基本例題
基本例題94 電場による電子の偏向
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(3)および(4)の別解: 軌跡の方程式を導出して解く方法
- 模範解答が時間 \(t\) を媒介して \(y\) 座標や速度成分を求めるのに対し、別解では時間 \(t\) を消去して \(x\) 座標と \(y\) 座標の関係式(軌跡の方程式)を立て、そこから直接 \(y\) 座標や軌跡の傾きを求めます。
- 設問(3)および(4)の別解: 軌跡の方程式を導出して解く方法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理現象の幾何学的理解: 運動を時間経過で追うだけでなく、空間的な軌跡として捉える視点が得られます。
- 数学的ツールの活用: 軌跡の方程式から、微分を用いて任意の点での速度の向き(接線の傾き)を求めるという、物理と数学の強力な連携を体験できます。
- 問題解決の汎用性向上: 時間が直接問われていない問題に対して、時間 \(t\) を消去するというアプローチは他の力学問題にも応用できる汎用的な手法です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「一様な電場中における荷電粒子の運動」です。これは、重力場における物体の放物運動と全く同じ考え方で解くことができる典型問題です。運動を電場に垂直な方向と平行な方向に分解し、それぞれの方向で運動の法則を適用することが基本となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 2次元の運動を、互いに直交する\(x\)軸方向と\(y\)軸方向の1次元運動の組み合わせとして考える。
- 運動方程式: ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を用いて、力が働く方向の加速度を求める。
- 静電気力: 荷電粒子が電場から受ける力は \(F=qE\) で与えられる。特に、電荷の符号によって力の向きが決まる点に注意が必要。
- 運動の法則の適用: 力が働かない方向は「等速直線運動」、一定の力が働く方向は「等加速度直線運動」となる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、力が働かない\(x\)方向の等速直線運動に着目し、電場を通過する時間を求めます。
- (2)では、一定の静電気力が働く\(y\)方向について運動方程式を立て、加速度の大きさと向きを求めます。
- (3)では、\(y\)方向が等加速度直線運動であることから、変位の公式に(1)と(2)の結果を代入して\(y\)座標を計算します。
- (4)では、電場を通過した点での速度の\(x\)成分と\(y\)成分をそれぞれ求め、その比から軌道の傾き (\(\tan\theta\)) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
電子が電場内を通り抜ける時間 \(t\) を求める問題です。電子に働く力は\(y\)方向のみであり、\(x\)方向には力が働きません。したがって、\(x\)方向の速度は入射したときの初速度 \(v_0\) のままで一定です。この「\(x\)方向は等速直線運動である」という点が最大のポイントです。
この設問における重要なポイント
- \(x\)方向には力が働かないため、加速度は \(0\) である。
- したがって、\(x\)方向の運動は速度 \(v_0\) の等速直線運動となる。
- 「距離 = 速さ × 時間」の関係式を適用する。
具体的な解説と立式
\(x\)方向の運動に着目します。電子は\(x\)方向に長さ \(l\) の距離を、一定の速さ \(v_0\) で進みます。求める時間を \(t\) とすると、等速直線運動の公式から以下の関係が成り立ちます。
$$ l = v_0 t $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の式: \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\)
上記で立式した \(l = v_0 t\) の両辺を \(v_0\) で割ることで、\(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{l}{v_0}
\end{aligned}
$$
電子の運動を、横方向(\(x\)方向)と縦方向(\(y\)方向)に分けて考えます。この問題では、縦方向にだけ力が働いているので、横方向の速さは全く変化しません。つまり、横方向にはずっと同じ速さ \(v_0\) で進み続けます。長さ \(l\) の区間を速さ \(v_0\) で通り過ぎるのにかかる時間は、小学校でも習う「時間 = 距離 ÷ 速さ」の計算で求めることができます。
電子が電場内を通り抜ける時間 \(t\) は \(\displaystyle\frac{l}{v_0}\) となります。この式は、初速度 \(v_0\) が速いほど、また電場の領域 \(l\) が短いほど、通過時間が短くなることを示しており、直感的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電子の加速度 \(a\) を求める問題です。加速度は、物体に働く力によって生じます(運動方程式 \(ma=F\))。したがって、まずは電子に働く力を特定し、その力を運動方程式に適用します。この問題で電子に働く力は、電場による静電気力のみです。
この設問における重要なポイント
- 電子の電気量は負 (\(-e\)) である。
- 負の電荷は、電場の向きと「逆向き」に力を受ける。
- 電場は\(y\)軸の負の向きなので、電子が受ける力は\(y\)軸の正の向きとなる。
具体的な解説と立式
電子は電気量 \(q=-e\) を持つ荷電粒子です。\(y\)軸の負の向きに大きさ \(E\) の電場があるので、電子は\(y\)軸の「正」の向きに力を受けます。その力の大きさ \(F\) は、
$$ F = |-e|E = eE $$
この力が働くのは\(y\)方向のみなので、\(y\)方向の運動方程式を立てます。加速度を \(a\) とすると、
$$ ma = F $$
したがって、
$$ ma = eE $$
使用した物理公式
- 静電気力の式: \(F = qE\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
上記で立式した \(ma = eE\) の両辺を \(m\) で割ることで、加速度 \(a\) の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{eE}{m}
\end{aligned}
$$
力の向きが\(y\)軸の正の向きであるため、加速度の向きも\(y\)軸の正の向きとなります。
加速度の原因は「力」です。電子はマイナスの電気を持っているので、プラスからマイナスへ向かう電場の向きとは逆向きに力を受けます。今回は電場が下向き(\(y\)軸負の向き)なので、電子は上向き(\(y\)軸正の向き)に引っ張られます。この力の大きさが \(eE\) です。ニュートンの法則「\(ma=F\)」にこの力を当てはめれば、加速度 \(a\) の大きさが計算できます。力の向きがそのまま加速度の向きになります。
加速度の大きさは \(\displaystyle\frac{eE}{m}\)、向きは\(y\)軸の正の向きとなります。この結果は、電場 \(E\) が強いほど、また粒子の質量 \(m\) が軽いほど、加速度が大きくなることを示しており、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電場を通り抜けた点Pの\(y\)座標を求める問題です。\(y\)方向の運動は、(2)で求めた一定の加速度 \(a\) で、初速度 \(0\) から始まる「等加速度直線運動」です。この運動をしていた時間は、(1)で求めた時間 \(t\) です。したがって、等加速度直線運動の変位の公式に、これらの値を代入することで\(y\)座標を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- \(y\)方向の運動は、初速度 \(v_{0y}=0\) の等加速度直線運動である。
- 加速度は(2)で求めた \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\)。
- 運動時間は(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{l}{v_0}\)。
- 変位の公式 \(y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を利用する。
具体的な解説と立式
\(y\)方向の運動は初速度 \(v_{0y}=0\) の等加速度直線運動なので、時刻 \(t\) における\(y\)座標は以下の式で与えられます。
$$ y = \frac{1}{2}at^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
上記の式に、(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{l}{v_0}\) と、(2)で求めた \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} a t^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( \frac{eE}{m} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{eEl^2}{2mv_0^2}
\end{aligned}
$$
\(y\)方向の動きは、静止した状態から一定の力で上向きに引っ張られ続ける運動です。これは、物を静かに手放したときの自由落下と同じ種類の運動(等加速度直線運動)と見なせます。どれだけ移動したか(\(y\)座標)は、「\(\displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{加速度}) \times (\text{時間})^2\)」という公式で計算できます。(1)で求めた時間と(2)で求めた加速度をこの公式に代入すれば、答えが求まります。
点Pの\(y\)座標は \(\displaystyle\frac{eEl^2}{2mv_0^2}\) となります。この式から、初速度 \(v_0\) が大きいほど電場内にいる時間が短くなるため、\(y\)方向のズレは小さくなる(\(v_0^2\) に反比例する)ことがわかります。これは物理的な直感と一致する妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
時間 \(t\) を介さずに、電子の運動の軌跡、すなわち \(x\) 座標と \(y\) 座標の関係式を直接導き、その式から\(y\)座標を求めるアプローチです。\(x\)方向と\(y\)方向の運動の式から時間 \(t\) を消去することで、軌跡の方程式を立てることができます。
この設問における重要なポイント
- 時間 \(t\) を媒介変数として消去し、\(x\) と \(y\) の直接的な関係式を導く。
- \(x\)方向の運動: \(x = v_0 t\)
- \(y\)方向の運動: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
具体的な解説と立式
任意の時刻 \(t\) における電子の位置を \((x, y)\) とします。
\(x\)方向の運動は \(x = v_0 t\) なので、時間 \(t\) は \(x\) を用いて次のように表せます。
$$ t = \frac{x}{v_0} \quad \cdots ① $$
\(y\)方向の運動は \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) です。この式の \(t\) に①を代入します。
$$ y = \frac{1}{2}a \left( \frac{x}{v_0} \right)^2 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の式: \(x = v_0 t\)
- 等加速度直線運動の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
上記の式に、(2)で求めた \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\) を代入して、軌跡の方程式を求めます。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \left( \frac{eE}{m} \right) \left( \frac{x}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \left( \frac{eE}{2mv_0^2} \right) x^2
\end{aligned}
$$
これが電子の軌跡を表す放物線の式です。
点Pは電場を通り抜けた点、すなわち \(x=l\) の地点なので、この式に \(x=l\) を代入して\(y\)座標を求めます。
$$
\begin{aligned}
y &= \left( \frac{eE}{2mv_0^2} \right) l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{eEl^2}{2mv_0^2}
\end{aligned}
$$
電子の運動の「道筋」そのものを数式で表してしまう方法です。まず、時間 \(t\) を使って「\(x\)座標は \(v_0 \times t\)」「\(y\)座標は \(\frac{1}{2} \times a \times t^2\)」と書けます。最初の式を「\(t = x \div v_0\)」と変形し、これを二番目の式の \(t\) に代入します。すると、時間 \(t\) が消えて \(x\) と \(y\) だけの関係式(軌跡の式)が出来上がります。この式に、電場を通り抜けた地点の\(x\)座標である \(x=l\) を代入すれば、そのときの\(y\)座標が計算できます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この解法では、運動が \(y = (\text{定数}) \times x^2\) という形の放物線を描くことが明確にわかり、現象の幾何学的なイメージを掴みやすいという利点があります。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Pで軌道が\(x\)軸となす角 \(\theta\) の正接 (\(\tan\theta\)) を求める問題です。軌道の傾きは、その点での速度ベクトルの傾きに等しく、速度の\(y\)成分と\(x\)成分の比 \(\displaystyle\frac{v_y}{v_x}\) で与えられます。したがって、点P(電場を通り抜けた瞬間)における速度の\(x\)成分 \(v_x\) と\(y\)成分 \(v_y\) をそれぞれ求め、その比を計算します。
この設問における重要なポイント
- 軌道の傾きは速度の傾きに等しい: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\)。
- \(x\)方向の速度 \(v_x\) は、等速運動なので常に \(v_0\) のままである。
- \(y\)方向の速度 \(v_y\) は、等加速度運動の速度の公式 \(v_y = v_{0y} + at\) を使って計算する。
具体的な解説と立式
点Pにおける速度の\(x\)成分 \(v_x\) は、初速度のままで変化しません。
$$ v_x = v_0 $$
点Pにおける速度の\(y\)成分 \(v_y\) は、初速度 \(v_{0y}=0\)、加速度 \(a\) の等加速度運動を時間 \(t\) だけ続けた後の速度なので、
$$ v_y = at $$
したがって、\(\tan\theta\) はこれらの比で表されます。
$$ \tan\theta = \frac{v_y}{v_x} $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の式: \(v_y = v_{0y} + at\)
- 角度と速度成分の関係: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\)
まず、\(v_y\) を具体的に計算します。(1)の \(t = \displaystyle\frac{l}{v_0}\) と(2)の \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_y &= at \\[2.0ex]
&= \left( \frac{eE}{m} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{eEl}{mv_0}
\end{aligned}
$$
次に、この \(v_y\) と \(v_x=v_0\) を用いて \(\tan\theta\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{v_y}{v_x} \\[2.0ex]
&= \frac{\displaystyle\frac{eEl}{mv_0}}{v_0} \\[2.0ex]
&= \frac{eEl}{mv_0^2}
\end{aligned}
$$
軌道の傾きは、その瞬間の「進んでいる方向」の傾き、つまり「速度の傾き」と同じです。速度は横方向(\(x\)方向)と縦方向(\(y\)方向)の成分に分解できます。傾き \(\tan\theta\) は、「縦方向の速さ ÷ 横方向の速さ」で計算できます。横方向の速さは最初からずっと \(v_0\) で一定です。一方、縦方向の速さは、上向きに加速され続けるので「加速度 × 時間」で計算できます。それぞれの速さを求めて割り算すれば、傾きが求まります。
軌道と\(x\)軸のなす角の正接は \(\tan\theta = \displaystyle\frac{eEl}{mv_0^2}\) となります。この結果は、(3)で求めた\(y\)座標 \(y = \displaystyle\frac{eEl^2}{2mv_0^2}\) を使うと \(\tan\theta = \displaystyle\frac{2y}{l}\) と書くこともできます。これは、原点と点Pを結ぶ直線の傾き \(\displaystyle\frac{y}{l}\) のちょうど2倍になっており、放物線の幾何学的な性質と一致する興味深い結果です。
思考の道筋とポイント
軌道と\(x\)軸がなす角 \(\theta\) の正接 \(\tan\theta\) は、軌跡のグラフ \(y=f(x)\) の接線の傾きに等しく、数学的には導関数 \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) で与えられます。(3)の別解で求めた軌跡の方程式を \(x\) で微分し、点Pの\(x\)座標である \(x=l\) を代入することで、\(\tan\theta\) を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 軌跡の接線の傾きは、軌跡の方程式を微分することで求まる: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{dy}{dx}\)。
- (3)の別解で求めた軌跡の方程式 \(y = \left( \displaystyle\frac{eE}{2mv_0^2} \right) x^2\) を利用する。
具体的な解説と立式
(3)の別解で求めた軌跡の方程式は以下の通りです。
$$ y = \left( \frac{eE}{2mv_0^2} \right) x^2 $$
軌道の傾き \(\tan\theta\) は、この式を \(x\) で微分した導関数 \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) に等しいです。
$$ \tan\theta = \frac{dy}{dx} = \frac{d}{dx} \left\{ \left( \frac{eE}{2mv_0^2} \right) x^2 \right\} $$
使用した物理公式
- 軌跡の傾きの定義: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{dy}{dx}\)
- 微分公式: \(\displaystyle\frac{d}{dx}(kx^n) = nkx^{n-1}\)
軌跡の方程式を \(x\) で微分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{dy}{dx} &= \left( \frac{eE}{2mv_0^2} \right) \cdot (2x) \\[2.0ex]
&= \frac{eEx}{mv_0^2}
\end{aligned}
$$
これが任意の\(x\)座標における軌道の傾きを表す式です。
点Pは \(x=l\) の点なので、この式に \(x=l\) を代入して \(\tan\theta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{eEl}{mv_0^2}
\end{aligned}
$$
(3)の別解で、運動の道筋そのものを \(y\) と \(x\) の関係式で表しました。数学の知識を使うと、グラフのある点での「傾き」は、そのグラフの式を「微分」することで計算できます。軌跡の式を微分して得られた「傾きを計算するための式」に、求めたい地点の\(x\)座標である \(x=l\) を代入すると、その点での軌道の傾き、すなわち \(\tan\theta\) が直接計算できます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。速度成分を個別に計算する代わりに、軌跡の方程式を微分するという数学的な手法を用いることで、より直接的かつエレガントに軌道の傾きを求めることができます。物理現象を数学の言葉で記述することの強力さを示す良い例です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性(重ね合わせの原理):
- 核心: この問題の根幹は、2次元の運動を「互いに影響を与えない、直交する2つの1次元運動の組み合わせ」として捉えることにあります。
- 理解のポイント:
- \(x\)方向(力を受けない方向): 力が働かないので、加速度は \(0\)。したがって、初速度 \(v_0\) のまま進み続ける「等速直線運動」となります。
- \(y\)方向(力を受ける方向): 一様な電場から一定の力 \(F=eE\) を受け続けるので、加速度 \(a=\displaystyle\frac{eE}{m}\) が一定の「等加速度直線運動」となります。
- 合成運動: この2つの単純な運動を同時に起こした結果が、観測される放物線軌道です。これは、水平方向に投げ出した物体が重力によって放物線を描く「水平投射」と全く同じ物理構造をしています。
- 力と運動の関係(運動方程式):
- 核心: 粒子の運動がどのように変化するか(加速度)は、粒子にどのような力が働くかによって決まる、というニュートンの運動法則を正しく適用することが重要です。
- 理解のポイント:
- 力の特定: 運動を考える前に、まず粒子に働く力を全てリストアップします。この問題では静電気力のみです(重力は通常無視します)。
- 力の向き: 電荷の符号が重要です。電子(\(q=-e\))は負電荷なので、電場 \(E\) とは逆向きに力を受けます。この向きを間違えると、運動の向きが全て逆になってしまいます。
- 運動方程式の適用: 特定した力を運動方程式 \(ma=F\) に代入し、加速度を求めます。この加速度が、その後の運動(等加速度直線運動)を決定づけます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平投射・斜方投射: 重力という一様な力が働く場での物体の運動は、本問と全く同じ解法で解けます。電場 \(E\) を重力加速度 \(g\) に、静電気力 \(eE\) を重力 \(mg\) に読み替えれば、全ての式が対応します。
- 磁場中での荷電粒子の運動(ローレンツ力): 磁場から受ける力は速度に垂直なため、等速円運動をします。電場と磁場が両方存在する領域では、静電気力とローレンツ力の合力を考え、運動方程式を立てて運動を解析します。
- ブラウン管・オシロスコープの原理: 本問の構造は、電子銃から出た電子を電場で曲げてスクリーンに当てるブラウン管の基本原理そのものです。偏向電圧と電子の到達位置の関係を問う問題は、本問の直接的な応用です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の分解: 荷電粒子が電場や磁場中で運動する問題を見たら、まず「運動を座標軸に沿って分解できないか?」と考えます。特に、力が特定の軸方向にしか働かない場合は、必ず運動を分解します。
- 力の向きの確認: 荷電粒子の電荷の符号(正か負か)を真っ先に確認します。これにより、電場や磁場から受ける力の向きが決まります。図に力の矢印を書き込むとミスが減ります。
- 時間 \(t\) の役割: 多くの問題では、力を受けない方向の等速直線運動から時間 \(t\) を求め、それを力を受ける方向の運動の式に代入する、という流れで解けます。時間 \(t\) が2つの運動を結びつける「共通の物差し」の役割を果たします。
- 軌跡の方程式という選択肢: もし問題が最終的な位置や角度だけを問い、途中の時間を問うていない場合、「軌跡の方程式を立てて時間 \(t\) を消去する」という別解のアプローチが有効な場合があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静電気力の向きの間違い:
- 誤解: 電荷の符号を考慮せず、常に電場の向きに力が働くと勘違いしてしまう。
- 対策: 「正電荷は電場と同じ向き、負電荷は電場と逆向き」と呪文のように覚えることが重要です。問題文で「電子」と出てきたら、すぐに「負電荷 \(\rightarrow\) 力は電場と逆向き」と頭の中で変換する癖をつけましょう。
- 運動の種類の混同:
- 誤解: \(x\)方向も\(y\)方向も同じ等加速度運動としてしまったり、逆に両方とも等速運動としてしまったりする。
- 対策: 各方向について、「力は働いているか?」「働いているなら一定か?」を自問自答します。「力なし \(\rightarrow\) 等速運動」「一定の力 \(\rightarrow\) 等加速度運動」という対応関係を明確に意識することが不可欠です。
- 初速度の扱い:
- 誤解: \(y\)方向の運動を考える際に、初速度を \(v_0\) と勘違いして公式に代入してしまう。
- 対策: 初速度 \(v_0\) はあくまで\(x\)方向の成分です。\(y\)方向には初速度が与えられていないので、\(v_{0y}=0\) です。運動を分解した際には、初速度も各成分に分解して考えることを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)で等速直線運動の式 \(l=v_0 t\) を使う理由:
- 選定理由: \(x\)方向には力が働いていないため、加速度が生じません。加速度が \(0\) の運動は等速直線運動であり、その運動を記述する最も単純な関係式が「距離 = 速さ × 時間」だからです。
- 適用根拠: 運動の独立性により、\(y\)方向で何が起きていようと、\(x\)方向の運動には影響を与えません。したがって、\(x\)方向だけに注目してこの単純な式を適用することが物理的に正当化されます。
- (3)で等加速度直線運動の式 \(y = \frac{1}{2}at^2\) を使う理由:
- 選定理由: \(y\)方向には一定の力 \(eE\) が働き続けるため、加速度 \(a\) が一定となります。初速度 \(0\) で一定の加速度の運動によって生じる変位を求める公式が、これだからです。
- 適用根拠: (2)で運動方程式から加速度 \(a\) が一定値であることが保証され、(1)でその運動が続く時間 \(t\) が求められています。\(y\)方向の運動の初期条件(初速度 \(0\))と運動の法則(等加速度)と運動時間(\(t\))が全て揃っているので、この公式を適用して変位を計算することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、多くの物理量が文字で与えられている場合、途中で数値を代入するよりも、最後まで文字式のまま計算を進める方がはるかに効率的で、ミスも少なくなります。
- (3)の計算では、\(a\) と \(t\) にそれぞれの式を「代入」するだけにとどめ、整理します。
- (4)の計算でも、\(v_y = at\) を計算してから \(v_x\) で割る、という手順を踏むことで、分数の計算が一度で済み、シンプルになります。
- 分数の整理を丁寧に行う:
- (4)の計算で \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\) のように分母にさらに変数が来る場合、慌てずに「分母を逆数にして掛ける」と考えるか、「分母と分子に同じものを掛ける」と考えると、ミスなく整理できます。
- 単位や次元での検算:
- 例えば(3)で求めた\(y\)座標の式 \(\displaystyle\frac{eEl^2}{2mv_0^2}\) の次元(単位)をチェックしてみましょう。\(eE\) は力(次元 \([MLT^{-2}]\))、\(l\) は長さ(\([L]\))、\(m\) は質量(\([M]\))、\(v_0\) は速さ(\([LT^{-1}]\)) です。
- 式の次元は \(\displaystyle\frac{[MLT^{-2}] \cdot [L]^2}{[M] \cdot [LT^{-1}]^2} = \displaystyle\frac{[ML^3T^{-2}]}{[M][L^2T^{-2}]} = [L]\) となり、確かに長さの次元になっています。このように、最終的な答えの次元が求めている物理量の次元と一致するかを確認する癖をつけると、大きな間違いに気づくことができます。
基本例題95 磁場による電子の偏向
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 軌跡の厳密な方程式と近似式を用いる解法
- 模範解答が三平方の定理の式に直接 \(y^2 \approx 0\) という近似を適用するのに対し、別解ではまず軌跡の厳密な方程式を導出し、その後に数学的な近似式 \(\sqrt{1-x} \approx 1 – x/2\) を用いて結論を導きます。
- 設問(3)の別解: 軌跡の方程式を微分して接線の傾きを求める解法
- 模範解答が図形の幾何学的な関係から \(\sin\theta\) を求めるのに対し、別解では軌跡の方程式を微分して任意の点での接線の傾き \(\tan\theta\) を求めます。
- 設問(2)の別解: 軌跡の厳密な方程式と近似式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 数学的アプローチの学習: 厳密な式を立ててから物理的状況に応じた近似を行うという、大学以降の物理学でも多用される重要な計算手法を学ぶことができます。
- 物理と数学の連携強化: 物理現象(軌道)を関数として捉え、その性質を微分によって調べるという、物理と数学の強力な結びつきを体験できます。
- 解法の多角化: 一つの現象に対して、幾何学的なアプローチと解析的な(計算による)アプローチの両方を経験することで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「一様な磁場中における荷電粒子の運動」です。磁場から受けるローレンツ力は常に粒子の進行方向と垂直に働くため、粒子は等速円運動をします。この基本原理を理解し、円運動の運動方程式と幾何学的な考察を組み合わせることが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ローレンツ力: 荷電粒子が磁場から受ける力 \(f=qvb\) の大きさと、フレミングの左手の法則で決まる力の向きを正しく理解していること。特に、負電荷(電子)の場合、電流の向きは粒子の運動方向と逆になる点に注意が必要です。
- 円運動の運動方程式: ローレンツ力を向心力として、円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) を立てられること。
- 幾何学的な考察: 円弧の軌道について、半径、弦の長さ、中心角などの関係を、三平方の定理や三角関数を用いて正しく扱えること。
- 近似計算: 問題の条件(\(y\)や\(\theta\)が十分小さい)に応じて、\(y^2 \approx 0\) や \(\tan\theta \approx \sin\theta\) といった近似を適切に用いることができること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電子に働くローレンツ力を向心力とする等速円運動の運動方程式を立て、軌道の半径 \(r\) を求めます。
- (2)では、問題の指示に従い、図中の直角三角形に三平方の定理を適用し、\(y^2 \approx 0\) の近似を用いて \(y\) を計算します。
- (3)では、円弧の幾何学的な関係から \(\sin\theta\) を \(r\) と \(l\) で表し、\(\tan\theta \approx \sin\theta\) の近似を用いて \(\tan\theta\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
磁場中で運動する荷電粒子はローレンツ力を受けます。ローレンツ力は常に速度の向きと垂直に働くため、粒子に対して仕事をしません。したがって、粒子の運動エネルギー、すなわち速さは変化しません。一定の速さで、常に進行方向を曲げられ続ける運動、これが等速円運動です。この円運動の向心力の役割を果たしているのがローレンツ力です。この関係を運動方程式として立式します。
この設問における重要なポイント
- 磁場から受ける力はローレンツ力 \(f = |q|vB\)。
- 電子は負電荷なので、フレミングの左手の法則を適用する際、電流の向きは電子の運動方向(\(+x\)方向)と逆(\(-x\)方向)と考える。これにより、力の向きは\(y\)軸の負の向き(円の中心方向)となる。
- このローレンツ力が向心力となり、電子は等速円運動をする。
具体的な解説と立式
電子の速さは \(v_0\) で一定なので、電子が受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は、
$$ f = ev_0 B $$
この力が向心力となって、電子は半径 \(r\) の等速円運動をします。円運動の運動方程式は、
$$ m\frac{v_0^2}{r} = f $$
したがって、これら2つの式から以下の関係が成り立ちます。
$$ m\frac{v_0^2}{r} = ev_0 B $$
使用した物理公式
- ローレンツ力の式: \(f = qvB\)
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
上記で立式した運動方程式の両辺を \(v_0\) で割り、\(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0}{r} &= eB \\[2.0ex]
r &= \frac{mv_0}{eB}
\end{aligned}
$$
磁場の中に入った電子は、磁石の力(ローレンツ力)を受けます。この力は、電子が進む向きに対して常に真横から働き、進路をぐいっと曲げ続けます。その結果、電子はきれいな円を描いて運動します。このとき、円運動をさせるために中心に向かって引っ張り続ける力(向心力)の正体が、ローレンツ力です。「向心力 = ローレンツ力」として式を立てることで、円の半径を計算できます。
軌道の半径 \(r\) は \(\displaystyle\frac{mv_0}{eB}\) となります。この式は、電子の運動量 \(mv_0\) が大きいほど曲がりにくく(半径が大きく)、電気量 \(e\) や磁場 \(B\) が大きいほど強く曲げられる(半径が小さく)ことを示しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
図に示された三角形\(\triangle\)PQRは、円の中心R、磁場を出る点P、そしてPから\(y\)軸に下ろした垂線の足Qからなる直角三角形です。この三角形に三平方の定理を適用し、辺の長さを \(r, l, y\) を用いて表します。その後、問題の指示に従って「\(y\)が十分小さい」という条件から \(y^2 \approx 0\) という近似を用いて \(y\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- \(\triangle\)PQRは、\(\angle\)PQR \( = 90^\circ\) の直角三角形である。
- 斜辺PRの長さは円の半径 \(r\)。
- 辺PQの長さは \(l\)。
- 辺QRの長さは、円の半径 \(r\) から \(y\) を引いた \(r-y\)。
具体的な解説と立式
直角三角形\(\triangle\)PQRに三平方の定理を適用します。
$$ (\text{PR})^2 = (\text{PQ})^2 + (\text{QR})^2 $$
各辺の長さを \(r, l, y\) で表すと、
$$ r^2 = l^2 + (r-y)^2 $$
使用した物理公式
- 三平方の定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
立式した \(r^2 = l^2 + (r-y)^2\) を展開します。
$$
\begin{aligned}
r^2 &= l^2 + (r^2 – 2ry + y^2)
\end{aligned}
$$
ここで、問題の条件「\(y\)が十分小さい」を使い、\(y^2\) の項を \(0\) と近似します (\(y^2 \approx 0\))。
$$
\begin{aligned}
r^2 &\approx l^2 + r^2 – 2ry
\end{aligned}
$$
両辺の \(r^2\) を消去し、\(y\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0 &\approx l^2 – 2ry \\[2.0ex]
2ry &\approx l^2 \\[2.0ex]
y &\approx \frac{l^2}{2r}
\end{aligned}
$$
最後に、(1)で求めた \(r = \displaystyle\frac{mv_0}{eB}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &\approx \frac{l^2}{2} \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{l^2}{2} \cdot \frac{eB}{mv_0} \\[2.0ex]
&= \frac{eBl^2}{2mv_0}
\end{aligned}
$$
図の中にある直角三角形(\(\triangle\)PQR)に注目し、中学校で習うピタゴラスの定理(三平方の定理)を使います。3つの辺の長さを、半径\(r\)、横に進んだ距離\(l\)、縦にずれた距離\(y\)を使って表し、式を立てます。このままだと計算が少し複雑ですが、問題文に「\(y\)はとても小さいので、\(y\)の2乗は無視してよい」というヒントがあります。この近似を使うと式が簡単になり、\(y\)の値を求めることができます。
\(y\)座標は \(\displaystyle\frac{eBl^2}{2mv_0}\) となります。この結果は、磁場を通過する距離 \(l\) が長いほど、また円運動の半径 \(r\) が小さい(強く曲げられる)ほど、\(y\)方向へのズレが大きくなることを示しており、直感と一致します。
思考の道筋とポイント
電子の軌道は円の一部です。この円の軌跡を数学的な方程式で表し、そこから厳密な \(y\) の値を求めます。その後、物理的な条件(\(y\)が小さい \(\Leftrightarrow l\) が \(r\) に比べて小さい)を用いて、数学的な近似式を適用し、最終的な答えを導きます。
この設問における重要なポイント
- 円運動の中心はR\((0, -r)\)ではなく、図からR\((0, r)\)とすると計算が煩雑になるため、中心を\((0, -r)\)と設定し、電子は\(y\)軸の負の方向にずれると考える。あるいは、図の通り\(y\)軸を上向き正として、中心を\((0, r)\)とすると、軌跡の方程式は \(x^2 + (y-r)^2 = r^2\) となる。ここでは図に合わせて後者で進める。
- 点Pの座標は \((l, y)\) であり、この点は円周上にある。
- 近似式 \(\sqrt{1-A} \approx 1 – \displaystyle\frac{A}{2}\) (\(A\)が\(1\)に比べて非常に小さい場合)を利用する。
具体的な解説と立式
円の中心をR\((0, r)\)とすると、半径\(r\)の円の方程式は、
$$ x^2 + (y-r)^2 = r^2 $$
点P\((l, y)\)はこの円周上にあるので、この方程式を満たします。
$$ l^2 + (y-r)^2 = r^2 $$
この式を \(y\) について解きます。
$$ (y-r)^2 = r^2 – l^2 $$
図より \(y < r\) なので \(y-r < 0\) です。したがって、平方根をとるときは負の符号を選びます。
$$ y-r = -\sqrt{r^2 – l^2} $$
よって、\(y\)の厳密な値は次式で与えられます。
$$ y = r – \sqrt{r^2 – l^2} $$
使用した物理公式
- 円の方程式: \((x-a)^2 + (y-b)^2 = r^2\)
- 近似式: \(\sqrt{1-A} \approx 1 – \displaystyle\frac{A}{2}\) (for \(A \ll 1\))
計算過程
ここで、\(y\)が小さいという条件は、電子がわずかしか曲がらない、すなわち \(l \ll r\) であることを意味します。この条件の下で近似計算を行います。
$$
\begin{aligned}
y &= r – r\sqrt{1 – \left(\frac{l}{r}\right)^2}
\end{aligned}
$$
\((l/r)^2\) は \(1\) に比べて非常に小さいので、近似式 \(\sqrt{1-A} \approx 1 – A/2\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
y &\approx r – r\left\{ 1 – \frac{1}{2}\left(\frac{l}{r}\right)^2 \right\} \\[2.0ex]
&= r – \left( r – \frac{l^2}{2r} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{l^2}{2r}
\end{aligned}
$$
この結果に(1)で求めた \(r\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
y &\approx \frac{l^2}{2} \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{l^2}{2} \cdot \frac{eB}{mv_0} \\[2.0ex]
&= \frac{eBl^2}{2mv_0}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
電子の軌跡は円の一部なので、数学で習う「円の方程式」でその道筋を表すことができます。この方程式に、電子が通り抜ける点Pの座標 \((l, y)\) を代入すると、\(y\)を計算するための厳密な式が手に入ります。この式はルート記号が入っていて少し複雑ですが、「電子は少ししか曲がらない」という物理的な状況を数学の「近似式」を使って反映させると、主たる解法と同じシンプルな答えを導き出すことができます。
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。このアプローチは、まず厳密な関係式を立て、その後に物理的条件に応じた数学的近似を適用するという、より汎用性の高い問題解決の手順を示しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Pでの軌道と\(x\)軸がなす角 \(\theta\) の正接 \(\tan\theta\) を求めます。点Pでの速度ベクトルは円の接線方向を向いており、その接線と\(x\)軸のなす角が \(\theta\) です。図の幾何学的な関係を考えると、円の中心Rと点Pを結ぶ半径が\(y\)軸となす角も \(\theta\) になります。この角度 \(\theta\) を含む直角三角形\(\triangle\)PQRに着目し、\(\sin\theta\) を \(l\) と \(r\) で表します。最後に、問題の指示通り \(\tan\theta \approx \sin\theta\) の近似を用います。
この設問における重要なポイント
- 点Pでの接線と\(x\)軸のなす角 \(\theta\) は、半径RPと\(y\)軸のなす角 \(\theta\) に等しい。
- 直角三角形\(\triangle\)PQRにおいて、\(\sin\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}} = \frac{\text{PQ}}{\text{PR}} = \frac{l}{r}\)。
- \(\theta\)が十分小さいとき、\(\tan\theta \approx \sin\theta\) という近似が成り立つ。
具体的な解説と立式
図の直角三角形\(\triangle\)PQRにおいて、斜辺はPR、対辺はPQです。これらの長さはそれぞれ \(r\) と \(l\) なので、\(\sin\theta\) は次のように表せます。
$$ \sin\theta = \frac{l}{r} $$
問題の条件より、\(\theta\)が十分小さいとき \(\tan\theta \approx \sin\theta\) と近似できるので、
$$ \tan\theta \approx \frac{l}{r} $$
使用した物理公式
- 三角関数の定義: \(\sin\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}}\)
- 微小角の近似: \(\tan\theta \approx \sin\theta\)
上記で立式した \(\tan\theta \approx \displaystyle\frac{l}{r}\) に、(1)で求めた \(r = \displaystyle\frac{mv_0}{eB}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &\approx l \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]
&= l \cdot \frac{eB}{mv_0} \\[2.0ex]
&= \frac{eBl}{mv_0}
\end{aligned}
$$
軌道の傾きを表す角度 \(\theta\) は、図をよく見ると、\(\triangle\)PQRの中にも現れています。この直角三角形に注目すると、三角関数(サイン)の定義から \(\sin\theta\) が「\(l \div r\)」で計算できることがわかります。問題文に「\(\theta\)は小さいので \(\tan\theta\) と \(\sin\theta\) はほぼ同じと考えてよい」というヒントがあるので、この \(\sin\theta\) の値がそのまま求めたい \(\tan\theta\) の答えになります。
\(\tan\theta\) は \(\displaystyle\frac{eBl}{mv_0}\) となります。この値は、磁場を通過する距離 \(l\) に比例し、円運動の半径 \(r\) に反比例します。これは、軌道が直線に近い(\(l\)が小さい、または\(r\)が大きい)ほど傾きが小さくなることを意味し、直感的に妥当です。
思考の道筋とポイント
軌道の接線の傾きは、軌跡の方程式 \(y=f(x)\) を \(x\) で微分した導関数 \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) によって与えられます。設問(2)の別解で考えた軌跡の厳密な方程式を微分し、点Pの\(x\)座標である \(x=l\) を代入することで、\(\tan\theta\) を直接計算します。
この設問における重要なポイント
- 軌跡の接線の傾きは \(\tan\theta = \displaystyle\frac{dy}{dx}\) で計算できる。
- 軌跡の方程式は \(y = r – \sqrt{r^2 – x^2}\)。
- 合成関数の微分法を用いて \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) を計算する。
具体的な解説と立式
設問(2)の別解で導出した軌跡の方程式は以下の通りです。
$$ y = r – \sqrt{r^2 – x^2} $$
軌道の傾き \(\tan\theta\) は、この式を \(x\) で微分した導関数 \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) に等しいです。
$$ \tan\theta = \frac{dy}{dx} = \frac{d}{dx} \left( r – \sqrt{r^2 – x^2} \right) $$
使用した物理公式
- 軌跡の傾きの定義: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{dy}{dx}\)
- 合成関数の微分公式: \(\displaystyle\frac{d}{dx}f(g(x)) = f'(g(x))g'(x)\)
計算過程
軌跡の方程式を \(x\) で微分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{dy}{dx} &= 0 – \frac{1}{2\sqrt{r^2-x^2}} \cdot (-2x) \\[2.0ex]
&= \frac{x}{\sqrt{r^2-x^2}}
\end{aligned}
$$
これが任意の\(x\)座標における軌道の傾きを表す式です。点Pは \(x=l\) の点なので、この式に \(x=l\) を代入します。
$$ \tan\theta = \frac{l}{\sqrt{r^2-l^2}} $$
ここで、\(\theta\)が十分小さい、すなわち \(l \ll r\) という条件を用いると、分母は \(\sqrt{r^2-l^2} \approx \sqrt{r^2} = r\) と近似できます。
$$ \tan\theta \approx \frac{l}{r} $$
この結果に(1)で求めた \(r\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &\approx l \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]
&= l \cdot \frac{eB}{mv_0} \\[2.0ex]
&= \frac{eBl}{mv_0}
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
(2)の別解で求めた軌跡の式(道筋の式)を、数学の「微分」という操作にかけると、どの場所でも軌道の傾きを計算できる便利な式が手に入ります。この「傾きの式」に、求めたい点Pの\(x\)座標である \(x=l\) を代入すれば、その点での傾き \(\tan\theta\) が計算できます。最後に、電子は少ししか曲がらないという条件を使って式を簡単にすると、答えが求まります。
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この解法は、軌跡を関数として解析的に扱うアプローチであり、物理現象の数学的な側面に光を当てるものです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ローレンツ力と円運動:
- 核心: 磁場中を運動する荷電粒子が受けるローレンツ力は、常に速度ベクトルと垂直であるという性質を理解することが全ての出発点です。
- 理解のポイント:
- 力の性質: 速度と垂直な力は、粒子の運動エネルギー(速さ)を変えることはなく、運動の向きだけを変えます。
- 運動形態: この結果、磁場が一様で、初速度が磁場に垂直な場合、粒子は「等速円運動」をします。
- 運動方程式: この円運動を維持するための向心力の正体がローレンツ力であるため、円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) に、ローレンツ力の式 \(F=|q|vB\) を代入することで、運動の半径 \(r\) や周期 \(T\) を求めることができます。
- 近似計算の物理的意味:
- 核心: この問題で使われる \(y^2 \approx 0\) や \(\tan\theta \approx \sin\theta\) といった近似は、単なる数学的操作ではなく、「電子の軌道が、円弧のごく一部であり、直線に非常に近い」という物理的状況を数式に反映させたものです。
- 理解のポイント:
- \(y^2 \approx 0\) の意味: \(y\)方向のズレが、磁場を通過する距離 \(l\) や円運動の半径 \(r\) に比べて非常に小さいことを意味します。
- \(\tan\theta \approx \sin\theta\) の意味: 軌道の傾きが非常に小さい、つまり軌道が\(x\)軸とほとんど平行であることを意味します。
- 物理的条件との対応: これらの近似が使えるのは、初速度 \(v_0\) が大きい、あるいは磁場 \(B\) が弱いなどの理由で、電子が大きく曲げられずに磁場領域を通過する場合です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 質量分析器: 異なる質量のイオンを同じように加速して磁場に入れると、質量によって円運動の半径が変わることを利用して、同位体を分離する装置です。本問の(1)の式が直接応用されます。
- サイクロトロン: 荷電粒子を磁場で円運動させながら、電場で加速を繰り返す装置です。円運動の周期が速さによらない(\(T = \frac{2\pi m}{qB}\))という性質が利用されます。
- 速度選択器: 直交する電場と磁場をかけた領域で、静電気力とローレンツ力が釣り合う特定の速さの粒子だけが直進できることを利用します。\(qE = qvB \rightarrow v=E/B\) という関係が鍵になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の向きを最優先で決定: 荷電粒子が磁場に入ったら、まずフレミングの左手の法則を使ってローレンツ力の向きを確認します。電荷の符号(正か負か)を絶対に間違えないように注意し、図に力の矢印を書き込みます。
- 運動の種類を判断: 力の向きが常に速度と垂直なら「等速円運動」。電場も存在し、力が複雑な場合は、運動を成分に分解して考えるか、エネルギー保存則などを検討します。
- 幾何学的関係を図から読み取る: 円運動の問題では、軌道の図から半径、中心、角度などの関係を読み取り、三平方の定理や三角関数を適用する場面が多くあります。補助線を引いて直角三角形を見つけるのが定石です。
- 近似の条件を確認: 問題文に「\(y\)は\(l\)に比べて十分小さい」や「\(\theta\)は微小角」などの記述があれば、それは近似計算を用いるサインです。どの項を無視できるか、どの近似式が使えるかを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- フレミングの左手の法則の誤用:
- 誤解: 電子の運動方向をそのまま電流の向きとして法則を適用してしまう。
- 対策: 「電子(負電荷)の運動方向と、電流の向きは逆」というルールを徹底します。問題で電子が出てきたら、まず頭の中で「電流は逆向き」と変換してから、フレミングの左手の法則を使いましょう。
- 近似の過剰適用・適用ミス:
- 誤解: \(y^2\) を無視する際に、\(y\) 自体も \(0\) としてしまい、\(2ry\) の項まで消してしまう。
- 対策: 近似は「微小量の高次の項(2乗、3乗など)を無視する」のが基本です。\(y\) が小さいからといって \(y\) そのものを \(0\) にしてはいけません。\(y\) に比べて \(y^2\) が「はるかに小さい」から無視できる、という大小関係を意識することが重要です。
- 幾何学的関係の誤認:
- 誤解: 図中の角度 \(\theta\) の位置を勘違いし、\(\sin\theta\) を \(\displaystyle\frac{y}{l}\) や \(\displaystyle\frac{y}{r}\) などと間違えてしまう。
- 対策: 円の接線と半径が垂直であることなど、図形の基本的な性質を丁寧に確認します。どの角が \(\theta\) と等しくなるのか(錯角、同位角、直角三角形の性質など)を図に書き込みながら、ゆっくりと確認する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)で円運動の運動方程式を使う理由:
- 選定理由: 磁場から受けるローレンツ力が常に速度と垂直である、という物理法則から、運動形態が「等速円運動」であると確定します。等速円運動の力学的関係を記述する基本法則が、運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) だからです。
- 適用根拠: 観測される円運動は、必ず中心に向かう「向心力」によって引き起こされています。この問題では、その向心力の供給源がローレンツ力以外に存在しないため、\(F\) をローレンツ力 \(ev_0B\) で置き換えることが物理的に正当化されます。
- (2)で三平方の定理を使う理由:
- 選定理由: 問題で問われている \(y\) は、図中の直角三角形 \(\triangle\)PQR の辺の長さに関連しています。直角三角形の3辺の長さの関係を表す最も基本的な数学的ツールが三平方の定理だからです。
- 適用根拠: 図に示された点P, Q, Rは、それぞれ円周上の点、垂線の足、円の中心であり、これらの位置関係から \(\triangle\)PQR が直角三角形であることは幾何学的に明らかです。したがって、この三角形に数学の定理を適用することに何の問題もありません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似計算のタイミング:
- (2)の計算では、まず厳密な式 \(r^2 = l^2 + (r-y)^2\) を立て、展開してから \(y^2 \approx 0\) の近似を適用します。最初から \(r \approx r-y\) のように安易な近似をすると、重要な項が消えてしまう危険があります。まず正確な式を立て、その後で「どの項が他に比べて小さいか」を吟味して無視する、という手順が安全です。
- 文字式の整理を優先する:
- (2)や(3)の計算では、まず \(y\) や \(\tan\theta\) を \(l\) と \(r\) の関係式で表し、最後に(1)で求めた \(r\) の式を代入するのが最も見通しが良いです。最初から \(r\) に \(\displaystyle\frac{mv_0}{eB}\) を代入して計算を始めると、式が非常に複雑になり、計算ミスを誘発します。
- 分数の逆数をとる操作を慎重に:
- (2)の最終段階で \(y \approx \displaystyle\frac{l^2}{2r}\) に \(r\) を代入する際、\(r\) は分母にあるため、代入するのは \(r\) の「逆数」です。\( \displaystyle\frac{1}{r} = \frac{eB}{mv_0} \) となり、これを掛けることになります。分母への代入は、逆数を掛ける操作だと意識するとミスが減ります。
基本例題96 光電効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)および(3)の別解: 連立方程式を用いる解法
- 模範解答がグラフの「y切片」と「傾き」という幾何学的な特徴を個別に利用するのに対し、別解ではグラフから読み取れる2点の座標を光電効果の式に代入し、仕事関数\(W\)とプランク定数\(h\)を未知数とする連立方程式を解くという、より代数的なアプローチを取ります。
- 設問(2)および(3)の別解: 連立方程式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の汎用性: このアプローチは、グラフの切片や傾きが直接読み取れない場合でも、グラフ上の任意の2点の座標さえ分かれば未知の定数を決定できるため、様々な実験データの解析に応用できる強力な手法です。
- 数学的思考の訓練: 物理法則を、実験データが満たすべき方程式と捉え、連立方程式という数学的な手法で解を導く経験は、論理的思考能力を高めます。
- 物理的理解の深化: グラフ上の異なる点が、いずれも同じ一つの物理法則(光電効果の式)に従っていることを具体的に確認でき、法則の普遍性への理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「光電効果の実験データの解釈」です。アインシュタインの光電効果の式を、実験結果であるグラフと結びつけ、グラフの傾きや切片から物理的な定数(仕事関数、プランク定数)を読み取る能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アインシュタインの光電効果の式: 光電子の最大運動エネルギー\(K_{\text{最大}}\)が、光のエネルギー\(h\nu\)から仕事関数\(W\)を引いたものであること (\(K_{\text{最大}} = h\nu – W\))。
- 阻止電圧と運動エネルギーの関係: 最大運動エネルギー\(K_{\text{最大}}\)を持つ光電子を止めるのに必要な仕事が\(eV_0\)であることから、\(K_{\text{最大}} = eV_0\)という関係が成り立つこと。
- 波の基本式: 光の速さ\(c\)、振動数\(\nu\)、波長\(\lambda\)の間の関係式 \(c = \nu\lambda\)。
- 一次関数のグラフの解釈: 物理法則を\(y=ax+b\)の形に変形し、グラフの傾き(\(a\))と切片(\(b\))がどの物理量に対応するかを理解すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、グラフと横軸の交点から限界振動数\(\nu_0\)を読み取り、波の基本式を用いて限界波長\(\lambda_0\)を計算します。
- (2)では、光電効果の式をグラフの形に変形し、グラフの縦軸切片が仕事関数\(W\)とどう関係するかを導いて、\(W\)を計算します。
- (3)では、同様にグラフの傾きがプランク定数\(h\)とどう関係するかを導いて、\(h\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
限界波長\(\lambda_0\)とは、光電効果が起こるぎりぎりの波長、すなわち最も長い波長のことです。波長が長いということは、振動数が小さいということなので、これは限界振動数\(\nu_0\)に対応します。限界振動数\(\nu_0\)は、飛び出す光電子の運動エネルギーがちょうど\(0\)になるときの振動数です。運動エネルギーが\(0\)ということは、それを阻止するための電圧(阻止電圧\(V_0\))も\(0\)でよい、ということです。したがって、グラフ上で\(V_0=0\)となる点が限界振動数\(\nu_0\)を示しています。
この設問における重要なポイント
- 限界振動数\(\nu_0\)は、光電子の最大運動エネルギーが\(0\)になる点の振動数である。
- 光電子の最大運動エネルギーが\(0\)のとき、阻止電圧\(V_0\)も\(0\)である。
- したがって、グラフと横軸(\(\nu\)軸)との交点が限界振動数\(\nu_0\)を表す。
- 波の基本式 \(c = \nu_0 \lambda_0\) を用いて、振動数を波長に変換する。
具体的な解説と立式
グラフより、阻止電圧\(V_0\)が\(0\) [V]になるのは、振動数\(\nu\)が\(4.5 \times 10^{14}\) [Hz]のときです。これが限界振動数\(\nu_0\)です。
$$ \nu_0 = 4.5 \times 10^{14} \, [\text{Hz}] $$
光の速さ\(c\)、限界振動数\(\nu_0\)、限界波長\(\lambda_0\)の間には、次の関係があります。
$$ c = \nu_0 \lambda_0 $$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(c = \nu \lambda\)
上記の関係式を\(\lambda_0\)について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{c}{\nu_0} \\[2.0ex]
&= \frac{3.0 \times 10^8}{4.5 \times 10^{14}} \\[2.0ex]
&= \frac{3.0}{4.5} \times 10^{-6} \\[2.0ex]
&\approx 0.667 \times 10^{-6} \, [\text{m}] \\[2.0ex]
&\approx 6.7 \times 10^{-7} \, [\text{m}]
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えます。
光電子が飛び出すためには、光に最低限のエネルギーが必要です。その最低限のエネルギーに対応する振動数が「限界振動数」です。グラフを見ると、電圧をかけなくても電流が流れ始める(つまり、かろうじて光電子が飛び出す)振動数は \(4.5 \times 10^{14}\) Hz だとわかります。この振動数を、光の速さを使って波長に変換すれば、それが答えの「限界波長」になります。
限界波長\(\lambda_0\)は約\(6.7 \times 10^{-7}\) m(\(670\) nm)と求まりました。これは可視光線の赤色光あたりの波長であり、物理的に妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
金属Kの仕事関数\(W\)を求めます。光電効果の基本式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) と、阻止電圧との関係式 \(K_{\text{最大}} = eV_0\) を組み合わせます。すると、\(eV_0 = h\nu – W\) となります。この式をグラフの形、すなわち\(V_0\)を縦軸、\(\nu\)を横軸とする一次関数の形 \(V_0 = (\text{傾き})\nu + (\text{切片})\) に変形します。これにより、グラフの縦軸切片が仕事関数\(W\)とどのように関係するかがわかります。
この設問における重要なポイント
- 光電効果の式と阻止電圧の式を連立させ、\(V_0\)と\(\nu\)の関係式を導く。
- \(eV_0 = h\nu – W \) なので、\( V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\)
- この式から、グラフの縦軸切片(\(\nu=0\)のときの\(V_0\))が \(-\displaystyle\frac{W}{e}\) に等しいことを読み取る。
具体的な解説と立式
光電効果の式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) と、阻止電圧の関係式 \(K_{\text{最大}} = eV_0\) より、
$$ eV_0 = h\nu – W $$
この式の両辺を \(e\) で割ると、
$$ V_0 = \frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e} $$
この式は、\(V_0\)を縦軸、\(\nu\)を横軸にとったときの一次関数を表しており、その縦軸切片は \(-\displaystyle\frac{W}{e}\) です。
図2のグラフを延長した破線より、縦軸切片は \(-1.8\) [V] です。したがって、
$$ -\frac{W}{e} = -1.8 $$
使用した物理公式
- 光電効果の式: \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)
- 阻止電圧と運動エネルギーの関係: \(K_{\text{最大}} = eV_0\)
上記で立式した関係式を\(W\)について解き、電子の電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) [C] を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= 1.8 e \\[2.0ex]
&= 1.8 \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 2.88 \times 10^{-19} \, [\text{J}] \\[2.0ex]
&\approx 2.9 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えます。
光電効果の法則をグラフの形に合うように変形すると、グラフの縦軸との交点(切片)が、仕事関数\(W\)を電気素量\(e\)で割ってマイナスをつけたもの(\(-\frac{W}{e}\))になることがわかります。グラフから切片は \(-1.8\) Vだと読み取れるので、この関係を使って計算すれば仕事関数\(W\)が求まります。
仕事関数\(W\)は約\(2.9 \times 10^{-19}\) Jと求まりました。これは一般的な金属の仕事関数として妥当な大きさの値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
プランク定数\(h\)を求めます。(2)と同様に、関係式 \(V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) に着目します。この式から、グラフの傾きが \(\displaystyle\frac{h}{e}\) に対応することがわかります。グラフから傾きを計算し、その値と電気素量\(e\)を用いてプランク定数\(h\)を算出します。
この設問における重要なポイント
- 関係式 \(V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) より、グラフの傾きは \(\displaystyle\frac{h}{e}\) に等しい。
- グラフの傾きは、読み取りやすい2点を選んで「縦軸の変化量 ÷ 横軸の変化量」で計算する。
具体的な解説と立式
関係式 \(V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) より、グラフの傾きは \(\displaystyle\frac{h}{e}\) です。
グラフから傾きを計算するために、2つの点を読み取ります。
– 点1: 横軸との交点 \((\nu_1, V_{0,1}) = (4.5 \times 10^{14}, 0)\)
– 点2: 縦軸との切片 \((\nu_2, V_{0,2}) = (0, -1.8)\)
これらの2点から傾きを求めます。
$$ \text{傾き} = \frac{\Delta V_0}{\Delta \nu} = \frac{V_{0,1} – V_{0,2}}{\nu_1 – \nu_2} = \frac{0 – (-1.8)}{4.5 \times 10^{14} – 0} $$
この傾きが \(\displaystyle\frac{h}{e}\) に等しいので、
$$ \frac{h}{e} = \frac{1.8}{4.5 \times 10^{14}} $$
使用した物理公式
- 光電効果の式: \(V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\)
- グラフの傾きの定義: \(\text{傾き} = \displaystyle\frac{\text{縦軸の変化量}}{\text{横軸の変化量}}\)
上記の関係式を\(h\)について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1.8}{4.5 \times 10^{14}} \times e \\[2.0ex]
&= \frac{1.8}{4.5} \times 10^{-14} \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 0.4 \times 10^{-14} \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 0.64 \times 10^{-33} \, [\text{J}\cdot\text{s}] \\[2.0ex]
&= 6.4 \times 10^{-34} \, [\text{J}\cdot\text{s}]
\end{aligned}
$$
(2)で使った式 \(V_0 = \frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) を見ると、グラフの「傾き」がプランク定数\(h\)を電気素量\(e\)で割ったもの(\(\frac{h}{e}\))になっていることがわかります。グラフから2点を選んで傾きを計算し、その値に電気素量\(e\)を掛ければ、プランク定数\(h\)が求まります。
プランク定数\(h\)は約\(6.4 \times 10^{-34}\) J·sと求まりました。これは現在知られているプランク定数の値 \(6.626 \times 10^{-34}\) J·s に非常に近く、実験データとして妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
物理法則である光電効果の式 \(eV_0 = h\nu – W\) は、グラフ上の全ての点で成立します。そこで、グラフから読み取れる2点の座標をこの式に代入し、仕事関数\(W\)とプランク定数\(h\)を未知数とする連立方程式を立てて解くことで、これらの値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 物理法則は、実験データ(グラフ上の点)を満たす方程式と見なせる。
- グラフから読み取りやすい2点の座標を選ぶ(ここでは切片を利用)。
- 2つの未知数(\(W, h\))に対して2つの方程式を立て、連立方程式として解く。
具体的な解説と立式
光電効果の式 \(eV_0 = h\nu – W\) を基本の式とします。
グラフから読み取れる2点の座標は以下の通りです。
– 点A(横軸との交点): \((\nu_A, V_{0A}) = (4.5 \times 10^{14}, 0)\)
– 点B(縦軸との切片): \((\nu_B, V_{0B}) = (0, -1.8)\)
これらの座標を光電効果の式にそれぞれ代入します。
– 点Aについて:
$$ e \cdot 0 = h \cdot (4.5 \times 10^{14}) – W \quad \cdots ① $$
– 点Bについて:
$$ e \cdot (-1.8) = h \cdot 0 – W \quad \cdots ② $$
これで、\(W\)と\(h\)に関する連立方程式が立てられました。
使用した物理公式
- 光電効果の式と阻止電圧の関係: \(eV_0 = h\nu – W\)
計算過程
まず、設問(2)の仕事関数\(W\)を求めます。式②は\(h\)の項が消えているため、\(W\)を直接求めることができます。
$$
\begin{aligned}
-1.8e &= -W \\[2.0ex]
W &= 1.8e \\[2.0ex]
&= 1.8 \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 2.88 \times 10^{-19} \, [\text{J}] \\[2.0ex]
&\approx 2.9 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
次に、設問(3)のプランク定数\(h\)を求めます。上記で求めた \(W=1.8e\) を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
0 &= h \cdot (4.5 \times 10^{14}) – 1.8e
\end{aligned}
$$
この式を\(h\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
h \cdot (4.5 \times 10^{14}) &= 1.8e \\[2.0ex]
h &= \frac{1.8e}{4.5 \times 10^{14}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.8 \times (1.6 \times 10^{-19})}{4.5 \times 10^{14}} \\[2.0ex]
&= \frac{2.88 \times 10^{-19}}{4.5 \times 10^{14}} \\[2.0ex]
&= 0.64 \times 10^{-33} \, [\text{J}\cdot\text{s}] \\[2.0ex]
&= 6.4 \times 10^{-34} \, [\text{J}\cdot\text{s}]
\end{aligned}
$$
この設問の平易な説明
物理の法則の式を、数学で習う方程式だと考えてみましょう。グラフ上の2つの点(横軸との交点と縦軸との交点)を選び、それぞれの座標((\(\nu\), \(V_0\))のペア)を法則の式に代入すると、未知数\(W\)と\(h\)を含む2つの方程式ができます。あとは、数学の授業で習った連立方程式を解くのと同じ手順で、\(W\)と\(h\)を計算することができます。
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、グラフの傾きや切片といった幾何学的な意味を考えずとも、代数的な操作だけで答えを導けるという点で非常に強力かつ汎用的なアプローチです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- アインシュタインの光電効果の式:
- 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則は、アインシュタインが提唱した光電効果の式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) です。これは、光を粒子(光子)と捉え、そのエネルギーが \(h\nu\) で与えられるという量子論の根幹をなす考え方に基づいています。
- 理解のポイント:
- エネルギーの収支: 光子1個が電子1個にエネルギーを全て与える「1対1の衝突」をイメージします。光子のエネルギー \(h\nu\) の一部が、電子を金属から引き出すための「通行料」(仕事関数 \(W\))として使われ、残りが電子の飛び出す運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) になります。
- 限界振動数の存在: 光子のエネルギー \(h\nu\) が仕事関数 \(W\) より小さいと、電子は飛び出すことすらできません。光電効果が起こる最低限のエネルギーは \(h\nu_0 = W\) であり、これが限界振動数 \(\nu_0\) が存在する理由です。
- 阻止電圧と運動エネルギーの関係:
- 核心: 飛び出してきた光電子の運動エネルギーを測定するための巧妙な方法が、逆電圧(阻止電圧 \(V_0\))をかけることです。\(K_{\text{最大}} = eV_0\) という関係式は、エネルギーの単位をジュール[J]から電子ボルト[eV]に変換する役割も果たしています。
- 理解のポイント:
- 仕事とエネルギー: 電子が電位差 \(V_0\) に逆らって移動するとき、電場からされる仕事は \(-eV_0\) です。最も元気な電子が持つ運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) が、この負の仕事によってちょうど \(0\) になるとき、電流が止まります。エネルギー保存則から \(0 – K_{\text{最大}} = -eV_0\)、すなわち \(K_{\text{最大}} = eV_0\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 異なる金属での光電効果: 金属の種類が変わると、仕事関数 \(W\) が変わります。これにより、グラフは傾き(\(\frac{h}{e}\))が同じまま、平行移動します。限界振動数や切片がどう変わるかを問う問題に応用できます。
- X線の発生(逆光電効果): 高速の電子を金属にぶつけてX線を発生させる現象は、光電効果の逆過程と見なせます。電子の運動エネルギーがX線光子のエネルギーに変換されると考え、\(eV = h\nu_{\text{最大}}\) のような関係式から、発生するX線の最短波長(最大振動数)を求める問題に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: まず、縦軸と横軸がどの物理量を表しているかを確認します。この問題では \(V_0\) と \(\nu\) です。
- 物理法則をグラフの形に変換: 関連する物理法則(この場合は \(eV_0 = h\nu – W\))を、グラフの形である \(y=ax+b\) の形式(\(V_0 = \frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\))に変形します。
- 傾きと切片の物理的意味を特定: 変形した式と \(y=ax+b\) を比較し、傾き \(a\) が \(\frac{h}{e}\) に、y切片 \(b\) が \(-\frac{W}{e}\) に対応することを把握します。
- グラフから値を読み取る: 傾き、切片、特定の点の座標など、計算に必要な値をグラフから正確に読み取ります。軸の単位(例: \(\times 10^{14}\) Hz)を見落とさないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事関数と切片の符号ミス:
- 誤解: グラフの切片が \(-1.8\) V なので、\(W = -1.8\) Jなどと勘違いしてしまう。
- 対策: 必ず物理法則の式 \(V_0 = \frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) に立ち返り、「切片は \(-\frac{W}{e}\) である」ことを確認します。したがって、\(-\frac{W}{e} = -1.8\) となり、マイナス符号が両辺で打ち消し合います。仕事関数 \(W\) はエネルギーなので、必ず正の値になります。
- 電気素量 \(e\) の扱い:
- 誤解: \(K_{\text{最大}} = V_0\) としたり、\(h\) を計算する際に \(e\) を掛け忘れたりする。
- 対策: エネルギーの単位を常に意識することが重要です。\(V_0\) は電圧[V]であり、エネルギー[J]ではありません。エネルギーに変換するには電気素量 \(e\) を掛けて \(eV_0\) とする必要があります。グラフの傾きも同様に \(\frac{h}{e}\) であり、\(h\) ではないことを式から確認する癖をつけましょう。
- グラフの軸の単位の見落とし:
- 誤解: 横軸の値を \(4.5\) として計算してしまう。
- 対策: グラフの軸には必ず単位が付記されています。この問題では \(\nu \, [\times 10^{14} \text{Hz}]\) となっているので、読み取った値 \(4.5\) は、実際には \(4.5 \times 10^{14}\) Hz であることを意味します。この \(10^{14}\) を計算に入れないと、桁が全く合わなくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (2)で縦軸切片、(3)で傾きを使う理由:
- 選定理由: 光電効果の式をグラフの形 \(V_0 = \frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) に変形すると、未知の物理定数である \(W\) と \(h\) が、それぞれグラフの「切片」と「傾き」という幾何学的な特徴に、非常にきれいな形で分離されて現れるからです。
- 適用根拠:
- 切片の利用: 縦軸切片は \(\nu=0\) の点であり、式に \(\nu=0\) を代入すると \(h\) の項が消え、\(V_0 = -\frac{W}{e}\) となり \(W\) だけを独立して求めることができます。
- 傾きの利用: 傾きは \(\nu\) の係数であり、\(W\) の値に依存しません。したがって、グラフの傾きを計算すれば、\(h\) だけを独立して求めることができます。このように、求めたい量だけをうまく分離できるため、このアプローチは非常に合理的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効数字の意識: 問題文で与えられている物理定数やグラフから読み取れる値の有効数字(この問題では2桁)を確認し、最終的な答えもそれに合わせることを徹底します。計算途中では1桁多くとっておき、最後に四捨五入すると精度が保たれます。
- 単位を含めて計算する癖:
- (3)の計算で、\(h = (\text{傾き}) \times e\) を計算する際、単位も一緒に考えてみましょう。傾きの単位は [V]/[Hz]、\(e\) の単位は [C] です。したがって、\(h\) の単位は \([\text{V}] \cdot [\text{C}] / [\text{Hz}]\) となります。ここで、\(W=qV\) より \([\text{J}]=[\text{C}][\text{V}]\) であり、Hzは \(1/\text{s}\) なので、単位は \([\text{J}] / [1/\text{s}] = [\text{J}\cdot\text{s}]\) となり、プランク定数の単位と正しく一致します。このような単位チェックは、式の立て間違いを防ぐのに役立ちます。
- 連立方程式のアプローチを常に持つ:
- 別解で示したように、グラフの問題は「グラフ上の2点を式に代入して連立方程式を解く」という方法でも必ず解けます。傾きや切片の意味が瞬時に分からなかったり、読み取りにくかったりした場合でも、この代数的なアプローチを知っていれば、落ち着いて問題を解くことができます。これは非常に汎用性の高い「保険」の解法となります。
基本例題97 X線の発生と性質
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「X線の発生原理とスペクトルの解釈」です。電子を加速してターゲットに衝突させることでX線が発生する、という現象について、エネルギー保存則や物質波の概念を適用して理解を深めることが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事とエネルギーの関係: 電荷\(q\)が電位差\(V\)で加速されるとき、される仕事は\(W=qV\)であり、これが運動エネルギーの増加になること。
- ド・ブロイ波(物質波): 運動量\(p\)を持つ粒子は、\(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\)で与えられる波長を持つ波として振る舞うこと。
- 光子のエネルギー: 振動数\(\nu\)、波長\(\lambda\)の光子(X線も光子の一種)が持つエネルギーは\(E=h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)で与えられること。
- X線スペクトルの構成: X線のスペクトルが、なめらかな「連続X線」と、鋭いピークを持つ「特性X線(固有X線)」の2種類から構成されていること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電子が電位差\(V\)によってされた仕事が全て運動エネルギーになるとして\(E\)を求め、運動エネルギーの式から速さ\(v\)を、ド・ブロイ波の式から波長\(\lambda_e\)を求めます。
- (2)では、電子の運動エネルギーが全て1個のX線光子のエネルギーに変換される場合を考えます。このとき、エネルギーが最大、すなわち波長が最短のX線が発生します。
- (3)では、(2)で求めた最短波長\(\lambda_1\)と、特性X線の波長\(\lambda_2, \lambda_3\)が、加速電圧\(V\)にどのように依存するかを、それぞれの発生原理に基づいて考察します。
- (4)では、X線の一般的な性質に関する知識を記述します。
問(1)
思考の道筋とポイント
陰極を初速\(0\)で出た電子(電気量\(-e\))が、陽極との電位差\(V\)によって加速されます。このとき、静電気力がする仕事が電子の運動エネルギーに変換されます。このエネルギー保存の関係から、運動エネルギー\(E\)と速さ\(v\)を求めます。さらに、運動する電子は物質波(ド・ブロイ波)としての性質も持つため、その運動量から波長\(\lambda_e\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 電子が電場からされる仕事は \(W = |(-e)|V = eV\)。
- エネルギー保存則より、運動エネルギー\(E\)はされた仕事\(eV\)に等しい。
- 運動エネルギーの定義式 \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) を用いて速さ\(v\)を求める。
- ド・ブロイ波の波長は \(\lambda_e = \displaystyle\frac{h}{p} = \frac{h}{mv}\)。
具体的な解説と立式
電子が電位差\(V\)で加速されるとき、静電気力がする仕事は\(eV\)です。これがそのまま電子の運動エネルギー\(E\)になります。
$$ E = eV $$
次に、この運動エネルギー\(E\)を用いて速さ\(v\)を求めます。
$$ E = \frac{1}{2}mv^2 $$
したがって、
$$ \frac{1}{2}mv^2 = eV $$
最後に、電子の運動量\(p=mv\)を用いて、ド・ブロイ波の波長\(\lambda_e\)を求めます。
$$ \lambda_e = \frac{h}{p} = \frac{h}{mv} $$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(E = qV\)
- 運動エネルギーの定義: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- ド・ブロイ波の波長: \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\)
まず、速さ\(v\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{2eV}{m} \\[2.0ex]
v &= \sqrt{\frac{2eV}{m}}
\end{aligned}
$$
次に、波長\(\lambda_e\)を求めます。\(v\)を代入するよりも、運動エネルギー\(E\)との関係式 \(E = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) を使うと計算が簡単です。
$$ p = \sqrt{2mE} $$
\(E=eV\)なので、
$$ p = \sqrt{2meV} $$
これをド・ブロイ波の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_e &= \frac{h}{p} \\[2.0ex]
&= \frac{h}{\sqrt{2meV}}
\end{aligned}
$$
電子は、電圧\(V\)という「坂」を転がり落ちることで加速されます。このとき電子が得る運動エネルギー\(E\)は、位置エネルギーの減少分である\(eV\)に等しくなります。運動エネルギーがわかれば、速さ\(v\)は公式 \(E=\frac{1}{2}mv^2\) から計算できます。また、運動する粒子は波の性質も持っており、その波長\(\lambda_e\)は、運動量が大きいほど短くなるという関係(\(\lambda_e = h/p\))から計算できます。
電子の運動エネルギーは\(E=eV\)、速さは\(v=\sqrt{\frac{2eV}{m}}\)、電子波の波長は\(\lambda_e = \frac{h}{\sqrt{2meV}}\)と求まりました。これらの式は、加速電圧\(V\)が大きいほど、電子はより大きなエネルギーと速さを持ち、物質波としての波長は短くなることを示しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
発生するX線の最短波長\(\lambda_X\)を求めます。X線は、陽極に衝突した電子が急減速することによって、その運動エネルギーが電磁波(光子)のエネルギーに変換されて発生します。電子が持つ運動エネルギー\(E=eV\)が、失われることなく、すべて1個のX線光子のエネルギーに変換されたとき、その光子のエネルギーは最大になります。光子のエネルギーと波長は反比例の関係(\(E=\frac{hc}{\lambda}\))にあるため、エネルギーが最大のとき、波長は最短になります。これが最短波長\(\lambda_X\)(図中の\(\lambda_1\))です。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (電子の運動エネルギー) = (発生したX線光子のエネルギー)
- 最短波長 \(\leftrightarrow\) 最大エネルギー \(\leftrightarrow\) 電子の運動エネルギーが100%光子に変換
- このときのエネルギー保存式は \(eV = h\nu_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_X}\)
具体的な解説と立式
電子が持つ運動エネルギー\(E=eV\)が、すべて1個のX線光子のエネルギーに変換されると考えます。このときのX線の波長が最短波長\(\lambda_X\)となります。
$$ (\text{電子の運動エネルギー}) = (\text{X線光子1個のエネルギー}) $$
$$ eV = \frac{hc}{\lambda_X} $$
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 光子のエネルギー: \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
上記の関係式を\(\lambda_X\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_X &= \frac{hc}{eV}
\end{aligned}
$$
陽極にぶつかった電子は、その運動エネルギーを失い、代わりにX線という光を発生させます。一番効率よくエネルギーが変換された場合、つまり電子の運動エネルギーがまるごと1個のX線光子のエネルギーになったとき、最もエネルギーの高い(=波長が最も短い)X線が生まれます。この「電子のエネルギー = X線のエネルギー」という等式を立てることで、最短波長を計算できます。
X線の最短波長は\(\lambda_X = \displaystyle\frac{hc}{eV}\)と求まりました。この波長は、デュエン-ハントの法則として知られています。加速電圧\(V\)が高いほど、電子のエネルギーが大きくなるため、発生するX線の最短波長は短くなる、という関係を示しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
加速電圧\(V\)を増大させたときの、各波長\(\lambda_1, \lambda_2, \lambda_3\)の変化を考察します。これには、それぞれの波長のX線がどのようにして発生するのか、その原理を理解している必要があります。
– \(\lambda_1\): これは(2)で求めた最短波長\(\lambda_X\)です。その発生原理は、電子の運動エネルギーが直接光子に変換される「制動放射」です。
– \(\lambda_2, \lambda_3\): これらは「特性X線(固有X線)」のピークです。これは、加速された電子がターゲット原子の内殻電子を弾き飛ばし、その空席に外側の電子が遷移する際に放出される光子です。
この設問における重要なポイント
- \(\lambda_1\)(連続X線の最短波長): \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{hc}{eV}\) で与えられるため、加速電圧\(V\)に反比例して変化する。
- \(\lambda_2, \lambda_3\)(特性X線): この波長は、ターゲット原子のエネルギー準位の差によって決まる。エネルギー準位は原子に固有の値であるため、加速電圧\(V\)には依存しない。
具体的な解説と立式
– \(\lambda_1\)について:
(2)の結果より、\(\lambda_1 = \lambda_X = \displaystyle\frac{hc}{eV}\)です。この式から、\(\lambda_1\)は加速電圧\(V\)に反比例します。したがって、\(V\)を増大させると\(\lambda_1\)は減少(変化)します。
– \(\lambda_2, \lambda_3\)について:
これらは特性X線であり、そのエネルギー(波長)は陽極に使われている金属原子のエネルギー準位間の差で決まります。このエネルギー準位は、その原子に固有のものであり、ぶつかってくる電子のエネルギー(つまり加速電圧\(V\))には依存しません。したがって、\(V\)を増大させても\(\lambda_2, \lambda_3\)は変化しません。(ただし、\(V\)が小さすぎて内殻電子を弾き飛ばすエネルギーに満たない場合は、特性X線自体が発生しません。)
使用した物理公式
- デュエン-ハントの法則: \(\lambda_X = \displaystyle\frac{hc}{eV}\)
- 特性X線の発生原理
計算は不要です。
X線には2種類あります。一つは、電子がブレーキをかけられることで発生する「連続X線」で、その最短波長が\(\lambda_1\)です。これは電子のエネルギーに直接関係するので、加速電圧\(V\)を変えると\(\lambda_1\)も変わります。もう一つは、陽極の原子から放出される「特性X線」で、\(\lambda_2, \lambda_3\)がそれにあたります。これは原子の種類によって決まる「固有の光」なので、電子のエネルギーを変えても、この光の色(波長)は変わりません。
\(\lambda_1\)は変化し(具体的には短くなる)、\(\lambda_2, \lambda_3\)は変化しません。この違いを理解することは、X線スペクトルの本質を捉える上で非常に重要です。
\(\lambda_1\): 変化する。
\(\lambda_2, \lambda_3\): 変化しない。
理由: 最短波長\(\lambda_1\)は\(\lambda_1 = \frac{hc}{eV}\)で与えられるため加速電圧\(V\)に反比例するが、特性X線の波長\(\lambda_2, \lambda_3\)は陽極の材質に固有のエネルギー準位で決まるため、\(V\)に依存しないから。
問(4)
思考の道筋とポイント
X線の性質について、知っていることを3つ挙げる知識問題です。X線は、可視光線よりもはるかに波長が短く、エネルギーが高い電磁波です。その高いエネルギーに由来する性質を思い浮かべます。
この設問における重要なポイント
- X線は高エネルギーの電磁波である。
- 高エネルギーゆえに、物質を通り抜ける能力(透過力)が高い。
- 高エネルギーゆえに、原子から電子を弾き飛ばす能力(電離作用)がある。
- 写真フィルムを感光させる作用は、光(電磁波)の共通の性質。
具体的な解説と立式
X線の主な性質として、以下のようなものが挙げられます。
1. 透過力が強い: 物質を構成する原子の間をすり抜けやすいため、レントゲン写真のように体内の様子を撮影できる。
2. 電離作用: 原子の軌道電子を弾き飛ばし、原子をイオン化する作用がある。これにより、気体を電離させたり、生物の細胞に損傷を与えたりする。
3. 写真作用: 写真フィルムを感光させる。これは可視光線など他の電磁波と共通の性質。
4. 蛍光作用: 特定の物質(蛍光物質)に当たると、その物質に可視光などを発光させる。
計算は不要です。
X線は、病院のレントゲン撮影で使われるように、体を通り抜ける強い力(透過力)を持っています。また、原子にぶつかると電子を弾き飛ばす性質(電離作用)があり、これが放射線として扱われる理由の一つです。さらに、普通の光と同じように、写真フィルムを黒くしたり(写真作用)、蛍光物質を光らせたり(蛍光作用)する性質も持っています。
上記の性質の中から3つを選んで記述すれば正解となります。
・物質への透過力が強い。
・写真フィルムを感光させる。
・気体を電離し、蛍光物質に蛍光を発生させる。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギー保存則の二つの側面:
- 核心: この問題は、異なる二つの物理現象におけるエネルギー保存則の適用が根幹をなしています。
- 理解のポイント:
- 電子の加速過程: 電子が電位差\(V\)で加速される場面では、「静電気力による仕事が、電子の運動エネルギーに変換される」というエネルギー保存則が適用されます。(\(eV = \frac{1}{2}mv^2\))
- X線の発生過程: 加速された電子が陽極に衝突する場面では、「電子の運動エネルギーが、X線光子のエネルギーに変換される」というエネルギー保存則が適用されます。(\(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{hc}{\lambda}\))
- 統合的理解: これら二つの過程を繋ぎ合わせることで、加速電圧\(V\)と発生するX線の最短波長\(\lambda_X\)を直接結びつける関係式 \(eV = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_X}\) が導かれます。これは「逆光電効果」とも呼ばれる現象の基本式です。
- X線スペクトルの二重構造:
- 核心: X線のスペクトルが、性質の異なる二種類のX線から成り立っていることを理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- 連続X線(制動放射): 加速された電子が陽極の原子核の近くを通り、急ブレーキをかけられる(制動される)ことで放出される電磁波です。失うエネルギーは様々なので、波長も連続的な分布を持ちます。その最短波長\(\lambda_1\)は、電子の全運動エネルギーが失われた場合に相当し、加速電圧\(V\)に依存します。
- 特性X線(固有X線): 加速された電子が陽極原子の内殻電子を弾き飛ばし、その空席に外殻の電子が落ち込む(遷移する)際に放出される電磁波です。放出されるエネルギーは原子固有のエネルギー準位の差で決まるため、波長も陽極の材質(ターゲット)に固有の値(\(\lambda_2, \lambda_3\)など)となり、加速電圧\(V\)には依存しません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光電効果: 本問は光電効果(光を当てて電子を飛び出させる)の「逆」の現象です。光電効果では \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) であったのに対し、本問では \(eV = K_{\text{最大}}\) と \(K_{\text{最大}} \rightarrow h\nu\) という関係を使います。両者のエネルギー変換の方向性を対比して理解すると、記憶が定着します。
- ボーアの原子模型: 特性X線の発生原理は、ボーア模型における電子のエネルギー準位間の遷移と光の放出と同じです。特性X線のエネルギー \(E = h\nu\) は、遷移前の準位のエネルギー \(E_n\) と遷移後の準位のエネルギー \(E_m\) の差、\(h\nu = E_n – E_m\) で与えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの流れを追う: 「電子が加速される \(\rightarrow\) 運動エネルギーを得る \(\rightarrow\) 陽極に衝突 \(\rightarrow\) エネルギーを失う \(\rightarrow\) X線が放出される」という一連のエネルギー変換のプロセスを時系列で追いかけます。
- スペクトルの種類を識別する: グラフが与えられたら、なだらかな山(連続X線)と鋭いピーク(特性X線)をまず見分けます。
- 最短波長に注目する: なだらかな山の左端(立ち上がり部分)が最短波長\(\lambda_1\)です。この波長は、電子の初期の運動エネルギーが全て光子に変わったという「エネルギー変換効率100%」の特別な点に対応することを思い出します。
- 電圧と波長の関係を問われたら: 最短波長\(\lambda_1\)は電圧\(V\)に依存する(\(\lambda_1 \propto 1/V\))が、特性X線の波長\(\lambda_2, \lambda_3\)は電圧\(V\)に依存しない、という原理的な違いを基に考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電子の波長とX線の波長の混同:
- 誤解: (1)で求めた電子のド・ブロイ波長\(\lambda_e\)と、(2)で求めたX線の最短波長\(\lambda_X\)を同じものだと考えてしまう。
- 対策: これらは全く異なるものです。\(\lambda_e\)は「運動する電子自身が持つ波としての性質」の波長であり、\(\lambda_X\)は「電子がエネルギーを失った結果として発生した光(電磁波)」の波長です。主体が「電子」なのか「光子」なのかを明確に区別しましょう。
- 特性X線と電圧の関係の誤解:
- 誤解: 加速電圧\(V\)を上げれば、特性X線のエネルギーも高くなる(波長が短くなる)と勘違いしてしまう。
- 対策: 特性X線の波長は、あくまで陽極原子の「エネルギー準位の差」で決まる「指紋」のようなものです。電圧\(V\)は、電子が原子を励起させるための「入場券」の役割は果たしますが、放出される光の色(波長)自体を変えることはできません。ただし、電圧が低すぎて特性X線を出すのに必要なエネルギー(励起エネルギー)に満たない場合は、ピーク自体が現れません。
- エネルギーの単位の混乱:
- 誤解: 電子のエネルギーを\(V\) [V]のまま計算したり、\(eV\) [J]とすべきところを混同したりする。
- 対策: \(V\)は電位差(電圧)で単位は[V]、\(e\)は電気素量で単位は[C]、\(eV\)は仕事やエネルギーで単位は[J]です。物理計算の基本単位は[J]なので、常に\(eV\)の形でエネルギーを扱うことを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)でド・ブロイ波の式 \(\lambda_e = h/p\) を使う理由:
- 選定理由: 問題が「電子波の波長」を問うているからです。運動する粒子が持つ波動性(物質波)の波長を記述する唯一の公式がド・ブロイの式です。
- 適用根拠: 20世紀初頭の物理学により、電子のような粒子も波のように振る舞うことが確立されました。その運動量\(p\)と波長\(\lambda\)を結びつける関係式が \(\lambda=h/p\) であり、この問題の電子にも適用できます。
- (2)で光子のエネルギーの式 \(E=hc/\lambda\) を使う理由:
- 選定理由: 問題が「X線の最短波長」を問うているからです。X線は電磁波の一種であり、そのエネルギーは光子という粒子のエネルギーとして記述されます。光子のエネルギーと波長を結びつけるのがこの公式です。
- 適用根拠: X線の発生は、電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換される現象です。エネルギー保存則を適用する際、変換後のエネルギーを記述するためにこの公式が必要となります。特に、電子の運動エネルギーが最大値(\(eV\))のとき、発生する光子のエネルギーも最大値(\(h\nu_{\text{最大}}\))となり、波長は最短(\(\lambda_X\))となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 数式の関係性を整理する: この問題では、\(E, V, v, p, \lambda_e, \lambda_X\)など多くの記号が登場します。計算を始める前に、これらの関係性を整理すると見通しが良くなります。
- \(E=eV = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{p^2}{2m}\) (電子に関するエネルギーの関係)
- \(\lambda_e = h/p\) (電子の波動性)
- \(E_{\text{光子}} = hc/\lambda_X\) (X線の粒子性)
- \(eV = hc/\lambda_X\) (最短波長を与えるエネルギー保存則)
- 平方根の計算を工夫する:
- (1)で\(\lambda_e\)を求める際、\(v=\sqrt{2eV/m}\)を\(\lambda_e=h/mv\)に代入すると、\(\lambda_e = h/(m\sqrt{2eV/m}) = h/\sqrt{m^2 \cdot 2eV/m} = h/\sqrt{2meV}\)となります。このように、ルートの外にある文字をルートの中に入れる計算はミスしやすいので、(解説本文のように)先に\(p=\sqrt{2mE}\)の関係を使って運動量をエネルギーで表してから代入する方が、計算がシンプルになりミスを減らせます。
- 反比例の関係を意識する:
- (3)で\(\lambda_1\)の変化を考える際、\(\lambda_1 = hc/eV\)という式から、「\(\lambda_1\)は\(V\)に反比例する」と読み取ることが重要です。これにより、「\(V\)が増大するなら、\(\lambda_1\)は減少する」と直感的に判断でき、計算間違いや符号ミスを防げます。
基本例題98 電子線の回折
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電子の波動性とブラッグ反射」です。電子が粒子であると同時に波(物質波)としての性質も持つことを前提とし、その波が結晶格子によって回折・干渉される現象を扱います。これは、電子の波動性を実証した歴史的にも重要な実験(デビソン・ガーマーの実験)の原理に基づいています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動エネルギーと運動量の関係: 運動エネルギー\(E\)と運動量\(p\)の間に \(E = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) という関係が成り立つこと。
- ド・ブロイ波(物質波): 運動量\(p\)を持つ粒子は、\(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\)で与えられる波長を持つ波として振る舞うこと。
- ブラッグの反射条件: 結晶格子のように周期的な構造を持つ面で波が反射されるとき、特定の角度で強め合う(反射強度が極大になる)条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) (\(n\)は整数)を理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、運動エネルギー\(E\)と運動量\(p\)の基本的な関係式から、\(p\)を\(E\)で表します。
- (2)では、(1)で求めた運動量\(p\)をド・ブロイ波の式に代入し、電子線の波長\(\lambda\)を\(E\)で表します。
- (3)では、電子線を波とみなし、ブラッグの反射条件を適用します。「初めて極大」という条件から整数\(n=1\)とし、(2)で求めた波長\(\lambda\)を代入して、\(E\)を他の物理量で表します。
問(1)
思考の道筋とポイント
電子の運動量\(p\)を、与えられた運動エネルギー\(E\)で表す問題です。運動エネルギーの定義式 \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と、運動量の定義式 \(p=mv\) を組み合わせることで、\(E\)と\(p\)の関係式を導出します。
この設問における重要なポイント
- 運動エネルギー: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 運動量: \(p = mv\)
- 上記2式から速さ\(v\)を消去して、\(E\)と\(p\)の関係式を導く。
具体的な解説と立式
運動エネルギーの式 \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) を、運動量 \(p=mv\) を使って書き換えます。
式を変形して \(v = \displaystyle\frac{p}{m}\) とし、これを運動エネルギーの式に代入します。
$$ E = \frac{1}{2}m \left( \frac{p}{m} \right)^2 $$
使用した物理公式
- 運動エネルギーの定義: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 運動量の定義: \(p = mv\)
上記で立式した関係式を整理します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}m \frac{p^2}{m^2} \\[2.0ex]
&= \frac{p^2}{2m}
\end{aligned}
$$
この式を\(p\)について解きます。運動量\(p\)は正の値なので、
$$
\begin{aligned}
p^2 &= 2mE \\[2.0ex]
p &= \sqrt{2mE}
\end{aligned}
$$
運動エネルギー\(E\)と運動量\(p\)は、どちらも物体の運動の勢いを表す量ですが、定義式が異なります。この2つの定義式をうまく組み合わせる(数学的には連立させて速さ\(v\)を消去する)ことで、運動エネルギー\(E\)から運動量\(p\)を計算するための関係式を作ることができます。
電子の運動量\(p\)は \(\sqrt{2mE}\) と表せます。この式は、質量\(m\)や運動エネルギー\(E\)が大きいほど運動量も大きくなるという直感的なイメージと一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電子線の波長\(\lambda\)を運動エネルギー\(E\)で表す問題です。運動する電子は、ド・ブロイ波(物質波)として振る舞い、その波長は運動量\(p\)に反比例します (\(\lambda = \frac{h}{p}\))。(1)で運動量\(p\)を\(E\)で表す式をすでに求めているので、それをこのド・ブロイ波の式に代入するだけです。
この設問における重要なポイント
- 電子は波としての性質(波動性)を持つ。
- その波長(ド・ブロイ波長)は \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\) で与えられる。
- (1)で求めた \(p = \sqrt{2mE}\) を代入する。
具体的な解説と立式
ド・ブロイ波の波長の公式は以下の通りです。
$$ \lambda = \frac{h}{p} $$
この式の\(p\)に、(1)で求めた \(p=\sqrt{2mE}\) を代入します。
$$ \lambda = \frac{h}{\sqrt{2mE}} $$
使用した物理公式
- ド・ブロイ波の波長: \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\)
- (1)の結果: \(p = \sqrt{2mE}\)
これ以上の計算は不要です。
運動している電子は、実は波としての顔も持っています。その波の波長は、(1)で求めた運動量\(p\)を使って「プランク定数\(h\) ÷ 運動量\(p\)」という簡単な式で計算できます。(1)の答えをこの式に代入すれば、波長をエネルギー\(E\)で表すことができます。
電子線の波長\(\lambda\)は \(\displaystyle\frac{h}{\sqrt{2mE}}\) と表せます。この式は、電子のエネルギー\(E\)が大きいほど、その波動性としての波長は短くなることを示しています。これは、粒子性が強い(エネルギーが高い)ほど波動性が弱まる(波長が短い)という、量子力学の基本的な性質を表す妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
運動エネルギー\(E\)を、他の与えられた量で表す問題です。この問題の核心は、電子線を「波」とみなし、結晶格子による回折現象に「ブラッグの反射条件」を適用することです。隣り合う格子面で反射された波が強め合う条件を立式し、そこに(2)で求めた波長\(\lambda\)の式を代入することで、\(E\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 電子線は波長\(\lambda\)の波として結晶に入射する。
- 隣り合う格子面(間隔\(d\))で反射した波の経路差は \(2d\sin\theta\) である。
- 反射強度が極大になるのは、経路差が波長の整数倍になるとき(ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\))。
- 「初めて極大」となるのは、\(n=1\) の場合である。
具体的な解説と立式
電子線を波長\(\lambda\)の波と考えると、結晶格子による反射はブラッグの条件に従います。
$$ 2d\sin\theta = n\lambda \quad (n=1, 2, 3, \dots) $$
問題文より、\(\theta = \theta_0\) のときに「初めて」反射強度が極大になったので、これは \(n=1\) の場合に相当します。
$$ 2d\sin\theta_0 = 1 \cdot \lambda $$
したがって、電子線の波長\(\lambda\)は、
$$ \lambda = 2d\sin\theta_0 $$
この\(\lambda\)は、(2)で求めた \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2mE}}\) と等しいはずなので、これらを等しいとおきます。
$$ 2d\sin\theta_0 = \frac{h}{\sqrt{2mE}} $$
使用した物理公式
- ブラッグの反射条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
- (2)の結果: \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2mE}}\)
上記で立式した関係式の両辺を2乗して、根号(ルート)を外します。
$$
\begin{aligned}
(2d\sin\theta_0)^2 &= \left( \frac{h}{\sqrt{2mE}} \right)^2 \\[2.0ex]
4d^2\sin^2\theta_0 &= \frac{h^2}{2mE}
\end{aligned}
$$
この式を\(E\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{h^2}{2m \cdot 4d^2\sin^2\theta_0} \\[2.0ex]
&= \frac{h^2}{8md^2\sin^2\theta_0}
\end{aligned}
$$
電子の波が結晶の規則正しい原子の層で反射されるとき、特定の角度でだけ波が強め合います。これが「ブラッグ反射」です。強め合う条件は「\(2d\sin\theta = n\lambda\)」という式で与えられます。問題では「初めて」強め合ったとあるので、\(n=1\)の場合を考えます。この条件式と、(2)で求めた波長の式を組み合わせることで、エネルギー\(E\)を求めることができます。
運動エネルギー\(E\)は \(\displaystyle\frac{h^2}{8md^2\sin^2\theta_0}\) と表せます。この式は、特定の角度\(\theta_0\)でブラッグ反射が観測されたとき、その電子が持っていたエネルギーを逆算できることを示しています。これは、電子線回折を用いて物質の構造を調べたり、粒子のエネルギーを測定したりする際の基本原理となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電子の粒子性と波動性の二重奏:
- 核心: この問題は、電子という一つの存在が持つ「粒子」と「波」という二つの顔を、一連の設問の中で巧みに使い分けることで解かれます。この二重性を理解することが、現代物理学の入り口となります。
- 理解のポイント:
- 粒子としての電子 (問1): 運動エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2\) や運動量 \(p=mv\) を考えるとき、我々は電子を質量\(m\)を持つ「粒」として扱っています。
- 波としての電子 (問2, 3): ド・ブロイ波長 \(\lambda = h/p\) を考えたり、ブラッグの反射条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を適用したりするとき、我々は電子を波長\(\lambda\)を持つ「波」として扱っています。
- 橋渡し役: これら二つの描像を結びつけるのが、プランク定数\(h\)を含むド・ブロイの関係式 \(\lambda = h/p\) です。この式があるからこそ、粒子の情報(運動量\(p\))から波の情報(波長\(\lambda\))へ、またその逆へと変換できるのです。
- ブラッグの条件の普遍性:
- 核心: ブラッグの反射条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) は、元々X線の結晶による回折で発見されたものですが、波であれば何にでも適用できる普遍的な法則です。
- 理解のポイント:
- 条件の本質: この式は、周期的な構造(格子面間隔\(d\))を持つ媒質に対して、波(波長\(\lambda\))が入射したときに、反射波が強め合う干渉を起こすための幾何学的な条件を表しています。
- 電子線への適用: 電子も波の性質を持つため、X線と全く同じようにこの条件式が成り立ちます。電子線を波長\(\lambda\)の波とみなせば、そのまま公式を適用できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- X線回折: 本問の電子線をX線に置き換えれば、そのままX線回折の問題になります。その場合、(1)(2)のような設問はなく、X線の波長\(\lambda\)が与えられて、ブラッグの条件から格子面間隔\(d\)を求めたりする問題になります。
- 中性子線回折: 電子だけでなく、中性子のような他の粒子も波動性を持ちます。中性子線の回折実験も、本問と全く同じ枠組みで解析することができます。
- 電子顕微鏡の分解能: 電子顕微鏡が高倍率を実現できるのは、電子線の波長を非常に短くできるためです。電子のエネルギー\(E\)を大きくする(加速電圧を高くする)と、波長\(\lambda = h/\sqrt{2mE}\)が短くなり、より細かいものを見分ける能力(分解能)が向上します。この関係を問う問題に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 主役は「粒子」か「波」か?: 問題文を読み、今問われている現象が、電子の粒子的な側面(エネルギー、運動量など)に注目しているのか、波動的な側面(波長、干渉、回折など)に注目しているのかを判断します。
- エネルギーと運動量の関係式を準備: 粒子的な側面を扱う問題では、\(E=p^2/2m\) という関係式が非常に役立ちます。速さ\(v\)を介さずにエネルギーと運動量を直接結びつけられるため、計算が簡略化できます。
- ブラッグの条件を思い出す: 「結晶」「格子面間隔\(d\)」「反射」「強度が極大」といったキーワードが出てきたら、即座にブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を連想します。
- 「初めて極大」は \(n=1\) : 強め合いの条件を考える問題で、「初めて」「1次回折」などの言葉があれば、それは干渉の次数\(n\)が\(1\)であることを意味します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動エネルギーと運動量の関係式の混同:
- 誤解: \(E=p^2/2m\) の式をうろ覚えで、\(E=p^2/m\) や \(E=p/2m\) などと間違えてしまう。
- 対策: もし公式を忘れたら、基本に立ち返って導出する癖をつけましょう。\(E=\frac{1}{2}mv^2\) と \(p=mv\) から \(v=p/m\) を代入すれば、\(E=\frac{1}{2}m(p/m)^2 = p^2/2m\) とすぐに導けます。この一手間が確実性を高めます。
- ブラッグの条件の角度\(\theta\)の誤認:
- 誤解: ブラッグの条件で使う角度\(\theta\)を、入射線と格子面の法線とのなす角(入射角)と勘違いしてしまう。
- 対策: ブラッグの条件で使われる\(\theta\)は、入射線と格子面とのなす角(すれすれの角)である、と正確に定義を覚えることが重要です。図で必ず確認する癖をつけましょう。
- \(n=1\) の見落とし:
- 誤解: 「初めて極大」という条件を読み飛ばし、\(2d\sin\theta_0 = n\lambda\) のまま計算を進めてしまい、\(n\)が残った答えを出してしまう。
- 対策: 干渉や回折の問題では、強め合う条件の次数\(n\)を特定することが非常に重要です。問題文の「初めて」「2番目に」といった副詞に印をつけ、次数を確定させることを意識しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)で \(E=p^2/2m\) を使う理由:
- 選定理由: 問題が、運動エネルギー\(E\)と運動量\(p\)という、速さ\(v\)を含まない2つの量だけの関係を問うているからです。この2つの量を直接結びつけるのが \(E=p^2/2m\) という関係式です。
- 適用根拠: この式は、運動エネルギーと運動量の定義式から、速さ\(v\)を代数的に消去して得られる恒等式です。したがって、非相対論的な(光速に比べて十分に遅い)粒子であれば、どんな粒子にも適用できます。
- (3)でブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を使う理由:
- 選定理由: 問題の状況が「結晶格子(周期構造)による電子線(波)の反射」であり、「強度が極大」というキーワードがあるからです。これは、波の干渉によって特定の方向にだけ強く反射される現象であり、それを記述する法則がブラッグの条件です。
- 適用根拠: 電子がド・ブロイ波長\(\lambda\)を持つ波として振る舞うという物理的な事実に基づいています。電子線を波とみなすことで、光学における回折格子や薄膜の干渉と全く同じ考え方(経路差が波長の整数倍で強め合う)を適用することが正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 段階的な代入: (3)の計算では、いきなり最終的な答えを目指すのではなく、
- ブラッグの条件から \(\lambda = 2d\sin\theta_0\) を導く。
- (2)の結果 \(\lambda = h/\sqrt{2mE}\) と等しいとおく。
- 最後に、この等式を\(E\)について解く。
というように、段階を踏んで計算を進めるのが安全です。一つ一つのステップが単純になり、見通しが良くなります。
- 両辺を2乗するタイミング:
- \(\sqrt{2mE}\) のような平方根を含む式を扱う場合、式を整理してから最後に2乗するのが基本です。\(2d\sin\theta_0 = h/\sqrt{2mE}\) の形にしてから両辺を2乗すると、\((2d\sin\theta_0)^2 = h^2/(2mE)\) となり、すっきりと平方根を消去できます。
- 文字の整理:
- 最終的な答えを出す前に、分母と分子で同じ文字がないか、数字の部分は正しく計算されているかを確認します。例えば、(3)の答えの分母にある \(8\) は、\(2^2 \times 2 = 8\) から来ています。このような係数の計算は、注意深く行いましょう。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
基本問題
477 放電
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「真空放電と陰極線の性質」です。放電管内の気圧を下げていくと、放電の様子がどのように変化していくかを段階的に理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 気体放電の原理: 電子が気体分子に衝突し、励起・発光させる現象。
- 陰極線の正体と性質: 陰極から放出される高速の電子の流れであり、負の電荷を持つこと。
- 蛍光の原理: 高速の粒子が物質に衝突し、その物質を発光させる現象。
- 電場中の荷電粒子の運動: 負の電荷を持つ粒子は、電場から力を受けて電位の高い方へ加速されること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、低圧気体中で見られる放電現象の名称を答えます。このときの発光原理も合わせて理解することが重要です。
- (2)では、真空度をさらに上げたときの発光現象(蛍光)の原因を考え、その光の色の依存性を判断します。
- (3)では、(2)で考えた蛍光を発生させている粒子の正体を特定します。
- (4)では、電源の接続から電極の極性(陰極・陽極)を判断し、(3)の粒子が持つ電荷の性質に基づいて運動方向を決定します。