基本問題
52 力のつりあい
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「3つの力のつり合い」です。静止した小球にはたらく3つの力(重力と2つの張力)のつり合いを考え、未知の張力の大きさを求めます。斜め方向の力を成分分解して考える方法が基本となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。これは、「水平方向の力の和=0」かつ「鉛直方向の力の和=0」という2つの式で表せます。
- 力の成分分解: 斜め方向の力(この問題では張力\(T_1\))を、計算しやすい水平・鉛直方向の成分に分解します。三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を用います。
- 力の合成: 2つの力(この問題では張力\(T_1\)と\(T_2\))の合力が、残りの1つの力(重力)とつり合う、という見方もできます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 解法1(成分分解): 小球にはたらく3つの力を図示し、斜めを向いている張力\(T_1\)を水平・鉛直成分に分解します。次に、「水平方向の力のつり合い」と「鉛直方向の力のつり合い」の2つの式を立て、連立させて解きます。
- 解法2(力の合成とつり合い): 2つの張力\(T_1, T_2\)の合力が、3つ目の力である重力とつり合う(大きさが等しく、向きが反対)と考えます。力のベクトルが作る直角三角形の辺の比を利用して、三角比から直接張力を求めます。
思考の道筋とポイント
糸1が引く力 \(T_1\) と糸2が引く力 \(T_2\) を求める問題です。小球は静止しているので、小球にはたらく3つの力(重力、張力\(T_1\)、張力\(T_2\))はつりあっています。
最も標準的な解法は、斜めを向いている力 \(\vec{T_1}\) を水平成分と鉛直成分に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てることです。この問題では、鉛直方向の力は重力と\(T_1\)の鉛直成分しかないので、まず鉛直方向のつり合いを解くことで\(T_1\)が直接求まります。次に、その結果を使って水平方向のつり合いを解けば\(T_2\)が求まります。
この設問における重要なポイント
- 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
- 水平方向の力の和 = 0
- 鉛直方向の力の和 = 0
- 斜め方向の力 \(\vec{T_1}\) を水平成分と鉛直成分に分解する。
具体的な解説と立式
小球にはたらく力は以下の3つです。
- 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)(大きさ \(W=3.0 \text{ N}\))
- 糸1が引く張力 \(\vec{T_1}\)(斜め左上向き)
- 糸2が引く張力 \(\vec{T_2}\)(水平右向き)
これらの力がつりあっているので、水平方向(右向きを正)と鉛直方向(上向きを正)で、それぞれ力の和がゼロになります。
まず、張力 \(\vec{T_1}\) を成分分解します。図より、糸1と天井(水平線)のなす角が\(60^\circ\)です。
- \(T_1\)の水平成分: \(T_1\cos60^\circ\)(左向き)
- \(T_1\)の鉛直成分: \(T_1\sin60^\circ\)(上向き)
力のつり合いの式を立てます。
鉛直方向のつり合い:
$$ T_1\sin60^\circ – W = 0 \quad \cdots ① $$
水平方向のつり合い:
$$ T_2 – T_1\cos60^\circ = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: 各方向の力の成分の和は0
- 力の成分分解
(1) 張力 \(T_1\) を求める
式①に \(W=3.0 \text{ N}\) を代入して \(T_1\) を解きます。
$$
\begin{aligned}
T_1\sin60^\circ – 3.0 &= 0 \\[2.0ex]
T_1 \times \frac{\sqrt{3}}{2} &= 3.0 \\[2.0ex]
T_1 &= 3.0 \times \frac{2}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 2\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &\approx 2 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 3.46 \\[2.0ex]
&\approx 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(2) 張力 \(T_2\) を求める
(1)で求めた \(T_1 = 2\sqrt{3}\) の値を式②に代入して \(T_2\) を解きます。
$$
\begin{aligned}
T_2 – (2\sqrt{3}) \times \cos60^\circ &= 0 \\[2.0ex]
T_2 &= 2\sqrt{3} \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
T_2 &\approx 1.73 \\[2.0ex]
&\approx 1.7 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
小球が静止しているので、力がバランスしています。斜め向きの力\(T_1\)を「横向き」と「縦向き」に分解して考えます。
まず、縦方向の力のバランスを見ます。上向きの力は「\(T_1\)の縦成分」だけで、下向きの力は「重力(3.0N)」だけです。これらがつりあっているので、「\(T_1\)の縦成分 = 3.0N」となります。この式から\(T_1\)の大きさが計算できます。
次に、横方向の力のバランスを見ます。右向きの力は「\(T_2\)」だけで、左向きの力は「\(T_1\)の横成分」だけです。これらがつりあっているので、「\(T_2\) = \(T_1\)の横成分」となります。先ほど求めた\(T_1\)の値を使って、\(T_2\)の大きさが計算できます。
糸1の張力は \(T_1 \approx 3.5 \text{ N}\)、糸2の張力は \(T_2 \approx 1.7 \text{ N}\) となります。計算過程、有効数字の処理ともに適切です。
思考の道筋とポイント
小球にはたらく3つの力 \(\vec{T_1}, \vec{T_2}, \vec{W}\) がつりあっているということは、2つの張力 \(\vec{T_1}\) と \(\vec{T_2}\) の合力 \(\vec{F}_{\text{合}}\) が、重力 \(\vec{W}\) とつりあっている(大きさが等しく、向きが逆)と考えることができます。この合力 \(\vec{F}_{\text{合}}\) は鉛直上向きで、大きさは \(3.0 \text{ N}\) です。
この設問における重要なポイント
- \(\vec{T_1} + \vec{T_2} + \vec{W} = 0 \iff \vec{T_1} + \vec{T_2} = -\vec{W}\)
- 張力の合力(鉛直上向き、3.0N)と、各張力ベクトルで構成される力の三角形を利用する。
- この力の三角形は、辺の比が \(1:2:\sqrt{3}\) の直角三角形になる。
具体的な解説と立式
張力 \(\vec{T_1}\) と \(\vec{T_2}\) の合力は、重力とつりあうので、鉛直上向きに \(3.0 \text{ N}\) の大きさを持つ。
力 \(\vec{T_1}\), \(\vec{T_2}\) とその合力で力の三角形(この場合は長方形の半分)を描くと、図のような直角三角形ができます。
糸1と天井のなす角が\(60^\circ\)なので、張力\(\vec{T_1}\)と水平線がなす角も\(60^\circ\)です。
この直角三角形において、
$$ (T_1\text{の鉛直成分}) = 3.0 \text{ N} $$
$$ T_1 \sin60^\circ = 3.0 $$
また、
$$ (T_1\text{の水平成分}) = T_2 $$
$$ T_1 \cos60^\circ = T_2 $$
これらの式を解くことで、\(T_1\)と\(T_2\)が求まります。
計算過程
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{3.0}{\sin60^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{3.0}{\sqrt{3}/2} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 2\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 2 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 3.46 \approx 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
T_2 &= T_1 \cos60^\circ \\[2.0ex]
&= (2\sqrt{3}) \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 1.73 \approx 1.7 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
糸1と糸2が協力して、重力(3.0N)を真上に持ち上げていると考えます。このとき、力の関係は、辺の比が\(1:2:\sqrt{3}\)の三角定規の形になります。斜辺が\(T_1\)、高さが重力(3.0N)、底辺が\(T_2\)に対応します。この三角定規の角度の関係(\(60^\circ\))と辺の比を使って、高さが3.0Nのときの斜辺と底辺の長さを計算します。
結論と吟味
結果は成分分解で解いた場合と完全に一致します。図形的な関係を素早く見抜くことができれば、こちらの解法の方が計算が速い場合があります。
解答 (2) \(1.7 \text{ N}\)
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 3つの力のつり合い:
- 核心: 物体が静止しているとき、その物体にはたらく3つの力のベクトル和はゼロになる、という静力学の基本原則。この問題を解くためのアプローチは大きく分けて2つあり、どちらも理解しておくことが重要です。
- 理解のポイント:
- 成分分解による解法: 1つの力を、他の2つの力と直交する座標軸(通常は水平・鉛直)に分解し、「水平方向の力の和=0」「鉛直方向の力の和=0」という2つのスカラー方程式を立てて解く方法。最も汎用的で確実なアプローチです。
- 図形的な解法(力の合成): 2つの力(例:\(\vec{T_1}, \vec{T_2}\))の合力が、残りの1つの力(\(\vec{W}\))とつり合う(大きさが等しく向きが逆)と考える方法。力のベクトルが作る三角形の幾何学的な性質(三角比など)を利用して解きます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上で物体を水平に引く: 重力を斜面に平行・垂直な成分に分解し、さらに水平な張力をそれらの成分に分解する必要がある、より複雑なつり合い問題。
- 壁に立てかけたはしごのつり合い: はしごにはたらく重力、床からの垂直抗力・摩擦力、壁からの垂直抗力のつり合いを考える問題。力のつり合いだけでなく、力のモーメントのつり合いも必要になることが多い。
- ラミの定理の活用: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{F_3}\) がつりあっているとき、各力の大きさと、他の2つの力がなす角の正弦(サイン)との間には \(\displaystyle\frac{F_1}{\sin\theta_1} = \frac{F_2}{\sin\theta_2} = \frac{F_3}{\sin\theta_3}\) という関係が成り立つ。これを知っていると検算や、角度が複雑な問題で役立つことがある。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示: まず、注目物体(小球)にはたらく力を全て(重力、張力など)漏れなく図示する。
- 分解する力の選択: どの力を成分分解すれば計算が最も楽になるかを見極める。この問題では、重力\(\vec{W}\)と張力\(\vec{T_2}\)はすでに座標軸(鉛直・水平)上にあるため、斜めを向いた\(\vec{T_1}\)だけを分解するのが最も効率的です。
- 解法の選択:
- 力が3つで、角度が \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) など綺麗な場合は、図形的な解法(別解)が使えないか検討する。
- それ以外の場合や、自信がない場合は、迷わず成分分解による方法で解く。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の分解における角度の取り違え:
- 誤解: 図に示された\(60^\circ\)が、水平線となす角なのか、鉛直線となす角なのかを混同し、\(\sin\)と\(\cos\)を逆にしてしまう。
- 対策: 必ず、分解したいベクトルを斜辺とする直角三角形を自分で描き、与えられた角度がどこに対応するのか(錯角や同位角の関係)を明確に図示する。「角度\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)成分」という原則を徹底する。
- 連立方程式を解くと思い込む:
- 誤解: 水平・鉛直の2つの式を立てた後、必ず連立方程式として解かなければならないと思い込み、遠回りな計算をしてしまう。
- 対策: 式を立てた後、全体を眺めてみること。この問題のように、片方の式(鉛直方向)だけで未知数が1つに定まり、その結果をもう片方の式に代入するだけで解ける場合が多い。
- 近似値計算のタイミング:
- 誤解: 計算の早い段階で \(\sqrt{3} \approx 1.73\) を代入してしまい、計算が複雑になったり、誤差が大きくなったりする。
- 対策: \(T_1 = 2\sqrt{3}\) のように、計算の途中ではルートや分数のまま計算を進めるのが基本。近似値の代入は、最終的な数値を求める最後の段階で行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
- 選定理由: 問題文に「静止させた」と明記されているため。物理的に「加速度\(\vec{a}=0\)」の状態であり、ニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) から、合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) がゼロであることが導かれます。このベクトル方程式を、人間が計算できる2つのスカラー方程式に変換したものが、このつり合いの式です。
- 力の合成とつり合い(別解):
- 選定理由: 3つの力がつりあっているという状況を、別の視点から捉え直すため。 \(\vec{A}+\vec{B}+\vec{C}=0\) という式は、\(\vec{A}+\vec{B}=-\vec{C}\) と変形できます。これは「2つの力の合力が、残りの1つの力と大きさが等しく逆向きである」ことを意味し、この関係を利用することで、問題をより幾何学的に解くことができます。特に、力のなす角が直角になる場合などに有効な考え方です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角比の値の暗記: \(\sin60^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\cos60^\circ = 1/2\) といった基本的な三角比の値は、即座に、かつ正確に使えるようにしておくことが大前提です。
- 分母の有理化: \(T_1 = 3.0 \times (2/\sqrt{3})\) の計算では、まず分母を有理化して \(2\sqrt{3}\) という形にしてから、\(\sqrt{3}\)の近似値を代入する方が、計算ミスが少なくなります。
- 有効数字の意識: 問題で与えられている「重さ3.0N」は有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁にそろえる必要があります。\(3.46 \rightarrow 3.5\), \(1.73 \rightarrow 1.7\) のように、計算結果を適切に丸める処理を忘れないようにしましょう。
- 物理的な妥当性の確認: 計算後、\(T_1\)(斜辺)がその成分である\(T_2\)(底辺)や\(W\)の成分(高さ)よりも大きくなっているか、といった基本的な大小関係が成り立っているかを確認するだけでも、大きなミスを発見できることがあります。
53 力のつりあい
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数の斜め方向の力がはたらく力のつり合い」です。荷物が静止しているという状況から、荷物にはたらく3つの力(重力と2つの張力)のつり合いを考え、未知の張力の大きさを求めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。これは、「水平方向の力の和=0」かつ「鉛直方向の力の和=0」という2つの式で表せます。
- 力の成分分解: 斜め方向の力(この問題では張力\(\vec{F_1}\)と\(\vec{F_2}\))を、計算しやすい水平・鉛直方向の成分に分解します。
- 三角関数の適用: 力を成分分解する際に、与えられた角度と三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を正しく用いる必要があります。
- 連立方程式の解法: 水平方向と鉛直方向のつり合いから得られる2つの式を、連立方程式として解く数学的なスキルが求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、荷物にはたらく3つの力を図示します。
- 次に、2つの張力\(\vec{F_1}\)と\(\vec{F_2}\)を、それぞれ水平成分と鉛直成分に分解します。
- 「水平方向の力のつり合い」と「鉛直方向の力のつり合い」の2つの式を立てます。
- 得られた連立方程式を解いて、未知の張力\(F_1\)と\(F_2\)を求めます。
思考の道筋とポイント
荷物にはたらく3つの力(重力\(\vec{W}\)、張力\(\vec{F_1}\)、張力\(\vec{F_2}\))がつりあっている状況です。2つの張力がどちらも斜め方向を向いているため、両方を水平成分と鉛直成分に分解する必要があります。それぞれの方向で力のつり合いの式を立てると、\(F_1\)と\(F_2\)を未知数とする連立方程式が得られます。これを解くことで、それぞれの張力の大きさを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
- 水平方向の力の和 = 0、鉛直方向の力の和 = 0。
- 与えられた角度(\(45^\circ, 30^\circ\))が「鉛直線」となす角であることに注意する。
- 鉛直線とのなす角が\(\theta\)のとき、鉛直成分は\(\cos\theta\)、水平成分は\(\sin\theta\)を用いて表される。
具体的な解説と立式
荷物にはたらく力は、鉛直下向きの重力\(\vec{W}\)、ひも1が引く張力\(\vec{F_1}\)、ひも2が引く張力\(\vec{F_2}\)の3つです。
これらの力がつりあっているため、水平方向と鉛直方向でそれぞれ力の和がゼロになります。
各張力を水平・鉛直成分に分解します。問題の図より、角度は鉛直線とのなす角で与えられています。
- \(\vec{F_1}\)の成分:
- 水平成分: \(F_1\sin45^\circ\)(左向き)
- 鉛直成分: \(F_1\cos45^\circ\)(上向き)
- \(\vec{F_2}\)の成分:
- 水平成分: \(F_2\sin30^\circ\)(右向き)
- 鉛直成分: \(F_2\cos30^\circ\)(上向き)
力のつり合いの式を立てます。
水平方向(右向きを正)のつり合い:
$$ F_2\sin30^\circ – F_1\sin45^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
鉛直方向(上向きを正)のつり合い:
$$ F_1\cos45^\circ + F_2\cos30^\circ – W = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: 各方向の力の成分の和は0
- 力の成分分解
式①と②に、具体的な三角比の値を代入します。
式①より:
$$
\begin{aligned}
F_2 \cdot \frac{1}{2} – F_1 \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} &= 0 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}F_2 &= \frac{1}{\sqrt{2}}F_1 \\[2.0ex]
F_2 &= \sqrt{2}F_1 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
式②より:
$$ F_1 \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} + F_2 \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} – W = 0 \quad \cdots ④ $$
式③を式④に代入して、まず\(F_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\sqrt{2}}F_1 + (\sqrt{2}F_1) \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} – W &= 0 \\[2.0ex]
\frac{1}{\sqrt{2}}F_1 + \frac{\sqrt{6}}{2}F_1 &= W \\[2.0ex]
\left( \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{6}}{2} \right) F_1 &= W \\[2.0ex]
\frac{\sqrt{2}+\sqrt{6}}{2} F_1 &= W \\[2.0ex]
F_1 &= \frac{2}{\sqrt{6}+\sqrt{2}}W
\end{aligned}
$$
分母を有理化します。
$$
\begin{aligned}
F_1 &= \frac{2(\sqrt{6}-\sqrt{2})}{(\sqrt{6}+\sqrt{2})(\sqrt{6}-\sqrt{2})}W \\[2.0ex]
&= \frac{2(\sqrt{6}-\sqrt{2})}{6-2}W \\[2.0ex]
&= \frac{2(\sqrt{6}-\sqrt{2})}{4}W \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}W
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式③に代入して\(F_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
F_2 &= \sqrt{2} \left( \frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2} \right) W \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{12}-2}{2}W \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{3}-2}{2}W \\[2.0ex]
&= (\sqrt{3}-1)W
\end{aligned}
$$
荷物が静止しているので、力がバランスしています。斜め上向きに働く2つの力\(F_1\)と\(F_2\)を、それぞれ「横向きの力」と「縦向きの力」に分解して考えます。
力のバランスは、以下の2つのルールで成り立っています。
- 「右向きの力の合計」と「左向きの力の合計」が等しい。
- 「上向きの力の合計」と「下向きの力(重さ\(W\))」が等しい。
この2つのルールを数式にすると、\(F_1\)と\(F_2\)についての連立方程式ができます。この連立方程式を、代入法などを使って丁寧に解いていくと、それぞれの力の大きさが\(W\)を使って表せます。
各ひもが引く力の大きさは、\(F_1 = \displaystyle\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}W\)、\(F_2 = (\sqrt{3}-1)W\) となります。
水平方向のつり合いから \(F_2 \sin30^\circ = F_1 \sin45^\circ\)、すなわち \(\frac{1}{2}F_2 = \frac{1}{\sqrt{2}}F_1\) となり、\(F_2 = \sqrt{2}F_1 \approx 1.41 F_1\) の関係があります。これは、より鉛直に近い角度で引く\(F_2\)の方が、より水平に近い角度で引く\(F_1\)よりも大きな力でなければ、水平方向のつり合いが取れないことを意味します。
計算結果を近似値で比較すると、\(F_1 \approx \frac{2.45-1.41}{2}W = 0.52W\)、\(F_2 \approx (1.73-1)W = 0.73W\) となり、\(F_2 > F_1\) の関係が成り立っており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いの条件(成分分解法):
- 核心: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロである、という物理学の基本原則。この問題のように、複数の力が斜め方向にはたらく複雑な状況では、各力を「水平方向」と「鉛直方向」の成分に分解し、「水平方向の力の和がゼロ」「鉛直方向の力の和がゼロ」という2つの独立した式を立てて解くのが最も標準的で強力なアプローチです。
- 理解のポイント: この方法は、ベクトルで表される力のつり合いの問題を、未知数が2つの連立一次方程式を解くという、純粋な代数の問題に変換する手続きです。
- 力の成分分解における角度の正しい適用:
- 核心: 力を成分分解する際、与えられた角度が「どの線を基準にした角か」を正確に読み取り、三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を正しく選択する能力。
- 理解のポイント: この問題では、角度が「鉛直線」となす角として与えられています。この場合、
- 鉛直成分(角度を挟む辺)は \(\cos\) を用いて \(F\cos\theta\)
- 水平成分(角度の対辺)は \(\sin\) を用いて \(F\sin\theta\)
となります。水平線とのなす角が与えられた場合とは、\(\sin\) と \(\cos\) の使い方が逆になることに注意が必要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 3つの力が一点で交わるつり合い問題全般: 糸で吊るした物体、3本のばねの連結点など、様々な状況に応用できます。
- 構造物の静力学: 橋のトラス構造などで、各部材にはたらく力を計算する問題の基礎となります。
- ラミの定理: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{W}\) がつりあっているとき、各力の大きさと、他の2つの力がなす角の正弦(サイン)との間には \(\displaystyle\frac{F_1}{\sin(180^\circ-30^\circ)} = \frac{F_2}{\sin(180^\circ-45^\circ)} = \frac{W}{\sin(45^\circ+30^\circ)}\) という関係が成り立ちます。これを使っても解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示と角度の書き込み: まず、物体にはたらく力をすべて図示します。次に、与えられた角度がどの線とどの線の間の角なのかを、分解用の補助線とともに正確に図に描き込みます。
- 座標軸の設定: 水平・鉛直方向をx, y軸とするのが最も一般的で間違いが少ないです。
- 連立方程式の立式: 水平方向と鉛直方向、それぞれについて力のつり合いの式を立てます。この時点では、まだ具体的な数値は代入せず、文字式のまま立てるのがセオリーです。
- 解法の戦略: 立てた2つの式を見て、どちらかの変数を消去しやすい形(例:\(F_1 = \dots F_2\))に一方の式を変形できないか検討します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 角度の基準の勘違い:
- 誤解: 問題で与えられた角度(鉛直線とのなす角)を、水平線とのなす角だと勘違いして、\(\sin\)と\(\cos\)を逆にしてしまう。
- 対策: 必ず図を描き、与えられた角度がどこなのかを明確にマーキングする。「角度\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)」という原則に立ち返れば、基準が鉛直線であっても間違えることはありません。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: ルート(\(\sqrt{2}, \sqrt{3}, \sqrt{6}\))が多数含まれる計算で、代入や展開、有理化の過程でミスをする。
- 対策: 計算過程を省略せず、一行ずつ丁寧に書くこと。特に、分母の有理化(例:\(\sqrt{a}+\sqrt{b}\)の形には\(\sqrt{a}-\sqrt{b}\)を掛ける)は、落ち着いて正確に行う。
- 符号のミス:
- 誤解: 水平方向のつり合いの式を立てる際、左向きの力にマイナスをつけ忘れる。
- 対策: 式を立てる前に、必ず「右向きを正」「上向きを正」のように、座標軸の正の向きを宣言し、それに従って各成分の符号を決定する習慣をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
- 選定理由: 問題文に「荷物を…持って支える」とあり、荷物が「静止」している状態を扱っているため。物理学の基本法則であるニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) において、静止状態は加速度 \(\vec{a}=0\) の特別な場合です。これにより、合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) がゼロであることが保証されます。このベクトル方程式を、計算可能な2つのスカラー方程式(成分ごとの式)に変換したものが、このつり合いの式です。
- 力の成分分解:
- 選定理由: 2つの未知の力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}\) がどちらも斜めを向いており、ベクトルとして直接扱うのが困難なため。ベクトルを互いに直交する成分に分解することで、向きの問題を符号(+, -)で処理し、大きさの問題を代数方程式に帰着させることができます。これは、ベクトル演算における最も基本的かつ強力な手法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: \(F_1, F_2, W\) や \(\sin45^\circ, \cos30^\circ\) などの記号のまま、できるだけ計算を進め、最後の最後に具体的な数値を代入する方が、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 分母の有理化をマスターする: \( \displaystyle\frac{2}{\sqrt{6}+\sqrt{2}} \) のような式の有理化は、物理計算で頻出します。\( (a+b)(a-b)=a^2-b^2 \) の公式を利用する手順を確実に身につけておきましょう。
- 検算:
- 代入による検算: 求めた \(F_1\) と \(F_2\) の式を、元のつり合いの式①と②の両方に代入し、矛盾なく成り立つかを確認する。
- 近似値による検算: \(\sqrt{2}\approx 1.4, \sqrt{3}\approx 1.7, \sqrt{6}\approx 2.4\) などの概算値を使って、求めた力の大きさが物理的に妥当な範囲にあるか(極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか)を確認する。例えば、\(F_1\)と\(F_2\)の鉛直成分の和が、おおよそ\(W\)になるかを確認します。
54 斜面上の力のつりあい
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「なめらかな斜面上の力のつり合い」です。斜面上に置かれた物体が、糸で引き上げられて静止している状況を扱います。斜面上の問題を解くための基本手順である「力の分解」と「方向ごとのつり合い」を正しく適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。
- 座標軸の設定: 斜面上の問題では、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えると計算が簡単になります。
- 重力の成分分解: 鉛直下向きにはたらく重力を、上記で設定した座標軸の方向に分解します。
- なめらかな面: 「なめらか」という記述は、摩擦力がはたらかない(摩擦を無視してよい)ことを意味します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、物体にはたらく全ての力(重力、張力、垂直抗力)を図示します。
- 次に、重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解します。
- 「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」のそれぞれについて、力のつり合いの式を立てます。
- 立てた2つの式を解くことで、未知の張力\(T\)と垂直抗力\(N\)を求めます。
思考の道筋とポイント
なめらかな斜面上で、糸で引かれて静止している物体にはたらく張力\(T\)と垂直抗力\(N\)を求める問題です。「静止」していることから、物体にはたらく力はつりあっています。斜面上の問題の定石通り、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分けて考えます。この2つの方向は互いに独立しているので、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てれば、未知数を一つずつ求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
- 斜面上の力のつり合いは、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」の2つの方向で考える。
- 重力\(W\)を分解する:斜面に平行な成分は\(W\sin\theta\)、斜面に垂直な成分は\(W\cos\theta\)。
- 「なめらか」なので、摩擦力は考えなくてよい。
具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、以下の3つです。
- 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)(大きさ \(W=20 \text{ N}\))
- 斜面に沿って上向きの張力 \(\vec{T}\)
- 斜面から垂直に押し返す垂直抗力 \(\vec{N}\)
これらの力がつりあっているため、斜面に平行な方向と垂直な方向で、それぞれ力の和がゼロになります。
まず、重力\(\vec{W}\)をこの2つの方向に分解します。斜面の傾斜角は \(\theta=45^\circ\) です。
- 斜面に平行な成分:\(W\sin45^\circ\)(斜面下向き)
- 斜面に垂直な成分:\(W\cos45^\circ\)(斜面を押す向き)
力のつり合いの式を立てます。
斜面に平行な方向のつり合い(斜面を上る向きを正とする):
張力\(T\)と、重力の滑り落ちようとする成分\(W\sin45^\circ\)がつりあっています。
$$ T – W\sin45^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
斜面に垂直な方向のつり合い(斜面から離れる向きを正とする):
垂直抗力\(N\)と、重力の斜面を押し付ける成分\(W\cos45^\circ\)がつりあっています。
$$ N – W\cos45^\circ = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件
- 重力の成分分解
式①と②に、\(W=20 \text{ N}\) と三角比の値を代入して、\(T\)と\(N\)をそれぞれ求めます。
張力\(T\)の計算:
式①より、
$$
\begin{aligned}
T &= W\sin45^\circ \\[2.0ex]
&= 20 \times \frac{\sqrt{2}}{2} \\[2.0ex]
&= 10\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &\approx 10 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 14.1 \approx 14 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
垂直抗力\(N\)の計算:
式②より、
$$
\begin{aligned}
N &= W\cos45^\circ \\[2.0ex]
&= 20 \times \frac{\sqrt{2}}{2} \\[2.0ex]
&= 10\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
N &\approx 10 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 14.1 \approx 14 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
物体が斜面上で静止しているので、力がバランスしています。このバランスを「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」の2つに分けて考えます。
- 斜面に沿う方向: 物体は重力によって滑り落ちようとしますが、糸がそれを引き上げています。この「滑り落ちようとする力」は重力の一部で、\(20 \times \sin45^\circ\)で計算できます。糸の張力\(T\)は、これとちょうどつりあっています。
- 斜面に垂直な方向: 物体は重力によって斜面を押し付けていますが、斜面がそれを支え返しています。この「斜面を押し付ける力」も重力の一部で、\(20 \times \cos45^\circ\)で計算できます。垂直抗力\(N\)は、これとちょうどつりあっています。
\(\sin45^\circ\)と\(\cos45^\circ\)は同じ値なので、\(T\)と\(N\)も同じ大きさになります。
張力の大きさは \(T \approx 14 \text{ N}\)、垂直抗力の大きさは \(N \approx 14 \text{ N}\) となります。
傾斜角が\(45^\circ\)の場合、重力の斜面平行成分と垂直成分の大きさが等しくなるため、それらとつりあう張力と垂直抗力の大きさも等しくなります。この結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜面上の力のつり合い:
- 核心: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになる、という「力のつり合い」の法則を、斜面という状況で適用することがこの問題の全てです。
- 理解のポイント:
- 座標軸の選択が鍵: 斜面の問題では、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解するのが定石です。この2つの方向は互いに独立しているため、それぞれの方向で別々につり合いの式を立てることができます。
- 重力の成分分解: この座標軸を選択した結果、鉛直下向きの重力を「斜面を滑り落ちさせようとする力(\(W\sin\theta\))」と「斜面を垂直に押す力(\(W\cos\theta\))」に分解する必要が生じます。この分解が正確にできることが、問題を解くための必須スキルです。
- 問題文のキーワード読解:
- 核心: 「静止させる」「なめらか」といった物理用語を、物理的な条件に正しく翻訳する能力。
- 理解のポイント:
- 「静止」\(\rightarrow\) 力がつりあっている(合力がゼロ)。
- 「なめらか」\(\rightarrow\) 摩擦力がはたらかない(摩擦を無視できる)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 摩擦のある斜面: 「なめらか」でない場合、物体には摩擦力がはたらきます。
- 糸で引いて静止 \(\rightarrow\) 張力と静止摩擦力が協力して、重力の平行成分とつり合います。
- ただ置かれて静止 \(\rightarrow\) 静止摩擦力が単独で、重力の平行成分とつり合います。
- 斜面上の運動: 物体が静止せず、一定の加速度で運動している場合。力のつり合いの式ではなく、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。各方向にはたらく力の合力が、その方向の加速度を生み出します。
- 引く力が斜めの場合: 糸で引く力が斜面に平行ではなく、さらに角度がついている場合。その張力も「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解する必要があります。
- 摩擦のある斜面: 「なめらか」でない場合、物体には摩擦力がはたらきます。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動状態の確認: まず、物体が「静止」しているか「運動」しているかを確認し、「力のつり合い」か「運動方程式」か、立てるべき式の種類を判断します。
- 力の全図示: 物体にはたらく力を、重力、張力、垂直抗力、摩擦力(この問題では無い)など、漏れなく全て描き込みます。
- 座標軸の設定と力の分解: 迷わず「斜面に平行・垂直」に座標軸を設定し、軸に対して斜めを向いている力(通常は重力)を全て成分分解します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 重力分解のsinとcosの混同:
- 誤解: 斜面に平行な成分を\(W\cos\theta\)、垂直な成分を\(W\sin\theta\)と逆にしてしまう、最も典型的なミス。
- 対策: 分解してできる直角三角形において、斜面の角度\(\theta\)は、重力ベクトルと「斜面に垂直な線」との間の角に等しくなります。この角\(\theta\)を挟む辺が「隣辺」なので\(\cos\theta\)成分(垂直成分)、向かい合う辺が「対辺」なので\(\sin\theta\)成分(平行成分)と、図形的に理解するのが最も確実です。
- 垂直抗力 \(N=W\) という思い込み:
- 誤解: 水平な床に物体を置いたときの癖で、垂直抗力の大きさを常に重力と同じ\(W\)だと考えてしまう。
- 対策: 垂直抗力は、あくまで「面を垂直に押す力」とつり合う力です。斜面の場合、面を垂直に押す力は重力そのものではなく、重力の垂直成分 \(W\cos\theta\) です。したがって、\(N=W\cos\theta\) となります。
- 重さ(N)と質量(kg)の混同:
- 誤解: この問題では「重さ20N」と直接与えられていますが、もし「質量20kg」と与えられた場合に、重力加速度\(g\)を掛け忘れてしまう。
- 対策: 単位を常に意識すること。力の単位は[N]、質量の単位は[kg]です。問題で与えられたのがどちらなのかを最初に確認し、質量であれば \(W=mg\) の計算を必ず行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(T – W\sin45^\circ = 0\), etc.):
- 選定理由: 問題文に「静止させる」とあるため、物体の加速度はゼロです。ニュートンの運動法則 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) に \(\vec{a}=0\) を代入すると、合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) がゼロでなければならない、という物理法則が導かれます。このベクトル方程式を、計算可能な2つの独立した方向(斜面に平行・垂直)のスカラー方程式に書き直したものが、これらのつり合いの式です。
- 重力の成分分解 (\(W\sin\theta, W\cos\theta\)):
- 選定理由: 力のつり合いを考える際、ベクトルをそのまま扱うのは困難です。そこで、計算を容易にするために、全ての力を設定した座標軸の方向に分解します。この問題では、張力\(T\)と垂直抗力\(N\)がすでに座標軸の方向を向いているため、重力\(W\)だけを分解すれば、全ての力を軸方向の成分で表現できます。これは、ベクトル問題を代数問題に変換するための数学的な手続きです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角比の値の正確さ: \(\sin45^\circ = \cos45^\circ = \frac{\sqrt{2}}{2}\) (\( \approx 0.707\)) という値を正確に覚えておくこと。
- 近似値の計算: \(10\sqrt{2}\) の計算では、問題文で特に指定がなければ \(\sqrt{2}=1.41\) や \(\sqrt{2}=1.414\) を使って計算します。計算結果の有効数字は、問題で与えられた数値(この場合は「20N」の2桁)に合わせるのが一般的です。\(10 \times 1.41 = 14.1\) を四捨五入して \(14 \text{ N}\) とします。
- 辺の比の利用(別解・検算): 傾斜角が\(45^\circ\)なので、重力\(W\)を斜辺とする直角三角形の他の2辺が、平行成分と垂直成分になります。この三角形は辺の比が \(1:1:\sqrt{2}\) の直角二等辺三角形になります。したがって、平行成分 = 垂直成分 = \(W \times \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{W\sqrt{2}}{2}\) と、比を使って計算することもできます。
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