「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第3章】基本問題52~60

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基本問題

52 力のつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「3つの力のつり合い」です。静止した小球にはたらく3つの力(重力と2つの張力)のつり合いを考え、未知の張力の大きさを求めます。斜め方向の力を成分分解して考える方法が基本となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。これは、「水平方向の力の和=0」かつ「鉛直方向の力の和=0」という2つの式で表せます。
  2. 力の成分分解: 斜め方向の力(この問題では張力\(T_1\))を、計算しやすい水平・鉛直方向の成分に分解します。三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を用います。
  3. 力の合成: 2つの力(この問題では張力\(T_1\)と\(T_2\))の合力が、残りの1つの力(重力)とつり合う、という見方もできます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 解法1(成分分解): 小球にはたらく3つの力を図示し、斜めを向いている張力\(T_1\)を水平・鉛直成分に分解します。次に、「水平方向の力のつり合い」と「鉛直方向の力のつり合い」の2つの式を立て、連立させて解きます。
  2. 解法2(力の合成とつり合い): 2つの張力\(T_1, T_2\)の合力が、3つ目の力である重力とつり合う(大きさが等しく、向きが反対)と考えます。力のベクトルが作る直角三角形の辺の比を利用して、三角比から直接張力を求めます。

思考の道筋とポイント
糸1が引く力 \(T_1\) と糸2が引く力 \(T_2\) を求める問題です。小球は静止しているので、小球にはたらく3つの力(重力、張力\(T_1\)、張力\(T_2\))はつりあっています。
最も標準的な解法は、斜めを向いている力 \(\vec{T_1}\) を水平成分と鉛直成分に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てることです。この問題では、鉛直方向の力は重力と\(T_1\)の鉛直成分しかないので、まず鉛直方向のつり合いを解くことで\(T_1\)が直接求まります。次に、その結果を使って水平方向のつり合いを解けば\(T_2\)が求まります。
この設問における重要なポイント

  • 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
  • 水平方向の力の和 = 0
  • 鉛直方向の力の和 = 0
  • 斜め方向の力 \(\vec{T_1}\) を水平成分と鉛直成分に分解する。

具体的な解説と立式
小球にはたらく力は以下の3つです。

  1. 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)(大きさ \(W=3.0 \text{ N}\))
  2. 糸1が引く張力 \(\vec{T_1}\)(斜め左上向き)
  3. 糸2が引く張力 \(\vec{T_2}\)(水平右向き)

これらの力がつりあっているので、水平方向(右向きを正)と鉛直方向(上向きを正)で、それぞれ力の和がゼロになります。
まず、張力 \(\vec{T_1}\) を成分分解します。図より、糸1と天井(水平線)のなす角が\(60^\circ\)です。

  • \(T_1\)の水平成分: \(T_1\cos60^\circ\)(左向き)
  • \(T_1\)の鉛直成分: \(T_1\sin60^\circ\)(上向き)

力のつり合いの式を立てます。
鉛直方向のつり合い:
$$ T_1\sin60^\circ – W = 0 \quad \cdots ① $$
水平方向のつり合い:
$$ T_2 – T_1\cos60^\circ = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件: 各方向の力の成分の和は0
  • 力の成分分解
計算過程

(1) 張力 \(T_1\) を求める
式①に \(W=3.0 \text{ N}\) を代入して \(T_1\) を解きます。
$$
\begin{aligned}
T_1\sin60^\circ – 3.0 &= 0 \\[2.0ex]T_1 \times \frac{\sqrt{3}}{2} &= 3.0 \\[2.0ex]T_1 &= 3.0 \times \frac{2}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]&= \frac{6.0}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]&= 2\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &\approx 2 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 3.46 \\[2.0ex]&\approx 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

(2) 張力 \(T_2\) を求める
(1)で求めた \(T_1 = 2\sqrt{3}\) の値を式②に代入して \(T_2\) を解きます。
$$
\begin{aligned}
T_2 – (2\sqrt{3}) \times \cos60^\circ &= 0 \\[2.0ex]T_2 &= 2\sqrt{3} \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= \sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
T_2 &\approx 1.73 \\[2.0ex]&\approx 1.7 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

小球が静止しているので、力がバランスしています。斜め向きの力\(T_1\)を「横向き」と「縦向き」に分解して考えます。
まず、縦方向の力のバランスを見ます。上向きの力は「\(T_1\)の縦成分」だけで、下向きの力は「重力(3.0N)」だけです。これらがつりあっているので、「\(T_1\)の縦成分 = 3.0N」となります。この式から\(T_1\)の大きさが計算できます。
次に、横方向の力のバランスを見ます。右向きの力は「\(T_2\)」だけで、左向きの力は「\(T_1\)の横成分」だけです。これらがつりあっているので、「\(T_2\) = \(T_1\)の横成分」となります。先ほど求めた\(T_1\)の値を使って、\(T_2\)の大きさが計算できます。

結論と吟味

糸1の張力は \(T_1 \approx 3.5 \text{ N}\)、糸2の張力は \(T_2 \approx 1.7 \text{ N}\) となります。計算過程、有効数字の処理ともに適切です。

別解: 力の合成とつり合いによる方法

思考の道筋とポイント
小球にはたらく3つの力 \(\vec{T_1}, \vec{T_2}, \vec{W}\) がつりあっているということは、2つの張力 \(\vec{T_1}\) と \(\vec{T_2}\) の合力 \(\vec{F}_{\text{合}}\) が、重力 \(\vec{W}\) とつりあっている(大きさが等しく、向きが逆)と考えることができます。この合力 \(\vec{F}_{\text{合}}\) は鉛直上向きで、大きさは \(3.0 \text{ N}\) です。
この設問における重要なポイント

  • \(\vec{T_1} + \vec{T_2} + \vec{W} = 0 \iff \vec{T_1} + \vec{T_2} = -\vec{W}\)
  • 張力の合力(鉛直上向き、3.0N)と、各張力ベクトルで構成される力の三角形を利用する。
  • この力の三角形は、辺の比が \(1:2:\sqrt{3}\) の直角三角形になる。

具体的な解説と立式
張力 \(\vec{T_1}\) と \(\vec{T_2}\) の合力は、重力とつりあうので、鉛直上向きに \(3.0 \text{ N}\) の大きさを持つ。
力 \(\vec{T_1}\), \(\vec{T_2}\) とその合力で力の三角形(この場合は長方形の半分)を描くと、図のような直角三角形ができます。
糸1と天井のなす角が\(60^\circ\)なので、張力\(\vec{T_1}\)と水平線がなす角も\(60^\circ\)です。
この直角三角形において、
$$ (T_1\text{の鉛直成分}) = 3.0 \text{ N} $$
$$ T_1 \sin60^\circ = 3.0 $$
また、
$$ (T_1\text{の水平成分}) = T_2 $$
$$ T_1 \cos60^\circ = T_2 $$
これらの式を解くことで、\(T_1\)と\(T_2\)が求まります。
計算過程
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{3.0}{\sin60^\circ} \\[2.0ex]&= \frac{3.0}{\sqrt{3}/2} \\[2.0ex]&= \frac{6.0}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]&= 2\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 2 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 3.46 \approx 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
T_2 &= T_1 \cos60^\circ \\[2.0ex]&= (2\sqrt{3}) \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= \sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 1.73 \approx 1.7 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
糸1と糸2が協力して、重力(3.0N)を真上に持ち上げていると考えます。このとき、力の関係は、辺の比が\(1:2:\sqrt{3}\)の三角定規の形になります。斜辺が\(T_1\)、高さが重力(3.0N)、底辺が\(T_2\)に対応します。この三角定規の角度の関係(\(60^\circ\))と辺の比を使って、高さが3.0Nのときの斜辺と底辺の長さを計算します。
結論と吟味
結果は成分分解で解いた場合と完全に一致します。図形的な関係を素早く見抜くことができれば、こちらの解法の方が計算が速い場合があります。

 

解答 (1) \(3.5 \text{ N}\)
解答 (2) \(1.7 \text{ N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 3つの力のつり合い:
    • 核心: 物体が静止しているとき、その物体にはたらく3つの力のベクトル和はゼロになる、という静力学の基本原則。この問題を解くためのアプローチは大きく分けて2つあり、どちらも理解しておくことが重要です。
    • 理解のポイント:
      1. 成分分解による解法: 1つの力を、他の2つの力と直交する座標軸(通常は水平・鉛直)に分解し、「水平方向の力の和=0」「鉛直方向の力の和=0」という2つのスカラー方程式を立てて解く方法。最も汎用的で確実なアプローチです。
      2. 図形的な解法(力の合成): 2つの力(例:\(\vec{T_1}, \vec{T_2}\))の合力が、残りの1つの力(\(\vec{W}\))とつり合う(大きさが等しく向きが逆)と考える方法。力のベクトルが作る三角形の幾何学的な性質(三角比など)を利用して解きます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上で物体を水平に引く: 重力を斜面に平行・垂直な成分に分解し、さらに水平な張力をそれらの成分に分解する必要がある、より複雑なつり合い問題。
    • 壁に立てかけたはしごのつり合い: はしごにはたらく重力、床からの垂直抗力・摩擦力、壁からの垂直抗力のつり合いを考える問題。力のつり合いだけでなく、力のモーメントのつり合いも必要になることが多い。
    • ラミの定理の活用: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{F_3}\) がつりあっているとき、各力の大きさと、他の2つの力がなす角の正弦(サイン)との間には \(\displaystyle\frac{F_1}{\sin\theta_1} = \frac{F_2}{\sin\theta_2} = \frac{F_3}{\sin\theta_3}\) という関係が成り立つ。これを知っていると検算や、角度が複雑な問題で役立つことがある。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の図示: まず、注目物体(小球)にはたらく力を全て(重力、張力など)漏れなく図示する。
    2. 分解する力の選択: どの力を成分分解すれば計算が最も楽になるかを見極める。この問題では、重力\(\vec{W}\)と張力\(\vec{T_2}\)はすでに座標軸(鉛直・水平)上にあるため、斜めを向いた\(\vec{T_1}\)だけを分解するのが最も効率的です。
    3. 解法の選択:
      • 力が3つで、角度が \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) など綺麗な場合は、図形的な解法(別解)が使えないか検討する。
      • それ以外の場合や、自信がない場合は、迷わず成分分解による方法で解く。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力の分解における角度の取り違え:
    • 誤解: 図に示された\(60^\circ\)が、水平線となす角なのか、鉛直線となす角なのかを混同し、\(\sin\)と\(\cos\)を逆にしてしまう。
    • 対策: 必ず、分解したいベクトルを斜辺とする直角三角形を自分で描き、与えられた角度がどこに対応するのか(錯角や同位角の関係)を明確に図示する。「角度\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)成分」という原則を徹底する。
  • 連立方程式を解くと思い込む:
    • 誤解: 水平・鉛直の2つの式を立てた後、必ず連立方程式として解かなければならないと思い込み、遠回りな計算をしてしまう。
    • 対策: 式を立てた後、全体を眺めてみること。この問題のように、片方の式(鉛直方向)だけで未知数が1つに定まり、その結果をもう片方の式に代入するだけで解ける場合が多い。
  • 近似値計算のタイミング:
    • 誤解: 計算の早い段階で \(\sqrt{3} \approx 1.73\) を代入してしまい、計算が複雑になったり、誤差が大きくなったりする。
    • 対策: \(T_1 = 2\sqrt{3}\) のように、計算の途中ではルートや分数のまま計算を進めるのが基本。近似値の代入は、最終的な数値を求める最後の段階で行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
    • 選定理由: 問題文に「静止させた」と明記されているため。物理的に「加速度\(\vec{a}=0\)」の状態であり、ニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) から、合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) がゼロであることが導かれます。このベクトル方程式を、人間が計算できる2つのスカラー方程式に変換したものが、このつり合いの式です。
  • 力の合成とつり合い(別解):
    • 選定理由: 3つの力がつりあっているという状況を、別の視点から捉え直すため。 \(\vec{A}+\vec{B}+\vec{C}=0\) という式は、\(\vec{A}+\vec{B}=-\vec{C}\) と変形できます。これは「2つの力の合力が、残りの1つの力と大きさが等しく逆向きである」ことを意味し、この関係を利用することで、問題をより幾何学的に解くことができます。特に、力のなす角が直角になる場合などに有効な考え方です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角比の値の暗記: \(\sin60^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\cos60^\circ = 1/2\) といった基本的な三角比の値は、即座に、かつ正確に使えるようにしておくことが大前提です。
  • 分母の有理化: \(T_1 = 3.0 \times (2/\sqrt{3})\) の計算では、まず分母を有理化して \(2\sqrt{3}\) という形にしてから、\(\sqrt{3}\)の近似値を代入する方が、計算ミスが少なくなります。
  • 有効数字の意識: 問題で与えられている「重さ3.0N」は有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁にそろえる必要があります。\(3.46 \rightarrow 3.5\), \(1.73 \rightarrow 1.7\) のように、計算結果を適切に丸める処理を忘れないようにしましょう。
  • 物理的な妥当性の確認: 計算後、\(T_1\)(斜辺)がその成分である\(T_2\)(底辺)や\(W\)の成分(高さ)よりも大きくなっているか、といった基本的な大小関係が成り立っているかを確認するだけでも、大きなミスを発見できることがあります。

53 力のつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の斜め方向の力がはたらく力のつり合い」です。荷物が静止しているという状況から、荷物にはたらく3つの力(重力と2つの張力)のつり合いを考え、未知の張力の大きさを求めます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。これは、「水平方向の力の和=0」かつ「鉛直方向の力の和=0」という2つの式で表せます。
  2. 力の成分分解: 斜め方向の力(この問題では張力\(\vec{F_1}\)と\(\vec{F_2}\))を、計算しやすい水平・鉛直方向の成分に分解します。
  3. 三角関数の適用: 力を成分分解する際に、与えられた角度と三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を正しく用いる必要があります。
  4. 連立方程式の解法: 水平方向と鉛直方向のつり合いから得られる2つの式を、連立方程式として解く数学的なスキルが求められます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、荷物にはたらく3つの力を図示します。
  2. 次に、2つの張力\(\vec{F_1}\)と\(\vec{F_2}\)を、それぞれ水平成分と鉛直成分に分解します。
  3. 「水平方向の力のつり合い」と「鉛直方向の力のつり合い」の2つの式を立てます。
  4. 得られた連立方程式を解いて、未知の張力\(F_1\)と\(F_2\)を求めます。

思考の道筋とポイント
荷物にはたらく3つの力(重力\(\vec{W}\)、張力\(\vec{F_1}\)、張力\(\vec{F_2}\))がつりあっている状況です。2つの張力がどちらも斜め方向を向いているため、両方を水平成分と鉛直成分に分解する必要があります。それぞれの方向で力のつり合いの式を立てると、\(F_1\)と\(F_2\)を未知数とする連立方程式が得られます。これを解くことで、それぞれの張力の大きさを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
  • 水平方向の力の和 = 0、鉛直方向の力の和 = 0。
  • 与えられた角度(\(45^\circ, 30^\circ\))が「鉛直線」となす角であることに注意する。
  • 鉛直線とのなす角が\(\theta\)のとき、鉛直成分は\(\cos\theta\)、水平成分は\(\sin\theta\)を用いて表される。

具体的な解説と立式
荷物にはたらく力は、鉛直下向きの重力\(\vec{W}\)、ひも1が引く張力\(\vec{F_1}\)、ひも2が引く張力\(\vec{F_2}\)の3つです。
これらの力がつりあっているため、水平方向と鉛直方向でそれぞれ力の和がゼロになります。
各張力を水平・鉛直成分に分解します。問題の図より、角度は鉛直線とのなす角で与えられています。

  • \(\vec{F_1}\)の成分:
    • 水平成分: \(F_1\sin45^\circ\)(左向き)
    • 鉛直成分: \(F_1\cos45^\circ\)(上向き)
  • \(\vec{F_2}\)の成分:
    • 水平成分: \(F_2\sin30^\circ\)(右向き)
    • 鉛直成分: \(F_2\cos30^\circ\)(上向き)

力のつり合いの式を立てます。
水平方向(右向きを正)のつり合い:
$$ F_2\sin30^\circ – F_1\sin45^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
鉛直方向(上向きを正)のつり合い:
$$ F_1\cos45^\circ + F_2\cos30^\circ – W = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件: 各方向の力の成分の和は0
  • 力の成分分解
計算過程

式①と②に、具体的な三角比の値を代入します。
式①より:
$$
\begin{aligned}
F_2 \cdot \frac{1}{2} – F_1 \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} &= 0 \\[2.0ex]\frac{1}{2}F_2 &= \frac{1}{\sqrt{2}}F_1 \\[2.0ex]F_2 &= \sqrt{2}F_1 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
式②より:
$$ F_1 \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} + F_2 \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} – W = 0 \quad \cdots ④ $$
式③を式④に代入して、まず\(F_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\sqrt{2}}F_1 + (\sqrt{2}F_1) \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} – W &= 0 \\[2.0ex]\frac{1}{\sqrt{2}}F_1 + \frac{\sqrt{6}}{2}F_1 &= W \\[2.0ex]\left( \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{6}}{2} \right) F_1 &= W \\[2.0ex]\frac{\sqrt{2}+\sqrt{6}}{2} F_1 &= W \\[2.0ex]F_1 &= \frac{2}{\sqrt{6}+\sqrt{2}}W
\end{aligned}
$$
分母を有理化します。
$$
\begin{aligned}
F_1 &= \frac{2(\sqrt{6}-\sqrt{2})}{(\sqrt{6}+\sqrt{2})(\sqrt{6}-\sqrt{2})}W \\[2.0ex]&= \frac{2(\sqrt{6}-\sqrt{2})}{6-2}W \\[2.0ex]&= \frac{2(\sqrt{6}-\sqrt{2})}{4}W \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}W
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式③に代入して\(F_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
F_2 &= \sqrt{2} \left( \frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2} \right) W \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{12}-2}{2}W \\[2.0ex]&= \frac{2\sqrt{3}-2}{2}W \\[2.0ex]&= (\sqrt{3}-1)W
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

荷物が静止しているので、力がバランスしています。斜め上向きに働く2つの力\(F_1\)と\(F_2\)を、それぞれ「横向きの力」と「縦向きの力」に分解して考えます。
力のバランスは、以下の2つのルールで成り立っています。

  1. 「右向きの力の合計」と「左向きの力の合計」が等しい。
  2. 「上向きの力の合計」と「下向きの力(重さ\(W\))」が等しい。

この2つのルールを数式にすると、\(F_1\)と\(F_2\)についての連立方程式ができます。この連立方程式を、代入法などを使って丁寧に解いていくと、それぞれの力の大きさが\(W\)を使って表せます。

結論と吟味

各ひもが引く力の大きさは、\(F_1 = \displaystyle\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}W\)、\(F_2 = (\sqrt{3}-1)W\) となります。
水平方向のつり合いから \(F_2 \sin30^\circ = F_1 \sin45^\circ\)、すなわち \(\frac{1}{2}F_2 = \frac{1}{\sqrt{2}}F_1\) となり、\(F_2 = \sqrt{2}F_1 \approx 1.41 F_1\) の関係があります。これは、より鉛直に近い角度で引く\(F_2\)の方が、より水平に近い角度で引く\(F_1\)よりも大きな力でなければ、水平方向のつり合いが取れないことを意味します。
計算結果を近似値で比較すると、\(F_1 \approx \frac{2.45-1.41}{2}W = 0.52W\)、\(F_2 \approx (1.73-1)W = 0.73W\) となり、\(F_2 > F_1\) の関係が成り立っており、物理的に妥当です。

解答 \(F_1 = \displaystyle\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}W\), \(F_2 = (\sqrt{3}-1)W\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつり合いの条件(成分分解法):
    • 核心: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロである、という物理学の基本原則。この問題のように、複数の力が斜め方向にはたらく複雑な状況では、各力を「水平方向」と「鉛直方向」の成分に分解し、「水平方向の力の和がゼロ」「鉛直方向の力の和がゼロ」という2つの独立した式を立てて解くのが最も標準的で強力なアプローチです。
    • 理解のポイント: この方法は、ベクトルで表される力のつり合いの問題を、未知数が2つの連立一次方程式を解くという、純粋な代数の問題に変換する手続きです。
  • 力の成分分解における角度の正しい適用:
    • 核心: 力を成分分解する際、与えられた角度が「どの線を基準にした角か」を正確に読み取り、三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を正しく選択する能力。
    • 理解のポイント: この問題では、角度が「鉛直線」となす角として与えられています。この場合、
      • 鉛直成分(角度を挟む辺)は \(\cos\) を用いて \(F\cos\theta\)
      • 水平成分(角度の対辺)は \(\sin\) を用いて \(F\sin\theta\)

      となります。水平線とのなす角が与えられた場合とは、\(\sin\) と \(\cos\) の使い方が逆になることに注意が必要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 3つの力が一点で交わるつり合い問題全般: 糸で吊るした物体、3本のばねの連結点など、様々な状況に応用できます。
    • 構造物の静力学: 橋のトラス構造などで、各部材にはたらく力を計算する問題の基礎となります。
    • ラミの定理: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{W}\) がつりあっているとき、各力の大きさと、他の2つの力がなす角の正弦(サイン)との間には \(\displaystyle\frac{F_1}{\sin(180^\circ-30^\circ)} = \frac{F_2}{\sin(180^\circ-45^\circ)} = \frac{W}{\sin(45^\circ+30^\circ)}\) という関係が成り立ちます。これを使っても解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の図示と角度の書き込み: まず、物体にはたらく力をすべて図示します。次に、与えられた角度がどの線とどの線の間の角なのかを、分解用の補助線とともに正確に図に描き込みます。
    2. 座標軸の設定: 水平・鉛直方向をx, y軸とするのが最も一般的で間違いが少ないです。
    3. 連立方程式の立式: 水平方向と鉛直方向、それぞれについて力のつり合いの式を立てます。この時点では、まだ具体的な数値は代入せず、文字式のまま立てるのがセオリーです。
    4. 解法の戦略: 立てた2つの式を見て、どちらかの変数を消去しやすい形(例:\(F_1 = \dots F_2\))に一方の式を変形できないか検討します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 角度の基準の勘違い:
    • 誤解: 問題で与えられた角度(鉛直線とのなす角)を、水平線とのなす角だと勘違いして、\(\sin\)と\(\cos\)を逆にしてしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、与えられた角度がどこなのかを明確にマーキングする。「角度\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)」という原則に立ち返れば、基準が鉛直線であっても間違えることはありません。
  • 連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: ルート(\(\sqrt{2}, \sqrt{3}, \sqrt{6}\))が多数含まれる計算で、代入や展開、有理化の過程でミスをする。
    • 対策: 計算過程を省略せず、一行ずつ丁寧に書くこと。特に、分母の有理化(例:\(\sqrt{a}+\sqrt{b}\)の形には\(\sqrt{a}-\sqrt{b}\)を掛ける)は、落ち着いて正確に行う。
  • 符号のミス:
    • 誤解: 水平方向のつり合いの式を立てる際、左向きの力にマイナスをつけ忘れる。
    • 対策: 式を立てる前に、必ず「右向きを正」「上向きを正」のように、座標軸の正の向きを宣言し、それに従って各成分の符号を決定する習慣をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
    • 選定理由: 問題文に「荷物を…持って支える」とあり、荷物が「静止」している状態を扱っているため。物理学の基本法則であるニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) において、静止状態は加速度 \(\vec{a}=0\) の特別な場合です。これにより、合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) がゼロであることが保証されます。このベクトル方程式を、計算可能な2つのスカラー方程式(成分ごとの式)に変換したものが、このつり合いの式です。
  • 力の成分分解:
    • 選定理由: 2つの未知の力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}\) がどちらも斜めを向いており、ベクトルとして直接扱うのが困難なため。ベクトルを互いに直交する成分に分解することで、向きの問題を符号(+, -)で処理し、大きさの問題を代数方程式に帰着させることができます。これは、ベクトル演算における最も基本的かつ強力な手法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: \(F_1, F_2, W\) や \(\sin45^\circ, \cos30^\circ\) などの記号のまま、できるだけ計算を進め、最後の最後に具体的な数値を代入する方が、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
  • 分母の有理化をマスターする: \( \displaystyle\frac{2}{\sqrt{6}+\sqrt{2}} \) のような式の有理化は、物理計算で頻出します。\( (a+b)(a-b)=a^2-b^2 \) の公式を利用する手順を確実に身につけておきましょう。
  • 検算:
    • 代入による検算: 求めた \(F_1\) と \(F_2\) の式を、元のつり合いの式①と②の両方に代入し、矛盾なく成り立つかを確認する。
    • 近似値による検算: \(\sqrt{2}\approx 1.4, \sqrt{3}\approx 1.7, \sqrt{6}\approx 2.4\) などの概算値を使って、求めた力の大きさが物理的に妥当な範囲にあるか(極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか)を確認する。例えば、\(F_1\)と\(F_2\)の鉛直成分の和が、おおよそ\(W\)になるかを確認します。

54 斜面上の力のつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「なめらかな斜面上の力のつり合い」です。斜面上に置かれた物体が、糸で引き上げられて静止している状況を扱います。斜面上の問題を解くための基本手順である「力の分解」と「方向ごとのつり合い」を正しく適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。
  2. 座標軸の設定: 斜面上の問題では、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えると計算が簡単になります。
  3. 重力の成分分解: 鉛直下向きにはたらく重力を、上記で設定した座標軸の方向に分解します。
  4. なめらかな面: 「なめらか」という記述は、摩擦力がはたらかない(摩擦を無視してよい)ことを意味します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体にはたらく全ての力(重力、張力、垂直抗力)を図示します。
  2. 次に、重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解します。
  3. 「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」のそれぞれについて、力のつり合いの式を立てます。
  4. 立てた2つの式を解くことで、未知の張力\(T\)と垂直抗力\(N\)を求めます。

思考の道筋とポイント
なめらかな斜面上で、糸で引かれて静止している物体にはたらく張力\(T\)と垂直抗力\(N\)を求める問題です。「静止」していることから、物体にはたらく力はつりあっています。斜面上の問題の定石通り、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分けて考えます。この2つの方向は互いに独立しているので、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てれば、未知数を一つずつ求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
  • 斜面上の力のつり合いは、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」の2つの方向で考える。
  • 重力\(W\)を分解する:斜面に平行な成分は\(W\sin\theta\)、斜面に垂直な成分は\(W\cos\theta\)。
  • 「なめらか」なので、摩擦力は考えなくてよい。

具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、以下の3つです。

  1. 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)(大きさ \(W=20 \text{ N}\))
  2. 斜面に沿って上向きの張力 \(\vec{T}\)
  3. 斜面から垂直に押し返す垂直抗力 \(\vec{N}\)

これらの力がつりあっているため、斜面に平行な方向と垂直な方向で、それぞれ力の和がゼロになります。
まず、重力\(\vec{W}\)をこの2つの方向に分解します。斜面の傾斜角は \(\theta=45^\circ\) です。

  • 斜面に平行な成分:\(W\sin45^\circ\)(斜面下向き)
  • 斜面に垂直な成分:\(W\cos45^\circ\)(斜面を押す向き)

力のつり合いの式を立てます。
斜面に平行な方向のつり合い(斜面を上る向きを正とする):
張力\(T\)と、重力の滑り落ちようとする成分\(W\sin45^\circ\)がつりあっています。
$$ T – W\sin45^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
斜面に垂直な方向のつり合い(斜面から離れる向きを正とする):
垂直抗力\(N\)と、重力の斜面を押し付ける成分\(W\cos45^\circ\)がつりあっています。
$$ N – W\cos45^\circ = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
  • 重力の成分分解
計算過程

式①と②に、\(W=20 \text{ N}\) と三角比の値を代入して、\(T\)と\(N\)をそれぞれ求めます。
張力\(T\)の計算:
式①より、
$$
\begin{aligned}
T &= W\sin45^\circ \\[2.0ex]&= 20 \times \frac{\sqrt{2}}{2} \\[2.0ex]&= 10\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &\approx 10 \times 1.41 \\[2.0ex]&= 14.1 \approx 14 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
垂直抗力\(N\)の計算:
式②より、
$$
\begin{aligned}
N &= W\cos45^\circ \\[2.0ex]&= 20 \times \frac{\sqrt{2}}{2} \\[2.0ex]&= 10\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
N &\approx 10 \times 1.41 \\[2.0ex]&= 14.1 \approx 14 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体が斜面上で静止しているので、力がバランスしています。このバランスを「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」の2つに分けて考えます。

  1. 斜面に沿う方向: 物体は重力によって滑り落ちようとしますが、糸がそれを引き上げています。この「滑り落ちようとする力」は重力の一部で、\(20 \times \sin45^\circ\)で計算できます。糸の張力\(T\)は、これとちょうどつりあっています。
  2. 斜面に垂直な方向: 物体は重力によって斜面を押し付けていますが、斜面がそれを支え返しています。この「斜面を押し付ける力」も重力の一部で、\(20 \times \cos45^\circ\)で計算できます。垂直抗力\(N\)は、これとちょうどつりあっています。

\(\sin45^\circ\)と\(\cos45^\circ\)は同じ値なので、\(T\)と\(N\)も同じ大きさになります。

結論と吟味

張力の大きさは \(T \approx 14 \text{ N}\)、垂直抗力の大きさは \(N \approx 14 \text{ N}\) となります。
傾斜角が\(45^\circ\)の場合、重力の斜面平行成分と垂直成分の大きさが等しくなるため、それらとつりあう張力と垂直抗力の大きさも等しくなります。この結果は物理的に妥当です。

解答 \(T=14 \text{ N}\), \(N=14 \text{ N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 斜面上の力のつり合い:
    • 核心: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになる、という「力のつり合い」の法則を、斜面という状況で適用することがこの問題の全てです。
    • 理解のポイント:
      • 座標軸の選択が鍵: 斜面の問題では、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解するのが定石です。この2つの方向は互いに独立しているため、それぞれの方向で別々につり合いの式を立てることができます。
      • 重力の成分分解: この座標軸を選択した結果、鉛直下向きの重力を「斜面を滑り落ちさせようとする力(\(W\sin\theta\))」と「斜面を垂直に押す力(\(W\cos\theta\))」に分解する必要が生じます。この分解が正確にできることが、問題を解くための必須スキルです。
  • 問題文のキーワード読解:
    • 核心: 「静止させる」「なめらか」といった物理用語を、物理的な条件に正しく翻訳する能力。
    • 理解のポイント:
      • 「静止」\(\rightarrow\) 力がつりあっている(合力がゼロ)。
      • 「なめらか」\(\rightarrow\) 摩擦力がはたらかない(摩擦を無視できる)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面: 「なめらか」でない場合、物体には摩擦力がはたらきます。
      • 糸で引いて静止 \(\rightarrow\) 張力と静止摩擦力が協力して、重力の平行成分とつり合います。
      • ただ置かれて静止 \(\rightarrow\) 静止摩擦力が単独で、重力の平行成分とつり合います。
    • 斜面上の運動: 物体が静止せず、一定の加速度で運動している場合。力のつり合いの式ではなく、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。各方向にはたらく力の合力が、その方向の加速度を生み出します。
    • 引く力が斜めの場合: 糸で引く力が斜面に平行ではなく、さらに角度がついている場合。その張力も「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解する必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動状態の確認: まず、物体が「静止」しているか「運動」しているかを確認し、「力のつり合い」か「運動方程式」か、立てるべき式の種類を判断します。
    2. 力の全図示: 物体にはたらく力を、重力、張力、垂直抗力、摩擦力(この問題では無い)など、漏れなく全て描き込みます。
    3. 座標軸の設定と力の分解: 迷わず「斜面に平行・垂直」に座標軸を設定し、軸に対して斜めを向いている力(通常は重力)を全て成分分解します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 重力分解のsinとcosの混同:
    • 誤解: 斜面に平行な成分を\(W\cos\theta\)、垂直な成分を\(W\sin\theta\)と逆にしてしまう、最も典型的なミス。
    • 対策: 分解してできる直角三角形において、斜面の角度\(\theta\)は、重力ベクトルと「斜面に垂直な線」との間の角に等しくなります。この角\(\theta\)を挟む辺が「隣辺」なので\(\cos\theta\)成分(垂直成分)、向かい合う辺が「対辺」なので\(\sin\theta\)成分(平行成分)と、図形的に理解するのが最も確実です。
  • 垂直抗力 \(N=W\) という思い込み:
    • 誤解: 水平な床に物体を置いたときの癖で、垂直抗力の大きさを常に重力と同じ\(W\)だと考えてしまう。
    • 対策: 垂直抗力は、あくまで「面を垂直に押す力」とつり合う力です。斜面の場合、面を垂直に押す力は重力そのものではなく、重力の垂直成分 \(W\cos\theta\) です。したがって、\(N=W\cos\theta\) となります。
  • 重さ(N)と質量(kg)の混同:
    • 誤解: この問題では「重さ20N」と直接与えられていますが、もし「質量20kg」と与えられた場合に、重力加速度\(g\)を掛け忘れてしまう。
    • 対策: 単位を常に意識すること。力の単位は[N]、質量の単位は[kg]です。問題で与えられたのがどちらなのかを最初に確認し、質量であれば \(W=mg\) の計算を必ず行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式 (\(T – W\sin45^\circ = 0\), etc.):
    • 選定理由: 問題文に「静止させる」とあるため、物体の加速度はゼロです。ニュートンの運動法則 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) に \(\vec{a}=0\) を代入すると、合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) がゼロでなければならない、という物理法則が導かれます。このベクトル方程式を、計算可能な2つの独立した方向(斜面に平行・垂直)のスカラー方程式に書き直したものが、これらのつり合いの式です。
  • 重力の成分分解 (\(W\sin\theta, W\cos\theta\)):
    • 選定理由: 力のつり合いを考える際、ベクトルをそのまま扱うのは困難です。そこで、計算を容易にするために、全ての力を設定した座標軸の方向に分解します。この問題では、張力\(T\)と垂直抗力\(N\)がすでに座標軸の方向を向いているため、重力\(W\)だけを分解すれば、全ての力を軸方向の成分で表現できます。これは、ベクトル問題を代数問題に変換するための数学的な手続きです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角比の値の正確さ: \(\sin45^\circ = \cos45^\circ = \frac{\sqrt{2}}{2}\) (\( \approx 0.707\)) という値を正確に覚えておくこと。
  • 近似値の計算: \(10\sqrt{2}\) の計算では、問題文で特に指定がなければ \(\sqrt{2}=1.41\) や \(\sqrt{2}=1.414\) を使って計算します。計算結果の有効数字は、問題で与えられた数値(この場合は「20N」の2桁)に合わせるのが一般的です。\(10 \times 1.41 = 14.1\) を四捨五入して \(14 \text{ N}\) とします。
  • 辺の比の利用(別解・検算): 傾斜角が\(45^\circ\)なので、重力\(W\)を斜辺とする直角三角形の他の2辺が、平行成分と垂直成分になります。この三角形は辺の比が \(1:1:\sqrt{2}\) の直角二等辺三角形になります。したがって、平行成分 = 垂直成分 = \(W \times \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{W\sqrt{2}}{2}\) と、比を使って計算することもできます。

55 斜面上のつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜面上の力のつり合いと、状況に応じた座標軸の選び方」です。同じ斜面上のつり合い問題でも、加える力の向きによって、計算が楽になる座標軸の取り方が異なることを学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。
  2. 力の成分分解: 座標軸に対して斜めを向いている力を、軸の方向の成分に分解します。
  3. 座標軸設定の戦略: 計算を簡単にするためには、分解する力の数が最も少なくなるように座標軸を選ぶのがセオリーです。
  4. 三角比の正しい利用: 力を成分分解する際に、角度と三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を正しく用いる必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、加える力と垂直抗力が「斜面に平行・垂直」な方向を向いているため、この方向に座標軸を設定し、「重力」を分解して力のつり合いを考えます。
  2. (2)では、加える力と重力が「水平・鉛直」な方向を向いているため、この方向に座標軸を設定し、「垂直抗力」を分解して力のつり合いを考えます。

問(1) 斜面に平行な力を加えた場合

思考の道筋とポイント
物体に斜面と平行な力\(\vec{F}\)を加えて静止させる状況です。この場合、物体にはたらく3つの力(重力、垂直抗力、力\(\vec{F}\))のうち、垂直抗力\(\vec{N}\)と力\(\vec{F}\)が「斜面に平行」または「斜面に垂直」な方向を向いています。したがって、座標軸をこの方向に合わせるのが最も効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 斜面上の問題の定石通り、斜面に平行・垂直な方向に座標軸を設定する。
  • 座標軸に対して斜めを向いている「重力」を、斜面平行成分と垂直成分に分解する。
  • それぞれの方向で力のつり合いの式を立てる。

具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、鉛直下向きの重力(大きさ\(mg\))、斜面からの垂直抗力\(\vec{N}\)、斜面に沿って上向きに加えられた力\(\vec{F}\)の3つです。
座標軸を、斜面に沿って上向きにx軸、斜面に垂直で上向きにy軸と設定します。
この座標軸に合わせて、重力\(\vec{W}\)(大きさ\(mg\))を分解します。

  • x成分(斜面平行成分): \(mg\sin30^\circ\)(x軸負の向き)
  • y成分(斜面垂直成分): \(mg\cos30^\circ\)(y軸負の向き)

力のつり合いの式を立てます。
x軸方向のつり合い:
$$ F – mg\sin30^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
y軸方向のつり合い:
$$ N – mg\cos30^\circ = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
  • 重力の成分分解
計算過程

式①より、力\(F\)の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
F &= mg\sin30^\circ \\[2.0ex]&= mg \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}mg \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
式②より、垂直抗力\(N\)の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos30^\circ \\[2.0ex]&= mg \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{3}}{2}mg \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体が静止しているので、力がバランスしています。このバランスを「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」に分けて考えます。

  1. 斜面に沿う方向:物体が重力で滑り落ちようとする力(\(mg\sin30^\circ\))と、加えた力\(F\)がちょうどつりあっています。
  2. 斜面に垂直な方向:物体が重力で斜面を押し付ける力(\(mg\cos30^\circ\))と、斜面が押し返す垂直抗力\(N\)がちょうどつりあっています。

この2つの関係から、それぞれの力の大きさを計算します。

結論と吟味

加えた力の大きさは \(F=\frac{1}{2}mg\)、垂直抗力の大きさは \(N=\frac{\sqrt{3}}{2}mg\) となります。分解する力が重力1つだけで済むため、計算が非常にシンプルになります。

解答 (1) 図: 重力(鉛直下向き)、垂直抗力(斜面に垂直上向き)、加えた力(斜面に平行上向き)の3力。力の大きさ: 重力 \(mg\), 加えた力 \(\frac{1}{2}mg\), 垂直抗力 \(\frac{\sqrt{3}}{2}mg\)。

問(2) 水平方向の力を加えた場合

思考の道筋とポイント
今度は、物体に水平方向の力\(\vec{F}\)を加えて静止させる状況です。この場合、物体にはたらく3つの力のうち、重力\(\vec{W}\)と力\(\vec{F}\)が「水平」または「鉛直」な方向を向いています。したがって、座標軸を水平・鉛直方向に合わせるのが最も効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 問題の状況に合わせて、最も計算が楽になる座標軸を選ぶ。今回は水平・鉛直方向が最適。
  • 座標軸に対して斜めを向いている「垂直抗力」を、水平成分と鉛直成分に分解する。
  • 図形の性質から、垂直抗力が鉛直線となす角が、斜面の傾斜角\(30^\circ\)に等しいことを見抜く。

具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、鉛直下向きの重力(大きさ\(mg\))、斜面からの垂直抗力\(\vec{N}\)、水平方向に加えられた力\(\vec{F}\)の3つです。
座標軸を、水平右向きにx軸、鉛直上向きにy軸と設定します。
この座標軸に合わせて、斜めを向いている垂直抗力\(\vec{N}\)を分解します。
斜面が水平線となす角が\(30^\circ\)なので、斜面に垂直な線(垂直抗力の向き)が鉛直線となす角も\(30^\circ\)になります。

  • x成分(水平成分): \(N\sin30^\circ\)(x軸負の向き)
  • y成分(鉛直成分): \(N\cos30^\circ\)(y軸正の向き)

力のつり合いの式を立てます。
x軸方向のつり合い:
$$ F – N\sin30^\circ = 0 \quad \cdots ③ $$
y軸方向のつり合い:
$$ N\cos30^\circ – mg = 0 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
  • 力の成分分解
計算過程

まず、未知数が\(N\)のみである式④から、垂直抗力\(N\)の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
N\cos30^\circ &= mg \\[2.0ex]N \times \frac{\sqrt{3}}{2} &= mg \\[2.0ex]N &= \frac{2}{\sqrt{3}}mg = \frac{2\sqrt{3}}{3}mg \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に、求めた\(N\)の値を式③に代入して、力\(F\)の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
F &= N\sin30^\circ \\[2.0ex]&= \left( \frac{2\sqrt{3}}{3}mg \right) \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{3}}{3}mg \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)とは違い、今回は力のバランスを「水平方向」と「鉛直方向」に分けて考えます。

  1. 鉛直方向:斜面が物体を押し上げる力(垂直抗力)の「上向き成分」が、物体の重力\(mg\)とちょうどつりあっています。この関係から、まず垂直抗力\(N\)全体の大きさがわかります。
  2. 水平方向:あなたが加えた力\(F\)と、垂直抗力の「左向き成分」がちょうどつりあっています。先ほど求めた\(N\)の大きさを使って、\(F\)の大きさを計算します。
結論と吟味

加えた力の大きさは \(F=\frac{\sqrt{3}}{3}mg\)、垂直抗力の大きさは \(N=\frac{2\sqrt{3}}{3}mg\) となります。(1)の場合とは異なる結果になりました。これは、力の加え方が変わったためです。状況に応じて最適な座標軸を選ぶことで、複雑に見える問題もシンプルに解けることがわかります。

解答 (2) 図: 重力(鉛直下向き)、垂直抗力(斜面に垂直上向き)、加えた力(水平右向き)の3力。力の大きさ: 重力 \(mg\), 加えた力 \(\frac{\sqrt{3}}{3}mg\), 垂直抗力 \(\frac{2\sqrt{3}}{3}mg\)。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつり合いと座標軸設定の戦略:
    • 核心: この問題の最も重要な学習ポイントは、単に力のつり合いを解くことだけでなく、「状況に応じて最も計算が楽になる座標軸を戦略的に選ぶ」という思考プロセスにあります。物理法則を適用する前の、問題解決の設計段階が問われています。
    • 理解のポイント:
      • 原則: 分解しなければならない力の数が最も少なくなるように座標軸を選ぶ。
      • (1)のケース: 加えた力\(\vec{F}\)と垂直抗力\(\vec{N}\)が「斜面に平行・垂直」なので、この方向に座標軸をとるのが最適です。分解する力は「重力」の1つだけで済みます。
      • (2)のケース: 加えた力\(\vec{F}\)と重力\(\vec{W}\)が「水平・鉛直」なので、この方向に座標軸をとるのが最適です。分解する力は「垂直抗力」の1つだけで済みます。
  • 力の成分分解:
    • 核心: 選択した座標軸に対して斜めを向いている力を、軸方向の2つの成分に正しく分解する技術。
    • 理解のポイント: どのベクトルを分解するかが、座標軸の選び方によって変わります。しかし、どのベクトルを分解するにしても、角度と三角関数(\(\sin, \cos\))の関係を正確に適用するという基本操作は同じです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面: 摩擦力が加わっても、座標軸設定の戦略は同じです。(1)のケースでは、静止摩擦力はx軸(斜面平行方向)にはたらきます。(2)のケースでは、静止摩擦力(斜面平行方向)を、水平・鉛直成分に分解する必要があります。
    • 円錐振り子: 回転運動の問題ですが、おもりにはたらく張力と重力がつりあっている(向心力との関係で)と考えます。このときも、水平・鉛直方向に座標軸をとり、張力を分解するのが定石です。
    • 電場中の荷電粒子のつり合い: 一様な電場の中で、糸につるされた荷電粒子が静止する問題。重力(鉛直)、静電気力(水平または斜め)、張力(斜め)のつり合いを考えます。これも座標軸の選び方が重要になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まず、はたらく力を全て図示する: どんな問題でも、これが第一歩です。
    2. 力の向きを観察する: 描き出した力のベクトルを見て、「どの方向にそろっている力が多いか」を観察します。
    3. 最適な座標軸を決定する: 「斜面に平行・垂直」と「水平・鉛直」の2つの選択肢を頭に置き、分解する力が最も少なくなる方を選びます。
    4. 分解に必要な角度を特定する: 選択した座標軸に対して、分解するベクトルがなす角度を、図形の性質(錯角、同位角など)を使って慎重に求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 座標軸設定の固定観念:
    • 誤解: 「斜面の問題は、常に斜面に平行・垂直な軸で解くものだ」と思い込み、(2)のケースで重力と加えた力の両方を分解してしまい、計算が非常に複雑になる。
    • 対策: 座標軸は「問題に合わせて自分が設定するもの」という意識を持つこと。「斜面だからこう」と暗記するのではなく、「この状況なら、どの軸が一番楽か?」と毎回考える癖をつける。
  • 垂直抗力の分解における角度ミス:
    • 誤解: (2)で垂直抗力\(\vec{N}\)を分解する際、水平・鉛直成分と\(\vec{N}\)がなす角を\(30^\circ\)とすべきところを、\(60^\circ\)と勘違いする。
    • 対策: 必ず大きな図を描き、補助線(鉛直線や水平線)を引いて角度の関係を丁寧に確認する。「斜面と水平線のなす角」と「斜面に垂直な線と鉛直線のなす角」は等しくなる、という幾何学的な事実をしっかり理解しておく。
  • 計算結果の混同:
    • 誤解: (1)で求めた垂直抗力と、(2)で求めた垂直抗力が違う値になることに戸惑う。
    • 対策: 垂直抗力は、物体が面を押す力に応じて変化する「受動的な力」であると理解すること。力の加え方が変われば、物体が面を押す力も変わるため、垂直抗力の大きさが変わるのは当然です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
    • 選定理由: 問題文に「静止させた」とあるため、物体の加速度はゼロです。ニュートンの運動法則 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) は、この特別な場合には \(\vec{F}_{\text{合力}}=0\) となります。この物理法則を、計算可能なスカラー方程式に変換したものが、力のつり合いの式です。
  • 座標軸の選択という「戦略」:
    • 選定理由: これは物理公式ではありませんが、問題を解く上での「思考法」です。物理法則は一つでも、それをどの視点(座標系)から見るかによって、式の形や計算の複雑さが大きく変わります。物理学では、対称性や状況の特殊性を利用して、最も見通しの良い視点を選ぶことが、問題解決能力の重要な要素となります。この問題は、その思考法を学ぶための絶好の例です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図を2種類描いてみる: もし座標軸の選択に迷ったら、(2)の問題について「斜面に平行・垂直な軸」と「水平・鉛直な軸」の両方で力を分解する図を描いてみましょう。どちらの計算が大変になるか一目瞭然となり、最適な座標軸を選ぶことの重要性が実感できます。
  • 文字式のまま整理する: 連立方程式を解く際は、\(\sin30^\circ\)や\(\cos30^\circ\)をすぐに\(1/2\)や\(\sqrt{3}/2\)に直さず、まずは文字のまま式を整理してから代入する方が、全体の見通しが立ちやすくなります。
  • 分母の有理化: \(\frac{2}{\sqrt{3}}\)のような形が出てきたら、すぐに\(\frac{2\sqrt{3}}{3}\)と有理化する癖をつけましょう。計算の途中で分母にルートが残っていると、後の計算が複雑になりがちです。

56 滑車を含むつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「滑車を含む複数物体の力のつり合い」です。複数の物体がひもで連結されている系全体のつり合いを考えます。物体を個別に考える方法と、複数の物体を一体とみなす方法の両方を理解することが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 静止している物体(または物体群)にはたらく力の合力はゼロになります。
  2. 張力の性質: 軽くて伸びないひもの張力は、ひものどの部分でも同じ大きさです。また、滑車が軽くなめらかであれば、滑車の両側でひもの張力の大きさは変わりません。
  3. 一体とみなす考え方: 連結されて一体となって運動(または静止)する複数の物体は、合計の質量を持つ1つの物体とみなして考えることができます。
  4. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに同じ大きさで逆向きの力を及ぼします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、系全体が静止していることから、各物体にはたらく力がつりあっていることを確認します。
  2. 物体BとCを質量\(2m\)の1つの物体(物体BC)とみなします。
  3. 物体Aと物体BCのそれぞれについて、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。
  4. 得られた2つの式を連立させて解くことで、未知の張力\(T\)を求めます。

張力Tの大きさを求める

思考の道筋とポイント
物体Aを引くひもの張力\(T\)を求める問題です。この系には3つの物体がありますが、物体BとCはひもで連結され、一体となって振る舞います。そこで、BとCを合わせて質量\(2m\)の1つの物体とみなすと、問題が「滑車を介して質量\(m\)の物体Aと質量\(2m\)の物体BCがつりあっている」という、より単純な構造に還元されます。
それぞれの物体について力のつり合いの式を立てることで、未知の張力\(T\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 物体BとCを、質量\(2m\)の1つの物体とみなす。
  • 滑車の両側にかかるひもの張力は等しい。この張力を\(S\)とおく。
  • 物体Aと、物体BCのそれぞれについて、力のつり合いの式を立てる。

具体的な解説と立式
物体BとCを一体とみなし、質量\(2m\)の物体BCとします。
滑車にかかるひもの張力を\(S\)とします。滑車は軽くなめらかなので、ひもの両端で張力の大きさは等しく\(S\)となります。
次に、物体Aと物体BCのそれぞれに着目し、力のつり合いの式を立てます。

物体Aについて(鉛直上向きを正とする):
物体Aには、上向きにひもの張力\(S\)、下向きに重力\(mg\)と手で引く張力\(T\)がはたらいています。これらの力がつりあっているので、
$$ S – mg – T = 0 \quad \cdots ① $$

物体BCについて(鉛直上向きを正とする):
物体BCには、上向きにひもの張力\(S\)、下向きに合計の重力\(2mg\)がはたらいています。これらの力がつりあっているので、
$$ S – 2mg = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
  • 重力: \(W=mg\)
計算過程

未知数が\(S\)と\(T\)の連立方程式①、②を解きます。
まず、式②から\(S\)の大きさが求まります。
$$
\begin{aligned}
S &= 2mg
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式①に代入して\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
(2mg) – mg – T &= 0 \\[2.0ex]mg – T &= 0 \\[2.0ex]T &= mg
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は、滑車を挟んだ「つなひき」のようなものです。
左側には、物体BとCがぶら下がっているので、下向きに合計\(2mg\)の力ではたらいています。これらが静止しているということは、上のひもが上向きに\(S=2mg\)の力で支えていることを意味します。
滑車の右側でも、ひもは同じ力\(S=2mg\)で物体Aを上に引いています。
一方、物体A自体は下向きに重力\(mg\)ではたらいています。全体が静止するためには、上向きの力と下向きの力がつりあわなければなりません。
物体Aについて見ると、上向きの力はひもの張力\(S=2mg\)、下向きの力は「物体Aの重力\(mg\)」と「手が引く力\(T\)」の合計です。
したがって、「\(2mg = mg + T\)」というつり合いの式が成り立ちます。これを解くと、\(T=mg\)となります。

結論と吟味

物体Aを鉛直下向きに引くひもの張力の大きさは\(T=mg\)です。
直感的に考えると、左側が\(2m\)、右側が\(m\)なので、何もしなければ左側が下がり、右側が上がってしまいます。これを静止させるためには、右側に足りない分の重さ、つまり\(m\)に相当する重力\(mg\)と同じ大きさの力で下に引いてあげる必要がある、と解釈でき、結果は物理的に妥当です。

解答 \(mg\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつり合い:
    • 核心: 「静止」している物体や物体群にはたらく力の合力はゼロである、という物理学の基本原則。この問題では、滑車の両側にある物体(群)それぞれについて、鉛直方向の力のつり合いを考えます。
    • 理解のポイント: どんなに複雑に見える系でも、静止していれば、注目する部分ごとに「上向きの力の合計」と「下向きの力の合計」が等しくなっている、という単純な法則が成り立ちます。
  • 一体とみなす考え方:
    • 核心: 連結されて同じ運動(この場合は静止)をする複数の物体は、合計の質量を持つ1つの物体として扱うことができる、という問題解決のための重要なテクニック。
    • 理解のポイント: 物体BとCはひもでつながっており、バラバラに動くことはありません。したがって、BとCの間にはたらく力(内力)を無視して、BとCを質量\(2m\)の1つの物体「BC」とみなすことで、考えるべき物体の数が減り、問題が大幅に単純化されます。
  • 滑車の性質:
    • 核心: 「軽くてなめらかな滑車」は、力の向きを変えるだけで、ひもの張力の大きさは変えない、という理想的な滑車の性質。
    • 理解のポイント: これにより、物体Aを上に引く張力と、物体BCを上に引く張力の大きさが等しい(\(S\)とおける)ことが保証され、連立方程式を立てることが可能になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 運動している場合(運動方程式): 静止ではなく、物体が一定の加速度で運動している場合。各物体(または一体とみなした物体)について、力のつり合いの式ではなく、運動方程式 \(ma=F_{\text{合力}}\) を立てます。例えば、手を離した後の全体の加速度を求める問題などです。
    • 斜面上の滑車: 片方または両方の物体が斜面上にある場合。力のつり合い(または運動方程式)を、斜面に平行・垂直な方向に分けて考える必要があります。
    • 動滑車: 滑車自体が動く場合。動滑車を吊るしているひもの張力は、動滑車にかかっているひもの張力の2倍になります。このような力の関係性の違いに注意が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系をどう見るか判断する: まず、全体を一体として見るか、各物体を個別に見ていくかを判断します。物体間の力(内力)が問われていなければ、一体と見る方が楽なことが多いです。
    2. 張力の関係を整理する: どのひもとどのひもの張力が等しいかを明確にします。「一本の軽いひもは、どこでも張力が同じ」「軽くなめらかな滑車は張力の大きさを変えない」という原則を適用し、同じ大きさの張力には同じ記号(例:\(S\))を割り当てます。
    3. 注目する物体ごとに力を図示する: 注目する対象(物体A、物体BCなど)を決め、それぞれにはたらく力(重力、張力など)を漏れなく描き出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 一体とみなす際の質量の取り違え:
    • 誤解: 物体BとCを一体とみなす際に、質量を\(m\)のままにしてしまう。
    • 対策: 「一体とみなす」とは、質量も足し合わせることだと明確に意識する。物体BCの質量は \(m_B + m_C = m + m = 2m\) です。
  • 張力を全ての物体で同じとしてしまう:
    • 誤解: 滑車にかかるひもの張力\(S\)と、手で引くひもの張力\(T\)を同じものだと混同する。
    • 対策: ひもが異なれば、張力も異なる可能性があると考えること。張力は、そのひもがどの物体とどの物体をつないでいるかで決まります。必ず異なる記号(\(S, T\)など)を割り当てて区別する。
  • 物体Aにはたらく力を見落とす:
    • 誤解: 物体Aのつり合いを考える際に、上向きの張力\(S\)と下向きの張力\(T\)だけで式を立ててしまい、物体A自身の重力\(mg\)を忘れる。
    • 対策: どんな物体についても、力のつり合いを考える際は「1. 重力」「2. 接触力(張力など)」という手順を必ず踏むこと。物体Aにも質量があるので、必ず重力がはたらきます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式 (\(S-2mg=0\), etc.):
    • 選定理由: 問題文に「静止させた」とあるため。これは物理的に加速度がゼロの状態を意味し、ニュートンの運動法則 \(m\vec{a}=\vec{F}_{\text{合力}}\) から、合力がゼロであることが導かれます。この物理法則を、各物体(または物体群)について、鉛直方向の力の関係として数式化したものがつり合いの式です。
  • 一体とみなす考え方:
    • 選定理由: これは物理公式ではありませんが、問題を効率的に解くための「思考のショートカット」です。物体BとCは、常に一体となって動く(または静止する)運命共同体です。したがって、BとCの間にはたらく内力(互いに及ぼし合う張力)を考えなくても、系全体の運動(または静止)は記述できます。この内力を無視して、系に作用する「外力」のみに着目することで、立式が簡単になるため、この思考法を選択します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算する: この問題は最初から文字式ですが、具体的な数値が与えられていても、まずは文字のまま\(T=mg\)という関係を導き出す方が、物理的な意味が分かりやすく、計算ミスも減ります。
  • 連立方程式の解法:
    • 対策: 式② (\(S-2mg=0\)) のように、未知数が1つしか含まれていない式から先に解くのがセオリーです。これにより\(S=2mg\)が確定し、それを式①に代入するだけで簡単に\(T\)が求まります。2つの式を複雑に足したり引いたりする必要はありません。
  • 物理的な直感との照らし合わせ:
    • 対策: 計算結果が出たら、それが直感的に正しいか吟味する。左側には\(2m\)の質量、右側には\(m\)の質量がある。このままでは左が下がる。つり合わせるためには、右側に\(m\)の質量を追加するのと同じ効果、つまり\(mg\)の力で下に引く必要がある。計算結果\(T=mg\)はこの直感と一致しており、答えが妥当であると確認できます。

57 動滑車を含むつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「定滑車と動滑車を含む力のつり合い」です。複数の物体と滑車が組み合わさった系において、それぞれの要素に着目して力のつり合いの式を立て、未知の力を順に解き明かしていく問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 静止している各物体(小球A, B, 動滑車)にはたらく力の合力はゼロになります。
  2. 張力の性質:
    • 一本の軽いひもでは、張力の大きさはどこでも等しい。
    • 軽くてなめらかな定滑車は、力の向きを変えるだけで張力の大きさは変えません。
  3. 動滑車の性質: 軽い動滑車にはたらく力のつり合いを考えることで、動滑車にかかる複数のひもの張力の関係を導き出します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、最も単純な部分である小球Aに着目し、その力のつり合いから糸1の張力\(T_1\)を求めます。
  2. (2)では、次に動滑車に着目します。動滑車には糸1が2か所で、糸2が1か所で接続されており、これらの張力がつりあっていることから、糸2の張力\(T_2\)を求めます。
  3. (3)では、最後に小球Bに着目し、その力のつり合いから、外部から加えた力\(F\)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
糸1の張力の大きさ\(T_1\)を求める問題です。複雑な系全体を一度に考えるのではなく、最も単純で情報がそろっている部分から解き始めるのがセオリーです。この問題では、小球Aが最も単純な部分にあたります。小球Aは、糸1と重力のみを受けて静止しているため、その力のつり合いから\(T_1\)を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 複数の物体が連動する問題では、個々の物体に注目して、それぞれ力のつり合いを考える。
  • 小球Aにはたらく力は、上向きの張力\(T_1\)と下向きの重力\(Mg\)の2つのみ。

具体的な解説と立式
小球A(質量\(M\))に着目します。小球Aにはたらく力は以下の2つです。

  1. 鉛直上向きの糸1の張力 \(\vec{T_1}\)
  2. 鉛直下向きの重力 \(\vec{W_A}\)(大きさ \(Mg\))

小球Aは静止しているので、これらの力はつりあっています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は、
$$ T_1 – Mg = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
  • 重力: \(W=Mg\)
計算過程

上記の式を\(T_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= Mg \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、一番左にぶら下がっている小球Aだけを見ます。この小球Aは、糸1に上に引っ張られ、地球に下に引っ張られて(重力)、静止しています。力がつりあっているので、「糸1が引く力\(T_1\)」と「Aの重力\(Mg\)」は同じ大きさになります。

結論と吟味

糸1の張力の大きさは\(T_1=Mg\)です。これは、質量\(M\)の物体を一本の糸でつるしたときの張力として、基本的な結果であり妥当です。

解答 (1) \(Mg\) [N]

問(2)

思考の道筋とポイント
糸2の張力の大きさ\(T_2\)を求める問題です。糸2は動滑車につながっています。したがって、今度は「動滑車」自体にはたらく力のつり合いを考えます。動滑車には、上向きに糸1が2本、下向きに糸2が1本接続されていると見なせます。
この設問における重要なポイント

  • 質量が無視できる動滑車にはたらく力の合力もゼロである。
  • 糸1は一本でつながっており、定滑車を経由しているだけなので、動滑車を上に引く2本のひもの張力はどちらも(1)で求めた\(T_1\)に等しい。

具体的な解説と立式
動滑車に着目します。糸と滑車の質量は無視できるので、動滑車自体の重力は考えません。動滑車にはたらく力は以下の通りです。

  1. 鉛直上向きの糸1の張力 \(\vec{T_1}\)(左側)
  2. 鉛直上向きの糸1の張力 \(\vec{T_1}\)(右側)
  3. 鉛直下向きの糸2の張力 \(\vec{T_2}\)

動滑車は静止しているので、これらの力はつりあっています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は、
$$ T_1 + T_1 – T_2 = 0 $$
$$ 2T_1 – T_2 = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
計算過程

上記の式を\(T_2\)について解き、(1)で求めた\(T_1=Mg\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_2 &= 2T_1 \\[2.0ex]&= 2Mg \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

次に、真ん中の動滑車に注目します。この滑車は、上向きに2本の「糸1」で引かれ、下向きに1本の「糸2」で引かれて静止しています。力がつりあっているので、「上向きの力の合計 = 下向きの力」となります。
糸1の力は(1)で\(Mg\)とわかったので、上向きの力は合計で \(Mg + Mg = 2Mg\) です。
したがって、下向きに引く糸2の力\(T_2\)もこれと等しく、\(T_2 = 2Mg\)となります。

結論と吟味

糸2の張力の大きさは\(T_2=2Mg\)です。動滑車には、2本の糸で力を加えることで、1本の糸で引く力の2倍の張力を生み出す効果があることがわかります。これは動滑車の基本的な性質であり、結果は妥当です。

解答 (2) \(2Mg\) [N]

問(3)

思考の道筋とポイント
小球Bに加えた力の大きさ\(F\)を求める問題です。\(T_1, T_2\)が求まったので、最後に「小球B」にはたらく力のつり合いを考えます。小球Bには、上向きに糸2の張力、下向きに重力と加えた力\(F\)がはたらいています。
この設問における重要なポイント

  • 小球Bにはたらく力は、上向きの張力\(T_2\)、下向きの重力\(mg\)、そして下向きに加えられた力\(F\)の3つである。
  • これらの力がつりあっている。

具体的な解説と立式
小球B(質量\(m\))に着目します。小球Bにはたらく力は以下の3つです。

  1. 鉛直上向きの糸2の張力 \(\vec{T_2}\)
  2. 鉛直下向きの重力 \(\vec{W_B}\)(大きさ \(mg\))
  3. 鉛直下向きに加えられた力 \(\vec{F}\)

小球Bは静止しているので、これらの力はつりあっています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は、
$$ T_2 – mg – F = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件
  • 重力: \(W=mg\)
計算過程

上記の式を\(F\)について解き、(2)で求めた\(T_2=2Mg\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= T_2 – mg \\[2.0ex]&= 2Mg – mg \\[2.0ex]&= (2M – m)g \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

最後に、一番右の小球Bを見ます。この小球は、上向きに「糸2の力\(T_2\)」で引かれ、下向きに「Bの重力\(mg\)」と「加えた力\(F\)」ではたらいています。
力がつりあっているので、「上向きの力 = 下向きの力の合計」となります。
(2)で\(T_2=2Mg\)とわかっているので、「\(2Mg = mg + F\)」という式が成り立ちます。これを\(F\)について解くと、\(F = 2Mg – mg\)となります。

結論と吟味

加えた力の大きさは\(F=(2M-m)g\)です。この式は、動滑車によって増幅された力(\(2Mg\))から、小球B自身の重力(\(mg\))を差し引いた残りの力を、外部から加えてつり合いを保っていることを示しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \((2M-m)g\) [N]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 複数物体における力のつり合い:
    • 核心: この問題は、複数の物体(小球A, B)と道具(定滑車, 動滑車)が組み合わさった系全体が「静止」している状況を扱います。核心となるのは、系を構成するそれぞれの要素(小球A, 動滑車, 小球B)について、個別に力のつり合いの式を立てるという考え方です。
    • 理解のポイント: 複雑な系であっても、注目する物体を一つに絞り、その物体にはたらく力だけを考えてつり合いの式を立てる、という操作を繰り返すことで、未知の力を段階的に解き明かすことができます。
  • 動滑車の原理:
    • 核心: 軽い動滑車は、1本のひもで吊るされた物体を、2本のひもで支える構造になっています。これにより、動滑車を吊るすひも(糸2)の張力は、動滑車を支えるひも(糸1)の張力の2倍になります(\(T_2 = 2T_1\))。
    • 理解のポイント: この関係は、動滑車自体を1つの物体とみなし、それにはたらく力のつり合い(上向きの力 \(T_1+T_1\) = 下向きの力 \(T_2\))を考えることで導かれます。動滑車が「力を倍にする」効果の根源がここにあります。
  • 張力の伝達:
    • 核心: 「軽くて伸びない1本の糸」と「軽くてなめらかな滑車」という理想的な状況では、張力の大きさは糸のどの部分でも、また滑車を越えても変わらない。
    • 理解のポイント: これにより、小球Aを引く糸1の張力と、動滑車を引く糸1の張力が、どちらも同じ\(T_1\)として扱えることが保証されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 運動している場合(運動方程式): 系全体が静止せず、一定の加速度で運動している場合。各物体について、力のつり合いの式ではなく、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。このとき、全ての物体は同じ大きさの加速度で運動するとは限らない(動滑車の場合、加速度が半分になるなど)ことに注意が必要です。
    • 滑車や糸に質量がある場合: 滑車や糸の質量が無視できない場合、それらの重力も考慮して力のつり合いの式を立てる必要があります。
    • 複数の動滑車を組み合わせた装置: 動滑車が複数になると、力の増幅効果は \(2^n\) 倍(nは動滑車の数)になります。各滑車について丁寧につり合いを考えていくことで、複雑な装置の力の関係も解明できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 注目物体を切り分ける: まず、系を構成する要素(物体A, 物体B, 動滑車など)に分解し、どの順番で考えていけば未知数が解けるか、戦略を立てます。通常は、最も情報が単純な末端の物体から考え始めます(この問題では小球A)。
    2. 張力の関係を整理する: 図中の糸が「一本のつながった糸」なのか「別の糸」なのかを区別し、同じ糸には同じ張力記号(例:\(T_1\))、別の糸には別の記号(例:\(T_2\))を割り当てます。
    3. 各要素について力を図示し、立式する: 決めた順番に従って、各要素にはたらく力を図示し、つり合いの式を立てます。前のステップで求めた力を、次のステップの式で既知数として使っていきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 動滑車の力の関係の誤解:
    • 誤解: 動滑車を挟んだ上下の糸の張力(\(T_1\)と\(T_2\))の関係を、\(T_1=T_2\) や \(T_1=2T_2\) のように間違えてしまう。
    • 対策: 動滑車の原理を暗記するだけでなく、必ず「動滑車自体」を一つの物体とみなし、それにはたらく力のつり合いの式(上向きの力=下向きの力)を自分で立てる癖をつける。そうすれば、\(2T_1 = T_2\) という正しい関係をいつでも導き出せます。
  • 注目物体の設定ミス:
    • 誤解: 小球Bと動滑車を一体とみなしてしまい、糸1の張力\(T_1\)が直接小球Bにはたらいているかのように考えてしまう。
    • 対策: 力は、直接接触しているものからしか伝わりません。小球Bに直接つながっているのは糸2なので、小球Bのつり合いには\(T_2\)のみが登場します。\(T_1\)は動滑車を介して間接的に影響を与えている、と段階的に考えることが重要です。
  • 重力の描き忘れ・描きすぎ:
    • 誤解: 小球AやBの重力を描き忘れる。逆に、質量を無視できる動滑車に重力を描いてしまう。
    • 対策: 問題文の「質量M」「質量m」「糸と滑車の質量は無視」といった記述を注意深く読み、質量を持つものには必ず重力を描き、質量を無視するものには描かない、というルールを徹底する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式(各物体について立式):
    • 選定理由: 問題が「静止した」状態を扱っているため、ニュートンの運動法則から、各要素にはたらく合力はゼロでなければなりません。この問題のように、複数の要素が相互に力を及ぼし合っている系では、それぞれの要素について独立してつり合いの式を立て、それらを連立させて解くのが最も体系的で確実な解法です。
    • 適用根拠: 物理学の「ある部分系に着目し、そこに働く外力だけを考える」という基本的な分析手法に基づいています。小球Aに着目するときは、糸1から受ける力と重力が「外力」です。動滑車に着目するときは、糸1と糸2から受ける力が「外力」となります。このように注目対象を切り替えていくことで、複雑な系を解きほぐしていきます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 段階的な解法を意識する: この問題は(1)→(2)→(3)と、前の答えを使って次の問題を解くように構成されています。計算を進める際は、前のステップで求めた結果(例:\(T_1=Mg\))が、次のステップ(\(T_2=2T_1\))でどのように使われるかを意識すると、思考が整理されます。
  • 文字式のまま代入する: (2)で\(T_2\)を求める際に、\(T_2=2T_1\)という関係式を立ててから、\(T_1=Mg\)を代入して\(T_2=2Mg\)と導くように、できるだけ文字式のまま計算を進める方が、物理的な関係性が明確になり、ミスも減ります。
  • 最終結果の吟味: (3)で得られた \(F=(2M-m)g\) という結果を吟味してみましょう。
    • もし \(2M > m\) なら、\(F>0\) となり、Bを下に引く力が必要です。
    • もし \(2M = m\) なら、\(F=0\) となり、力を加えなくてもつりあいます。
    • もし \(2M < m\) なら、\(F<0\) となり、これは「Bを上に支える力」が必要であることを意味します。

    このように、得られた式が様々な物理的状況を正しく表現しているかを確認することで、答えの妥当性を検証できます。

58 作用反作用の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「作用・反作用の法則と力のつり合いの区別」です。物理学の初学者が最も混同しやすい2つの概念を、具体的な状況設定を通して正しく理解し、区別できるかを問う問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の探し方: ある物体にはたらく力は、「重力」と「その物体に接触しているものから受ける力」に分類して探します。
  2. 作用・反作用の法則(運動の第三法則): 物体Aが物体Bに力(作用)を及ぼすとき、物体Bは必ず物体Aに、大きさが等しく向きが反対で、同一直線上にある力(反作用)を及ぼし返します。
  3. 力のつり合い: 1つの物体にはたらく複数の力の合力がゼロである状態です。物体は静止または等速直線運動をします。
  4. 2つの法則の決定的な違い:
    • 作用・反作用: 2つの異なる物体間にはたらく力のペアです。「AがBに」と「BがAに」のように、主語と目的語が入れ替わります。
    • 力のつり合い: 1つの物体にはたらく複数の力の関係です。主語は常に同じ物体です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「机B」を主語として、机Bにはたらく力を「重力」と「接触力」に分けて漏れなくリストアップします。
  2. (2)では、(1)で挙げた各力について、「AがBに」という関係を「BがAに」と主語と目的語を入れ替えることで、反作用の力を見つけ出します。
  3. (3)では、「力のつり合い」の定義に立ち返り、荷物Aにはたらく重力とつり合うもう1つの力を、荷物Aにはたらく力の中から探します。

問(1)

思考の道筋とポイント
「机Bが受ける力」をすべて挙げる問題です。力を探す基本手順に従い、「机B」を主語(注目物体)として考えます。

  1. 机Bにはたらく重力は何か?
  2. 机Bに「接触している」物体は何か?それらからどんな力を受けるか?

この設問における重要なポイント

  • 注目物体は「机B」である。
  • 机Bに接触しているのは「荷物A」と「床C」の2つ。

具体的な解説と立式

  1. 重力: 地球が机Bを引く力(重力)がはたらきます。
  2. 接触力:
    • 荷物Aから: 上に乗っている荷物Aが、机Bを(その重さで)下向きに押す力がはたらきます。
    • 床Cから: 机Bを支えている床Cが、机Bを上向きに押す力(垂直抗力)がはたらきます。

結論と吟味
以上より、机Bにはたらく力は「地球が机Bを引く重力」「荷物Aが机Bを押す力」「床Cが机Bを押す力」の3つです。

解答 (1) ① 地球が机Bを引く重力, ② 荷物Aが机Bを押す力, ③ 床Cが机Bを押す力

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で挙げた3つの力と、それぞれ「作用・反作用の関係」にある力を答える問題です。作用・反作用の法則の最も重要な特徴は、「AがBに及ぼす力」の反作用は「BがAに及ぼす力」となる、つまり主語と目的語が入れ替わる関係であることです。
この設問における重要なポイント

  • 作用・反作用の法則では、力のペアは異なる2つの物体にはたらく。
  • 「AがBを〜する力」の反作用は「BがAを〜する力」。

具体的な解説と立式
(1)で挙げた各力について、主語と目的語を入れ替えて反作用の力を考えます。

  • ① 「地球机Bを引く重力」
    • 主語「地球」と目的語「机B」を入れ替えます。
    • 反作用: 「机B地球を引く力」(万有引力)
  • ② 「荷物A机Bを押す力」
    • 主語「荷物A」と目的語「机B」を入れ替えます。
    • 反作用: 「机B荷物Aを押す力」(垂直抗力)
  • ③ 「床C机Bを押す力」
    • 主語「床C」と目的語「机B」を入れ替えます。
    • 反作用: 「机B床Cを押す力」

結論と吟味
作用・反作用の法則に従い、主語と目的語を正しく入れ替えることで、それぞれの反作用を特定できました。

解答 (2) ①の反作用: 机Bが地球を引く力, ②の反作用: 机Bが荷物Aを押す力, ③の反作用: 机Bが床Cを押す力

問(3)

思考の道筋とポイント
「荷物Aにはたらく重力」と「つりあっている力」は何か、という問題です。これは「力のつり合い」に関する問いであり、「作用・反作用」とは全く別の概念です。力のつり合いは、必ず「1つの物体」にはたらく複数の力の間での関係です。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合いは、1つの物体にはたらく力の関係である。
  • 注目物体は「荷物A」である。
  • 荷物Aにはたらく力をすべてリストアップし、その中で重力とつりあう力を探す。

具体的な解説と立式
まず、注目物体である「荷物A」にはたらく力を考えます。

  1. 重力: 地球が荷物Aを引く力(鉛直下向き)。
  2. 接触力: 荷物Aに接触しているのは机Bのみです。机Bが荷物Aを支えるために、上向きに押す力(垂直抗力)がはたらきます。

荷物Aは静止しているので、この2つの力はつりあっています。
したがって、「地球が荷物Aを引く重力」とつりあっている力は、「机Bが荷物Aを押す力」です。
結論と吟味
荷物Aにはたらく重力のつり合いの相手は、机Bが荷物Aを押す力(垂直抗力)です。
ここで、重力の「反作用」は「荷物Aが地球を引く力」であり、つり合いの相手とは全く異なることに注意が必要です。つり合いの相手は荷物Aにはたらく力ですが、反作用は地球にはたらく力です。この区別がこの問題の核心です。

解答 (3) 机Bが荷物Aを押す力

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 作用・反作用の法則と力のつり合いの明確な区別:
    • 核心: この問題は、物理初学者が最も混同しやすい「作用・反作用」と「力のつり合い」という2つの概念の定義を正しく理解し、それらを明確に区別できるかを問うています。この2つは全く異なる法則です。
    • 理解のポイント:
      法則力のつり合い作用・反作用
      対象1つの物体2つの物体
      関係合力がゼロ主語と目的語が逆
      「地球がAを引く力」と
      「机BがAを押す力」
      「地球がAを引く力」と
      「Aが地球を引く力」
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 糸でつるされた物体: 「地球が物体を引く重力」と「糸が物体を引く張力」はつり合いの関係。「糸が物体を引く張力」の反作用は「物体が糸を引く力」。
    • 壁を押す人: 「人が壁を押す力」と「壁が人を押し返す力」は作用・反作用の関係。「壁が人を押し返す力」と「床が人を支える摩擦力」が(水平方向で)つりあうことで、人はその場に留まれる。
    • ロケットの推進: 「ロケットがガスを噴射する力(作用)」の反作用として、「ガスがロケットを押す力」によってロケットは加速します。これは作用・反作用の応用例です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 主語と目的語を明確にする: 問題文で問われている力が、「何が」「何に」及ぼす力なのかを常に意識します。
    2. 「つり合い」を問われたら:
      • まず、注目する物体を1つに決めます(例:荷物A)。
      • 次に、その物体にはたらく力を全てリストアップします。
      • そのリストの中から、問われている力と逆向きではたらいている力を見つけます。それがつり合いの相手です。
    3. 「反作用」を問われたら:
      • 問われている力(例:「地球がAを引く力」)の主語と目的語を特定します(主語:地球、目的語:A)。
      • 主語と目的語を単純に入れ替えます(主語:A、目的語:地球)。
      • 入れ替えた主語と目的語で文を作ります(「Aが地球を引く力」)。これが反作用です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 重力の反作用を垂直抗力だと答えてしまう:
    • 誤解: (3)で、荷物Aにはたらく重力とつりあっている力を問われているのに、作用・反作用の法則と混同し、「荷物Aが地球を引く力」と答えてしまう。あるいは、重力と垂直抗力が作用・反作用の関係にあると勘違いする。
    • 対策: 上記の「つり合い」と「作用・反作用」の定義の違いを徹底的に頭に入れること。
      • 「重力」と「垂直抗力」は、どちらも同じ物体(荷物A)にはたらいているので、つり合いの関係になりうる。
      • 「重力(地球がAを引く)」と「その反作用(Aが地球を引く)」は、異なる物体(Aと地球)にはたらいているので、絶対につり合うことはない。
  • 力のリストアップ漏れ:
    • 誤解: (1)で机Bにはたらく力を考える際に、上にある荷物AがBを押す力を見落としてしまう。
    • 対策: 力を探す際は、「重力」と「接触力」の2ステップで考える癖をつける。机Bに接触しているのは「荷物A」と「床C」なので、その両方から力を受けるはずだと体系的に考える。
  • 言葉の定義の曖昧さ:
    • 誤解: 「垂直抗力」という言葉を使わずに、「床が机を押す力」のように具体的な表現で答えるべき場面で混乱する。
    • 対策: 問題文が「具体的にあげよ」と求めている場合は、「誰が」「誰を」「どうする」力が明確になるように記述する。「垂直抗力」は力の種類名であり、「床Cが机Bを押す力」がその具体的な表現です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力の発見手順(重力→接触力):
    • 選定理由: (1)で机Bにはたらく力を網羅的に見つけ出すための、体系的な思考法です。場当たり的に力を探すと、必ず漏れや重複が生じます。力をその性質(遠隔力か接触力か)で分類し、順を追って探すことで、確実なリストアップが可能になります。
  • 作用・反作用の法則(主語と目的語の入れ替え):
    • 選定理由: (2)で反作用を特定するための、最もシンプルで強力なルールです。ニュートンの第三法則の核心は、力が常にペアで存在し、そのペアは主語と目的語を入れ替えた関係にある、という点に集約されます。このルールを機械的に適用することで、どんな力の反作用でも確実に見つけることができます。
  • 力のつり合いの定義(一つの物体にはたらく力の合力がゼロ):
    • 選定理由: (3)で「つりあっている力」を特定するための、定義に基づいた思考法です。この定義により、考えるべき対象が「荷物A」という一つの物体に限定され、その物体にはたらく力の中から答えを探せばよい、という明確な指針が得られます。これにより、作用・反作用の法則との混同を避けることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は計算を伴いませんが、「概念の混同」を防ぐためのテクニックは以下の通りです。
  • 図を描いて力を整理する: 問題を解く際に、各物体(A, B, C, 地球)を別々の点として描き、それらの間にはたらく力を矢印で結んでみる。「Aにはたらく力」「Bにはたらく力」などを色分けすると、つり合い(同じ物体に向かう矢印)と作用・反作用(2物体間を結ぶペアの矢印)の関係が視覚的に理解しやすくなります。
  • 表を作成して整理する:
    力の種類作用反作用
    重力地球がAを引くAが地球を引く
    接触力BがAを押すAがBを押す

    このように表にまとめることで、作用・反作用のペアを明確に意識できます。

  • 声に出して説明する: 「荷物Aには、下向きに『地球がAを引く重力』がはたらき、上向きに『机BがAを押す垂直抗力』がはたらく。この2つの力は、荷物Aという一つの物体の上でつりあっている」のように、主語と目的語を明確にして声に出して説明してみることで、理解が深まり、混同を防げます。

59 作用反作用の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ばねの弾性力と力のつりあい、作用・反作用の法則」です。一見すると複雑に見える設定ですが、基本的な物理法則を一つずつ適用することで、すべてのばねの伸びが同じになるという結論を導き出せます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. フックの法則: ばねの伸びは、ばねを引く力の大きさに比例します。同じばねであれば、同じ力で引けば同じだけ伸びます。
  2. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、その物体にはたらく力の合計(合力)はゼロです。
  3. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに、大きさが等しく向きが反対の力を及ぼします。
  4. 張力: 軽くて伸び縮みしない糸の一部分にはたらく張力の大きさは、どこでも等しくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、基準となる図1の状況を分析し、ばねを \(3.0 \text{ cm}\) 伸ばしている力の大きさを特定します。
  2. 次に、図2と図3の各ばね(①〜④)について、力のつりあいや作用・反作用の法則を用いて、それぞれのばねが両端からどれだけの大きさの力で引かれているかを分析します。
  3. 最後に、各ばねを引く力の大きさが基準の図1と同じであることを確認し、フックの法則から伸びがすべて等しいと結論づけます。

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「ばねの伸びは、ばねが両端から引かれる力の大きさで決まる」という一点を正確に理解しているかどうかにあります。多くの人が混乱するのは、図1の「壁」と図2の「おもり」の役割の違い、そして図3の「直列つなぎ」での力の伝わり方です。
図1の壁がばねを引く力と、図2の左側のおもりがばねを引く力は、物理的には全く同じ役割を果たしています。このことを見抜けるかが最初の鍵です。さらに図3では、作用・反作用の法則によって、おもりが引く力が連結されたすべてのばねに等しく伝わっていることを理解する必要があります。

この設問における重要なポイント

  • ばねの伸び \(x\) は、ばねを引く力の大きさ \(F\) に比例します(フックの法則 \(F=kx\))。
  • ばねが静止しているとき、ばねは必ず両端から「同じ大きさ」の力で引かれています。片方だけの力でばねが伸びることはありません。
  • 壁や床も力を及ぼす物体です。壁がばねを引く力は、ばねが壁を引く力の「反作用」であり、その大きさは、ばねを反対側から引く力と「つりあって」います。

具体的な解説と立式
この問題は、ばね①〜④の伸びを求める単一の設問です。各図の状況を順番に分析し、それぞれのばねにはたらく力の大きさを明らかにします。

1. 基準となる図1の分析
まず、基準となる図1の状況を考えます。
質量 \(m = 1.0 \text{ kg}\) のおもりは静止しているので、おもりにはたらく重力 \(W\) と糸の張力 \(T\) はつりあっています。
$$ T = W = mg $$
ここで \(g\) は重力加速度の大きさです。
この張力 \(T\) が、滑車を介してばねの右端を右向きに引いています。ばねも静止しているため、ばねにはたらく力はつりあっています。したがって、ばねの左端は、壁から左向きに同じ大きさ \(T\) の力で引かれています。
結論として、図1のばねは、両端から大きさ \(F_1 = mg\) の力で引かれ、その結果 \(3.0 \text{ cm}\) 伸びています。これが我々の基準となります。

2. 図2(ばね①)の分析
次に、図2のばね①を考えます。
ばね①の右端は、質量 \(m\) のおもりによって、下向きの重力 \(mg\) とつりあう張力 \(T = mg\) で右向きに引かれています。
同様に、ばね①の左端も、質量 \(m\) のおもりによって、張力 \(T = mg\) で左向きに引かれています。
したがって、ばね①は両端から大きさ \(F_① = mg\) の力で引かれています。
これは、図1のばねにはたらく力 \(F_1\) と全く同じ大きさです。

3. 図3(ばね②、③、④)の分析
最後に、直列につながれた図3のばねを考えます。力の伝わり方を理解するため、右端のばね④から順に分析します。

  • ばね④: 右端は質量 \(m\) のおもりと糸でつながれているので、図1と同様に、右向きに大きさ \(T = mg\) の力で引かれています。ばね④は静止しているので、力のつりあいから、左端はばね③によって左向きに同じ大きさ \(F_④ = mg\) の力で引かれています。
  • ばね③: 作用・反作用の法則により、ばね③はばね④から右向きに、ばね④がばね③を引く力の反作用として、同じ大きさ \(F_④ = mg\) の力で引かれます。ばね③も静止しているので、力のつりあいから、左端はばね②によって左向きに同じ大きさ \(F_③ = mg\) の力で引かれています。
  • ばね②: 同様に、作用・反作用の法則により、ばね②はばね③から右向きに大きさ \(F_③ = mg\) の力で引かれます。ばね②も静止しているので、力のつりあいから、左端は壁によって左向きに同じ大きさ \(F_② = mg\) の力で引かれています。

以上の分析から、ばね①、②、③、④はすべて、図1のばねと全く同じ大きさの力 \(mg\) で両端から引かれていることがわかります。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\text{合力} = 0\)
  • 作用・反作用の法則
  • フックの法則: \(F = kx\) (ばねの伸びは力の大きさに比例するという関係のみ使用)
  • 重力: \(W = mg\)
計算過程

この問題は、各ばねにはたらく力の大きさがすべて等しいことを論理的に導くことが主眼であり、複雑な計算は必要ありません。

  1. 図1のばねを引く力の大きさを \(F_1\) とします。おもりの質量を \(m\) とすると、力のつりあいから \(F_1 = mg\) です。このとき、伸びは \(3.0 \text{ cm}\) です。
  2. 図2のばね①を引く力の大きさ \(F_①\) は、左右のおもりによる張力であり、それぞれが \(mg\) なので、ばねを両端から引く力の大きさは \(F_① = mg\) です。
  3. 図3のばね④、③、②を引く力の大きさ \(F_④, F_③, F_②\) は、力のつりあいと作用・反作用の法則を順に適用することで、すべて \(mg\) であることがわかります。
    $$ F_④ = mg $$
    $$ F_③ = mg $$
    $$ F_② = mg $$
  4. したがって、すべてのばねを引く力の大きさは等しくなります。
    $$ F_1 = F_① = F_② = F_③ = F_④ = mg $$
  5. フックの法則より、同じばねに同じ大きさの力がはたらく場合、その伸びは等しくなります。
  6. よって、ばね①、②、③、④の伸びは、すべて図1のばねの伸びと同じ \(3.0 \text{ cm}\) となります。
計算方法の平易な説明

この問題のポイントは、「ばねがどれくらいの力で引っ張られているか?」を正しく見抜くことです。

まず基準の図1を見ると、1.0kgのおもりがばねを引っ張っています。この力が、ばねを3.0cm伸ばす原因です。ここで大事なのは、壁もばねが動かないように、おもりと反対向きに同じ力で引っ張り返しているということです。つまり、ばねは「1.0kgのおもりが生み出す力」で両側から引っ張られている状態です。

次に図2です。これはよくあるひっかけ問題で、「両側から1.0kgずつ引くから、力が2倍になって伸びも2倍の6.0cmになるのでは?」と考えてしまいがちです。しかし、図1の壁の役割を思い出してください。壁も「1.0kgのおもりが生み出す力」で引っ張り返していました。図2の左のおもりは、まさに図1の壁と同じ役割をしています。したがって、ばね①も図1と同じ「1.0kgのおもりが生み出す力」で引っ張られているだけなので、伸びは同じ3.0cmです。

最後に図3です。3本のばねが電車ごっこのように繋がっています。一番右のばね④は1.0kgのおもりに引っ張られています。ばね④が止まっているということは、真ん中のばね③が、おもりと反対向きに同じ力で引っ張り返しています。作用・反作用の法則で、今度はばね③もばね④から同じ力で引っ張られます。この力が、一番左のばね②、そして壁へと、数珠つなぎに同じ大きさで伝わっていきます。結局、②、③、④のばねも、すべて図1と同じ「1.0kgのおもりが生み出す力」で引っ張られていることになります。

結論として、①〜④のばねはすべて、図1と全く同じ条件で引っ張られているので、伸びはすべて3.0cmになります。

結論と吟味

ばね①、②、③、④は、すべて両端から \(1.0 \text{ kg}\) のおもりにはたらく重力と等しい大きさの力で引かれていることが、力のつりあいと作用・反作用の法則から導かれました。ばねの伸びは、ばねにはたらく張力の大きさによって決まります。すべてのばねにはたらく張力の大きさは等しいため、伸びもすべて等しくなります。基準となる図1の伸びが \(3.0 \text{ cm}\) であることから、ばね①〜④の伸びもすべて \(3.0 \text{ cm}\) となります。この結果は物理法則に即しており、妥当です。

解答 ①〜④とも \(3.0 \text{ cm}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ばねの張力と伸びの関係:
    • 核心: ばねの伸びは、ばねの「内部に生じている張力の大きさ」によって決まります。そして、静止しているばねにはたらく張力は、ばねの両端から引く力の大きさに等しく、ばねのどの部分でも一定です。
    • 理解のポイント:
      • ばねは「片方の力」で伸びるのではなく、必ず両端から「同じ大きさの力」で逆向きに引かれることで伸びます。
      • 図1で壁がばねを引く力、図2で左のおもりがばねを引く力は、どちらも「ばねを静止させつつ、右からの力とつりあう」という同じ役割を果たしています。
  • 力のつりあいと作用・反作用の法則:
    • 核心: 静止している物体(おもり、ばね)にはたらく力はつりあっている(合力ゼロ)。また、物体間で及ぼしあう力は作用・反作用の関係にあります。この2つの法則を区別し、正しく適用することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 力のつりあい: 1つの物体に着目し、その物体にはたらく複数の力の関係(例:おもりにはたらく重力と張力)。
      • 作用・反作用: 2つの物体間に着目し、互いに及ぼしあう力の関係(例:ばねAがばねBを引く力と、ばねBがばねAを引く力)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばねの並列接続: 複数のばねを並べて1つのおもりをつるす問題。この場合、おもりの重さが各ばねに分散されます。
    • 斜面上のばね: 斜面上に置かれた物体をばねで支える問題。重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解して考える必要があります。
    • 加速度運動する系でのばね: エレベーターが上昇・下降している中でばねにおもりをつるす問題。見かけの重力が変化するため、慣性力を考慮して運動方程式を立てる必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 静止か運動か?: まず、問題の系全体が静止しているか、運動しているかを確認します。静止していれば「力のつりあい」が基本方針です。
    2. 着目物体を決める: どの物体(おもり、ばね、壁など)の力の関係を考えるのか、一つずつ明確に定めます。
    3. 力をすべて図示する: 着目した物体にはたらく力を、漏れなく矢印で図示します(重力、張力、弾性力など)。この「フリーボディダイアグラム」を描くことが、立式ミスの防止に直結します。
    4. 「つりあい」と「作用・反作用」を区別する: 図示した力のうち、どれとどれが「つりあい」の関係で、どれとどれが「作用・反作用」の関係なのかを意識的に区別します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 図2で力が2倍になると考えるミス:
    • 誤解: ばねの両端を \(1.0 \text{ kg}\) のおもりで引くので、力が \(1.0 + 1.0 = 2.0 \text{ kg}\) 重に相当すると考え、伸びを \(2 \times 3.0 = 6.0 \text{ cm}\) と計算してしまう。
    • 対策: ばねの伸びを決めるのは「ばねの内部張力」であり、それは「片端を引く力」の大きさに等しいと理解します。図1でも、壁は見えない手でばねを \(1.0 \text{ kg}\) 重の力で引いています。図2は、その壁の役割を可視化したおもりに置き換えただけで、ばねにかかる張力の大きさは図1と全く同じです。
  • 図3で力が分散されると考えるミス:
    • 誤解: 3本のばねで力を分け合うので、1本あたりの伸びは \(3.0 \div 3 = 1.0 \text{ cm}\) になる、などと考えてしまう。
    • 対策: 「力の伝達」のイメージを持つことが重要です。綱引きを想像してください。ロープの端を引く力が同じなら、間に何人いようとロープに働く張力は一定です。同様に、図3でも一番右のおもりが引く力 \(mg\) が、作用・反作用の連鎖によって、大きさも向きも変わらずにすべてのばねに伝達されます。
  • 「力のつりあい」と「作用・反作用」の混同:
    • 誤解: 図1で、おもりにはたらく「重力」と、糸がおもりを引く「張力」を、作用・反作用の関係だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 作用・反作用は必ず「物体AがBに及ぼす力」と「物体BがAに及ぼす力」という主語と目的語が入れ替わったペアであることを徹底します。重力(地球がおもりを引く力)の反作用は「おもりが地球を引く力」です。重力と張力は、あくまで「おもり」という一つの物体にはたらく力の「つりあい」の関係です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあい (\(\text{合力}=0\)):
    • 選定理由: 問題のすべてのケースで、ばねやおもりが「静止」しているからです。静止は加速度がゼロの状態であり、運動方程式 \(ma=F\) において \(a=0\) を代入すると、合力 \(F=0\) が導かれます。
    • 適用根拠: おもりや各ばねなど、静止している物体を一つ選び、その物体にはたらく力をすべて特定します。それらの力のベクトル和がゼロになる、という関係式を立てることで、未知の力(張力など)を既知の力(重力)と関係づけることができます。
  • 作用・反作用の法則:
    • 選定理由: 図3のように、複数の物体が接触し、互いに力を及ぼしあっている状況を分析するために不可欠です。
    • 適用根拠: ばね③がばね④を引く力と、ばね④がばね③を引く力のように、隣接する物体間の力の関係を明らかにするために用います。この法則を連鎖的に適用することで、一番端のおもりからの力が、大きさを変えずに壁まで伝わることを論理的に証明できます。
  • フックの法則 (\(F=kx\)):
    • 選定理由: 問題がばねの「伸び」について問うており、その伸びが「力」によって決まるからです。
    • 適用根拠: この問題では、ばね定数 \(k\) の値を計算する必要はありません。重要なのは「ばねの伸び \(x\) は、ばねを引く力 \(F\) の大きさに比例する (\(x \propto F\))」という法則の比例関係の部分です。すべてのばねに同じ大きさの力がはたらくことを示せば、同じばねである以上、伸びも同じになると結論づけるための論理的な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 力の図示の徹底: この問題は定性的ですが、類似の問題では計算が伴います。計算ミス以前の立式ミスを防ぐために、物体ごとにはたらく力をすべて矢印で描く「フリーボディダイアグラム」を必ず描く習慣をつけましょう。
  • 単位の統一意識: 問題文で与えられた単位(例: cm)と、物理法則で使う基本単位(例: m)の違いを常に意識します。この問題では伸びをcmのまま比較すればよいですが、ばね定数 \(k\) [N/m] を求めるような場合は、力の単位をN、長さの単位をmに変換する必要があります。
  • 質量の力への換算: 「質量 \(1.0 \text{ kg}\)」と「力 \(1.0 \text{ N}\)」を混同しないこと。力は質量と重力加速度の積(\(W=mg\))であり、\(g=9.8 \text{ m/s}^2\) とすると、\(1.0 \text{ kg}\) のおもりにはたらく重力は約 \(9.8 \text{ N}\) です。この問題では力の大きさがすべて \(mg\) で等しいと比較するだけなので具体的な計算は不要ですが、この区別は非常に重要です。
  • 思考の単純化: 複雑に見える設定でも、「結局、このばねは両端から何Nの力で引かれているのか?」という本質的な問いに思考を集中させます。途中の滑車や他のばねは、力を「伝達する」または「向きを変える」装置としてシンプルに捉えることで、問題の見通しが良くなります。

60 ばねの連結

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ばねの並列接続と直列接続」です。ばねを複数組み合わせたときに、全体としてどのような性質を持つばねと見なせるか(合成ばね定数)を理解することが目標です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. フックの法則: ばねの弾性力は伸びに比例するという基本法則です (\(F=kx\))。
  2. 力のつりあい: 物体が静止している場合、その物体にはたらく力の合力はゼロになります。
  3. 作用・反作用の法則: 2つの物体が互いに力を及ぼしあうとき、その力は大きさが等しく向きが反対になります。直列接続の力の伝わり方を理解するのに使います。
  4. 合成ばね定数の考え方: 複数のばねを組み合わせた系全体を、1本の仮想的なばねと見なしたときのばね定数です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1), (2)の並列接続では、2本のばねの「伸びが等しい」ことと、おもりにはたらく「力の合計がつりあう」ことを利用して立式します。
  2. (3), (4)の直列接続では、2本のばねにはたらく「力が等しい」ことと、「伸びの合計が全体の伸びになる」ことを利用して立式します。
  3. (2), (4)の合成ばね定数は、それぞれ(1), (3)で求めた全体の力(重力)と全体の伸びの関係から、\(F_{\text{全体}} = k_{\text{合成}} x_{\text{全体}}\) を用いて導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ばねの「並列接続」の基本的な問題です。2本のばねが並んで1つのおもりを支える状況を考えます。このとき、2本のばねはどのように振る舞うでしょうか。ポイントは、2本のばねが「協力して」おもりを支えるというイメージです。物理的には「伸びが等しい」ことと「弾性力の和が重力とつりあう」ことの2点が重要になります。

この設問における重要なポイント

  • 並列接続では、各ばねの伸びは等しくなります。
  • おもりにはたらく力のつりあいを考えます。上向きの力は「ばねAの弾性力」と「ばねBの弾性力」の合計になります。

具体的な解説と立式
ばねAとばねBは平行に接続されているため、おもりが下がると、両方のばねは同じ長さ \(x\) [m] だけ伸びます。
フックの法則 \(F=kx\) より、それぞれのばねの弾性力(おもりを上に引く力)の大きさは、
ばねA: \(F_A = k_1x\)
ばねB: \(F_B = k_2x\)
となります。

おもりは静止しているので、おもりにはたらく力はつりあっています。おもりには、下向きに重力 \(mg\)、上向きに2本のばねの弾性力の合力 \(F_A + F_B\) がはたらいています。したがって、力のつりあいの式は以下のようになります。
$$ k_1x + k_2x = mg $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = kx\)
  • 力のつりあい: \(\text{合力} = 0\)
計算過程

力のつりあいの式を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
k_1x + k_2x &= mg \\[2.0ex](k_1 + k_2)x &= mg \\[2.0ex]x &= \frac{mg}{k_1 + k_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

2本のばねが並んでおもりを支えているので、おもりが下がると、2本とも同じ長さだけ伸びます。この伸びを \(x\) とします。おもりを支える力は、ばねAの力とばねBの力を合わせたものになります。この「合計の力」が「おもりの重さ」とちょうど等しくなったときに、おもりは静止します。この関係を式にすると「(ばねAの力) + (ばねBの力) = (おもりの重さ)」となり、これを伸び \(x\) について解くことで答えが求まります。

結論と吟味

ばねの伸びは \(\displaystyle\frac{mg}{k_1 + k_2}\) [m] となります。分母が \(k_1+k_2\) となっていることから、ばね定数が大きい(硬い)ばねほど伸びにくいという物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{mg}{k_1 + k_2}\) [m]

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で考えた2本組のばねを、全体として「1本の合成ばね」と見なしたときのばね定数 \(k_{\text{並}}\) を求める問題です。合成ばね定数の定義は、系全体を1本のばねと見なしたときのフックの法則 \(F = kx\) における \(k\) のことです。この問題では、系全体にはたらく力 \(F\) はおもりの重さ \(mg\) であり、全体の伸び \(x\) は(1)で求めた値です。

この設問における重要なポイント

  • 合成ばねにはたらく全体の力 \(F\) は、おもりの重さ \(mg\) に等しい。
  • 合成ばねの全体の伸び \(x\) は、(1)で求めた伸びに等しい。
  • \(F = k_{\text{並}}x\) の関係式に、これらの値を代入して \(k_{\text{並}}\) を求める。

具体的な解説と立式
並列接続されたばね全体を、ばね定数 \(k_{\text{並}}\) の1本の合成ばねと見なします。
この合成ばねには、大きさ \(F = mg\) の力がはたらき、その結果として(1)で求めた \(x = \displaystyle\frac{mg}{k_1 + k_2}\) だけ伸びます。
合成ばねについてもフックの法則が成り立つので、以下の式が立てられます。
$$ F = k_{\text{並}}x $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

上記の式に \(F=mg\) と \(x = \displaystyle\frac{mg}{k_1 + k_2}\) を代入して、\(k_{\text{並}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
mg &= k_{\text{並}} \cdot \left( \frac{mg}{k_1 + k_2} \right)
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
1 &= \frac{k_{\text{並}}}{k_1 + k_2} \\[2.0ex]k_{\text{並}} &= k_1 + k_2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)の2本組のばねを、1本のすごく硬い「合体ばね」と考えます。この「合体ばね」の硬さ(ばね定数)を求めるのがこの問題です。ばねの硬さは「力 ÷ 伸び」で計算できます。今、合体ばねにかかる「力」は「おもりの重さ」で、合体ばねの「伸び」は(1)で計算した値です。これらの値を「硬さ = 力 ÷ 伸び」の式に入れると、結果は単純に2つのばねの硬さを足し合わせたものになります。

結論と吟味

並列接続の合成ばね定数は \(k_{\text{並}} = k_1 + k_2\) [N/m] となります。2本のばねで協力して支えるので、1本のときよりも硬くなる(ばね定数が大きくなる)という物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (2) \(k_1 + k_2\) [N/m]

問(3)

思考の道筋とポイント
ばねの「直列接続」の問題です。2本のばねを縦につないだ場合を考えます。この接続方法のポイントは、1つのおもりの重さが、連結されたすべてのばねに等しく伝わることです。綱引きでロープにかかる張力がどこでも同じであるのと同じイメージです。物理的には「各ばねにはたらく力が等しい」ことと「各ばねの伸びの和が全体の伸びになる」ことの2点が重要です。

この設問における重要なポイント

  • 直列接続では、各ばねにはたらく力(張力)の大きさは等しくなります。
  • 全体の伸びは、ばねAの伸びとばねBの伸びの和で与えられます。
  • まずおもりと接しているばねBにはたらく力を考え、次にその力がばねAにどう伝わるかを考えます。

具体的な解説と立式
ばねAの伸びを \(x_1\)、ばねBの伸びを \(x_2\) とします。求めたい全体の伸び(おもりの下降距離)は \(x = x_1 + x_2\) です。

まず、おもりにはたらく力のつりあいを考えます。おもりは、下向きの重力 \(mg\) と、上向きのばねBの弾性力 \(F_B = k_2x_2\) でつりあっています。
$$ k_2x_2 = mg \quad \cdots ① $$
次に、ばねAとばねBの間の関係を考えます。ばねBは、上端をばねAに引かれ、下端をおもりに引かれています。ばねB全体にはたらく力もつりあっているので、ばねAがばねBを引く力(上向き)の大きさも \(mg\) となります。
作用・反作用の法則により、ばねBがばねAを引く力(下向き)の大きさも \(mg\) です。この力がばねAを伸ばすので、ばねAの弾性力 \(F_A = k_1x_1\) は \(mg\) に等しくなります。
$$ k_1x_1 = mg \quad \cdots ② $$
結局、直列に接続されたばねには、同じ大きさの力 \(mg\) がはたらくことになります。

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = kx\)
  • 力のつりあい: \(\text{合力} = 0\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

式①、②をそれぞれ \(x_1\), \(x_2\) について解きます。
$$ x_1 = \frac{mg}{k_1} $$
$$ x_2 = \frac{mg}{k_2} $$
全体の伸び \(x\) はこれらの和なので、
$$
\begin{aligned}
x &= x_1 + x_2 \\[2.0ex]&= \frac{mg}{k_1} + \frac{mg}{k_2} \\[2.0ex]&= mg \left( \frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2} \right) \\[2.0ex]&= mg \left( \frac{k_2 + k_1}{k_1k_2} \right) \\[2.0ex]&= \frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} mg
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

2本のばねを縦につなぐと、おもりの重さは両方のばねに同じようにかかります。まず、ばねBがおもりを直接支えているので、ばねBにはおもりの重さ分の力がかかります。そして、そのばねBを今度はばねAが支えているので、ばねAにも同じくおもりの重さ分の力がかかります。
それぞれのばねの伸びは「力 ÷ 硬さ」で計算できるので、ばねAの伸びとばねBの伸びをそれぞれ計算します。全体の伸びは、この2つの伸びを単純に足し合わせることで求まります。

結論と吟味

全体の伸びは \(\displaystyle\frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} mg\) [m] となります。並列の場合と比べて複雑な形ですが、ばねが2本つながることで、1本のときよりも伸びやすくなる(柔らかくなる)という直感と一致しています。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} mg\) [m]

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で考えた2本組のばねを、全体として「1本の合成ばね」と見なしたときのばね定数 \(k_{\text{直}}\) を求める問題です。(2)と同様に、合成ばね定数の定義 \(F = kx\) を利用します。系全体にはたらく力 \(F\) はおもりの重さ \(mg\) であり、全体の伸び \(x\) は(3)で求めた値です。

この設問における重要なポイント

  • 合成ばねにはたらく全体の力 \(F\) は、おもりの重さ \(mg\) に等しい。
  • 合成ばねの全体の伸び \(x\) は、(3)で求めた伸びに等しい。
  • \(F = k_{\text{直}}x\) の関係式に、これらの値を代入して \(k_{\text{直}}\) を求める。

具体的な解説と立式
直列接続されたばね全体を、ばね定数 \(k_{\text{直}}\) の1本の合成ばねと見なします。
この合成ばねには、大きさ \(F = mg\) の力がはたらき、その結果として(3)で求めた \(x = \displaystyle\frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} mg\) だけ伸びます。
合成ばねについてもフックの法則が成り立つので、以下の式が立てられます。
$$ F = k_{\text{直}}x $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

上記の式に \(F=mg\) と \(x = \displaystyle\frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} mg\) を代入して、\(k_{\text{直}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
mg &= k_{\text{直}} \cdot \left( \frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} mg \right)
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
1 &= k_{\text{直}} \cdot \frac{k_1 + k_2}{k_1k_2} \\[2.0ex]k_{\text{直}} &= \frac{k_1k_2}{k_1 + k_2}
\end{aligned}
$$
この結果は、\(\displaystyle\frac{1}{k_{\text{直}}} = \frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2}\) という関係式で表されることも多く、これは電気抵抗の並列接続の式と同じ形をしています。

計算方法の平易な説明

(3)の縦につないだばねを、1本のすごく柔らかい「合体ばね」と考えます。この「合体ばね」の硬さ(ばね定数)を求めます。(2)と同じように「硬さ = 力 ÷ 伸び」で計算します。合体ばねにかかる「力」は「おもりの重さ」で、合体ばねの「伸び」は(3)で計算した値です。これらの値を式に入れると、答えが求まります。並列のときと違って、足し算ではなく少し複雑な形になります。

結論と吟味

直列接続の合成ばね定数は \(k_{\text{直}} = \displaystyle\frac{k_1k_2}{k_1 + k_2}\) [N/m] となります。この値は \(k_1\) や \(k_2\) よりも小さくなります。これは、ばねを直列につなぐと全体として柔らかくなる(ばね定数が小さくなる)という物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{k_1k_2}{k_1 + k_2}\) [N/m]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ばねの接続方法による物理量の違いの理解:
    • 核心: ばねの接続方法によって、「何が等しくなり」「何が和になるのか」を明確に区別することが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 並列接続: 2本のばねが横に並んで1つのおもりを支える。
        • 等しくなるもの: 伸び (\(x_1 = x_2 = x\))
        • 和になるもの: (\(F_1 + F_2 = F_{\text{全体}}\))
        • イメージ: 2人で荷物を運ぶ。移動距離(伸び)は同じだが、負担する力は分担する。
      • 直列接続: 2本のばねが縦に繋がって1つのおもりを支える。
        • 等しくなるもの: (\(F_1 = F_2 = F_{\text{全体}}\))
        • 和になるもの: 伸び (\(x_1 + x_2 = x_{\text{全体}}\))
        • イメージ: 綱引きのロープ。ロープのどの部分にも同じ張力(力)がかかる。全体の伸びは各部分の伸びの合計。
  • 合成ばね定数の導出:
    • 核心: どのような接続であれ、最終的に系全体を1本のばねと見なし、\(F_{\text{全体}} = k_{\text{合成}} x_{\text{全体}}\) というフックの法則の形に帰着させることで、合成ばね定数 \(k_{\text{合成}}\) を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 3本以上のばねの接続: 並列・直列のルールは3本以上でも同様に適用できます。並列なら \(k_{\text{並}} = k_1+k_2+k_3+\dots\)、直列なら \(\frac{1}{k_{\text{直}}} = \frac{1}{k_1}+\frac{1}{k_2}+\frac{1}{k_3}+\dots\) となります。
    • 並列と直列の混合: 例えば、2本のばねを並列にしたものに、もう1本を直列でつなぐような複雑な問題。この場合、まず並列部分の合成ばね定数を計算し、それを1本のばねと見なして、残りのばねとの直列接続を考えます。
    • 電気抵抗とのアナロジー: ばねの合成則は、電気抵抗の合成則と逆の関係になっています。
      • ばねの並列 ⇔ 抵抗の直列 (\(R = R_1+R_2\))
      • ばねの直列 ⇔ 抵抗の並列 (\(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1}+\frac{1}{R_2}\))

      この対応関係を覚えておくと、検算や記憶の助けになります。

  • 初見の問題での着眼点:
    1. 接続方法の特定: まず、図を見て並列接続か直列接続か、あるいはその組み合わせかを判断します。
    2. 「等しい量」と「和になる量」の確認: 特定した接続方法に応じて、「伸び」と「力」のどちらが等しく、どちらが和になるのかを頭の中で整理します。
    3. 力のつりあいを考える物体を特定: おもりや、ばねの連結点など、力のつりあいを考えるべき物体を明確にします。
    4. 立式: 上記の整理に基づいて、力のつりあいの式や、伸び・力の関係式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 並列と直列のルールの混同:
    • 誤解: 直列接続なのに力の和をとってしまったり、並列接続なのに伸びの和をとってしまう。
    • 対策: 「並列=伸びが同じ」「直列=力が同じ」というキーワードを、図のイメージとセットで機械的に覚える。特に、直列で力が等しくなる理由は「作用・反作用の法則」と「力のつりあい」による力の伝達であると論理的に理解しておくことが、混同を防ぐ最善策です。
  • 合成ばね定数の公式の混同:
    • 誤解: 並列接続の合成ばね定数を、抵抗の並列と同じ逆数和の形で計算してしまう(\( \frac{1}{k} = \frac{1}{k_1}+\frac{1}{k_2} \))。
    • 対策: 公式を丸暗記するのではなく、その都度導出する癖をつけるのが理想です。それが難しい場合でも、「並列にすると硬くなる(\(k\)は大きくなる)から単純な足し算」「直列にすると柔らかくなる(\(k\)は小さくなる)から逆数和」という物理的なイメージと結びつけて覚えると、間違いにくくなります。
  • 直列接続での力の考え方:
    • 誤解: 上にあるばねAの方が、天井とおもりとばねBのすべてを支えているので、より大きな力がかかると考えてしまう。
    • 対策: ばねは「軽い」と仮定されていることを思い出してください。ばね自身の重さを無視すれば、ばねにはたらく力は両端の張力のみです。静止しているばね(や糸)の内部の張力は、どこでも一定です。したがって、ばねAもばねBも、結局はおもりの重さ \(mg\) と同じ大きさの力で引かれています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあい (\(\text{合力}=0\)):
    • 選定理由: すべての設問で、おもりやばねが最終的に「静止」して「つりあう」からです。
    • 適用根拠: (1)ではおもりにはたらく「重力」と「2本のばねの弾性力の合力」のつりあいを考えます。(3)では「おもり」と「ばねB」のつりあい、そして「ばねAとBの連結点」での力のつりあい(作用・反作用)を段階的に考えることで、各ばねにはたらく力を特定します。
  • フックの法則 (\(F=kx\)):
    • 選定理由: 問題がばねの「伸び」と「力」の関係を扱っているからです。これはばねの最も基本的な性質を表す法則です。
    • 適用根拠: 各ばねについて、そのばねにはたらく力 \(F\) と、そのばね自身の伸び \(x\) を関係づけるために使用します。例えば(3)では、\(F=mg\) という力がばねAとBの両方にはたらくことを突き止めた後、フックの法則を使ってそれぞれの伸び \(x_1 = F/k_1\), \(x_2 = F/k_2\) を計算します。
  • 合成ばね定数の定義式 (\(F_{\text{全体}} = k_{\text{合成}} x_{\text{全体}}\)):
    • 選定理由: (2)と(4)で、複数のばねからなる系全体を1本のばねと見なす「合成ばね定数」を求めるよう指示されているからです。
    • 適用根拠: (1)と(3)で求めた「系全体にかかる力(\(F_{\text{全体}}=mg\))」と「系全体の伸び(\(x_{\text{全体}}\))」をこの定義式に代入することで、未知数である \(k_{\text{合成}}\) を導き出します。これは、複雑な系を単純なモデルに置き換えるための思考ツールです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理: この問題のように文字式が複雑になる場合、特に分数の計算でミスが起こりがちです。
    • (3)の計算: \(mg(\frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2})\) のような形が出てきたら、焦らず通分(\(\frac{k_2+k_1}{k_1k_2}\))を丁寧に行う。
    • (4)の計算: \(1 = k_{\text{直}} \cdot \frac{k_1+k_2}{k_1k_2}\) のような式から \(k_{\text{直}}\) を求める際に、分母と分子を逆にしてしまうミスに注意する。両辺に逆数 \(\frac{k_1k_2}{k_1+k_2}\) を掛けるなど、確実な手順で変形する。
  • 極端な場合を考える(思考実験による検算):
    • 例えば、(1)で \(k_2=0\)(ばねBがただのひも)だとすると、伸びは \(x = mg/k_1\) となり、ばねA単体の場合と一致します。
    • (3)で \(k_2\) が無限に大きい(ばねBが硬い棒)とすると、\(1/k_2 \to 0\) なので、伸びは \(x = mg/k_1\) となり、これもばねA単体の場合と一致します。
    • このように、求めた式が物理的に妥当な極端なケースで成り立つかを確認することで、計算ミスを発見できることがあります。
  • 単位の確認: 最終的な答えの単位が、問題で問われている単位([m]や[N/m])と一致しているかを確認する癖をつけましょう。例えば、(1)で求めた \(mg/(k_1+k_2)\) の単位は \([N] / ([N/m]) = [m]\) となり、正しく長さの単位になっています。
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