問題36 (大阪医大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、弾丸が木材に打ち込まれる際の運動を、「木材が固定されている場合」と「固定されていない場合」の2つのシナリオで分析するものです。力学の重要法則である「運動量と力積の関係」と「仕事とエネルギーの関係」を使い分ける能力が問われます。
- 弾丸の質量: \(m\) [kg]
- 木材の質量: \(M\) [kg]、長さ: \(L\) [m]
- 弾丸が木材から受ける抵抗力は、速度や場所によらず一定。
- 運動は一直線上に限られ、弾丸の大きさは無視できる。
- シナリオ1 (木材固定):
- 弾丸の初速: \(v\) [m/s]
- 弾丸は \(\displaystyle\frac{L}{3}\) [m] の深さまで進入して静止した。
- シナリオ2 (木材非固定):
- 床はなめらか。
- 弾丸の初速: (エ)で求めた速さ (\(\sqrt{3}v\))
- 弾丸は木材を貫通せず、やがて一体となって運動した。
- (ア) 木材固定時、弾丸が受けた力積の大きさ。
- (イ) 弾丸が受ける抵抗力の大きさ。
- (ウ) 木材固定時、弾丸が止まるまでの時間。
- (エ) 木材を貫通するのに必要な最低速度の、\(v\)に対する倍率。
- (オ) 木材非固定時、弾丸が進入する深さの、\(L\)に対する倍率。
- (カ) 木材非固定時、一体となった後の速さの、\(v\)に対する倍率。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「衝突とエネルギー損失」です。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量と力積の関係: 物体の運動量の変化は、受けた力積に等しい。時間を含む計算に有効です。
- 仕事とエネルギーの関係: 物体の運動エネルギーの変化は、された仕事に等しい。距離を含む計算に有効です。
- 運動量保存則: 外力が働かない系では、全体の運動量は保存される。木材が固定されていない場合の衝突解析に用います。
- エネルギー保存則(広義): 抵抗力などの非保存力が仕事をする場合、その仕事の分だけ系の力学的エネルギーが減少します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、木材が固定されている前半部分で、弾丸単体の運動に着目します。「運動量と力積」「仕事とエネルギー」の関係を駆使して、力積、抵抗力、時間、貫通速度を求めます。
- 次に、木材が固定されていない後半部分では、弾丸と木材を一つの「系」として捉えます。床がなめらかなので「運動量保存則」が適用でき、一体となった後の速度が求まります。
- 最後に、抵抗力(非保存力)によって系の力学的エネルギーが減少することを利用して、弾丸の進入距離を求めます。
問(ア)
思考の道筋とポイント
弾丸が木材から受けた力積の大きさを求めます。力積は「力 × 時間」で定義されますが、この問題では抵抗力の大きさと衝突時間がまだ分かっていません。そこで、「物体の運動量の変化は、その物体が受けた力積に等しい」という、運動量と力積の関係を利用します。
この設問における重要なポイント
- 運動量と力積の関係式を正しく理解し、適用する。
- 弾丸の運動開始時と停止時の運動量を正確に把握する。
- 問題で問われているのが力積の「大きさ」であることに注意する。
具体的な解説と立式
弾丸の質量を\(m\)、打ち込まれた直後の速さを\(v\)とします。木材に進入後、弾丸は静止するので、最終的な速さは0です。
- 初めの運動量: \(p_{\text{前}} = mv\)
- 後の運動量: \(p_{\text{後}} = 0\)
弾丸が受けた力積を\(I\)とすると、運動量と力積の関係は次の式で表されます。
$$p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = I$$
したがって、
$$0 – mv = I$$
使用した物理公式
- 運動量: \(p = mv\)
- 運動量と力積の関係: \((\text{後の運動量}) – (\text{前の運動量}) = (\text{力積})\)
運動量と力積の関係式より、弾丸が受けた力積\(I\)は、
$$I = 0 – mv = -mv$$
問題では力積の「大きさ」が問われているので、この力の絶対値をとります。
$$|I| = |-mv| = mv$$
「力積」とは、物体の運動量をどれだけ変化させたかを表す量です。弾丸は最初、\(mv\)という大きさの運動量を持っていましたが、木材に止められて運動量が0になりました。つまり、木材は弾丸から\(mv\)だけの運動量を奪ったことになります。この奪った運動量の大きさが、弾丸が受けた力積の大きさです。
弾丸が木材から受けた力積の大きさは \(mv\) [N·s] です。運動量の変化から力積を求めるのは、衝突問題における基本的なアプローチです。
問(イ)
思考の道筋とポイント
弾丸が木材から受ける一定の抵抗力の大きさを求めます。弾丸が木材内を進む間、抵抗力は弾丸に対して負の仕事をします。この仕事によって弾丸の運動エネルギーが減少し、最終的に0になります。この「仕事とエネルギーの関係」を用いて抵抗力を計算します。
この設問における重要なポイント
- 仕事とエネルギーの関係(または、非保存力の仕事と力学的エネルギーの変化の関係)を正しく立式する。
- 抵抗力がする仕事は、力の向きと変位の向きが逆であるため、負になることを理解する。
具体的な解説と立式
弾丸の初めの運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)、止まった後の運動エネルギーは0です。
抵抗力の大きさを\(f\)とすると、弾丸が木材に進入した距離は \(\displaystyle\frac{L}{3}\) です。抵抗力は弾丸の運動方向と逆向きに働くため、抵抗力が弾丸にした仕事\(W\)は、
$$W = -f \times \left(\frac{L}{3}\right)$$
仕事とエネルギーの関係「(初めの運動エネルギー)+(された仕事)=(後の運動エネルギー)」より、以下の式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}mv^2 + W = 0$$
$$\frac{1}{2}mv^2 + \left(-f \frac{L}{3}\right) = 0 \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 仕事: \(W = Fx \cos\theta\) (力が一定の場合)
- 仕事とエネルギーの関係: \(K_{\text{前}} + W = K_{\text{後}}\)
式①を\(f\)について解きます。
$$\frac{1}{2}mv^2 – f \frac{L}{3} = 0$$
項を移項して、
$$f \frac{L}{3} = \frac{1}{2}mv^2$$
両辺に \(\displaystyle\frac{3}{L}\) を掛けると、
$$f = \frac{3mv^2}{2L}$$
弾丸が持っていた「運動エネルギー」という財産が、木材の中を進む間に抵抗力による「仕事」という形で使われて、最終的にゼロになったと考えます。使われたエネルギーの量(仕事の大きさ)は「抵抗力 × 進んだ距離」です。この関係から、抵抗力の大きさを逆算することができます。
抵抗力の大きさは \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) [N] です。この結果は、弾丸の初速\(v\)が速いほど、また、短い距離で止まるほど(\(L\)が小さいほど)、大きな抵抗力が必要であることを示しており、物理的な直感と一致します。
問(ウ)
思考の道筋とポイント
弾丸が木材に進入してから止まるまでの時間を求めます。これには2つのアプローチが考えられます。
解法1: (ア)で求めた力積の大きさと、(イ)で求めた抵抗力の大きさを利用する方法。抵抗力は一定なので、力積は「力 × 時間」で簡単に計算できます。
解法2: 弾丸が一定の抵抗力を受けて減速することから、等加速度直線運動として扱う方法。運動方程式から加速度を求め、等加速度運動の公式を用いて時間を計算します。
この設問における重要なポイント
- (解法1) 力積の定義 \(I=Ft\) を利用する。
- (解法2) 運動方程式と等加速度運動の公式を正しく適用する。
- どちらの解法でも同じ結果になることを確認する。
解法1: 力積と力の関係から求める方法
具体的な解説と立式
(ア)で、弾丸が受けた力積の大きさは \(mv\) であることがわかりました。
(イ)で、弾丸が受けた一定の抵抗力の大きさは \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) であることがわかりました。
求める時間を\(t\)とすると、一定の力\(f\)が時間\(t\)だけ働いたときの力積の大きさは \(ft\) と表せます。
これらが等しいので、
$$ft = mv \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 力積の定義: \(I = Ft\) (力が一定の場合)
式②に、(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入します。
$$\left(\frac{3mv^2}{2L}\right) t = mv$$
この式を\(t\)について解きます。両辺を\(mv\)で割ると(\(m \neq 0, v \neq 0\))、
$$\frac{3v}{2L} t = 1$$
両辺に \(\displaystyle\frac{2L}{3v}\) を掛けると、
$$t = \frac{2L}{3v}$$
(ア)で計算した「運動量の変化量(力積)」を、(イ)で計算した「力の大きさ」で割れば、その力が働いていた時間が計算できます。単純な割り算です。
時間は \(t = \displaystyle\frac{2L}{3v}\) [s] です。速く打ち込むほど(\(v\)大)、止まるまでの時間は短くなるという結果は直感に合っています。
解法2: 運動方程式から求める方法 (別解)
具体的な解説と立式
弾丸は一定の抵抗力\(f\)を受けて減速するため、等加速度直線運動をします。弾丸の進行方向を正とすると、受ける力は \(-f\) です。
弾丸の加速度を\(a\)とすると、運動方程式は、
$$ma = -f \quad \cdots ③$$
初速度\(v\)、時間\(t\)後の速度が0になるので、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{後}} = v_{\text{前}} + at\) を用いると、
$$0 = v + at \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
まず、式③に(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入して加速度\(a\)を求めます。
$$ma = -\frac{3mv^2}{2L}$$
$$a = -\frac{3v^2}{2L}$$
次に、この\(a\)を式④に代入して\(t\)を求めます。
$$0 = v + \left(-\frac{3v^2}{2L}\right)t$$
項を移項して、
$$\left(\frac{3v^2}{2L}\right)t = v$$
両辺を\(v\)で割り、\(\displaystyle\frac{2L}{3v}\)を掛けると、
$$t = \frac{2L}{3v}$$
まず、弾丸がどれくらいの「ブレーキ」をかけられているか(加速度)を計算します。次に、初速\(v\)の物体がそのブレーキで止まるまでにかかる時間を、速度と時間の関係式から求めます。
解法1と全く同じ結果 \(t = \displaystyle\frac{2L}{3v}\) [s] が得られました。異なる物理法則からアプローチしても同じ結論に至ることで、解答の正しさがより確かなものになります。
問(エ)
思考の道筋とポイント
弾丸が木材を貫通するために必要な最低の速さを求めます。「ぎりぎり貫通する」という状況は、弾丸が木材の長さ\(L\)だけ進んだ瞬間に、ちょうど速さが0になる状態としてモデル化できます。この条件の下で、(イ)と同様に仕事とエネルギーの関係を適用します。
この設問における重要なポイント
- 「ぎりぎり貫通する」という物理的状況を、「距離\(L\)進んで速度が0になる」と解釈する。
- 抵抗力\(f\)は、弾丸の速さによらず一定であるという問題の条件を使う。
具体的な解説と立式
貫通に必要な最低の初速を\(v’\)とします。
- 初めの運動エネルギー: \(K_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(v’)^2\)
- 後の運動エネルギー: \(K_{\text{後}} = 0\) (ぎりぎり貫通なので)
弾丸が距離\(L\)を進む間に抵抗力\(f\)がする仕事\(W\)は、
$$W = -f \times L$$
仕事とエネルギーの関係より、
$$\frac{1}{2}m(v’)^2 + (-fL) = 0 \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(K_{\text{前}} + W = K_{\text{後}}\)
式⑤に、(イ)で求めた抵抗力 \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入します。
$$\frac{1}{2}m(v’)^2 – \left(\frac{3mv^2}{2L}\right)L = 0$$
$$\frac{1}{2}m(v’)^2 = \frac{3mv^2}{2}$$
両辺を \(\displaystyle\frac{m}{2}\) で割ると、
$$(v’)^2 = 3v^2$$
\(v’ > 0\) なので、
$$v’ = \sqrt{3}v$$
木材を完全に貫通するには、抵抗力に逆らって距離\(L\)を進むだけの「仕事」をする必要があります。その仕事の分だけ、弾丸は初めに運動エネルギーを持っていなければなりません。必要な運動エネルギーから逆算して、最低限必要な初速を求めます。
貫通に必要な最低速度は \(\sqrt{3}v\) [m/s] です。したがって、(エ)の空欄は \(\sqrt{3}\) となります。\(L\)進むには \(\displaystyle\frac{L}{3}\) 進むときの3倍の仕事が必要なので、運動エネルギーも3倍必要になります。\(K \propto v^2\) なので、速度は\(\sqrt{3}\)倍になる、という関係からも妥当性が確認できます。
問(カ)、問(オ)
思考の道筋とポイント
今度は木材が固定されておらず、なめらかな床の上を自由に動ける状況です。弾丸が速さ \(\sqrt{3}v\) で打ち込まれ、木材と一体になります。
この過程では、弾丸と木材の間で内力(抵抗力とその反作用)が働きますが、水平方向には外力が働いていません。このような「分裂・合体」現象では、弾丸と木材を一つの「系」と見なすと、系の全運動量が保存されます。まずこの運動量保存則を用いて、一体となった後の速さ(カ)を求めます。
次に、弾丸が木材の中にどれだけ進入したか(オ)を求めます。この過程では、抵抗力という非保存力が仕事をして系の力学的エネルギーが熱などに変わるため、力学的エネルギーは保存されません。そこで、「系の力学的エネルギーの変化が、非保存力のした仕事に等しい」という、より一般的なエネルギーと仕事の関係式を立てて進入距離を求めます。
この設問における重要なポイント
- (カ) 弾丸と木材を一つの系とみなし、運動量保存則を適用する。
- (オ) 系の力学的エネルギーは保存されないことを理解する。
- (オ) 非保存力(抵抗力)がした仕事は、弾丸と木材の「相対的な移動距離(進入距離)」で計算される。
具体的な解説と立式
問(カ) 一体となった後の速さ
弾丸と木材を一つの系として考えます。
- 衝突前の系の全運動量: 弾丸の初速は(エ)より \(\sqrt{3}v\)。木材は静止(\(v=0\))。
$$P_{\text{前}} = m(\sqrt{3}v) + M \cdot 0 = m\sqrt{3}v$$ - 衝突後の系の全運動量: 弾丸と木材は一体となり、質量は \(m+M\)。一体となった後の速さを\(V\)とする。
$$P_{\text{後}} = (m+M)V$$
水平方向に外力は働かないので、運動量保存則より \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) が成り立ちます。
$$m\sqrt{3}v = (m+M)V \quad \cdots ⑥$$
問(オ) 弾丸の進入距離
弾丸が木材に進入する間に、系の力学的エネルギーは抵抗力の仕事によって減少します。
- 系の初めの力学的エネルギー: 弾丸の運動エネルギーのみ。
$$E_{\text{前}} = \frac{1}{2}m(\sqrt{3}v)^2 = \frac{3}{2}mv^2$$ - 系が一体となった後の力学的エネルギー:
$$E_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m+M)V^2$$
弾丸が木材の中に進入した距離を\(x\)とします。この間に抵抗力\(f\)がした仕事は \(-fx\) です。この仕事の分だけ、系の力学的エネルギーが減少します。
$$E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = W_{\text{非保存力}}$$
$$\frac{1}{2}(m+M)V^2 – \frac{3}{2}mv^2 = -fx \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1+m_2)V\) (一体となる場合)
- 仕事とエネルギーの関係(系バージョン): \(\Delta E_{\text{系}} = W_{\text{非保存力}}\)
まず、(カ)の速さ\(V\)を求めます。式⑥を\(V\)について解きます。
$$V = \frac{m\sqrt{3}}{m+M}v$$
次に、(オ)の進入距離\(x\)を求めます。式⑦に、(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) と、上で求めた \(V\) を代入して、\(x\)を求めます。
まず左辺のエネルギー変化量を計算します。
$$\frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m\sqrt{3}}{m+M}v\right)^2 – \frac{3}{2}mv^2$$
$$= \frac{1}{2}(m+M)\frac{3m^2v^2}{(m+M)^2} – \frac{3}{2}mv^2$$
$$= \frac{3m^2v^2}{2(m+M)} – \frac{3}{2}mv^2$$
\(\displaystyle\frac{3mv^2}{2}\) でくくると、
$$= \frac{3mv^2}{2} \left( \frac{m}{m+M} – 1 \right)$$
$$= \frac{3mv^2}{2} \left( \frac{m – (m+M)}{m+M} \right)$$
$$= \frac{3mv^2}{2} \left( \frac{-M}{m+M} \right)$$
これが \(-fx\) に等しいので、
$$\frac{3mv^2}{2} \left( \frac{-M}{m+M} \right) = -fx$$
\(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入すると、
$$\frac{3mv^2}{2} \left( \frac{-M}{m+M} \right) = -\left(\frac{3mv^2}{2L}\right)x$$
両辺を \(-\displaystyle\frac{3mv^2}{2}\) で割ると(これらは0ではない)、
$$\frac{M}{m+M} = \frac{x}{L}$$
したがって、
$$x = \frac{M}{m+M}L$$
(カ) 弾丸が持っていた運動量が、衝突後、弾丸と木材を合わせたもの全体の運動量になります。運動量の合計値は衝突の前後で変わらない、という法則を使って、一体になった後の速さを計算します。
(オ) 衝突によって、弾丸と木材を合わせた全体の運動エネルギーは減少します。この「失われたエネルギー」は、弾丸が木材の中をこじ開けるために使われた「仕事」に等しくなります。この仕事は「抵抗力 × 進入距離」で計算できるので、失われたエネルギーの量から進入距離を逆算することができます。
一体となった後の速さは \(V = \displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}v\) [m/s] です。したがって、(カ)の空欄は \(\displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}\) です。
弾丸の進入距離は \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\) [m] です。したがって、(オ)の空欄は \(\displaystyle\frac{M}{m+M}\) です。この値は必ず1より小さいので、進入距離は木材の長さ\(L\)より短くなります。これは問題文の「木材を貫通しなかった」という記述と整合性がとれています。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量と力積の関係:
- 核心: 物体の運動量の変化は、その物体が受けた力積に等しい (\(\Delta p = I\)) という法則です。特に、力が時間的に変化する場合や、力が不明でも速度変化が分かっている場合に力積を求めるのに非常に有効です。
- 理解のポイント:
- 運動量 (\(p=mv\)): 運動の状態を表すベクトル量。
- 力積 (\(I=Ft\)): 物体に加えられた力の効果を時間的に累積したベクトル量。
- この問題では、(ア)で弾丸の速度変化から力積を求め、(ウ)ではその力積と一定の抵抗力から時間を求めるという、法則の両側面を使っています。
- 仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理):
- 核心: 物体の運動エネルギーの変化は、その物体がされた仕事の総和に等しい (\(\Delta K = W_{\text{合計}}\)) という法則です。
- 理解のポイント:
- 運動エネルギー (\(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)): 運動する物体が持つエネルギー。
- 仕事 (\(W=Fx\cos\theta\)): 力が物体を移動させたときにエネルギーが移動する量。力の向きと移動方向が逆の場合、仕事は負となりエネルギーを奪います。
- この問題では、(イ)や(エ)で、抵抗力という非保存力がする負の仕事によって弾丸の運動エネルギーが失われる過程をモデル化するためにこの法則が使われています。
- 運動量保存則:
- 核心: 複数の物体からなる「系」に対して、外力が働かない(または外力の合力がゼロの)場合、系の全運動量は一定に保たれるという法則です。
- 理解のポイント:
- 内力と外力: 系を構成する物体同士で及ぼしあう力(内力)は、作用・反作用の法則により系の全運動量を変化させません。運動量を変化させるのは系の外から働く力(外力)だけです。
- 適用場面: 衝突、合体、分裂など、物体間で短時間に大きな内力が働く現象の解析に絶大な威力を発揮します。この問題では、(カ)で木材が固定されていない場合の衝突後の速度を求めるために用いられました。
- 力学的エネルギー保存則の破れ(エネルギー保存則そのもの):
- 核心: 摩擦力や抵抗力のような非保存力が仕事をする場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されません。その変化量は非保存力がした仕事に等しくなります (\(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\))。
- 理解のポイント:
- 力学的エネルギーは失われたように見えますが、実際には熱エネルギーなどに変換されており、宇宙全体のエネルギーは保存されています。
- この問題では、(オ)で弾丸が木材にめり込む際に、抵抗力の仕事によって系の力学的エネルギーが減少し、その減少分から進入距離を求めるためにこの関係式が使われています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 床の摩擦: 木材が置かれた床に摩擦がある場合。運動量保存則は使えなくなります。この場合、弾丸と木材それぞれについて運動方程式を立てて解く必要があります。
- 斜め衝突: 弾丸が斜めに打ち込まれる場合。運動量や力積をベクトルとして扱い、水平成分と鉛直成分に分けて考える必要があります。
- ばねとの衝突: 木材にばねが取り付けられている場合。衝突後、系の力学的エネルギーは弾性エネルギーに変換されます。非保存力(抵抗力)がなければ、力学的エネルギー保存則が使えます。
- 分裂現象: 静止している物体が爆発して複数の破片に分かれる場合。運動量保存則が中心的な役割を果たします。
- 初見の問題での着眼点:
- 「固定」されているか?: 問題設定で物体が固定されているか否かは、解法の選択における最初の分岐点です。
- 固定されている場合: 注目する物体は一つ(弾丸)。その物体に対する「運動量と力積の関係」や「仕事とエネルギーの関係」を適用します。
- 固定されていない(自由に動ける)場合: 複数の物体(弾丸と木材)を一つの「系」として捉える視点が重要になります。
- 外力は働くか?: 特に、床が「なめらか」か「摩擦がある」かは決定的です。
- なめらか(外力なし): 系の運動量保存則が使えます。
- 摩擦あり(外力あり): 運動量保存則は使えません。運動方程式や、摩擦力の仕事を含めたエネルギーの関係式を考える必要があります。
- 非保存力は仕事をするか?: 抵抗力や摩擦力が仕事をする場合、力学的エネルギーは保存されません。
- 仕事をする場合: \(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\) を使います。特に、(オ)のように「相対距離」を求める問題では、この法則が鍵になることが多いです。
- 問われている量は何か?:
- 時間(\(t\))が関係するなら: 「力積(\(Ft\))」や「運動方程式(\(a\)経由で\(t\))」を疑います。
- 距離(\(x\))が関係するなら: 「仕事(\(Fx\))」や「等加速度運動の\(x\)の公式」を疑います。
- 「固定」されているか?: 問題設定で物体が固定されているか否かは、解法の選択における最初の分岐点です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則の乱用:
- 誤解: どんな衝突でも運動量保存則が使えると思い込む。
- 対策: 運動量保存則が成立するのは「系に外力が働かない(または無視できる)」場合のみです。木材が床に固定されている場合、床が木材に力を及ぼす(外力)ため、弾丸と木材の系では運動量は保存されません。必ず「外力の有無」を確認する癖をつけましょう。
- 力学的エネルギー保存則の乱用:
- 誤解: 衝突や合体では力学的エネルギーが保存されると思い込む。
- 対策: 摩擦や抵抗、あるいは物体の変形を伴う非弾性衝突では、力学的エネルギーは熱などに変わり保存されません。保存されるのは、重力やばねの力のような保存力のみが仕事をする場合です。この問題のように抵抗力が働く場合は、力学的エネルギーは保存されないと判断し、仕事とエネルギーの関係 \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) を使う必要があります。
- 仕事の計算における距離の混同:
- 誤解: (オ)で、抵抗力がした仕事を計算する際に、弾丸が床に対して進んだ距離や、木材が床に対して進んだ距離を使ってしまう。
- 対策: 非保存力(内力)が系のエネルギーを失わせる仕事は、系を構成する物体間の「相対的な変位」によって生じます。この問題では、弾丸が木材に対してどれだけめり込んだか、つまり「進入距離 \(x\)」が仕事の計算に使うべき距離です。\(W = -fx\) と正しく立式することが重要です。
- 符号のミス:
- 誤解: 抵抗力やその仕事の符号を正としてしまう。
- 対策: 力、速度、変位はベクトル量(向きを持つ量)であることを常に意識し、座標軸を設定して考える。抵抗力は常に運動を妨げる向きに働くので、運動方向を正とすれば力は負になります。仕事も \(W = -fx\) のように負になります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 状況の分離: まず、頭の中で「木材固定ケース」と「木材自由ケース」をはっきりと区別します。それぞれで適用できる法則が違うからです。
- 力の図示: 弾丸と木材、それぞれに働く力を矢印で書き込みます。特に「木材自由ケース」では、弾丸が木材から受ける抵抗力\(f\)と、木材が弾丸から受ける反作用(同じ大きさ\(f\)で逆向き)を明確に図示することが、運動量保存則や仕事の理解を助けます。
- エネルギーの流れのイメージ:
- 木材固定ケース: 「弾丸の運動エネルギー \(\rightarrow\) 抵抗力の仕事 \(\rightarrow\) 熱エネルギー」という一方通行の流れをイメージします。
- 木材自由ケース: 「弾丸の初期運動エネルギー \(\rightarrow\) (一部は抵抗力の仕事で熱エネルギーに) + (残りは弾丸と木材全体の運動エネルギーに)」というエネルギーの分配をイメージします。
- 座標と変位の図示: (オ)を解く際に、床に固定した座標系を考え、弾丸が進んだ距離 \(x_{\text{弾丸}}\)、木材が進んだ距離 \(x_{\text{木材}}\) を図示すると、進入距離 \(x\) が \(x = x_{\text{弾丸}} – x_{\text{木材}}\) であることが視覚的に理解しやすくなります。(ただし、この問題ではエネルギー原理で解いた方が簡潔です)
- 図を描く際に注意すべき点:
- 単純化: 弾丸や木材は点や四角で十分です。重要なのは、力や速度、変位といったベクトル量を正確に描き込むことです。
- 作用・反作用のペアを意識: 弾丸と木材がお互いに及ぼす力は、必ずペアで描くようにします。これにより、内力と外力の区別がつきやすくなります。
- 衝突の前後を比較: 衝突前と衝突後の図を並べて描くことで、どの物理量が変化し、どの物理量が保存されるのかを整理しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量と力積の関係 (\(\Delta p = I\)):
- 選定理由: (ア)では、力の大きさが不明でも速度変化が分かっているため、力積を計算するのに最適。また、(ウ)では、力積と力が分かっているため、時間を求めるのに最適。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(F = ma = m \frac{\Delta v}{\Delta t}\) を変形した \(F\Delta t = m\Delta v\) がこの法則の本質であり、常に成り立ちます。
- 仕事とエネルギーの関係 (\(\Delta K = W\)):
- 選定理由: (イ)(エ)では、時間に関係なく、ある距離を移動した後の速度変化(エネルギー変化)を問われているため。抵抗力という具体的な力がした仕事とエネルギー変化を結びつけるのに最適です。
- 適用根拠: この法則も運動方程式から導かれる普遍的な法則です。特に、力が一定でない場合でも積分形で成り立ち、エネルギーというスカラー量で計算できるため便利です。
- 運動量保存則:
- 選定理由: (カ)では、木材が自由に動け、床がなめらかであるため、弾丸と木材の系に水平方向の外力が働きません。このような衝突・合体現象で衝突後の速度を求める際の最も強力なツールです。
- 適用根拠: 系に働く外力の合力がゼロであるという物理的条件。
- 系のエネルギー原理 (\(\Delta E_{\text{系}} = W_{\text{非保存力}}\)):
- 選定理由: (オ)では、非保存力(抵抗力)が働き、系の力学的エネルギーが変化する状況で、その原因(仕事)と結果(エネルギー変化)を結びつけて、未知の進入距離\(x\)を求めるため。
- 適用根拠: エネルギー保存則の一般形であり、非保存力が介在するあらゆる現象に適用できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【前半:木材固定】
- 現象の把握: 弾丸が抵抗力を受けて減速・停止する。注目すべきは弾丸のみ。
- (ア) 力積: 速度変化 (\(v \rightarrow 0\)) が分かっているので、「運動量と力積の関係」を使う。\(I = 0 – mv\)。大きさは \(mv\)。
- (イ) 抵抗力: 距離 (\(L/3\)) を進んでエネルギーが変化 (\(\frac{1}{2}mv^2 \rightarrow 0\)) しているので、「仕事とエネルギーの関係」を使う。\(\frac{1}{2}mv^2 – f\frac{L}{3} = 0\)。これを解いて \(f\) を求める。
- (ウ) 時間: (ア)の力積と(イ)の力が分かったので、「力積の定義 \(I=Ft\)」を使う。\(ft = mv\)。これを解いて \(t\) を求める。(別解:運動方程式から加速度を求め、等加速度運動の公式で \(t\) を求める)
- (エ) 貫通速度: 「ぎりぎり貫通」=「距離\(L\)進んで速度0」と解釈。「仕事とエネルギーの関係」を再び使う。\(\frac{1}{2}m(v’)^2 – fL = 0\)。(イ)で求めた \(f\) を代入して \(v’\) を求める。
- 【後半:木材自由】
- 現象の把握: 弾丸と木材が衝突・合体する。床はなめらか。注目すべきは「弾丸+木材」の系。
- (カ) 一体速度: 系に外力が働かないので、「運動量保存則」を使う。\(m(\sqrt{3}v) = (m+M)V\)。これを解いて \(V\) を求める。
- (オ) 進入距離: 抵抗力(内力)が仕事をして系の力学的エネルギーが減少する。よって「系のエネルギー原理」を使う。\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)。
- \(\Delta E = E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = \frac{1}{2}(m+M)V^2 – \frac{1}{2}m(\sqrt{3}v)^2\)
- \(W_{\text{非保存力}} = -fx\)
- これらを等しいと置き、(イ)の\(f\)と(カ)の\(V\)を代入して \(x\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- 特に注意すべき点: この問題はすべて文字式で答える形式です。途中で数値を代入する必要がない分、式が複雑になりがちです。(オ)の計算のように、代入するものが多くなると混乱しやすくなります。
- 日頃の練習: 最後の最後まで文字式のまま計算を進める練習をする。共通の因子(例:(オ)の計算での \(\displaystyle\frac{3mv^2}{2}\))でくくるなど、式を簡潔に保つ工夫を意識する。
- 単位の代わりに次元を確認:
- 特に注意すべき点: 文字式なので単位はありませんが、物理量としての次元(Dimension)が合っているかを確認する習慣は有効です。例えば、(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) の次元は \([M][L]^2[T]^{-2} / [L] = [M][L][T]^{-2}\) となり、力の次元と一致します。
- 分数の計算:
- 特に注意すべき点: (オ)の計算では、\(\displaystyle\frac{m}{m+M} – 1 = \frac{m-(m+M)}{m+M} = \frac{-M}{m+M}\) のような通分計算が出てきます。符号ミスや計算ミスが起こりやすいポイントです。
- 日頃の練習: 複雑な分数式の計算練習を怠らない。焦らず、一行一行丁寧に式変形を行う。
- 代入の確認:
- 特に注意すべき点: (オ)では、(イ)で求めた\(f\)と(カ)で求めた\(V\)を代入します。代入する式が正しいか、二乗(\(V^2\))を忘れていないかなどを慎重に確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (エ) 貫通速度 \(\sqrt{3}v\):
- 吟味の視点: 貫通に必要な速度は、途中で止まったときの速度\(v\)より大きいか? \(\sqrt{3} \approx 1.732 > 1\) なので、\(v\)より速い必要があり、妥当です。
- (カ) 一体速度 \(V = \displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}v\):
- 吟味の視点: 一体となった後の速度は、元の弾丸の速度より小さいはず。分母が \(m+M\)、分子が \(m\) なので、\(\displaystyle\frac{m}{m+M} < 1\) であり、\(V < \sqrt{3}v\) となるため妥当です。
- (オ) 進入距離 \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\):
- 吟味の視点: 進入距離は木材の長さ\(L\)より短いはず。 \(\displaystyle\frac{M}{m+M} < 1\) なので、\(x < L\) となり、貫通しないという設定と一致します。
- (エ) 貫通速度 \(\sqrt{3}v\):
- 極端な場合を考える:
- (オ) 進入距離 \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\):
- もし木材の質量\(M\)が非常に大きい (\(M \gg m\)) なら、\(\displaystyle\frac{M}{m+M} \approx \frac{M}{M} = 1\)。このとき \(x \approx L\)。これは、木材が重くてほとんど動かない(固定されているのに近い)状況に対応し、貫通寸前まで進むことを意味します。
- もし弾丸の質量\(m\)が非常に大きい (\(m \gg M\)) なら、\(\displaystyle\frac{M}{m+M} \approx \frac{M}{m} \approx 0\)。このとき \(x \approx 0\)。これは、弾丸が木材を簡単に弾き飛ばしてしまい、ほとんどめり込まない状況に対応します。
- (オ) 進入距離 \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\):
- 異なる視点での検算:
- (ウ)の時間は、力積経由と運動方程式経由の2通りで計算し、一致することを確認しました。このように、複数のアプローチで同じ答えが出ることは、強力な検証手段となります。
問題37 (大分大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、摩擦力を内力として及ぼしあう2物体の運動を扱う典型的な問題です。解法の鍵は、2つの物体をそれぞれ別個の対象として「運動方程式」で分析する視点と、2物体をまとめて一つの「系」として捉え、「運動量保存則」や「エネルギー原理」を適用する視点を、設問に応じて的確に使い分けることです。
- 小物体の質量: \(m\)、初速度: \(v_0\) (右向き)
- 台車の質量: \(M\)、初速度: 0
- 台車と床の間の摩擦: なし
- 小物体と台車の間の動摩擦係数: \(\mu’\)
- 座標軸: 右向きを正
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 速度\(v_0\)の小物体が静止した台車に乗り移る。
- 小物体は台車から左向きの動摩擦力を受け減速する。
- 台車は小物体から右向きの動摩擦力(反作用)を受け加速する。
- やがて両者の速度が等しくなり(速度\(V\))、一体となって運動する。
- この過程で、小物体は台車の上を距離\(l\)だけすべる。
- (1) すべっている間の小物体と台車の加速度。
- (2) 一体となった後の速度\(V\)。
- (3) 小物体がすべっていた時間\(t\)。
- (4) 小物体と台車のv-tグラフの概略図。
- (5) すべる間に失われた全力学的エネルギー\(\Delta E\)。
- (6) 小物体がすべった距離\(l\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「摩擦力を内力とする系の運動」です。特に、床と台車の間に摩擦がないため、系全体の運動量が保存される点が重要なポイントとなります。
- まず、小物体と台車それぞれにはたらく力を分析し、「運動方程式」を立てて加速度を求めます。
- 次に、小物体と台車を一つの「系」とみなし、「運動量保存則」を用いて一体となった後の速度を求めます。
- すべっていた時間は、等加速度運動の公式や力積と運動量の関係から導出します。
- 最後に、系のエネルギー変化に着目し、「仕事とエネルギーの関係」を用いて失われたエネルギーやすべった距離を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべっている間の、それぞれの加速度を求めます。加速度は力によって生じるので、まずは小物体と台車にはたらく力をすべて図示し、それぞれの物体について運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 小物体と台車にはたらく力を正確に図示する。
- 小物体と台車の間にはたらく動摩擦力は、作用・反作用の関係にある(大きさが等しく向きが逆)。
- 動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu’N\) (\(N\)は垂直抗力)で計算する。
具体的な解説と立式
まず、小物体と台車にはたらく力を考えます。右向きを正とします。
小物体について:
- 鉛直方向: 重力 \(mg\) (下向き) と、台車からの垂直抗力 \(N\) (上向き) がはたらく。小物体は鉛直方向には運動しないので、これらの力はつりあっています。
$$N – mg = 0$$ - 水平方向: 台車から左向き(負の向き)に動摩擦力 \(\mu’N\) を受けます。小物体の加速度を\(a\)とすると、運動方程式は以下のようになります。
$$ma = -\mu’N \quad \cdots ①$$
台車について:
- 水平方向: 小物体から作用・反作用の法則により、右向き(正の向き)に動摩擦力 \(\mu’N\) を受けます。台車の加速度を\(\beta\)とすると、運動方程式は以下のようになります。
$$M\beta = \mu’N \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum F = 0\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 動摩擦力: \(f’ = \mu’N\)
まず、小物体の鉛直方向の力のつりあいから、垂直抗力\(N\)を求めます。
$$N = mg$$
この\(N\)を式①に代入して、小物体の加速度\(a\)を求めます。
$$ma = -\mu'(mg)$$
$$a = -\mu’g$$
次に、\(N=mg\)を式②に代入して、台車の加速度\(\beta\)を求めます。
$$M\beta = \mu'(mg)$$
$$\beta = \frac{\mu’mg}{M}$$
小物体は、台車から進行方向と逆向きに摩擦ブレーキをかけられるので減速します。一方、台車は、小物体から進行方向と同じ向きに摩擦力で押される形になり、加速します。それぞれの「力」を「質量」で割ることで、加速度が求まります。
小物体の加速度は \(a = -\mu’g\)、台車の加速度は \(\beta = \displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\) です。
小物体の加速度\(a\)が負、台車の加速度\(\beta\)が正となり、それぞれ減速・加速するという物理的状況と一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
小物体と台車が一体となって運動するときの速度\(V\)を求めます。小物体と台車を一つの「系」として考えると、水平方向には力がはたらいていません(小物体と台車の間にはたらく摩擦力は内力であり、床と台車の間には摩擦がない)。したがって、系の水平方向の運動量は保存されます。この運動量保存則を用いて\(V\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則が適用できる条件(系に外力がはたらかない、または外力の合力が0)を正しく認識する。
- 衝突前と衝突後(一体化後)の系の全運動量をそれぞれ立式する。
具体的な解説と立式
運動量保存則を適用します。
- 乗り移る直前(前)の系の全運動量:
$$P_{\text{前}} = m v_0 + M \cdot 0 = mv_0$$ - 一体となった後(後)の系の全運動量:
$$P_{\text{後}} = (m+M)V$$
運動量保存則 \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) より、
$$mv_0 = (m+M)V \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = (m_1+m_2)V_{\text{一体}}\)
式③を\(V\)について解きます。
$$V = \frac{m}{M+m}v_0$$
最初に小物体だけが持っていた運動量(\(mv_0\))を、一体となった後に小物体と台車(質量\(m+M\))のペアで分け合う、と考えることができます。運動量の総量は変わらないので、質量が大きくなった分、速度は遅くなります。
一体となった後の速度は \(V = \displaystyle\frac{m}{M+m}v_0\) です。
分母が \(M+m\) であることから、\(V\)は必ず元の速度\(v_0\)より小さくなります。これは物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべっていた時間\(t\)を求めます。これには複数のアプローチが考えられます。最もシンプルなのは、台車の運動に着目する方法です。台車は初速度0から、(1)で求めた一定の加速度\(\beta\)で加速し、最終的に(2)で求めた速度\(V\)になります。この過程は等加速度直線運動なので、速度の公式が使えます。
この設問における重要なポイント
- 一つの現象を多角的に見て、複数の解法を考えられるようにする。
- 等加速度直線運動の公式を正しく適用する。
解法1: 台車の運動に着目する方法
具体的な解説と立式
台車は、初速度0、加速度\(\beta\)の等加速度直線運動を行い、時間\(t\)後に速度\(V\)になります。
等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を台車に適用すると、
$$V = 0 + \beta t \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
式④を\(t\)について解き、(1)で求めた \(\beta = \displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\) を代入します。
$$t = \frac{V}{\beta}$$
$$t = \frac{V}{\frac{\mu’mg}{M}}$$
$$t = \frac{MV}{\mu’mg}$$
台車が最終的に速さ\(V\)になるまで、どれくらいの時間加速し続けたかを考えます。台車の「速度の変化量(\(V\))」を「加速度(\(\beta\))」で割れば、かかった時間がわかります。
別解: 運動量と力積の関係を利用する方法
具体的な解説と立式
台車に注目します。時間\(t\)の間に台車が受けた力積は、台車の運動量の変化に等しくなります。
- 台車が受けた力(動摩擦力): \(\mu’mg\) (一定)
- 力がはたらいた時間: \(t\)
- 力積: \(I = (\mu’mg) \cdot t\)
- 台車の運動量の変化: \(\Delta P = MV – M \cdot 0 = MV\)
よって、「運動量の変化=力積」の関係より、
$$MV = \mu’mg t$$
これを\(t\)について解くと、\(t = \displaystyle\frac{MV}{\mu’mg}\) となり、同じ結果が得られます。
小物体がすべっていた時間は \(t = \displaystyle\frac{MV}{\mu’mg}\) です。複数の異なるアプローチから同じ結果が得られ、解答の確からしさが確認できます。
問(4)
思考の道筋とポイント
小物体が台車に乗ってから一体となるまでの、小物体と台車の速度と時間の関係を一つのグラフ上に図示します。それぞれの運動がどのようなものかを整理して作図します。
この設問における重要なポイント
- 小物体の運動: 初速度\(v_0\)、加速度\(a=-\mu’g\)(負で一定)の等加速度直線運動。
- 台車の運動: 初速度0、加速度\(\beta = \displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\)(正で一定)の等加速度直線運動。
- 時刻\(t=t\): 両者の速度が\(V\)で等しくなる。
- 時刻\(t>t\): 両者は一体となり、速度\(V\)の等速直線運動をする。
具体的な解説と立式
v-tグラフを描きます。
- 小物体: 時刻0で速度\(v_0\)の点から始まり、傾きが負の直線を描いて減速する。時刻\(t\)で速度\(V\)に達する。
- 台車: 時刻0で速度0(原点)から始まり、傾きが正の直線を描いて加速する。時刻\(t\)で速度\(V\)に達する。
- 時刻\(t\)以降: 小物体と台車のグラフは合流し、傾き0の水平な直線(速度\(V\)で一定)となる。
グラフは、小物体が減速し、台車が加速して、やがて同じ速度に落ち着くという一連の物理現象を視覚的に表現しています。小物体が失った運動量を台車が得て、最終的に速度が釣り合う様子が分かります。
問(5)
思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべる間に失われた「全力学的エネルギー」\(\Delta E\)を求めます。この過程では、動摩擦力という非保存力が仕事をするため、系全体の力学的エネルギーは保存されません。失われたエネルギーは、摩擦によって発生した熱エネルギーに相当し、その大きさは、一体化する前と後での系の全運動エネルギーの差として計算できます。
この設問における重要なポイント
- 摩擦や非弾性衝突では、力学的エネルギーは保存されない。
- 失われたエネルギー \(\Delta E\) は、\(E_{前} – E_{後}\) で計算する。
- 系のエネルギーを考えるときは、構成するすべての物体のエネルギーを足し合わせる。
具体的な解説と立式
系の力学的エネルギー(この場合は運動エネルギーのみ)の前後を比較します。
- すべる前(時刻0)の系の全エネルギー:
$$E_{\text{前}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}M(0)^2 = \frac{1}{2}mv_0^2$$ - 一体となった後(時刻\(t\))の系の全エネルギー:
$$E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}MV^2 = \frac{1}{2}(m+M)V^2$$
失われた全力学的エネルギー\(\Delta E\)は、これらの差です。
$$\Delta E = E_{\text{前}} – E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)V^2 \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- エネルギー保存則(広義): \(E_{前} = E_{後} + (\text{失われたエネルギー})\)
式⑤に、(2)で求めた \(V = \displaystyle\frac{m}{M+m}v_0\) を代入して整理します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(M+m)\left(\frac{m}{M+m}v_0\right)^2$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(M+m)\frac{m^2}{(M+m)^2}v_0^2$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{M+m}v_0^2$$
\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)でくくります。
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{M+m}\right)$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(\frac{(M+m)-m}{M+m}\right)$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(\frac{M}{M+m}\right)$$
$$= \frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2$$
衝突によって、系全体の運動エネルギーは必ず減少します(摩擦熱になるため)。その減少量がどれくらいかを、衝突前のエネルギーと衝突後のエネルギーを引き算して求めます。
失われた全力学的エネルギーは \(\Delta E = \displaystyle\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\) です。この値は常に正となり、エネルギーが失われたという事実と一致します。
問(6)
思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべった距離\(l\)を求めます。この距離\(l\)は、床から見た小物体の移動距離と台車の移動距離の「差」です。つまり、小物体が台車に対して相対的に動いた距離です。これには複数のアプローチがあります。最も物理的に見通しが良いのは、(5)で求めた失われたエネルギーが、動摩擦力が相対距離\(l\)に対してした仕事に等しい、というエネルギー原理から求める方法です。
この設問における重要なポイント
- すべった距離\(l\)が「相対距離」であることを理解する。
- 非保存力の仕事は、系のエネルギー変化と結びついている。
- v-tグラフの面積が移動距離を表すことを利用できる。
解法1: エネルギー原理を用いる方法
具体的な解説と立式
系の運動エネルギーの変化は、非保存力(動摩擦力)がした仕事に等しいです。
$$\Delta K = E_{後} – E_{前} = W_{\text{非保存力}}$$
(5)の結果から、\(\Delta K = -\Delta E = -\displaystyle\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\) です。
一方、動摩擦力がした仕事は、小物体と台車が相対的に距離\(l\)だけすれ違う間に失われるエネルギーなので、
$$W_{\text{非保存力}} = -(\text{摩擦力の大きさ}) \times (\text{相対距離}) = -\mu’mg \cdot l$$
よって、以下の等式が成り立ちます。
$$-\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2 = -\mu’mg l \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係(系): \(\Delta K = W_{\text{非保存力}}\)
式⑥を\(l\)について解きます。
$$\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2 = \mu’mg l$$
両辺を \(\mu’mg\) で割ります。
$$l = \frac{1}{\mu’mg} \cdot \frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2$$
$$l = \frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}$$
(5)で計算した「摩擦によって失われたエネルギー」は、すべて「摩擦力 × すべった距離」という仕事によって生み出されたものです。この関係から、すべった距離を逆算することができます。
解法2: v-tグラフの面積を利用する方法 (別解)
具体的な解説と立式
すべった距離\(l\)は、小物体の移動距離\(x_小\)と台車の移動距離\(x_台\)の差です (\(l = x_小 – x_台\))。v-tグラフにおいて、移動距離はグラフと時間軸で囲まれた面積に相当します。
したがって、\(l\)は、小物体のグラフの面積から台車のグラフの面積を引いたもの、すなわち、2つのグラフで囲まれた三角形の面積に等しくなります。
この三角形は、底辺が\(t\)、高さが\(v_0\)です。
$$l = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) = \frac{1}{2} t v_0$$
この式に、(3)の別解で求めた \(t = \displaystyle\frac{Mv_0}{\mu'(M+m)g}\) を代入します。
$$l = \frac{1}{2} v_0 \left( \frac{Mv_0}{\mu'(M+m)g} \right)$$
$$l = \frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}$$
解法1と全く同じ結果が得られました。
小物体が台車の上をすべった距離は \(l = \displaystyle\frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}\) です。
初速\(v_0\)が大きいほど、また動摩擦係数\(\mu’\)が小さいほど、すべる距離\(l\)が長くなるという結果は、物理的な直感と一致しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 核心: 物体の運動状態の変化(加速度)は、物体にはたらく力に比例し、質量に反比例するという、力学の根幹をなす法則です。
- 理解のポイント: この問題では、(1)で小物体と台車それぞれにはたらく力を特定し、加速度を求めるために使われます。複数の物体が絡む問題では、まず各物体にはたらく力をすべて図示し、それぞれについて運動方程式を立てることが基本中の基本です。
- 運動量保存則:
- 核心: 複数の物体からなる「系」に外力がはたらかない場合、系の全運動量は衝突や相互作用の前後で一定に保たれるという強力な法則です。
- 理解のポイント: (2)で、床に摩擦がないため「小物体+台車」の系には水平方向の外力がはたらかないと判断し、この法則を適用することで、複雑な途中の過程を無視して一体化した後の速度を瞬時に求めることができます。どの範囲を「系」と見なすか、そして「外力」の有無を見極める眼が重要です。
- 仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理):
- 核心: 物体(または系)のエネルギーの変化は、外部からされた仕事や、内部の非保存力がした仕事に等しいという法則です。
- 理解のポイント:
- 系の力学的エネルギーの変化: (5)では、摩擦という非保存力によって系の力学的エネルギーが熱に変わるため、その「失われたエネルギー」を計算するために、衝突前後の運動エネルギーの差を求めます。
- 非保存力の仕事: (6)では、この「失われたエネルギー」が「動摩擦力 × 相対的にすべった距離」という仕事に等しいという関係を用いて、すべった距離\(l\)を求めます。これはエネルギーの観点から距離を求める非常にエレガントな解法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ベルトコンベア上の物体: 静止した物体を動いているベルトコンベアに乗せる問題。これも物体とベルトコンベアの間で摩擦力がはたらき、やがて一体となる点で本質的に同じ構造です。
- 積み重なった2物体の運動: 下の物体を引いたときに上の物体がすべるか、一体で動くかを考える問題。静止摩擦力と動摩擦力の使い分けが加わりますが、運動方程式や運動量保存則の適用という点では共通しています。
- 非弾性衝突全般: 衝突後に物体がくっついたり、変形してエネルギーが失われたりする問題。運動量保存則と、衝突前後のエネルギー比較が常に有効なアプローチとなります。
- 初見の問題での着眼点:
- 摩擦の有無を確認: まず「床と台車」「小物体と台車」のそれぞれの面に摩擦があるかを確認します。
- 床に摩擦がない: 「小物体+台車」の系で運動量保存則が使える可能性が高いです。
- 床に摩擦がある: 運動量保存則は使えません。各物体の運動方程式を地道に解くか、摩擦力の仕事を含めたエネルギーの関係を考える必要があります。
- 「すべる」か「一体で動く」か:
- すべっている間: 2物体は別々の加速度で運動します。はたらく力は「動摩擦力」です。
- 一体で動く: 2物体の加速度は等しくなります。はたらく力は「静止摩擦力」であり、その大きさは未知数として扱うことが多いです(最大静止摩擦力を超えない範囲)。
- 問われている量は何か?:
- 加速度や力: 運動方程式 \(ma=F\) が基本。
- 衝突・合体後の速度: 運動量保存則が最も手っ取り早い。
- 時間: 等加速度運動の公式 (\(v=v_0+at\)) や、力積と運動量の関係 (\(Ft=\Delta p\)) が有効。
- 距離・エネルギー: 仕事とエネルギーの関係 (\(\Delta K = W\)) が有効。特に「相対距離」は「失われたエネルギー」と結びついていることが多い。
- 摩擦の有無を確認: まず「床と台車」「小物体と台車」のそれぞれの面に摩擦があるかを確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 作用・反作用の力の混同:
- 誤解: 小物体にはたらく摩擦力と台車にはたらく摩擦力を、同じ向きに描いてしまう。
- 対策: 「AがBから受ける力」と「BがAから受ける力」は、必ず大きさが等しく向きが逆のペア(作用・反作用)になります。図を描く際に、力の矢印の始点がどの物体にあるかを意識し、ペアになる力を常に確認する習慣をつけましょう。
- 運動量保存則とエネルギー保存則の混同:
- 誤解: 運動量が保存されるなら、力学的エネルギーも保存されるはずだと思い込む。
- 対策: この2つは全く別の法則です。運動量保存は「外力がない」ことが条件。力学的エネルギー保存は「非保存力が仕事をしない」ことが条件です。摩擦がある衝突では、運動量は保存されても力学的エネルギーはほぼ必ず失われます。この違いを明確に区別することが重要です。
- 相対距離と絶対距離の混同:
- 誤解: (6)で、すべった距離\(l\)を、小物体の移動距離や台車の移動距離そのものだと考えてしまう。
- 対策: \(l\)はあくまで「台車の上をすべった距離」、つまり「相対距離」です。これは「床から見た小物体の移動距離」から「床から見た台車の移動距離」を引いたもの (\(l = x_小 – x_台\)) です。この関係は、v-tグラフで2つのグラフに囲まれた面積として視覚的に理解すると間違いが減ります。
- エネルギーの式の立て方:
- 誤解: (5)で失われたエネルギーを計算する際に、\(\displaystyle\frac{1}{2}m(v_0-V)^2\) のように相対速度でエネルギーを計算しようとして混乱する。
- 対策: エネルギーはスカラー量なので、単純に「後の系の全エネルギー」から「前の系の全エネルギー」を引くのが最も安全で確実です。\(\Delta E = E_{後} – E_{前}\) という定義に忠実に立式しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): (1)を解く上で不可欠。小物体と台車を別々に描き、それぞれにはたらく力をすべて矢印で記入します。特に、垂直抗力\(N\)と動摩擦力\(\mu’N\)の関係、作用・反作用のペアを明確にすることが重要です。
- v-tグラフ: (4)で要求されている通り、この問題の全体像を把握するのに非常に有効です。小物体が減速し、台車が加速し、やがて同じ速度\(V\)に収束する様子が一目瞭然です。グラフの「傾き」が加速度、「面積」が移動距離に対応することも意識すると、他の設問を解くヒントにもなります。
- エネルギーの棒グラフ: 衝突前と衝突後で、エネルギーの内訳がどう変化したかを棒グラフでイメージするのも有効です。
- 前: 「小物体の運動エネルギー」の棒が1本。
- 後: 「一体化した物体の運動エネルギー」と「失われた熱エネルギー」の2本の棒に分配され、合計の高さは前と同じになる、というイメージ。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸の明記: 右向きを正とするなど、座標軸を明確に設定し、図に描き込むことで、力の向きや速度の符号ミスを防げます。
- 一貫性: 複数の図を描く場合、記号(\(a, \beta, V, t\)など)は一貫して同じものを使うことが混乱を避けるコツです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (1)で「加速度」という、力の直接的な結果を問われているため。
- 適用根拠: 物体にはたらく力が分かっている(または求められる)状況で、その物体の運動状態(加速度)を知りたい場合に常に基本となる法則だからです。
- 運動量保存則:
- 選定理由: (2)で、途中の詳細(摩擦力や時間)を問わず、相互作用の「前」と「後」の状態だけから最終的な速度を求めたいから。
- 適用根拠: 「小物体+台車」の系に水平方向の外力がはたらかない、という物理的条件が満たされているからです。
- 等加速度運動の公式 (\(v=v_0+at\)):
- 選定理由: (3)で「時間」を求めたい。(1)で加速度が一定であることが分かっているので、この公式が使える。
- 適用根拠: 加速度が一定であるという条件。
- エネルギー原理 (\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)):
- 選定理由: (5)で「失われたエネルギー」、(6)で「すべった距離」を問われているため。これらは摩擦力の仕事と密接に関連しており、エネルギーの観点から解くのが最も見通しが良いからです。
- 適用根拠: 非保存力(摩擦力)が仕事をする、という物理的状況。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 力の分析 (問1): まずは基本。小物体と台車、それぞれに働く力を図示し、運動方程式を立てて加速度\(a\)と\(\beta\)を求める。
- 一体化後の速度 (問2): 衝突・合体問題の王道、「運動量保存則」を系に適用し、最終速度\(V\)を求める。
- すべった時間 (問3): 加速度が一定なので、等加速度運動の公式を使うのが素直。台車が \(0 \rightarrow V\) になる時間として計算する。
- グラフ化 (問4): (1)〜(3)で求めた情報を元に、v-tグラフを描く。直線的な変化と、最終的に一定値になる様子を表現する。
- エネルギー損失 (問5): 「後の全エネルギー」から「前の全エネルギー」を引き算する。\(V\)を代入して整理する。
- すべった距離 (問6): (5)で求めた「失われたエネルギー」が「摩擦力の仕事 (\(-\mu’mgl\))」に等しい、という関係式を立てて\(l\)を解く。または、(4)のv-tグラフの面積から求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理: \(m, M, v_0, \mu’, g\)など多くの文字が登場します。計算過程で書き間違えないよう、丁寧に記述することを心がける。
- 分数の整理: (5)や(6)の計算では、\((M+m)\)を含む複雑な分数計算が出てきます。通分や約分を焦らず、一行ずつ確実に行う。特に、\((1 – \frac{m}{M+m})\)のような変形は頻出なので、素早く正確にできるようにしておく。
- 代入は最後に行う: (3)や(6)のように、先に求めた結果を代入する場面では、できるだけ式の整理が進んでから最後に代入する方が、計算が楽になることが多いです。
- 別解での検算: この問題は多くの設問で別解が存在します。時間に余裕があれば、異なるアプローチで計算してみて、答えが一致するか確認する(検算する)ことで、ミスの発見率が格段に上がります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 加速度: 小物体の加速度\(a\)は負、台車の加速度\(\beta\)は正。これは減速と加速という現象に合致します。
- (2) 速度\(V\): \(V = \frac{m}{M+m}v_0\) は、\(v_0\)より小さい (\(\frac{m}{M+m} < 1\))。質量が増えた分、速度が遅くなるのは当然です。
- (5) \(\Delta E\): \(\Delta E = \frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\) は必ず正の値をとります。エネルギーが「失われた」という表現と一致します。
- (6) 距離\(l\): \(l = \frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}\) は、\(\mu’=0\)(摩擦なし)の極限では無限大に発散します。これは、摩擦がないと永遠にすべり続けることに対応し、妥当です。また、\(v_0=0\)なら\(l=0\)となり、これも当然です。
- 単位(次元)の一致確認:
- 例えば(6)の答え \(l\) の次元をチェックすると、分子は \([M]([L]/[T])^2 = [M][L]^2[T]^{-2}\)、分母は \([M][L][T]^{-2}\) となり、全体で \([L]\)(長さの次元)となり、正しいことが確認できます。このような次元解析は、複雑な文字式の計算ミスを発見するのに有効です。
問題38 (名古屋工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、なめらかな水平面上での2物体の2次元衝突を扱います。1次元の直線的な衝突と異なり、運動の方向が変化するため、運動量を「ベクトル」として扱う必要があります。特に、運動量を互いに直交する2つの成分に分解し、それぞれの方向で運動量保存則を立てることが、解析の鍵となります。
- 衝突する物体: 同質量(\(m\))の小物体A, B
- 衝突前の状態: Aの速度 \(V\), Bは静止
- 衝突後の状態:
- Aの速度: 大きさ \(V_A\), 角度 \(\alpha\)
- Bの速度: 大きさ \(V_B\), 角度 \(\beta\)
- 運動の場: なめらかな水平面
- 角度の範囲: \(0 < \alpha < \displaystyle\frac{\pi}{2}\), \(0 < \beta < \displaystyle\frac{\pi}{2}\)
- (1) 衝突前の進行方向(平行方向)の運動量保存則の式。
- (2) 衝突前の進行方向に垂直な方向の運動量保存則の式。
- (3) 衝突後の速度 \(V_A\) と \(V_B\) の導出。
- (4) \(\alpha + \beta = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) の場合の力学的エネルギー変化 \(\Delta E\) の計算。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「2次元衝突と運動量保存」です。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則(ベクトル): 複数の物体からなる系に外力が働かない場合、系の全運動量ベクトルは保存されます。
- ベクトルの成分分解: 運動量ベクトルを、計算しやすいように互いに直交する2つの成分(この問題では衝突前の進行方向とその垂直方向)に分解して扱います。
- 成分ごとの運動量保存: ベクトルとして運動量が保存されるならば、その各成分についても運動量は保存されます。これにより、1つのベクトル方程式を2つのスカラー方程式として扱うことができます。
- 力学的エネルギー: 衝突によってエネルギーが保存されるか(弾性衝突)、失われるか(非弾性衝突)を判断します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、衝突前のAの進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定し、衝突前後の各物体の運動量をx, y成分に分解します。
- (1), (2)では、x方向、y方向それぞれについて運動量保存則を立式します。
- (3)では、(1), (2)で立てた2つの方程式を連立させて、未知数である衝突後の速度\(V_A\), \(V_B\)を求めます。
- (4)では、与えられた特別な角度の条件 (\(\alpha+\beta=\pi/2\)) を用いて\(V_A\), \(V_B\)を簡略化し、衝突前後の力学的エネルギーを比較してその変化量\(\Delta E\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
衝突前のAの運動方向と平行な方向(以降、x軸方向とします)について、運動量保存則の式を立てます。なめらかな水平面上での衝突であり、物体間に働く力(撃力)は内力のみなので、系全体の運動量は保存されます。運動量はベクトル量なので、各物体の速度ベクトルをx軸方向に分解し、その成分について衝突の前後で和が等しいという式を作ります。
この設問における重要なポイント
- 運動量をベクトルとして扱い、成分に分解する。
- 衝突前後の各物体の速度のx成分を正しく求める。
- x軸方向の運動量の総和が保存されることを立式する。
具体的な解説と立式
衝突前のAの運動方向をx軸の正の向き、それに垂直な方向をy軸の正の向きとします。
- 衝突前
- Aの運動量のx成分: \(mV\)
- Bの運動量のx成分: \(m \cdot 0 = 0\)
- 系の全運動量のx成分(前): \(mV + 0 = mV\)
- 衝突後
- Aの運動量のx成分: \(m(V_A \cos\alpha)\)
- Bの運動量のx成分: \(m(V_B \cos\beta)\)
- 系の全運動量のx成分(後): \(mV_A \cos\alpha + mV_B \cos\beta\)
x軸方向の運動量保存則より、「(前)=(後)」となるので、
$$mV = mV_A \cos\alpha + mV_B \cos\beta$$
使用した物理公式
- 運動量: \(\vec{p} = m\vec{v}\)
- 運動量保存則(成分): \(\sum p_x (\text{前}) = \sum p_x (\text{後})\)
上記の式を立てることがこの設問のゴールです。問題の要求は「式を書け」なので、このままで十分です。
$$mV = mV_A \cos\alpha + mV_B \cos\beta$$
衝突現象では、特別な力がはたらかない限り、全体の運動量は保存されます。2次元の動きなので、x方向とy方向に分けて考えます。まずx方向について、衝突前にAが持っていたx方向の運動量(\(mV\))が、衝突後にAとBのx方向の運動量の合計に等しくなる、という式を立てます。
x方向の運動量保存則の式は \(mV = mV_A \cos\alpha + mV_B \cos\beta\) となります。これは2次元衝突における基本的な関係式の一つです。
問(2)
思考の道筋とポイント
次に、衝突前のAの運動方向と垂直な方向(y軸方向)について、運動量保存則の式を立てます。問(1)と同様に、各物体の速度ベクトルをy軸方向に分解し、その成分について衝突の前後で和が等しいという式を作ります。
この設問における重要なポイント
- 衝突前後の各物体の速度のy成分を正しく求める。
- y軸方向の運動量の総和が保存されることを立式する。
- 図から、AとBのy方向の速度成分が逆向きであることに注意し、符号を正しく設定する。
具体的な解説と立式
問(1)と同じ座標系で考えます。
- 衝突前
- Aの運動量のy成分: \(m \cdot 0 = 0\)
- Bの運動量のy成分: \(m \cdot 0 = 0\)
- 系の全運動量のy成分(前): \(0 + 0 = 0\)
- 衝突後
- Aの運動量のy成分: \(m(V_A \sin\alpha)\)
- Bの運動量のy成分: \(m(-V_B \sin\beta)\) (図より、Bはy軸負の向きに進むため)
- 系の全運動量のy成分(後): \(mV_A \sin\alpha – mV_B \sin\beta\)
y軸方向の運動量保存則より、「(前)=(後)」となるので、
$$0 = mV_A \sin\alpha – mV_B \sin\beta$$
使用した物理公式
- 運動量保存則(成分): \(\sum p_y (\text{前}) = \sum p_y (\text{後})\)
上記の式を立てることがこの設問のゴールです。
$$0 = mV_A \sin\alpha – mV_B \sin\beta$$
y方向についても同様に考えます。衝突前は、AもBもy方向には動いていないので、y方向の運動量は合計でゼロです。衝突後、Aはプラスのy方向に、Bはマイナスのy方向に運動量を持ちますが、その合計はやはりゼロでなければならない、という式を立てます。
y方向の運動量保存則の式は \(0 = mV_A \sin\alpha – mV_B \sin\beta\) となります。衝突前後のy方向の運動量の和が0であるという、物理的に正しい関係を表しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)と(2)で立てた2つの運動量保存則の式を連立させて、未知数である\(V_A\)と\(V_B\)を求めます。これは、2つの未知数(\(V_A, V_B\))に対して2つの独立した方程式があるので、代数的に解くことが可能です。計算を簡単にするため、最初に両辺の質量\(m\)を消去してから計算を進めます。
この設問における重要なポイント
- 2つの式を連立方程式として解く。
- 一方の式から未知数の一つ(例: \(V_B\))をもう一方の未知数(\(V_A\))で表し、それをもう一方の式に代入して解くのが定石。
- 三角関数の加法定理 \(\sin(\alpha+\beta) = \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta\) を見抜いて適用する。
具体的な解説と立式
(1)と(2)で得られた式を、両辺を\(m\)で割って簡略化します。
$$V = V_A \cos\alpha + V_B \cos\beta \quad \cdots ①$$
$$0 = V_A \sin\alpha – V_B \sin\beta \quad \cdots ②$$
この連立方程式を解いて\(V_A\)と\(V_B\)を求めます。
まず、式②から\(V_B\)を\(V_A\)で表します。
$$V_B \sin\beta = V_A \sin\alpha$$
$$V_B = \frac{\sin\alpha}{\sin\beta} V_A \quad \cdots ③$$
次に、この式③を式①に代入して\(V_B\)を消去し、\(V_A\)を求めます。
$$V = V_A \cos\alpha + \left(\frac{\sin\alpha}{\sin\beta} V_A\right) \cos\beta$$
使用した物理公式
- 三角関数の加法定理: \(\sin(\alpha+\beta) = \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta\)
代入した式を\(V_A\)について整理します。
$$V = V_A \left(\cos\alpha + \frac{\sin\alpha \cos\beta}{\sin\beta}\right)$$
右辺の括弧内を通分します。
$$V = V_A \left(\frac{\cos\alpha \sin\beta + \sin\alpha \cos\beta}{\sin\beta}\right)$$
分子は三角関数の加法定理 \(\sin(\alpha+\beta)\) の形になっています。
$$V = V_A \frac{\sin(\alpha+\beta)}{\sin\beta}$$
これを\(V_A\)について解くと、
$$V_A = \frac{V \sin\beta}{\sin(\alpha+\beta)}$$
次に、この結果を式③に代入して\(V_B\)を求めます。
$$V_B = \frac{\sin\alpha}{\sin\beta} V_A = \frac{\sin\alpha}{\sin\beta} \cdot \frac{V \sin\beta}{\sin(\alpha+\beta)}$$
\(\sin\beta\)が約分されて、
$$V_B = \frac{V \sin\alpha}{\sin(\alpha+\beta)}$$
別解: 正弦定理を用いる方法
具体的な解説と立式
運動量保存則はベクトルで \(m\vec{V} = m\vec{V}_A + m\vec{V}_B\)、すなわち \(\vec{V} = \vec{V}_A + \vec{V}_B\) となります。これは、3つの速度ベクトル \(\vec{V}, \vec{V}_A, \vec{V}_B\) で三角形が作れることを意味します。このベクトル三角形に正弦定理を適用します。三角形の角は、図から \(\alpha\), \(\beta\), \(\pi – (\alpha+\beta)\) となります。
正弦定理より、\(\displaystyle\frac{V_A}{\sin\beta} = \frac{V_B}{\sin\alpha} = \frac{V}{\sin(\pi – (\alpha+\beta))}\)。
\(\sin(\pi – \theta) = \sin\theta\) なので、\(\displaystyle\frac{V_A}{\sin\beta} = \frac{V_B}{\sin\alpha} = \frac{V}{\sin(\alpha+\beta)}\)。
この関係から、\(V_A = \displaystyle\frac{V \sin\beta}{\sin(\alpha+\beta)}\), \(V_B = \displaystyle\frac{V \sin\alpha}{\sin(\alpha+\beta)}\) が直ちに得られます。
衝突後の速度はそれぞれ \(V_A = \displaystyle\frac{V \sin\beta}{\sin(\alpha+\beta)}\), \(V_B = \displaystyle\frac{V \sin\alpha}{\sin(\alpha+\beta)}\) となります。この結果は、衝突の角度\(\alpha, \beta\)に依存しており、物理的に妥当な形をしています。
問(4)
思考の道筋とポイント
\(\alpha + \beta = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) という特別な条件下での、力学的エネルギーの変化量\(\Delta E\)を求めます。\(\Delta E\)は、衝突後の全エネルギー\(E’\)から衝突前の全エネルギー\(E\)を引いたものです。まず、この条件を(3)で求めた\(V_A, V_B\)の式に適用して、速度を簡単な形で表します。その後、エネルギーの定義に従って\(\Delta E\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- \(\alpha + \beta = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) の条件を適用する。
- \(\sin(\alpha+\beta) = \sin(\frac{\pi}{2}) = 1\)
- \(\sin\beta = \sin(\frac{\pi}{2} – \alpha) = \cos\alpha\)
- エネルギー変化 \(\Delta E = E’ – E\) の定義に従って計算する。
具体的な解説と立式
まず、\(\alpha + \beta = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) の条件を使って\(V_A\)と\(V_B\)を簡単にします。
(3)の結果に \(\sin(\alpha+\beta) = \sin(\frac{\pi}{2}) = 1\) と \(\sin\beta = \sin(\frac{\pi}{2} – \alpha) = \cos\alpha\) を代入します。
$$V_A = \frac{V \sin\beta}{\sin(\alpha+\beta)} = \frac{V \cos\alpha}{1} = V \cos\alpha$$
同様に、
$$V_B = \frac{V \sin\alpha}{\sin(\alpha+\beta)} = \frac{V \sin\alpha}{1} = V \sin\alpha$$
次に、エネルギー変化\(\Delta E\)を計算します。
- 衝突前の全エネルギー: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mV^2\)
- 衝突後の全エネルギー: \(E’ = \displaystyle\frac{1}{2}mV_A^2 + \displaystyle\frac{1}{2}mV_B^2\)
エネルギー変化\(\Delta E\)は、
$$\Delta E = E’ – E = \left(\frac{1}{2}mV_A^2 + \frac{1}{2}mV_B^2\right) – \frac{1}{2}mV^2$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー(運動エネルギー): \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 三角関数の関係式: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\)
\(\Delta E\)の式に、上で求めた \(V_A = V \cos\alpha\) と \(V_B = V \sin\alpha\) を代入します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}m(V \cos\alpha)^2 + \frac{1}{2}m(V \sin\alpha)^2 – \frac{1}{2}mV^2$$
$$= \frac{1}{2}mV^2 \cos^2\alpha + \frac{1}{2}mV^2 \sin^2\alpha – \frac{1}{2}mV^2$$
\(\displaystyle\frac{1}{2}mV^2\)でくくります。
$$= \frac{1}{2}mV^2 (\cos^2\alpha + \sin^2\alpha – 1)$$
ここで、三角関数の基本公式 \(\cos^2\alpha + \sin^2\alpha = 1\) を使うと、
$$= \frac{1}{2}mV^2 (1 – 1)$$
$$= 0$$
まず、\(\alpha + \beta = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) という条件を使うと、衝突後の速度\(V_A\)と\(V_B\)が非常にシンプルな形になります。次に、衝突前と後の運動エネルギーをそれぞれ計算し、その差を求めます。計算すると、驚くべきことに差がゼロになります。
エネルギー変化\(\Delta E\)は0 [J]です。
これは、\(\alpha + \beta = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) という条件が満たされるとき、この衝突は力学的エネルギーが保存される「弾性衝突」であることを意味します。同質量の物体が弾性衝突すると、散乱角の和が90度になるというのは、よく知られた事実です。この問題は、その逆を計算で確かめる形になっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則(ベクトルとしての理解):
- 核心: 2次元や3次元の衝突では、運動量をベクトルとして扱い、そのベクトル和が保存されるという法則です。なめらかな水平面上での衝突のように、系に働く外力(この場合は重力と垂直抗力)が運動平面に垂直で、運動平面内には外力が働かない場合に適用されます。
- 理解のポイント:
- ベクトルの分解: 計算を遂行するためには、ベクトルを互いに直交する2つの成分(例: x成分とy成分)に分解します。
- 成分ごとの保存則: 分解された各成分について、それぞれ運動量の和が保存されるという式を立てます。この問題では、(1)でx成分、(2)でy成分の運動量保存則を立式しました。これが2次元衝突解析の基本戦略です。
- ベクトル和の図示: (3)の別解のように、運動量保存則をベクトル図(\(\vec{p}_{前} = \vec{p’}_{後}\) を図形的に表現)で考えると、幾何学的な関係(正弦定理など)から問題を解くこともでき、見通しが良くなる場合があります。
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: 外力や非保存力(摩擦力、空気抵抗など)が仕事をしない場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定に保たれるという法則です。
- 理解のポイント: この問題では、衝突によってエネルギーが失われるかどうかは、最初は不明です。しかし、(4)で \(\alpha+\beta=\pi/2\) という特別な条件下でエネルギー変化\(\Delta E\)を計算した結果、\(\Delta E=0\) となりました。これは、この特定の条件下では力学的エネルギーが保存される、すなわち「弾性衝突」であったことを意味します。問題によっては、最初から「弾性衝突である」という条件が与えられ、エネルギー保存則を運動量保存則と連立させて解く場合もあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 反発係数(はねかえり係数)が与えられた衝突: 反発係数\(e\)は、衝突面の法線方向における相対速度の比で定義されます。運動量保存則と反発係数の式を連立させて解くのが定石です。
- 原子核・素粒子の散乱: ミクロの世界の粒子の衝突も、マクロな物体の衝突と同様に運動量保存則とエネルギー保存則で記述されます。
- 斜め衝突と壁: ボールが斜めに壁に衝突して跳ね返る問題。壁は動かない(質量が無限大とみなせる)ため、壁に平行な方向の運動量成分と、壁に垂直な方向の相対速度(反発係数)の関係を考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸の設定: 最初に、計算しやすいように座標軸を設定します。通常は、入射方向をx軸にとるのが最も簡単です。
- 運動量保存則の立式: 座標軸に沿って、x成分とy成分の運動量保存則を立てます。これが解析の出発点です。
- エネルギーに関する条件の確認: 問題文に「弾性衝突」「非弾性衝突」「反発係数e」などの記述がないか確認します。
- 弾性衝突: 力学的エネルギー保存則 (\(E_{前}=E_{後}\)) が使えます。
- 完全非弾性衝突(合体): 衝突後に一体となる。運動量保存則のみで速度が求まります。エネルギー損失は最大になります。
- 条件なし: (1)〜(3)のように、まずは運動量保存則だけで解けるところまで解きます。エネルギーが保存されるかは、計算してみないと分かりません。
- 未知数と式の数の確認: 解くべき未知数(この問題では\(V_A, V_B\))の数と、立てた独立な方程式の数(運動量保存のx, y成分の2式)が合っているかを確認します。数が合えば、原理的に解けるはずです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ベクトルの分解ミス:
- 誤解: \(\cos\)と\(\sin\)を逆にしてしまう、あるいは符号を間違える。
- 対策: 角度\(\alpha, \beta\)がどの軸となす角なのかを正確に図で確認する。「角に接している方が\(\cos\)」と覚えるのが一般的です。また、設定した座標軸の正負の向きを常に意識し、ベクトルの成分が負になる場合はマイナスをつけることを徹底します((2)の\(V_B\)のy成分など)。
- 運動量とエネルギーの混同:
- 誤解: 運動エネルギーを \(mV\) と書いたり、運動量を \(\frac{1}{2}mV^2\) と書いたりする。
- 対策: 運動量は \(p=mv\) (ベクトル)、運動エネルギーは \(K=\frac{1}{2}mv^2\) (スカラー) という定義を正確に覚える。次元も全く異なる(運動量は \([M][L][T]^{-1}\)、エネルギーは \([M][L]^2[T]^{-2}\))ことを理解しておくと、混同しにくくなります。
- 式の整理における計算ミス:
- 誤解: (3)の連立方程式を解く過程や、(4)のエネルギー計算で、三角関数の変形や代入を焦って間違える。
- 対策: 特に加法定理 \(\sin(\alpha+\beta)\) を見抜く部分は、意識していないと気づきにくいかもしれません。式変形は一行ずつ丁寧に行い、特に符号の変化に注意します。(4)では、\(\cos^2\alpha + \sin^2\alpha = 1\) という基本的な関係式が最終的な結論を導く鍵になっています。基本公式の重要性を再認識しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 衝突前後のベクトル図: 問題図に示されているように、衝突前後の速度ベクトルを図示することが第一歩です。各ベクトルの大きさと向き(角度)を明記します。
- 運動量ベクトルの分解図: 各速度ベクトルをx, y成分に分解した様子を、補助線(点線)と矢印で図に描き加えると、(1), (2)の立式が視覚的に分かりやすくなります。
- 運動量保存のベクトル三角形: (3)の別解で示したように、運動量保存則 \(\vec{p}_{前} = \vec{p’}_{後}\) をベクトル図で表現すると、\(\vec{p}_{前}\) を斜辺とし、\(\vec{p’}_A\) と \(\vec{p’}_B\) を他の2辺とする三角形(または平行四辺形)が描けます。この図形的関係から問題を解くアプローチは、物理現象の幾何学的な側面を捉える良い訓練になります。特に(4)の \(\alpha+\beta=\pi/2\) の条件は、このベクトル三角形が直角三角形になることを意味しており、三平方の定理 (\(p_A’^2 + p_B’^2 = p_{前}^2\)) が成り立つことに相当します。これはエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mV_A^2 + \frac{1}{2}mV_B^2 = \frac{1}{2}mV^2\) と同値です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- ベクトルの矢印の長さ: 速度や運動量の「大きさ」を、矢印の長さにある程度反映させると、大小関係が直感的に把握しやすくなります。
- 角度の基準: 角度\(\alpha, \beta\)が、どの線(この場合は衝突前の進行方向)を基準に測られているかを明確に図示します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則 (x, y成分):
- 選定理由: (1), (2)では、衝突現象の前後関係を結びつける最も基本的な法則として選択します。2次元なので、独立な2つの式を得るためにx, y成分に分解します。
- 適用根拠: なめらかな水平面上での衝突であり、運動を妨げる水平方向の外力(摩擦など)が働かないため、運動量は保存されると判断できます。
- 連立方程式:
- 選定理由: (3)で未知数が\(V_A, V_B\)の2つあり、(1), (2)で独立な式が2つ得られたため、これらを連立させることで未知数を決定できると考えます。
- 適用根拠: 未知数の数と方程式の数が一致すれば、解が求まるという数学的な原理に基づきます。
- エネルギー変化の定義式 (\(\Delta E = E’ – E\)):
- 選定理由: (4)で「力学的エネルギーの変化量\(\Delta E\)」そのものを問われているため、定義に従って計算するのが最も直接的です。
- 適用根拠: 問題で\(\Delta E = E’ – E\)と定義されているため、それに従います。もし「失われたエネルギー」を問われた場合は、\(E – E’\)を計算します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 座標設定: 衝突前のAの進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定する。
- 運動量保存(x成分) (問1): 衝突前後のx方向の運動量の和が等しいとして立式する。 \(mV = mV_A \cos\alpha + mV_B \cos\beta\)。
- 運動量保存(y成分) (問2): 衝突前後のy方向の運動量の和が等しいとして立式する。衝突前は0。衝突後はAとBで逆向きになることに注意。 \(0 = mV_A \sin\alpha – mV_B \sin\beta\)。
- 連立方程式を解く (問3): (1), (2)で得た2式を、\(V_A, V_B\)についての連立方程式とみなし、解く。一方の式から\(V_B\)を\(V_A\)で表し、もう一方に代入するのが定石。三角関数の加法定理が使える形に整理する。
- 特別条件の適用 (問4): \(\alpha+\beta=\pi/2\) という条件を(3)の解に代入し、\(V_A, V_B\)を \(V, \alpha\) だけで表す。
- エネルギー変化の計算 (問4): エネルギー変化の定義 \(\Delta E = E’ – E\) に従い、衝突後の全運動エネルギーから衝突前の全運動エネルギーを引く。(5)で簡単にした\(V_A, V_B\)を代入し、\(\cos^2\alpha + \sin^2\alpha = 1\) を利用して最終的な値を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の単純化: (1), (2)の式は、最初に両辺を\(m\)で割っておくと、その後の計算が少し楽になります。
- 三角関数の公式の活用: この問題では、\(\sin(\alpha+\beta)\)の加法定理と、\(\sin(\frac{\pi}{2}-\alpha)=\cos\alpha\)、\(\cos^2\alpha+\sin^2\alpha=1\)といった基本的な公式が鍵となります。これらの公式をスムーズに使いこなせるようにしておくことが重要です。
- 検算: (3)で求めた\(V_A, V_B\)を、元の運動量保存の式①, ②に代入してみて、式が成り立つかを確認する(検算する)ことで、計算ミスを発見できます。
- 物理的な意味からのチェック: (4)で\(\Delta E=0\)という綺麗な結果が出たとき、「これは弾性衝突を意味するな」と物理的な意味付けを考えることで、答えへの確信が深まります。もし計算結果が複雑な形になったら、どこかで計算ミスをしている可能性を疑うことができます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) \(V_A, V_B\): \(V_A\)の式には\(\sin\beta\)が、\(V_B\)の式には\(\sin\alpha\)が分子に来ています。これは、相手がより大きな角度で散乱されるほど(例えば\(\beta\)が大きいほど)、自分(A)の速度\(V_A\)は大きくなる、という直感的な関係を表しており、妥当と考えられます。
- (4) \(\Delta E=0\): これは、この衝突がエネルギーを一切失わない「弾性衝突」であることを示します。ビリヤードの球同士の衝突(回転を無視すれば)は、これに近い現象です。同質量の球の弾性衝突では、衝突後の速度ベクトルが直交するという性質があり、この問題はそれを数式で確認する内容になっています。
- 極端な場合を考える:
- もし\(\alpha=0\)なら(Aはまっすぐ進む)、(2)の式から\(V_B\sin\beta=0\)。\(\beta \neq \pi\)なので\(V_B=0\)となり、Bは動かない。これは衝突しなかった場合に相当します。
- もし\(\beta=0\)なら(Bがまっすぐ進む)、(2)の式から\(V_A\sin\alpha=0\)。\(\alpha \neq \pi\)なので\(V_A=0\)となり、Aは止まる(運動量交換)。このとき(1)の式は\(V=V_B\)となり、Aの運動量が完全にBに移ったことになります。これは1次元の弾性衝突に相当します。
- 対称性の利用:
- (3)で得られた\(V_A\)と\(V_B\)の式は、\(\alpha\)と\(\beta\)を入れ替えると、互いに入れ替わる美しい対称性を持っています。これは、AとBの役割が本質的に対称であることを反映しており、式の形が正しいことを示唆しています。
問題39 (長崎大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、斜方投射された小球が壁や床と衝突する運動を扱います。運動を水平方向と鉛直方向に分解して考えること、そして衝突の法則を正しく適用することが求められます。特に「壁に垂直に衝突する」という条件が、運動を解き明かす重要な鍵となります。
- 小球の質量: \(m\)
- 初速度: 大きさ \(v_0\)、仰角 45°
- 衝突面: 水平な床と鉛直な壁(なめらか)
- 反発係数: 小球と床・壁の間で共通の \(e\) (\(0 < e < 1\))
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 床上の点Oから小球を投射。
- 壁上の点P(高さ\(h\), 距離\(L\))で、壁に垂直に衝突。
- 壁ではね返り、床上の点Aに落下。
- 床ではね返り、上昇して点Bに到達。
- (1) 高さ\(h\)の導出。
- (2) 距離\(L\)の導出。
- (3) 壁との衝突で失った力学的エネルギー\(E\)の導出。
- (4) 点Oと点Bが一致するときの反発係数\(e\)の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放物運動と衝突」です。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 2次元の運動を、互いに独立した水平方向と鉛直方向の1次元の運動として扱う、斜方投射の基本原則。
- 水平方向の運動: 空中にいる間は力が働かないため「等速直線運動」。
- 鉛直方向の運動: 常に重力が働くため「等加速度直線運動」。
- 衝突の法則(反発係数): なめらかな面との衝突では、速度を面に平行な成分と垂直な成分に分解し、垂直成分の速度が衝突後に \(v’ = -ev\) となる関係。平行成分は変化しない。
- 力学的エネルギー: 運動エネルギーと位置エネルギーの和。非弾性衝突(\(e<1\))では、その一部が失われる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、OからPまでの斜方投射の運動を水平・鉛直に分解して解析します。「壁に垂直に衝突」という条件から、点Pが最高点であることを見抜き、高さ\(h\)と水平距離\(L\)を求めます。
- 次に、点Pでの壁との衝突を考えます。衝突の法則を適用し、衝突後の速度と、失われた力学的エネルギーを計算します。
- 続いて、壁衝突後から床に落下し(P→A)、再度床ではね返る(A→B)までの運動を追跡します。ここでも運動の分解と衝突の法則を適用し、最終的な着地点までの水平距離を計算します。
- 最後に、点Oと点Bが一致するという条件(壁からの水平距離が等しい)から、未知数である反発係数\(e\)に関する方程式を立てて解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
床から点Pまでの高さ\(h\)を求めます。この問題を解く上で最も重要な手がかりは、問題文にある「壁に対して垂直に衝突」という記述です。速度はベクトル量であり、壁に垂直ということは、速度ベクトルの向きが水平方向(壁に垂直な方向)を向いていることを意味します。これは、その瞬間の小球の速度の「鉛直成分」が0になっていることに他なりません。
斜方投射において、速度の鉛直成分が0になるのは軌道の「最高点」です。したがって、点Pは小球が到達する最高点であると判断できます。
ここまで分かれば、問題は「初速度の鉛直成分が\(v_0 \sin45^\circ\)の物体が、最高点に達するまでの高さはいくらか」という、単純な鉛直投げ上げの問題に帰着します。
この設問における重要なポイント
- 「壁に垂直に衝突」という条件から、「衝突時の鉛直方向の速度が0」であり、「点Pが最高点」であることを見抜く。
- 運動を鉛直方向と水平方向に分解して考える。
- 鉛直方向の運動には、等加速度直線運動の公式を適用する。特に、時間を含まない公式が有効である。
具体的な解説と立式
まず、初速度\(v_0\)を鉛直成分と水平成分に分解します。
- 初速度の鉛直成分: \(v_{0y} = v_0 \sin45^\circ = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)
- 初速度の水平成分: \(v_{0x} = v_0 \cos45^\circ = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)
鉛直方向の運動に着目します。初速度\(v_{0y}\)で投げ上げられ、最高点P(高さ\(h\))で速度が0になります。この関係を扱うには、時間\(t\)を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使うのが最も効率的です。
各物理量を以下のように対応させます。
- 後の速度 \(v\): 0 (最高点なので)
- 初めの速度 \(v_0\): \(v_{0y} = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)
- 加速度 \(a\): \(-g\) (上向きを正とした場合)
- 変位 \(x\): \(h\)
これらの値を公式に代入して、方程式を立てます。
$$0^2 – \left(\frac{v_0}{\sqrt{2}}\right)^2 = 2(-g)h \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
式①を\(h\)について解きます。
$$-\frac{v_0^2}{2} = -2gh$$
両辺のマイナス符号を取り、\(2g\)で割ると、
$$h = \frac{v_0^2}{4g}$$
小球が壁にまっすぐ(垂直に)ぶつかる、という情報から「その場所が軌道のてっぺんだ!」と気づくのが第一歩です。ボールを真上に投げたとき、一番高い場所で一瞬止まるのと同じで、斜めに投げた場合も、一番高い場所では上下方向の速度だけがゼロになります。あとは、物理の教科書に出てくる「投げ上げ運動で最高点に達する高さ」を求める計算をするだけです。
高さ\(h\)は \(\displaystyle\frac{v_0^2}{4g}\) です。この式には質量\(m\)が含まれていません。これは、空気抵抗を無視すれば、重力下での物体の運動は質量によらないという物理学の基本原則と一致しており、妥当な結果と言えます。
問(2)
思考の道筋とポイント
壁から点Oまでの距離\(L\)を求めます。これは、小球が点Oから打ち出されて最高点Pに達するまでの「水平移動距離」に他なりません。
水平方向の運動は、壁に衝突するまでは何の力もはたらかないので「等速直線運動」です。したがって、「距離 = 速さ × 時間」という単純な式で計算できます。
水平方向の速さは \(v_{0x} = v_0 \cos45^\circ\) で既に分かっています。したがって、残る課題は、最高点Pに達するまでにかかった時間\(t_{OP}\)を求めることです。この時間は、鉛直方向の運動を解析することで得られます。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動は等速直線運動であることを利用する。
- 最高点に達するまでの時間を、鉛直方向の運動から求める。この時間が、水平・鉛直運動の媒介変数となる。
具体的な解説と立式
まず、最高点Pに達するまでの時間\(t_{OP}\)を、鉛直方向の運動から求めます。
等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を鉛直方向に適用するのが適切です。
- 後の速度 \(v\): 0
- 初めの速度 \(v_0\): \(v_{0y} = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)
- 加速度 \(a\): \(-g\)
- 時間 \(t\): \(t_{OP}\)
$$0 = \frac{v_0}{\sqrt{2}} + (-g)t_{OP}$$
これを解くと、最高点までの時間が求まります。
$$t_{OP} = \frac{v_0}{\sqrt{2}g}$$
次に、この時間を使って水平移動距離\(L\)を計算します。水平方向は速さ \(v_{0x} = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) の等速直線運動なので、
$$L = v_{0x} \times t_{OP} \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(x = vt\)
- 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
式②に、求めた \(v_{0x}\) と \(t_{OP}\) の値を代入します。
$$L = \frac{v_0}{\sqrt{2}} \times \frac{v_0}{\sqrt{2}g}$$
$$L = \frac{v_0^2}{2g}$$
小球が壁にぶつかるまでの時間を、まず計算します。これは、真上に投げたボールが一番高いところに達するまでの時間を求めるのと同じ計算です。次に、その「かかった時間」と、小球の「横方向の一定の速さ」を掛け算すれば、横に進んだ距離\(L\)がわかります。
距離\(L\)は \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2g}\) です。これも質量\(m\)に依存しない妥当な結果です。また、(1)で求めた高さ\(h = \frac{v_0^2}{4g}\)と比較すると、\(L=2h\) という関係が成り立っています。これは、仰角45°で投げた物体の到達距離と最高点の高さの関係として知られており、結果の正しさを裏付けています。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Pにおける壁との衝突で失った力学的エネルギーの大きさ\(E\)を求めます。エネルギーが失われるのは、反発係数\(e\)が1より小さい、つまり非弾性衝突だからです。
力学的エネルギーは「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和ですが、衝突の直前と直後では小球の高さは変わらないため、位置エネルギーは変化しません。したがって、失われたエネルギーは、純粋に「運動エネルギーの変化量」として計算することができます。
衝突の法則に従い、壁に平行な速度成分(鉛直成分)は変化せず、壁に垂直な速度成分(水平成分)のみが変化することに注意します。
この設問における重要なポイント
- 衝突によるエネルギー損失は、運動エネルギーの変化に等しい(高さが同じため)。
- なめらかな壁との衝突では、壁に平行な方向の速度成分は変化しない。
- 壁に垂直な方向の速度成分は、反発係数\(e\)を用いて \(v’ = -ev\) の関係に従って変化する。
具体的な解説と立式
衝突直前の点Pでの速度成分を再確認します。
- 水平成分(壁に垂直): \(v_x = v_{0x} = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)
- 鉛直成分(壁に平行): \(v_y = 0\)
衝突直後の速度成分は、衝突の法則により次のようになります。
- 水平成分: 壁に垂直な成分なので、速さは\(e\)倍になり、向きが逆になります。\(v’_x = -e v_x = -e \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)
- 鉛直成分: 壁に平行な成分なので、変化しません。\(v’_y = v_y = 0\)
エネルギーの変化量\(\Delta E_{mech}\)は、運動エネルギーの変化に等しくなります。
$$\Delta E_{mech} = (\text{衝突後の運動エネルギー}) – (\text{衝突前の運動エネルギー})$$
衝突前後の運動エネルギーは、それぞれの速度の2乗に比例します。
$$\Delta E_{mech} = \frac{1}{2}m (v’_x^2 + v’_y^2) – \frac{1}{2}m (v_x^2 + v_y^2)$$
$$= \frac{1}{2}m \left( \left(-e \frac{v_0}{\sqrt{2}}\right)^2 + 0^2 \right) – \frac{1}{2}m \left( \left(\frac{v_0}{\sqrt{2}}\right)^2 + 0^2 \right) \quad \cdots ③$$
失ったエネルギー\(E\)は、この変化量が負になるため、その絶対値 \(E = |\Delta E_{mech}| = – \Delta E_{mech}\) として計算します。
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 反発係数の式(速度): \(v’ = -ev\) (面に垂直な成分)
式③を計算します。
$$\Delta E_{mech} = \frac{1}{2}m \left(e^2 \frac{v_0^2}{2}\right) – \frac{1}{2}m \left(\frac{v_0^2}{2}\right)$$
$$= \frac{1}{4}mv_0^2 e^2 – \frac{1}{4}mv_0^2$$
$$= \frac{1}{4}mv_0^2 (e^2 – 1)$$
問題で問われているのは「失った力学的エネルギーの大きさ\(E\)」です。\(0<e<1\)より \(e^2-1\) は負なので、\(\Delta E_{mech}\)は負の値です。失ったエネルギーは正の値で答えるので、
$$E = – \Delta E_{mech} = -\frac{1}{4}mv_0^2 (e^2 – 1) = \frac{1}{4}mv_0^2 (1 – e^2)$$
壁にぶつかる前後で、小球の速さがどれだけ変わったかを考えます。壁と平行な上下方向の速さはゼロのままで変わりませんが、壁に垂直な横方向の速さは、はね返ることで\(e\)倍に減少します。この速さの減少によって運動エネルギーがどれだけ減ったかを計算すれば、それが失われたエネルギーになります。
失ったエネルギー\(E\)は \(\displaystyle\frac{1}{4}mv_0^2 (1 – e^2)\) です。\(0<e<1\)なので、\(E\)は正の値となり、エネルギーが失われたという状況と一致します。もし\(e=1\)(弾性衝突)なら\(E=0\)となり、エネルギーは失われないこともこの式からわかります。式の形は物理的に妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Oと点Bが一致するときの反発係数\(e\)の値を求めます。「点Oと点Bが一致する」とは、壁ではね返った小球が、最終的に元の出発点Oに戻ってくることを意味します。これは、壁から点Bまでの水平距離\(L’\)が、壁から点Oまでの水平距離\(L\)に等しい (\(L’=L\)) という条件に置き換えられます。
この条件式を立てるために、まず壁衝突後から点Bに達するまでの運動(P \(\rightarrow\) A \(\rightarrow\) B)を分析し、水平距離\(L’\)を計算する必要があります。この運動は、水平方向には一定速度で進み、鉛直方向には自由落下と床での反射を伴う投げ上げ運動となります。
この設問における重要なポイント
- 点P \(\rightarrow\) 点A \(\rightarrow\) 点B の運動を、水平・鉛直に分けて正確に追跡する。
- P \(\rightarrow\) A は自由落下、A \(\rightarrow\) B は鉛直方向には投げ上げ運動と見なせる。
- 水平方向は、P \(\rightarrow\) A \(\rightarrow\) B の間、ずっと等速直線運動である。
- 最終的に \(L=L’\) という条件式を立て、未知数\(e\)について解く。
具体的な解説と立式
壁衝突後の運動を、時間軸に沿って段階的に分析します。
1. P \(\rightarrow\) A の運動(壁衝突後、床に達するまで)
- 鉛直方向: 高さ\(h\)からの自由落下。かかる時間を\(t_{PA}\)とすると、\(h = \displaystyle\frac{1}{2}gt_{PA}^2\)。
- (1)の結果 \(h = \displaystyle\frac{v_0^2}{4g}\) を代入すると、\(\displaystyle\frac{v_0^2}{4g} = \frac{1}{2}gt_{PA}^2\)。
$$t_{PA}^2 = \frac{v_0^2}{2g^2} \quad \rightarrow \quad t_{PA} = \frac{v_0}{\sqrt{2}g}$$
(これは上昇時間\(t_{OP}\)と等しく、運動の対称性からも明らかです。)
2. 点Aでの床との衝突
- 衝突直前の鉛直速度: \(v_{Ay} = g t_{PA} = g \cdot \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}g} = \frac{v_0}{\sqrt{2}}\) (下向き)
- 衝突直後の鉛直速度: 床に垂直な成分なので、速さが\(e\)倍になり向きが逆転します。\(v’_{Ay} = e v_{Ay} = e \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) (上向き)
3. A \(\rightarrow\) B の運動(床衝突後、再び床に達するまで)
- 鉛直方向: 初速度\(v’_{Ay}\)の投げ上げ運動。点Bは床の上なので、変位は0です。かかる時間を\(t_{AB}\)とすると、公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) より、\(0 = v’_{Ay} t_{AB} – \displaystyle\frac{1}{2}gt_{AB}^2\)。
- \(t_{AB} > 0\) なので、\(t_{AB} = \displaystyle\frac{2v’_{Ay}}{g} = \frac{2e v_0}{\sqrt{2}g}\)。
4. 水平距離 L’ の計算
- 壁衝突後の水平速度は、\(v’_x = e \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) で一定です。
- P \(\rightarrow\) A \(\rightarrow\) B の間、この速度で運動し続けます。合計時間は \(t_{PA} + t_{AB}\) です。
- 壁からBまでの水平距離\(L’\)は、
$$L’ = v’_x \times (t_{PA} + t_{AB})$$
$$L’ = e \frac{v_0}{\sqrt{2}} \left( \frac{v_0}{\sqrt{2}g} + \frac{2e v_0}{\sqrt{2}g} \right) \quad \cdots ④$$
5. L=L’ の条件式を立てる
(2)で求めた \(L = \displaystyle\frac{v_0^2}{2g}\) と、上で導出した\(L’\)の式を等しいと置きます。
$$\frac{v_0^2}{2g} = e \frac{v_0}{\sqrt{2}} \left( \frac{v_0}{\sqrt{2}g} + \frac{2e v_0}{\sqrt{2}g} \right)$$
使用した物理公式
- 自由落下: \(y = \frac{1}{2}gt^2\), \(v=gt\)
- 鉛直投げ上げ: \(y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\)
- 等速直線運動: \(x = vt\)
まず、\(L’\)の式④を整理します。
$$L’ = e \frac{v_0}{\sqrt{2}} \cdot \frac{v_0}{\sqrt{2}g} (1+2e) = \frac{ev_0^2}{2g}(1+2e)$$
次に、\(L=L’\) の条件式を立てて\(e\)について解きます。
$$\frac{v_0^2}{2g} = \frac{e(1+2e)v_0^2}{2g}$$
両辺に共通する \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2g}\) で割ると、
$$1 = e(1+2e)$$
展開して整理すると、\(e\)に関する2次方程式が得られます。
$$1 = e + 2e^2$$
$$2e^2 + e – 1 = 0$$
これを因数分解します。
$$(2e – 1)(e + 1) = 0$$
この方程式の解は \(e = \displaystyle\frac{1}{2}\) または \(e = -1\)。
問題の条件より、反発係数は \(0 < e < 1\) なので、物理的に意味のある解は、
$$e = \frac{1}{2}$$
小球が壁にぶつかってから、最終的に点Bに落ちるまでの全プロセスを追いかけます。まず、壁から床のA点まで落ちる時間と、A点から床のB点まで飛ぶ時間を計算します。この合計時間が、壁衝突後に小球が飛んでいた時間です。この時間と、壁衝突後のはね返りの水平速度を掛け算すると、壁からBまでの水平距離\(L’\)がわかります。この\(L’\)が、最初の距離\(L\)と等しくなる、という条件で方程式を立て、それを解くことで反発係数\(e\)が求まります。
反発係数\(e\)は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) です。
この値は \(0 < e < 1\) の範囲を満たしており、物理的に妥当な値です。計算過程で2次方程式を解く必要がありますが、物理的な条件から解が一つに定まります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解(水平・鉛直):
- 核心: 2次元の運動を、互いに影響を及ぼさない独立した1次元の運動(水平方向と鉛直方向)の組み合わせとして捉える、放物運動解析の基本原則です。
- 理解のポイント:
- 水平方向: 外力が働かない限り(空中を飛んでいる間)、等速直線運動。
- 鉛直方向: 重力という一定の力が常に働くため、等加速度直線運動。
この原則に従い、初速度を成分分解し、各方向で適切な運動法則(等速直線運動の式や等加速度直線運動の公式)を適用することが、この問題全体を貫く最も重要な考え方です。
- 衝突における速度変化の法則:
- 核心: なめらかな面との衝突では、速度を面に「平行な成分」と「垂直な成分」に分解して考えます。
- 理解のポイント:
- 平行成分: 力が働かないため、速度は変化しません。
- 垂直成分: 垂直抗力(撃力)が働くため、速度は変化します。その変化の仕方は、反発係数\(e\)を用いて、衝突後の速度が衝突前の速度の\(-e\)倍になる (\(v’=-ev\)) という関係で記述されます。
この法則を、(3)の壁との衝突、(4)の床との衝突の両方に正しく適用できるかが問われています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 角度のついた壁との衝突: 壁が鉛直ではなく斜めになっている場合。このときは、壁に平行・垂直な方向に座標軸を取り直し、速度ベクトルをその座標系で分解して考える必要があります。重力も分解する必要があり、計算が複雑になります。
- 複数回のバウンド: 床で何度もはね返る運動。1回のバウンドで、最高到達高さは\(e^2\)倍に、滞空時間は\(e\)倍になるという規則性があります。この規則性を見抜くと、n回目のバウンドに関する問いにも対応できます。
- 動く壁との衝突: 壁が動いている場合。相対速度を考える必要があります。反発係数の式は \(e = -\frac{v’_{壁} – v’_{球}}{v_{壁} – v_{球}}\) のように、相対速度で定義されることを思い出しましょう。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動のフェーズ分け: まず、運動全体を「O \(\rightarrow\) P」「Pでの壁衝突」「P \(\rightarrow\) A」「Aでの床衝突」「A \(\rightarrow\) B」のように、現象が切り替わる点で区切って考えます。
- キーとなる条件の発見: 「壁に垂直に衝突」という条件を見つけ、これが「最高点での衝突」を意味することに気づくことが、(1)(2)を解く上での最大の突破口です。問題文の何気ない記述に重要なヒントが隠されていることが多いです。
- 時間と距離のどちらを先に求めるか?:
- 時間を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) は、高さや距離を直接求めるのに便利です((1)など)。
- 時間\(t\)を媒介変数として、鉛直方向の運動から\(t\)を求め、それを使って水平方向の距離を求める (\(x=vt\)) という流れは、放物運動解析の王道パターンです((2)や(4)など)。
- 運動の対称性の利用: 投げ上げと落下は、時間を逆に再生したような関係にあります。最高点までの上昇時間と、そこからの落下時間は等しくなります (\(t_{OP}=t_{PA}\))。また、投げ上げたときの速さと、同じ高さに戻ってきたときの速さは等しくなります。こうした対称性を利用すると、計算を大幅に簡略化できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の成分分解のミス:
- 誤解: 初速度の分解で\(\cos45^\circ, \sin45^\circ\)を間違える、あるいは壁や床との衝突の際に、分解する軸を間違える。
- 対策: 衝突を考える際は、必ず「面に平行・垂直」な方向に分解する、という原則を徹底します。水平・鉛直方向が常に正しい分解方向とは限りません(壁が斜めの場合など)。
- 反発係数の式の適用の誤り:
- 誤解: 反発係数を、速度の大きさそのものに掛けてしまう (\(V’ = eV\))。
- 対策: 反発係数の式が適用されるのは、あくまで面に「垂直な速度成分」のみです。平行成分は変化しないことを忘れないようにしましょう。
- エネルギー計算での位置エネルギーの考慮漏れ:
- 誤解: (3)で、点Pでの力学的エネルギーを運動エネルギーのみで計算してしまう。
- 対策: 力学的エネルギーは「運動エネルギー+位置エネルギー」の和です。常に両方を意識しましょう。ただし、この問題のように衝突の前後で高さが変わらない場合は、位置エネルギーの変化がゼロなので、結果的に運動エネルギーの変化だけを考えれば良いことになります。
- (4)の時間の計算ミス:
- 誤解: 壁衝突後、点Bまでの水平移動距離\(L’\)を計算する際に、飛んでいる時間を \(t_{PA}\) や \(t_{AB}\) だけで計算してしまう。
- 対策: \(L’\)は、壁に衝突した瞬間(点P)から点Bに達するまでの全水平移動距離です。したがって、かかる時間は \(t_{PA}\)(PからAまで)と \(t_{AB}\)(AからBまで)の和 (\(t_{PA}+t_{AB}\)) を使う必要があります。運動のフェーズを正確に追跡することが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 軌跡の図: 問題に示されている図がすべてですが、自分でフリーハンドで軌跡を描いてみると、運動のイメージが掴みやすくなります。特に、O \(\rightarrow\) P の放物線と、P \(\rightarrow\) A \(\rightarrow\) B の、よりスケールの小さい放物線をつなげた形を意識することが大切です。
- 速度ベクトルの図示: 各重要なポイント(O, P, A, B)で、速度ベクトルを矢印で描き込み、それを水平・鉛直成分に分解した図を描くと、計算の助けになります。特に衝突点PとAの前後で、どの成分がどう変化するのかを視覚化すると、ミスが減ります。
- 時間のタイムライン: O, P, A, B の各点を時間軸上にプロットし、区間ごとの所要時間(\(t_{OP}, t_{PA}, t_{AB}\))を書き込むと、(4)のような複雑な状況でも時間の流れを整理しやすくなります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 水平・鉛直の分離: 頭の中やノートの隅で、水平方向の運動と鉛直方向の運動を別々の図(あるいは数直線)で表現してみるのも有効です。水平方向は等速(壁衝突時を除く)、鉛直方向は等加速度運動、という違いが明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 等加速度直線運動の公式:
- 選定理由: 鉛直方向の運動は、常に重力による等加速度運動であるため。
- 適用根拠:
- \(v^2-v_0^2=2ax\): (1)のように、時間\(t\)が不要で、初速・終速・加速度・距離の関係を知りたい場合に最適。
- \(v=v_0+at\): (2)のように、初速・終速・加速度が分かっていて、時間\(t\)を求めたい場合に最適。
- \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\): (4)のように、時間\(t\)が分かっていて、移動距離(変位)を求めたい場合に最適。
問題で与えられている既知の量と、求めたい未知の量に応じて、3つの公式を使い分けることが重要です。
- 等速直線運動の公式 (\(x=vt\)):
- 選定理由: 水平方向の運動は、力が働かない区間では等速直線運動であるため。
- 適用根拠: 運動方向に力が働いていない(加速度が0)という物理的条件。
- 反発係数の式 (\(v’=-ev\)):
- 選定理由: (3), (4)で壁や床との衝突現象を扱うため。
- 適用根拠: 問題文で反発係数\(e\)が与えられており、衝突面の法線方向の速度成分の変化を記述する必要があるからです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 運動の分解と条件の解釈: 運動を水平・鉛直に分解。「壁に垂直に衝突」 \(\rightarrow\) 点Pは最高点 \(\rightarrow\) \(v_y=0\)。
- O \(\rightarrow\) P の解析 (問1, 2):
- (1) 高さ\(h\): 鉛直方向の運動に着目。\(v_y=0\)になるまでの距離を \(v^2-v_0^2=2ax\) で求める。
- (2) 距離\(L\): まず鉛直方向の運動から最高点までの時間\(t_{OP}\)を \(v=v_0+at\) で求める。次に、水平方向の運動 \(L=v_{0x}t_{OP}\) で\(L\)を計算する。
- 壁衝突の解析 (問3):
- 衝突前後の速度成分を求める。平行成分(\(v_y\))は不変、垂直成分(\(v_x\))は\(e\)倍になって向きが変わる。
- エネルギー変化を計算する。高さは同じなので、運動エネルギーの変化 \(\Delta K = K_{後} – K_{前}\) を計算する。
- P \(\rightarrow\) A \(\rightarrow\) B の解析と条件整理 (問4):
- 目標: \(L=L’\) という条件式を立てる。
- \(L’\)の計算: \(L’ = (\text{壁衝突後の水平速度}) \times (\text{PからBまでの全時間})\)。
- 全時間の計算: 全時間 \( = t_{PA} + t_{AB}\)。
- \(t_{PA}\)をPからの自由落下で求める。
- \(t_{AB}\)をAでの床衝突後の投げ上げ運動で求める。
- 方程式の立式: (2)で求めた\(L\)と、計算した\(L’\)を等しいと置き、\(e\)に関する方程式を導く。
- 方程式を解く**: 最後に得られた\(e\)の2次方程式を解き、物理的に妥当な解 (\(0<e<1\)) を選ぶ。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 初速度の成分: \(v_0\cos45^\circ = v_0\sin45^\circ = \frac{v_0}{\sqrt{2}}\)。この計算は頻出なので、素早く正確に行う。分母の有理化は、必ずしも計算の最終段階まで必要ありません。途中で約分できることも多いです。
- 符号の管理: 鉛直上向きを正と決めたら、重力加速度は\(-g\)、下向きの速度は負の値、として一貫して扱う。
- 文字式の整理: (4)の\(L’\)の計算のように、式が長くなる場合は、共通因数でくくるなどして、できるだけシンプルな形で整理しながら進める。(例: \(t_{PA}+t_{AB} = t_{OP}(1+2e)\) のようにまとめる)
- 方程式の解: 2次方程式を解いた後は、必ず問題の条件(\(0<e<1\))に照らし合わせて、解を吟味する習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1), (2) \(h, L\): \(v_0\)大きいほど高く、遠くまで飛ぶ。\(g\)が大きい(重力が強い)ほど飛ばない。これらの関係は直感と一致します。質量\(m\)に無関係な点も重要です。
- (3) \(E\): \(E = \frac{1}{4}mv_0^2(1-e^2)\)。\(e=1\)なら\(E=0\)(エネルギー損失なし)、\(e=0\)なら\(E=\frac{1}{4}mv_0^2\)(水平方向の運動エネルギーをすべて失う)。これらの極端な場合を考えると、式の妥当性が確認できます。
- (4) \(e=1/2\): \(0<e<1\)の範囲にあり、物理的に意味のある値です。
- 対称性の利用による検算:
- (2)で求めた上昇時間 \(t_{OP}\) と、(4)の途中で計算した落下時間 \(t_{PA}\) が等しくなっているか確認する。
- 床との衝突直前の速さの鉛直成分 \(v_{Ay}\) が、最初の投げ上げの初速の鉛直成分 \(v_{0y}\) と等しくなっているか確認する。
これらの対称性が成り立っていれば、計算が正しく進んでいる可能性が高いです。
問題40 (甲南大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、自由落下してきた小球が、静止したなめらかな斜面と衝突し、その後、放物運動(水平投射)を経て再び斜面に衝突するという、複数の物理現象を組み合わせた問題です。
- 小球の質量: \(m\)
- 1回目の衝突直前の速さ: \(v\) (鉛直下向き)
- 斜面の傾き角: \(\theta\) (\(0^\circ < \theta < 45^\circ\))
- 斜面はなめらかで、動かない。
- 1回目の衝突後、小球は速さ\(v’\)で水平に飛んだ。
- 重力加速度の大きさ: \(g\)、空気抵抗は無視。
- 小球が自由落下し、速さ\(v\)で斜面に衝突する(1回目)。
- 衝突後、小球は速さ\(v’\)で水平方向に飛び出す。
- 時刻\(t=0\)で1回目の衝突をした後、時刻\(t=t_1\)に斜面上の点Pで再び衝突する(2回目)。
- [A] 1回目の衝突の分析
- (ア), (イ): 衝突直前の速度の、斜面に平行・垂直な成分。
- (ウ), (エ): 平行成分が保存されることから\(v’\)を求める。
- (オ), (カ), (キ), (ク): 垂直成分の変化と反発係数\(e\)の関係を求める。
- (1): 1回目の衝突での力積の大きさ。
- [B] 2回目の衝突までの運動の分析
- (ケ), (コ): 衝突後の水平・鉛直移動距離 \(l_x, l_y\)。
- (サ): 再衝突までの時間\(t_1\)。
- (2): 2回目の衝突直前の速度の向き(\(\tan\alpha\))。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「斜面との衝突と放物運動」です。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解(座標系の選択): 2次元の運動を解析する際、現象に応じて最も都合の良い直交座標系を選び、ベクトル量をその成分に分解して考えます。
- 衝突の法則: なめらかな面との衝突では、面に平行な速度成分は変化せず、面に垂直な速度成分は反発係数\(e\)に従って変化します。
- 放物運動: 衝突後の運動は、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「等加速度直線運動(自由落下)」の組み合わせとして扱います。
- 幾何学的条件: 再び斜面に衝突するという条件を、移動距離の比が斜面の傾きに等しいという図形的な関係に置き換えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、1回目の衝突現象を分析します。ここでは、斜面に平行・垂直な座標系を考えると、衝突の法則を適用しやすくなります。
- 次に、1回目の衝突後の運動を分析します。これは水平投射なので、水平・鉛直な座標系で考えるのが便利です。
- 最後に、再び斜面に衝突するという条件を、水平・鉛直方向の移動距離の関係式に落とし込み、未知数を求めていきます。
問(ア), (イ)
思考の道筋とポイント
衝突直前の小球の速度の、斜面に「平行な成分」と「垂直な成分」の大きさを求めます。衝突直前の小球の速度は、鉛直下向きで大きさは\(v\)です。この速度ベクトルを、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。図を正確に描き、角度の関係を正しく見抜くことが重要です。
この設問における重要なポイント
- 速度ベクトルを、斜面に平行・垂直な2つの方向に分解する。
- 図を正確に描き、角度の関係(錯角など)を正しく見抜く。
具体的な解説と立式
図を描いて考えます。鉛直下向きの速度ベクトル\(\vec{v}\)と、斜面のなす角を考えます。斜面の傾き角が\(\theta\)なので、鉛直線と斜面に垂直な線のなす角も\(\theta\)になります。また、鉛直線と斜面に平行な線のなす角は \(90^\circ – \theta\) です。
したがって、速度\(\vec{v}\)を分解すると、
- (ア) 斜面に平行な成分の大きさ \(v_\parallel\):
$$v_\parallel = v \cos(90^\circ – \theta)$$ - (イ) 斜面に垂直な成分の大きさ \(v_\perp\):
$$v_\perp = v \cos\theta$$
使用した物理公式
- ベクトルの分解
- 三角関数の公式: \(\cos(90^\circ – \theta) = \sin\theta\)
(ア)の式を三角関数の公式を用いて変形します。
$$v_\parallel = v \cos(90^\circ – \theta) = v \sin\theta$$
(イ)はこれ以上計算の必要はありません。
真下に落ちてきたボールが斜面にぶつかる瞬間を想像します。ボールの速度を、斜面に沿って滑り落ちる方向の成分と、斜面にめり込む方向の成分に分けます。三角関数を使って、それぞれの成分の大きさを計算します。
(ア)は \(v\sin\theta\)、(イ)は \(v\cos\theta\) です。
\(\theta\)が0に近づくと、平行成分は0に、垂直成分は\(v\)に近づき、水平な面への垂直衝突の状況と一致します。物理的に妥当な結果です。
問(ウ), (エ)
思考の道筋とポイント
衝突後、小球は速さ\(v’\)で「水平に」飛んだとあります。この衝突後の速度\(\vec{v’}\)も、斜面に平行・垂直な成分に分解します。
(ウ)では、衝突の前後で「斜面に平行な速度成分の大きさは変化しない」という法則(なめらかな面との衝突のため)を式で表します。
(エ)では、その関係式から\(v’\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- なめらかな面との衝突では、面に平行な速度成分は保存される。
- 衝突後の水平な速度ベクトル\(\vec{v’}\)を、斜面に平行・垂直な方向に分解する。
具体的な解説と立式
衝突後の水平な速度ベクトル\(\vec{v’}\)を、斜面に平行・垂直な方向に分解します。水平線と斜面のなす角は\(\theta\)なので、
- 衝突後の速度の、斜面に平行な成分の大きさ \(v’_\parallel\):
$$v’_\parallel = v’ \cos\theta$$
(ウ) 斜面に平行な速度成分は衝突前後で変化しないので、(ア)で求めた衝突前の平行成分 \(v_\parallel = v\sin\theta\) と、衝突後の平行成分 \(v’_\parallel\) は等しくなります。
$$v \sin\theta = v’ \cos\theta \quad \cdots ①$$
(エ) この式①を\(v’\)について解きます。
使用した物理公式
- 衝突の法則(平行成分は不変)
- 三角比の定義: \(\tan\theta = \frac{\sin\theta}{\cos\theta}\)
式①の両辺を\(\cos\theta\)で割ります。
$$v’ = v \frac{\sin\theta}{\cos\theta}$$
三角比の定義を用いて、
$$v’ = v \tan\theta$$
(ウ) なめらかな斜面なので、衝突の際に斜面に沿った方向には力が働きません。そのため、斜面に沿った方向の速さは衝突の前後で変わらない、というルールを数式で書きます。
(エ) (ウ)で立てた等式を、衝突後の速さ\(v’\)について解きます。
(ウ)は \(v\sin\theta = v’\cos\theta\)、(エ)は \(v\tan\theta\) です。
\(\theta\)が小さいとき、\(\tan\theta\)も小さいので\(v’\)は小さくなります。これは直感と合っています。
問(オ), (カ), (キ), (ク)
思考の道筋とポイント
衝突後の速度の「斜面に垂直な成分」について、2つの異なる視点から式を立て、それらを比較することで反発係数\(e\)を求めます。
- (オ) (エ)で求めた\(v’\)を使って、衝突後の垂直成分の大きさを幾何学的に表します。
- (カ) 衝突の法則(反発係数)を使って、衝突後の垂直成分の大きさを物理法則から表します。
- (キ) (オ)と(カ)が等しいという条件から、\(v’\)を\(e, v, \theta\)で表します。
- (ク) (エ)で求めた\(v’\)の表式と、(キ)で求めた\(v’\)の表式が等しい、という条件から\(e\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 衝突後の垂直速度成分を、幾何学的関係と衝突の法則の2通りで表現する。
- 反発係数の式 \(v’_\perp = e v_\perp\) を正しく適用する。
具体的な解説と立式
(オ) 衝突後の速度の、斜面に垂直な成分の大きさ\(v’_\perp\)は、水平な速度\(v’\)を分解することで \(v’_\perp = v’ \sin\theta\) と表せます。
(カ) 一方、衝突の法則によれば、斜面に垂直な方向の速度は、衝突前の\(e\)倍になります。衝突前の垂直成分の大きさは(イ)より \(v_\perp = v\cos\theta\) でした。したがって、衝突後の垂直成分の大きさは、
$$v’_\perp = e v_\perp = e v \cos\theta \quad \cdots ②$$
(キ) (オ)と(カ)は同じ物理量を表しているので、等しいはずです。
$$v’ \sin\theta = e v \cos\theta$$
この式を\(v’\)について解きます。
(ク) (エ)で求めた\(v’ = v \tan\theta\) と、(キ)で導かれる\(v’\)の式が等しいとおいて、\(e\)に関する方程式を立てます。
$$v \tan\theta = \frac{ev}{\tan\theta}$$
使用した物理公式
- 反発係数の式: \(v’_{垂直} = e \cdot v_{垂直}\)
(キ)の計算:
$$v’ = \frac{e v \cos\theta}{\sin\theta} = \frac{ev}{\tan\theta}$$
(ク)の計算:
$$v \tan\theta = \frac{ev}{\tan\theta}$$
両辺を\(v\)で割り、\(\tan\theta\)を掛けると、
$$(\tan\theta)^2 = e$$
したがって、
$$e = \tan^2\theta$$
斜面に垂直な方向のはね返り後の速さについて考えます。
(オ) (エ)で求めた衝突後の全体の速さ\(v’\)を、幾何学的に(三角関数で)垂直成分に分解します。
(カ) 一方で、はね返りの法則(反発係数)からも、垂直方向の速さを計算できます。
(キ) (オ)と(カ)は同じものを指しているので、イコールで結び、\(v’\)を別の形で表します。
(ク) これで\(v’\)の表し方が2通りできたので、それらをイコールで結ぶと、反発係数\(e\)が\(\theta\)だけで表せます。
(オ)は \(v’\sin\theta\)、(カ)は \(ev\cos\theta\)、(キ)は \(v’ = \displaystyle\frac{ev}{\tan\theta}\)、(ク)は \(e = \tan^2\theta\) です。
\(0^\circ < \theta < 45^\circ\) なので、\(0 < \tan\theta < 1\)。よって \(0 < e < 1\) となり、反発係数の物理的な条件を満たしています。
問(1)
思考の道筋とポイント
1回目の衝突で斜面が小球に与えた力積の大きさを求めます。力積は「運動量の変化」に等しいです。運動量はベクトルなので、衝突前後の運動量ベクトルの差(ベクトル的な引き算)を計算します。
このとき、斜面に平行・垂直な座標系で考えると計算が楽になります。なぜなら、平行方向の運動量は変化せず、変化するのは垂直方向の運動量だけだからです。
この設問における重要なポイント
- 力積は運動量の変化量 (\(\vec{I} = \Delta\vec{p} = \vec{p}_{後} – \vec{p}_{前}\))。
- 斜面に平行・垂直な成分で考えると、変化するのは垂直成分のみ。
具体的な解説と立式
斜面に平行な方向をx軸、垂直な方向(斜面から離れる向き)をy軸とします。
- 衝突前の運動量成分:
- \(p_x = m v_\parallel = m v \sin\theta\)
- \(p_y = -m v_\perp = -m v \cos\theta\)
- 衝突後の運動量成分:
- \(p’_x = m v’_\parallel = m (v \sin\theta)\) (平行成分は不変)
- \(p’_y = m v’_\perp = m (e v \cos\theta)\)
力積の各成分は、運動量の各成分の変化量です。
- 力積のx成分: \(I_x = p’_x – p_x = 0\)
- 力積のy成分: \(I_y = p’_y – p_y = m(e v \cos\theta) – (-m v \cos\theta)\)
力積の大きさ\(I\)は、\(\sqrt{I_x^2 + I_y^2}\) ですが、\(I_x=0\)なので、力積はy方向のみにはたらき、その大きさは\(I_y\)に等しくなります。
$$I = mv\cos\theta(1+e)$$
この式に、(ク)で求めた \(e=\tan^2\theta\) を代入して整理します。
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(\vec{I} = \Delta\vec{p}\)
- 三角関数の公式: \(1+\tan^2\theta = \displaystyle\frac{1}{\cos^2\theta}\)
$$I = mv\cos\theta(1+e)$$
に \(e=\tan^2\theta\) を代入します。
$$I = mv\cos\theta(1+\tan^2\theta)$$
三角関数の公式 \(1+\tan^2\theta = \displaystyle\frac{1}{\cos^2\theta}\) を用いて、式を整理します。
$$I = mv\cos\theta \left(\frac{1}{\cos^2\theta}\right)$$
\(\cos\theta\)を一つ約分して、
$$I = \frac{mv}{\cos\theta}$$
力積は、運動量がどれだけ変化したかを表す量です。斜面に沿った方向の運動量は変化しませんが、斜面に垂直な方向の運動量は、めり込む向きから飛び出す向きへと大きく変化します。この垂直方向の運動量の変化量が、そのまま力積の大きさになります。
力積の大きさは \(\displaystyle\frac{mv}{\cos\theta}\) です。力積の向きは、斜面に垂直で離れる向きです。
問(ケ), (コ)
思考の道筋とポイント
1回目の衝突後、速さ\(v’\)で水平に飛び出した小球が、時刻\(t_1\)後までに進む水平距離\(l_x\)と鉛直下向きの距離\(l_y\)を求めます。これは、初速度が水平方向の「水平投射」運動です。したがって、運動を水平方向と鉛直方向に分解して考えます。
- 水平方向: 力が働かないので、等速直線運動。
- 鉛直方向: 重力のみが働くので、初速度0の自由落下。
この設問における重要なポイント
- 衝突後の運動を「水平投射」として正しくモデル化する。
- 水平方向と鉛直方向の運動を、それぞれ適切な公式で記述する。
具体的な解説と立式
1回目の衝突直後の速度は、水平方向(右向き)に大きさ\(v’\)です。
- (ケ) 水平距離\(l_x\): 水平方向は速さ\(v’\)の等速直線運動なので、時間\(t_1\)後の移動距離は、
$$l_x = v’ t_1$$ - (コ) 鉛直距離\(l_y\): 鉛直方向は初速度0の自由落下なので、時間\(t_1\)後の落下距離は、
$$l_y = \frac{1}{2}gt_1^2$$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(x=vt\)
- 自由落下: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
(ケ)は \(v’t_1\)、(コ)は \(\displaystyle\frac{1}{2}gt_1^2\) です。これは水平投射の基本的な公式そのものです。
問(サ)
思考の道筋とポイント
時刻\(t_1\)を求めます。小球は時刻\(t_1\)に、再び斜面上の点Pに衝突します。このとき、小球の変位ベクトル(始点と終点を結ぶベクトル)の傾きが、斜面の傾きと一致します。
図から、小球が進んだ水平距離\(l_x\)と鉛直距離\(l_y\)の間には、\(\displaystyle\frac{l_y}{l_x} = \tan\theta\) という幾何学的な関係が成り立ちます。この関係式に(ケ), (コ)の結果を代入して、\(t_1\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 再び斜面に衝突するという条件を、幾何学的な関係 \(\frac{l_y}{l_x} = \tan\theta\) に翻訳する。
- これまでに求めた関係式を総動員して計算する。
具体的な解説と立式
幾何学的関係式に、(ケ), (コ)の結果を代入します。
$$\frac{l_y}{l_x} = \tan\theta$$
$$\frac{\frac{1}{2}gt_1^2}{v’t_1} = \tan\theta$$
この式を\(t_1\)について解き、さらに(エ)で求めた\(v’\)の関係式を代入します。
使用した物理公式
- 三角比の定義
まず、\(t_1\)について解きます。\(t_1 > 0\) なので、\(t_1\)で約分できます。
$$\frac{gt_1}{2v’} = \tan\theta$$
$$t_1 = \frac{2v’\tan\theta}{g}$$
次に、(エ)で求めた \(v’ = v\tan\theta\) の関係を代入します。
$$t_1 = \frac{2(v\tan\theta)\tan\theta}{g}$$
$$t_1 = \frac{2v\tan^2\theta}{g}$$
ボールが再び斜面に当たるのは、ボールが落下した縦の距離と、横に進んだ距離の比が、ちょうど斜面の傾き(\(\tan\theta\))と同じになったときです。この関係を数式にして、時間\(t_1\)について解きます。
\(t_1 = \displaystyle\frac{2v\tan^2\theta}{g}\) です。
衝突直前の速さ\(v\)が速いほど、再衝突までの時間が長くなるのは直感的です。また、\(\theta\)が大きいほど時間も長くなるという結果になっています。
問(2)
思考の道筋とポイント
2回目の衝突直前の小球の速度の向きが、水平となす角を\(\alpha\)としたときの\(\tan\alpha\)を求めます。速度の向きは、その瞬間の速度の鉛直成分と水平成分の比で決まります。
時刻\(t_1\)における速度の各成分を計算し、\(\tan\alpha = \displaystyle\frac{|v_y|}{|v_x|}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- ある瞬間の速度の向きは、速度の成分の比で決まる。
- 水平投射運動における、時刻\(t\)での速度の各成分を計算する。
具体的な解説と立式
時刻\(t_1\)における速度の各成分を求めます。
- 水平成分 \(v_x\): 水平方向は等速なので、常に \(v_x = v’ = v\tan\theta\)。
- 鉛直成分 \(v_y\): 自由落下なので、時刻\(t_1\)での速さは \(v_y = gt_1\)。
速度の向きを表す角\(\alpha\)は、これらの成分の比で決まります。
$$\tan\alpha = \frac{v_y}{v_x}$$
この式に、各成分の式を代入します。
使用した物理公式
- 等速直線運動の速度: \(v_x = \text{const.}\)
- 自由落下の速度: \(v_y = gt\)
まず、\(v_y\)の式に(サ)で求めた \(t_1 = \displaystyle\frac{2v\tan^2\theta}{g}\) を代入します。
$$v_y = g \left(\frac{2v\tan^2\theta}{g}\right) = 2v\tan^2\theta$$
次に、\(\tan\alpha\)の式に、求めた\(v_x, v_y\)を代入します。
$$\tan\alpha = \frac{2v\tan^2\theta}{v\tan\theta}$$
\(v\tan\theta\)で約分すると、
$$\tan\alpha = 2\tan\theta$$
2回目にぶつかる瞬間の、ボールの速度の向きを求めます。向きは、そのときの「縦方向の速さ」と「横方向の速さ」の比(タンジェント)で表せます。それぞれの速さを計算して、割り算をします。
\(\tan\alpha = 2\tan\theta\) です。
衝突点が斜面上にあるため、速度の向きの傾き(\(\tan\alpha\))が、斜面の傾き(\(\tan\theta\))のちょうど2倍になるという、水平投射と斜面の組み合わせで現れる興味深い関係式です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解(座標系の選択):
- 核心: 2次元の運動を解析する際、現象に応じて最も都合の良い直交座標系を選び、ベクトル量をその成分に分解して考えるという、力学解析の基本戦略です。
- 理解のポイント:
- 斜面に平行・垂直な座標系: (A)の衝突現象の分析で用います。衝突面に対して平行・垂直に分解することで、「平行成分は不変」「垂直成分は反発係数の法則に従う」という衝突の法則をシンプルに適用できます。
- 水平・鉛直な座標系: (B)の衝突後の放物運動の分析で用います。重力が鉛直方向にのみ働くため、この座標系では運動方程式が「水平方向:等速」「鉛直方向:等加速度」という最も簡単な形になり、軌道の計算に適しています。
この問題は、これら2つの座標系を局面に応じて適切に使い分ける、あるいは両者の間でベクトルの成分を変換する能力を試しています。
- 衝突の法則(反発係数):
- 核心: なめらかな面との衝突では、面に平行な速度成分は変化せず、面に垂直な速度成分は衝突後に大きさが\(e\)倍になり向きが逆転する (\(v’_{垂直} = -e \cdot v_{垂直}\)) という法則です。
- 理解のポイント: この法則は、運動エネルギーが保存されない非弾性衝突を扱うための重要なツールです。問題の(A)全体を通して、この法則を幾何学的な関係と組み合わせることで、未知の物理量(\(v’, e\)など)を決定していきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平投射と斜面: 水平に投げ出した物体が斜面に着地する問題。本問題の(B)パートと全く同じ構造です。「着地点の座標の比が斜面の傾き(\(\tan\theta\))に等しい」という条件で立式するのが定石です。
- 斜方投射と斜面: 斜面に向かって斜めに物体を投げ込む、あるいは斜面から斜めに投げ出す問題。計算はより複雑になりますが、水平・鉛直に分解して考える基本方針は同じです。
- ビリヤードのクッションショット: 角度のついた壁(クッション)へのボールの衝突。本問題の(A)パートと同様に、壁に平行・垂直な成分に分解して考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動のフェーズを区切る: 「自由落下 \(\rightarrow\) 1回目衝突 \(\rightarrow\) 水平投射 \(\rightarrow\) 2回目衝突」のように、運動の性質が変わる点で物語を区切ります。
- 各フェーズで最適な座標系を選ぶ:
- 衝突の瞬間: 衝突面に平行・垂直な座標系が便利。
- 空中での放物運動: 水平・鉛直な座標系が便利。
- 未知数と式の数を意識する: (A)パートでは、未知数 \(v’, e\) に対して、幾何学的関係と衝突の法則から2つの独立した関係式を立てることで解を導いています。このように、未知数を決定するには同数の独立した方程式が必要である、という代数の基本を意識すると、解法の方針が立てやすくなります。
- 幾何学的条件を探す: (B)パートの「\(\frac{l_y}{l_x} = \tan\theta\)」のように、問題設定から導かれる図形的な制約条件が、運動学的な式と結びついて解の鍵となることが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 座標系の混同:
- 誤解: 衝突を分析する際に水平・鉛直成分を使い、放物運動を分析する際に斜面に平行・垂直な成分を使おうとするなど、不適切な座標系を選んで計算を複雑にしてしまう。
- 対策: 「衝突には面に平行・垂直」「放物運動には水平・鉛直」というセオリーを強く意識する。なぜその座標系が便利なのか(=法則がシンプルな形で書けるから)を理解することが重要です。
- 角度の取り違え:
- 誤解: 速度ベクトルを分解する際に、\(\sin\theta\)と\(\cos\theta\)を取り違える。
- 対策: 焦らずに図を描き、直角三角形を見つけて、角度\(\theta\)がどこにあるか(特に錯角や同位角の関係)を正確に確認する。「\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\)」と機械的に覚えるだけでなく、図形的な関係をきちんと追う癖をつけましょう。
- 衝突の法則の適用の誤り:
- 誤解: 斜面に平行な成分にも反発係数\(e\)を掛けてしまう。
- 対策: 反発係数は、面に垂直な方向の「押し合う力(垂直抗力)」に起因するものです。面に平行な方向には(なめらかな面なら)力が働かないので、速度は変わるはずがない、と物理的な理由を理解しておきましょう。
- 水平投射の初速度の誤解:
- 誤解: (B)パートの運動を、初速度ゼロの自由落下と勘違いする。
- 対策: 1回目の衝突後、小球は水平方向に速さ\(v’\)を持っています。したがって、その後の運動は「水平投射」であり、鉛直方向は自由落下ですが、水平方向は等速直線運動です。この2つの運動の組み合わせであることを忘れないようにしましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 速度ベクトルの分解図: (A)パートを解く上で、衝突直前(鉛直下向き)と直後(水平)の速度ベクトルを、それぞれ「斜面に平行・垂直な成分」に分解した図を描くことが極めて重要です。これにより、どの成分が保存され、どの成分が変化するかが一目瞭然になります。
- 衝突後の軌跡の図: (B)パートでは、水平投射の軌跡が放物線を描き、それが再び直線である斜面と交わるイメージを図示します。水平移動距離\(l_x\)と鉛直移動距離\(l_y\)を辺とする直角三角形を描き、その斜辺が斜面上にあることを視覚的に捉えることで、\(\frac{l_y}{l_x} = \tan\theta\) の関係が自然に導かれます。
- 力積ベクトルの図示: (1)では、力積が運動量の変化であることをベクトル図で描くと理解が深まります。\(\vec{I} = \vec{p}_{後} – \vec{p}_{前} = \vec{p}_{後} + (-\vec{p}_{前})\)。このベクトル和を図示すると、力積の向きが斜面に垂直な方向であることが明確にわかります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 補助線の活用: 角度の関係を明らかにするために、鉛直線や水平線、斜面の法線などを補助線として積極的に描き加えましょう。
- 目的の明確化: 何を求めるために図を描いているのか(成分分解のためか、幾何学的関係を見つけるためか)を意識することで、より有効な図を描くことができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ベクトルの成分分解:
- 選定理由: 速度や力といったベクトル量を、特定の座標軸に沿ったスカラー量として扱うため。これにより、複雑な2次元の問題を、単純な1次元の問題2つに分割して解くことができます。
- 適用根拠: 物理法則(運動方程式、衝突の法則など)が、特定の座標系で最もシンプルな形で表現できるからです。
- 衝突の法則 (\(v’_{垂直} = e \cdot v_{垂直}\)):
- 選定理由: (A)パートで、非弾性衝突による速度の変化を定量的に記述するため。
- 適用根拠: 問題文で反発係数\(e\)が与えられており、衝突面の法線方向(垂直方向)の速度変化を扱う必要があるからです。
- 水平投射の公式 (\(x=v_0t, y=\frac{1}{2}gt^2\)):
- 選定理由: (B)パートで、1回目の衝突後の運動が、初速度が水平方向の放物運動(水平投射)であるため。
- 適用根拠: 水平方向は力が働かず(等速)、鉛直方向は重力のみが働く(自由落下)という物理的状況に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【1回目衝突の分析】
- 座標系設定: 斜面に平行・垂直な座標系を考える。
- 衝突前速度の分解 (ア, イ): 鉛直下向きの速度\(v\)を、平行成分\(v\sin\theta\)と垂直成分\(v\cos\theta\)に分解する。
- 衝突後速度の分解: 水平方向の速度\(v’\)を、平行成分\(v’\cos\theta\)と垂直成分\(v’\sin\theta\)に分解する。
- 平行成分の保存 (ウ, エ): 衝突前後で平行成分は不変という式 (\(v\sin\theta = v’\cos\theta\)) を立て、\(v’\)を求める。
- 垂直成分の変化 (オ, カ): 衝突後の垂直成分を、幾何学的関係 (\(v’\sin\theta\)) と衝突の法則 (\(ev\cos\theta\)) の2通りで表す。
- \(v’\)と\(e\)の関係導出 (キ, ク): 上記の2つの表現を組み合わせ、\(v’\)と\(e\)の関係式を導き、最終的に\(e\)を\(\theta\)で表す。
- 力積の計算 (1): 運動量の変化を計算する。変化するのは垂直成分のみなので、その変化量が力積の大きさとなる。
- 【2回目衝突までの分析】
- 座標系設定: 水平・鉛直な座標系を考える。
- 運動のモデル化: 1回目衝突後の運動は、初速\(v’\)の水平投射であると捉える。
- 変位の計算 (ケ, コ): 時刻\(t_1\)における水平変位\(l_x\)と鉛直変位\(l_y\)を、水平投射の公式で表す。
- 幾何学的条件の利用 (サ): 再び斜面に衝突する条件 \(\frac{l_y}{l_x} = \tan\theta\) を用いて、\(t_1\)を求める。
- 衝突直前速度の計算 (2): 時刻\(t_1\)での水平速度\(v_x\)と鉛直速度\(v_y\)を求め、その比から\(\tan\alpha\)を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の習熟: この問題は、\(\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta\) の関係を自在に使いこなす能力が不可欠です。特に、\(1+\tan^2\theta = 1/\cos^2\theta\) のような公式は、(1)の力積計算で有効です。
- 段階的な代入: (ク)や(サ)のように、以前の設問の結果を利用する問題では、どの結果をどこに代入するのかを明確に意識します。一気に代入しようとせず、一つずつ着実に置き換えていくことがミスを防ぎます。
- 約分は慎重に: (ク)や(2)の計算では、文字式での約分が出てきます。どの項が消えるのかを慎重に見極めましょう。
- 物理量の次元チェック: 例えば、(サ)で求めた\(t_1\)の次元が時間の次元 \([T]\) になっているかを確認する(\([L]/[T] \cdot [1] / ([L]/[T]^2) = [T]\))など、計算結果の妥当性を次元の観点からチェックする習慣は有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (ク) \(e = \tan^2\theta\): 問題の条件 \(0^\circ < \theta < 45^\circ\) より、\(0 < \tan\theta < 1\) なので、\(0 < \tan^2\theta < 1\) となります。これは反発係数\(e\)が満たすべき条件 \(0 < e < 1\) と整合しており、妥当な結果です。
- (サ) \(t_1\): \(v\)が大きいほど、\(g\)が小さいほど\(t_1\)が大きくなるのは直感的です。
- (2) \(\tan\alpha = 2\tan\theta\): 水平投射された物体が、原点を通る傾き\(-m\)の直線と交わる点の速度ベクトルの傾きが\(-2m\)になる、という有名な性質があります。この問題は、その座標を回転させたバージョンであり、\(\tan\alpha\)が\(\tan\theta\)の2倍になるという結果は、この性質と一致しており、非常に妥当です。
- 極端な場合を考える:
- もし\(\theta \rightarrow 0\) なら、\(e \rightarrow 0\)。これは、ほぼ水平な面にほぼ垂直に衝突する場合、水平方向にはね返るためには反発係数がほぼ0でなければならない(=完全にエネルギーを失って面に沿って滑り出す)という状況に対応し、直感と合います。
- 一貫性の確認:
- (エ)で求めた\(v’\)と(キ)で求めた\(v’\)が、(ク)の条件 \(e=\tan^2\theta\) の下で一致するかを確認してみる、といった検算も有効です。
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