基本問題
465 変圧器と送電
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「変圧器の基本原理と送電における電力損失」です。変圧器によって電圧や電流がどのように変化するのか、そしてその変化が送電におけるエネルギーの損失にどう影響するのかを、数式を用いて定量的に理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 変圧器の電圧と巻数比の関係: 一次コイルと二次コイルの電圧の比は、それぞれの巻数の比に等しいという関係を理解していること。
- 理想変圧器における電力保存: 理想的な変圧器ではエネルギーの損失がないため、一次側で供給された電力がそのまま二次側に伝わる(\(P_1 = P_2\))ことを理解していること。
- 送電線での消費電力(ジュール熱): 送電線が持つ電気抵抗によって、電流が流れると熱が発生し、電力が消費される(\(P = RI^2\))ことを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、変圧器の基本公式を適用して、二次側の電圧と電流を一次側の量と巻数を用いて表します。
- (2)では、(1)で求めた二次側の電流を使い、送電線での消費電力(電力損失)を計算します。
- (3)では、(1)と(2)で導出した関係式をもとに、二次コイルの巻数を変化させたときに、二次側の電圧、電流、そして送電線の消費電力がそれぞれ何倍になるかを分析します。
問(1)
思考の道筋とポイント
変圧器の一次側(入力側)と二次側(出力側)の物理量の関係を問う、基本的な問題です。変圧器の最も重要な2つの公式、「電圧と巻数の関係式」と「理想変圧器における電力保存則」を正しく適用することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 電圧は巻数に比例する: \(V_{1e} : V_{2e} = N_1 : N_2\)
- 理想変圧器では、一次側の電力と二次側の電力が等しい: \(P_{1} = P_{2}\)、すなわち \(V_{1e}I_{1e} = V_{2e}I_{2e}\)
- 上記2つの関係から、電流は巻数に反比例する (\(I_{1e} : I_{2e} = N_2 : N_1\)) ことが導かれる。
具体的な解説と立式
まず、二次側の電圧 \(V_{2e}\) を求めます。変圧器の一次コイルと二次コイルの電圧比は、巻数比に等しくなります。
$$ V_{1e} : V_{2e} = N_1 : N_2 \quad \cdots ① $$
次に、二次側の電流 \(I_{2e}\) を求めます。問題文に「変圧器は理想的なもの」とあるので、一次側の電力 \(P_1 = V_{1e}I_{1e}\) と二次側の電力 \(P_2 = V_{2e}I_{2e}\) は等しくなります。
$$ V_{1e}I_{1e} = V_{2e}I_{2e} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 変圧器の電圧と巻数比の関係: \(V_{1e} : V_{2e} = N_1 : N_2\)
- 理想変圧器における電力保存則: \(V_{1e}I_{1e} = V_{2e}I_{2e}\)
式①は比の式なので、内側の積と外側の積が等しいという関係から、
$$
\begin{aligned}
N_1 V_{2e} &= N_2 V_{1e} \\[2.0ex]
V_{2e} &= \frac{N_2}{N_1}V_{1e}
\end{aligned}
$$
と、\(V_{2e}\) が求まります。
次に、式②を \(I_{2e}\) について解きます。
$$ I_{2e} = \frac{V_{1e}}{V_{2e}}I_{1e} $$
この式に、上で求めた \(V_{2e} = \displaystyle\frac{N_2}{N_1}V_{1e}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_{2e} &= \frac{V_{1e}}{\left( \displaystyle\frac{N_2}{N_1}V_{1e} \right)}I_{1e} \\[2.0ex]
&= \frac{N_1}{N_2}I_{1e}
\end{aligned}
$$
と、\(I_{2e}\) が求まります。
変圧器は、コイルの「巻数」の比を使って、電圧を自由自在に変えることができる便利な装置です。ルールは単純で、電圧は巻数の数に比例します。つまり、二次側の巻数 \(N_2\) が一次側 \(N_1\) の2倍なら、電圧も2倍になります。
一方、エネルギーは勝手に増えたり減ったりはできません(これが「理想変圧器」の意味です)。電力(=電圧×電流)は一定に保たれるので、電圧を2倍にしたら、その分、電流は2分の1にならなければつじつまが合いません。この関係を数式で表しているのがこの設問です。
二次側の電圧 \(V_{2e}\) は \(\displaystyle\frac{N_2}{N_1}V_{1e}\)、電流 \(I_{2e}\) は \(\displaystyle\frac{N_1}{N_2}I_{1e}\) となります。この結果は、電圧が巻数比に比例し、電流が巻数比に反比例するという変圧器の基本的な性質を示しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
二次側の送電線で消費される電力を求める問題です。送電線には電気抵抗 \(R\) があり、そこに二次側の電流 \(I_{2e}\) が流れることで、ジュール熱として電力が消費されます。消費電力の公式 \(P = RI^2\) を正しく使えるかがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 抵抗 \(R\) の導線に電流 \(I\) が流れるときの消費電力は \(P = RI^2\) で計算される。
- この問題では、送電線を流れる電流は二次側電流 \(I_{2e}\) である。
具体的な解説と立式
送電線の抵抗値は \(R\) です。この送電線を流れる電流は、(1)で考えた二次側の電流 \(I_{2e}\) です。
抵抗 \(R\) に電流 \(I_{2e}\) が流れるときの消費電力 \(P\) は、公式より次のように表せます。
$$ P = R I_{2e}^2 $$
使用した物理公式
- 抵抗での消費電力(ジュール熱): \(P = RI^2\)
上記の式に、(1)で求めた \(I_{2e} = \displaystyle\frac{N_1}{N_2}I_{1e}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= R \left( \frac{N_1}{N_2}I_{1e} \right)^2 \\[2.0ex]
&= R \left( \frac{N_1}{N_2} \right)^2 I_{1e}^2
\end{aligned}
$$
これ以上の計算は不要です。
電気を遠くまで運ぶ送電線も、完璧な導体ではなく、少しだけ電気抵抗があります。そのため、電流を流すと電線自体が熱を持ってしまい、エネルギーの一部が熱として捨てられてしまいます。これが「電力損失」です。この損失の大きさは、「(抵抗値)×(電流の2乗)」という式で計算できます。今、送電線には二次側の電流 \(I_{2e}\) が流れているので、(1)で求めた \(I_{2e}\) の式をこの電力損失の公式に代入すれば、答えが求まります。
送電線での消費電力 \(P\) は \(R \left(\displaystyle\frac{N_1}{N_2}\right)^2 I_{1e}^2\) と表せます。この式から、消費電力 \(P\) は二次コイルの巻数 \(N_2\) の2乗に反比例することがわかります。これは、\(N_2\) を大きくして送電電圧を高くすると、送電電流が減り、電力損失を電流の2乗の分だけ劇的に減らせることを意味しており、高電圧送電の原理を説明する重要な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)と(2)で導出した \(V_{2e}\), \(I_{2e}\), \(P\) の関係式を用いて、\(N_2\) を \(10\) 倍にしたとき、それぞれの物理量がどのように変化するかを考察する問題です。各物理量が \(N_2\) の何乗に比例、あるいは反比例するかに着目すれば、簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント
- (1)の結果から、\(V_{2e}\) は \(N_2\) に比例する (\(V_{2e} \propto N_2\))。
- (1)の結果から、\(I_{2e}\) は \(N_2\) に反比例する (\(I_{2e} \propto \displaystyle\frac{1}{N_2}\))。
- (2)の結果から、\(P\) は \(N_2\) の2乗に反比例する (\(P \propto \displaystyle\frac{1}{N_2^2}\))。
具体的な解説と立式
(1), (2)で求めた関係式を再確認します。
$$ V_{2e} = \frac{N_2}{N_1}V_{1e} $$
$$ I_{2e} = \frac{N_1}{N_2}I_{1e} $$
$$ P = R \left(\frac{N_1}{N_2}\right)^2 I_{1e}^2 $$
これらの式において、\(N_1, V_{1e}, I_{1e}, R\) は一定であると考えます。
ここから、\(N_2\) の変化が \(V_{2e}, I_{2e}, P\) に与える影響を直接読み取ります。
使用した物理公式
- 設問(1), (2)で導出した結果の式
\(N_2\) が \(10\) 倍になる、つまり新しい巻数を \(N_2′ = 10N_2\) とします。
- \(V_{2e}\) の変化:
\(V_{2e}\) は \(N_2\) に比例するので、\(N_2\) が \(10\) 倍になれば \(V_{2e}\) も \(10\) 倍になります。 - \(I_{2e}\) の変化:
\(I_{2e}\) は \(N_2\) に反比例するので、\(N_2\) が \(10\) 倍になれば \(I_{2e}\) は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になります。 - \(P\) の変化:
\(P\) は \(N_2^2\) に反比例するので、\(N_2\) が \(10\) 倍になれば \(P\) は \(\displaystyle\frac{1}{10^2} = \frac{1}{100}\) 倍になります。
(1)と(2)で作った「変圧器の性能カタログ」とも言える公式集を眺めながら、もし二次コイルの巻数 \(N_2\) を \(10\) 倍にしたらどうなるか、という思考実験です。
- \(V_{2e}\) の式を見ると、\(N_2\) は分子(掛け算側)にいるので、\(N_2\) が \(10\) 倍になれば \(V_{2e}\) もそのまま \(10\) 倍になります。
- \(I_{2e}\) の式を見ると、\(N_2\) は分母(割り算側)にいるので、\(N_2\) が \(10\) 倍になれば \(I_{2e}\) は逆に \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になります。
- \(P\) の式を見ると、\(N_2\) は分母にいて、さらに2乗されています。なので、\(N_2\) が \(10\) 倍になると、\(P\) は \(\displaystyle\frac{1}{10^2}\)、つまり \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍になります。
二次コイルの巻数を \(10\) 倍にすると、送電電圧 \(V_{2e}\) は \(10\) 倍、送電電流 \(I_{2e}\) は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍、送電線での消費電力 \(P\) は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍になります。この結果は、発電所から電気を送る際に、変圧器で電圧を非常に高くする(高電圧送電)理由を明確に示しています。電圧を上げることで送電電流を大幅に減らし、送電ロスを最小限に抑えているのです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 変圧器の基本原理:
- 核心: この問題の根幹は、変圧器が「電圧と電流の大きさを、巻数比によって変換する装置」であることを理解しているかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- 電圧変換: 電圧は巻数に単純に比例します (\(V_{2e} = \displaystyle\frac{N_2}{N_1}V_{1e}\))。巻数を増やせば電圧は上がり、減らせば下がります。
- 電力保存と電流変換: 理想変圧器ではエネルギーは保存されるため、電力は一次側と二次側で変わりません (\(P_1 = P_2\))。この \(V_{1e}I_{1e} = V_{2e}I_{2e}\) という関係から、電圧を上げると電流は下がり、電圧を下げると電流は上がるという、反比例の関係 (\(I_{2e} = \displaystyle\frac{N_1}{N_2}I_{1e}\)) が導かれます。
- 高電圧送電のメリット:
- 核心: 「なぜ電気は高い電圧で送られてくるのか?」という、実生活にも関わる送電の仕組みの物理的な理由を理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- 電力損失の原因: 送電線には抵抗 \(R\) があるため、電流 \(I\) が流れると必ず \(P_{\text{損失}} = RI^2\) の電力損失(ジュール熱)が発生します。
- 損失を減らす工夫: この損失を減らすには、抵抗 \(R\) を小さくするか、電流 \(I\) を小さくするしかありません。送電線の抵抗をゼロにするのは現実的ではないため、電流をできるだけ小さくすることが最も効果的です。
- 変圧器の役割: 変圧器を使って送電電圧を非常に高くすると、その分だけ送電電流を小さくできます。電力損失は電流の「2乗」で効いてくるため、電流を \(\displaystyle\frac{1}{10}\) にすれば、損失は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) にまで劇的に減らせるのです。これが高電圧送電の最大のメリットです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 変圧器の効率を問う問題: この問題では「理想変圧器」(\(P_1 = P_2\)) を扱いましたが、実際には変圧器内部でも熱損失があります。効率が \(\eta\) (\(<1\)) の変圧器では、二次側の電力は \(P_2 = \eta P_1\) となります。この条件で二次側の電流や電力損失を計算する問題に応用できます。
- 送電元での発電電力を問う問題: 消費地で必要な電力が決まっている場合に、送電ロスを考慮して発電所ではどれだけの電力を発電する必要があるかを逆算する問題です。(\(P_{\text{発電}} = P_{\text{消費}} + P_{\text{損失}}\))
- 直流回路との比較: 変圧器は電磁誘導を利用しているため、交流でしか機能しません。なぜ直流では変圧できないのか、その理由を問う問題や、直流送電のメリット・デメリットを考察する問題も考えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「理想変圧器」のキーワードを確認: 問題文に「理想」とあれば、\(V_{1e}I_{1e} = V_{2e}I_{2e}\) が使えると判断します。「効率 \(\eta\)」などの記述があれば、\(P_2 = \eta P_1\) を使います。
- 何が一定で何が変化するかを整理: (3)のように「〜を何倍にしたら」という問題では、変化させる量(この場合は \(N_2\))と、一定に保たれる量(\(N_1, V_{1e}, I_{1e}, R\))を明確に区別します。
- 電力損失の式を正しく選択: 電力損失を計算する際、\(P=VI\) や \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) も公式としては存在しますが、送電線の問題では、送電線を流れる「電流」が損失の直接的な原因であるため、\(P=RI^2\) を使うのが最も考えやすく、間違いが少ないです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧と電流の比例関係の混同:
- 誤解: 電圧も電流も、どちらも巻数に比例する、あるいは反比例すると勘違いしてしまう。
- 対策: 「電圧は巻数に比例」という基本だけをまず覚えます。電流の関係式は、電力保存則 \(V_{1e}I_{1e} = V_{2e}I_{2e}\) からその場で導出する癖をつけましょう。\(V_{2e}\) に \( \displaystyle\frac{N_2}{N_1}V_{1e}\) を代入すれば、\(I_{2e}\) が \(N_2\) に反比例することが自然に導かれ、混同を防げます。
- 電力損失の計算で使う電流を間違える:
- 誤解: 送電線の電力損失を計算するのに、一次側の電流 \(I_{1e}\) を使ってしまう。
- 対策: 回路図をよく見て、「どの部分」で電力が消費されているかを常に意識します。この問題では、抵抗 \(R\) は二次側の回路に接続されているので、そこを流れる電流、すなわち \(I_{2e}\) を使って計算しなければならない、と物理的に判断します。
- (3)での比例計算のミス:
- 誤解: \(P\) が \(N_2\) に反比例すると考え、答えを「\(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍」としてしまう。
- 対策: 比例関係を考えるときは、必ず元の式に立ち返ることが重要です。\(P = R \left(\displaystyle\frac{N_1}{N_2}\right)^2 I_{1e}^2\) の式をよく見れば、\(P\) は \(N_2\) ではなく \(N_2^2\) に反比例していることが分かります。焦らず、式の形を正確に確認する習慣をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 変圧器の電圧・電流公式:
- 選定理由: (1)では、変圧器による電圧と電流の変化を問われているため、変圧器の動作原理を表す公式を直接用いるのが最も合理的です。
- 適用根拠: 電圧と巻数比の関係はファラデーの電磁誘導の法則から導かれる変圧器の基本性質です。また、「理想変圧器」という条件は、エネルギー保存則が成り立つことを意味しており、これが一次側と二次側の電力(\(VI\))が等しいという関係式の物理的な根拠となります。
- 消費電力の公式 \(P=RI^2\):
- 選定理由: (2)では送電線での「電力損失」が問われています。電力の公式には \(P=VI\), \(P=RI^2\), \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) の3つがありますが、この場面では \(P=RI^2\) が最適です。
- 適用根拠: なぜなら、送電線の抵抗 \(R\) は一定値であり、(1)で求めた送電電流 \(I_{2e}\) を直接代入できるからです。もし \(P=V_{2e}I_{2e}\) を使おうとすると、この \(V_{2e}\) は変圧器の出力電圧であって、抵抗 \(R\) にかかる電圧ではないため、誤りです。また、\(P=\displaystyle\frac{V_R^2}{R}\) を使うには、抵抗 \(R\) にかかる電圧 \(V_R\) をわざわざ計算する必要があり、手間が増えます。したがって、原因である電流 \(I_{2e}\) と抵抗 \(R\) から直接計算できる \(P=RI^2\) を選ぶのが最も論理的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、具体的な数値が与えられていない場合は、最後まで文字式のまま計算を進めるのが基本です。これにより、物理的な関係性(何に比例し、何に反比例するのか)が明確なまま答えを導くことができます。
- 比の式を分数に直す: (1)の \(V_{1e} : V_{2e} = N_1 : N_2\) のような比の式は、「内項の積=外項の積」(\(N_1 V_{2e} = N_2 V_{1e}\)) の形に直してから、求めたい変数(この場合は \(V_{2e}\))について解くと、計算ミスが減ります。
- 比例関係のチェック: (3)のような「〜倍になるか」という問題では、計算結果が出た後に、元の式との関係を再確認する癖をつけましょう。「\(V_{2e}\) は \(N_2\) の1乗に比例」「\(I_{2e}\) は \(N_2\) の-1乗に比例」「\(P\) は \(N_2\) の-2乗に比例」という関係が、自分の答え(10倍, \(\displaystyle\frac{1}{10}\)倍, \(\displaystyle\frac{1}{100}\)倍)と一致しているかを確認することで、単純な計算ミスや勘違いを発見できます。
466 リアクタンス
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流回路における抵抗とリアクタンス」です。抵抗、コイル、コンデンサーがそれぞれ交流電源に接続されたときの振る舞いの違い、特に周波数によって電流の流れやすさ(リアクタンス)がどう変わるかを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 交流におけるオームの法則: 交流回路でも、電圧、電流、抵抗(またはリアクタンス)の実効値の間には、直流のオームの法則と似た関係 (\(V_e = RI_e\), \(V_e = X_L I_e\), \(V_e = X_C I_e\)) が成り立つことを理解していること。
- 抵抗値の性質: 抵抗 \(R\) の値は、交流の周波数に依存しない普遍的な定数であることを理解していること。
- コイルのリアクタンス: コイルのリアクタンス \(X_L\) は、自己インダクタンス \(L\) と交流の角周波数 \(\omega\) (または周波数 \(f\)) に比例する (\(X_L = \omega L = 2\pi fL\)) ことを理解していること。
- コンデンサーのリアクタンス: コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は、電気容量 \(C\) と交流の角周波数 \(\omega\) (または周波数 \(f\)) に反比例する (\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \frac{1}{2\pi fC}\)) ことを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、各素子に共通の電圧と、それぞれに流れる電流の値が与えられているので、「交流におけるオームの法則」を用いて、抵抗 \(R\)、コイルのリアクタンス \(X_L\)、コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) をそれぞれ計算します。
- (2)では、周波数を2倍にしたとき、各素子の抵抗やリアクタンスがどのように変化するかを分析し、それによって電流がどう変わるかを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗 \(R\)、コイル \(L\)、コンデンサー \(C\) のそれぞれに、同じ電圧 \(V_e = 60 \, \text{V}\) の交流電源が接続されています。各回路に流れる電流の実効値も分かっているので、直流回路のオームの法則 \(R = V/I\) と同じ形式の「交流におけるオームの法則」を適用して、各素子の抵抗値やリアクタンスを求めます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗、コイル、コンデンサーのいずれにおいても、電圧、電流、抵抗(リアクタンス)の実効値の間には \(V_e = Z I_e\) の関係が成り立つ(\(Z\) は抵抗やリアクタンスの総称)。
- この関係を、求めたい量(\(R, X_L, X_C\))について解けばよい。
具体的な解説と立式
各素子について、交流におけるオームの法則を立てます。
- 抵抗R:
抵抗 \(R\) にかかる電圧の実効値は \(V_e = 60 \, \text{V}\)、流れる電流の実効値は \(I_R = 1.5 \, \text{A}\) です。したがって、
$$ V_e = R I_R $$ - コイルL:
コイルにかかる電圧の実効値は \(V_e = 60 \, \text{V}\)、流れる電流の実効値は \(I_L = 2.0 \, \text{A}\) です。コイルのリアクタンスを \(X_L\) とすると、
$$ V_e = X_L I_L $$ - コンデンサーC:
コンデンサーにかかる電圧の実効値は \(V_e = 60 \, \text{V}\)、流れる電流の実効値は \(I_C = 1.0 \, \text{A}\) です。コンデンサーのリアクタンスを \(X_C\) とすると、
$$ V_e = X_C I_C $$
使用した物理公式
- 交流におけるオームの法則: \(V_e = Z I_e\) (ZはR, \(X_L\), \(X_C\))
上記で立式した3つの式を、それぞれ \(R, X_L, X_C\) について解きます。
- 抵抗R:
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{V_e}{I_R} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{1.5} \\[2.0ex]
&= 40 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$ - コイルLのリアクタンス\(X_L\):
$$
\begin{aligned}
X_L &= \frac{V_e}{I_L} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{2.0} \\[2.0ex]
&= 30 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$ - コンデンサーCのリアクタンス\(X_C\):
$$
\begin{aligned}
X_C &= \frac{V_e}{I_C} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{1.0} \\[2.0ex]
&= 60 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
この問題は、交流回路版の「オームの法則」の練習問題です。直流回路で「抵抗 \(=\) 電圧 \(\div\) 電流」と計算したのと全く同じように、交流回路でも「抵抗やリアクタンス \(=\) 電圧の実効値 \(\div\) 電流の実効値」という計算ができます。「リアクタンス」とは、コイルやコンデンサーが持つ、交流電流に対する「妨げ」の度合いのことで、単位は抵抗と同じオーム(\(\Omega\))です。図に示された電圧と電流の値を、それぞれの素子について公式に当てはめて計算するだけです。
抵抗値は \(R=40 \, \Omega\)、コイルのリアクタンスは \(X_L=30 \, \Omega\)、コンデンサーのリアクタンスは \(X_C=60 \, \Omega\) となります。与えられた電圧と電流の値から、基本的な公式を用いて妥当な値が計算できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
交流電源の周波数を2倍にしたときに、各素子を流れる電流がどう変化するかを問う問題です。ポイントは、抵抗、コイル、コンデンサーが周波数の変化に対してどのように振る舞うか、その性質の違いを正確に理解しているかです。
- 抵抗 \(R\) は周波数に依存しません。
- コイルのリアクタンス \(X_L\) は周波数に比例します。
- コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は周波数に反比例します。
これらの性質から、周波数が2倍になったときの新しいリアクタンスを求め、再度「交流におけるオームの法則」を使って新しい電流を計算します。
この設問における重要なポイント
- 抵抗値 \(R\) は周波数 \(f\) に依らない。
- コイルのリアクタンスは \(X_L = 2\pi f L\) であり、\(f\) に比例する。
- コンデンサーのリアクタンスは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\) であり、\(f\) に反比例する。
- 電圧 \(V_e\) は一定のままなので、電流 \(I_e\) は抵抗・リアクタンスに反比例する (\(I_e = V_e/Z\))。
具体的な解説と立式
周波数を \(f\) から \(2f\) に変化させたときの、各素子の抵抗・リアクタンスの変化を考えます。
- 抵抗R:
抵抗値 \(R\) は周波数に依存しないため、変化しません。したがって、流れる電流 \(I_R\) も変化しません。
$$ I_R’ = I_R $$ - コイルL:
コイルのリアクタンスは \(X_L = 2\pi f L\) なので、周波数 \(f\) に比例します。周波数が2倍になると、リアクタンス \(X_L\) も2倍になります。
$$ X_L’ = 2 X_L $$
このときの電流を \(I_L’\) とすると、\(I_L’ = \displaystyle\frac{V_e}{X_L’}\) となります。 - コンデンサーC:
コンデンサーのリアクタンスは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\) なので、周波数 \(f\) に反比例します。周波数が2倍になると、リアクタンス \(X_C\) は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
$$ X_C’ = \frac{1}{2} X_C $$
このときの電流を \(I_C’\) とすると、\(I_C’ = \displaystyle\frac{V_e}{X_C’}\) となります。
使用した物理公式
- コイルのリアクタンス: \(X_L = 2\pi f L\)
- コンデンサーのリアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
- 交流におけるオームの法則: \(I_e = V_e / Z\)
- 抵抗Rを流れる電流 \(I_R’\):
抵抗値が変わらないので、電流も変わりません。
$$ I_R’ = 1.5 \, [\text{A}] $$ - コイルLを流れる電流 \(I_L’\):
元の電流は \(I_L = 2.0 \, \text{A}\) でした。新しいリアクタンスは \(X_L’ = 2X_L\) なので、新しい電流 \(I_L’\) は、
$$
\begin{aligned}
I_L’ &= \frac{V_e}{X_L’} \\[2.0ex]
&= \frac{V_e}{2X_L} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( \frac{V_e}{X_L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} I_L \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 1.0 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$ - コンデンサーCを流れる電流 \(I_C’\):
元の電流は \(I_C = 1.0 \, \text{A}\) でした。新しいリアクタンスは \(X_C’ = \displaystyle\frac{1}{2}X_C\) なので、新しい電流 \(I_C’\) は、
$$
\begin{aligned}
I_C’ &= \frac{V_e}{X_C’} \\[2.0ex]
&= \frac{V_e}{\frac{1}{2}X_C} \\[2.0ex]
&= 2 \left( \frac{V_e}{X_C} \right) \\[2.0ex]
&= 2 I_C \\[2.0ex]
&= 2 \times 1.0 \\[2.0ex]
&= 2.0 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
交流の「周波数」とは、電気のプラス・マイナスが入れ替わる速さのことです。この速さが変わると、コイルとコンデンサーの振る舞いが変わります。
- 抵抗: 抵抗は周波数などお構いなしで、常に一定の邪魔をします。なので、周波数が変わっても電流は変わりません。
- コイル: コイルは変化を嫌う性質があり、周波数が高くなる(せわしなく変化する)ほど、電流を強く妨げます(リアクタンスが大きく)。周波数が2倍になると、妨げも2倍になるので、電流は半分に減ってしまいます。
- コンデンサー: コンデンサーは電気を溜める性質があり、周波数が高くなる(プラス・マイナスが素早く入れ替わる)ほど、次々に電荷が流れ込みやすくなります(リアクタンスが小さく)。周波数が2倍になると、妨げは半分になるので、電流は2倍に増えます。
周波数を2倍にすると、抵抗を流れる電流は変わらず \(1.5 \, \text{A}\)、コイルを流れる電流は半分の \(1.0 \, \text{A}\)、コンデンサーを流れる電流は2倍の \(2.0 \, \text{A}\) となります。この結果は、コイルが高周波ほど通しにくく、コンデンサーが高周波ほど通しやすいという、それぞれの素子の基本的な性質を明確に示しており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 交流回路における各素子の周波数依存性:
- 核心: この問題の根幹は、抵抗・コイル・コンデンサーという3つの基本素子が、交流電源の周波数に対して全く異なる応答を示すことを理解することです。
- 理解のポイント:
- 抵抗 (R): 周波数に依存しない。直流でも交流でも、周波数が高くても低くても、その抵抗値は一定です。
- コイル (L): リアクタンス \(X_L = 2\pi f L\) は周波数 \(f\) に比例する。コイルは電流の変化を妨げる性質(自己誘導)を持つため、周波数が高く、変化が激しいほど電流を通しにくくなります。「高周波の電流は苦手」と覚えましょう。
- コンデンサー (C): リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\) は周波数 \(f\) に反比例する。コンデンサーは絶縁体ですが、交流では充放電を繰り返すことで電流が流れているように見えます。周波数が高く、プラス・マイナスが素早く入れ替わるほど、次々と電荷が流れ込みやすくなるため、電流を通しやすくなります。「高周波の電流は得意」と覚えましょう。
- 交流版オームの法則:
- 核心: 直流回路で成り立つオームの法則 (\(V=RI\)) が、交流回路でも実効値を用いれば、抵抗だけでなくリアクタンスに対しても全く同じ形で適用できる (\(V_e = ZI_e\)) という事実を理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- リアクタンス (\(X_L, X_C\)) は、直流回路における抵抗 \(R\) と同じ役割、つまり「電流の流れにくさ」を表す量だと考えられます。単位も同じオーム(\(\Omega\))です。
- この法則を \(Z = V_e/I_e\) や \(I_e = V_e/Z\) のように変形することで、電圧・電流・リアクタンスのうち2つが分かれば残りの1つを計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列回路のインピーダンス: 抵抗、コイル、コンデンサーを直列につないだ回路全体の「抵抗のようなもの」(インピーダンス \(Z\))を求める問題。\(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) という公式を使います。この問題の知識は、この公式の各項を計算するための基礎となります。
- 共振回路: RLC直列回路で、\(X_L = X_C\) となる特定の周波数(共振周波数)でインピーダンスが最小になり、電流が最大になる現象を扱う問題。共振周波数 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) を求める際にも、リアクタンスの周波数依存性の理解が不可欠です。
- フィルター回路: コイルとコンデンサーの周波数特性を利用して、特定の周波数帯の信号だけを通したり、遮断したりする回路(ローパスフィルター、ハイパスフィルターなど)の動作原理を説明する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路素子の特定: 回路にどの素子(R, L, C)が含まれているかを確認します。
- 周波数の変化の有無: 問題文で「周波数を変える」という操作があるかどうかに注目します。もしあれば、\(X_L\) と \(X_C\) が変化することを念頭に置きます。
- 求められているものは何か: (1)のようにリアクタンスそのものを問うているのか、(2)のように周波数変化後の電流を問うているのかを明確にします。後者の場合、「周波数変化 \(\rightarrow\) リアクタンス変化 \(\rightarrow\) 電流変化」という2段階の思考プロセスが必要になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- コイルとコンデンサーの周波数特性の混同:
- 誤解: どちらが周波数に比例し、どちらが反比例するのかを忘れてしまう、あるいは逆にしてしまう。
- 対策: イメージで覚えるのが効果的です。コイルは「変化が嫌い」なので、せわしなく変化する高周波ほど通しにくい(リアクタンス大 \(\rightarrow\) \(f\) に比例)。コンデンサーは「どんどん電荷を溜めたい」ので、素早く入れ替わる高周波ほど流れやすい(リアクタンス小 \(\rightarrow\) \(f\) に反比例)。このイメージと公式 (\(X_L=2\pi fL\), \(X_C=1/(2\pi fC)\)) をセットで記憶しましょう。
- リアクタンスと電流の関係の勘違い:
- 誤解: (2)で、コイルのリアクタンスが2倍になるから電流も2倍になる、と勘違いしてしまう。
- 対策: リアクタンスは「電流の流れにくさ」である、という定義に立ち返りましょう。流れにくさが2倍になれば、当然、流れる電流は半分になります。オームの法則 \(I_e = V_e/Z\) からも、電流とリアクタンスは反比例の関係にあることが明らかです。
- 抵抗Rも周波数で変化させてしまう:
- 誤解: コイルやコンデンサーと同様に、抵抗Rも周波数が変わると値が変わるのではないかと考えてしまう。
- 対策: 「抵抗Rは周波数によらない」と明確に覚えましょう。これは抵抗という素子の基本的な性質です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 交流におけるオームの法則 (\(V_e = ZI_e\)):
- 選定理由: (1)では、各素子にかかる電圧と流れる電流が既知で、未知の量が抵抗・リアクタンスです。この3つの量を結びつける最も基本的な関係式がオームの法則であるため、これを選択します。
- 適用根拠: 交流回路は電圧や電流が時間的に変化するため複雑ですが、実効値という時間平均された量で考えれば、直流回路と非常によく似た単純な比例関係が成り立ちます。この法則は、複雑な交流現象をシンプルに扱うための強力な道具であり、適用は物理的に正当です。
- リアクタンスの周波数依存性の公式 (\(X_L=2\pi fL\), \(X_C=1/(2\pi fC)\)):
- 選定理由: (2)では「周波数を2倍にする」という操作が行われます。この操作が回路にどのような影響を与えるかを記述する法則が必要であり、それがこれらの公式です。
- 適用根拠: これらの公式は、電磁気学の基本法則(ファラデーの電磁誘導の法則やコンデンサーの基本式 \(Q=CV\))を、正弦波交流という特定の状況下で数学的に解析した結果です。コイルの「変化を妨げる」性質や、コンデンサーの「電荷を蓄える」性質が、周波数 \(f\) という形で定量的に表現されています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を必ず書く: (1)の計算結果に \(40 \, \Omega\), \(30 \, \Omega\), \(60 \, \Omega\) のように、必ず単位「オーム(\(\Omega\))」を付ける習慣をつけましょう。これにより、自分が何を計算しているのか(抵抗なのか、電流なのか)を常に意識でき、ミスを防げます。
- 比例・反比例の関係を明確にする: (2)のような変化を問う問題では、計算を始める前に「\(X_L \propto f\), \(X_C \propto 1/f\), \(I_e \propto 1/Z\)」のように、文字で比例・反比例の関係を書き出してみるのが有効です。
- 例:コイルの場合、「\(f \rightarrow 2f\) だから \(X_L \rightarrow 2X_L\)。\(I_L \propto 1/X_L\) だから \(I_L \rightarrow (1/2)I_L\)。よって元の電流の \(1/2\) 倍」というように、論理的なステップを言葉で確認しながら計算すると、勘違いによるミスが劇的に減ります。
- 分数の計算を丁寧に: コンデンサーの計算では、分母にさらに分数が来るような形(\(I_C’ = V_e / (X_C/2)\))になりがちです。これを \(2(V_e/X_C)\) のように、落ち着いて正しく変形することが重要です。焦らず、一段階ずつ丁寧に式を整理しましょう。
467 交流回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流回路における各素子の位相関係と消費電力」です。抵抗、コイル、コンデンサーに交流電圧を加えたとき、流れる電流の瞬時値が電圧に対してどのような「位相のずれ」を持つか、また、それぞれの素子で消費される平均電力はいくらになるかを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電圧と電流の位相関係:
- 抵抗: 電圧と電流の位相は同じ(同相)。
- コイル: 電流の位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れる。
- コンデンサー: 電流の位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進む。
- 交流におけるオームの法則(瞬時値): 電流の振幅(最大値)は、電圧の振幅(最大値)を抵抗またはリアクタンスで割ることで求められる (\(I_0 = V_0/R\), \(I_0 = V_0/X_L\), \(I_0 = V_0/X_C\))。
- リアクタンスの定義: コイルのリアクタンスは \(X_L = \omega L\)、コンデンサーのリアクタンスは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) である。
- 平均消費電力: 交流回路での平均消費電力は \(P = I_e V_e \cos\phi\) で計算される。ここで \(\phi\) は電圧と電流の位相差である。特に、抵抗でのみ電力が消費され、理想的なコイルとコンデンサーでは消費電力は0になる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 抵抗では、電圧と電流の位相が同じであることを利用し、オームの法則から電流の瞬時値を求めます。平均消費電力は、実効値の積で計算します。
- (2) コイルでは、電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れることと、リアクタンスが \(X_L = \omega L\) であることを用いて電流の瞬時値を求めます。平均消費電力は、位相差が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) であることから0となります。
- (3) コンデンサーでは、電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進むことと、リアクタンスが \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) であることを用いて電流の瞬時値を求めます。平均消費電力は、こちらも位相差が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) であることから0となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗に交流電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) を加えたときの電流と消費電力を求めます。抵抗の最も重要な性質は、電圧と電流の山と谷のタイミングが一致する、つまり「位相が同じ」であることです。この性質とオームの法則を使って電流の瞬時値を求め、平均消費電力は実効値を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 抵抗を流れる電流の位相は、かかる電圧の位相と等しい。
- 電流の最大値 \(I_0\) は、電圧の最大値 \(V_0\) を抵抗値 \(R\) で割って求める (\(I_0 = V_0/R\))。
- 抵抗での平均消費電力は、実効値の積 \(P_R = I_e V_e\) で計算できる。実効値と最大値の関係 (\(I_e = I_0/\sqrt{2}\), \(V_e = V_0/\sqrt{2}\)) を利用する。
具体的な解説と立式
- 電流の瞬時値 \(I_R\):
抵抗に流れる電流 \(I_R\) の位相は、電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) と同じです。電流の瞬時値は、オームの法則を瞬時値に適用して、
$$ I_R = \frac{V}{R} $$ - 平均消費電力 \(\overline{P_R}\):
抵抗で消費される電力の平均値は、電流と電圧の実効値 \(I_e, V_e\) の積で与えられます。
$$ \overline{P_R} = I_e V_e $$
ここで、電流と電圧の最大値をそれぞれ \(I_0, V_0\) とすると、実効値との間には \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\), \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\) の関係があります。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 実効値と最大値の関係: \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\), \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)
- 平均消費電力(抵抗): \(\overline{P_R} = I_e V_e\)
- 電流の瞬時値 \(I_R\):
$$
\begin{aligned}
I_R &= \frac{V}{R} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0 \sin(\omega t)}{R} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0}{R} \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$ - 平均消費電力 \(\overline{P_R}\):
まず、電流の最大値は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) です。これを用いて平均電力を計算します。
$$
\begin{aligned}
\overline{P_R} &= I_e V_e \\[2.0ex]
&= \left( \frac{I_0}{\sqrt{2}} \right) \left( \frac{V_0}{\sqrt{2}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} I_0 V_0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( \frac{V_0}{R} \right) V_0 \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R}
\end{aligned}
$$
抵抗は素直な素子で、電圧が大きくなればそれに比例して電流も大きくなり、タイミングのズレ(位相差)がありません。なので、電流の式は電圧の式 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) を単純に抵抗 \(R\) で割るだけで求まります。
電力は「電圧×電流」で計算されますが、交流では常に変動しているので「平均」で考えます。抵抗の場合、この平均電力はちゃんとプラスの値を持ち、電気エネルギーが熱に変わっていることを示します。
抵抗に流れる電流の瞬時値は \(I_R = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin(\omega t)\)、平均消費電力は \(\overline{P_R} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) となります。電流の位相が電圧と一致し、電力が消費されるという抵抗の性質を正しく数式で表現できています。
問(2)
思考の道筋とポイント
コイルに交流電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) を加えたときの電流と消費電力を求めます。コイルの性質は「電流の変化を妨げる」ことであり、その結果として「電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる」という特徴が現れます。この位相の遅れと、コイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\) を使って電流の瞬時値を求めます。
この設問における重要なポイント
- コイルを流れる電流の位相は、かかる電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる。
- 電流の最大値 \(I_0\) は、電圧の最大値 \(V_0\) をリアクタンス \(X_L\) で割って求める (\(I_0 = V_0/X_L\))。
- コイルのリアクタンスは \(X_L = \omega L\) である。
- 理想的なコイルでは、エネルギーを消費しないため、平均消費電力は0になる。
具体的な解説と立式
- 電流の瞬時値 \(I_L\):
コイルを流れる電流 \(I_L\) の位相は、電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。したがって、電流の式のsinの中身は \((\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2})\) となります。
電流の最大値 \(I_0\) は、電圧の最大値 \(V_0\) をコイルのリアクタンス \(X_L\) で割ったものです。
$$ I_0 = \frac{V_0}{X_L} = \frac{V_0}{\omega L} $$
これらを組み合わせて、電流の瞬時値は次のように表せます。
$$ I_L = \frac{V_0}{\omega L} \sin\left(\omega t – \frac{\pi}{2}\right) $$ - 平均消費電力 \(\overline{P_L}\):
コイルと電圧の間の位相差は \(\phi = \displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。平均消費電力の一般式は \(\overline{P} = I_e V_e \cos\phi\) であり、\(\cos(\displaystyle\frac{\pi}{2}) = 0\) なので、
$$ \overline{P_L} = 0 $$
使用した物理公式
- コイルのリアクタンス: \(X_L = \omega L\)
- コイルにおける電圧と電流の位相関係: 電流は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる。
- 平均消費電力の一般式: \(\overline{P} = I_e V_e \cos\phi\)
- 電流の瞬時値 \(I_L\):
立式したものがそのまま答えとなります。
$$ I_L = \frac{V_0}{\omega L} \sin\left(\omega t – \frac{\pi}{2}\right) $$
三角関数の公式 \(\sin(\theta – \displaystyle\frac{\pi}{2}) = -\cos\theta\) を用いると、\(-\displaystyle\frac{V_0}{\omega L}\cos(\omega t)\) とも表せます。 - 平均消費電力 \(\overline{P_L}\):
位相差が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) なので、計算するまでもなく0です。
$$ \overline{P_L} = 0 $$
コイルは「あまのじゃく」な素子で、電圧のピークが来てから少し遅れて電流のピークが来ます。このタイミングのズレが、位相が「\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる」ということです。電流の大きさ(振幅)は、電圧の最大値をコイルの交流に対する抵抗であるリアクタンス \(X_L = \omega L\) で割ることで求まります。
コイルはエネルギーを磁気の形で一時的に蓄えたり放出したりするだけで、熱として消費はしません。そのため、平均すると消費電力はゼロになります。
コイルに流れる電流の瞬時値は \(I_L = \displaystyle\frac{V_0}{\omega L} \sin(\omega t – \frac{\pi}{2})\)、平均消費電力は \(0\) となります。電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れ、電力を消費しないというコイルの性質を正しく数式で表現できています。
問(3)
思考の道筋とポイント
コンデンサーに交流電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) を加えたときの電流と消費電力を求めます。コンデンサーの性質は「電圧の変化率に比例した電流が流れる」ことであり、その結果として「電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む」という特徴が現れます。この位相の進みと、コンデンサーのリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を使って電流の瞬時値を求めます。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーを流れる電流の位相は、かかる電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。
- 電流の最大値 \(I_0\) は、電圧の最大値 \(V_0\) をリアクタンス \(X_C\) で割って求める (\(I_0 = V_0/X_C\))。
- コンデンサーのリアクタンスは \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) である。
- 理想的なコンデンサーでは、エネルギーを消費しないため、平均消費電力は0になる。
具体的な解説と立式
- 電流の瞬時値 \(I_C\):
コンデンサーを流れる電流 \(I_C\) の位相は、電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。したがって、電流の式のsinの中身は \((\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) となります。
電流の最大値 \(I_0\) は、電圧の最大値 \(V_0\) をコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) で割ったものです。
$$ I_0 = \frac{V_0}{X_C} = \frac{V_0}{1/(\omega C)} = \omega C V_0 $$
これらを組み合わせて、電流の瞬時値は次のように表せます。
$$ I_C = \omega C V_0 \sin\left(\omega t + \frac{\pi}{2}\right) $$ - 平均消費電力 \(\overline{P_C}\):
コンデンサーと電圧の間の位相差は \(\phi = -\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。平均消費電力の一般式は \(\overline{P} = I_e V_e \cos\phi\) であり、\(\cos(-\displaystyle\frac{\pi}{2}) = 0\) なので、
$$ \overline{P_C} = 0 $$
使用した物理公式
- コンデンサーのリアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
- コンデンサーにおける電圧と電流の位相関係: 電流は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。
- 平均消費電力の一般式: \(\overline{P} = I_e V_e \cos\phi\)
- 電流の瞬時値 \(I_C\):
立式したものがそのまま答えとなります。
$$ I_C = \omega C V_0 \sin\left(\omega t + \frac{\pi}{2}\right) $$
三角関数の公式 \(\sin(\theta + \displaystyle\frac{\pi}{2}) = \cos\theta\) を用いると、\(\omega C V_0 \cos(\omega t)\) とも表せます。 - 平均消費電力 \(\overline{P_C}\):
位相差が \(\pm\displaystyle\frac{\pi}{2}\) なので、計算するまでもなく0です。
$$ \overline{P_C} = 0 $$
コンデンサーは「せっかち」な素子で、電圧のピークが来る前に電流のピークが来てしまいます。このタイミングのズレが、位相が「\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む」ということです。電流の大きさ(振幅)は、電圧の最大値をコンデンサーのリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) で割ることで求まります。
コンデンサーはエネルギーを電気の形で一時的に蓄えたり放出したりするだけで、熱として消費はしません。そのため、コイルと同様に平均すると消費電力はゼロになります。
コンデンサーに流れる電流の瞬時値は \(I_C = \omega C V_0 \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\)、平均消費電力は \(0\) となります。電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進み、電力を消費しないというコンデンサーの性質を正しく数式で表現できています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電圧と電流の位相差:
- 核心: 交流回路を理解する上で最も重要な概念の一つが「位相差」です。抵抗、コイル、コンデンサーは、電圧の波に対して電流の波がどのようなタイミングで現れるかが全く異なります。この違いを正確に把握することが問題解決の鍵です。
- 理解のポイント:
- 抵抗: 位相差 \(0\)。電圧と電流は完全に同期しています(同相)。
- コイル: 電流は電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れます。電圧のピークの後に電流のピークが来ます。
- コンデンサー: 電流は電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進みます。電圧のピークの前に電流のピークが来ます。
- リアクタンスと電流の振幅:
- 核心: 各素子を流れる電流の大きさ(振幅 \(I_0\))は、電圧の振幅 \(V_0\) と、各素子の交流に対する「流れにくさ」(抵抗またはリアクタンス)で決まります。これは直流のオームの法則の考え方を拡張したものです。
- 理解のポイント:
- 抵抗: \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\)
- コイル: \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{X_L} = \frac{V_0}{\omega L}\)
- コンデンサー: \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{X_C} = \frac{V_0}{1/(\omega C)} = \omega C V_0\)
- 交流電力:
- 核心: 交流回路では、エネルギーを消費するのは抵抗だけである、という事実を理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- 抵抗: 平均消費電力 \(\overline{P_R} = I_e V_e = \displaystyle\frac{1}{2}I_0V_0 = \frac{V_0^2}{2R}\) で、常に正の値を持ち、電気エネルギーを熱エネルギーに変換します。
- コイル・コンデンサー: 理想的なコイルとコンデンサーは、電源との間でエネルギーをやり取りする(蓄えたり放出したりする)だけで、全体としてエネルギーを消費しません。したがって、平均消費電力は \(0\) です。これは、電圧と電流の位相差が \(\pm\displaystyle\frac{\pi}{2}\) であるため、電力の一般式 \(\overline{P} = I_e V_e \cos\phi\) の \(\cos\phi\) が \(0\) になることからも説明できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列回路: 抵抗、コイル、コンデンサーを直列につないだ回路。各素子での電圧の瞬時値(\(v_R, v_L, v_C\))を求め、それらを合成して回路全体の電圧を考える問題に応用できます。このとき、各電圧の位相が異なるため、ベクトル図(フェーザ図)を用いた足し算が必要になります。
- 電力の時間変化: 平均電力だけでなく、瞬時電力 \(p(t) = v(t)i(t)\) のグラフを描かせる問題。抵抗では常に \(p(t) \ge 0\) ですが、コイルやコンデンサーでは \(p(t)\) が正負に振動し、その平均が0になることを視覚的に理解できます。
- 共振回路の特性: RLC回路で共振が起こるとき、コイルとコンデンサーの電圧は大きさが等しく逆向きになるため打ち消し合い、回路全体の電圧が抵抗の電圧と等しくなる、といった現象の解析に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 問われているのは「瞬時値」か「実効値」か: 問題文をよく読み、\(V_0 \sin(\omega t)\) のような時刻 \(t\) の関数を求められているのか、単に大きさ(実効値や最大値)を求められているのかを区別します。「瞬時値」なら位相を考慮した \(\sin\) や \(\cos\) の式で、「実効値」なら単なる数値で答えます。
- 位相の「進み」か「遅れ」か: コイルは「遅れ」、コンデンサーは「進み」です。これを間違えると式の符号が逆になります。基準となる電圧の位相 \((\omega t)\) に対して、電流の位相を \((\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2})\) にするのか \((\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) にするのかを慎重に判断します。
- 平均電力を問われたら: まず、どの素子についての電力かを考えます。抵抗であれば \(\displaystyle\frac{1}{2}I_0V_0\) を計算し、理想コイルやコンデンサーであれば、計算するまでもなく \(0\) と判断できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位相の進みと遅れの混同:
- 誤解: コイルとコンデンサーのどちらの電流が進み、どちらが遅れるのかを混同する。
- 対策: 語呂合わせで覚えるのが有効です。例えば「コイルは遅れる」「コンデンサーは進む」とそのまま覚えるか、電圧を基準に「CIVIL」(CではIがVより進み、LではVがIより進む)といった覚え方もあります。自分に合った方法で確実に記憶しましょう。
- リアクタンスの式の混同:
- 誤解: \(X_L = \omega L\) と \(X_C = 1/(\omega C)\) を逆に覚えてしまう。
- 対策: 前問と同様に、周波数との関係でイメージ記憶するのが有効です。コイルは高周波を通しにくい(リアクタンス大)ので周波数 \(\omega\) に比例するはず。コンデンサーは高周波を通しやすい(リアクタンス小)ので周波数 \(\omega\) に反比例するはず、と考えると公式の形を思い出しやすくなります。
- 最大値と実効値の混同:
- 誤解: 平均電力を計算する際に、最大値の積 \(I_0 V_0\) をそのまま答えにしてしまう。
- 対策: 「平均電力は実効値の積」と覚え、必ず \(\overline{P} = I_e V_e\) から出発する癖をつけましょう。そこから \(I_e=I_0/\sqrt{2}\), \(V_e=V_0/\sqrt{2}\) を代入して \(\displaystyle\frac{1}{2}I_0V_0\) を導く、という手順を踏めば、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) を忘れるミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電流の瞬時値の式:
- 選定理由: 問題が「電流の瞬時値」を求めているため、時刻 \(t\) の関数として電流を表す必要があります。そのためには、振幅(最大値)と位相の両方の情報を含む \(I(t) = I_0 \sin(\omega t + \phi)\) の形の式を用いる必要があります。
- 適用根拠: この式の各部分は物理的な意味に基づいています。\(I_0\) はオームの法則から、\(\phi\) は各素子の電磁気学的な性質(自己誘導や静電容量)から決まる位相差です。これらを組み合わせることで、観測される電流の波形を数学的に正しく表現できます。
- 平均消費電力の公式:
- 選定理由: 問題が「電力(平均値)」を求めているため、時間的に変動する瞬時電力 \(p(t)\) を1周期にわたって平均した値を計算する必要があります。
- 適用根拠: 瞬時電力 \(p(t) = v(t)i(t)\) を数学的に積分して周期で割ると、\(\overline{P} = \displaystyle\frac{1}{2}I_0V_0\cos\phi = I_e V_e \cos\phi\) という結果が得られます。特に、\(\phi=0\) の抵抗では \(\overline{P_R} = I_e V_e\)、\(\phi=\pm\displaystyle\frac{\pi}{2}\) のコイルやコンデンサーでは \(\overline{P}=0\) となります。これは、エネルギーが消費されるためには電圧と電流の成分が同じ方向を向いている(同相成分がある)必要がある、という物理的な事実を反映しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- sinとcosの変換を正確に: 位相が \(\pm\displaystyle\frac{\pi}{2}\) ずれると、\(\sin\) は \(\cos\) に(またはその逆)に変換されます。三角関数の加法定理や公式 (\(\sin(\theta \pm \displaystyle\frac{\pi}{2})\)など) を正確に使いこなせるようにしておくことが重要です。自信がなければ、単位円を描いて確認する癖をつけましょう。
- 分数の計算を慎重に: コンデンサーの電流の最大値を求める \(I_0 = V_0 / X_C = V_0 / (1/\omega C)\) という計算は、分母に分数が来る典型的な形です。これを \(\omega C V_0\) と素早く正確に変形できるように、計算練習を積んでおきましょう。
- 式の構造を意識する: 電流の瞬時値を答える際は、\(I(t) = (\text{振幅}) \times \sin(\text{位相})\) という構造を常に意識します。「振幅」部分はオームの法則から、「位相」部分は電圧との位相差から、とパーツに分けて考えると、混乱せずに式を組み立てることができます。
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468 交流回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RL直列回路のインピーダンスと消費電力」です。抵抗とコイルが直列に接続された回路全体の交流に対する「流れにくさ」(インピーダンス)を計算し、それを用いて回路に流れる電流や消費電力を求める、交流回路の基本的な計算問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コイルのリアクタンス: コイルの交流に対する抵抗成分であるリアクタンスが \(X_L = \omega L\) で計算できることを理解していること。
- RLC直列回路のインピーダンス: 抵抗、コイル、コンデンサーを直列に接続した回路全体のインピーダンスが \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) で与えられることを知っていること。今回はコンデンサーがないため、\(X_C=0\) として考えます。
- 交流におけるオームの法則: 回路全体についても、電圧、電流、インピーダンスの実効値の間には \(V_e = Z I_e\) という関係が成り立つことを理解していること。
- 交流回路の消費電力: 回路全体で消費される平均電力は、抵抗で消費される電力のみに等しいことを理解していること。理想的なコイルは電力を消費しません。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずコイルのリアクタンス \(X_L\) を計算し、次にRL直列回路のインピーダンスの公式を用いて、回路全体のインピーダンス \(Z\) を求めます。
- (2)では、(1)で求めたインピーダンス \(Z\) と電源電圧の実効値 \(V_e\) を使い、交流におけるオームの法則を適用して電流の実効値 \(I_e\) を計算します。
- (3)では、回路の消費電力は抵抗での消費電力と等しいことを利用し、(2)で求めた電流 \(I_e\) を使って \(P = R I_e^2\) の公式で計算します。