「重要問題集」徹底解説(36〜40問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題36 (大阪医大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、弾丸が木材に打ち込まれる際の運動を、「木材が固定されている場合」と「固定されていない場合」の2つのシナリオで分析するものです。力学の重要法則である「運動量と力積の関係」と「仕事とエネルギーの関係」を使い分ける能力が問われます。

与えられた条件
  • 弾丸の質量: \(m\) [kg]
  • 木材の質量: \(M\) [kg]、長さ: \(L\) [m]
  • 弾丸が木材から受ける抵抗力は、速度や場所によらず一定。
  • 運動は一直線上に限られ、弾丸の大きさは無視できる。
  • シナリオ1 (木材固定):
    • 弾丸の初速: \(v\) [m/s]
    • 弾丸は \(\displaystyle\frac{L}{3}\) [m] の深さまで進入して静止した。
  • シナリオ2 (木材非固定):
    • 床はなめらか。
    • 弾丸の初速: (エ)で求めた速さ (\(\sqrt{3}v\))
    • 弾丸は木材を貫通せず、やがて一体となって運動した。
問われていること
  • (ア) 木材固定時、弾丸が受けた力積の大きさ。
  • (イ) 弾丸が受ける抵抗力の大きさ。
  • (ウ) 木材固定時、弾丸が止まるまでの時間。
  • (エ) 木材を貫通するのに必要な最低速度の、\(v\)に対する倍率。
  • (オ) 木材非固定時、弾丸が進入する深さの、\(L\)に対する倍率。
  • (カ) 木材非固定時、一体となった後の速さの、\(v\)に対する倍率。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「衝突とエネルギー損失」です。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量と力積の関係: 物体の運動量の変化は、受けた力積に等しい。時間を含む計算に有効です。
  2. 仕事とエネルギーの関係: 物体の運動エネルギーの変化は、された仕事に等しい。距離を含む計算に有効です。
  3. 運動量保存則: 外力が働かない系では、全体の運動量は保存される。木材が固定されていない場合の衝突解析に用います。
  4. エネルギー保存則(広義): 抵抗力などの非保存力が仕事をする場合、その仕事の分だけ系の力学的エネルギーが減少します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、木材が固定されている前半部分で、弾丸単体の運動に着目します。「運動量と力積」「仕事とエネルギー」の関係を駆使して、力積、抵抗力、時間、貫通速度を求めます。
  2. 次に、木材が固定されていない後半部分では、弾丸と木材を一つの「系」として捉えます。床がなめらかなので「運動量保存則」が適用でき、一体となった後の速度が求まります。
  3. 最後に、抵抗力(非保存力)によって系の力学的エネルギーが減少することを利用して、弾丸の進入距離を求めます。

問(ア)

思考の道筋とポイント
弾丸が木材から受けた力積の大きさを求めます。力積は「力 × 時間」で定義されますが、この問題では抵抗力の大きさと衝突時間がまだ分かっていません。そこで、「物体の運動量の変化は、その物体が受けた力積に等しい」という、運動量と力積の関係を利用します。

この設問における重要なポイント

  • 運動量と力積の関係式を正しく理解し、適用する。
  • 弾丸の運動開始時と停止時の運動量を正確に把握する。
  • 問題で問われているのが力積の「大きさ」であることに注意する。

具体的な解説と立式
弾丸の質量を\(m\)、打ち込まれた直後の速さを\(v\)とします。木材に進入後、弾丸は静止するので、最終的な速さは0です。

  • 初めの運動量: \(p_{\text{前}} = mv\)
  • 後の運動量: \(p_{\text{後}} = 0\)

弾丸が受けた力積を\(I\)とすると、運動量と力積の関係は次の式で表されます。
$$p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = I$$
したがって、
$$0 – mv = I$$

使用した物理公式

  • 運動量: \(p = mv\)
  • 運動量と力積の関係: \((\text{後の運動量}) – (\text{前の運動量}) = (\text{力積})\)
計算過程

運動量と力積の関係式より、弾丸が受けた力積\(I\)は、
$$I = 0 – mv = -mv$$
問題では力積の「大きさ」が問われているので、この力の絶対値をとります。
$$|I| = |-mv| = mv$$

計算方法の平易な説明

「力積」とは、物体の運動量をどれだけ変化させたかを表す量です。弾丸は最初、\(mv\)という大きさの運動量を持っていましたが、木材に止められて運動量が0になりました。つまり、木材は弾丸から\(mv\)だけの運動量を奪ったことになります。この奪った運動量の大きさが、弾丸が受けた力積の大きさです。

結論と吟味

弾丸が木材から受けた力積の大きさは \(mv\) [N·s] です。運動量の変化から力積を求めるのは、衝突問題における基本的なアプローチです。

解答 (ア) \(mv\)

問(イ)

思考の道筋とポイント
弾丸が木材から受ける一定の抵抗力の大きさを求めます。弾丸が木材内を進む間、抵抗力は弾丸に対して負の仕事をします。この仕事によって弾丸の運動エネルギーが減少し、最終的に0になります。この「仕事とエネルギーの関係」を用いて抵抗力を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギーの関係(または、非保存力の仕事と力学的エネルギーの変化の関係)を正しく立式する。
  • 抵抗力がする仕事は、力の向きと変位の向きが逆であるため、負になることを理解する。

具体的な解説と立式
弾丸の初めの運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)、止まった後の運動エネルギーは0です。
抵抗力の大きさを\(f\)とすると、弾丸が木材に進入した距離は \(\displaystyle\frac{L}{3}\) です。抵抗力は弾丸の運動方向と逆向きに働くため、抵抗力が弾丸にした仕事\(W\)は、
$$W = -f \times \left(\frac{L}{3}\right)$$
仕事とエネルギーの関係「(初めの運動エネルギー)+(された仕事)=(後の運動エネルギー)」より、以下の式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}mv^2 + W = 0$$
$$\frac{1}{2}mv^2 + \left(-f \frac{L}{3}\right) = 0 \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事: \(W = Fx \cos\theta\) (力が一定の場合)
  • 仕事とエネルギーの関係: \(K_{\text{前}} + W = K_{\text{後}}\)
計算過程

式①を\(f\)について解きます。
$$\frac{1}{2}mv^2 – f \frac{L}{3} = 0$$
項を移項して、
$$f \frac{L}{3} = \frac{1}{2}mv^2$$
両辺に \(\displaystyle\frac{3}{L}\) を掛けると、
$$f = \frac{3mv^2}{2L}$$

計算方法の平易な説明

弾丸が持っていた「運動エネルギー」という財産が、木材の中を進む間に抵抗力による「仕事」という形で使われて、最終的にゼロになったと考えます。使われたエネルギーの量(仕事の大きさ)は「抵抗力 × 進んだ距離」です。この関係から、抵抗力の大きさを逆算することができます。

結論と吟味

抵抗力の大きさは \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) [N] です。この結果は、弾丸の初速\(v\)が速いほど、また、短い距離で止まるほど(\(L\)が小さいほど)、大きな抵抗力が必要であることを示しており、物理的な直感と一致します。

解答 (イ) \(\displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
弾丸が木材に進入してから止まるまでの時間を求めます。これには2つのアプローチが考えられます。
解法1: (ア)で求めた力積の大きさと、(イ)で求めた抵抗力の大きさを利用する方法。抵抗力は一定なので、力積は「力 × 時間」で簡単に計算できます。
解法2: 弾丸が一定の抵抗力を受けて減速することから、等加速度直線運動として扱う方法。運動方程式から加速度を求め、等加速度運動の公式を用いて時間を計算します。

この設問における重要なポイント

  • (解法1) 力積の定義 \(I=Ft\) を利用する。
  • (解法2) 運動方程式と等加速度運動の公式を正しく適用する。
  • どちらの解法でも同じ結果になることを確認する。

解法1: 力積と力の関係から求める方法
具体的な解説と立式
(ア)で、弾丸が受けた力積の大きさは \(mv\) であることがわかりました。
(イ)で、弾丸が受けた一定の抵抗力の大きさは \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) であることがわかりました。
求める時間を\(t\)とすると、一定の力\(f\)が時間\(t\)だけ働いたときの力積の大きさは \(ft\) と表せます。
これらが等しいので、
$$ft = mv \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 力積の定義: \(I = Ft\) (力が一定の場合)
計算過程

式②に、(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入します。
$$\left(\frac{3mv^2}{2L}\right) t = mv$$
この式を\(t\)について解きます。両辺を\(mv\)で割ると(\(m \neq 0, v \neq 0\))、
$$\frac{3v}{2L} t = 1$$
両辺に \(\displaystyle\frac{2L}{3v}\) を掛けると、
$$t = \frac{2L}{3v}$$

計算方法の平易な説明

(ア)で計算した「運動量の変化量(力積)」を、(イ)で計算した「力の大きさ」で割れば、その力が働いていた時間が計算できます。単純な割り算です。

結論と吟味

時間は \(t = \displaystyle\frac{2L}{3v}\) [s] です。速く打ち込むほど(\(v\)大)、止まるまでの時間は短くなるという結果は直感に合っています。

解法2: 運動方程式から求める方法 (別解)
具体的な解説と立式
弾丸は一定の抵抗力\(f\)を受けて減速するため、等加速度直線運動をします。弾丸の進行方向を正とすると、受ける力は \(-f\) です。
弾丸の加速度を\(a\)とすると、運動方程式は、
$$ma = -f \quad \cdots ③$$
初速度\(v\)、時間\(t\)後の速度が0になるので、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{後}} = v_{\text{前}} + at\) を用いると、
$$0 = v + at \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

まず、式③に(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入して加速度\(a\)を求めます。
$$ma = -\frac{3mv^2}{2L}$$
$$a = -\frac{3v^2}{2L}$$
次に、この\(a\)を式④に代入して\(t\)を求めます。
$$0 = v + \left(-\frac{3v^2}{2L}\right)t$$
項を移項して、
$$\left(\frac{3v^2}{2L}\right)t = v$$
両辺を\(v\)で割り、\(\displaystyle\frac{2L}{3v}\)を掛けると、
$$t = \frac{2L}{3v}$$

計算方法の平易な説明

まず、弾丸がどれくらいの「ブレーキ」をかけられているか(加速度)を計算します。次に、初速\(v\)の物体がそのブレーキで止まるまでにかかる時間を、速度と時間の関係式から求めます。

結論と吟味

解法1と全く同じ結果 \(t = \displaystyle\frac{2L}{3v}\) [s] が得られました。異なる物理法則からアプローチしても同じ結論に至ることで、解答の正しさがより確かなものになります。

解答 (ウ) \(\displaystyle\frac{2L}{3v}\)

問(エ)

思考の道筋とポイント
弾丸が木材を貫通するために必要な最低の速さを求めます。「ぎりぎり貫通する」という状況は、弾丸が木材の長さ\(L\)だけ進んだ瞬間に、ちょうど速さが0になる状態としてモデル化できます。この条件の下で、(イ)と同様に仕事とエネルギーの関係を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 「ぎりぎり貫通する」という物理的状況を、「距離\(L\)進んで速度が0になる」と解釈する。
  • 抵抗力\(f\)は、弾丸の速さによらず一定であるという問題の条件を使う。

具体的な解説と立式
貫通に必要な最低の初速を\(v’\)とします。

  • 初めの運動エネルギー: \(K_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(v’)^2\)
  • 後の運動エネルギー: \(K_{\text{後}} = 0\) (ぎりぎり貫通なので)

弾丸が距離\(L\)を進む間に抵抗力\(f\)がする仕事\(W\)は、
$$W = -f \times L$$
仕事とエネルギーの関係より、
$$\frac{1}{2}m(v’)^2 + (-fL) = 0 \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(K_{\text{前}} + W = K_{\text{後}}\)
計算過程

式⑤に、(イ)で求めた抵抗力 \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入します。
$$\frac{1}{2}m(v’)^2 – \left(\frac{3mv^2}{2L}\right)L = 0$$
$$\frac{1}{2}m(v’)^2 = \frac{3mv^2}{2}$$
両辺を \(\displaystyle\frac{m}{2}\) で割ると、
$$(v’)^2 = 3v^2$$
\(v’ > 0\) なので、
$$v’ = \sqrt{3}v$$

計算方法の平易な説明

木材を完全に貫通するには、抵抗力に逆らって距離\(L\)を進むだけの「仕事」をする必要があります。その仕事の分だけ、弾丸は初めに運動エネルギーを持っていなければなりません。必要な運動エネルギーから逆算して、最低限必要な初速を求めます。

結論と吟味

貫通に必要な最低速度は \(\sqrt{3}v\) [m/s] です。したがって、(エ)の空欄は \(\sqrt{3}\) となります。\(L\)進むには \(\displaystyle\frac{L}{3}\) 進むときの3倍の仕事が必要なので、運動エネルギーも3倍必要になります。\(K \propto v^2\) なので、速度は\(\sqrt{3}\)倍になる、という関係からも妥当性が確認できます。

解答 (エ) \(\sqrt{3}\)

問(カ)、問(オ)

思考の道筋とポイント
今度は木材が固定されておらず、なめらかな床の上を自由に動ける状況です。弾丸が速さ \(\sqrt{3}v\) で打ち込まれ、木材と一体になります。
この過程では、弾丸と木材の間で内力(抵抗力とその反作用)が働きますが、水平方向には外力が働いていません。このような「分裂・合体」現象では、弾丸と木材を一つの「系」と見なすと、系の全運動量が保存されます。まずこの運動量保存則を用いて、一体となった後の速さ(カ)を求めます。
次に、弾丸が木材の中にどれだけ進入したか(オ)を求めます。この過程では、抵抗力という非保存力が仕事をして系の力学的エネルギーが熱などに変わるため、力学的エネルギーは保存されません。そこで、「系の力学的エネルギーの変化が、非保存力のした仕事に等しい」という、より一般的なエネルギーと仕事の関係式を立てて進入距離を求めます。

この設問における重要なポイント

  • (カ) 弾丸と木材を一つの系とみなし、運動量保存則を適用する。
  • (オ) 系の力学的エネルギーは保存されないことを理解する。
  • (オ) 非保存力(抵抗力)がした仕事は、弾丸と木材の「相対的な移動距離(進入距離)」で計算される。

具体的な解説と立式
問(カ) 一体となった後の速さ
弾丸と木材を一つの系として考えます。

  • 衝突前の系の全運動量: 弾丸の初速は(エ)より \(\sqrt{3}v\)。木材は静止(\(v=0\))。
    $$P_{\text{前}} = m(\sqrt{3}v) + M \cdot 0 = m\sqrt{3}v$$
  • 衝突後の系の全運動量: 弾丸と木材は一体となり、質量は \(m+M\)。一体となった後の速さを\(V\)とする。
    $$P_{\text{後}} = (m+M)V$$

水平方向に外力は働かないので、運動量保存則より \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) が成り立ちます。
$$m\sqrt{3}v = (m+M)V \quad \cdots ⑥$$
問(オ) 弾丸の進入距離
弾丸が木材に進入する間に、系の力学的エネルギーは抵抗力の仕事によって減少します。

  • 系の初めの力学的エネルギー: 弾丸の運動エネルギーのみ。
    $$E_{\text{前}} = \frac{1}{2}m(\sqrt{3}v)^2 = \frac{3}{2}mv^2$$
  • 系が一体となった後の力学的エネルギー:
    $$E_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m+M)V^2$$

弾丸が木材の中に進入した距離を\(x\)とします。この間に抵抗力\(f\)がした仕事は \(-fx\) です。この仕事の分だけ、系の力学的エネルギーが減少します。
$$E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = W_{\text{非保存力}}$$
$$\frac{1}{2}(m+M)V^2 – \frac{3}{2}mv^2 = -fx \quad \cdots ⑦$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1+m_2)V\) (一体となる場合)
  • 仕事とエネルギーの関係(系バージョン): \(\Delta E_{\text{系}} = W_{\text{非保存力}}\)
計算過程

まず、(カ)の速さ\(V\)を求めます。式⑥を\(V\)について解きます。
$$V = \frac{m\sqrt{3}}{m+M}v$$
次に、(オ)の進入距離\(x\)を求めます。式⑦に、(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) と、上で求めた \(V\) を代入して、\(x\)を求めます。
まず左辺のエネルギー変化量を計算します。
$$\frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m\sqrt{3}}{m+M}v\right)^2 – \frac{3}{2}mv^2$$
$$= \frac{1}{2}(m+M)\frac{3m^2v^2}{(m+M)^2} – \frac{3}{2}mv^2$$
$$= \frac{3m^2v^2}{2(m+M)} – \frac{3}{2}mv^2$$
\(\displaystyle\frac{3mv^2}{2}\) でくくると、
$$= \frac{3mv^2}{2} \left( \frac{m}{m+M} – 1 \right)$$
$$= \frac{3mv^2}{2} \left( \frac{m – (m+M)}{m+M} \right)$$
$$= \frac{3mv^2}{2} \left( \frac{-M}{m+M} \right)$$
これが \(-fx\) に等しいので、
$$\frac{3mv^2}{2} \left( \frac{-M}{m+M} \right) = -fx$$
\(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) を代入すると、
$$\frac{3mv^2}{2} \left( \frac{-M}{m+M} \right) = -\left(\frac{3mv^2}{2L}\right)x$$
両辺を \(-\displaystyle\frac{3mv^2}{2}\) で割ると(これらは0ではない)、
$$\frac{M}{m+M} = \frac{x}{L}$$
したがって、
$$x = \frac{M}{m+M}L$$

計算方法の平易な説明

(カ) 弾丸が持っていた運動量が、衝突後、弾丸と木材を合わせたもの全体の運動量になります。運動量の合計値は衝突の前後で変わらない、という法則を使って、一体になった後の速さを計算します。
(オ) 衝突によって、弾丸と木材を合わせた全体の運動エネルギーは減少します。この「失われたエネルギー」は、弾丸が木材の中をこじ開けるために使われた「仕事」に等しくなります。この仕事は「抵抗力 × 進入距離」で計算できるので、失われたエネルギーの量から進入距離を逆算することができます。

結論と吟味

一体となった後の速さは \(V = \displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}v\) [m/s] です。したがって、(カ)の空欄は \(\displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}\) です。
弾丸の進入距離は \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\) [m] です。したがって、(オ)の空欄は \(\displaystyle\frac{M}{m+M}\) です。この値は必ず1より小さいので、進入距離は木材の長さ\(L\)より短くなります。これは問題文の「木材を貫通しなかった」という記述と整合性がとれています。

解答 (カ) \(\displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}\)
解答 (オ) \(\displaystyle\frac{M}{m+M}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量と力積の関係:
    • 核心: 物体の運動量の変化は、その物体が受けた力積に等しい (\(\Delta p = I\)) という法則です。特に、力が時間的に変化する場合や、力が不明でも速度変化が分かっている場合に力積を求めるのに非常に有効です。
    • 理解のポイント:
      1. 運動量 (\(p=mv\)): 運動の状態を表すベクトル量。
      2. 力積 (\(I=Ft\)): 物体に加えられた力の効果を時間的に累積したベクトル量。
      3. この問題では、(ア)で弾丸の速度変化から力積を求め、(ウ)ではその力積と一定の抵抗力から時間を求めるという、法則の両側面を使っています。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理):
    • 核心: 物体の運動エネルギーの変化は、その物体がされた仕事の総和に等しい (\(\Delta K = W_{\text{合計}}\)) という法則です。
    • 理解のポイント:
      1. 運動エネルギー (\(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)): 運動する物体が持つエネルギー。
      2. 仕事 (\(W=Fx\cos\theta\)): 力が物体を移動させたときにエネルギーが移動する量。力の向きと移動方向が逆の場合、仕事は負となりエネルギーを奪います。
      3. この問題では、(イ)や(エ)で、抵抗力という非保存力がする負の仕事によって弾丸の運動エネルギーが失われる過程をモデル化するためにこの法則が使われています。
  • 運動量保存則:
    • 核心: 複数の物体からなる「系」に対して、外力が働かない(または外力の合力がゼロの)場合、系の全運動量は一定に保たれるという法則です。
    • 理解のポイント:
      1. 内力と外力: 系を構成する物体同士で及ぼしあう力(内力)は、作用・反作用の法則により系の全運動量を変化させません。運動量を変化させるのは系の外から働く力(外力)だけです。
      2. 適用場面: 衝突、合体、分裂など、物体間で短時間に大きな内力が働く現象の解析に絶大な威力を発揮します。この問題では、(カ)で木材が固定されていない場合の衝突後の速度を求めるために用いられました。
  • 力学的エネルギー保存則の破れ(エネルギー保存則そのもの):
    • 核心: 摩擦力や抵抗力のような非保存力が仕事をする場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されません。その変化量は非保存力がした仕事に等しくなります (\(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\))。
    • 理解のポイント:
      1. 力学的エネルギーは失われたように見えますが、実際には熱エネルギーなどに変換されており、宇宙全体のエネルギーは保存されています。
      2. この問題では、(オ)で弾丸が木材にめり込む際に、抵抗力の仕事によって系の力学的エネルギーが減少し、その減少分から進入距離を求めるためにこの関係式が使われています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 床の摩擦: 木材が置かれた床に摩擦がある場合。運動量保存則は使えなくなります。この場合、弾丸と木材それぞれについて運動方程式を立てて解く必要があります。
    • 斜め衝突: 弾丸が斜めに打ち込まれる場合。運動量や力積をベクトルとして扱い、水平成分と鉛直成分に分けて考える必要があります。
    • ばねとの衝突: 木材にばねが取り付けられている場合。衝突後、系の力学的エネルギーは弾性エネルギーに変換されます。非保存力(抵抗力)がなければ、力学的エネルギー保存則が使えます。
    • 分裂現象: 静止している物体が爆発して複数の破片に分かれる場合。運動量保存則が中心的な役割を果たします。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「固定」されているか?: 問題設定で物体が固定されているか否かは、解法の選択における最初の分岐点です。
      • 固定されている場合: 注目する物体は一つ(弾丸)。その物体に対する「運動量と力積の関係」や「仕事とエネルギーの関係」を適用します。
      • 固定されていない(自由に動ける)場合: 複数の物体(弾丸と木材)を一つの「系」として捉える視点が重要になります。
    2. 外力は働くか?: 特に、床が「なめらか」か「摩擦がある」かは決定的です。
      • なめらか(外力なし): 系の運動量保存則が使えます。
      • 摩擦あり(外力あり): 運動量保存則は使えません。運動方程式や、摩擦力の仕事を含めたエネルギーの関係式を考える必要があります。
    3. 非保存力は仕事をするか?: 抵抗力や摩擦力が仕事をする場合、力学的エネルギーは保存されません。
      • 仕事をする場合: \(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\) を使います。特に、(オ)のように「相対距離」を求める問題では、この法則が鍵になることが多いです。
    4. 問われている量は何か?:
      • 時間(\(t\))が関係するなら: 「力積(\(Ft\))」や「運動方程式(\(a\)経由で\(t\))」を疑います。
      • 距離(\(x\))が関係するなら: 「仕事(\(Fx\))」や「等加速度運動の\(x\)の公式」を疑います。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量保存則の乱用:
    • 誤解: どんな衝突でも運動量保存則が使えると思い込む。
    • 対策: 運動量保存則が成立するのは「系に外力が働かない(または無視できる)」場合のみです。木材が床に固定されている場合、床が木材に力を及ぼす(外力)ため、弾丸と木材の系では運動量は保存されません。必ず「外力の有無」を確認する癖をつけましょう。
  • 力学的エネルギー保存則の乱用:
    • 誤解: 衝突や合体では力学的エネルギーが保存されると思い込む。
    • 対策: 摩擦や抵抗、あるいは物体の変形を伴う非弾性衝突では、力学的エネルギーは熱などに変わり保存されません。保存されるのは、重力やばねの力のような保存力のみが仕事をする場合です。この問題のように抵抗力が働く場合は、力学的エネルギーは保存されないと判断し、仕事とエネルギーの関係 \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) を使う必要があります。
  • 仕事の計算における距離の混同:
    • 誤解: (オ)で、抵抗力がした仕事を計算する際に、弾丸が床に対して進んだ距離や、木材が床に対して進んだ距離を使ってしまう。
    • 対策: 非保存力(内力)が系のエネルギーを失わせる仕事は、系を構成する物体間の「相対的な変位」によって生じます。この問題では、弾丸が木材に対してどれだけめり込んだか、つまり「進入距離 \(x\)」が仕事の計算に使うべき距離です。\(W = -fx\) と正しく立式することが重要です。
  • 符号のミス:
    • 誤解: 抵抗力やその仕事の符号を正としてしまう。
    • 対策: 力、速度、変位はベクトル量(向きを持つ量)であることを常に意識し、座標軸を設定して考える。抵抗力は常に運動を妨げる向きに働くので、運動方向を正とすれば力は負になります。仕事も \(W = -fx\) のように負になります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 状況の分離: まず、頭の中で「木材固定ケース」と「木材自由ケース」をはっきりと区別します。それぞれで適用できる法則が違うからです。
    • 力の図示: 弾丸と木材、それぞれに働く力を矢印で書き込みます。特に「木材自由ケース」では、弾丸が木材から受ける抵抗力\(f\)と、木材が弾丸から受ける反作用(同じ大きさ\(f\)で逆向き)を明確に図示することが、運動量保存則や仕事の理解を助けます。
    • エネルギーの流れのイメージ:
      • 木材固定ケース: 「弾丸の運動エネルギー \(\rightarrow\) 抵抗力の仕事 \(\rightarrow\) 熱エネルギー」という一方通行の流れをイメージします。
      • 木材自由ケース: 「弾丸の初期運動エネルギー \(\rightarrow\) (一部は抵抗力の仕事で熱エネルギーに) + (残りは弾丸と木材全体の運動エネルギーに)」というエネルギーの分配をイメージします。
    • 座標と変位の図示: (オ)を解く際に、床に固定した座標系を考え、弾丸が進んだ距離 \(x_{\text{弾丸}}\)、木材が進んだ距離 \(x_{\text{木材}}\) を図示すると、進入距離 \(x\) が \(x = x_{\text{弾丸}} – x_{\text{木材}}\) であることが視覚的に理解しやすくなります。(ただし、この問題ではエネルギー原理で解いた方が簡潔です)
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 単純化: 弾丸や木材は点や四角で十分です。重要なのは、力や速度、変位といったベクトル量を正確に描き込むことです。
    • 作用・反作用のペアを意識: 弾丸と木材がお互いに及ぼす力は、必ずペアで描くようにします。これにより、内力と外力の区別がつきやすくなります。
    • 衝突の前後を比較: 衝突前と衝突後の図を並べて描くことで、どの物理量が変化し、どの物理量が保存されるのかを整理しやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動量と力積の関係 (\(\Delta p = I\)):
    • 選定理由: (ア)では、力の大きさが不明でも速度変化が分かっているため、力積を計算するのに最適。また、(ウ)では、力積と力が分かっているため、時間を求めるのに最適。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(F = ma = m \frac{\Delta v}{\Delta t}\) を変形した \(F\Delta t = m\Delta v\) がこの法則の本質であり、常に成り立ちます。
  • 仕事とエネルギーの関係 (\(\Delta K = W\)):
    • 選定理由: (イ)(エ)では、時間に関係なく、ある距離を移動した後の速度変化(エネルギー変化)を問われているため。抵抗力という具体的な力がした仕事とエネルギー変化を結びつけるのに最適です。
    • 適用根拠: この法則も運動方程式から導かれる普遍的な法則です。特に、力が一定でない場合でも積分形で成り立ち、エネルギーというスカラー量で計算できるため便利です。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: (カ)では、木材が自由に動け、床がなめらかであるため、弾丸と木材の系に水平方向の外力が働きません。このような衝突・合体現象で衝突後の速度を求める際の最も強力なツールです。
    • 適用根拠: 系に働く外力の合力がゼロであるという物理的条件。
  • 系のエネルギー原理 (\(\Delta E_{\text{系}} = W_{\text{非保存力}}\)):
    • 選定理由: (オ)では、非保存力(抵抗力)が働き、系の力学的エネルギーが変化する状況で、その原因(仕事)と結果(エネルギー変化)を結びつけて、未知の進入距離\(x\)を求めるため。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の一般形であり、非保存力が介在するあらゆる現象に適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 【前半:木材固定】
    • 現象の把握: 弾丸が抵抗力を受けて減速・停止する。注目すべきは弾丸のみ。
    • (ア) 力積: 速度変化 (\(v \rightarrow 0\)) が分かっているので、「運動量と力積の関係」を使う。\(I = 0 – mv\)。大きさは \(mv\)。
    • (イ) 抵抗力: 距離 (\(L/3\)) を進んでエネルギーが変化 (\(\frac{1}{2}mv^2 \rightarrow 0\)) しているので、「仕事とエネルギーの関係」を使う。\(\frac{1}{2}mv^2 – f\frac{L}{3} = 0\)。これを解いて \(f\) を求める。
    • (ウ) 時間: (ア)の力積と(イ)の力が分かったので、「力積の定義 \(I=Ft\)」を使う。\(ft = mv\)。これを解いて \(t\) を求める。(別解:運動方程式から加速度を求め、等加速度運動の公式で \(t\) を求める)
    • (エ) 貫通速度: 「ぎりぎり貫通」=「距離\(L\)進んで速度0」と解釈。「仕事とエネルギーの関係」を再び使う。\(\frac{1}{2}m(v’)^2 – fL = 0\)。(イ)で求めた \(f\) を代入して \(v’\) を求める。
  2. 【後半:木材自由】
    • 現象の把握: 弾丸と木材が衝突・合体する。床はなめらか。注目すべきは「弾丸+木材」の系。
    • (カ) 一体速度: 系に外力が働かないので、「運動量保存則」を使う。\(m(\sqrt{3}v) = (m+M)V\)。これを解いて \(V\) を求める。
    • (オ) 進入距離: 抵抗力(内力)が仕事をして系の力学的エネルギーが減少する。よって「系のエネルギー原理」を使う。\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)。
      • \(\Delta E = E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = \frac{1}{2}(m+M)V^2 – \frac{1}{2}m(\sqrt{3}v)^2\)
      • \(W_{\text{非保存力}} = -fx\)
      • これらを等しいと置き、(イ)の\(f\)と(カ)の\(V\)を代入して \(x\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める:
    • 特に注意すべき点: この問題はすべて文字式で答える形式です。途中で数値を代入する必要がない分、式が複雑になりがちです。(オ)の計算のように、代入するものが多くなると混乱しやすくなります。
    • 日頃の練習: 最後の最後まで文字式のまま計算を進める練習をする。共通の因子(例:(オ)の計算での \(\displaystyle\frac{3mv^2}{2}\))でくくるなど、式を簡潔に保つ工夫を意識する。
  • 単位の代わりに次元を確認:
    • 特に注意すべき点: 文字式なので単位はありませんが、物理量としての次元(Dimension)が合っているかを確認する習慣は有効です。例えば、(イ)で求めた \(f = \displaystyle\frac{3mv^2}{2L}\) の次元は \([M][L]^2[T]^{-2} / [L] = [M][L][T]^{-2}\) となり、力の次元と一致します。
  • 分数の計算:
    • 特に注意すべき点: (オ)の計算では、\(\displaystyle\frac{m}{m+M} – 1 = \frac{m-(m+M)}{m+M} = \frac{-M}{m+M}\) のような通分計算が出てきます。符号ミスや計算ミスが起こりやすいポイントです。
    • 日頃の練習: 複雑な分数式の計算練習を怠らない。焦らず、一行一行丁寧に式変形を行う。
  • 代入の確認:
    • 特に注意すべき点: (オ)では、(イ)で求めた\(f\)と(カ)で求めた\(V\)を代入します。代入する式が正しいか、二乗(\(V^2\))を忘れていないかなどを慎重に確認する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (エ) 貫通速度 \(\sqrt{3}v\):
      • 吟味の視点: 貫通に必要な速度は、途中で止まったときの速度\(v\)より大きいか? \(\sqrt{3} \approx 1.732 > 1\) なので、\(v\)より速い必要があり、妥当です。
    • (カ) 一体速度 \(V = \displaystyle\frac{m\sqrt{3}}{m+M}v\):
      • 吟味の視点: 一体となった後の速度は、元の弾丸の速度より小さいはず。分母が \(m+M\)、分子が \(m\) なので、\(\displaystyle\frac{m}{m+M} < 1\) であり、\(V < \sqrt{3}v\) となるため妥当です。
    • (オ) 進入距離 \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\):
      • 吟味の視点: 進入距離は木材の長さ\(L\)より短いはず。 \(\displaystyle\frac{M}{m+M} < 1\) なので、\(x < L\) となり、貫通しないという設定と一致します。
  • 極端な場合を考える:
    • (オ) 進入距離 \(x = \displaystyle\frac{M}{m+M}L\):
      • もし木材の質量\(M\)が非常に大きい (\(M \gg m\)) なら、\(\displaystyle\frac{M}{m+M} \approx \frac{M}{M} = 1\)。このとき \(x \approx L\)。これは、木材が重くてほとんど動かない(固定されているのに近い)状況に対応し、貫通寸前まで進むことを意味します。
      • もし弾丸の質量\(m\)が非常に大きい (\(m \gg M\)) なら、\(\displaystyle\frac{M}{m+M} \approx \frac{M}{m} \approx 0\)。このとき \(x \approx 0\)。これは、弾丸が木材を簡単に弾き飛ばしてしまい、ほとんどめり込まない状況に対応します。
  • 異なる視点での検算:
    • (ウ)の時間は、力積経由と運動方程式経由の2通りで計算し、一致することを確認しました。このように、複数のアプローチで同じ答えが出ることは、強力な検証手段となります。

問題37 (大分大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、摩擦力を内力として及ぼしあう2物体の運動を扱う典型的な問題です。解法の鍵は、2つの物体をそれぞれ別個の対象として「運動方程式」で分析する視点と、2物体をまとめて一つの「系」として捉え、「運動量保存則」や「エネルギー原理」を適用する視点を、設問に応じて的確に使い分けることです。

与えられた条件
  • 小物体の質量: \(m\)、初速度: \(v_0\) (右向き)
  • 台車の質量: \(M\)、初速度: 0
  • 台車と床の間の摩擦: なし
  • 小物体と台車の間の動摩擦係数: \(\mu’\)
  • 座標軸: 右向きを正
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
現象の概要
  1. 速度\(v_0\)の小物体が静止した台車に乗り移る。
  2. 小物体は台車から左向きの動摩擦力を受け減速する。
  3. 台車は小物体から右向きの動摩擦力(反作用)を受け加速する。
  4. やがて両者の速度が等しくなり(速度\(V\))、一体となって運動する。
  5. この過程で、小物体は台車の上を距離\(l\)だけすべる。
問われていること
  • (1) すべっている間の小物体と台車の加速度。
  • (2) 一体となった後の速度\(V\)。
  • (3) 小物体がすべっていた時間\(t\)。
  • (4) 小物体と台車のv-tグラフの概略図。
  • (5) すべる間に失われた全力学的エネルギー\(\Delta E\)。
  • (6) 小物体がすべった距離\(l\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「摩擦力を内力とする系の運動」です。特に、床と台車の間に摩擦がないため、系全体の運動量が保存される点が重要なポイントとなります。

  1. まず、小物体と台車それぞれにはたらく力を分析し、「運動方程式」を立てて加速度を求めます。
  2. 次に、小物体と台車を一つの「系」とみなし、「運動量保存則」を用いて一体となった後の速度を求めます。
  3. すべっていた時間は、等加速度運動の公式や力積と運動量の関係から導出します。
  4. 最後に、系のエネルギー変化に着目し、「仕事とエネルギーの関係」を用いて失われたエネルギーやすべった距離を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべっている間の、それぞれの加速度を求めます。加速度は力によって生じるので、まずは小物体と台車にはたらく力をすべて図示し、それぞれの物体について運動方程式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 小物体と台車にはたらく力を正確に図示する。
  • 小物体と台車の間にはたらく動摩擦力は、作用・反作用の関係にある(大きさが等しく向きが逆)。
  • 動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu’N\) (\(N\)は垂直抗力)で計算する。

具体的な解説と立式
まず、小物体と台車にはたらく力を考えます。右向きを正とします。

小物体について:

  • 鉛直方向: 重力 \(mg\) (下向き) と、台車からの垂直抗力 \(N\) (上向き) がはたらく。小物体は鉛直方向には運動しないので、これらの力はつりあっています。
    $$N – mg = 0$$
  • 水平方向: 台車から左向き(負の向き)に動摩擦力 \(\mu’N\) を受けます。小物体の加速度を\(a\)とすると、運動方程式は以下のようになります。
    $$ma = -\mu’N \quad \cdots ①$$

台車について:

  • 水平方向: 小物体から作用・反作用の法則により、右向き(正の向き)に動摩擦力 \(\mu’N\) を受けます。台車の加速度を\(\beta\)とすると、運動方程式は以下のようになります。
    $$M\beta = \mu’N \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F = 0\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu’N\)
計算過程

まず、小物体の鉛直方向の力のつりあいから、垂直抗力\(N\)を求めます。
$$N = mg$$
この\(N\)を式①に代入して、小物体の加速度\(a\)を求めます。
$$ma = -\mu'(mg)$$
$$a = -\mu’g$$
次に、\(N=mg\)を式②に代入して、台車の加速度\(\beta\)を求めます。
$$M\beta = \mu'(mg)$$
$$\beta = \frac{\mu’mg}{M}$$

計算方法の平易な説明

小物体は、台車から進行方向と逆向きに摩擦ブレーキをかけられるので減速します。一方、台車は、小物体から進行方向と同じ向きに摩擦力で押される形になり、加速します。それぞれの「力」を「質量」で割ることで、加速度が求まります。

結論と吟味

小物体の加速度は \(a = -\mu’g\)、台車の加速度は \(\beta = \displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\) です。
小物体の加速度\(a\)が負、台車の加速度\(\beta\)が正となり、それぞれ減速・加速するという物理的状況と一致しています。

解答 (1) 小物体: \(-\mu’g\), 台車: \(\displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小物体と台車が一体となって運動するときの速度\(V\)を求めます。小物体と台車を一つの「系」として考えると、水平方向には力がはたらいていません(小物体と台車の間にはたらく摩擦力は内力であり、床と台車の間には摩擦がない)。したがって、系の水平方向の運動量は保存されます。この運動量保存則を用いて\(V\)を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則が適用できる条件(系に外力がはたらかない、または外力の合力が0)を正しく認識する。
  • 衝突前と衝突後(一体化後)の系の全運動量をそれぞれ立式する。

具体的な解説と立式
運動量保存則を適用します。

  • 乗り移る直前(前)の系の全運動量:
    $$P_{\text{前}} = m v_0 + M \cdot 0 = mv_0$$
  • 一体となった後(後)の系の全運動量:
    $$P_{\text{後}} = (m+M)V$$

運動量保存則 \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) より、
$$mv_0 = (m+M)V \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = (m_1+m_2)V_{\text{一体}}\)
計算過程

式③を\(V\)について解きます。
$$V = \frac{m}{M+m}v_0$$

計算方法の平易な説明

最初に小物体だけが持っていた運動量(\(mv_0\))を、一体となった後に小物体と台車(質量\(m+M\))のペアで分け合う、と考えることができます。運動量の総量は変わらないので、質量が大きくなった分、速度は遅くなります。

結論と吟味

一体となった後の速度は \(V = \displaystyle\frac{m}{M+m}v_0\) です。
分母が \(M+m\) であることから、\(V\)は必ず元の速度\(v_0\)より小さくなります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(V = \displaystyle\frac{m}{M+m}v_0\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべっていた時間\(t\)を求めます。これには複数のアプローチが考えられます。最もシンプルなのは、台車の運動に着目する方法です。台車は初速度0から、(1)で求めた一定の加速度\(\beta\)で加速し、最終的に(2)で求めた速度\(V\)になります。この過程は等加速度直線運動なので、速度の公式が使えます。

この設問における重要なポイント

  • 一つの現象を多角的に見て、複数の解法を考えられるようにする。
  • 等加速度直線運動の公式を正しく適用する。

解法1: 台車の運動に着目する方法
具体的な解説と立式
台車は、初速度0、加速度\(\beta\)の等加速度直線運動を行い、時間\(t\)後に速度\(V\)になります。
等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を台車に適用すると、
$$V = 0 + \beta t \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

式④を\(t\)について解き、(1)で求めた \(\beta = \displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\) を代入します。
$$t = \frac{V}{\beta}$$
$$t = \frac{V}{\frac{\mu’mg}{M}}$$
$$t = \frac{MV}{\mu’mg}$$

計算方法の平易な説明

台車が最終的に速さ\(V\)になるまで、どれくらいの時間加速し続けたかを考えます。台車の「速度の変化量(\(V\))」を「加速度(\(\beta\))」で割れば、かかった時間がわかります。
別解: 運動量と力積の関係を利用する方法
具体的な解説と立式
台車に注目します。時間\(t\)の間に台車が受けた力積は、台車の運動量の変化に等しくなります。

  • 台車が受けた力(動摩擦力): \(\mu’mg\) (一定)
  • 力がはたらいた時間: \(t\)
  • 力積: \(I = (\mu’mg) \cdot t\)
  • 台車の運動量の変化: \(\Delta P = MV – M \cdot 0 = MV\)

よって、「運動量の変化=力積」の関係より、
$$MV = \mu’mg t$$
これを\(t\)について解くと、\(t = \displaystyle\frac{MV}{\mu’mg}\) となり、同じ結果が得られます。

結論と吟味

小物体がすべっていた時間は \(t = \displaystyle\frac{MV}{\mu’mg}\) です。複数の異なるアプローチから同じ結果が得られ、解答の確からしさが確認できます。

解答 (3) \(t = \displaystyle\frac{MV}{\mu’mg}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小物体が台車に乗ってから一体となるまでの、小物体と台車の速度と時間の関係を一つのグラフ上に図示します。それぞれの運動がどのようなものかを整理して作図します。

この設問における重要なポイント

  • 小物体の運動: 初速度\(v_0\)、加速度\(a=-\mu’g\)(負で一定)の等加速度直線運動。
  • 台車の運動: 初速度0、加速度\(\beta = \displaystyle\frac{\mu’mg}{M}\)(正で一定)の等加速度直線運動。
  • 時刻\(t=t\): 両者の速度が\(V\)で等しくなる。
  • 時刻\(t>t\): 両者は一体となり、速度\(V\)の等速直線運動をする。

具体的な解説と立式
v-tグラフを描きます。

  • 小物体: 時刻0で速度\(v_0\)の点から始まり、傾きが負の直線を描いて減速する。時刻\(t\)で速度\(V\)に達する。
  • 台車: 時刻0で速度0(原点)から始まり、傾きが正の直線を描いて加速する。時刻\(t\)で速度\(V\)に達する。
  • 時刻\(t\)以降: 小物体と台車のグラフは合流し、傾き0の水平な直線(速度\(V\)で一定)となる。
結論と吟味

グラフは、小物体が減速し、台車が加速して、やがて同じ速度に落ち着くという一連の物理現象を視覚的に表現しています。小物体が失った運動量を台車が得て、最終的に速度が釣り合う様子が分かります。

解答 (4) (模範解答の図bを参照)

問(5)

思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべる間に失われた「全力学的エネルギー」\(\Delta E\)を求めます。この過程では、動摩擦力という非保存力が仕事をするため、系全体の力学的エネルギーは保存されません。失われたエネルギーは、摩擦によって発生した熱エネルギーに相当し、その大きさは、一体化する前と後での系の全運動エネルギーの差として計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 摩擦や非弾性衝突では、力学的エネルギーは保存されない。
  • 失われたエネルギー \(\Delta E\) は、\(E_{前} – E_{後}\) で計算する。
  • 系のエネルギーを考えるときは、構成するすべての物体のエネルギーを足し合わせる。

具体的な解説と立式
系の力学的エネルギー(この場合は運動エネルギーのみ)の前後を比較します。

  • すべる前(時刻0)の系の全エネルギー:
    $$E_{\text{前}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}M(0)^2 = \frac{1}{2}mv_0^2$$
  • 一体となった後(時刻\(t\))の系の全エネルギー:
    $$E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}MV^2 = \frac{1}{2}(m+M)V^2$$

失われた全力学的エネルギー\(\Delta E\)は、これらの差です。
$$\Delta E = E_{\text{前}} – E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)V^2 \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • エネルギー保存則(広義): \(E_{前} = E_{後} + (\text{失われたエネルギー})\)
計算過程

式⑤に、(2)で求めた \(V = \displaystyle\frac{m}{M+m}v_0\) を代入して整理します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(M+m)\left(\frac{m}{M+m}v_0\right)^2$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(M+m)\frac{m^2}{(M+m)^2}v_0^2$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{M+m}v_0^2$$
\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)でくくります。
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{M+m}\right)$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(\frac{(M+m)-m}{M+m}\right)$$
$$= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(\frac{M}{M+m}\right)$$
$$= \frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2$$

計算方法の平易な説明

衝突によって、系全体の運動エネルギーは必ず減少します(摩擦熱になるため)。その減少量がどれくらいかを、衝突前のエネルギーと衝突後のエネルギーを引き算して求めます。

結論と吟味

失われた全力学的エネルギーは \(\Delta E = \displaystyle\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\) です。この値は常に正となり、エネルギーが失われたという事実と一致します。

解答 (5) \(\Delta E = \displaystyle\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\)

問(6)

思考の道筋とポイント
小物体が台車の上をすべった距離\(l\)を求めます。この距離\(l\)は、床から見た小物体の移動距離と台車の移動距離の「差」です。つまり、小物体が台車に対して相対的に動いた距離です。これには複数のアプローチがあります。最も物理的に見通しが良いのは、(5)で求めた失われたエネルギーが、動摩擦力が相対距離\(l\)に対してした仕事に等しい、というエネルギー原理から求める方法です。

この設問における重要なポイント

  • すべった距離\(l\)が「相対距離」であることを理解する。
  • 非保存力の仕事は、系のエネルギー変化と結びついている。
  • v-tグラフの面積が移動距離を表すことを利用できる。

解法1: エネルギー原理を用いる方法
具体的な解説と立式
系の運動エネルギーの変化は、非保存力(動摩擦力)がした仕事に等しいです。
$$\Delta K = E_{後} – E_{前} = W_{\text{非保存力}}$$
(5)の結果から、\(\Delta K = -\Delta E = -\displaystyle\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\) です。
一方、動摩擦力がした仕事は、小物体と台車が相対的に距離\(l\)だけすれ違う間に失われるエネルギーなので、
$$W_{\text{非保存力}} = -(\text{摩擦力の大きさ}) \times (\text{相対距離}) = -\mu’mg \cdot l$$
よって、以下の等式が成り立ちます。
$$-\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2 = -\mu’mg l \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係(系): \(\Delta K = W_{\text{非保存力}}\)
計算過程

式⑥を\(l\)について解きます。
$$\frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2 = \mu’mg l$$
両辺を \(\mu’mg\) で割ります。
$$l = \frac{1}{\mu’mg} \cdot \frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2$$
$$l = \frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}$$

計算方法の平易な説明

(5)で計算した「摩擦によって失われたエネルギー」は、すべて「摩擦力 × すべった距離」という仕事によって生み出されたものです。この関係から、すべった距離を逆算することができます。
解法2: v-tグラフの面積を利用する方法 (別解)
具体的な解説と立式
すべった距離\(l\)は、小物体の移動距離\(x_小\)と台車の移動距離\(x_台\)の差です (\(l = x_小 – x_台\))。v-tグラフにおいて、移動距離はグラフと時間軸で囲まれた面積に相当します。
したがって、\(l\)は、小物体のグラフの面積から台車のグラフの面積を引いたもの、すなわち、2つのグラフで囲まれた三角形の面積に等しくなります。
この三角形は、底辺が\(t\)、高さが\(v_0\)です。
$$l = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) = \frac{1}{2} t v_0$$
この式に、(3)の別解で求めた \(t = \displaystyle\frac{Mv_0}{\mu'(M+m)g}\) を代入します。
$$l = \frac{1}{2} v_0 \left( \frac{Mv_0}{\mu'(M+m)g} \right)$$
$$l = \frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}$$
解法1と全く同じ結果が得られました。

結論と吟味

小物体が台車の上をすべった距離は \(l = \displaystyle\frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}\) です。
初速\(v_0\)が大きいほど、また動摩擦係数\(\mu’\)が小さいほど、すべる距離\(l\)が長くなるという結果は、物理的な直感と一致しています。

解答 (6) \(l = \displaystyle\frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 核心: 物体の運動状態の変化(加速度)は、物体にはたらく力に比例し、質量に反比例するという、力学の根幹をなす法則です。
    • 理解のポイント: この問題では、(1)で小物体と台車それぞれにはたらく力を特定し、加速度を求めるために使われます。複数の物体が絡む問題では、まず各物体にはたらく力をすべて図示し、それぞれについて運動方程式を立てることが基本中の基本です。
  • 運動量保存則:
    • 核心: 複数の物体からなる「系」に外力がはたらかない場合、系の全運動量は衝突や相互作用の前後で一定に保たれるという強力な法則です。
    • 理解のポイント: (2)で、床に摩擦がないため「小物体+台車」の系には水平方向の外力がはたらかないと判断し、この法則を適用することで、複雑な途中の過程を無視して一体化した後の速度を瞬時に求めることができます。どの範囲を「系」と見なすか、そして「外力」の有無を見極める眼が重要です。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理):
    • 核心: 物体(または系)のエネルギーの変化は、外部からされた仕事や、内部の非保存力がした仕事に等しいという法則です。
    • 理解のポイント:
      1. 系の力学的エネルギーの変化: (5)では、摩擦という非保存力によって系の力学的エネルギーが熱に変わるため、その「失われたエネルギー」を計算するために、衝突前後の運動エネルギーの差を求めます。
      2. 非保存力の仕事: (6)では、この「失われたエネルギー」が「動摩擦力 × 相対的にすべった距離」という仕事に等しいという関係を用いて、すべった距離\(l\)を求めます。これはエネルギーの観点から距離を求める非常にエレガントな解法です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ベルトコンベア上の物体: 静止した物体を動いているベルトコンベアに乗せる問題。これも物体とベルトコンベアの間で摩擦力がはたらき、やがて一体となる点で本質的に同じ構造です。
    • 積み重なった2物体の運動: 下の物体を引いたときに上の物体がすべるか、一体で動くかを考える問題。静止摩擦力と動摩擦力の使い分けが加わりますが、運動方程式や運動量保存則の適用という点では共通しています。
    • 非弾性衝突全般: 衝突後に物体がくっついたり、変形してエネルギーが失われたりする問題。運動量保存則と、衝突前後のエネルギー比較が常に有効なアプローチとなります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 摩擦の有無を確認: まず「床と台車」「小物体と台車」のそれぞれの面に摩擦があるかを確認します。
      • 床に摩擦がない: 「小物体+台車」の系で運動量保存則が使える可能性が高いです。
      • 床に摩擦がある: 運動量保存則は使えません。各物体の運動方程式を地道に解くか、摩擦力の仕事を含めたエネルギーの関係を考える必要があります。
    2. 「すべる」か「一体で動く」か:
      • すべっている間: 2物体は別々の加速度で運動します。はたらく力は「動摩擦力」です。
      • 一体で動く: 2物体の加速度は等しくなります。はたらく力は「静止摩擦力」であり、その大きさは未知数として扱うことが多いです(最大静止摩擦力を超えない範囲)。
    3. 問われている量は何か?:
      • 加速度や力: 運動方程式 \(ma=F\) が基本。
      • 衝突・合体後の速度: 運動量保存則が最も手っ取り早い。
      • 時間: 等加速度運動の公式 (\(v=v_0+at\)) や、力積と運動量の関係 (\(Ft=\Delta p\)) が有効。
      • 距離・エネルギー: 仕事とエネルギーの関係 (\(\Delta K = W\)) が有効。特に「相対距離」は「失われたエネルギー」と結びついていることが多い。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 作用・反作用の力の混同:
    • 誤解: 小物体にはたらく摩擦力と台車にはたらく摩擦力を、同じ向きに描いてしまう。
    • 対策: 「AがBから受ける力」と「BがAから受ける力」は、必ず大きさが等しく向きが逆のペア(作用・反作用)になります。図を描く際に、力の矢印の始点がどの物体にあるかを意識し、ペアになる力を常に確認する習慣をつけましょう。
  • 運動量保存則とエネルギー保存則の混同:
    • 誤解: 運動量が保存されるなら、力学的エネルギーも保存されるはずだと思い込む。
    • 対策: この2つは全く別の法則です。運動量保存は「外力がない」ことが条件。力学的エネルギー保存は「非保存力が仕事をしない」ことが条件です。摩擦がある衝突では、運動量は保存されても力学的エネルギーはほぼ必ず失われます。この違いを明確に区別することが重要です。
  • 相対距離と絶対距離の混同:
    • 誤解: (6)で、すべった距離\(l\)を、小物体の移動距離や台車の移動距離そのものだと考えてしまう。
    • 対策: \(l\)はあくまで「台車の上をすべった距離」、つまり「相対距離」です。これは「床から見た小物体の移動距離」から「床から見た台車の移動距離」を引いたもの (\(l = x_小 – x_台\)) です。この関係は、v-tグラフで2つのグラフに囲まれた面積として視覚的に理解すると間違いが減ります。
  • エネルギーの式の立て方:
    • 誤解: (5)で失われたエネルギーを計算する際に、\(\displaystyle\frac{1}{2}m(v_0-V)^2\) のように相対速度でエネルギーを計算しようとして混乱する。
    • 対策: エネルギーはスカラー量なので、単純に「後の系の全エネルギー」から「前の系の全エネルギー」を引くのが最も安全で確実です。\(\Delta E = E_{後} – E_{前}\) という定義に忠実に立式しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の図示(フリーボディダイアグラム): (1)を解く上で不可欠。小物体と台車を別々に描き、それぞれにはたらく力をすべて矢印で記入します。特に、垂直抗力\(N\)と動摩擦力\(\mu’N\)の関係、作用・反作用のペアを明確にすることが重要です。
    • v-tグラフ: (4)で要求されている通り、この問題の全体像を把握するのに非常に有効です。小物体が減速し、台車が加速し、やがて同じ速度\(V\)に収束する様子が一目瞭然です。グラフの「傾き」が加速度、「面積」が移動距離に対応することも意識すると、他の設問を解くヒントにもなります。
    • エネルギーの棒グラフ: 衝突前と衝突後で、エネルギーの内訳がどう変化したかを棒グラフでイメージするのも有効です。
      • 前: 「小物体の運動エネルギー」の棒が1本。
      • 後: 「一体化した物体の運動エネルギー」と「失われた熱エネルギー」の2本の棒に分配され、合計の高さは前と同じになる、というイメージ。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: 右向きを正とするなど、座標軸を明確に設定し、図に描き込むことで、力の向きや速度の符号ミスを防げます。
    • 一貫性: 複数の図を描く場合、記号(\(a, \beta, V, t\)など)は一貫して同じものを使うことが混乱を避けるコツです。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 選定理由: (1)で「加速度」という、力の直接的な結果を問われているため。
    • 適用根拠: 物体にはたらく力が分かっている(または求められる)状況で、その物体の運動状態(加速度)を知りたい場合に常に基本となる法則だからです。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: (2)で、途中の詳細(摩擦力や時間)を問わず、相互作用の「前」と「後」の状態だけから最終的な速度を求めたいから。
    • 適用根拠: 「小物体+台車」の系に水平方向の外力がはたらかない、という物理的条件が満たされているからです。
  • 等加速度運動の公式 (\(v=v_0+at\)):
    • 選定理由: (3)で「時間」を求めたい。(1)で加速度が一定であることが分かっているので、この公式が使える。
    • 適用根拠: 加速度が一定であるという条件。
  • エネルギー原理 (\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)):
    • 選定理由: (5)で「失われたエネルギー」、(6)で「すべった距離」を問われているため。これらは摩擦力の仕事と密接に関連しており、エネルギーの観点から解くのが最も見通しが良いからです。
    • 適用根拠: 非保存力(摩擦力)が仕事をする、という物理的状況。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 力の分析 (問1): まずは基本。小物体と台車、それぞれに働く力を図示し、運動方程式を立てて加速度\(a\)と\(\beta\)を求める。
  2. 一体化後の速度 (問2): 衝突・合体問題の王道、「運動量保存則」を系に適用し、最終速度\(V\)を求める。
  3. すべった時間 (問3): 加速度が一定なので、等加速度運動の公式を使うのが素直。台車が \(0 \rightarrow V\) になる時間として計算する。
  4. グラフ化 (問4): (1)〜(3)で求めた情報を元に、v-tグラフを描く。直線的な変化と、最終的に一定値になる様子を表現する。
  5. エネルギー損失 (問5): 「後の全エネルギー」から「前の全エネルギー」を引き算する。\(V\)を代入して整理する。
  6. すべった距離 (問6): (5)で求めた「失われたエネルギー」が「摩擦力の仕事 (\(-\mu’mgl\))」に等しい、という関係式を立てて\(l\)を解く。または、(4)のv-tグラフの面積から求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の整理: \(m, M, v_0, \mu’, g\)など多くの文字が登場します。計算過程で書き間違えないよう、丁寧に記述することを心がける。
  • 分数の整理: (5)や(6)の計算では、\((M+m)\)を含む複雑な分数計算が出てきます。通分や約分を焦らず、一行ずつ確実に行う。特に、\((1 – \frac{m}{M+m})\)のような変形は頻出なので、素早く正確にできるようにしておく。
  • 代入は最後に行う: (3)や(6)のように、先に求めた結果を代入する場面では、できるだけ式の整理が進んでから最後に代入する方が、計算が楽になることが多いです。
  • 別解での検算: この問題は多くの設問で別解が存在します。時間に余裕があれば、異なるアプローチで計算してみて、答えが一致するか確認する(検算する)ことで、ミスの発見率が格段に上がります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 加速度: 小物体の加速度\(a\)は負、台車の加速度\(\beta\)は正。これは減速と加速という現象に合致します。
    • (2) 速度\(V\): \(V = \frac{m}{M+m}v_0\) は、\(v_0\)より小さい (\(\frac{m}{M+m} < 1\))。質量が増えた分、速度が遅くなるのは当然です。
    • (5) \(\Delta E\): \(\Delta E = \frac{Mm}{2(M+m)}v_0^2\) は必ず正の値をとります。エネルギーが「失われた」という表現と一致します。
    • (6) 距離\(l\): \(l = \frac{Mv_0^2}{2\mu'(M+m)g}\) は、\(\mu’=0\)(摩擦なし)の極限では無限大に発散します。これは、摩擦がないと永遠にすべり続けることに対応し、妥当です。また、\(v_0=0\)なら\(l=0\)となり、これも当然です。
  • 単位(次元)の一致確認:
    • 例えば(6)の答え \(l\) の次元をチェックすると、分子は \([M]([L]/[T])^2 = [M][L]^2[T]^{-2}\)、分母は \([M][L][T]^{-2}\) となり、全体で \([L]\)(長さの次元)となり、正しいことが確認できます。このような次元解析は、複雑な文字式の計算ミスを発見するのに有効です。
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問題38 (名古屋工大)

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