「重要問題集」徹底解説(6〜10問):未来の得点力へ!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題06 (横浜市大改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平面ではなく傾いた斜面に対して斜方投射を行う、非常に応用的な設定です。この問題を解く上での最大のポイントは、運動を分解する「座標軸」が、地面に対して傾いているという点です。この傾いた座標系(x軸が斜面方向、y軸が斜面に垂直な方向)に沿って、重力や初速度を正しく分解できるかが問われます。

与えられた条件
  • 座標系: 水平面と角度 \(\theta\) をなす斜面に沿って上向きにx軸、斜面から垂直上向きにy軸をとる。
  • 投射条件: 原点Oから、斜面(x軸)と角度 \(\alpha\) をなす方向に、初速 \(v_0\) で小球を投射する。
  • 物理的条件: 質量 \(m\)、重力加速度 \(g\)。斜面はなめらかで、空気抵抗は無視。
問われていること
  • (1) 重力のx, y成分。
  • (2) 時刻 \(t\) での速度のx, y成分。
  • (3) 時刻 \(t\) での位置のx, y座標。
  • (4) 小球が斜面に衝突する時刻 \(t_0\)。
  • (5) 原点から衝突点までの距離 \(l\)。
  • (6) 距離 \(l\) が最大となる角度 \(\alpha\)。
  • (7) 小球が斜面に垂直に衝突する場合の、角度 \(\alpha\) と \(\theta\) の関係式。
  • (8) 垂直に衝突する場合の、衝突直前の速さ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題の最も重要な攻略法は、「与えられた斜めの座標系の中で、すべての運動を記述しきる」という一貫した方針を貫くことです。地面に固定された水平・鉛直の座標系で考えると、計算が非常に複雑になります。

  1. 物理量の成分分解: まず、この問題で常に一定である「重力加速度 \(\vec{g}\)」と、運動の開始点である「初速度 \(\vec{v}_0\)」を、与えられた斜めのx軸、y軸の方向に分解します。これがすべての計算の土台となります。
  2. 等加速度直線運動として立式: 成分分解が終われば、小球の運動はx方向、y方向それぞれが「等加速度直線運動」として扱えます。速度や位置を求めるには、見慣れた等加速度直線運動の公式を各成分に適用するだけです。
  3. 物理的条件の適用: 「斜面に衝突する」や「斜面に垂直に衝突する」といった問題文の条件を、座標や速度の成分が特定の値(例えば \(y=0\) や \(v_x=0\))になる、という数式上の条件に変換して解を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球にはたらく力は重力 \(mg\) のみで、これは常に鉛直下向きです。この重力ベクトルを、問題で設定された「斜面に平行なx軸」と「斜面に垂直なy軸」の2つの方向に分解します。角度 \(\theta\) を用いた三角比の適用が鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • 重力ベクトルと、傾いた座標軸がなす角度を正確に図から読み取ること。
  • 各成分が、設定されたx軸、y軸の正の向きに対してどちらの向きになるかを考え、符号(プラスかマイナスか)を正しく決定すること。

具体的な解説と立式
重力 \(mg\) は鉛直下向きにはたらきます。このベクトルを、斜面に平行なx軸方向と、斜面に垂直なy軸方向に分解します。図を描いて考えると、重力ベクトルとy軸の負の向きがなす角は \(\theta\) になります。

  • x成分 \(W_x\): 重力の、斜面に平行な成分です。大きさは \(mg\sin\theta\) で、向きはx軸の負の向きとなるため、マイナスの符号がつきます。
  • y成分 \(W_y\): 重力の、斜面に垂直な成分です。大きさは \(mg\cos\theta\) で、向きはy軸の負の向きとなるため、マイナスの符号がつきます。

したがって、求める力の成分はそれぞれ \(W_x = -mg\sin\theta\)、\(W_y = -mg\cos\theta\) と立式できます。

使用した物理公式

  • 力のベクトル分解(三角比)
計算過程

本問は力の成分を求めるのみであり、具体的な数値計算はありません。立式がそのまま解答となります。

計算方法の平易な説明

真下に働く重力 \(mg\) を、斜めの床(x軸)と、その床に垂直な壁(y軸)の方向に「分身」させるイメージです。分身させた力がそれぞれx成分、y成分になります。図を描いて角度の関係を見つけると、x方向には \(mg\sin\theta\)、y方向には \(mg\cos\theta\) の大きさの力が働くことがわかります。どちらも軸の負の向きなので、マイナスをつけます。

結論と吟味

重力のx成分は \(-mg\sin\theta\)、y成分は \(-mg\cos\theta\) となります。
もし斜面が水平になった場合 (\(\theta=0\)) を考えると、\(W_x=0\), \(W_y=-mg\) となります。これは、力が水平方向にはなく、垂直下向き(この座標系ではy軸負の向き)に重力がそのままかかる状態と一致するため、妥当な結果だと言えます。

解答 (1) x成分: \(-mg\sin\theta\), y成分: \(-mg\cos\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
x, y各方向の運動は、それぞれ一定の加速度を持つ「等加速度直線運動」です。したがって、公式 \(v = v_0 + at\) を各成分に適用すれば、時刻 \(t\) での速度を求めることができます。そのためには、まず「初速度の各成分」と「加速度の各成分」を求める必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 加速度の成分:運動方程式 \(ma=F\) を用いて、(1)で求めた力の成分から加速度の成分を求めます。
  • 初速度の成分:初速度 \(v_0\) を、x軸(斜面方向)とy軸(垂直方向)に分解します。角度は \(\alpha\) であることに注意します。

具体的な解説と立式

  1. 加速度の成分を求める:
    運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) をx成分、y成分に適用します。

    • x成分: \(ma_x = W_x = -mg\sin\theta\)。よって、\(a_x = -g\sin\theta\) となります。
    • y成分: \(ma_y = W_y = -mg\cos\theta\)。よって、\(a_y = -g\cos\theta\) となります。
  2. 初速度の成分を求める:
    初速度 \(\vec{v}_0\) は、x軸から角度 \(\alpha\) の向きなので、

    • x成分: \(v_{0x} = v_0\cos\alpha\)
    • y成分: \(v_{0y} = v_0\sin\alpha\)
  3. 速度の式を立てる:
    等加速度直線運動の公式 \(v(t) = v_{\text{initial}} + at\) を各成分に適用します。
    $$v_x(t) = v_{0x} + a_x t$$ $$v_y(t) = v_{0y} + a_y t$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • ベクトルの成分分解
  • 等加速度直線運動の速度公式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上で立式した速度の式に、求めた初速度と加速度の各成分を代入します。
$$v_x(t) = v_0\cos\alpha + (-g\sin\theta)t = v_0\cos\alpha – gt\sin\theta$$
$$v_y(t) = v_0\sin\alpha + (-g\cos\theta)t = v_0\sin\alpha – gt\cos\theta$$

計算方法の平易な説明

車のアクセルとブレーキのように、速度は「最初の速度」に「加速度による速度の変化」を足し合わせたものです。今回はx方向(斜面を駆け上がる向き)とy方向(斜面から飛び出す向き)の両方に、それぞれ重力によるブレーキ(負の加速度)がかかります。それぞれの方向について、「最初の速度」と「ブレーキのかかり具合(加速度)」を計算し、公式に当てはめます。

結論と吟味

速度のx成分は \(v_x = v_0\cos\alpha – gt\sin\theta\)、y成分は \(v_y = v_0\sin\alpha – gt\cos\theta\) です。
どちらの成分も、初速度の成分から、時間 \(t\) と加速度の成分を掛け合わせた分だけ変化しており、等加速度直線運動の速度の式として正しい形になっています。

解答 (2) x成分: \(v_0\cos\alpha – gt\sin\theta\), y成分: \(v_0\sin\alpha – gt\cos\theta\)

問(3)

思考の道筋とポイント
問(2)と同様に、x, y各方向は等加速度直線運動です。したがって、位置を求める公式 \(s = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を各成分に適用します。(2)で求めた初速度と加速度の成分をそのまま利用します。

この設問における重要なポイント

  • 小球は原点Oから投射されるので、初期位置は \(x(0)=0\), \(y(0)=0\) であること。
  • 等加速度直線運動の位置の公式を正しく使えること。

具体的な解説と立式
等加速度直線運動の位置の公式 \(s(t) = s_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) をx, yの各成分に適用します。初期位置は \((x_0, y_0) = (0, 0)\) です。

  • x座標:
    $$x(t) = v_{0x}t + \frac{1}{2}a_x t^2$$
  • y座標:
    $$y(t) = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_y t^2$$

これらの式に、問(2)で整理した初速度と加速度の成分を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の位置の公式: \(s = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
計算過程

各成分の式に、\(v_{0x}, v_{0y}, a_x, a_y\) を代入します。
$$x(t) = (v_0\cos\alpha)t + \frac{1}{2}(-g\sin\theta)t^2 = v_0t\cos\alpha – \frac{1}{2}gt^2\sin\theta$$
$$y(t) = (v_0\sin\alpha)t + \frac{1}{2}(-g\cos\theta)t^2 = v_0t\sin\alpha – \frac{1}{2}gt^2\cos\theta$$

計算方法の平易な説明

物体の位置は、「もし初速度のまま進み続けたらどこにいるか」という位置と、「加速度によってどれだけズレるか」という位置の合計で決まります。問(2)で準備した各方向の初速度と加速度を使って、位置を求める公式に当てはめることで、x座標とy座標がそれぞれ計算できます。

結論と吟味

x座標は \(x = v_0t\cos\alpha – \frac{1}{2}gt^2\sin\theta\)、y座標は \(y = v_0t\sin\alpha – \frac{1}{2}gt^2\cos\theta\) です。
こちらも、初速度による項と加速度による項で構成されており、等加速度直線運動の公式として正しい形になっています。

解答 (3) x座標: \(v_0t\cos\alpha – \frac{1}{2}gt^2\sin\theta\), y座標: \(v_0t\sin\alpha – \frac{1}{2}gt^2\cos\theta\)

問(4)

解法1:衝突点の座標条件から求める
思考の道筋とポイント
「斜面と衝突する」という事象を、座標を用いて表現します。この問題で設定した座標系では、斜面上の点はすべてy座標が0です。したがって、衝突時刻 \(t_0\) は、y座標の式 \(y(t)\) が0になる時刻(ただし \(t_0 > 0\))として求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 「斜面との衝突」が「\(y=0\)」と翻訳できること。
  • 得られる2次方程式の解のうち、\(t=0\)(投射時)ではない方の解を求めること。

具体的な解説と立式
衝突時刻を \(t_0\) とします。このとき、小球のy座標は0になるので、(3)で求めたy座標の式を用いて、
$$y(t_0) = v_0t_0\sin\alpha – \frac{1}{2}gt_0^2\cos\theta = 0$$
この \(t_0\) に関する2次方程式を解きます。

使用した物理公式

  • 問(3)で求めたy座標の式
計算過程

$$v_0t_0\sin\alpha – \frac{1}{2}gt_0^2\cos\theta = 0$$\(t_0\) で因数分解します。$$t_0 \left( v_0\sin\alpha – \frac{1}{2}gt_0\cos\theta \right) = 0$$\(t_0 > 0\) なので、求める衝突時刻は括弧の中が0になるときです。$$v_0\sin\alpha – \frac{1}{2}gt_0\cos\theta = 0$$
$$t_0 = \frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}$$

計算方法の平易な説明

小球が斜面に戻ってくる(衝突する)ということは、斜面からの高さ(y座標)が再びゼロになるということです。(3)で求めたy座標の式がゼロになるような時刻を計算します。答えは2つ出てきますが、\(t=0\) は投げた瞬間なので、もう一方のゼロではない方の答えが求める時間です。


別解:運動の対称性を利用する
思考の道筋とポイント
y方向の運動は、初速度 \(v_{0y}\) で打ち上げられ、一定の加速度 \(a_y\) で減速・加速する運動です。このような放物運動では、最高点(y座標が最大になる点)に達するまでの時間と、そこから元の高さ(\(y=0\))に戻ってくるまでの時間は同じです。この対称性を利用します。
具体的な解説と立式

  1. 最高点に達する時刻 \(t_1\) を求める:
    y座標が最大になるとき、y方向の速度 \(v_y\) は0になります。(2)で求めた \(v_y(t)\) の式を使い、
    $$v_y(t_1) = v_0\sin\alpha – gt_1\cos\theta = 0$$
    この式から \(t_1\) を求めます。
  2. 衝突時刻 \(t_0\) を求める:
    運動の対称性から、衝突時刻 \(t_0\) は最高点到達時刻 \(t_1\) の2倍になります。
    $$t_0 = 2t_1$$

使用した物理公式

  • 問(2)のy成分の速度の式
  • 放物運動の対称性
計算過程

まず、\(v_y(t_1)=0\) の式を \(t_1\) について解きます。
$$v_0\sin\alpha – gt_1\cos\theta = 0$$
$$gt_1\cos\theta = v_0\sin\alpha$$
$$t_1 = \frac{v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}$$
衝突時刻 \(t_0\) はこの2倍なので、
$$t_0 = 2t_1 = \frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}$$

計算方法の平易な説明

斜面から垂直な方向に注目すると、ボールは飛び上がって、また同じ高さに戻ってくる運動をしています。一番高い場所に到達するまでの時間と、そこから元の高さに戻ってくるまでの時間は同じはずです。なので、「一番高い場所(y方向の速度が0)に着くまでの時間」を計算して、それを単純に2倍すれば、衝突するまでの時間が求められます。

結論と吟味(共通)

小球が斜面と衝突する時刻は \(t_0 = \displaystyle\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\) です。
y方向の初速度 \(v_0\sin\alpha\) が大きいほど滞空時間が長くなること、y方向の重力加速度の大きさ \(g\cos\theta\) が大きいほど滞空時間が短くなること、いずれも物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
原点Oからの距離 \(l\) は、衝突時刻 \(t_0\) におけるx座標の値に等しいです(x軸は斜面に沿って定義されているため)。したがって、(3)で求めたx座標の式に、(4)で求めた衝突時刻 \(t_0\) を代入して計算します。計算過程は複雑ですが、三角関数の加法定理などを用いて整理します。
この設問における重要なポイント

  • 到達距離 \(l\) が \(x(t_0)\) と等しいことを理解すること。
  • 複雑な文字式の代入と整理を、正確に行う計算力。
  • 三角関数の加法定理 \(\cos(\theta+\alpha) = \cos\theta\cos\alpha – \sin\theta\sin\alpha\) を利用すること。

具体的な解説と立式
距離 \(l\) は、時刻 \(t_0\) におけるx座標なので、(3)の式から、
$$l = x(t_0) = v_0t_0\cos\alpha – \frac{1}{2}gt_0^2\sin\theta$$
この式に、(4)で求めた \(t_0 = \displaystyle\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\) を代入して計算を進めます。

使用した物理公式

  • 問(3)のx座標の式、問(4)の衝突時刻の式
  • 三角関数の加法定理: \(\cos(A+B) = \cos A\cos B – \sin A\sin B\)
計算過程

\(l\) の式に \(t_0\) を代入します。
$$l = v_0\cos\alpha \left(\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\right) – \frac{1}{2}g\sin\theta \left(\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\right)^2$$
$$l = \frac{2v_0^2\sin\alpha\cos\alpha}{g\cos\theta} – \frac{1}{2}g\sin\theta \left(\frac{4v_0^2\sin^2\alpha}{g^2\cos^2\theta}\right)$$
$$l = \frac{2v_0^2\sin\alpha\cos\alpha}{g\cos\theta} – \frac{2v_0^2\sin^2\alpha\sin\theta}{g\cos^2\theta}$$
共通因数 \(\displaystyle\frac{2v_0^2\sin\alpha}{g\cos^2\theta}\) でくくります。
$$l = \frac{2v_0^2\sin\alpha}{g\cos^2\theta} (\cos\alpha\cos\theta – \sin\alpha\sin\theta)$$
括弧の中は、コサインの加法定理 \(\cos(\alpha+\theta)\) そのものです。
$$l = \frac{2v_0^2\sin\alpha\cos(\alpha+\theta)}{g\cos^2\theta}$$

計算方法の平易な説明

(4)で「衝突するまでの時間」がわかったので、あとは「その時間でx方向にどれだけ進んだか」を計算するだけです。(3)で作ったx座標の式に、(4)の答えを代入します。計算は少し大変ですが、共通な部分でまとめたり、数学で習った三角関数の公式(加法定理)を使ったりすると、きれいな形に整理できます。

結論と吟味

到達距離 \(l\) は、\(l = \displaystyle\frac{2v_0^2\sin\alpha\cos(\alpha+\theta)}{g\cos^2\theta}\) です。
式の次元(単位)を確認すると、分子が(速度)^2、分母が(加速度)なので、(m/s)^2 / (m/s^2) = m となり、距離の単位として正しいことがわかります。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{2v_0^2\sin\alpha\cos(\alpha+\theta)}{g\cos^2\theta}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
(5)で求めた距離 \(l\) の式は、投射角 \(\alpha\) の関数になっています。この関数 \(l(\alpha)\) が最大値をとるような \(\alpha\) の値を求めます。式をよく見ると \(\sin\alpha\) と \(\cos(\theta+\alpha)\) の積の形をしています。三角関数の「積和の公式」を用いて、和の形に直すことで、最大値を議論しやすくなります。
この設問における重要なポイント

  • 距離 \(l\) の式のうち、変数は \(\alpha\) のみであると見抜くこと。
  • 三角関数の積和の公式を適用して、最大値問題を単純な \(\sin\) の最大値問題に帰着させること。

具体的な解説と立式
(5)で求めた \(l\) の式は、定数部分と \(\alpha\) の関数部分に分けられます。
$$l = \frac{2v_0^2}{g\cos^2\theta} \cdot \sin\alpha \cos(\theta+\alpha)$$
\(l\) が最大になるのは、\(\alpha\) を含む部分 \(f(\alpha) = \sin\alpha \cos(\theta+\alpha)\) が最大になるときです。
三角関数の積和の公式 \(\sin A \cos B = \frac{1}{2}\{\sin(A+B) + \sin(A-B)\}\) を用いて、\(f(\alpha)\) を変形します。ここで \(A=\alpha\), \(B=\theta+\alpha\) と考えます。
$$f(\alpha) = \frac{1}{2}\{\sin(\alpha + (\theta+\alpha)) + \sin(\alpha – (\theta+\alpha))\}$$
この式を整理し、最大値をとる条件を考えます。

使用した物理公式

  • 三角関数の積和の公式: \(\sin A \cos B = \frac{1}{2}\{\sin(A+B) + \sin(A-B)\}\)
計算過程

積和の公式を適用して変形します。
$$f(\alpha) = \frac{1}{2}\{\sin(2\alpha+\theta) + \sin(-\theta)\} = \frac{1}{2}\{\sin(2\alpha+\theta) – \sin\theta\}$$
\(l\) の式に戻すと、
$$l = \frac{v_0^2}{g\cos^2\theta}\{\sin(2\alpha+\theta) – \sin\theta\}$$
この式で、\(v_0, g, \theta\) は定数です。したがって、\(l\) が最大になるのは、\(\sin(2\alpha+\theta)\) が最大値である \(1\) をとるときです。
$$\sin(2\alpha+\theta) = 1$$
問題の条件 \(0 < \theta+\alpha < \pi/2\) から、\(2\alpha+\theta\) は \(\pi\) より小さい範囲にあるため、この範囲で \(\sin\) が1になるのは、
$$2\alpha+\theta = \frac{\pi}{2}$$
これを \(\alpha\) について解くと、
$$\alpha = \frac{\pi}{4} – \frac{\theta}{2}$$

計算方法の平易な説明

どの角度で投げれば一番遠くまで飛ぶか、という問題です。(5)で求めた飛距離の式は複雑ですが、角度 \(\alpha\) が関わる部分は \(\sin\alpha\cos(\theta+\alpha)\) だけです。この部分が一番大きくなるときを数学のテクニック(積和の公式)を使って探します。公式で変形すると、式の中に \(\sin(2\alpha+\theta)\) という項が出てきます。サイン(\(\sin\))が一番大きくなるのは、中身の角度が \(90^\circ\) (\(\pi/2\)) のときで、その値は1です。この条件から \(\alpha\) を逆算します。

結論と吟味

距離lが最大となる角度は \(\alpha = \displaystyle\frac{\pi}{4} – \frac{\theta}{2}\) です。
これは、水平な地面への斜方投射で到達距離が最大になるのが45°であることの、斜面バージョンと考えることができます。もし斜面がなければ \(\theta=0\) であり、そのとき \(\alpha=\pi/4 = 45^\circ\) となり、よく知られた結果と一致します。

解答 (6) \(\alpha = \displaystyle\frac{\pi}{4} – \frac{\theta}{2}\)

問(7), (8)

思考の道筋とポイント
(7) 角度の関係式: 「斜面に対して垂直に衝突する」という条件を、速度の成分を用いて表現します。この座標系では、y軸が斜面に垂直な方向なので、衝突時の速度ベクトルがy軸の負の方向を向けばよい、ということになります。これは、衝突時刻 \(t_0\) において、速度のx成分 \(v_x\) が0になることを意味します。

(8) 衝突時の速さ: この垂直衝突の状況で、衝突直前の速さを求めます。このとき、速度のx成分は0なので、速さはy成分の速度の絶対値に等しくなります。(7)で求めた角度の関係式を使い、答えから \(\alpha\) を消去して \(\theta\) だけで表すのがゴールです。
この設問における重要なポイント

  • 「垂直衝突」 \(\Leftrightarrow\) 「衝突時のx成分の速度が0 (\(v_x(t_0)=0\))」という条件変換ができること。
  • 衝突時の速さが \(|v_y(t_0)|\) となること。
  • (7)で求めた \(\alpha, \theta\) の関係式を、(8)で \(\alpha\) を消去するために利用する代数的な連立処理。

具体的な解説と立式

  • (7) 角度の関係式
    衝突時刻 \(t_0\) において \(v_x(t_0) = 0\) となるのが条件です。(2)と(4)の結果を用います。
    $$v_x(t_0) = v_0\cos\alpha – gt_0\sin\theta = 0$$
    この式に、(4)で求めた衝突時刻 \(t_0 = \displaystyle\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\) を代入し、角度 \(\alpha\) と \(\theta\) の関係を導きます。
  • (8) 衝突時の速さ
    速さ \(v_1\) は \(v_1 = |v_y(t_0)|\) であり、(2)と(4)の結果から、
    $$v_y(t_0) = v_0\sin\alpha – g\cos\theta \cdot t_0$$
    と立式できます。この式から得られる \(v_1\) を、(7)の結果を用いて \(\theta\) だけで表します。

使用した物理公式

  • 問(2), (4)の速度と時間の式
  • 三角関数の公式: \(1+\tan^2\alpha = 1/\cos^2\alpha\), \(\sin^2\alpha+\cos^2\alpha=1\)
計算過程
  • (7) の計算
    \(v_x(t_0)=0\) の式に \(t_0\) を代入します。
    $$v_0\cos\alpha – g\sin\theta \left(\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\right) = 0$$
    \(v_0\) で両辺を割り、整理します。
    $$\cos\alpha = \frac{2g\sin\theta\sin\alpha}{g\cos\theta} = 2\tan\theta\sin\alpha$$
    $$\cos\alpha\cos\theta = 2\sin\alpha\sin\theta$$
    両辺を \(\cos\alpha\cos\theta\) で割ると、
    $$1 = 2 \frac{\sin\alpha}{\cos\alpha} \frac{\sin\theta}{\cos\theta} = 2\tan\alpha\tan\theta$$
    よって、関係式は \(\tan\alpha\tan\theta = \displaystyle\frac{1}{2}\) となります。
  • (8) の計算
    まず \(v_y(t_0)\) を計算します。
    $$v_y(t_0) = v_0\sin\alpha – g\cos\theta \left(\frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos\theta}\right) = v_0\sin\alpha – 2v_0\sin\alpha = -v_0\sin\alpha$$
    よって速さは \(v_1 = |-v_0\sin\alpha| = v_0\sin\alpha\) です。
    次に、(7)の関係式から \(\sin\alpha\) を求めます。
    \(\tan\alpha = \displaystyle\frac{1}{2\tan\theta}\) の両辺を2乗すると \(\tan^2\alpha = \displaystyle\frac{1}{4\tan^2\theta}\)。
    公式 \(1+\tan^2\alpha = \displaystyle\frac{1}{\cos^2\alpha}\) より、
    $$\frac{1}{\cos^2\alpha} = 1 + \frac{1}{4\tan^2\theta} = \frac{4\tan^2\theta+1}{4\tan^2\theta}$$
    公式 \(\sin^2\alpha = 1 – \cos^2\alpha\) より、
    $$\sin^2\alpha = 1 – \frac{4\tan^2\theta}{4\tan^2\theta+1} = \frac{1}{4\tan^2\theta+1}$$
    \(0 < \alpha < \pi/2\) より \(\sin\alpha > 0\) なので、
    $$\sin\alpha = \frac{1}{\sqrt{1+4\tan^2\theta}}$$
    これを \(v_1\) の式に代入して、
    $$v_1 = \frac{v_0}{\sqrt{1+4\tan^2\theta}}$$
結論と吟味

(7)の関係式は \(\tan\alpha\tan\theta = \displaystyle\frac{1}{2}\)。(8)の速さは \(\displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{1+4\tan^2\theta}}\) となります。
(7)は角度に関する条件、(8)は初速 \(v_0\) と斜面の角度 \(\theta\) だけで決まる速さを表しており、一連の計算として整合性が取れています。

解答 (7) \(\tan\alpha\tan\theta = \frac{1}{2}\) 解答 (8) \(\displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{1+4\tan^2\theta}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 傾いた座標系における運動の分解
    • 核心:この問題の最大のポイントは、地面に水平・鉛直な座標系ではなく、斜面に沿った(傾いた)座標系で運動を考える点にあります。この「見方」を変えることで、一見複雑な運動が、各軸方向の単純な「等加速度直線運動」として扱えるようになります。
    • 理解のポイント:
      1. 重力加速度の分解:この問題の出発点です。常に鉛直下向きにはたらく重力加速度 \(\vec{g}\) を、傾いたx軸、y軸方向に分解することが不可欠です。これにより、各軸方向の加速度 \(a_x = -g\sin\theta\) と \(a_y = -g\cos\theta\) が求まります。
      2. 初速度の分解:同様に、初速度 \(\vec{v}_0\) も、この傾いた座標系のx, y成分(\(v_{0x} = v_0\cos\alpha\), \(v_{0y} = v_0\sin\alpha\))に分解します。
      3. 等加速度運動公式の適用:上記2つの分解が完了すれば、あとはx方向、y方向それぞれに、見慣れた等加速度直線運動の公式(\(v = v_0+at\), \(s = v_0t + \frac{1}{2}at^2\))を適用するだけです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン
    • 斜面上のばね振り子:おもりの運動を、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して考えると同じアプローチが使えます。
    • 円錐振り子や、カーブを曲がる自動車:円運動を水平面でなく、斜め上から見るような問題では、力を適切に分解して考える必要があります。
    • 要するに、「運動が平面上だが、主たる力が座標軸に対して斜めを向いている」あらゆる問題で、座標系を適切に設定し、力を分解するという考え方が有効です。
  • 初見の問題での着眼点
    1. 座標系の選択:まず、どの向きに座標軸を取れば運動の記述が最も簡単になるかを見極めます。斜面上の運動では、斜面に沿った座標系を取るのが定石です。
    2. 全ベクトルの成分分解:座標系を決めたら、問題に登場するすべてのベクトル量(初速度、力、加速度)を、その座標系の成分に分解する作業を徹底します。これを図示することが不可欠です。
    3. 物理条件の数式化:「斜面に衝突する \(\rightarrow y=0\)」「垂直に衝突する \(\rightarrow v_x=0\)」「y方向の最高点 \(\rightarrow v_y=0\)」のように、問題文のキーワードを、座標や速度の成分を用いた数式条件に「翻訳」する能力が問われます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 重力加速度の分解ミス
    • 誤解:重力の斜面平行成分と垂直成分で、\(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を取り違える。
    • 対策:毎回必ず図を描き、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と座標軸の関係を確認する癖をつけましょう。傾斜角 \(\theta\) は、「鉛直線」と「斜面に垂直なy軸」との間にも現れます。これを元に、「\(\theta\) と向かい合う辺がx成分 (\(\sin\theta\))」「\(\theta\) を挟む辺がy成分 (\(\cos\theta\))」と覚えれば間違いません。
  • 加速度の符号ミス
    • 誤解:(1)で求めた力の成分のマイナス符号を、(2)以降の加速度の計算で見落とす。
    • 対策:座標軸の正の向きを最初に明確に定義し、各ベクトル成分がその向きと同じか逆かを常に確認します。今回はx, yともに、加速度は軸の負の向きなので、両方ともマイナスがつきます。
  • 水平投射の公式の誤用
    • 誤解:普段の水平投射と同じ感覚で、y方向の加速度を \(-g\) だと思ってしまう。
    • 対策:この問題は「斜めの世界」での投射です。y方向の加速度は、重力の一成分である \(-g\cos\theta\) になります。安易な公式の暗記ではなく、その都度、座標系に合わせて加速度を導出する基本動作が重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 「傾いた世界」のイメージ
    • 自分が斜面に立って、この小球の運動を観察していると想像してみましょう。あなたにとっての「真上」はy軸方向、「前方」はx軸方向です。この世界では、重力が「真下(y軸負方向)」だけでなく、「後ろ(x軸負方向)」にも引っ張ってくるように感じられます。この「後ろ向きに常に引かれる力」が \(a_x = -g\sin\theta\) の効果です。このため、x方向も単なる等速運動ではなく、減速していくのです。
  • y方向の運動の対称性
    • y方向の運動だけを取り出して見ると、初速度 \(v_0\sin\alpha\) で「打ち上げ」られ、一定の加速度 \(-g\cos\theta\) で減速し、最高点で \(v_y=0\) となり、再び加速して \(y=0\) に戻ってくる、という完全な「鉛直投げ上げ」と同じ構造をしています。この運動の対称性を理解していると、(4)の別解のように「最高点までの時間の2倍が滞空時間」という発想が自然に生まれます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 等加速度直線運動の公式群
    • 選定理由:問題の冒頭で、運動をx, yの各成分に分解した結果、両方向とも加速度が一定(\(a_x=-g\sin\theta\), \(a_y=-g\cos\theta\))になることが分かったからです。
    • 適用根拠:加速度が時間によらず一定である運動は、すべてこれらの公式で速度と位置を記述できます。この問題は、2つの独立した等加速度直線運動の組み合わせとしてモデル化できる、という物理的判断が根拠となります。
  • 三角関数の各種公式(加法定理、積和の公式など)
    • 選定理由:これらは物理法則ではなく、複雑な物理の数式を、分析や解釈がしやすい形に変形するための「数学的な道具」です。
    • 適用根拠:(5)では、\(\cos\alpha\cos\theta-\sin\alpha\sin\theta\) という形が出てきたため、これを \(\cos(\alpha+\theta)\) にまとめる加法定理が有効です。(6)では、\(\alpha\) の関数を最大化するために、積の形 \(\sin\alpha\cos(\dots)\) を和の形に変える積和の公式が選ばれました。目的(式の単純化、最大値の導出)に応じて最適な道具を選択する能力が問われます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 【準備段階】座標系に合わせた物理量の分解
    1. 重力加速度 \(\vec{g}\) を分解 → \(a_x, a_y\) を確定【問1】
    2. 初速度 \(\vec{v}_0\) を分解 → \(v_{0x}, v_{0y}\) を確定
  2. 【運動の記述】等加速度運動の公式を適用
    1. \(v=v_0+at\) を各成分に適用 → \(v_x(t), v_y(t)\) を導出【問2】
    2. \(s=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を各成分に適用 → \(x(t), y(t)\) を導出【問3】
  3. 【条件の適用】各設問を解く
    1. 衝突時刻: \(y(t_0)=0\) を解く【問4】
    2. 到達距離: \(l = x(t_0)\) に代入して計算【問5】
    3. 最大距離: \(l(\alpha)\) の式を三角関数の公式で変形し、最大値条件を求める【問6】
    4. 垂直衝突: \(v_x(t_0)=0\) を解き、角度の関係式を導く【問7】
    5. 衝突速度: \(v_1=|v_y(t_0)|\) を計算し、(7)の関係式で \(\alpha\) を消去する【問8】

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 最初の分解を絶対に間違えない
    • 特に注意すべき点:(1)の重力加速度の分解は、この問題のすべての計算の基礎です。ここで \(\sin\) と \(\cos\) を間違えると、以降の設問はすべて不正解となります。
    • 日頃の練習:斜面の問題が出てきたら、何も考えずにまず力を分解する図を描く、というルーティンを体に染み込ませましょう。
  • 複雑な代入計算は段階的に
    • 特に注意すべき点:(5)の到達距離の計算のように、分数や三角関数を含む複雑な式を代入する際は、一気に行おうとすると間違いのもとです。
    • 日頃の練習:まず代入しただけの式を書き、次の行で共通因数でくくり、さらに次の行で括弧の中を整理する、といったように、焦らず段階的に計算を進めることで、ミスを減らし、途中計算の検算もしやすくなります。
  • 三角関数の計算に習熟する
    • 特に注意すべき点:(8)の \(\tan\alpha\) から \(\sin\alpha\) を求める計算は、複数の公式を組み合わせる必要があり、間違いやすいポイントです。
    • 日頃の練習:「\(\tan \rightarrow \sec \rightarrow \cos \rightarrow \sin\)」のように、\(1+\tan^2\theta=1/\cos^2\theta\) と \(\sin^2\theta+\cos^2\theta=1\) を使って自在に変換できるよう、計算練習を積んでおきましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 極端な場合(特殊なケース)を代入してみる
    • 吟味の視点:もし斜面がなければ(\(\theta=0\))、この問題は通常の斜方投射になるはずです。そこで、導出した式に \(\theta=0\) を代入してみます。
      • (4)衝突時刻: \(t_0 = \frac{2v_0\sin\alpha}{g\cos 0} = \frac{2v_0\sin\alpha}{g}\)。これは水平面への斜方投射の滞空時間の公式と一致します。
      • (5)到達距離: \(l = \frac{2v_0^2\sin\alpha\cos(\alpha+0)}{g\cos^2 0} = \frac{2v_0^2\sin\alpha\cos\alpha}{g} = \frac{v_0^2\sin(2\alpha)}{g}\)。これは水平到達距離の公式と一致します。

      このように、よく知っている簡単なケースと結果が一致することを確認するのは、非常に有効な検算方法です。

  • 物理的な直感と照らし合わせる
    • 吟味の視点:(7)で垂直に衝突する条件は \(\tan\alpha\tan\theta = 1/2\) でした。もし斜面が非常に急(\(\theta\) が \(90^\circ\) に近い)なら、\(\tan\theta\) は非常に大きくなります。このとき、式を満たすには \(\tan\alpha\) は非常に小さく、つまり \(\alpha\) は0に近くなる必要があります。これは、「非常に急な壁に垂直に当てるには、ほとんど壁に沿って真上に投げなければならない」という直感と一致します。

問題07 (上智大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、斜面をのぼる小球の運動を扱っていますが、単なる斜方投射ではなく、3次元的な動きを2つの方向(x軸方向と、斜面に沿ったy’軸方向)に分解して考える、非常に思考力を要する問題です。小球が面から離れないという条件の下で、運動がどのように記述され、どのような条件で上面に到達できるかを分析します。

与えられた条件
  • 構造: 高さ\(h\)の水平な上面と下面が、傾斜角\(\phi\)のなめらかな斜面で繋がっている。
  • 座標系: 下面の端にx軸(水平)、y軸(水平)が、斜面上にはy’軸が設定されている。
  • 初期条件: 下面上で、y軸から角度\(\theta_1\)の向きに、速さ\(v\)で小球を走らせる。
  • 物理条件: 摩擦、空気抵抗はなし。重力加速度は\(g\)。小球は面から飛び上がらない。
問われていること(空欄補充形式)
  • (1) 斜面をのぼる運動の分析
    • ア, イ: x軸方向とy’軸方向の運動の種類。
    • ウ, エ, オ: 上面に到達したときの速度のx, y成分と、斜面をのぼるのにかかる時間。
    • カ: 上面と下面での進行方向の角度の関係式。
  • (2) 上面に到達する条件と時間
    • キ: 上面に到達できなくなる限界の角度 \(\theta_c\) が満たす条件。
    • ク: 上面に到達できずに下面に戻ってくるまでにかかる時間。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この一見複雑に見える3次元的な運動は、運動を適切に分解することで、2つの独立した1次元の運動としてシンプルに捉えることができます。
この問題の座標系は巧妙に設定されており、この座標系に沿って考えるのが攻略の鍵です。

  1. 運動の分解: 小球が斜面上にあるときの運動を、x軸方向y’軸方向に分解します。
  2. 各方向での立式: 分解した各方向の運動が「等速」なのか「等加速度」なのかを判断し、それぞれの運動法則に従って、速度や位置を求める式を立てます。
  3. 条件の適用: 「上面に到達する」「下面に戻る」といった物理的な条件を、座標や速度を用いた数式に変換し、連立方程式を解いて未知数を求めます。

ア, イ

思考の道筋とポイント
小球が斜面上にあるときに、x軸方向とy’軸方向にそれぞれどのような力がはたらくかを考えます。力がはたらかなければ「等速度運動」、一定の力がはたらき続ければ「等加速度運動」です。力の分析には、重力と、斜面からの垂直抗力の2つを考慮する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 小球にはたらく力は「重力」と「垂直抗力」のみ。
  • x軸は斜面に平行かつ水平な方向です。重力(鉛直下向き)も垂直抗力(斜面に垂直)も、x軸方向の成分を持ちません。
  • y’軸は斜面をのぼる方向です。重力はこの方向に成分を持ちます。

具体的な解説と立式

  • ア(x軸方向):
    x軸方向には、重力も垂直抗力も成分を持たないため、小球には力がはたらきません。したがって、運動方程式(\(ma_x=0\))より加速度は0です。よって、x軸方向の運動は等速度運動となります。
  • イ(y’軸方向):
    y’軸方向には、重力の斜面成分がはたらきます。その力の大きさは \(mg\sin\phi\) で、向きはy’軸の負の向きです。この力は運動中常に一定なので、運動方程式(\(ma_{y’} = -mg\sin\phi\))より、加速度は \(a_{y’} = -g\sin\phi\) で一定となります。よって、y’軸方向の運動は等加速度運動となります。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 力の分解
計算過程
  • x方向の合力 \(F_x = 0\)。よって \(a_x = 0\)。加速度0なので等速度運動。 (選択肢 ①)
  • y’方向の合力 \(F_{y’} = -mg\sin\phi\)。よって \(ma_{y’} = -mg\sin\phi\)。加速度 \(a_{y’} = -g\sin\phi\) の等加速度運動。 (選択肢 ②)
計算方法の平易な説明

斜面をのぼるボールの動きを、真横(x方向)と斜め上(y’方向)に分けて考えます。真横(x方向)には、ボールを押したり引いたりする力は何もありません。なので、最初の横向きのスピードのまま進み続けます(等速度運動)。一方、斜め上(y’方向)には、常に重力が「坂を滑り落ちろ」と引っ張り続けています。この力は一定なので、ボールは一定の割合でブレーキがかかる運動(等加速度運動)をします。

結論と吟味

アは「① 等速度運動」、イは「② 加速度 \(a=-g\sin\phi\) の等加速度運動」が正解です。これは、斜面上の物体の運動を分析する際の基本的な考え方です。

解答 ア ① ,

ウ, エ, オ

思考の道筋とポイント
ウ (速度のx成分): アで結論付けた通り、x方向は等速度運動です。したがって、速度のx成分は最初から最後まで変化しません。

エ (速度のy成分): y’方向は等加速度運動です。上面に到達したときのy’方向の速度を求めるには、等加速度運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) が有効です。この公式を使うために、初速度のy’成分と、斜面をのぼる距離を求める必要があります。別解として、力学的エネルギー保存則も利用できます。

オ (所要時間): y’方向の初速度と、(エ)で求めた最終速度、そして加速度がわかっているので、等加速度運動の公式 \(v = v_0 + at\) を使って時間を逆算できます。

この設問における重要なポイント

  • 初速度の分解: 下面での速さ \(v\) を、x成分とy成分に分解します。y軸から角度 \(\theta_1\) なので、\(v_x = v\sin\theta_1\), \(v_y = v\cos\theta_1\) となります。このy成分が、斜面をのぼり始める瞬間のy’方向の初速度になります。
  • 斜面の長さ: 斜面をのぼりきることで、高さが \(h\) だけ変化します。斜面の傾斜角が \(\phi\) なので、斜面に沿った距離 \(l’\) は \(l’ = h/\sin\phi\) となります。

具体的な解説と立式

  • ウ (速度のx成分):
    x方向は等速度運動なので、速度は常に一定です。初速度のx成分は \(v_x = v\sin\theta_1\) なので、上面到達時もこの値のままです。
  • エ (速度のy成分):
    上面到達時のy’方向の速度を \(v_{y’}\) とします。等加速度運動の公式 \(v^2-v_0^2 = 2ax\) をy’方向に適用します。

    • 初速度: \(v_{0y’} = v\cos\theta_1\)
    • 加速度: \(a_{y’} = -g\sin\phi\)
    • 距離: \(x = l’ = h/\sin\phi\)

    $$v_{y’}^2 – (v\cos\theta_1)^2 = 2(-g\sin\phi)\left(\frac{h}{\sin\phi}\right)$$
    この式を \(v_{y’}\) について解きます。

  • オ (所要時間):
    等加速度運動の公式 \(v=v_0+at\) をy’方向に適用します。求める時間を \(t\) とすると、
    $$v_{y’} = v_{0y’} + a_{y’}t$$
    この式に、上で求めた各値を代入し、\(t\) について解きます。

使用した物理公式

  • ベクトルの成分分解
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\), \(v = v_0 + at\)
  • 三角比: \(h = l’\sin\phi\)
計算過程
  • ウ: 初速度のx成分から、\(v\sin\theta_1\) となります。
  • エ:
    $$v_{y’}^2 – v^2\cos^2\theta_1 = -2gh$$ $$v_{y’}^2 = v^2\cos^2\theta_1 – 2gh$$
    小球が上面に到達できる条件なので根号の中は正であり、
    $$v_{y’} = \sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}$$
    上面での速度のy成分はこれに等しいです。
  • オ:
    $$\sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh} = v\cos\theta_1 + (-g\sin\phi)t$$ $$gt\sin\phi = v\cos\theta_1 – \sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}$$ $$t = \frac{v\cos\theta_1 – \sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}}{g\sin\phi}$$

別解 (エについて):力学的エネルギー保存則を用いたアプローチ
思考の道筋とポイント
斜面はなめらかなので、小球が下面から上面に移動する間、力学的エネルギーは保存されます。下面での運動エネルギーと、上面での運動エネルギーと位置エネルギーの和が等しい、という関係から上面での速度を求めることができます。
具体的な解説と立式
下面を高さの基準(0)とします。下面での速さは \(v\)、上面での速度を \(v_x, v_{y’}\) とすると、力学的エネルギー保存則より、
$$E_{\text{下面}} = E_{\text{上面}}$$
$$\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}m(v_x^2 + v_{y’}^2) + mgh$$
x成分の速度は保存されるので \(v_x = v\sin\theta_1\) です。この式を \(v_{y’}\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + mgh_2\)
  • 速度の合成: \(v^2 = v_x^2 + v_y^2\)
計算過程

エネルギー保存則の式の \(m\) を消去し、2倍します。
$$v^2 = (v_x^2 + v_{y’}^2) + 2gh$$
\(v_x = v\sin\theta_1\) を代入します。
$$v^2 = (v\sin\theta_1)^2 + v_{y’}^2 + 2gh$$
$$v^2 = v^2\sin^2\theta_1 + v_{y’}^2 + 2gh$$
\(v_{y’}^2\) について整理します。
$$v_{y’}^2 = v^2 – v^2\sin^2\theta_1 – 2gh = v^2(1-\sin^2\theta_1) – 2gh$$
\(1-\sin^2\theta_1 = \cos^2\theta_1\) なので、
$$v_{y’}^2 = v^2\cos^2\theta_1 – 2gh$$
$$v_{y’} = \sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}$$
これは運動学から導いた結果と一致します。

計算方法の平易な説明

(エ)は別のアプローチでも解けます。エネルギーに注目すると、最初の運動エネルギーの一部が、高さhの位置エネルギーに変わります。残ったエネルギーが上面での運動エネルギーになります。上面での運動エネルギーは、変わらないx方向の速さと、求めたいy’方向の速さから計算できます。この関係を式にすると、y’方向の速さが求まります。

結論と吟味

ウは \(v\sin\theta_1\)、エは \(\sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}\)、オは \(\displaystyle\frac{v\cos\theta_1 – \sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}}{g\sin\phi}\) となります。特に(エ)の式は、運動学とエネルギーという異なる2つのアプローチで同じ結果が得られることから、その妥当性が強く確認できます。

解答 ウ \(v\sin\theta_1\) , \(\sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}\) , \(\displaystyle\frac{v\cos\theta_1 – \sqrt{v^2\cos^2\theta_1 – 2gh}}{g\sin\phi}\)

思考の道筋とポイント
下面と上面で、x方向の速度成分が保存されることを利用します。下面での速度 \(v\) と角度 \(\theta_1\)、上面での速度を \(v’\) と角度 \(\theta_2\) として、それぞれのx成分を立式し、それらが等しいという関係から式を導きます。上面での速さ \(v’\) は、力学的エネルギー保存則から簡単に求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • x方向の速度保存: \(v_x(\text{下面}) = v_x(\text{上面})\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv’^2 + mgh\)

具体的な解説と立式

  1. x方向の速度保存の立式:
    • 下面でのx成分: \(v_x = v\sin\theta_1\)
    • 上面でのx成分: \(v’_x = v’\sin\theta_2\)

    これらが等しいので、\(v\sin\theta_1 = v’\sin\theta_2\)。変形すると、
    $$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v’}{v}$$

  2. 上面での速さ \(v’\) の導出:
    下面(高さ0)と上面(高さ\(h\))での力学的エネルギー保存則より、
    $$\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv’^2 + mgh$$
    この式から \(v’\) を求め、上の関係式に代入します。

使用した物理公式

  • 速度の成分分解
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

まず、エネルギー保存則から \(v’\) を求めます。
$$v^2 = v’^2 + 2gh $$
$$ v’^2 = v^2 – 2gh$$
よって、\(v’ = \sqrt{v^2-2gh}\) となります。
これを \(\displaystyle\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v’}{v}\) に代入します。
$$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{\sqrt{v^2-2gh}}{v} = \sqrt{\frac{v^2-2gh}{v^2}} = \sqrt{1-\frac{2gh}{v^2}}$$

計算方法の平易な説明

この現象は、光が空気中から水の中に入るときの「屈折」に似ています。x方向の速度が変わらないことが、光の屈折における「スネルの法則」のアナロジーになっています。下面と上面で、それぞれ横向き(x方向)の速度を計算し、それらが等しい、という式を立てます。上面での全体の速さは、エネルギーが保存されることから計算できます。これらを組み合わせると、角度の関係式が求まります。

結論と吟味

角度の関係は、\(\displaystyle\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \sqrt{1-\frac{2gh}{v^2}}\) となります。これは運動量保存とエネルギー保存から導かれる、力学におけるスネルの法則とも呼ばれる関係式です。

解答 カ \(\sqrt{1-\displaystyle\frac{2gh}{v^2}}\)

キ, ク

思考の道筋とポイント
キ (限界角): 「上面に到達できない」とは、斜面をのぼるy’方向の運動の途中で速度が0になり、引き返してくることを意味します。「到達できるかできないかの限界」は、y’方向の速度が、ちょうど斜面をのぼりきった瞬間に0になるときです。このとき、上面での速度はx成分のみとなり、上面での進行方向の角度 \(\theta_2\) は \(90^\circ\) になります。この条件を(カ)で求めた関係式に適用します。

ク (往復時間): 上面に到達できずに下面に戻ってくる運動は、y’軸方向の運動だけを見ると、斜面をのぼって元の位置(\(y’=0\))に戻ってくる運動です。これは、y’方向の初速度で打ち出され、一定の加速度で運動する物体が、再び変位0の位置に戻るまでの時間を求める問題と等価です。運動の対称性を利用すると計算が早いです。
この設問における重要なポイント

  • 限界条件の物理的解釈:「上面に到達した瞬間にy’方向の速度が0」\(\Leftrightarrow\)「上面での進行方向がx軸方向」\(\Leftrightarrow\)「\(\theta_2 = 90^\circ\)」
  • 戻ってくる運動は、y’方向の変位が0になるまでの時間として計算できること。

具体的な解説と立式

  • キ (限界角):
    限界の角度を \(\theta_c\) とします。このとき、上面での進行方向の角度は \(\theta_2 = 90^\circ\) となります。この条件を(カ)で求めた関係式に代入します。
    $$\frac{\sin\theta_c}{\sin 90^\circ} = \sqrt{1-\frac{2gh}{v^2}}$$
  • ク (往復時間):
    y’方向の往復運動の時間を \(t’\) とします。運動の対称性から、最高点に達する時間 \(t_{\text{peak}}\) の2倍となります。最高点では \(v_{y’}=0\) なので、
    $$0 = v\cos\theta_1 + (-g\sin\phi)t_{\text{peak}}$$
    この式から \(t_{\text{peak}}\) を求め、\(t’=2t_{\text{peak}}\) を計算します。

使用した物理公式

  • (カ)で求めた角度の関係式
  • 等加速度直線運動の速度公式: \(v=v_0+at\)
  • 放物運動の対称性
計算過程
  • キ:
    \(\sin 90^\circ = 1\) なので、
    $$\frac{\sin\theta_c}{1} = \sqrt{1-\frac{2gh}{v^2}}$$
    $$\sin\theta_c = \sqrt{1-\frac{2gh}{v^2}}$$
  • ク:
    まず最高点までの時間を求めます。
    $$t_{\text{peak}} = \frac{v\cos\theta_1}{g\sin\phi}$$
    往復時間 \(t’\) はこの2倍なので、$$t’ = 2t_{\text{peak}} = \frac{2v\cos\theta_1}{g\sin\phi}$$
計算方法の平易な説明

キ: ボールがギリギリてっぺんにたどり着けるのは、坂をのぼりきる力(y’方向の勢い)をちょうど使い切った状態です。このとき、てっぺんに着いたボールは真横(x軸方向)にしか動けません。つまり、上面での角度 \(\theta_2\) が \(90^\circ\) になります。この条件を(カ)の式に入れてあげると、限界の角度 \(\theta_c\) が満たすべき条件がわかります。

ク: ボールが坂を上がって下りてくるまでの時間を求めます。これは、ボールを斜め上に投げて、元の高さに戻ってくるまでの時間を計算するのと同じです。一番高いところまで行く時間と、そこから下りてくる時間は同じなので、「一番高いところに行くまでの時間」を計算して2倍すればOKです。

結論と吟味

限界角の条件は \(\sin\theta_c = \sqrt{1-\displaystyle\frac{2gh}{v^2}}\)、下面に戻るまでの時間は \(\displaystyle\frac{2v\cos\theta_1}{g\sin\phi}\) となります。
(キ)の式は、運動エネルギーの一部が位置エネルギーに変換される、というエネルギーの観点からも解釈でき、妥当な結果です。(ク)の式も、y’方向の初速度に比例し、y’方向の加速度の大きさに反比例するという、物理的に自然な形をしています。

解答 キ \(\sqrt{1-\displaystyle\frac{2gh}{v^2}}\) , \(\displaystyle\frac{2v\cos\theta_1}{g\sin\phi}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分解と保存則の選択的利用
    • 核心:この問題は、3次元的な運動を、性質の異なる2つの1次元運動に分解して考えることで、その全体像を明らかにするという、物理学の非常に強力なアプローチを体現しています。
    • 理解のポイント:
      1. 運動の分解: 小球の運動を、斜面の縁に沿った水平なx軸方向と、斜面をのぼりくだりするy’軸方向に分解します。x軸方向には力がはたらかないため「等速度運動」となり、y’軸方向には重力の一成分が常にはたらくため「等加速度運動」となります。この運動の性質の違いを見抜くことが、すべての始まりです。
      2. 保存則の活用:この問題では、2つの重要な保存則が活躍します。
        • 速度成分の保存:x方向に力がないため、x成分の速度(運動量)は斜面をのぼる前後で保存されます。これが(カ)の角度の関係を導く鍵となります。
        • 力学的エネルギーの保存:斜面はなめらかなので、小球がもつ力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は常に一定に保たれます。これにより、異なる地点での速さを、間の運動を問わずに直接結びつけることができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン
    • 電場・磁場中の荷電粒子の運動:一様な電場(一定の力がはたらく)と磁場(進行方向に垂直な力がはたらく)が組み合わさった領域に荷電粒子が入射する問題など、方向によって異なる法則が支配する運動の分析に応用できます。
    • サイクロイド振り子や円錐振り子:おもりの運動を、特定の方向に分解して考えることで、見通しが良くなることがあります。
  • 初見の問題での着眼点
    1. 保存量を探す:問題文を読んで、まず「何か保存される量はないか?」と探す癖をつけましょう。「なめらか」という言葉があれば力学的エネルギー保存則が、「ある方向に力がはたらかない」のであればその方向の運動量(速度)保存が、強力な武器になります。
    2. ツールの使い分けを意識する:
      • 時間が関わる問い((オ)や(ク)) → 運動方程式・等加速度運動の公式が有効。
      • 時間が関わらない2点間の状態変化(速さや高さ) → 力学的エネルギー保存則が有効。

      このように、目的に応じて最適なツールを選択することで、計算を簡略化できます。

    3. 角度の定義を正確に捉える:初速度の向きを表す角度 \(\theta_1\) が、x軸からではなくy軸から測られている点に注意が必要です。これにより、速度のx,y成分が \(v\cos\theta_1, v\sin\theta_1\) ではなく、\(v\sin\theta_1, v\cos\theta_1\) となります。図を丁寧に見て、三角比を正しく適用することが不可欠です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 初速度の成分分解ミス
    • 誤解:角度といえばx軸から、という思い込みで、初速度のx成分を \(v\cos\theta_1\)、y成分を \(v\sin\theta_1\) と置いてしまう。
    • 対策:必ず図を見て、角度が「どの軸」から「どちら向き」に測られているかを確認しましょう。「y軸とのなす角が \(\theta_1\)」なので、y成分が \(\cos\theta_1\) になります。図に直角三角形を描き、三角比の定義に忠実に従うことがミスを防ぎます。
  • 2種類の角度(\(\phi\) と \(\theta_1\))の混同を避ける
    • 誤解:\(\phi\) は斜面の物理的な傾斜角、\(\theta_1\) は運動の方向を表す角度です。役割が全く異なります。計算中に混同しないよう、どの式にどの角度が使われるかを意識しましょう。(例:加速度を決めるのは\(\phi\)、初速の成分を決めるのは\(\theta_1\))
  • 全体速度と成分速度の混同
    • 誤解:(エ)でy’方向の運動を考える際に、等加速度運動の公式の初速度 \(v_0\) として、全体の速さ \(v\) を代入してしまう。
    • 対策:運動を分解した後は、それぞれの軸の計算では、その軸の「成分」のみを用います。y’方向の運動を考えるなら、初速度もy’成分である \(v\cos\theta_1\) を使わなければなりません。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 運動を「展開図」で捉え直す
    • この斜面を「展開」して一枚の平面として想像してみましょう。この平面上では、x軸方向には何も起こりませんが、y’軸の負の向きに常に \(g\sin\phi\) という大きさの「擬似的な重力」がはたらいている、と考えることができます。すると、この問題は「重力の大きさが異なる世界での、斜方投射」と見なすことができ、y’方向に放物線を描くイメージが掴みやすくなります。
  • エネルギーを「登山予算」としてイメージする
    • 小球が持つ運動エネルギーのうち、斜面をのぼるために使えるのはy’方向の成分、すなわち \(\frac{1}{2}m(v\cos\theta_1)^2\) です。これを「登山のための予算」と考えます。一方、高さ\(h\)の上面に到達するには \(mgh\) の「登山費用」が必要です。予算が費用を上回っていれば登頂成功、足りなければ途中リタイアとなります。限界角\(\theta_c\)は、この予算と費用がピッタリ一致する状況に対応します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • x方向の速度保存(運動量保存則)
    • 選定理由:(カ)で下面と上面の角度の関係を問われた際、2つの状態を結びつける法則が必要だったため。x軸方向に外力がはたらかないことに着目すれば、その方向の運動量(速度)が保存されることがわかり、これが最もシンプルな関係式を与えてくれます。
  • 力学的エネルギー保存則
    • 選定理由:「なめらか」というキーワードから、非保存力である摩擦力が仕事をしないことがわかります。この法則を使えば、過程(時間や経路)を問わず、始点と終点の「速さ」と「高さ」の関係を直接導き出せるため、(エ)の別解や(カ)の \(v’\) の計算で極めて有効です。
  • 等加速度直線運動の公式群
    • 選定理由:y’方向の運動の加速度が、\(a_{y’}=-g\sin\phi\) で一定であると分析できたため。加速度が一定の運動を記述するための基本ツールがこれらの公式です。特に、時間や最終速度を求める(エ)(オ)(ク)では必須となります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 【準備】運動の分解:
    • 初速度 \(\vec{v}\) を分解 → \(v_x = v\sin\theta_1\), \(v_{0y’} = v\cos\theta_1\)。
    • 斜面上の力を分解 → x方向の力=0, y’方向の力=\(-mg\sin\phi\)。
    • 加速度を確定 → \(a_x=0\) (→等速), \(a_{y’}=-g\sin\phi\) (→等加速度)。【ア,イ】
  2. 【運動の記述】上面到達を考える:
    • x方向は速度不変 → 上面での \(v_x = v\sin\theta_1\)。【ウ】
    • y’方向は等加速度運動。移動距離 \(l’=h/\sin\phi\)、初速度、加速度から、公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を使い上面での \(v_{y’}\) を求める。【エ】
    • y’方向の初速、終速、加速度から、公式 \(v=v_0+at\) を使い、上面までの時間 \(t\) を求める。【オ】
  3. 【状態の比較】下面と上面をつなぐ:
    • x方向の速度保存則(\(v\sin\theta_1 = v’\sin\theta_2\))と力学的エネルギー保存則(\(\frac{1}{2}mv^2=\frac{1}{2}mv’^2+mgh\))を連立し、角度の関係式を導く。【カ】
  4. 【限界条件の分析】
    • 上面にギリギリ到達する条件(\(v_{y’}=0\) at top \(\Leftrightarrow \theta_2=90^\circ\))を(カ)の式に代入し、限界角 \(\theta_c\) の条件式を求める。【キ】
    • 到達できずに戻ってくる時間を、y’方向の変位が0になる条件(\(y'(t’)=0\))から求める。【ク】

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 角度の定義の再確認
    • 特に注意すべき点:この問題最大の罠は、角度 \(\theta_1\) がy軸から測られている点です。計算を始める前に、速度の成分分解の図を自分で描き、\(v_x=v\sin\theta_1\), \(v_y=v\cos\theta_1\) となることを余白に大きくメモしておきましょう。
  • 2種類の角度(\(\theta_1, \phi\))の混同を避ける
    • 特に注意すべき点:\(\theta_1\) は運動の「方向」を決める角度、\(\phi\) は運動の「加速度」を決める角度です。役割が全く異なります。計算中に混同しないよう、どの式にどの角度が使われるかを意識しましょう。
  • 根号(ルート)の計算
    • 特に注意すべき点:(エ)(カ)(キ)では、根号を含む計算が頻出します。特に、(オ)のように根号のついた項を引き算するような場合は、符号のミスが起こりやすいので、慎重に計算を進めましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的アナロジー(類推)で確認する
    • (カ)の吟味:導出した関係式 \(\displaystyle\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v’}{v}\) は、光が屈折率の異なる媒質に入射するときの「スネルの法則(\(n_1\sin\theta_1=n_2\sin\theta_2\))」と非常によく似た形をしています。ここで、屈折率 \(n\) が速さ \(v\) に反比例する量だと考えると、力学と光学の間に美しい対応関係があることがわかります。このアナロジーは、答えの妥当性を強く示唆します。
  • エネルギーの観点から検算する
    • (キ)の吟味:限界角の条件式は \(\sin\theta_c = \sqrt{1-2gh/v^2}\) でした。これを2乗して整理すると、\(\frac{1}{2}m(v\cos\theta_c)^2 = mgh\) となります。左辺は「斜面をのぼる方向の初期運動エネルギー」、右辺は「上面に到達するために必要な位置エネルギー」です。両者が等しいという、エネルギーの観点から見ても非常に明快な結果となっており、解答が正しいことを裏付けています。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

問題08 (藤田保健衛生大)

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村