.0ex]&= \left(1 + \frac{(M+M_0)g}{P_0 S}\right) T_0
\end{aligned}
$$
まず、状態1でピストンがどんな力で押されているかを考え、力のつり合いから圧力\(P_1\)を求めます。次に、体積が変わらないまま温められたので、「圧力と絶対温度は比例する」というシャルルの法則を使って、圧力の変化から温度\(T_1\)を計算します。
状態1の温度は \(T_1 = \left(1 + \displaystyle\frac{(M+M_0)g}{P_0 S}\right) T_0\) です。物体を乗せたことでピストンにかかる下向きの力が増え、それとつりあうために気体の圧力\(P_1\)が\(P_0\)より大きくなります。定積変化では圧力と温度は比例するため、温度も\(T_0\)より高くなるという、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
初期状態から状態1までに気体に与えられた熱量\(Q_{01}\)を求めます。この過程は定積変化なので、気体の体積は変化せず、気体が外部にする仕事は0です。したがって、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) より、与えられた熱量はすべて内部エネルギーの増加に使われます。
この設問における重要なポイント
- 定積変化では、気体がする仕事は \(W=0\) である。
- 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U\) を適用する。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化は \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) で計算する。
具体的な解説と立式
初期状態から状態1への変化は定積変化なので、仕事\(W_{01}=0\)です。
熱力学第一法則より、吸収した熱量\(Q_{01}\)は内部エネルギーの変化\(\Delta U_{01}\)に等しくなります。
$$Q_{01} = \Delta U_{01}$$
単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化は、
$$\Delta U_{01} = \frac{3}{2}nR(T_1 – T_0) \quad \cdots ③$$
ここで、\(n\)と\(R\)は与えられていないため、初期状態の理想気体の状態方程式 \(P_0 V_0 = nRT_0\) を用いて消去します。体積は\(V_0 = Sh_0\)なので、
$$P_0 S h_0 = nRT_0$$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
式③に、(1)で求めた \(T_1 = \displaystyle\frac{P_1}{P_0}T_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{01} &= \frac{3}{2}nR \left(\frac{P_1}{P_0}T_0 – T_0\right) \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}nR T_0 \left(\frac{P_1}{P_0} – 1\right)
\end{aligned}
$$
ここに、状態方程式 \(nRT_0 = P_0 S h_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{01} &= \frac{3}{2}(P_0 S h_0) \left(\frac{P_1 – P_0}{P_0}\right) \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}S h_0 (P_1 – P_0)
\end{aligned}
$$
さらに、(1)の力のつり合いの式② \(P_1 S = P_0 S + (M+M_0)g\) より、\(P_1 S – P_0 S = (M+M_0)g\)、すなわち \((P_1 – P_0)S = (M+M_0)g\) の関係を使います。
$$
\begin{aligned}
Q_{01} &= \frac{3}{2}h_0 \cdot S(P_1 – P_0) \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}h_0 (M+M_0)g
\end{aligned}
$$
体積が変わらないまま気体を温めた場合、加えた熱はすべて気体の内部のエネルギー(温度)を上げるために使われます。内部エネルギーの変化量は、温度の変化量に比例します。状態方程式をうまく使うことで、問題で与えられていない気体の物質量などを消去し、与えられた量だけで熱量を表すことができます。
吸収した熱量は \(Q_{01} = \displaystyle\frac{3}{2}(M+M_0)gh_0\) です。これは、乗せた物体とピストンの質量が大きいほど、また初期の高さ\(h_0\)が大きいほど、多くの熱が必要になることを示しており、直感に合っています。
問(3)
思考の道筋とポイント
状態2の温度\(T_2\)を求めます。状態1から状態2への変化は、ピストンがゆっくり上昇する「定圧変化」です。このとき、気体の圧力は\(P_1\)で一定に保たれています。体積と絶対温度が比例するというシャルルの法則が適用できます。
この設問における重要なポイント
- 状態1から状態2への変化が定圧変化であること。
- 定圧変化では、シャルルの法則 \(\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
具体的な解説と立式
状態1から状態2への変化は圧力\(P_1\)の定圧変化です。シャルルの法則より、
$$\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} \quad \cdots ④$$
ここで、各状態の体積は、
- 状態1の体積: \(V_1 = Sh_0\)
- 状態2の体積: \(V_2 = Sh\)
です。
使用した物理公式
- シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (定圧変化)
式④を\(T_2\)について解き、体積の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_2 &= \frac{V_2}{V_1} T_1 \\[2.0ex]&= \frac{Sh}{Sh_0} T_1 \\[2.0ex]&= \frac{h}{h_0} T_1
\end{aligned}
$$
ここに(1)で求めた\(T_1\)を代入すると、
$$T_2 = \frac{h}{h_0} \left(1 + \frac{(M+M_0)g}{P_0 S}\right) T_0$$
一定の圧力で気体を温めると、気体は膨張します。このとき、「体積と絶対温度は比例する」というシャルルの法則が成り立ちます。体積が\(Sh_0\)から\(Sh\)に変化したので、その比率を使って温度\(T_2\)を計算します。
状態2の温度は \(T_2 = \displaystyle\frac{h}{h_0} T_1 = \frac{h}{h_0} \left(1 + \frac{(M+M_0)g}{P_0 S}\right) T_0\) です。\(h > h_0\) なので、\(T_2 > T_1\) となり、定圧で加熱して膨張させた結果、温度が上昇するという物理的に妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
状態1から状態2までに気体に与えられた熱量\(Q_{12}\)を求めます。この過程は定圧変化なので、吸収熱量は定圧モル比熱\(C_p\)を用いて \(Q = nC_p \Delta T\) と計算できます。
この設問における重要なポイント
- 定圧変化における吸収熱量の公式 \(Q = nC_p \Delta T\) を使う。
- 単原子分子理想気体の定圧モル比熱は \(C_p = \frac{5}{2}R\) である。
- 状態方程式を用いて、与えられていない文字(\(n, R\))を消去する。
具体的な解説と立式
状態1から状態2への定圧変化で吸収した熱量\(Q_{12}\)は、
$$Q_{12} = nC_p(T_2 – T_1)$$
単原子分子理想気体なので、定圧モル比熱は \(C_p = \frac{5}{2}R\) です。
$$Q_{12} = \frac{5}{2}nR(T_2 – T_1) \quad \cdots ⑤$$
ここで、定圧変化(\(P=P_1\))における状態方程式を考えると、\(P_1 V = nRT\) より、変化の前後で \(P_1(V_2 – V_1) = nR(T_2 – T_1)\) が成り立ちます。
これを⑤に代入すると、
$$Q_{12} = \frac{5}{2}P_1(V_2 – V_1)$$
使用した物理公式
- 定圧変化の吸収熱量: \(Q = nC_p \Delta T\)
- 単原子分子理想気体の定圧モル比熱: \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
\(P_1\), \(V_1\), \(V_2\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{12} &= \frac{5}{2}P_1(Sh – Sh_0) \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}P_1 S (h – h_0)
\end{aligned}
$$
ここに、(1)の力のつり合いの式②から得られる \(P_1 S = P_0 S + (M+M_0)g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{12} &= \frac{5}{2} (P_0 S + (M+M_0)g) (h – h_0)
\end{aligned}
$$
一定の圧力で気体を温めるときの熱量は、「定圧モル比熱」という値を使って計算できます。熱力学第一法則(\(Q = \Delta U + W\))を使って、内部エネルギーの変化と仕事の両方を計算して足し合わせても同じ結果になりますが、定圧モル比熱を使うとより直接的に計算できます。
吸収した熱量は \(Q_{12} = \displaystyle\frac{5}{2}(P_0 S + (M+M_0)g)(h-h_0)\) です。この熱量は、気体を膨張させる仕事と、内部エネルギーを増加させる(温度を上げる)ことの両方に使われています。
問(5)
思考の道筋とポイント
この熱機関のサイクル全体のp-V図を描きます。各状態変化がp-V図上でどのような線になるかを考え、それをつなぎ合わせます。
- 定積変化 → Vが一定(垂直な線)
- 定圧変化 → Pが一定(水平な線)
この設問における重要なポイント
- サイクルを構成するすべての過程を正しく把握すること。
- 物体を降ろした後の圧力\(P_3\)を力のつり合いから求めること。
具体的な解説と立式
サイクルは以下の4つの主要な過程から構成されます。
- 初期状態 → 状態1: 定積加熱。体積は \(V_0 = Sh_0\) で一定。圧力は \(P_0\) から \(P_1 = P_0 + \frac{(M+M_0)g}{S}\) へ上昇。
- 状態1 → 状態2: 定圧膨張。圧力は \(P_1\) で一定。体積は \(V_0 = Sh_0\) から \(V_2 = Sh\) へ増加。
- 状態2 → 下降終: 物体を降ろすと、まずピストンが動かずに圧力だけが下がる定積冷却が起こり、その後、ゆっくり下降する定圧冷却が起こる。
- 物体を降ろした直後、圧力は \(P_1\) から、ピストンと大気圧だけを支える圧力 \(P_3\) に下がる。力のつり合いは \(P_3 S = P_0 S + M_0 g\)、よって \(P_3 = P_0 + \frac{M_0 g}{S}\)。この間、体積は \(V_2 = Sh\) で一定。
- その後、圧力\(P_3\)のまま、体積が \(V_2 = Sh\) から \(V_0 = Sh_0\) へ減少する。
- 下降終 → 初期状態: 定積冷却。体積は \(V_0 = Sh_0\) で一定。外部と熱平衡になるまで冷やされ、圧力は \(P_3\) から \(P_0\) へ下降。
これらの過程をp-V図に描くと、図は4つの角を持つ長方形になります。
- 角1: (状態1) \((Sh_0, P_1)\)
- 角2: (状態2) \((Sh, P_1)\)
- 角3: (下降開始点) \((Sh, P_3)\)
- 角4: (下降終点) \((Sh_0, P_3)\)
この長方形のサイクルが熱機関の動作を表します。(厳密には初期状態と下降終点の間にも状態変化がありますが、仕事や熱効率の計算ではこの長方形部分が重要になります)
(p-V図は、縦軸に\(P\)、横軸に\(V\)をとり、\(V=Sh_0\)と\(V=Sh\)を底辺、\(P=P_3\)と\(P=P_1\)を高さとする長方形を描き、時計回りの矢印を記入する)
p-V図は、縦軸が圧力、横軸が体積の長方形となります。この図から、サイクル全体で気体が外部にする仕事や、熱の吸収・放出の過程を視覚的に理解することができます。
問(6)
思考の道筋とポイント
1サイクルで熱機関が外部にした正味の仕事\(W\)を求めます。これは、p-V図でサイクルが囲む面積に等しくなります。(5)で描いたp-V図は長方形なので、その面積を計算します。
この設問における重要なポイント
- サイクル全体の仕事はp-V図の面積に等しい。
- 長方形の面積は(縦の長さ)×(横の長さ)で計算できる。
具体的な解説と立式
仕事\(W\)は、p-V図の長方形の面積です。
$$W = (\text{圧力差}) \times (\text{体積差})$$
ここで、
- 圧力差: \(P_1 – P_3\)
- 体積差: \(V_2 – V_1\)
なので、
$$W = (P_1 – P_3)(V_2 – V_1)$$
使用した物理公式
- 仕事とp-V図の関係: \(W = \oint P dV\)
各差を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_1 – P_3 &= \left(P_0 + \frac{(M+M_0)g}{S}\right) – \left(P_0 + \frac{M_0 g}{S}\right) \\[2.0ex]&= \frac{Mg}{S}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_2 – V_1 &= Sh – Sh_0 \\[2.0ex]&= S(h-h_0)
\end{aligned}
$$
したがって、仕事\(W\)は、
$$
\begin{aligned}
W &= \left(\frac{Mg}{S}\right) \cdot S(h-h_0) \\[2.0ex]&= Mg(h-h_0)
\end{aligned}
$$
気体が1周して元の状態に戻るとき、外部にした「正味の」仕事は、p-Vグラフが囲むループの面積になります。今回はきれいな長方形なので、単純に「たて×よこ」で面積(仕事)を計算できます。
仕事は \(W = Mg(h-h_0)\) です。これは、質量\(M\)の物体を重力に逆らって高さ\((h-h_0)\)だけ持ち上げるのに必要な仕事と等しくなります。この熱機関は、熱エネルギーを使って物体を持ち上げる装置として機能していることがわかります。
問(7)
思考の道筋とポイント
このサイクルの熱効率\(e\)を求めます。熱効率は、吸収した熱量の総和 \(Q_{\text{吸収}}\) に対する、外部にした正味の仕事 \(W\) の割合で定義されます。
$$e = \frac{W}{Q_{\text{吸収}}}$$
このサイクルで熱を吸収する過程は、温度が上昇する「初期状態→状態1」と「状態1→状態2」の2つです。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の定義式を正しく使う。
- サイクルの中で、どの過程が吸熱過程であるかを正しく特定する。
具体的な解説と立式
熱効率\(e\)の定義式は、
$$e = \frac{W}{Q_{\text{吸収}}} = \frac{W}{Q_{01} + Q_{12}}$$
ここに、(2), (4), (6)で求めた \(Q_{01}\), \(Q_{12}\), \(W\) の値を代入します。
使用した物理公式
- 熱効率の定義: \(e = \displaystyle\frac{W}{Q_{\text{吸収}}}\)
分子と分母にそれぞれ値を代入します。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{Mg(h-h_0)}{Q_{01} + Q_{12}} \\[2.0ex]&= \frac{Mg(h-h_0)}{\frac{3}{2}(M+M_0)gh_0 + \frac{5}{2}(P_0 S + (M+M_0)g)(h-h_0)}
\end{aligned}
$$
分母分子に2を掛けて整理すると、
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{2Mg(h-h_0)}{3(M+M_0)gh_0 + 5(P_0 S + (M+M_0)g)(h-h_0)}
\end{aligned}
$$
熱効率は「燃費」のようなものです。「使った燃料(吸収した熱)のうち、どれだけが有効な働き(仕事)になったか」という割合です。仕事は(6)で、吸収した熱は(2)と(4)の合計なので、それらの比を計算します。
得られた式は複雑ですが、熱機関の効率が、物体の質量や動かす高さ、気体の初期状態など、様々な要因に依存することを示しています。
問(8)
思考の道筋とポイント
(7)で求めた熱効率の式に、与えられた具体的な値 \(M=2M_0\), \(M_0=\frac{P_0S}{g}\), \(h=2h_0\) を代入して、熱効率の値を計算します。
この設問における重要なポイント
- 複雑な式へ、間違えずに値を代入し、丁寧に計算を進めること。
具体的な解説と立式
(7)で求めた \(W\), \(Q_{01}\), \(Q_{12}\) の式に、与えられた値を代入していきます。
- \(M=2M_0\)
- \(M_0 g = P_0 S\) (与式を変形)
- \(h=2h_0\) なので \(h-h_0 = h_0\)
これらの関係を使って、\(W\), \(Q_{01}\), \(Q_{12}\)を\(P_0, S, h_0\)で表します。
使用した物理公式
- (7)で導出した熱効率の各項の式
まず、仕事\(W\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= Mg(h-h_0) \\[2.0ex]&= (2M_0)g(2h_0 – h_0) \\[2.0ex]&= 2M_0 g h_0
\end{aligned}
$$
\(M_0 g = P_0 S\) を使うと、\(W = 2(P_0 S)h_0 = 2P_0 S h_0\)。
次に、吸熱量\(Q_{01}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{01} &= \frac{3}{2}(M+M_0)gh_0 \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}(2M_0+M_0)gh_0 \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}(3M_0)gh_0 \\[2.0ex]&= \frac{9}{2}M_0 g h_0
\end{aligned}
$$
\(M_0 g = P_0 S\) を使うと、\(Q_{01} = \frac{9}{2}P_0 S h_0\)。
次に、吸熱量\(Q_{12}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{12} &= \frac{5}{2}(P_0 S + (M+M_0)g)(h-h_0) \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}(P_0 S + (2M_0+M_0)g)(2h_0-h_0) \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}(P_0 S + 3M_0 g)h_0
\end{aligned}
$$
\(M_0 g = P_0 S\) を使うと、
$$
\begin{aligned}
Q_{12} &= \frac{5}{2}(P_0 S + 3(P_0 S))h_0 \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}(4P_0 S)h_0 \\[2.0ex]&= 10 P_0 S h_0
\end{aligned}
$$
最後に、熱効率\(e\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{W}{Q_{01} + Q_{12}} \\[2.0ex]&= \frac{2P_0 S h_0}{\frac{9}{2}P_0 S h_0 + 10 P_0 S h_0} \\[2.0ex]&= \frac{2P_0 S h_0}{(\frac{9}{2} + \frac{20}{2})P_0 S h_0} \\[2.0ex]&= \frac{2}{\frac{29}{2}} \\[2.0ex]&= \frac{4}{29}
\end{aligned}
$$
(7)で導いた仕事と熱量の式に、問題で指定された「もしも」の値を一つずつ代入していきます。文字がたくさんありますが、うまく関係式を使うことで、最終的にはすべての文字が消去され、きれいな分数の答えが出てきます。
この条件での熱効率は \(\displaystyle\frac{4}{29}\) です。これは約13.8%であり、一般的な熱機関の効率として現実的な範囲の値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いと圧力決定:
- 核心: ピストンが静止している、または「ゆっくり」と動く(準静的過程)場合、各瞬間でピストンに働く力はつり合っています。この問題では、気体の圧力は、上から押す「大気圧」と「ピストンや物体の重さ」の合力によって決まります。
- 理解のポイント: 状態によってピストンの上に乗っている物体の有無が変わるため、圧力が一定ではない点に注意が必要です。各状態(初期、1、2、下降時)で、力のつり合いの式を正しく立てることが、全ての計算の出発点となります。
- 状態変化の特定と法則の適用:
- 核心: 問題文の記述から、サイクルを構成する各過程がどの状態変化(定積、定圧)に当たるかを正確に読み取ることが極めて重要です。
- 理解のポイント:
- 初期→1: 「ピストンが動きだした」とあるので、それまでは高さ\(h_0\)で一定。これは「定積変化」です。
- 1→2: 「ゆっくりとピストンは上昇」し、その間ピストンの上の物体は変わらないので圧力は一定。これは「定圧変化」です。
- 2→下降→初期: 物体を降ろすことで圧力が下がり、その後冷却されて元の状態に戻ります。この過程も定圧と定積の組み合わせでモデル化できます。
特定した状態変化に応じて、シャルルの法則や熱力学第一法則の適切な形を適用します。
- 熱効率の定義と計算:
- 核心: 熱効率は、1サイクルでエンジンが外部にした正味の仕事 \(W\) を、そのサイクルで吸収した熱量の総和 \(Q_{\text{吸収}}\) で割ったものです (\(e = W/Q_{\text{吸収}}\))。
- 理解のポイント:
- 仕事\(W\): p-V図でサイクルが囲む面積に等しく、膨張時の仕事と圧縮時の仕事の差として計算されます。
- 吸収熱量\(Q_{\text{吸収}}\): サイクルの中で、気体が外部から熱を与えられた過程(この問題では初期→1と1→2)の熱量を合計します。放出した熱量は計算に含めません。
この2つの量を正確に計算することが、熱効率を求める鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- スターリングエンジン、オットーサイクルなど: 異なる状態変化(定積、定圧、断熱、等温)を組み合わせた、より複雑な熱力学サイクルの問題。基本的な考え方は同じで、各過程を分析し、p-V図を描き、仕事と熱量を計算します。
- 横向きのシリンダーとばね: ピストンがばねでつながれている問題。この場合、気体の圧力はばねの弾性力にも依存し、\(P = P_0 + kx/S\) のように変位の関数になります。
- 熱のやり取りがある2つのシリンダー: 2つのシリンダーが連結され、熱の移動がある問題。それぞれの気体について状態方程式と熱力学第一法則を立て、連立して解く必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 状態の特定: まず、問題文で定義されている「初期状態」「状態1」「状態2」などの各状態について、圧力(P)、体積(V)、温度(T)がどうなっているか、あるいはどう表現できるかを整理します。
- 過程の特定: 次に、状態間の変化が「定積」「定圧」「等温」「断熱」のどれにあたるかを、問題文の「ピストンを固定して」「ゆっくりと」「温度を一定に保ち」「急激に」といったキーワードから判断します。
- p-V図の作成: 特定した状態と過程をもとに、p-V図を必ず描きましょう。サイクルがどのような形になるかを視覚化することで、仕事の計算(面積)や吸熱・放熱過程の判断が容易になります。
- 文字の消去戦略: 問題で与えられていない文字(この問題では\(n, R\))は、最終的な答えには含まれないはずです。状態方程式 \(PV=nRT\) を利用して、これらの文字を既知の量(\(P_0, V_0, T_0\)など)で置き換える方針を立てて計算を進めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 大気圧の考慮漏れ:
- 誤解: ピストンにかかる力を考える際に、ピストンや物体の重さだけを考えてしまい、大気圧による力 \(P_0 S\) を忘れる。
- 対策: シリンダーが「大気中で」と明記されている場合は、必ず大気圧がピストンの外側から力を及ぼしていることを意識しましょう。力のつり合いの図を描く際に、大気圧の力も矢印で書き込む習慣をつけると防げます。
- 仕事の計算での圧力の混同:
- 誤解: 状態1→2の定圧変化の仕事や熱量を計算する際に、初期圧力\(P_0\)を誤って使ってしまう。
- 対策: 各過程でどの圧力が一定に保たれているのかを明確に区別しましょう。状態1→2では、物体を乗せた後の圧力\(P_1\)が基準となります。
- 熱効率の分母のミス:
- 誤解: 熱効率を計算する際に、吸収した熱量と放出した熱量の差(正味の熱量、これは仕事\(W\)に等しい)を分母にしてしまう。
- 対策: 熱効率の定義は「投入したエネルギー(吸収熱)に対して、どれだけ有効な仕事を取り出せたか」です。分母は必ず「吸収した熱量の総和 \(Q_{\text{吸収}}\)」であることを徹底しましょう。
- 絶対温度(K)の使用:
- 誤解: シャルルの法則や状態方程式で、セルシウス温度(℃)をそのまま使ってしまう。
- 対策: 熱力学の計算では、温度は必ず絶対温度(K)を用いる、と肝に銘じましょう。この問題では最初から\(T_0\)[K]と与えられていますが、℃で与えられた場合は必ず変換が必要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のつり合いの図: 各状態(初期、1、2、下降時)について、ピストンに働くすべての力(気体の圧力、大気圧、重力)を矢印で図示します。力の大きさが状態によってどう変わるか(例:状態1では物体の重力\(Mg\)が加わる)を視覚的に理解することが、圧力の計算ミスを防ぎます。
- p-V図: この問題のサイクルは、p-V図上では長方形として描かれます。この図を描くことで、
- サイクル全体の仕事\(W\)が長方形の面積であること。
- 右向きの矢印(膨張)の過程で仕事が正、左向きの矢印(圧縮)の過程で仕事が負であること。
- 吸熱過程(初期→1→2)と放熱過程(2→下降→初期)が明確に区別できること。
が直感的に理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 軸と座標の明記: p-V図を描く際は、縦軸に圧力\(P\)、横軸に体積\(V\)を明記します。さらに、各頂点の座標(例:状態1は\((Sh_0, P_1)\))を書き込むと、面積計算などが非常にやりやすくなります。
- サイクルの向き: サイクルが時計回りか反時計回りかは重要です。時計回りのサイクルは外部に正の仕事をし(熱機関)、反時計回りのサイクルは外部から仕事をされる(冷凍機・ヒートポンプ)ことを意味します。この問題は時計回りです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- シャルルの法則 (\(V/T=\text{一定}\) or \(P/T=\text{一定}\)):
- 選定理由: 状態変化が「定圧」または「定積」と特定できた場合に、2つの状態の温度と体積(または圧力)を関係づける最も簡単な法則だからです。
- 適用根拠: 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) で、\(P\)と\(n,R\)が一定(定圧)、または\(V\)と\(n,R\)が一定(定積)という条件。
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W\)):
- 選定理由: 「与えられた熱量」を問われた際の基本法則です。特に、定積変化(\(W=0\))では \(Q=\Delta U\)、断熱変化(\(Q=0\))では \(\Delta U = -W\) のように、過程を特定することで式が単純化され、強力なツールとなります。
- 適用根拠: エネルギー保存則。
- 定圧モル比熱 (\(Q=nC_p\Delta T\)):
- 選定理由: (4)のように「定圧変化」で「与えられた熱量」を求めたい場合に、\(\Delta U\)と\(W\)を別々に計算する手間を省ける、非常に効率的な公式だからです。
- 適用根拠: 定圧変化という条件下での熱力学第一法則を、あらかじめ使いやすい形にまとめたもの。
- 仕事 \(W\) = p-V図の面積:
- 選定理由: (6)のように「サイクル全体がした仕事」を求めたい場合に、最も直感的で計算しやすい方法だからです。各過程の仕事を足し引きするよりも、図形の面積として一気に計算できます。
- 適用根拠: 仕事の定義 \(W = \int P dV\) を図形的に解釈したもの。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 状態1の温度 \(T_1\):
- 戦略: ①力のつり合いから圧力\(P_1\)を求める → ②定積変化なのでシャルルの法則を使い\(T_1\)を求める。
- フロー: \(P_1 S = P_0 S + (M+M_0)g\) \(\rightarrow\) \(P_1\)を求める \(\rightarrow\) \(\frac{P_0}{T_0} = \frac{P_1}{T_1}\) に代入し\(T_1\)を求める。
- (2) 熱量 \(Q_{01}\):
- 戦略: 定積変化(\(W=0\))なので、熱力学第一法則より \(Q_{01} = \Delta U_{01}\)。\(\Delta U_{01} = \frac{3}{2}nR(T_1-T_0)\) を計算する。
- フロー: \(T_1\)を代入し、\(nRT_0 = P_0Sh_0\) を使って文字を消去する。
- (3) 状態2の温度 \(T_2\):
- 戦略: 定圧変化なのでシャルルの法則を使い\(T_2\)を求める。
- フロー: \(\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) \(\rightarrow\) \(V_1=Sh_0, V_2=Sh\) を代入し\(T_2\)を求める。
- (4) 熱量 \(Q_{12}\):
- 戦略: 定圧変化なので \(Q_{12} = nC_p(T_2-T_1)\) を計算する。
- フロー: \(C_p=\frac{5}{2}R\) と \(T_2, T_1\) を代入し、状態方程式を使って文字を消去する。
- (5) p-V図:
- 戦略: 各状態の(P, V)座標を特定し、過程の種類(定積・定圧)に応じて線で結ぶ。
- (6) 仕事 \(W\):
- 戦略: p-V図が囲む長方形の面積を計算する。
- フロー: \(W = (\text{圧力差}) \times (\text{体積差}) = (P_1-P_3)(V_2-V_1)\) を計算する。
- (7) 熱効率 \(e\):
- 戦略: \(e = \frac{W}{Q_{01}+Q_{12}}\) の定義式に、(2), (4), (6)の結果を代入する。
- (8) 数値計算:
- 戦略: (7)の式に与えられた条件を代入し、数値を求める。
- フロー: \(M_0 g = P_0 S\) などの関係式をうまく使い、文字を消去していく。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 関係式の活用: (8)の計算では、与えられた条件を \(M_0 g = P_0 S\) のように変形して使うと、式が劇的に簡単になります。複雑な文字式は、関係式を使って積極的に簡単な形に整理しながら進めましょう。
–
- 単位系の統一: この問題では[Pa], [m]などSI単位系で与えられていますが、常に単位系が揃っているかを確認する習慣をつけましょう。
- 分数の整理: (7)や(8)のように分数が複雑になる場合は、分母と分子を別々に計算し、最後に組み合わせるとミスが減ります。
- 結果の物理的意味の確認: (6)で仕事が \(Mg(h-h_0)\) となったように、計算結果が物理的に意味のある形(この場合は物体を持ち上げる仕事)になっているかを確認することで、計算の妥当性を検証できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 各状態の圧力: \(P_1 > P_3 > P_0\) という大小関係は、ピストンの上に乗っているものの重さ(物体+ピストン > ピストンのみ > なし(大気圧のみ))と直感的に一致します。
- 仕事 \(W\): \(W=Mg(h-h_0)\) という結果は、この熱機関が「熱を消費して、質量Mの物体を高さ\(h-h_0\)だけ持ち上げる」という目的を果たしていることを明確に示しています。
- 熱効率 \(e\): (8)で求めた熱効率 \(4/29\) は1より小さい正の値であり、エネルギー保存則(第一種永久機関の否定)と、すべての熱を仕事に変えることはできない(第二種永久機関の否定)という熱力学の基本原則に矛盾しません。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし物体を乗せなかったら(\(M=0\))、仕事\(W=0\)となり、熱効率も0になります。これは、持ち上げるべき対象がなければ仕事は発生しないという自明な結果と一致し、式の妥当性を裏付けます。
問題77 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、半透膜で仕切られた2種類の単原子分子理想気体の振る舞いを、気体分子運動論と熱力学の法則を用いて分析する問題です。
[A]では気体分子運動論を用いて圧力や内部エネルギーを微視的な視点から導出し、[B]では断熱変化、[C]では定圧・定積変化といった熱力学的な過程を扱います。
- シリンダー: 断面積\(S\)、ピストン付き。内部は膜で領域1と2に分割。
- 気体X: 1mol、単原子分子理想気体。質量\(m_x\)。膜を通過可能。
- 気体Y: 1mol、単原子分子理想気体。質量\(m_y\)。膜を通過不可。
- 初期状態[A]: ピストン固定。領域1(体積\(V_1\), 圧力\(p_1\))、領域2(体積\(V_2\), 圧力\(p_2\))、温度\(T\)。
- 半透膜: 気体Xは通過できるが、Yはできない。
- その他: 外部は真空。重力の影響は無視。アボガドロ定数\(N_A\)、気体定数\(R\)。
- [A](1) ピストンが気体Xから受ける力の平均\(F_1\)。
- [A](2) 底面が気体X,Yから受ける力の平均\(F_2\)。
- [A](3) 圧力\(p_1, p_2\)を\(R, T, V_1, V_2\)で表す。
- [A](4) 系全体の内部エネルギー\(U\)。
- [B](1) 微小な断熱圧縮での温度変化\(\Delta T\)。
- [B](2) そのときの圧力変化と体積変化の関係式。
- [C](1) 定圧加熱後の温度\(T’\)。
- [C](2) その間の吸収熱量の合計。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気体分子運動論」と「熱力学」の融合です。特に、半透膜によって気体の運動範囲が異なる点が特徴的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 気体分子運動論: 圧力や温度といった宏観的な物理量を、気体分子の運動という微視的なモデルから導出します。力積と運動量の関係が基本となります。
- 半透膜の理解: 気体Xは通過できるが気体Yは通過できないという半透膜の性質を正しく理解し、それぞれの気体が運動できる体積を正確に把握することが重要です。
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\) は、断熱変化([B])や加熱過程([C])におけるエネルギーの収支を計算する上で中心的な役割を果たします。
- 状態方程式: 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) は、P, V, Tの関係を結びつけ、未知の物理量を消去したり、変化量を計算したりする際に繰り返し用いられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、気体分子運動論の基本に立ち返り、1分子の運動から圧力や力を導出します。気体XとYが占める体積の違いに注意します。
- [B]では、系全体を一つの熱力学系とみなし、断熱変化の条件(\(Q=0\))と熱力学第一法則を適用します。微小変化における状態方程式の扱いがポイントです。
- [C]では、気体XとYがそれぞれ異なる状態変化(定圧変化と定積変化)をすることを認識し、それぞれの過程で吸収する熱量を計算して合計します。
[A] 問(1)
思考の道筋とポイント
気体分子運動論の基本的な考え方を用いて、ピストンが気体Xから受ける力の平均\(F_1\)を求めます。手順は以下の通りです。
- 気体Xの分子1個がピストンに1回衝突するときの力積を計算する。
- その分子が単位時間あたりに何回ピストンに衝突するかを計算する。
- 1と2から、分子1個がピストンに及ぼす力の平均を求める。
- 全分子(\(N_A\)個)について合計し、全体の力の平均\(F_1\)を求める。
この設問における重要なポイント
- 気体Xは膜を通過できるため、運動している体積は領域1と2を合わせた\(V_1+V_2\)である。
- ピストンとの衝突は弾性衝突であり、速度のz成分のみが反転する。
- 作用・反作用の法則から、分子が受ける力積とピストンが受ける力積は等しい大きさで逆向きである。
具体的な解説と立式
- 1回の衝突による力積:
気体Xの分子1個(質量\(m_x\))が速度のz成分\(v_z\)でピストンに衝突すると、弾性衝突後、速度のz成分は\(-v_z\)になります。このとき、分子が受ける力積\(I_x\)は、
$$
\begin{aligned}
I_x &= m_x(-v_z) – m_x v_z \\[2.0ex]&= -2m_x v_z
\end{aligned}
$$
作用・反作用の法則より、ピストンが分子1個から受ける力積\(I_p\)は、
$$
\begin{aligned}
I_p &= -I_x \\[2.0ex]&= 2m_x v_z
\end{aligned}
$$ - 単位時間あたりの衝突回数:
この分子が次に同じピストンに衝突するまでの時間間隔\(\Delta t_c\)は、往復距離 \(2(V_1+V_2)/S\) を速さ \(v_z\) で割ることで求められます。
$$\Delta t_c = \frac{2(V_1+V_2)}{v_z S}$$
よって、単位時間あたりにこの分子がピストンに衝突する回数\(f_c\)は、
$$f_c = \frac{1}{\Delta t_c} = \frac{v_z S}{2(V_1+V_2)}$$ - 分子1個が及ぼす力の平均:
分子1個がピストンに及ぼす力の平均\(f\)は、単位時間あたりに与える力積の大きさに等しいので、
$$
\begin{aligned}
f &= I_p \times f_c \\[2.0ex]&= (2m_x v_z) \times \frac{v_z S}{2(V_1+V_2)} \\[2.0ex]&= \frac{m_x v_z^2 S}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$ - 全分子による力の平均:
気体Xは1mol (\(N_A\)個)存在し、各分子の速度のz成分の2乗の平均を\(\overline{v_z^2}\)とすると、ピストンが受ける力の平均\(F_1\)は、
$$
\begin{aligned}
F_1 &= N_A \times \bar{f} \\[2.0ex]&= N_A \frac{m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(\vec{I} = \Delta \vec{p}\)
- 作用・反作用の法則
上記の立式プロセスがそのまま計算過程となります。
$$F_1 = \frac{N_A m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2}$$
ピストンが受ける力は、たくさんの分子が次々とぶつかってくる衝撃の平均です。まず、分子1個が1回ぶつかる衝撃の大きさ(力積)を計算します。次に、その分子が1秒間に何回ぶつかってくるかを計算します。この2つを掛け合わせると、分子1個あたりの平均の力が出ます。最後に、それを全分子の数だけ合計することで、全体の力を求めます。
求める力の平均は \(F_1 = \displaystyle\frac{N_A m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2}\) です。これは気体分子運動論における圧力の導出過程そのものであり、物理的に妥当なものです。
[A] 問(2)
思考の道筋とポイント
シリンダーの底面が受ける力の平均\(F_2\)は、気体Xから受ける力と気体Yから受ける力の合計です。それぞれの気体について、(1)と同様の考え方で力を計算し、足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 底面は気体Xと気体Yの両方から力を受ける。
- 気体Xは体積\(V_1+V_2\)の空間を運動する。
- 気体Yは膜を通過できず、体積\(V_2\)の空間(領域2)のみを運動する。
具体的な解説と立式
底面が受ける力の平均\(F_2\)は、気体Xによる力\(F_{2,X}\)と気体Yによる力\(F_{2,Y}\)の和で表せます。
$$F_2 = F_{2,X} + F_{2,Y}$$
- 気体Xによる力 \(F_{2,X}\):
(1)のピストンが受ける力\(F_1\)と全く同じ状況です。
$$F_{2,X} = \frac{N_A m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2}$$ - 気体Yによる力 \(F_{2,Y}\):
気体Yは体積\(V_2\)の領域2に閉じ込められています。したがって、(1)の計算で体積を\(V_2\)に置き換えることで求められます。
$$F_{2,Y} = \frac{N_A m_y \overline{w_z^2} S}{V_2}$$
よって、合計の力\(F_2\)は、
$$F_2 = \frac{N_A m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2} + \frac{N_A m_y \overline{w_z^2} S}{V_2}$$
使用した物理公式
- (1)で導出した力の平均の式
$$
\begin{aligned}
F_2 &= F_{2,X} + F_{2,Y} \\[2.0ex]&= \frac{N_A m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2} + \frac{N_A m_y \overline{w_z^2} S}{V_2} \\[2.0ex]&= N_A S \left( \frac{m_x \overline{v_z^2}}{V_1+V_2} + \frac{m_y \overline{w_z^2}}{V_2} \right)
\end{aligned}
$$
シリンダーの底は、部屋全体を自由に飛び回る気体Xと、領域2という限られた空間だけを飛び回る気体Yの両方から押されています。それぞれの気体が底を押す力を別々に計算し、それらを単純に足し合わせることで、底が受ける合計の力が求まります。
求める力の平均は \(F_2 = \displaystyle\frac{N_A m_x \overline{v_z^2} S}{V_1+V_2} + \frac{N_A m_y \overline{w_z^2} S}{V_2}\) です。これは、気体Xの分圧による力と気体Yの分圧による力の和となっており、ドルトンの分圧の法則の考え方と一致しています。
[A] 問(3)
思考の道筋とポイント
(1)と(2)で求めた力の平均\(F_1, F_2\)を断面積\(S\)で割ることで、圧力\(p_1, p_2\)を求めます。その後、問題文で与えられた条件「一方向あたりの平均運動エネルギーが\(\frac{1}{2}kT\)」と、ボルツマン定数と気体定数の関係式\(k=R/N_A\)を用いて、式を\(R, T\)で書き換えます。
この設問における重要なポイント
- 圧力の定義 \(p = F/S\)。
- エネルギー等分配則の一形態: \(\frac{1}{2}m\overline{v_z^2} = \frac{1}{2}kT\)。
- ボルツマン定数と気体定数の関係: \(k = R/N_A\)。
具体的な解説と立式
まず、圧力\(p_1, p_2\)を力の式から求めます。
$$p_1 = \frac{F_1}{S} = \frac{N_A m_x \overline{v_z^2}}{V_1+V_2}$$
$$p_2 = \frac{F_2}{S} = \frac{N_A m_x \overline{v_z^2}}{V_1+V_2} + \frac{N_A m_y \overline{w_z^2}}{V_2}$$
次に、与えられた条件 \(\frac{1}{2}m\overline{v_z^2} = \frac{1}{2}kT\) より、\(m_x \overline{v_z^2} = kT\) および \(m_y \overline{w_z^2} = kT\) が成り立ちます。
さらに、\(k = R/N_A\) の関係を用いると、
$$m_x \overline{v_z^2} = \frac{R}{N_A}T \quad \text{および} \quad m_y \overline{w_z^2} = \frac{R}{N_A}T$$
これらの関係を圧力の式に代入します。
使用した物理公式
- 圧力の定義: \(p=F/S\)
- エネルギー等分配則
- \(k=R/N_A\)
\(p_1\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
p_1 &= \frac{N_A}{V_1+V_2} (m_x \overline{v_z^2}) \\[2.0ex]&= \frac{N_A}{V_1+V_2} \left(\frac{R}{N_A}T\right) \\[2.0ex]&= \frac{RT}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$
\(p_2\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
p_2 &= \frac{N_A m_x \overline{v_z^2}}{V_1+V_2} + \frac{N_A m_y \overline{w_z^2}}{V_2} \\[2.0ex]&= \frac{RT}{V_1+V_2} + \frac{N_A}{V_2} \left(\frac{R}{N_A}T\right) \\[2.0ex]&= \frac{RT}{V_1+V_2} + \frac{RT}{V_2}
\end{aligned}
$$
(1)と(2)で求めた力の式は、分子の速さというミクロな量を含んでいます。これを、私たちが測定しやすい温度\(T\)というマクロな量に書き換える作業です。「分子1個の平均運動エネルギーは、気体の絶対温度だけで決まる」という重要な関係式を使います。
圧力は \(p_1 = \displaystyle\frac{RT}{V_1+V_2}\), \(p_2 = \displaystyle\frac{RT}{V_1+V_2} + \frac{RT}{V_2}\) となります。
\(p_1\)は、1molの気体Xが体積\(V_1+V_2\)を占めているときの状態方程式そのものです。
\(p_2\)は、気体Xの分圧(\(p_1\))と、1molの気体Yが体積\(V_2\)を占めているときの圧力(\(\frac{RT}{V_2}\))の和になっており、ドルトンの分圧の法則と完全に一致します。
[A] 問(4)
思考の道筋とポイント
気体Xと気体Yの内部エネルギーの合計\(U\)を求めます。どちらも1molの単原子分子理想気体であり、温度はともに\(T\)です。内部エネルギーは状態量であり、単純にそれぞれの気体の内部エネルギーを足し合わせることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの公式は \(U = \frac{3}{2}nRT\)。
- 内部エネルギーは加法性を持ち、系の全内部エネルギーは各成分の内部エネルギーの和である。
具体的な解説と立式
気体X (1mol) の内部エネルギー\(U_X\)は、
$$U_X = \frac{3}{2} \times 1 \times RT$$
気体Y (1mol) の内部エネルギー\(U_Y\)も同様に、
$$U_Y = \frac{3}{2} \times 1 \times RT$$
系全体の内部エネルギー\(U\)はこれらの和です。
$$U = U_X + U_Y$$
使用した物理公式
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
$$
\begin{aligned}
U &= U_X + U_Y \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}RT + \frac{3}{2}RT \\[2.0ex]&= 3RT
\end{aligned}
$$
気体の内部エネルギーは、その気体の種類(単原子分子かなど)、物質量(何molか)、そして温度だけで決まります。この問題では、気体XとYはどちらも1molの単原子分子で、同じ温度\(T\)です。したがって、それぞれの内部エネルギーを計算し、単純に足し算します。
内部エネルギーの合計は \(U=3RT\) です。これは、合計2molの単原子分子理想気体の内部エネルギーの式と一致しており、妥当な結果です。
別解: 分子運動論からの導出
思考の道筋とポイント
内部エネルギーは、全分子の運動エネルギーの総和です。気体分子の運動の等方性(x, y, z方向の運動は対等)を利用して、z方向の運動エネルギーから全運動エネルギーを求め、合計します。
この設問における重要なポイント
- 内部エネルギーは全分子の運動エネルギーの合計である。
- 運動の等方性: \(\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2} = 3\overline{v_z^2}\)。
具体的な解説と立式
気体Xの1分子の平均運動エネルギーは \(\frac{1}{2}m_x\overline{v^2}\) です。等方性より \(\overline{v^2} = 3\overline{v_z^2}\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m_x\overline{v^2} &= \frac{1}{2}m_x(3\overline{v_z^2}) \\[2.0ex]&= 3 \left(\frac{1}{2}m_x\overline{v_z^2}\right)
\end{aligned}
$$
(3)の条件 \(\frac{1}{2}m_x\overline{v_z^2} = \frac{1}{2}kT\) を使うと、1分子の平均運動エネルギーは \(\frac{3}{2}kT\) となります。
気体X (1mol, \(N_A\)個) の内部エネルギー\(U_X\)は、
$$
\begin{aligned}
U_X &= N_A \times \left(\frac{3}{2}kT\right) \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}N_A k T
\end{aligned}
$$
気体Yについても同様に \(U_Y = \frac{3}{2}N_A k T\) です。
よって、全内部エネルギー\(U\)は、
$$
\begin{aligned}
U &= U_X + U_Y \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}N_A k T + \frac{3}{2}N_A k T \\[2.0ex]&= 3N_A k T
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動の等方性: \(\overline{v^2} = 3\overline{v_z^2}\)
- ボルツマン定数と気体定数の関係: \(R = N_A k\)
\(R = N_A k\) の関係を用いて、\(U\)を\(R, T\)で表します。
$$
\begin{aligned}
U &= 3(N_A k)T \\[2.0ex]&= 3RT
\end{aligned}
$$
\(U=3RT\) となり、宏観的な公式から求めた結果と完全に一致します。これにより、気体分子運動論と熱力学の法則が整合的であることが確認できます。
[B] 問(1)
思考の道筋とポイント
ピストンをゆっくり押し下げる過程は断熱変化(\(Q=0\))です。このとき、外部からされた仕事はすべて内部エネルギーの増加になります。熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) を用いて、温度変化\(\Delta T\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 断熱変化なので \(Q=0\)。
- 熱力学第一法則は \(\Delta U = W_{\text{された}}\) となる。
- 内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、(A)(4)の結果から \(\Delta U = 3R\Delta T\)。
- 気体にされた仕事\(W_{\text{された}}\)は、ピストンが気体Xにした仕事であり、\(p_1 \Delta V_1\)で近似できる。
具体的な解説と立式
この過程は断熱変化なので、熱の出入りはありません(\(Q=0\))。
熱力学第一法則より、
$$\Delta U = W_{\text{された}}$$
内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、(A)(4)の結果 \(U=3RT\) を用いて、
$$\Delta U = 3R\Delta T$$
外部からされた仕事\(W_{\text{された}}\)は、ピストンが領域1の気体Xを圧縮した仕事です。圧力の変化が微小なので、この間の圧力をほぼ\(p_1\)とみなすと、
$$W_{\text{された}} \approx p_1 \Delta V_1$$
よって、熱力学第一法則は、
$$3R\Delta T = p_1 \Delta V_1$$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\)
- 仕事の近似式: \(W = P\Delta V\)
上の式を\(\Delta T\)について解きます。
$$\Delta T = \frac{p_1 \Delta V_1}{3R}$$
断熱材でできた容器の中の気体を押して縮めると、外部からした仕事の分だけ気体のエネルギーが増え、温度が上がります。この「仕事がそっくりそのまま内部エネルギーの増加になる」という関係を式にして、温度の変化量を計算します。
温度変化は \(\Delta T = \displaystyle\frac{p_1 \Delta V_1}{3R}\) となります。圧縮(\(\Delta V_1 > 0\))によって温度が上昇(\(\Delta T > 0\))するという、断熱圧縮の性質と一致する妥当な結果です。
[B] 問(2)
思考の道筋とポイント
気体X全体(領域1と2を合わせた系)について、変化の前後で状態方程式を立て、その差をとることで、微小変化量の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 気体Xは、圧力\(p_1\)、体積\(V_1+V_2\)の系として扱う。
- 変化後の圧力は\(p_1+\Delta p_1\)、体積は\((V_1-\Delta V_1)+V_2\)。
- 微小量の2次以上の項(\(\Delta p_1 \Delta V_1\))は無視する。
具体的な解説と立式
気体X (1mol) について、状態方程式を立てます。
- 変化前:
$$p_1(V_1+V_2) = RT \quad \cdots ①$$ - 変化後:
$$(p_1+\Delta p_1)(V_1-\Delta V_1+V_2) = R(T+\Delta T) \quad \cdots ②$$
式②の左辺を展開し、微小量の積 \(\Delta p_1 \Delta V_1\) を無視すると、
$$p_1(V_1+V_2) – p_1\Delta V_1 + \Delta p_1(V_1+V_2) \approx R(T+\Delta T)$$
この式から式①を辺々引くと、
$$-p_1\Delta V_1 + \Delta p_1(V_1+V_2) = R\Delta T$$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
上式に、(1)で求めた \(\Delta T = \displaystyle\frac{p_1 \Delta V_1}{3R}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
-p_1\Delta V_1 + \Delta p_1(V_1+V_2) &= R \left(\frac{p_1 \Delta V_1}{3R}\right) \\[2.0ex]-p_1\Delta V_1 + \Delta p_1(V_1+V_2) &= \frac{1}{3}p_1\Delta V_1
\end{aligned}
$$
\(\Delta p_1(V_1+V_2)\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
\Delta p_1(V_1+V_2) &= \frac{1}{3}p_1\Delta V_1 + p_1\Delta V_1 \\[2.0ex]\Delta p_1(V_1+V_2) &= \frac{4}{3}p_1\Delta V_1
\end{aligned}
$$
両辺を\(p_1(V_1+V_2)\)で割ると、
$$\frac{\Delta p_1}{p_1} = \frac{4}{3}\frac{\Delta V_1}{V_1+V_2}$$
したがって、アに入る数は \(\displaystyle\frac{4}{3}\) です。
状態方程式は変化の前後で常に成り立ちます。変化前の式と変化後の式を立てて、それらの引き算をすることで、圧力や体積の「変化量」の間の関係式を導き出すことができます。
アに入る数は \(\displaystyle\frac{4}{3}\) です。これは、この系における気体Xの断熱変化が、有効な比熱比\(\gamma = \frac{4}{3}\)を持つ気体のポアソンの法則 \(PV^{4/3}=\text{一定}\) に従うことを示唆しています。
[C] 問(1)
思考の道筋とポイント
おもりを乗せた後、気体を加熱するとピストンがゆっくり押し上がります。この過程では、ピストンの上のおもりは変わらないため、気体Xの圧力は\(p_1\)で一定に保たれます(定圧変化)。一方、気体Yは領域2に閉じ込められたままなので、体積は\(V_2\)で一定です(定積変化)。
系全体の温度は常に均一なので、気体X全体(領域1と2を合わせたもの)について、定圧変化のシャルルの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 気体Xの過程は定圧変化である。
- 気体Xの体積は、はじめ \(V_1+V_2\)、あと \(2V_1+V_2\) となる。
- 定圧変化なので、シャルルの法則 \(\frac{V}{T}=\text{一定}\) が適用できる。
具体的な解説と立式
気体Xは圧力\(p_1\)の定圧変化をします。変化後の温度を\(T’\)とします。
シャルルの法則より、
$$\frac{V_{\text{X,前}}}{T} = \frac{V_{\text{X,後}}}{T’}$$
ここで、気体Xの体積は、
- 変化前: \(V_{\text{X,前}} = V_1+V_2\)
- 変化後: 領域1の体積が\(2V_1\)になるので、\(V_{\text{X,後}} = 2V_1+V_2\)
よって、
$$\frac{V_1+V_2}{T} = \frac{2V_1+V_2}{T’}$$
使用した物理公式
- シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (定圧変化)
上式を\(T’\)について解きます。
$$T’ = \frac{2V_1+V_2}{V_1+V_2}T$$
気体Xは一定の圧力で温められ、膨張します。このとき、「体積と絶対温度は比例する」というシャルルの法則が使えます。体積がどれだけ増えたかの比率を計算し、元の温度に掛けることで、変化後の温度がわかります。
変化後の温度は \(T’ = \displaystyle\frac{2V_1+V_2}{V_1+V_2}T\) です。分子が分母より大きいので \(T’ > T\) となり、加熱によって温度が上昇するという物理的に正しい結果です。
[C] 問(2)
思考の道筋とポイント
系が吸収した熱量の合計は、気体Xが吸収した熱量\(Q_X\)と、気体Yが吸収した熱量\(Q_Y\)の和です。それぞれの気体がどのような変化をしたかに注意して、熱量を計算します。
この設問における重要なポイント
- 気体X (1mol) は定圧変化をするので、吸収熱量は \(Q_X = nC_p\Delta T’\)。
- 気体Y (1mol) は定積変化をするので、吸収熱量は \(Q_Y = nC_v\Delta T’\)。
- 単原子分子理想気体なので、\(C_p = \frac{5}{2}R\), \(C_v = \frac{3}{2}R\)。
具体的な解説と立式
この過程での温度変化\(\Delta T’\)は、
$$\Delta T’ = T’ – T$$
気体Xが吸収した熱量\(Q_X\)は、
$$Q_X = 1 \times C_p \times \Delta T’ = \frac{5}{2}R\Delta T’$$
気体Yが吸収した熱量\(Q_Y\)は、
$$Q_Y = 1 \times C_v \times \Delta T’ = \frac{3}{2}R\Delta T’$$
したがって、吸収した熱量の合計\(Q_{total}\)は、
$$
\begin{aligned}
Q_{total} &= Q_X + Q_Y \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}R\Delta T’ + \frac{3}{2}R\Delta T’ \\[2.0ex]&= 4R\Delta T’
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 定圧変化の熱量: \(Q_p = nC_p\Delta T\)
- 定積変化の熱量: \(Q_v = nC_v\Delta T\)
まず、温度変化\(\Delta T’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta T’ &= T’ – T \\[2.0ex]&= \frac{2V_1+V_2}{V_1+V_2}T – T \\[2.0ex]&= \left(\frac{2V_1+V_2 – (V_1+V_2)}{V_1+V_2}\right)T \\[2.0ex]&= \frac{V_1}{V_1+V_2}T
\end{aligned}
$$
この\(\Delta T’\)を\(Q_{total}\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{total} &= 4R\Delta T’ \\[2.0ex]&= 4R \left(\frac{V_1}{V_1+V_2}T\right) \\[2.0ex]&= \frac{4RV_1 T}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$
気体Xと気体Yは、同じだけ温度が上がりますが、変化の仕方が異なります。Xは膨張しながら(定圧で)温まり、Yは閉じ込められたまま(定積で)温まります。膨張するXの方がより多くの熱を必要とします。それぞれの熱量を計算し、足し合わせることで、系全体が吸収した熱が求まります。
吸収した熱量の合計は \(\displaystyle\frac{4RV_1 T}{V_1+V_2}\) です。すべての物理量が問題文で与えられたもので表現されており、妥当な結果です。
別解: 熱力学第一法則からの導出
思考の道筋とポイント
系全体(気体XとY)を一つのシステムとみなし、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を適用します。内部エネルギーの変化\(\Delta U\)と、系がした仕事\(W\)をそれぞれ計算して合計します。
この設問における重要なポイント
- 系全体の内部エネルギーの変化は \(\Delta U = 3R\Delta T’\)。
- 仕事をするのは気体Xのみであり、定圧変化の仕事 \(W = p_1 \Delta V_X\)。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、
$$Q_{total} = \Delta U + W$$
- 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\):
系全体は2molの単原子分子理想気体なので、\(U=3RT\)。
$$\Delta U = 3R\Delta T’$$ - 系がした仕事 \(W\):
仕事をするのは、領域1の体積が\(V_1\)から\(2V_1\)に膨張した気体Xのみです。これは圧力\(p_1\)の定圧変化なので、
$$
\begin{aligned}
W &= p_1 \Delta V_1 \\[2.0ex]&= p_1 (2V_1 – V_1) \\[2.0ex]&= p_1 V_1
\end{aligned}
$$
よって、吸収した熱量は、
$$Q_{total} = 3R\Delta T’ + p_1 V_1$$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 定圧変化の仕事: \(W = P\Delta V\)
\(\Delta T’ = \displaystyle\frac{V_1}{V_1+V_2}T\) と、(A)(3)で求めた \(p_1 = \displaystyle\frac{RT}{V_1+V_2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{total} &= 3R\left(\frac{V_1}{V_1+V_2}T\right) + \left(\frac{RT}{V_1+V_2}\right)V_1 \\[2.0ex]&= \frac{3RV_1 T}{V_1+V_2} + \frac{RV_1 T}{V_1+V_2} \\[2.0ex]&= \frac{4RV_1 T}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$
モル比熱を用いた計算結果と完全に一致します。これにより、異なるアプローチでも同じ結論に至ることが確認でき、解答の信頼性が高まります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 気体分子運動論:
- 核心: 圧力や内部エネルギーといった宏観的な物理量を、多数の分子の力学的な運動(衝突)の平均として捉える考え方です。特に[A]パートでは、この微視的な視点からの導出が求められます。
- 理解のポイント: 「力積=運動量の変化」と「力の平均=単位時間あたりの力積」という2つの基本原理から、圧力の式 \(p = \frac{N m \overline{v^2}}{3V}\) などが導出されるプロセスを理解することが重要です。
- 半透膜の役割と分圧:
- 核心: この問題の最大の特徴は、気体Xは通過できるがYは通過できない「半透膜」の存在です。これにより、気体XとYが運動できる体積が異なります。
- 理解のポイント:
- 気体X: 領域1と2を合わせた体積\((V_1+V_2)\)を自由に運動できる。
- 気体Y: 領域2の体積\((V_2)\)に閉じ込められている。
この体積の違いを正しく認識することが、圧力や力を計算する上での鍵となります。底面が受ける圧力\(p_2\)が、気体Xの分圧と気体Yの分圧の和になる点は、ドルトンの分圧の法則の具体的な現れです。
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W\)):
- 核心: エネルギー保存則を熱現象に拡張したもので、[B]の断熱変化や[C]の加熱過程を解析する際の基本法則です。
- 理解のポイント: 過程に応じて \(Q, \Delta U, W\) のいずれかが0になったり、特別な式で表せたりします。例えば、断熱変化([B])では\(Q=0\)なので\(\Delta U = -W\)(された仕事は\(W_{\text{された}}\))、定積変化では\(W=0\)なので\(Q=\Delta U\)となります。
- 理想気体の状態方程式と内部エネルギー:
- 核心: 状態方程式\(PV=nRT\)はP,V,Tの関係を結びつけ、内部エネルギーの式\(U=\frac{3}{2}nRT\)は系のエネルギー状態を記述します。これらは、微視的な分子運動論と宏観的な熱力学とを結びつける橋渡しの役割も担います。
- 理解のポイント: 問題で与えられていない物理量(例: \(n, R, k\))を消去したり、異なる物理量の間に関係をつけたりするために、これらの式を自在に活用する能力が求められます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 混合気体の問題: 複数の気体が混ざっている場合、各気体の分圧の和が全圧になる(ドルトンの分圧の法則)という考え方は、本問の(2)(3)と共通しています。
- ポアソンの法則を用いる断熱変化: 本問の[B]は微小な断熱変化でしたが、有限の変化を扱う問題ではポアソンの法則(\(PV^\gamma = \text{一定}\))が用いられます。本問の結果は、この法則の微小変化バージョンと見なせます。
- 異なる変化をする連結系: 本問の[C]のように、連結された2つの系(気体XとY)が、一方は定圧、もう一方は定積といった異なる変化をする問題。それぞれの系について法則を適用し、共通の変数(ここでは温度)でつなぐアプローチが有効です。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の定義と境界の確認: まず、どの気体がどの空間を動けるのかを正確に把握します。半透膜や仕切りがある場合は、その性質(何を透過し、何をしないか)が最重要情報です。
- 微視的か宏観的か: 問いが「分子の運動から」求めよ、といった微視的なアプローチを要求しているのか、それとも「熱量」「仕事」といった宏観的な量を問うているのかを見極めます。前者なら分子運動論、後者なら熱力学の法則が主役です。
- 状態変化の特定: 各過程が「定積」「定圧」「等温」「断熱」のどれに当たるかを、問題文のキーワード(「固定され」「ゆっくり押し上げ」「温度を保ち」「熱のやりとりはなく」など)から判断します。
- 保存量・共通量の発見: 複数の気体が登場する場合、何が共通しているか(この問題では温度T)、何が保存されているか(各気体の物質量n)を見つけることが、立式のヒントになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 気体Xの体積の誤認:
- 誤解: 気体Xが領域1にしか存在しないと勘違いし、その体積を\(V_1\)として計算してしまう。
- 対策: 半透膜の定義を正確に読み取り、「気体Xは膜を通過できる」ことから、その運動空間は\(V_1+V_2\)全体であると正しく認識しましょう。図にそれぞれの気体の活動範囲を書き込むと効果的です。
- 微小変化の計算ミス:
- 誤解: [B]パートで状態方程式の差分をとる際に、展開や微小量の積の無視を誤る。
- 対策: \((p_1+\Delta p_1)(V_1-\Delta V_1)\)のような積は、焦らず丁寧に展開し、\(\Delta p_1 \Delta V_1\)のような「微小量×微小量」の項は、他の項に比べて十分に小さいとして0と近似する、という手順を確実に踏みましょう。
- 仕事の主体と対象の混同:
- 誤解: [C]パートで、気体Yも仕事をしたと考えてしまう。
- 対策: 仕事は「体積変化」を伴う場合にのみ発生します。気体Yは体積\(V_2\)のまま変化しない(定積変化)ため、仕事をしません。仕事をするのは、体積が変化した気体Xのみです。
- 内部エネルギーの計算:
- 誤解: (4)で、気体XとYが異なる空間にいるため、内部エネルギーの合計をためらってしまう。
- 対策: 内部エネルギーは、気体の種類、物質量、温度で決まる「状態量」です。気体がどこにあろうと、これらの量が同じなら内部エネルギーは同じです。したがって、単純にそれぞれの内部エネルギーを足し合わせればOKです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 分子の運動イメージ: 気体Xの分子(例:青い玉)がシリンダー全体を自由に飛び回り、気体Yの分子(例:赤い玉)が膜に阻まれて領域2の中だけで飛び回っている様子をイメージします。これにより、体積の違いが直感的に理解できます。
- 力のつり合いの図: ピストンや底面に働く力を、力の種類(気体Xによる力、気体Yによる力)ごとに色分けして矢印で描くと、どの力がどの圧力に対応するのかが明確になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 系の境界を明確にする: 状態方程式や熱力学第一法則を適用する際、「今、どの範囲を一つの系として考えているか」を意識することが重要です。例えば、「気体X全体」「気体Y」「領域1」「系全体(X+Y)」など、対象とする系を点線で囲むなどして図示すると、混乱を防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 気体分子運動論:
- 選定理由: [A]のように「分子の運動」というミクロな情報から「力」や「圧力」というマクロな量を導出するよう求められているため。
- 適用根拠: 気体を多数の粒子の集まりとみなし、その力学的な振る舞いを統計的に平均するという物理モデル。
- 熱力学第一法則:
- 選定理由: [B]の「断熱変化」、[C]の「加熱」のように、熱の出入りや仕事を伴うエネルギー変化を解析する必要があるため。
- 適用根拠: エネルギー保存則。
- 状態方程式の差分:
- 選定理由: [B]のように、微小な状態変化における各変化量(\(\Delta p, \Delta V, \Delta T\))の間の関係式を導出したい場合、変化前後の状態方程式の差をとるのが定石だからです。
- 適用根拠: 変化の前後で状態方程式が常に成立していること。
- モル比熱の公式 (\(Q=nC\Delta T\)):
- 選定理由: [C]のように、過程が「定圧」または「定積」と明確に分かっており、その際の吸収熱量を計算したい場合に、\(\Delta U\)と\(W\)を別々に計算するより効率的だからです。
- 適用根拠: それぞれ定圧過程、定積過程に特化した熱力学第一法則の表現形式。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A] 分子運動論:
- (1) 力\(F_1\): (気体Xの力積) \(\times\) (衝突頻度) \(\times\) (分子数) \(\rightarrow\) \(F_1\)を求める。
- (2) 力\(F_2\): (気体Xによる力) + (気体Yによる力) \(\rightarrow\) それぞれの運動体積に注意して計算し、合計する。
- (3) 圧力\(p_1, p_2\): (1)(2)の結果を\(S\)で割る \(\rightarrow\) \(\frac{1}{2}m\overline{v_z^2}=\frac{1}{2}kT\)と\(k=R/N_A\)を代入し、\(R,T\)で表す。
- (4) 内部エネルギー\(U\): \(U = U_X+U_Y = \frac{3}{2}RT + \frac{3}{2}RT\) を計算する。
- [B] 断熱変化:
- (1) 温度変化\(\Delta T\): 熱力学第一法則 \(\Delta U = W_{\text{された}}\) \(\rightarrow\) \(\Delta U=3R\Delta T\), \(W_{\text{された}}=p_1\Delta V_1\) を代入し\(\Delta T\)を求める。
- (2) 圧力変化\(\Delta p_1\): 気体Xの状態方程式の差分をとる \(\rightarrow\) (1)の結果を代入し、\(\Delta p_1\)と\(\Delta V_1\)の関係を導く。
- [C] 加熱過程:
- (1) 温度\(T’\): 気体Xの定圧変化にシャルルの法則 \(\frac{V}{T}=\text{一定}\) を適用し\(T’\)を求める。
- (2) 吸収熱量\(Q_{total}\): (気体Xの定圧熱量 \(Q_X\)) + (気体Yの定積熱量 \(Q_Y\)) \(\rightarrow\) \(Q_X=C_p\Delta T’\), \(Q_Y=C_v\Delta T’\) を計算し、合計する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 添字の厳密な区別: \(m_x, m_y\), \(v_z, w_z\), \(V_1, V_2\), \(p_1, p_2\) など、添字が非常に多い問題です。どの文字がどの物理量を表しているのか、常に意識して混同しないようにしましょう。
- 体積の再確認: 計算の各段階で、「今考えている気体の体積は何か?」を自問自答する癖をつけましょう。特に気体Xの体積は間違いやすいポイントです。
- 段階的な代入: (A)(3)や[C](2)のように、複数の結果を組み合わせて最終的な答えを導く問題では、一度に代入しようとせず、一つずつ段階的に式を単純化していくと、計算ミスが減り見通しが良くなります。
- 別解による検算: (A)(4)や[C](2)のように、別のアプローチで同じ結果が導ける場合は、強力な検算手段になります。時間があれば試してみる価値はあります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- [A](3) 圧力の式: \(p_1\)が気体Xの状態方程式、\(p_2\)が気体XとYの分圧の和になっていることを確認します。これは物理的に非常に理にかなった結果です。
- [A](4) 内部エネルギーの式: \(U=3RT\)は、合計2molの単原子分子理想気体の内部エネルギーの式と一致します。これも妥当です。
- [B](1) \(\Delta T\)の符号: 圧縮(\(\Delta V_1>0\))によって温度が上昇(\(\Delta T>0\))するという結果は、断熱圧縮の基本的な性質と一致します。
- [C](1) \(T’\)の大小関係: \(T’ = \frac{2V_1+V_2}{V_1+V_2}T\) で、分数が1より大きいので\(T’>T\)となります。加熱によって温度が上がるという直感と一致します。
- 既知の法則との関連付け:
- [B](2)の結果は、ポアソンの法則 \(PV^\gamma = \text{一定}\) を微小変化に適用したものと解釈できます。この系の有効な比熱比が\(\gamma=4/3\)であることが示唆されており、より深い理解につながります。
問題78 (香川大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、正弦波の基本的な性質(波形、周期、媒質の運動)と、波の重ね合わせによって生じる定常波について、多角的に理解を問う問題です。
前半(1)~(3)は進行波の性質を、後半(4)~(5)は2つの波が重なってできる定常波の性質を扱っています。
- 波: x軸正の向きに進む正弦波。
- 図1の波: 速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、振幅\(A\)。時刻\(t=0\)の波形。
- (2)の波: 振幅\(2A\)、波長\(2\lambda\)、速さ\(v\)。
- (3)の波: 図1の波を縦波の横波表示とみなす。
- (4)の波: 図1と同じ波(実線)と、逆向き(x軸負の向き)に進む同じ波(破線)の重ね合わせ。
- (1) (a)周期、(b)位置iのy-tグラフ、(c)位置cのu-tグラフ。
- (2) (a)周期、(b)媒質の速さの最大値が、それぞれ図1の波の何倍か。
- (3) 最も密な点。
- (4) (a)合成波の波形、(b)媒質の速さが最も大きい点。
- (5) (a)d点の周期、(b)d点の変位の最大値、(c)g点の速さの最大値が、それぞれ図1の波の何倍か。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波のグラフの解釈」と「定常波」です。y-xグラフとy-tグラフの違いを明確に理解し、波の重ね合わせの原理を正しく適用することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本式: 波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の関係式 \(v=f\lambda\) と、振動数と周期\(T\)の関係式 \(f=1/T\) は、波の基本的な数値を計算する上で必須です。
- y-xグラフとy-tグラフ: y-xグラフは「ある瞬間の波の形(スナップ写真)」、y-tグラフは「ある一点の媒質の時間的な揺れ(単振動)」を表します。この2つのグラフの関係性を理解することが重要です。
- 媒質の単振動: 波が伝わる媒質の各点は、その場で単振動をしています。その速さの最大値は \(u_{max}=A\omega\)(Aは振幅、\(\omega\)は角振動数)で与えられます。
- 波の重ね合わせの原理と定常波: 複数の波が同じ場所に来たとき、その点の変位は各波の変位の和になります。特に、逆向きに進む同じ波が重なると、波形が進まない「定常波」ができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、波の基本式を用いて、周期や振動数を求めます。
- y-xグラフ上の波形をわずかに時間経過させる(平行移動させる)ことで、各点の媒質の運動方向を判断し、y-tグラフや速度u-tグラフを作成します。
- 定常波は、2つの進行波の変位を各点で足し合わせる(重ね合わせる)ことで作図します。
- 定常波の各点の振幅や最大速度は、その点が腹(最も大きく振動する点)か節(全く振動しない点)か、あるいはその中間かで判断します。
問(1)
思考の道筋とポイント
(a) 波の速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)の間の関係式を用いて、周期\(T\)を求めます。
(b) 位置iのy-tグラフを描くには、t=0での変位と、その直後の運動方向をy-xグラフから読み取ります。
(c) 位置cのu-tグラフを描くには、t=0での速度と、その直後の速度変化の向きを判断します。
この設問における重要なポイント
- (a) 波の基本公式 \(v=\lambda/T\) を正しく使うこと。
- (b,c) 「波形をわずかに進める」というテクニックを使って、媒質の運動方向を判断する。
- (c) 変位が最大の点で速度が0、変位が0の点で速度が最大になる単振動の性質を理解していること。
具体的な解説と立式
(a) 波の速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)の関係は、\(v = \lambda/T\) です。これを\(T\)について解くと、
$$T = \frac{\lambda}{v}$$
(b) 図1のy-xグラフで、波を少し右に進めると、位置iの媒質はy軸負の向きに変位します。t=0でy=0なので、y-tグラフは原点から始まり負の方向へ向かうサインカーブになります。
(c) 図1で、位置cは変位が最大の「山」なので、t=0での速度は0です。波を少し右に進めると、cの媒質はy軸負の向きに動き始めるので、t=0直後の速度は負になります。よって、u-tグラフは原点から始まり負の方向へ向かうサインカーブ(振幅U)になります。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(v=\lambda/T\)
(a)の計算は上記の通りです。
(b), (c)は作図問題のため、計算過程はありません。
(a) 波は、1周期(\(T\))の時間でちょうど1波長(\(\lambda\))分だけ進みます。この関係から、「速さ=距離÷時間」にあてはめて、\(v = \lambda / T\) という式を立て、周期\(T\)を求めます。
(b) 位置iにいる人の視点で、波が通り過ぎる様子を考えます。t=0の瞬間、変位はゼロです。波が右へ進むと、iのすぐ左にあった「谷」がやってくるので、iは下に動かされます。この動きを時間のグラフにします。
(c) 位置cは波の「山」のてっぺんにいます。てっぺんでは一瞬動きが止まるので、t=0での速度はゼロです。波が右へ進むと、山は下り坂になるので、cは下向きに動き始めます。この速度の時間変化をグラフにします。
(a) 周期は \(T = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\) です。
(b) y-tグラフは、振幅A、周期Tのマイナスサインカーブです。
(c) u-tグラフは、振幅U、周期Tのマイナスサインカーブです。
問(2)
思考の道筋とポイント
(a) (1a)と同様に、波の基本式 \(T = \lambda/v\) を用います。
(b) 媒質の速さの最大値 \(u_{max} = A\omega = A(2\pi/T)\) を用いて、元の波と新しい波でそれぞれ計算し、比をとります。
この設問における重要なポイント
- (a) 何が変化し、何が一定かを正確に読み取ること(\(\lambda’ = 2\lambda\), \(v’=v\))。
- (b) 振幅と周期の両方が変化していることに注意する。
具体的な解説と立式
(a) 新しい波の周期を\(T’\)、波長を\(\lambda’\)とします。速さは\(v\)で同じです。
$$T’ = \frac{\lambda’}{v}$$
(b) 図1の波の速さの最大値を\(U\)、振幅を\(A\)、周期を\(T\)とすると、
$$U = A\omega = A \frac{2\pi}{T}$$
新しい波の速さの最大値を\(U’\)、振幅を\(A’\)、周期を\(T’\)とすると、
$$U’ = A’\omega’ = A’ \frac{2\pi}{T’}$$
使用した物理公式
- 波の周期の公式: \(T = \lambda/v\)
- 単振動の速さの最大値: \(u_{max} = A\omega\)
(a) 与えられた条件 \(\lambda’ = 2\lambda\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T’ &= \frac{2\lambda}{v} \\[2.0ex]&= 2 \left(\frac{\lambda}{v}\right) \\[2.0ex]&= 2T
\end{aligned}
$$
よって、周期は図1の波の2倍です。
(b) 与えられた条件 \(A’=2A\) と、(a)で求めた \(T’=2T\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
U’ &= (2A) \frac{2\pi}{(2T)} \\[2.0ex]&= A \frac{2\pi}{T} \\[2.0ex]&= U
\end{aligned}
$$
よって、速さの最大値は図1の波の1倍です。
(a) 波の速さが同じなら、波長が2倍に伸びると、一つの波が通り過ぎるのにかかる時間(周期)も2倍になります。
(b) 媒質の揺れの速さの最大値は、「振幅」が大きく、「周期」が短いほど大きくなります。今回は、振幅が2倍になりましたが、周期も2倍に伸びてしまいました。振幅が大きくなった効果と、周期が長くなった(ゆっくり揺れるようになった)効果が打ち消しあい、結果的に速さの最大値は変わりません。
(a) 周期は2倍、(b) 速さの最大値は1倍(変わらない)です。これらは波の基本公式から導かれる妥当な結論です。
問(3)
思考の道筋とポイント
縦波を横波表示した場合、y軸の変位は、媒質のx軸方向の変位を表します。y>0 はx軸正方向への変位、y<0 はx軸負方向への変位を意味します。媒質が最も「密」になる点は、左右から媒質が集まってくる点です。これは、変位yのグラフの傾きが負で最も大きくなる点(最も急な下り坂の点)に相当します。
この設問における重要なポイント
- 縦波の横波表示の意味を正しく理解する。
- 「密」な点は、媒質の圧縮が最大になる点であり、y-xグラフで \(\frac{dy}{dx}\) が負で最小になる点である。
具体的な解説と立式
(図から判断するため、立式は省略)
媒質の密度が最大になる「密」な点は、y-xグラフの傾きが負で最も急になる点です。
- 点e: グラフは変位y=0を通り、傾きは負で最大です。点eの少し左側(d付近)ではy>0なので媒質は右に変位し、少し右側(f付近)ではy<0なので媒質は左に変位します。したがって、点eに媒質が集まり、最も密になります。
- 点a, i: グラフは変位y=0を通り、傾きは正で最大です。これは左右の媒質が離れていく点なので、最も「疎」な点になります。
- 点c, g: グラフの山と谷であり、傾きは0です。媒質の変位は最大ですが、密度は平均的な値になります。
したがって、最も密な点はeのみです。
このグラフを「媒質のズレ具合マップ」と考えます。yがプラスの場所は右に、マイナスの場所は左にズレています。点eを見ると、その左側は右にズレ、右側は左にズレています。つまり、eの場所にみんなが集まってきて、ぎゅうぎゅう詰め(密)になっています。逆に、点aやiでは、その場所から左右にみんなが離れていくので、スカスカ(疎)になります。
最も密な点はeです。これは縦波の性質を正しく解釈した結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
(a) 時刻t=0における合成波の波形を求めます。波の重ね合わせの原理により、各点xでの合成波の変位は、右に進む波(実線)の変位と、左に進む波(破線)の変位の和になります。
(b) 時刻t=0からわずかに時間が経過したときの合成波の様子を考え、媒質の速度が最も大きい点を求めます。定常波において、媒質の速さが最大になるのは「腹」の位置です。
この設問における重要なポイント
- (a) 波の重ね合わせの原理を適用する。
- (b) 定常波の「腹」の位置で、媒質の速さは最大になる。
具体的な解説と立式
(a) 図4を見ると、時刻t=0において、任意の位置xで実線の波の変位を\(y_1\)とすると、破線の波の変位\(y_2\)はちょうど\(-y_1\)になっています(逆位相)。
したがって、合成波の変位\(y\)は、
$$y = y_1 + y_2 = y_1 + (-y_1) = 0$$
これはすべての点xで成り立ちます。
(b) 時刻t=0からわずかに時間が経過したときを考えます。
- 実線の波は右に少し進みます。
- 破線の波は左に少し進みます。
この2つのずれた波を重ね合わせます。
- 位置a, e, i: 常に変位が0のままです。これらは「節」になります。
- 位置c, g: 2つの波の谷と谷が重なり、大きな負の変位を生じます。これらは「腹」になります。
媒質の速さが最も大きいのは腹の位置なので、cとgが該当します。
(a) 2つの波を足し算します。図4をよく見ると、t=0の瞬間は、実線の「山」と破線の「谷」が、実線の「谷」と破線の「山」がぴったり重なっています。つまり、すべての場所でプラスの変位とマイナスの変位が打ち消しあっているので、合成した波の変位はどこでもゼロになります。
(b) t=0ではすべての点が止まっていますが、次の瞬間に一番大きく動く点が、速さが最大になる点です。波を少し動かしてみると、cとgの点が一番大きく下に動くことがわかります。これらの点が、定常波の「お腹(腹)」にあたる部分です。
(a) 合成波は、すべての点で変位が0の直線となります。
(b) 媒質の速さが最も大きい点は、腹であるcとgです。
問(5)
思考の道筋とポイント
(a) 定常波を構成する各点の媒質は、元の進行波と同じ周期で単振動します。
(b) 定常波の振幅は場所によって異なります。腹の振幅は\(2A\)、節の振幅は0です。位置dは、腹cと節eの中間点です。
(c) 位置gは腹なので、その振幅は\(2A\)です。媒質の速さの最大値は \(u_{max} = (\text{振幅}) \times \omega\) で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 定常波の周期は、成分となる進行波の周期に等しい。
- 定常波の振幅は \(A(x) = 2A|\sin(kx)|\) または \(2A|\cos(kx)|\) の形になる。
- 腹と節の間隔は \(\lambda/4\) である。
具体的な解説と立式
(a) 定常波の周期\(T_{定常波}\)と、元の進行波の周期\(T_{進行波}\)の関係は、
$$T_{定常波} = T_{進行波}$$
よって、周期は図1の波の1倍です。
(b) 定常波の腹cと節eの間隔は \(\lambda/4\) です。dはcとeの中点なので、cからの距離は \(\lambda/8\) です。腹cを原点(\(x=0\))とすると、定常波の振幅の式は \(A(x) = 2A|\cos(kx)|\) と書けます(\(k=2\pi/\lambda\))。d点の振幅\(A_d\)は、
$$A_d = 2A \left|\cos\left(\frac{2\pi}{\lambda} \cdot \frac{\lambda}{8}\right)\right|$$
(c) 位置gは腹なので、その振幅は\(2A\)です。図1の波の速さの最大値\(U\)は \(U = A\omega\)、位置gでの速さの最大値\(U_g\)は、
$$U_g = (2A)\omega$$
使用した物理公式
- 単振動の速さの最大値: \(u_{max} = A\omega\)
(b)
$$
\begin{aligned}
A_d &= 2A \left|\cos\left(\frac{\pi}{4}\right)\right| \\[2.0ex]&= 2A \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]&= \sqrt{2}A
\end{aligned}
$$
よって、変位の最大値は図1の波の振幅の\(\sqrt{2}\)倍です。
(c)
$$
\begin{aligned}
U_g &= (2A)\omega \\[2.0ex]&= 2(A\omega) \\[2.0ex]&= 2U
\end{aligned}
$$
よって、速さの最大値は図1の波の2倍です。
(a) 定常波はその場での上下運動のペース(周期)は、元になった波が持っていたペースと同じです。
(b) 定常波の揺れの大きさは場所によって違います。腹であるcでは\(2A\)、節であるeでは0です。dはそのちょうど中間の場所なので、揺れの大きさもその間の値になります。三角関数を使って正確に計算すると、\(\sqrt{2}A\)となります。
(c) 位置gは定常波の「腹」なので、最も激しく振動します。その振幅は元の波の2倍の\(2A\)です。振動のペース(周期)は同じなので、振幅が2倍になった分だけ、速さの最大値も2倍になります。
(a)周期は1倍、(b)d点の変位の最大値は\(\sqrt{2}\)倍、(c)g点の速さの最大値は2倍となります。これらは定常波の性質から導かれる妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本関係式:
- 核心: 波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間の関係式 \(v=f\lambda\) と、振動数と周期\(T\)の関係式 \(f=1/T\) は、波の性質を議論する上での出発点です。これらを組み合わせた \(v=\lambda/T\) は頻繁に利用されます。
- 理解のポイント: これらの式は、波が1周期(\(T\))の間に1波長(\(\lambda\))進むという、波の運動の定義そのものから導かれます。意味を理解して覚えておくことが重要です。
- y-xグラフとy-tグラフの解釈と変換:
- 核心: y-xグラフは「ある瞬間の波形のスナップショット」、y-tグラフは「ある一点の媒質の時間変化」を表します。この2つのグラフは異なる物理的状況を描写しており、その関係性を理解することが不可欠です。
- 理解のポイント: y-xグラフから特定の点のy-tグラフを作成するには、「波形をわずかに進行方向にずらす」というテクニックが極めて有効です。これにより、その点の媒質の初動(上に動くか、下に動くか)がわかり、y-tグラフの形(サイン型かコサイン型か、符号はプラスかマイナスか)を決定できます。
- 媒質の単振動と速度:
- 核心: 波が伝わる媒質の各点は、その場で単振動を行っています。その速さは、変位が0の振動中心で最大となり、変位が最大の端(山や谷)で0になります。
- 理解のポイント: 媒質の速さの最大値は \(u_{max} = A\omega = A(2\pi/T)\) で与えられます。これは、波の伝播速度\(v\)とは全く別の物理量であることに注意が必要です。\(v\)は波形そのものが進む速さ、\(u\)は媒質がその場で振動する速さです。
- 波の重ね合わせと定常波:
- 核心: 複数の波が重なるとき、各点の変位はそれぞれの波の変位のベクトル和になります(重ね合わせの原理)。特に、逆向きに進む同じ波が重なると、波形が進んで見えない「定常波」が形成されます。
- 理解のポイント: 定常波には、全く振動しない「節」と、最も大きく振動する「腹」が交互に現れます。腹の振幅は元の波の2倍(\(2A\))、節の振幅は0になります。定常波の周期は、元の進行波の周期と同じです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 開端・閉端反射: 弦の端や管の端で波が反射する問題。固定端(閉端)では反射波の位相が反転し、自由端(開端)では位相が反転しません。この反射波と入射波の重ね合わせで定常波ができます。
- うなり: 振動数がわずかに異なる2つの波を重ね合わせると、振幅が周期的に大きくなったり小さくなったりする「うなり」が生じます。これも波の重ね合わせの一例です。
- ドップラー効果: 音源や観測者が動くことで、観測される振動数が変化する現象。波の基本的な性質を理解した上で、相対速度を考慮する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: まず、与えられたグラフがy-xグラフなのかy-tグラフなのかを必ず確認します。これが全ての解釈の基本です。
- 波の進行方向を把握する: 波がどちらに進んでいるかによって、媒質の運動方向が変わります。問題文や図から進行方向を正確に読み取ります。
- 「波形をずらす」テクニックを思い出す: 媒質の運動方向がわからないときは、まずこの方法を試しましょう。ほんの少しだけ波形を進行方向に平行移動させ、各点のy座標の変化を見るだけで、運動の向きが判断できます。
- 定常波か進行波かを見極める: 問題が定常波を扱っている場合、「節」と「腹」というキーワードが重要になります。振幅や速さが場所によって異なることに注意して考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- y-xグラフとy-tグラフの混同:
- 誤解: y-xグラフの形をそのままy-tグラフとして描いてしまう。あるいは、y-xグラフの横軸を時間だと勘違いする。
- 対策: グラフの軸のラベル(xかtか)を指差し確認する習慣をつけましょう。「y-xはスナップ写真」「y-tは定点観測」と、その物理的意味を常に意識することが根本的な対策です。
- 波の速さ\(v\)と媒質の速さ\(u\)の混同:
- 誤解: 媒質の速さを問われているのに、波の伝播速度\(v\)を答えてしまう。
- 対策: 「波の速さ」と「媒質の速さ」は全くの別物であることを明確に区別しましょう。前者は波形が進む速さで通常は一定、後者は媒質が単振動する速さで時間とともに変化します。
- 定常波の振幅の誤解:
- 誤解: 定常波の振幅はどこでも同じだと考えてしまう。あるいは、腹の振幅を元の波と同じ\(A\)だと勘違いする。
- 対策: 定常波は「場所によって振幅が異なる波」と定義を覚えましょう。腹の振幅は\(2A\)、節の振幅は0です。中間点はその間の値をとります。
- 縦波の横波表示の解釈ミス:
- 誤解: (3)で、y>0の点を「山」、y<0の点を「谷」と解釈し、密な点を間違える。
- 対策: 縦波の横波表示では、y軸の変位は「本来の進行方向(x軸方向)へのズレ」を表していることを思い出しましょう。「密」は媒質が集まる点であり、y-xグラフの傾きが負で最大になる点(y=0で下り坂の点)に対応します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波形の平行移動: y-xグラフ上に、元の波形(実線)と、それをわずかに進行方向にずらした波形(点線)を重ねて描くことは、媒質の運動方向を判断する上で最も強力な図解テクニックです。
- 重ね合わせの作図: (4a)のように2つの波を重ね合わせる際は、いくつかの代表的なx座標(a, b, c, …)を選び、それぞれの点で2つの波のy座標を足し算してプロットし、それらを滑らかに結ぶことで合成波の概形を描くことができます。
- 媒質の振動のベクトル表示: 各点の媒質の速度を、その点から出る上下の矢印(ベクトル)で表現すると、振動の様子が視覚的にわかりやすくなります。振動中心で矢印が最も長く、端で長さが0になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 軸のラベルと単位: 自分でグラフを描く際は、必ず縦軸と横軸に物理量(y, t, x, uなど)を明記しましょう。
- 特徴的な点の明記: 振幅\(A\)、周期\(T\)、波長\(\lambda\)など、グラフのスケールを決める重要な値を書き込むことで、グラフの意味が明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(T = \lambda/v\):
- 選定理由: 波の3つの基本量(速さ、波長、周期)のうち2つが分かっていて、残りの1つを求めたい場合に用いる最も基本的な関係式だからです。
- 適用根拠: 波の運動の定義そのもの。
- \(u_{max} = A\omega\):
- 選定理由: 「媒質の速さの最大値」を問われた場合に用いる、単振動の運動学的な公式です。
- 適用根拠: 変位が \(y=A\sin(\omega t)\) と表される単振動において、速度は \(u = dy/dt = A\omega\cos(\omega t)\) となり、その最大値が\(A\omega\)であることから導かれます。
- 重ね合わせの原理:
- 選定理由: (4)のように、複数の波が同時に存在するときの振る舞いを問われた場合に適用する基本原理です。
- 適用根拠: 波動方程式が線形微分方程式であり、解の線形結合もまた解となるという数学的な性質に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 基本的な波の分析:
- (a) 周期: \(T=\lambda/v\) の公式一発。
- (b) y-tグラフ: ①t=0のy座標を図から読む。②波形をずらして初動の向きを判断。③単振動グラフを描く。
- (c) u-tグラフ: ①t=0のy座標から初速を判断(端なら0)。②波形をずらして初動の向き(速度の符号)を判断。③速度の単振動グラフを描く。
- (2) パラメータ変更時の影響:
- (a) 周期: \(T’=\lambda’/v\) に \(\lambda’=2\lambda\) を代入。
- (b) 最大速度: \(U’=A’\omega’ = A'(2\pi/T’)\) に \(A’=2A, T’=2T\) を代入し、元の\(U\)と比較。
- (3) 縦波の解釈:
- 戦略: y>0は右へのズレ、y<0は左へのズレと解釈し、左右から媒質が集まる点(y=0で傾きが負の点)を探す。
- (4) 定常波の形成:
- (a) 合成波の作図: 各点で実線と破線のy座標を足し算する。
- (b) 速さが最大の点: ①波形をずらして腹と節を特定。②速さが最大になるのは腹。
- (5) 定常波の性質:
- (a) 周期: 進行波と同じ。
- (b) d点の振幅: 腹cと節eの中点であることから、三角関数を用いて振幅を計算 (\(2A\cos(\pi/4)\))。
- (c) g点の最大速度: g点は腹なので振幅は\(2A\)。\(u_{max} = (2A)\omega\) を計算し、元の\(U=A\omega\)と比較。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の計算: (2)や(5)のように「何倍か」を問う問題では、変化後の量を変化前の量で割る、という計算をすると間違いが少ないです。例: \(\frac{U’}{U} = \frac{A'(2\pi/T’)}{A(2\pi/T)} = \frac{A’}{A}\frac{T}{T’}\)。
- 三角関数の値: (5b)のように三角関数の値が必要になる場合があります。\(\cos(\pi/4)=1/\sqrt{2}\) などの基本的な値は正確に覚えておきましょう。
- 図の丁寧な読解: この問題は計算よりも図の読解が中心です。グラフの1目盛りが何を表すか、どの点がどの物理的状況に対応するかを、焦らず丁寧に確認することが最も重要です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1b, 1c) グラフの位相: y-tグラフとu-tグラフの間に\(\pi/2\)の位相のズレがあるかを確認します。変位が0のとき速度が最大、変位が最大のとき速度が0、という関係が成り立っていれば妥当です。
- (2b) 最大速度: 振幅が2倍、周期が2倍になったとき、最大速度が変わらないという結果は直感に反するかもしれませんが、\(u_{max} \propto A/T\) という関係から論理的に導かれた正しい結論です。直感とずれる場合は、その理由を式から考察する良い機会です。
- (5b) 振幅: d点の振幅が\(\sqrt{2}A \approx 1.41A\) となり、腹の\(2A\)と節の0の間の妥当な値になっていることを確認します。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- (5b)で、もしd点が腹cに近づけば振幅は\(2A\)に、節eに近づけば0に近づくはずです。式がそのようになっているかを確認するのも良い検証方法です。
問題79 (神戸大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、正弦波の式表現と、固定端反射によって生じる定常波(定在波)の性質を数式を用いて解析する問題です。波の式を立て、三角関数の公式を駆使して物理現象を説明する能力が問われます。
- 入射波: x軸正の向きに速さ\(v\)で進む連続波。
- 原点Oの振動: \(y = A\sin\frac{2\pi}{T}t\)。振幅\(A\)、周期\(T\)。
- 反射: 位置\(x=L\)で固定端反射。減衰は無視。
- 公式: 和積の公式 \(\sin\alpha\pm\sin\beta=2\sin\frac{\alpha\pm\beta}{2}\cos\frac{\alpha\mp\beta}{2}\)が利用可能。
- (1) 振動数\(f\)と波長\(\lambda\)を\(v, T\)で表す。
- (2) 入射波の式を\(x, t\)の関数として表す。
- (3) 反射波の式を\(x, t\)の関数として表す。
- (4) 入射波と反射波の重ね合わせで定常波ができることを式で説明する。
- (5) \(L=\frac{5}{4}\lambda\)のとき、定常波が最大振幅になる瞬間の波形を描く。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波の式による表現」と「定常波の導出」です。物理現象を正確に数式に翻訳し、数学的な変形によってその性質を明らかにしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本式: 波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)の間の基本的な関係式を正しく理解し、適用することが求められます。
- 進行波の式表現: ある点(原点)の振動の様子が、時間差をもって他の点に伝播していく様子を、\(y(x,t)\)という形で数式に表現する能力が問われます。
- 固定端反射: 固定端で波が反射する際に、位相が\(\pi\)ずれる(波形の上下が反転する)という物理現象を、数式に正しく反映させる必要があります。
- 波の重ね合わせと定常波: 2つの波が重なるとき、変位は単純な和で表されます(重ね合わせの原理)。特に入射波と反射波が重なると、波形が進行しない定常波が生まれることを、和積の公式を用いて証明します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、波の基本的なパラメータである振動数と波長を、与えられた量で表現します。
- 次に、原点の振動が位置\(x\)に伝わるまでの「時間の遅れ」を考慮して、入射波の式を立てます。
- 固定端反射の条件(経路差と位相の反転)を考慮して、反射波の式を立てます。
- 入射波と反射波の式を足し合わせ、三角関数の和積の公式を用いて変形し、その式が定常波を表すことを説明します。
- 最後に、与えられた特定の条件下で、定常波の振幅が最大となる瞬間の波形を描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
振動数\(f\)と周期\(T\)、および波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間の基本的な関係式を用います。
この設問における重要なポイント
- 振動数と周期は逆数の関係にあること。
- 波の速さ、振動数、波長の基本的な関係式を理解していること。
具体的な解説と立式
振動数\(f\)と周期\(T\)の関係は、
$$f = \frac{1}{T}$$
波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の関係は、
$$v = f\lambda$$
使用した物理公式
- 振動数と周期の関係: \(f=1/T\)
- 波の基本式: \(v=f\lambda\)
\(f\)は上記の通りです。次に、\(v=f\lambda\)を\(\lambda\)について解き、\(f=1/T\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{v}{f} \\[2.0ex]&= vT
\end{aligned}
$$
振動数は、1秒あたりの振動回数なので、1回の振動にかかる時間(周期)の逆数になります。また、波は1周期の間に1波長進むので、「距離=速さ×時間」の関係から、波長は「速さ×周期」で計算できます。
振動数は \(f=\displaystyle\frac{1}{T}\)、波長は \(\lambda=vT\) となります。これらは波の最も基本的な関係式です。
問(2)
思考の道筋とポイント
x軸の正の向きに進む波において、位置\(x\)での振動は、原点O(\(x=0\))での振動が時間\(t_d = x/v\)だけ遅れて伝わったものです。したがって、時刻\(t\)における位置\(x\)での変位は、時刻\(t-x/v\)における原点での変位に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 波の伝播による「時間の遅れ」を正しく式に反映させること。
具体的な解説と立式
原点Oでの変位の式は、
$$y(0, t) = A\sin\frac{2\pi}{T}t$$
位置\(x\)での変位\(y_1(x,t)\)は、原点の振動が時間\(x/v\)だけ遅れたものなので、上の式の\(t\)を\(t-x/v\)に置き換えることで得られます。
$$y_1(x,t) = A\sin\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{x}{v}\right)$$
使用した物理公式
- 波の式表現の考え方
上記の立式がそのまま答えとなります。
原点で起きた揺れ(例えば、時刻0に始まった揺れ)が、位置\(x\)に届くには、\(x/v\)秒かかります。つまり、位置\(x\)での揺れは、常に原点より\(x/v\)秒だけ遅れています。この「時間の遅れ」を、原点の時刻の式から差し引くことで表現します。
入射波の式は \(y_1 = A\sin\displaystyle\frac{2\pi}{T}(t – \frac{x}{v})\) となります。これはx軸正方向に進む正弦波の標準的な式表現であり、妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
反射波の式を立てます。反射波は、(A)原点Oから固定端\(x=L\)まで進み、(B)固定端で反射し、(C)位置\(x\)まで戻ってきた波です。
(A)と(C)で波が進んだ距離は \(L + (L-x) = 2L-x\) です。この距離を進むのにかかる時間は \((2L-x)/v\) です。
(B)固定端反射では、位相が\(\pi\)ずれます。これは、波の式の振幅の符号を反転させる(-1倍する)ことに相当します。
この設問における重要なポイント
- 反射波の伝播経路を正しく考えること。
- 固定端反射による位相のずれ(\(\pi\)の加算、または振幅の反転)を式に反映させること。
具体的な解説と立式
反射波\(y_2(x,t)\)は、原点の振動が時間\(\frac{2L-x}{v}\)だけ遅れて伝わり、さらに位相が\(\pi\)ずれたものと考えられます。
したがって、原点の変位の式 \(y(0,t)\) の\(t\)を\(t – \frac{2L-x}{v}\)に置き換え、さらに位相に\(\pi\)を加えます。
$$y_2(x,t) = A\sin\left\{\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{2L-x}{v}\right) + \pi\right\}$$
三角関数の性質 \(\sin(\theta+\pi) = -\sin\theta\) を用いると、
$$y_2(x,t) = -A\sin\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{2L-x}{v}\right)$$
使用した物理公式
- 固定端反射の条件(位相が\(\pi\)ずれる)
- 三角関数の公式: \(\sin(\theta+\pi)=-\sin\theta\)
上記の立式がそのまま答えとなります。
反射波は、いわば「こだま」のようなものです。原点を出た波が、\(x=L\)の壁にぶつかって跳ね返り、位置\(x\)に届くまでの全移動距離は\(2L-x\)です。この距離を進む時間だけ、原点の揺れから遅れます。さらに、固定された壁で跳ね返るため、波の形は上下逆さまになります。この2つの効果を式に組み込みます。
反射波の式は \(y_2 = -A\sin\displaystyle\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{2L-x}{v}\right)\) となります。これは固定端反射波の正しい表現です。
問(4)
思考の道筋とポイント
入射波\(y_1\)と反射波\(y_2\)の重ね合わせによってできる合成波\(y = y_1 + y_2\)を計算します。その際、三角関数の和積の公式 \(\sin\alpha – \sin\beta = 2\cos\frac{\alpha+\beta}{2}\sin\frac{\alpha-\beta}{2}\) を用いて式を変形し、その式が定常波の性質を持つことを説明します。
この設問における重要なポイント
- 波の重ね合わせの原理 \(y = y_1 + y_2\)。
- 和積の公式を正しく適用すること。
- 変形後の式が「xのみに依存する振幅項」と「tのみに依存する振動項」の積で表されることを示す。
具体的な解説と立式
合成波の変位\(y\)は、
$$
\begin{aligned}
y &= y_1 + y_2 \\[2.0ex]&= A\sin\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{x}{v}\right) – A\sin\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{2L-x}{v}\right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\alpha = \frac{2\pi}{T}(t – \frac{x}{v})\), \(\beta = \frac{2\pi}{T}(t – \frac{2L-x}{v})\) とおくと、
$$y = A(\sin\alpha – \sin\beta)$$
和積の公式を適用します。
使用した物理公式
- 重ね合わせの原理
- 和積の公式: \(\sin\alpha – \sin\beta = 2\cos\frac{\alpha+\beta}{2}\sin\frac{\alpha-\beta}{2}\)
\(\frac{\alpha+\beta}{2}\) と \(\frac{\alpha-\beta}{2}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\alpha+\beta}{2} &= \frac{1}{2} \left\{ \frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{x}{v}\right) + \frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{2L-x}{v}\right) \right\} \\[2.0ex]&= \frac{\pi}{T} \left( 2t – \frac{x+2L-x}{v} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{L}{v}\right)
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\frac{\alpha-\beta}{2} &= \frac{1}{2} \left\{ \frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{x}{v}\right) – \frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{2L-x}{v}\right) \right\} \\[2.0ex]&= \frac{\pi}{T} \left( -\frac{x}{v} + \frac{2L-x}{v} \right) \\[2.0ex]&= \frac{\pi}{T} \frac{2L-2x}{v} \\[2.0ex]&= \frac{2\pi(L-x)}{vT}
\end{aligned}
$$
これらを和積の公式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
y &= A \cdot 2\cos\left\{\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{L}{v}\right)\right\} \sin\left\{\frac{2\pi(L-x)}{vT}\right\} \\[2.0ex]&= \left\{ 2A\sin\frac{2\pi(L-x)}{vT} \right\} \cos\left\{\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{L}{v}\right)\right\}
\end{aligned}
$$
この式は、\(\{ \dots \}\)で囲まれた部分が場所\(x\)だけで決まる振幅項、\(\cos(\dots)\)が時間\(t\)だけで決まる振動項となっています。波の形(\(x\)の関数)と時間変化(\(t\)の関数)が分離されているため、波形は進行せず、その場で振動する定常波を表します。
2つの進行波の式を足し算します。すると、三角関数の不思議な性質(和積の公式)によって、式が「場所\(x\)で決まる部分」と「時間\(t\)で決まる部分」の掛け算の形にきれいに変形できます。これは、各場所の揺れの大きさ(振幅)は決まっていて、すべての点が同じタイミングで揺れることを意味します。波形が移動する項が消えるため、これが定常波です。
合成波の式は \(y = \left\{ 2A\sin\frac{2\pi(L-x)}{vT} \right\} \cos\left\{\frac{2\pi}{T}\left(t – \frac{L}{v}\right)\right\}\) となり、振幅が場所\(x\)によって決まる定常波の式となっています。
問(5)
思考の道筋とポイント
定常波が最大振幅になるときは、(4)で求めた式の振動項 \(\cos(\dots)\) が \(\pm 1\) になるときです。このときの波形は、振幅項 \(y = \pm 2A\sin\frac{2\pi(L-x)}{vT}\) そのものになります。このグラフの概略を、与えられた条件 \(L=\frac{5}{4}\lambda\) と \(\lambda=vT\) を用いて描きます。
この設問における重要なポイント
- 定常波の振幅が最大になる条件を理解すること。
- 与えられた条件を振幅の式に代入し、グラフの形を特定すること。
- 腹(振幅が\(2A\))と節(振幅が0)の位置を求めること。
具体的な解説と立式
定常波が最大振幅になるときの波形は、
$$y = \pm 2A\sin\frac{2\pi(L-x)}{vT}$$
ここに、\(\lambda=vT\) と \(L=\frac{5}{4}\lambda\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= \pm 2A\sin\frac{2\pi(L-x)}{\lambda} \\[2.0ex]&= \pm 2A\sin\left\{\frac{2\pi}{\lambda}\left(\frac{5}{4}\lambda – x\right)\right\} \\[2.0ex]&= \pm 2A\sin\left(\frac{5\pi}{2} – \frac{2\pi x}{\lambda}\right)
\end{aligned}
$$
三角関数の公式 \(\sin(\frac{5\pi}{2}-\theta) = \sin(2\pi + \frac{\pi}{2}-\theta) = \sin(\frac{\pi}{2}-\theta) = \cos\theta\) を用いると、
$$y = \pm 2A\cos\left(\frac{2\pi x}{\lambda}\right)$$
このグラフを \(0 \le x \le L = \frac{5}{4}\lambda\) の範囲で描きます。
定常波が一番大きく揺れた瞬間の形を描きます。その形は、(4)で求めた式の「振幅」部分のグラフそのものです。与えられた条件を代入して式を簡単にすると、今回はきれいなコサインカーブの形になります。このコサインカーブを、\(x=0\)から\(x=L\)まで描きます。
描かれる波形は、\(y = \pm 2A\cos(\frac{2\pi x}{\lambda})\) です。
- \(x=0\) (自由端相当) で腹(振幅\(2A\))。
- \(x=L=\frac{5}{4}\lambda\) (固定端) で節(振幅0)。
- 節の位置は \(x=\lambda/4, 3\lambda/4, 5\lambda/4\)。
- 腹の位置は \(x=0, \lambda/2, \lambda\)。
これらの物理的な条件を満たすグラフが描かれます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 進行波の式表現:
- 核心: 波の式は、ある基準点(例: 原点O)での振動の様子 \(y(0,t)\) が、空間の各点\(x\)に時間差をもって伝わる様子を表現したものです。x軸正の向きに進む波の場合、位置\(x\)での振動は原点より時間\(x/v\)だけ遅れるため、\(y(x,t) = y(0, t-x/v)\) となります。
- 理解のポイント: この「時刻\(t\)を \(t-x/v\) に置き換える」という操作は、進行波の式を立てる上での最も基本的な考え方です。逆向き(負の向き)に進む場合は \(t+x/v\) となります。
- 固定端反射の数式表現:
- 核心: 固定端(\(x=L\))で波が反射すると、波の変位の上下が反転します。これは物理的には「位相が\(\pi\)ずれる」と表現され、数式上では「波の式全体を-1倍する」または「sinの中身に\(\pi\)を足す」ことで表現できます。
- 理解のポイント: 反射波の式を立てる際は、①伝播経路(原点→L→x)を考えて時間の遅れを計算し、②固定端反射の条件(-1倍)を適用する、という2段階のプロセスを確実に踏むことが重要です。
- 重ね合わせの原理と定常波の証明:
- 核心: 入射波と反射波が重なると、合成波の変位は単純な和 \(y = y_1 + y_2\) で与えられます。この和を三角関数の和積公式で変形すると、「場所\(x\)のみに依存する振幅項」と「時間\(t\)のみに依存する振動項」の積の形に変形できます。
- 理解のポイント: \(y(x,t) = f(x)g(t)\) という形は、波形\(f(x)\)が時間的に進行せず、その場で振幅を変えながら振動することを示しており、これが「定常波」であることの数学的な証明になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 自由端反射: 反射端が自由に動ける場合(自由端)、反射時に位相はずれません(振幅は-1倍されない)。この場合、反射波の式は \(y_2 = +A\sin\{\dots\}\) となり、和積公式も \(\sin\alpha+\sin\beta\) を使うことになります。結果として、固定端だった位置が腹、節だった位置が腹になります。
- 音波の気柱共鳴: 管の中の音波が閉端(固定端相当)や開端(自由端相当)で反射し、定常波ができる現象。考え方は本問と全く同じです。
- 光波の干渉(薄膜など): 屈折率の異なる媒質の境界で光が反射する際、屈折率が大きい媒質との境界では位相が\(\pi\)ずれます(固定端反射相当)。この位相のずれを考慮して、干渉条件(強め合うか弱め合うか)を考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準となる振動を特定する: まず、問題で与えられている基準の振動(この問題では原点Oの \(y=A\sin(2\pi t/T)\))を正確に把握します。
- 波の伝播経路を考える: 求めたい波(入射波、反射波)が、基準点からどのような経路をたどって観測点に到達するかを図で考え、伝播距離と時間の遅れを計算します。
- 反射条件を確認する: 反射がある場合は、その端が「固定端」か「自由端」かを確認し、位相のずれ(\(\pi\)ずれるか、ずれないか)を判断します。
- 数式変形の目的を意識する: (4)のように式変形を求められた場合、なぜその変形が必要なのか(この場合は定常波であることを示すため)を考えると、どの公式を使えばよいかが見えやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反射波の経路の誤り:
- 誤解: 反射波が位置\(x\)に到達するまでの距離を、単純に\(L-x\)や\(L+x\)などと勘違いしてしまう。
- 対策: 必ず図を描き、波が「原点O \(\rightarrow\) 固定端L \(\rightarrow\) 位置x」と進むことを確認しましょう。全経路長は \(L+(L-x)=2L-x\) となります。
- 固定端反射の条件の適用ミス:
- 誤解: 位相が\(\pi\)ずれることを忘れたり、-1倍するのを忘れたりする。
- 対策: 「固定端反射=上下反転」とイメージで覚え、式の振幅の前にマイナス符号をつけることを習慣にしましょう。
- 和積の公式の選択ミス:
- 誤解: \(\sin\alpha – \sin\beta\) を計算すべきところで、\(\sin\alpha + \sin\beta\) の公式を誤って適用してしまう。
- 対策: 入射波と反射波の式を並べて書き、符号をよく確認してから適切な和積公式を選びましょう。
- 定常波の波形の誤解:
- 誤解: (5)で、定常波の振幅が最大になるときの波形を、振幅\(A\)の波だと勘違いする。
- 対策: 定常波の振幅は場所によって異なり、腹では\(2A\)になることを思い出しましょう。最大振幅の波形は、振幅\(2A\)の三角関数で描かれます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波の経路図: (3)で反射波の経路を考える際に、x軸上にO, x, Lをプロットし、波が進む道のりを矢印で「O→L→x」と描くと、距離が\(L+(L-x)\)であることが視覚的に理解できます。
- 定常波の腹と節のプロット: (5)の作図では、まず節と腹の位置を特定することが有効です。固定端\(x=L\)は必ず節になります。節と節の間隔は\(\lambda/2\)なので、\(x=L-\lambda/2, L-\lambda, \dots\) の位置も節になります。腹は節と節の中間にできます。これらの点を先にプロットしてから、それらを通るように振幅\(2A\)の三角関数を描くと、正確な概略図が描けます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 境界条件の確認: 作図した定常波が、境界条件(\(x=L\)で変位が常に0)を満たしているかを最後に確認しましょう。
- 波長のスケール感: \(L=\frac{5}{4}\lambda\) という条件から、区間[0, L]に1波長と1/4波長が含まれることを意識して描くと、腹や節の個数が正しく描けます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波の式 \(y(x,t) = f(t-x/v)\):
- 選定理由: ある点の振動が他の点に伝播する様子を、一つの式で表現する必要があるため。
- 適用根拠: 波の定義そのもの。位置\(x\)での現象は、原点での現象が時間\(x/v\)だけ遅れて生じるという因果関係に基づきます。
- 固定端反射の条件 (\(y \rightarrow -y\)):
- 選定理由: 反射という物理現象を数式に反映させるため。
- 適用根拠: 固定端では、入射波による上向きの変位と反射波による下向きの変位が常に打ち消しあい、合成波の変位が0にならなければならない、という力学的な要請に基づきます。
- 和積の公式:
- 選定理由: (4)で「定常波ができることを示せ」という要求に答えるため。2つのsin波の和を、「空間部分」と「時間部分」の積の形に変形できる唯一のツールだからです。
- 適用根拠: 三角関数の加法定理から導かれる数学的な恒等式。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 基本パラメータ:
- 戦略: 波の基本公式を適用する。
- フロー: \(f=1/T\), \(\lambda=vT\)。
- (2) 入射波の式:
- 戦略: 原点の振動が時間\(x/v\)だけ遅れて伝わる、と考える。
- フロー: \(y(0,t)\) の \(t\) を \(t-x/v\) に置き換える。
- (3) 反射波の式:
- 戦略: ①伝播経路(O→L→x)から時間の遅れ \((2L-x)/v\) を計算。②固定端反射で-1倍する。
- フロー: \(y(0,t)\) の \(t\) を \(t-(2L-x)/v\) に置き換え、式全体にマイナスをつける。
- (4) 定常波の証明:
- 戦略: ①\(y=y_1+y_2\)を計算。②和積の公式で変形。③式が \(f(x)g(t)\) の形になることを説明。
- フロー: \(\sin\alpha-\sin\beta\) の公式を適用し、空間の項と時間の項に分離する。
- (5) 定常波の作図:
- 戦略: ①定常波の振幅が最大になる条件(振動項=±1)を考える。②そのときの波形の式に \(L=5\lambda/4\) を代入して簡単にする。③グラフを描く。
- フロー: \(y=\pm 2A\sin(\dots)\) の式に条件を代入し、\(y=\pm 2A\cos(2\pi x/\lambda)\) を導き、作図する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 引数の整理: \(\sin\)や\(\cos\)の中身(引数)が複雑になるので、計算用紙に大きく書き出し、分配法則や通分を丁寧に行いましょう。特に(4)の和積公式の適用では、\(\alpha+\beta\)と\(\alpha-\beta\)の計算が鍵となります。
- 三角関数の公式の確認: 和積の公式や、\(\sin(\theta+\pi)=-\sin\theta\), \(\sin(\pi/2-\theta)=\cos\theta\) といった公式は、うろ覚えだと間違いのもとです。自信がなければ、加法定理から素早く導出できるようにしておくと安全です。
- 物理量と変数の区別: \(A, T, v, L\) は定数(パラメータ)、\(x, t\) は変数です。式変形の際に、どれが定数でどれが変数かを意識すると、見通しが良くなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 反射波の式: \(x=L\)を代入すると、\(y_2 = -A\sin\frac{2\pi}{T}(t-L/v)\) となります。一方、(2)の入射波の式に\(x=L\)を代入すると \(y_1 = A\sin\frac{2\pi}{T}(t-L/v)\) となり、\(y_1+y_2=0\) が常に成立することがわかります。これは固定端(変位が常に0)の条件を満たしており、式の妥当性を裏付けます。
- (4) 定常波の式: \(x=L\)を代入すると、振幅項の\(\sin\)の中身が0になるため、振幅は常に0になります。これも固定端の条件と一致します。
- (5) 作図結果: 作図した波形が、\(x=L\)で節(変位0)になっているか、腹の間隔が\(\lambda/2\)になっているかなど、定常波の一般的な性質と矛盾がないかを確認します。
問題80 (千葉工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、円形波の反射と干渉、そしてドップラー効果を組み合わせた総合問題です。反射波を虚像波源からの波とみなして干渉の問題として扱うこと、そして波源が動く場合のドップラー効果を正しく理解することが求められます。
- 波源: 点O。振動数\(f=5.0\)Hz。
- 反射面: Oから3.0m離れた直線状の器壁。
- 反射の条件: 自由端反射(振幅・位相は変わらない)。
- 観測点: P(Oから8.0m)。半直線L(OP)上。
- 干渉の条件: Pは弱めあう点(節)。Pより遠くに節は2点のみ。
- ドップラー効果: 波源がOからPへ速さ1.0m/sで動く。
- (1) ある瞬間の波面の様子。
- (2) 弱めあう条件式。
- (3) P点が対応する節の番号n。
- (4) 波長\(\lambda\)。
- (5) OP間の節の数。
- (6) Oに最も近い腹までの距離。
- (7) 波の速さV。
- (8) 波源が動くときの直接波の振動数。
- (9) そのときの波長。
- (10) 反射波の振動数の変化。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波の反射・干渉」と「ドップラー効果」です。特に、平面で反射する波を「虚像波源」からの波とみなして干渉の問題に帰着させる点が重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の反射と虚像波源: 平面での反射波は、境界面に対して対称な位置にある「虚像波源」から出た波とみなすことができます。位相が変化しない自由端反射では、虚像波源は元の波源と「同位相」になります。
- 波の干渉: 2つの波源からの波が重なるとき、経路差によって強めあったり弱めあったりします。同位相の波源の場合、経路差が波長の整数倍で強めあい(腹)、半波長の奇数倍で弱めあいます(節)。
- ドップラー効果: 波源や観測者が動くことで、観測される振動数が変化する現象です。波源と観測者を結ぶ方向の相対速度が重要になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、反射波を虚像波源O’からの波としてモデル化し、波の干渉の問題として捉え直します。
- 干渉の条件式(経路差と波長の関係)を立て、問題文で与えられた情報(P点が節であることなど)を用いて、未知の物理量(波長\(\lambda\))を特定します。
- 特定した波長を用いて、他の点の干渉の様子(節の数など)を分析します。
- 後半のドップラー効果の問題では、波の速さを計算し、公式を適用して振動数や波長の変化を求めます。反射波については、虚像波源の運動を考えることがポイントです。
問(1)
思考の道筋とポイント
反射波は、器壁に対して波源Oと対称な点O’から出た波とみなせます。問題文の「反射の際、波の振幅および位相は変わらない」という記述は、これが自由端反射であり、O’がOと同位相の波源であることを意味します。この考え方に基づいて、直接波と反射波の波面(山の位置)を描いた図を選びます。
この設問における重要なポイント
- 反射波は、壁に対して対称な位置にある虚像波源O’から出た波と等価である。
- 「反射波の山がPに達した」という条件は、O’を中心としPを通る円が反射波の波面の一つであることを意味する。
- 「この瞬間の波C全体の山の位置」を問われているため、直接波の山と反射波の山の両方を正しく描いた図を選ぶ必要がある。
具体的な解説と立式
- 虚像波源O’の位置: Oは壁から3.0mの位置にあるので、虚像波源O’も壁の向こう側3.0mの位置になります。
- 反射波の波面: 「反射波の山がPに達した」ので、反射波の波面の一つは、O’を中心とし、半径O’Pの円となります。
- 直接波の波面: 反射波がPに達するまでに進んだ距離はO’Pです。直接波も同じ時間だけ進んでいるはずなので、直接波の波面は、Oを中心とし、半径O’Pの円となります。
- 選択肢の検討:
- (ア): 直接波と反射波の両方がOを中心としており、誤り。
- (イ), (ウ): 直接波と反射波の半径が異なっており、誤り。
- (エ): 直接波はOを中心とし半径O’Pの円、反射波はO’を中心とし半径O’Pの円となっており、正しい。
壁で反射した波は、まるで壁の向こう側の鏡の世界にあるもう一つの波源(虚像波源O’)からやってくるように見えます。
問題は「ある瞬間の波全体の山の位置」を聞いています。この瞬間は「反射波の山がP点に届いた」ときです。
- 反射波はO’から出てPに届くので、その山の線は「O’を中心とし、Pを通る円」になります。
- 直接波も、反射波がO’からPまで進むのと同じ時間だけ、Oから進んでいます。O’からPまでの距離とOからPまでの距離は異なるため、直接波の山の半径はOPではありません。O’Pと同じ半径を持つ「Oを中心とする円」が直接波の山の位置となります。
この2つの条件を満たす図は(エ)です。
直接波と反射波の波面を正しく表現しているのは(エ)です。反射波がPに到達するまでに進んだ距離と、その間に直接波が進んだ距離は等しい(=半径が等しい)という点がポイントです。
問(2)
思考の道筋とポイント
2つの波が弱めあう条件は、経路差が半波長の奇数倍になることです。点Qにおける、波源Oからの直接波と虚像波源O’からの反射波の経路差を求め、弱めあう条件式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 自由端反射なので、弱めあう条件は「経路差 = (半波長) \(\times\) 奇数」。
- 経路差は、点Qまでの2つの経路の長さの差 \(\Delta l = \text{O’Q} – \text{OQ}\) である。
- 三平方の定理を用いてO’Qの長さを求める。
具体的な解説と立式
点Qにおける経路差\(\Delta l\)を計算します。
- 直接波の経路長: \(\text{OQ} = x\)
- 反射波の経路長: \(\text{O’Q}\)。OとO’の距離は6.0mなので、三平方の定理より、\(\text{O’Q} = \sqrt{x^2 + 6.0^2} = \sqrt{x^2+36}\)
- 経路差: \(\Delta l = \text{O’Q} – \text{OQ} = \sqrt{x^2+36} – x\)
波源Oと虚像波源O’は同位相なので、弱めあう条件は、
$$\Delta l = \left(n – \frac{1}{2}\right)\lambda = \frac{(2n-1)}{2}\lambda \quad (n=1, 2, 3, \dots)$$
問題の形式に合わせると、
$$\sqrt{x^2+36} – x = (2n-1)\cdot\frac{\lambda}{2}$$
使用した物理公式
- 波の干渉条件(弱めあい): 経路差 = \((n-1/2)\lambda\)
- 三平方の定理
上記の立式がそのまま答えとなります。空欄に入る式は \(\sqrt{x^2+36}-x\) です。
点Qで波が弱めあうのは、Oから直接届く波と、O’から回り込んで届く波が、ちょうど半波長分ずれて重なるときです。この「ズレ」の大きさが経路差であり、三平方の定理を使って計算できます。
弱めあう条件式は \(\sqrt{x^2+36}-x = (2n-1)\cdot\frac{\lambda}{2}\) となります。空欄は経路差を表す \(\sqrt{x^2+36}-x\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
問題文の「L上で水位が同様に変化しない点(節)のうち、Oから見てPよりも遠くにあるのは2個だけであった」という情報から、Pが何番目の節線に対応するかを特定します。
この設問における重要なポイント
- 経路差 \(\sqrt{x^2+36}-x\) は、xが大きくなる(Oから遠くなる)ほど小さくなる。
- 弱めあう条件式より、経路差が小さいほど、節線の番号nも小さくなる。
- Pより遠くに2つの節があるということは、Pに対応するnより小さいnが2つ(n=1, 2)存在するということ。
具体的な解説と立式
弱めあう点を連ねた線(節線)は、経路差が小さい方から順に n=1, 2, 3, … と番号が付けられます。
- 点Pは節線上にある。
- Pよりも遠く(xが大きい位置)に、節線が2本存在する。
- xが大きいほど経路差は小さくなり、nも小さくなります。
したがって、Pよりも遠くにある2本の節線は、n=1とn=2に対応します。
このことから、点Pが乗っている節線は、その次の番号である n=3 であるとわかります。
弱めあう場所(節)には、波源からの距離に応じて番号がついています。Oから遠い場所ほど若い番号(n=1, 2, …)になります。Pよりも遠くに節が2つあるということは、Pは「3番目に若い」節である、ということです。したがって、Pの番号はn=3です。
Pはn=3に相当します。
問(4)
思考の道筋とポイント
(2)で導いた弱めあう条件式に、(3)で特定したP点の情報(x=8.0, n=3)を代入して、波長\(\lambda\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- (2)の式に数値を正確に代入すること。
具体的な解説と立式
(2)の条件式に、x=8.0, n=3 を代入します。
$$\sqrt{8.0^2+36} – 8.0 = (2\times3-1)\frac{\lambda}{2}$$
使用した物理公式
- (2)で導出した弱めあいの条件式
$$
\begin{aligned}
\sqrt{64+36} – 8.0 &= (6-1)\frac{\lambda}{2} \\[2.0ex]\sqrt{100} – 8.0 &= 5 \cdot \frac{\lambda}{2} \\[2.0ex]10.0 – 8.0 &= 2.5\lambda \\[2.0ex]2.0 &= 2.5\lambda \\[2.0ex]\lambda &= \frac{2.0}{2.5} \\[2.0ex]\lambda &= 0.80
\end{aligned}
$$
(2)で作った「弱めあう場所を見つける方程式」に、P点の具体的なデータ(Oからの距離x=8.0m、節の番号n=3)を代入して、未知数である波長\(\lambda\)を解きます。
波長は \(\lambda = 0.80\) m です。
問(5)
思考の道筋とポイント
L上でOとPの間(\(0 < x < 8.0\))にある節の数を数えます。Pはn=3の節です。Oに近づく(xが小さくなる)と経路差は大きくなり、nも大きくなります。x=0(点O)での経路差を計算し、そこまでに存在するnの範囲を特定します。
この設問における重要なポイント
- 節の条件式: \(\sqrt{x^2+36}-x = (2n-1)\frac{\lambda}{2}\)
- \(\lambda=0.80\) m なので、\(\lambda/2 = 0.40\) m。
- xが小さくなるほど、経路差は大きくなり、nも大きくなる。
具体的な解説と立式
節の条件式は、
$$\sqrt{x^2+36}-x = (2n-1) \times 0.40$$
- 点P (x=8.0) では、n=3。
- 点O (x=0) では、経路差は \(\sqrt{0^2+36}-0 = 6.0\) m。
x=0のときのnの値を求めると、
$$6.0 = (2n-1) \times 0.40$$
$$15 = 2n-1$$
$$2n = 16$$
$$n=8$$
つまり、L上では、x=8.0mのP点がn=3の節、x=0mのOの位置がn=8の節に対応します。
OP間にある節は、nが3より大きく8より小さい整数に対応する点です。
したがって、n=4, 5, 6, 7 の4つの節が存在します。
P点は3番目の節です。O点に近づくにつれて、4番目、5番目…と、より番号の大きい節が現れます。O点自身が何番目の節になるかを計算すると8番目だとわかります。したがって、OとPの間には、4番目から7番目までの4つの節があることになります。
OP間に存在する節の数は4個です。
別解
具体的な解説と立式
節の条件式 \(\sqrt{x^2+36}-x = (2n-1) \times 0.40\) を満たす\(x\)が、\(0 < x < 8.0\) の範囲にいくつ存在するかを調べます。
- n=3 のとき: \(x=8.0\)。範囲外。
- n=4 のとき: \(\sqrt{x^2+36}-x = (2\cdot4-1)\times0.40 = 2.8\)。\(\sqrt{x^2+36} = x+2.8\)。両辺を2乗して \(x^2+36 = x^2+5.6x+7.84\)。\(5.6x = 28.16\), \(x \approx 5.03\)。これは範囲内。
- n=5 のとき: \(\sqrt{x^2+36}-x = (2\cdot5-1)\times0.40 = 3.6\)。\(x \approx 3.06\)。範囲内。
- n=6 のとき: \(\sqrt{x^2+36}-x = (2\cdot6-1)\times0.40 = 4.4\)。\(x \approx 1.61\)。範囲内。
- n=7 のとき: \(\sqrt{x^2+36}-x = (2\cdot7-1)\times0.40 = 5.2\)。\(x \approx 0.55\)。範囲内。
- n=8 のとき: \(x=0\)。範囲外。
したがって、n=4, 5, 6, 7 に対応する4つの節がOP間に存在します。
問(6)
思考の道筋とポイント
Oを通り器壁に垂直な直線上での強めあう点(腹)を探します。この直線上では、直接波と反射波が正面衝突する形になります。自由端反射なので、壁自身が腹になります。腹と腹の間隔は\(\lambda/2\)です。
この設問における重要なポイント
- 自由端反射の壁は腹になる。
- 腹と腹の間隔は\(\lambda/2\)。
- Oに最も近い腹の位置を求める。
具体的な解説と立式
Oから壁に向かう直線上を考えます。
- 壁の位置(Oから3.0m)は自由端反射なので、強めあって腹になります。
- 腹と腹の間隔は \(\lambda/2 = 0.80/2 = 0.40\) m です。
壁からOに向かって、0.40mごとに腹が存在します。壁から数えてk番目の腹は、壁から \(0.40 \times (k-1)\) の位置にあります。
Oからの距離が最も近くなる腹を探します。Oから壁までの距離は3.0mなので、壁から \(3.0 / 0.40 = 7.5\) 個分の間隔があります。
壁から数えて8番目の腹は、壁から \(0.40 \times (8-1) = 2.8\) mの位置。Oからの距離は \(3.0 – 2.8 = 0.2\) m。
壁から数えて9番目の腹は、壁から \(0.40 \times (9-1) = 3.2\) mの位置となり、これはOを通り越してしまいます。
したがって、Oに最も近い腹は、Oからの距離が0.2mの点です。
壁は波を強めあう「腹」です。そこから半波長(0.40m)ごとに腹ができます。壁から0.40m、0.80m、1.20m…とOに向かって腹が並んでいます。Oに一番近くなる腹の位置を計算します。
Oに最も近い腹までの距離は0.20mです。
問(7)
思考の道筋とポイント
波の速さ\(V\)を、基本式 \(V=f\lambda\) を用いて計算します。振動数\(f=5.0\) Hz、波長\(\lambda=0.80\) m は既に分かっています。
具体的な解説と立式
$$V = f\lambda$$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V=f\lambda\)
$$
\begin{aligned}
V &= 5.0 \times 0.80 \\[2.0ex]&= 4.0
\end{aligned}
$$
問(8)
思考の道筋とポイント
波源が観測者に近づく場合のドップラー効果の公式を用います。波源の速さ\(v_s\)、波の速さ\(V\)、元の振動数\(f\)から、観測される振動数\(f’\)を求めます。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の公式において、
- 波の速さ: \(V=4.0\) m/s
- 観測者の速さ: \(v_o=0\) (Pは静止)
- 波源の速さ: \(v_s=1.0\) m/s (Pに近づく向きを正とする)
- 元の振動数: \(f=5.0\) Hz
$$f’ = \frac{V}{V-v_s}f$$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{4.0}{4.0-1.0} \times 5.0 \\[2.0ex]&= \frac{4.0}{3.0} \times 5.0 \\[2.0ex]&= \frac{20}{3} \\[2.0ex]&\approx 6.67
\end{aligned}
$$
問(9)
思考の道筋とポイント
ドップラー効果によって変化した波長\(\lambda’\)を求めます。波の速さ\(V\)は媒質によって決まるため変化しません。したがって、\(V=f’\lambda’\)の関係が成り立ちます。
具体的な解説と立式
$$V = f’\lambda’$$
これを\(\lambda’\)について解きます。
$$\lambda’ = \frac{V}{f’}$$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V=f\lambda\)
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{4.0}{20/3} \\[2.0ex]&= \frac{12.0}{20} \\[2.0ex]&= 0.60
\end{aligned}
$$
問(10)
思考の道筋とポイント
器壁で反射してからPに届く波の振動数を考えます。これは、虚像波源O’からPに届く波の振動数と考えることができます。波源OがPに近づくとき、虚像波源O’は壁に向かって動きます。このときのO’からPに向かう速度成分の変化を考えます。
この設問における重要なポイント
- 反射波は虚像波源O’からの波とみなす。
- ドップラー効果は、波源と観測者を結ぶ方向の速度成分によって決まる。
具体的な解説と立式
波源OがPに向かって動くとき、虚像波源O’も壁に向かって同じ速さで動きます。
観測される振動数\(f”\)は、虚像波源O’の速度のうち、O’とPを結ぶ方向の成分\(v_s’\)によって決まります。
$$f” = \frac{V}{V-v_s’}f$$
波源OがOの位置(動き始め)にあるとき、O’の速度ベクトルとO’Pの方向には角度があります。
波源OがPに近づく(O’が壁に近づく)と、O’Pの方向とO’の速度ベクトルのなす角は大きくなります。
これにより、O’P方向の速度成分\(v_s’\)は小さくなります。
\(v_s’\)が小さくなると、分母の\(V-v_s’\)は大きくなります。
したがって、振動数\(f”\)は小さくなります。
反射してくる波は、壁の向こう側の虚像波源O’から来ると考えます。波源OがPに近づくとき、O’は壁に向かって動きます。Pから見ると、O’は斜め方向に近づいてきます。OがPに近づくにつれて、O’がPに近づく「勢い」(速度のP方向成分)はだんだん鈍っていきます。ドップラー効果は近づく勢いが強いほど大きくなるので、勢いが鈍る分、観測される振動数は小さくなっていきます。
動き始めた直後と比べて、振動数は小さくなります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 虚像波源法による反射波のモデル化:
- 核心: 平面での反射波は、その平面に対して波源と対称な位置にある「虚像波源」から出た波と等価である、と考えることができます。これにより、複雑な反射の問題を、2つの波源からの波の「干渉」という、より単純な問題に置き換えることができます。
- 理解のポイント: この問題では「位相は変わらない」とあるので、自由端反射に相当します。したがって、虚像波源O’は、元の波源Oと「同位相」の波を出すと考えます。これが干渉条件を決定する上で非常に重要です。
- 波の干渉条件(経路差):
- 核心: 2つの波源から出た波が、ある点で強めあうか弱めあうかは、その点までの2つの波源からの「経路差」によって決まります。
- 理解のポイント:
- 強めあう(腹): 経路差 = \(m\lambda\) (波長の整数倍)
- 弱めあう(節): 経路差 = \((m+\frac{1}{2})\lambda\) (半波長の奇数倍)
本問では同位相の虚像波源を考えているため、この条件がそのまま適用できます。
- ドップラー効果(視線方向成分):
- 核心: 波源や観測者が運動すると、観測される振動数が変化します。この効果の大きさは、波源と観測者を結ぶ直線方向(視線方向)の相対速度の成分によって決まります。
- 理解のポイント: (10)のように、波源が観測者に対して斜めに動く場合、波源の速度ベクトルを視線方向に分解し、その成分をドップラー効果の公式に用いる必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ヤングの干渉実験: 2つのスリットを同位相の波源とみなし、スクリーン上の各点までの経路差を計算して干渉縞(明線・暗線)の間隔を求める問題。考え方の構造が本問の干渉パートと全く同じです。
- 薄膜による光の干渉: 膜の表面で反射する光と、裏面で反射する光の干渉。虚像の考え方や経路差の計算、反射時の位相変化(固定端反射に相当する場合がある)など、共通する要素が多く含まれます。
- 斜め方向のドップラー効果: 救急車が自分の前を通り過ぎる際にサイレンの音の高さが変わる現象など。観測者との位置関係によって視線方向の速度成分が変化するため、観測される振動数も刻一刻と変化します。
- 初見の問題での着眼点:
- 反射は「虚像」に置き換える: 平面での反射が出てきたら、まず「虚像波源法」が使えないか考えます。壁を鏡として、対称な位置に虚像波源を描き込み、問題を2点波源の干渉として捉え直します。
- 干渉は「経路差」から攻める: 干渉の問題では、何よりも先に観測点までの経路差\(\Delta l\)を幾何学的に(多くは三平方の定理で)計算することが第一歩です。
- 問題文の条件を数式に翻訳する: 「弱めあう」「水位が変化しない」\(\rightarrow\) 節の条件式。「Pより遠くに節が2つ」\(\rightarrow\) Pはn=3の節線、といったように、日本語の定性的な記述を、nなどのパラメータを用いた定量的な数式に変換する能力が問われます。
- ドップラー効果は「視線方向」を意識する: 波源が動く問題では、その速度ベクトルが観測者から見てどの方向を向いているかを常に意識します。特に反射波を考える際は、虚像波源の速度ベクトルと視線の関係を考える必要があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反射の種類の混同:
- 誤解: 自由端反射(位相変化なし)と固定端反射(位相が\(\pi\)ずれる)の条件を混同する。
- 対策: 問題文に「位相は変わらない」と明記されている場合は自由端反射、「固定端」とあれば固定端反射です。自由端反射では虚像波源は同位相、固定端反射では逆位相になると覚えましょう。
- 経路差の計算ミス:
- 誤解: 三平方の定理の計算(\(6.0^2=36\)など)や、ルートの計算を誤る。
- 対策: 幾何学的な関係を図に正確に描き、計算は焦らず丁寧に行いましょう。特に、\(\sqrt{x^2+36}-x\) のような式は、その後の数値代入でミスしやすいので注意が必要です。
- 干渉条件のnの扱いの誤り:
- 誤解: (3)で、Pがn=2やn=1であると勘違いする。
- 対策: 経路差とnの関係を正しく理解することが重要です。xが大きくなる(Oから遠ざかる)ほど経路差は小さくなり、nも小さくなります。「Pより遠くに2点」は「Pよりnが小さい点が2つ」を意味するので、Pはn=3となります。
- ドップラー効果の速度の誤用:
- 誤解: (10)で、波源Oの速さ\(v_s\)をそのまま虚像波源O’のドップラー効果の計算に使ってしまう。
- 対策: ドップラー効果はあくまで「視線方向」の速度成分で決まります。虚像波源O’は壁に向かって動くのであり、観測点Pの方向とは異なります。速度ベクトルを分解する必要があることに気づくことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 虚像波源の作図: 問題図に、壁を鏡として対称な位置に虚像波源O’を描き込むことが全ての基本です。観測点Qに対し、OQとO’Qの2つの線分を引くことで、経路差が視覚的に理解できます。
- 節線・腹線のイメージ: OとO’を焦点とする双曲線群として、節線や腹線が空間に広がっている様子をイメージしましょう。半直線Lは、その双曲線群を斜めに切断する線であり、その交点がL上の節や腹になります。
- ドップラー効果のベクトル図: (10)では、波源Oの速度ベクトルと、それと対称な虚像波源O’の速度ベクトルを描きます。さらに、観測点Pと虚像波源O’を結ぶ直線(視線)を描き、O’の速度ベクトルを視線方向に射影(分解)した成分を描くと、なぜ観測される振動数が変化するかが一目瞭然になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 幾何学的関係の明記: 図の中に、分かっている長さ(Oと壁の距離3.0m、OとO’の距離6.0m、OP間の距離8.0mなど)を正確に書き込むことが、計算ミスを防ぎます。
- 対称性: 虚像波源は壁に対して完全に対称であるため、作図の際もその対称性を意識すると、図の正確性が増します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 虚像波源法:
- 選定理由: 反射という複雑な現象を、2つの波源からの干渉という、より解析しやすい単純なモデルに置き換えるための強力な思考ツールだからです。
- 適用根拠: ホイヘンスの原理や波の反射法則に基づきます。
- 干渉条件式(経路差 = …):
- 選定理由: 2つの波の位相差を、測定しやすい「距離の差」に変換し、強めあい・弱めあいの条件を定量的に扱うため。
- 適用根拠: 波の位相が \(kx-\omega t\) のように、距離\(x\)に比例して変化するという性質に基づきます。
- ドップラー効果の公式:
- 選定理由: 波源や観測者の運動によって生じる波面の「間隔の変化」を、観測される「振動数の変化」として数式化するため。
- 適用根拠: 波の伝播速度は媒質に対して一定であるが、波源が動くことで波長が変化し、結果として振動数が変化するという物理モデル。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 波面の理解:
- 戦略: 反射波を虚像波源O’からの波と解釈し、直接波と反射波の半径が等しいことを理解する。
- (2) 干渉条件の立式:
- 戦略: 幾何学的に経路差 \(\Delta l = \text{O’Q} – \text{OQ}\) を計算し、弱めあいの条件式 \(\Delta l = (n-1/2)\lambda\) を立てる。
- (3) nの特定:
- 戦略: 「Pより遠くに節が2つ」という情報と、xとnの大小関係の逆転から、Pがn=3の節であると特定する。
- (4) 波長の計算:
- 戦略: (2)の式に、(3)で特定したP点の情報(x=8.0, n=3)を代入して\(\lambda\)を解く。
- (5) 節の個数:
- 戦略: x=0(O点)での経路差を計算し、対応するnの値を求める。P点(n=3)とO点(n=8)の間にある整数のnの個数を数える。
- (6) 最も近い腹:
- 戦略: 壁が腹であり、腹の間隔が\(\lambda/2\)であることを利用して、Oに最も近い腹の位置を特定する。
- (7)-(9) ドップラー効果(直接波):
- 戦略: \(V=f\lambda\)で波速を求め、ドップラー効果の公式で\(f’\)を、\(V=f’\lambda’\)で\(\lambda’\)を計算する。
- (10) ドップラー効果(反射波):
- 戦略: 虚像波源O’の運動を考え、観測点Pに対する視線方向の速度成分が、OがPに近づくにつれてどう変化するかを定性的に評価する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 幾何学的な数値: \(6.0^2=36\), \(\sqrt{8.0^2+36}=\sqrt{100}=10.0\) のような計算は、問題の要所要所で登場します。落ち着いて正確に計算しましょう。
- nの扱いに注意: 干渉条件のnは1から始まる整数です。問題文の条件からnを特定する過程((3))や、節の数を数える過程((5))では、nがどの範囲の整数をとるのかを慎重に考えましょう。
- ドップラー効果の符号: 公式の分母の符号(\(V-v_s\)か\(V+v_s\)か)は、物理現象と結びつけて覚えると間違いが減ります。「近づくときは振動数が高くなる(分母が小さくなる)」「遠ざかるときは振動数が低くなる(分母が大きくなる)」と覚えておけば、符号を正しく選べます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (1)の波面: 反射波がPに到達するのにかかった時間と、その間に直接波が進んだ距離は等しくなります。直接波の半径はOPではなく、O’Pと等しくなるはずです。この論理が正しいか再確認することで、(エ)が正しいと確信できます。
- (3)のnの特定: xが無限大に近づくと経路差は0に近づき、nは最小(n=1)になります。逆にxが小さくなるほど経路差は大きくなり、nも大きくなります。この関係が直感と合っているか確認することで、Pより遠くに節があるならPのnは小さい方から数えて3番目だ、という判断の妥当性が検証できます。
- (10)の定性的評価: OがPに近づくとき、虚像波源O’は壁に近づきます。Pから見ると、O’はだんだん真横に動く成分が大きくなるように見えます。したがって、Pに向かってくる速度成分は小さくなるはずです。この直感的なイメージと、振動数が小さくなるという結論が一致しているかを確認します。
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