「重要問題集」徹底解説(61〜65問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題61 (佐賀大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばねで連結された2つの物体が、水平でなめらかな床の上で振動する「二体問題」を扱っています。特に、2物体の運動を「重心の運動」と「相対運動」に分けて考えることがテーマとなっています。

与えられた条件
  • 物体A, B: 質量はそれぞれ \(m_A\), \(m_B\)
  • ばね: 自然の長さ \(l\)、ばね定数 \(k\)
  • 床: 水平でなめらか(摩擦なし)
  • 初期条件: ばねの長さを \(L\) (\(L>l\)) に引き伸ばし、2物体を静かにはなす
  • 座標: 図の右向きを正とする
  • 変数:
    • 位置: \(x_A\), \(x_B\)
    • 速度: \(v_A\), \(v_B\)
    • 加速度: \(a_A\), \(a_B\)
    • ばねの伸び: \(X = x_B – x_A – l\)
    • 相対加速度: \(a = a_B – a_A\)
問われていること
  • (1) 手をはなす直前のばねの弾性エネルギー
  • (2) ばねが自然の長さにもどった瞬間のAとBの速度
  • (3) 重心の座標 \(x_G\)
  • (4) A, Bそれぞれの運動方程式(\(X\)を使用)
  • (5) 相対運動の単振動の式 \(Ma=-kX\) を導き、換算質量 \(M\) と角振動数 \(\omega\) を求める
  • (6) \(X\) と \(x_A\) を時刻 \(t\) の関数として表す

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) ばねが自然長に戻ったときの速度の別解: エネルギーの分配則を利用する解法
      • 主たる解法が運動量保存則と力学的エネルギー保存則を連立方程式として代数的に解くのに対し、別解ではこの現象を「静止物体の分裂」モデルとみなし、解放された弾性エネルギーが2物体の運動エネルギーに「質量の逆比」で分配されるという物理法則を用いて直接的に解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 一見異なる現象(ばねの振動と物体の分裂)が、同じ物理モデル(内力のみが仕事をする系のエネルギー解放)で説明できることを理解することで、物理法則の普遍性に対する洞察が深まります。
    • 計算の効率化: 多くの二体問題において、連立方程式を解くよりもエネルギー分配則を適用する方が、計算の見通しが良く、より迅速に解にたどり着ける場合があります。
    • 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、保存則を連立して解くボトムアップ的なアプローチと、系の性質(エネルギー分配)から解くトップダウン的なアプローチの両方を学ぶことで、思考の柔軟性が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「連結された2物体の運動」と「単振動」です。重心運動と相対運動という2つの視点から問題を解き明かしていきます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存則: 2物体を一つの「系」とみなしたとき、水平方向には外力がはたらかないため、系の全運動量は常に保存されます。
  2. 力学的エネルギー保存則: 系にはたらく力は内力である弾性力のみで、非保存力(摩擦など)ははたらかないため、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと弾性エネルギーの和)は常に保存されます。
  3. 重心: 系の重心は、外力がはたらかない限り、静止し続けるか等速直線運動を続けます。今回は初速0なので、重心は動きません。
  4. 相対運動と換算質量: 2物体の相対運動に着目すると、その運動は質量が「換算質量 \(M = \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A+m_B}\)」である単一の物体が、同じばね定数\(k\)のばねで単振動する運動と等価になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、与えられた初期条件から、エネルギー保存則と運動量保存則を用いて、特定の瞬間の速度を求めます(問1, 2)。
  2. 次に、重心の定義式と、各物体にはたらく力を考えて運動方程式を立てます(問3, 4)。
  3. 2つの運動方程式から、相対運動に関する運動方程式を導き、それを単振動の基本形式と比較することで、換算質量と角振動数を求めます(問5)。
  4. 最後に、相対運動が単振動であることと、重心が静止していることを利用して、各物体の位置を時刻の関数として表現します(問6)。

問(1)

思考の道筋とポイント
ばねの弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を用います。ここで \(x\) は「ばねの自然の長さからの伸びまたは縮み」です。
この設問における重要なポイント

  • 弾性エネルギーの公式を正しく理解していること。
  • ばねの「伸び」を正しく計算すること。

具体的な解説と立式

  • ばねの自然の長さ: \(l\)
  • 引き伸ばされたときの長さ: \(L\)

したがって、ばねの伸びは \(L-l\) です。
弾性エネルギーの公式に、ばねの伸び \(x = L-l\) を代入します。
$$U = \frac{1}{2}k(L-l)^2$$

使用した物理公式

  • ばねの弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

この設問は公式に代入するだけであり、これ以上の計算はありません。

この設問の平易な説明

ばねを伸ばしたり縮めたりすると、エネルギーが蓄えられます。そのエネルギーの大きさは、公式「\( \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{ばね定数}) \times (\text{伸びまたは縮み})^2 \)」で計算できます。ここでは、ばねがどれだけ伸びているかを計算し、公式に当てはめます。

結論と吟味

弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}k(L-l)^2\) です。これは公式通りの基本的な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{1}{2}k(L-l)^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
手をはなしてから、ばねが自然の長さに戻るまでの運動を考えます。この過程で、2物体からなる系には水平方向の外力がはたらかないので「運動量保存則」が、また保存力である弾性力しか仕事をしないので「力学的エネルギー保存則」が成り立ちます。この2つの保存則を連立して、2物体の速度を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 系全体で運動量と力学的エネルギーが保存されることを理解する。
  • 初状態(手をはなす直前)と終状態(自然長に戻った瞬間)のそれぞれの物理量を正しく設定する。

具体的な解説と立式

  • 初状態:
    • 速度: \(v_A = 0\), \(v_B = 0\)
    • 全運動量: \(P_{\text{初}} = m_A(0) + m_B(0) = 0\)
    • 力学的エネルギー: \(E_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}k(L-l)^2\) (運動エネルギーは0)
  • 終状態(ばねが自然長に戻った瞬間):
    • 速度: \(v_A\), \(v_B\)
    • ばねの伸び: 0
    • 全運動量: \(P_{\text{後}} = m_A v_A + m_B v_B\)
    • 力学的エネルギー: \(E_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}m_A v_A^2 + \displaystyle\frac{1}{2}m_B v_B^2\) (弾性エネルギーは0)

保存則の式を立てます。

  • 運動量保存則 (\(P_{\text{初}} = P_{\text{後}}\)):
    $$0 = m_A v_A + m_B v_B \quad \cdots ①$$
  • 力学的エネルギー保存則 (\(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\)):
    $$\frac{1}{2}k(L-l)^2 = \frac{1}{2}m_A v_A^2 + \frac{1}{2}m_B v_B^2 \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(\sum m_i v_i = \text{一定}\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(\sum \displaystyle\frac{1}{2}m_i v_i^2 + U = \text{一定}\)
計算過程

未知数が \(v_A\) と \(v_B\) の2つなので、連立方程式を解きます。
まず、式①から \(v_B\) を \(v_A\) で表します。
$$v_B = -\frac{m_A}{m_B}v_A \quad \cdots ③$$
次に、これを式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
k(L-l)^2 &= m_A v_A^2 + m_B v_B^2 \\[2.0ex]
&= m_A v_A^2 + m_B \left(-\frac{m_A}{m_B}v_A\right)^2 \\[2.0ex]
&= m_A v_A^2 + m_B \frac{m_A^2}{m_B^2}v_A^2 \\[2.0ex]
&= m_A v_A^2 + \frac{m_A^2}{m_B}v_A^2 \\[2.0ex]
&= m_A\left(1 + \frac{m_A}{m_B}\right)v_A^2 \\[2.0ex]
&= m_A\left(\frac{m_B+m_A}{m_B}\right)v_A^2
\end{aligned}
$$
\(v_A^2\) について解くと、
$$v_A^2 = \frac{m_B k(L-l)^2}{m_A(m_A+m_B)}$$
手を離すと、物体Aは右向き(正の向き)に動くので \(v_A > 0\) です。
$$
\begin{aligned}
v_A &= \sqrt{\frac{m_B k(L-l)^2}{m_A(m_A+m_B)}} \\[2.0ex]
&= (L-l)\sqrt{\frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}}
\end{aligned}
$$
この結果を式③に代入して \(v_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= -\frac{m_A}{m_B}v_A \\[2.0ex]
&= -\frac{m_A}{m_B} \left( (L-l)\sqrt{\frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}} \right) \\[2.0ex]
&= -(L-l) \frac{m_A}{m_B} \sqrt{\frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}} \\[2.0ex]
&= -(L-l) \sqrt{\frac{m_A^2}{m_B^2} \frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}} \\[2.0ex]
&= -(L-l) \sqrt{\frac{m_A k}{m_B(m_A+m_B)}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

初めにばねが持っていた弾性エネルギーが、2つの物体の運動エネルギーに変わります。これがエネルギー保存則です。また、全体としては外から力を受けていないので、2つの物体の運動量を合計したものは常にゼロのままです。これが運動量保存則です。この2つのルールを連立方程式として解くことで、それぞれの物体の速度がわかります。

結論と吟味

ばねが自然長に戻ったときの速度は、
\(v_A = (L-l)\sqrt{\displaystyle\frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}}\), \(v_B = -(L-l)\sqrt{\displaystyle\frac{m_A k}{m_B(m_A+m_B)}}\)
となります。\(v_A\) が正、\(v_B\) が負となり、それぞれが内側に向かって動くという物理的な状況と一致しています。また、質量の逆比で速度が分配されていることもわかります。

別解: エネルギーの分配則を利用する解法

思考の道筋とポイント
この現象は、静止していた物体が内力によって分裂する「分裂」と同じモデルと見なせます。このとき、解放されたエネルギー(今回は弾性エネルギー)は、各物体の運動エネルギーとして、質量の逆比に分配されます。
この設問における重要なポイント

  • 内力のみが仕事をする系では、解放されたエネルギーは質量の逆比で運動エネルギーに分配される。
  • 分配されるエネルギーの総量は、問(1)で求めた弾性エネルギー。

具体的な解説と立式
解放されるエネルギーは \(E = \displaystyle\frac{1}{2}k(L-l)^2\) です。
物体AとBの運動エネルギーの比は、運動量保存則 \(m_A v_A = -m_B v_B\) から、運動量の大きさは等しく \(p = |m_A v_A| = |m_B v_B|\) となります。運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) と書けるので、
$$K_A : K_B = \frac{p^2}{2m_A} : \frac{p^2}{2m_B} = \frac{1}{m_A} : \frac{1}{m_B} = m_B : m_A$$
となります。したがって、物体Aが得る運動エネルギー \(K_A\) は、
$$\frac{1}{2}m_A v_A^2 = E \times \frac{m_B}{m_A+m_B}$$
同様に、物体Bが得る運動エネルギー \(K_B\) は、
$$\frac{1}{2}m_B v_B^2 = E \times \frac{m_A}{m_A+m_B}$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギーの分配則 (分裂モデル)
  • 運動量保存則
計算過程

\(K_A\) の式から \(v_A\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m_A v_A^2 &= \frac{1}{2}k(L-l)^2 \frac{m_B}{m_A+m_B} \\[2.0ex]
m_A v_A^2 &= k(L-l)^2 \frac{m_B}{m_A+m_B} \\[2.0ex]
v_A^2 &= \frac{m_B k(L-l)^2}{m_A(m_A+m_B)}
\end{aligned}
$$
物体Aは右向き(正の向き)に動くので \(v_A > 0\) です。
$$v_A = (L-l)\sqrt{\frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}}$$
同様に \(K_B\) の式から \(v_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m_B v_B^2 &= \frac{1}{2}k(L-l)^2 \frac{m_A}{m_A+m_B} \\[2.0ex]
m_B v_B^2 &= k(L-l)^2 \frac{m_A}{m_A+m_B} \\[2.0ex]
v_B^2 &= \frac{m_A k(L-l)^2}{m_B(m_A+m_B)}
\end{aligned}
$$
物体Bは左向き(負の向き)に動くので \(v_B < 0\) です。
$$v_B = -(L-l)\sqrt{\frac{m_A k}{m_B(m_A+m_B)}}$$

この設問の平易な説明

爆弾が爆発して破片が飛び散るように、ばねに蓄えられたエネルギーが2つの物体の運動エネルギーに分配されます。このとき、軽い物体ほど速く、重い物体ほどゆっくり動きます。具体的には、運動エネルギーは質量の逆の比で分けられます。このルールを使うと、連立方程式を解かなくても、それぞれの速度を計算できます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、分裂や合体といった、内力のみがはたらく系のエネルギー変化を考える際に非常に有効であり、物理的な見通しを良くしてくれます。

解答 (2) \(v_A = (L-l)\sqrt{\displaystyle\frac{m_B k}{m_A(m_A+m_B)}}\), \(v_B = -(L-l)\sqrt{\displaystyle\frac{m_A k}{m_B(m_A+m_B)}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
重心の座標の定義式を書くだけの問題です。
この設問における重要なポイント

  • 2物体の重心の座標の公式を正しく覚えていること。

具体的な解説と立式
質量 \(m_A\), \(m_B\) の物体がそれぞれ位置 \(x_A\), \(x_B\) にあるとき、その重心の座標 \(x_G\) は、
$$x_G = \frac{m_A x_A + m_B x_B}{m_A + m_B}$$

使用した物理公式

  • 重心の座標の定義式
計算過程

この設問は定義式を記述するものであり、これ以上の計算はありません。

この設問の平易な説明

2つの物体の「真ん中」にあたる重心の位置は、それぞれの物体の「質量 \( \times \) 位置」を足し合わせて、全体の質量で割ることで計算できます。これは公式そのものです。

結論と吟味

重心の座標は \(x_G = \displaystyle\frac{m_A x_A + m_B x_B}{m_A + m_B}\) です。これは重心の定義そのものです。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{m_A x_A + m_B x_B}{m_A + m_B}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
物体Aと物体B、それぞれについて運動方程式を立てます。各物体にはたらく力は、ばねからの弾性力のみです。
この設問における重要なポイント

  • 物体AとBを別々の物体として考える。
  • ばねの伸びが \(X\) のとき、ばねが物体を引く力の大きさは \(kX\)。
  • 物体Aにはたらく力は右向き(正)、物体Bにはたらく力は左向き(負)であることに注意する。

具体的な解説と立式
ばねの伸びが \(X (>0)\) のとき、ばねは両端の物体を大きさ \(kX\) の力で引きます。

  • 物体Aについて:
    • はたらく力: ばねから右向き(正の向き)に大きさ \(kX\) の力を受ける。
    • 運動方程式: \(m_A a_A = kX\)
  • 物体Bについて:
    • はたらく力: ばねから左向き(負の向き)に大きさ \(kX\) の力を受ける。
    • 運動方程式: \(m_B a_B = -kX\)

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • フックの法則: \(F=kx\)
計算過程

この設問は運動方程式を立てるものであり、これ以上の計算はありません。

この設問の平易な説明

物体Aと物体Bは、それぞればねに引っ張られて運動します。ニュートンの法則 \(ma=F\) に従って、それぞれの物体について「質量 \( \times \) 加速度 \( = \) 力」という式を立てます。このとき、ばねが物体を引く力の向きに注意が必要です。

結論と吟味

運動方程式は、Aについては \(m_A a_A = kX\)、Bについては \(m_B a_B = -kX\) となります。2物体にはたらく力の大きさが等しく、向きが逆になっていることが確認できます。

解答 (4) A: \(m_A a_A = kX\), B: \(m_B a_B = -kX\)

問(5)

思考の道筋とポイント
問(4)で立てた2つの運動方程式を用いて、相対加速度 \(a = a_B – a_A\) とばねの伸び \(X\) の関係式を導きます。その式を、単振動の基本形式 \(Ma=-kX\) と比較することで、質量に相当する \(M\)(換算質量)と角振動数 \(\omega\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 問(4)の結果から \(a_A\) と \(a_B\) を求め、\(a = a_B – a_A\) に代入する。
  • 得られた式を \(Ma=-kX\) の形に整理する。

具体的な解説と立式
問(4)の結果から、それぞれの加速度は次のように表せます。
$$a_A = \frac{kX}{m_A}$$
$$a_B = -\frac{kX}{m_B}$$
これらを相対加速度の定義式 \(a = a_B – a_A\) に代入します。
$$a = \left(-\frac{kX}{m_B}\right) – \left(\frac{kX}{m_A}\right)$$

使用した物理公式

  • 運動方程式
  • 単振動の運動方程式: \(Ma=-kX\)
計算過程

上の式を整理して、\(Ma=-kX\) の形を目指します。
$$
\begin{aligned}
a &= -\left(\frac{1}{m_A} + \frac{1}{m_B}\right)kX \\[2.0ex]
&= -\left(\frac{m_A+m_B}{m_A m_B}\right)kX
\end{aligned}
$$
この式の両辺に \(\displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A+m_B}\) を掛けると、
$$\left(\frac{m_A m_B}{m_A+m_B}\right)a = -kX$$
この式を \(Ma=-kX\) と比較すると、質量に相当する \(M\) は、
$$M = \frac{m_A m_B}{m_A+m_B}$$
この \(M\) は換算質量と呼ばれます。
次に、角振動数 \(\omega\) を求めます。単振動の式 \(a = -\omega^2 X\) と、導出した \(a = -\left(\displaystyle\frac{m_A+m_B}{m_A m_B}\right)kX\) を比較します。
$$\omega^2 = \frac{k(m_A+m_B)}{m_A m_B}$$
これは \(\omega^2 = k/M\) とも書けます。したがって、角振動数 \(\omega\) は、
$$\omega = \sqrt{\frac{k(m_A+m_B)}{m_A m_B}}$$

この設問の平易な説明

2つの物体の動きを直接追いかけるのは大変なので、代わりに「2つの物体がどれだけ離れたり近づいたりするか」という相対的な動きに注目します。それぞれの運動方程式を組み合わせることで、この相対的な動きが、あたかも「換算質量」という特別な質量を持つ1つの物体が単振動しているかのように記述できることがわかります。この見方から、振動の周期などを計算できます。

結論と吟味

質量に相当する \(M\) は換算質量 \(\displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A+m_B}\) であり、角振動数 \(\omega\) は \(\sqrt{\displaystyle\frac{k(m_A+m_B)}{m_A m_B}}\) です。これは二体問題における既知の重要な結果です。

解答 (5) \(M = \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A+m_B}\), \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k(m_A+m_B)}{m_A m_B}}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
時刻 \(t\) の関数として、ばねの伸び \(X\) と物体Aの位置 \(x_A\) を求めます。

  • \(X(t)\): 相対運動が角振動数 \(\omega\) の単振動であることから求めます。初期条件(\(t=0\) で \(X=0\))と振幅を考慮します。
  • \(x_A(t)\): 重心が静止していること(\(x_G\)が一定)と、\(X\) と \(x_A\), \(x_B\) の関係式を連立して求めます。

この設問における重要なポイント

  • 相対運動は、振幅 \(A = L-l\)、角振動数 \(\omega\) の単振動。
  • \(t=0\) で \(X=0\) であり、その後 \(X\) は負(縮む)になるので、\(X(t) = -A\sin(\omega t)\) の形になる。
  • 重心は初めの位置から動かない。

具体的な解説と立式
1. \(X(t)\) を求める

相対運動は単振動であり、その方程式は \(X(t) = A\cos(\omega t + \phi)\) または \(A\sin(\omega t + \phi)\) と書けます。

  • 振幅: 手をはなしたときの伸びが \(L-l\) なので、振幅は \(A = L-l\)。
  • 初期条件: \(t=0\) でばねは自然長なので \(X(0)=0\)。この瞬間、物体は内側に向かって動いているので、ばねは縮み始めます(\(X\) は負になる)。

\(X(0)=0\) を満たすのは \(\sin\) 型です。また、\(t>0\) で \(X<0\) となるためには、係数が負である必要があります。
したがって、
$$X(t) = -(L-l)\sin(\omega t)$$

2. \(x_A(t)\) を求める

重心 \(x_G\) は動きません。任意の時刻 \(t\) において、
$$x_G = \frac{m_A x_A + m_B x_B}{m_A+m_B} \quad \cdots ④$$
また、ばねの伸びの定義から、
$$X = x_B – x_A – l \quad \cdots ⑤$$
式④と⑤から \(x_B\) を消去して \(x_A\) を求めます。
式⑤より、\(x_B\) は次のように表せます。
$$x_B = x_A + X + l$$
これを式④に代入します。
$$(m_A+m_B)x_G = m_A x_A + m_B(x_A + X + l)$$

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式: \(x = A\sin(\omega t + \phi)\)
  • 重心の定義式
計算過程

この式を \(x_A\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
(m_A+m_B)x_G &= m_A x_A + m_B x_A + m_B X + m_B l \\[2.0ex]
&= (m_A+m_B)x_A + m_B(X + l) \\[2.0ex]
(m_A+m_B)x_A &= (m_A+m_B)x_G – m_B(X + l)
\end{aligned}
$$
両辺を \((m_A+m_B)\) で割ると、
$$x_A = x_G – \frac{m_B}{m_A+m_B}(X+l)$$
ここに \(X(t) = -(L-l)\sin(\omega t)\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_A(t) &= x_G – \frac{m_B}{m_A+m_B}\left( \{-(L-l)\sin(\omega t)\} + l \right) \\[2.0ex]
&= x_G – \frac{m_B}{m_A+m_B}\{l – (L-l)\sin(\omega t)\}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ばねの伸び縮み \(X\) は、単純なサインカーブを描きます。振幅は最初の伸び \(L-l\) で、\(t=0\) で伸びがゼロになることから、\(X = -(L-l)\sin(\omega t)\) となります。
一方、物体Aの位置を知るには、もう一つの情報が必要です。それは「全体の重心は動かない」という事実です。重心の位置を表す式と、ばねの伸びを表す式を連立方程式として解くことで、物体Aの位置 \(x_A\) を時刻の関数として求めることができます。

結論と吟味

時刻 \(t\) の関数として、
\(X(t) = -(L-l)\sin(\omega t)\)
\(x_A(t) = x_G – \displaystyle\frac{m_B}{m_A+m_B}\{l – (L-l)\sin(\omega t)\}\)
となります。\(t=0\) で \(X=0\)、\(x_A = x_G – \displaystyle\frac{m_B l}{m_A+m_B}\) となり、物理的な状況と一致しています。

解答 (6) \(X = -(L-l)\sin(\omega t)\), \(x_A = x_G – \displaystyle\frac{m_B}{m_A+m_B}\{l – (L-l)\sin(\omega t)\}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量保存則:
    • 核心: 2物体を一つの系として見たとき、水平方向には外力が作用しないため、系の全運動量は常に保存されます。特に、初めに系全体が静止していた場合、全運動量は常にゼロです (\(m_A \vec{v_A} + m_B \vec{v_B} = \vec{0}\))。
    • 理解のポイント: この法則は、2物体の速度の関係を縛る強力な条件式を与えます。問(2)では、この法則があるからこそ、2つの未知数(\(v_A, v_B\))を求めることができます。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 核心: 系にはたらく力は、保存力であるばねの弾性力(内力)のみです。摩擦などの非保存力が仕事をしないため、系の力学的エネルギー(2物体の運動エネルギーとばねの弾性エネルギーの和)は常に保存されます。
    • 理解のポイント: 問(2)で運動量保存則と連立して速度を求める際に不可欠です。初めの弾性エネルギーが、運動の過程で2物体の運動エネルギーに変換されていく様子を定量的に記述します。
  • 相対運動と換算質量:
    • 核心: 2物体の相対運動(一方から見たもう一方の運動)だけを取り出すと、その運動は、質量が「換算質量 \(M = \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A+m_B}\)」である単一の物体が、同じばねで単振動する運動と数学的に等価になります。
    • 理解のポイント: 問(5)で導出するこの考え方は、二体問題を単体問題に帰着させるための非常に強力なテクニックです。複雑に見える2物体の運動も、「重心の運動(この場合は静止)」と「換算質量による単振動」という2つの単純な運動の重ね合わせとして理解できることを示しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 天体の二体問題: 2つの星が互いの万有引力によって運動する問題。万uy引力も内力なので、運動量と(角運動量も)保存されます。相対運動を考えることで、惑星の軌道問題を解くことができます。
    • 衝突問題: 2物体の衝突も、内力のみがはたらく短時間の現象とみなせば、運動量保存則が適用できます。
    • 台の上での物体の運動: なめらかな床の上の台の上で、物体がばねや摩擦で運動する問題。水平方向には外力がないため、台と物体の系で運動量保存則が成り立ちます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系全体に外力ははたらくか?: まず、考察する系(この場合は2物体)を定め、その系に対して外力がはたらかない方向(この場合は水平方向)を見つけます。その方向では運動量保存則が使えます。
    2. 非保存力は仕事をするか?: 摩擦や空気抵抗など、エネルギーを散逸させる非保存力が仕事をしていないかを確認します。していなければ、力学的エネルギー保存則が使えます。
    3. 重心の運動はどうなるか?: 外力がはたらかない場合、重心は等速直線運動をします。特に初速がゼロなら、重心は動きません。これは運動を拘束する強力な条件になります。
    4. 相対座標は有効か?: 2つの物体が相互作用しながら運動している場合、重心座標と相対座標を導入することで、問題が「重心の運動」と「相対運動」に分離され、見通しが良くなることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 保存則の適用範囲の誤解:
    • 誤解: 2つの物体を別々に考え、それぞれの物体でエネルギー保存則を立てようとしてしまう。
    • 対策: エネルギー保存則や運動量保存則は、複数の物体を含む「系」全体に対して適用する法則です。ばねの弾性力は、物体Aにとっては仕事をする力ですが、系全体で見れば内力です。個々の物体に対しては、運動方程式(\(ma=F\))を立てるのが基本です。
  • 換算質量の意味の誤解:
    • 誤解: 換算質量\(M\)を、2つの質量の合計や平均のようなものだと考えてしまう。
    • 対策: 換算質量は、あくまで「相対運動」を記述する際に現れる、計算上の便宜的な質量です。実際の物体の質量とは異なります。\(M = (1/m_A + 1/m_B)^{-1}\) という形から、質量の「逆数の和の逆数」であり、2つの質量のどちらよりも小さい値になることを理解しておきましょう。
  • 単振動の初期位相の決定ミス:
    • 誤解: 問(6)で、\(t=0\)で\(X=0\)だからといって、安易に \(X(t) = (L-l)\sin(\omega t)\) と置いてしまう。
    • 対策: 単振動の式を立てるときは、\(t=0\)での位置だけでなく、その後の運動の向き(速度の符号)も考慮する必要があります。\(t=0\)で\(X=0\)の後、ばねは縮む(\(X\)が負になる)ので、グラフは原点を通って負の方向に下がるサインカーブ、すなわち \(-\sin\) 型になると判断します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動量保存則と力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: 問(2)で2つの未知数(\(v_A, v_B\))を求める必要があるため、2つの独立した方程式が必要です。系に外力がなく、非保存力が仕事をしないという条件から、この2つの保存則が最も強力なツールとして選ばれます。
    • 適用根拠: ニュートンの第2法則(運動方程式)と第3法則(作用・反作用の法則)から導かれる普遍的な法則です。
  • 運動方程式 (\(m_A a_A = kX\), etc.):
    • 選定理由: 問(5)で相対運動の性質を調べるため。各物体の加速度を力の源泉(ばねの伸び\(X\))と結びつけ、それらを組み合わせることで相対加速度の式を導出できます。
    • 適用根拠: 個々の物体の運動の力学的な性質を記述するための基本法則。
  • 単振動の式 (\(Ma=-kX\)):
    • 選定理由: 問(5), (6)で相対運動の周期的性質(角振動数)や時間変化を記述するため。この形に帰着させることで、単振動に関する豊富な知識(周期、変位の式など)を応用できます。
    • 適用根拠: 2物体の運動方程式から数学的に導出された、相対運動が満たすべき方程式。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 速度、加速度、力の向きを座標軸の正負と照らし合わせ、符号を慎重に扱いましょう。問(2)や問(4)で力の向きを間違えると、以降の計算がすべてずれてしまいます。
    • 日頃の練習: 運動方程式を立てる際は必ず物体ごとにはたらく力を図示し、座標軸の向きと力の向きを一つ一つ確認する癖をつける。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: 問(2)や問(5)のように、多くの文字を含む計算では、共通因数でくくる、分数を整理するなど、式をできるだけシンプルな形に保ちながら計算を進めることが重要です。
    • 日頃の練習: 特に換算質量の部分は、\(\displaystyle\frac{1}{M} = \frac{1}{m_A} + \frac{1}{m_B}\) の形で覚えておくと、式の見通しが良くなる場合があります。
  • 連立方程式の処理:
    • 特に注意すべき点: 問(2)や問(6)のように、複数の未知数を含む連立方程式を解く際には、どの変数を消去し、どの変数で表すか、という見通しを立ててから計算を始めるとスムーズです。
    • 日頃の練習: 物理的な意味を考えながら式変形を行う。例えば、問(6)では「重心が動かない」という物理的な条件から式を立て、それを代数的な計算に落とし込む。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 問(2) 速度: \(v_A\) は正、\(v_B\) は負となっており、物体が互いに引き合う向きに動くという直感と一致する。また、\(|v_A|:|v_B| = m_B:m_A\) であり、質量の逆比になっていることも妥当。
    • 問(5) 換算質量と角振動数: 換算質量 \(M\) は \(m_A\) と \(m_B\) のどちらよりも小さい。角振動数 \(\omega\) は、ばねが硬い(\(k\)が大きい)ほど、また物体が軽い(\(M\)が小さい)ほど大きくなり、振動が速くなるという直感と一致する。
    • 問(6) 時刻の関数: \(t=0\) で \(X=0\)、\(v_X = \displaystyle\frac{dX}{dt} = -(L-l)\omega \cos(0) < 0\) となり、ばねが縮み始めるという初期条件と一致している。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし \(m_A = m_B = m\) ならどうなるか?:
      • 問(2)の速度は \(v_A = (L-l)\sqrt{k/2m}\), \(v_B = -(L-l)\sqrt{k/2m}\) となり、速さが等しく向きが逆になる。対称性から考えて妥当。
      • 問(5)の換算質量は \(M = m/2\)、角振動数は \(\omega = \sqrt{2k/m}\) となる。これも妥当な結果。
    • もし \(m_B\) が非常に大きい(壁のようなもの、\(m_B \rightarrow \infty\))ならどうなるか?:
      • 換算質量 \(M = \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A+m_B} = \frac{m_A}{1+m_A/m_B} \rightarrow m_A\)。
      • 角振動数 \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k(m_A+m_B)}{m_A m_B}} = \sqrt{\frac{k}{M}} \rightarrow \sqrt{k/m_A}\)。
      • これは、質量\(m_A\)の物体が壁につながれたばねで単振動する状況と一致し、結果が妥当であることがわかる。

問題62 (東北大改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球の周りを回る円運動と、地球を貫くトンネル内での単振動、そして万有引力による位置エネルギーと仕事の関係をテーマにしています。万有引力に関する様々な側面を総合的に問う問題です。

与えられた条件
  • 地球: 質量 \(M\)、半径 \(R\)、一様な密度を持つ球
  • 小球: 質量 \(m\)
  • 万有引力定数: \(G\)
  • 状況1: 小球が地表から高さ \(h\) の軌道で円運動
  • 状況2: 地球の中心Oを通るトンネル内を小球が運動
    • 地球内部(\(r \le R\))での万有引力は、中心から半径\(r\)の球の質量\(M’\)が中心に集中したものとして計算できる
  • 状況3: 点A(地表)から高さ\(h\)の点Hから小球を静かにはなし、中心Oまで落下させる
問われていること
  • (1a) 高さ\(h\)での円運動における万有引力の大きさ \(F_1\)
  • (1b) 円運動の速さ \(V\)
  • (1c) 円運動の周期 \(T_1\)
  • (2a) 地球内部の半径\(r\)の球の質量\(M’\)が \(M’ = M(r^3/R^3)\) となることの証明
  • (2b) 地球内部(\(r<R\))での万有引力の大きさ \(F_2\)
  • (2c) トンネル内の運動の周期 \(T_2\)
  • (3a) 点Hから点Aまで落下する間の万有引力がする仕事 \(W_1\)
  • (3b) 点Aから中心Oまで落下する間の万有引力がする仕事 \(W_2\)
  • (3c) 地球の中心Oにおける小球の速さ \(v\)
  • (3d) 地球の中心から距離\(r\)の位置における万有引力による位置エネルギー \(U\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3a) 万有引力がする仕事\(W_1\)の別解: 力の積分(\(F-r\)グラフの面積)による解法
      • 主たる解法が位置エネルギーの差(\(W = -\Delta U\))から仕事を計算するのに対し、別解では仕事の定義に立ち返り、万有引力の大きさ\(F(r) = G\frac{Mm}{r^2}\)を\(r=R+h\)から\(r=R\)まで積分する(\(F-r\)グラフの面積を求める)ことで直接的に仕事を計算します。
    • 問(3b) 万有引力がする仕事\(W_2\)の別解: 位置エネルギーの差による解法
      • 主たる解法が\(F-r\)グラフの面積から仕事を計算するのに対し、別解では(3d)で求める地球内部での位置エネルギーの公式を先に導出し、その差から仕事を計算します。設問の順序とは異なりますが、エネルギーという統一的な視点から解くアプローチです。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的定義の深化: 「仕事」と「位置エネルギー」が表裏一体の関係にあることを、両方向からのアプローチ(位置エネルギーの差から仕事を求める/仕事を計算して位置エネルギーを定義する)を通じて深く理解できます。
    • 計算手法の習得: 力が変化する場合の仕事の計算方法として、\(F-r\)グラフの面積を用いる手法は、万有引力に限らず電磁気力など様々な場面で応用できる重要なスキルです。
    • 思考の柔軟性: 同じ「仕事」を求める問題でも、エネルギーの観点から解くか、力の積分(面積)から解くか、状況に応じて最適な手法を選択する判断力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「万有引力」とその応用です。円運動、単振動、仕事とエネルギーといった複数の分野にまたがる総合的な理解が求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則: 2つの質点間に働く引力の大きさは、質量の積に比例し、距離の2乗に反比例します (\(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\))。
  2. 円運動の運動方程式: 円運動する物体には、中心に向かう向心力が必要です。運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\) となります。
  3. 単振動: 物体にはたらく復元力が、つりあいの位置からの変位に比例するとき(\(F=-Kx\))、物体は単振動します。
  4. 仕事とエネルギー: 万有引力は保存力であり、位置エネルギーを定義できます。万有引力がする仕事は、位置エネルギーの変化として計算できます (\(W = -\Delta U\))。また、力が距離によって変化する場合、その仕事は \(F-r\) グラフの面積で求めることができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、地球の外部での万有引力を考え、円運動の運動方程式を立てて速さや周期を求めます((1))。
  2. 次に、地球の内部での万有引力の特殊な性質を理解し、それが復元力となって単振動を引き起こすことを示します((2))。
  3. 最後に、万有引力がする仕事を、位置エネルギーの定義、または力が距離によって変化することを利用して計算し、仕事と運動エネルギーの関係から速さを求めます((3))。

問(1a)

思考の道筋とポイント
万有引力の法則の公式 \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\) を適用します。ここで、2物体間の距離 \(r\) が地球の中心から小球までの距離であることに注意します。
この設問における重要なポイント

  • 万有引力は、物体の中心間の距離で計算する。
  • 地球の中心から小球までの距離は \(R+h\)。

具体的な解説と立式

  • 地球の質量: \(M\)
  • 小球の質量: \(m\)
  • 中心間の距離: \(r = R+h\)

万有引力の法則より、力の大きさ \(F_1\) は、
$$F_1 = G\frac{Mm}{(R+h)^2}$$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

公式に代入するだけであり、これ以上の計算はありません。

この設問の平易な説明

万有引力の大きさは、公式「万有引力定数 \( \times \) (質量1) \( \times \) (質量2) \( \div \) (中心間距離)\(^2\)」で計算できます。地球の中心から小球までの距離は、地球の半径\(R\)と高さ\(h\)を足した \(R+h\) になります。

結論と吟味

万有引力の大きさは \(F_1 = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) です。これは公式通りの基本的な結果です。

解答 (1a) \(G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\)

問(1b)

思考の道筋とポイント
小球は、(1a)で求めた万有引力 \(F_1\) を向心力として円運動しています。円運動の運動方程式を立てて、速さ \(V\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の向心力は、万有引力によって供給される。
  • 円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) を正しく立てる。

具体的な解説と立式

  • 小球の質量: \(m\)
  • 速さ: \(V\)
  • 円運動の半径: \(r = R+h\)
  • 向心力: \(F_1 = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\)

円運動の運動方程式は、
$$m\frac{V^2}{R+h} = G\frac{Mm}{(R+h)^2}$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

この式を \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{V^2}{R+h} &= G\frac{M}{(R+h)^2} \\[2.0ex]
V^2 &= \frac{GM}{R+h}
\end{aligned}
$$
\(V>0\) なので、
$$V = \sqrt{\frac{GM}{R+h}}$$

この設問の平易な説明

小球が円を描いて飛び去らずに回り続けられるのは、地球が万有引力で常に中心方向に引っ張っているからです。この「円運動に必要な力(向心力)」と「万有引力」が等しいという式を立てることで、小球の速さを計算できます。

結論と吟味

速さは \(V = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\) です。これは人工衛星の速さ(第一宇宙速度)の一般式であり、軌道半径が大きいほど速さが遅くなるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (1b) \(\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\)

問(1c)

思考の道筋とポイント
周期とは、円軌道を1周するのにかかる時間のことです。距離(円周)を速さで割ることで求められます。
この設問における重要なポイント

  • 周期の定義: \(T = (\text{円周の長さ}) / (\text{速さ})\)
  • 円周の長さは \(2\pi r = 2\pi(R+h)\)。

具体的な解説と立式

  • 円周の長さ: \(2\pi(R+h)\)
  • 速さ: \(V = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\)

周期 \(T_1\) は、
$$T_1 = \frac{2\pi(R+h)}{V}$$

使用した物理公式

  • 周期と速さの関係: \(T = 2\pi r / v\)
計算過程

この式に(1b)で求めた \(V\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{2\pi(R+h)}{\sqrt{\frac{GM}{R+h}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi(R+h) \sqrt{\frac{R+h}{GM}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{(R+h)^3}{GM}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

周期は1周する時間のことです。円周の長さを、(1b)で求めた速さで割れば、1周にかかる時間が計算できます。

結論と吟味

周期は \(T_1 = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{(R+h)^3}{GM}}\) です。この \(T_1^2 \propto (R+h)^3\) という関係は、ケプラーの第3法則として知られており、妥当な結果です。

解答 (1c) \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{(R+h)^3}{GM}}\)

問(2a)

思考の道筋とポイント
地球の密度が一様であることを利用して、地球全体の質量 \(M\) と、半径 \(r\) の球内部の質量 \(M’\) をそれぞれ密度 \(\rho\) を用いて表し、その比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 地球の密度 \(\rho\) は一定。
  • 質量 = 密度 × 体積
  • 球の体積の公式: \(V = \displaystyle\frac{4}{3}\pi (\text{半径})^3\)

具体的な解説と立式
地球の密度を \(\rho\) とします。

  • 地球全体の質量 \(M\) と体積 \(V_{\text{全体}}\):
    $$M = \rho \cdot \frac{4}{3}\pi R^3 \quad \cdots ①$$
  • 半径 \(r\) の球内部の質量 \(M’\) と体積 \(V’\):
    $$M’ = \rho \cdot \frac{4}{3}\pi r^3 \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 質量と密度の関係
  • 球の体積の公式
計算過程

式②を式①で割ることで、密度\(\rho\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{M’}{M} &= \frac{\rho \cdot \frac{4}{3}\pi r^3}{\rho \cdot \frac{4}{3}\pi R^3} \\[2.0ex]
\frac{M’}{M} &= \frac{r^3}{R^3}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$M’ = M\frac{r^3}{R^3}$$

この設問の平易な説明

地球の密度はどこでも同じなので、「質量」は「体積」に比例します。また、球の「体積」は「半径の3乗」に比例します。したがって、「質量」は「半径の3乗」に比例することになります。この比例関係を使って、地球全体の質量\(M\)から、内部の小さい球の質量\(M’\)を計算します。

結論と吟味

\(M’ = M\displaystyle\frac{r^3}{R^3}\) が示されました。これは問題文で与えられた関係式そのものです。

解答 (2a) 上記証明の通り

問(2b)

思考の道筋とポイント
地球内部(\(r<R\))での万有引力は、半径\(r\)の球の質量\(M’\)が中心に集まったものとして計算できる、という問題文の指示に従います。
この設問における重要なポイント

  • 地球内部では、自分より内側にある質量からの引力のみを考えればよい。
  • 万有引力の公式 \(F = G\displaystyle\frac{M’m}{r^2}\) に、(2a)で求めた\(M’\)を代入する。

具体的な解説と立式
地球の中心から距離\(r\)の位置にある小球にはたらく万有引力 \(F_2\) は、質量 \(M’\) の物体から受ける引力に等しいので、
$$F_2 = G\frac{M’m}{r^2}$$
ここに、(2a)で求めた \(M’ = M\displaystyle\frac{r^3}{R^3}\) を代入します。
$$F_2 = G\frac{(M\frac{r^3}{R^3})m}{r^2}$$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則(地球内部版)
計算過程

この式を整理します。
$$
\begin{aligned}
F_2 &= G\frac{Mm}{r^2}\frac{r^3}{R^3} \\[2.0ex]
&= \frac{GMm}{R^3}r
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

地球の内部にいるとき、万有引力は外側にいるときとは少し違った振る舞いをします。自分より外側の地殻からの引力は、うまく打ち消し合ってゼロになります。そのため、自分より内側にある部分の質量だけを考えればよくなります。(2a)で計算した内側の質量を使って、万有引力の公式を適用します。

結論と吟味

地球内部での万有引力は \(F_2 = \displaystyle\frac{GMm}{R^3}r\) となります。これは、力が中心からの距離\(r\)に比例することを示しています。これはフックの法則 \(F=kx\) と同じ形であり、小球が単振動することを示唆しています。

解答 (2b) \(\displaystyle\frac{GMm}{R^3}r\)

問(2c)

思考の道筋とポイント
(2b)で求めた万有引力 \(F_2\) が復元力となって、小球は単振動します。運動方程式を立て、単振動の基本形式 \(ma = -Kx\) と比較して角振動数を求め、周期を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 地球内部での万有引力が復元力となる。
  • 運動方程式を立て、\(a = -\omega^2 r\) の形に変形する。

具体的な解説と立式
地球の中心を原点とし、中心から離れる向きを正とすると、万有引力(復元力)は常に中心向き(負の向き)にはたらくので、その力は \(F = -F_2 = -\displaystyle\frac{GMm}{R^3}r\) です。
運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ma = -\frac{GMm}{R^3}r$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 単振動の周期: \(T = 2\pi/\omega\)
計算過程

この式を加速度 \(a\) について解きます。
$$a = -\frac{GM}{R^3}r$$
これは単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 r\) と同じ形です。係数を比較すると、
$$\omega^2 = \frac{GM}{R^3}$$
$$\omega = \sqrt{\frac{GM}{R^3}}$$
したがって、周期 \(T_2\) は、
$$T_2 = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{R^3}{GM}}$$

この設問の平易な説明

(2b)で、地球の中心に近づくほど引かれる力が弱まり、中心からの距離に比例することがわかりました。これは、ばねが自然長からの距離に比例した力で引き戻すのと同じ形です。したがって、トンネル内の小球は、ばねにつながれたおもりのように単振動します。その周期を、運動方程式から計算します。

結論と吟味

周期は \(T_2 = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R^3}{GM}}\) です。これは、地表すれすれを飛ぶ人工衛星の周期((1c)で\(h=0\)とした場合)と一致します。これは偶然ではなく、地球内部の単振動と地表の円運動が同じ周期を持つという、よく知られた興味深い事実です。

解答 (2c) \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R^3}{GM}}\)

問(3a)

思考の道筋とポイント
万有引力がする仕事は、位置エネルギーの変化で計算するのが簡単です。万有引力による位置エネルギーの公式 \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を用いて、始点Hと終点Aでの位置エネルギーを求め、その差から仕事を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 保存力がする仕事: \(W = – \Delta U = U_{\text{始点}} – U_{\text{終点}}\)
  • 万有引力による位置エネルギーの公式: \(U(r) = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

具体的な解説と立式

  • 始点H: 地球中心からの距離は \(r_H = R+h\)。
    位置エネルギー: \(U_H = -G\displaystyle\frac{Mm}{R+h}\)
  • 終点A: 地球中心からの距離は \(r_A = R\)。
    位置エネルギー: \(U_A = -G\displaystyle\frac{Mm}{R}\)

万有引力がする仕事 \(W_1\) は、
$$W_1 = U_H – U_A$$

使用した物理公式

  • 仕事と位置エネルギーの関係: \(W = -\Delta U\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_1 &= \left(-G\frac{Mm}{R+h}\right) – \left(-G\frac{Mm}{R}\right) \\[2.0ex]
&= GMm\left(\frac{1}{R} – \frac{1}{R+h}\right) \\[2.0ex]
&= GMm\left(\frac{(R+h)-R}{R(R+h)}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{GMmh}{R(R+h)}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

万有引力のような保存力がする仕事は、「(スタート地点の)位置エネルギー – (ゴール地点の)位置エネルギー」で計算できます。それぞれの地点での位置エネルギーを公式から求め、引き算をします。

結論と吟味

仕事 \(W_1\) は \(\displaystyle\frac{GMmh}{R(R+h)}\) です。物体が引力の向きに移動しているので、仕事は正の値となり、妥当です。

別解: 力の積分(\(F-r\)グラフの面積)による解法

思考の道筋とポイント
仕事の定義 \(W = \int F dr\) に従って、万有引力 \(F(r) = G\frac{Mm}{r^2}\) を始点 \(r=R+h\) から終点 \(r=R\) まで積分して仕事を直接計算します。
この設問における重要なポイント

  • 仕事は力の積分で定義される。
  • \(\int \frac{1}{r^2} dr = -\frac{1}{r}\) の積分公式を利用する。

具体的な解説と立式
万有引力がする仕事 \(W_1\) は、力 \(-G\frac{Mm}{r^2}\) (中心向きを負とする)を \(r=R+h\) から \(r=R\) まで積分します。
$$W_1 = \int_{R+h}^{R} \left(-G\frac{Mm}{r^2}\right) dr$$

使用した物理公式

  • 仕事の定義: \(W = \int F dr\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_1 &= GMm \int_{R+h}^{R} \left(-\frac{1}{r^2}\right) dr \\[2.0ex]
&= GMm \left[ \frac{1}{r} \right]_{R+h}^{R} \\[2.0ex]
&= GMm \left( \frac{1}{R} – \frac{1}{R+h} \right) \\[2.0ex]
&= GMm \left( \frac{(R+h) – R}{R(R+h)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{GMmh}{R(R+h)}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

力が一定でない場合、仕事は単純な掛け算では計算できません。「力-距離グラフ」を考えたときの面積を求める必要があり、これは数学の積分に対応します。ここでは、万有引力の式を積分することで、仕事の大きさを直接計算します。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、位置エネルギーが \(U = -\int F dr\) という形で定義されていることに対応しており、仕事と位置エネルギーの関係の根本を理解する上で有益なアプローチです。

解答 (3a) \(\displaystyle\frac{GMmh}{R(R+h)}\)

問(3b)

思考の道筋とポイント
点A(地表)から中心Oまで落下する間に万有引力がする仕事を求めます。この区間では、万有引力の大きさが距離\(r\)に比例して変化します(\(F_2 = \displaystyle\frac{GMm}{R^3}r\))。力が一定でないため、仕事の計算には積分、または \(F-r\) グラフの面積を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 地球内部では、万有引力は \(F_2 \propto r\) と変化する。
  • 力が変化する場合の仕事は、\(F-r\) グラフの面積に等しい。

具体的な解説と立式
仕事 \(W_2\) は、\(r=R\) から \(r=0\) までの間に力 \(F_2\) がする仕事です。
\(F-r\) グラフを考えると、\(F_2\) は \(r\) に比例する直線なので、グラフは原点を通る直線になります。
仕事 \(W_2\) は、このグラフの \(r=0\) から \(r=R\) までの面積(三角形の面積)に等しくなります。

  • 底辺: \(R\)
  • 高さ(\(r=R\)での力): \(F_2(R) = \displaystyle\frac{GMm}{R^3}R = \displaystyle\frac{GMm}{R^2}\)

したがって、仕事 \(W_2\) は、
$$W_2 = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})$$

使用した物理公式

  • 仕事の定義(力が変化する場合): \(W = \int F dr\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_2 &= \frac{1}{2} \times R \times \frac{GMm}{R^2} \\[2.0ex]
&= \frac{GMm}{2R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

地表から中心に向かうとき、万有引力は一定ではなく、中心に近づくにつれて弱くなっていきます。このように力が変化する場合、仕事は単純な「力×距離」では計算できません。力の大きさをグラフに描くと三角形になるので、その面積を求めることで、仕事の大きさを計算します。

結論と吟味

仕事 \(W_2\) は \(\displaystyle\frac{GMm}{2R}\) です。これも引力の向きへの移動なので、仕事は正となり妥当です。

別解: 位置エネルギーの差による解法

思考の道筋とポイント
(3d)で求める地球内部での位置エネルギーの公式 \(U(r) = \displaystyle\frac{GMm}{2R^3}(r^2 – 3R^2)\) を先に導出し、仕事と位置エネルギーの関係 \(W = U_{始点} – U_{終点}\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 始点A(\(r=R\))と終点O(\(r=0\))での位置エネルギーを求める。
  • \(W_{A \rightarrow O} = U_A – U_O\)

具体的な解説と立式
まず、(3d)の結果を用いると、

  • 始点A(\(r=R\))での位置エネルギー: \(U_A = \displaystyle\frac{GMm}{2R^3}(R^2 – 3R^2) = -G\frac{Mm}{R}\)
  • 終点O(\(r=0\))での位置エネルギー: \(U_O = \displaystyle\frac{GMm}{2R^3}(0^2 – 3R^2) = -\frac{3GMm}{2R}\)

仕事 \(W_2\) は、
$$W_2 = U_A – U_O$$

使用した物理公式

  • 仕事と位置エネルギーの関係: \(W = -\Delta U\)
  • 地球内部の位置エネルギーの式 (問(3d)の結果)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_2 &= \left(-G\frac{Mm}{R}\right) – \left(-\frac{3GMm}{2R}\right) \\[2.0ex]
&= GMm \left(-\frac{1}{R} + \frac{3}{2R}\right) \\[2.0ex]
&= GMm \left(\frac{-2+3}{2R}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{GMm}{2R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

エネルギーという一貫した視点で考えます。(3d)で地球内部のどの場所でも位置エネルギーが計算できる式を求めておけば、地表Aと中心Oのエネルギーを計算し、その差をとるだけで仕事が求められます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。設問の順序に捉われず、物理的に等価な関係性を利用することで、検算や別のアプローチが可能になることを示しています。

解答 (3b) \(\displaystyle\frac{GMm}{2R}\)

問(3c)

思考の道筋とポイント
点Hから中心Oまでの全区間について、「仕事と運動エネルギーの関係」を考えます。小球には万有引力のみが仕事をするので、全仕事は \(W_1 + W_2\) です。これが運動エネルギーの変化に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W_{\text{全体}}\)
  • 初めの状態(点H)では速さ0。
  • 全仕事は、(3a)と(3b)で求めた仕事の和。

具体的な解説と立式

  • 初めの運動エネルギー: \(K_H = 0\)
  • 終わりの運動エネルギー: \(K_O = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 全仕事: \(W_{\text{全体}} = W_1 + W_2\)

仕事と運動エネルギーの関係より、
$$\frac{1}{2}mv^2 – 0 = W_1 + W_2$$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(K_{\text{後}} – K_{\text{初}} = W\)
計算過程

この式に \(W_1, W_2\) を代入し、\(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= \frac{GMmh}{R(R+h)} + \frac{GMm}{2R} \\[2.0ex]
\frac{1}{2}v^2 &= \frac{GMh}{R(R+h)} + \frac{GM}{2R} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{2GMh}{R(R+h)} + \frac{GM}{R} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{GM}{R}\left(\frac{2h}{R+h} + 1\right) \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{GM}{R}\left(\frac{2h + (R+h)}{R+h}\right) \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{GM(R+3h)}{R(R+h)}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$v = \sqrt{\frac{GM(R+3h)}{R(R+h)}}$$

この設問の平易な説明

物体がされた仕事の分だけ、物体の運動エネルギーは増加します。スタート(点H)からゴール(中心O)までに万有引力がした仕事の合計は、(3a)と(3b)で計算しました。この仕事の合計が、中心Oでの運動エネルギーに等しい、という式を立てて速さ\(v\)を求めます。

結論と吟味

速さは \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM(R+3h)}{R(R+h)}}\) です。\(h=0\) の場合、\(v=\sqrt{GM/R}\) となり、これは地表からトンネルに飛び込んだ場合の速さとして妥当な値です。

解答 (3c) \(\sqrt{\displaystyle\frac{GM(R+3h)}{R(R+h)}}\)

問(3d)

思考の道筋とポイント
地球内部(\(r<R\))での万有引力による位置エネルギーを求めます。位置エネルギーは、基準点(無限遠)からその点まで、外力が万有引力に逆らってする仕事に等しいです。しかし、この計算は高校範囲では複雑なので、ここでは「保存力がする仕事は位置エネルギーの減少分に等しい」という関係を利用します。
この設問における重要なポイント

  • \(U(r) – U_A = -W_{A \rightarrow r}\)
  • \(W_{A \rightarrow r}\) は、地表Aから距離\(r\)の点まで万有引力がする仕事。
  • この仕事は、\(F_2-r\)グラフの面積(台形の面積)で計算できる。

具体的な解説と立式
地表A(\(r=R\))での位置エネルギーは \(U_A = -G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) です。
中心から距離\(r\)の点での位置エネルギーを \(U(r)\) とします。
この2点間の位置エネルギーの差は、その間に万有引力がした仕事 \(W_{A \rightarrow r}\) の符号を逆にしたものに等しいです。
$$U(r) – U_A = -W_{A \rightarrow r}$$
仕事 \(W_{A \rightarrow r}\) は、(3b)と同様に \(F_2-r\) グラフの面積から求めます。これは、\(r\) から \(R\) までの区間の面積(台形)です。

  • 上底(\(r\)での力): \(F_2(r) = \displaystyle\frac{GMm}{R^3}r\)
  • 下底(\(R\)での力): \(F_2(R) = \displaystyle\frac{GMm}{R^2}\)
  • 高さ: \(R-r\)

$$W_{A \rightarrow r} = \frac{1}{2}\left(\frac{GMm}{R^3}r + \frac{GMm}{R^2}\right)(R-r)$$
したがって、
$$U(r) = U_A – W_{A \rightarrow r}$$

使用した物理公式

  • 仕事と位置エネルギーの関係: \(\Delta U = -W\)
計算過程

この式を整理します。
$$
\begin{aligned}
W_{A \rightarrow r} &= \frac{GMm}{2R^3}(r+R)(R-r) \\[2.0ex]
&= \frac{GMm}{2R^3}(R^2-r^2)
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
U(r) &= U_A – W_{A \rightarrow r} \\[2.0ex]
&= -G\frac{Mm}{R} – \frac{GMm}{2R^3}(R^2-r^2) \\[2.0ex]
&= -G\frac{Mm}{R} – \frac{GMm}{2R} + \frac{GMm}{2R^3}r^2 \\[2.0ex]
&= -\frac{3GMm}{2R} + \frac{GMm}{2R^3}r^2 \\[2.0ex]
&= \frac{GMm}{2R^3}(r^2 – 3R^2)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

位置エネルギーは、「その場所まで物体を運ぶのに必要な仕事」のようなものです。地表Aでの位置エネルギーはわかっているので、そこから中心に向かって距離\(r\)の場所まで移動する間に、万有引力がどれだけ仕事をするかを計算します。その仕事の分だけ、位置エネルギーが変化します。

結論と吟味

位置エネルギーは \(U(r) = \displaystyle\frac{GMm}{2R^3}(r^2 – 3R^2)\) です。

  • \(r=R\)(地表)を代入すると、\(U(R) = \displaystyle\frac{GMm}{2R^3}(R^2 – 3R^2) = -G\frac{Mm}{R}\) となり、地表での位置エネルギーの公式と一致します。
  • \(r=0\)(中心)を代入すると、\(U(0) = -\displaystyle\frac{3GMm}{2R}\) となり、地表より低いエネルギー値となります。これは物理的に妥当です。
解答 (3d) \(\displaystyle\frac{GMm}{2R^3}(r^2 – 3R^2)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力の法則:
    • 核心: 2つの質点(または球対称の物体)が及ぼしあう引力は、質量の積に比例し、中心間距離の2乗に反比例します (\(F = G\frac{Mm}{r^2}\))。これは地球の「外側」での運動(問(1)や問(3a))を考える際の基本です。
    • 理解のポイント: この法則が、円運動の向心力や、位置エネルギーの源泉となります。
  • 地球内部での万有引力(ガウスの法則の帰結):
    • 核心: 地球内部(中心からの距離\(r<R\))では、小球にはたらく万有引力は、小球より内側にある質量(半径\(r\)の球)だけを考えればよく、その大きさは中心からの距離\(r\)に比例します (\(F_2 = \frac{GMm}{R^3}r\))。
    • 理解のポイント: この性質が、トンネル内の運動が単振動になる理由です。力が\(r\)に比例するため、復元力として働き、運動方程式が \(ma = -Kr\) の形になります。この法則は問題文で与えられていますが、非常に重要な概念です。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: 万有引力は保存力なので、力学的エネルギー(運動エネルギー+万有引力による位置エネルギー)は保存されます。また、より一般的に、万有引力がした仕事は物体の運動エネルギーを変化させます (\(\Delta K = W\))。
    • 理解のポイント: 問(3)のように、力が距離によって複雑に変化する区間(地球の外側と内側)をまたいで運動を解析する場合、各区間で力がした仕事を計算し、それらを足し合わせることで、全体のエネルギー変化を追うことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工衛星のエネルギー問題: 衛星が円運動から楕円運動に移る、あるいは別の円軌道に移る際に必要なエネルギーを問う問題。各軌道での力学的エネルギーを計算し、その差を考えます。
    • 惑星探査機のスイングバイ: 惑星の引力を利用して探査機を加速・減速させる問題。惑星との相対運動におけるエネルギー保存を考えます。
    • 一様な電荷を持つ球内外の電場: 万有引力とクーロン力は同じ逆2乗則に従うため、一様に帯電した球が作る電場も、球の外側では \(1/r^2\) に、内側では \(r\) に比例します。この問題の考え方は、電磁気学にも直接応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体はどこにあるか?(球の外か内か): 万有引力の法則は、物体が引力源となる球の外にあるか内にあるかで、力の形が劇的に変わります。まず、この位置関係を明確にすることが第一歩です。
    2. 運動の形は何か?(円運動か、単振動か、落下か):
      • 一定の軌道半径で周回 \(\rightarrow\) 円運動の運動方程式
      • 中心に向かって往復 \(\rightarrow\) 単振動の可能性を疑い、復元力が変位に比例するか確認
      • ある点から別の点へ移動 \(\rightarrow\) 仕事とエネルギーの関係
    3. エネルギーと仕事のどちらで考えるか?:
      • 位置エネルギーの式が簡単に書ける区間なら、\(W = -\Delta U\) が便利。
      • 力が距離に比例するなど、\(F-r\)グラフの面積が簡単に求まる場合は、グラフから仕事を直接計算するのも有効な手段です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 万有引力の距離\(r\)の扱い:
    • 誤解: 問(1a)で、距離を地表からの高さ\(h\)としてしまう (\(F \propto 1/h^2\))。
    • 対策: 万有引力は、常に2物体の「中心間」の距離で計算します。図を描いて、地球の中心Oから小球までの距離が \(R+h\) であることを視覚的に確認しましょう。
  • 地球内部での力の形の誤解:
    • 誤解: 地球のトンネル内でも、万有引力は \(1/r^2\) に比例すると思い込んでしまう。
    • 対策: 「自分より外側の殻からの引力は打ち消しあう」という特殊なルールをしっかり記憶しましょう。これにより、内部では \(F \propto r\) という、ばねのような復元力になることを理解するのが鍵です。
  • 仕事の計算方法:
    • 誤解: 問(3b)のように力が一定でない区間で、安易に「力×距離」で仕事を計算してしまう。
    • 対策: 力が距離の関数として与えられている場合、仕事は積分(高校範囲ではグラフの面積)で求めるのが原則です。\(F-r\)グラフを描いて、仕事がどの部分の面積に対応するかを考える習慣をつけましょう。
  • 位置エネルギーの符号:
    • 誤解: 万有引力による位置エネルギーのマイナス符号を忘れる、または意味を理解していない。
    • 対策: 位置エネルギーの基準は無限遠点(\(U=0\))です。万有引力は引力なので、そこから有限の距離に物体を近づけると、引力に引かれてエネルギー状態は低く(安定に)なります。したがって、位置エネルギーは必ず負の値をとると理解しましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 円運動の運動方程式:
    • 選定理由: 問(1b)で、小球が「円運動」という特定の運動形態をとっているため。この方程式は、円運動を維持するための力の条件を記述します。
    • 適用根拠: 物体が一定の速さで円軌道を描いているという物理的状況。
  • 運動方程式 (\(ma=-Kr\)) からの周期計算:
    • 選定理由: 問(2c)で「周期」を求めるため。周期は運動の時間スケールであり、運動の時間変化を記述する運動方程式から導出するのが基本です。
    • 適用根拠: 地球内部での万有引力が \(F \propto r\) の復元力となり、運動が単振動になるという物理的状況。
  • 仕事とエネルギーの関係:
    • 選定理由: 問(3)で、始点と終点が決まっている運動での「速さ」を求めるため。運動の途中経過を追う必要がなく、始点と終点の状態と、その間にされた仕事だけで計算できるため、非常に強力です。
    • 適用根拠: 運動方程式を積分したものであり、力が変化する場合でも適用できる普遍的な法則。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • Rとrとhの区別:
    • 特に注意すべき点: 半径や距離を表す文字が複数出てくるので、どの文字が何を表しているかを常に意識しましょう。特に、万有引力や位置エネルギーの公式で使う距離は、必ず「中心から」の距離\(r\)です。
    • 日頃の練習: 問題文を読みながら、図に\(R\), \(h\), \(R+h\)などを明確に書き込み、混同を防ぐ。
  • 指数の計算:
    • 特に注意すべき点: \(r^2\)や\(r^3\)、\(R^2\)や\(R^3\)など、指数の計算を間違えないように慎重に行いましょう。特に問(2a)や問(2b)の約分で注意が必要です。
    • 日頃の練習: 式変形の過程を省略せず、一行ずつ丁寧に書くことで、指数の間違いや約分ミスを発見しやすくする。
  • 積分と面積:
    • 特に注意すべき点: 問(3b)や問(3d)の仕事や位置エネルギーの計算は、実質的に積分計算です。力が距離に比例するなら面積は三角形、一定なら長方形、とグラフの形をイメージすることが重要です。
    • 日頃の練習: 力が変化する問題に出会ったら、積極的に\(F-r\)グラフを自分で描いてみる。グラフの面積が仕事に対応することを、視覚的に理解する習慣をつける。
  • 結果の検算:
    • 特に注意すべき点: 問(3d)で求めた\(U(r)\)に\(r=R\)を代入して、地表での位置エネルギー\(-GMm/R\)と一致するかを確認する、といったセルフチェックは非常に有効です。
    • 日頃の練習: 解き終わった後、得られた答えを別の設問や既知の状況に代入してみる癖をつける。例えば、問(1b)で\(h=0\)として地表での速さを計算してみるなど。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 問(2c) 周期\(T_2\): 地球内部のトンネルを往復する周期が、地表すれすれの円軌道を周回する周期\(T_1(h=0)\)と一致するという結果は、一見不思議ですが物理的に正しいです。これは、単振動と円運動が射影の関係にあることを示唆しています。
    • 問(3d) 位置エネルギー\(U(r)\): 地球の中心(\(r=0\))で位置エネルギーが最小値(\(-\displaystyle\frac{3GMm}{2R}\))をとり、地表(\(r=R\))に向かって放物線状に増加する、という結果は、中心に向かうほど引力が強くなる(ただし\(r\)に比例)という状況と整合しています。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • 問(1b)の速さ\(V\)の式で\(h=0\)とすると、\(V=\sqrt{GM/R}\)となり、これは地表での第一宇宙速度の式と一致します。
    • 問(3a)の仕事\(W_1\)で、もし\(h\)が非常に小さい(\(h \ll R\))場合、\(R(R+h) \approx R^2\)となり、\(W_1 \approx \displaystyle\frac{GMm}{R^2}h = (mg)h\)となります(\(g=GM/R^2\)は地表の重力加速度)。これは、地表付近では力が一定とみなせる場合の「仕事=力×距離」の式と一致し、結果の妥当性を示しています。
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問題63 (東北大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、動くベルトの上での物体の単振動を扱っています。動摩擦力が常に働く環境での振動であるため、振動の中心が力のつりあいの位置からずれる点が特徴です。問題は[A]と[B]の2つのパートに分かれています。

  • [A]では、箱A単独の運動を解析します。動摩擦力がはたらく中での単振動の周期や中心、エネルギーについて問われます。
  • [B]では、箱Bが箱Aに衝突し、一体となった後の運動を解析します。衝突による運動量の変化、そして一体となった後の単振動、さらには再び分離する条件まで、多岐にわたる内容が問われます。

この問題の核心は、「見かけの復元力」と「振動中心のずれ」を正しく理解すること、そして運動のフェーズ(単独運動、衝突、一体での運動)に応じて適切な物理法則(運動方程式、運動量保存則)を使い分けることです。

与えられた条件
  • ベルト: 速さ \(v_0\) で右向き(正)に運動。
  • 箱A, 箱B: ともに質量 \(m\)。
  • ばね: ばね定数 \(k\)。自然長の位置が \(x=0\)。
  • 動摩擦係数: \(\mu’\)(箱A, B共通)。
  • 重力加速度: \(g\)。
  • [A]の状況:
    • (1) 箱Aが \(x=x_0\) で静止(力のつりあい)。
    • (2) 箱Aを \(x=x_0+d\) の位置から静かにはなす。
  • [B]の状況:
    • (1) 箱Bが \(x=-x_1\) から動き出し、\(x=x_0\) の箱Aに完全非弾性衝突する。
    • (2)以降 衝突後、一体となって運動する。
問われていること
  • [A](1) 箱Aのつりあいの位置 \(x_0\)。
  • [A](2) 単振動の \(x, v, T\)。
  • [A](3) ある種の「エネルギー」が保存されることの証明。
  • [B](1) 衝突直後の速度 \(v_1\)。
  • [B](2) 一体での運動における運動エネルギー \(E_K’\) と位置エネルギー \(E_p’\)。
  • [B](3) 衝突後、初めて速さが0になる位置 \(x_2\)。
  • [B](4) 運動の途中で箱BがAから離れるための条件。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問[B](1) 衝突直後の速度\(v_1\)の別解: 仕事と運動エネルギーの関係を用いる解法
      • 主たる解法が等加速度直線運動の公式で衝突前の速度を求めるのに対し、別解では動摩擦力がした仕事が運動エネルギーに変わるという関係から求めます。
    • 問[B](3) 速度が0になる位置\(x_2\)の別解: 単振動の振幅を計算する解法
      • 主たる解法が問題文で誘導されたエネルギー保存則を用いるのに対し、別解では衝突後の単振動の角振動数と振動中心を求め、衝突直後の初期条件から振動の振幅を計算することで、振動の端点であるx2を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の多角的応用: 仕事と運動エネルギーの関係、単振動の基本公式といった、異なる物理法則を同じ場面に適用する訓練になります。これにより、一つの解法に固執しない柔軟な思考力が養われます。
    • 解法の選択肢の拡大: 問題の誘導がない場合でも、単振動の基本性質から力学的に解き進める力を養うことができます。特に振幅を計算するアプローチは、単振動問題全般に応用できる基本的な手法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「動摩擦力がはたらく系での単振動」と「非弾性衝突」です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロです。
  2. 運動方程式と単振動: 運動方程式を立て、\(ma = -K(x-x_c)\) の形に変形することで、振動中心が \(x_c\) にずれた単振動であることがわかります。周期は \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で、動摩擦力の有無によらず同じです。
  3. 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量は保存されます。完全非弾性衝突では、衝突後2物体は一体となります。
  4. エネルギー: [A](3)や[B](2)で定義される「位置エネルギー」は、ばねの弾性エネルギーだけでなく、動摩擦力のような非保存力の影響も含んだ、この問題独自に定義されたものです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、箱Aにはたらく力を考え、力のつりあいから振動の中心を求めます([A](1))。
  2. つりあいの位置からずれた点での運動方程式を立て、単振動の式を導出し、周期や変位を求めます([A](2))。
  3. [B]パートでは、まず衝突前の箱Bの運動を解析し、衝突直前の速度を求めます。次に運動量保存則を用いて衝突直後の速度を計算します([B](1))。
  4. 衝突後、2物体が一体となった系について、改めて運動方程式を立て、新しい振動中心と運動の様子を解析します([B](2), (3))。
  5. 最後に、2物体間にはたらく内力(垂直抗力)に着目し、それが0になる条件(=分離する条件)を考えます([B](4))。

[A](1)

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