基本問題
506 放射性崩壊
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射性崩壊系列と保存則」です。不安定な原子核が、\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊を繰り返しながら、より安定な原子核へと変化していく一連の過程(崩壊系列)を扱います。この過程全体を通して、質量数と原子番号(電荷)の変化に関する保存則を正しく立式し、連立方程式として解く能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(\alpha\)崩壊: \(1\)回の\(\alpha\)崩壊で、質量数が\(4\)減少し、原子番号が\(2\)減少することを理解していること。
- \(\beta\)崩壊: \(1\)回の\(\beta\)崩壊で、質量数は変化せず、原子番号が\(1\)増加することを理解していること。
- 質量数と原子番号の保存: 崩壊系列の最初と最後で、質量数と原子番号の変化量が、途中の\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊の回数によって説明できることを理解し、立式できること。
- 連立方程式: 質量数と原子番号、それぞれの変化について立てた\(2\)つの式を、連立方程式として解くことができること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- \(\alpha\)崩壊の回数を\(\alpha\)回、\(\beta\)崩壊の回数を\(\beta\)回と未知数で置きます。
- 質量数の変化に着目して、方程式を\(1\)本立てます。質量数は\(\alpha\)崩壊によってのみ変化するため、この式からまず\(\alpha\)崩壊の回数\(\alpha\)が求まります。
- 次に、原子番号の変化に着目して、方程式をもう\(1\)本立てます。原子番号は\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊の両方で変化します。
- 原子番号の式に、先ほど求めた\(\alpha\)崩壊の回数\(\alpha\)を代入することで、\(\beta\)崩壊の回数\(\beta\)を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、\({}_{92}^{238}\text{U}\) が最終的に \({}_{82}^{206}\text{Pb}\) になるまでに、\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊がそれぞれ何回起こったかを求める問題です。
崩壊がどのような順番で起こったかは分からなくても、最初と最後の原子核が分かっていれば、トータルでの質量数と原子番号の変化量を計算できます。この変化量が、\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊の組み合わせによって引き起こされたものとして、連立方程式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント
- \(\alpha\)崩壊が\(1\)回起こると: 質量数 \(\rightarrow\) \(4\)減少, 原子番号 \(\rightarrow\) \(2\)減少。
- \(\beta\)崩壊が\(1\)回起こると: 質量数 \(\rightarrow\) 変化なし, 原子番号 \(\rightarrow\) \(1\)増加。
- 質量数の変化は\(\alpha\)崩壊のみが関与するため、先に\(\alpha\)崩壊の回数を特定できる。
具体的な解説と立式
\(\alpha\)崩壊の回数を\(\alpha\)回、\(\beta\)崩壊の回数を\(\beta\)回とします。
まず、質量数\(A\)の変化に着目します。
最初の質量数は\(238\)、最後の質量数は\(206\)です。
質量数は、\(1\)回の\(\alpha\)崩壊で\(4\)減少し、\(\beta\)崩壊では変化しません。
したがって、\(\alpha\)回の\(\alpha\)崩壊による質量数の変化について、次の方程式が成り立ちます。
$$ 238 – 4\alpha = 206 \quad \cdots ① $$
次に、原子番号\(Z\)の変化に着目します。
最初の原子番号は\(92\)、最後の原子番号は\(82\)です。
原子番号は、\(1\)回の\(\alpha\)崩壊で\(2\)減少し、\(1\)回の\(\beta\)崩壊で\(1\)増加します。
したがって、\(\alpha\)回の\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)回の\(\beta\)崩壊による原子番号の変化について、次の方程式が成り立ちます。
$$ 92 – 2\alpha + \beta = 82 \quad \cdots ② $$
これら\(2\)つの式を連立させて、\(\alpha\)と\(\beta\)を求めます。
使用した物理公式
- 質量数保存則に基づく立式
- 原子番号保存則(電荷保存則)に基づく立式
まず、式①を解いて\(\alpha\)崩壊の回数\(\alpha\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
238 – 4\alpha &= 206 \\[2.0ex]
4\alpha &= 238 – 206 \\[2.0ex]
4\alpha &= 32 \\[2.0ex]
\alpha &= 8
\end{aligned}
$$
したがって、\(\alpha\)崩壊は\(8\)回起こったことがわかります。
次に、この \(\alpha=8\) を式②に代入して、\(\beta\)崩壊の回数\(\beta\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
92 – 2(8) + \beta &= 82 \\[2.0ex]
92 – 16 + \beta &= 82 \\[2.0ex]
76 + \beta &= 82 \\[2.0ex]
\beta &= 82 – 76 \\[2.0ex]
\beta &= 6
\end{aligned}
$$
したがって、\(\beta\)崩壊は\(6\)回起こったことがわかります。
ウラン(\({}^{238}\text{U}\))が鉛(\({}^{206}\text{Pb}\))に変わる壮大な旅を考えます。この旅では、\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊という\(2\)種類のイベントが起こります。
まず、体重(質量数)の変化に注目します。体重は\(\alpha\)崩壊でしか減りません(\(1\)回で\(4\text{kg}\)減るイメージ)。ウランの体重\(238\)が鉛の体重\(206\)まで、合計\(32\)減っています。\(1\)回で\(4\)ずつ減るなら、\(32 \div 4 = 8\)回、\(\alpha\)崩壊が起こったはずです。
次に、背番号(原子番号)の変化に注目します。背番号は\(\alpha\)崩壊で\(2\)減り、\(\beta\)崩壊で\(1\)増えます。ウランの背番号\(92\)が鉛の\(82\)になるには、合計\(10\)減る必要があります。\(\alpha\)崩壊が\(8\)回あったので、\(2 \times 8 = 16\)だけ減るはずでした。しかし、実際には\(10\)しか減っていません。これは、途中で\(\beta\)崩壊によって背番号が増えたからです。\(16 – 10 = 6\)だけ、\(\beta\)崩壊によって背番号が回復した、つまり\(\beta\)崩壊が\(6\)回あった、と計算できます。
計算の結果、\(\alpha\)崩壊は\(8\)回、\(\beta\)崩壊は\(6\)回と求められました。
検算してみましょう。
質量数: \(238 – 4 \times 8 = 238 – 32 = 206\)。OK。
原子番号: \(92 – 2 \times 8 + 1 \times 6 = 92 – 16 + 6 = 76 + 6 = 82\)。OK。
計算は正しく、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 質量数と原子番号の保存則の応用
- 核心: この問題の根幹は、複雑に見える放射性崩壊系列全体を、単一の化学反応式のように捉え、「反応の前後で質量数と原子番号(に由来する電荷)のそれぞれの総和は変わらない」という\(2\)つの独立した保存則を適用することにあります。
- 理解のポイント:
- \(2\)つの独立した帳簿: 質量数の変化と原子番号の変化を、それぞれ別の帳簿につけるように考えます。
- 質量数の帳簿: 変化の原因は\(\alpha\)崩壊(\(-4\))のみ。\(\beta\)崩壊は影響しません。この単純さが、問題を解く上での突破口になります。
- 原子番号の帳簿: 変化の原因は\(\alpha\)崩壊(\(-2\))と\(\beta\)崩壊(\(+1\))の両方。
- 解法の戦略: まず、原因が一つしかない「質量数の帳簿」から\(\alpha\)崩壊の回数を確定させ、その結果を「原子番号の帳簿」に適用して残りの未知数である\(\beta\)崩壊の回数を求める、という\(2\)段階のアプローチが最も合理的で強力な解法です。
- \(2\)つの独立した帳簿: 質量数の変化と原子番号の変化を、それぞれ別の帳簿につけるように考えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の崩壊系列: ウラン系列だけでなく、トリウム系列(\({}^{232}\text{Th} \rightarrow {}^{208}\text{Pb}\))やアクチニウム系列(\({}^{235}\text{U} \rightarrow {}^{207}\text{Pb}\))など、他の天然放射性崩壊系列についても全く同じ考え方で\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊の回数を計算できます。
- 人工原子核の崩壊: 天然に存在しない人工的に作られた原子核が、安定な原子核になるまでの崩壊回数を問う問題にも応用可能です。
- 陽電子放出(\(\beta^+\)崩壊)や電子捕獲を含む問題: 高校範囲を超えることが多いですが、もし\(\beta^+\)崩壊(陽子→中性子+陽電子)や電子捕獲(陽子+電子→中性子)といった、原子番号が減少するタイプの崩壊が含まれる場合でも、それぞれの崩壊が質量数と原子番号にどう影響するかを正しく把握すれば、同様に連立方程式で解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 始点と終点の核種を特定: まず、反応前の原子核(例: \({}_{92}^{238}\text{U}\))と、反応後の原子核(例: \({}_{82}^{206}\text{Pb}\))の質量数と原子番号を正確に抜き出します。
- 質量数の変化量を確認: \(A_{ \text{初} } – A_{ \text{終} }\) を計算します。この差は必ず\(4\)の倍数になるはずです(ならなければ問題設定が誤り)。この差を\(4\)で割ることで、\(\alpha\)崩壊の回数が即座に確定します。
- 原子番号の変化量を確認: \(Z_{ \text{初} } – Z_{ \text{終} }\) を計算します。この全体の減少量と、\(\alpha\)崩壊だけで減少するはずだった量を比較することで、\(\beta\)崩壊による増加分を逆算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 連立方程式の立式ミス:
- 誤解: 原子番号の変化の式で、\(\beta\)崩壊による増加(\(+\beta\))を減少(\(-\beta\))としてしまう。
- 対策: 各崩壊が原子番号に与える影響を「陽子数の増減」として具体的にイメージすることが重要です。
- \(\alpha\)崩壊: 陽子\(2\)個を失う \(\rightarrow\) 原子番号 \(-2\)
- \(\beta\)崩壊: 中性子が陽子に変わる \(\rightarrow\) 陽子\(1\)個増える \(\rightarrow\) 原子番号 \(+1\)
この「\(+1\)」の部分を特に意識して、\(92 – 2\alpha + \beta = 82\) のように、符号を間違えずに立式する練習をしましょう。
- 計算順序の非効率性:
- 誤解: 最初に原子番号の式(\(92 – 2\alpha + \beta = 82\))から解こうとして、未知数が\(2\)つあるため手が止まってしまう。
- 対策: 問題を解く前に、「どちらの式がより単純か?」と考える癖をつけます。質量数の変化の式は未知数が\(\alpha\)の一つだけ、原子番号の式は未知数が\(\alpha, \beta\)の二つです。当然、未知数が一つの式から解き始めるのが定石です。この戦略的な視点を持つことで、スムーズに解き進めることができます。
- 単純な引き算ミス:
- 誤解: \(238 – 206 = 32\) や \(92 – 82 = 10\) といった基本的な計算でミスをする。
- 対策: 試験本番の緊張状態では、簡単な計算ほど間違いやすくなります。筆算で丁寧に計算するか、検算(\(206 + 32 = 238\))を行うなど、基本的な計算こそ慎重に扱う意識が大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 質量数保存則と電荷保存則の分離適用:
- 選定理由: この問題の未知数は\(\alpha\)崩壊の回数と\(\beta\)崩壊の回数の\(2\)つです。未知数が\(2\)つある場合、数学的に解を一つに決定するには、独立した\(2\)つの方程式が必要です。物理学において、質量数(核子の数)と電荷(原子番号に比例)は、それぞれが独立した保存則に従います。したがって、「質量数の変化」と「原子番号の変化」という\(2\)つの異なる物理的側面に注目し、それぞれについて方程式を立てるのが、最も論理的で確実な解法となります。
- 適用根拠: 実際の崩壊系列では\(\alpha\)崩壊と\(\beta\)崩壊が複雑な順序で起こりますが、最終的な回数を求める上では、その順序は問いません。これは、質量数と原子番号の変化が、それぞれの崩壊の回数のみに依存する「状態量」のようなものだからです。したがって、「まず\(\alpha\)崩壊が\(\alpha\)回まとめて起こり、次に\(\beta\)崩壊が\(\beta\)回まとめて起こった」と仮想的に考えて立式しても、最終的な結果は変わりません。この考え方が、問題を単純化し、連立方程式の適用を正当化します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 未知数を明確に定義する: 計算を始める前に、「\(\alpha\)崩壊の回数を\(\alpha\)回、\(\beta\)崩壊の回数を\(\beta\)回とする」と、自分で未知数をはっきりと定義する一文を答案用紙に書くことを習慣にしましょう。これにより、思考が整理され、立式ミスが減ります。
- \(2\)つの式を並べて書く: 質量数と原子番号に関する\(2\)つの方程式を、以下のように上下に並べて書くと、連立方程式としての構造が明確になり、見通しが良くなります。
$$ 238 – 4\alpha = 206 $$
$$ 92 – 2\alpha + \beta = 82 $$ - 代入計算を丁寧に行う: \(\alpha=8\)を下の式に代入する際、\(92 – 2 \times 8 + \beta = 82\) と丁寧に書き、\(92 – 16 + \beta = 82\) のように、計算のステップを省略せずに進めることが、符号ミスなどを防ぐ上で重要です。
- 最終的な検算: 答え(\(\alpha=8, \beta=6\))が出たら、必ず元の始点(\({}_{92}^{238}\text{U}\))に代入して終点(\({}_{82}^{206}\text{Pb}\))になるかを確認します。
- 質量数: \(238 – 4 \times 8 = 206\) (OK)
- 原子番号: \(92 – 2 \times 8 + 6 = 82\) (OK)
この一手間を惜しまないことが、満点を取るための鍵となります。
507 半減期
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「半減期の計算」です。放射性原子核が時間とともに指数関数的に減少していく様子を記述する「半減期の式」を正しく理解し、それを用いて様々な計算を行う能力が問われます。特に、整数倍ではない時間や割合を扱う際に、常用対数(\(\log_{10}\))を用いて計算するテクニックが重要となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 半減期の定義: 放射性原子核の数が、元の数から半分になるまでにかかる時間のこと。
- 半減期の公式: 初めの原子核の数を\(N_0\)、時間\(t\)後に残っている原子核の数を\(N\)、半減期を\(T\)とすると、\( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \) という関係が成り立つことを理解していること。
- 対数計算: 指数部分に未知数が含まれる方程式を解くために、両辺の対数をとって計算できること。特に、\(\log(a^b) = b \log a\) や \(\log(a/b) = \log a – \log b\) といった対数の性質を使いこなせること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、問題文の「\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が崩壊した」という情報を「\(\displaystyle\frac{1}{8}\)が残った」と読み替え、半減期の公式に代入して半減期\(T\)を求めます。
- (2)では、(1)で求めた半減期\(T\)と経過時間\(t=20\)分を公式に代入し、残っている割合\(\displaystyle\frac{N}{N_0}\)を計算します。
- (3)では、残っている割合が\(\displaystyle\frac{2}{3}\)になる時間\(t\)を求めるため、公式に値を代入し、両辺の常用対数をとって\(t\)についての方程式を解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
問題文には「\(12\)分で初めの量の\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が他の原子核に変換す(崩壊す)る」とあります。半減期の公式で使う\(N\)は「崩壊せずに残っている原子核の数」なので、まず\(12\)分後に残っている原子核の割合を計算する必要があります。
残っている割合は、全体(\(1\))から崩壊した割合(\(\displaystyle\frac{7}{8}\))を引くことで求められます。
この「残っている割合」と経過時間\(t=12\)分を半減期の公式に代入すれば、半減期\(T\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 「崩壊した量」と「残っている量」を区別する。残っている割合 \(=\) \(1\) \(-\) 崩壊した割合。
- \(\displaystyle\frac{1}{8} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^3\) のように、割合を\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のべき乗で表現する。
具体的な解説と立式
初めの原子核の数を\(N_0\)、\(12\)分後に残っている原子核の数を\(N\)とします。
\(12\)分で\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が崩壊したので、残っている割合\(\displaystyle\frac{N}{N_0}\)は、
$$ \frac{N}{N_0} = 1 – \frac{7}{8} = \frac{1}{8} $$
半減期を\(T\)、経過時間を\(t=12\)分として、半減期の公式にこれらの値を代入します。
$$ \frac{1}{8} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{12}{T}} $$
この方程式を\(T\)について解きます。
使用した物理公式
- 半減期の公式: \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \)
立式した方程式の左辺を\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のべき乗の形で表します。
$$ \left(\frac{1}{2}\right)^3 = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{12}{T}} $$
両辺の指数部分を比較すると、
$$ 3 = \frac{12}{T} $$
この式を\(T\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{12}{3} \\[2.0ex]
&= 4.0
\end{aligned}
$$
したがって、半減期は\(4.0\)分です。
「\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が崩壊した」ということは、裏を返せば「\(\displaystyle\frac{1}{8}\)が残った」ということです。原子核の量が\(\displaystyle\frac{1}{8}\)になるのは、半分になるイベント(半減期)が\(3\)回(\(\displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{8}\))起こった後です。
この「半減期\(3\)回分」が\(12\)分間に相当するわけですから、半減期\(1\)回分は \(12 \div 3 = 4\)分、と計算できます。
この原子核の半減期は\(4.0\)分であると求められました。計算過程も明快で、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ある時点から\(20\)分後に残っている原子核の割合を求めます。(1)で求めた半減期\(T=4.0\)分と、経過時間\(t=20\)分を半減期の公式に代入します。計算した割合(小数)をパーセントに直して答えます。
この設問における重要なポイント
- (1)で求めた半減期\(T\)の値を用いる。
- 公式に \(t=20\), \(T=4.0\) を代入する。
- 最終的にパーセント(\(\%\))で答える。
具体的な解説と立式
残っている原子核の割合を\(\displaystyle\frac{N}{N_0}\)とします。半減期の公式に、\(T=4.0\)分、\(t=20\)分を代入します。
$$ \frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{20}{4.0}} $$
使用した物理公式
- 半減期の公式: \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \)
立式した式の指数部分を計算します。
$$ \frac{20}{4.0} = 5 $$
よって、残っている割合は、
$$ \frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^5 = \frac{1}{32} $$
これを小数に直し、パーセントで表します。
$$ \frac{1}{32} = 0.03125 $$
問題の解答の有効数字に合わせて、\(0.031\)とします。パーセントに直すと、
$$ 0.031 \times 100 = 3.1 \, \% $$
半減期が\(4\)分なので、\(20\)分間というのは、半減期が \(20 \div 4 = 5\)回起こる時間です。量が半分になるイベントが\(5\)回起こるので、残っている量は元の \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^5 = \displaystyle\frac{1}{32}\) になります。これをパーセントに直すと答えが求まります。
\(20\)分後には\(3.1\%\)が残っている、という結果が得られました。半減期(\(4\)分)の\(5\)倍という長い時間が経過しているので、残量がかなり少なくなるのは妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
原子核が現在ある量の\(\displaystyle\frac{2}{3}\)になるまでの時間\(t\)を求めます。これは、残っている割合\(\displaystyle\frac{N}{N_0}\)が\(\displaystyle\frac{2}{3}\)になる時間を求めることと同じです。
半減期の公式に \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \displaystyle\frac{2}{3}\) と \(T=4.0\)分を代入します。
\(\displaystyle\frac{2}{3}\)は\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のきれいなべき乗で表せないため、この方程式を解くには両辺の常用対数をとる必要があります。
この設問における重要なポイント
- \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \displaystyle\frac{2}{3}\) を公式に代入する。
- 指数部分に未知数\(t\)があるので、両辺の常用対数をとって解く。
- 対数の性質 \(\log(a/b) = \log a – \log b\) と \(\log(a^b) = b \log a\) を利用する。
具体的な解説と立式
求める時間を\(t\)分とします。半減期の公式より、
$$ \frac{2}{3} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{4.0}} $$
この方程式を解くために、両辺の常用対数(\(\log_{10}\))をとります。
$$ \log_{10}\left(\frac{2}{3}\right) = \log_{10}\left\{ \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{4.0}} \right\} $$
対数の性質を用いて、この式を変形していきます。
使用した物理公式
- 半減期の公式: \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \)
- 対数の性質
対数をとった式の両辺を、それぞれ対数の性質を使って変形します。
左辺:
$$ \log_{10}\left(\frac{2}{3}\right) = \log_{10}2 – \log_{10}3 $$
右辺:
$$
\begin{aligned}
\log_{10}\left\{ \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{4.0}} \right\} &= \frac{t}{4.0} \log_{10}\left(\frac{1}{2}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{t}{4.0} (\log_{10}1 – \log_{10}2) \\[2.0ex]
&= -\frac{t}{4.0}\log_{10}2
\end{aligned}
$$
したがって、方程式は以下のようになります。
$$ \log_{10}2 – \log_{10}3 = -\frac{t}{4.0}\log_{10}2 $$
与えられた値 \(\log_{10}2 = 0.301\), \(\log_{10}3 = 0.477\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
0.301 – 0.477 &= -\frac{t}{4.0} \times 0.301 \\[2.0ex]
-0.176 &= -\frac{0.301}{4.0} t
\end{aligned}
$$
この式を\(t\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{0.176 \times 4.0}{0.301} \\[2.0ex]
&= \frac{0.704}{0.301} \\[2.0ex]
&\approx 2.338…
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると、\(2.3\)分となります。
量が\(\displaystyle\frac{2}{3}\)になる、という中途半端な割合の時間を求める問題です。半減期(\(\displaystyle\frac{1}{2}\)になる)の何回分かを直接計算できないので、数学の道具「対数(log)」を使います。半減期の公式の両辺にlogをつけることで、肩に乗っている時間\(t\)を地面に下ろしてくることができます。あとは、問題で与えられたlogの値を代入して、普通の方程式として\(t\)を計算すれば答えが求まります。
計算の結果、約\(2.3\)分後に量が\(\displaystyle\frac{2}{3}\)になることがわかりました。量が半分(\(50\%\))になるのに\(4.0\)分かかるので、\(\displaystyle\frac{2}{3}\) (約\(67\%\))まで減る時間はそれより短くなるはずです。\(2.3\)分という結果は物理的に妥当な値です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 放射性崩壊の指数関数的性質
- 核心: この問題の根幹は、放射性崩壊が「個々の原子核がいつ崩壊するかは確率的だが、多数の原子核の集団として見ると、その数は時間とともに指数関数的に減少していく」という統計的な法則に従うことを理解することです。
- 理解のポイント:
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) は、この指数関数的な減少を表現する中心的な式です。\(t\)が\(T, 2T, 3T, \dots\) と半減期の整数倍で経過するごとに、原子核の数が \(\displaystyle\frac{1}{2}, \frac{1}{4}, \frac{1}{8}, \dots\) となっていく関係を表しています。
- 連続的な減少: この公式の重要な点は、\(t\)が半減期の整数倍でない、どんな中途半端な時間であっても、残存する原子核の割合を計算できることです。(3)のように、割合が\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のべき乗でない場合でも、対数を用いることで時間を計算できるのは、この連続的な指数関数モデルに基づいているからです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 放射年代測定: C14法(炭素14法)のように、生物の遺骸に含まれる\({}^{14}\text{C}\)の減少率から年代を特定する問題。現在の\({}^{14}\text{C}\)の割合(\(N/N_0\))と\({}^{14}\text{C}\)の半減期(\(T\))から、経過時間(\(t\))を求めます。本質的に(3)と同じ計算です。
- 崩壊定数を用いた問題: 半減期\(T\)の代わりに崩壊定数\(\lambda\)(ラムダ)を用いて崩壊を表す問題。\(N = N_0 e^{-\lambda t}\) という式を用います。半減期との関係は \(T = \displaystyle\frac{\ln 2}{\lambda} \approx \displaystyle\frac{0.693}{\lambda}\) であり、相互に変換可能です。
- 放射能(ベクレル)を扱う問題: 単位時間あたりの崩壊数である放射能\(A\)も、原子核の数\(N\)に比例するため、原子核の数と同様に \(A = A_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) の形で減少します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「崩壊した量」か「残存量」か: 問題文で与えられている数値が、「崩壊した割合」なのか「残っている割合」なのかを最初に明確に区別します。公式で使うのは常に「残っている割合」(\(N/N_0\))です。
- 整数解か対数解か: 与えられた割合が\(\displaystyle\frac{1}{2}, \frac{1}{4}, \frac{1}{8}, \dots\) のように\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のべき乗で表せる場合は、(1)のように簡単な整数計算で解けます。そうでない場合は、(3)のように対数計算が必要になると判断します。
- 対数の底の確認: 対数計算が必要な場合、問題で与えられている対数の底(この問題では常用対数\(\log_{10}\))を確認し、計算にはその対数を用います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「崩壊量」と「残存量」の混同:
- 誤解: (1)で「\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が崩壊した」という文を見て、焦って \(N/N_0 = 7/8\) として計算を始めてしまう。
- 対策: 式を立てる前に、「今から自分が計算するのは、崩壊して消えた原子についてか、まだ残っている原子についてか」を自問自答する癖をつけます。半減期の公式は「残っている原子」の物語である、と強く意識することが重要です。「\(1 – (\text{崩壊した割合}) = (\text{残っている割合})\)」というワンクッションを必ず挟むようにしましょう。
- 対数計算の符号ミス:
- 誤解: (3)の計算で、\(\log_{10}(1/2)\) を \(\log_{10}2\) と勘違いしてしまい、符号を間違える。
- 対策: \(\log(1/a) = \log(a^{-1}) = – \log a\) という対数の基本性質を正確に覚えておくことが不可欠です。右辺の \(\log_{10}\left\{ \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{4.0}} \right\}\) の計算では、指数 \(\displaystyle\frac{t}{4.0}\) が前に出て、さらに \(\log_{10}(1/2)\) が \(-\log_{10}2\) になるため、結果として \(-\displaystyle\frac{t}{4.0}\log_{10}2\) とマイナス符号がつくことを丁寧に確認します。
- 分数の対数計算のミス:
- 誤解: \(\log(2/3)\) を \(\log 2 / \log 3\) のように、割り算と勘違いしてしまう。
- 対策: \(\log(a/b) = \log a – \log b\) という「割り算の対数は、対数の引き算」という基本性質を正確に記憶し、適用します。公式がうろ覚えの場合は、具体的な数値で(例えば電卓で \(\log(100/10) = \log 10 = 1\) と \(\log 100 – \log 10 = 2 – 1 = 1\) を比べるなどして)確認するのも一つの手です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 半減期の公式の選択:
- 選定理由: この問題は、放射性原子核の数が時間とともにどう変化するかを扱っており、「半減期」というキーワードが中心にあります。このような状況を記述するために物理学で用意されているのが、半減期の公式 \(N = N_0 (1/2)^{t/T}\) です。この公式一つで、(1)~(3)のすべての問いに答えることができます。
- 適用根拠: この公式は、個々の原子核が一定の確率で崩壊するという統計的な仮定から導かれます。その結果、原子核の減少率はその時点での原子核の数に比例する(\(dN/dt = -\lambda N\))という微分方程式で表され、これを解くと指数関数的な減少(\(N=N_0 e^{-\lambda t}\))が得られます。半減期の公式は、この指数関数を底\(1/2\)で表現し直したものであり、物理現象を数学的に正しくモデル化したものです。
- 対数の利用:
- 選定理由: (3)では、\(a = b^x\) の形の式で、指数部分の\(x\)(時間\(t\)を含む)を求めたい状況です。このように指数部分に未知数がある方程式を解くための標準的かつ唯一の数学的な手法が、両辺の対数をとることです。
- 適用根拠: 対数関数は指数関数の逆関数として定義されており、\(\log_c(b^x) = x \log_c b\) という性質を持っています。この性質を利用することで、指数部分にある未知数を式の主役(係数)の位置に引き下ろし、一次方程式として解くことが可能になります。これは数学的に厳密に保証された操作です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の分数計算を丁寧に行う: (2)の \(t/T = 20/4.0 = 5\) のような計算は暗算で済ませがちですが、一度 \( \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{20}{4.0}} \) と式を書き下してから、指数部分を計算する癖をつけると、ケアレスミスが減ります。
- 対数計算の途中式を省略しない: (3)の対数計算では、
- 両辺に対数をとる: \(\log_{10}(2/3) = \log_{10}((1/2)^{t/4.0})\)
- 対数の性質で変形: \(\log_{10}2 – \log_{10}3 = (t/4.0) \log_{10}(1/2)\)
- さらに変形: \(\log_{10}2 – \log_{10}3 = -(t/4.0) \log_{10}2\)
というように、変形のステップを一つずつ丁寧に書き下しましょう。特に符号が変わる部分は慎重に扱います。
- 最終的な式の移項を正確に: \( -0.176 = -\displaystyle\frac{0.301}{4.0} t \) から \(t\) を求める最後の計算では、\( t = \displaystyle\frac{0.176 \times 4.0}{0.301} \) と、まずは分数の形で正確に移項してから、実際の割り算を実行するとミスが減ります。
508 \({}_{6}^{14}\text{C}\)と年代測定
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射性炭素年代測定の原理」です。半減期の知識を応用し、生物の遺骸に含まれる放射性炭素\({}^{14}\text{C}\)の割合から、その生物が死んでからの経過年数を推定する手法について問うています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 同位体: \({}^{14}\text{C}\)と\({}^{12}\text{C}\)が、原子番号が同じ(炭素)で質量数が異なる同位体であることを理解していること。
- \(\beta\)崩壊: \({}^{14}\text{C}\)が\({}^{14}\text{N}\)に変化する際に、質量数が変わらず原子番号が\(1\)増加していることから、これが\(\beta\)崩壊であると判断できること。
- 半減期の公式: \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \) を用いて、残存率、半減期、経過時間の関係を計算できること。
- 放射性炭素年代測定の前提: 生物が生きている間は、大気との炭素の交換により体内の\({}^{14}\text{C}\)の割合は一定に保たれるが、死後は交換が止まり、\({}^{14}\text{C}\)が崩壊によって減少していく、という基本原理を理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、\({}^{14}\text{C}\)と\({}^{12}\text{C}\)の関係を定義に基づいて答えます。
- (イ)では、\({}_{6}^{14}\text{C} \rightarrow {}_{7}^{14}\text{N}\) という原子核の変化を分析し、どの種類の崩壊かを特定します。
- (ウ)では、与えられた\({}^{14}\text{C}\)の残存率と半減期を半減期の公式に代入し、経過年数\(t\)を計算します。
問(ア)
思考の道筋とポイント
\({}^{14}\text{C}\)と\({}^{12}\text{C}\)は、どちらも炭素原子です。炭素の原子番号は\(6\)なので、どちらも陽子を\(6\)個持っています。一方、左上の数字(質量数)が\(14\)と\(12\)で異なっています。質量数は陽子と中性子の数の和なので、中性子の数が異なることになります。
このように、原子番号が同じで質量数が異なる原子同士の関係を何と呼ぶかを答えます。
この設問における重要なポイント
- 原子番号が同じ \(\rightarrow\) 陽子の数が同じ \(\rightarrow\) 同じ元素。
- 質量数が違う \(\rightarrow\) 中性子の数が違う。
- この関係を「同位体(アイソトープ)」と呼ぶ。
具体的な解説と立式
\({}^{14}\text{C}\)は陽子数\(6\)、中性子数\(8\)(\(=14-6\))の原子核を持ちます。
\({}^{12}\text{C}\)は陽子数\(6\)、中性子数\(6\)(\(=12-6\))の原子核を持ちます。
両者は陽子の数が等しく(原子番号\(6\))、中性子の数が異なるため、互いに同位体の関係にあります。
問(イ)
思考の道筋とポイント
\({}^{14}\text{C}\)が\({}^{14}\text{N}\)に崩壊する変化を、原子番号と質量数に着目して分析します。
- \({}^{14}\text{C}\)の原子番号は\(6\)、質量数は\(14\)。(\({}_{6}^{14}\text{C}\))
- \({}^{14}\text{N}\)の原子番号は\(7\)、質量数は\(14\)。(\({}_{7}^{14}\text{N}\))
この変化を見ると、質量数は\(14\)で変わらず、原子番号が\(6\)から\(7\)へ\(1\)増加しています。このような変化をもたらす放射性崩壊の種類と、その際に放出される放射線を答えます。
この設問における重要なポイント
- 質量数が変化しない。
- 原子番号が\(1\)増加する。
- この変化は、核内の中性子が陽子に変わる\(\beta\)崩壊に相当する。
- \(\beta\)崩壊で放出されるのは\(\beta\)線(電子)。
具体的な解説と立式
崩壊の前後で原子核を比較します。
$$ {}_{6}^{14}\text{C} \rightarrow {}_{7}^{14}\text{N} $$
質量数\(A\)は \(14 \rightarrow 14\) で変化していません。
原子番号\(Z\)は \(6 \rightarrow 7\) で\(1\)増加しています。
これは、原子核内の中性子\(1\)個が陽子\(1\)個と電子\(1\)個に崩壊し、電子(\(\beta\)線)を放出したことを意味します。
$$ n \rightarrow p + e^- $$
したがって、この崩壊は\(\beta\)崩壊であり、放出されるのは\(\beta\)線です。
問(ウ)
思考の道筋とポイント
古い木材に含まれる\({}^{14}\text{C}\)の量が、もともとあった量(現在の新しい木材に含まれる量と同じと仮定)の\(\displaystyle\frac{1}{8}\)になっている、という情報から、経過年数を求めます。
これは、半減期の公式 \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \) において、残存率\(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \displaystyle\frac{1}{8}\)、半減期\(T = 5.7 \times 10^3\)年として、経過時間\(t\)を求める問題です。
この設問における重要なポイント
- \(N/N_0 = 1/8\)。
- 半減期 \(T = 5.7 \times 10^3\)年。
- \(\displaystyle\frac{1}{8} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^3\) を利用する。
具体的な解説と立式
木が死んでからの経過年数を\(t\)年とします。
初めに木材に含まれていた\({}^{14}\text{C}\)の原子数を\(N_0\)、\(t\)年後に残っている原子数を\(N\)とします。
問題の条件より、
$$ \frac{N}{N_0} = \frac{1}{8} $$
半減期を\(T = 5.7 \times 10^3\)年として、半減期の公式に代入します。
$$ \frac{1}{8} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{5.7 \times 10^3}} $$
この方程式を\(t\)について解きます。
使用した物理公式
- 半減期の公式: \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \)
立式した方程式の左辺を\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のべき乗の形で表します。
$$ \left(\frac{1}{2}\right)^3 = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{5.7 \times 10^3}} $$
両辺の指数部分を比較すると、
$$ 3 = \frac{t}{5.7 \times 10^3} $$
この式を\(t\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= 3 \times (5.7 \times 10^3) \\[2.0ex]
&= 17.1 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 1.71 \times 10^4
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると、\(1.7 \times 10^4\)年となります。
生きている木は、呼吸することで大気中の\({}^{14}\text{C}\)を常に取り込んでいるので、体内の\({}^{14}\text{C}\)の割合は一定です。しかし、木が死ぬと\({}^{14}\text{C}\)の補給が止まり、体内の\({}^{14}\text{C}\)は崩壊して減る一方になります。これが天然のタイマーとして機能します。
今回は、\({}^{14}\text{C}\)の量が元の\(\displaystyle\frac{1}{8}\)に減っていました。\(\displaystyle\frac{1}{8}\)になるには、量が半分になるイベント(半減期)が\(3\)回(\(\displaystyle\frac{1}{2} \rightarrow \displaystyle\frac{1}{4} \rightarrow \displaystyle\frac{1}{8}\))起こる必要があります。
\({}^{14}\text{C}\)の半減期は\(5700\)年なので、半減期\(3\)回分の時間は \(5700 \times 3 = 17100\)年、つまり約\(1.7 \times 10^4\)年前のものだと推定できます。
計算の結果、この遺跡は約\(1.7 \times 10^4\)年前のものと推定されました。半減期が約\(5700\)年と非常に長いため、数万年単位の年代測定に適していることがわかります。計算も妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 放射性炭素年代測定の基本原理
- 核心: この問題の根幹は、半減期の法則が、考古学などで利用される「放射性炭素年代測定法」という具体的な応用技術の基礎となっていることを理解することです。
- 理解のポイント:
- 平衡状態: 生物は生きている間、呼吸や食事を通じて外部環境(大気)と炭素を交換し続けています。そのため、体内に含まれる放射性炭素\({}^{14}\text{C}\)と安定な炭素\({}^{12}\text{C}\)の比率は、大気中の比率と等しく、一定に保たれています(崩壊して減る分と、新たに補給される分がつりあっている)。
- 時計のスタート: 生物が死ぬと、この炭素交換が停止します。これが「年代測定の時計」がスタートする瞬間です。
- 時間経過の測定: 死後は、体内に残った\({}^{14}\text{C}\)が一方的に崩壊して減少していきます。したがって、遺物に残っている\({}^{14}\text{C}\)の割合を測定することで、半減期の公式を用いて死後からの経過時間を逆算できるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の放射性核種による年代測定: \({}^{14}\text{C}\)(半減期約\(5700\)年)は数万年前までの測定に適していますが、より古い年代(地球の年齢など)を測定するには、ウラン-鉛法(\({}^{238}\text{U}\)の半減期は約\(45\)億年)やカリウム-アルゴン法(\({}^{40}\text{K}\)の半減期は約\(13\)億年)などが用いられます。原理は全く同じで、半減期の公式を適用します。
- 対数計算が必要な問題: 残存率が\(\displaystyle\frac{1}{3}\)や\(\displaystyle\frac{1}{5}\)など、\(\displaystyle\frac{1}{2}\)のきれいなべき乗で表せない場合に、常用対数などを用いて経過時間を計算する問題。
- 前提条件を問う問題: 放射性炭素年代測定が成り立つための前提条件(例:「過去から現在まで、大気中の\({}^{14}\text{C}\)の濃度は一定であったと仮定する」など)の妥当性や、測定の限界について考察させる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- どの核種の話かを確認: 問題で扱われている放射性同位体は何か(この問題では\({}^{14}\text{C}\))、その半減期はいくらか、を最初に確認します。
- 残存率を正しく読み取る: 問題文から、現在の量が「もとの量の何分のいくつか」という残存率(\(N/N_0\))を正確に読み取ります。「含有量の割合が\(1/8\)」とあれば、それがそのまま\(N/N_0\)に対応します。
- 半減期の何回分かを考える: (ウ)のように残存率が\(\displaystyle\frac{1}{8}\)であれば、\(\displaystyle\frac{1}{8} = (\frac{1}{2})^3\) なので、「半減期\(3\)回分の時間が経過した」と直感的に判断できます。この考え方が、計算を簡略化し、ミスを防ぐ上で非常に有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \({}^{14}\text{C}\)と\({}^{14}\text{N}\)の原子番号の混同:
- 誤解: 炭素(C)と窒素(N)の原子番号をうろ覚えで、\(\beta\)崩壊による原子番号の変化(\(+1\))を正しく判断できない。
- 対策: 周期表の身近な元素(H, He, Li, Be, B, C, N, O…)の順番は覚えておくのが理想です。炭素は\(6\)番、窒素は\(7\)番なので、原子番号が\(6 \rightarrow 7\)と\(1\)増えていることがわかります。これがわかれば、質量数が変化していないことから、\(\beta\)崩壊であると断定できます。
- 半減期の値の扱い:
- 誤解: \(5.7 \times 10^3\)のような指数表記の計算で、\(10^3\)の部分を掛け忘れたり、桁を間違えたりする。
- 対策: (ウ)の計算では、まず「半減期の\(3\)倍」という物理的な意味を理解し、最後に具体的な数値を代入するのが安全です。\(t = 3 \times T\) という式を立ててから、\(T = 5.7 \times 10^3\) を代入すれば、計算ミスが減ります。
- 前提条件の無視:
- 誤解: 放射性炭素年代測定が、いかなる場合でも絶対的に正確な万能のツールであるかのように考えてしまう。
- 対策: この測定法は「生物が生きていた時代の大気中の\({}^{14}\text{C}\)濃度が、現在とほぼ同じである」という重要な仮定に基づいていることを理解しておくことが大切です。もし大規模な火山活動や産業革命による化石燃料の大量消費などで、過去の大気組成が現在と大きく異なっていた場合、測定結果には補正が必要になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 半減期の公式の適用:
- 選定理由: (ウ)では、放射性原子核の量が特定の割合に減少するまでにかかる「時間」を求めることが目的です。「原子核の残存率」「半減期」「経過時間」という\(3\)つの要素を直接結びつける唯一の公式が、半減期の公式 \(N/N_0 = (1/2)^{t/T}\) です。
- 適用根拠: この公式は、放射性崩壊が時間に依存する統計的な現象であることを数学的にモデル化したものです。木材中の\({}^{14}\text{C}\)の減少もこの法則に厳密に従うため、この公式を適用することが論理的に正当化されます。年代測定は、この物理法則の信頼性に基づいた科学的な応用技術なのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 言葉と数式の変換: 「含有量が\(1/8\)になる」という日本語の記述を、即座に「\(N/N_0 = 1/8\)」という数式に変換する練習をしましょう。物理の問題を解くとは、多くの場合、問題文という自然言語を、数式という物理言語に翻訳する作業です。
- 指数計算の基本: \(\displaystyle\frac{1}{8} = \frac{1}{2^3} = (\frac{1}{2})^3\) のような、基本的な指数計算に習熟しておくことが時間短縮とミス防止につながります。\(\displaystyle\frac{1}{4}= (\frac{1}{2})^2\), \(\displaystyle\frac{1}{16}= (\frac{1}{2})^4\), \(\displaystyle\frac{1}{32}= (\frac{1}{2})^5\) などは、すぐに変換できるようにしておくと便利です。
- 有効数字を意識した計算: (ウ)の計算 \(3 \times 5.7 \times 10^3 = 17.1 \times 10^3\) の後、問題文で与えられた半減期の有効数字が\(2\)桁(\(5.7\))であることから、答えも有効数字\(2\)桁に丸めて \(1.7 \times 10^4\) とするのが適切です。計算の最後に、有効数字のルールを確認する癖をつけましょう。
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509 放射性崩壊と半減期
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「半減期の応用計算」です。半減期の公式を用いて、特定の時間が経過した後の残存量を計算したり、特定の量になるまでの時間を計算したりします。また、崩壊によって減少した原子核の質量と、それによって放出された粒子の質量の関係を、質量数の比を用いて考察する点も重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(\alpha\)崩壊: \(1\)回の\(\alpha\)崩壊で、質量数が\(4\)減少し、原子番号が\(2\)減少することを理解していること。
- 半減期の公式: \( \displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} \) を用いて計算できること。原子核の数だけでなく、その質量についても同様の式が成り立つことを理解していること。
- 質量数と質量の比例関係: 原子核の質量は、その質量数にほぼ比例すると近似できること。
- 対数計算: 半減期の公式において、指数部分に未知数が含まれる場合に、常用対数を用いて計算できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、ポロニウム(\({}_{84}^{210}\text{Po}\))が\(\alpha\)崩壊した後の原子核の質量数と原子番号を計算します。
- (2)では、半減期の公式を質量に適用し、\(69\)日後と\(276\)日後のポロニウムの質量を計算します。また、\(69\)日間で崩壊したポロニウムの質量を求め、質量数の比を使って放出された\(\alpha\)粒子の総質量を計算します。
- (3)では、ポロニウムの量が\(\displaystyle\frac{1}{10}\)になる時間を求めるため、半減期の公式の両辺の対数をとって計算します。
- (4)では、半減期ごと(\(138\)日ごと)に質量が半分になっていく点をプロットし、滑らかな曲線で結んでグラフを作成します。